(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】シフト装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/32 20060101AFI20231011BHJP
F16H 63/38 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F16H61/32
F16H63/38
(21)【出願番号】P 2019100234
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】荻野 淳人
(72)【発明者】
【氏名】内田 豊
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-056960(JP,A)
【文献】特開2016-075364(JP,A)
【文献】特開2018-200065(JP,A)
【文献】特開2005-198449(JP,A)
【文献】特開2016-070357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/32
F16H 63/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるシフト装置であって、
シフト位置に対応するように設けられた複数の谷部を含むシフト切替部材と、
前記シフト切替部材の前記複数の谷部のいずれかに嵌まり込んだ状態で前記シフト位置を成立させるための位置決め部材と、
前記シフト切替部材を駆動する、ロータとステータとを含むモータと、
前記モータ側から伝達される回転速度を減速した状態で前記シフト切替部材を回動させる減速機構部と、
前記ロータの回転角度を検出するロータ回転角度センサと、
前記シフト切替部材の回転角度を検出する出力軸回転角度センサとを備え、
前記シフト切替部材の前記谷部に対する前記位置決め部材の所定の位置における、前記出力軸回転角度センサの出力値と前記ロータ回転角度センサの出力値との関連付けを行うとともに、前記関連付けに基づいて、前記モータの回転回数を検出するように構成されて
おり、
前記所定の位置は、前記シフト切替部材の前記谷部の谷底から、互いに隣接する前記谷部を隔てる山部の頂部までの間の位置である、シフト装置。
【請求項2】
前記所定の位置における、前記出力軸回転角度センサの出力値と前記ロータ回転角度センサの出力値の関連付けが記憶される不揮発性の記憶部をさらに備える、請求項1に記載のシフト装置。
【請求項3】
前記記憶部は、前記所定の位置における、前記出力軸回転角度センサの出力値と、前記ロータ回転角度センサの出力値とが関連付けられたマップを記憶しており、
前記記憶部に記憶された前記マップに基づいて、前記モータの回転回数を検出するように構成されている、請求項2に記載のシフト装置。
【請求項4】
前記モータを第1の方向に回転させた際と、前記第1の方向とは反対の第2の方向に回転させた際との、複数の前記所定の位置における前記出力軸回転角度センサの出力値と前記ロータ回転角度センサの出力値とが関連付けされるように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のシフト装置。
【請求項5】
前記減速機構部は、前記モータ側に設けられた駆動側部材と、前記シフト切替部材側に設けられ、前記駆動側部材の回動に伴い回動される従動側部材とを含み、
前記駆動側部材と前記従動側部材との間に所定量のガタを設けることにより、前記所定量のガタ分だけ前記駆動側部材と前記従動側部材とを相対的に回転可能に構成されており、
前記駆動側部材と前記従動側部材との間のガタが詰められた状態における、前記出力軸回転角度センサの出力値と前記ロータ回転角度センサの出力値との関連付けに基づいて、前記モータの回転回数を検出するように構成されている、請求項1~
4のいずれか1項に記載のシフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるシフト装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、乗員のシフト操作に対応した制御信号に基づいて動作するアクチュエータユニットと、アクチュエータユニットにより駆動されることによりシフト位置を切り替えるシフト切替機構部とを備えたシフト装置が開示されている。この特許文献1に記載のシフト装置では、アクチュエータユニットは、モータと、減速機構部と、モータ回転角度センサと、出力軸回転角度センサと、ECU(engine control unit)とを含む。また、アクチュエータユニットは、減速機構部の出力側に設けられた出力軸を含む。モータ回転角度センサは、ロータの回転量(回転角度)を検出する。出力軸回転角度センサは、出力軸の出力角(回転角度)を検出する。
【0004】
また、上記特許文献1では、シフト切替機構部は、ディテントプレートと、ディテントスプリングとを含む。ディテントプレートは、シフト位置に応じた複数の谷部を含むプレートである。また、ディテントスプリングは、ディテントプレートの複数の谷部のいずれかに嵌まり込んだ状態でシフト位置を成立させる。また、ディテントプレートは、アクチュエータユニットの出力軸の下端部に固定されている。そして、ディテントプレートは、アクチュエータユニットの出力軸とともに一体的に回動する。
【0005】
そして、上記特許文献1では、乗員による操作部の操作に応じたECUからの制御信号に基づいて、モータが回転するとともに、モータの回転が減速機構部により減速された状態で、出力軸に伝達される。そして、出力軸とともにディテントプレートが回動することにより、ディテントプレートの一の谷部に位置していたディテントスプリングが他の谷部に移動される。これにより、シフト位置が切り替えられる。
【0006】
また、上記特許文献1に記載のような従来のシフト装置では、ディテントプレートに対するディテントスプリングの位置決め精度を向上させるために、減速機構部の減速比が比較的高く設定される。このため、ディテントプレートの一の谷部(たとえばP位置)に位置していたディテントスプリングを、他の谷部(たとえば、D位置)に移動させる場合、モータは、1回転以上回転する。そして、上記特許文献1に記載のような従来のシフト装置では、ECUの起動時には、モータ回転角度センサからの出力に基づいて、現在(起動時)のモータの回転角度を検出する。しかしながら、起動時において、モータが基準位置(たとえば、ディテントスプリングの作動範囲の端点)から何回転しているのかは検出できない。そこで、上記特許文献1に記載のような従来のシフト装置では、ECUの停止時に、モータの回転回数が不揮発性メモリに記憶される。そして、起動時には、不揮発性メモリに記憶されたモータの回転回数に基づいて、モータが制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載のような従来のシフト装置では、ECUの停止時に、モータの回転回数が不揮発性メモリに記憶されている。しかしながら、ECUが稼働していない際(ECUの停止後)に外力になどによりモータが動いた場合や、モータの駆動中に、電源の失陥が発生した場合(つまり、現在のモータの回転回数が不揮発性メモリに記憶されることなくECUが停止した場合)などにおいて、ECUを再起動した際に、不揮発性メモリに記憶されたモータの回転回数と実際のモータの回転回数とが異なっている場合がある。この場合、モータの回転回数が誤って認識されることに起因して、シフト位置の位置決め精度が悪化するという問題点がある。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、モータの回転回数の誤認識に起因して、シフト位置の位置決め精度が悪化するのを抑制することが可能なシフト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるシフト装置は、車両に搭載されるシフト装置であって、シフト位置に対応するように設けられた複数の谷部を含むシフト切替部材と、シフト切替部材の複数の谷部のいずれかに嵌まり込んだ状態でシフト位置を成立させるための位置決め部材と、シフト切替部材を駆動する、ロータとステータとを含むモータと、モータ側から伝達される回転速度を減速した状態でシフト切替部材を回動させる減速機構部と、ロータの回転角度を検出するロータ回転角度センサと、シフト切替部材の回転角度を検出する出力軸回転角度センサとを備え、シフト切替部材の谷部に対する位置決め部材の所定の位置における、出力軸回転角度センサの出力値とロータ回転角度センサの出力値との関連付けを行うとともに、関連付けに基づいて、モータの回転回数を検出するように構成されており、所定の位置は、シフト切替部材の谷部の谷底から、互いに隣接する谷部を隔てる山部の頂部までの間の位置である。
【0011】
この発明の一の局面によるシフト装置では、上記のように、シフト切替部材の谷部に対する位置決め部材の所定の位置における、出力軸回転角度センサの出力値とロータ回転角度センサの出力値との関連付けを行うとともに、関連付けに基づいて、モータの回転回数を検出するように構成されている。これにより、外力などに起因してモータが動いた場合や電源の失陥が発生した場合(つまり、現在のモータの回転回数が記憶部に記憶されなかった場合)でも、シフト装置が再起動された際に、上記の関連付けに基づいて、再起動時のモータの回転回数が検出される。その結果、モータの回転回数が正確に検出されるので、モータの回転回数の誤認識に起因して、シフト位置の位置決め精度が悪化するのを抑制することができる。
ここで、シフト装置に含まれる機械的な部品にガタが含まれていることに起因して、モータが回転してもシフト切替部材が回動しない場合がある。この場合、シフト切替部材が回動しないので、出力軸回転角度センサの出力値は変化しない。そこで、上記のように、モータの回転とともに出力軸回転角度センサの出力値が変化するシフト切替部材の谷部の谷底から、互いに隣接する谷部を隔てる山部の頂部までの間の位置において、上記の関連付けが行われるので、出力軸回転角度センサの出力値に基づいて、モータの回転回数を正確に検出することができる。
【0012】
また、たとえば、位置決め部材をシフト切替部材の壁部などに押し当ててシフト切替部材の回動始点を設定する場合と異なり、位置決め部材をシフト切替部材の壁部などに押し当てることなく、モータの回転回数を検出することができるので、シフト切替部材の耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0013】
上記一の局面によるシフト装置において、好ましくは、所定の位置における、出力軸回転角度センサの出力値とロータ回転角度センサの出力値との関連付けが記憶される不揮発性の記憶部をさらに備える。
【0014】
このように構成すれば、所定の位置における上記の関連付けが不揮発性の記憶部に記憶されているので、シフト装置の再起動時に不揮発性の記憶部に記憶された上記の関連付けを参照することにより、直ちにモータの回転回数を検出することができる。
【0015】
この場合、好ましくは、記憶部は、所定の位置における、出力軸回転角度センサの出力値と、ロータ回転角度センサの出力値とが関連付けられたマップを記憶しており、記憶部に記憶されたマップに基づいて、モータの回転回数を検出するように構成されている。
【0016】
このように構成すれば、上記の関連付けがマップとして記憶されているので、出力軸回転角度センサの出力値からマップを参照することにより、容易に、モータの回転回数を検出することができる。
【0017】
上記一の局面によるシフト装置において、好ましくは、モータを第1の方向に回転させた際と、第1の方向とは反対の第2の方向に回転させた際との、複数の所定の位置における出力軸回転角度センサの出力値とロータ回転角度センサの出力値とが関連付けされるように構成されている。
【0018】
ここで、シフト装置に含まれる機械的な部品には、一般的にガタ(遊び)が含まれる。具体的には、シフト装置に含まれるアクチュエータとシフト切替部材との間に介在する駆動力伝達機構に含まれる製造時の組付誤差や機械動作上の誤差(ギア部材間のバックラッシなどの微小なガタつき)が生じる。このため、モータを第1の方向に回転させた際と第2の方向に回転させた際との間において、出力軸回転角度センサの出力値とモータの回転回数との対応が異なる。そこで、上記のように構成することによって、モータを第1の方向に回転させた際と第2の方向に回転させた際との両方において、モータの回転回数を正確に検出することができる。
【0021】
上記一の局面によるシフト装置において、好ましくは、減速機構部は、モータ側に設けられた駆動側部材と、シフト切替部材側に設けられ、駆動側部材の回動に伴い回動される従動側部材とを含み、駆動側部材と従動側部材との間に所定量のガタを設けることにより、所定量のガタ分だけ駆動側部材と従動側部材とを相対的に回転可能に構成されており、駆動側部材と従動側部材との間のガタが詰められた状態における、出力軸回転角度センサの出力値とロータ回転角度センサの出力値との関連付けに基づいて、モータの回転回数を検出するように構成されている。
【0022】
このように構成すれば、駆動側部材と従動側部材との間に(意図的)にガタが設けられている場合でも、駆動側部材と従動側部材との間のガタが詰められた状態における上記の関連付けが行われるので、モータの回転回数を正確に検出することができる。
【0023】
なお、本出願では、上記一の局面によるシフト装置において、以下のような構成も考えられる。
【0024】
(付記項1)
すなわち、上記記憶部に記憶されたマップに基づいてモータの回転回数を検出するシフト装置において、マップでは、複数の所定の位置において、出力軸回転角度センサの出力値とロータ回転角度センサの出力値とが関連付けられており、複数の所定の位置における、関連付けの線形補完に基づいて、モータの回転回数を検出するように構成されている。
【0025】
このように構成すれば、連続的に上記の関連付けを行うことなく、離散的な関連付けに基づいて、モータの回転回数を検出することができる。これにより、記憶部に記憶される上記の関連付けの数を減少させることができるので、記憶部の容量が大きくなるのを抑制することができる。
【0026】
(付記項2)
上記所定の位置が谷底から山部の頂部までの間の位置であるシフト装置において、所定の位置は、位置決め部材が、シフト切替部材の谷部の谷底から山部の頂部に移動するまでの間の位置である。
【0027】
ここで、位置決め部材が付勢力を有する場合、モータの回転に先行して、位置決め部材がシフト切替部材の山部の頂部から谷部の谷底に移動してしまう場合がる。この場合、出力軸回転角度センサの出力値が急激に変化する一方、モータの回転角度の変化率は一定である。つまり、出力軸回転角度センサの出力値とモータの回転角度との対応がずれる場合がある。そこで、上記のように構成することによって、シフト切替部材の谷部の谷底から山部の頂部に移動するまでの間では、モータの回転に先行することなく出力軸が回動するので、モータの回転回数をより正確に検出することができる。
【0028】
(付記項3)
上記一の局面によるシフト装置において、ロータ回転角度センサに検出されたロータの回転角度に基づいて、関連付けに基づいて検出されたモータの回転回数を補正するように構成されている。
【0029】
ここで、シフト装置に含まれる機械的な部品に含まれるガタなどに起因して、出力軸回転角度センサの出力値に基づいて検出されたモータの回転回数が誤っている場合がある。そこで、上記のように構成することによって、モータの回転回数が補正されるので、モータの回転回数をより正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態によるシフト装置の制御構成を示したブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるシフト装置の全体構成を概略的に示した斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるシフト装置を構成するディテントプレートの構造を示した図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるシフト装置を構成するアクチュエータユニットを示した断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるシフト装置を構成するアクチュエータユニットにおいて、本体部からギアハウジングを取り外した状態での減速機構部の内部構造を示した図である。
【
図6】本発明の一実施形態によるシフト装置を構成するアクチュエータユニットにおいて、中間ギアの係合状態(駆動力伝達可能状態)を示した図である。
【
図7】本発明の一実施形態によるシフト装置を構成するアクチュエータユニットにおいて、中間ギアの係合状態(駆動力非伝達状態)を示した図である。
【
図8】本発明の一実施形態によるシフト装置における、出力軸回転角度センサの出力値(出力電圧)と、ロータ回転角度センサの出力値(モータ回転角)と、モータの回転回数との関係を示す図である。
【
図9】モータの回転軸と出力軸との関係を示す図である。
【
図10】出力軸回転角度センサの出力値(出力電圧)と、ロータ回転角度センサの出力値(積算値)とが関連付けられたマップを示す図である。
【
図11】出力軸回転角度センサの出力値(出力電圧E)と、ロータ回転角度センサの出力値(積算値Y)との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
まず、
図1~
図11を参照して、本実施形態によるシフト装置100の構成について説明する。
【0033】
本実施形態によるシフト装置100は、自動車などの車両110に搭載されている。
図1に示すように、車両110では、乗員(運転者)がシフトレバー(またはシフトスイッチ)などの操作部111を介してシフトの切替操作を行った場合に、変速機構部120に対する電気的なシフト切替制御が行われる。すなわち、操作部111に設けられたシフトセンサ112を介してシフトレバーの位置がシフト装置100側に入力される。そして、シフト装置100に設けられた専用のECU50から送信される制御信号に基づいて、乗員のシフト操作に対応したP(パーキング)位置、R(リバース)位置、N(ニュートラル)位置およびD(ドライブ)位置のいずれかのシフト位置に変速機構部120が切り替えらえる。このようなシフト切替制御は、シフトバイワイヤ(SBW)と呼ばれる。
【0034】
シフト装置100は、アクチュエータユニット60と、アクチュエータユニット60により駆動されるシフト切替機構部70とを備えている。また、シフト切替機構部70は、変速機構部120内の油圧制御回路部130における油圧バルブボディのマニュアルスプール弁(図示せず)とパーキング機構部140とに機械的に接続されている。そして、シフト切替機構部70が駆動されることによって変速機構部120のシフト状態(P位置、R位置、N位置およびD位置)が機械的に切り替えられるように構成されている。
【0035】
アクチュエータユニット60は、モータ10と、減速機構部20と、ロータ回転角度センサ30と、出力軸回転角度センサ40と、ECU50とを備えている。なお、
図2に示すように、ECU50は、基板51に電子部品が実装された基板部品である。また、これらの部品は、変速機構部120のケースに固定された箱状の本体部61に収容されている。また、アクチュエータユニット60は、減速機構部20の出力側に接続された出力軸25を備えている。
【0036】
シフト切替機構部70は、
図2に示すように、ディテントプレート71と、ディテントスプリング72とを含んでいる。ディテントスプリング72は、P位置、R位置、N位置およびD位置のそれぞれに対応する回動角度位置でディテントプレート71を保持するように構成されている。なお、ディテントプレート71は、特許請求の範囲の「シフト切替部材」の一例である。また、ディテントスプリング72は、特許請求の範囲の「位置決め部材」の一例である。
【0037】
ディテントプレート71は、
図3に示すように、P位置、R位置、N位置およびD位置にそれぞれ対応するように設けられた4つの谷部80(谷部81~84)を有している。また、谷部81~84によって、ディテントプレート71には連続的な起伏形状を有するカム面71aが形成されている。また、互いに隣接する谷部同士(たとえば、谷部81および谷部82、谷部82および谷部83など)は、1つの頂部Tを有する山部85により隔てられている。ディテントスプリング72は、基端部72aが変速機構部120のケーシング121(
図2参照)に固定されるとともに、自由端72b側にローラ部73が取り付けられている。そして、ディテントスプリング72は、ローラ部73が、常時、カム面71a(谷部81~84または山部85のいずれかの位置)を押圧している。そして、ディテントスプリング72は、複数の谷部81~84のいずれかに嵌まり込んだ状態でシフト位置を成立させる。
【0038】
また、ディテントプレート71は、
図2に示すように、出力軸25の下端部(Z2側)に固定されており、ディテントプレート71は、出力軸25と一体的に回動軸C1まわりに回動される。これにより、ディテントスプリング72は、ディテントプレート71の矢印A方向または矢印B方向への正逆回動(揺動)に伴ってローラ部73がカム面71aに沿って摺動することにより、ディテントスプリング72の付勢力Fによりローラ部73が谷部81~84のいずれかに嵌合するように構成されている。また、ディテントスプリング72は、ローラ部73がディテントプレート71の谷部81~84のいずれかに選択的に嵌合することにより、それぞれ、P位置、R位置、N位置またはD位置に対応する回動角度位置でディテントプレート71が保持されるように構成されている。これにより、P位置、R位置、N位置またはD位置が個々に成立される。
【0039】
また、ディテントプレート71は、腕部87および腕部88をさらに有している。腕部87にはパークロッド75が連結され、腕部88にはマニュアルバルブロッド76(
図3参照)が連結される。そして、ディテントプレート71がR位置に対応する回動角度位置に回動された場合、マニュアルバルブロッド76の先端部のマニュアルスプール弁が油圧バルブボディ内のR位置に対応する位置に移動されることにより、油圧制御回路部130(
図1参照)内にはR位置用の油圧回路が形成される。他のシフト位置についてもR位置と同様に、ディテントプレート71の回動に伴ってマニュアルバルブロッド76(マニュアルスプール弁)がいずれかのシフト位置に対応する位置に移動されることによって、油圧制御回路部130内に各シフト位置に対応する油圧回路が形成される。
【0040】
パーキング機構部140は、
図2に示すように、エンジン150のクランク軸(図示せず)に連結されたパーキングギア141と、パーキングギア141に係合するロックポール142とを含む。ロックポール142は、パークロッド75の移動に伴ってロック位置および非ロック位置に移動される。ディテントプレート71がP位置に対応した回動角度位置に回動された場合に、ロックポール142は、回動軸C2を回動中心としてロック位置まで回動されて突起部142aがパーキングギア141の歯底部141aに係合する。これにより、パーキングギア141の自由な回動が規制されてクランク軸の回転が規制される。また、ディテントプレート71がP位置以外のシフト状態(R、NおよびD位置)に対応した回動角度位置に回動された場合には、ロックポール142は、非ロック位置に回動されて、ロックポール142とパーキングギア141との係合が解除される。
【0041】
次に、アクチュエータユニット60の詳細な構成について説明する。
【0042】
図4に示すように、アクチュエータユニット60における本体部61は、モータハウジング62と、モータカバー63と、ギアハウジング64とにより構成されている。耐熱性を有する樹脂製のモータハウジング62およびモータカバー63は、各々の凹部62aおよび凹部63aを対向させた状態で組み付けられることにより、モータ室65にモータ10およびECU50が収容されている。また、樹脂製のギアハウジング64が凹部64aを対向させるようにしてモータハウジング62に反対側(Z2側)から組み付けられることにより、ギア室66に減速機構部20が収容されている。
【0043】
モータハウジング62の一方側の外側面62bには、端子52を有するソケット62cが形成されている。なお、端子52は、配線53を介してECU50に電気的に接続されている。また、ソケット62cに接続された配線ケーブル(図示せず)を介して、アクチュエータユニット60に電力が供給される。また、配線ケーブルを介して、ECU50とエンジン150を制御するECU151(
図1参照)との相互通信が行われる。また、ECU50は、モータ10(
図1参照)と、ロータ回転角度センサ30(
図1参照)と出力軸回転角度センサ40(
図1参照)とに電気的に接続されている。
【0044】
モータ10は、
図4に示すように、モータハウジング62に対して回転可能に支持されたロータ11と、ロータ11の周囲に磁気的間隙を有して対向するように配置されたステータ12とによって構成されている。また、モータ10は、ディテントプレート71を駆動するように構成されている。
【0045】
また、モータ10として、永久磁石をロータ11の表面に組み込んだ表面磁石型(SPM)の三相モータが用いられる。具体的には、ロータ11は、シャフトピニオン11aとロータコア11bとを有しており、ロータコア11bの表面には、永久磁石としてのN極磁石およびS極磁石が回動軸C1まわりに等角度間隔(45°)で交互に貼り付けられている。したがって、モータ10の極数は8である。
【0046】
シャフトピニオン11aは、モータカバー63の回転軸支持部63bに配置された軸受部材1によって上端部(Z1側)が回転可能に支持されるとともに、出力軸支持部64bに圧入された軸受部材3により回動自在に支持された出力軸受部26の軸受部材2によって下端部(Z2側)が回転可能に支持されている。なお、軸受部材2は、出力軸受部26の上端部(Z1側)の凹部の内周に沿って配置されている。これにより、ロータ11のシャフトピニオン11aと出力軸25とは、同じ回動軸C1まわりに回転される。また、シャフトピニオン11aは、中央部から下端部(Z2側)にかけた外周領域に、ギア溝がヘリカル状に形成されたギア部11cが一体的に形成されている。なお、ギア部11cは、ギア径が十分に小さくなるよう小歯数かつ大ねじれ角で形成されたいわゆる小歯数ヘリカルギアである。
【0047】
ステータ12は、
図4に示すように、モータハウジング62のモータ室65内に固定されたステータコア13と、通電により磁力を発生する複数相(U相、V相およびW相)の励磁コイル(図示せず)とを有している。
【0048】
ステータコア13は、
図4に示すように、ロータ11のシャフトピニオン11aと同じ軸心で略円筒状の本体部13aと本体部13aの内壁面から軸心側に向かって突出する複数(4個)のティース13bとを一体的に有する。これらティース13bのうち、軸心を中心に互いに相反する径方向両側に配置された一対のティース13bには、シャフトピニオン11aと平行に貫通孔がそれぞれ形成されている。そして、貫通孔には、モータハウジング62の貫通孔に挿入される棒状の支持軸67aおよび支持軸67bが貫通されている。支持軸67aおよび支持軸67bは、モータカバー63の凹部63cに後端部(
図4における上端部)が嵌合されるとともに、ギアハウジング64の凹部64cに前端部(
図4における下端部)が嵌合される。これにより、ステータ12は、モータ室65内に固定される。また、支持軸67a、支持軸67bおよびシャフトピニオン11aは、軸心が互いにZ方向に沿って平行に設けられている。
【0049】
減速機構部20は、モータ10側から伝達される回転速度を減速した状態でディテントプレート71を回動させるように構成されている。具体的には、減速機構部20は、
図4および
図5に示すように、ロータ11のギア部11cと、ギア部11cに噛合するギア部21aを有する中間ギア21(モータ10側に設けられた中間ギア21)と、中間ギア21と同じ軸心で下面側(Z2側)配置されるとともに中間ギア21と係合する中間ギア22(ディテントプレート71側に設けられた中間ギア22)と、中間ギア22のギア部22aに噛合するギア部23aを有する最終ギア23とを含む。また、シャフトピニオン11aは、下端部が軸受部材2に支持されることによってギア部11cがギア室66を上下方向(Z方向)に横切っている。また、中間ギア21は、モータハウジング62の貫通孔に挿入された支持軸67aに対して軸受部材4により回転可能に支持されている。また、中間ギア22は、支持軸67aに嵌め込まれた略円筒状の軸受部材5により回転可能に支持されている。また、中間ギア21と中間ギア22とは同軸で重ねられている。なお、中間ギア21および中間ギア22は、それぞれ、特許請求の範囲の「駆動側部材」および「従動側部材」の一例である。
【0050】
また、
図6および
図7に示すように、中間ギア21は、回転中心部と外周部(ギア部21a)との間に、長径が周方向に沿って延びる複数(6個)の長孔21eが設けられている。長孔21eは、周方向に互いに60°間隔で配置されている。また、中間ギア22は、ギア部22aが設けられた楕円形状の本体部22bを有しており、本体部22bのギア部22aとは反対側の上面(Z1側)から上方に突出する複数(2個)の円柱状の係合凸部22eが設けられている。係合凸部22eは、本体部22bにおける長径方向の両側の周縁部に配置されている。そして、中間ギア21に下方から上方(Z1側)に向かって中間ギア22が隣接配置された状態で、互いに180°間隔で配置された係合凸部22eの各々が、対応する中間ギア21の2つの長孔21eにそれぞれ挿入(係合)されるように構成されている。
【0051】
なお、係合凸部22eは、中間ギア21の長孔21eに対して所定の大きさ(周方向の長さ)からなるガタSを有して嵌め合わされる。すなわち、
図7に示すように、互いに嵌め合わされた係合凸部22eと長孔21eとに生じる円周方向のガタSの分(所定角度幅)だけ、中間ギア21と中間ギア22との間の相対的な自由回動(自由回転)が許容されるように構成されている。したがって、中間ギア21と中間ギア22とは常に一体的に回転するものではなく、中間ギア21に伝達された回転は、中間ギア22に所定角度幅で一方方向(矢印A方向)または他方方向(矢印B方向)への相対的な自由回動(自由回転)を許容して伝達されるように構成されている。なお、
図6は、中間ギア21から中間ギア22へ駆動力が伝達可能な状態を示しており、
図7は、中間ギア21から中間ギア22へ駆動力が伝達不可能な状態を示している。
【0052】
また、
図5に示すように、中間ギア22のギア部22aは、出力軸受部26と同じ回動軸C1を有した状態で、出力軸受部26と一体的に回転するように組み込まれた扇形状の最終ギア23のギア部23aに噛合する。ギア部23aは、最終ギア23に設けられた略円弧状の挿入孔23bに外周縁に沿った内側に内歯車として形成されている。ギア部23aは、ギア部22aよりも大径の歯車で形成されている。また、最終ギア23は、扇形の「要(かなめ)」の位置に回転中心を有する嵌合孔23cに出力軸受部26が固定されている。減速機構部20は、中間ギア21、中間ギア22および最終ギア23により、シャフトピニオン11aの回転が出力軸25側で減速されるように構成されている。
【0053】
なお、減速機構部20は、減速比が1:50となるように構成されている。すなわち、ロータ11が50回転(モータ10は、24×50=1200通電ステップ)された場合に、出力軸25が1回転されるように構成されている。したがって、モータ10では、1通電ステップでロータ11が15°回転されるので、出力軸25は、0.3°(=15/50)回転される。
【0054】
また、出力軸受部26の下端部(Z2側)の凹部の内周には、軸方向に延びる複数の縦溝(セレーション)26aが形成されている。また、出力軸25(
図4参照)の上端部(Z1側)の外周には、軸方向に延びる複数の縦溝部(セレーション)25aが形成されている。これにより、出力軸受部26の縦溝部26aに対して出力軸25の縦溝部25aを適切な回転角度位置でトルク伝達可能に嵌め合わせて連結するように構成されている。したがって、下端部(Z2側)にディテントプレート71が固定された出力軸25は、アクチュエータユニット60に対して適切な回転角度位置で組み付けられる。
【0055】
ロータ回転角度センサ30は、ロータ11の回転角度を検出するように構成されている。たとえば、ロータ回転角度センサ30は、MRセンサ(Magneto Resistive Sensor)から構成されている。
【0056】
出力軸回転角度センサ40は、ディテントプレート71(出力軸25)の回転角度を検出するように構成されている。たとえば、出力軸回転角度センサ40は、ホール素子により構成されている。なお、出力軸25の回転位置(出力角)は、連続的な電圧値として検出される。
【0057】
次に、シフト位置の移動と、出力軸回転角度センサ40の出力値およびロータ回転角度センサ30の出力値との関係について説明する。
【0058】
図8に示すように、モータ10の回転回数(0回、1回、2回、・・・、7回)の増加に伴って、シフト位置が、P位置、R位置、N位置およびD位置の順に変化するように、出力軸25に接続されたディテントプレート71が回動する。この際、ディテントスプリング72は、谷部81~84の順に、谷部80に嵌まり込む。そして、出力軸回転角度センサ40の出力値は、モータ10の回転回数が増加するのに伴って増加する。
【0059】
たとえば、現在、ローラ部73が、谷部81(P位置)に嵌まり込んでいたとする(区間1)。モータ10(
図1参照)が駆動されることにより減速機構部20(
図1参照)を介してディテントプレート71が矢印A方向に回動される。なお、中間ギア21と中間ギア22との間に所定量のガタS(
図7参照)が設けられている。このため、ローラ部73が谷部81の谷底Vに完全に嵌まり込んだ状態(
図9の区間1参照)では、ロータ11の回転とともに中間ギア21が回動されるにもかかわらず、長孔21eの内部において係合凸部22eがガタSを利用して駆動力伝達不可能に係合されているので、中間ギア22は回動されない。その結果、区間1では、ロータ回転角度センサ30(
図1参照)により検出されるロータ11の回転角度(rad)は、線形的に増加する一方、出力軸回転角度センサ40(
図1参照)により検出される出力軸25の回転角度に対応する電圧レベルは、一定である。
【0060】
その後、区間2において、中間ギア21の長孔21eの一方端部が中間ギア22の係合凸部22eに駆動力伝達可能に係合されるので(
図6および
図9の区間2参照)、モータ10の駆動力がギア部11c、中間ギア21、中間ギア22および最終ギア23(
図4参照)を介して出力軸25(
図2参照)に伝達される。これにより、ディテントプレート71の矢印A方向への回動とともに、ローラ部73は、谷部81(P位置)の谷部82(R位置)側の斜面を山部85に向けて登るように移動する。なお、モータ10は、P位置(区間1)において略1回分、回転している。そして、区間2において、ロータ回転角度センサ30(
図1参照)により検出されるロータ11の回転角度(rad)は、線形的に増加する。また、出力軸回転角度センサ40(
図1参照)により検出される出力軸25の回転角度に対応する電圧レベルが一定の割合で増加する。また、この状態における中間ギア21および22の係合状態は、
図6の状態に対応する。
【0061】
そして、区間3において、ローラ部73が谷部81(P位置)と谷部82(R位置)との境の山部85を乗り越えた後、ディテントプレート71は、モータ10(中間ギア21)よりも先行して矢印A方向に自然に回動される。すなわち、ディテントプレート71は、常にローラ部73により谷部82に向かって付勢されているので、この付勢力F(
図3参照)によって、ディテントプレート71は、長孔21eのガタSの大きさの範囲内でモータ10よりも先行して矢印A方向に回動される。そして、ローラ部73は、谷部82の谷底Vに向けて落とし込まれる(
図9の区間3参照)。この際、ロータ11の回転角度は増加する一方、出力軸25の回転角度に対応する電圧レベルは、ローラ部73の谷底Vへの落ち込み(吸込み)とともに急激に増加する。
【0062】
なお、シフト位置のR位置からN位置への移動の動作、N位置からD位置への移動の動作は、上記のP位置からR位置への移動の動作と同様である。
【0063】
そして、モータ10は、回転方向が反転される。これにより、シフト位置がD位置(区間4)、区間5、および、区間6を介して、N位置に移動される。なお、D位置(区間4)の動作は、上記区間1の動作と同様である。つまり、ロータ回転角度センサ30(
図1参照)により検出されるロータ11の回転角度(rad)は、線形的に減少する一方、出力軸回転角度センサ40(
図1参照)により検出される出力軸25の回転角度に対応する電圧レベルは、一定である。また、区間5の動作は、上記区間2の動作と同様である。つまり、区間5において、ロータ11の回転角度は、線形的に減少するとともに、出力軸25の回転角度に対応する電圧レベルが一定の割合で減少する。また、区間6の動作は、上記区間3の動作と同様である。つまり、ロータ11の回転角度は減少する一方、出力軸25の回転角度に対応する電圧レベルは、ローラ部73の谷底Vへの落ち込み(吸込み)とともに急激に減少する。
【0064】
ここで、本実施形態では、シフト装置100は、ディテントプレート71の谷部80に対するディテントスプリング72の所定の位置における、出力軸回転角度センサ40の出力値とロータ回転角度センサ30の出力値との関連付け(学習)を行う。そして、シフト装置100は、上記の関連付けに基づいて、モータ10の回転回数を検出するように構成されている。なお、上記の関連付けおよびモータ10の回転回数の検出は、ECU50によって行われている。また、上記の関連付けは、たとえば、シフト装置100の出荷時や、シフト装置100の組付け時(再組付け時)などに行われる。以下、具体的に説明する。
【0065】
本実施形態では、
図1に示すように、シフト装置100(ECU50)は、不揮発性の記憶部90を備えている。
図10に示すように、記憶部90は、ディテントプレート71の谷部80に対するディテントスプリング72の所定の位置における、出力軸回転角度センサ40の出力値とロータ回転角度センサ30の出力値(積算値)との関連付けが記憶されている。具体的には、記憶部90は、上記の所定の位置における、出力軸回転角度センサ40の出力値と、ロータ回転角度センサ30の出力値とが関連付けられたマップ91を記憶している。そして、シフト装置100(ECU50)は、記憶部90に記憶されたマップ91に基づいて、モータ10の回転回数を検出するように構成されている。
【0066】
たとえば、
図8に示された「黒丸」の点において、出力軸回転角度センサ40の出力値と、ロータ回転角度センサ30の出力値とが関連付けられたマップ91が形成される。たとえば、位置Pと位置Rとの間の区間2において、出力軸回転角度センサ40の出力値E1と、ロータ回転角度センサ30の出力値(積算値:Y)とが関連付けられている。なお、積算値Yは、Y=2π×回転回数n+モータ回転角(rad)の関係式により表される。
【0067】
また、
図11に示すように、シフト位置が、P位置、R位置、N位置およびD位置(以下、往路とする)に移動するのに伴って、出力軸回転角度センサ40の出力値E(横軸)は、増加する。また、出力値Eの増加に伴って、積算値Yが増加する。また、シフト位置が、D位置、N位置、R位置およびP位置(以下、復路とする)に移動するのに伴って、出力軸回転角度センサ40の出力値E(横軸)は、減少する。また、出力値Eの減少に伴って、積算値Yが減少する。また、ガタSの分だけ、往路における出力値Eと、復路における出力値Eとは、ずれている。
【0068】
また、本実施形態では、モータ10を第1の方向に回転させた際と、第1の方向とは反対の第2の方向に回転させた際との、複数の所定の位置における出力軸回転角度センサ40の出力値とロータ回転角度センサ30の出力値とが関連付けされるように構成されている。具体的には、ディテントプレート71が矢印A方向に回動されるようにモータ10が第1の方向に回転される。そして、位置Pと位置Rとの間の区間2、位置Rと位置Nとの間の区間2、位置Nと位置Dとの間の区間2における、出力軸回転角度センサ40の出力値と、ロータ回転角度センサ30の出力値(積算値)とが関連付けされる。また、ディテントプレート71が矢印B方向に回動されるようにモータ10が第2の方向に回転される。そして、位置Dと位置Nとの間の区間5、位置Nと位置Rとの間の区間5、位置Rと位置Pとの間の区間5における、出力軸回転角度センサ40の出力値と、ロータ回転角度センサ30の出力値とが関連付けられる。
【0069】
また、本実施形態では、上記の所定の位置は、ディテントプレート71の谷部80の谷底Vから、互いに隣接する谷部80を隔てる頂部Tまでの間の位置である。具体的には、上記の所定の位置は、ディテントスプリング72が、ディテントプレート71の谷部80の谷底Vから山部85の頂部Tに移動するまでの間の位置である。すなわち、上記のように、区間2および区間5において、出力軸回転角度センサ40の出力値と、ロータ回転角度センサ30の出力値とが関連付けられる。
【0070】
また、本実施形態では、中間ギア21と中間ギア22との間のガタSが詰められた状態における、出力軸回転角度センサ40の出力値とロータ回転角度センサ30の出力値との関連付けに基づいて、モータ10の回転回数を検出するように構成されている。具体的には、中間ギア21と中間ギア22との間のガタSが詰められた状態である区間2および区間5において、出力軸回転角度センサ40の出力値と、ロータ回転角度センサ30の出力値とが関連付けられる。
【0071】
次に、モータ10の回転回数の検出について具体的に説明する。なお、モータ10の回転回数の検出は、ECU50によって行われる。
【0072】
まず、ECU50が起動(再起動)される。
【0073】
次に、ロータ回転角度センサ30によりモータ回転角(ロータ11の回転角度:rad)が検出される。なお、この段階で、ロータ11の回転角度(rad)は検出される一方、ロータ11の回転回数は、未知である。
【0074】
次に、出力軸回転角度センサ40の出力値が検出される。たとえば、出力軸回転角度センサ40の出力値は、Exであるとする。
【0075】
次に、不揮発性の記憶部90に記憶されたマップ91が参照される。マップ91では、複数の所定の位置において、出力軸回転角度センサ40の出力値と、ロータ回転角度センサ30の出力値(積算値)とが関連付けられている。ここで、出力軸回転角度センサ40の出力値Exは、出力値E1と出力値E2との間の値であるとする。
【0076】
ここで、本実施形態では、複数の所定の位置における、関連付けの線形補完に基づいて、モータ10の回転回数を検出する。すなわち、出力軸回転角度センサ40の出力値Exは、出力値E1と出力値E2との間の値であるので、出力値E1と出力値E2との間の線形補完によって、出力値Exに対応する積算値(Yxとする)が算出される。そして、Y=2π×回転回数n+モータ回転角(rad)の関係式に基づいて、Yxに対応する回転回数nが求められる。なお、
図8では、説明を簡略化するために、8点の黒丸(関連付けされる位置)のみが記載されている一方、実際には、8点よりも多い多数の点(たとえば、80個の位置)において上記の関連付けが行われている。
【0077】
なお、中間ギア21と中間ギア22との間のガタSに起因して、ロータ11の回転回数の検出に誤りが生じる場合がある。つまり、区間1および区間4においては、ロータ11が回転しても、出力軸回転角度センサ40の出力値が一定である(変化しない)。このため、ロータ11の回転回数が切り替わる際(たとえば、n-1回転からn回転に切り替わる際)に、回転回数の検出に誤りが生じる場合がある。
【0078】
そこで、本実施形態では、ロータ回転角度センサ30に検出されたロータ11の回転角度に基づいて、関連付けに基づいて検出されたモータ10の回転回数を補正する。具体的には、出力軸回転角度センサ40の出力値(線形補完)に基づいて、上記のように積算値Yxが算出されたとする。積算値Yは、2π×回転回数n+モータ回転角の関係を有するので、積算値Yxの場合のモータ回転角が求められる(回転角度rad1とする)。この回転角度rad1と、ECU50の起動時にロータ回転角度センサ30に検出されたロータ11の回転角度(rad2とする)とが比較される。そして、回転角度rad1と回転角度rad2との差に基づいて、(たとえば、差が所定の閾値を超える場合)、検出された回転回数nが、たとえば、n-1に補正される。すなわち、ガタSが設けられているので、付勢力Fによって出力軸25がロータ11よりも先行して回転する場合がある。この場合、出力軸回転角度センサ40の出力値から、回転回数nが検出される一方、実際には、回転回数は、n-1である場合がある。そこで、上記のように検出された回転回数が補正される。
【0079】
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0080】
本実施形態では、上記のように、ディテントプレート71の谷部80に対するディテントスプリング72の所定の位置における、出力軸回転角度センサ40の出力値とロータ回転角度センサ30の出力値との関連付けを行うとともに、関連付けに基づいて、モータ10の回転回数を検出するように構成されている。これにより、外力などに起因してモータ10が動いた場合や電源の失陥が発生した場合(つまり、現在のモータ10の回転回数が記憶部90に記憶されなかった場合)でも、シフト装置100が再起動された際に、上記の関連付けに基づいて、再起動時のモータ10の回転回数が検出される。その結果、モータ10の回転回数が正確に検出されるので、モータ10の回転回数の誤認識に起因して、シフト位置の位置決め精度が悪化するのを抑制することができる。
【0081】
また、たとえば、ディテントスプリング72をディテントプレート71の壁部などに押し当ててディテントプレート71の回動始点を設定する場合と異なり、ディテントスプリング72をディテントプレート71の壁部などに押し当てることなく、モータ10の回転回数を検出することができるので、ディテントプレート71の耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0082】
また、本実施形態では、上記のように、所定の位置における上記の関連付けが不揮発性の記憶部90に記憶されているので、シフト装置100の再起動時に不揮発性の記憶部90に記憶された上記の関連付けを参照することにより、直ちにモータ10の回転回数を検出することができる。
【0083】
また、本実施形態では、上記のように、上記の関連付けがマップ91として記憶されているので、出力軸回転角度センサ40の出力値からマップ91を参照することにより、容易に、モータ10の回転回数を検出することができる。
【0084】
また、本実施形態では、上記のように、モータ10を第1の方向に回転させた際と第2の方向に回転させた際との両方において、モータ10の回転回数を正確に検出することができる。
【0085】
また、本実施形態では、上記のように、モータ10の回転とともに出力軸回転角度センサ40の出力値が変化するディテントプレート71の谷部80の谷底Vから、互いに隣接する谷部80を隔てる山部85の頂部Tまでの間の位置において、上記の関連付けが行われるので、出力軸回転角度センサ40の出力値に基づいて、モータ10の回転回数を正確に検出することができる。
【0086】
また、本実施形態では、上記のように、中間ギア21と中間ギア22との間に(意図的に)ガタSが設けられている場合でも、中間ギア21と中間ギア22との間のガタSが詰められた状態における上記の関連付けが行われるので、モータ10の回転回数を正確に検出することができる。
【0087】
また、本実施形態では、上記のように、連続的に上記の関連付けを行うことなく、離散的な関連付けに基づいて、モータ10の回転回数を検出することができる。これにより、記憶部90に記憶される上記の関連付けの数を減少させることができるので、記憶部90の容量が大きくなるのを抑制することができる。
【0088】
また、本実施形態では、上記のように、ディテントプレート71の谷部80の谷底Vから山部85の頂部Tに移動するまでの間では、モータ10の回転に先行することなく出力軸25が回動するので、モータ10の回転回数をより正確に検出することができる。
【0089】
また、本実施形態では、上記のように、モータ10の回転回数が補正されるので、モータ10の回転回数をより正確に検出することができる。
【0090】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0091】
たとえば、上記実施形態では、出力軸回転角度センサの出力値と、ロータ回転角度センサの出力値との関連付けがマップによって表されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、出力軸回転角度センサの出力値と、ロータ回転角度センサの出力値との関連付けが、演算式により表されていてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、80個の位置における出力軸回転角度センサの出力値と、ロータ回転角度センサ30の出力値とが関連付けされている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、80個の位置以外の数の位置において、関連付けが行われていてもよい。具体的には、ロータ回転角度センサと出力軸回転角度センサとの精度が高い場合、関連付けが行われる位置の数を減少させることが可能になる。
【0093】
また、上記実施形態では、中間ギア(駆動側部材)と中間ギア(従動側部材)との間に、意図的に、所定量のガタが設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、中間ギア(駆動側部材)と中間ギア(従動側部材)との間に、意図的に、所定量のガタを設けなくてもよい。なお、意図的な所定量のガタを設けない場合でも、シフト装置に含まれる機械的な部品には、一般的に意図しないガタ(遊び)が含まれる。
【0094】
また、上記実施形態では、ロータ回転角度センサに検出されたロータの回転角度に基づいて、関連付けに基づいて検出されたモータの回転回数を補正する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ガタが極めて小さい場合など(モータの回転回数を誤検出しない場合)には、モータの回転回数を補正する必要はない。
【0095】
また、上記実施形態では、シフト位置が4つ(P、R、NおよびD)である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、4つ以外の数を有するシフト位置にも本発明を適用することは可能である。
【0096】
また、上記実施形態では、本発明のシフト装置を、自動車用のシフト装置に適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明のシフト装置を、たとえば、航空機や船舶など、自動車用以外のシフト装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0097】
10 モータ
11 ロータ
12 ステータ
20 減速機構部
21 中間ギア(駆動側部材)
22 中間ギア(従動側部材)
30 ロータ回転角度センサ
40 出力軸回転角度センサ
71 ディテントプレート(シフト切替部材)
72 ディテントスプリング(位置決め部材)
80、81、82、83、84 谷部
85 山部
90 記憶部
91 マップ
100 シフト装置
S ガタ
T 頂部
V 谷底