(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】インペラおよび軸流ファン
(51)【国際特許分類】
F04D 29/32 20060101AFI20231011BHJP
F04D 25/08 20060101ALI20231011BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F04D29/32 A
F04D29/32 G
F04D25/08 303
F04D29/66 M
(21)【出願番号】P 2019185827
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】井内 一博
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-045992(JP,A)
【文献】特開昭55-025555(JP,A)
【文献】特開平02-061398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/32
F04D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に配置されて放射状に延びるZ枚(Zは5以上の整数)の羽根を有し、 隣り合う前記羽根間のピッチ角は、すべて異なり、 任意のピッチ角θに着目し、前記ピッチ角θに隣り合うピッチ角α1と、前記ピッチ角θに隣り合う前記ピッチ角α1とは別のピッチ角α2と、がα1<α2を満たすとき、 前記ピッチ角α1に隣り合う前記ピッチ角θとは別のピッチ角β1と、前記ピッチ角α2に隣り合う前記ピッチ角θとは別のピッチ角β2と、はβ2<β1を満た
し、n番目(nは1からZまでの整数)の前記ピッチ角は、下記条件式を満たし、ずらし率Δの絶対値は、0もしくは1未満の既約分数であるインペラ。
【数5】
ただし、Z:羽根枚数Δ:ずらし率SIGN(n):ずらし率Δの極性であり、下記式で表される。
【数6】
【請求項2】
前記羽根の枚数は偶数であり、 当該インペラ1周の角度を前記羽根の枚数により等分した角度より大きい第1ピッチ角と、 当該インペラ1周の角度を前記羽根の枚数により等分した角度より小さい第2ピッチ角と、 を有し、 前記第1ピッチ角と前記第2ピッチ角は、周方向に交互に配置される、請求項1に記載のインペラ。
【請求項3】
前記羽根の枚数は奇数であり、 当該インペラ1周の角度を前記羽根の枚数により等分した角度より大きい第1ピッチ角と、 当該インペラ1周の角度を前記羽根の枚数により等分した角度より小さい第2ピッチ角と、 当該インペラ1周の角度を前記羽根の枚数により等分した角度と等しい第3ピッチ角と、 を有し、 前記第1ピッチ角と前記第2ピッチ角は、前記第3ピッチ角を基準として周方向に交互に配置される、請求項1に記載のインペラ。
【請求項4】
前記ずらし率Δは、不等率%
Aと相対重みK(n)の積で表され、 前記不等率%
Aは、1周を羽根枚数Zで等分した場合のピッチ角に対する最大のずらし量の比率であり、 前記相対重みK(n)は、nの一次関数である、請求項
1に記載のインペラ。
【請求項5】
前記不等率%
Aと前記相対重みK(n)は、下記式で表される、請求項
4に記載のインペラ。
【数7】
ただし、B/Aは1未満の正の既約分数
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載のインペラと、 前記インペラを回転させるモータと、を有する軸流ファン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラおよび軸流ファンに関する。
【背景技術】
【0002】
インペラは、中心軸周りに複数配置される羽根を有する。そして、従来、隣り合う羽根の間の角度であるピッチ角を不均等として、インペラの中心軸回りの回転により発生する風切り音の周波数を分散させて、騒音を低減するインペラが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような羽根のピッチ角を不均等とする構成においては、ピッチ角の配分方法によってはインペラの重心バランスが崩れる虞がある。
【0005】
上記状況に鑑み、本発明は、重心バランスを保ちつつ、羽根の音周波数を分散させることのできるインペラ、およびこれを有する軸流ファンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の例示的なインペラは、周方向に配置されて放射状に延びるZ枚(Zは5以上の整数)の羽根を有する。隣り合う前記羽根間のピッチ角は、すべて異なる。任意のピッチ角θに着目し、前記ピッチ角θに隣り合うピッチ角α1と、前記ピッチ角θに隣り合う前記ピッチ角α1とは別のピッチ角α2と、がα1<α2を満たすとき、前記ピッチ角α1に隣り合う前記ピッチ角θとは別のピッチ角β1と、前記ピッチ角α2に隣り合う前記ピッチ角θとは別のピッチ角β2と、はβ2<β1を満たす。
【発明の効果】
【0007】
本発明の例示的なインペラによれば、重心バランスを保ちつつ、羽根の音周波数を分散させることができる。また、本発明の例示的な軸流ファンは、重心バランスを保った上記インペラを有することにより、振動の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の例示的な実施形態に係るインペラの平面図である。
【
図2】
図2は、羽根枚数が5枚の場合での本発明の例示的な決定手法によるピッチ角の決定結果の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すインペラにより発生する風切り音の音圧振幅と次数との関係の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、等分とした場合のピッチ角の羽根を有するインペラの平面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すインペラにより発生する風切り音の音圧振幅と次数との関係の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、ピッチ角の条件を説明するための図である。
【
図7】
図7は、羽根枚数が7枚での従来手法によるピッチ角の決定結果の一例および重心位置を示す図である。
【
図8】
図8は、羽根枚数が7枚の場合での本発明の例示的な決定手法によるピッチ角の決定結果の一例および重心位置を示す図である。
【
図9】
図9は、羽根枚数が5枚の場合での比較例に係るピッチ角の決定結果および重心位置を示す図である。
【
図10】
図10は、羽根枚数が5枚の場合での本発明の例示的な決定手法によるピッチ角の決定結果の一例および重心位置を示す図である。
【
図11】
図11は、羽根枚数が9枚の場合での本発明の例示的な決定手法によるピッチ角の決定結果の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、羽根枚数が8枚の場合での本発明の例示的な決定手法によるピッチ角の決定結果の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、羽根枚数が8枚の場合での比較例に係るピッチ角の決定結果および重心位置を示す図である。
【
図14】
図14は、羽根枚数が8枚の場合での本発明の例示的な決定手法によるピッチ角の決定結果の一例および重心位置を示す図である。
【
図15】
図15は、本発明の例示的な実施形態に係る軸流ファンの斜視図である。
【
図16】
図16は、本発明の例示的な実施形態に係る軸流ファンの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
<1.ピッチ角の決定方法>
インペラは、中心軸周りに複数配置されて放射状に延びる羽根を有する。インペラは、中心軸回りに回転可能である。以下、中心軸周りの方向を「周方向」と称する。また、インペラを中心軸方向に平面視で視た場合に、各羽根は同一形状であり、周方向に隣り合う羽根それぞれにおける対応する各位置と中心軸の位置とを結んだ各線分がなす角度を羽根のピッチ角と定義する。
【0011】
例えば、
図1は、羽根の枚数が5枚のインペラの一例を中心軸方向に平面視で視た場合の図を示す。
図1に示すインペラ10においては、各羽根5は同一形状であり、周方向に隣り合う羽根5における対応する各位置Pと中心軸C1の位置とを結んだ各線分Lがなす角度がピッチ角θpと定義される。
【0012】
本発明は、インペラにおける羽根のピッチ角の効果的な決定方法に関する。本発明の例示的な実施形態に係るピッチ角の算出式は、下記(1)式および(2)式で表される。
【数1】
【0013】
ただし、(1)式において、Z:羽根枚数、n:ピッチ番号(1からZまでの整数)であり、(1)式の左辺はn番目のピッチ角を示す。Zは、5以上の整数である。すなわち、(1)式は、羽根が5枚以上のインペラを対象とする。
【0014】
また、(1)式において、ずらし率Δは、1周(360°)を羽根枚数で等分した場合のピッチ角に対するずらし率である。
【0015】
また、SIGN(n)は、ずらし率Δの極性であり、交番符号とも称される。SIGN(n)は、下記(A)式で表され、1または-1の値をとる。
【数2】
【0016】
(2)式に示すように、ずらし率Δは、不等率%Aと相対重みK(n)との積で表される。不等率%Aは、1周を羽根枚数Zで等分した場合のピッチ角に対する最大のずらし量の比率である。相対重みK(n)の絶対値は、1(100%)以下の値をとる。
【0017】
さらに、不等率%
Aは、下記(3)式で表され、相対重みK(n)は、下記(4)式で表される。
【数3】
【0018】
ただし、(3)式において、B(分子)/A(分母)は、1未満の正の既約分数であり、設計者により設定される値である。また、mod(x,y)は、xをyで除した場合の剰余である。すなわち、mod(Z,2)は、羽根枚数Zが奇数の場合に1、偶数の場合に0となる。
【0019】
ここで、(3)式が成り立つ理由について述べる。B/Aは、インペラの1周の角度(360°)を基準の1としたとき、等分のピッチ角よりずらす角度の最小単位を示す。
【0020】
例えば、羽根枚数Z=5(奇数)でB/A=1/120とした場合、ピッチ角のずれ量の配置は、周方向に順番に、-2/120、1/120、0、-1/120、2/120とする。等分としたピッチ角は、360/Z=72°であるので、設定されるピッチ角は、周方向に順番に、72°-(2/120)×360°=66°、72°+(1/120)×360°=75°、72°、72°-(1/120)×360°=69°、72°+(2/120)×360°=78°となる。よって、ずれ量の最も大きい最大ずれ量は、最小単位であるB/A=1/120の(Z-1)/2=2倍となる。
【0021】
また例えば、羽根枚数Z=6(偶数)でB/A=1/120とした場合、ピッチ角のずれ量の配置は、周方向に順番に、5/120、-3/120、1/120、-1/120、3/120、-5/120とする。等分としたピッチ角は、360/Z=60°であるので、設定されるピッチ角は、周方向に順番に、60°+(5/120)×360°=75°、60°-(3/120)×360°=51°、60°+(1/120)×360°=63°、60°-(1/120)×360°=57°、60°+(3/120)×360°=69°、60°-(5/120)×360°=45°となる。よって、ずれ量の最も大きい最大ずれ量は、最小単位であるB/A=1/120の(Z-1)=5倍となる。
【0022】
すなわち、最大ずれ量は、Zが奇数の場合、(B/A)×((Z-1)/2)となり、Zが偶数の場合、(B/A)×(Z-1)となる。ここで、不等率%Aは、等分したピッチ角を基準の1としたときの最大ずれ量の比率である。等分したときのピッチ角は1/Zであるので、Zが奇数の場合、(B/A)×((Z-1)/2)を(1/Z)で除して、不等率%A=(B/A)×Z×(Z-1)/2となり、Zが偶数の場合、(B/A)×(Z-1)を(1/Z)で除して、不等率%A=(B/A)×Z×(Z-1)となる。すなわち、不等率%Aは、(3)式で表されることになる。
【0023】
また、上記のZ=5の例の場合、ピッチ角のずれ量の配置は、周方向に順番に、最大ずれ量である2/120のそれぞれ-1倍、1/2倍、0倍、-1/2倍、1倍となる。これらの倍数は、相対重みK(n)と交番符号SIGN(n)との積となる。
【0024】
ここで、羽根枚数Z=5、B/A=1/120とした場合に(1)式から(4)式および(A)式に基づいてピッチ角を算出した結果を
図2に示す。
図2においては、ピッチ番号n、相対重みK(n)、交番符号SIGN(n)、K(n)とSIGN(n)との積である交番相対重み、不等率%
Aと交番相対重みとの積である交番化重み、次数、および、ピッチ角を示す。
図2に示すように、K(n)とSIGN(n)との積である交番相対重みは、ピッチ番号の順に-100%(-1)、50%(1/2)、0%、-50%(-1/2)、100%(1)となっており、先述したそれぞれの倍数となっていることが分かる。
【0025】
図1は、
図2に示したピッチ角度の決定結果を反映させたインペラの一例を示す図である。
図1に示すように、周方向に隣り合う羽根5の間のピッチ角θpが周方向に順番に
図2に示すピッチ角の値に設定されている。
【0026】
<2.音周波数に関して>
ここで、次数は、ピッチ角を1周である360°で除した値の既約分数の分母として現れる。例えば
図2において、ピッチ番号n=1のピッチ角は66°であるので、66/360=11/60となり、次数は60次となる。ピッチ番号n=2以降も同様に、ピッチ角75°(n=2)に対して75/360=5/24で次数は24次、ピッチ角72°(n=3)に対して72/360=1/5で次数は5次、ピッチ角69°(n=4)に対して69/360=23/120で次数は120次、ピッチ角78°(n=5)に対して78/360=13/60で次数は60次となる。
【0027】
図2に示した値のピッチ角に設定されたインペラが回転することにより発生する風切り音の音圧振幅APと次数orderとの関係の一例を
図3に示す。次数orderが大きいほど、周波数が高くなる。
図3に示すように、風切り音の周波数を分散させることにより、音圧振幅APのピークを抑えている。なお、風切り音は、周波数が高くなるほど、音圧振幅が減衰する。
図2に示すように60次は2つ存在するので、
図3において、60次に対する音圧振幅は、60次が1つの場合の値の2倍となる。
【0028】
一方、羽根枚数Z=5でピッチ角度を仮に等分に設定した場合のインペラの一例の平面図を
図4に示す。
図4は、
図1に対応する図である。
図4に示すように、各ピッチ角は、360/5=72°となっている。この場合、すべてのピッチ角について次数は5次となる。この場合の風切り音の音圧振幅APと次数orderとの関係の一例を
図5に示す。
図5に示すように、風切り音の周波数は5次の成分に集中し、5次における音圧振幅APが大きくなっている。
図3と
図5を比べると、
図3のほうが音圧振幅APのピークを1/5程度に大幅に抑えることができている。
【0029】
<3.重心バランスに関して>
先述した(1)式から(4)式および(A)式によりピッチ角を設定されたインペラは、次のような特徴を有する。インペラは、周方向に配置されて放射状に延びるZ枚(Zは5以上の整数)の羽根を有する。
【0030】
隣り合う羽根間のピッチ角度は、すべて異なる。例えば、Z=5の場合の
図2に示したピッチ角は、すべて異なっている。
【0031】
また、
図6に示すように、任意のピッチ角θに着目し、ピッチ角θに隣り合うピッチ角α1と、ピッチ角θに隣り合うピッチ角α1とは別のピッチ角α2と、がα1<α2を満たすとき、ピッチ角α1に隣り合うピッチ角θとは別のピッチ角β1と、ピッチ角α2に隣り合うピッチ角θとは別のピッチ角β2と、はβ2<β1を満たす。例えば、
図2に示したピッチ角であれば、ピッチ番号n=3のピッチ角θ=72°に着目した場合、ピッチ角α1=69°(n=4)、ピッチ角α2=75°(n=2)は、α1<α2を満たし、ピッチ角β1=78°(n=5)、ピッチ角β2=66°(n=1)は、β2<β1を満たしている。n=3以外の任意のピッチ角θに着目した場合も同様の条件を満たす。
【0032】
このようなピッチ角の特徴により、インペラの重心バランスを保ちつつ、羽根の音周波数を分散させることができる。ただし、インペラのすべての羽根の質量が同一の場合に本効果は、より奏される。
【0033】
ここで、
図7は、一般的な黄金角に基づく位置に羽根を取り付ける方法(上記特許文献1参照)によるピッチ角の不等配分例におけるピッチ角を示す表(左側)と、ピッチ角および重心位置(黒丸)の図示(右側)を示す。
図7は、Z=7とした例である。なお、ピッチ角度および重心位置の図示は、インペラの半径を100%として図示している。重心位置をインペラの中心からの距離で表すと、
図7に示すように、重心位置は、((55.8%)^2+(-72.8%)^2)^0.5=91.7%となり、大きく中心からずれている。
【0034】
これに対し、
図8は、Z=7、B/A=1/30(不等率%
A=70%)として、上記(1)から(4)式によりピッチ角を決定した結果および重心位置を示す図である。
図8に示すピッチ角は、任意のピッチ角θに着目した場合の上記条件を満たす。これにより、
図8に示すように、重心位置は、((-7.3%)^2+(-9.2%)^2)^0.5=11.8%となっている。
図8では、最大のピッチ角を87.4°、最小のピッチ角を15.4°としており、
図7と同様にピッチ角のバラツキを大きくしているが、
図7と比較して重心位置の中心からのずれを大きく抑制できていることが分かる。
【0035】
また、羽根の枚数が奇数の場合、インペラは、インペラ1周の角度を羽根の枚数により等分した角度より大きい第1ピッチ角と、インペラ1周の角度を羽根の枚数により等分した角度より小さい第2ピッチ角と、インペラ1周の角度を羽根の枚数により等分した角度と等しい第3ピッチ角と、を有し、第1ピッチ角と第2ピッチ角は、第3ピッチ角を基準として周方向に交互に配置される。
【0036】
例えば
図2に示すZ=5で羽根枚数が奇数の場合、等分としたピッチ角=72°より大きい第1ピッチ角は75°と78°であり、等分としたピッチ角=72°より小さい第2ピッチ角は66°と69°であり、第3ピッチ角は72°であり、第1ピッチ角と第2ピッチ角は、第3ピッチ角を基準として周方向に交互に配置されている。
【0037】
これにより、羽根枚数が奇数の場合に重心位置をインペラの中心に、より近づけることができる。
【0038】
ここで、
図9は、任意のθに着目した上記条件は満たすが、羽根の枚数が奇数の場合の第1から第3ピッチ角に関する上記条件は満たさない一例における設定されたピッチ角の表と、ピッチ角と重心位置の図示を示す。
図9は、Z=5の例である。
図9に示す重心位置は、15.0%となっている。
【0039】
これに対し、
図10は、
図2に示した例(Z=5)によるピッチ角の決定結果および重心位置を示す図である。
図10に示すように重心位置は、2.01%であり、上記の
図9の場合よりも重心位置の中心位置からのずれを大きく抑制できることが分かる。
【0040】
なお、羽根枚数が奇数である別の例として、Z=9の場合のピッチ角の決定結果を
図11に示す。なお、
図11は、B/A=1/72とした場合の算出結果である。
図11に示すピッチ角も、上記の第1から第3ピッチ角に関する条件を満たしている。
【0041】
また、羽根の枚数が偶数の場合、インペラは、インペラ1周の角度を羽根の枚数により等分した角度より大きい第1ピッチ角と、インペラ1周の角度を羽根の枚数により等分した角度より小さい第2ピッチ角と、を有し、第1ピッチ角と第2ピッチ角は、周方向に交互に配置される。
【0042】
ここで、羽根枚数が偶数である一例としてZ=8の場合のピッチ角の決定結果を
図12に示す。なお、
図12は、B/A=7/800とした場合の算出結果である。
図12に示すように、等分としたピッチ角=45°より大きい第1ピッチ角は60.8°、48.2°、54.5°、67.1°であり、等分としたピッチ角=45°より小さい第2ピッチ角は23.0°、35.6°、41.9°、29.3°であり、第1ピッチ角と第2ピッチ角は、周方向に交互に配置されている。
【0043】
ここで、
図13は、任意のθに着目した上記条件は満たすが、羽根の枚数が偶数の場合の第1、第2ピッチ角に関する上記条件は満たさない一例における設定されたピッチ角の表と、ピッチ角と重心位置の図示を示す。
図13は、Z=8の例である。
図13に示す重心位置は、27.6%となっている。
【0044】
これに対し、
図14は、
図12に示した例(Z=8)によるピッチ角の決定結果および重心位置を示す図である。
図14に示すように重心位置は、7.58%であり、上記の
図13の場合よりも重心位置の中心位置からのずれを大きく抑制できることが分かる。
【0045】
これにより、羽根枚数が偶数の場合に重心位置をインペラの中心に、より近づけることができる。
【0046】
<4.ピッチ角算出式の特徴>
ここでは、上述したピッチ角の算出式の特徴について述べる。
【0047】
n番目(nは1からZまでの整数)のピッチ角は、上記(1)式を満たし、ずらし率Δの絶対値は、0もしくは1未満の既約分数である。例えば、Z=5の場合の
図2において、交番化重みはΔ・SIGN(n)で表され、ずらし率Δの絶対値は、n=1から順に、1/12(8.33%)、1/24(4.17%)、0、1/24(4.17%)、1/12(8.33%)となり、0もしくは1未満の既約分数となっている。
【0048】
先述したように、1周を1としてピッチ角を既約分数で表したとき、既約分数の分母が次数となる。従って、ずらし率Δを無理数などとする場合に比べて、次数を特定しやすくなり、次数を制御しやすい。
【0049】
また、上記(2)式に示すように、ずらし率Δは、不等率%Aと相対重みK(n)の積で表され、不等率%Aは、1周を羽根枚数Zで等分した場合のピッチ角に対する最大のずらし量の比率であり、上記(4)式に示すように、相対重みK(n)は、nの一次関数である。
【0050】
これにより、ずらし率Δは基準値に対する整数倍の関係となる。例えば、
図7であれば、Δの基準値である±12.5%に対して2倍、3倍、4倍の関係となっている。ずらし率Δの倍数が上記既約分数の分母に影響するため、次数をより分散させやすくなる。また、アルゴリズムが決まっており、パラメータを設定すればピッチ角は一意に決まる。これにより、設計を共通化することができる。
【0051】
また、不等率%Aと相対重みK(n)は、上記(3)式および(4)式で表される。ただし、B/Aは、1未満の正の既約分数である。
【0052】
ここで、(1)式のピッチ角を1周が1として表すと、(1)式の右辺を360で除して、便宜のためSIGN(n)を±とすると、
Pitch(n)=1/Z±%A・K(n)/Z (5)
となる。
【0053】
ここで、(5)式の右辺における第2項に、(3)式および(4)式を代入して整理すると、
%A・K(n)/Z=B/A/(1or2)・(2n-1-Z) (6)
ただし、便宜のため、(1+mod(Z,2))=(1or2)としている。
【0054】
ここで、(6)式における(2n-1-Z)/(1or2)=ηとすると、
%A・K(n)/Z=η・B/A (7)
となる。
【0055】
従って、(5)式は、
Pitch(n)=1/Z±%A・K(n)/Z=1/Z±η・B/A (8)
となる。
【0056】
(8)式で表される既約分数の分母が次数となる。すなわち、B/Aの分母であるAの値によって最大の次数を設定しやすくなる。なお、次数が小さいと不等率が大きくなり、周波数の分散がはっきりして音のピークの低減効果が明確になるが、その分、羽根の配置が歪になり重心位置がずれやすくなる。一方、次数が大きいと、ピッチ角の不等配が等配とあまり区別がつかなくなり、不等配による効果が小さくなる。従って、次数は、大きすぎず小さすぎない値に設定することが望ましい。
【0057】
例えば、
図2に示したZ=5の場合、B/A=1/120であるので、(8)式により、
Pitch(1)=1/5-2/120=11/60で次数は60次
Pitch(2)=1/5+1/120=5/24で次数は24次
Pitch(3)=1/5+0/120=1/5で次数は5次
Pitch(4)=1/5-1/120=23/120で次数は120次
Pitch(5)=1/5+2/120=13/60で次数は60次
となり、最大の次数は120次となる。
【0058】
<5.軸流ファン>
以上説明したインペラは、例えば、軸流ファンに適用することが可能であり、以下に軸流ファンの構成例について述べる。なお、上記インペラは、軸流ファンに限らず、遠心ファンなど、あらゆる送風装置に適用可能である。
【0059】
図15は、本発明の例示的な実施形態に係る軸流ファンの上側から見た斜視図である。
図16は、本発明の例示的な実施形態に係る軸流ファンの縦断面図である。
【0060】
軸流ファン1は、モータ2と、インペラ3と、ハウジング4と、を有する。
【0061】
モータ2は、ハウジング4の径方向内側に配置される。モータ2は、ハウジング4のモータベース部41に支持される。モータ2は、インペラ3を上下に延びる中心軸C1回りに回転させる。モータ2は、ステータ23と、ロータ24と、を有する。より詳細に述べると、モータ2は、軸受21と、シャフト22と、ステータ23と、ロータ24と、回路基板25と、を有する。
【0062】
軸受21は、モータベース部41の、円筒状の軸受保持部412の内側に保持される。軸受21は、スリーブベアリングで構成される。なお、軸受21は、上下に配置される一対のボールベアリングで構成しても良い。
【0063】
シャフト22は、中心軸C1に沿って配置される。シャフト22は、例えばステンレス等の金属で構成され、上下に延びる柱状の部材である。シャフト22は、軸受21によって中心軸C1回りに回転可能に支持される。
【0064】
ステータ23は、モータベース部41の軸受保持部412の外周面に固定される。ステータ23は、ステータコア231と、インシュレータ232と、コイル233と、を有する。
【0065】
ステータコア231は、ケイ素鋼板等の電磁鋼板を上下方向に積層して構成される。インシュレータ232は、絶縁性を有する樹脂で構成される。インシュレータ232は、ステータコア231の外面を囲んで設けられる。コイル233は、インシュレータ232を介して、ステータコア231の周囲に巻き回された導線で構成される。
【0066】
ロータ24は、ステータ23の上方且つ径方向外側に配置される。ロータ24は、ステータ23に対して中心軸C1回りに回転する。ロータ24は、ロータヨーク241と、マグネット242と、を有する。
【0067】
ロータヨーク241は、磁性体で構成され、上側に蓋を有する略円筒状の部材である。ロータヨーク241は、シャフト22に固定される。マグネット242は、円筒状であり、ロータヨーク241の内周面に固定される。マグネット242は、ステータ23の径方向外側に配置される。マグネット242の内周側の磁極面には、N極およびS極が周方向に交互に並ぶ。
【0068】
回路基板25は、ステータ23の下側に配置される。回路基板25には、コイル233の引出線が電気的に接続される。回路基板25には、コイル233に駆動電流を供給するための電子回路が実装される。
【0069】
インペラ3は、ハウジング4の径方向内側であって、モータ2の上方且つ径方向外側に配置される。インペラ3は、樹脂で構成される。インペラ3は、上下に延びる中心軸C1回りに回転する。モータ2は、インペラ3を回転させる。つまり、インペラ3は、モータ2によって中心軸C1回りに回転される。インペラ3は、インペラカップ31と、複数の羽根32と、を有する。羽根32のピッチ角は、先述した決定方法により設定される。すなわち、軸流ファン1は、本発明の例示的な実施形態に係るインペラ3と、インペラ3を回転させるモータと、を有する。これにより、インペラ3の重心バランスを保つことにより、軸流ファン1に発生する振動を抑制できる。
【0070】
インペラカップ31は、ロータ24に固定される。インペラカップ31は、上側に蓋を有する略円筒状の部材である。インペラカップ31の内側には、ロータヨーク241が固定される。複数の羽根32は、インペラカップ31の径方向外面において周方向に配列される。
【0071】
ハウジング4は、モータ2およびインペラ3よりも外側に配置される。ハウジング4は、モータベース部41と、筒部42と、第1リブ43と、第2リブ44と、を有する。
【0072】
モータベース部41は、モータ2の下方に配置される。モータベース部41は、基部411と、軸受保持部412と、を有する。基部411は、ステータ23の下方に配置され、中心軸C1を中心として径方向に拡がる円板状である。軸受保持部412は、基部411の上面から上方に向かって突出する。軸受保持部412は、中心軸C1を中心とした円筒状である。軸受保持部412の内側には、軸受21が収容されて保持される。軸受保持部412の径方向外面には、ステータ23が固定される。これにより、モータベース部41は、ステータ23を支持する。
【0073】
筒部42は、インペラ3の径方向外側に配置される。筒部42は、軸方向に延びる。筒部42は、円筒状である。筒部42の上端には、円形状の開口部である吸気口421が配置される。筒部42の下端には、円形状の開口部である排気口422が配置される。
【0074】
第1リブ43および第2リブ44は、羽根32の下方に配置され、排気口422に隣接する。第1リブ43は、モータベース部41と筒部42とを接続する。第2リブ44は、第1リブ43に接続され、中心軸C1を中心とする環状である。
【0075】
上記構成の軸流ファン1において、ステータ23のコイル233に駆動電流が供給されると、ステータコア231に径方向の磁束が生じる。ステータ23の磁束によって生じる磁界と、マグネット242によって生じる磁界とが作用し、ロータ24の周方向にトルクが発生する。このトルクによって、ロータ24およびインペラ3が、中心軸C1を中心として回転する。インペラ3は、軸流ファン1を下側から見て時計回りに回転する。インペラ3が回転すると、複数の羽根32によって気流が生じる。すなわち、軸流ファン1において、上側を吸気側とし、下側を排気側とした気流を生じさせ、送風を行うことができる。
【0076】
<6.その他>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨の範囲内であれば、実施形態は種々の変更が可能である。
【0077】
例えば、上記(1)式におけるSIGN(n)は、下記(B)式で表してもよい。
【数4】
【0078】
なお、羽根枚数が奇数の一例である
図11においては、交番化重み(=%
A
・K(n)・SIGN(n))は、12.5を一般化のためにaとすれば、a%→2a%→3a%→4a%であり、ピッチ公差をa/2%とすれば、a±a/2%→2a±a/2%→3a±a/2%→4a±a/2%となる。
【0079】
また、羽根枚数が偶数の一例である
図12においては、交番化重みは、7.00を一般化のためにaとすれば、a%→3a%→5a%→7a%であり、ピッチ公差をa%とすれば、a±a%→3a±a%→5a±a%→7a±a%となる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば、各種の送風装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1・・・送風装置、2・・・モータ、21・・・軸受、22・・・シャフト、23・・・ステータ、24・・・ロータ、25・・・回路基板、3・・・インペラ、31・・・インペラカップ、32・・・羽根、4・・・ハウジング、41・・・モータベース部、42・・・筒部、43・・・第1リブ、44・・・第2リブ、5・・・羽根、10・・・インペラ、C1・・・中心軸