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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】マルチピースソリッドゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
A63B37/00 654
A63B37/00 618
A63B37/00 644
A63B37/00 538
A63B37/00 214
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019081161
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020175021
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 英郎
【審査官】早川 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-101256(JP,A)
【文献】特表2013-521870(JP,A)
【文献】特開2013-248298(JP,A)
【文献】特開2017-046930(JP,A)
【文献】特開2013-126543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア、中間層及びカバーを具備するマルチピースソリッドゴルフボールであって、上記コアはゴム組成物により形成され、上記コアの中心硬度がショアC硬度で40~50であり、上記コアの表面硬度がショアC硬度で66~76であると共に、上記カバーはポリウレタン材料を主材として形成されるものであり、ボールの表面硬度(ショアC硬度)と、コアを中間層で被覆した球体(中間層被覆球体)の表面硬度との関係が、下記式
ボールの表面硬度(ショアC硬度)≦中間層被覆球体の表面硬度(ショアC硬度)
を満たすものであり、且つ、ドライバーを用いた打撃試験(ヘッドスピード40m/s)において、ドライバーとゴルフボールとの接触開始から該ゴルフボールの変形量が最も大きくなるまでに要する時間(t1)と、上記ゴルフボールの変形量が最も大きくなった状態から該ゴルフボールと上記ドライバーのクラブフェースとが離間するまでに要する時間(t2)との合計(t1+t2)が、705μsec以上であり、上記時間(t1)と上記時間(t2)の比(t2/t1)が、1.35以上であり、更には、コアの、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)が4.5mm以上であり、ゴルフボールの、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでのたわみ(mm)が3.8mm以上であることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項2】
上記コアの中心と表面との硬度差(Cs-Cc)が、ショアC硬度で20以上である請求項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項3】
上記コアの硬度分布において、コアの中心のショアC硬度をCc、コアの表面のショアC硬度をCs、コアの中心と表面との中点MのショアC硬度をCM、中点Mからコア表面側に2.5mm、5.0mm及び7.5mmの位置のショアC硬度をそれぞれ、CM+2.5、CM+5.0及びCM+7.5とし、中点Mからコア中心側に2.5mm、5.0mm及び7.5mmの位置のショアC硬度をそれぞれ、CM-2.5、CM-5.0及びCM-7.5としたとき、下記の面積A~F
・面積A:1/2×2.5×(CM-5.0-CM-7.5)、
・面積B:1/2×2.5×(CM-2.5-CM-5.0)、
・面積C:1/2×2.5×(CM-CM-2.5)、
・面積D:1/2×2.5×(CM+2.5-CM)、
・面積E:1/2×2.5×(CM+5-CM+2.5)、及び
・面積F:1/2×2.5×(CM+7.5-CM+5
について、(面積D+面積E+面積F)-(面積A+面積B+面積C)>0 を満たす請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項4】
上記コア硬度分布の面積A~Fについて、(面積D+面積E)-(面積A+面積B+面積C)≧0 を満たす請求項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項5】
上記コア硬度分布の面積A~Fについて、0<〔(面積D+面積E+面積F)-(面積A+面積B+面積C)〕/(Cs-Cc)≦0.60 を満たす請求項3又は4記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項6】
上記カバー表面には塗膜層が形成され、該塗膜層のショアC硬度が40~80である請求項1~のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項7】
上記カバーの材料硬度(ショアC硬度)から上記塗膜層のショアC硬度を引いた値が-20以上30以下である請求項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項8】
コアの、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)をA、ゴルフボールの、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでのたわみ(mm)をBとするとき、B/Aの値が0.60以上0.81以下である請求項1~のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア、中間層及びカバーを具備するゴルフボールであって、ヘッドスピードの速くないアマチュアユーザー向けのゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールに要求される主な性能としては、飛距離、コントロール性、耐久性、打感(フィーリング)等があり、常に最高のものが求められている。このような中、近年のゴルフボールでは、3ピースに代表される多層構造ボールが次々と生み出されている。ゴルフボールの構造を多層化したことにより、異なる特性の材料を多く組み合わせることができるようになり、各層に機能を分担させることで、多種多様なボール設計が可能になった。
【0003】
中でも、コアを被覆する中間層やカバー(最外層)の各層の硬度関係を適正化した機能的なマルチピースソリッドゴルフボールが普及している。例えば、コア、中間層及びカバーを有する少なくとも3層以上のゴルフボールであって、コアの直径、中間層及びカバーの厚さや、コアの所定荷重負荷時のたわみ量や各層の硬度等の設計に着目したゴルフボールとして、例えば、特開2011-120898号公報、特開2016-112308号公報、特開2017-183号公報、特開2017-470号公報及び特開2018-512951号公報、更には、米国特許出願公開第2017-0203160号明細書に記載されたゴルフボールの発明が存在する。
【0004】
しかしながら、上記提案のゴルフボールでは、ヘッドスピードの速くないゴルフユーザーにおける飛距離を未だ十分に満足させるものではなかった。また、上記提案のゴルフボールの中には、アプローチした際のボールにかかるスピン量が十分に大きいものではなく、ショートゲーム性に優位なボールでないものもある。更には、ドライバー打撃時のボールの打感が良好ではないものがあり、ゴルフボールに要求される主な性能の全てについてヘッドスピードの速くないゴルファーが必ずしも満足し得るものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-120898号公報
【文献】特開2016-112308号公報
【文献】特開2017-183号公報
【文献】特開2017-470号公報
【文献】特開2018-512951号公報
【文献】米国特許出願公開第2017-0203160号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ヘッドスピードの速くないアマチュアユーザーに対してドライバー(W#1)と(ミドル・ロング)アイアンともに飛距離が優位であり、アプローチした際のボールのスピン量が大きくショートゲーム性に優位であり、且つ、打感がソフトで心地よいフィーリングを与えるゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、コア、中間層及びカバーを具備するマルチピースソリッドゴルフボールについて、上記コアの材料としてゴム組成物を採用するとともに上記カバーの樹脂材料としてポリウレタン材料を採用し、ボールの表面硬度(ショアC硬度)と、コアを中間層で被覆した球体(中間層被覆球体)の表面硬度との関係が、下記式
ボールの表面硬度(ショアC硬度)≦中間層被覆球体の表面硬度(ショアC硬度)
を満たすこと、更には、ドライバーを用いた打撃試験(ヘッドスピード40m/s)において、ドライバーとゴルフボールとの接触開始から該ゴルフボールの変形量が最も大きくなるまでに要する時間(t1)と、上記ゴルフボールの変形量が最も大きくなった状態から該ゴルフボールと上記ドライバーのクラブフェースとが離間するまでに要する時間(t2)との合計(t1+t2)が、705μsec以上であるようにゴルフボールを作製したところ、このゴルフボールをヘッドスピードが速くないゴルファーがドライバー(W#1)及び6番アイアン(ミドル/ロングアイアン)で打撃すると良好な飛び性能が得られるとともに、アプローチショット時においてボールにスピンをかけやすく、ショートゲーム性に優位であり、ソフトで心地のよい打感が得られること、更には耐傷付き性をも具備したゴルフボールであることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は、下記のマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
1.コア、中間層及びカバーを具備するマルチピースソリッドゴルフボールであって、上記コアはゴム組成物により形成され、上記コアの中心硬度がショアC硬度で40~50であり、上記コアの表面硬度がショアC硬度で66~76であると共に、上記カバーはポリウレタン材料を主材として形成されるものであり、ボールの表面硬度(ショアC硬度)と、コアを中間層で被覆した球体(中間層被覆球体)の表面硬度との関係が、下記式
ボールの表面硬度(ショアC硬度)≦中間層被覆球体の表面硬度(ショアC硬度)
を満たすものであり、且つ、ドライバーを用いた打撃試験(ヘッドスピード40m/s)において、ドライバーとゴルフボールとの接触開始から該ゴルフボールの変形量が最も大きくなるまでに要する時間(t1)と、上記ゴルフボールの変形量が最も大きくなった状態から該ゴルフボールと上記ドライバーのクラブフェースとが離間するまでに要する時間(t2)との合計(t1+t2)が、705μsec以上であり、上記時間(t1)と上記時間(t2)の比(t2/t1)が、1.35以上であり、更には、コアの、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)が4.5mm以上であり、ゴルフボールの、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでのたわみ(mm)が3.8mm以上であることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
.上記コアの中心と表面との硬度差(Cs-Cc)が、ショアC硬度で20以上である上記記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
.上記コアの硬度分布において、コアの中心のショアC硬度をCc、コアの表面のショアC硬度をCs、コアの中心と表面との中点MのショアC硬度をCM、中点Mからコア表面側に2.5mm、5.0mm及び7.5mmの位置のショアC硬度をそれぞれ、CM+2.5、CM+5.0及びCM+7.5とし、中点Mからコア中心側に2.5mm、5.0mm及び7.5mmの位置のショアC硬度をそれぞれ、CM-2.5、CM-5.0及びCM-7.5としたとき、下記の面積A~F
・面積A:1/2×2.5×(CM-5.0-CM-7.5)、
・面積B:1/2×2.5×(CM-2.5-CM-5.0)、
・面積C:1/2×2.5×(CM-CM-2.5)、
・面積D:1/2×2.5×(CM+2.5-CM)、
・面積E:1/2×2.5×(CM+5-CM+2.5)、及び
・面積F:1/2×2.5×(CM+7.5-CM+5
について、(面積D+面積E+面積F)-(面積A+面積B+面積C)>0 を満たす上記1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
.上記コア硬度分布の面積A~Fについて、(面積D+面積E)-(面積A+面積B+面積C)≧0 を満たす上記記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
.上記コア硬度分布の面積A~Fについて、0<〔(面積D+面積E+面積F)-(面積A+面積B+面積C)〕/(Cs-Cc)≦0.60 を満たす上記3又は4記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
6.上記カバー表面には塗膜層が形成され、該塗膜層のショアC硬度が40~80である上記1~のいずれかに記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
.上記カバーの材料硬度(ショアC硬度)から上記塗膜層のショアC硬度を引いた値が-20以上30以下である上記記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
.コアの、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)をA、ゴルフボールの、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでのたわみ(mm)をBとするとき、B/Aの値が0.60以上0.81以下である上記1~のいずれかに記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴルフボールは、ヘッドスピードがそれほど速くないゴルファーが打撃した時の飛び性能に優れるとともに、アプローチショット時にボールにスピンをかけやすくなり、ショートゲーム性に優位であり、且つ、ソフトで心地のよい打感を有するものであり、アマチュアユーザー向けのゴルフボールとして好適である。更に、本発明のゴルフボールはボールの傷が付き難く、長期間使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施例を示したゴルフボールの概略断面図である。
図2】コア硬度分布の面積A~Fを説明するために、実施例1のコア硬度分布データを用いて説明した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、コア、中間層及びカバーを具備するものである。例えば、図1に示すように、コア1と、該コア1を被覆する中間層2と、該中間層を被覆するカバー3を有しているマルチピースソリッドゴルフボールGが挙げられる。なお、上記カバー3は、塗膜層を除き、ゴルフボールの層構造での最外層に位置するものである。上記カバー(最外層)3の表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルDが多数形成される。また、カバー3の表面には、塗膜層4が形成される。
【0012】
コアの直径は、好ましくは37.1mm以上、より好ましくは37.7mm以上、更に好ましくは38.1mm以上であり、上限としては、好ましくは39.9mm以下、より好ましくは39.3mm以下、更に好ましくは38.7mm以下である。コアの直径が小さすぎると、ドライバー(W#1)打撃時にスピン量が多くなり、狙いの飛距離が得られなくなることがある。一方、コアの直径が大きすぎると、繰り返し打撃時の耐久性が悪くなり、または打感が悪くなることがある。
【0013】
コアに対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)は、特に制限はないが、好ましくは4.5mm以上、より好ましくは5.0mm以上、更に好ましくは5.3mm以上であり、上限値として、好ましくは7.0mm以下、より好ましくは6.5mm以下、更に好ましくは6.0mm以下である。上記コアのたわみ量が小さすぎる、即ち、コアが硬すぎると、ボールのスピン量が増えすぎて飛ばなくなったり、打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記コアのたわみ量が大きすぎる、即ち、コアが軟らかすぎると、反発性が低くなりすぎて飛ばなくなったり、打感が軟らかくなりすぎ、あるいは繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0014】
次に、上記コアの硬度分布について説明する。なお、以下に説明するコアの硬度はショアC硬度を意味する。このショアC硬度は、ASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計にて計測した硬度値である。
【0015】
上記コアの中心硬度(Cc)は、好ましくは40以上、より好ましくは42以上、さらに好ましくは44以上であり、その上限値は、好ましくは54以下、より好ましくは52以下、さらに好ましくは50以下である。この値が大きすぎると、打感が硬くなり、あるいはフルショットでスピン量が増えて狙いの飛距離が得られない場合がある。一方、上記値が小さすぎると、反発性が低くなり飛ばなくなり、あるいは繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0016】
上記コアの表面硬度(Cs)は、好ましくは66以上、より好ましくは68以上、さらに好ましくは70以上であり、その上限値は、好ましくは80以下、より好ましくは78以下、さらに好ましくは76以下である。これらの硬度を逸脱した場合、上記コアの中心硬度(Cc)で説明したのと同様の不利な結果を招くおそれがある。
【0017】
コアの表面硬度(Cs)とコアの中心硬度(Cc)との差は、好ましくは20以上、より好ましくは22以上、さらに好ましくは24以上であり、上限値として、好ましくは35以下、より好ましくは32以下、さらに好ましくは28以下である。この値が小さすぎると、ドライバーショットした時のボールの低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。上記値が大きすぎると、実打した時のボール初速が低くなり飛距離が出なくなり、あるいは繰り返し打撃した際の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0018】
上記コア硬度分布においては、コアの中心のショアC硬度をCc、コアの表面のショアC硬度をCs、コアの中心と表面との中点MのショアC硬度をCM、中点Mからコア表面側に2.5mm、5.0mm及び7.5mmの位置のショアC硬度をそれぞれ、CM+2.5、CM+5.0及びCM+7.5とし、中点Mからコア中心側に2.5mm、5.0mm及び7.5mmの位置のショアC硬度をそれぞれ、CM-2.5、CM-5.0及びCM-7.5としたとき、下記の式から計算される面積A~F
・面積A:1/2×2.5×(CM-5.0-CM-7.5)、
・面積B:1/2×2.5×(CM-2.5-CM-5.0)、
・面積C:1/2×2.5×(CM-CM-2.5)、
・面積D:1/2×2.5×(CM+2.5-CM)、
・面積E:1/2×2.5×(CM+5-CM+2.5)、及び
・面積F:1/2×2.5×(CM+7.5-CM+5
については、(面積D+面積E+面積F)-(面積A+面積B+面積C)の値が後述する特定範囲を満たすことが好適である。なお、図2には、実施例1のコア硬度分布データを用いて面積A~Fを説明した概略図を示す。このように面積A~Fは、各特定距離の差を底辺とし、各位置硬度の差を高さに持つ各三角形の面積である。
【0019】
上記の(面積D+面積E+面積F)-(面積A+面積B+面積C)の下限値として、0超であることが好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1以上である。この上限値は、特に制限はないが、20以下とすることが好ましく、より好ましくは15以下、さらに好ましくは7以下である。上記の値が小さすぎると、ドライバー(W#1)打撃時の低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。上記の値が大きすぎると、実打初速が低くなり飛距離が出なくなり、あるいは繰り返し打撃の際の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0020】
また、上記コア硬度分布においては、下記式
0≦〔(面積D+面積E+面積F)-(面積A+面積B+面積C)〕/(Cs-Cc)≦0.60
を満たすことが好適である。この値の下限値として、より好ましくは0.02以上、さらに好ましくは0.04以上である。一方、上記数式の上限値は、より好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.30以下である。上記の値が小さすぎると、ドライバー(W#1)打撃時の低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。上記の値が大きすぎると、実打初速が低くなり飛距離が出なくなり、または繰り返し打撃の際の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0021】
さらに、上記コア硬度分布においては、下記式
(面積D+面積E)-(面積A+面積B+面積C)≧0
を満たすことが好適であり、この値の下限値として、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.2以上である。一方、この値の上限値としては、好ましくは8.0以下、より好ましくは6.0以下、さらに好ましくは4.0以下である。上記の値が小さすぎると、ドライバー(W#1)打撃時の低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。上記の値が大きすぎると、実打初速が低くなり飛距離が出なくなったり、繰り返し打撃の際の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0022】
本発明におけるコアは、単層もしくは複数層のゴム組成物により形成される。このコア用のゴム組成物としては、具体的には、基材ゴムを主体とし、これに、共架橋剤、有機過酸化物、不活性充填剤、有機硫黄化合物等を配合させてゴム組成物を作成することができる。基材ゴムとしては、ポリブタジエンを用いることが好ましい。
【0023】
ポリブタジエンの種類としては、市販品を用いることができ、例えば、BR730、BR01、BR51、(JSR社製)などが挙げられる。また、基材ゴム中のポリブダジエンの割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上記基材ゴムには、上記ポリブタジエン以外にも他のゴム成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合し得る。上記ポリブタジエン以外のゴム成分としては、上記ポリブタジエン以外のポリブタジエン、その他のジエンゴム、例えばスチレンブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等を挙げることができる。
【0024】
共架橋剤としては、例えば不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の金属塩等が挙げられる。不飽和カルボン酸として具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。不飽和カルボン酸の金属塩としては特に限定されるものではないが、例えば上記不飽和カルボン酸を所望の金属イオンで中和したものが挙げられる。具体的にはメタクリル酸、アクリル酸等の亜鉛塩やマグネシウム塩等が挙げられ、特にアクリル酸亜鉛が好適に用いられる。
【0025】
上記不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩は、上記基材ゴム100質量部に対し、通常5質量部以上、好ましくは10質量部以上、更に好ましくは13質量部以上、上限として通常60質量部以下、好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下配合する。配合量が多すぎると、硬くなりすぎて耐え難い打感になる場合があり、配合量が少なすぎると、反発性が低下してしまう場合がある。
【0026】
上記有機過酸化物としては市販品を用いることができ、例えば、パークミルD(日本油脂(株)製)、パーヘキサC-40、パーヘキサ3M(日本油脂(株)製)、Luperco 231XL(アトケム社製)等を好適に用いることができる。これらは1種を単独であるいは2種以上を併用してもよい。有機過酸化物の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、最も好ましくは0.6質量部以上であり、上限として、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、最も好ましくは2.5質量部以下配合する。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると好適な打感、耐久性及び反発性を得ることができない場合がある。
【0027】
また、老化防止剤を配合することができ、例えば、市販品としてはノクラックNS-6、同NS-30(大内新興化学工業(株)製)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
老化防止剤の配合量は上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、特に好ましくは0.1質量部以上、上限として好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下、特に好ましくは1質量部以下、最も好ましくは0.5質量部以下とする。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると好適な反発性、耐久性を得ることができない場合がある。
【0029】
また、上記コアには、良好な反発性付与させるために、有機硫黄化合物を配合することができる。有機硫黄化合物としては、ゴルフボールの反発性を向上させ得るものであれば特に制限されないが、例えばチオフェノール類、チオナフトール類、ハロゲン化チオフェノール類又はそれらの金属塩等が挙げられる。より具体的には、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、パラクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩、ペンタフルオロチオフェノールの亜鉛塩、ペンタブロモチオフェノールの亜鉛塩、パラクロロチオフェノールの亜鉛塩、硫黄数が2~4のジフェニルポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド、ジベンゾイルポリスルフィド、ジベンゾチアゾイルポリスルフィド、ジチオベンゾイルポリスルフィド等が挙げられ、特に、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩が好適に用いられる。有機硫黄化合物の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、0質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上、上限として、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下であることが推奨される。配合量が多すぎると、反発性(特に、W#1による打撃)の改良効果がそれ以上期待できなくなり、コアが軟らかくなりすぎ、または打感が悪くなる場合がある。一方、配合量が少なすぎると、反発性の改善効果が期待できなくなる。
【0030】
さらに、上記コアのゴム組成物には、水を適量配合することができる。この水については、特に制限はなく、蒸留水であっても水道水であってもよいが、特には、不純物を含まない蒸留水を使用することが好適に採用される。水の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上配合することが好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であり、上限としては、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。
【0031】
上記の水を適量配合することにより、加硫前のゴム組成物における水分含有率が1000ppm以上となることが好ましく、より好ましくは1500ppm以上である。上限としては、好ましくは8500ppm以下であり、より好ましくは8000ppm以下である。上記ゴム組成物の水分含有率が小さすぎると、適切な架橋密度・Tan δを得ることが困難となり、エネルギーロスが少なく低スピン化を図ったゴルフボールを成形することが困難となる場合がある。上記ゴム組成物の水分含有率が大きすぎると、コアが軟らかくなりすぎてしまい、適切なコア初速を得ることが困難となる場合がある。
【0032】
上記ゴム組成物に水を直接配合することも可能ではあるが、下記の(i)~(iii)の方法を採用することができる。
(i)スチームや超音波によりミスト状の水をゴム組成物(配合材料)の全部または一部にあてる方法
(ii)ゴム組成物の全部または一部を水に浸漬させる方法
(iii)ゴム組成物の全部または一部を恒湿槽等の湿度管理可能な場所において高湿度環境下に一定時間放置する方法
なお、高湿度環境とはゴム組成物等を湿らせることができる環境であれば特に制限されるものではないが湿度40~100%であることが好ましい。
【0033】
そのほか、基材ゴムに配合される配合剤として、不活性充填剤が挙げられ、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。不活性充填剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、上限として好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは35質量部以下とする。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると適正な質量、及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
【0034】
上記コアは、上記各成分を含有するゴム組成物を加硫硬化させることにより製造することができる。例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形又は射出成型し、有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度として、100~200℃、好ましくは140~180℃、10~40分の条件にて成形体を適宜加熱することにより、該成形体を硬化させて製造することができる。
【0035】
上記コアは単層のみならず、内層コア及び外層コアの2層に形成することができる。コアを内層コア及び外層コアの2層に形成する場合、内層及び外層コアの材料としては、いずれも上述したゴム材を主材として用いることができる。また、内層コアを被覆する外層コアのゴム材は、内層コアの材料と同種であっても異種であってもよい。具体的には、上記コアのゴム材料の各成分で説明したのと同様である。
【0036】
次に、中間層について下記に説明する。
中間層の材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは54以上、より好ましくは58以上、さらに好ましくは62以上であり、上限値として、好ましくは72以下、より好ましくは69以下、さらに好ましくは66以下である。また、ショアC硬度では、好ましくは82以上、より好ましくは87以上、さらに好ましくは92以上であり、上限値として、好ましくは100以下、より好ましくは98以下、さらに好ましくは97以下である。
【0037】
コアを中間層で被覆した球体(中間層被覆球体)の表面硬度は、ショアD硬度で、好ましくは60以上、より好ましくは64以上、さらに好ましくは68以上であり、上限値としては、好ましくは78以下、より好ましくは75以下、さらに好ましくは72以下である。また、ショアC硬度では、好ましくは88以上、より好ましくは93以上、さらに好ましくは98以上であり、上限値として、好ましくは100以下、より好ましくは99以下である。
【0038】
これらの中間層の材料硬度及び表面硬度が上記範囲よりも軟らかすぎると、フルショット時のスピン量が増えすぎて飛距離が出なくなったり、ボールとしての初速が低くなりフルショット時に飛距離が出なくなることがある。上記の材料硬度及び表面硬度が硬すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなり、打感が悪くなることがある。
【0039】
中間層の厚さは、好ましくは0.9mm以上であり、より好ましくは1.1mm以上、さらに好ましくは1.2mm以上である。一方、中間層の厚さの上限値としては、好ましくは1.8mm以下、より好ましくは1.6mm以下、さらに好ましくは1.4mm以下である。この中間層が薄すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなり、またはアイアンでのフルショット時のボールのスピン量が増えて飛距離が出なくなることがある。また、中間層が厚すぎると、ボール初速が低くなり飛距離が出なくなり、或いは打感が悪くなることがある。
【0040】
中間層を形成する材料としては、ゴルフボールのカバー材で使用される各種の熱可塑性樹脂、特にアイオノマー樹脂や高中和樹脂材料を採用することが好適である。
【0041】
アイオノマー樹脂としては市販品を用いることができる。また、カバーの樹脂材料として、市販品のアイオノマー樹脂のうち酸含量18質量%以上の高酸含量アイオノマー樹脂を通常のアイオノマー樹脂にブレンドして用いることもできる。上記の高酸含量アイオノマー樹脂の配合量が多すぎると、繰り返し打撃耐久時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0042】
高中和樹脂材料としては、下記(A)~(D)成分、
(a-1)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(a-2)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0~0:100になるように配合した(A)ベース樹脂と、
(B)非アイオノマー熱可塑性エラストマーとを
質量比で100:0~50:50になるように配合した樹脂成分100質量部に対して、
(C)分子量が228~1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5~80質量部と、
(D)上記(A)成分及び(C)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物 0.1~17質量部
とを必須成分として配合してなる樹脂組成物を例示することができる。
【0043】
上記(A)~(D)成分については、例えば、特開2010-253268号公報に記載される中間層の樹脂材料(A)~(D)成分を好適に採用することができる。
【0044】
なお、上記中間層材料には、非アイオノマー熱可塑性エラストマーを配合することができる。非アイオノマー熱可塑性エラストマーの配合量は、上記ベース樹脂の合計量100質量部に対して、0~50質量部配合することが好適である。
【0045】
上記の非アイオノマー熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー(ポリオレフィン、メタロセンポリオレフィン含む)、ポリスチレン系エラストマー、ジエン系ポリマー、ポリアクリレート系ポリマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアセタールなどを挙げることができる。
【0046】
中間層材料には、任意の添加剤を用途に応じて適宜配合することができる。例えば、顔料,分散剤,老化防止剤,紫外線吸収剤,光安定剤などの各種添加剤を加えることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量としては、上記ベース樹脂の総和100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、上限として、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0047】
次に、カバーについて説明する。
カバーの材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは27以上、より好ましくは32以上、さらに好ましくは38以上であり、上限値として、好ましくは60以下、より好ましくは55以下、さらに好ましくは50以下である。ショアC硬度では、好ましくは46以上、より好ましくは53以上、さらに好ましくは61以上であり、上限値として、好ましくは89以下、より好ましくは83以下、さらに好ましくは76以下である。
【0048】
また、カバー表面硬度(ボール表面硬度とも言う。)は、ショアD硬度で、好ましくは33以上、より好ましくは40以上、さらに好ましくは55以上であり、上限値としては、好ましくは66以下、より好ましくは63以下、さらに好ましくは60以下である。ショアC硬度では、好ましくは54以上、より好ましくは63以上、さらに好ましくは83以上であり、上限値として、好ましくは97以下、より好ましくは93以下、さらに好ましくは89以下である。
【0049】
上記の材料硬度及び表面硬度が軟らかすぎると、ドライバー(W#1)やミドル/ロングアイアンなどのフルショット時にスピン量が増え、飛距離が出なくなることがある。一方、上記の材料硬度及び表面硬度が硬すぎると、カバーに傷がつきやすくなり、或いはアプローチ時にスピンがかからずショートゲーム性が劣ることがある。
【0050】
カバーの厚さは、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.7mm以上である。一方、カバーの厚さの上限値としては、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1.0mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下である。このカバーが薄すぎると、カバーを中間層に被覆する成型が難しくなり、生産性が低下したり、繰り返し打撃した時の耐久性が悪くなることがある。一方、カバーが厚過ぎると、フルショット時のスピン量が多くなり過ぎたり、ボールとしての反発が低くなり飛距離が出なくなることがある。
【0051】
上記カバーの材料としては、ゴルフボールのカバー材で使用される各種の熱可塑性樹脂を使用することができるが、アイオノマー樹脂などに比べて、傷の付き難さ及びスピン量が多くならず飛びに優位である点から、ウレタン樹脂を主材料として好適に使用することができる。特に、ボール製品の量産性の観点から、熱可塑性ポリウレタンを主体としたものを使用することが好適であり、より好ましくは、(I)熱可塑性ポリウレタン及び(II)ポリイソシアネート化合物を主成分とする樹脂配合物により形成することができる。
【0052】
上記の(I)成分と(II)成分とを合わせた合計質量が、カバーの樹脂組成物全量に対して、60%以上であることが推奨され、より好ましくは、70%以上である。上記(I)成分及び(II)成分については以下に詳述する。
【0053】
上記(I)熱可塑性ポリウレタンについて述べると、その熱可塑性ポリウレタンの構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、鎖延長剤およびポリイソシアネート化合物からなるハードセグメントとを含む。ここで、原料となる長鎖ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらの長鎖ポリオールは1種類のものを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、反発弾性率が高く低温特性に優れた熱可塑性ポリウレタンを合成できる点で、ポリエーテルポリオールが好ましい。
【0054】
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、例えば、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物であることが好ましい。鎖延長剤としては、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。鎖延長剤としては、これらのうちでも、炭素数2~12の脂肪族ジオールが好ましく、1,4-ブチレングリコールがより好ましい。
【0055】
ポリイソシアネート化合物としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-(又は)2,6-トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。本発明においては生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが最も好ましい。
【0056】
具体的な(I)成分の熱可塑性ポリウレタンとし、市販品を用いることもでき、例えば、パンデックスT8295,同T8290,同T8260(いずれもディーアイシーコベストロポリマー社製)などが挙げられる。
【0057】
必須成分ではないが、上記(I)及び(II)成分に、別の成分である(III)成分として、上記熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性エラストマーを配合することができる。この(III)成分を上記樹脂配合物に配合することにより、樹脂配合物の更なる流動性の向上や反発性、耐傷付き性等、ゴルフボールカバー材として要求される諸物性を高めることができる。
【0058】
上記(I)、(II)及び(III)成分の組成比については、特に制限はないが、本発明の効果を十分に有効に発揮させるためには、質量比で(I):(II):(III)=100:2~50:0~50であることが好ましく、さらに好ましくは、(I):(II):(III)=100:2~30:8~50(質量比)とすることである。
【0059】
さらに、上記の樹脂配合物には、必要に応じて、上記の熱可塑性ポリウレタンを構成する成分以外の種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤等を適宜配合することができる。
【0060】
上述したコア,中間層及びカバー(最外層)の各層を積層して形成されたマルチピースソリッドゴルフボールの製造方法については、公知の射出成形法等の常法により行なうことができる。例えば、コアの周囲に、中間層材料を射出して中間層被覆球体を得、次いで、カバーの材料を射出成形することによりマルチピースのゴルフボールを得ることができる。また、中間層又はカバーの各被覆部材について、予め半殻球状に成形した2枚のハーフカップを用いて、コア又は中間層被覆球を包み加熱加圧成形することによりゴルフボールを作製することもできる。
【0061】
本発明のゴルフボールの初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでのたわみ量は、好ましくは3.8mm以上であり、より好ましくは4.0mm以上、さらに好ましくは4.2mm以上であり、上限値としては、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは4.7mm以下、さらに好ましくは4.4mm以下である。この値が小さいと、スピン量が増えすぎてフルショット時に飛距離が十分に出なくなり、或いはソフトな心地よい打感でなくなることがある。一方、この値が大きいと、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、或いは実打初速が低くなり、特にドライバー(W#1)で飛距離が出なくなることがある。
【0062】
本発明では、中間層被覆球体とボールとの表面硬度関係を所定範囲に設定することが必要である。即ち、ボールの表面硬度(ショアC硬度)と中間層被覆球体の表面硬度との関係が、下記式
ボールの表面硬度(ショアC硬度)≦中間層被覆球体の表面硬度(ショアC硬度)
を満たすことが必要である。
【0063】
ボールの表面硬度から中間層被覆球体の表面硬度を引いた値は、ショアC硬度で好ましくは0以下、好ましい値は-5以下、より好ましくは-10以下である。一方、この表面硬度差の下限値は、好ましくは-25以上、より好ましくは-20以上、さらに好ましくは-15以上である。この硬度差が大きすぎると(即ち、上記の数値がプラス方向になると)、アプローチでスピンがかからなくなったり、フルショットでスピンが増えて飛距離が出なくなることがある。また、この差が小さすぎると(即ち、上記の数値がマイナス方向になると)、カバーと中間層との密着性が悪くなり、トップした時にカバーが切れやすくなることがある。
【0064】
コアとボールとの所定荷重負荷時のたわみ量の適正化を図ることが好適である。即ち、コアの、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)をA、ゴルフボールの、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでのたわみ(mm)をBとするとき、A-Bの値は、好ましくは1.0mm以上であり、より好ましくは1.2mm以上、さらに好ましくは1.3mm以上である。一方、上限値としては、好ましくは1.8mm以下であり、より好ましくは1.6mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。この値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。また、上記値が小さすぎると、フルショット時にスピン量が増えて飛距離が出なくなることがある。
【0065】
コアとボールとの所定荷重負荷時のたわみ量の比、即ち、B/Aの値は、好ましくは0.60以上であり、より好ましくは0.65以上、さらに好ましくは0.70以上である。この比の上限値としては、好ましくは0.81以下であり、より好ましくは0.79以下、さらに好ましくは0.77以下である。この値が小さすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。また、この値が大きすぎると、フルショットした時のスピン量が増えて飛距離が出なくなることがある。
【0066】
上記カバー(最外層)の外表面には多数のディンプルを形成することができる。カバーの外表面に配置されるディンプルについては、好ましくは250個以上、より好ましくは270個以上、更に好ましくは300個以上であり、上限としては、好ましくは370個以下、より好ましくは350個以下、更に好ましくは340個以下具備することができる。ディンプルの個数が上記範囲より多くなると、ボールの弾道が低くなり、飛距離が低下することがある。逆に、ディンプル個数が少なくなると、ボールの弾道が高くなり、飛距離が伸びなくなる場合がある。
【0067】
ディンプルの形状については、円形、楕円形、各種多角形、デュードロップ形、その他非円形など1種類又は2種類以上を組み合わせて適宜使用することができる。例えば、円形ディンプルを使用する場合には、直径は2.5~6.5mm以下程度、深さは0.08~0.30mm以下とすることができる。
【0068】
ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率、具体的には、ディンプルの縁に囲まれた平面の面縁で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率(SR値)については、空気力学特性を十分に発揮し得る点から60~90%であることが望ましい。また、各々のディンプルの縁に囲まれた平面下のディンプルの空間体積を、前記平面を底面とし、かつこの底面からのディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値V0は、ボールの弾道の適正化を図る点から0.35~0.80とすることが好適である。更に、ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計がディンプルが存在しないと仮定したボール球容積に占めるVR値は、0.6~1.0%とすることが好ましい。上述した各数値の範囲を逸脱すると、良好な飛距離が得られない弾道となり、十分満足した飛距離を出せない場合がある。
【0069】
カバー表面には塗膜層(コーティング層)を形成することができる。この塗膜層は、各種塗料を用いて塗装することができ、塗料としては、ゴルフボールの過酷な使用状況に耐えうる必要から、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とする塗料用組成物を用いることが好適である。
【0070】
上記ポリオール成分としては、アクリル系ポリオールやポリエステルポリオールなどが挙げられる。なお、これらのポリオールには、ポリオールの変性体が含まれ、更に作業性を向上させるため、他のポリオールを追加することもできる。
【0071】
ポリオール成分としては、2種類のポリエステルポリオールを併用することが好適である。この場合、2種類のポリエステルポリオールを(a)成分及び(b)成分とすると、(a)成分のポリエステルポリオールとしては、樹脂骨格に環状構造が導入されたポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、シクロヘキサンジメタノール等の脂環構造を有するポリオールと多塩基酸との重縮合、或いは、脂環構造を有するポリオールとジオール類又はトリオールと多塩基酸との重縮合により得られるポリエステルポリオールが挙げられる。一方、(b)成分のポリエステルポリオールとしては、多分岐構造を有するポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、東ソー社製の「NIPPOLAN 800」等の枝分かれ構造を有するポリエステルポリオールが挙げられる。
【0072】
一方、ポリイソシアネートについては、特に制限はなく、一般的に用いられている芳香族、脂肪族、脂環式などのポリイソシアネートであり、具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1-イソシアナト-3,3,5-トリメチル-4-イソシアナトメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらは,単独で或いは混合して使用することができる。
【0073】
塗料組成物には、塗装条件により、各種の有機溶剤を混合することができる。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤等が使用できる。
【0074】
上記塗料組成物からなる塗膜層の厚さについては、特に制限はないが、通常5~40μm、好ましくは10~20μmである。なお、ここで言う塗膜層の厚さとは、ディンプルの中心部、ディンプル中心部とディンプルエッジの間の位置2箇所の計3箇所を測定し、平均した塗膜の厚さを意味する。
【0075】
本発明では、上記塗料組成物からなる塗膜層の弾性仕事回復率が60%以上とすることを要し、好ましくは80%以上である。この塗膜層の弾性仕事回復率が上記範囲であれば、塗膜層が高弾性力を有するため自己修復機能が高く、耐摩耗性に非常に優れる。また、上記塗料組成物で塗装されたゴルフボールの諸性能を向上させることができる。上記の弾性仕事回復率の測定方法については以下のとおりである。
【0076】
弾性仕事回復率は、押し込み荷重をマイクロニュートン(μN)オーダーで制御し、押し込み時の圧子深さをナノメートル(nm)の精度で追跡する超微小硬さ試験方法であり、塗膜層の物性を評価するナノインデンテーション法の一つのパラメータである。従来の方法では最大荷重に対応した変形痕(塑性変形痕)の大きさしか測定できなかったが、ナノインデンテーション法では自動的・連続的に測定することにより、押し込み荷重と押し込み深さとの関係を得ることができる。そのため、従来のような変形痕を光学顕微鏡で目視測定するときのような個人差がなく、精度高く塗膜層の物性を評価することができると考えられる。ボール表面の塗膜層がドライバーや各種のクラブの打撃により大きな影響を受け、塗膜層がゴルフボールの物性に及ぼす影響は小さくないことから、塗膜層を超微小硬さ試験方法で測定し、従来よりも高精度に行うことは、非常に有効な評価方法となる。
【0077】
また、上記塗膜層の硬度は、ショアM硬度は、好ましくは40以上、より好ましくは60以上であり、上限として、好ましくは95以下、より好ましくは85以下である。なお、このショアM硬度は、ASTM D2240に準ずるものである。また、上記塗膜層の硬度は、ショアC硬度で好ましくは40以上であり、上限として、好ましくは80以下である。なお、このショアC硬度は、ASTM D2240に準ずるものである。塗膜層が上記硬度範囲よりも高すぎると、繰り返し打撃した際に塗膜が脆くなり、カバー層を保護できなくなるおそれがある。塗膜層が上記硬度範囲よりも小さすぎると、ボール表面が硬いものに当たった際に傷がつきやすくなり好ましくない。
【0078】
上記カバーの材料硬度(ショアC硬度)から上記塗膜層のショアC硬度を引いた値が-20以上となることが好ましく、より好ましくは-15以上、さらに好ましくは-10以上であり、上限としては、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。この値が上記範囲を外れると、フルショットした時のスピン量が増えて飛距離が出なくなることがある。
【0079】
上記の塗料組成物を使用する際は、公知の方法で製造されたゴルフボールに対し、塗料組成物を塗装時に調整し、通常の塗装工程を採用して表面に塗布し、乾燥工程を経てボール表面に塗膜層を形成することができる。この場合、塗装方法としては、スプレー塗装法、静電塗装法、ディッピング法などを好適に採用することができ、特に制限はない。
【0080】
本発明では、ドライバーを用いた打撃試験(ヘッドスピード40m/s)において、ドライバーとゴルフボールとの接触開始から該ゴルフボールの変形量が最も大きくなるまでに要する時間(t1)と、上記ゴルフボールの変形量が最も大きくなった状態から該ゴルフボールと上記ドライバーのクラブフェースとが離間するまでに要する時間(t2)との合計(t1+t2)が、705μsec以上であることを要する。
【0081】
具体的には、ゴルフ打撃ロボットに、メタルヘッド製ドライバー(W#1)として、ブリヂストンスポーツ社製、製品名「PHYZ」(ロフト角10.5°)を取り付け、ヘッドスピード(HS)40m/sの条件でゴルフボールを打撃する。打撃中のゴルフボールについては、高速度ビデオカメラ(Photron社製、FASTCAM SA-Z)を用いて撮影し、撮影画像を解析し、上記の(t1)及び(t2)の時間を求める。なお、打撃を真横から撮影した画像を用いて、クラブフェースとゴルフボールとの接触面から飛行方向におけるゴルフボールの直径が最も小さくなる時点を、ゴルフボールの変形量が最も大きい時点とする。
【0082】
上記の(t1)時間について、即ち、ドライバーを用いた打撃試験(ヘッドスピード40m/s)において、ドライバーとゴルフボールとの接触開始からゴルフボールの変形量が最も大きくなるまでに要する時間は、好ましくは280μsec以上、より好ましくは290μsec以上、さらに好ましくは295μsec以上であり、上限値は、好ましくは320μsec以下、より好ましくは310μsec以下、さらに好ましくは300μsec以下である。上記の値が小さすぎると、特にアイアンでのフルショットにおいてボールのスピン量が多くなり過ぎ飛距離が出なくなり、または打感が悪くなることがある。一方、上記値が大きすぎると、初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0083】
上記の(t2)時間について、即ち、ドライバーを用いた打撃試験(ヘッドスピード40m/s)において、ゴルフボールの変形量が最も大きくなった状態からゴルフボールとドライバーのクラブフェースとが離間するまでに要する時間は、好ましくは410μsec以上、より好ましくは425μsec以上、さらに好ましくは435μsec以上であり、上限値は、好ましくは490μsec以下、より好ましくは470sec以下、さらに好ましくは450sec以下である。上記の値が小さすぎると、特にアイアンでのフルショットにおいてスピン量が多くなり過ぎて飛距離が出なくなり、或いは打感が悪くなることがある。一方、上記値が大きすぎると、初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0084】
上記の比(t2/t1)は、1.35以上であることが好ましく、より好ましくは1.38以上、さらに好ましくは1.41以上であり、上限値は、好ましくは1.80以下であり、より好ましくは1.70以下、さらに好ましくは1.60以下である。この比の値が小さすぎると、特にアイアンでのフルショットにおいてスピン量が多くなり過ぎて飛距離が出なくなり、または打感が悪くなることがある。一方、上記値が大きすぎると、初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0085】
また、上記の(t1)と(t2)との合計時間については、好ましくは705μsec以上であり、より好ましくは710μsec以上、さらに好ましくは715μsec以上であり、上限値は、好ましくは800μsec以下、より好ましくは780μsec以下、さらに好ましくは760μsec以下である。この値が小さすぎると、特にアイアンでのフルショットにおいてスピン量が多くなり過ぎて飛距離が出なくなり、または打感が悪くなることがある。一方、上記値が大きすぎると、初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0086】
本発明のゴルフボールは、各層の厚さ関係や各被覆球体の表面硬度関係について以下のように適正化を図ることが本発明の所望の効果を十分に得るうえでは好適である。
【0087】
カバーと中間層との合計厚さを所定範囲に設定することが好適である。即ち、カバーと中間層との合計厚さは、好ましくは1.4mm以上であり、より好ましくは1.7mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上である。また、上記合計厚さの上限値は、好ましくは2.8mm以下であり、より好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2.3mm以下である。上記合計厚さが上記範囲よりも小さいと、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなったり、打感が悪くなることがある。また、上記合計厚さが上記範囲よりも大きいと、フルショット時のスピン量が増えて飛距離が出なくなることがある。
【0088】
また、中間層被覆球体とコアとの表面硬度関係を所定範囲に設定することが好適である。即ち、中間層被覆球体の表面硬度からコア表面硬度を引いた値は、ショアC硬度で好ましくは5以上であり、より好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上である。また、この上限値は、好ましくは40以下であり、より好ましくは35以下であり、さらに好ましくは30以下である。この値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。一方、上記の値が小さすぎると、フルショット時にスピン量が増えて飛距離が出なくなることがある。
【0089】
なお、本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、ボール外径は42.672mm内径のリングを通過しない大きさで42.80mm以下、質量は好ましくは45.0~45.93gに形成することができる。
【実施例
【0090】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0091】
〔実施例1~3、比較例1~5〕
コアの形成
表1に示した各実施例及び比較例のゴム組成物を調製した後、155℃、15分の加硫条件により加硫成形することによりソリッドコアを作製した。
【0092】
【表1】
【0093】
なお、表1に記載した各成分の詳細は以下の通りである。
・ポリブタジエン:JSR社製、商品名「BR730」
・アクリル酸亜鉛:「ZN-DA85S」(日本触媒社製)
・有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)
・水:純水(正起薬品工業社製)
・老化防止剤:2,2-メチレンビス(4-メチル-6-ブチルフェノール)、商品名「ノクラックNS-6」(大内新興化学工業社製)
・酸化亜鉛:商品名「三種酸化亜鉛」(堺化学工業社製)
・ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩:和光純薬工業社製
【0094】
コアの周囲に、表2に示した配合の樹脂材料No.1,No.2又はNo.3を用いて射出成形法により中間層を形成し、該中間層を被覆した球体を得た(但し、比較例5については除く。)。次いで、上記で得た中間層被覆球体の周囲に、表2に示した配合の樹脂材料No.4,No.5又はNo.6を用いて射出成形法によりカバー(最外層)を形成した。カバー表面には、全ての実施例及び比較例に共通する所定の多数のディンプルを形成した。
【0095】
【表2】
【0096】
表2中に記載した主な材料の商品名は以下の通りである。
「ハイミラン」:三井・デュポンポリケミカル社製のアイオノマー
「サーリン」:デュポン社製のアイオノマー
「HPF1000」:Dupont HPF(商標)1000
「T-8295、T-8283」:ディーアイシーコベストロポリマー社製の製品名「パンデックス」(MDI-PTMGタイプの熱可塑性ポリウレタン)
「ハイトレル4001」:東レデュポン社製のポリエステルエラストマー
「ポリテールH」:三菱化成(株)製のポリヒドロキシ炭化水素系重合体
「トリメチロールプロパン」:東京化成工業社製
「酸化チタン」:堺化学工業社製
「ポリエチレンワックス」:三洋化成社製の商品名「サンワックス161P」
イソシアネート化合物:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
【0097】
塗膜層(コーティング層)の形成
次に、全ての実施例及び比較例に共通する塗料組成物として、下記表3に示す塗料組成物Iを使用し、多数形成されたカバー(最外層)表面に、エアースプレーガンにより上記塗料を塗装し、厚み15μmの塗膜層を形成したゴルフボールを作製した。
【0098】
【表3】
【0099】
[ポリエステルポリオール(A)の合成例]
環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4,水酸基価170,重量平均分子量(Mw)28,000の「ポリエステルポリオール(A)」を得た。
次に、上記の合成したポリエステルポリオール(A)を酢酸ブチルで溶解させ、不揮発分70質量%のワニスを調整した。
【0100】
表3の塗料組成物Iは、上記ポリエステルポリオール溶液23質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の飽和脂肪族ポリエステルポリオール「NIPPOLAN 800」、重量平均分子量(Mw)1,000、固形分100%)を15質量部と有機溶剤とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分38.0質量%であった。
【0101】
弾性仕事回復率
塗料の弾性仕事回復率の測定には、厚み50μmの塗膜シートを使用して測定する。測定装置は、エリオニクス社の超微小硬度計「ENT-2100」が用いられ、測定の条件は、以下の通りである。
・圧子:バーコビッチ圧子(材質:ダイヤモンド、角度α:65.03°)
・荷重F:0.2mN
・荷重時間:10秒
・保持時間:1秒
・除荷時間:10秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=Welast / Wtotal × 100(%)
【0102】
ショアC硬度及びショアM硬度
上記表3のショアC硬度及びショアM硬度は、厚さ2mmのシートを作成し、3枚重ねて試験片としてASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計及びショアM硬度計を用いてそれぞれ計測した。
【0103】
得られた各ゴルフボールにつき、コアの各位置における内部硬度、コア,中間層被覆球体及びボールの表面硬度、各層の厚さ及び材料硬度、コア及びボールの表面硬度の所定荷重負荷時のたわみ量、ドライバーでの打撃した時のボールの変形時間などの諸物性を下記の方法で評価し、表4及び表5に示す。
【0104】
コア及び中間層被覆球体の各球体の外径
23.9±1℃の温度で、3時間以上温調した後に、任意の表面5箇所を測定し、その平均値を1個の各球体の測定値とし、測定個数10個での平均値を求めた。
【0105】
ボールの直径
23.9±1℃の温度で、3時間以上温調した後に、任意のディンプルのない部分を15箇所測定し、その平均値を1個のボールの測定値とし、測定個数10個のボールの平均値を求めた。
【0106】
コア硬度分布
コアの表面は球面であるが、その球面に硬度計の針をほぼ垂直になるようにセットし、ASTM D2240に従ってショアC硬度でコア表面硬度を計測した。コアの中心及び各コアの所定位置における断面硬度については、コアを半球状にカットして断面を平面にして測定部分に硬度計の針を垂直に押し当てて測定した。ショアC硬度の値で示される。
また、コアの中心硬度Cc、コアの表面硬度をCs、コアの中心と表面との中点硬度CM、中点Mからコア表面側に2.5mm、5.0mm及び7.5mmの位置のショアC硬度CM+2.5、CM+5.0及びCM+7.5、中点Mからコア中心側に2.5mm、5.0mm及び7.5mmの位置のショアC硬度CM-2.5、CM-5.0及びCM-7.5については、下記の面積A~F・面積A:1/2×2.5×(CM-5.0-CM-7.5)、
・面積B:1/2×2.5×(CM-2.5-CM-5.0)、
・面積C:1/2×2.5×(CM-CM-2.5)、
・面積D:1/2×2.5×(CM+2.5-CM)、
・面積E:1/2×2.5×(CM+5-CM+2.5)、及び
・面積F:1/2×2.5×(CM+7.5-CM+5
を計算し、下記の3個の数式の値を求めた。
・(面積D+面積E+面積F)-(面積A+面積B+面積C)
・(面積D+面積E)-(面積A+面積B+面積C)
・〔(面積D+面積E+面積F)-(面積A+面積B+面積C)〕/(Cs-Cc)
なお、コア硬度分布の面積A~Fの説明として、実施例1のコア硬度分布データを用いて面積A~Fを表した概略図を図2に示す。
【0107】
中間層及びカバーの材料硬度(ショアC硬度及びショアD硬度)
各層の樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置した。その後、ショアC硬度およびショアD硬度はASTM D2240規格に準拠して計測した。
【0108】
中間層被覆球体及びボールの各球体の表面硬度(ショアC硬度及びショアD硬度)
各球体の表面に対して針を垂直になるように押し当てて計測した。なお、ボール(カバー)の表面硬度は、ボール表面においてディンプルが形成されていない陸部における測定値である。ショアD硬度はASTM D2240規格に準拠したタイプDデュロメータによって計測し、ショアC硬度は、ASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計にて計測した。
【0109】
コア及びボールの各球体のたわみ量
各球体を硬板の上に置き、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでのたわみ量をそれぞれ計測した。なお、上記のたわみ量は23.9℃に温度調節した後の測定値である。また、測定器はミュー精器株式会社製の高荷重コンプレッションテスターを使用し、加圧ヘッドのダウン速度は、4.7mm/秒で計測した。
【0110】
ボールの変形時間
ゴルフ打撃ロボットに、メタルヘッド製ドライバー(W#1)として、ブリヂストンスポーツ社製、製品名「PHYZ」(ロフト角10.5°)を取り付け、ヘッドスピード(HS)40m/sの条件でゴルフボールを打撃した。打撃中のゴルフボールについては、高速度ビデオカメラ(Photron社製、FASTCAM SA-Z)を用いて撮影し、撮影画像を解析し、ドライバーとゴルフボールとの接触開始から該ゴルフボールの変形量が最も大きくなるまでに要する時間(t1)と、上記ゴルフボールの変形量が最も大きくなった状態から該ゴルフボールと上記ドライバーのクラブフェースとが離間するまでに要する時間(t2)との2つの時間(μsec)を求めた。なお、打撃を真横から撮影した画像を用いて、クラブフェースとゴルフボールとの接触面から飛行方向におけるゴルフボールの直径が最も小さくなる時点を、ゴルフボールの変形量が最も大きい時点とする。
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
各ゴルフボールの飛び性能及び打感を下記の方法で評価した。その結果を表7に示す。
【0114】
飛び性能
ゴルフ打撃ロボットに各種のクラブ(W#1,I#6)をつけて、下記の表6に示した条件で打撃した時の飛距離を測定し、下記表の基準で判定した。
【0115】
【表6】
【0116】
なお、上記表中のクラブ名の「PHYZ」は、ブリヂストンスポーツ社製の「PHYZドライバー」(ロフト角10.5°)及び「PHYZアイアンI#6」を使用した。
【0117】
アプローチ時のスピン性能
ゴルフ打撃ロボットにサンドウエッジ(SW)をつけてヘッドスピード20m/sにて打撃した時のスピンの量で下記の基準により判断した。クラブは、ブリヂストンスポーツ社製の「TourB XW-1 SW」を使用した。
(判断基準)
スピン量が5700rpm以上 ・・・ ○
スピン量が5700rpm未満 ・・・ ×
【0118】
打感
ドライバー(W#1)によるヘッドスピードが30~40m/sのアマチュアユーザーによるフルショットしたときの「ソフト感」について下記の基準で判定した。
20人中12人以上がソフト感ありと評価 ・・・ ○
ソフト感があり良い打感と評価した人20人中7~11人 ・・・ △
ソフト感があり良い打感と評価した人20人中6人以下 ・・・ ×
【0119】
耐傷付き性
ゴルフ打撃ロボットに、フェースに刻まれた溝が角溝でロフト角52°のウエッジを取り付け、ヘッドスピード(HS)40m/sにて打撃し、下記の判定基準により耐傷付き性について評価した。
〔判定基準〕
○:“傷の付き難さ”が実施例1のボールと同等又はそれ以上
×:実施例1よりも傷が目立つ
【0120】
【表7】
【0121】
表7の結果に示されるように、比較例1~5のゴルフボールは、本発明品(実施例)に比べて以下の点で劣る。
比較例1は、カバー材料がアイオノマー樹脂を主材とするものであり、その結果、耐傷付き性に劣るとともに、飛距離にも劣る。
比較例2は、ボール表面硬度が中間層表面硬度より硬いものであり、その結果、アプローチ時のボールのスピン量が少なくなり、また、カバーが傷付きやすい。
比較例3は、ボール表面硬度が中間層表面硬度より硬く、かつ中間層が軟らかいため、その結果、フルショットでスピン量が増加し、飛距離が劣る。
比較例4は、ドライバーでの打撃した時のボールの変形時間(t1+t2)が705μsec未満となり、フルショットでスピン量が増加していまい、特にアイアンで打撃した時に飛距離が劣るとともに、打感が硬い。
比較例5は、コアに単層カバーを被覆したツーピースの構造であり、その結果、ボールのスピン量が多くなり、飛距離が劣る。
図1
図2