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特許7363027接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法
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  • 特許-接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法 図1
  • 特許-接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20231011BHJP
   B23K 20/00 20060101ALI20231011BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 37/26 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20231011BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20231011BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C04B37/02 B
B23K20/00 310N
B23K20/00 310L
B23K1/19 B
B32B37/26
B32B15/04 B
H01L23/12 C
H01L23/36 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018238871
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020100527
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-09-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168811(JP,A)
【文献】特開平04-182065(JP,A)
【文献】特開2013-038094(JP,A)
【文献】特開平05-255709(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216763(WO,A1)
【文献】特開2015-134714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/02
B23K 20/00
B23K 1/19
B32B 37/26
B32B 15/04
H01L 23/13
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、セラミックス部材とが接合されてなる接合体の製造方法であって、
樹脂基材の表面に金属膜が成膜された複合シート材を準備する複合シート材準備工程と、
前記金属部材と前記セラミックス部材とを、少なくとも前記複合シート材を介して積層する積層工程と、
前記複合シート材を介して積層された前記金属部材と前記セラミックス部材とを加熱して前記金属部材と前記セラミックス部材とを接合する接合工程と、
を備えており、
前記積層工程では、前記複合シート材とともに溶加材を介して、前記金属部材と前記セラミックス部材とを積層しており、
前記樹脂基材は、熱分解温度が、前記接合工程における加熱温度よりも低く、かつ、熱分解後に残存する残渣の重量比が1.2%以下とされた樹脂で構成されており、
前記複合シート材は、前記金属膜の厚さAと前記樹脂基材の厚さBとの比A/Bが0.01以上0.3以下の範囲内とされていることを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂基材の厚さが10μm以上50μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
金属板と、セラミックス基板とが接合されてなる絶縁回路基板の製造方法であって、
請求項1または請求項2に記載の接合体の製造方法によって、前記金属板と前記セラミックス基板とを接合することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属部材とセラミックス部材とが接合されてなる接合体の製造方法、及び、金属板とセラミックス基板とが接合されてなる絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。なお、絶縁回路基板としては、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して金属層を形成したものも提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板を接合することにより回路層及び金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。
この特許文献1においては、セラミックス基板又は金属板の接合面のうちの少なくとも一方にSi及びCuを固着させ、固着させたSi及びCuを前記金属板側に拡散させることによって前記セラミックス基板と前記金属板との界面に前記溶融金属領域を形成し、前記溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持し、前記溶融金属領域中のSi及びCuをさらに前記金属板側に拡散させ、温度を一定に保持した状態で前記溶融金属領域の凝固を進行させることによって、セラミックス基板と金属板とを接合している。
【0004】
さらに、特許文献2-4には、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、銅又は銅合金からなる銅板を接合することにより回路層及び金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。
ここで、特許文献2においては、セラミックス基板と銅板とを、活性金属材とCu-Pろう材等を介在させて積層し、積層したセラミックス基板と銅板を加熱して液相を生じさせ、この液相を凝固させることにより、セラミックス基板と銅板とを接合している。
【0005】
また、特許文献3においては、セラミックス基板と銅板との間に、Ag及び窒化物形成元素を含むペーストを介在させて積層し、積層したセラミックス基板と銅板を加熱して液相を生じさせ、この液相を凝固させることにより、セラミックス基板と銅板とを接合している。
特許文献4においては、窒化アルミニウム基板又は導体層の、少なくとも一方の表面上に、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種を、スパッタリング法又は蒸着法により成膜し、成膜した薄膜層上に、導体層又は窒化アルミニウム基板を圧着させることにより、窒化アルミニウム基板と導体層とを接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5640548号公報
【文献】特許第5672324号公報
【文献】特許第5928535号公報
【文献】特開2016-058706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1,2,4に記載されたように、セラミックス基板と金属板にスパッタリングや蒸着によって各種金属膜を成膜する場合には、成膜装置内にこれらセラミックス基板や金属板を配置する必要があり、金属膜を効率良く成膜することが困難であった。
なお、金属膜を成膜する代わりに、セラミックス基板と金属板との間に金属箔を配設することも考えられるが、厚さの薄い金属箔を取り扱うことは非常に困難であり、作業効率が悪く、効率良く絶縁回路基板を製造することができなかった。
また、特許文献3に記載されたように、金属ペーストを用いた場合には、接合条件によっては、金属ペーストに含まれる溶剤等の有機物の残渣が残り、界面反応が阻害され、セラミックス基板と金属板とを強固に接合できないおそれがあった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス部材と金属部材との間に、各種金属膜を容易に配設することができ、かつ、接合時の界面反応を阻害することなく、セラミックス部材と金属部材とを確実に接合することができ、接合信頼性に優れた接合体を効率良く製造することが可能な接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の接合体の製造方法は、金属部材と、セラミックス部材とが接合されてなる接合体の製造方法であって、樹脂基材の表面に金属膜が成膜された複合シート材を準備する複合シート材準備工程と、前記金属部材と前記セラミックス部材とを、少なくとも前記複合シート材を介して積層する積層工程と、前記複合シート材を介して積層された前記金属部材と前記セラミックス部材とを加熱して前記金属部材と前記セラミックス部材とを接合する接合工程と、を備えており、前記積層工程では、前記複合シート材とともに溶加材を介して、前記金属部材と前記セラミックス部材とを積層しており、前記樹脂基材は、熱分解温度が、前記接合工程における加熱温度よりも低く、かつ、熱分解後に残存する残渣の重量比が1.2%以下とされた樹脂で構成されており、前記複合シート材は、前記金属膜の厚さAと前記樹脂基材の厚さBとの比A/Bが0.01以上0.3以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0010】
この構成の接合体の製造方法においては、樹脂基材の表面に金属膜が成膜された複合シート材を介して、前記金属部材と前記セラミックス部材とを積層する積層工程を備えているので、比較的容易に、前記金属部材と前記セラミックス部材との間に金属膜を配設することが可能となる。
また、樹脂基材は、熱分解温度が、前記接合工程における加熱温度よりも低く、かつ、熱分解後に残存する残渣の重量比が1.2%以下とされた樹脂で構成されているので、接合工程で確実に熱分解されるとともに熱分解後の残渣が少なく、界面反応が阻害されることはない。
よって、セラミックス部材と金属部材との接合信頼性に優れた接合体を効率良く製造することが可能となる。
【0011】
ここで、本発明の接合体の製造方法においては前記金属膜の厚さAと前記樹脂基材の厚さBとの比A/Bが0.01以上とされているので、前記樹脂基材の厚さBの割合が少なくなり、熱分解後の残渣をさらに少なく抑えることができ、界面反応を促進させることが可能となる。
一方、前記金属膜の厚さAと前記樹脂基材の厚さBとの比A/Bが0.3以下とされているので、前記樹脂基材の厚さBの割合が確保され、取り扱いが容易となり、前記金属部材と前記セラミックス部材と間に金属膜を、容易にかつ確実に、配設することが可能となる。
また、前記複合シート材とともに接合材を介して前記金属部材と前記セラミックス部材とを積層することにより、接合工程において確実に界面反応を促進させることができ、金属部材とセラミックス部材とを強固に接合することが可能となる。
【0012】
また、本発明の接合体の製造方法においては、前記樹脂基材の厚さが10μm以上50μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記樹脂基材の厚さが10μm以上とされているので、前記樹脂基材の厚さが確保され、熱によって複合シート材の強度が大きく低下することを抑制できる。
一方、前記樹脂基材の厚さが50μm以下とされているので、熱分解後に残存する残渣量を抑えることができ、界面反応を促進させることが可能となる。
【0014】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、金属板と、セラミックス基板とが接合されてなる絶縁回路基板の製造方法であって、上述の接合体の製造方法によって、前記金属板と前記セラミックス基板とを接合することを特徴としている。
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、上述の接合体の製造方法によって、前記金属板と前記セラミックス基板とを接合する構成とされているので、比較的容易に、前記金属板と前記セラミックス基板との間に金属膜を配設することが可能となる。また、樹脂基材は、熱分解温度が、前記接合工程における加熱温度よりも低く、かつ、熱分解後に残存する残渣の重量比が1.2%未満とされた樹脂で構成されているので、接合工程で確実に熱分解されるとともに熱分解後の残渣が少なく、界面反応が阻害されることはない。
これにより、比較的容易に、セラミックス基板と金属板との接合信頼性に優れた絶縁回路基板を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セラミックス部材と金属部材との間に、各種金属膜を容易に配設することができ、かつ、接合時の界面反応を阻害することなく、セラミックス部材と金属部材とを確実に接合することができ、接合信頼性に優れた接合体を効率良く製造することが可能な接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態である絶縁回路基板(接合体)を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態である絶縁回路基板(接合体)の製造方法を示すフロー図である。
図3】本発明の実施形態である絶縁回路基板(接合体)の製造方法を示す説明図である。
図4】第1複合シート材及び第2複合シート材の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
本発明の実施形態に係る接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、金属部材である金属板22(回路層12)及び金属板23(金属層13)とが接合されることにより構成された絶縁回路基板10とされている。
図1に、本実施形態である絶縁回路基板10及びこの絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0019】
このパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側(図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方側(図1において下側)に接合されたヒートシンク31と、を備えている。
【0020】
本実施形態に係る絶縁回路基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0021】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、窒化アルミニウムで構成されている。ここで、セラミックス基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0022】
回路層12は、図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に導電性を有する金属板22が接合されることによって形成されている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面されている。
本実施形態では、金属板22は、銅又は銅合金で構成されたものとされている。なお、銅又は銅合金からなる金属板22としては、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、Sn入り銅等の圧延板を用いることができる。本実施形態の金属板22は、無酸素銅の圧延板とされている。
ここで、回路層12(金属板22)の厚さは、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されている。
【0023】
金属層13は、図3に示すように、セラミックス基板11の他方の面に熱伝導性に優れた金属板23が接合されることにより形成されている。本実施形態では、金属板23は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたものとされている。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板23としては、例えば、純度99mass%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)、純度99.99mass%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)、A1050、A1085、A1100、A3003等の圧延板を用いることができる。本実施形態の金属板23は、4Nアルミニウムの圧延板とされている。
ここで、金属層13(金属板23)の厚さは 0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されている。
【0024】
ヒートシンク31は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。本実施形態においては、ヒートシンク31は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる放熱板とされている。具体的には、A6063合金からなる放熱板とされ、その厚さが1mm以上10mm以下の範囲内に設定されている。
なお、ヒートシンク31としては、A1050、A1100、A3003、A6061等のアルミニウムを用いることもできる。
【0025】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、図2から図4を参照して説明する。
【0026】
(複合シート材準備工程S01)
まず、樹脂基材の表面に金属膜を成膜した複合シート材を準備する。本実施形態では、図3及び図4に示すように、2つの複合シート材(第1複合シート材40及び第2複合シート材50)を準備する。
【0027】
第1複合シート材40を構成する第1樹脂基材41、及び、第2複合シート材50を構成する第2樹脂基材51は、熱分解温度が、後述する接合工程S03における加熱温度よりも低く、かつ、熱分解後に残存する残渣の重量比が1.2%未満となる樹脂で構成されている。本実施形態では、後述するように、接合工程S03における加熱温度が600℃以上650℃以下の範囲内とされているので、第1樹脂基材41及び第2樹脂基材51を構成する樹脂の熱分解温度は、この加熱温度以下となる。
【0028】
ここで、熱分解後に残存する残渣の重量比は、熱重量測定(TG測定)を実施することで算出する。本実施形態では、Ar雰囲気下で、昇温速度を20℃/minとし、熱分解温度+30℃まで加熱し、残渣重量比を算出した。
なお、熱分解温度は、以下のようにして求めた。示差熱分析(DTA)における吸熱ピーク温度を、昇温速度を変化しながら取得し、横軸に昇温温度、縦軸に吸熱ピーク温度としてプロットし、これらの比例関係式から求められる0℃/minの外挿値を、熱分解温度とした。
【0029】
本実施形態においては、第1樹脂基材41及び第2樹脂基材51を構成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン、アクリル、ポリ乳酸、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン等を適用することができる。
【0030】
そして、第1複合シート材40においては、第1樹脂基材41の表面に、Ti,Zr,Nb,Hfといった活性元素のいずれか1種又は2種以上を含有する第1金属膜42を成膜する。本実施形態においては、第1金属膜42は、Tiで構成されたものとしている。
ここで、第1金属膜42の厚さA1と第1樹脂基材41の厚さB1との比A1/B1が0.01以上0.3以下の範囲内とされている。
なお、第1金属膜42の厚さA1と第1樹脂基材41の厚さB1との比A1/B1の下限は、0.03以上であることが好ましく、0.07以上であることがさらに好ましい。一方、第1金属膜42の厚さA1と第1樹脂基材41の厚さB1との比A1/B1の上限は、0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることがさらに好ましい。
【0031】
また、本実施形態においては、第1金属膜42の厚さA1が0.1μm以上1.0μm以下の範囲内とされており、第1樹脂基材41の厚さB1が10μm以上50μm以下の範囲内とされている。
なお、第1金属膜42の厚さA1の下限は、0.15μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。一方、第1金属膜42の厚さA1の上限は、0.85μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることがさらに好ましい。
また、第1樹脂基材41の厚さB1の下限は、12μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。一方、第1樹脂基材41の厚さB1の上限は、35μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
また、第2複合シート材50においては、第2樹脂基材51の表面に、Si,Cu,Ag,Zn,Mg,Ge,Ca,Ga,Liのうちのいずれか1種又は2種以上を含有する第2金属膜52を成膜する。本実施形態においては、第2金属膜52は、Cuで構成されたものとしている。
ここで、第2金属膜52の厚さA2と第2樹脂基材51の厚さB2との比A2/B2が0.01以上0.3以下の範囲内とされている。
なお、第2金属膜52の厚さA2と第2樹脂基材51の厚さB2との比A2/B2の下限は、0.03以上であることが好ましく、0.07以上であることがさらに好ましい。一方、第2金属膜52の厚さA2と第2樹脂基材51の厚さB2との比A2/B2の上限は、0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることがさらに好ましい。
【0033】
また、本実施形態においては、第2金属膜52の厚さA2が0.1μm以上8μm以下の範囲内とされており、第2樹脂基材51の厚さB2が10μm以上50μm以下の範囲内とされている。
なお、第2金属膜52の厚さA2の下限は、0.15μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。一方、第2金属膜52の厚さA2の上限は、6μm以下であることが好ましく、4.5μm以下であることがさらに好ましい。
また、第2樹脂基材51の厚さB2の下限は、12μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。一方、第2樹脂基材51の厚さB2の上限は、35μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、第1樹脂基材41の表面に第1金属膜42を成膜する手段、及び、第2樹脂基材51の表面に第2金属膜52を成膜する手段には、特に限定はなく、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等を適用することができる。
ここで、第1樹脂基材41及び第2樹脂基材51は、コイル状に巻き取ることが可能であることから、連続成膜装置を用いて、第1金属膜42及び第2金属膜52をそれぞれ成膜することが好ましい。
【0035】
(積層工程S02)
次に、セラミックス基板11の一方の面(図3において上面)に、溶加材25及び第1複合シート材40を介して、金属板22を積層する。なお、このとき、金属板22と第1金属膜42とが直接接触するように、第1複合シート材40を配置する。
また、セラミックス基板11の他方の面(図3において下面)に、第2複合シート材50を介して、金属板23を積層する。なお、このとき、金属板23と第2金属膜52とが直接接触するように、第2複合シート材50を配置する。
【0036】
ここで、溶加材25は、融点が660℃以下のCu-P-Sn-Ni系ろう材、Cu-Sn系ろう材、又はCu-Al系ろう材、Cu-P-Sn-Ni系はんだ材又はCu-Sn系はんだ材とされている。また、望ましくは、融点が600℃以下とされているとよい。本実施形態では、溶加材25としてCu-P-Sn-Ni系ろう材箔(Cu-7mass%P-15mass%Sn-10mass%Ni)を用いている。溶加材25の厚みは、5μm以上150μm以下の範囲とされている。
【0037】
(接合工程S03)
次に、金属板22、第1複合シート材40、溶加材25、セラミックス基板11、第2複合シート材50、金属板23を、積層方向に加圧(圧力0.1MPa以上3.5MPa以下)した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱し、金属板22とセラミックス基板11、及び、セラミックス基板11と金属板23を接合する。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に、加熱時間は30分以上360分以下の範囲内に設定している。
【0038】
なお、積層方向の加圧荷重の下限は、0.1MPa以上とすることが好ましく、3.43MPa以上とすることがさらに好ましい。一方、積層方向の加圧荷重の上限は、1.96MPa以下とすることが好ましく、1.47MPa以下とすることがさらに好ましい。
また、加熱温度の下限は、615℃以上とすることが好ましく、625℃以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の上限は、645℃以下とすることが好ましく、640℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、加熱温度での保持時間の下限は、60分以上とすることが好ましく、90分以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は、240分以下とすることが好ましく、180分以下とすることがさらに好ましい。
【0039】
この接合工程S03においては、第1複合シート材40のTiからなる第1金属膜42と金属板22とが固相拡散接合によって接合されるとともに、溶加材25が溶融することで液相が生じ、この液相が凝固することにより、溶加材25を介して、セラミックス基板11と第1複合シート材40の第1金属膜42とが接合されることになる。これにより、セラミックス基板11と金属板22とが接合される。
【0040】
また、接合工程S03においては、第2複合シート材50の第2金属膜52のCuがアルミニウムからなる金属板23側に拡散することにより、金属板23の第2金属膜近傍の添加元素の濃度(Cu濃度)が上昇して融点が低くなり、液相が生じることになる。そして、液相が生じた状態で温度一定で保持すると、液相中のCuが、さらに金属板23側へと拡散し、液相部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、セラミックス基板11と金属板23とが接合される。つまり、セラミックス基板11と金属板23とは、いわゆる過渡液相接合法(TLP:Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。
【0041】
このようにして、金属板22、セラミックス基板11、金属板23が接合され、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0042】
(ヒートシンク接合工程S04)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク31を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク31とを、Al-Si系ろう材を介して積層して加熱炉に装入し、絶縁回路基板10とヒートシンク31とを接合する。
【0043】
(半導体素子接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
以上の工程により、図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0044】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板(接合体)の製造方法によれば、セラミックス基板11の一方の面に、溶加材25、及び、第1樹脂基材41の表面にTiからなる第1金属膜42が成膜された第1複合シート材40を介して、金属板22を積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面に、第2樹脂基材51の表面にCuからなる第2金属膜52が成膜された第2複合シート材50を介して、金属板23を積層する積層工程S02を備えているので、金属板22とセラミックス基板11の間にTiからなる第1金属膜42を、また、セラミックス基板11と金属板23の間にCuからなる第2金属膜52を、それぞれ比較的容易に配設することができる。
【0045】
そして、第1樹脂基材41及び第2樹脂基材51は、熱分解温度が、接合工程S03における加熱温度よりも低く、かつ、熱分解後に残存する残渣の重量比が1.2%未満とされた樹脂で構成されているので、接合工程S03において、第1樹脂基材41及び第2樹脂基材51が確実に熱分解されるとともに熱分解後の残渣が少なく、界面反応が阻害されることはない。よって、金属板22とセラミックス基板11、及び、セラミックス基板11と金属板23とを良好に接合することができる。
【0046】
また、本実施形態においては、複合シート材準備工程S01において、連続成膜装置等を用いて、第1樹脂基材41及び第2樹脂基材51の表面に、それぞれ第1金属膜42及び第2金属膜52を成膜した場合には、効率的に第1複合シート材40及び第2複合シート材50を製造することが可能となる。
【0047】
さらに、本実施形態において、第1複合シート材40の第1金属膜42の厚さA1と第1樹脂基材41の厚さB1との比A1/B1が0.01以上とされ、第2複合シート材50の第2金属膜52の厚さA2と第2樹脂基材51の厚さB2との比A2/B2が0.01以上とされている場合には、第1樹脂基材41及び第2樹脂基材51の厚さ割合が少なくなり、熱分解後の残渣をさらに少なく抑えることができ、界面反応を促進させることが可能となる。
一方、第1複合シート材40の第1金属膜42の厚さA1と第1樹脂基材41の厚さB1との比A1/B1が0.3以下とされ、第2複合シート材50の第2金属膜52の厚さA2と第2樹脂基材51の厚さB2との比A2/B2が0.3以下とされている場合には、第1樹脂基材41及び第2樹脂基材51の厚さ割合が確保され、第1複合シート材40及び第2複合シート材50を容易に取り扱うことができ、金属板22とセラミックス基板11の間に第1複合シート材40を、また、セラミックス基板11と金属板23の間に第2複合シート材50を、それぞれ容易に配設することができる。
【0048】
また、本実施形態において、第1樹脂基材41の厚さが10μm以上とされ、第2樹脂基材51の厚さが10μm以上とされている場合には、第1樹脂基材41及び第2樹脂基材51の厚さが確保され、熱によって第1複合シート材40及び第2複合シート材50の強度が大きく低下することを抑制できる。
一方、第1樹脂基材41の厚さが50μm以下とされ、第2樹脂基材51の厚さが50μm以下とされている場合には、熱分解後に残存する残渣量を抑えることができ、界面反応を促進させることが可能となる。
【0049】
さらに、本実施形態においては、金属板22とセラミックス基板11との間に、第1複合シート材40とともに溶加材25を配設しており、接合工程S03において、この溶加材25が溶融することで液相が生じる構成とされているので、金属板22とセラミックス基板11とを確実に接合することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態では、第1複合シート材40において、活性金属であるTiからなる第1金属膜42の厚さA1が0.1μm以上1.0μm以下の範囲内とされているので、金属板22と第1金属膜42とを確実に固相拡散接合させることができるとともに、溶加材25を介してセラミックス基板11と第1金属膜42とを接合することができる。よって、金属板22とセラミックス基板11とを確実に接合して、回路層12を形成することができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、第2複合シート材50において、Cuからなる第2金属膜52の厚さA2が0.1μm以上8μm以下の範囲内とされているので、第2金属膜52のCu原子を金属板23側に拡散させることで液相を生じさせ、さらに拡散を促進することで液相を凝固させることができる。よって、セラミックス基板11と金属板23を確実に接合して、金属層13を形成することができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、上述したように、セラミックス基板11の一方の面に銅からなる金属板22を650℃以下の低温条件で接合することができるので、セラミックス基板11と銅からなる金属板22との接合と、セラミックス基板11とアルミニウムからなる金属板23との接合とを、同時に実施することができる。
また、セラミックス基板11への熱負荷を低減することができ、セラミックス基板11の割れ等の発生を抑制することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態においては、回路層を銅又は銅合金で構成し、金属層をアルミニウム又はアルミニウム合金で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、回路層及び金属層をともに銅又は銅合金で構成してもよいし、回路層及び金属層をともにアルミニウム又はアルミニウム合金で構成してもよい。あるいは、回路層と金属層の一方又は両方が、銅とアルミニウムの積層体で構成されていてもよい。
【0054】
さらに、本実施形態では、銅又は銅合金からなる金属板とセラミックス基板とを、溶加材を介して接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、金属板とセラミックス基板の間に、樹脂基材の表面に、AgとTi,Hf,Zr,Nbから選択される1種又は2種以上の活性金属とを含有する金属膜が成膜された複合シート材を介在させ、これを積層方向に加圧して加熱することにより、金属板とセラミックス基板とを接合してもよい。この場合、接合時の加熱温度は、例えば790℃以上850℃以下の範囲内とされる。よって、複合シート材を構成する樹脂基材は、この加熱温度で熱分解する樹脂を選択することができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、セラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板とを、過渡液相接合法(TLP)によって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Al-Siろう材等を用いて接合してもよい。
【0056】
また、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【実施例
【0057】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0058】
まず、表1に示すように、樹脂基板の表面に金属膜を成膜した複合シート材を準備した。ここで、金属膜は、真空蒸着法によって成膜した。金属膜の成膜条件は、真空度を1×10-3Pa、基材到達温度を80℃以上90℃以下とした。
なお、表1に示すように、本発明例3,6,7,9,10及び比較例4においては、金属膜として、2種類の金属膜を積層した。ここで、表1においては、金属膜の膜厚Aは、1層構造の場合には、A=A1、2層構造の場合には、A=A1+A2となる。
【0059】
次に、表2に示すセラミックス基板(50mm×60mm、厚さは表2に記載)と、金属板(48mm×58mm、厚さは表2に記載)を準備した。
そして、表2に示す条件で、これらセラミックス基板と金属板とを接合した。なお、表3においては、過渡液相接合法を用いたものを「TLP」と表記し、溶加材(Cu-6.3mass%P-9.3mass%Sn-7mass%Ni)を用いて接合したものを「溶加材」と表記し、Agと活性金属を用いて接合したものを「AMB」と表記した。
【0060】
得られた絶縁回路基板(接合体)について、回路層とセラミックス基板との接合率を評価した。評価結果を表2に示す。
具体的には、絶縁回路基板において、回路層とセラミックス基板との界面の接合率について超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて評価し、以下の式から算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち回路層の面積とした。超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)-(非接合部面積)}/(初期接合面積)×100
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
比較例1-4においては、樹脂基材として、熱分解後に残存する残渣の重量比が8.2%であったポリエチレンテレフタレートを用いたため、セラミックス基板の材質、金属板の材質、接合方法等によらず、いずれも接合率が低くなり、セラミックス基板と金属板とを十分に接合することが困難であった。
接合時に残渣が多く存在し、界面反応が阻害されたことにより、接合率が低下したと推測される。
【0064】
これに対して、樹脂基材として、熱分解温度が接合工程における加熱温度よりも低く、かつ、熱分解後に残存する残渣の重量比が1.2%未満とされた樹脂を適用した本発明例1-12においては、セラミックス基板の材質、金属板の材質、接合方法等によらず、いずれも接合率が十分に高く、セラミックス基板と金属板とを確実に接合することが可能であった。
【0065】
以上のことから、本発明例によれば、セラミックス基板(セラミックス部材)と金属板(金属部材)とを確実に接合することができ、接合信頼性に優れた絶縁回路基板(接合体)を効率良く製造することが可能な絶縁回路基板(接合体)の製造方法を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0066】
10 絶縁回路基板(接合体)
11 セラミックス基板(セラミックス部材)
12 回路層
13 金属層
22 金属板(金属部材)
23 金属板(金属部材)
図1
図2
図3
図4