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特許7363142ポリイミド前駆体樹脂組成物、ポリイミド樹脂組成物およびその膜状物、それを含む積層体、ならびにフレキシブルデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体樹脂組成物、ポリイミド樹脂組成物およびその膜状物、それを含む積層体、ならびにフレキシブルデバイス
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20231011BHJP
   C08K 5/3412 20060101ALI20231011BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20231011BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08K5/3412
C08G73/10
B32B27/34
B32B17/10
H05K1/03 610P
H05K1/03 670
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019129805
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2020023671
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2018142177
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 昭典
(72)【発明者】
【氏名】越野 美加
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 大地
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特許第3245849(JP,B2)
【文献】特開2015-120904(JP,A)
【文献】特開2011-097007(JP,A)
【文献】特開2014-070139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 73/00-73/26
B32B 1/00-43/00
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1)で表される構造単位を主成分として含むポリイミド前駆体、(B)一般式(2)で表される化合物、および(C)溶媒を含むポリイミド前駆体樹脂組成物であって、(B)一般式(2)で表される化合物の含有量がポリイミド前駆体樹脂組成物に対して30~4000ppmであり、(A)一般式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体を加熱硬化した場合、そのイミド基濃度が3.0mmol/g~4.5mmol/gであるポリイミド前駆体樹脂組成物。
【化1】
(Rは芳香族テトラカルボン酸残基を表し、Rは芳香族ジアミン残基を表す。XおよびXは各々独立に水素原子または炭素数1~10の1価の有機基を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Rは炭素数1~10のアルキル基および炭素数6~15のアリール基から選ばれる基を表す。また、nは2または3を示す。)
【請求項2】
(A)一般式(1)で表される構造単位が一般式(3)で表される構造を含まない、請求項(1)に記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【化3】
【請求項3】
(B)一般式(2)で表される化合物がN-メチルスクシンイミドである、請求項1または2に記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項4】
一般式(1)中、Rが一般式(4)で表される四価の有機基である請求項1~3のいずれかに記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【化4】
(Yは、(i)直接結合であるか、(ii)酸素原子、硫黄原子、スルホニル基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる一種以上で置換されていてもよい炭素数1~3の二価の有機基であるか、または、(iii)エステル結合、アミド結合、カルボニル基、スルフィド結合および「芳香族環を有する炭素数~20の有機基」からなる群より選ばれる二価の有機基である。)
【請求項5】
一般式(1)中のRが、下記一般式(5)~(7)で表される構造から選ばれた1種以上である請求項1~の何れかに記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【化5】
【請求項6】
一般式(1)中、Rが一般式(8)~(12)のいずれかで表される二価の有機基である、請求項1~5のいずれかに記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【化6】
(式(12)中、Zは各々独立にフッ素原子を示す。mは1または2の整数を示す。)
【請求項7】
前記ポリイミド前駆体が、スルホニル基を有するジアミン残基を、該ポリイミド前駆体の繰り返し単位100モル%中10モル%以上90モル%以下含み、かつ、フッ素原子を有するジアミン残基を、該ポリイミド前駆体の繰り返し単位100モル%中10モル%以上90モル%以下含む請求項1~6のいずれかに記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のポリイミド前駆体樹脂組成物をイミド化して得られるポリイミド樹脂膜であって、一般式(2)で表される化合物の含有量が、ポリイミド樹脂膜の重量に対して0.3~2.4ppmであるポリイミド樹脂膜。
【請求項9】
請求項8に記載のポリイミド樹脂膜の一方にガラス基板を備えた積層体。
【請求項10】
請求項8に記載のポリイミド樹脂膜上に無機膜を有する積層体。
【請求項11】
請求項8に記載のポリイミド樹脂膜を備えたフレキシブルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体樹脂組成物、ポリイミド樹脂組成物およびその膜状物、それを含む積層体、ならびにフレキシブルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機フィルムはガラスに比べて屈曲性に富み、割れにくく、軽量といった特長を有する。最近では、フラットパネルディスプレイの基板を、有機フィルムに替えることで、ディスプレイをフレキシブル化する動きが活発化している。
【0003】
有機フィルムに用いられる樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、アクリル、エポキシ、シクロオレフィンポリマーなどが挙げられる。これらのうち、ポリイミドは高耐熱性樹脂としてディスプレイ基板として適している。しかしながら、一般的なポリイミド樹脂は、高い芳香環密度により、茶色又は黄色に着色し、可視光線領域での透過率が低く、透明性が要求される分野に用いることは困難であった。
【0004】
このようなポリイミドの透明性を向上する課題に対して、特許文献1には、脂環式酸二無水物と水酸基を有するアミン、具体的には2,2-ビス[3-(3-アミノベンズアミド)-4-ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFHA)を用いたポリイミド膜が、高い耐熱性、光透過性を有することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、空気中で焼成を行って得られる透明ポリイミド樹脂膜を用いてフレキシブルなタッチパネルを得る手法に関する開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/24849号
【文献】国際公開第2018/84067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のポリイミドは高い透明性と低い複屈折を有する旨の開示があるが、ポリイミド膜を製膜するためにイナートオーブンで長い時間をかけて焼成を行う必要があるため、ポリイミド膜の製膜にコストと時間がかかるという課題があった。また、支持基板から剥離するためにはエキシマレーザーで照射する必要があり、剥離にコストがかかることも課題であった。
【0008】
また、特許文献2には空気中で30分間焼成を行うことで透明なポリイミド樹脂膜が得られる旨の開示がある。しかし、特許文献2に記載のある透明ポリイミド樹脂膜のガラス転移温度は220℃~230℃程度であり、ガラス転移温度が低いという課題があった。ガラス転移温度が低いポリイミドを用いる場合、例えばパネルの信頼性向上のためポリイミド樹脂膜上に無機膜を形成した後にタッチパネルやカラーフィルターを形成すると、ポリイミド樹脂膜のガラス転移温度が低いために無機膜にシワが発生し、表面平滑性が低下する。
【0009】
このように、透明で、ガラス転移温度が高く、さらにガラス支持基板から容易に剥離ができるポリイミドを効率よく得る方法は知られていない。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み、空気中で短時間加熱することで、透明で、ガラス転移温度が高く、支持基板から容易に剥離が可能なポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、(A)一般式(1)で表される構造単位を主成分として含むポリイミド前駆体、(B)一般式(2)で表される化合物および(C)溶媒を含むポリイミド前駆体樹脂組成物であって、(B)一般式(2)で表される化合物の含有量がポリイミド前駆体樹脂組成物に対して30~4000ppmであるポリイミド前駆体樹脂組成物である。
【0012】
【化1】
【0013】
(Rは芳香族テトラカルボン酸残基を表し、Rは芳香族ジアミン残基を表す。XおよびXは各々独立に水素原子または炭素数1~10の1価の有機基を表す。)
【0014】
【化2】
【0015】
(一般式(2)中、Rは炭素数1~10のアルキル基および炭素数6~15のアリール基から選ばれる基を表す。nは2または3を示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、空気中で短時間加熱することで、透明で、ガラス転移温度が高く、ガラス支持基板から容易に剥離が可能なポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体樹脂組成物を提供することができる。本発明のポリイミド前駆体樹脂組成物から得られるポリイミド樹脂組成物は、電子デバイス、例えばタッチパネル、カラーフィルター等のディスプレイ用の支持基板として好適に用いることができる。このような支持基板を用いることで、高精彩で信頼性の高いディスプレイの作成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜を含むカラーフィルターの一例を示す断面図
図2】積層体の耐屈曲性評価を行う際の模式斜視図
図3】積層体の耐屈曲性評価を行う際の模式斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0019】
<ポリイミド前駆体樹脂組成物>
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体樹脂組成物は、(A)一般式(1)で表される構造単位を主成分として含むポリイミド前駆体(以下、単に「(A)ポリイミド前駆体」と称する場合がある)、(B)一般式(2)で表される化合物および(C)溶媒を含むポリイミド前駆体樹脂組成物であって、(B)一般式(2)で表される化合物の含有量がポリイミド前駆体樹脂組成物に対して30~4000ppmであるポリイミド前駆体樹脂組成物である。
【0020】
【化3】
【0021】
は芳香族テトラカルボン酸残基を表し、Rは芳香族ジアミン残基を表す。XおよびXは各々独立に水素原子または炭素数1~10の1価の有機基を表す。)
【0022】
【化4】
【0023】
一般式(2)中、Rは炭素数1~10のアルキル基および炭素数6~15のアリール基から選ばれる基を表す。nは2または3を示す。
【0024】
なお、「炭素数1~10」は、「炭素数1以上、炭素数10以下」を示す。本発明における同様の記載は同様の意味を示す。
【0025】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体樹脂組成物は、一般式(1)で表される構造単位を主成分として含むポリイミド前駆体と、一般式(2)で表される化合物とを好ましい割合で含むことで、以下のような効果を奏する。このポリイミド前駆体樹脂組成物を、空気中で短時間加熱することで、透明で、ガラス転移温度が高いポリイミド樹脂膜を得ることができる。また、当該樹脂膜は支持基板から容易に剥離することができる。
【0026】
[(A)ポリイミド前駆体]
一般式(1)で表される構造単位は、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体樹脂において、繰り返し構造単位である。以下、これらの構造単位を、「繰り返し構造単位」または単に「繰り返し単位」と呼ぶ場合がある。
【0027】
ここで、主成分とは、一般式(1)で表される構造単位を、ポリマーの全構造単位の50mol%以上有することを意味する。一般式(1)で表される構造をポリマーの全構造単位の50mol%以上含むことにより、大気雰囲気下で加熱を行った際の酸化が起こりにくくなる。それにより、空気中で加熱焼成しても透明なポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0028】
なお、全構造単位とは、一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を構成する、全ての構造単位のことである。具体的には、一般式(1)で表される繰り返し単位の合計量(mol基準)のことである。ただし、ポリイミド前駆体が一般式で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位構造も含む場合は、一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(1)表される繰り返し単位以外の繰り返し単位構造との合計量(mol基準)のことである。
【0029】
一般式(1)で表される構造単位の含有量は、ポリマーの全構造単位の70mol%以上であることが、さらに好ましい。なお、ポリマーの単位構造の比率は、ポリイミド前駆体やポリイミドの質量分析、熱分解ガスクロマトグラフィー(GC)、NMR、IR測定により、測定することができる。
【0030】
一般式(1)中のXおよびXが炭素数1~10の一価の有機基である場合の例としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族基、アルキルシリル基などが挙げられる。飽和炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、tert-ブチル基などのアルキル基が挙げられる。飽和炭化水素基はさらにハロゲン原子で置換されていてもよい。不飽和炭化水素基としては、例えば、ビニル基、エチニル基、ビフェニル基、フェニルエチニル基などが挙げられる。芳香族基としては、例えばフェニル基などが挙げられる。芳香族基はさらに飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基やハロゲン原子で置換されていてもよい。アルキルシリル基の例としては、トリメチルシリル基などが挙げられる。
【0031】
一般式(1)中、Rは芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の残基であり、Rは芳香族ジアミンの残基である。R、Rの炭素数は6~40であることが好ましい。
【0032】
を与えるテトラカルボン酸としては、例として、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0033】
また、Rは一般式(3)で表される構造を含まないことが好ましい。一般式(3)で表される構造は、ビス(トリフルオロメチル)メチレン構造である。Rが一般式(3)の構造を含まないことにより、空気中で加熱焼成する時の酸化黄変を抑制でき、透明なポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0034】
【化5】
【0035】
これらのテトラカルボン酸は、そのまま使用してもよいし、酸無水物、活性エステル、活性アミドなどのテトラカルボン酸誘導体の状態で使用してもよい。これらのうち、酸無水物は、重合時に副生成物が生じないため好ましく用いられる。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0036】
一般式(1)におけるRは、下記一般式(4)で表される四価の有機基であることが好ましい。
【0037】
【化6】
【0038】
は、直接結合であるか、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる一種以上で置換されていてもよい炭素数1~3の二価の有機基であるか、または、エステル結合、アミド結合、カルボニル基、スルフィド結合および芳香族環を有する炭素数1~20の有機基からなる群より選ばれる二価の架橋構造である。
【0039】
一般式(4)で表される構造を与える化合物として、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、9、9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0040】
一般式(1)におけるRは、なかでも、一般式(5)~(7)で表される構造から選ばれた1種以上であることが特に好ましい。一般式(5)で表される構造を含むことで、ガラス転移温度が高いポリイミドを得ることができる。また、一般式(6)で表される構造を含むことで、透明性が高く、複屈折の小さく、ガラス転移温度の高いポリイミドを得ることができる。また、一般式(7)で表される構造を含むことで、透明性が高く、複屈折の小さいポリイミドを得ることができる。
【0041】
【化7】
【0042】
を与えるジアミンとしては、例として、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジ(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、3-アミノフェニル-4-アミノベンゼンスルホナート、4-アミノフェニル-4-アミノベンゼンスルホナート、9,9-ビス(3-フルオロ-4-アミノフェニル)フルオレン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2 ’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、9,9-ビス(3-フルオロ-4-アミノフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0043】
また、Rは一般式(3)で表される構造を含まないことが好ましい。Rが一般式(3)の構造を含まないことにより、空気中で加熱焼成する時の酸化黄変を抑制でき、透明なポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0044】
【化8】
【0045】
一般式(1)におけるRは、下記一般式(8)~(12)のいずれかで表される二価の有機基であることが好ましい。一般式(8)~(12)で表される構造を与える化合物として、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2 ’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、9,9-ビス(3-フルオロ-4-アミノフェニル)フルオレンが挙げられる。これらの化合物を含むことで耐熱性が高く、透明性の高いポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0046】
【化9】
【0047】
式(12)中、Zは各々独立に水素原子またはフッ素原子を示すが、少なくとも1つのZはフッ素原子である。mは1または2の整数を示す。
【0048】
また、(A)ポリイミド前駆体が、スルホニル基を有するジアミン残基を、該ポリイミド前駆体の100モル%中10モル%以上90モル%以下含み、かつ、フッ素原子を有するジアミン残基を、該ポリイミド前駆体の100モル%中10モル%以上90モル%以下含むことが好ましく、スルホニル基を有するジアミン残基を、該ポリイミド前駆体の100モル%中20モル%以上80モル%以下含み、かつ、フッ素原子を有するジアミン残基を、該ポリイミド前駆体の100モル%中20モル%以上80モル%以下含むことがさらに好ましい。上記の範囲内でスルホニル基を有するジアミン残基とフッ素原子を有するジアミン残基とを含むことで、キュア膜に含まれる一般式(2)の化合物の量を好ましい範囲にコントロールすることができ、高いガラス転移温度と良好な剥離性が両立できる。
【0049】
さらに、スルホン酸エステルを分子内に有するジアミンを用いることにより、ポリイミドの透明性、耐熱性を維持したまま、ガラス転移温度を向上することができるため、好ましい。すなわち、(A)ポリイミド前駆体は、さらに、一般式(13)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0050】
【化10】
【0051】
は芳香族テトラカルボン酸残基を示す。Y及びYは同じでも異なっていてもよく、芳香族環、または、芳香族環と、アミド基、エステル基、エーテル基、アルキレン基、オキシアルキレン基、ビニレン基およびハロアルキレン基、チオエーテル基、フルオレニル基、スルホン酸エステル基、スルホニル基からなる群より選ばれる基の一種以上との組み合わせからなる構造である。
【0052】
一般式(13)で表される構造を与えるジアミンとしては、例として、一般式(14)~(22)で表される構造が挙げられる。
【0053】
【化11】
【0054】
なかでも、一般式(13)で表される構造単位は、下記一般式(23)で表される構造単位を含有することが好ましい。これにより、ガラス基板からの剥離性を悪化させることなくポリイミド樹脂の透明性を向上させ、更にガラス転移温度を上昇させることができる。この構造を与えるジアミンは、3-アミノフェニル-4-アミノベンゼンスルホナートである。
【0055】
【化12】
【0056】
(A)ポリイミド前駆体は、一般式(13)で表される構造単位を、1mol%以上25mol%以下の範囲で含むことが好ましく、2mol%以上20mol%以下の範囲で含むことがより好ましい。
【0057】
(A)ポリイミド前駆体は、本発明の効果を妨げない範囲で、他の構造単位を含んでもよい。他の構造単位としては、ポリアミド酸の脱水閉環体であるポリイミド、ポリヒドロキシアミドの脱水閉環体ポリベンゾオキサゾール等が挙げられる。
【0058】
他の構造単位に用いられる酸二無水物としては、国際公開第2017/099183号に記載の芳香族酸二無水物、脂環式酸二無水物又は、脂肪族酸二無水物が挙げられ、他の構造単位に用いられるジアミン化合物としては国際公開第2017/099183号に記載の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン又は、脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0059】
(A)ポリイミド前駆体は、Rおよび/またはRの中に、一般式(24)で表される構造を有していてもよい。ポリイミド前駆体が一般式(24)で表される構造を有することで、これを用いて得られるポリイミド樹脂膜と無機膜との間に生じる残留応力を低減することができる。そのため、基板上にポリイミド樹脂膜と無機膜とを積層した際の基板反りを抑制することができる。
【0060】
【化13】
【0061】
式(24)中、RおよびRは、各々独立に、炭素数1~20の一価の有機基を示す。xは3~200の整数を示す。
【0062】
およびRにおける炭素数1~20の一価の有機基としては、炭化水素基、アミノ基、アルコキシ基、エポキシ基等を挙げることができる。RおよびRにおける炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。
【0063】
炭素数1~20のアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。炭素数3~20のシクロアルキル基としては、炭素数3~10のシクロアルキル基であることが好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数6~20のアリール基としては、炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0064】
およびRにおけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、プロペニルオキシ基およびシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0065】
一般式(24)におけるRおよびRは、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素基、または炭素数6~10の芳香族基であることが好ましい。なぜならば、得られるポリイミド膜が、高い耐熱性と低い残留応力を兼ね備えるからである。ここで、炭素数1~3の一価の脂肪族炭化水素は、好ましくはメチル基であり、炭素数6~10の芳香族基は、好ましくはフェニル基である。
【0066】
一般式(24)中のxは、3~200の整数であり、好ましくは10~200、より好ましくは20~150、さらに好ましくは30~100、特に好ましくは30~60の整数である。xが前記範囲内である場合、ポリイミドの残留応力を低減し、基板反りを低減することができる。また、ポリイミド膜が白濁したり、ポリイミド膜の機械強度が低下したりすることを抑制できる。
【0067】
一般式(24)で表される構造を有するポリイミド前駆体樹脂は、下記一般式(23)で表されるシリコーン化合物をモノマー成分として用いることにより得られる。
【0068】
【化14】
【0069】
式(25)中、複数あるRは、それぞれ独立に、単結合または炭素数1~20の二価の有機基であり、複数あるR、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の一価の有機基であり、L、LおよびLは、それぞれ独立に、アミノ基、酸無水物基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、エポキシ基、メルカプト基、及びR10からなる群より選ばれる1つの基である。R10は炭素数1~20の一価の有機基である。yは、3~200の整数であり、zは、0~197の整数である。
【0070】
(A)一般式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体を加熱硬化した場合、そのイミド基濃度が3.0mmol/g~4.5mmol/gであることが好ましく、3.3mmol/g~4.1mmol/gであることがさらに好ましい。イミド基濃度が上記範囲であることで、ガラス転移温度が高く、透明性が高く、キュア時のクラック発生の抑制が可能なポリイミド樹脂膜を得ることができる。ここで、イミド基濃度の計算方法を以下に記載する。
【0071】
(イミド基濃度の計算)
イミド化率が100モル%であると仮定して、モノマー1モルあたり、2つのイミド基を有するため、下記式を用いて、イミド基濃度(イミド化率が100モル%であると仮定した場合の理論値)を求める。
【0072】
イミド基モル数(mol):酸無水物モノマー又はアミンモノマーのモル数(いずれかが少ない場合はそのモル数)×2
ポリイミド重量(g)=酸無水物モノマーおよびアミンモノマーの総重量-イミド基モル数×水の分子量(18.02g/mol)
イミド基濃度(mmol/g)=イミド基モル数×1000/ポリイミド重量
また、(A)のポリイミド前駆体は、一般式(1)で表される構造単位の一部がイミド化していてもよい。ポリイミド前駆体の一部をイミド化することで、樹脂溶液の室温保管時の粘度安定性を向上することができる。(A)のポリイミド前駆体のイミド化率の範囲としては、1%~50%が、溶液への溶解性、粘度安定性の観点から好ましい。イミド化率は、より好ましくは5%以上であり、また30%以下である。
【0073】
ポリイミド前駆体のイミド化を促進するため、イミド化促進剤を使うことができる。例えば、ポリイミド前駆体重合を重合する際にイミド化促進剤を添加することで、ポリイミド前駆体のイミド化率を高めることができる。ここでいうイミド化促進剤とは、求核性または求電子性を高める働きをもつ化合物であり、具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の三級アミン化合物;4-ヒドロキシフェニル酢酸、3-ヒドロキシ安息香酸等のカルボン酸化合物;3,5-ジヒドロキシアセトフェノン、3,5-ジヒドロキシ安息香酸メチル等の多価フェノール化合物、ピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、1,2,4-トリアゾール等の複素環化合物;等が挙げられる。
【0074】
一部がイミド化した(A)ポリイミド前駆体としては、例えば、一般式(26)、一般式(27)及び一般式(28)で表される繰り返し単位を各々有する樹脂が挙げられる。
【0075】
【化15】
【0076】
一般式(26)~(28)中、R11は二価の有機基を示し、R12は四価の有機基を示す。WおよびWは、各々独立に、水素原子、炭素数1~10の一価の有機基または炭素数1~10の一価のアルキルシリル基を示す。R11の二価の有機基としては上述のジアミン残基と同様であり、R12の四価の有機基としては上述のテトラカルボン酸残基と同様である。
【0077】
ポリイミド前駆体中の、式(26)、(27)および(28)で表される繰り返し単位の数を、それぞれp、q、rとする。
【0078】
pは1以上の整数を示し、q及びrは、各々独立に0又は1以上の整数を示し、且つ1%≦(2r+q)×100/(2p+2q+2r)≦50%の関係を満たすことが好ましく、5%≦(2r+q)×100/(2p+2q+2r)≦30%の関係を満たすことがより好ましい。
【0079】
ここで、「(2r+q)×100/(2p+2q+2r)」は、ポリイミド前駆体の結合部(テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応部)において、イミド閉環している結合部数(2r+q)の全結合部数(2p+2q+2r)に対する割合を示している。つまり、「(2r+q)×100/(2p+2q+2r)」はポリイミド前駆体のイミド化率を示している。
【0080】
そして、(A)のポリイミド前駆体のイミド化率(「(2r+q)×100/(2p+2q+2r)」の値)を1~50%、より望ましくは5~30%とすることにより、(A)のポリイミド前駆体の溶液への溶解性を悪化させることなく、粘度安定性を向上させることができる。
【0081】
(A)のポリイミド前駆体のイミド化率(「(2r+q)×100/(2p+2q+2r)」の値)は、次の方法により測定される。
【0082】
-ポリイミド前駆体のイミド化率の測定-
・ポリイミド前駆体試料の作製
(a)測定対象となるポリイミド前駆体組成物を、シリコンウエハ上に、膜厚1μm以上10μm以下の範囲で塗布して、塗膜試料を作製する。
【0083】
(b)塗膜試料をテトラヒドロフラン(THF)中に20分間浸漬させて、塗膜試料中の溶剤をテトラヒドロフラン(THF)に置換する。浸漬させる溶媒は、THFに限定されることなく、ポリイミド前駆体を溶解せず、ポリイミド前駆体組成物に含まれている溶媒成分と混和し得る溶剤より選択できる。具体的には、メタノール、エタノールなどのアルコール溶媒、ジオキサンなどのエーテル化合物が使用できる。
【0084】
(c)塗膜試料を、THF中より取り出し、塗膜試料表面に付着しているTHFにNガスを吹き付け、取り除く。10mmHg以下の減圧下、5℃以上25℃以下の範囲にて12時間以上処理して塗膜試料を乾燥させ、ポリイミド前駆体試料を作製する。
【0085】
・100%イミド化標準試料の作製
(d)上記(a)と同様に、測定対象となるポリイミド前駆体組成物をシリコンウエハ上に塗布して、塗膜試料を作製する。
【0086】
(e)塗膜試料を380℃にて60分間加熱してイミド化反応を行い、100%イミド化標準試料を作製する。
【0087】
・測定と解析
(f)フーリエ変換赤外分光光度計(堀場製作所製FT-730)を用いて、100%イミド化標準試料、ポリイミド前駆体試料の赤外吸光スペクトルを測定する。100%イミド化標準試料の1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab’(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab’(1780cm-1))の比I’(100)を求める。
【0088】
(g)同様にして、ポリイミド前駆体試料について測定を行い、1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab(1780cm-1))の比I(x)を求める。
【0089】
そして、測定した各吸光ピークI’(100)、I(x)を使用し、下記式に基づき、ポリイミド前駆体のイミド化率を算出する。
・式: ポリイミド前駆体のイミド化率(%)=I(x)×100/I’(100)
・式: I’(100)=(Ab’(1780cm-1))/(Ab’(1500cm-1))
・式: I(x)=(Ab(1780cm-1))/(Ab(1500cm-1))。
【0090】
(A)ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~1,000,000であり、より好ましくは10,000~500,000であり、さらに好ましくは20,000~400,000である。(A)のポリイミド前駆体の数平均分子量(Mn)は5,000~1,000,000、好ましくは5,000~500,000、特に好ましくは15,000~300,000である。
【0091】
ポリイミド前駆体の重量平均分子量および数平均分子量が上記範囲内であると、得られる塗膜の平坦性を悪化させることなく、キュア後に得られる膜の強度を高めることが可能である。
【0092】
なお、重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布は、TOSOH製DP-8020型GPC装置(ガードカラム:TSK guard colomn ALPHA カラム:TSK-GEL α-M、展開溶剤:N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、0.05M-LiCl、0.05%リン酸添加)を用いて測定した値である。
【0093】
(A)ポリイミド前駆体は、化学式(1)で表される構造単位を含んでいる樹脂であり、末端が末端封止剤により封止されたものであってもよい。末端封止剤を反応させることで、ポリイミド前駆体の分子量を好ましい範囲に調整できる。
【0094】
末端のモノマーがジアミン化合物である場合は、そのアミノ基を封止するために、ジカルボン酸無水物、モノカルボン酸、モノカルボン酸クロリド化合物、モノカルボン酸活性エステル化合物、二炭酸ジアルキルエステルなどを末端封止剤として用いることができる。
【0095】
末端のモノマーが酸二無水物である場合は、その酸無水物基を封止するために、モノアミン、モノアルコールなどを末端封止剤として用いることができる。
【0096】
[(B)一般式(2)で表される化合物]
一般式(2)で表される化合物はイミド構造を有する環状化合物である。イミド構造を有する環状化合物を含まないポリイミド前駆体樹脂組成物は、空気中で短時間加熱を行うことができるよう予め加熱されたオーブンに投入(ダイレクトイン)すると、ポリイミド分子が配向する前に溶媒が除去されてしまうため、ポリイミド分子の配向が乱れ、得られるポリイミド樹脂膜は分子間相互作用が小さい状態となる。結果、ガラス転移温度の低いポリイミド樹脂膜が得られる。
【0097】
一方、本発明のように、イミド構造を有する環状化合物を含むポリイミド前駆体樹脂組成物の場合、イミド構造を有する環状化合物は、ポリイミド前駆体樹脂中のカルボキシル基との間で水素結合により相互作用するため、ポリイミド前駆体樹脂組成物を加熱硬化させる工程で膜中に留まりやすい。その結果、ポリイミド前駆体樹脂がポリイミドに変換される加熱硬化過程において、イミド構造を有する環状化合物が可塑剤の働きをし、ポリイミド樹脂が最も安定的な立体配座を取れるようになり、ポリイミド樹脂膜の配向が促進される。結果、得られるポリイミド樹脂膜のガラス転移温度が高くなる。
【0098】
また、ポリイミド樹脂膜中に微量残存するイミド構造を有する環状化合物が、ガラス基板の表面に存在する水酸基とポリイミド樹脂との相互作用を一部妨げるため、ポリイミド樹脂膜をガラス支持基板から容易に剥離することができる。
【0099】
における炭素数1~10のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。炭素数6~15のアリール基としては、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0100】
また、一般式(2)におけるnは2または3を示す。nが上記数値である場合、得られるポリイミド樹脂組成物の透明性、発ガスを悪化させることなくガラス転移温度を向上させ、かつ、ガラス支持基板から容易に剥離可能なポリイミド樹脂を得ることができる。
【0101】
一般式(2)で表される化合物としては、N-メチルスクシンイミド(MSI)、N-エチルスクシンイミド(ESI)、N-フェニルスクシンイミド(PSI)、1-メチルピペリジン-2,6-ジオン、1-エチルピペリジン-2,6-ジオン、1-フェニルピペリジン-2,6-ジオンなどが挙げられる。中でもガラス転移温度向上、剥離性向上の効果の点から、N-メチルスクシンイミドが好ましい。N-メチルスクシンイミドはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の酸化体であり、例えば、NMPに酸素を含む気体をバブリングすることで生成する。もちろん、ポリイミド前駆体樹脂組成物の中に、別途、N-メチルスクシンイミドを添加してもよい。
【0102】
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体樹脂組成物中の(B)一般式(2)で表される化合物の含有量は、ポリイミド前駆体樹脂組成物に対して、合計で30~4000ppmであり、50~3000ppmであることがより好ましく、50~2500ppmであることがさらに好ましく、100~2500ppmであることがよりいっそう好ましい。上記範囲で一般式(2)で表される化合物を含むことで、黄色度を悪化させることなくポリイミド樹脂膜のガラス転移温度を向上させ、かつ、ガラス基板からの剥離性を向上させることができる。
【0103】
[(C)溶媒]
(C)溶媒としては特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例として、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、γ-ブチロラクトン、乳酸エチル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレンウレア、1,1,3,3-テトラメチルウレア、ジメチルスルホキシド、スルホラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、水や、国際公開第2017/099183号に記載の溶剤などを、単独で、または2種以上使用することができる。中でも、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンを含むことが特に好ましい。溶媒がN-メチルピロリドンを含むことで、ポリイミド前駆体の重合過程でN-メチルピロリドンを酸化してN-メチルスクシンイミドを生成することができ、得られるポリイミド樹脂膜のガラス転移温度、剥離性を向上させることができる。
【0104】
(C)溶媒の含有量は、(A)ポリイミド前駆体100重量部に対して、好ましくは200重量部以上、より好ましくは300重量部以上であり、好ましくは2,000重量部以下、より好ましくは1,500重量部以下である。200~2,000重量部の範囲であれば、塗布に適した濃度および粘度となり、スリットコーターで塗布を行った際に良好な膜厚均一性を得ることができる。
【0105】
[その他の成分]
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体樹脂組成物は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、フロラード(商品名、住友3M(株)製)、メガファック(商品名、DIC(株)製)、スルフロン(商品名、旭硝子(株)製)等のフッ素系界面活性剤があげられる。また、KP341(商品名、信越化学工業(株)製)、ポリフロー、グラノール(商品名、共栄社化学(株)製)、BYK(ビック・ケミー(株)製)等の有機シロキサン界面活性剤が挙げられる。エマルミン(三洋化成工業(株)等のポリオキシアルキレンラウリエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルおよびポリオキシエチレンセチルエーテル界面活性剤が挙げられる。さらに、ポリフロー(商品名、共栄社化学(株)製)等のアクリル重合物界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、樹脂組成物100重量部に対し、0.001~1重量部含有することが好ましい。
【0106】
本発明の樹脂組成物は、内部離型剤を含有していてもよい。内部離型剤としては、長鎖脂肪酸等が挙げられる。
【0107】
本発明の樹脂組成物は、基材との接着性向上のため、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤を添加することができる。上記カップリング剤としては、公知のものを用いることができる。これらは2種以上を併用してもよい。このときの使用量は、ポリイミド前駆体に対して、0.01重量%以上、2重量%以下が好ましい。
【0108】
<ポリイミド前駆体樹脂組成物の製造方法>
ポリアミド酸やポリアミド酸エステル、ポリアミド酸シリルエステルなどのポリイミド前駆体は、ジアミン化合物とテトラカルボン酸又はその誘導体との反応により合成することができる。誘導体としては、該テトラカルボン酸の酸無水物、活性エステル、活性アミドが挙げられる。重合反応の反応方法は、目的のポリイミド前駆体が製造できれば特に制限はなく、公知の反応方法を用いることができる。
【0109】
具体的な反応方法としては、所定量の全てのジアミン成分および溶媒を反応器に仕込み溶解させた後、所定量の酸二無水物成分を仕込み、室温~120℃で0.5~30時間撹拌する方法などが挙げられる。中でも溶媒にN-メチルピロリドンを用いて、空気を含むガスをバブリングしながら反応を行うとN-メチルピロリドンが酸化されてN-メチルスクシンイミドが生成し、得られるポリイミド樹脂膜のガラス転移温度を高めることが出来るため好ましい。空気を含むガスは例えば酸素を約20.9体積%含むクリーンドライエアや酸素を1~21体積%含む酸素・窒素混合ガスなどが挙げられる。
【0110】
上述の方法で得られたポリイミド前駆体に、前述の溶媒、界面活性剤、内部離型剤、カップリング剤を添加してもよい。
【0111】
ポリイミド前駆体樹脂組成物中の水分率は0.05質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。ポリイミド前駆体樹脂組成物の水分率が前述の範囲内であることでポリイミド前駆体樹脂組成物の粘度保存安定性を向上させることができる。ここでいう水分率は、液温23℃に調節し、カールフィッシャー法で測定した値を指す。カールフィッシャー法で水分率を測定するには、カールフィッシャー水分率滴定装置(例えば「MKS-520」(商品名、京都電子工業(株)製)など)を用い、「JIS K0068(2001)」に基づき、容量滴定法により、水分率測定を行う。
【0112】
<ポリイミド樹脂組成物>
本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜は、上記ポリイミド前駆体樹脂組成物をイミド化して得られるものである。
【0113】
イミド化の方法は、特に制限されないが、加熱によるイミド化や化学イミド化が挙げられるが、中でも得られるポリイミド樹脂組成物の耐熱性、可視光領域での透明性の観点から、加熱によるイミド化が好ましい。ポリイミド前駆体樹脂組成物膜を180℃以上550℃以下の範囲で加熱してポリイミド樹脂組成物に変換する。これを熱イミド化工程という。なお、熱イミド化工程は、塗膜から溶媒を蒸発させる工程の後に何らかの工程を経てから行われても構わない。
【0114】
塗膜から溶媒を蒸発させる工程は、具体的には塗膜を真空乾燥や加熱すればよいが、イミド化後の膜の透明性を考慮すると、白濁なく溶媒を蒸発させることが好ましい。乾燥には、ホットプレート、オーブン、赤外線、真空チャンバーなどを使用する。
【0115】
中でも、真空チャンバーを用いて真空乾燥させることが好ましく、真空乾燥後にさらに乾燥のための加熱を行ったり、真空乾燥しながら乾燥のための加熱を行ったりすることがさらに好ましい。これにより、乾燥処理時間の短縮が可能となり、さらに、均一な塗布膜を得ることができる。乾燥のための加熱の温度は被加熱体の種類や目的により様々であり、室温から170℃の範囲で1分から数時間行うことが好ましい。室温とは通常20~30℃であるが好ましくは25℃である。さらに、乾燥工程は同一の条件、又は異なる条件で複数回行ってもよい。
【0116】
熱イミド化工程の雰囲気は特に限定されず、空気でも窒素やアルゴン等の不活性ガスでもよい。本発明のポリイミド樹脂組成物は酸化に対する耐性が高いため、オーブンを用いて大気雰囲気下で30分~2時間加熱を行うことで透明なポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0117】
また、熱イミド化のための加熱温度に到達するまでに要する時間は特に限定されず、製造ラインの加熱形式にあわせた昇温方法を選択することができる。例えば、オーブン内にて、基材上に形成されたポリイミド前駆体樹脂組成物を室温から、熱イミド化のための加熱温度まで5~120分かけて昇温してもよいし、予め180℃以上550℃以下の範囲に加熱されたオーブン内に基材上に形成されたポリイミド前駆体樹脂組成物をいきなり投入して加熱処理を行ってもよい。また、必要に応じて、減圧下にて加熱してもよい。
【0118】
<ポリイミド樹脂組成物の膜状物>
本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂組成物の膜状物(以下、単に「ポリイミド樹脂膜」と称する場合がある。)とは、(A)ポリイミド前駆体をイミド化してなるポリイミドを含む膜である。
【0119】
ポリイミド樹脂組成物の膜状物は、例えば以下の方法で得ることができる。上記ポリイミド前駆体樹脂組成物を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から溶媒を蒸発させる工程と、ポリイミド前駆体をイミド化する工程を含む方法等である。
【0120】
上記ポリイミド前駆体樹脂組成物を基板上に塗布して塗膜を形成する方法としては、ロールコート法、スピンコート法、スリットコート法、およびドクターブレード、コーターなどを用いて塗布する方法等が挙げられる。なお、塗布の繰り返しにより膜の厚みや表面平滑性などを制御してもよい。中でも、塗布膜の表面平滑性、膜厚均一性の観点から、スリットダイコート法が好ましい。
【0121】
塗膜の厚さは、所望の用途に応じて適宜選択され、特に限定されないが、例えば1~500μmであり、好ましくは2~250μmであり、特に好ましくは5~125μmである。
【0122】
基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、シリコンウエハ、ガラスウエハ、オキサイドウエハ、ガラス基板、Cu基板およびSUS板などが挙げられる。中でも、表面平滑性、加熱時の寸法安定性の観点から、ガラス基板が好ましい。ガラスとしては、無アルカリガラスが好ましく、表面平滑性、剥離性の観点からソーダガラスが好ましい。
【0123】
塗膜から溶媒を蒸発させる工程は、具体的には塗膜を真空乾燥や加熱すればよいが、イミド化後の膜の透明性を考慮すると、白濁なく溶媒を蒸発させることが好ましい。乾燥には、ホットプレート、オーブン、赤外線、真空チャンバーなどを使用する。
【0124】
中でも、真空チャンバーを用いて真空乾燥させることが好ましく、真空乾燥後にさらに乾燥のための加熱を行ったり、真空乾燥しながら乾燥のための加熱を行ったりすることがさらに好ましい。これにより、乾燥処理時間の短縮が可能となり、さらに、均一な塗布膜を得ることができる。乾燥のための加熱の温度は被加熱体の種類や目的により様々であり、室温から170℃の範囲で1分から数時間行うことが好ましい。室温とは通常20~30℃であるが好ましくは25℃である。さらに、乾燥工程は同一の条件、又は異なる条件で複数回行ってもよい。
【0125】
以上の膜形成工程を経て得られた膜は、基板から剥離して用いることができるし、あるいは剥離せずにそのまま用いることもできる。
【0126】
剥離方法の例としては、ポリイミド膜の端部にカッターなどで切れ込みを入れて機械的に剥離を行う方法、水に浸漬する方法、塩酸やフッ酸などの薬液に浸漬する方法、紫外光から赤外光の波長範囲のレーザー光をポリイミド樹脂組成物の膜状物と基板の界面に照射する方法などが挙げられるが、ポリイミド樹脂組成物の膜状物の上にデバイスを作成してから剥離を行う場合は、デバイスへ損傷を与えることなく剥離を行う必要があるため、ポリイミド膜の端部にカッターなどで切れ込みを入れて機械的に剥離を行う方法、または紫外光のレーザーを用いた剥離が好ましい。なお、剥離を容易にするために、ポリイミド前駆体樹脂組成物を基材へ塗布する前に、基板に離型剤を塗布したり犠牲層を製膜したりしておいてもよい。離型剤としては、シリコーン系、フッ素系、芳香族高分子系、アルコキシシラン系等が挙げられる。犠牲層としては、金属膜、金属酸化物膜、アモルファスシリコン膜等が挙げられる。
【0127】
得られる膜の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択されるが、好ましくは1~100μm、より好ましくは5~30μm、特に好ましくは7~20μmである。
【0128】
本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜の引っ張り弾性率は、1.5GPa以上、3.5GPa以下であることが好ましい。引張り弾性率が前記範囲内であることでフィルムを基板から剥離する際の破断を抑制し、さらに残留応力を低減することができる。
【0129】
本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜の破断伸度は、10%以上が好ましく、さらに好ましくは15%以上、特に好ましくは20%以上である。膜の破断伸度が10%以上だと耐屈曲性に優れるため好ましい。
【0130】
本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜のガラス転移温度は240℃以上、好ましくは250℃以上である。デバイス作製時には240℃以上に加熱されるため、ガラス転移温度が240℃未満であると、このような用途に前記膜を用いる場合には、該膜が変形してしまうことがある。
【0131】
本発明の実施の形態に係るポリイミド樹脂膜中の(B)一般式(2)で表される化合物の含有量は、ポリイミド樹脂膜の重量に対して、合計で0.3~2.4ppmであることが好ましく、0.3~2.0ppmであることがより好ましく、0.3~1.5ppmであることがよりいっそう好ましい。
【0132】
ポリイミド樹脂膜が上記範囲で一般式(2)で表される化合物を含むことで、黄色度を大きく悪化させることなく、ガラス基板からの剥離性を向上させることができる。さらに、ポリイミド樹脂膜のガラス転移温度を高めることができるため、ポリイミド樹脂膜上に無機膜を形成した後に、無機膜にシワが発生することを抑制できる。加えて、ポリイミド樹脂膜と無機膜の界面で発生する応力が緩和されるため、ポリイミド樹脂膜上に無機膜が形成された状態で屈曲させた際の無機膜へのクラック発生を抑制することができ、フレキシブル性に富んだ積層体を得ることが可能になる。
【0133】
<積層体>
本発明の実施の形態に係る積層体は、上記ポリイミド樹脂組成物の膜状物と、無機膜とを有する。
【0134】
無機膜の例としては、ガスバリア層が挙げられる。ガスバリア層は、水蒸気や酸素等の透過を防ぐ役割を果たすものである。水分や酸素による電子デバイスの劣化を抑制するため、ポリイミド樹脂組成物の膜状物にガスバリア層を設けることで、ガスバリア性を付与することが好ましい。
【0135】
ガスバリア層を構成する材料としては、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物および金属炭窒化物が挙げられる。これらに含まれる金属元素としては、例えば、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、カルシウム(Ca)などが挙げられる。
【0136】
特に、ガスバリア層が、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素酸窒化物および珪素炭窒化物のうち少なくとも1つ以上を含むことが好ましい。これらの材料を用いることで、均一で緻密な膜が得やすくなり、ガスバリア層の酸素バリア性がより向上するためである。
【0137】
また、酸素バリア性がより向上する観点から、ガスバリア層が、SiOhNiで表される成分を含むことが好ましい。h、iは、0<h≦1、0.55≦i≦1、0≦h/i≦1 を満たす値である。
【0138】
ガスバリア層が2層以上に積層された無機膜であって、それらの無機膜のうちポリイミド樹脂組成物の膜状物と接する層が、SiOj(jは 0.5≦j≦2 を満たす値である。)で表される成分で形成されることが好ましい。無機膜の1層目を形成する際にポリイミド膜へ加わるダメージが軽減されるため、無機膜形成後の表面平滑性悪化や無機膜形成時の着色を抑えられるためである。
【0139】
本発明の実施の形態に係る積層体の製造方法は、例えば、下記(1)~(4)の工程を含む。
(1)支持基板上にポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布する工程。
(2)塗布されたポリイミド前駆体樹脂組成物から溶剤を除去する工程。
(3)ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂組成物の膜状物を得る工程。
(4)前記ポリイミド樹脂組成物の膜状物の上に無機膜を形成する工程。
【0140】
(1)~(3)の工程は、前述のポリイミド樹脂組成物の膜状物の製造方法に準じて行うことができる。
【0141】
(4)の工程では、例えば以下のようにして、無機膜を形成する。
【0142】
無機膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等の、気相中より材料を堆積させて膜を形成する気相堆積法により、作製することができる。中でも、より均一で酸素バリア性の高い膜が得られることから、スパッタリング法もしくはプラズマCVD法を用いるのが好ましい。
【0143】
無機膜の層数に制限は無く、1層だけでも、2層以上の多層でもよいが、耐屈曲性とガスバリア性両立の観点から2層以上の多層が好ましい。多層膜の例としては、1層目がSiN、2層目がSiOから成るガスバリア層や、1層目がSiON、2層目がSiOから成るガスバリア層などが挙げられる。
【0144】
無機膜の合計の厚みは、酸素バリア性向上の観点から、10nm以上が好ましく、100nm以上がさらに好ましい。一方、デバイスの曲げ耐性を向上させる観点から、無機膜の合計の厚みは、1μm以下が好ましく、500nm以下がさらに好ましい。
【0145】
以上の工程を経て得られた積層体は、基板から剥離して用いることができるし、あるいは剥離せずにそのまま用いることもできる。
【0146】
剥離方法の例としては、前述のポリイミド樹脂組成物の膜状物を基板から剥離する方法と同様の方法を用いることができる。
【0147】
<用途>
本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体樹脂組成物、およびそれから得られる積層体は電子デバイスに使用することができる。より具体的には、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、タッチパネル、電子ペーパー、カラーフィルター、マイクロLEDディスプレイといった表示デバイス、太陽電池、CMOSなどの受光デバイス等に使用することができる。これらの電子デバイスは、フレキシブルデバイスであることが好ましい。前述のポリイミド樹脂組成物の膜状物が、これらの電子デバイスにおける基板、特にフレキシブル基板として、好ましく用いられる。
【実施例
【0148】
以下、実施例等をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0149】
<材料>
(酸二無水物)
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンニ無水物
PMDA-HS:1R,2S,4S,5R-シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物
BSAA:2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン二無水物。
【0150】
(ジアミン化合物)
4,4’-DDS:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン
3,3’-DDS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
t-CHDA:trans-1,4-ジアミノシクロへキサン
4-ABS-3AP:3-アミノフェニル-4-アミノベンゼンスルホナート
6FODA:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
FFDA:9,9-ビス(3-フルオロ-4-アミノフェニル)フルオレン。
【0151】
(溶剤)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
GBL:γ-ブチロラクトン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド。
【0152】
(一般式(2)で表される化合物)
MSI:N-メチルスクシンイミド
PSI:N-フェニルスクシンイミド。
【0153】
<評価>
(1) ワニスに含まれるN-メチルスクシンイミドの測定
ワニスに含まれるN-メチルスクシンイミドの量を下記の手順で測定した。
【0154】
1. 標準溶液の調製
a) メスフラスコ(20mL)にN-メチルスクシンイミド(0.0201g)を秤量後、N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAc)で定容したものを標準原液(濃度:100μg/mL)とした。
b) a)の溶液をDMAcで希釈し、標準溶液を調製した。
【0155】
2. 試料溶液の調製
a) メスフラスコ(5mL)にワニス(0.2g)を秤量後、DMAcを加え5mLに定容した。
b) 溶液を DMAcで50倍希釈したものを試料溶液とした。
【0156】
3.GC/MS分析
下記条件にて標準溶液、試料溶液のGC/MS測定を行い、ワニスに含まれるN-メチルスクシンイミドの量を定量した。
装置 :GC6890(Agilent technologies)
MS :SX-102A(JEOL)
カラム :Inert Cap Pure WAX、30m×0.25mm、膜厚0.25μm(GL サイエンス)
カラム温度 :50℃(5min)-20℃/min-250℃(5min)
キャリアガス流速 :1 mL/min(ヘリウム、定流量モード)
スプリット比 :1/20
注入口温度 :250℃
注入量 :1 μL
イオン化法 :EI(電子イオン化)
測定モード :SIM(選択イオン検出)
モニターイオン :m/z 113.0480。
【0157】
(2)ポリイミド樹脂膜(ガラス基板上-1)の作成
ワニスを100mm×100mm×0.7mm厚のソーダガラス基板(旭硝子(株)製 AS)に、ミカサ株式会社製のスピンコーターMS-A200を用いて、キュア後の膜厚が10±0.5μmになるように塗布した。その後、ホットプレートを用いてプリベークを行った。ホットプレートは予め120℃に加熱したものを用いて6分かけて乾燥を行った。このようにして得られたプリベーク膜を、オーブン(「IHPS-222」;エスペック(株)製)を用いて、空気中、260℃で30分間キュアを行うことによりポリイミド樹脂組成物の膜状物(ガラス基板上-1)を作製した。
【0158】
(3)ポリイミド樹脂膜(剥離膜)の作成
(2)で作成したポリイミド樹脂膜(ガラス基板上)四辺の端から1cmの部分に片刃で切れ込みを入れ、60℃に温めた温水に60分浸し、剥離を行うことでポリイミド樹脂膜(剥離膜)を得た。
【0159】
(4)ポリイミド樹脂組成物の膜状物(ガラス基板上-2)の作製
50mm×50mm×1.1mm厚のガラス基板(テンパックス)を用いたこと以外は(2)と同様にしてポリイミド樹脂組成物の膜状物(ガラス基板上-2)を作製した。
【0160】
(4)面内/面外複屈折の測定
プリズムカプラー(METRICON社製、PC2010)を用い、波長632.8nmのTE屈折率(n(TE))およびTM屈折率(n(TM))を測定した。n(TE)、n(TM)は、それぞれポリイミド膜面に対して、平行、垂直方向の屈折率である。面内/面外複屈折はn(TE)とn(TM)の差(n(TE)-n(TM))として計算した。なお、測定には(3)で得たポリイミド樹脂膜(剥離膜)を用いた。
【0161】
(5)ガラス転移温度(Tg)の測定
熱機械分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000TMA/SS6000)を用いて、窒素気流下で測定を行った。昇温方法は、以下の条件にて行った。第1段階で昇温レート5℃/minで150度まで昇温して試料の吸着水を除去し、第2段階で降温レート5℃/minで室温まで空冷した。第3段階で、昇温レート5℃/minで本測定を行い、ガラス転移温度を求めた。なお、測定には(3)で得たポリイミド樹脂膜(剥離膜)を用いた。
【0162】
(6)90°ピール強度の測定(90°ピール試験)
(2)で得られた樹脂組成物の膜状物(ガラス基板上-1)を10mm幅、100mm長に切り出して、ホットプレートを用いて120℃×6分の脱水ベーク処理を行った後、引っ張り速度50mm/minの条件で90°ピール試験を行った。ここで、90°ピール試験においては、JIS C6481(1996、プリント配線板用銅張積層版試験法)に準拠した密着性試験機(山本鍍金試験器社製)を用いて90°ピール強度(N/cm)を測定した。
【0163】
(7)積層体の作成および積層体作成後の外観確認
(2)で得られた樹脂組成物の膜状物(ガラス基板上-1)上にSiON(製膜温度:240℃、膜厚200nm)をプラズマCVDで製膜した。その後、光学顕微鏡(Nikon(製)、OPTIPHOT300)を用いて倍率50倍で確認を行い、以下の評価方法で判定を行った。
【0164】
秀(A):全面でシワが見られず、表面が平滑
優良(B):一部シワの発生が見られるが、シワ発生箇所の面積が全体の15%以下
良(C):一部シワの発生が見られるが、シワ発生箇所の面積が全体の15%超30%以下
不良(D):シワ発生箇所の面積が全体の30%超。
【0165】
(8)積層体の耐屈曲性評価
ポリイミド樹脂組成物の膜状物上に無機膜を有する積層体の耐屈曲性を以下の手法で測定した。まず、(7)で作成した積層体をガラス-ポリイミド界面で剥離してポリイミド樹脂膜とSiON膜が積層された積層体を得、積層体を100mm×140mmにサンプリングし、面上の中央部に直径30mmの金属円柱を固定し、この円柱に沿って、円柱の抱き角0°(サンプルが平面の状態)の状態に置き(図6参照)、円柱への抱き角が180°(円柱で折り返した状態)となる範囲(図7参照)で、100回折り曲げ動作を行った。耐屈曲性は、曲げ動作前後の無機膜におけるクラック発生の有無を指標とし、試験後に光学顕微鏡(Nikon(製)、OPTIPHOT300)を用いて目視で100枚観察を行った。
【0166】
(9)積層体を用いたカラーフィルターの作成
[1]樹脂ブラックマトリクスの作製
(7)で作製した積層体のSiON上に黒色顔料を分散したポリアミック酸からなる樹脂ブラックマトリックス用黒色樹脂組成物をスピン塗布し、ホットプレートで130℃、10分間乾燥し、黒色の樹脂塗膜を形成した。ポジ型フォトレジスト(シプレー社製、“SRC-100”)をスピン塗布、ホットプレートで120℃、5分間プリベークし、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cm(i線換算)紫外線照射してマスク露光した後、2.38%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて、フォトレジストの現像と黒色の樹脂塗膜のエッチングを同時に行い、パターンを形成、メチルセロソルブアセテートでレジスト剥離し、オーブンで240℃、60分間加熱させることでイミド化させ、ポリイミド樹脂にカーボンブラックを分散した樹脂ブラックマトリクスを形成した。ブラックマトリクスの厚さを測定したところ、1.4μmであった。
【0167】
[2]着色層の作製
[1]で作製した、ブラックマトリクスがパターン加工された樹脂積層体に、アクリル樹脂感光性赤レジストを、熱処理後のブラックマトリクス開口部での膜厚が2.0μmになるようにスピン塗布し、ホットプレートで100℃、10分間プリベークすることにより、赤色着色層を得た。次に、キャノン(株)製、紫外線露光機“PLA-5011”を用い、ブラックマトリクス開口部とブラックマトリクス上の一部の領域についてアイランド状に光が透過するクロム製フォトマスクを介して、100mJ/cm(i線換算)で露光した。露光後に0.2%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液からなる現像液に浸漬を行い現像し、続いて純水洗浄後、230℃のオーブンで30分間加熱処理し、赤画素4Rを作製した。同様にして、アクリル感光性緑レジストからなる緑画素4G、感光性青レジストからなる青画素4Bを作製し、カラーフィルター(図1)を得た。続いて、熱処理後の着色層部での厚さが2.5μmになるようにスピナーの回転数を調整し、透明樹脂組成物を塗布した。その後、230℃のオーブンで30分間加熱処理し、オーバーコート層を作製した。
【0168】
(10)ブラックマトリクスおよび着色画素の剥がれ確認
(9)で作成したカラーフィルターのブラックマトリクスおよび着色画素を光学顕微鏡(Nikon(製)、OPTIPHOT300)を用いて倍率50倍で確認し、以下の評価方法で判定を行った。
【0169】
秀(A):ブラックマトリクスおよび着色画素の剥れ無し
優良(B):ブラックマトリクスおよび着色画素の一部剥れ有り(全体の5%未満)
良(C):ブラックマトリクスおよび着色画素の一部剥れ有り(全体の5%超15%未満)
不良(D):ブラックマトリクスおよび着色画素の一部剥れ有り(全体の15%以上)。
【0170】
(11)カラーフィルター作製後の剥離性確認
(9)で作製したカラーフィルターの端から10mmの位置にカッターで切れ込みを入れ、機械的に剥離を行い、以下の評価方法で判定を行った。
【0171】
秀(A):カラーフィルターに殆ど応力をかけることなく剥離可能。剥離後にブラックマトリクス、着色画素を確認したところ画素欠陥は見られなかった。
【0172】
優良(B):やや応力をかける必要があるが、剥離可能。剥離後にブラックマトリクス、 色画素を確認したところ一部画素欠陥が見られた。(欠陥は全体の5%未満)
良(C):やや応力をかける必要があるが、剥離可能。剥離後にブラックマトリクス、着色画素を確認したところ一部画素欠陥が見られた。(欠陥は全体の5%超25%未満)
不良(D):剥離不可。または大きな応力をかけないと剥離できず、剥離したカラーフ
ィルターは25%以上の画素領域において欠陥が見られた。
【0173】
合成例1
200mL4つ口フラスコにNMPを90g入れ、乾燥空気(酸素を20.9体積%含む)1500ml/minでバブリングしながら55℃で加熱攪拌した。そこにODPA 13.66g(44.04mmol)、3,3’-DDS 4.92g(19.82mmol)、TFMB 7.76g(24.22mmol)、NMP 30gを入れて乾燥空気でバブリングしながら50℃で8時間加熱攪拌した。その後、室温まで冷却してワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ94,500、27,000であった。
【0174】
合成例2
乾燥空気の流量を800ml/minに変更したこと以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ96,500、28,000であった。
【0175】
合成例3
乾燥空気の流量を400ml/minに変更したこと以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ98,500、29,000であった。
【0176】
合成例4
使用するモノマーをODPA 7.19g(23.17mmol)、BSAA 8.04g(15.44mmol)、3,3’-DDS 4.31g(17.38mmol)、TFMB 6.80g(21.24mmol)に変更したこと以外は合成例3と同様にしてワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ98,000、30,000であった。
【0177】
合成例5
乾燥空気の流量を200ml/minに変更したこと以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ99,700、29,100であった。
【0178】
合成例6
乾燥空気(酸素を20.9体積%含む)を酸素5.0体積%含む窒素ガスに変更したこと以外は合成例5と同様にしてワニスを得た。ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ99,600、30,100であった。
【0179】
合成例7
乾燥空気(酸素を20.9体積%含む)を窒素ガス(酸素含有量0.1体積ppm未満)に変更したこと以外は合成例5と同様にしてワニスを得た。ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ95,500、27,800であった。
【0180】
合成例8
用いる溶媒をNMPからGBLに変更したこと以外は合成例7と同様にしてワニスを得た。ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ88,500、25,700であった。
【0181】
合成例9
用いる溶媒をNMPからDMAcに変更したこと以外は合成例7と同様にしてワニスを得た。ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ90,500、26,600であった。
【0182】
合成例10
使用するモノマーをODPA 5.18g(16.69mmol)、BPDA 11.46g(38.94mmol)、3,3’-DDS 6.22g(25.03mmol)、t-CHDA 3.49g(30.59mmol)に変更したこと以外は合成例2と同様にしてワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ109,500、45,900であった。
【0183】
合成例11
200mL4つ口フラスコにNMPを90g入れ、乾燥空気(酸素を20.9体積%含む)400ml/minでバブリングしながら55℃で加熱攪拌した。そこにODPA 4.11g(13.25mmol)、BPDA 9.10g(30.92mmol)、3,3’-DDS 4.94g(19.88mmol)、TFMB 7.78g(24.30mmol)、NMP 30gを入れて乾燥空気でバブリングしながら50℃で8時間加熱攪拌した。その後、室温まで冷却してワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ89,500、26,900であった。
【0184】
合成例12
乾燥空気(酸素を20.9体積%含む)を窒素ガス(酸素含有量0.1体積ppm未満)に変更し、流量を200ml/minに変更したこと以外は合成例11と同様にしてワニスを得た。ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ95,500、27,800であった。
【0185】
合成例13
使用するモノマーをODPA 4.11g(13.25mmol)、BPDA 9.10g(30.92mmol)、3,3’-DDS 3.84g(15.46mmol)、TFMB 7.78g(24.30mmol)、4-ABS-3AP 1.51g(4.42mmol)に変更したこと以外は合成例3と同様にしてワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ89,500、26,900であった。
【0186】
合成例14
使用するモノマーをODPA 3.54g(11.42mmol)、6FDA 11.84g(26.65mmol)、3,3’-DDS 4.25g(17.13mmol)、TFMB 6.71g(20.94mmol)に変更したこと以外は合成例3と同様にしてワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ89,500、26,900であった。
【0187】
合成例15
使用するモノマーをODPA 4.56g(14.69mmol)、PMDA-HS 7.69g(34.28mmol)、3,3’-DDS 5.47g(22.04mmol)、TFMB 8.63g(26.94mmol)に変更したこと以外は合成例3と同様にしてワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ85,500、25,900であった。
【0188】
合成例16
使用するモノマーをODPA 13.11g(42.26mmol)、TFMB 12.18g(38.04mmol)、3,3’-DDS 1.05g(4.23mmol)に変更したこと以外は合成例3と同様にしてワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ98,300、29,800であった。
【0189】
合成例17
使用するモノマーをODPA 14.45g(46.56mmol)、TFMB 1.49g(4.66mmol)、4,4’-DDS 10.41g(41.91mmol)に変更したこと以外は合成例3と同様にしてワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ84,500、25,700であった。
【0190】
合成例18
使用するモノマーをODPA 14.47g(43.40mmol)、3,3’-DDS 4.85g(19.53mmol)、6FODA 8.03g(23.87mmol)に変更したこと以外は合成例3と同様にしてワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ94,900、27,900であった。
【0191】
合成例19
使用するモノマーをODPA 12.90g(41.59mmol)、3,3’-DDS 4.65g(18.71mmol)、FFDA 8.79g(22.87mmol)に変更したこと以外は合成例3と同様にしてワニスとした。得られたポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)はそれぞれ88,900、25,900であった。
【0192】
実施例1~6、9~15、比較例1~6:
表1に従って用いるワニスを変更し、上記方法によりポリイミド前駆体樹脂組成物およびポリイミド樹脂膜の評価を行った。なお、各実施例で用いたワニスは各合成例で得られたワニスを孔径1μmの四フッ化エチレン製樹脂(PTFE)製フィルターで濾過して用いた。また、各ワニスに含まれるMSIの量は(1)に記載の方法で測定した。
【0193】
実施例7
合成例7で得られたワニス100gに、PSI 50.0mg(ワニスに対して500ppm)を添加した。得られたワニスを用い、上記方法によりポリイミド樹脂膜を成膜し、評価を行った。
【0194】
実施例8
合成例7で得られたワニス100gに、1-メチルピペリジン-2、6-ジオン 50.0mg(ワニスに対して500ppm)を添加した。得られたワニスを用い、上記方法によりポリイミド樹脂膜を成膜し、評価を行った。
【0195】
実施例1~15および比較例1~6の評価結果を表2に示す。比較例4においてはキュア時にクラックが発生したため、積層体形成後の評価は実施しなかった。
【0196】
実施例1~3、5、9、10、12~15においては無機膜形成後にシワの発生が見られなかった。これは、用いているポリイミド樹脂膜のTgが十分高いため無機膜成膜時の加熱によって樹脂膜の軟化が起こらなかったことに起因すると考えられる。また、シワ発生の抑制により無機膜表面の平滑性が保たれ、ブラックマトリクスおよび着色画素と無機膜の密着性が良好な結果となったと考えられる。
【0197】
【表1】
【0198】
【表2】
【符号の説明】
【0199】
1 ポリイミド樹脂
2 ガスバリア層
3 ブラックマトリックス
4R 赤色画素
4G 緑色画素
4B 青色画素
5 オーバーコート層
6 カラーフィルター
7 金属円柱
8 積層体
図1
図2
図3