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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】水泳補助具
(51)【国際特許分類】
   A63B 31/00 20060101AFI20231011BHJP
   A63B 31/08 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
A63B31/00
A63B31/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019025986
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020130457
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若吉 浩二
【審査官】右田 純生
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102006006367(DE,A1)
【文献】国際公開第2014/087388(WO,A2)
【文献】特開2019-209146(JP,A)
【文献】特開2002-065894(JP,A)
【文献】実開平06-064666(JP,U)
【文献】特開平10-250684(JP,A)
【文献】登録実用新案第3196479(JP,U)
【文献】特開平09-136691(JP,A)
【文献】登録実用新案第3211678(JP,U)
【文献】実開昭51-138894(JP,U)
【文献】登録実用新案第3192764(JP,U)
【文献】特表2017-514031(JP,A)
【文献】国際公開第2008/097310(WO,A1)
【文献】米国特許第05173068(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0259055(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0147928(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0118998(KR,A)
【文献】岡山県学校用品株式会社,背泳キット「クロールで25」のご紹介 (Wayback Machine) [online],2013年11月28日,[2023年3月16日検索], インターネット<URL:http:web.archive.org/web/20131126115739/http://www.ossco.jp/crawl25.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 31/00-31/12
B63C 9/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
泳者の体の右側面及び左側面にそれぞれ固定される左右一対の水中浮揚部材と、
前記各水中浮揚部材を泳者の体に固定する固定部材と、を備えた水泳補助具であって
各水中浮揚部材の浮心が腰部よりも下方に位置し、当該水泳補助具全体の浮心が腰部よりも下方に位置しており、
前記各水中浮揚部材は、
泳者の股関節よりも上方に位置する上方部と、
泳者の股関節よりも下方に位置する下方部と、を有し、
前記上方部は前記下方部よりも前後方向寸法が大きい、水泳補助具。
【請求項2】
前記各水中浮揚部材は、上端が泳者の胴部よりも下方に位置している、請求項1に記載の水泳補助具。
【請求項3】
前記各水中浮揚部材は、下端が泳者の膝よりも上方に位置している、請求項1又は2に記載の水泳補助具。
【請求項4】
泳者の体の右側面及び左側面にそれぞれ固定される左右一対の水中浮揚部材と、
前記各水中浮揚部材を泳者の体に固定する固定部材と、を備え、
各水中浮揚部材の浮心が腰部よりも下方に位置しており、
前記各水中浮揚部材は、
泳者の股関節よりも上方に位置する上方部と、
泳者の股関節よりも下方に位置する下方部と、を有し、
前記上方部は前記下方部よりも前後方向寸法が大きく、
前記固定部材は、
両方の水中浮揚部材に連結され泳者の腰部に巻きつける腰部ベルトと、
対応する水中浮揚部材に連結され泳者の大腿部に巻きつける左右一対の大腿部ベルトと、を有する水泳補助具。
【請求項5】
前記上方部は前記腰部ベルトが連結される腰部ベルト連結部を有し、
前記下方部は前記大腿部ベルトが連結される大腿部ベルト連結部を有する、請求項4に記載の水泳補助具。
【請求項6】
前記腰部ベルト連結部は、前記上方部を貫通する貫通孔によって構成され、
前記大腿部ベルト連結部は、前記下方部を貫通する貫通孔によって構成されている、請求項5に記載の水泳補助具。
【請求項7】
前記大腿部ベルト連結部は泳者の股部よりも上方に位置している、請求項5又は6に記載の水泳補助具。
【請求項8】
前記上方部は前記下方部よりも厚みが小さい、請求項4乃至7のうちいずれか一の項に記載の水泳補助具。
【請求項9】
前記各水中浮揚部材は、水平方向の断面視において、外方に凸の湾曲形状を有する、請求項4乃至8のうちいずれか一の項に記載の水泳補助具。
【請求項10】
前記各水中浮揚部材は、外表面に上下方向に延びる断面凹状の縦溝部が形成されている、請求項4乃至9のうちいずれか一の項に記載の水泳補助具。
【請求項11】
前記各水中浮揚部材は、外表面に前後方向に延びる断面凹状の横溝部が形成されている、請求項4乃至10のうちいずれか一の項に記載の水泳補助具。
【請求項12】
前記横溝部は、前記上方部と前記下方部の境界部分に形成されている、請求項11に記載の水泳補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泳者の体に装着する水泳補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
水泳の練習を行う際、体が沈まないように泳者の体に水泳補助具を装着する場合がある。このような水泳補助具として、水中で浮揚する水中浮揚部材を泳者の胴部背面側に固定するものが知られている(一例として、特許文献1参照)。また、浮力を得るためにウェットスーツ生地(発泡体生地)で形成したハーフパンツ型の水着も市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】登録実用新案3211678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人間の体の「重心」は腰部付近に位置しているのに対し、人間の体にかかる浮力の中心である「浮心」は、腰部よりも上方に位置している。これは、浮き袋の役割を果たす肺が上半身に位置しているためである。水泳上級者であれば、腹式呼吸を行って横隔膜を下げることにより浮心を下方に移動させるとともに、腕および肩を上方側へ伸ばすことにより重心を上方に移動させることで、浮心と重心を一致させることができる。そのため、水泳上級者は、うつ伏せ状態で水に浮く「伏し浮き」の姿勢、又は仰向けの状態で水に浮く「背浮き」の姿勢において体を水平に保つことができる。しかしながら、水泳初級者は浮心と重心を一致させることは難しく、伏し浮きの姿勢又は背浮きの姿勢をとると上半身が浮き上がり下半身が沈んでしまう。
【0005】
そのような理由から、水泳初級者が上述した水泳補助具を体に装着し、胴部背面側に水中浮揚部材を固定した場合、水中浮揚部材の浮心は体の重心である腰部よりも上方に位置してしまうため、伏し浮きの姿勢又は背浮きの姿勢で上半身が浮き上がり下半身が沈んでしまうという問題は改善されず、むしろ助長される。さらに、胴部背面側に水中浮揚部材を固定すると、伏し浮きの姿勢で水中浮揚部材が水面よりも上方に浮き上がってしまって浮力が小さくなることから、泳者は水中浮揚部材を沈めようとして無理な態勢をとる傾向にある。このような姿勢で水泳の練習が行われると、水泳の上達が妨げられるだけでなく、悪い癖がつくおそれがある。
【0006】
一方、ウェットスーツ生地で形成されたハーフパンツ型の水着は、一般的な水着に比べて硬く変形しにくいため、着脱が面倒である上、硬く変形しにくい生地が大腿部の前側および背側にまで身体に密着して位置するため水泳時のキックに伴う大腿部の動きの妨げとなる。また、上記の水着は、他の水泳補助具と異なり共用するのが難しいため個人で所有する必要があるが、一般的な水着よりも高価な上に水泳の上達に伴って浮力の小さいタイプに買い替えなければならない。このような理由から、ウェットスーツ生地で形成されたハーフパンツ型の水着は広く普及しているとは言い難い。
【0007】
以上のような事情から、本発明は水泳初級者が伏し浮きの姿勢又は背浮きの姿勢で体を水平に保つことができ、着脱が容易で、水泳に伴う動作の妨げにならず、かつ、共用が可能な水泳補助具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る水泳補助具は、泳者の体の右側面及び左側面にそれぞれ固定される左右一対の水中浮揚部材と、各水中浮揚部材の浮心が腰部よりも下方に位置するように、前記各水中浮揚部材を泳者の体に固定する固定部材と、を備えている。なお、ここでの方向の概念は、水泳補助具を装着した泳者が立った状態における泳者の体を基準とした方向の概念に一致するものとする。
【0009】
上記の構成では、泳者の体の右側面及び左側面にそれぞれ水中浮揚部材が固定されるため、伏し浮きの姿勢又は背浮きの姿勢で水中浮揚部材の大部分が水中に沈む。これにより、水中浮揚部材が十分な浮力を得ることができ、泳者が無理な姿勢をとるのを抑制することができる。したがって、水泳初級者が上記の水泳補助具を装着することにより、伏し浮きの姿勢又は背浮きの姿勢で体を水平に保つことができる。また、上記の構成では、固定部材を用いて左右一対の水中浮揚部材を泳者の体に固定するため、水中浮揚部材自体をハーフパンツ型の水着に形成する必要がない。そのため、上記の水泳補助具によれば、着脱が容易で、水泳に伴う動作の妨げにならず、かつ、共用が可能となる。
【0010】
上記の水泳補助具において、各水中浮揚部材の浮心が腰部よりも下方に位置するようにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、各水中浮揚部材の浮心が体の重心である腰部よりも下方に位置するため、体の浮心と水中浮揚部材の浮心との間に体の重心が位置することになる。これにより、泳者の体と水中浮揚部材を1つの浮揚体としてみたとき、浮心と重心をほぼ一致させることができる。そのため、水泳初級者が上記の水泳補助具を装着することにより、伏し浮きの姿勢又は背浮きの姿勢で体をより一層水平に保つことができる。
【0012】
上記の水泳補助具において、前記各水中浮揚部材は、上端が泳者の胴部よりも下方に位置していてもよい。
【0013】
この構成によれば、各水中浮揚部材は上端が泳者の胴部よりも下方に位置するため、クロールや背泳ぎなどで腕を回転させたときに、腕が水中浮揚部材に接触するのを抑制することができる。
【0014】
上記の水泳補助具において、前記各水中浮揚部材は、下端が泳者の膝よりも上方に位置していてもよい。
【0015】
この構成によれば、各水中浮揚部材は下端が泳者の膝よりも上方に位置するため、泳者が泳ぐ際に水中浮揚部材が足の動きの妨げになるのを抑制することができる。
【0016】
上記の水泳補助具において、前記固定部材は、左右一対の水中浮揚部材を固定できれば何でもよいが、一例として両方の水中浮揚部材に連結され泳者の腰部に巻きつける腰部ベルトと、対応する水中浮揚部材に連結され泳者の大腿部に巻きつける左右一対の大腿部ベルトと、を有する形態が挙げられる。
【0017】
この構成によれば、腰部ベルトと大腿部ベルトを用いて各水中浮揚部材を泳者の体に固定するため、各水中浮揚部材を容易に、かつ、確実に泳者の体に固定することができる。
【0018】
上記の水泳補助具において、前記各水中浮揚部材の形状については特に規定は無いが、泳者の股関節よりも上方に位置する上方部と、泳者の股関節よりも下方に位置する下方部と、を有し、前記上方部は前記下方部よりも前後方向寸法が大きいことが好ましい。
【0019】
この構成では、水中浮揚部材の上方部が股関節よりも上方に位置しているが、この股関節よりも上方の部分は、大腿部の動きの影響が小さい部分である。そのため、上記のとおり上方部の前後方向寸法を下方部の前後方向寸法よりも大きくすることにより、大腿部の動きに影響されやすい部分が相対的に減り、使用中における水中浮揚部材の位置ずれを抑制することができる。
【0020】
上記の水泳補助具において、前記上方部は前記腰部ベルトが連結される腰部ベルト連結部を有し、前記下方部は前記大腿部ベルトが連結される大腿部ベルト連結部を有するようにしてもよい。
【0021】
この構成によれば、水中浮揚部材の上方部が腰部ベルトに連結されることになるため、腰部ベルトによって水中浮揚部材の上方部を泳者の腰部にしっかりと固定することができる。また、水中浮揚部材の下方部が大腿部ベルトに連結されることになるため、大腿部ベルトによって下方部を泳者の大腿部に固定することができ、下方部を大腿部の動きに追従させることができる。その結果、使用中における水中浮揚部材の位置ずれを抑制することができる。
【0022】
上記の水泳補助具において、前記腰部ベルト連結部は、前記上方部を貫通する貫通孔によって構成され、前記大腿部ベルト連結部は、前記下方部を貫通する貫通孔によって構成されていてもよい。
【0023】
この構成によれば、簡易な構成でありながら、各水中浮揚部材に腰部ベルト及び大腿部ベルトをしっかりと連結することができる。
【0024】
上記の水泳補助具において、前記大腿部ベルト連結部は泳者の股部よりも上方に位置していてもよい。
【0025】
この構成によれば、大腿部ベルトを締め付けたときに大腿部ベルトが上方に引き上げられて、大腿部ベルトを泳者の股部に係止させることができる。その結果、使用中における水中浮揚部材の位置ずれを抑制することができる。
【0026】
上記の水泳補助具において、前記上方部は前記下方部よりも厚みが小さくてもよい。
【0027】
水中浮揚部材の上方部は、下方部に対して泳者が泳ぐときの進行方向側に位置する。そのため、上記のとおり進行方向側に位置する上方部が下方部よりも厚みを小さくすることにより、泳者が泳ぐと水中浮揚部材が水によって泳者の体に押し付けられることになる。その結果、使用中における水中浮揚部材の位置ずれを抑制することができる。
【0028】
上記の水泳補助具において、前記各水中浮揚部材は、水平方向の断面視において、外方に凸の湾曲形状を有していてもよい。
【0029】
この構成によれば、各水中浮揚部材を泳者の体に沿って固定することができるため、泳者が泳ぐ際に、水中浮揚部材と泳者の体の間に水が流れ込むのを抑制することができる。その結果、使用中における水中浮揚部材の位置ずれを抑制することができる。
【0030】
上記の水泳補助具において、前記各水中浮揚部材は、外表面に上下方向に延びる断面凹状の縦溝部が形成されていてもよい。
【0031】
この構成によれば、縦溝部に沿って各水中浮揚部材を折り曲げることで、泳者の体の形状に合わせて変形させることができる。これにより、泳者が泳ぐ際に、水中浮揚部材と泳者の体の間に水が流れ込むのを抑制することができる。その結果、使用中における水中浮揚部材の位置ずれを抑制することができる。
【0032】
上記の水泳補助具において、前記各水中浮揚部材は、外表面に前後方向に延びる断面凹状の横溝部が形成されていてもよい。
【0033】
この構成によれば、横溝部に沿って各水中浮揚部材を折り曲げることで、泳者の体の形状に合わせて変形させることができる。これにより、泳者が泳ぐ際に、水中浮揚部材と泳者の体の間に水が流れ込むのを抑制することができる。その結果、使用中における水中浮揚部材の位置ずれを抑制することができる。
【0034】
上記の水泳補助具において、前記横溝部は、前記上方部と前記下方部の境界部分に形成されていてもよい。
【0035】
この構成によれば、上方部と下方部の境界部分に横溝部が形成されるため、水中浮揚部材の下方部が上方部に対して変位しやすくなり、上方部が大腿部の動きから受ける影響を低減することができる。その結果、使用中における水中浮揚部材の位置ずれを抑制することができる。
【発明の効果】
【0036】
上記の構成によれば、水泳初級者が伏し浮きの姿勢又は背浮きの姿勢で体を水平に保つことができ、着脱が容易で、かつ、共用が可能な水泳補助具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、装着状態における水泳補助具の正面図である。
図2図2は、装着状態における水泳補助具の側面図である。
図3図3は、図2に示す水中浮揚部材の拡大図である。
図4図4は、図3のIV-IV矢視断面図である。
図5図5は、図3のV-V矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態に係る水泳補助具について説明する。以下では、はじめに水泳補助具の全体構成について説明し、その後に水泳補助具が備える水中浮揚部材の形状等について詳しく説明する。
【0039】
<水泳補助具の全体構成>
本実施形態に係る水泳補助具100は、泳者101の体に装着して泳者の泳ぎを補助する器具である。図1は装着状態における水泳補助具100の正面図であり、図2は装着状態における水泳補助具100の側面図である。
【0040】
なお、以下の説明における方向の概念は、特に言及がない限り、水泳補助具100を装着した泳者101が立った状態における泳者101を基準とした方向の概念に一致するものとする。例えば、泳者101の頭が位置する方向が上方となり、つま先が位置する方向下方となる。また、以下で説明する「胴部」とは上半身のへそよりも上方の部分をいい、「腰部」とは骨盤の上端部に相当する部分をいい、「股部」とは左右の大腿部の境界部分をいい、「大腿部」とは股関節から膝関節までの大腿骨に相当する部分をいうものとする。
【0041】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る水泳補助具100は、左右一対の水中浮揚部材10と、固定部材20と、を備えている。以下、これらの構成要素について順に説明する。
【0042】
水中浮揚部材10は、水中で浮揚して泳者101の体が沈まないようにするための部材である。本実施形態の水中浮揚部材10は、主に発泡ポリエチレンで形成されているが、水中浮揚部材10の材質はこれに限定されない。水中浮揚部材10は、水中で浮揚する部材であればよく、内部に空気を封入可能な袋状の部材で構成されていてもよい。本実施形態の水中浮揚部材10は、泳者101の体の右側面及び左側面のそれぞれに固定されている。そのため、伏し浮きの姿勢又は背浮きの姿勢で水中浮揚部材10の大部分が水中に沈んで浮力を得ることができる。これにより、泳者101が無理な姿勢をとるのを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態の水中浮揚部材10は、上下方向において、水中浮揚部材10の浮心11が泳者101の骨盤上下方向中央付近に位置するように固定されている。つまり、水中浮揚部材10の浮心11が泳者101の重心にあたる腰部よりも下方に位置するように固定されている。そのため、泳者101の体の浮心と水中浮揚部材の浮心11との間に、泳者101の体の重心が位置することになる。これにより、泳者101の体と水中浮揚部材10を1つの浮揚体としてみたとき、その浮揚体における浮心と重心をほぼ一致させることができる。その結果、水泳初級者が本実施形態に係る水泳補助具100を装着することで、伏し浮きの姿勢又は背浮きの姿勢で体を水平に保つことができる。
【0044】
なお、本実施形態に係る水泳補助具100は、水中浮揚部材10の形状の他、水中浮揚部材10を形成する材料の比重を変更することにより、泳者の年齢・体重・体格等に合わせて、浮心11の位置を調整することができる。例えば、水中浮揚部材10が発泡ポリエチレンで形成されている場合、発泡倍率の異なる発泡ポリエチレンを用いることで、形状は同じでも異なる浮力を得ることができる。また、水中浮揚部材10を複数の領域に分割し、各領域の各発泡倍率の値を変更することで、水中浮揚部材10の浮心11を調整することもできる。
【0045】
また、水中浮揚部材10の上端は、泳者101の腰部付近に位置している。つまり、水中浮揚部材10の上端は、泳者101の胴部よりも下方に位置している。そのため、泳者101が水泳補助具100を装着した状態で、クロールや背泳ぎなどで腕を回転させたとしても、腕が水中浮揚部材10に接触するのを抑制することができる。ただし、水中浮揚部材10の上端の位置は、上述した位置に限定されない。
【0046】
また、水中浮揚部材10の下端は、泳者101の膝よりも上方に位置している。さらに言えば、水中浮揚部材10の下端は、大腿部の上下方向中央よりも上方に位置している。そのため、泳者101が水泳補助具100を装着した状態で泳ぐ際、水中浮揚部材10が泳者101の足の動きの妨げになるのを抑制することができる。ただし、水中浮揚部材10の下端の位置は、上述した位置に限定されない。
【0047】
続いて、固定部材20について説明する。固定部材20は、水中浮揚部材10を上述した位置に固定するための部材であり、この機能が実現されるならば特に限定はされない。本実施形態では、着用した水着の上から各水中浮揚部材10を泳者101の体に固定する。図1及び図2に示すように、本実施形態の固定部材20は、腰部ベルト21と、左右一対の大腿部ベルト22とを有している。
【0048】
腰部ベルト21は、左右両方の水中浮揚部材10に連結されており、泳者101の腰部に巻きつけるベルトである。腰部ベルト21は、腰部ベルト21の両端を互いに接続するとともに、腰部ベルト21の長さを調節可能なバックル23を有している。腰部ベルト21の長さを適切に調節して泳者101の腰部に巻きつけることにより、水中浮揚部材10を泳者101の腰部にしっかりと固定することができる。なお、腰部ベルト21は、バックル23に代えて面ファスナー等を有していてもよい。
【0049】
大腿部ベルト22は、対応する水中浮揚部材10に連結されており、泳者101の大腿部に巻きつけるベルトである。大腿部ベルト22は、大腿部ベルト22の両端を互いに接続するとともに、大腿部ベルト22の長さを調節可能なバックル24を有している。大腿部ベルト22の長さを適切に調節して泳者101の大腿部に巻きつけることにより、水中浮揚部材10を泳者101の大腿部にしっかりと固定することができる。なお、大腿部ベルト22は、バックル24に代えて面ファスナー等を有していてもよい。
【0050】
本実施形態の固定部材20は、上述した腰部ベルト21と左右一対の大腿部ベルト22を用いて水中浮揚部材10を泳者101の体に固定している。そのため、泳者101の体の大きさにかかわらず水中浮揚部材10をしっかりと固定することができる。また、本実施形態では、固定部材20を用いて左右一対の水中浮揚部材10を泳者101の体に着脱可能に固定するため、水中浮揚部材10自体をハーフパンツ型の水着に形成する必要がない。そのため、本実施形態に係る水泳補助具100は、着脱が容易で、水泳に伴う動作の妨げにならず、かつ、共用が可能である。
【0051】
ただし、固定部材20の構成は上述したものに限定されない。例えば、固定部材20は、水中浮揚部材10が取り付けられた、又は、水中浮揚部材10を挿入可能なポケットを有するハーフパンツで構成されていてもよい。このポケットにおいて、水中浮揚部材10を内部に挿入する方向は、特定の方向に限定されない。例えば、水中浮揚部材10をポケットの上側から挿入できるようにしてもよく、下側から挿入できるようにしてもよく、前側から挿入できるようにしてもよく、後側から挿入できるようにしてもよい。この場合、固定部材20であるハーフパンツを着用することで、水中浮揚部材10を泳者101に固定することができる。なお、当該ハーフパンツを一般的な水着の生地など比較的やわらかく、大腿部の前後方向への動きを妨げない生地で形成すれば着脱は容易であり、水泳に伴う動作の妨げにならず、水着の上から着用すれば共用も可能であり、また水中浮揚部材10が交換可能になることで、泳者に適した浮心の位置や浮力に調整することも可能となる。また、固定部材20は、ひも状の部材で構成されていてもよい。この場合、腰部に対応するひも状の部材を泳者101の腰部に巻き付けて結ぶとともに、大腿部に対応するひも状の部材を大腿部に巻き付けて結べばよい。
【0052】
<水中浮揚部材の詳細>
次に、水中浮揚部材10の詳細について説明する。図3は、図2に示す水中浮揚部材10の拡大図である。また、図4図3のIV-IV矢視断面図であり、図5図3のV-V矢視断面図である。つまり、図4は水中浮揚部材10の鉛直方向の断面図であり、図5は水中浮揚部材10の水平方向の断面図である。図3は、左右一対の水中浮揚部材10のうち、泳者101の体の左側面に固定される水中浮揚部材10を示している。泳者101の体の右側面に固定される水中浮揚部材10は、泳者101の中心を通過し左右方向に対して垂直な仮想面を基準にして、泳者101の体の左側面に固定される水中浮揚部材10と対称の形状を有している。
【0053】
図3に示すように、水中浮揚部材10は、水中浮揚部材10の上方側の部分にあたる上方部12と、下方側の部分にあたる下方部13と、を有している。上方部12は泳者101の股関節よりも上方に、つまり大腿部よりも上方に位置している(図1参照)。一方、下方部13は泳者101の股関節よりも下方に、つまり大腿部に対応する位置に位置している(図1参照)。
【0054】
水中浮揚部材10はT字状の形状を有しており、上方部12の前後方向寸法W1は、下方部13の前後方向寸法W2よりも大きい。そして、上方部12が位置する部分は、大腿部よりも上方にあたるため、大腿部の動きの影響が小さい。そのため、本実施形態によれば、上方部12の前後方向寸法W1と下方部13の前後方向寸法W2が同じ場合に比べて、大腿部の動きによる影響が低減され、水中浮揚部材10をしっかりと泳者101の体に固定することができる。その結果、使用中における水中浮揚部材10の位置ずれを抑制することができる。
【0055】
上方部12は腰部ベルト21が連結される腰部ベルト連結部14を有している。腰部ベルト連結部14は、上方部12を貫通する2つの貫通孔16で形成されており、これらの貫通孔16に腰部ベルト21を通すことで上方部12が腰部ベルト21に連結される。そのため、腰部ベルト21によって水中浮揚部材10の上方部12を泳者101の腰部にしっかりと固定することができる。
【0056】
下方部13は大腿部ベルト22が連結される大腿部ベルト連結部15を有している。大腿部ベルト連結部15は、下方部13を貫通する2つの貫通孔17で形成されており、これらの貫通孔17に大腿部ベルト22を通すことで下方部13が大腿部ベルト22に連結される。そのため、大腿部ベルト22によって下方部13を泳者101の大腿部にしっかりと固定することができ、下方部13を大腿部の動きに追従させることができる。その結果、使用中における水中浮揚部材10の位置ずれを抑制することができる。
【0057】
上記のとおり、腰部ベルト連結部14は貫通孔16で形成されており、大腿部ベルト連結部15は貫通孔17で形成されている。そのため、簡易な構成でありながら、各水中浮揚部材10を腰部ベルト21及び大腿部ベルト22にしっかりと連結することができる。
【0058】
ただし、腰部ベルト連結部14及び大腿部ベルト連結部15は上記のような構成に限定されない。例えば、腰部ベルト連結部14は上方部12に固定され水平方向に延びて内部を腰部ベルト21か通過する筒状(スリーブ状)の部材で構成されていてもよく、大腿部ベルト連結部15は下方部13に固定され水平方向に延びて内部を大腿部ベルト22が通過する筒状(スリーブ状)の部材で構成されていてもよい。また、腰部ベルト連結部14及び大腿部ベルト連結部15は、面ファスナー等によって構成されていてもよい。
【0059】
また、図1及び図3に示すように、大腿部ベルト連結部15は泳者101の股部よりも上方に位置している。これにより、大腿部ベルト22を締め付けたときに大腿部ベルト22が上方に引き上げられて、大腿部ベルト22を泳者101の股部に係止させることができる。その結果、使用中における水中浮揚部材10の位置ずれを抑制することができる。
【0060】
また、水中浮揚部材10は板状に形成されている。ただし、図4に示すように、水中浮揚部材10は上方部12において上端から下方に向かうに従って厚みが大きくなっている。さらに、下方部13の上方部分においても下方に向かうに従って厚みが大きくなり、下方部13の上下方向中央部分で厚みが最も大きくなり、下方部分では下方に向かうに従って厚みが小さくなっている。図4において、上方部12の厚みT1は、下方部13の厚みT2よりも小さい。このように、水中浮揚部材10は、鉛直方向の断面視において、下方部13の上下方向中央付近で厚みが最も大きくなる外方に凸の形状を有している。そして、水中浮揚部材10の上方部12は、下方部13に対して泳者が泳ぐときの進行方向側に位置している。これにより、泳者101が泳いだとき、水中浮揚部材10が水によって泳者101の体に押し付けられることになる。その結果、使用中における水中浮揚部材10の位置ずれを抑制することができる。
【0061】
さらに、図5に示すように、水中浮揚部材10は、水平方向の断面視において湾曲している。具体的には、水中浮揚部材10は、外方に凸の湾曲形状を有している。そのため、水中浮揚部材10を泳者101の体に沿って固定することができ、泳者101が泳ぐ際に、水中浮揚部材10と泳者の体の間に水が流れ込むのを抑制することができる。その結果、使用中における水中浮揚部材10の位置ずれを抑制することができる。ただし、水中浮揚部材10は、平板状の形状を有していてもよい。
【0062】
また、図3に示すように、水中浮揚部材10は、外表面に上下方向に延びる縦溝部18が形成されている。図5に示すように、縦溝部18は断面視において内側(泳者101の体側)に窪む断面凹状の形状を有している。そのため、縦溝部18に沿って水中浮揚部材10を折り曲げることができ、泳者101の体の形状に合わせて変形させることができる。なお、縦溝部18に沿って切込を形成してもよい。上記の構成によれば、泳者101が泳ぐ際に、水中浮揚部材10と泳者101の体の間に水が流れ込むのを抑制することができる。その結果、使用中における水中浮揚部材10の位置ずれを抑制することができる。この縦溝部18の本数・長さ・形状は限定されない。
【0063】
また、図3に示すように、各水中浮揚部材10は、外表面に前後方向に延びる横溝部19が形成されている。図4に示すように、横溝部19は断面視において内側(泳者101の体側)に窪む断面凹状の形状を有している。そのため、横溝部19に沿って水中浮揚部材10を折り曲げることができ、泳者101の体の形状に合わせて変形させることができる。なお、横溝部19に沿って切込を形成してもよい。上記の構成によれば、泳者101が泳ぐ際に、水中浮揚部材10と泳者101の体の間に水が流れ込むのを抑制することができる。その結果、使用中における水中浮揚部材10の位置ずれを抑制することができる。この横溝部19の本数・長さ・形状は限定されない。
【0064】
さらに、横溝部19は、上方部12と下方部13の境界部分に形成されている。つまり、横溝部19は、大腿部の付け根部分にあたる股関節に対応する部分に位置している。そのため、下方部13が上方部12に対して変位しやすくなり、泳者101が大腿部を動かしたときに、上方部12は腰部付近に固定されたまま、下方部13を泳者101の大腿部の動きに追従させることができる。その結果、使用中における水中浮揚部材10の位置ずれを抑制することができる。
【0065】
なお、以上では、各水中浮揚部材10が1つの部材で構成されている場合について説明したが、水中浮揚部材10は複数の部材で構成されていてもよい。例えば、上方部12と下方部13が別の部材であり、上方部12と下方部13がひも状の部材で連結されていてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 水中浮揚部材
11 浮心
12 上方部
13 下方部
14 腰部ベルト連結部
15 大腿部ベルト連結部
16 貫通孔
17 貫通孔
18 縦溝部
19 縦溝部
20 固定部材
21 腰部ベルト
22 大腿部ベルト
100 水泳補助具
101 泳者
図1
図2
図3
図4
図5