(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20231011BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20231011BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/03 B
B60C5/00 H
B60C11/12 D
B60C11/12 B
(21)【出願番号】P 2019157537
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・クンケル
(72)【発明者】
【氏名】ヤープ・レーンダーツェ
(72)【発明者】
【氏名】澤上 勲
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-094006(JP,A)
【文献】特開2018-103674(JP,A)
【文献】特開2018-154147(JP,A)
【文献】特開2019-094009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 11/03
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤであって、
車両への装着の向きが指定されたトレッド部を有し、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の主溝と、前記主溝に区分された第1陸部と、車両装着時に前記第1陸部の車両内側に隣接する第2陸部とを含み、
前記第1陸部には、前記第1陸部を横断する複数の第1サイプが設けられ、
前記第2陸部は、前記第1陸部側の第1縦エッジと、前記第1縦エッジの反対側の第2縦エッジと、前記第1縦エッジと前記第2縦エッジとの間の踏面とを含み、
前記第2陸部には、前記第1縦エッジから延び前記第2縦エッジに達することなく途切れる複数の第2サイプと、前記第2縦エッジから延び前記第1縦エッジに達することなく途切れる複数の第3サイプとが設けられ、
前記第1サイプは、タイヤ軸方向の中央部に底面が隆起した第1浅底部を
含み、
前記
トレッド部は、3本の前記主溝で区分された4つの陸部で構成され、
前記第1陸部及び前記第2陸部は、他の2つの陸部に挟まれている、
タイヤ。
【請求項2】
前記第1サイプは、タイヤ軸方向に対して傾斜して直線状に延びている、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
タイヤであって、
車両への装着の向きが指定されたトレッド部を有し、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の主溝と、前記主溝に区分された第1陸部と、車両装着時に前記第1陸部の車両内側に隣接する第2陸部とを含み、
前記第1陸部には、前記第1陸部を横断する複数の第1サイプが設けられ、
前記第2陸部は、前記第1陸部側の第1縦エッジと、前記第1縦エッジの反対側の第2縦エッジと、前記第1縦エッジと前記第2縦エッジとの間の踏面とを含み、
前記第2陸部には、前記第1縦エッジから延び前記第2縦エッジに達することなく途切れる複数の第2サイプと、前記第2縦エッジから延び前記第1縦エッジに達することなく途切れる複数の第3サイプとが設けられ、
前記第1サイプは、タイヤ軸方向の中央部に底面が隆起した第1浅底部を含み、
前記第2サイプは、底面が隆起した第2浅底部を含み、
前記第2浅底部は、前記第2サイプの前記第2縦エッジ側の端部を含む位置に設けられている、
タイヤ。
【請求項4】
前記第2浅底部は、一定の深さで前記第2サイプの長さ方向に延びる定深部を含む、請求項3に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第2サイプの最大の深さと前記第2浅底部の前記定深部の深さとの差は、0.5mm以上である、請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
タイヤであって、
車両への装着の向きが指定されたトレッド部を有し、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の主溝と、前記主溝に区分された第1陸部と、車両装着時に前記第1陸部の車両内側に隣接する第2陸部とを含み、
前記第1陸部には、前記第1陸部を横断する複数の第1サイプが設けられ、
前記第2陸部は、前記第1陸部側の第1縦エッジと、前記第1縦エッジの反対側の第2縦エッジと、前記第1縦エッジと前記第2縦エッジとの間の踏面とを含み、
前記第2陸部には、前記第1縦エッジから延び前記第2縦エッジに達することなく途切れる複数の第2サイプと、前記第2縦エッジから延び前記第1縦エッジに達することなく途切れる複数の第3サイプとが設けられ、
前記第1サイプは、タイヤ軸方向の中央部に底面が隆起した第1浅底部を含み、
前記第3サイプは、底面が隆起した第3浅底部を含み、
前記第3浅底部は、前記第3サイプの前記第1縦エッジ側の端部を含む位置に設けられており、
前記第3浅底部は、一定の深さで前記第3サイプの長さ方向に延びる定深部を含む、
タイヤ。
【請求項7】
前記第3サイプの最大の深さと前記第3浅底部の前記定深部の深さとの差は、0.5mm以上である、請求項6に記載のタイヤ。
【請求項8】
タイヤであって、
車両への装着の向きが指定されたトレッド部を有し、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の主溝と、前記主溝に区分された第1陸部と、車両装着時に前記第1陸部の車両内側に隣接する第2陸部とを含み、
前記第1陸部には、前記第1陸部を横断する複数の第1サイプが設けられ、
前記第2陸部は、前記第1陸部側の第1縦エッジと、前記第1縦エッジの反対側の第2縦エッジと、前記第1縦エッジと前記第2縦エッジとの間の踏面とを含み、
前記第2陸部には、前記第1縦エッジから延び前記第2縦エッジに達することなく途切れる複数の第2サイプと、前記第2縦エッジから延び前記第1縦エッジに達することなく途切れる複数の第3サイプとが設けられ、
前記第1サイプは、タイヤ軸方向の中央部に底面が隆起した第1浅底部を含み、
前記第1サイプ、前記第2サイプ及び前記第3サイプは、タイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜しており、
前記第2サイプは、タイヤ軸方向に対して前記第1サイプよりも小さい角度で傾斜した緩傾斜部と、タイヤ軸方向に対して前記第1サイプよりも大きい角度で傾斜した急傾斜部とを含む、
タイヤ。
【請求項9】
前記第3サイプは、タイヤ軸方向に対して前記第1サイプよりも小さい角度で傾斜した緩傾斜部と、タイヤ軸方向に対して前記第1サイプよりも大きい角度で傾斜した急傾斜部とを含む、請求項8に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記緩傾斜部は、直線状である、請求項9に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記急傾斜部は、直線状である、請求項9又は10に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記第2サイプの前記緩傾斜部は、前記第1縦エッジに連通している、請求項9ないし11のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項13】
前記第3サイプの前記緩傾斜部は、前記第2縦エッジに連通している、請求項9ないし12のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項14】
前記第2サイプは、底面が隆起した第2浅底部を含み、
前記第2浅底部は、前記急傾斜部に設けられている、請求項9ないし13のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項15】
前記第3サイプは、底面が隆起した第3浅底部を含み、
前記第3浅底部は、前記急傾斜部に設けられている、請求項9ないし14のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関し、詳しくは、車両への装着の向きが指定されたトレッド部を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1には、車両への装着の向きが指定されたトレッド部を有するタイヤが提案されている。このタイヤは、ショルダー主溝の幅と、センター主溝の幅との総和が特定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両への装着の向きが指定されたトレッド部を有するタイヤにおいて、ドライ路面での操縦安定性及びウェット性能のさらなる向上が望まれている。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、車両への装着の向きが指定されたトレッド部を有するタイヤにおいて、ドライ路面での操縦安定性を維持しつつ、優れたウェット性能を発揮させることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤであって、車両への装着の向きが指定されたトレッド部を有し、前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の主溝と、前記主溝に区分された第1陸部と、車両装着時に前記第1陸部の車両内側に隣接する第2陸部とを含み、前記第1陸部には、前記第1陸部を横断する複数の第1サイプが設けられ、前記第2陸部は、前記第1陸部側の第1縦エッジと、前記第1縦エッジの反対側の第2縦エッジと、前記第1縦エッジと前記第2縦エッジとの間の踏面とを含み、前記第2陸部には、前記第1縦エッジから延び前記第2縦エッジに達することなく途切れる複数の第2サイプと、前記第2縦エッジから延び前記第1縦エッジに達することなく途切れる複数の第3サイプとが設けられ、前記第1サイプは、タイヤ軸方向の中央部に底面が隆起した第1浅底部を含む。
【0007】
本発明のタイヤにおいて、トレッド部は、3本の前記主溝で区分された4つの陸部で構成され、前記第1陸部及び前記第2陸部は、他の2つの陸部に挟まれているのが望ましい。
【0008】
本発明のタイヤにおいて、前記第1サイプは、タイヤ軸方向に対して傾斜して直線状に延びているのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤにおいて、前記第2サイプは、底面が隆起した第2浅底部を含むのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、前記第2浅底部は、前記第2サイプの前記第2縦エッジ側の端部を含む位置に設けられているのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤにおいて、前記第2浅底部は、一定の深さで前記第2サイプの長さ方向に延びる定深部を含むのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤにおいて、前記第2サイプの最大の深さと前記第2浅底部の前記定深部の深さとの差は、0.5mm以上であるのが望ましい。
【0013】
本発明のタイヤにおいて、前記第3サイプは、底面が隆起した第3浅底部を含むのが望ましい。
【0014】
本発明のタイヤにおいて、前記第3浅底部は、前記第3サイプの前記第1縦エッジ側の端部を含む位置に設けられているのが望ましい。
【0015】
本発明のタイヤにおいて、前記第3浅底部は、一定の深さで前記第3サイプの長さ方向に延びる定深部を含むのが望ましい。
【0016】
本発明のタイヤにおいて、前記第3サイプの最大の深さと前記第3浅底部の前記定深部の深さとの差は、0.5mm以上であるのが望ましい。
【0017】
本発明のタイヤにおいて、前記第1サイプ、前記第2サイプ及び前記第3サイプは、タイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜しているのが望ましい。
【0018】
本発明のタイヤにおいて、前記第2サイプは、タイヤ軸方向に対して前記第1サイプよりも小さい角度で傾斜した緩傾斜部と、タイヤ軸方向に対して前記第1サイプよりも大きい角度で傾斜した急傾斜部とを含むのが望ましい。
【0019】
本発明のタイヤにおいて、前記第3サイプは、タイヤ軸方向に対して前記第1サイプよりも小さい角度で傾斜した緩傾斜部と、タイヤ軸方向に対して前記第1サイプよりも大きい角度で傾斜した急傾斜部とを含むのが望ましい。
【0020】
本発明のタイヤにおいて、前記緩傾斜部は、直線状であるのが望ましい。
【0021】
本発明のタイヤにおいて、前記急傾斜部は、直線状であるのが望ましい。
【0022】
本発明のタイヤにおいて、前記第2サイプの前記緩傾斜部は、前記第1縦エッジに連通しているのが望ましい。
【0023】
本発明のタイヤにおいて、前記第3サイプの前記緩傾斜部は、前記第2縦エッジに連通しているのが望ましい。
【0024】
本発明のタイヤにおいて、前記第2サイプは、底面が隆起した第2浅底部を含み、前記第2浅底部は、前記急傾斜部に設けられているのが望ましい。
【0025】
本発明のタイヤにおいて、前記第3サイプは、底面が隆起した第3浅底部を含み、前記第3浅底部は、前記急傾斜部に設けられているのが望ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のタイヤのトレッド部は、主溝に区分された第1陸部と、車両装着時に前記第1陸部の車両内側に隣接する第2陸部とを含む。前記第1陸部には、前記第1陸部を横断する複数の第1サイプが設けられている。前記第1陸部はコーナリング中に接地圧が増加する傾向があるが、前記第1サイプは、前記第1陸部の剛性を適度に緩和し、ドライ路面でのブレーキ性能及びコーナリング性能を改善することができる。
【0027】
前記第2陸部は、前記第1陸部の車両内側に隣接しているため、直進時において前記第1陸部よりも大きい接地圧が作用する傾向がある。このため、ドライ路面での操縦安定性を維持するには、前記第2陸部の剛性低下を抑制するのが望ましい。本発明の前記第2陸部には、第1縦エッジから延び第2縦エッジに達することなく途切れる複数の第2サイプと、第2縦エッジから延び第1縦エッジに達することなく途切れる複数の第3サイプとが設けられている。前記第2陸部に設けられたサイプは、ウェット路面においても、そのエッジにより大きな摩擦力を提供することができ、ウェット性能を向上させることができる。前記第2サイプ及び前記第3サイプは、第2陸部に大きな接地圧が作用するため、そのエッジによりウェット路面で摩擦力を提供する一方、前記第2陸部の剛性の過度な低下を抑制して、ドライ路面での操縦安定性を維持するのに役立つ。
【0028】
本発明のタイヤにおいて、前記第1サイプは、タイヤ軸方向の中央部に底面が隆起した第1浅底部を含む。このような前記第1サイプは、上記エッジ効果を損なわずに、前記第1陸部の剛性が過度に低下するのを抑制し、より確実にドライ路面での操縦安定性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の展開図である。
【
図2】
図1の第1陸部及び第2陸部の拡大図である。
【
図9】比較例のタイヤのトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本発明の一実施形態を示すタイヤ1のトレッド部2の展開図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤとして好適に使用される。但し、本発明は、このような態様に限定されるものではない。
【0031】
図1に示されるように、本発明のタイヤ1は、車両への装着の向きが指定されたトレッド部2を有する。トレッド部2は、タイヤ1の車両装着時に車両外側に位置する第1トレッド端Te1と、車両装着時に車両内側に位置する第2トレッド端Te2とを有する。車両への装着の向きは、例えば、サイドウォール部(図示省略)に、文字又は記号で表示される。
【0032】
第1トレッド端Te1及び第2トレッド端Te2は、空気入りタイヤの場合、正規状態のタイヤ1に正規荷重が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。正規状態とは、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。
【0033】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0034】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0035】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0036】
トレッド部2は、第1トレッド端Te1と第2トレッド端Te2との間でタイヤ周方向に連続して延びる複数の主溝3と、主溝3に区分された複数の陸部4とを有する。
【0037】
主溝3は、第1トレッド端Te1とタイヤ赤道Cとの間に配された第1ショルダー主溝5と、第2トレッド端Te2とタイヤ赤道Cとの間に配された第2ショルダー主溝6と、第1ショルダー主溝5と第2ショルダー主溝6との間に配された1本のクラウン主溝7とを含む。
【0038】
タイヤ赤道Cから第1ショルダー主溝5又は第2ショルダー主溝6の溝中心線までのタイヤ軸方向の距離L1は、例えば、トレッド幅TWの0.15~0.30倍であるのが望ましい。トレッド幅TWは、前記正規状態での第1トレッド端Te1から第2トレッド端Te2までのタイヤ軸方向の距離である。
【0039】
クラウン主溝7は、例えば、タイヤ赤道C上に設けられている。但し、このような態様に限定されるものではない。
【0040】
本実施形態の各主溝3は、例えば、タイヤ周方向に平行に直線状に延びている。各主溝3は、例えば、波状に延びるものでも良い。
【0041】
各主溝3の溝幅W1は、例えば、トレッド幅TWの5%~8%であるのが望ましい。各主溝3の深さは、乗用車用の空気入りタイヤの場合、例えば、5~10mmであるのが望ましい。
【0042】
本実施形態のトレッド部2は、上述の3本の主溝3で区分された4つの陸部4で構成されている。但し、このような態様に限定されるものではなく、トレッド部2は、例えば、4本の主溝3で区分された5つの陸部4で構成されても良い。
【0043】
陸部4は、第1陸部8及び第2陸部9を含んでいる。本実施形態の陸部4は、さらに、第3陸部10及び第4陸部11を含んでいる。本実施形態の第1陸部8は、例えば、第1ショルダー主溝5とクラウン主溝7との間に区分されている。第2陸部9は、車両装着時に第1陸部8の車両内側に隣接する。本実施形態の第2陸部9は、第2ショルダー主溝6とクラウン主溝7との間に区分されている。第3陸部10は、第1トレッド端Te1と第1ショルダー主溝5との間に区分されている。第4陸部11は、第2トレッド端Te2と第2ショルダー主溝6との間に区分されている。第1陸部8及び第2陸部9は、他の2つの陸部(第3陸部10及び第4陸部11)に挟まれている。
【0044】
図2には、第1陸部8及び第2陸部9の拡大図が示されている。
図2に示されるように、第1陸部8のタイヤ軸方向の幅W2、及び、第2陸部9のタイヤ軸方向に幅W3は、例えば、トレッド幅TW(
図1に示され、以下、同様である。)の0.10~0.20倍である。本実施形態では、第1陸部8の幅W2と第2陸部9の幅W3とが同一とされている。但し、本発明は、このような態様に限定されるものではない。
【0045】
第1陸部8には、第1陸部8を横断する複数の第1サイプ16が設けられている。第1陸部8はコーナリング中に接地圧が増加する傾向があるが、第1サイプ16は、第1陸部8の剛性を適度に緩和し、ドライ路面でのブレーキ性能及びコーナリング性能を改善することができる。
【0046】
第2陸部9は、第1陸部8側の第1縦エッジ9aと、第1縦エッジ9aの反対側の第2縦エッジ9bと、第1縦エッジ9aと第2縦エッジ9bとの間の踏面とを含む。
【0047】
第2陸部9は、第1陸部8の車両内側に隣接しているため、直進時において第1陸部8よりも大きい接地圧が作用する傾向がある。このため、ドライ路面での操縦安定性を維持するには、前記第2陸部の剛性低下を抑制するのが望ましい。本発明の第2陸部9には、第1縦エッジ9aから延び第2縦エッジ9bに達することなく途切れる複数の第2サイプ17と、第2縦エッジ9bから延び第1縦エッジ9aに達することなく途切れる複数の第3サイプ18とが設けられている。前記第2サイプ17及び前記第3サイプ18は、第2陸部9に大きな接地圧が作用するため、そのエッジによりウェット路面で摩擦力を提供する一方、前記第2陸部の剛性の過度な低下を抑制して、ドライ路面での操縦安定性を維持するのに役立つ。
【0048】
本明細書において、「サイプ」とは、踏面での開口幅が2.0mm以下の切れ込みであり、排水用の溝とは区別される。各サイプの最大の深さは、例えば、主溝3の深さの0.50~0.70倍である。
【0049】
図3には、
図2の第1サイプ16のA-A線断面図が示されている。
図3に示されるように、第1サイプ16は、タイヤ軸方向の中央部に底面が隆起した第1浅底部21を含む。このような第1サイプ16は、上記エッジ効果を損なわずに、第1陸部8の剛性が過度に低下するのを抑制し、より確実にドライ路面での操縦安定性を維持することができる。
【0050】
第1浅底部21のタイヤ軸方向の長さL2は、例えば、第1陸部8のタイヤ軸方向の幅W2(
図2に示す)の0.55~0.75倍である。このような第1浅底部21は、ドライ路面での操縦安定性とウェット性能とをバランス良く高めるのに役立つ。
【0051】
本実施形態の第1浅底部21は、例えば、第1サイプの長さ方向に一定の深さを有する定深部21aと、定深部21aの両側に配された変深部21bとを含む。変深部21bは、深さが第1サイプ16の長さ方向に変化している。変深部21bは、タイヤ半径方向に対して傾斜した側面24を含む。側面24のタイヤ半径方向に対する角度θ2は、例えば、25~35°である。
【0052】
定深部21aの深さd2は、例えば、第1サイプ16の最大の深さd1の0.50倍以下であるのが望ましい。具体的には、定深部21aの深さd2は、例えば、第1サイプ16の最大の深さd1の0.20~0.40倍であるのが望ましい。このような第1浅底部21は、ウェット性能を確保しつつ、第1陸部8の剛性を効果的に高める。
【0053】
図2に示されるように、第1サイプ16は、例えば、タイヤ軸方向に対して傾斜して直線状に延びている。本実施形態の第1サイプ16のタイヤ軸方向に対する角度θ1は、例えば、25~35°である。このような第1サイプ16は、ウェット路面においてタイヤ軸方向にも摩擦力を提供できる。
【0054】
本実施形態では、第1サイプ16、第2サイプ17及び第3サイプ18が、タイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜している。また、第1サイプ16、第2サイプ17及び第3サイプ18が、タイヤ周方向に実質的に同じピッチで配されている。このようなサイプの配置は、第1陸部8及び第2陸部9の偏摩耗を抑制するのに役立つ。
【0055】
同様の観点から、第2サイプ17の第1陸部8側の端部17aは、第1サイプ16の第2陸部9側の端部16aに対してタイヤ周方向に位置ずれしているのが望ましい。第2サイプ17の前記端部17aと第1サイプ16の前記端部16aとのタイヤ周方向の距離L3は、例えば、第1サイプ16のタイヤ周方向の1ピッチ長さP1の0.15~0.30倍である。
【0056】
第2サイプ17のタイヤ軸方向の長さL4は、例えば、第2陸部9のタイヤ軸方向の幅W3の0.40~0.60倍である。
【0057】
第2サイプ17は、例えば、湾曲するものや、一部で折れ曲がっているものでも良い。本実施形態の第2サイプ17は、例えば、1つの折れ曲がり部26を有している。第1縦エッジ9aから折れ曲がり部26までのタイヤ軸方向の距離L5は、例えば、第2サイプ17のタイヤ軸方向の長さL4の0.40~0.60倍である。このような第2サイプ17は、そのエッジによって多方向に摩擦力を提供し、ウェット走行時のトラクション及び旋回性能を高めるのに役立つ。
【0058】
第2サイプ17は、タイヤ軸方向に対して傾斜した緩傾斜部27と、タイヤ軸方向に対して緩傾斜部27よりも大きい角度で傾斜した急傾斜部28とを含む。緩傾斜部27は、第1縦エッジ9aに連通している。緩傾斜部27のタイヤ軸方向に対する角度θ3は、例えば、5~15°である。急傾斜部28は、第2サイプ17の第2縦エッジ9b側の端部17bを含んでいる。急傾斜部28のタイヤ軸方向に対する角度θ4は、例えば、40~50°である。緩傾斜部27及び急傾斜部28は、それぞれ、直線状に延びているのが望ましい。
【0059】
さらに望ましい態様では、緩傾斜部27の前記角度θ3は、第1サイプ16のタイヤ軸方向に対する角度θ1よりも小さい。急傾斜部28の前記角度θ4は、第1サイプ16の前記角度θ1よりも大きい。これにより、第1サイプ16のエッジ及び第2サイプ17のエッジが接地するときの打音がホワイトノイズ化され、ノイズ性能が向上する。
【0060】
図4には、第2サイプ17のB-B線断面図が示されている。
図4に示されるように、第2サイプ17は、底面が隆起した第2浅底部22を含む。本実施形態の第2浅底部22は、第2サイプ17の第2縦エッジ9b側の端部17bを含んでいる。このような第2サイプ17は、第2陸部9の剛性を維持し、ドライ路面での操縦安定性が確保される。
【0061】
第2浅底部22は、急傾斜部28(
図2に示す)に設けられているのが望ましい。これにより、第2陸部9のタイヤ軸方向の剛性が効果的に維持される。
【0062】
第2浅底部22のタイヤ軸方向の長さL6は、例えば、第2陸部9のタイヤ軸方向の幅W3(
図2に示す)の0.20~0.30倍である。本実施形態の第2浅底部22の前記長さL6は、第1サイプ16の第1浅底部21(
図3に示す)のタイヤ軸方向の長さL2よりも小さい。
【0063】
第2浅底部22は、一定の深さで第2サイプ17の長さ方向に延びる定深部22aと、定深部22aの底面に連なりタイヤ半径方向に対して傾斜した側面22bを含む。第2浅底部22の側面22bのタイヤ半径方向に対する角度θ5は、例えば、5~15°である。望ましい態様では、第2浅底部22の側面22bの前記角度θ5は、第1浅底部21の変深部21bの側面24のタイヤ半径方向に対する角度θ2(
図3に示す)よりも小さい。このような第2浅底部22は、タイヤ軸方向の長さを小さくでき、ウェット性能が損なわれるのを抑制できる。
【0064】
第2サイプ17の最大の深さd3と第2浅底部22の定深部22aの深さd4との差は、少なくとも0.5mm以上である。第2浅底部22の定深部22aの深さd4は、第2サイプ17の前記深さd3の0.50倍以下であるのが望ましい。具体的には、第2浅底部22の定深部22aの深さd4は、第2サイプ17の前記深さd3の0.20~0.30倍である。このような第2浅底部22は、ドライ路面での操縦安定性とウェット性能とをバランス良く向上させる。
【0065】
図2に示されるように、第3サイプ18は、第1サイプ16の第2陸部9側の端部16aをタイヤ軸方向に延長した仮想領域と重複しないのが望ましい。また、第3サイプ18は、第2サイプ17の第2縦エッジ9b側の端部17bをタイヤ軸方向に延長した仮想領域と重複しないのが望ましい。より望ましい態様では、第3サイプ18は、例えば、第1サイプ16の全体をタイヤ軸方向に延長した仮想領域、及び、第2サイプ17の全体をタイヤ軸方向に延長した仮想領域のそれぞれと重複しない。このような第3サイプ18の配置は、第1陸部8及び第2陸部9の偏摩耗を抑制するのに役立つ。また、このようなサイプの配置は、各サイプの打音をホワイトノイズ化でき、ノイズ性能を高めるのに役立つ。
【0066】
第3サイプ18のタイヤ軸方向の長さL7は、例えば、第2陸部9のタイヤ軸方向の幅W3の0.40~0.60倍である。
【0067】
第3サイプ18は、例えば、湾曲するものや、一部で折れ曲がっているものでも良い。本実施形態の第3サイプ18は、例えば、1つの折れ曲がり部31を有している。第2縦エッジ9bから第3サイプ18の折れ曲がり部31までのタイヤ軸方向の距離L8は、例えば、第3サイプ18のタイヤ軸方向の長さL7の0.40~0.60倍である。このような第3サイプ18は、そのエッジによって多方向に摩擦力を提供し、ウェット走行時のトラクション及び旋回性能を高めるのに役立つ。
【0068】
第3サイプ18は、タイヤ軸方向に対して傾斜した緩傾斜部32と、タイヤ軸方向に対して緩傾斜部32よりも大きい角度で傾斜した急傾斜部33とを含む。緩傾斜部32は、第2縦エッジ9bに連通している。緩傾斜部32のタイヤ軸方向に対する角度θ6は、例えば、5~15°である。急傾斜部33は、第3サイプ18の第1縦エッジ9a側の端部18bを含んでいる。急傾斜部33のタイヤ軸方向に対する角度θ7は、例えば、40~50°である。緩傾斜部32及び急傾斜部33は、それぞれ、直線状に延びているのが望ましい。本実施形態では、第3サイプ18の緩傾斜部32は、第2サイプ17の緩傾斜部27と平行に配されている。また、第3サイプ18の急傾斜部33は、第2サイプ17の急傾斜部28と平行に配されている。
【0069】
さらに望ましい態様では、第3サイプ18の緩傾斜部32の前記角度θ6は、第1サイプ16のタイヤ軸方向に対する角度θ1よりも小さい。第3サイプ18の急傾斜部33の前記角度θ7は、第1サイプ16の前記角度θ1よりも大きい。これにより、第1サイプ16のエッジ及び第3サイプ18のエッジが接地するときの打音がホワイトノイズ化され、ノイズ性能が向上する。
【0070】
図5には、第3サイプ18のC-C線断面図が示されている。
図5に示されるように、第3サイプ18は、底面が隆起した第3浅底部23を含む。本実施形態の第3浅底部23は、第3サイプ18の第1縦エッジ9a側の端部18b(
図2に示す)を含んでいる。このような第3サイプ18は、第2陸部9の剛性を維持し、ドライ路面での操縦安定性が確保される。
【0071】
第3浅底部23は、第3サイプ18の急傾斜部33に設けられているのが望ましい。これにより、第2陸部9のタイヤ軸方向の剛性が効果的に維持される。
【0072】
第3浅底部23のタイヤ軸方向の長さL9は、例えば、第2陸部9のタイヤ軸方向の幅W3(
図2に示す)の0.20~0.30倍である。本実施形態の第3浅底部23の前記長さL9は、第1サイプ16の第1浅底部21(
図3に示す)のタイヤ軸方向の長さL2よりも小さい。
【0073】
第3浅底部23は、一定の深さで第3サイプ18の長さ方向に延びる定深部23aを含む。第3サイプ18の最大の深さd5と第3浅底部23の定深部23aの深さd6との差は、少なくとも0.5mm以上である。第3浅底部23の定深部23aの深さd6は、第3サイプ18の前記深さd5の0.50倍以上であるのが望ましい。具体的には、第3浅底部23の定深部23aの深さd6は、第3サイプ18の前記深さd5の0.80~0.95倍である。これにより、第3サイプ18が優れたウェット性能を発揮できる。
【0074】
図6には、各サイプの横断面図を示す図として、
図2の第1サイプ16のD-D線断面図が示されている。
図6に示されるように、本実施形態の各サイプは、開口部38と、開口部38のタイヤ半径方向内側に連なる幅狭部39とを含む。開口部38の幅W5は、例えば、1.0~2.0mmである。幅狭部39の幅W6は、例えば、0.3~0.8mmである。このようなサイプは、ドライ路面での操縦安定性とウェット性能とをバランス良く高めるのに役立つ。
【0075】
図7には、第3陸部10の拡大図が示されている。
図7に示されるように、第3陸部10には、第1トレッド端Te1からタイヤ軸方向に延びかつ第1ショルダー主溝5の手前で途切れる複数の第1横溝36が設けられている。このような第1横溝36は、第3陸部10の剛性を維持しつつ、優れた排水性を発揮する。
【0076】
第1横溝36から第1ショルダー主溝5までのタイヤ軸方向の距離L10は、例えば、第3陸部10のタイヤ軸方向の幅W4の0.05~0.15倍である。より望ましい態様では、前記距離L10は、第2サイプ17のタイヤ軸方向の長さL4、及び、第3サイプ18のタイヤ軸方向の長さL7(
図2に示され、以下、同様である。)よりも小さい。これにより、第3陸部10の剛性が過度に高められるのが抑制される。
【0077】
第1横溝36は、例えば、タイヤ軸方向に対して第1サイプ16とは逆向きに傾斜している。第1横溝36のタイヤ軸方向に対する角度θ8は、例えば、5~15°である。第1横溝36の前記角度θ8は、第1サイプ16のタイヤ軸方向に対する角度θ1よりも小さいのが望ましい。このような第1横溝36は、ウェット路面でのトラクションを高めるのに役立つ。
【0078】
図8には、第4陸部11の拡大図が示されている。
図8に示されるように、第4陸部11には、第2トレッド端Te2からタイヤ軸方向に延びかつ第2ショルダー主溝6に連通する複数の第2横溝37が設けられている。このような第2横溝37は、ウェット性能を高めるのに役立つ。
【0079】
第2横溝37は、例えば、タイヤ軸方向に対して第2サイプ17及び第3サイプ18とは逆向きに傾斜している。第2横溝37のタイヤ軸方向に対する角度θ9は、例えば、5~15°である。第2横溝37の前記角度θ9は、第2サイプ17の急傾斜部28のタイヤ軸方向に対する角度θ4、及び、第3サイプ18の急傾斜部33のタイヤ軸方向に対する角度θ7よりも小さいのが望ましい。
【0080】
以上、本発明の一実施形態のタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例】
【0081】
図1の基本パターンを有するサイズ195/65R15のタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例として、
図9に示されるタイヤが試作された。
図9に示されるように、比較例のタイヤは、第1陸部a及び第2陸部bのそれぞれに、陸部を横断するサイプcが設けられている。なお、サイプcは、上述の第1サイプと同じ断面形状を具えている。比較例のタイヤは、上述の構成を除き、
図1で示されるタイヤと実質的に同じである。各テストタイヤのドライ路面での操縦安定性及びウェット性能がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
装着リム:15×6.0J
タイヤ内圧:230kPa
テスト車両:前輪駆動車、排気量1600cc
タイヤ装着位置:全輪
テスト方法は、以下の通りである。
【0082】
<ドライ路面での操縦安定性>
上記テスト車両でドライ路面を走行したときの操縦安定性が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点であり、数値が大きい程、操縦安定性が優れていることを示す。
【0083】
<ウェット性能>
上記テスト車両でウェット路面を走行したときの走行性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点であり、数値が大きい程、ウェット性能が優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0084】
【0085】
テストの結果、実施例のタイヤは、ドライ路面での操縦安定性及びウェット性能が向上していることが確認できた。
【符号の説明】
【0086】
2 トレッド部
3 主溝
8 第1陸部
9 第2陸部
9a 第1縦エッジ
9b 第2縦エッジ
16 第1サイプ
17 第2サイプ
18 第3サイプ
21 第1浅底部