IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

特許7363288鉛蓄電池用負極板および鉛蓄電池、ならびに鉛蓄電池用負極板の製造方法
<>
  • 特許-鉛蓄電池用負極板および鉛蓄電池、ならびに鉛蓄電池用負極板の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用負極板および鉛蓄電池、ならびに鉛蓄電池用負極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/14 20060101AFI20231011BHJP
   H01M 4/73 20060101ALI20231011BHJP
   H01M 4/74 20060101ALI20231011BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/73 A
H01M4/74 B
H01M4/74 D
H01M4/62 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019176575
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021057120
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】東村 優輝
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-225719(JP,A)
【文献】特開昭53-135431(JP,A)
【文献】特開2004-146155(JP,A)
【文献】特開2017-033688(JP,A)
【文献】特開2014-123525(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0098457(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14
H01M 4/73
H01M 4/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の平均粗さRaが、1ミクロン以上50ミクロン以下の負極集電体を備え、
体積中央細孔径が2.0ミクロン未満の負極電極材料をさらに備えた、
鉛蓄電池用負極板。
【請求項2】
負極集電体表面の平均粗さRaが、2ミクロン以上20ミクロン以下である、
請求項1に記載の鉛蓄電池用負極板。
【請求項3】
前記負極電極材料は、ビスフェノールSユニットと、フェノールスルホン酸ユニットとを有する縮合物を含む、請求項1または2のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用負極板。
【請求項4】
前記負極集電体は、鉛または鉛合金シートを加工してなるエキスパンド格子またはパンチング格子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用負極板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用負極板と、正極板と、電解液と、を備える鉛蓄電池。
【請求項6】
所定の表面粗さを有する部材で圧延して表面を粗化するエキスパンド格子またはパンチング格子を作製することを特徴とする、請求項4に記載の鉛蓄電池用負極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを含む。負極板は、集電体と、負極電極材料とを含む。負極電極材料の細孔径は、製造条件や添加される有機防縮剤の種類によって異なり、また充放電サイクルとともに変化するが、このあたりの変化や影響については、定量的にはあまり知られていない。添加される有機防縮剤としては、リグニンスルホン酸ナトリウムなどの天然由来の有機防縮剤の他、合成有機防縮剤も利用される。合成有機防縮剤としては、例えば、ビスフェノールの縮合物が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、負極電極材料に、ビスフェノール類縮合物を含有することを特徴とする鉛蓄電池、が記載されている。
また特許文献2には、負極集電体表面を粗くして、形成した凹凸に添加剤であるカーボン微粒子が入り込むことで、負極板の抵抗を低減した鉛蓄電池、が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015-079631号パンフレット
【文献】特開2017-33688
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池は正極板に起因して劣化する場合と、負極板に起因して劣化する場合があるが、特定の用途では、負極板の電極材料が凝集して、負極集電体と負極電極材料との接触が低下して性能低下に至ることがある。特に自動車(二輪車、三輪車、四輪車含む)用途のように、浅い放電と充電、を繰り返す用途に使用された場合には、負極集電体と負極電極材料との接触が低下しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表面の平均粗さRaが1ミクロン以上50ミクロン以下の負極集電体を備え、体積中央細孔径が2.0ミクロン未満の負極電極材料をさらに備えた、鉛蓄電池用負極板に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた低温ハイレート性能を発揮し、長期にわたって低温ハイレート性能の低下を抑制できる鉛蓄電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造とを示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池用負極板は、負極集電体と負極電極材料とを備える。
【0010】
また、本発明には、上記の負極板と、正極板と、電解液と、を備える鉛蓄電池も包含される。
【0011】
従来、負極集電体と負極電極材料は、いずれも金属鉛あるいは鉛合金からできており、両者の密着性は悪くない。しかし、自動車用電池での使用実態を模擬した典型的な寿命試験であるJIS D5301(2019)試験に供すると、次第に負極板の電極材料である鉛微粒子が凝集、粗大化し、負極集電体と負極電極材料との間に隙間が発生して、両者の密着が失われて電池性能が低下してしまう。特に、自動車用電池で必要とされる低温ハイレート放電性能は、充放電に伴って低下するが、各種試験を実施したところ、所定の表面粗さを有する集電体上に、微細な孔を有する負極電極材料を形成させた場合は、鉛微粒子は簡単には凝集せず、低温ハイレート性能は低下しにくいことがわかった。
【0012】
特に、ビスフェノールSユニットとフェノールスルホン酸ユニットとを有する縮合物を添加すると、本発明である、体積中央細孔径が2.0ミクロン未満の微細な孔径の負極電極材料を作製できた。体積中央細孔径とは、累積細孔容積が全細孔容積の50%にあたる細孔径を指し、平均孔径の定義の1つである。
なお、負極電極材料に微細な孔を形成するには、製造条件(温度、化成電流等)の適正化による方法や、適切な有機防縮剤の添加による方法などがある。後者による方法で微細な孔を形成できれば、設備の変更などのような量産プロセスへの大きな影響を与えることがなく、望ましいが、限定されるものではない。
【0013】
ビスフェノールSユニットとは、縮合物に組み込まれたビスフェノールS化合物に由来するユニットをいう。ビスフェノールSユニットは、ジフェニルスルホン骨格を有しており、フェニル基には置換基を有していてもよい。フェノールスルホン酸ユニットとは、縮合物に組み込まれたフェノールスルホン酸化合物に由来するユニットを言う。フェノールスルホン酸ユニットは、スルホン酸基またはその塩を有するベンゼン骨格を有しており、ベンゼン環には置換基を有していてもよい。置換基としては、アミノ基以外の置換基が挙げられ、後述のRで表される置換基などが好ましい。
【0014】
しかし、適切な有機防縮剤を添加するなどして、電極材料に微細な孔を形成した場合でも、充放電サイクルにつれて、負極の電極材料である鉛微粒子の粗大化や電極材料の孔径の粗大化等が進み、性能低下が大きくなる。
【0015】
本発明の一側面では、上記の2.0ミクロン未満の微細な孔を有する負極電極材料と、1ミクロン以上50ミクロン以下の微細な凹凸を有する負極集電体とを組み合わせると、充放電サイクルに伴って生じる性能低下を小さくすることができることがわかった。特に、鉛または鉛合金シートを加工して形成する、エキスパンド格子やパンチング格子は、表面に微細な凹凸をつける粗化処理を実施しやすいため、本願の負極集電体に適している。
【0016】
また、本発明には、上記の鉛蓄電池用負極板と、正極板と、電解液と、を備える鉛蓄電池も包含される。このような鉛蓄電池では、初期から低温ハイレート性能が優れており、さらに繰り返し使用された場合でも性能低下が小さい。
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池用負極板および鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(負極板)
負極板は、負極集電体と、負極電極材料とを備える。
【0019】
負極集電体は、鉛または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。例えば、エキスパンド加工やパンチング加工タイプの集電体が挙げられる。
【0020】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0021】
負極集電体は、負極活物質を塗布する前に、表面に微細な凹凸を施す。エキスパンドタイプやパンチングタイプの集電体の場合は、加工前の鉛または鉛合金シートを製作する際、あるいはシート製作後集電体加工前、あるいは集電体加工の途中や後で、表面に微細な凹凸状部を有する板等で圧延する、あるいはブラスト加工する等して、集電体表面を粗化する。特に表面に微細な凹凸を有する板等で圧延して集電体表面を粗化する方法は、他の方法に比べ量産が容易、というメリットを有している。鋳造タイプの集電体の場合は、鋳造金型表面に微細な凹凸をつけるなどするのが、効率的である。集電体表面粗さは、Ra(算術平均粗さ)が1ミクロン以上50ミクロン以下が好ましく、2ミクロン以上20ミクロン以下がさらに好ましい。
なお、RaとはJIS B0601に定義された方法で測定し、算出される平均表面粗さを指すものである。
【0022】
負極電極材料は有機防縮剤を含む。さらに、負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、有機防縮剤以外の防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0023】
負極電極材料の体積中央細孔径が2.0ミクロン未満の場合に低温ハイレート性能が長期にわたって優れていた。孔径を小さくする方法は、製造条件の適正化等、いくつか考えられるが、適切な有機防縮剤を添加して実現できれば、既存の設備を有効利用できるので好ましく、ビスフェノールSユニットとフェノールスルホン酸ユニットとを含む縮合物を添加してもよい。
【0024】
上記有機防縮剤において、ビスフェノールSユニットとしては、下記式(1)で表されるものが好ましく、下記式(1a)で表されるものがさらに好ましい。フェノールスルホン酸ユニットとしては、下記式(2)で表されるものが好ましく、下記式(2a)で表されるものがさらに好ましい。このようなユニットを有する有機防縮剤を使用すると、微細な孔を有する鉛微粒子を形成でき、高い低温ハイレート性能を確保し易い。
【0025】
【化1】
(式中、R、R、およびRのそれぞれは、アルキル基または-SO基を示し、M、M、M、M、およびMは、それぞれ、アルカリ金属または水素原子を示し、n1およびn3は、それぞれ、0~2の整数であり、n2は、0~4の整数である。*は結合手を示し、式(1)において、結合手のそれぞれは、-OM基に対してオルト位またはパラ位であり、式(2)において、結合手のそれぞれは、-OM基に対してオルト位またはパラ位である。)
【0026】
~Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのC1-6アルキル基(好ましくはC1-4アルキル基)が挙げられる。M~Mで表されるアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムが挙げられる。
【0027】
n1およびn3は、それぞれ、0~2の整数であり、0または1であってもよい。n2は、0~4の整数であり、0~2の整数であることが好ましく、0または1であってもよい。式(1)において、結合手のそれぞれは、-OM基に対してオルト位が好ましい。式(2)において、結合手のそれぞれは、-OM基に対してオルト位が好ましい。
【0028】
ビスフェノールSユニット(第1ユニット)とフェノールスルホン酸ユニット(第2ユニット)とを含む縮合物を用いた有機防縮剤を使用する場合は、一種のビスフェノールSユニットを含んでもよく、二種以上のビスフェノールSユニットを含んでもよい。また、一種のフェノールスルホン酸ユニットを含んでもよく、二種以上のフェノールスルホン酸ユニットを含んでもよい。
【0029】
第1ユニットと第2ユニットとの総量に占める第2ユニットのモル比率は、例えば、10モル%以上90モル%以下であり、20モル%以上80モル%以下であることが好ましい。
【0030】
また、ビスフェノールSユニットおよびフェノールスルホン酸ユニット以外の、芳香環を有するユニット(第3ユニット)を含んでもよい。このような第3ユニットとしては、例えば、ビスフェノールSユニット以外のビスフェノールユニット(例えば、ビスフェノールAユニット、ビスフェノールFユニットなど)、ビフェニルユニット、ナフタレンユニット、ベンゼンユニットなどが挙げられる。第3ユニットは、ヒドロキシ基、スルホン酸基またはその塩、アミノ基、アルキルアミノ基などの置換基を有していてもよい。
【0031】
第1ユニットおよび第2ユニットの総量m12に対する第3ユニットの量m3のモル比(=m3/m12)は、例えば、0.2以下であり、0.1以下であることが好ましい。第3ユニットのモル比がこのような範囲である場合、第1ユニットおよび第2ユニットによる効果が発揮されやすい。
【0032】
第1ユニットおよび第2ユニットを含む有機防縮剤としては、ビスフェノールS化合物とフェノールスルホン酸化合物とアルデヒド化合物との縮合物などが挙げられる。第3ユニットを含む有機防縮剤としては、例えば、ビスフェノールS化合物とフェノールスルホン酸化合物と第3ユニットに対応する化合物とアルデヒド化合物との縮合物が挙げられる。
有機防縮剤は、一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
ビスフェノールS化合物およびフェノールスルホン酸化合物としては、それぞれ、ビスフェノールSユニットに対応する化合物およびフェノールスルホン酸ユニットに対応する化合物が利用できる。ビスフェノールS化合物としては、例えば、上記式(1)または(1a)で表されるユニットの結合手が水素原子に置き換わった化合物が好ましい。フェノールスルホン酸化合物としては、例えば、上記式(2)または(2a)で表されるユニットの結合手が水素原子に置き換わった化合物が好ましい。
【0034】
アルデヒド化合物には、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドの他、トリオキサン、テトラオキシメチレンなどのアルデヒド縮合物なども含まれる。アルデヒド化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。ビスフェノールS化合物やフェノールスルホン酸化合物との反応性が高い観点からは、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0035】
上記有機防縮剤は、公知の方法で合成できる。例えば、ビスフェノールS化合物と、フェノールスルホン酸化合物と、必要により他の成分(アルデヒド化合物など)とを縮合させることにより有機防縮剤を得ることができる。縮合を、亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩の存在下で行なうことで、スルホン酸基またはその塩を縮合物に導入してもよい。有機防縮剤が第3ユニットを含む場合には、第3ユニットに対応する化合物をビスフェノールS化合物およびフェノールスルホン酸化合物(必要によりアルデヒド化合物)とともに縮合させることで、有機防縮剤を得てもよい。
【0036】
上記のビスフェノールSユニットとフェノールスルホン酸ユニットとを含む縮合物は、負極電極材質量に対し、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。上限については、1.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。
なお、ビスフェノールSユニットとフェノールスルホン酸ユニットとを含む縮合物について説明したが、負極電極材料に微細な孔を形成するための方法の1つであり、製造条件の適正化等、上記とは異なる方法によって負極電極材料に微細な孔を形成することも可能である。
【0037】
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、および/またはソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0038】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上が好ましく、0.2質量%以上が更に好ましい。一方、4質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0039】
本願の負極板は、まず前述した方法で表面を粗化した負極集電体の上に、前記の負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0040】
化成は、例えば、硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、負極板を充電することにより行なうことができる。また、化成は、鉛蓄電池の電槽内で行なってもよい。極板群や鉛蓄電池を組み立てた後に、電槽内で電解液に極板群を浸漬させた状態で充電することによりおこなってもよい。化成により、負極板では海綿状鉛が生成する。
【0041】
以下、負極集電体表面の粗さ、負極電極材料の孔径および有機防縮剤の分析について説明する。
負極集電体表面粗さや、防縮剤等の添加剤の分析に関しては、電池に仕上げる前の材料があれば、直接分析してもよいが、ない場合は、満充電状態の鉛蓄電池を分解して入手する。
まず、満充電された鉛蓄電池を分解し、負極板を取り出し水洗により硫酸分を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。次に、負極板から負極電極材料を分離し、また集電体はさらに水洗した後、真空乾燥して保管する。なお、負極板表面に紙や繊維状のセパレータ系部材が貼りついている場合は、水洗時に極力洗い落とすことが望ましいが、多少残っていても、電極材料とセパレータ系部材とは質量も孔径も大きく異なるので、測定上の大きな問題になることはない。
【0042】
(A)負極集電体表面粗さの測定
集電体の比較的平坦な箇所を選択し、キーエンス社製「VK-X100 LASER MICROSCOPE」を用いて、算術平均表面粗さRaを測定する。Raの定義はJIS B0601に記載のとおり。
(B)負極電極材料の体積中央細孔径の測定
島津製作所社製ポロシメータ「オートポアIV9505」を用いて、負極電極材料の孔径を測定する。体積中央細孔径とは累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径をいう。
(C)有機防縮剤の分析
(C-1)防縮剤種の特定
負極電極材料中の有機防縮剤種の特定は、以下の様にして行う。
電極材料を、容器に入れられるよう粉砕し、1mol/LのNaOH水溶液に浸漬して防縮剤を抽出する。不溶成分を濾過で取り除いた溶液を、脱塩した後、濃縮および凍結乾燥(フリーズドライ)して粉末試料を得る。脱塩には、透析膜、脱塩カラム、および/またはイオン交換膜などが用いられる。このようにして得た防縮剤の粉末試料を用いて測定した赤外分光スペクトルやNMRスペクトル、さらに粉末試料を蒸留水で希釈し紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトルなどから得た情報を用いて、防縮剤種を特定する。
【0043】
なお、上記抽出物に複数種の有機防縮剤が含まれている可能性がある場合、分離や判定は次のようにして行なう。まず、上記抽出物を、赤外分光、NMR、および/またはGC-MSで測定することにより、複数種の防縮剤が含まれているかどうかを判断する。次いで、上記抽出物のGPC分析により分子量分布を測定し、複数種の防縮剤が分子量により分離可能であれば、分子量の違いに基づいて、カラムクロマトグラフィーにより防縮剤を分離する。分子量の違いによる分離が難しい場合には、防縮剤が有する官能基の種類および/または官能基の量により異なる溶解度の違いを利用して、沈殿分離法により本願有機防縮剤を分離する。具体的には、上記抽出物をNaOH水溶液に溶解させた混合物に、硫酸水溶液を滴下して、混合物のpHを調節することにより、有機防縮剤を凝集させ、分離する。凝集による分離が難しい場合は、官能基の種類や量の違いを利用して、イオン交換クロマトグラフィ又はアフィニティクロマトグラフィにより、有機防縮剤を分離する。分離物を再度NaOH水溶液に溶解させたものから、上記のように不溶成分を濾過により取り除く。また、有機防縮剤を分離した後の残りの溶液を、濃縮する。得られた濃縮物が、他の防縮剤を含む場合には、この濃縮物から上記のように不溶成分を濾過により取り除く。
【0044】
明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃の水槽中で、定格容量(Ah)に記載の数値の0.2倍の電流(A)で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに定格容量(Ah)に記載の数値の0.2倍の電流(A)で2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃の気槽中で、定格容量(Ah)に記載の数値の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流(A)が定格容量(Ah)に記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。
【0045】
なお、満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい。例えば、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい。つまり、使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0046】
(C-2)防縮剤の構成ユニットのモル比の算出
上記(C-1)と同様にして分離した有機防縮剤の試料を、水酸化ナトリウムの重水溶液(pH10~13)に溶解してサンプルを調製し、このサンプルを用いて、H-NMRを測定する。H-NMRスペクトルでは、ビスフェノールSユニット(第1ユニット)に由来するピークが6.5ppm以上6.6ppm以下の範囲に、フェノールスルホン酸ユニット(第2ユニット)に由来するピークが6.6ppmより大きく7.0ppm以下の範囲に、それぞれ見られる。ビスフェノールSユニットとフェノールスルホン酸ユニットとのモル比は、既知の防縮剤を用いて得たH-NMRのピーク強度と比較して、算出できる。
【0047】
また、有機防縮剤が第3ユニットを含む場合には、第3ユニットのモル比は、上記の手順で特定した防縮剤種の構造と、上記のH-NMRスペクトルから、第3ユニットに由来するピークを選択し、このピークの強度の、ビスフェノールSユニット(第1ユニット)およびフェノールスルホン酸ユニット(第2ユニット)のピークの強度の合計に対する比を計算することにより求められる。
なお、上記においてはピーク強度にてモル比を算出したが、ピークの積分値で計算することも可能である。
【0048】
(C-3)有機防縮剤の含有量の測定
負極電極材料中の有機防縮剤の含有量は、配合量(c2(質量%))とする。鉛蓄電池を解体して、取り出した負極板の負極電極材料に含まれる有機防縮剤の含有量c2を求める場合には、以下の手順で求める。
【0049】
上記(C-1)と同様の手順で、有機防縮剤を含む分離物について不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。そして、この紫外可視吸収スペクトルに基づいて、予め作成した検量線を用いて負極電極材料中の有機防縮剤の含有量(c1(質量%))を算出する。
【0050】
測定される有機防縮剤の含有量c1は、鉛蓄電池を作製する際に調製する負極電極材料(100質量%)中の有機防縮剤の含有量(c2(質量%))とは異なった値となることがある。そのため、有機防縮剤の含有量c2を含む鉛蓄電池を作製し、作製した鉛蓄電池から上記のように有機防縮剤の含有量c1を測定し、これらの含有量c1およびc2の比率R(=c1/c2)を予め求めておき、この比率Rを利用して、鉛蓄電池から上記のように求められる有機防縮剤の含有量c1から、有機防縮剤の含有量c2を算出する。
【0051】
負極電極材料が他の防縮剤を含む場合には、他の防縮剤を含む分離物について、有機防縮剤の場合に準じて含有量を測定する。
【0052】
他社製の電池を入手して防縮剤の含有量を測定する際に、防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の防縮剤が使用できない場合には、当該電池の負極から抽出した防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な防縮剤を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて防縮剤の含有量を測定する。また、比率Rもこの入手可能な防縮剤を用いて求める。
【0053】
(D)炭素質材料の分析
試料を容器に入る程度に粉砕した試料10gに対し、硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料等の固形分を濾別する。
【0054】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルターを110℃の乾燥器で乾燥する。乾燥後の混合試料とメンブレンフィルターとの合計質量からメンブレンフィルターの質量を差し引いて、混合試料の質量(ma)を測定する。その後、乾燥後の混合試料をメンブレンフィルターとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は、金属酸化物である。金属酸化物の質量を金属硫酸塩の質量に変換して金属硫酸塩の質量(mb)を求める。質量maから質量mbを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0055】
(鉛蓄電池)
鉛蓄電池は、上記の負極板と、正極板と、電解液と、を備える。負極板と正極板との間にはセパレータを介在させてもよい。負極板と正極板とこれらの間に介在するセパレータとで極板群を形成してもよい。鉛蓄電池は、例えば、電槽内に、正極板および負極板(または極板群)と、電解液とを収容することにより製造できる。
【0056】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0057】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板から、チューブ、芯金、および連座を除いたものである。
【0058】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。クラッド式正極板の芯金には、Pb-Sb系合金を用いることが好ましい。
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0059】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0060】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、通常、セパレータが配置される。セパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて選択すればよい。
【0061】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。例えば、セパレータの60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0062】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0063】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0064】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。また、電解液にナトリウムイオンやアルミニウムイオンなどが添加されていても良い。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.10g/cm3以上1.35g/cm3以下である。
【0065】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の外観の一例を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0066】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0067】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
(鉛蓄電池No.1~10)
(1)負極板の作製
まず、Pb-0.09%Ca-0.3%Sn合金からなる鉛合金シートを鋳造し、引き続く圧延工程において、シート表面を粗化していない板で圧延加工する従来鉛合金シートと、各種粗さを有する板で圧延加工して表面粗化済み鉛合金シートとを形成後、それぞれエキスパンド加工してエキスパンドタイプの集電体を作製する。粗化処理なしの集電体表面の粗さRaは0.7ミクロン、粗化済み集電体の表面粗さRaは1~200ミクロンであった。
鉛粉、水、希硫酸、カーボンブラック、有機防縮剤を混合して作製した負極ペーストを上記エキスパンド集電体の網目部に充填、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得る。カーボンブラックは、負極電極材料100質量%に含まれる含有量が0.30質量%となるように添加量を調節する。有機防縮剤は、ビスフェノールSとフェノールスルホン酸(=2:8(モル比))(SPと略す)のホルムアルデヒド縮合物を負極電極材料100質量%に対して0.10質量%となるように、添加量を調節して、負極ペーストに配合した。
【0069】
(2)正極板の作製
鉛粉と、水と、硫酸とを混練させて、正極ペーストを作製し、正極集電体としての粗化処理なしのPb-0.065%Ca-1.3%Sn系合金のエキスパンド集電体の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0070】
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、未化成の負極板5枚と未化成の正極板4枚とで極板群を形成する。
極板群を電槽内に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、公称電圧2V、定格容量が30Ah(5時間率)の液式の鉛蓄電池No.1~10を各2個組み立てる。電解液としては、20℃における比重が1.28の硫酸を含む水溶液を用いる。
【0071】
これらの電池の1個は寿命試験前の段階で解体し、負極電極材料の体積中央細孔径をポロシメータ(島津製作所製「オートポアIV9505」)を用いて測定した。また、負極板の負極集電体と電極材料との間の隙間を極板1枚あたり5箇所測定し、隙間の平均値を算出した。またもう1個は表1の寿命試験を1,440サイクル(480サイクルを3回繰り返し)実施した後、電池を解体し、同様に負極板の負極集電体と電極材料との間の隙間を算出した。
【0072】
【表1】
【0073】
結果を表2に示すが、集電体表面をRa:1ミクロン以上、50ミクロン以下の粗さで
粗化すると、寿命試験後であっても集電体-電極材料の隙間が小さく、密着性が良好であることがわかった。特にRa:2ミクロン~20ミクロンにすると、さらに良好である。
この原因は明確ではないが、微細な負極電極材料が、微細な負極集電体表面の凹凸に入り込んで、集電体-電極材料間の密着力を向上させたものと考えている。
【0074】
【表2】
【0075】
[実施例2]
(鉛蓄電池No.11~17)
(1)負極板の作製
Pb-0.09%Ca-0.3%Sn合金からなる鉛シートを鋳造し、引き続く圧延工程において、シート表面を粗化していない板で圧延加工する従来鉛合金シートと、粗化した板で圧延加工して表面粗化済み鉛合金シートを形成後、打ち抜き加工してパンチングタイプの集電体を作製する。粗化処理なしの集電体表面の粗さRaは0.7ミクロン、粗化処理した集電体表面の粗さRaは4.3ミクロンであった。
一方、鉛粉、水、希硫酸、カーボンブラック、有機防縮剤を混合して作製した負極ペーストを、上記パンチング集電体の穴あき部に充填、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得る。カーボンブラックは、負極電極材料100質量%に含まれる含有量が0.30質量%となるように添加量を調節する。有機防縮剤は、実施例1と同じ、SPタイプに加え、亜硫酸ナトリウムの存在下でビスフェノールSとビスフェノールA(=7:3(モル比))とホルムアルデヒドとを縮合させた縮合物、SAと略す)および天然の有機防縮剤であるリグニンスルホン酸化合物(日本製紙製バニレックスN、VNと略す)を、それぞれ負極電極材料100質量%に対して0.10質量%添加した。なお、SPタイプについては、添加量を0.07質量%に制限した負極板(No.16)も作製した。
【0076】
(2)正極板の作製
実施例1と同じ。
【0077】
(3)鉛蓄電池の作製
実施例1と同じ構成、製法で、公称電圧2V、定格容量が30Ah(5時間率)の液式の鉛蓄電池No.11~17を組み立てる。電解液としては、20℃における比重が1.28の硫酸を含む水溶液を用いる。
【0078】
これらの電池を各2個作製し、1個は、表1の寿命試験を1,440サイクル(480サイクルを3回繰り返し)おこない、寿命試験前後に、-15℃で150Aの電流で放電し、端子電圧が1.0Vに達するまでの放電(低温HR放電、と略す)持続時間を測定する。もう1個は、寿命試験前の段階で解体し、負極電極材料の体積中央細孔径をポロシメータ(島津製作所製「オートポアIV9505」)を用いて測定した。
【0079】
表3に試験結果を示すが、表面を粗化処理した負極集電体の上に、SPタイプの有機防縮剤を添加した負極板を用いた場合には、電極材料の体積中央細孔径が2.0ミクロン未満と微細な孔を有しており、初期の低温HR放電性能が良好で、しかも長期にわたって使用した後でも良好な性能を示している。
VNタイプやSAタイプの有機防縮剤の場合は、表面粗化した負極集電体であっても、電極材料の孔径が2.0ミクロンと大きいため、寿命試験後の低温ハイレート性能の低下が大きい。
なお、表面粗化していない負極集電体を用いた場合には、SPタイプの有機防縮剤を使用して微細な孔が形成されていても、寿命試験後の低温ハイレート性能の低下が大きくなっている。
つまり、微細な凹凸を有する負極集電体に、小さな孔径を有する電極材料を適用して初めて、負極集電体と負極電極材料との密着性維持が実現され、長期に使用しても性能が低下しにくくなる、と言える。
上述したように、本発明は負極板の集電体と電極材料との密着に関するものであり、特に自動車(二輪、三輪等含む)用途のように、大電流の入出力を必要とする用途で、効果が大きい。
【0080】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の一側面に係る負極板および鉛蓄電池は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能である。鉛蓄電池は、自動車もしくはバイクなどの始動用の電源や、自然エネルギーの貯蔵、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0082】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
図1