(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ロータの製造装置、及びロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20231011BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20231011BHJP
H02K 1/276 20220101ALI20231011BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
H02K15/12 E
H02K1/276
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2019199426
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郡 智基
(72)【発明者】
【氏名】佐分利 俊之
(72)【発明者】
【氏名】大屋 遥平
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-146303(JP,A)
【文献】特開2013-139085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H02K 15/12
H02K 1/276
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層鋼板により形成されたロータコアの孔部に磁石部材を配置し、
樹脂を射出する射出口が先端に形成されたノズルを有する樹脂注入機から樹脂を注入して硬化させ、前記磁石部材をロータコアに固定することで、回転電機のロータを製造するロータの製造方法において、
貫通方向に対して前記ロータコアに向けて内径が小さくなる先細り部と、前記貫通方向における前記先細り部の先端に形成される小径部と、前記貫通方向に直交する方向に対して前記小径部の内径よりも拡大されて開口する拡大開口部と、
前記貫通方向において前記先細り部に対して前記拡大開口部とは反対側に、前記ロータコアに向けて内径が小さくなり、前記ノズルが嵌合可能な傾斜面と、を有する注入孔が形成された当接部材を、前記ロータコアの積層方向の一方の面に当接させ、かつ前記注入孔が前記ロータコアの孔部に連通するように取付ける取付け工程と、
前記ノズルを、
前記傾斜面に嵌合させるように前記注入孔の途中まで挿入した状態で樹脂を射出し、前記ロータコアの孔部に樹脂を注入する樹脂注入工程と、
前記ノズルを前記注入孔より離間させた状態で、前記ロータコア及び前記当接部材を加熱して、樹脂を硬化させる磁石固定工程と、
前記磁石固定工程の後に、前記当接部材を前記ロータコアから取外す取外し工程と、を備える、
ロータの製造方法。
【請求項2】
前記取付け工程は、前記ロータコアを積層方向に挟持する第1板及び前記当接部材としての第2板と、それら第1板及び第2板による挟持力を付与する付勢部材と、を有する保持治具を前記ロータコアに取付ける治具取付け工程であり、
前記取外し工程は、前記保持治具を前記ロータコアから取外す治具取外し工程である、
請求項
1に記載のロータの製造方法。
【請求項3】
回転電機のロータを製造するロータの製造装置において、
樹脂を射出する射出口が先端に形成されたノズルを有し、前記射出口からロータコアの孔部に樹脂の注入を行う樹脂注入機と、
貫通形成され、前記射出口が挿入される注入孔を有し、積層鋼板が積層されて形成されたロータコアの積層方向の一方の面に当接し、かつ前記注入孔が前記ロータコアの孔部に連通するように配置される当接部材と、を備え、
前記注入孔は、貫通方向に対して前記ロータコアに向けて内径が小さくなる先細り部と、前記貫通方向における前記先細り部の先端に形成される小径部と、前記貫通方向に直交する方向に対して前記小径部の内径よりも拡大されて開口する拡大開口部と、前記貫通方向において前記先細り部に対して前記拡大開口部とは反対側に、前記ロータコアに向けて内径が小さくなり、前記ノズルが嵌合可能な傾斜面と、を有し、
前記樹脂注入機は、前記ノズルを、前記傾斜面に嵌合させるように前記注入孔の途中まで挿入した状態で樹脂を射出し、前記ロータコアの孔部に樹脂を注入し、
前記ノズルは、前記ロータコア及び前記当接部材を加熱して樹脂を硬化する前に、前記注入孔から離間され、
前記当接部材は、前記ロータコアに注入された樹脂が硬化された後、取外されるように構成された、
ロータの製造装置。
【請求項4】
前記ロータコアを積層方向に挟持する第1板及び第2板と、それら第1板及び第2板による挟持力を付与する付勢部材と、を有し、前記ロータコアに対して着脱自在な保持治具を備え、
前記当接部材は、前記第2板である、
請求項
3に記載のロータの製造装置。
【請求項5】
前記拡大開口部は、前記当接部材が前記ロータコアの一方の面に当接された状態で、前記ロータコアの一方の面における表面と前記孔部とに跨るように形成されている、
請求項
3又は4に記載のロータの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この技術は、回転電機のロータを製造するロータの製造装置、及びロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えばハイブリッド車両や電気自動車等の車両に搭載される回転電機は、磁石埋込型モータ(IPM)が用いられている。このような回転電機のロータを製造する際は、孔が形成された積層鋼板を積層してロータコア(積層鉄心)を構成し、孔に磁石を挿入し、さらに孔に熱硬化性の樹脂を注入して加熱し、ロータコアに磁石を固定することで、磁石がロータコアに埋め込まれたロータを得ている。
【0003】
ところで、ロータコアの孔に樹脂を注入した後、樹脂注入装置のノズルを離間させる際、硬化していない樹脂が糸状に延びて、所謂バリを生じてしまうことがあり、そのバリが回転電機の内部で周辺の部品と接触しないように、或いは回転電機の内部に脱落しないようにするため、そのバリを綺麗に除去するバリ取り処理を行う必要がある。しかしながら、このようなバリ取り処理をする工程は、専用設備が必要であり、また、バリ取り処理の自動化が困難であることから作業者を配する必要があり、コストが増大する虞がある。
【0004】
そのため、先端が徐々に縮径された吐出口が形成されたゲートプレートを用い、ロータコアの磁石を設置する磁石挿入穴に吐出口が入り込むように吐出口を設置して樹脂を注入し、樹脂を切離す破断部分を細くすることで、樹脂硬化後のゲートプレート取外し時に樹脂を破断し易くすると共に、磁石挿入穴の内部(ロータコアの表面より内側)で樹脂を破断させるものが提案されている(特許文献1参照)。このように樹脂の破断部分がロータコアの表面より内側にあることで、例えばバリが僅かに生じても、他の部品と接触してバリが脱落することの防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のものは、ロータコアの磁石挿入穴に充填された樹脂が、磁石挿入穴の内側に凹んだ凹み形状を有しているため、磁石を覆う樹脂が薄くなって耐久性の向上が困難であるという問題がある。特に近年の回転電機の使用回転領域が高速化されているため、上記のような凹み形状の形成は回避したいという要望がある。
【0007】
そこで、バリ取り処理が不要でありながら、耐久性の向上を可能にするロータの製造装置、及びロータの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本ロータの製造方法は、
積層鋼板により形成されたロータコアの孔部に磁石部材を配置し、樹脂を射出する射出口が先端に形成されたノズルを有する樹脂注入機から樹脂を注入して硬化させ、前記磁石部材をロータコアに固定することで、回転電機のロータを製造するロータの製造方法において、
貫通方向に対して前記ロータコアに向けて内径が小さくなる先細り部と、前記貫通方向における前記先細り部の先端に形成される小径部と、前記貫通方向に直交する方向に対して前記小径部の内径よりも拡大されて開口する拡大開口部と、前記貫通方向において前記先細り部に対して前記拡大開口部とは反対側に、前記ロータコアに向けて内径が小さくなり、前記ノズルが嵌合可能な傾斜面と、を有する注入孔が形成された当接部材を、前記ロータコアの積層方向の一方の面に当接させ、かつ前記注入孔が前記ロータコアの孔部に連通するように取付ける取付け工程と、
前記ノズルを、前記傾斜面に嵌合させるように前記注入孔の途中まで挿入した状態で樹脂を射出し、前記ロータコアの孔部に樹脂を注入する樹脂注入工程と、
前記ノズルを前記注入孔より離間させた状態で、前記ロータコア及び前記当接部材を加熱して、樹脂を硬化させる磁石固定工程と、
前記磁石固定工程の後に、前記当接部材を前記ロータコアから取外す取外し工程と、を備える。
【0009】
また、本ロータの製造装置は、
回転電機のロータを製造するロータの製造装置において、
樹脂を射出する射出口が先端に形成されたノズルを有し、前記射出口からロータコアの孔部に樹脂の注入を行う樹脂注入機と、
貫通形成され、前記射出口が挿入される注入孔を有し、積層鋼板が積層されて形成されたロータコアの積層方向の一方の面に当接し、かつ前記注入孔が前記ロータコアの孔部に連通するように配置される当接部材と、を備え、
前記注入孔は、貫通方向に対して前記ロータコアに向けて内径が小さくなる先細り部と、前記貫通方向における前記先細り部の先端に形成される小径部と、前記貫通方向に直交する方向に対して前記小径部の内径よりも拡大されて開口する拡大開口部と、前記貫通方向において前記先細り部に対して前記拡大開口部とは反対側に、前記ロータコアに向けて内径が小さくなり、前記ノズルが嵌合可能な傾斜面と、を有し、
前記樹脂注入機は、前記ノズルを、前記傾斜面に嵌合させるように前記注入孔の途中まで挿入した状態で樹脂を射出し、前記ロータコアの孔部に樹脂を注入し、
前記ノズルは、前記ロータコア及び前記当接部材を加熱して樹脂を硬化する前に、前記注入孔から離間され、
前記当接部材は、前記ロータコアに注入された樹脂が硬化された後、取外されるように構成された。
【発明の効果】
【0010】
本ロータの製造装置、及び本ロータの製造方法によると、バリ取り処理を行う工程を省略することができるものでありながら、ロータコアの孔部の樹脂に凹み形状が形成されることがなく、ロータの耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態に係るロータの製造方法の各工程を示すフローチャート。
【
図2】ロータコアと保持治具の下方プレートとを示す斜視図。
【
図3】保持治具の下方プレートにロータコアを設置した状態を示す斜視図。
【
図4】ロータコアに保持治具を取付けた状態を示す斜視図。
【
図5】注入装置においてロータ設置部から注入機を離間させた状態を示す断面図。
【
図6】注入装置においてロータ設置部に注入ノズルを取付けた状態を示す断面図。
【
図7】注入装置においてロータコアをロータ設置部に設置した状態を示す断面図。
【
図8】注入装置においてロータコアに樹脂を注入する状態を示す断面図。
【
図9】注入装置において樹脂を注入したロータコアをロータ設置部から取外した状態を示す断面図。
【
図11】(a)は注入ノズルを示す上方視図、(b)は注入ノズルを示す断面図、(c)はロータコアと注入ノズルとの位置関係を示す上方視図。
【
図12】(a)はロータコアの孔部と注入ノズルのノズルとゲートとの位置関係、及び注入後の樹脂の状態を示す拡大上方視図、(b)はロータコアの孔部と注入ノズルのノズルとゲートとを示す拡大断面図、(c)は樹脂注入後のロータコア及び樹脂の状態を示す拡大断面図。
【
図13】(a)はロータコアの孔部と注入ノズルのノズルとゲートとの形状及び位置関係を説明する断面模式図、(b)は樹脂注入後においてゲートにおける樹脂の切離しを説明する断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施の形態を図に沿って説明する。
【0013】
[ロータの概略構成]
まず、例えばハイブリッド駆動装置や電気自動車の駆動モータ(回転電機)におけるロータの構造を簡単に説明する。駆動モータは、大まかにステータ(固定子)とロータ1(回転子)とで構成されている。そのうちのロータ1は、
図2に示すように、プレス加工等で複数の孔1bが形成された積層鋼板1aが積層されることで構成されるロータコア1Aを有している。ロータコア1Aには、上記孔1bが位相を合わせられた状態で積層鋼板1aが積層方向に積層されることで、複数の孔部1Bが形成されており、
図3に示すように、それら孔部1Bのそれぞれに磁石部材としての磁石1Mが挿入されて設置され、その状態で樹脂によって磁石1Mが孔部1Bに固定されることで、磁石1Mがロータコア1Aに埋設されたロータ1が構成される。
【0014】
[ロータの製造方法の概略]
続いて、本実施の形態に係るロータの製造方法の概略について説明する。
図1に示すように、本ロータの製造方法においては、積層鋼板1aを積層してロータコア1Aを構成する鋼板積層工程S1と、ロータコア1Aの孔部1Bに磁石1Mを挿入して設置する磁石設置工程S2と、ロータコア1Aに保持治具10を取付ける治具取付け工程S3と、を備えている。また、本ロータの製造方法においては、ロータコア1Aを加熱する加熱工程S4と、樹脂を注入する樹脂注入装置30にロータコア1Aを設置する注入装置設置工程S5と、樹脂注入装置30によりロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入する樹脂注入工程S6と、を備えている。さらに、本ロータの製造方法においては、注入された樹脂を硬化させてロータコア1Aに磁石1Mを固定する磁石固定工程S7と、保持治具10をロータコア1Aから取外す治具取外し工程S8と、ロータコア1Aを冷却する冷却工程S9と、を備えている。これらの各工程は、工場のラインにおいて、例えばベルトコンベア等でロータコア1Aを移動させつつ順次行われる。また、後述の鋼板積層工程S1において積層鋼板1aを積層する際は、作業者による調整を行うが、その他の工程で、ロータコア1Aの搬送、保持治具10の取付けや取外し等は、例えば多関節ロボット等の工場設備によって行う。
【0015】
[鋼板積層工程の詳細]
まず、鋼板積層工程S1の詳細について
図2を用いて説明する。
図2に示すように、ロータコア1Aは、例えばプレス加工等で中心を点対称とした中空円板状に形成され、かつ複数の孔1bが形成された積層鋼板1aが、詳しくは後述する保持治具10の下板11の上面11bに順次重ねられて積層されることで構成される。各積層鋼板1aには、僅かながら公差があるため、作業者が中空円板状における周方向に位相を調整しつつ積層することで、最上位となる積層鋼板1aが積層方向と直交する平面(つまり水平方向)に対して傾斜が少なくなるように積層される。なお、積層鋼板1aを積層する際は、上述のように保持治具10の下板11の上面11bに積層しても良いし、別の場所で積層してロータコア1Aを構成した後、保持治具10の下板11の上面11bに設置してもよい。
【0016】
保持治具10の下板11は、中心に孔11aが形成された中空板状の部材であり、孔11aにはロータコア1Aを位置決め支持する支持板16が固定されている。また、下板11には、第1軸14と、第1軸14よりも短い第2軸15とがそれぞれ例えば4か所に立設されている。これにより、下板11の上面11bにロータコア1Aが設置される際は、支持板16がロータコア1Aの内周面の一部に当接すると共に、第2軸15が外周面の一部に当接することで、水平方向の移動が規制されて、下板11とロータコア1Aとの相対位置が位置決めされつつ下板11に対して支持される。また、下板11には、ロータコア1Aが設置された際に孔部1Bの位置に積層方向で重なる位置に下板11を貫通するように形成され、後述の樹脂注入時における空気抜き用の孔となる空気孔11cが複数個所に形成されている。
【0017】
[磁石設置工程の詳細]
次に、磁石設置工程S2の詳細について
図3を用いて説明する。
図3に示すように、保持治具10の下板11に設置されたロータコア1Aには、積層鋼板1aの孔1bが積層されて形成された複数の孔部1Bが形成されており、各孔部1Bに対してそれぞれ磁石1Mが挿入されて設置される。なお、
図3に示すロータコア1Aにおいては、磁石1Mの長手方向が周方向に向いた形で設置されるものを説明しているが、本実施の形態においては、
図11(c)に示すように、磁石1Mの長手方向が周方向に対して傾斜し、2つの磁石1Mで上方から見てV字状となるように設置されるものを想定している。また、一般的に磁石は加熱されると減磁されてしまうため、この段階での磁石1Mは磁化される前の磁石の材料である。
【0018】
[治具取付け工程の詳細]
続いて、治具取付け工程S3の詳細について
図4を用いて説明する。まず、ロータを製造するロータの製造装置の一部を構成する保持治具10の構成について説明する。なお、本実施の形態では、詳しくは後述するように樹脂を注入する際に保持治具10の押圧板12の注入孔12cを用いるので、保持治具10もロータの製造装置である樹脂注入装置の一部を構成していることになる。
【0019】
図4に示すように、保持治具10は、大まかに、第1板としての下板11、第2板としての押圧板12、上板13が上下方向に順に略平行に配置されるように備えられている。上述したように、下板11の上面11bにはロータコア1Aが設置され、そのロータコア1Aの上方に、押圧板12の下面12bが当接するように押圧板12が設置される。押圧板12は、中心に孔12aが形成された中空板状の部材であり、詳しくは後述するように樹脂を注入するための複数の注入孔12cがロータコア1Aの孔部1Bの上方に位置するように貫通形成されている。また、押圧板12には、上述した第2軸15が貫通可能となる複数の貫通孔12dが形成されている。
【0020】
上板13は、中心に孔13aが形成された中空板状の部材であり、第2軸15の上端に対してボルト21によって締結される。また、押圧板12と上板13との間には付勢部材としてのコイルスプリング23が縮設され、コイルスプリング23の内部に図示を省略した支持軸が配置され、その支持軸がボルト22で上板13に固定されることでコイルスプリング23が位置決め支持されている。このように構成された保持治具10は、ロータコア1Aが、下板11と、上板13からコイルスプリング23によって押圧される押圧板12とによって押圧されて挟持される。これにより、ロータコア1Aの複数の積層鋼板1aは、積層方向に押圧されて積層方向に極力隙間なく接した状態で保持される。なお、第1軸14の上端は、押圧板12の下面に対向するように形成され、押圧板12がコイルスプリング23により下方に押圧された状態で当接して、ロータコア1Aを積層方向に潰さないよう構成されている。
【0021】
以上のように構成された保持治具10を、治具取付け工程S3においてロータコア1Aに取付ける際は、下板11の上面11bにロータコア1Aを設置し、貫通孔15dを第2軸15に貫通させつつ押圧板12をロータコア1Aの上方に設置し、コイルスプリング23を押圧板12との間に挟持しつつ上板13を設置して、ボルト21により第2軸15と上板13とを締結する。これにより、ロータコア1Aを積層方向に押圧しつつ保持する保持治具10がロータコア1Aに取付けられる。
【0022】
[加熱工程の詳細]
次に、加熱工程S4の詳細について説明する。本実施の形態において、ロータコア1Aの孔部1Bに磁石1Mを固定するための樹脂としては、例えば溶融開始温度が60度、硬化開始温度が120度の、常温では固体である熱硬化性材の樹脂材料を用いる。ロータコア1Aが溶融開始温度よりも低いと、後述の樹脂注入工程S6において樹脂を注入した際に、樹脂が途中で凝固し、孔部1Bに対する樹脂の充填が不十分となる虞がある。そのため、樹脂の注入時にロータコア1Aが溶融開始温度以上となっている必要がある。さらに、本実施の形態においては、樹脂を孔部1Bに注入した際に、積層鋼板1a同士の僅かな隙間から樹脂が漏出する可能性があるため、樹脂の注入時にロータコア1Aを硬化開始温度以上にしておくことで、孔部1Bに接した樹脂から硬化を開始させ、樹脂が積層鋼板1a同士の間に漏出することを防止させることが可能となる。
【0023】
以上のような背景から、加熱工程S4において、保持治具10に保持されている(保持治具10が取付けられた)ロータコア1Aを、保持治具10ごと例えば高周波加熱器等の加熱装置に入れて、樹脂の溶融開始温度以上、好ましくは硬化開始温度以上に加熱する。本実施の形態においては、加熱工程S4において、ロータコア1Aが例えば150度程度になるように加熱する。
【0024】
[注入装置設置工程の詳細]
続いて、樹脂を注入する樹脂注入装置30に、保持治具10に保持されたロータコア1Aを設置する注入装置設置工程S5の詳細について
図5、
図6、
図7、
図8、
図10、
図11(a)、
図11(b)、
図11(c)を用いて説明する。まず、ロータを製造するロータの製造装置としての樹脂注入装置30の構造について説明する。
【0025】
図6に示すように、樹脂注入装置30は、狭義として、樹脂注入機40とテーブル部50とを備えており、テーブル部50にランナ60が設置されることで、広義として、樹脂をロータコア1Aに注入する樹脂注入装置30が構成される。樹脂注入機40は、
図10に示すように、上端が固形の樹脂を投入する樹脂材投入口40Bとなる樹脂投入孔48が形成された投入部47と、樹脂材投入口40Bから投入された樹脂を溶融しつつかつ攪拌しつつ流路49に送出するスクリュ46と、流路49に導通する流路44が形成された筒部41と、筒部41の下端に固定され、下端が樹脂を射出する射出口40Aを形成するノズル部42と、流路49から流路44への樹脂の流れを開閉弁43aによって開閉するストップバルブ43と、流路44の樹脂を射出口40Aから射出させるプランジャ45と、を備えて構成されている。この樹脂注入機40には、
図8に示すように、例えば電熱線や冷媒の供給により加熱又は冷却が可能な温調装置81(Temp Control Device)が取付けられており、温調装置81は、樹脂材投入口40Bから射出口40Aまでの間にある樹脂を溶融した状態に維持するため、樹脂の温度を溶融開始温度以上かつ硬化開始温度未満の例えば80度程度に調温する。特に温調装置81は、スクリュ46を加熱することで樹脂材投入口40Bに投入された常温で固体の樹脂を溶融し、樹脂が溶融した状態を維持する。
【0026】
一方、テーブル部50は、
図6に示すように、下方側に配置された下方板51と、下方板51の側方端部に固定された側壁53と、側壁53に支持されて下方板51の上方に平行に対向配置された上方板52とを備えている。また、下方板51には中央部分に孔51aが形成されており、テーブル部50には、その孔51aの形状に合わせて形成され、上面55aが保持治具10の下板11を設置する台座となる設置台55と、その設置台55を昇降駆動自在にかつ回転駆動自在に制御する駆動装置59とが備えられている。なお、図示を省略したが、設置台55の上面55aには、凸部が設けられ、保持治具10の下板11の下面には凹部が設けられ、設置台55に保持治具10が設置された際に、それら凸部と凹部とが嵌合されることで、設置台55に対して保持治具10が回転方向に位置規制され、つまり設置台55の回転で保持治具10及びロータコア1Aの回転方向の位置が制御される。
【0027】
また、テーブル部50の上方板52には、
図5に示すように、装着孔52aが形成されており、その装着孔52aにランナ60の上軸部62が嵌合されることで、ランナ60が着脱自在に装着される。ランナ60は、
図11(a)及び
図11(b)に示すように、円板状の本体61と、本体61の中心から上方に延びる軸状の上軸部62と、本体61の下方の外周側から下方に延びる複数の分岐ノズル63と、を備えて構成されている。本実施の形態において、分岐ノズル63は、ロータコア1Aの孔部1Bの半数となる本数となるように設けられており、つまりロータコア1Aの孔部1B(即ち磁石1M)の数が32箇所である場合、分岐ノズル63は16本となるように構成されている。
【0028】
ランナ60の内部においては、
図11(b)に示すように、上端が樹脂の投入口60Aとなる投入流路67が上軸部62及び本体61の円板状の中心軸に沿って上下方向に形成されている。また、
図11(c)に示すように、本体61の内部において、投入流路67から分岐ノズル63に向けて分岐する分岐流路68が形成されており、分岐流路68は、投入流路67から放射状に中心軸と直交する方向の水平方向へ8本に分岐する放射流路68Aと、放射流路68Aの外周側で周方向の両側に分岐する周方向流路68Bとを有するように形成されている。さらに、
図11(b)に示すように、本体61及び各分岐ノズル63の内部において、分岐流路68の周方向流路68Bの周方向の端部のそれぞれから下方に向けて注入流路69が形成され、その注入流路69の下端が射出口60Bとして形成されている。また、注入流路69のそれぞれの内部には、射出口60Bを開閉するストップバルブ64が設けられている。
【0029】
また、このランナ60には、周方向に周回するように配置された電熱線65と、同じく周方向に周回するように配置された冷媒流路66とが設けられており、これら電熱線65と冷媒流路66とは、
図8に示す温調装置82(Temp Control Device)に接続されている。この温調装置82は、ランナ60が保持治具10の押圧板12に対して切離されるため、ランナ60が熱の外乱として保持治具10及びロータコア1Aの温度から影響を受けるので、電熱線65に電流を供給して加熱したり、或いは冷媒流路66に冷媒を供給して冷却したりすることで、投入口60Aから射出口60Bまでの間にある樹脂の温度を溶融開始温度以上かつ硬化開始温度未満の例えば80度程度に維持するように調温する。このようにランナ60には、温調装置82が接続されているため、上下方向或いは回転方向に移動させることは難しいが、後述するように設置台55が駆動装置59によって昇降駆動或いは回転駆動されるため、樹脂注入工程S6でランナ60を移動させることが無いように構成されている。
【0030】
以上のように構成された樹脂注入装置30に、保持治具10が取付けられたロータコア1Aを設置する注入装置設置工程S5では、まず、
図5に示すように、テーブル部50から樹脂注入機40を離間させ、かつ設置台55を上面55aが下方板51と同じ位置となるように下げた状態で、
図6に示すように、ランナ60を、上方板52の装着孔52aに上軸部62を嵌合させることで上方板52に装着する。この状態から、
図7に示すように、保持治具10が取付けられたロータコア1Aを設置台55に設置する。この際、上述したように設置台55の上面55aに設けられた凸部(不図示)と、保持治具10の下板11に設けられた凹部(不図示)とを嵌合させ、回転方向に移動不能に固定する。そして、
図8に示すように、設置台55を駆動装置59により上昇させ、保持治具10に形成された上板13の貫通孔13cと押圧板12の注入孔12cとに分岐ノズル63が挿入され、注入孔12cに分岐ノズル63の先端が圧接された状態にセットされることで、樹脂注入装置30に対するロータコア1Aが設置される。
【0031】
[樹脂注入工程の詳細]
ついで、樹脂注入工程S6の詳細について
図8、
図12(a)を用いて説明する。まず、保持治具10の押圧板12の注入孔12cとロータコア1Aの孔部1Bとの位置関係と、注入孔12cの形状とについて説明する。
【0032】
図12(a)に示すように、保持治具10をロータコア1Aに取付けた状態では、押圧板12の注入孔12cがロータコア1Aの孔部1Bの上方に少なくとも一部が重なる位置となる。詳細には、注入孔12cの中心は、孔部1Bに対してロータコア1Aの内径側に位置するように配置され、樹脂を孔部1Bに注入した際に、樹脂の圧力によって磁石1Mを外周側に押付ける。これにより、磁石1Mはロータコア1Aの外径側に寄せられ、つまり回転電機としてステータに組付けられた際に磁石1Mがなるべくステータに近づけられ、磁力を強めて回転電機の出力や効率の向上が図られている。
【0033】
このように構成された保持治具10の押圧板12の注入孔12cからロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入する樹脂注入工程S6では、
図8に示すように、樹脂注入装置30の樹脂注入機40において、ストップバルブ43が開かれると共にプランジャ45により流路44の樹脂が押圧されることで(
図10参照)、射出口40Aからランナ60の投入口60Aに樹脂が射出され、樹脂がランナ60の投入流路67から8本の放射流路68Aに分岐して流れ、さらにそれぞれの放射流路68Aから周方向流路68Bによって16本の分岐ノズル63の射出口60Bに流れ、各ストップバルブ64が開かれることで16箇所の射出口60Bから各注入孔12cに樹脂が射出され、それら注入孔12cからロータコア1Aの16箇所の孔部1Bに樹脂が注入される。これにより、各孔部1Bにおいて、樹脂が磁石1Mをロータコア1Aの外径側に向けて押圧しつつ磁石1Mの周囲に樹脂が充填されていく。
【0034】
この際、孔部1Bの内部にあった空気は、保持治具10の下板11の空気孔11cから抜けていき、樹脂が孔部1Bに隙間なく充填される。また、ロータコア1Aは、上述したように樹脂の硬化開始温度よりも高く加熱されているため、孔部1Bに充填された樹脂のうち、孔部1Bの側面に触れた部分から硬化を開始し、これにより、積層鋼板1a同士の隙間から樹脂が漏れ出ることが防止される。
【0035】
このように、ロータコア1Aの8箇所の孔部1Bに対する樹脂の充填が終わると、
図7に示すように、設置台55を駆動装置59により下降して保持治具10が取付けられたロータコア1Aを分岐ノズル63から離反させる。その後、駆動装置59により設置台55を回転して、樹脂が充填されていない孔部1Bの上方に分岐ノズル63が位置するように位相合わせを行い、さらに設置台55を上昇して、樹脂の注入を行っていない注入孔12cに対して分岐ノズル63を挿入してセットする。そして、上述と同様に樹脂の注入を行って、32箇所の孔部1Bのうちの残りの16箇所の孔部1Bに対しても同様に樹脂の充填を行い、以上で樹脂注入工程S6を終了する。
【0036】
[磁石固定工程の詳細]
次に、磁石固定工程S7の詳細について説明する。上述の樹脂注入工程S6が終了すると、
図9に示すように、樹脂注入装置30から保持治具10が取付けられたロータコア1Aを設置台55から取外して、つまり樹脂注入装置30からロータコア1Aを取り出す。この状態で、保持治具10を取付けたままロータコア1Aの温度を不図示の加熱装置によって樹脂の硬化開始温度以上の例えば150度程度が維持されるように加熱する。即ち、ロータコア1Aの孔部1Bに充填された樹脂は、上述のように注入時にロータコア1Aに触れた部分から硬化が開始されるが、孔部1Bの内部で完全に硬化していない部位もあるため、この磁石固定工程S7においては、加熱された状態で維持し、孔部1Bの樹脂が硬化開始温度以上に維持されて完全に硬化するまで、所定時間の間、硬化開始温度以上に維持することで、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂によって磁石1Mが完全に固定される。なお、本実施の形態では、磁石固定工程S7で加熱装置によりロータコア1Aの温度を例えば150度程度となるように加熱しているものを説明しているが、樹脂の硬化を早めるため、これ以上の温度(例えば170度程度)に加熱するようにしてもよい。
【0037】
以上のように、磁石固定工程S7で樹脂の硬化が完了すると、ロータコア1Aは、ロータ1として完成したことになる。なお、その後、ロータ1にはロータ軸等が取付けられて軸付きロータとなり、回転電機の部品としての広義のロータを構成することになる。
【0038】
なお、本実施の形態では、加熱工程S4と磁石固定工程S7とを分けて記載しているが、上述したように、加熱工程S4においてロータコア1Aの加熱を開始し、磁石固定工程S7までロータコア1Aの温度を樹脂の硬化開始温度以上に維持しているため、広義としての加熱工程は、加熱工程S4、注入装置設置工程S5、樹脂注入工程S6、磁石固定工程S7まで継続していることになる。また、換言すると、加熱工程S4も、樹脂の注入前であるが、樹脂を硬化させるために加熱しているので、磁石1Mをロータコア1Aに固定する工程であると言える。
【0039】
[治具取外し工程の詳細]
続いて、治具取外し工程S8の詳細について説明する。上述の磁石固定工程S7において磁石1Mがロータコア1Aの孔部1Bに樹脂の硬化によって完全に固定されると、保持治具10をロータコア1A(ロータ1)から取外す。即ち、治具取付け工程S3でロータコア1Aに対する保持治具10の取付け順と逆の順で保持治具10をロータコア1Aから取外す。具体的には、
図4に示すボルト21の締結を解除して上板13及びコイルスプリング23を取外し、続いて、押圧板12を第2軸15から抜くことで下板11から取外して
図3に示す状態にし、最後に、下板11からロータコア1Aを上方に向けて取出すことで治具取外し工程S8が終了する。
【0040】
[冷却工程の詳細]
最後に、冷却工程S9の詳細について説明する。上述したように治具取外し工程S8において、保持治具10がロータコア1A(ロータ1)から取外された後、保持治具10が取外されたロータコア1Aと、ロータコア1Aから取外した保持治具10とを、冷却装置に共に投入して、ロータコア1A及び保持治具10とをそれぞれ冷却装置の内部で個別に冷却する。即ち、ロータコア1Aに保持治具10を取付けた状態であると、特に下板11と押圧板12とがロータコア1Aの上下方向の両面に接して覆った状態となるため、保持治具10を取外すことで、ロータコア1Aにおいて露出する表面積が取外す前よりも大きくなり、冷却効率が上昇する。また、保持治具10も熱容量が大きいため、ロータコア1Aに保持治具10を取付けた状態では、熱容量が大きくて冷え難いが、それらを分離することでそれぞれの熱容量が小さくなり、冷却効率が上昇する。これにより、ロータコア1Aの冷却時間を短縮することが可能となり、また、保持治具10の冷却時間も短縮することが可能となる。
【0041】
[保持治具の上板の注入孔の構成]
ついで、保持治具10の押圧板12に形成された注入孔12cの構成の詳細について
図12(a)、
図12(b)、
図12(c)を用いて説明する。なお、
図12(b)は
図12(a)のA-A矢視断面を示しており、
図12(c)は
図12(b)と同じ位置でロータコア1Aから保持治具10を取外した状態を示している。
【0042】
保持治具10の押圧板12の注入孔12cは、
図12(b)に示すように、分岐ノズル63の先端にある円錐形状の傾斜面63aが圧接されて嵌合可能であるように内径が徐々に小さくなる傾斜形状であり、嵌合されるとシールされた状態となる傾斜面である第1傾斜面12caと、第1傾斜面12caよりも下方(ロータコア1Aの側)に配置され、注入孔12cの中心に対して鋭角となる角度θで傾斜することで、注入孔12cの貫通方向においてロータコア1Aに向けて内径が小さくなる先細り形状となる先細り部としての第2傾斜面12cbと、第1傾斜面12caと第2傾斜面12cbとの間に形成され、分岐ノズル63が第2傾斜面12cbまで入り込むことを防止する段差部12ccと、第2傾斜面12cbの下方の先端に形成され、最も孔径が小さくなって絞り部として機能する小径部12ceと、小径部12ceの下方で小径部12ceよりも水平方向(貫通方向に直交する方向)に広がり、かつ注入孔12cの開口部となる拡大開口部12cdと、を有するように形成されている。
【0043】
なお、本実施の形態において上記第2傾斜面12cbの角度θは例えば30度に形成されているが、鋭角であればよく、つまり0度よりも大きく45度未満であればよい。また、拡大開口部12cdは、本実施の形態では、
図12(a)に示すように、上下方向から見て小径部12ceを包含する位置で水平方向に広がる矩形状に形成されているが、これに限らず、断面視で円形状、楕円形状、長孔形状等でも、どのような形状でも小径部12ceより水平方向の断面積が広くなるように形成されていればよい。この拡大開口部12cdは、押圧板12がロータコア1Aの上面1Aaに当接された状態で、ロータコア1Aの上面1Aaと孔部1Bとに跨る位置となるように形成されている。また、小径部12ceは、例えば直径1mm~5mm程度に形成されており、また、拡大開口部12cdの上下方向の厚みは、例えば0.5mm程度に形成されている。
【0044】
このように構成された注入孔12cから上記樹脂注入工程S6で充填された樹脂99は、
図12(c)に示すように、孔部1Bの開口部分まで充填され、さらに、拡大開口部12cdに僅かに空気を逃がしながら拡大開口部12cdにも充填され、矩形の板状である樹脂の板部99aが、孔部1Bとロータコア1Aの上面1Aaとに跨るように形成される。
【0045】
[注入孔12cによる樹脂の切離しについて]
次に、保持治具10の押圧板12の注入孔12cによる樹脂の切離しについて、
図13(a)及び
図13(b)を用いて説明する。なお、
図13(a)及び
図13(b)に示す図は、説明を容易にするために模式的に示した図であり、注入孔12cの詳細な形状は
図12(b)に示す形状が正確である。
【0046】
一般に、樹脂をノズルから充填した後、ノズルを離間させると、硬化していない樹脂が糸状に延びて、所謂バリを生じてしまうことがあり、そのバリが回転電機の内部で周辺の部品と接触しないように、或いは回転電機の内部に脱落しないようにするため、そのバリを綺麗に除去するバリ取り処理を行う必要がある。しかしながら、このようなバリ取り処理をする工程は、専用設備が必要であり、また、バリ取り処理の自動化が困難であることから作業者を配する必要があり、コストが増大する虞がある。そのため、本実施の形態においては、バリ取り処理が不要となるように、注入孔12cの形状に特徴を有するものである。
【0047】
上述した樹脂注入工程S6においては、
図13(a)に示すように、ランナ60の分岐ノズル63が押圧板12の注入孔12cに挿入されて圧接された状態でロータコア1Aの孔部1Bに樹脂の注入が行われる。この際、射出口60Bの位置は、段差部12ccによって分岐ノズル63が第2傾斜面12cbに入り込まないため、注入孔12cの小径部12ceよりも貫通方向における第2傾斜面12cbの側の位置にあり、分岐ノズル63の射出口60Bよりも下方にあって、特に第2傾斜面12cbに囲まれた部分と、拡大開口部12cdに囲まれた部分とに、樹脂99が充填され、
図13(b)に示すように、拡大開口部12cdによって板部99a(
図12(c)参照)が形成されると共に、板部99aに繋がる形で第2傾斜面12cbによって円錐状の円錐部99bが形成される。この際、小径部12ceによって、樹脂の板部99aと円錐部99bとの間に水平方向に絞られた括れが形成される。なお、本実施の形態においては、射出口60Bが第1傾斜面12caの端部の位置にあるが、第2傾斜面12cbの途中まで入り込んでいてもよい。
【0048】
そして、上記治具取外し工程S8において、押圧板12がロータコア1Aの上面1Aaから取外される際、押圧板12をロータコア1Aから離反させると、第2傾斜面12cbが円錐部99bを咥え込んだ形で上方に引っ張り、剛性が弱い括れ部分にせん断応力を集中させて破断させることができる。また、押圧板12を上方に引張る際、円錐部99bが板部99aを引張ることになるが、板部99aは、
図12(a)に示すように、孔部1Bとロータコア1Aの上面1Aaとに跨り、かつ小径部12ceの断面積以上の面積で板部99aがロータコア1Aに貼付くように形成されているため、引張り応力の大部分がロータコア1Aの上面1Aaで受けられ、孔部1Bの樹脂99を介して磁石1Mを引張って磁石1Mの位置精度に影響を与えることを防止することができている。なお、
図13(b)で示す円錐部99bの破断部位99bxと板部99aの破断部位99axとは、破断部位99axが凹状で破断部位99bxが凸状となるものを示しているが、温度や引っ張り強さの加減により、略平滑となったり、凹凸が逆となったりすることもある。また、分岐ノズル63が注入孔12cから離反する際、射出口60Bから樹脂が糸状に延びてバリを生じることもあるが、そのバリが生じる部分は円錐部99bの上部であり、円錐部99bは最終的に破棄されるため、その部分でバリが生じてもロータコア1Aにバリが残ることはない。
【0049】
以上のように、治具取外し工程S8において、ロータコア1Aから保持治具10の押圧板12を取外す際に、樹脂の板部99aから綺麗に円錐部99bを破断させることができ、例えばバリ取り処理を行う工程を不要とすることができる。また、後述の冷却工程S9で冷却する前に保持治具10を取外すので、下板11とロータコア1Aの孔部1Bの樹脂との間、押圧板12と上記樹脂の板部99aや孔部1Bとの間、の切離しを樹脂が冷却されずに高温の状態で行うことができ、つまり樹脂の冷却によって固着が強まる前に切離すことができるので、保持治具10の取外しも容易にできる。なお、押圧板12の注入孔12cに残った円錐部99bは、例えばピン等で押し出すことで除去されて破棄される。その後、保持治具10は、下板11の空気孔11cも含めて、それぞれの部品がブラシ等で清掃され、次のロータコア1Aの製造に再び用いられる。
【0050】
<本実施の形態のまとめ>
以上説明した本ロータの製造装置(30)は、
回転電機のロータ(1)を製造するロータの製造装置(30)において、
樹脂を射出する射出口(60B)を有し、前記射出口(60B)からロータコア(1A)の孔部(1B)に樹脂の注入を行う樹脂注入機(40)と、
貫通形成され、前記射出口(60B)が挿入される注入孔(12c)を有し、積層鋼板(1a)が積層されて形成されたロータコア(1A)の積層方向の一方の面(1Aa)に当接し、かつ前記注入孔(12c)が前記ロータコア(1A)の孔部(1B)に連通するように配置される当接部材(12)と、を備え、
前記注入孔(12c)は、貫通方向に対して前記ロータコア(1A)に向けて内径が小さくなる先細り部(12cb)と、前記貫通方向における前記先細り部(12cb)の先端に形成される小径部(12ce)と、前記貫通方向に直交する方向に対して前記小径部(12ce)の内径よりも拡大されて開口する拡大開口部(12cd)と、を有する。
【0051】
これにより、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入した際に、拡大開口部12cdによってロータコア1Aの上面1Aaに突出するように板部99aが形成され、先細り部としての第2傾斜面12cbによって円錐部99bが形成され、それらの間が小径部12ceによって括れるので、当接部材としての押圧板12をロータコア1Aから取外す際、小径部12ceで絞られた樹脂が糸状に延びることなく破断して、板部99aにバリを生じることを防止することができる。そのため、バリ取り処理を行う工程を省略することができる。また、ロータコア1Aの孔部IBの樹脂99に凹み形状が形成されることがなく、ロータの耐久性の向上を図ることができる。
【0052】
また、本ロータの製造装置(30)は、
前記射出口(60B)は、前記注入孔(12c)の前記小径部(12ce)よりも前記貫通方向における前記先細り部(12cb)の側の位置で、前記注入孔(12c)の途中まで挿入される。
【0053】
これにより、第2傾斜面12cbによって円錐部99bを形成することができ、押圧板12をロータコア1Aから取外す際に、第2傾斜面12cbで円錐部99bをしっかり掴んで板部99aから切離すことができる。
【0054】
また、本ロータの製造装置(30)は、
前記樹脂注入機(40)は、前記射出口(60B)を先端に形成し、外形が円錐形状に形成されたノズル(63)を有し、
前記注入孔(12c)は、前記貫通方向において前記先細り部(12cb)に対して前記拡大開口部(12cd)とは反対側に、前記ロータコア(1A)に向けて内径が小さくなり、前記ノズル(63)が嵌合可能な傾斜面(12ca)を有する。
【0055】
これにより、分岐ノズル63と第1傾斜面12caとの間でシールされた状態にすることができる。
【0056】
また、本ロータの製造装置(30)は、
前記ロータコア(1A)を積層方向に挟持する第1板(11)及び第2板(12)と、それら第1板(11)及び第2板(12)による挟持力を付与する付勢部材(23)と、を有し、前記ロータコア(1A)に対して着脱自在な保持治具(10)を備え、
前記当接部材は、前記第2板(12)である。
【0057】
これにより、ロータコア1Aを積層方向に挟持する保持治具10を取付けた状態で樹脂を注入することができ、積層鋼板1a同士の間から樹脂が漏れることを防止することができるものでありながら、保持治具10を取外す際に、樹脂の板部99aから円錐部99bを切離すことができ、バリ取り処理を行う工程を不要とすることができる。
【0058】
また、本ロータの製造装置(30)は、
前記拡大開口部(12cd)は、前記当接部材(12)が前記ロータコア(1A)の一方の面(1Aa)に当接された状態で、前記ロータコア(1A)の一方の面(1Aa)における表面と前記孔部(1B)とに跨るように形成されている。
【0059】
これにより、樹脂の板部99aをロータコア1Aの上面1Aaと孔部1Bとに跨るように形成することができ、樹脂の注入時に孔部1Bに樹脂の注入を可能にするものでありながら、板部99aをロータコア1Aの上面1Aaに貼付くように形成でき、円錐部99bの切離しの際に生じる引張り応力をロータコア1Aで受けることができて、孔部1Bの樹脂99を介して磁石1Mを引張って磁石1Mの位置精度に影響を与えることを防止することができる。
【0060】
また、本ロータの製造方法は、
積層鋼板(1a)により形成されたロータコア(1A)の孔部(1B)に磁石部材(1M)を配置し、樹脂を注入して硬化させ、前記磁石部材(1M)をロータコア(1A)に固定することで、回転電機のロータ(1)を製造するロータの製造方法において、
貫通方向に対して前記ロータコア(1A)に向けて内径が小さくなる先細り部(12cb)と、前記貫通方向における前記先細り部(12cb)の先端に形成される小径部(12ce)と、前記貫通方向に直交する方向に対して前記小径部(12ce)の内径よりも拡大されて開口する拡大開口部(12cd)と、を有する注入孔(12c)が形成された当接部材(12)を、前記ロータコア(1A)の積層方向の一方の面(1Aa)に当接させ、かつ前記注入孔(12c)が前記ロータコア(1A)の孔部(1B)に連通するように取付ける取付け工程(S3)と、
樹脂注入機(40)における樹脂を射出する射出口(60B)を、前記注入孔(12c)に挿入して樹脂を射出し、前記ロータコア(1A)の孔部(1B)に樹脂を注入する樹脂注入工程(S6)と、
前記当接部材(12)を前記ロータコア(1A)から取外す取外し工程(S8)と、を備える。
【0061】
これにより、樹脂注入工程S6においてロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入した際に、拡大開口部12cdによってロータコア1Aの上面1Aaに突出するように板部99aが形成され、先細り部としての第2傾斜面12cbによって円錐部99bが形成され、それらの間が小径部12ceによって括れるので、取外し工程S8において当接部材としての押圧板12をロータコア1Aから取外す際、小径部12ceで絞られた樹脂が糸状に延びることなく破断して、板部99aにバリを生じることを防止することができる。そのため、バリ取り処理を行う工程を省略することができる。また、ロータコア1Aの孔部IBの樹脂99に凹み形状が形成されることがなく、ロータの耐久性の向上を図ることができる。
【0062】
また、本ロータの製造方法は、
前記取付け工程は、前記ロータコア(1A)を積層方向に挟持する第1板(11)及び前記当接部材としての第2板(12)と、それら第1板(11)及び第2板(12)による挟持力を付与する付勢部材(23)と、を有する保持治具(10)を前記ロータコア(1A)に取付ける治具取付け工程(S3)であり、
前記取外し工程は、前記保持治具(10)を前記ロータコア(1A)から取外す治具取外し工程(S8)である。
【0063】
これにより、樹脂注入工程S6においてロータコア1Aを積層方向に挟持する保持治具10を取付けた状態で樹脂を注入することができ、積層鋼板1a同士の間から樹脂が漏れることを防止することができるものでありながら、保持治具取外し工程S8において保持治具10を取外す際に、樹脂の板部99aから円錐部99bを切離すことができ、バリ取り処理を行う工程を不要とすることができる。
【0064】
<他の実施の形態の可能性>
なお、以上説明した本実施の形態においては、保持治具10が大まかに下板11、押圧板12、上板13、及びコイルスプリング23で構成されたものを説明したが、これに限らず、ロータコア1Aを積層方向に挟持して保持できるものであれば、どのような構成であってもよい。
【0065】
また、本実施の形態においては、加熱工程S4で樹脂の硬化開始温度以上に加熱してから樹脂の注入を行うものを説明したが、これに限らず、加熱工程S4で予熱として溶融開始温度程度に加熱し、樹脂の注入後の磁石固定工程S7で加工温度以上に本加熱するものであっても構わない。
【0066】
また、本実施の形態においては、冷却工程S9で保持治具10も冷却装置で冷却する場合を説明したが、これに限らず、保持治具10を自然冷却してもよく、特に保持治具10を再利用するとしても自然冷却で足りるように保持治具10を多数準備しておけばよい。
【0067】
また、本実施の形態においては、冷却工程S9でロータコア1A(ロータ1)を冷却装置で冷却する場合を説明したが、これに限らず、ロータコア1Aを自然冷却するとしても、保持治具10を取外す方が冷却時間を短縮できることは勿論のことである。
【0068】
また、本実施の形態においては、樹脂の板部99a及び円錐部99bを形成する注入孔12cを、当接部材としての保持治具10の押圧板12に形成したものを説明したが、これに限らず、例えばロータコア1Aを保持治具10で保持せず、別の手法で保持して樹脂注入を行う場合等、保持治具10を用いない場合も考えられる。この場合、樹脂の板部99a及び円錐部99bを形成する注入孔は、ロータコア1Aに当接させる別のプレート等に形成することが考えられる。
【0069】
また、本実施の形態においては、注入孔12cにより樹脂の板部99a及び円錐部99bを形成するものを説明したが、これらの形状はどのようなものでもよい。即ち、拡大開口部でロータコア1Aの上面よりも突出するように形成される形状は、板状でなく、例えば三角錐状、四角錐状、円錐状、半球状等でもよく、また、先細り部で形成される形状は、円錐状でなく、例えば三角錐状、四角錐状、円錐状、半球状等でもよい。
【0070】
また、本実施の形態においては、ランナ60をテーブル部50に着脱自在に支持したものを説明したが、ランナ60を樹脂注入機40のノズル部42等に直接的に固定して支持させてもよく、さらには、テーブル部50以外の他の部材に支持させるようにしてもよい。
【0071】
また、本実施の形態においては、設置台55にロータコア1Aを設置し、ランナ60に向けてロータコア1Aを上昇させて射出口60Bを注入孔12cを介してロータコア1Aの孔部1Bに対向させるものを説明したが、これに限らず、樹脂注入機40やランナ60の向きによっては、ロータコア1Aをどの方向に向けて移動してもよく、つまり少なくとも樹脂注入工程S6で樹脂注入機40やランナ60を移動させないように構成できれば、どのような構成でもよい。
【0072】
また、本実施の形態においては、温調装置81が樹脂注入機40の温度管理を行い、温調装置82がランナ60の温度管理を行うものについて説明したが、これに限らず、例えば1つの温調装置で温度管理を行うようにしてもよく、反対に、さらに多くの温調装置を用いて樹脂注入機40やランナ60の温度管理を細分化するようにしてもよい。
【0073】
また、本実施の形態においては、樹脂注入機40が溶融された樹脂を圧縮して射出する所謂圧縮成型の樹脂注入機と同様な構成のものを説明したが、これに限らず、例えば予熱した樹脂材料をトランスファー室に入れてから射出する所謂トランスファー成型の樹脂注入機を用いても構わない。
【符号の説明】
【0074】
1…ロータ
1A…ロータコア
1Aa…一方の面(上面)
1B…孔部
1M…磁石部材(磁石)
1a…積層鋼板
10…ロータの製造装置、保持治具
11…第1板(下板)
12…当接部材、第2板(押圧板)
12c…注入孔
12ca…傾斜面(第1傾斜面)
12cb…先細り部(第2傾斜面)
12cd…拡大開口部
12ce…小径部
23…付勢部材(コイルスプリング)
30…ロータの製造装置(樹脂注入装置)
40…樹脂注入機
60B…射出口
63…ノズル(分岐ノズル)
S3…取付け工程、治具取付け工程
S6…樹脂注入工程
S8…取外し工程、治具取外し工程