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  • 特許-ハードコート付きレンズの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ハードコート付きレンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/046 20200101AFI20231011BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 37/02 20060101ALI20231011BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20231011BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20231011BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20231011BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20231011BHJP
【FI】
C08J7/046 Z
C09D4/00
B32B27/16 101
B32B37/02
B05D3/02 Z
B05D3/10 E
B05D5/00 B
G02B1/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019037437
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020139102
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】手塚 聡
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 稔
(72)【発明者】
【氏名】阿部 功児
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-155353(JP,A)
【文献】特開昭57-134558(JP,A)
【文献】特開2008-163457(JP,A)
【文献】特開昭61-086970(JP,A)
【文献】特開2002-258003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J7/04-7/06、
C23C14/00-14/58、
B05D1/00-7/26、
B32B1/00-43/00、
G02B1/10-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコート剤を基体に塗布することで、機能付加用基体を取得する第一工程と、
前記機能付加用基体に含まれる溶媒がレンズを侵襲してしまうことを抑制できるように、前記溶媒を揮発させる揮発工程と、
前記第一工程及び前記揮発工程によって取得された前記機能付加用基体を前記レンズと対向させ、真空装置によって所定の真空度とした状態で、前記機能付加用基体を加熱することによって、前記機能付加用基体に塗布された前記ハードコート剤を蒸発させ、前記ハードコート剤を前記レンズに付着させる第二工程と、
常圧下において、前記第二工程によって前記ハードコート剤が付着された前記レンズにおける前記ハードコート剤を硬化させる第三工程と、
を有し
前記レンズは樹脂体であることを特徴とするハードコート付きレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1のハードコート付きレンズの製造方法において、
前記第三工程は、前記ハードコート剤が付着された前記レンズに、紫外線の照射を少なくとも実施することによって、前記第二工程によって前記ハードコート剤が付着された前記レンズにおける前記ハードコート剤を硬化させることを特徴とするハードコート付きレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2のハードコート付きレンズの製造方法において、
前記第一工程は、前記基体として金属製の基体に対して、前記ハードコート剤を塗布することを特徴とするハードコート付きレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかのハードコート付きレンズの製造方法において、
前記第一工程は、前記ハードコート剤を、印刷装置を用いて、前記基体に印刷することによって、前記機能付加用基体を取得することを特徴とするハードコート付きレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レンズにハードコート剤(ハードコート用組成物)を付加してハードコート付きレンズを製造するハードコート付きレンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂体(例えば、プラスチックシート、プラスチックレンズ、プラスチックフィルム等)の機械的物性等を向上させる目的で用いられる種々のハードコート用組成物(樹脂組成物)が知られている。例えば、樹脂組成物としては、チオール基を有する修飾剤と3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとの付加反応により多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤を得て、得られた多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤を金属酸化物微粒子に修飾させることによって、製造された樹脂組成物が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
従来、このようなハードコート剤は、一般的な塗装方法(例えば、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法等)によって、樹脂体に付着(塗布)されて、樹脂体にハードコート層を形成する。これによって、樹脂体の機械的物性等を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-213989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的な塗装方法にてハードコート剤を樹脂体に付着させてハードコート層を形成する場合に、加工者が所望の膜厚でハードコート層を形成することは手間がかかることや、膜厚のコントロールが困難であることが多い。また、一般的な塗装方法にてハードコート剤を樹脂体に付着させてハードコート層を形成する場合に、多くの廃液が発生するため、環境によくない。また、多くのハードコート剤を使用することになり、コストがかかる。
【0006】
本開示は、上記問題点を鑑み、レンズにハードコート層を容易に形成することができ、ハードコート剤の廃液を少なくすることができるハードコート付きレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
本開示のハードコート付きレンズの製造方法は、ハードコート剤を基体に塗布することで、機能付加用基体を取得する第一工程と、前記機能付加用基体に含まれる溶媒がレンズを侵襲してしまうことを抑制できるように、前記溶媒を揮発させる揮発工程と、前記第一工程及び前記揮発工程によって取得された前記機能付加用基体をレンズと対向させ、真空装置によって所定の真空度とした状態で、前記機能付加用基体を加熱することによって、前記機能付加用基体に塗布された前記ハードコート剤を蒸発させ、前記ハードコート剤を前記レンズに付着させる第二工程と、常圧下において、前記第二工程によって前記ハードコート剤が付着された前記レンズにおける前記ハードコート剤を硬化させる第三工程と、を有し、前記レンズは樹脂体であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ハードコート付き樹脂体の製造方法の流れを示したフローチャートである。
図2】ハードコート付き樹脂体の製造方法に用いる製造システムを示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
以下、本開示における典型的な実施形態の1つについて図面を参照して説明する。例えば、図1は本実施形態のハードコート付き樹脂体の製造方法の流れを示したフローチャートである。例えば、図2は本実施形態のハードコート付き樹脂体の製造方法に用いる製造システムを示した概略図である。なお、以下の<>にて分類された項目は、独立又は関連して利用されうる。
【0011】
以下では、樹脂体の1つであるレンズ(例えば、レンズ8)にハードコート層を形成し、ハードコート付きレンズを製造する場合を例示して説明を行う。しかし、以下で例示する技術は、レンズ以外の樹脂体(例えば、携帯電話のカバー、ライト用のカバー、アクセサリー、玩具等のいずれかの成形体等)に本開示の技術にてハードコート層を形成し、ハードコート付き樹脂体を製造する場合にも適用できる。
【0012】
なお、本実施形態によると、例えば、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体(CR-39))、ポリウレタン系樹脂(トライベックス)、アリル系樹脂(例えば、アリルジグリコールカーボネート及びその共重合体、ジアリルフタレート及びその共重合体)、フマル酸系樹脂(例えば、ベンジルフマレート共重合体)、スチレン系樹脂、ポリメチルアクリレート系樹脂、繊維系樹脂(例えば、セルロースプロピオネート)、チオウレタン系またはチオエポキシ等の高屈折材料、ナイロン系樹脂(ポリアミド系樹脂)、等の少なくともいずれかを材質(材料)とした樹脂体にハードコート層を形成することもできる。
【0013】
例えば、本実施形態のハードコート付き樹脂体の製造方法(以下、製造方法と記載)においては、第一工程、第二工程、第三工程、が実施される。例えば、第一工程は、ハードコート剤を基体に塗布することで、機能付加用基体を取得する工程である。例えば、第二工程は、第一工程によって取得された機能付加用基体を樹脂体と対向させ、機能付加用基体を加熱することによって、機能付加用基体に塗布されたハードコート剤を蒸発させ、ハードコート剤を樹脂体に付着させる工程である。例えば、第三工程は、第二工程によってハードコート剤が付着された樹脂体におけるハードコート剤を硬化させる工程である。例えば、本実施形態における製造方法は、第一工程、第二工程、第三工程の順序で行われる。
【0014】
このように、例えば、上記の第一工程、第二工程、第三工程を実施し、ハードコート剤を蒸発させて、樹脂体に付着させ、ハードコート剤を硬化させることで、樹脂体にハードコート層を容易に形成することができる。また、例えば、ハードコート剤を無駄なく使用することができるため、従来の製造方法に対して、ハードコート剤の廃液を少なくすることができる。
【0015】
<第一工程>
例えば、第一工程において、ハードコート剤を基体に塗布することで、機能付加用基体を取得する方法としては、ハードコート剤付着部(例えば、ハードコート剤付着部10)によって、ハードコート剤を基体(例えば、基体2)に塗布することで、機能付加用基体(例えば、機能付加用基体1)を取得する(製造する)ようにしてもよい。この場合、例えば、ハードコート剤付着部としては、印刷装置、ディスペンサー(液体定量塗布装置)、ローラ等を駆動することで基体にハードコート剤を付着させる装置等の少なくともいずれかを用いるようにしてもよい。なお、例えば、ハードコート剤付着部は、基体にハードコート剤を付着させることができる構成であればよく、上記のハードコート剤付着部に限定されない。
【0016】
例えば、ハードコート剤付着部として印刷装置を用いる場合、印刷装置としては、インクジェットプリンタ(例えば、インクジェットプリンタ11)、レーザープリンタ等の少なくともいずれかの印刷装置を用いるようにしてもよい。もちろん、上記と異なる印刷装置が用いられるようにしてもよい。
【0017】
上記のように、例えば、印刷装置による印刷によって、基体に対してハードコート剤が塗布される。このように、例えば、印刷装置による印刷によって、基体に対して、ハードコート剤を所望する範囲に容易により均一に塗布することができる。また、例えば、印刷装置による印刷によって、ハードコート剤を無駄なく使用することができるとともに、ハードコート剤を蒸発させた場合に、より均一に樹脂体にハードコート剤を付着させることができる。また、例えば、印刷装置による印刷によって、基体に対するハードコート剤の塗布量を部分的に変更することができるため、塗布量を部分的に制御することによって、種々の形状の樹脂体に対しても、より均一に樹脂体にハードコート剤を付着させることができる。また、例えば、印刷装置による印刷によって、基体に対するハードコート剤の塗布量を部分的に変更することも可能であるため、部分的にハードコート剤の塗布量を変更して付着させることができる。
【0018】
なお、例えば、第一工程において、ハードコート剤を基体に塗布することで、機能付加用基体を取得する方法としては、ハードコート剤付着部を用いずに、作業者によって、筆、ローラ、又はスプレー等を用いて、等の少なくともいずれかを用いてハードコート剤を基体に付着させる方法であってもよい。
【0019】
例えば、第一工程において用いられる基体は、樹脂体にハードコート層を形成させるために用いられるハードコート剤を一旦保持する媒体である。例えば、基体には、紙、金属(例えば、アルミ、鉄、銅、等)、ガラス、等の少なくともいずれかを用いるようにしてもよい。一例として、金属が基体として用いられるようにしてもよい。また、一例として、例えば、金属と、紙と、を組み合わせた基体が用いられてもよい。
【0020】
なお、例えば、本開示のハードコート付き樹脂体の製造方法において、金属製の基体を用いることがより好ましい。この場合、例えば、第一工程は、基体として金属製の基体に対して、ハードコート剤を塗布するようにしてもよい。
【0021】
例えば、金属製の基体は熱電導率が他の材料の基体(例えば、紙、樹脂等)よりも高いため、ハードコート剤を効率よく蒸発させやすい。例えば、樹脂性の基体を用いた場合には、熱伝導率が低いため、ハードコート剤を蒸発させづらく、蒸発に要する時間がかかってしまう。
【0022】
また、例えば、ハードコート剤は、蒸発させるための温度が高いため、耐熱性に優れた金属製の基体を用いることがより好ましい。例えば、他の耐熱性の低い基体を用いた場合に、ハードコート剤の蒸発を完了させる前に基体が破損してしまう可能性がある。本開示のように金属製の基体を用いることで、ハードコート剤の蒸発を完了させる前に基体が破損してしまう可能性を抑制することができる。
【0023】
例えば、紙製の基体を用いる場合、紙製の基体は、金属製の基体に対して不純物を多く含むため、ハードコート剤を蒸発させるための温度にした場合に、不純物が蒸発しやすくなる。例えば、ハードコート膜は樹脂体の表面に形成されるため、樹脂体の表面に不純物が付着した場合に、不純物がハードコート膜の品質低下に大きく影響してしまう。本開示のように、金属製の基体を用いることで、不純物の影響をより抑制することができ、より良好なハードコート付き樹脂体を製造することができる。また、例えば、紙製の基体を用いる場合に、紙の繊維の間にハードコート剤が入り込んでしまう(ハードコート剤がしみこみやすい)ため、ハードコート剤が蒸発しづらくなる。本開示のように金属製の基体を用いた場合に、ハードコート剤が基体に入り込みづらいため、より容易にハードコート剤を蒸発させることが可能となる。
【0024】
例えば、基体の厚みは、1μm以上1000μm以下であってもよい。例えば、基体の厚みが1μm未満であると、基体の強度が低下する。この場合、加工者は機能付加用基体を取り扱い難くなる。一方で、基体の厚みが1000μmより大きいと、コストが高くなり、廃棄も面倒となる。ハードコート剤の加熱に要するエネルギー(例えば、加熱時間および出力)も増加する。もちろん、基体の厚みは、上記の厚みに限定されない。例えば、基体としては、種々の厚みの基体を用いることができる。
【0025】
<第二工程>
上記のように、第一工程によって取得された機能付加用基体を用いて第二工程を行う。例えば、第二工程は、第一工程によって取得された機能付加用基体を樹脂体(例えば、レンズ8)と対向させ、機能付加用基体を加熱することによって、機能付加用基体に塗布されたハードコート剤を蒸発させ、ハードコート剤を樹脂体に付着させる工程である。
【0026】
例えば、第二工程において、蒸発部(例えば、蒸発部30)が用いられる。例えば、蒸発部は、機能付加用基体に付着されたハードコート剤を電磁波によって加熱することで、ハードコート剤を樹脂体に向けて蒸発させる。その結果、ハードコート剤が樹脂体に付着される。
【0027】
例えば、蒸発部は、電磁波を機能付加用基体に照射することで、短時間でハードコート剤の温度を上昇させることができる。また、機能付加用基体のハードコート剤を蒸発させる場合、高熱となった鉄板等を機能付加用基体に接触させることでハードコート剤を加熱することも考えられる。もちろん、蒸発部としては、上記構成に限定されない。例えば、蒸発部としては、機能付加用基体におけるハードコート剤の温度を上昇させることが可能性な構成であればよい。
【0028】
例えば、第二工程において、機能付加用基体を樹脂体と対向させる場合、非接触(例えば、2mm~30mm等)で対向させるようにしてもよい。この場合、例えば、第二工程は、第一工程によって取得された機能付加用基体を樹脂体と非接触に対向させ、機能付加用基体を加熱することによって、機能付加用基体に塗布されたハードコート剤を蒸発させ、ハードコート剤を樹脂体に付着させるようにしてもよい。例えば、非接触に対向させることによって、ハードコート剤を蒸発させるために機能付加用基体を加熱した際の熱が樹脂体に伝導されてしまうことを抑制することができる。これによって、樹脂体が熱によって、変色、収縮等をしてしまうことを抑制することができる。また、例えば、非接触に対向させることによって、機能付加用基体と樹脂体との間の距離が生じるため、樹脂体に対してハードコート剤を十分に分散させて付着させることができる。これによって、ハードコート剤の付着ムラを抑制することができ、樹脂体に対して所望する膜厚のハードコート膜を良好に形成することができる。
【0029】
また、例えば、第二工程において、機能付加用基体を樹脂体と対向させる場合、機能付加用基体と樹脂体を接触させた状態で対向させるようにしてもよい。
【0030】
例えば、第二工程において、樹脂体の周辺を所定の真空度にした状態で、ハードコート剤を蒸発させ、ハードコート剤を樹脂体に付着させるようにしてもよい。一例として、例えば、樹脂体を蒸発部内に入れてハードコート剤の付着を行う場合、真空装置(例えば、ポンプ36)により蒸発部内を所定の真空度にして付着作業を行うようにてもよい。なお、真空度を上げることによって、より低い温度にて、ハードコート剤を蒸発させることが可能となる。もちろん、例えば、樹脂体の周辺を常圧下で、ハードコート剤を蒸発させ、ハードコート剤を樹脂体に付着させるようにしてもよい。一例として、樹脂体を蒸発部内に入れてハードコート剤の付着を行う場合、蒸発部内を常圧下において付着作業を行うようにしてもよい。
【0031】
<第三工程>
例えば、第二工程が完了すると、第三工程が行われる。例えば、第三工程は、第二工程によってハードコート剤が付着された樹脂体におけるハードコート剤を硬化させる工程である。第三工程を実施することによって、樹脂体にハードコート膜を形成することができる。
【0032】
例えば、ハードコート剤を硬化させる方法としては、樹脂体を加熱する方法であってもよい。この場合、例えば、ハードコート剤が付着された樹脂体を加熱することによって、ハードコート剤が硬化して、樹脂体上にハードコート膜が形成される。また、例えば、ハードコート剤を硬化させる方法としては、樹脂体に電子線を照射する方法であってもよい。また、例えば、ハードコート剤を硬化させる方法としては、樹脂体に紫外線を照射する方法であってもよい。この場合、例えば、第三工程は、ハードコート剤が付着された樹脂体に、紫外線の照射を少なくとも実施することによって、第二工程によってハードコート剤が付着された樹脂体におけるハードコート剤を硬化させるようにしてもよい。例えば、紫外線の照射にてハードコート剤を硬化させることによって、ハードコート剤をより短時間で硬化させることができる。また、例えば、紫外線の照射にてハードコート剤を硬化させることによって、熱によって硬化させる場合に対して、樹脂体の材料に応じた変形を抑制することができ、種々の材料の樹脂体に対して容易にハードコート剤の硬化を実施することができる。
【0033】
例えば、第三工程において、ハードコート剤硬化部(例えば、ハードコート剤硬化部50)が用いられる。例えば、ハードコート剤硬化部(以下、硬化部と記載)は、ハードコート剤が付着された樹脂体におけるハードコート剤を硬化させる。その結果、樹脂体にハードコート膜を形成することができる。
【0034】
例えば、ハードコート剤を硬化させる方法として、樹脂体を加熱する方法を用いる場合、硬化部は、ハードコート剤が付着された樹脂体を電磁波によって加熱することによって、ハードコート剤を硬化して、樹脂体上にハードコート膜を形成させる。この場合、例えば、硬化部としては、オーブン(例えば、送風式定温恒温器)、赤外線ヒーター(遠赤外ヒーター等)、レーザ照射装置(例えば、機能付加用基体上でレーザを走査させて、機能付加用基体を加熱する装置)等の少なくともともいずれかを用いるようにしてもよい。なお、例えば、硬化部としては、上記構成に限定されず、ハードコート剤が付着された樹脂体を電磁波によって加熱することによって、ハードコート剤を硬化して、樹脂体上にハードコート膜を形成させることが可能な構成であればよい。
【0035】
また、例えば、ハードコート剤を硬化させる方法として、樹脂体に電子線を照射する方法を用いる場合、硬化部は、ハードコート剤が付着された樹脂体に向けて電子線を照射して、ハードコート剤を硬化して、樹脂体上にハードコート膜を形成させる。また、例えば、硬化部としては、EB(電子線)装置等であってもよい。なお、例えば、硬化部としては、上記構成に限定されず、ハードコート剤が付着された樹脂体に電子線を照射することによって、ハードコート剤を硬化して、樹脂体上にハードコート膜を形成させることが可能な構成であればよい。
【0036】
また、例えば、ハードコート剤を硬化させる方法として、樹脂体に紫外線を照射する方法を用いる場合、硬化部は、ハードコート剤が付着された樹脂体に向けて紫外線を照射して、ハードコート剤を硬化して、樹脂体上にハードコート膜を形成させる。また、例えば、硬化部としては、紫外線ランプ、レーザ照射装置(例えば、樹脂体上でレーザを走査させて、樹脂体に紫外線を照射する装置)等であってもよい。例えば、レーザ照射装置を用いる場合、レーザ光源は、紫外域の波長のレーザ光を出射可能な構成であればよい。なお、例えば、硬化部としては、上記構成に限定されず、ハードコート剤が付着された樹脂体に紫外線を照射することによって、ハードコート剤を硬化して、樹脂体上にハードコート膜を形成させることが可能な構成であればよい。
【0037】
なお、例えば、紫外線の照射によって、ハードコート剤を硬化させる場合、ハードコート剤には、紫外線で反応する光反応開始剤が含まれる。例えば、光反応開始剤としては、光によって、重合反応が開始される光重合開始剤であってもよい。この場合、例えば、紫外線が照射されることによって、光重合開始剤が反応し、ハードコート剤が硬化されるようにしてもよい。また、例えば、光反応開始剤としては、光によって、酸を発生させる光反応開始剤であってもよい。この場合、例えば、紫外線が照射されることによって、酸が発生して酸の反応によってハードコート剤が硬化する光反応開始剤であってもよい。もちろん、光反応開始剤としては、上記の光反応開始剤に限定されるものではなく、紫外線が照射されることによって、ハードコート剤が硬化される光反応開始剤であればよい。
【0038】
なお、例えば、第三工程において、種々の方法が組み合わせられて実施されるようにしてもよい。一例として、第三工程においては、加熱によって硬化させる方法と、紫外線によって硬化させる方法と、が組み合わせられて実施されるようにしてもよい。
【0039】
なお、例えば、第三工程を実施する場合に、常圧下にてハードコート剤が付着された樹脂体におけるハードコート剤を硬化させるようにしてもよい。もちろん、異なる気圧下で第三工程が実施されるようにしてもよい。
【0040】
なお、ハードコート剤付着部、蒸発部、および硬化部の各々で行われる工程のうちの2以上が、1つの装置によって実行されてもよい。例えば、蒸発部によって行われる第二工程と、硬化部によって行われる第三工程とを共に実行する製造装置が用いられてもよい。この場合、例えば、第二工程における機能付加用基体の加熱と、第三工程における樹脂体の硬化とを、同一の光源を用いて実行してもよい。一例として、例えば、第二工程と第三工程とにおいて、光源の波長を切り換えて実行をすることで、各工程に適切な波長の光を照射し、各工程を実施するようにしてもよい。また、製造装置は、複数の工程(例えば、第二工程から第三工程まで)を一連の流れで自動的に行ってもよい。
【0041】
<揮発工程>
なお、例えば、本実施形態におけるハードコート付き樹脂体の製造システムには、さらに、揮発工程が含まれるようにしてもよい。この場合、例えば、ハードコート付き樹脂体の製造システムは、機能付加用基体からハードコート剤に含まれる溶媒の少なくとも一部を揮発させる揮発工程であって、第一工程後に実施される揮発工程を備えるようにしてもよい。例えば、揮発工程によって、溶媒の少なくとも一部が揮発された機能付加用基体を用いて、第二工程が実施されるようにしてもよい。例えば、揮発工程では、溶媒の全体を揮発させるようにしてもよい。また、例えば、揮発工程では、溶媒の一部を揮発させるようにしてもよい。
【0042】
例えば、第一工程後に揮発工程を実施することで、溶媒の少なくとも一部が揮発された機能付加用基体を用いて第二工程を実施することができるため、第二工程においてハードコート剤に含まれる溶媒が蒸発して、樹脂体に付着することを抑制することができる。例えば、樹脂体に溶媒が付着することを抑制することができるため、溶媒が樹脂体を侵襲してしまうことを抑制することができる。これによって、樹脂体の品質を低下させることを抑制することができる。従来のハードコート付き樹脂体の製造方法では、溶媒が樹脂体に触れてしまう方法であるため、溶媒によって樹脂体が侵襲されてしまうことがあったが、本開示の手法によれば、従来技術に対して樹脂体への侵襲を抑制した状態でハードコート付き樹脂体を製造することができる
例えば、揮発工程としては、揮発部(例えば、揮発部60)を用いるようにしてもよい。この場合、例えば、揮発部によって、第一工程によって取得された機能付加用基体における溶媒の少なくとも一部を揮発させるようにしてもよい。
【0043】
例えば、揮発部としては、溶媒を加熱することで揮発させる加熱装置が用いられてもよい。例えば、加熱装置は、機能付加用基体を加熱して、溶媒を揮発するようにしてもよい。この場合、例えば、加熱装置としては、オーブン(例えば、送風式定温恒温器)、レーザ照射装置(例えば、機能付加用基体上でレーザを走査させて、機能付加用基体を加熱する装置)等の少なくともともいずれかを用いるようにしてもよい。例えば、オーブンを用いる場合、機能付加用基体を70℃で1分間程度加熱することによって、ハードコート剤の溶媒の少なくとも一部を揮発させるようにしてもよい。もちろん、オーブンを用いる場合の温度と時間については、上記に限定されるものではない。なお、例えば、加熱装置としては、上記構成に限定されず、機能付加用基体を加熱することで、ハードコート剤の溶媒の少なくとも一部を揮発可能な加熱手段であればよい。
【0044】
なお、例えば、揮発工程と第二工程における条件(例えば、気圧等)を同一条件とした場合に、揮発工程における加熱温度は、第二工程における加熱温度よりも低くなる。すなわち、同一条件下において、揮発工程は、第二工程によりも、低い温度で機能付加用基体を加熱する工程である。
【0045】
なお、揮発工程としては、上記の加熱装置を用いる方法に限定されない。例えば、揮発工程としては、ハードコート剤における溶媒の少なくとも一部を揮発することができる方法であればよい。一例として、揮発工程としては、機能付加用基体の周辺の気圧を変更する方法であってもよい。この場合、例えば、揮発部として、真空装置(例えば、ポンプ)を用いるようにしてもよい。例えば、揮発工程において、真空装置は、機能付加用基体の周辺の真空度を制御することによって、ハードコート剤の溶媒の少なくとも一部を揮発させる。
【0046】
例えば、揮発工程は、第一工程後に実施される構成であればよい。この場合、例えば、揮発工程において、第一工程後であって、第二工程の前に実施するようにしてもよい。つまり、例えば、揮発工程は、第一工程と、第二工程と、の間で実施される工程であってもよい。また、この場合、例えば、揮発工程は、第一工程の後であって、第二工程と同タイミングで実施されるようにしてもよい。一例として、例えば、第二工程における機能付加用基体の加熱を開始する前に真空度を制御することによって、第二工程の蒸発を開始する前における真空度の制御と、揮発工程におけるハードコート剤の溶媒の少なくとも一部を揮発させるための真空度の制御と、を同時に実施するようにしてもよい。なお、本実施形態において、同時とは略同時を含む。
【0047】
<ハードコート剤>
本実施形態において、例えば、ハードコート剤としては、少なくとも樹脂を含むようにしてもよい。つまり、例えば、ハードコート剤としては、樹脂を主成分としてもよい。なお、例えば、ハードコート剤には、必要に応じて、樹脂を溶解するための溶媒が含まれていてもよい。また、例えば、ハードコート剤には、ハードコート剤を紫外線にて硬化させるための反応を開始させるための光重合開始剤が含まれていてもよい。この場合、例えば、ハードコート剤としては、紫外線にて硬化する樹脂が用いられる。
【0048】
なお、本実施形態において、さらに、ハードコート剤には、必要に応じて、光増感剤、レベリング剤、消泡剤、流動性調整剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、顔料、チオール基(メルカプト基)を有する修飾剤(詳細は特開2011-213989号公報参照)、金属酸化物微粒子等の少なくともいずれかが含まれるようにしてもよい。
【0049】
例えば、ハードコート剤としては、熱によって硬化しない又は硬化しづらいハードコート剤を用いることが好ましい。このような、ハードコート剤を用いることによって、第二工程等でハードコート剤に対して熱が加えられた場合に、ハードコート剤が蒸発して樹脂体に付着する前に、硬化してしまうことを抑制することができる。もちろん、本実施形態におけるハードコート剤としては、熱によって硬化しない又は硬化しづらいハードコート剤のみに限定されない。例えば、ハードコート剤として硬化しやすいハードコート剤を用いる場合に、第二工程おいて、ハードコート剤の周辺の真空度を制御することで、より低い温度で蒸発が可能となるため、ハードコート剤が硬化することを抑制しながら、ハードコート剤を蒸発させることができる。
【0050】
例えば、樹脂としては、1官能~多官能の樹脂の少なくともいずれかの樹脂を用いるようにしてもよい。つまり、例えば、樹脂としては、1種類の樹脂が用いられるようにしてもよい。一例として、3官能の樹脂のみが用いられるようにしてもよい。また、一例として、4官能の樹脂が用いられるようにしてもよい。また、例えば、樹脂としては、複数種類の樹脂を組み合わせて用いるようにしてもよい。一例として、例えば、2官能の樹脂と3官能の樹脂とを組みあわせるようにしてもよい。また、一例として、例えば、2官能の樹脂と4官能の樹脂が組みあわせるようにしてもよい。また、一例として、例えば、1官能の樹脂と3官能の樹脂とを組みあわせるようにしてもよい。また、一例として、例えば、1官能の樹脂と4官能の樹脂とを組みあわせるようにしてもよい。また、一例として、例えば、3官能の樹脂と4官能の樹脂とを組みあわせるようにしてもよい。
【0051】
なお、例えば、樹脂として、樹脂の官能基の数が少ない場合、第二工程において、ハードコート剤が蒸発した際に、ハードコート剤の粘性が低いことにより、樹脂体にハードコート剤が付着しづらくなるとともに、第三工程においてハードコート剤が硬化しづらくなる場合がある。つまり、第三工程においてハードコート剤が硬化しづらくなり、ハードコート剤の機械的物性等を向上させる性能が低い場合がある。このため、例えば、樹脂としては、少なくとも2官能以上の樹脂を用いることが好ましい。さらに、例えば、樹脂としては、少なくとも3官能以上の樹脂を用いることがより好ましい。
【0052】
また、例えば、樹脂として、樹脂の官能基の数が多い場合、第二工程において、ハードコート剤が蒸発しづらくなる場合がある。このため、例えば、樹脂としては、6官能以下の樹脂を用いることがより好ましい。つまり、例えば、樹脂としては、1~6官能の樹脂を用いることがより好ましい。また、さらに好ましくは、樹脂としては、4官能以下の樹脂を用いることがさらに好ましい。4官能以下の樹脂を用いることで、ハードコート剤をより容易に蒸発させることができる。もちろん、本開示の製造方法は、樹脂の官能基数を問わず、様々の官能基数を有する樹脂を含むハードコート剤を用いた場合であっても、樹脂体上にハードコート膜を容易に形成させることができる。
【0053】
例えば、樹脂としては、(メタ)アクリレートモノマー、・・・・等の少なくともいずれかの樹脂が用いられてもよい。なお、表記上「・・・(メタ)アクリレート」とあるのは「・・・アクリレート」または「・・・メタクリレート」を表す。例えば、樹脂として、メタ)アクリレートモノマーが用いられる場合、1~多官能のメタ)アクリレートモノマーの少なくともいずれかのメタ)アクリレートモノマーが用いられる。なお、以下の説明においては、ハードコート剤に含まれる樹脂として、(メタ)アクリレートモノマーを例に挙げて説明するが樹脂としてはこれに限定されない。例えば、ハードコート剤に含まれる樹脂としては、種々の樹脂を用いることできる。この場合、例えば、種々の樹脂としては、エポキシ樹脂、シランカップリング剤等を用いるようにしてもよい。
【0054】
例えば、本実施形態において、ハードコート剤に使用可能な(メタ)アクリレートモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ3-アクリロイロプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ブテン-1,4-ジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン-1,4-ジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート等の直鎖状、ジオキサングリコールジアクリレート等の分岐鎖状、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート等の分岐鎖状、環状の(メタ)アクリレート類、又はウレタンアクリレート類等を用いてもよい。
【0055】
なお、例えば、1官能~多官能の(メタ)アクリレートモノマーを1種類の(メタ)アクリレートモノマー、又は、複数の種類の(メタ)アクリレートモノマー、を組み合せて使用するようにしてもよい。なお、(メタ)アクリレートモノマーとしては、上記に挙げるものに限定されない。上記記載の(メタ)アクリレートモノマーとは異なる(メタ)アクリレートモノマーについても用いることができる。
【0056】
例えば、本実施形態において、溶媒は、グリコール系溶媒と、低級アルコールと、ケトン系溶媒、等少なくともいずれかの溶媒を用いるようにしてもよい。この場合、例えば、グリコール系溶媒と、低級アルコールと、が組み合わせられて用いられてもよい。また、例えば、グリコール系溶媒と、低級アルコールと、の一方が用いられてもよい。例えば、グリコール系溶媒を用いる場合、1種類のグリコール系溶媒が用いられてもよいし、複数の種類のグリコール系溶媒が用いられてもよい。また、例えば、低級アルコール系を用いる場合、1種類の低級アルコールが用いられてもよいし、複数の種類の低級アルコールが用いられてもよい。なお、例えば、溶媒としては、上記溶媒に限定されない。例えば、溶媒としては、種々の溶媒を用いることができる。
【0057】
例えば、グリコール系溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、エチルセロソルブ(エチレングリコールモノエチルエーテル)、ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の少なくともいずれかを用いてもよい。もちろん、グリコール系溶媒は、ここに挙げるものに限るものではない。
【0058】
例えば、低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、グリセリン等を用いてもよい。もちろん、低級アルコールは、ここに挙げるものに限るものではない。
【0059】
例えば、ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等が挙げられる。もちろん、ケトン系溶媒は、ここに挙げるものに限るものではない。
【0060】
例えば、光重合開始剤としては、トリス(クロロメチル)トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(4'-メトキシスチリル)-6-トリアジン、2-〔2-(フラン-2-イル)エテニル〕-4,6-ビス(トリクロロメチル)-S-トリアジン、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-S-トリアジンなどのトリアジン系化合物、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテルなどのベンゾイン系化合物、ジエトキシアセトフェノン、4-フェノキシジクロロラセトフェノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルアセトフェノンなどのアセトフェノン系化合物、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2-クロロチオキサントンなどのチオキサントン系化合物、ベンジルジメチルケタール、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルフォスフィンオキサイド、N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、アシルフォスヒンオキサイド等を用いてもよい。また、例えば、光重合開始剤として、これらを1種類または2種類以上を併用(混合)して用いるようにしてもよい。
【0061】
なお、本実施形態におけるハードコート付き樹脂体の製造方法は、染色された樹脂体(染色樹脂体)に対しても適用することができる。この場合、染色された樹脂体に対して、ハードコート膜を形成するようにしてもよい。例えば、染色樹脂体は、種々の染色方法によって取得することができる。例えば、染色樹脂体は、樹脂体に染料を練り込む方法、染料を混合した液の中に樹脂体を所定時間浸漬する方法(浸染法)、樹脂体に対して多層膜を形成する方法、等の少なくともいずれかが用いられて取得されるようにしてもよい。
【0062】
また、例えば、染色樹脂体は、気相転写染色法が用いられて取得されるようにしてもよい。例えば、気相転写染色法では、染料を基体に塗布することで、染色用基体を取得する染色用基体取得工程と、染色用基体と樹脂体を対向させ、染色用基体を加熱することによって、染色用基体に塗布された染料を昇華させ、染料を樹脂体に付着させる蒸着工程と、染料が付着された樹脂体を加熱することによって、染料を樹脂体に定着させる定着工程と、が実施される。この場合、例えば、染色用基体取得工程と、蒸着工程と、定着工程と、の少なくともいずれかの工程において用いられる装置が、ハードコート付き樹脂体の製造方法において実施される第一工程、第二工程、第三工程によって用いられる装置と兼用されるようにしてもよい。一例として、第一工程と、染色用基体取得工程と、で1つの装置で各工程実施されるようにしてもよい。また、一例として、第二工程と、蒸着工程と、で1つの装置で各工程実施されるようにしてもよい。また、一例として、第三工程と、定着工程と、で1つの装置で各工程実施されるようにしてもよい。また、一例として、第二工程と、第三工程と、蒸着工程と、定着工程と、で1つの装置で各工程実施されるようにしてもよい。
【0063】
<実施例>
以下、本実施例におけるハードコート付き樹脂体の製造システムを用いたハードコート付き樹脂体の製造方法について説明する。
【0064】
まず、図2を参照して、本実施例におけるハードコート付き樹脂体の製造システム(以下、製造システムと記載)100の概略構成について説明する。本実施例の製造システム100は、ハードコート剤付着部(以下、付着部と記載)10、蒸発部30、および硬化部50を備える。例えば、蒸発部30は、ハードコート剤が塗布された機能付加用基体1を加熱することによって、機能付加用基体1に塗布されたハードコート剤を蒸発させ、ハードコート剤をレンズ8に付着させるために用いられる。例えば、硬化部50は、ハードコート剤が付着されたレンズ8におけるハードコート剤を硬化させて、レンズ8にハードコート層を形成するために用いられる。
【0065】
例えば、第一工程は、付着部10によって、ハードコート剤を基体に塗布することで、機能付加用基体1を取得する(製造する)。例えば、第一工程において、付着部10は、後にレンズ8に蒸着されるハードコート剤を、基体2に付着させることで、ハードコート剤部6を形成する。なお、本実施例において、ハードコート剤部6には、樹脂と、溶媒と、光重合開始剤と、が混合されている。例えば、基体2は、レンズ8にハードコート層を形成させるために用いられるハードコート剤を一旦保持する媒体である。基体2の詳細な説明については後述する。
【0066】
本実施例において、例えば、付着部10は、ハードコート剤を、インクジェットプリンタ11を用いて基体2に付着(本実施例では印刷)させる。従って、付着部10は、レンズ8に形成させるハードコート層の膜厚が加工者の所望する膜厚となるように、ハードコート剤をより正確に基体2に付着させることができる。つまり、基体2に付着させるハードコート剤の分量等の正確性が向上する。
【0067】
本実施例において、例えば、付着部10として、印刷装置が用いられる。例えば、本実施例において、第一工程では、ハードコート剤を印刷装置を用いて、基体2に印刷することによって、機能付加用基体1を取得する。このように、例えば、印刷装置による印刷によって、基体2に対して、ハードコート剤を所望する範囲に容易により均一に塗布することができる。また、例えば、印刷装置による印刷によって、ハードコート剤を無駄なく使用することができるとともに、ハードコート剤を蒸発させた場合に、より均一に樹脂体にハードコート剤を付着させることができる。また、例えば、印刷装置による印刷によって、基体2に対するハードコート剤の塗布量を部分的に変更することができるため、塗布量を部分的に制御することによって、種々の形状の樹脂体に対しても、より均一に樹脂体にハードコート剤を付着させることができる。また、例えば、印刷装置による印刷によって、基体2に対するハードコート剤の塗布量を部分的に変更することも可能であるため、部分的にハードコート剤の塗布量を変更して付着させることができる。
【0068】
なお、本実施例では、印刷装置によって印刷されたハードコート剤の溶媒を揮発させる揮発工程が行われることで、レンズ8にハードコート層を形成する際に、レンズ8がハードコート剤に含まれる溶媒によって侵襲されることを抑制することができる。
【0069】
本実施例において、例えば、印刷装置として、インジェクトプリンタ11を用いる場合を例に挙げて説明する。この場合、例えば、本実施形態において、インクジェットプリンタ11による印刷によって、基体2に対しハードコート剤が塗布される。本実施例において、例えば、インジェクトプリンタ11は、装着部14と、インクジェットヘッド15と、制御手段(制御部)16と、を備える。もちろん、インジェクトプリンタ11としては、上記構成に限定されない。
【0070】
例えば、装着部14は、ハードコート剤をインジェクトプリンタ11で吐出できる特性に調整(例えば、溶媒の量を調整等)した後、ハードコート剤の容器(例えば、後述するカートリッジ13等)を装着する。例えば、インクジェットヘッド15は、装着部14にされたハードコート剤の容器からハードコート剤を基体2に向けて吐出する。これによって、基体2にハードコート剤を印刷する。例えば、制御部16は、インクジェットヘッド15の駆動を制御して、ハードコート剤をインクジェットヘッド15から吐出させる。
【0071】
例えば、このインクジェットプリンタ11を使用して所望の膜厚となるようにハードコート層を形成するためのハードコート剤をプリントさせるために、パーソナルコンピュータ12(以下PCという)を使用して、プリントされるハードコート剤の量の調製を行う。例えば、ハードコート剤の量の調製は、PC12に用意されているドローソフト等により行うため、所望する膜厚のハードコート層を形成するために必要なハードコート剤の量をPC12内に保存しておくことができ、必要になったときに何度でも同じハードコート剤の量が得られるようになっている。また、例えば、印刷によって、部分的にハードコート剤の量を変更することもできる。つまり、例えば、基体2上に印刷するハードコート剤の量を部分的に変更することができる。これによって、レンズ8上において、部分的に膜厚の異なるハードコート層を形成することができる。
【0072】
例えば、ハードコート剤を印刷装置によって印刷する基体2には、紙、金属板(例えば、アルミ、鉄、銅、等)、ガラス、等を用いる構成が挙げられる。以下の説明においては、基体2は、金属を例に挙げて説明する。また、本実施例においては、例えば、基体2は、シート状の基体が用いられる。
【0073】
例えば、金属製の基体は熱電導率が他の材料の基体(例えば、紙、樹脂等)よりも高いため、ハードコート剤を効率よく蒸発させやすい。また、例えば、金属製の基体を用いることで、ハードコート剤の蒸発を完了させる前に基体が破損してしまう可能性を抑制することができる。また、例えば、金属製の基体を用いることで、不純物の影響をより抑制することができ、より良好なハードコート付き樹脂体を製造することができる。また、例えば、金属製の基体を用いた場合に、ハードコート剤が基体に入り込みづらいため、より容易にハードコート剤を蒸発させることが可能となる。
【0074】
また、以下の説明においては、印刷装置は、インジェクトプリンタ11を例に挙げて説明する。例えば、インジェクトプリンタ11に基体2を入れ、PC12の操作により、レンズ8に予め設定しておいた膜厚のハードコート膜が形成できるように印刷を行う。
【0075】
なお、本実施例において、付着部10における印刷装置として、インクジェットプリンタ11を用いる構成を例に挙げて説明したがこれに限定されない。印刷装置としては、レーザープリンタを用いて、印刷をすることで、ハードコート剤を基体2に付着させる構成としてもよい。
【0076】
なお、本実施例においては、付着部10として印刷装置を用いてハードコート剤を基体2に付着させる構成を例に挙げたがこれに限定されない。例えば、付着部10は、基体2にハードコート剤を付着させることができる構成であればよい。例えば、付着部10は、ディスペンサー(液体定量塗布装置)、ローラ等を駆動することでインクを基体2に付着させてもよい。また、例えば、付着部10を用いずに、作業者によって、筆、ローラ、又はスプレー等を用いて、等を用いてハードコート剤を基体2に付着させてもよい。
【0077】
例えば、第一工程後に、揮発部60内にて、揮発工程を実施する。例えば、揮発部60は、機能付加用基体1におけるハードコート剤部6から溶媒の少なくとも一部を揮発させる。本実施例において、例えば、揮発部60としては、オーブンが用いられる。例えば、揮発部60によって、機能付加用基体1に付着されたハードコート剤部6が加熱されることで、ハードコート剤部6のハードコート剤に含まれる溶媒の少なくとも一部が蒸発される。この結果、ハードコート剤に含まれる溶媒の少なくとも一部が揮発された機能付加用基体1が取得される。
【0078】
例えば、揮発部60としてオーブンを用いる場合、揮発部60内で、機能付加用基体1を70℃で1分間程度加熱することによって、ハードコート剤の溶媒の少なくとも一部を揮発させる。もちろん、オーブンを用いる場合の温度と時間については、上記に限定されるものではない。なお、例えば、揮発部としては、上記構成に限定されず、ハードコート剤の溶媒の少なくとも一部を揮発可能な構成であればよい。
【0079】
これによって、揮発された機能付加用基体1を用いて第二工程を実施することができるため、第二工程においてハードコート剤に含まれる溶媒が蒸発して、レンズ8に付着することを抑制することができる。例えば、レンズ8に溶媒が付着することを抑制することができるため、溶媒がレンズ8を侵襲してしまうことを抑制することができる。これによって、レンズ8の品質を低下させることを抑制することができる。
【0080】
なお、本実施例においては、揮発工程を実施する場合を例に挙げているが、揮発工程を実施しなくてもよい。この場合、第一工程が実施された後、第二工程が実施される。
【0081】
本実施例において、上記のように、第一工程によって取得された機能付加用基体1は、揮発工程を経て、第二工程にて用いられる。例えば、第二工程は、第一工程によって取得された機能付加用基体1を樹脂体(本実施形態においては、レンズ8)と対向させ、機能付加用基体1を加熱することによって、機能付加用基体1に塗布されたハードコート剤を蒸発させ、ハードコート剤をレンズ8に付着させる工程である。例えば、第二工程において、蒸発部30が用いられる。
【0082】
例えば、蒸発部30は、機能付加用基体1に付着されたハードコート剤を電磁波によって加熱することで、ハードコート剤をレンズ8に向けて蒸発させる。その結果、ハードコート剤がレンズ8に蒸着される。例えば、本実施例の蒸発部30は、電磁波発生部31、蒸着用治具32、ポンプ36、およびバルブ37を備える。もちろん、蒸発部30の構成は上記構成に限定されない。
【0083】
例えば、電磁波発生部31は、電磁波を発生させる。一例として、本実施例では、赤外線を発生させるハロゲンランプが電磁波発生部31として使用されている。しかし、電磁波発生部31は、電磁波を発生させるものであればよい。従って、ハロゲンランプの代わりに、紫外線、マイクロ波等の他の波長の電磁波を発生させる構成を使用してもよい。例えば、蒸発部30は、電磁波を機能付加用基体1に照射することで、短時間でハードコート剤の温度を上昇させることができる。また、機能付加用基体1のハードコート剤を昇華させる場合、高熱となった鉄板等を機能付加用基体1に接触させることでハードコート剤を加熱することも考えられる。しかし、機能付加用基体1と鉄板等とを均一に(例えば、隙間無く)接触させることは難しい。接触状態が均一でなければ、ハードコート剤が均一に加熱されずにハードコート剤の付着ムラ等が生じる可能性がある。これに対し、本実施例の蒸発部30は、機能付加用基体1から離間した電磁波発生部31からの電磁波によって、ハードコート剤を均一に加熱させることができる。
【0084】
例えば、蒸着用治具32は、機能付加用基体1とレンズ8を保持する。本実施例の蒸着用治具32は、レンズ支持部33および基体支持部34を備える。レンズ支持部33は、円筒状の基部と、基部の内側に配置された載置台とを備える。レンズ8は、基部に囲まれた状態で、レンズ支持部33の載置台によって支持される。基体支持部34は、円筒状の基部の上端に位置し、レンズ8よりも上方で機能付加用基体1を支持する。詳細は図示しないが、機能付加用基体1の外周縁部が基体支持部34上に載置されると、環状の基体押さえ部材が機能付加用基体1の外周縁部の上から載置される。その結果、機能付加用基体1の位置が固定される。
【0085】
例えば、機能付加用基体1は、ハードコート剤が付着した面がレンズ8に対向するように配置される。本実施形態では、レンズ8の上方で機能付加用基体1が支持されるので、機能付加用基体1は、ハードコート剤部6の付着面が下方を向くように基体支持部34に載置される。
【0086】
例えば、機能付加用基体1とレンズ8とを対向させる場合に、非接触(例えば、2mm~30mm等)で対向させるようにしてもよい。この場合、例えば、第二工程は、第一工程によって取得された機能付加用基体1をレンズ8と非接触に対向させ、機能付加用基体1を加熱することによって、機能付加用基体1に塗布されたハードコート剤を蒸発させ、ハードコート剤をレンズ8に付着させるようにしてもよい。
【0087】
例えば、非接触に対向させることによって、ハードコート剤を蒸発させるために基体を加熱した際の熱が樹脂体に伝導されてしまうことを抑制することができる。これによって、樹脂体が熱によって、変色、収縮等をしてしまうことを抑制することができる。また、例えば、非接触に対向させることによって、機能付加用基体と樹脂体との間の距離が生じるため、樹脂体に対してハードコート剤を十分に分散させて付着させることができる。これによって、ハードコート剤の付着ムラを抑制することができ、所望の膜厚のハードコート膜の形成を良好に行うことができる。また、特に、基体に部分的にハードコート剤の量が変更されて塗布されている場合には、部分的に膜厚の異なるハードコート膜を樹脂体に好適に形成することができる。もちろん、例えば、機能付加用基体1とレンズ8とを対向させる場合に、接触させた状態で対向させるようにしてもよい。
【0088】
例えば、ポンプ36は、蒸発部30の内部の気体を外部に排出し、蒸発部30の内部の気圧を低下させる。すなわち、例えば、ポンプ36は、蒸発部30の内部の気体を外部に排出し、蒸発部30の内部を所定の真空度にさせる。
【0089】
例えば、第二工程において、レンズ8を蒸発部30内に入れてハードコート剤の付着を行う場合、ポンプ36により蒸発部30内を所定の真空度にして付着作業を行う。なお、例えば、本実施例では蒸発部30内を所定の真空状態にするものとしているが、これに限るものではなく、蒸発部30の内を常圧下において付着作業を行うことも可能である。
【0090】
例えば、ポンプ36は、蒸発部30の内部の気体を外部に排出し、蒸発部30の内部の気圧を低下させる。例えば、蒸発時における蒸発部30の内部の気圧は、0.01kPa~5kPa、より好ましくは、0.05kPa~3kPa程度としてもよい。すなわち、例えば、ポンプ36は、蒸発部30内をほぼ真空にさせるために使用することができる。例えば、バルブ37は、蒸発部30の内部空間の開放および閉鎖を切り替える。すなわち、例えば、バルブ37は、このバルブ37を開くことで、ポンプ36によって、ほぼ真空になった蒸発部30内に外気を入れ、大気圧に戻す際に用いることができる。
【0091】
例えば、真空状態後、電磁波発生部31を使用して上方から機能付加用基体1を加熱させ、ハードコート剤を蒸発させる。例えば、加熱温度は機能付加用基体1上で100℃を下回ると機能付加用基体1からハードコート剤が蒸発し難くなり、また、例えば、500℃を上回ると高温によるハードコート剤の変質やレンズ8の変形が生じ易くなる。従って、加熱温度は100℃~500℃の間が良いが、レンズ8の材料に合わせてできるだけ高い温度を選ぶようにするとよい。
【0092】
例えば、第二工程が完了すると、第三工程が行われる。以下、第三工程について説明する。例えば、第三工程では、第二工程にてレンズ8に付着したハードコート剤を硬化して、レンズ8にハードコート膜を形成させる。例えば、本実施例においては、第三工程として、紫外線を照射することによって、ハードコート剤を硬化する工程である場合を例に挙げて説明する。
【0093】
例えば、硬化部50は、ハードコート剤が蒸着されたレンズ8に対して、紫外線を照射することで、ハードコート剤を硬化させて、レンズ8にハードコート膜を形成させる。
例えば、硬化部50は、紫外線ランプ51と、載置台52と、を備える。例えば、載置台52には、ハードコート剤が付着されたレンズ8が載置される。例えば、紫外線ランプ52は、紫外線を照射する。例えば、紫外線ランプ52から載置台52に載置されたレンズ8に向けて紫外線が照射される。
【0094】
例えば、レンズ8に紫外線が照射されることで、レンズ8に付着されたハードコート剤が反応を開始する。例えば、本実施例におけるハードコート剤には、ハードコート剤に光反応開始剤として、光重合開始剤が含まれている。このため、例えば、レンズ8に紫外線が照射されることで、レンズ8に付着されたハードコート剤に紫外線が照射され、レンズ8の光重合開始剤が反応をして、ハードコート剤の重合反応が開始される。これによって、レンズ8に付着されたハードコート剤が硬化し、レンズ8上にハードコート膜が形成される。
【0095】
なお、例えば、第三工程を実施する場合に、常圧下にて紫外線を照射し、ハードコート剤を定着させるようにしてもよい。もちろん、異なる気圧下で第三工程が実施されるようにしてもよい。例えば、加工者は、蒸発部30内でレンズ8に対してハードコート剤の付着を行った後、ハードコート剤が付着されたレンズ8を取り出す。例えば、加工者はレンズ8を硬化部50に入れ、常圧下にて、紫外線を照射しハードコート剤を硬化させる。
【0096】
例えば、紫外線ランプによる紫外線の積算光量としては、100~6000mJ/cm、より好ましくは、200~4000mJ/cmであってもよい。もちろん、紫外線の積算光量としては、上記の積算光量に限定されない。例えば、紫外線の積算光量としては、ハードコート剤の硬化が可能な積算光量であればよい。
【0097】
以上のように、例えば、本実施例におけるハードコート付き樹脂体の製造方法は、ハードコート剤を基体に塗布することで、機能付加用基体を取得する第一工程と、第一工程によって取得された機能付加用基体を樹脂体と対向させ、機能付加用基体を加熱することによって、機能付加用基体に塗布されたハードコート剤を蒸発させ、ハードコート剤を前記樹脂体に付着させる第二工程と、第二工程によってハードコート剤が付着された樹脂体におけるハードコート剤を硬化させる第三工程と、を有する。これによって、例えば、ハードコート剤を昇華させて、樹脂体に付着させ、ハードコート剤を定着させることで、樹脂体にハードコート層を容易に付加することができる。また、例えば、ハードコート剤を無駄なく使用することができるため、従来の製造方法に対して、ハードコート剤の廃液を少なくすることができる。
【0098】
また、例えば、第三工程は、ハードコート剤が付着された樹脂体に、紫外線の照射を少なくとも実施することによって、第二工程によってハードコート剤が付着された樹脂体におけるハードコート剤を硬化させるようにしてもよい。これによって、例えば、紫外線の照射にてハードコート剤を硬化させることによって、ハードコート剤をより短時間で硬化させることができる。また、例えば、紫外線の照射にてハードコート剤を硬化させることによって、熱によって硬化させる場合に対して、樹脂体の材料に応じた変形を抑制することができ、種々の材料の樹脂体に対して容易にハードコート剤の硬化を実施することができる。
【0099】
なお、本実施例において、ハードコート剤部6の形状(印刷形状)は、円形状としているが、これに限るものではなく、例えば半円形状やその他の形状(例えば、四角形状)であってもよい。
【0100】
なお、本実施例において、機能付加用基体1の加熱方法は上方から行っている場合を例に挙げているが、これに限定されない。例えば、機能付加用基体1の加熱方法は、側面又は下方からの加熱においても同じようにハードコート剤の蒸発をさせることができる。
【0101】
以下、本実験例及び比較例を示して本開示を具体的に説明するが、本開示は、下記実験例に制限されるものではない。以下の実験例1~26では、1~6官能基の樹脂を含むハードコート剤を用いて、本開示の製造方法によってハードコート膜(ハードコート層)を樹脂体に形成し、ハードコート膜が均一に形成されているかどうかと、ハードコート剤に含まれる溶媒による樹脂体の侵襲状態、について確認した。また、実験例27~28では、ハードコート剤に含まれる溶媒を樹脂体を侵襲しやすい溶媒とするとともに、侵襲の影響を受けやすい樹脂体を用いて、本開示の製造方法によってハードコート膜を樹脂体に形成し、ハードコート膜が均一に形成されているかどうかと、ハードコート剤に含まれる溶媒による樹脂体の侵襲状態、について確認した。
【0102】
また、比較例1~2では、実験例27~28の樹脂体を侵襲しやすい溶媒及び侵襲の影響を受けやすい樹脂体を用いて樹脂体にハードコート膜を形成する方法と、比較するために、樹脂体を侵襲しやすい溶媒及び侵襲の影響を受けやすい樹脂体を用いて、従来方法(本比較例ではスピンコート)によって、樹脂体にハードコート膜を形成し、ハードコート膜が均一に形成されているかどうかと、ハードコート剤に含まれる溶媒による樹脂体の侵襲状態について確認した。
【0103】
<実験例1>
樹脂としてA-SA(2-アクリロイルオキシエチルコハク酸)(新中村化学工業株式会社製)5gに、光重合開始剤としてIrg184(イルガキュアー184)(BASFジャパン株式会社製)0.20g、溶媒(溶剤)としてPGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)(太陽化学株式会社製)5.20gを加え、攪拌し、ハードコート剤(ハードコート樹脂組成物)を作製し、ろ過した。
【0104】
次いで、作製したハードコート剤を、裏面が黒色のアルミ基体(東洋アルミエコープロダクツ株式会社製)にバーコーターを用いて塗布して機能付加用基体を作製した。次いで、機能付加用基体におけるハードコート剤の溶媒を揮発させるため、オーブンにて70℃で1分間機能付加用基体を加熱した。
【0105】
蒸発部(ニデック製 TTM-1000)内にて転写用治具に機能付加用基体を取り付けて、ポリカーボネート(PC)レンズ(S-0.00)へのハードコート液の蒸発作業を行った。この時の条件は、PCレンズの塗布面側と機能付加用基体との距離を5mmとした。真空ポンプにて蒸発部内の気圧を100Pa以下まで下げた後、加熱ユニット(本実験例ではハロゲンランプを使用)にて機能付加用基体の表面温度を200℃まで加熱させた。なお、この時の条件は、図示なき温度センサにより機能付加用基体の付近の温度を測定し、200℃まで加熱されたことを確認し、ハードコート剤を蒸発させ、PCレンズに付着させた。その後、蒸発部内の気圧を常圧に戻した後、空気雰囲気下、高圧水銀灯を用いて約1000mJ/cmの紫外線を照射し、ハードコート層を形成した
[膜形成評価]
ハードコート膜が形成された樹脂体(実験例1ではPCレンズ)について、樹脂体の中心と樹脂体の四隅(樹脂体中心から左上隅の領域、樹脂体中心から右上隅の領域、樹脂体中心から左下隅の領域、樹脂体中心から右上隅の領域)の5つの位置のそれぞれにハードコート膜が形成されているかを分光光度計USPM-RU(オリンパス社製)によって膜厚を測定することで確認した。膜厚が測定できた位置については、膜が形成していたとみなした。
樹脂体の5つの測定位置で膜厚が計測できた(膜が形成されていた):○
樹脂体の5つの測定位置で膜厚が計測できない位置があった:×
[膜厚評価]
ハードコート膜が形成された樹脂体について、樹脂体の中心と樹脂体の四隅(樹脂体中心から左上隅の領域、樹脂体中心から右上隅の領域、樹脂体中心から左下隅の領域、樹脂体中心から右上隅の領域)の5つの位置のそれぞれのハードコート膜の膜厚を分光光度計USPM-RUによって測定した。5つの位置で測定された膜厚において、最大値と最小値の差分(膜厚差)を算出した。
差分(膜厚差)が1μm以下である:○
差分(膜厚差)が1μmより大きい:×
[侵襲性評価]
ハードコート膜が形成された樹脂体について、樹脂体が侵襲されているか否かを目視にて確認した。
樹脂体への侵襲が確認できなかった:○
樹脂体への侵襲が確認できた:×
【0106】
<実験例2>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0107】
<実験例3>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりに702A(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート)(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0108】
<実験例4>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例3と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0109】
<実験例5>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにAPG-400(ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート)(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0110】
<実験例6>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例5と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0111】
<実験例7>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにUA-31F(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0112】
<実験例8>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例7と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0113】
<実験例9>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにA-TMPT-3EO(エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート)(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0114】
<実験例10>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例9と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0115】
<実験例11>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにA-TMPT(トリメチロールプロパントリアクリレート)(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0116】
<実験例12>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例11と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0117】
<実験例13>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにUAー7100(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0118】
<実験例14>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例13と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0119】
<実験例15>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにA-TMMT(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0120】
<実験例16>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例15と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0121】
<実験例17>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにAD-TMP(ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0122】
<実験例18>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例17と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0123】
<実験例19>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにAー9550(ジペンタエリスリトールポリアクリレート)(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0124】
<実験例20>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例19と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0125】
<実験例21>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにU-6LPA(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0126】
<実験例22>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例21と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0127】
<実験例23>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにUA-1100H(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0128】
<実験例24>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例23と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0129】
<実験例25>
ハードコート剤の樹脂としてA-SAの代わりにUA-33H(新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は、実験例1と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0130】
<実験例26>
PCレンズの代わりにPMMA(アクリル樹脂)基材(平板)を用いた以外は、実験例25と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0131】
<実験例27>
溶媒としてPGMの代わりに、レンズへの侵襲性の高い溶媒であるMIBK(メチルイソブチルケトン)(キシダ化学株式会社製)を用いた以外は、実験例9と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。
【0132】
<実験例28>
溶媒としてPGMの代わりに、レンズへの侵襲性の高い溶媒であるMEK(メチルエチルケトン)(キシダ化学株式会社製)を用いた以外は、実験例9と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。
【0133】
<比較例1>
溶媒としてPGMの代わりに、レンズへの侵襲性の高い溶媒であるMIBKを用いるとともに、ハードコート付き樹脂体の製造方法の方法として、従来技術であるスピンコーティング法によってハードコート膜を形成した以外は、実験例9と同様に、ハードコート膜を形成し、評価した。スピンコーティング法では、レンズにスピンコーターを用いて、ハードコート剤を塗工し、これを空気雰囲気下、高圧水銀灯を用いて約1000mJ/cmの紫外線を照射し、ハードコート層を形成した。以上の結果を表2に示した。なお、比較例においても、評価は実験例1と同様の評価基準とした。
【0134】
<比較例2>
MIBKの代わりに、レンズへの侵襲性の高い溶媒であるMEKを用いた以外は、比較例1と同様に、スピンコーティング法でハードコート膜を形成し、評価した。以上の結果を表2に示した。
【0135】
【表1】
【0136】
表1に示すように、本開示のハードコート付き樹脂体の製造方法(気相転写法)によって、樹脂体(実験例ではレンズ)にハードコート層を容易に形成することができることが確認された。また、侵襲されやすい材料の樹脂体及び樹脂体を侵襲性しやすい溶媒を用いてハードコート膜を形成した場合であっても、溶媒が樹脂体を侵襲してしまうことを抑制することができることが確認された。
【0137】
【表2】
【0138】
表2に示すように、侵襲されやすい材料の樹脂体及び樹脂体を侵襲性しやすい溶媒を用いて、従来技術であるスピンコーティング法によってハードコート膜を形成した場合には、樹脂体が侵襲されてしまうことが確認された。また、膜厚にばらつきがみられることが確認された。
【符号の説明】
【0139】
1 機能付加用基体
2 基体
8 レンズ
10 ハードコート剤付着部
11 インクジェットプリンタ
12 パーソナルコンピュータ
13 カートリッジ
14 装着部
15 インクジェットヘッド
16 制御部
30 蒸発部
50 ハードコート剤硬化部
60 揮発部
100 ハードコート付き樹脂体の製造システム
図1
図2