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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】成膜治具及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/50 20060101AFI20231011BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C23C14/50 B
C23C16/458
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019197095
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2020084320
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2018214788
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹井 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】乾 武志
(72)【発明者】
【氏名】飯田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 学
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-539089(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0207508(US,A1)
【文献】特開平10-072668(JP,A)
【文献】特開2016-038500(JP,A)
【文献】特開2013-217962(JP,A)
【文献】特開2017-206745(JP,A)
【文献】特開2006-009114(JP,A)
【文献】国際公開第2014/098200(WO,A1)
【文献】特開2011-134375(JP,A)
【文献】特開2009-265231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/50
C23C 16/458
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長辺及び短辺を有する略矩形板状のガラス板を複数枚同時に成膜するための成膜治具であって、
前記複数枚のガラス板をそれぞれ個別に載置するための治具本体と、
前記治具本体に載置された前記複数枚のガラス板をそれぞれ個別に抑えるための抑え手段と、
複数の蓋部と、
を備え
前記複数の蓋部が、それぞれ、1枚の前記ガラス板ごとに個別に設けられており、
前記抑え手段が、前記複数の蓋部の主面からそれぞれ突出するように設けられている抑え部であり、
前記複数の蓋部を同時に固定するための枠状の固定部材をさらに備える、成膜治具。
【請求項2】
前記抑え部が、前記ガラス板における両側の短辺側部分に当接されるように設けられている、請求項に記載の成膜治具。
【請求項3】
前記抑え部が、弾性部材により構成されている、請求項1又は2に記載の成膜治具。
【請求項4】
前記弾性部材が、バネである、請求項に記載の成膜治具。
【請求項5】
前記治具本体が、前記複数枚のガラス板をそれぞれ個別に載置するための複数の凹部を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の成膜治具。
【請求項6】
前記治具本体の前記凹部における底部の一部が開口することにより、前記ガラス板の成膜領域が構成されている、請求項に記載の成膜治具。
【請求項7】
前記治具本体の前記凹部における底部が、枠状の形状を有する、請求項又はに記載の成膜治具。
【請求項8】
前記ガラス板が、ガラスマトリクス中に金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板である、請求項1~のいずれか1項に記載の成膜治具。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の成膜治具を用いた成膜方法であって、
前記成膜治具に、前記複数枚のガラス板を固定する工程と、
前記複数枚のガラス板の主面上に、膜を成膜する工程と、
を備える、成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜治具及び該成膜治具を用いた成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板の表面に金属膜等の膜を成膜して、ガラス板に機能性を付与する方法が広く知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、ガラスマトリクス中に金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板の表面に、誘電体多層膜からなる反射防止膜を形成することができる旨が記載されている。特許文献1のような偏光ガラス板においては、通常、ハロゲン化金属粒子を含むガラスプリフォーム板を延伸成形することにより、細長い矩形板状の偏光ガラス板を製造した後に、成膜処理が施される。そして、成膜された偏光ガラス板は、所定の大きさに個片化して用いられる。
【0004】
ところで、ガラス板等の基板に膜を成膜するに際しては、下記の特許文献2に記載されているような略正方形状の成膜治具に基板を固定して成膜する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-38500号公報
【文献】特開2007-277605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されているような略正方形状の成膜治具に、特許文献1のような細長いガラス板を複数並べて成膜する場合、ガラス板に傷が生じることがある。また、成膜成分が成膜面とは反対側の面まで回り込むことがある。そのため、成膜時の歩留まりが低下するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、成膜時の歩留まりを改善することができる、成膜治具及び該成膜治具を用いた成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る成膜治具は、長辺及び短辺を有する略矩形板状のガラス板を複数枚同時に成膜するための成膜治具であって、前記複数枚のガラス板をそれぞれ個別に載置するための治具本体と、前記治具本体に載置された前記複数枚のガラス板をそれぞれ個別に抑えるための抑え手段と、を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明においては、蓋部をさらに備え、前記抑え手段が、前記蓋部の主面から突出するように設けられている抑え部であることが好ましい。
【0010】
本発明においては、複数の前記蓋部を備え、前記蓋部が、1枚の前記ガラス板ごとに個別に設けられていることが好ましい。
【0011】
本発明においては、複数の前記蓋部を同時に固定するための枠状の固定部材をさらに備えることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記抑え部が、前記ガラス板における両側の短辺側部分に当接されるように設けられていることが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記抑え部が、弾性部材により構成されていることが好ましい。前記弾性部材が、バネであることがより好ましい。
【0014】
本発明においては、前記治具本体が、前記複数枚のガラス板をそれぞれ個別に載置するための複数の凹部を有することが好ましい。前記治具本体の前記凹部における底部の一部が開口することにより、前記ガラス板の成膜領域が構成されていることがより好ましい。前記治具本体の前記凹部における底部が、枠状の形状を有することがさらに好ましい。
【0015】
本発明においては、前記ガラス板が、ガラスマトリクス中に金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板であることが好ましい。
【0016】
本発明の成膜方法は、本発明に従って構成される成膜治具を用いた成膜方法であって、前記成膜治具に、前記複数枚のガラス板を固定する工程と、前記複数枚のガラス板の主面上に、膜を成膜する工程と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成膜時の歩留まりを改善することができる、成膜治具及び成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る成膜治具を示す模式的斜視図であり、(b)は、そのA-A線に沿う部分の模式的断面図であり、(c)は、そのB-B線に沿う部分の模式的断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る成膜治具の治具本体を示す模式的斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る成膜治具の治具本体を示す模式的平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る成膜治具の蓋部を示す模式的斜視図である。
図5】(a)は、本発明の一実施形態に係る成膜治具の蓋部を示す模式的平面図であり、(b)は、そのC-C線に沿う部分の模式的断面図である。
図6】(a)は、比較例の成膜治具を示す模式的平面図であり、(b)は、そのD-D線に沿う部分の模式的断面図であり、(c)は、そのE-E線に沿う部分の模式的断面図である。
図7】(a)は、比較例の成膜治具の治具本体を示す模式的平面図であり、(b)は、比較例の成膜治具の蓋部を示す模式的平面図である。
図8】(a)は、本発明の一実施形態に係る成膜治具の蓋部における第1の変形例を示す模式的平面図であり、(b)は、そのF-F線に沿う部分の模式的断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る成膜治具の蓋部における第2の変形例を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0020】
(成膜治具)
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る成膜治具を示す模式的斜視図である。図1(b)は、図1(a)のA-A線に沿う部分の模式的断面図である。また、図1(c)は、図1(a)のB-B線に沿う部分の模式的断面図である。
【0021】
図1(a)~(c)に示すように、成膜治具1は、治具本体2と、蓋部3とを備える。治具本体2は、対向している第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。成膜治具1では、治具本体2の第1の主面2a上に、蓋部3が配置されて用いられる。また、成膜治具1では、複数枚のガラス板4が個々の収容部1aに個別に収容されている。治具本体2及び蓋部3の材質としては、特に限定されないが、例えば、ステンレスを用いることができる。
【0022】
図2は、本発明の一実施形態に係る成膜治具の治具本体を示す模式的斜視図である。また、図3は、本発明の一実施形態に係る成膜治具の治具本体を示す模式的平面図である。
【0023】
図2及び図3に示すように、治具本体2は、略矩形板状の形状を有する。もっとも、治具本体2は、他の形状を有していてもよく、特に限定されない。治具本体2は、複数の凹部2cを有する。凹部2cは、第1の主面2a側に開口している。凹部2cの平面形状は、細長い略矩形形状である。また、凹部2cの底部2dは、枠状の形状を有している。ここで、凹部2cの底部2dにも、開口部2eが設けられている。開口部2eは、第2の主面2b側に開口している。
【0024】
成膜治具1では、この凹部2cの底部2d上にガラス板4が載置される。本実施形態では、治具本体2の凹部2cと蓋部3で囲まれる領域が、ガラス板4を収容するための収容部1aとなる。
【0025】
また、成膜治具1では、治具本体2の第2の主面2b側から、成膜が行われる。従って、ガラス板4における成膜領域は、平面視において開口部2eが設けられている領域と等しくなる。
【0026】
ガラス板4は、細長い略矩形板状である。従って、ガラス板4は、平面視において、長辺及び短辺を有する。ガラス板4の長辺の長さは、例えば、100mm~140mmとすることができる。ガラス板4の短辺の長さは、例えば、10mm~40mmとすることができる。また、ガラス板4の厚みは、例えば、0.05mm~1mmとすることができる。
【0027】
本実施形態では、平面視において、ガラス板4の長辺及び短辺の長さが、それぞれ、治具本体2の凹部2cの長辺及び短辺の長さより短い。そのため、ガラス板4を凹部2cの底部2d上に、より一層容易に載置することができる。また、図3に示すように、ガラス板4を、凹部2cの一方の長辺側の端面及び一方の短辺側の端面に接触させるように配置することにより、ガラス板4の成膜領域の位置決めをより一層容易に行うことができる。
【0028】
ガラス板4の長辺の長さと、凹部2cの長辺の長さの比(ガラス板/凹部)は、0.9~0.99であることが好ましい。ガラス板4の短辺の長さと、凹部2cの短辺の長さの比(ガラス板/凹部)は、0.9~0.99であることが好ましい。なお、ガラス板4を凹部2cに載置できる限りにおいて、ガラス板4の長辺及び短辺の長さと、凹部2cの長辺及び短辺の長さは、略同一であってもよい。
【0029】
また、治具本体2の第1の主面2aには、ネジ穴5a,5bが設けられている。ネジ穴5a,5bは、第1の主面2aの周縁部に設けられている。また、治具本体2の第1の主面2a上には、位置決めピン6a,6bが設けられている。位置決めピン6a,6bは、第1の主面2aから突出するように設けられている。位置決めピン6a,6bも、第1の主面2aの周縁部に設けられている。
【0030】
図4は、本発明の一実施形態に係る成膜治具の蓋部を示す模式的斜視図である。図5(a)は、本発明の一実施形態に係る成膜治具の蓋部を示す模式的平面図である。図5(b)は、図5(a)のC-C線に沿う部分の模式的断面図である。
【0031】
図4及び図5(a)に示すように、蓋部3は、略矩形板状の形状を有している。蓋部3は、平面視において、治具本体2と同じ形状を有している。もっとも、蓋部3は、治具本体2と異なる形状を有していてもよく、形状は特に限定されない。
【0032】
蓋部3は、対向している第1の主面3a及び第2の主面3bを有する。蓋部3の第1の主面3aから第2の主面3bに至るように、ネジ穴7a,7bが設けられている。蓋部3のネジ穴7a,7bは、平面視において、治具本体2のネジ穴5a,5bと重なる位置に設けられている。蓋部3のネジ穴7a,7b及び治具本体2のネジ穴5a,5bを、図1(a)に示すネジ10a,10bで締めることにより、蓋部3を治具本体2上に固定することができる。なお、ネジ10a,10b以外の他の手段により、蓋部3を治具本体2上に固定してもよい。
【0033】
図4及び図5(a)に戻り、蓋部3の第1の主面3aから第2の主面3bに至るように、位置決め穴8a,8bが設けられている。蓋部3の位置決め穴8a,8bは、平面視において、治具本体2の位置決めピン6a,6bと重なる位置に設けられている。蓋部3の位置決め穴8a,8bを、治具本体2の位置決めピン6a,6bに嵌合させることにより、蓋部3の位置決めをより一層容易に行うことができる。なお、位置決め穴8a,8b及び位置決めピン6a,6bは、設けられていなくてもよい。
【0034】
蓋部3は、複数の開口部3cを有する。開口部3cの平面形状は、細長い略矩形形状である。開口部3cの長辺は、上述したガラス板4の長辺及び凹部2cの長辺より短い。開口部3cは、蓋部3を治具本体2に重ね合わせた際に、成膜領域と重なる位置に設けられていることが好ましい。なお、開口部3cは、設けられていなくてもよい。
【0035】
また、図5(b)に示すように、本実施形態では、蓋部3の第1の主面3a及び第2の主面3bを貫くように、抑え部9が設けられている。抑え部9は、蓋部3の第1の主面3a及び第2の主面3bの両側から突出している突出部を有する。もっとも、抑え部9は、蓋部3の第2の主面3b側から突出している突出部のみを有していてもよい。なお、本実施形態において、突出部の形状は、略円柱状である。もっとも、本発明において、突出部の形状は、特に限定されない。
【0036】
本実施形態において、抑え部9は、金属のバネピンである。もっとも、抑え部9を構成する材料は、特に限定されないが、本実施形態のように弾性部材により構成されていることが好ましい。弾性部材は、本実施形態のようにバネであってもよく、ゴム状部材であってもよい。ゴム状部材は、エラストマーであってもよく、樹脂であってもよい。抑え部9がこのような弾性部材により構成されている場合、ガラス板4を不当に傷つけることなく確実に抑えることができる。
【0037】
また、抑え部9は、平面視において、蓋部3の開口部3cにおける両側の短辺の外側に設けられている。また、抑え部9は、蓋部3を治具本体2の第1の主面2a上に固定する際に、ガラス板4に当接する部分に設けられている。特に、本実施形態では、ガラス板4における両側の短辺側部分(短辺付近)に当接されるように設けられている。もっとも、抑え部9は、ガラス板4に当接される部分に設けられている限りにおいて、その位置は限定されないが、本実施形態のようにガラス板4における短辺側部分に当接されるように設けられていることが好ましい。この場合、抑え部9によって、より一層確実にガラス板4を抑えることができる。特に、抑え部9は、ガラス板4における短辺側部分の中央に当接されるように設けられていることが好ましい。
【0038】
このように、本実施形態の成膜治具1では、蓋部3を治具本体2の第1の主面2a上に固定する際に、個別にガラス板4に当接されるように抑え部9が設けられている。そのため、成膜治具1では、成膜時の歩留まりを改善することができる。なお、この点については、図6及び図7に示す比較例と比較して、以下のように説明することができる。
【0039】
図6(a)は、比較例の成膜治具を示す模式的平面図である。図6(b)は、図6(a)のD-D線に沿う部分の模式的断面図である。図6(c)は、図6(a)のE-E線に沿う部分の模式的断面図である。また、図7(a)は、比較例の成膜治具の治具本体を示す模式的平面図である。図7(b)は、比較例の成膜治具の蓋部を示す模式的平面図である。
【0040】
図6(a)~(c)に示すように、比較例の成膜治具101は、治具本体102と、蓋部103とを備える。成膜治具101では、複数枚のガラス板4が1つの収容部101aに纏めて収容されている。そして、蓋部103により複数枚のガラス板4が纏めて抑えられている。
【0041】
具体的には、図7(a)に示すように、略正方形状の開口部102aが設けられた治具本体102を有する比較例の成膜治具では、細長い略矩形板状のガラス板4が複数枚並べて載置される。しかしながら、このように複数枚のガラス板4を並べて載置する場合、隣り合うガラス板4が干渉することにより、ガラス板4に傷が生じ易い。そのため、成膜時の歩留まりが低下する原因となっていた。
【0042】
また、治具本体102にガラス板4を並べて載置した後、ガラス板4の両側の短辺側部分を抑えるように、図7(b)に示す蓋部103が載置される。しかしながら、複数枚のガラス板4を用いた場合、通常、厳密にはその厚みに差が生じる。そのため、複数枚のガラス板4のうち、一部のガラス板4を十分に抑えられず、ガラス板4と治具本体102または蓋部103との間に隙間が生じることとなる。従って、成膜時にガラス板4が動いてしまうことがあり、その結果ガラス板4に傷が生じることがある。また、ガラス板4と治具本体102または蓋部103との隙間を成膜成分が通り抜けて、成膜成分がガラス板4の成膜面とは反対側の面まで回り込むことがある。そのため、これらの点も、成膜時の歩留まりが低下する原因となっていた。
【0043】
これに対して、本実施形態の成膜治具1では、治具本体2に複数枚のガラス板4が個別に載置される。そのため、隣り合うガラス板4が干渉し合うことがなく、ガラス板4に傷が生じ難い。従って、成膜治具1によれば、成膜時の歩留まりを改善することができる。
【0044】
また、本実施形態の成膜治具1では、抑え部9により、複数枚のガラス板4を個別に抑えることができる。そのため、複数枚のガラス板4を同時に成膜する場合においても、成膜時にガラス板4がしっかりと固定され、動き難い。従って、この点からもガラス板4に傷が生じ難い。また、ガラス板4と治具本体102または蓋部103との間に隙間が生じ難いので、成膜成分がガラス板4の成膜面とは反対側の面まで回り込み難い。よって、この点からも、成膜時の歩留まりを改善することができる。
【0045】
また、本実施形態の成膜治具1では、抑え部9が弾性部材により構成されているので、各ガラス板4をより一層確実に抑えることができる。また、抑え部9が弾性部材により構成されている場合、ガラス板4を抑える際に、より一層傷が生じ難い。もっとも、上述したように、抑え部9は、弾性部材とは異なる材料によって構成されていてもよい。
【0046】
なお、本実施形態では、蓋部3の第2の主面3bから突出している抑え部9により抑え手段が構成されていたが、複数枚のガラス板4をそれぞれ個別に抑えるための抑え手段である限りにおいて、抑え部9でなくともよく、抑え手段は特に限定されない。
【0047】
また、本実施形態の成膜治具1は、細長い略矩形板状のガラス板4に成膜する際に好適に用いることができる。なかでも、ガラスマトリクス中に金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板に成膜する際に特に好適に用いることができる。偏光ガラス板には、例えば、誘電体多層膜からなる反射防止膜を成膜することができる。成膜後、偏光ガラス板は、所定の大きさに個片化して用いることができる。
【0048】
以下、成膜治具1を用いた成膜方法の一例について説明する。
【0049】
(成膜方法)
まず、治具本体2及び蓋部3を用意する。次に、用意した治具本体2における複数の凹部2cの底部2d上に、複数枚のガラス板4をそれぞれ個別に載置する。載置後、治具本体2の第1の主面2a上に、蓋部3を載置する。この際、治具本体2の位置決めピン6a,6bに、蓋部3の位置決め穴8a,8bを嵌合させるように、蓋部3を載置する。次に、蓋部3のネジ穴7a,7b及び治具本体2のネジ穴5a,5bを、図1(a)に示すネジ10a,10bで締めることにより、蓋部3を治具本体2の第1の主面2a上に固定する。それによって、成膜治具1に、複数枚のガラス板4を固定することができる。
【0050】
次に、治具本体2の第2の主面2b側から、ガラス板4の主面上に膜を成膜する。成膜方法としては、特に限定されず、例えば、スパッタリング法や蒸着法により誘電体多層膜や金属膜などの無機膜を成膜することができる。もっとも、有機膜を成膜してもよい。また、蓋部3の第1の主面3a側から成膜してもよい。
【0051】
本実施形態の成膜方法では、成膜治具1を用いるので、複数枚のガラス板4を同時に成膜する場合においても、ガラス板4に傷が生じ難く、成膜成分がガラス板4の成膜面とは反対側の面まで回り込み難い。従って、本実施形態の成膜方法によれば、成膜時の歩留まりを改善することができる。
【0052】
(変形例)
図8(a)は、本発明の一実施形態に係る成膜治具の蓋部における第1の変形例を示す模式的平面図である。また、図8(b)は、図8(a)のF-F線に沿う部分の模式的断面図である。
【0053】
第1の変形例では、図8(a)及び(b)に示すように、複数の蓋部13が設けられている。蓋部13は、それぞれ、1枚のガラス板4ごとに個別に設けられている。
【0054】
蓋部13は、細長い略矩形板状の形状を有する。従って、蓋部13は、平面視において、長辺及び短辺を有する。蓋部13の長辺は、ガラス板4の長辺と同じ側に位置するように設けられている。また、蓋部13の短辺は、ガラス板4の短辺と同じ側に位置するように設けられている。
【0055】
複数の蓋部13には、それぞれ開口部13cが設けられている。開口部13cの平面形状は、細長い略矩形形状である。もっとも、開口部13cのより詳細な形状及び位置は、上述した開口部3cと同様の形状及び位置とすることができる。
【0056】
また、蓋部13は、対向している第1の主面13a及び第2の主面13bを有する。蓋部13の第1の主面13a及び第2の主面13bを貫くように、抑え部19が設けられている。抑え部19は、上述した抑え部9と同様のものを用いることができる。
【0057】
また、蓋部13の第1の主面13aから第2の主面13bに至るように、ネジ穴17a,17bが設けられている。ネジ穴17a,17bは、抑え部19よりも蓋部13の外周縁における短辺側に設けられている。ここで、第1の変形例においても、治具本体12は、治具本体2と同様のものを用いることができる。もっとも、治具本体12のネジ穴の位置が、平面視においてネジ穴17a,17bと重なる位置に設けられている点や、位置決めピンが設けられていない点において治具本体2とは異なっている。第1の変形例では、蓋部13におけるネジ穴17a,17bと、上述した治具本体12のネジ穴を、ネジで締めることにより、蓋部13を治具本体12上に固定することができる。
【0058】
なお、図9に第2の変形例で示すように、複数の蓋部13を同時に固定するための枠状の固定部材20がさらに設けられていてもよい。この場合、固定部材20において、上述した蓋部3のネジ穴7a,7bと同じ位置にネジ穴27a,27bを設けることができる。また、固定部材20において、上述した蓋部3の位置決め穴8a,8bと同じ位置に位置決め穴28a,28bを設けることができる。従って、第2の変形例では、治具本体2をそのまま用いることができる。また、各蓋部13を個別に治具本体12に固定する代わりに、固定部材20のネジ穴27a,27b及び治具本体2のネジ穴5a,5bを、ネジで締めることによって、固定部材20により蓋部13を治具本体2上に固定することができる。なお、固定部材20の材質としては、特に限定されないが、例えば、ステンレスを用いることができる。
【0059】
第1の変形例及び第2の変形例においても、治具本体2,12に複数枚のガラス板4が個別に載置される。そのため、隣り合うガラス板4が干渉し合うことがなく、ガラス板4に傷が生じ難い。従って、成膜時の歩留まりを改善することができる。
【0060】
また、第1の変形例及び第2の変形例においても、抑え部19により、複数枚のガラス板4を個別に抑えることができる。そのため、複数枚のガラス板4を同時に成膜する場合においても、成膜時にガラス板4がしっかりと固定され、動き難い。従って、この点からもガラス板4に傷が生じ難い。また、ガラス板4と治具本体2,12または蓋部13との間に隙間が生じ難いので、成膜成分がガラス板4の成膜面とは反対側の面まで回り込み難い。よって、この点からも、成膜時の歩留まりを改善することができる。
【0061】
なお、第1の変形例及び第2の変形例における複数の蓋部13は、厚みが0.2mm以下のガラス板4に好適に用いることができ、厚みが0.15mm以下のガラス板4により好適に用いることができ、厚みが0.1mm以下のガラス板4にさらに好適に用いることができる。この点については、以下のように説明することができる。
【0062】
ガラス板4として、例えば、上述した偏光ガラス板を用いる場合、還元工程の後に成膜されることがあるが、ガラス板4の厚みが薄いと、還元工程においてガラス板4に反りが生じやすい。そのため、このような反りの生じたガラス板4を含む複数のガラス板4を蓋部3のような1つの蓋部で抑えつけようとすると、ガラス板4が破損したり、ガラス板4のセッティングに大幅に時間を要したりする場合がある。
【0063】
これに対して、第1の変形例及び第2の変形例においては、ガラス板4ごとに個別に設けられた蓋部13により、個別にガラス板4を抑えることができるので、たとえガラス板4に反りが生じていたとしても、抑え部19によりその反りに応じてガラス板4を抑えることができる。従って、ガラス板4が破損し難く、ガラス板4のセッティングに要する時間もより短くすることができる。よって、第1の変形例及び第2の変形例のように、1枚のガラス板4ごとに個別に蓋部13が設けられている成膜治具は、厚みが薄く反りが生じた偏光ガラス板のようなガラス板に特に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
1…成膜治具
1a…収容部
2,12…治具本体
2a,3a,13a…第1の主面
2b,3b,13b…第2の主面
2c…凹部
2d…底部
2e,3c,13c…開口部
3,13…蓋部
4…ガラス板
5a,5b,7a,7b,17a,17b,27a,27b…ネジ穴
6a,6b…位置決めピン
8a,8b,28a,28b…位置決め穴
9,19…抑え部(抑え手段)
10a,10b…ネジ
20…固定部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9