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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】エンジンの潤滑装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/16 20060101AFI20231011BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20231011BHJP
   F01M 7/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F01M1/16 F
F01M1/06 D
F01M7/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019154613
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021032173
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】森本 学
(72)【発明者】
【氏名】中井 英夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 一也
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬川 純
(72)【発明者】
【氏名】笹峯 真一
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-063708(JP,U)
【文献】特開2010-203263(JP,A)
【文献】特開2015-004299(JP,A)
【文献】特開平07-224628(JP,A)
【文献】特開2012-137016(JP,A)
【文献】特開2016-048042(JP,A)
【文献】実開昭56-136110(JP,U)
【文献】実開昭62-156110(JP,U)
【文献】特開平10-141036(JP,A)
【文献】特開2012-219807(JP,A)
【文献】特開2005-299592(JP,A)
【文献】国際公開第2011/058650(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/16
F01M 1/06
F01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに潤滑油を供給する潤滑装置であって、
オイルポンプ(13)の下流に設けられるメイン流路(21)と、
前記メイン流路(21)に設けられ3方以上に分岐する多方弁(22)と、
前記多方弁(22)の下流に位置する分岐点(Q)で前記メイン流路(21)から分岐する第一潤滑油群配管(31)と、
前記多方弁(22)にて前記メイン流路(21)と分岐し、前記分岐点(Q)より上流で前記メイン流路(21)と合流する合流点(24)に接続するバイパス流路(23a)とを備え、
前記バイパス流路(23a)は、前記メイン流路(21)の前記多方弁(22)から前記合流点(24)までの距離より長く形成され、
エンジン始動から暖機までの間は、前記バイパス流路(23a)を潤滑油が流れるように前記多方弁(22)を制御して前記分岐点(Q )への潤滑油流量を減少させる制御手段を有することを特徴とする潤滑装置。
【請求項2】
前記合流点(24)と前記分岐点(Q)との間に絞り弁(25)を備え、
前記制御手段は、前記絞り弁(25)を開閉することで供給される潤滑油の量を調節することを特徴とする請求項に記載の潤滑装置。
【請求項3】
前記第一潤滑油群配管(31)の分岐点(Q)より下流に位置する分岐点(Q)で前記メイン流路(21)から分岐する第二潤滑油群配管(42)を備え、
前記第一潤滑油群配管(31)はシリンダブロック(30)に潤滑油を供給し、
前記第二潤滑油群配管(42)はシリンダヘッド(40)に潤滑油を供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のエンジン等で用いる潤滑油の分配に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの潤滑機構は、一般的に、エンジン上方のシリンダヘッドに導入された潤滑油が、シリンダブロックに設けられたオイル落とし穴を通過して、エンジン下方に設けられたオイルパンに落ちる構造となっている。オイルパンの中央付近にはオイルスクリーンが設けられ、オイルポンプで潤滑油を吸い上げてシリンダヘッドに導入する。これを繰り返して潤滑油が循環されている。
【0003】
また、潤滑油はクランクジャーナルやクランクピンのあるシリンダブロックに十分な量を供給する必要がある。このため、潤滑油をシリンダヘッドに導入してシリンダブロックへ間接的に供給するだけでなく、シリンダブロックに直接的に潤滑油を導入する経路を設ける場合もある。
【0004】
ただし、潤滑油は冷却効果もある。これに対して、エンジンを昇温したいとき給油量を制限して摩擦熱により昇温を促進させる油量調整装置が特許文献1に記載されている。この油量調整装置では、エンジンに供給されるオイルの供給量はリリーフバルブにより一括調整されているが、局所的にオイルの流量を小さくすることはできないことを前提としている。経路断面積が大きい大流量経路を経由させる開弁状態と、その大流量経路より経路断面積が小さい小流量経路を経由させる閉弁状態とを切り替え、クランクシャフトと複数の軸受との間に介在する全ての摺動部に供給されるオイルの流量を温度に応じて切り替えることが記載されている。
【0005】
また、潤滑油の消費量は部位によって異なる。これに対して、別々の潤滑油ポンプを用意して潤滑油が無駄にならないようにする手法もあるが、装置が複雑化してしまう。そこで、潤滑油ポンプからジャーナル軸受部へ繋がる状態と、潤滑油ポンプから戻り通路を介して潤滑油タンクに繋がる状態とを切り替える三方弁を制御することで、各被潤滑部への給油路から潤滑油タンクへの戻り量を調整して、1つの潤滑油ポンプで各被潤滑部へ供給する潤滑油量を個別に所定の比率で分配できる潤滑油供給装置が特許文献2に記載されている。
【0006】
さらに、オイルポンプからオイルが供給されるメインギャラリー(メイン流路)から枝分かれして、排気ポート熱を受熱出来る油路にオイルを流して昇温を図ることが特許文献3に記載されている。枝分かれしたそれぞれの経路はバイパス通路と呼ばれているが、それぞれの経路がエンジン内の別個の箇所への供給路となっており、経路は重複していない。それぞれの経路には個別に開閉できる弁が取り付けられて、個々の部位への供給量を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-4299号公報
【文献】特開平7-224628号公報
【文献】特開2012-137016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、エンジンの各部への供給量を調整するために、個々の経路に弁を設けたり、別個のポンプを利用したりすると、装置が複雑化してしまう。かといって個別の弁やポンプを設けないと、個々の分岐点でのオイルの分配比は固定の比率のままで、調整することができなかった。
【0009】
一方で、不足にならないように十分な量の潤滑油を各所に供給しようとすると、必要とする潤滑油圧力は余分にかかることになり、オイルポンプ仕事が大きくなる。また、それぞれの潤滑油を吐出する箇所の漏れ量も大きくなってしまう。このため、エンジンフリクションロスも過大となってしまっていた。さらに、潤滑油による冷却が過剰に行われるため、冷態エンジン始動から暖機までの完了時間も過大となっていた。
【0010】
そこでこの発明は、複数のオイル吐出口からの吐出量を、個々の経路用の弁やポンプによらずに調整できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、
エンジンに潤滑油を供給する潤滑装置であって、
オイルポンプの下流に設けられるメイン流路と、
前記メイン流路に設けられ3方以上に分岐する多方弁と、
前記多方弁の下流に位置する分岐点(Q)で前記メイン流路から分岐する第一潤滑油群配管と、
前記多方弁にて前記メイン流路と分岐し、前記分岐点(Q)より上流で前記メイン流路と合流する合流点に接続するバイパス流路とを備え、
前記メイン流路のうち前記多方弁から前記合流点までのメイン流路部分区間と前記バイパス流路との長さが異なる
ことを特徴とする潤滑装置
により上記の課題を解決したのである。
【0012】
オイルポンプから先の流路における潤滑油の流量は、オイルポンプからの距離に応じて減衰していくという特徴がある。この発明はこれを利用し、メイン流路から前記多方弁で分岐して前記合流点で合流する前記バイパス流路を設け、メイン流路の前記多方弁から前記合流点までのメイン流路部分区間と前記バイパス流路との長さを変えておくことで、メイン流路部分区間を通過させる場合と、バイパス流路を通過させる場合とを切り替えることで、下流における潤滑油の流量を切り替えられるようにした。
【0013】
また、前記バイパス流路は、前記メイン流路の前記多方弁から前記合流点までの距離より長く形成され、エンジン始動から暖機までの間は、前記バイパス流路を潤滑油が流れるように前記多方弁を制御する制御手段を有する構成を採用できる。前記メイン流路の前記多方弁から前記合流点までの距離とはすなわち、前記バイパス流路と並行する前記メイン流路部分区間である。エンジン始動から暖機までの間は、前記メイン流路部分区間よりも長い前記バイパス流路を潤滑油が流れるようにすることで、潤滑油の流量を減少させて、潤滑油による冷却効果を一時的に低減させて、速やかな暖機ができる。
【0014】
さらに、前記合流点と前記分岐点(Q)との間に、絞り弁を備え、前記制御手段は、前記絞り弁を開閉することで供給される潤滑油の量を調節する構成を採用できる。通常時は前記絞り弁を絞った状態で制御し、所定の条件を満たした緊急時には前記絞り弁を開放するように制御する。例えば、前記分岐点(Q)の温度が規定値を超えていたり、油量が規定値を超えて減少していたり、焼き付きが生じている可能性を示す信号を受け取ったときなどが挙げられる。
【0015】
さらにまた、前記第一潤滑油群配管への分岐点(Q)より下流に位置する分岐点(Q)で前記メイン流路から分岐する第二潤滑油群配管を備え、前記第一潤滑油群配管はシリンダブロックに潤滑油を供給し、前記第二潤滑油群配管はシリンダヘッドに潤滑油を供給する構成を採用できる。シリンダブロックは特に潤滑油の量を必要とする傾向にあるクランクを含む。前記第一潤滑油群配管がこのシリンダブロックに潤滑油を供給し、前記第二潤滑油群配管はシリンダヘッドに潤滑油を供給するようにする。前記第一潤滑油群配管は上流に位置する分岐点(Q)でメイン流路から分かれるため、流量を多く確保することができる。この発明ではさらに、暖機まではメイン流路部分区間よりも比較的長いバイパス流路を潤滑油が通るようにすることで、シリンダブロックへの潤滑油の供給量を焼き付かない程度の最低限度に絞り、潤滑油による冷却効果を抑制することで昇温を促進させる。暖機完了したら比較的短いメイン流路部分区間を潤滑油が通るようにすることで、前記第一潤滑油群配管の分岐点(Q)での圧力を向上させて、その分岐点(Q)で分かれてシリンダブロックへ供給される潤滑油の供給量を増やすようにする。シリンダブロックへ供給される潤滑油の供給量が増えると、第二潤滑油群配管が供給するシリンダヘッドへの潤滑油の供給量はそれに比べて減ることになる。すなわち、シリンダブロックへの供給を行う第一潤滑油群配管への潤滑油の供給量を増加させたいときには、分岐点までの長さが短いメイン流路部分区間を通るように前記多方弁を制御し、前記第一潤滑油群配管への供給量の比率を低下させてそれより下流の部位となる第二潤滑油群配管への供給量の比率を増加させたいときには、分岐点(Q)までの長さが長いバイパス流路を通るように前記多方弁を制御することにより、潤滑油の供給量を一箇所の多方弁で調整できるようにした。
【発明の効果】
【0016】
この発明により、メイン流路からエンジンの各部位に分岐する各所に個別の弁や個別のポンプを設けなくても、上流に設けた多方弁を調整することで個々の部位に供給される潤滑油の量を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明にかかる潤滑装置の実施形態例を示す機能ブロック図
図2】絞り弁を絞り、バイパス流路を通る場合の圧力の変遷を示す図
図3】絞り弁を絞り、メイン流路部分区間を通る場合の圧力の変遷を示す図
図4】絞り弁を開放し、バイパス流路を通る場合の圧力の変遷を示す図
図5】絞り弁を開放し、メイン流路部分区間を通る場合の圧力の変遷を示す図
図6】この発明にかかる潤滑装置の運用手順例を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、主に車両に搭載されるエンジンに導入する潤滑油をエンジンに導入して循環させる潤滑装置である。
【0019】
この発明を備えた潤滑装置の実施形態例の機能ブロック図を図1に示す。オイルパン11に蓄積された潤滑油は、オイルスクリーン12を介してオイルポンプ13により吸い上げられる。オイルポンプ13の吐出口からは、メイン流路21を構成する配管16へ圧力をかけて潤滑油が吐き出される。なお、メイン流路21を構成する配管16には、配管が閉塞したり、下流に設けた弁が締め切られたときに圧力を逃がすためのリリーフ弁14が設けられる。リリーフ弁14の先はオイルパン11へ戻るように配される。
【0020】
また、配管16には、リリーフ弁14とは別に、エンジンの振動を押さえるバランサユニット15への分岐が設けられていてもよい。配管の都合上、リリーフ弁14の直後に設けてあるとよい。後述する多方弁22より前にバランサユニット15への分岐を設けておくことで、多方弁22の切り替えに関わりなく、バランサユニット15へ供給される潤滑油量を安定させることができる。なお、バランサユニット15は、後述する第一潤滑油群配管31が供給する部位の群に含まれていてもよいし、第二潤滑油群配管42が供給する部位の群に含まれていてもよいし、その他の部位の群に含まれていてもよい。
【0021】
また、図示しないがオイルポンプ13の下流にオイルフィルタを設ける実施形態であってもよい。ただし、オイルフィルタはそれ以降の部位に送られる潤滑油の圧力を減衰させる。このため、この発明にかかる潤滑装置で潤滑油の圧力を適切に調整する場合は、オイルフィルタの構造や配置が、この発明にかかる潤滑装置による潤滑油の分配率の切り替えを阻害しないように設定することが好ましい。
【0022】
メイン流路21の先には、クランクシャフトを含むシリンダブロック30へ潤滑油を供給する第一潤滑油群配管31と、それより下流の第二潤滑油群配管42を含む配管群への潤滑油とを分岐させる分岐点Qが設けられている。メイン流路21の配管16には分岐点Qよりも上流に、多方弁22が設けられている。多方弁22として図1に示す実施形態では三方弁を記載している。ただし本発明は三方弁に限定されず、四方以上の多方弁を用いてもよい。
【0023】
多方弁22で配管は分岐しており、オイルポンプ13から供給された潤滑油は、多方弁22を切り替えることで、それぞれ別の経路に送り込まれる。それぞれの経路は、下流の合流点24で合流する。ただし、多方弁22から合流点24までのそれぞれの経路は、互いに長さが異なる流路を有する。この実施形態では、多方弁22から合流点24までの長さが最も短い流路をメイン流路部分区間23bと呼び、メイン流路部分区間23bと並行しメイン流路部分区間よりも長い迂回路をバイパス流路23aと呼ぶ。オイルポンプ13から合流点24までの流路の長さは、メイン流路部分区間23bを通ると短く、バイパス流路23aを通ると長くなる。このような流路の長さの切り替えを、多方弁22の弁を切り替えることにより行うことができる。なお、多方弁22が四方以上の弁である場合、前記のメイン流路部分区間23b及びバイパス流路23aとのいずれとも合流点24までの長さが異なる第三、第四の流路に繋がるようにしておいてもよい。
【0024】
なお、図示しないが、メイン流路21を構成するメイン流路部分区間23bよりもバイパス流路23aの方が短い構成を選択することもできる。その場合、流路を短縮しようとする場合にバイパス流路23aを通るように多方弁22を制御することになる。
【0025】
多方弁22の制御は、制御装置27が実行する制御手段で行う。この制御装置27は、専用の装置でもよい。また、この発明にかかる潤滑装置を搭載する車両が使用するエンジンコントロールユニットが制御装置27としての機能を兼務してもよい。
【0026】
メイン流路21には、合流点24より下流であって、分岐点Qよりも上流に、絞り弁25を有すると好ましい。制御装置27の制御手段が絞り弁25を開閉することで、流路の断面積を拡大または縮小させ、それに応じて供給される潤滑油の量を増加または減少させる。すなわち、絞り弁25を絞ると、それより下流における潤滑油の圧力及び流量を減少させることができる。一方、絞り弁25を開放すると潤滑油の圧力及び流量を減少させることなく下流に送り込むことができる。制御装置27の前記制御手段は、通常時は絞り弁25を絞っておき、緊急時には絞り弁25を開放するように制御することができる。緊急時とは、例えば分岐点Qでの温度の規定範囲を超えた上昇、下流における油量の規定範囲を超える減少、焼き付きを検知した場合などである。いずれも供給する潤滑油を一時的に急増させることで、潤滑性能を向上させたり、冷却効果を高めたりする。
【0027】
絞り弁25の制御も、制御装置27の制御手段が行うとよい。すなわち、制御手段は絞り弁25の制御を多方弁22の制御と連携して一括で行えるようにするとよい。
【0028】
分岐点Qは、クランクジャーナル32及びクランクピン33を含むシリンダブロック30に潤滑油を供給する第一潤滑油群配管31と、潤滑油を供給すべき残りの部位に潤滑油を供給する配管41とに分岐する分岐点である。この残りの部位にはシリンダヘッド40が含まれ、配管41の先の分岐点Qで分岐する第二潤滑油群配管42がシリンダヘッド40への潤滑油を供給する。
【0029】
なお、第一潤滑油群配管31が潤滑油を供給するシリンダブロック30は、クランクを含んでいるとよく、クランクに関する全ての部位である必要はない。第一潤滑油群配管31が潤滑油を供給すると望ましい部位は、特に冷態での始動時に速やかに暖めたい部位や、油量を大きく変化させたい部位を適宜選択して設定することができる。ただし、特に油量を多く必要とする部位を第一潤滑油群配管31が纏めて供給を担うと好ましい。
【0030】
分岐点Qで分岐され、第一潤滑油群配管31に供給された潤滑油は、この実施形態ではシリンダブロック30に含まれるクランクジャーナル32に供給される。その一部はクランクピン33に供給されてからオイルパン11へ落下し、残りはオイルパン11へそのまま落下される。
【0031】
一方、配管41の先は適宜分岐される。この実施形態では、分岐点Qで分岐され、上方のシリンダヘッド40に向かう第二潤滑油群配管42と、下方のバランサギヤハウジング69に向かう配管43と、タイミングチェーンテンショナー66へ向かう配管44とに分かれる。また、分岐点Qよりも下流でかつ分岐点Qよりも上流にさらに別の分岐点Qを設けて、サブ分岐配管51を分岐させている。
【0032】
シリンダヘッド40に含まれる部位としては、例えば、ローラーロッカーアーム61、カムジャーナル62、カムオイルシャワー63などが挙げられる。第二潤滑油群配管42からさらに分岐してそれぞれの部位に潤滑油が送り込まれ、送られた潤滑油は最終的にオイルパン11へ落下する。
【0033】
配管44からタイミングチェーンテンショナー66へ送られた潤滑油は、ターボチャージャー67を経由してオイルパン11へ落下する。
【0034】
サブ分岐配管51の先には、タイミングチェーンジェット52、オイルジェット53などの、オイル消費量が分岐点Q以降の各部より比較的多い部位を割り当てる。導入された潤滑油は最終的にオイルパン11へ落下する。
【0035】
この発明にかかる潤滑装置では、多方弁22を切り替えることで、分岐点Qにおける潤滑油の圧力と、それより下流にある別の分岐点Qにおける潤滑油の圧力とを一箇所で調整できる。潤滑油の圧力は、オイルポンプ13の吐出口13aからの流路の長さに応じて、主に摩擦によって減衰する。この性質を利用して、吐出口13aから分岐点Qまでの距離Lを切り替えることにより、この減衰幅を増減させて、分岐点Qにおける潤滑油の圧力を増減できる。分岐点Qにおける圧力が上がると、第一潤滑油群配管31に供給される潤滑油量が増える。すなわち、流路が長いバイパス流路23aを経由する多方弁22の配置から、流路が短いメイン流路部分区間23bを経由する多方弁22の配置に切り替えることで、第一潤滑油群配管31に供給される潤滑油の比率を増やすことができる。逆に、第一潤滑油群配管31に供給される潤滑油の比率を一時的に減らしたいときには、流路が長いバイパス流路23aを経由するように多方弁22を切り替える。
【0036】
弁と分岐点Q及び分岐点Qとにおける潤滑油の圧力との関係を、図2図5を用いて説明する。図2及び図3は絞り弁25を絞ってそれより下流の圧力を減少させている状態の圧力変化を示す。図4及び図5は絞り弁25を開放した状態の圧力変化を示す。このうち、図2及び図3から説明する。図2は分岐点Qまでの流路(L)が長いバイパス流路23aに繋がるように多方弁22が設定された状態を示す。図3は分岐点Qまでの流路(L)が短いメイン流路部分区間23bに繋がるように多方弁22が設定された状態を示す。図中左の油槽は、オイルポンプ13による油圧を表す仮想的なものである。オイルポンプ13の吐出口13aの圧力を、吐出口13aから液面までの仮想的な高さHとして表している。吐出口13aにおける流量Qは、断面積Aと流速vとの積である。トリチェリの定理から、下記式(1)の法則が成り立つ。なお、gは重力加速度であり、Hは吐出口13aにおける圧力を示す液面からの仮想的な高さ(深さ)である。
【0037】
Q=A×v=A×(2×g×H)……(1)
【0038】
ただし、メイン流路21のそれぞれの箇所における圧力は、吐出口13aからの距離に応じて圧力損失が増加する。このため、管内のそれぞれの箇所における圧力を仮想的な高さHで仮に示すと、図2のグラフで実線にて示すように、吐出口13aから離れれば離れるほど仮想的な高さHは下がることになる。さらに、途中に設けられてある絞り弁25によって断面積Aが絞られるため、実際の圧力に相当する仮想的な高さHは実線からさらに下がった破線で表されるように段階的に減衰する。分岐点Qにおける圧力は、吐出口13aからの距離Lに応じた損失による減衰と、絞り弁25による減少とにより減少した仮想的な高さHに相当するものとなる。この圧力によって分岐点Qから第一潤滑油群配管31への潤滑油の供給がなされる。分岐点Qの後では分岐により第一潤滑油群配管31へ分かれた分の圧力が減少するため、圧力を示す仮想的な高さH1aはHから大きく減少する。その後、分岐点Qに近づくにつれてさらに吐出口13aからの距離が大きくなるため、それに応じて圧力を示す仮想的な高さHも減少していき、分岐点Qでは仮想的な高さHはH1aよりもさらに低くなる。また、分岐点Qでさらに分岐し、配管44に残る圧力を示す仮想的な高さはさらに減少してH2aとなる。以上のように、H>H1a>H>H2aのように減少していく。なお、実際には分岐点Qより先の分岐点Qに向かって、配管の高さが上がっている場合もある。この場合、分岐点Qにおける圧力はさらに下がるため、分岐点Q周辺における圧力を示す仮想的な高さH,H2a図2よりもさらに下がる。
【0039】
多方弁22を切り替えて、バイパス流路23aからメイン流路部分区間23bに繋がるように変更すると、図3に示すように分岐点Qまでの長さが短くなる(L>L)。すると、分岐点Qまでの圧力の減衰幅が減る。このため、分岐点Qにおける圧力を示す図3の状況における仮想的な高さHは、多方弁22がバイパス流路23aに繋がった図2の状況における仮想的な高さHよりも高くなる。これにより、分岐点Qから第一潤滑油群配管31へ供給される油量を図2の状況よりも増加させることができる。なお、分岐点Q以降の配管41や第二潤滑油群配管42、配管44等における圧力は、全体的には図2の実施形態より高い傾向が続くが、図2の状況と同様に、分岐点の前後で段階的に下がり、また、吐出口13aからの距離が大きくなるに従って、圧力を示す仮想的な高さHも減少していく。従って、H>Hであり、かつH>H3a>H>H4aのように減少していく。
【0040】
図2の状況と図3の状況とは、多方弁22を切り替えることのみで変更可能である。これにより分岐点Qから第一潤滑油群配管31へ供給される潤滑油の量を制御することができる。同時に、分岐点Qと分岐点Qとの間の流路の長さを固定しているにもかかわらず、分岐点Qに供給される潤滑油の流量も多方弁22によって調整できることになる。吐出口13aから分岐点Qまでの距離に比べて、吐出口13aから分岐点Qまでの距離の方が長い代わりに、多方弁22の切り替えによって変化する変化率は小さくなる。この違いにより、第一潤滑油群配管31に供給される潤滑油を多方弁22の切り替えにより減少させても、第二潤滑油群配管42に供給される潤滑油の量は単純に同じ比率で減少するわけではない。このことから、分岐点Qと分岐点Qとの間の距離や、多方弁22から合流点24までの各々の流路の距離とを適切に設定しておくことで、多方弁22を切り替えるだけで、それぞれの部位に供給される潤滑油の量を適切に変更することができる。
【0041】
次に、絞り弁25を開放した場合について説明する。図4は絞り弁25を開放してあり、多方弁22がバイパス流路23aに繋がっている状態である。図5は絞り弁25を開放してあり、多方弁22がメイン流路部分区間23bに繋がっている状態である。いずれも、絞り弁25による圧力の減少がないため、分岐点Qまでは圧力を示す仮想的な高さは距離に応じた減少のみで実線で示すように減少していく。従って、図4の状況で分岐点Qにおける圧力を示す仮想的な高さHは、絞り弁25を絞った図2の状況での分岐点Qにおける圧力を示す仮想的な高さHよりも大きい。すなわち、H>Hである。これにより、分岐点Qから第一潤滑油群配管31へ供給される潤滑油量も、図2の状況より増加する。また、分岐点Q以降のそれぞれの圧力を示す仮想的な高さHは、いずれも図2の状況よりも増加する。すなわち、H5a>H1aであり、H>Hであり、H6a>H2aである。
【0042】
また、多方弁22がメイン流路部分区間23bに繋がっている状態でも、絞り弁25が絞られた図3の状況に比べて、図5の状況では絞り弁25による圧力の減少がない。このため、分岐点Qにて第一潤滑油群配管31へ供給される潤滑油の量は図5の方が多くなる。また、それ以降に供給される潤滑油の量に繋がる圧力を示す仮想的な高さHも、いずれも図3の状況に比べて図5の状況の方が多くなる。すなわち、H>Hであり、H7a>H3aであり、H>Hであり、H8a>H4aである。
【0043】
この発明にかかる潤滑装置を制御する制御装置27は、各部の温度を始めとする状況に応じて、多方弁22及び絞り弁25を切り替えて、エンジンの効率的な運用や安全性の確保を実現する。
【0044】
この発明にかかる潤滑装置を制御する制御装置27による制御手段の運用例について、図6とともに説明する。エンジンを始動させた段階で(S101)、まだエンジンが温まっていない(S102)状態であるとする。この状態で制御装置27は、多方弁22をバイパス流路23aに繋げ、絞り弁25を絞った状態とする(S103)。すなわち、上記の図2に示す状況に調整する。この設定では、第一潤滑油群配管31及び第二潤滑油群配管42のそれぞれに、シリンダブロック30やシリンダヘッド40等が焼け付かない程度の最低限度の油量が流れることになり、潤滑油による冷却が抑制されて、昇温が促進される。暖機が完了するまでは(S104→No)その状態を続ける。暖機が完了したら(S104→Yes)、制御装置27は多方弁22をメイン流路部分区間23bに繋げるように切り替える(S105)。通常時はこの状態で運用するとよい。
【0045】
運用中に、緊急事態として定義されている状況になった場合は、別の制御を行う。緊急事態の要件としては、例えばエンジン各部の温度が予め設定した許容範囲を超えたり、各部に供給される潤滑油の油量が許容範囲を下回ったり、焼き付きの可能性が高くなったりした状況である。具体的には、それらの状況となったことをセンサで検知し、制御装置27にその信号が到達した段階で切り替えを行う(S106→Yes)。絞り弁25を開放して、第一潤滑油群配管31及び第二潤滑油群配管42のそれぞれに供給される潤滑油の量を速やかに増加させる(S107)。その状態を続けて、センサ等から入力される信号が緊急事態の要件を満たさなくなったら(S108→Yes)、絞り弁25を再び絞り、潤滑油の量を減少させる(S109)。以後は緊急事態の要件が成立するまでそのまま運用する。
【0046】
なお、このフローでは記載していないが、状況次第では多方弁22をバイパス流路23aに繋いだままで、絞り弁25を開放してもよい。また、絞り弁25を開放したままで、多方弁22の繋げる先をメイン流路部分区間23bとバイパス流路23aとで切り替えてもよい。
【符号の説明】
【0047】
11 オイルパン
12 オイルスクリーン
13 オイルポンプ
13a 吐出口
14 リリーフ弁
15 バランサユニット
16 配管
21 メイン流路
22 多方弁
23a バイパス流路
23b メイン流路部分区間
24 合流点
25 絞り弁
27 制御装置
30 シリンダブロック
31 第一潤滑油群配管
32 クランクジャーナル
33 クランクピン
40 シリンダヘッド
42 第二潤滑油群配管
41,43,44 配管
51 サブ分岐配管
52 タイミングチェーンジェット
53 オイルジェット
61 ローラーロッカーアーム
62 カムジャーナル
63 カムオイルシャワー
66 タイミングチェーンテンショナー
67 ターボチャージャー
69 バランサギヤハウジング
、Q,Q 分岐点
図1
図2
図3
図4
図5
図6