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特許7363219巻線界磁型回転電機の制御方法、及び、巻線界磁型回転電機の制御装置
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  • 特許-巻線界磁型回転電機の制御方法、及び、巻線界磁型回転電機の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】巻線界磁型回転電機の制御方法、及び、巻線界磁型回転電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20231011BHJP
   H02P 25/024 20160101ALI20231011BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20231011BHJP
   B60L 15/20 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P25/024
B60L9/18 J
B60L15/20 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019160727
(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公開番号】P2021040424
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 弘征
(72)【発明者】
【氏名】正治 満博
(72)【発明者】
【氏名】本杉 純
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-080353(JP,A)
【文献】特開2017-028836(JP,A)
【文献】特開平08-242600(JP,A)
【文献】特開2008-141838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/05
H02P 25/024
B60L 9/18
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子に固定子巻線を備えるとともに、回転子に回転子巻線を備える巻線界磁型回転電機の制御方法であって、
トルク指令値に基づいて、前記固定子巻線への供給電力を制御するd軸電圧指令値、q軸電圧指令値、及び、前記回転子巻線への供給電圧を制御するf軸電圧指令値、を算出する算出ステップと、
前記巻線界磁型回転電機を制御対象とするプラントモデルに含まれる振動成分を除去するフィルタを用いて、前記算出ステップにて算出される前記d軸電圧指令値、前記q軸電圧指令値、及び、前記f軸電圧指令値に対する補正を行う、補正ステップと、
前記補正ステップにおいて補正された前記d軸電圧指令値、及び、補正された前記q軸電圧指令値に基づいて、前記固定子巻線に電圧を印加するとともに、補正された前記f軸電圧指令値に基づいて、前記回転子巻線に電圧を印加する、電圧印加ステップと、を備え、
前記フィルタは、制御される前記d軸電圧指令値、前記q軸電圧指令値、及び、前記f軸電圧指令値のそれぞれの電圧指令値が変化する場合において、変化する前記電圧指令値と同軸方向、及び、変化する前記電圧指令値とは異なる軸方向の電流における振動成分を抑制するように構成され
前記フィルタは、少なくとも、
前記d軸電圧指令値の変化により発生するf軸電流における振動成分を抑制するように、前記d軸電圧指令値に基づく前記f軸電圧指令値を補正、
前記q軸電圧指令値の変化により発生する前記f軸電流における振動成分を抑制するように、前記q軸電圧指令値に基づく前記f軸電圧指令値を補正、
前記f軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するように、前記f軸電圧指令値に基づく前記d軸電圧指令値を補正、
前記f軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するように、前記f軸電圧指令値に基づく前記q軸電圧指令値を補正、及び、
前記f軸電圧指令値の変化により発生する前記f軸電流における振動成分を抑制するような、前記f軸電圧指令値の補正、のうちのいずれかを行う、巻線界磁型回転電機の制御方法。
【請求項2】
固定子に固定子巻線を備えるとともに、回転子に回転子巻線を備える巻線界磁型回転電機の制御方法であって、
トルク指令値に基づいて、前記固定子巻線への供給電力を制御するd軸電圧指令値、q軸電圧指令値、及び、前記回転子巻線への供給電圧を制御するf軸電圧指令値、を算出する算出ステップと、
前記巻線界磁型回転電機を制御対象とするプラントモデルに含まれる振動成分を除去するフィルタを用いて、前記算出ステップにて算出される前記d軸電圧指令値、前記q軸電圧指令値、及び、前記f軸電圧指令値に対する補正を行う、補正ステップと、
前記補正ステップにおいて補正された前記d軸電圧指令値、及び、補正された前記q軸電圧指令値に基づいて、前記固定子巻線に電圧を印加するとともに、補正された前記f軸電圧指令値に基づいて、前記回転子巻線に電圧を印加する、電圧印加ステップと、を備え、
前記フィルタは、制御される前記d軸電圧指令値、前記q軸電圧指令値、及び、前記f軸電圧指令値のそれぞれの電圧指令値が変化する場合において、変化する前記電圧指令値と同軸方向、及び、変化する前記電圧指令値とは異なる軸方向の電流における振動成分を抑制するように構成され、
前記フィルタは、少なくとも、
前記d軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するような、前記d軸電圧指令値の補正、
前記d軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するように、前記d軸電圧指令値に基づく前記q軸電圧指令値の補正、
前記q軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するように、前記q軸電圧指令値に基づく前記d軸電圧指令値の補正、及び、
前記q軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するような、前記q軸電圧指令値の補正、のうちのいずれかを行う、巻線界磁型回転電機の制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の巻線界磁型回転電機の制御方法であって、
前記フィルタは、少なくとも、前記回転電機の電気角速度、前記回転電機における抵抗値、インダクタンス、及び、相互インダクタンスのうちのいずれかを用いて、変化する前記電圧指令値と同軸方向、及び、変化する前記電圧指令値とは異なる軸方向の電流における振動成分を抑制するように構成される、巻線界磁型回転電機の制御方法。
【請求項4】
固定子に固定子巻線を備えるとともに、回転子に回転子巻線を備える巻線界磁型回転電機の制御装置であって、
トルク指令値に基づいて、前記固定子巻線への供給電力を制御するd軸電圧指令値、q軸電圧指令値、及び、前記回転子巻線への供給電圧を制御するf軸電圧指令値、を算出する電圧指令値算出部と、
前記巻線界磁型回転電機を制御対象とするプラントモデルに含まれる振動成分を除去するフィルタを用いて、前記電圧指令値算出部にて算出される前記d軸電圧指令値、前記q軸電圧指令値、及び、前記f軸電圧指令値に対する補正を行う、電圧指令値補正部と、
前記電圧指令値補正部において補正された前記d軸電圧指令値、及び、補正された前記q軸電圧指令値に基づいて、前記固定子巻線に電圧を印加するとともに、補正された前記f軸電圧指令値に基づいて、前記回転子巻線に電圧を印加する、電圧印加部と、を備え、
前記電圧指令値補正部は、制御される前記d軸電圧指令値、前記q軸電圧指令値、及び、前記f軸電圧指令値のそれぞれの電圧指令値が変化する場合において、変化する前記電圧指令値と同軸方向、及び、変化する前記電圧指令値とは異なる軸方向の電流における振動成分を抑制し、
前記フィルタは、少なくとも、
前記d軸電圧指令値の変化により発生するf軸電流における振動成分を抑制するように、前記d軸電圧指令値に基づく前記f軸電圧指令値を補正、
前記q軸電圧指令値の変化により発生する前記f軸電流における振動成分を抑制するように、前記q軸電圧指令値に基づく前記f軸電圧指令値を補正、
前記f軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するように、前記f軸電圧指令値に基づく前記d軸電圧指令値を補正、
前記f軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するように、前記f軸電圧指令値に基づく前記q軸電圧指令値を補正、及び、
前記f軸電圧指令値の変化により発生する前記f軸電流における振動成分を抑制するような、前記f軸電圧指令値の補正、のうちのいずれかを行う、巻線界磁型回転電機の制御装置。
【請求項5】
固定子に固定子巻線を備えるとともに、回転子に回転子巻線を備える巻線界磁型回転電機の制御装置であって、
トルク指令値に基づいて、前記固定子巻線への供給電力を制御するd軸電圧指令値、q軸電圧指令値、及び、前記回転子巻線への供給電圧を制御するf軸電圧指令値、を算出する電圧指令値算出部と、
前記巻線界磁型回転電機を制御対象とするプラントモデルに含まれる振動成分を除去するフィルタを用いて、前記電圧指令値算出部にて算出される前記d軸電圧指令値、前記q軸電圧指令値、及び、前記f軸電圧指令値に対する補正を行う、電圧指令値補正部と、
前記電圧指令値補正部において補正された前記d軸電圧指令値、及び、補正された前記q軸電圧指令値に基づいて、前記固定子巻線に電圧を印加するとともに、補正された前記f軸電圧指令値に基づいて、前記回転子巻線に電圧を印加する、電圧印加部と、を備え、
前記電圧指令値補正部は、制御される前記d軸電圧指令値、前記q軸電圧指令値、及び、前記f軸電圧指令値のそれぞれの電圧指令値が変化する場合において、変化する前記電圧指令値と同軸方向、及び、変化する前記電圧指令値とは異なる軸方向の電流における振動成分を抑制し、
前記フィルタは、少なくとも、
前記d軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するような、前記d軸電圧指令値の補正、
前記d軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するように、前記d軸電圧指令値に基づく前記q軸電圧指令値の補正、
前記q軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するように、前記q軸電圧指令値に基づく前記d軸電圧指令値の補正、及び、
前記q軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するような、前記q軸電圧指令値の補正、のうちのいずれかを行う、巻線界磁型回転電機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線界磁型回転電機の制御方法、及び、巻線界磁型回転電機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
巻線界磁同期型の回転電機においては、固定子が備える巻線に電圧を印加することにより固定子側に界磁が発生するとともに、回転子が備える巻線に電圧を印加することにより回転子側に界磁が発生し、両者の界磁が制御されることで回転駆動が行われる。このような巻線界磁型の回転電機は、固定子への印加電圧(d軸電圧、q軸電圧)とともに、回転子への印加電圧(f軸電圧)が制御される。
【0003】
特許文献1には、巻線界磁同期型の回転電機の制御方法が開示されている。この制御方法によれば、損失、銅損、トルクリプル、及び、電磁加振力の4つのパラメータのそれぞれが最小となる指令値の組み合わせを示す制御マップが予め記憶されている。そして、回転電機の駆動状況に応じて、これらの制御マップのうち少なくとも2つを切り換えることにより、固定子への指令値(d軸電圧指令値、q軸電圧指令値)と、回転子への指令値(f軸電圧指令値)との組み合わせが定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-109759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される回転電機の制御方法においては、固定子に対するd軸電圧、q軸電圧が制御されるとともに、回転子が備える巻線に対するf軸電圧が制御される。しかしながら、これらのd軸、q軸、及び、f軸のうちの1つの軸方向における電圧を変化させると、その変化する電圧と同じ軸方向の電流に影響を与えるだけでなく、他の軸方向における電流に干渉することが知られている。
【0006】
例えば、d軸電圧を変化させると、d軸電流に加えて、q軸電流及びf軸電流において逆起電圧による変化が生じる。同様に、q軸電圧の変化は、q軸電流だけでなく、d軸電流及びf軸電流に影響し、f軸電圧の変化は、f軸電流だけでなく、d軸電流及びq軸電流に影響を与える。
【0007】
さらに、巻線界磁型の回転電機の制御モデルにおいては、電圧指令値を入力とし、回転電機に流れる電流を出力とする伝達特性において、振動成分が含まれることが知られている。
【0008】
そのため、例えば、回転電機に対するトルク指令値に応じて、1つの軸方向の電圧指令値だけを変化させたとしても、d軸電流、q軸電流及びf軸電流の全てが変動する。さらに、d軸電流、q軸電流及びf軸電流における制御系に振動成分が含まれるので、駆動制御を精度よく行えないおそれがある。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであり、振動成分を除去することにより駆動制御を精度よく行うことができる巻線界磁型の回転電機の制御方法、及び、その制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の巻線界磁型回転電機の制御方法は、固定子に固定子巻線を備えるとともに、回転子に回転子巻線を備える巻線界磁型のモータの制御方法である。このモータの制御方法は、トルク指令値に基づいて、固定子巻線への供給電力を制御するd軸電圧指令値、q軸電圧指令値、及び、回転子巻線への供給電圧を制御するf軸電圧指令値と、を算出する算出ステップと、巻線界磁型モータを制御対象とするプラントモデルに含まれる振動成分を除去するフィルタを用いて、算出ステップにて算出されるd軸電圧指令値、q軸電圧指令値、及び、f軸電圧指令値に対する補正を行う、補正ステップと、補正ステップにおいて補正されたd軸電圧指令値、及び、補正されたq軸電圧指令値に基づいて、固定子巻線に電圧を印加するとともに、補正されたf軸電圧指令値に基づいて、回転子巻線に電圧を印加する、電圧印加ステップと、を備える。フィルタは、制御されるd軸電圧指令値、q軸電圧指令値、及び、f軸電圧指令値のそれぞれの電圧指令値が変化する場合において、変化する前記電圧指令値と同軸方向、及び、変化する電圧指令値とは異なる軸方向の電流における振動成分を抑制するように構成される。そして、フィルタは、少なくとも、d軸電圧指令値の変化により発生するf軸電流における振動成分を抑制するように、d軸電圧指令値に基づくf軸電圧指令値を補正、q軸電圧指令値の変化により発生するf軸電流における振動成分を抑制するように、q軸電圧指令値に基づくf軸電圧指令値を補正、f軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するように、f軸電圧指令値に基づくd軸電圧指令値を補正、f軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するように、f軸電圧指令値に基づくq軸電圧指令値を補正、及び、f軸電圧指令値の変化により発生するf軸電流における振動成分を抑制するような、f軸電圧指令値の補正、のうちのいずれかを行う。また、別の態様では、フィルタは、少なくとも、d軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するような、d軸電圧指令値の補正、d軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するように、d軸電圧指令値に基づくq軸電圧指令値の補正、q軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するように、q軸電圧指令値に基づくd軸電圧指令値の補正、及び、q軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するような、q軸電圧指令値の補正、のうちのいずれかを行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、巻線界磁型回転電機を精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態におけるモータ制御システムの概略構成図である。
図2図2は、本実施形態におけるモータの駆動制御のフローチャートを示す図である。
図3図3は、第1比較例におけるモータの駆動状態のタイミングチャートである。
図4図4は、第2比較例におけるモータの駆動状態のタイミングチャートである。
図5図5は、本実施形態におけるモータの駆動状態のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本実施形態の制御方法により制御されるモータ制御システム10の概略構成図である。モータ制御システム10においては、巻線界磁同期型の回転電機であるモータ100が、制御装置200により制御される。モータ制御システム10は、ハイブリッド自動車を含む電動車両に限らず、車両以外のシステムに適用されてもよい。なお、モータ制御システム10が電動車両に適用される場合、モータ100は車両の駆動源となる。
【0015】
モータ100は、巻線界磁型同期モータであり、固定子に設けられる三相の電機子巻線に加えて回転子に界磁巻線を有している。そのため、制御装置200は、固定子の巻線に印加されるuvw相の交流電圧vu、vv、vwに加えて、回転子の巻線に対するf軸電圧(巻線界磁電圧)vfを制御する。そして、回転子及び回転子の界磁が変化することにより、モータ100の回転駆動が制御される。
【0016】
モータ100と制御装置200との間には、電流センサ101が複数設けられている。モータ100の固定子と制御装置200(インバータ205)との間のuvw相の3つの配線のうちuv相の2つの配線に、電流センサ101u、101vが設けられている。電流センサ101uによりu相電流測定値iuが検出され、電流センサ101vによりv相電流測定値ivが検出される。モータ100の回転子と制御装置200(界磁制御部207)との間には、f軸電流(巻線界磁電流)ifを検出する電流センサ101fが設けられている。
【0017】
モータ100には、回転子の磁極位置を検出する磁極位置検出器102が設けられている。磁極位置検出器102は、一例としてはレゾルバであり、回転子の磁極位置を示すABZパルスを、制御装置200(パルスカウンタ210)へ出力する。
【0018】
制御装置200は、モータ100を制御するために、電圧指令値算出部201、電圧指令補正フィルタ202、d-q/3相交流座標変換器203、PWM変換器204、インバータ205、直流電源206、界磁制御部207、A/D変換器208、3相/d-q交流座標変換器209、パルスカウンタ210、角速度演算器211、及び、先読み補償部212を備える。
【0019】
電圧指令値算出部201は、上位装置からのトルク指令値T*、後述する角速度演算器211から出力されるモータ回転数ωrm、及び、モータ100の駆動電源である直流電源206から供給される電源電圧Vdcを受け付ける。電圧指令値算出部201は、これらのパラメータに基づいて、d軸電圧指令値vd *、q軸電圧指令値vq *、及び、f軸電圧指令値vf *を算出する。
【0020】
詳細には、電圧指令値算出部201は、トルク指令値T*、モータ回転数ωrm、及び、電源電圧Vdcと、d軸電圧指令値vd *、q軸電圧指令値vq *、及び、f軸電圧指令値vf *との関係を定めたマップデータを予め記憶しておき、入力されるパラメータに基づいてマップデータを参照することで電圧指令値vd *、vq *、vf *を求める。
【0021】
電圧指令値算出部201は、電圧指令値vd *、vq *、vf *の算出過程において、d軸電流指令値id *、q軸電流指令値iq *及びf軸電流指令値if *を算出してもよい。このような場合には、電圧指令値算出部201には、モータ100の電流測定値id、iq、ifがフィードバック入力され、電流測定値id、iq、ifが電流指令値id *、iq *、if *に追従するように、電圧指令値vd *、vq *、vf *が求められる。
【0022】
電圧指令補正フィルタ202は、電圧指令値算出部201から出力される電圧指令値vd *、vq *、vf *を受け付けると、所定のフィルタ処理を行い、補正電圧指令値vd **、vq **、vf **を算出する。ここで、このフィルタ処理においては、モータ100における電圧指令値vd *、vq *、vf *の変化に起因して生じる電流id、iq、ifの振動成分が除去される。なお、電圧指令補正フィルタ202は、後述の(10)式の行列により示される伝達特性を有する。
【0023】
d-q/3相交流座標変換器203は、後述の先読み補償部212において補償処理がなされたモータ100の回転子の電気角度θre’を用いて、直交2軸直流座標系(d-q軸)から3相交流座標系(uvw軸)への変換を行なう。具体的に、d-q/3相交流座標変換器203は、次式の関係を用いて、補正電圧指令値vd **、vq **から、電圧指令値vu *、vv *、vw *を算出する。
【0024】
【数1】
【0025】
PWM変換器204は、入力される電圧指令値vu *、vv *、vw *に基づき、インバータ205を構成するスイッチング素子の操作に用いるデューティ指令値Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *を生成する。なお、インバータ205は、3相2アームの6つのスイッチング素子を備えており、デューティ指令値Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *はこれらの6つのスイッチング素子に対するものである。
【0026】
インバータ205は、直流電源206から供給される電源電圧Vdcを用いて、デューティ指令値Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *に応じてスイッチング素子を操作することにより、交流電圧vu、vv、vwを生成する。交流電圧vu、vv、vwは、モータ100に供給される。
【0027】
直流電源206は、例えば積層型リチウムイオンバッテリであり、インバータ205、及び、界磁制御部207の両者に電源電圧Vdcを供給する。すなわち、モータ100の固定子側の巻線と回転子側の巻線には、共通の直流電源206から供給された電源電圧Vdcにより生成された電圧が印加される。
【0028】
界磁制御部207は、直流電源206から供給される電源電圧Vdcを用いて、電圧指令補正フィルタ202から出力されるf軸電圧指令値vf **に応じたf軸電圧vfを、モータ100の回転子が備える巻線に印加する。これにより、回転子側の巻線にはf軸電流ifが流れ、磁束(界磁)が発生する。
【0029】
A/D変換器208は、電流センサ101により検出される電流測定値iu、iv、ifを受け付けると、デジタル信号の電流測定値ius、ivs、ifsに変換する。変換により得られる電流測定値ius、ivsは、さらに、3相/d-q交流座標変換器209へと出力される。
【0030】
3相/d-q交流座標変換器209は、A/D変換器208から出力される電流測定値ius、ivsとともに、後述のパルスカウンタ210から出力される回転子の電気角度θreを受け付ける。電流センサ101を3相のうちの2相にのみに取り付ける場合、残りの1相のw相電流iwsは、次式により求めることができる。
【0031】
【数2】
【0032】
3相/d-q交流座標変換器209は、電流測定値ius、ivsを用い、(2)式に基づいて、w相電流iwsを算出する。そして、3相/d-q交流座標変換器209は、電流測定値ius、ivs、iwsに対して、次式に基づく相変換を行うことで、d軸電流測定値id、及び、q軸電流測定値iqを算出する。この座標変換において、パルスカウンタ210から出力される電気角度θreが用いられる。
【0033】
【数3】
【0034】
なお、3相/d-q交流座標変換器209により算出される電流測定値id、iqは、A/D変換器208から出力される電流ifsとともに、電圧指令値算出部201におけるフィードバック制御に用いられてもよい。
【0035】
パルスカウンタ210は、磁極位置検出器102から出力されるABZパルスを検出すると、ABZパルスに応じて回転子の電気角度θreを求め、電気角度θreを3相/d-q交流座標変換器209、角速度演算器211、及び、先読み補償部212に出力する。
【0036】
角速度演算器211は、パルスカウンタ210により取得された電気角度θreを受け付けると、電気角度θreの時間変化率に基づいて、電気角速度ωreを求める。さらに、角速度演算器211は、電気角速度ωreをモータ100の極対数pによって除することによりモータ回転数ωrmを求める。電気角速度ωreは、先読み補償部212に出力され、モータ回転数ωrmは、電圧指令値算出部201に出力される。
【0037】
先読み補償部212は、パルスカウンタ210から出力される電気角度θre、角速度演算器211から出力される電気角速度ωreを受け付ける。先読み補償部212は、電気角度θreに対して、電気角速度ωreに制御系が持つむだ時間を乗じた値を加算することにより、先読み補償後電気角θre 'を求める。先読み補償後電気角θre 'は、d-q/3相交流座標変換器209へと出力される。
【0038】
なお、制御装置200は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータによって、所定のプログラムを実行可能に構成される。電圧指令値算出部201~先読み補償部212までの複数の機能ブロックは、制御装置200において論理的に構成されてもよいし、異なるハードウェアにより構成されてもよい。
【0039】
制御装置200は、インバータ205などの一部の構成を含まなくてもよい。また、制御装置200の内部構成は任意であり、PWM変換器204及びインバータ205を、一体的に、電圧印加部として構成してもよい。
【0040】
図2は、制御装置200により行われるモータ100の回転制御のフローチャートである。制御装置200がプログラムを実行することで、制御装置200を構成する複数の機能ブロックが動作し、モータ100の回転制御が行われる。
【0041】
ステップS1において、A/D変換器208は、電流センサ101u、101v、101fにより検出される電流測定値iu、iv、ifを受け付け、電流測定値iu、iv、ifをデジタル信号である電流測定値ius、ivs、ifsに変換する。同時に、パルスカウンタ210は、磁極位置検出器102から出力されるABZ相のパルスを検出し、回転子の電気角度θreを求める。
【0042】
ステップS2において、角速度演算器211は、ステップS1で求められた電気角度θreの時間変化率に基づいて、電気角速度ωre、及び、モータ回転数ωrmを求める。
【0043】
ステップS3において、先読み補償部212は、パルスカウンタ210から出力される電気角度θre、及び、角速度演算器211から出力される電気角速度ωreを用いて制御時における電気角の先読み補償を行い、先読み補償後電気角θre 'を算出する。
【0044】
ステップS4において、3相/d-q交流座標変換器209は、A/D変換器208から出力される電流測定値ius、ivsと、パルスカウンタ210から出力される回転子の電気角度θreとを用いて、d軸電流測定値id、及び、q軸電流測定値iqを算出する。
【0045】
ステップS5において、電圧指令値算出部201は、トルク指令値T*、モータ回転数ωrm、及び、直流電源206の電源電圧Vdcに基づいて、d軸電圧指令値vd *、q軸電圧指令値vq *、及び、f軸電圧指令値vf *を算出する。
【0046】
ステップS6において、電圧指令補正フィルタ202は、電圧指令値算出部201から出力される電圧指令値vd *、vq *、vf *を受け付けると、所定のフィルタ処理を行い、補正電圧指令値vd **、vq **、vf **を算出する。
【0047】
ステップS7において、3相/d-q交流座標変換器209は、先読み補償部212において補償処理がなされた電気角度θreを用いて、電圧指令補正フィルタ202から出力される補正電圧指令値vd **、vq **に対して位相変換をすることで、電圧指令値vu *、vv *、vw *を算出する。
【0048】
ステップS8において、PWM変換器204が電圧指令値vu *、vv *、vw *に応じてデューティ指令値Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *を生成する。そして、インバータ205がデューティ指令値Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *に応じて操作されることで、モータ100の固定子側の巻線に交流電圧vu、vv、vwが印加される。さらに、界磁制御部207は、f軸電圧指令値vf **に応じたf軸電圧vfを、回転子側の巻線に印加する。
【0049】
このようにして、巻線界磁型のモータ100の回転駆動は、制御装置200により制御される。
【0050】
以下では、電圧指令補正フィルタ202における処理について説明する。まず、巻線界磁型のモータ100における電流と電圧の関係を示す電圧方程式は、次式のように示すことができる。
【0051】
【数4】
【0052】
なお、(4)式におけるA(s)は、次式のように示される。
【数5】
【0053】
ただし、(5)式の行列におけるパラメータは、以下の値を示すものである。なお、これらの値のうち、インダクタンス及び抵抗は、モータ100の設計により定められる。
【0054】
d :d軸電流
q :q軸電流
f :f軸電流
d :d軸電圧
q :q軸電圧
f :f軸電圧
d :d軸インダクタンス
q :q軸インダクタンス
f :f軸インダクタンス
M :固定子/回転子間の相互インダクタンス
d ' :d軸動的インダクタンス
q ' :q軸動的インダクタンス
f ' :f軸動的インダクタンス
' :固定子/回転子間の動的相互インダクタンス
a :固定子巻線抵抗
f :回転子巻線抵抗
ωre :電気角速度
s :ラプラス演算子
【0055】
次に、(4)式の両辺に対してA-1(s)を乗算し、左辺と右辺とを入れ替えると、次式となる。
【0056】
【数6】
【0057】
-1(s)は、A(s)を逆変換することにより求められ、次式のように示される。
【0058】
【数7】
【0059】
なお、(7)式におけるG(s)は、次式となる。
【0060】
【数8】
【0061】
ここで、(7)式に示されるA-1(s)は、振動要素を含む。すなわち、巻線界磁型のモータ100に印加される電圧vd、vq、vfを入力とし、流れる電流id、iq、ifを出力とする伝達特性は振動系となる。そのため、モータ100の電流id、iq、ifに振動成分が含まれてしまう。
【0062】
さらに、A-1(s)に示されるように、d軸、q軸、f軸は相互干渉しており、d軸電圧vdが変化した場合には、d軸電流idだけでなく、q軸電流iq及びf軸電流ifも逆起電圧により変化する。同様に、q軸電圧vqが変化した場合には、q軸電流iqだけでなく、d軸電流id及びf軸電流ifも変化する。f軸電圧vfが変化した場合には、f軸電流ifだけでなく、d軸電流id及びq軸電流iqも変化する。
【0063】
ここで、(5)式の伝達特性A(s)を有するプラントモデルを、図1に示される本実施形態に適用する場合においては、右辺のd軸電圧vd、q軸電圧vq、f軸電圧vfは、それぞれ、電圧指令値vd *、vq *、vf *に相当する。さらに、電圧指令補正フィルタ202における伝達特性は、Cmmf(s)と示されるものとする。
【0064】
このような場合には、電圧指令値算出部201により算出される電圧指令値vd *、vq *、vf *を入力とし、モータ100の電流id、iq、ifを出力とするモータ100のプラントモデルは、モータ100のモデル特性であるA-1(s)と、電圧指令補正フィルタ202の伝達特性であるCmmf(s)とが直列に接続されたものになるため、次式のように示される。
【0065】
【数9】
【0066】
ここで、A-1(s)Cmmf(s)の伝達特性において振動成分が含まれないようにするために、Cmmf(s)を次式のように定める。
【0067】
【数10】
【0068】
ただし、(10)式におけるG(0)は、次式のとおりである。
【0069】
【数11】
【0070】
また、(10)式におけるパラメータは、以下の値を示すものである。
【0071】
τm :d、q軸電流規範応答時定数
τf :界磁電流規範応答時定数
【0072】
式(11)に示されるCmmf(s)を電圧指令補正フィルタ202に用いることで、(8)式に示される本実施形態のプラントモデルは、次式のように示すことができる。
【0073】
【数12】
【0074】
ここで、(12)式の行列内の要素の分母部分が「τms+1」または「τfs+1」となり、τm、τfが1よりも大きな値であることにより、プラントモデルに振動成分が含まれないことになる。その結果、巻線界磁型のモータ100を安定的に制御することができる。
【0075】
以下においては、本実施形態による効果について、図3図5のタイミングチャートを用いて説明する。
【0076】
図3は、第1比較例のモータ100の制御状態を示すタイミングチャートである。第1比較例においては、本実施形態と同様の構成において電圧指令補正フィルタ202が設けられていないものとする。この図においては、左列に電流値、右列に電圧値を示すグラフが示されている。そして、左列及び右列の双方において、上段にはd軸、中段にはq軸、下段にはf軸について、それぞれのパラメータの経時的な変化が示されている。
【0077】
時刻t0において、制御装置200に所定のトルク指令値T*がステップ入力されるものとする。この場合には、右列のグラフにおいて一点鎖線で示されるように、モータ100におけるトルクに直接的に関与するd軸電圧指令値vd *、及び、q軸電圧指令値vq *がステップ状に変化する。なお、第1比較例においては、トルク指令値T*のステップ入力に対して、f軸電圧指令値vf *は変化しないものとする。
【0078】
このような場合には、第1比較例のモータ100においては、プラントモデルの伝達特性に含まれる振動成分、及び、d軸、q軸、f軸の相互干渉に起因して、左列のグラフにおいて実線で示されるように、d軸電流id、q軸電流iq、及び、f軸電流ifは、振動する。
【0079】
時刻t0において開始した振動は、時間の経過とともに振幅が小さくなり、最終的に時刻t3において定常値に収束する。なお、d軸電流idの定常値は、d軸電圧指令値vd *の変化に応じた分だけ、振動の開始時(t0)の値よりも小さくなり、q軸電流iqの定常値は、q軸電圧指令値vq *の変化に応じた分だけ、振動の開始時の値よりも大きくなる。また、f軸電流ifは、f軸電圧指令値vf *が変化しないため、開始時の値に収束する。
【0080】
このように、モータ100のトルクに寄与するd軸電流id0、及び、q軸電流iqが振動してしまうことにより、モータ100におけるトルク変動が発生してしまうので、モータ制御システム10が電動車両に搭載される場合には、運転者に不快感を与えてしまうおそれがある。
【0081】
図4は、第2比較例のモータ100の制御状態を示すタイミングチャートである。第2比較例においては、本実施形態と同様の構成において電圧指令補正フィルタ202に替えて、プラントモデルの振動成分を抑制するローパスフィルタが設けられているものとする。これらの図においては、左列において第1比較例が破線で示されるとともに、第2比較例が実線で示されている。また、右列においては、指令値が一点鎖線で示されるとともに、第2比較例が実線で示されている。
【0082】
右列において実線で示されるように、第2比較例では、時刻t0において制御装置200に所定のトルク指令値T*がステップ入力されると、ローパスフィルタの処理により、d軸電圧指令値vd *、及び、q軸電圧指令値vq *は、滑らかに最終指定値に収束するように変化する。なお、f軸電圧指令値vf *は変化がないため、ローパスフィルタ処理を行った後の値においても変化はない。
【0083】
第2比較例においては、ローパスフィルタにより、モータ100のプラントモデルに含まれる振動成分が除去される。しかしながら、左列にて実線で示されるように、d軸、q軸、f軸の相互干渉に起因して、d軸電流id、q軸電流iq、f軸電流ifは、時刻t0において変化を開始して、時間の経過とともに変化率が小さくなり、最終的に時刻t3において定常値に収束する。このように、モータ100のトルクに寄与するd軸電流id、及び、q軸電流iqが滑らかに立ち上がることにより、トルク変動は少なくなるが、応答が緩慢になり運転者に違和感を与えてしまうおそれがある。
【0084】
図5は、本実施形態のモータ100の制御状態を示すタイミングチャートである。これらの図においては、可読性のために、破線により示される第2比較例と、実線で示される本実施形態が記載されている。
【0085】
時刻t0においてトルク指令値T*がステップ入力されると(この図においてトルク指令値T*は不図示)、右列に示されるように、電圧指令補正フィルタ202の影響により、d軸電圧指令値vd *は略ステップ状に変化するとともに、q軸電圧指令値vq *は一旦大きくなった後に小さくなる。また、f軸電圧指令値vf *は、一旦小さくなった後に所定値へと変化なる。
【0086】
本実施形態のモータ100においては、第2比較例のローパスフィルタよりも、応答性が高く、プラントモデルの伝達特性に含まれる振動成分を抑制できる。そのため、本実施形態においては、トルク入力に応じてd軸電流id、q軸電流iq、f軸電流ifの全てに相互干渉に起因する変動が生じたとしても、振動の発生が抑制されるとともに、第2比較例のd軸電流id、q軸電流iq、f軸電流ifよりも応答性が高い。
【0087】
そのため、本実施形態のように電圧指令補正フィルタ202を設けることにより、応答性の悪化を抑制しつつ、振動成分を抑制することができる。その結果、モータ制御システム10が電動車両に搭載される場合には、運転者における不快感や違和感の発生を抑制できる。
【0088】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0089】
本実施形態の巻線界磁型のモータ100の制御方法によれば、式(9)に示されるように、d軸電圧指令値vd *、q軸電圧指令値vq *、及び、f軸電圧指令値vf *に対して、電圧指令補正フィルタ202の伝達特性であるCmmf(s)を乗ずる補正を行う。そして、補正後の電圧指令値に対して、モータ100のモデル特性であるA-1(s)を乗ずることで、モータ100の電流id、iq、ifを求めることができる。
【0090】
ここで、Cmmf(s)は、(10)式に示されるような3x3の行列となるとともに、これらの成分において、A-1(s)における振動成分が抑制されるように構成される。すなわち、d軸、q軸、及び、f軸の各成分において、電圧指令値vd *、vq *、vf *が変化する場合に、変化する電圧指令値vd *、vq *、vf *と同軸方向の電流id、iq、if、及び、変化する電圧指令値vd *、vq *、vf *とは異なる軸方向の電流id、iq、ifにおける振動成分を抑制するように構成される。
【0091】
このような構成となることで、(12)式に示されるように、応答振動を抑制することができる制御系を構成できる。また、図5に示されるように、本実施形態のCmmf(s)は、ローパスフィルタと比較すると、振動を抑制しつつ、高い応答性を実現することができる。その結果、モータ100の駆動制御を精度よく行うことができる
【0092】
本実施形態の巻線界磁型のモータ100の制御方法によれば、(10)式により示されるCmmf(s)は、以下の行列成分を有する。なお、以下においては、(10)式における「n行、m列」の成分について、(n,m)と示すものとする。
【0093】
(3,1):d軸電圧指令値の変化により発生するf軸電流における振動成分を抑制するように、d軸電圧指令値に基づくf軸電圧指令値の補正をする成分。
(3,2):q軸電圧指令値の変化により発生するf軸電流における振動成分を抑制するように、q軸電圧指令値に基づくf軸電圧指令値の補正をする成分。
(1,3):f軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するように、f軸電圧指令値に基づくd軸電圧指令値の補正をする成分。
(2,3):f軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するように、f軸電圧指令値に基づくq軸電圧指令値の補正をする成分。
(3,3):f軸電圧指令値の変化により発生するf軸電流における振動成分を抑制するような、f軸電圧指令値の補正をする成分。
【0094】
すなわち、巻線界磁型のモータ100は、回転子側の巻線に界磁が発生する点に特徴がある。Cmmf(s)の(1,3)、(2,3)、及び、(3,3)の成分は、この回転子側の界磁に影響を与えるf軸電圧指令値vf *の変化に起因する、電流id、iq、ifにおける振動を抑制する。
【0095】
さらに、Cmmf(s)の(3,1)、及び、(3,2)は、回転子側へと流れるf軸電流ifにおいて、d軸電圧指令値vd *、q軸電圧指令値vq *の変化に起因する振動を抑制する。
【0096】
そのため、巻線界磁型のモータ100に特有のf軸電圧指令値vf *に起因する、または、f軸電流ifにおける振動を抑制することができ、回転駆動の制御精度を向上させることができる。
【0097】
本実施形態の巻線界磁型のモータ100の制御方法によれば、(10)式により示されるCmmf(s)は、以下の行列成分を有する。
【0098】
(1,1):d軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するような、d軸電圧指令値の補正をする成分。
(2,1):d軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するように、d軸電圧指令値に基づくq軸電圧指令値の補正をする成分。
(1,2):q軸電圧指令値の変化により発生するd軸電流における振動成分を抑制するように、q軸電圧指令値に基づくd軸電圧指令値の補正をする成分。
(2,2):q軸電圧指令値の変化により発生するq軸電流における振動成分を抑制するような、q軸電圧指令値の補正をする成分。
【0099】
モータ100は、巻線界磁型であっても永久磁石型であっても、一般に、固定子側の巻線における界磁が制御される。Cmmf(s)の(1,1)、(1,2)、(2,1)、及び、(2,2)は、この固定子側の制御におけるd軸及びq軸おいて、電圧指令値vd *、vq *に起因して発生する電流id、iqにおける振動を抑制する。
【0100】
そのため、一般的なモータにおいても発生しうる、電圧指令値vd *、vq *に起因して発生する電流id、iqにおける振動を抑制することができる。その結果、モータ100の回転駆動の制御精度を向上させることができる。
【0101】
また、本実施形態の巻線界磁型のモータ100の制御方法によれば、(10)式により示されるCmmf(s)は、モータ100の電気角速度ωm、及び、モータの設計パラメータであるインダクタンスL、相互インダクタンスM及び抵抗Rのうちのいずれかにより構成される。このように、設計値や測定値からCmmf(s)を求めることにより、計算量が大幅に増加することなく、巻線界磁型のモータ100の回転駆動を精度よく制御できる。
【0102】
さらに、(12)式により示されるように、電圧指令値vd *、vq *、vf *に対してCmmf(s)を用いたフィルタリング処理した信号は、(7)式に示されるような抵抗R、インダクタンスL、及び、相互インダクタンスMなどのモータパラメータや、電気角速度ωreにより示されるA-1(s)と乗ざれることにより、振動成分が抑制される。これを、Cmmf(s)の行列成分と対応させれば、以下のように示すことができる。
【0103】
(1,1):d軸電圧指令値をフィルタリング処理した信号と、電気角速度ωreとモータパラメータのいずれか一つとに応じて、d軸電圧指令値の補正をする成分。
(1,2):q軸電圧指令値をフィルタリング処理した信号と、電気角速度ωreとモータパラメータのいずれか一つとに応じて、d軸電圧指令値の補正をする成分。
(1,3):f軸電圧指令値をフィルタリング処理した信号と、電気角速度ωreとモータパラメータのいずれか一つとに応じて、d軸電圧指令値の補正をする成分。
(2,1):d軸電圧指令値をフィルタリング処理した信号と、電気角速度ωreとモータパラメータのいずれか一つとに応じて、q軸電圧指令値の補正をする成分。
(2,2):q軸電圧指令値をフィルタリング処理した信号と、電気角速度ωreとモータパラメータのいずれか一つとに応じて、q軸電圧指令値の補正をする成分。
(2,3):f軸電圧指令値をフィルタリング処理した信号と、電気角速度ωreとモータパラメータのいずれか一つとに応じて、q軸電圧指令値の補正をする成分。
(3,1):d軸電圧指令値をフィルタリング処理した信号と、電気角速度ωreとモータパラメータのいずれか一つとに応じて、f軸電圧指令値の補正をする成分。
(3,2):q軸電圧指令値をフィルタリング処理した信号と、電気角速度ωreとモータパラメータのいずれか一つとに応じて、f軸電圧指令値の補正をする成分。
(3,3):f軸電圧指令値をフィルタリング処理した信号と、電気角速度ωreとモータパラメータのいずれか一つとに応じて、f軸電圧指令値の補正をする成分。
【0104】
そのため、モータ回転数ωreやモータパラメータに依らず、モータ100のプラントモデルにおける電圧の入力から電流の出力までの共振を除去できるので、応答に振動成分が含まれない制御系を構成できる。
【0105】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0106】
10 :モータ制御システム
100 :モータ
101、101u、101v、101f :電流センサ
200 :制御装置
201 :電圧指令値算出部
202 :電圧指令補正フィルタ
207 :界磁制御部
図1
図2
図3
図4
図5