(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】水電解システム、水電解システムの制御方法、および、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20231011BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20231011BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B1/04
(21)【出願番号】P 2019208704
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】村田 元
(72)【発明者】
【氏名】関 純太郎
(72)【発明者】
【氏名】香山 智之
(72)【発明者】
【氏名】植田 忠伸
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-072119(JP,A)
【文献】特開2014-125644(JP,A)
【文献】特開平08-193287(JP,A)
【文献】特開2006-124772(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181662(WO,A1)
【文献】特開2017-039982(JP,A)
【文献】特開2015-175037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水電解システムであって、
水を電気分解することで、酸素極で酸素を生成し、水素極で水素を生成する電解セルと、
前記水素極に接続され、前記水素極から排出される水素と水との混合物から水素を分離する第1水素側気液分離部と、
前記第1水素側気液分離部に接続され、前記第1水素側気液分離部で水素が分離された液体から、さらに水素を分離する第2水素側気液分離部と、
前記酸素極と前記第2水素側気液分離部とのそれぞれに接続され、前記酸素極から排出される酸素と水との混合物から酸素を分離し、分離によって得られた液体と、前記第2水素側気液分離部から供給される液体と、を前記電解セルに供給する酸素側気液分離部と
、
前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整する水位調整部と
、
前記水位調整部を制御する水位制御部と、を備
え、
前記水位制御部は、前記第2水素側気液分離部において分離された水素が溜められる第2気相空間の体積が、前記第1水素側気液分離部において分離された水素が溜められる第1気相空間の体積より大きくする、
水電解システム。
【請求項2】
水電解システムであって、
水を電気分解することで、酸素極で酸素を生成し、水素極で水素を生成する電解セルと、
前記水素極に接続され、前記水素極から排出される水素と水との混合物から水素を分離する第1水素側気液分離部と、
前記第1水素側気液分離部に接続され、前記第1水素側気液分離部で水素が分離された液体から、さらに水素を分離する第2水素側気液分離部と、
前記酸素極と前記第2水素側気液分離部とのそれぞれに接続され、前記酸素極から排出される酸素と水との混合物から酸素を分離し、分離によって得られた液体と、前記第2水素側気液分離部から供給される液体と、を前記電解セルに供給する酸素側気液分離部と、
前記第2水素側気液分離部において分離された水素が溜められる第2気相空間の体積が、前記第1水素側気液分離部において分離された水素が溜められる第1気相空間の体積より大きくなるように、前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整する水位調整部と、
前記第2水素側気液分離部の前記第2気相空間に水素の燃焼を抑制する気体を供給する気体供給部
と、を備える、
水電解システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水電解システムは、さらに、
前記第2水素側気液分離部の前記第2気相空間の水素濃度を検出する濃度検出部と、
前記濃度検出部が検出する水素濃度を用いて、前記電解セルでの水の電気分解を制御するセル制御部と、を備え、
前記セル制御部は、前記濃度検出部によって検出される水素濃度が所定値より大きい場合、前記電解セルでの水の電気分解を停止させる、
水電解システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の水電解システムであって、
前記水位調整部は、前記第2気相空間の体積が前記第1気相空間の体積の25倍以上となるように、前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整する、
水電解システム。
【請求項5】
請求項4に記載の水電解システムであって、
前記水位調整部は、
前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の水位を検出する水位検出部と、
前記第1水素側気液分離部から前記第2水素側気液分離部への液体の供給量を調整する流量調整バルブと、
前記水位検出部が検出する水位を用いて、前記第1気相空間の体積に対する前記第2気相空間の体積の比率を求める算出部と、
前記算出部によって求められた前記比率を用いて、前記流量調整バルブの開度を制御するバルブ制御部と、を有し、
前記バルブ制御部は、
前記比率が25より小さい場合、前記第1水素側気液分離部から前記第2水素側気液分離部への液体の供給量を減少させる、
水電解システム。
【請求項6】
請求項5に記載の水電解システムは、さらに、
前記第2水素側気液分離部から前記第1水素側気液分離部への流体の逆流を防止する第1逆流防止バルブを備える、
水電解システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の水電解システムは、さらに、
前記酸素側気液分離部から前記第2水素側気液分離部への流体の逆流を防止する第2逆流防止バルブを備える、
水電解システム。
【請求項8】
水電解システムの制御方法であって、
電解セルにおいて水を電気分解し、酸素極で酸素を生成し、水素極で水素を生成する生成工程と、
第1水素側気液分離部において、前記水素極から排出される水素と水との混合物から水素を分離する第1水素側気液分離工程と、
第2水素側気液分離部において、前記第1水素側気液分離工程で水素が分離された液体から、さらに水素を分離する第2水素側気液分離工程と、
前記酸素極から排出される酸素と水との混合物から酸素を分離する酸素側気液分離工程と、
前記第2水素側気液分離工程において水素が分離された液体と、前記酸素側気液分離工程において酸素が分離された液体とを、前記電解セルに供給する供給工程と、
前記第2水素側気液分離工程において分離された水素が溜められる第2気相空間の体積が、前記第1水素側気液分離工程において分離された水素が溜められる第1気相空間の体積より大きくなるように、前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整する水位調整工程と、を備える、
水電解システムの制御方法。
【請求項9】
水電解システムの制御をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
電解セルにおいて水を電気分解し、酸素極で酸素を生成し、水素極で水素を生成する生成機能と、
第1水素側気液分離部において、前記水素極から排出される水素と水との混合物から水素を分離する第1水素側気液分離機能と、
第2水素側気液分離部において、前記第1水素側気液分離機能によって水素が分離された液体から、さらに水素を分離する第2水素側気液分離機能と、
前記酸素極から排出される酸素と水との混合物から酸素を分離する酸素側気液分離機能と、
前記第2水素側気液分離機能によって水素が分離された液体と、前記酸素側気液分離機能によって酸素が分離された液体とを、前記電解セルに供給する供給機能と、
前記第2水素側気液分離機能によって分離された水素が溜められる第2気相空間の体積が、前記第1水素側気液分離機能によって分離された水素が溜められる第1気相空間の体積より大きくなるように、前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整する水位調整機能と、を前記コンピュータに実行させる、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解システム、水電解システムの制御方法、および、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水から水素と酸素を生成する水電解システムが知られている。水電解システムでは、一般的に、水を電気分解し水素と酸素を生成する電解セルから、生成された水素や酸素とともに電気分解されなかった水が排出される。この電解セルから排出される水は、気液分離によって回収され、再び、電解セルでの水の電気分解に利用される。例えば、非特許文献1には、水素極から排出される水素と水の混合物を気液分離し、電解セルに供給される水を貯留する水タンクに、気液分離によって得られた水を送る技術が開示されている。また、特許文献1には、水素側の気液分離装置と、酸素側の気液分離装置とのそれぞれにおける水位の変化を制御することで各気液分離装置におけるガス圧力の変動を抑制しつつ、2つの気液分離装置のそれぞれで得られた水を1つのタンクに送る技術が開示されている。また、非特許文献2には、水素側の気液分離器において得られた水を、細孔チューブを介して酸素側の気液分離器に送る技術が記載されている。また、非特許文献3には、水素側の気液分離器において得られた水を系外に排出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「水素ガス発生装置|特機製品|法人のお客様向けサイト-マクセル」、[online]、[令和1年10月29日検索]、インターネット<URL:https://biz.maxell.com/ja/tokki/h2generator.html>
【文献】「Honda|環境|ドキュメンタリー|face」、[online]、[令和1年10月29日検索]、インターネット<URL:https://www.honda.co.jp/environment/face/case56/episode/episode02.html>
【文献】「水素発生装置|製品紹介|Hitz日立造船株式会社」、[online]、[令和1年10月29日検索]、インターネット<URL:https://www.hitachizosen.co.jp/filter/hydrogen-generator/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の水電解システムでは、水タンクには、電解セルの酸素極から排出される酸素と水との混合物が送られる。このため、水素側の気液分離装置の水とともに水素が水タンクに送られると、水タンクの内部において、酸素との混合によって水素が燃焼するおそれがある。また、特許文献1に記載の水電解システムでは、複数のバルブを制御することで気液分離装置のそれぞれにおける水位の変化を制御しているため、バルブの不具合によって水位を制御できない場合、それぞれの気液分離装置から水素と酸素とがタンクに流入すると、タンクにおいて水素が酸素と混合し水素が燃焼するおそれがある。また、非特許文献2に記載の水電解システムでは、細孔チューブを用いることで水素側の気液分離器から酸素側の気液分離器への流体の流れを絞り、水素が酸素側の気液分離器に流入しないようにしている。しかしながら、細孔チューブを用いても水素が酸素側の気液分離器に流入するおそれがあるため、酸素との混合によって水素が燃焼するおそれがある。また、非特許文献3のように、水素側の気液分離器において分離された水を系外に排出することで、酸素との混合による水素の燃焼を防止することはできる。しかしながら、電気分解に用いられる水は、純度を高めるためにコストがかかっており、電気分解されなかった高純度の水を再利用せずに水電解システムの系外に排出することは、水素と酸素の製造コストの増加につながる。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、水電解システムにおいて、水素と酸素の製造コストを低減しつつ、酸素との混合による水素の燃焼を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、水電解システムが提供される。この水電解システムは、水を電気分解することで、酸素極で酸素を生成し、水素極で水素を生成する電解セルと、前記水素極に接続され、前記水素極から排出される水素と水との混合物から水素を分離する第1水素側気液分離部と、前記第1水素側気液分離部に接続され、前記第1水素側気液分離部で水素が分離された液体から、さらに水素を分離する第2水素側気液分離部と、前記酸素極と前記第2水素側気液分離部とのそれぞれに接続され、前記酸素極から排出される酸素と水との混合物から酸素を分離し、分離によって得られた液体と、前記第2水素側気液分離部から供給される液体と、を前記電解セルに供給する酸素側気液分離部と、前記第2水素側気液分離部において分離された水素が溜められる第2気相空間の体積が、前記第1水素側気液分離部において分離された水素が溜められる第1気相空間の体積より大きくなるように、前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整する水位調整部と、を備える。
【0009】
この構成によれば、水素極から排出される水素と水との混合物は、第1水素側気液分離部と第2水素側気液分離部とにおいて気液を分離され、得られた液体は、酸素側気液分離部に供給される。第2水素側気液分離部から酸素側気液分離部に供給された液体は、酸素極から排出される酸素と水との混合物を気液分離して得られた液体とともに、電解セルに供給される。これにより、電解セルで排出された水を電解セルでの水の電気分解に再利用することができるため、水の無駄がなくなり、水素と酸素の製造コストを低減することができる。また、水位調整部は、第2水素側気液分離部の第2気相空間の体積が、第1水素側気液分離部の第1気相空間の体積より大きくなるように、第1水素側気液分離部および第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整する。これにより、第1水素側気液分離部で得られた水素が第2水素側気液分離部に流入しても、第2水素側気液分離部の第2気相空間において希釈されるため、酸素と混合しても水素が燃焼することを抑制することができる。したがって、水素と酸素の製造コストを低減しつつ、酸素との混合による水素の燃焼を抑制することができる。
【0010】
(2)上記形態の水電解システムは、さらに、前記第2水素側気液分離部の前記第2気相空間に水素の燃焼を抑制する気体を供給する気体供給部を備えてもよい。この構成によれば、第2気相空間には、水素の燃焼を抑制する気体が気体供給部によって供給される。これにより、第2気相空間での水素の燃焼をさらに抑制することができる。
【0011】
(3)上記形態の水電解システムは、さらに、前記第2水素側気液分離部の前記第2気相空間の水素濃度を検出する濃度検出部と、前記濃度検出部が検出する水素濃度を用いて、前記電解セルでの水の電気分解を制御するセル制御部と、を備え、前記セル制御部は、前記濃度検出部によって検出される水素濃度が所定値より大きい場合、前記電解セルでの水の電気分解を停止させてもよい。この構成によれば、第2水素側気液分離部の第2気相空間の水素濃度が所定値より大きい場合、セル制御部は、電解セルでの水の電気分解を停止させる。これにより、例えば、所定値を水素の可燃限界より小さい値とすることで、水素濃度が所定値より大きいと電解セルでの水素の生成が停止されるため、新たな水素の発生が停止し、水素濃度が酸素との混合によって燃焼する濃度以上となることがなくなる。したがって、酸素との混合による水素の燃焼を未然に防止することができる。
【0012】
(4)上記形態の水電解システムにおいて、前記水位調整部は、前記第2気相空間の体積が前記第1気相空間の体積の25倍以上となるように、前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整してもよい。この構成によれば、第1気相空間の濃度100%の水素が第1水素側気液分離部から第2水素側気液分離部に流入しても、第2気相空間の体積は、第1気相空間の体積の25倍以上となっているため、第2気相空間での水素の濃度は、水素と酸素との可燃限界である4%より低くなる。これにより、第2気相空間での水素の燃焼を防止することができる。
【0013】
(5)上記形態の水電解システムにおいて、前記水位調整部は、前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の水位を検出する水位検出部と、前記第1水素側気液分離部から前記第2水素側気液分離部への液体の供給量を調整する流量調整バルブと、前記水位検出部が検出する水位を用いて、前記第1気相空間の体積に対する前記第2気相空間の体積の比率を求める算出部と、前記算出部によって求められた前記比率を用いて、前記流量調整バルブの開度を制御するバルブ制御部と、を有し、前記バルブ制御部は、前記比率が25より小さい場合、前記第1水素側気液分離部から前記第2水素側気液分離部への液体の供給量を減少させてもよい。この構成によれば、水位調整部では、第1水素側気液分離部および第2水素側気液分離部の少なくとも一方の水位から、算出部は、第1気相空間の体積に対する第2気相空間の体積の比率を求める。水位調整部は、求めた比率が25より小さい場合、第1水素側気液分離部から第2水素側気液分離部への液体の供給量を減少させるように、流量調整バルブを制御する。これにより、第2水素側気液分離部の水位が下がるとともに、第1水素側気液分離部の水位が上がり、第2気相空間の体積を第1気相空間の体積の25倍以上にすることができる。したがって、第2気相空間での水素の燃焼を防止することができる。
【0014】
(6)上記形態の水電解システムにおいて、前記第2水素側気液分離部から前記第1水素側気液分離部への流体の逆流を防止する第1逆流防止バルブを備えてもよい。この構成によれば、第1逆流防止バルブによって、第2水素側気液分離部から第1水素側気液分離部への流体の逆流が防止される。これにより、酸素側気液分離部で得られた酸素が第2水素側気液分離部に流入しても、第2水素側気液分離部から第1水素側気液分離部に酸素が流入することを防止することができる。したがって、第1水素側気液分離部の水素と酸素とが混合することを防止できるため、第1水素側気液分離部での酸素との混合による水素の燃焼を確実に抑制することができる。
【0015】
(7)上記形態の水電解システムにおいて、前記酸素側気液分離部から前記第2水素側気液分離部への流体の逆流を防止する第2逆流防止バルブを備えてもよい。この構成によれば、第2逆流防止バルブによって、酸素側気液分離部から第2水素側気液分離部への流体の逆流が防止される。これにより、水素が希釈されることによって水素の燃焼のおそれがない第2水素側気液分離部であっても、酸素側気液分離部から酸素が流入することを防止することができる。したがって、第2水素側気液分離部での酸素との混合による水素の燃焼を確実に抑制することができる。
【0016】
(8)本発明の別の形態によれば、水電解システムの制御方法が提供される。この水電解システムの制御方法は、電解セルにおいて水を電気分解し、酸素極で酸素を生成し、水素極で水素を生成する生成工程と、第1水素側気液分離部において、前記水素極から排出される水素と水との混合物から水素を分離する第1水素側気液分離工程と、第2水素側気液分離部において、前記第1水素側気液分離工程で水素が分離された液体から、さらに水素を分離する第2水素側気液分離工程と、前記酸素極から排出される酸素と水との混合物から酸素を分離する酸素側気液分離工程と、前記第2水素側気液分離工程において水素が分離された液体と、前記酸素側気液分離工程において酸素が分離された液体とを、前記電解セルに供給する供給工程と、前記第2水素側気液分離工程において分離された水素が溜められる第2気相空間の体積が、前記第1水素側気液分離工程において分離された水素が溜められる第1気相空間の体積より大きくなるように、前記第1水素側気液分離部および前記第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整する水位調整工程と、を備える。この構成によれば、水素極から排出される水素と水との混合物は、第1水素側気液分離工程と第2水素側気液分離工程において気液を分離される。このとき得られた液体は、酸素極側から排出される酸素と水との混合物を気液分離して得られた液体とともに、電解セルに供給される。これにより、電解セルで排出された水を電解セルでの水の電気分解に再利用することができる。また、水位調整工程では、第2水素側気液分離部の第2気相空間の体積が、第1水素側気液分離部の第1気相空間の体積より大きくなるように、第1水素側気液分離部および第2水素側気液分離部の少なくとも一方の液体の水位を調整する。これにより、第1水素側気液分離部で得られた水素が第2水素側気液分離部に流入しても、第2水素側気液分離部の第2気相空間において希釈されるため、酸素と混合しても水素が燃焼することを抑制することができる。したがって、水素と酸素の製造コストを低減しつつ、酸素との混合による水素の燃焼を抑制することができる。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、水電解システムにおいて水の電気分解をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の水電解システムの概略構成を示した模式図である。
【
図2】第1実施形態の水電解システムの作用を説明する模式図である。
【
図3】比較例の水電解システムの概略構成を示した模式図である。
【
図4】第2実施形態の水電解システムの概略構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の水電解システム1の概略構成を示した模式図である。本実施形態の水電解システム1では、電解セル10での水の電気分解によって水素と酸素を生成し、電解セル10で電気分解されなかった水を回収し、電解セル10での電気分解に再利用する。本実施形態の水電解システム1では、水素と酸素を効率的にかつ高純度で生成するため、不純物が少ない純度が高められた純水に対して電気分解が行われる。水電解システム1は、電解セル10と、第1水素側気液分離器20と、第2水素側気液分離器30と、気体供給部40と、酸素側気液分離器50と、制御部60とを備える。
【0020】
電解セル10は、PEM型水電解セルであって、MEA11を有する。MEA11は、水素イオンと水を通すことが可能な電解質膜11aの両面に、水の電気分解によって生成された酸素イオンから酸素を生成する酸素極11bと、水素イオンから水素を生成する水素極11cと、が接合されたものである。
【0021】
酸素極11bには、酸素極11bの電解質膜11aとは反対側に酸素極側流路12が形成されている。酸素極側流路12は、溝や多孔質部材で形成され、後述する酸素側気液分離器50が供給する電気分解用の水と、酸素極11bで生成される酸素が流れる。
【0022】
水素極11cには、水素極11cの電解質膜11aとは反対側に水素極側流路13が形成されている。水素極側流路13は、溝や多孔質部材で形成され、水素極11cで生成される水素と、水素イオンとともにMEA11を通って酸素極側流路12から水素極側流路13に移動した水(以下、「随伴水」という)が流れる。
【0023】
電解セル10では、酸素極側流路12に水が供給されている状態でMEA11の酸素極11bと水素極11cに電力が供給されると、酸素極11bにおいて水が電気分解され、酸素と水素イオンが生成される。生成された酸素は、電気分解されなかった水の一部とともに酸素極側流路12を通って電解セル10の外部に排出される。これにより、電解セル10では、酸素極側である酸素極側流路12の出口12aから、生成された酸素と、電気分解されなかった水の一部が、電解セル10の外に排出される。なお、本実施形態での酸素極側流路12における酸素と水の流れ方向は、
図1に示す点線矢印A12が示す方向である。
【0024】
また、酸素極11bで生成された水素イオンは、電気分解されなかった水のうち電解セル10の外部に排出されなかった水(随伴水)とともに、酸素極11bから水素極11cに移動し、水素極11cにおいて電子と結合することで水素となる。水素は、随伴水とともに、水素極側流路13を通って電解セル10の外部に排出される。これにより、電解セル10では、水素極側である水素極側流路13の出口13aから、生成された酸素と、随伴水が、電解セル10の外に排出される。なお、本実施形態での水素極側流路13における水素と随伴水の流れ方向は、
図1に示す点線矢印A13が示す方向である。
【0025】
第1水素側気液分離器20は、流路91を介して、電解セル10の水素極11cと接続されている。流路91は、一端が水素極側流路13の出口13aに接続し、他端が第1水素側気液分離器20の第1気相空間20aに接続している。流路91には、流路91を流れる水素と水との混合物を昇圧するポンプ91aが配置されている。
【0026】
第1水素側気液分離器20は、例えば、遠心力式気液分離器であり、円筒状の容器内に、容器形状に対して略接線方向から水素極側流路13の出口13aから排出される水素と水との混合物を噴射する。これにより、混合物に含まれる水素と水とが、遠心力の差によって分離される。気液分離によって得られた水素は、容器内において鉛直方向上側の第1気相空間20aに溜まり、気液分離によって水素が分離された液体は、容器内において鉛直方向下側の第1液相空間20bに溜まる。第1水素側気液分離器20における気液分離によって得られた液体は、ほとんど水であるが、微量の水素が、例えば、気泡の状態で含まれている。第1液相空間20bに溜まる液体は、特許請求の範囲の「第1水素側気液分離部で水素が分離された液体」に相当する。なお、第1水素側気液分離器20の気液分離の方法は、遠心力式に限定されず、フィルタを用いる方法や、サイクロンを用いる方法、冷却式であってもよい。
【0027】
第1水素側気液分離器20には、第1水素側気液分離器20の第1液相空間20bの容積に対応する、水位を検出する水位計21が配置されている。水位計21は、後述する制御部60と電気的に接続しており、第1液相空間20bに溜まっている液体の水位に応じた値を制御部60に出力する。なお、水位計21が検出する値は、第1水素側気液分離器20内の水位に限定されない。水位計21が検出する値は、第1液相空間20bの容積に対応する値であればよく、第1水素側気液分離器20における第1気相空間20aと第1液相空間20bとの比率であってもよいし、第1水素側気液分離器20で単位時間あたりに水素が分離される液体の量であってもよい。水位計21は、特許請求の範囲の「水位検出部」に相当する。
【0028】
第1水素側気液分離器20の第1気相空間20aには、第1気相空間20aの水素を第1水素側気液分離器20から排出する排出ポート22が接続されている。排出ポート22には、排出ポート22を流れる気体の圧力を検出する圧力センサ22aと、排出ポート22を流れる気体の流量および水度濃度を検出する流量濃度センサ22bが配置されている。
【0029】
第1水素側気液分離器20の第1液相空間20bには、流路92の一端が接続されている。流路92の他端は、2つの流路93、94接続している。流路93は、電解セル10の水素極側流路13の入口13bに接続している。流路94は、第2水素側気液分離器30に接続している。
【0030】
流路93には、流量調整バルブ93aが配置されている。流量調整バルブ93aは、制御部60と電気的に接続し、制御部60からの指令に応じて、流路93を流れる液体の流量を調整する。流路93には、電解セル10においてMEA11が乾燥しMEA11が劣化することを抑制するため、水素極側流路13に供給される液体が流れる。水素極側流路13に供給された液体に含まれる水は、MEA11を通って酸素極側流路12にカソードフィードされることで、MEA11の乾燥を抑制することができる。
【0031】
流路94には、流量調整バルブ94aと、逆流防止バルブ94bとが配置されている。流量調整バルブ94aは、制御部60と電気的に接続し、制御部60からの指令に応じて、流路94を流れる液体の流量を調整する。逆流防止バルブ94bは、第1水素側気液分離器20から第2水素側気液分離器30への流体の流れを許容する一方、第2水素側気液分離器30から第1水素側気液分離器20への流体の逆流を防止する。流量調整バルブ94aは、特許請求の範囲の「水位調整部」に相当する。逆流防止バルブ94bは、特許請求の範囲の「第1逆流防止バルブ」に相当する。
【0032】
第2水素側気液分離器30は、流路94と流路92を介して、第1水素側気液分離器20の第1液相空間20bに接続されている。流路94は、第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aに接続している。第2水素側気液分離器30は、例えば、遠心力式気液分離器であり、円筒状の容器内に、容器形状に対して略接線方向から第1水素側気液分離器20の第1液相空間20bから供給される水を噴射する。これにより、第1液相空間20bから供給される液体は気液分離され、例えば、気泡となって水に混在していた水素は、遠心力の差によって分離される。気液分離によって得られた水素は、容器内において鉛直方向上側の第2気相空間30aに溜まる。第2気相空間30aに溜まる水素は、第1水素側気液分離器20での気液分離によって得られた液体に含まれていた水素であるため、微量である。このため、第2気相空間30aの水素濃度は、比較的低くなる。また、気液分離によって得られた液体は、容器内において鉛直方向下側の第2液相空間30bに溜まる。第2水素側気液分離器30における気液分離によって得られた液体は、第1水素側気液分離器20において得られる液体に比べ、水素の含有量がさらに少ない水である。第2液相空間30bに溜まる液体は、特許請求の範囲の「第2水素側気液分離部から供給される液体」に相当する。なお、第2水素側気液分離器30の気液分離の方法は、遠心力式に限定されず、フィルタを用いる方法や、サイクロンを用いる方法、冷却式であってもよい。
【0033】
第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aには、第2気相空間30aの水素を第2水素側気液分離器30から排出する排出ポート31が接続されている。排出ポート31には、第2気相空間30aの気体と空気とを混合するスタティックミキサ31aと、排出ポート31を介して排出される気体の流量を調整する流量調整バルブ31bが配置されている。
【0034】
第2水素側気液分離器30の第2液相空間30bには、流路95の一端が接続されている。流路95の他端は、酸素側気液分離器50に接続されている。流路95は、第2水素側気液分離器30から酸素側気液分離器50に供給される第2液相空間30bの液体が流れる。流路95には、逆流防止バルブ95aが配置されている。逆流防止バルブ95aは、第2水素側気液分離器30から酸素側気液分離器50への流体の流れを許容する一方、酸素側気液分離器50から第2水素側気液分離器30への流体の逆流を防止する。逆流防止バルブ95aは、特許請求の範囲の「第2逆流防止バルブ」に相当する。
【0035】
気体供給部40は、第2水素側気液分離器30に接続されている。気体供給部40は、ガス配管40aと、ガスタンク40bと、逆流防止バルブ40cを有する。ガス配管40aは、一端が第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aに接続されている。ガスタンク40bは、ガス配管40aの他端に接続されており、水素の燃焼を抑制する気体、例えば、窒素を貯留している。逆流防止バルブ40cは、ガスタンク40bから第2水素側気液分離器30への流体の流れを許容する一方、第2水素側気液分離器30からガスタンク40bへの流体の逆流を防止する。気体供給部40は、制御部60と電気的に接続しており、制御部60からの指令に応じて、第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aに窒素を供給する。
【0036】
酸素側気液分離器50は、流路96を介して、電解セル10の酸素極11bに接続されている。流路96は、酸素極側流路12の出口12aと、酸素側気液分離器50の気相空間50aとを接続している。
【0037】
酸素側気液分離器50は、例えば、遠心力式気液分離器であり、円筒状の容器内に、容器形状に対して略接線方向から酸素極側流路12の出口12aから排出される酸素と水との混合物を噴射する。これにより、混合物に含まれる酸素と水とが、遠心力の差によって分離される。分離によって得られた酸素は、容器内において鉛直方向上側の気相空間50aに溜まり、分離によって得られた液体は、容器内において鉛直方向下側の液相空間50bに溜まる。酸素側気液分離器50における気液分離によって得られた液体は、ほとんど水であるが、微量の酸素が、例えば、気泡の状態で含まれている場合がある。液相空間50bに溜まる液体は、特許請求の範囲の「酸素極から排出される酸素と水との混合物から酸素を分離し、分離によって得られた液体」に相当する。なお、酸素側気液分離器50の気液分離の方法は、遠心力式に限定されず、フィルタを用いる方法や、サイクロンを用いる方法、冷却式であってもよい。
【0038】
酸素側気液分離器50の気相空間50aには、気相空間50aの酸素を酸素側気液分離器50から排出する排出ポート51が接続されている。排出ポート51には、排出ポート51を流れる気体の圧力を検出する圧力センサ51aと、排出ポート51を流れる気体の流量および酸素濃度を検出する流量濃度センサ51bが配置されている。
【0039】
また、酸素側気液分離器50の気相空間50aには、純水タンク52が接続されている。純水タンク52は、流路97を介して、電解セル10での電気分解に用いられる水を酸素側気液分離器50内に供給する。
【0040】
酸素側気液分離器50の液相空間50bには、流路95の他端と、流路98の一端が接続されている。流路98の他端は、電解セル10の酸素極側流路12の入口12bに接続されている。流路98には、酸素側気液分離器50での気液分離によって得られた液体を一時的に貯留するバッファタンク98aと、バッファタンク98aの液体を昇圧するポンプ91aが配置されている。
【0041】
制御部60は、ROM、RAM、および、CPUを含んで構成されるコンピュータである。制御部60は、流量調整バルブ93aによる水素極側流路13への水の供給の制御や、流量調整バルブ94aによる第1水素側気液分離器20から第2水素側気液分離器30への水の供給量の制御などを行う。制御部60の制御内容の詳細は、後述する。制御部60は、特許請求の範囲の「算出部」、および、「バルブ制御部」に相当する。
【0042】
次に、水電解システム1における水電解処理の工程を説明する。水電解システム1では、生成工程として、純水タンク52が酸素側気液分離器50を介して酸素極側流路12に供給する純水を電気分解し、酸素極11bで酸素を生成し、水素極11cで水素を生成する。このとき、電気分解されなかった純水が、酸素極側流路12では、生成された酸素とともに流路96に排出され、水素極側流路13では、生成された水素とともに流路91に排出される。
【0043】
水素極11c側では、水素極側流路13から排出される水素と水の混合物は、ポンプ91aによって昇圧された後、第1水素側気液分離器20に送られる。第1水素側気液分離器20は、第1水素側気液分離工程として、水素極側流路13から排出される水素と水の混合物から気液を分離する。これにより、水素は、第1気相空間20aに溜まり、水素が分離された液体は、第1液相空間20bに溜まる。第1気相空間20aに溜まった水素は、排出ポート22を介して図示しない水素を利用する装置、例えば、炭化水素を生成する装置などに供給される。
【0044】
第1液相空間20bに溜まっている液体は、流路92を流れる。水電解システム1では、通常、流量調整バルブ93aは閉じられているため、流路92を流れる液体は、流路94を通って第2水素側気液分離器30に送られる。流路94を通って第2水素側気液分離器30に送られる液体は、第2水素側気液分離工程として、第2水素側気液分離器30において、さらに気液分離される。これにより、気泡などの形で液体に混在している水素は、第2気相空間30aに溜まり、さらに水素が分離された液体は、第2液相空間30bに溜まる。第2気相空間30aに溜まった水素は、比較的低濃度であり、排出ポート31を介して、空気と混合された状態で大気中に放出される。また、第2液相空間30bに溜まった液体は、流路95を流れ、酸素側気液分離器50に送られる。
【0045】
また、本実施形態では、制御部60は、流量調整バルブ93aの開度を制御し、流路92を流れる水を水素極側流路13に供給させる。具体的には、電解セル10が有するMEA11の電圧が許容値以上になったことを図示しない電圧計が検出すると、制御部60は、流量調整バルブ93aの開度を制御する。これにより、流路92を流れる液体の一部は、流量調整バルブ93aの開閉の程度に応じて流路93を流れ、電解セル10の水素極側流路13に供給される。これにより、MEA11を通って水素極側流路13から酸素極側流路12に液体に含まれる水が移動するため、MEA11の乾燥を抑制することができる。
【0046】
本実施形態の水電解処理では、第1水素側気液分離器20での水素と水の混合物の気液分離と、第2水素側気液分離器30での水の気液分離とにおいて、水位調整工程を行う。具体的には、制御部60は、水位計21が検出する水位を用いて第2気相空間30aの体積に対する第1気相空間20aの体積の比率を求める。このとき、制御部60は、例えば、定常運転時に電解セル10から排出される水の単位時間当たりの量と、水位計21が検出する第1液相空間20bの液体の水位と、を用いて、第2気相空間30aの体積に対する第1気相空間20aの体積の比率を求める。制御部60は、この比率を用いて第2気相空間30aの体積が第1気相空間20aの25倍以上となるように、流量調整バルブ94aの開度を制御する。
【0047】
図2は、第1実施形態の水電解システム1の作用を説明する模式図である。最初に、第1水素側気液分離器20と第2水素側気液分離器30とのそれぞれの水位の関係について説明する。第1水素側気液分離器20と第2水素側気液分離器30とのそれぞれには、標準水位と、水位上限と、水位下限とが設定されている。具体的には、
図2に示すように、第1水素側気液分離器20には、標準水位1SLと、水位上限1ULと、水位下限1LLとが設定されている。また、第2水素側気液分離器30には、標準水位2SLと、水位上限2ULと、水位下限2LLとが設定されている。本実施形態では、第1水素側気液分離器20の水位と第2水素側気液分離器30の水位とは、ある程度連動している。具体的には、電解セル10で定常運転が行われているとき、第1水素側気液分離器20が多量の水を第2水素側気液分離器30に供給すると、第1水素側気液分離器20の水位が下がる一方、第2水素側気液分離器30の水位は上がる。また、第1水素側気液分離器20が少量の水を第2水素側気液分離器30に供給すると、第1水素側気液分離器20の水位が上がる一方、第2水素側気液分離器30の水位は下がる。本実施形態では、制御部60は、水位計21が出力する値を用いて、流量調整バルブ94aの開度を制御し、第2気相空間30aの体積が第1気相空間20aの25倍以上となるように、流量調整バルブ94aの開度を制御する。
【0048】
例えば、
図2に示すように、第2水素側気液分離器30の水位が上昇し、第2気相空間30aの体積が小さくなっているとき、制御部60は、流量調整バルブ94aの開度を小さくし、第1水素側気液分離器20から第2水素側気液分離器30に送られる液体の量を少なくする。これにより、第1水素側気液分離器20の水位が、標準水位1SLの近傍まで、白抜き矢印F1のように上昇する一方、第2水素側気液分離器30の水位は、標準水位2SLの近傍まで、白抜き矢印F2のように低下する。制御部60は、このようにして、第2気相空間30aの体積が、第1気相空間20aの25倍以上となるように、第1水素側気液分離器20の水位と、第2水素側気液分離器30の水位とを保つ。本実施形態では、第1水素側気液分離器20の水位が水位下限1LLであって、第2水素側気液分離器30の水位が水位上限2ULであるとき、第2気相空間30aの体積が、第1気相空間20aの25倍となるように、2つの水素側気液分離器の水位レベルが設定されている。すなわち、第1水素側気液分離器20の水位が水位下限1LLより低くなるとき、第2気相空間30aの体積が、第1気相空間20aの25倍より小さくなるため、制御部60は、流量調整バルブ94aの開度を小さくし、第1水素側気液分離器20から第2水素側気液分離器30に送られる液体の量を少なくする。
【0049】
また、酸素極11b側では、酸素極側流路12から排出される酸素と水の混合物は、酸素側気液分離器50に送られる。酸素側気液分離器50は、酸素側気液分離工程として、酸素極側流路12から排出される酸素と水の混合物から気液を分離する。これにより、酸素は気相空間50aに溜まり、酸素が分離された液体は、液相空間50bに溜まる。気相空間50aに溜まった酸素は、排出ポート51を介して図示しない酸素を利用する装置に供給される。
【0050】
液相空間50bに溜まっている液体には、流路95を介して第2水素側気液分離器30から送られる液体が混ぜられる。すなわち、酸素側気液分離器50の液相空間50bには、第2水素側気液分離工程での分離によって得られた液体と、第2水素側気液分離工程での分離によって得られた液体とが溜められる。また、液相空間50bには、電解セル10での電気分解の進行に応じて、純水タンク52が供給する純水も溜められる。酸素側気液分離器50は、供給工程として、液相空間50bの液体を電解セル10の酸素極11bに供給する。電解セル10では、酸素側気液分離器50が供給する液体に含まれる水を電気分解し、水素と酸素とを生成する。これにより、純水タンク52が供給する純水を系外に排出することなく水の電気分解を行うことができる。
【0051】
また、本実施形態の水電解処理では、制御部60は、水電解システム1における水電解処理が行われている間、気体供給部40によって、第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aに窒素を供給する。これにより、第2気相空間30aの水素濃度はさらに低下するため、第2気相空間30aでの酸素との混合によって水素が燃焼することを防止することができる。
【0052】
図3は、比較例の水電解システム5の概略構成を示した模式図である。ここでは、比較例の水電解システム5での水電解処理を説明する。
図3に示す比較例の水電解システム5は、本実施形態の水電解システム1と比較して、水素極側流路13から排出される水素と水の混合物は、第1水素側気液分離器20のみで気液が分離される構成となっている。すなわち、比較例の水電解システム5は、
図3に点線で示す、本実施形態の第2水素側気液分離器30を備えていない。
【0053】
比較例の水電解システム5では、水素極側流路13から排出される水素と水の混合物は、第1水素側気液分離器20において、水素極側流路13から排出される水素と水の混合物から気液を分離する。このとき、第1水素側気液分離器20の第1気相空間20aには水素が溜まることとなる。すなわち、第1水素側気液分離器20の内部には、酸素側気液分離器50に送られる液体とともに、高濃度の水素が存在する。このため、第1水素側気液分離器20の第1液相空間20bの液体を酸素側気液分離器50に送るとき、水素も酸素側気液分離器50に送られるおそれがある。酸素側気液分離器50に水素が流入すると、酸素側気液分離器50の気相空間50aに溜まっている酸素と混合し、水素が燃焼する。特に、酸素側気液分離器50の気相空間50aでの酸素濃度は、酸素極11bにおいて生成された酸素であるため高濃度であり、燃焼への寄与がない窒素成分を含む空気との混合による燃焼と異なり、単位体積あたりの発熱量が高く、激しい燃焼が起きるおそれがある。
【0054】
図3に示す比較例とは異なる別の比較例の水電解システムとして、逆流防止バルブの利用やバルブの開閉制御によって、水素の酸素との混合を抑制する方法がある。しかしながら、耐久性や信頼性の高い部品を採用したとしても、生成される水素や酸素が比較的高圧になるため、このような高圧環境下での使用による劣化や故障などによって正常に作動せず、水素と酸素との混合を防止できないおそれがある。
【0055】
また、センサを用いることで水素と酸素との混合状態を検出し、検出結果を用いて水素と酸素との混合を防止する方法も考えられる。しかしながら、水電解システムで発生する水素と酸素との圧力差が大きい場合、水素と酸素はごく短時間で混合されるため、瞬間的に水素が燃焼する条件に達するおそれがある。さらに、水素と酸素との混合が起きた箇所で着火すると水素が存在する領域にかけて延焼が起きるおそれもある。
【0056】
また、水素と酸素との混合を確実に防止するため、水素極側で気液分離された水を電解セルに戻さない方法も考えられる。しかしながら、水電解システムに使用する水は、本実施形態と同様に、高純度の水であることが多く、多くの不純物の除去にコストをかけているため、水の製造にもコストがかかっている。このため、水素極側で気液分離された水を電解セルに戻さない方法では、水素と酸素の製造コストが増大することとなる。
【0057】
以上説明した、本実施形態の水電解システム1によれば、水素極11cから排出される水素と水との混合物は、第1水素側気液分離器20と第2水素側気液分離器30とにおいて気液を分離され、得られた液体は、酸素側気液分離器50に供給される。第2水素側気液分離器30から酸素側気液分離器50に供給された液体は、酸素極11bから排出される酸素と水との混合物を気液分離して得られた液体とともに、電解セル10に供給される。酸素側気液分離器50から電解セル10に供給される液体には、純水タンク52から供給されたものの電解セル10での水の電気分解に利用されることなく排出された水が含まれているため、電解セル10は、排出した純水を再利用することができる。これにより、水の無駄がなくなり、水素と酸素の製造コストを低減することができる。また、制御部60は、第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aの体積が、第1水素側気液分離器20の第1気相空間20aの体積より大きくなるように、第1水素側気液分離器20の液体の水位を調整する。これにより、第1水素側気液分離器20で得られた水素が第2水素側気液分離器30に流入しても、第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aにおいて希釈されるため、酸素と混合しても水素が燃焼することを抑制することができる。したがって、水素と酸素の製造コストを低減しつつ、酸素との混合による水素の燃焼を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態の水電解システム1によれば、高濃度の水素が溜まる第1気相空間20aと高濃度の酸素が溜まる気相空間50aとの間に、水素が流入しても比較的低濃度となる第2気相空間30aを配置することで、高濃度の水素と高濃度の酸素とが混合する可能性を小さくしている。これにより、バルブなど動作部を用いることなく、かつ、動力を消費することなく、水素と酸素との混合を未然に防止することができる。
【0059】
また、本実施形態の水電解システム1によれば、第2気相空間30aには、窒素が気体供給部40によって供給される。これにより、第2気相空間30aでの水素濃度の偏りを解消できるだけでなく、第2気相空間30aには窒素が充填されるため、第2気相空間30aでの水素の燃焼をさらに抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態の水電解システム1によれば、第2気相空間30aの体積が第1気相空間20aの体積の25倍以上となるように、第2水素側気液分離器30の水位を調整する。これにより、万が一、第1気相空間20aの濃度100%の水素が第1水素側気液分離器20から第2水素側気液分離器30に流入しても、第2気相空間30aでの水素の濃度は、水素と酸素との可燃限界である4%より低くなる。したがって、第2気相空間30aでの水素の燃焼を防止することができる。
【0061】
また、本実施形態の水電解システム1によれば、制御部60では、第1水素側気液分離器20の水位から第1気相空間20aの体積に対する第2気相空間30aの体積の比率を求める。制御部60は、求めた比率が25より小さい場合、第1水素側気液分離器20から第2水素側気液分離器30への液体の供給量を減少させるように、流量調整バルブ94aを制御する。これにより、第2水素側気液分離器30の水位が下がるとともに、第1水素側気液分離器20の水位が上がり、第2気相空間30aの体積を第1気相空間20aの体積の25倍以上にすることができる。したがって、第2気相空間30aでの水素の燃焼を防止することができる。
【0062】
また、本実施形態の水電解システム1によれば、第2水素側気液分離器30から第1水素側気液分離器20への流体の逆流を防止する逆流防止バルブ94bが配置されている。これにより、水素が希釈されることによって水素の燃焼のおそれがない第2水素側気液分離器30に、酸素側気液分離器50から酸素が流入しても、比較的水素濃度が高い第1水素側気液分離器20に第2水素側気液分離器30から酸素が流入することを抑制することができる。したがって、第1水素側気液分離器20での酸素との混合による水素の燃焼を抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態の水電解システム1によれば、酸素側気液分離器50から第2水素側気液分離器30への流体の逆流を防止する逆流防止バルブ95aが配置されている。
図3で説明した比較例の水電解システム5では、使用環境によって酸素側気液分離器50の流路98に接続する箇所が氷結することで、酸素側気液分離器50の気相内圧が上昇し、第1水素側気液分離器20に酸素が逆流するおそれもある。一方、本実施形態では、逆流防止バルブ95aによって、酸素側気液分離器50から第2水素側気液分離器30への流体の逆流が防止される。これにより、水素が希釈されることによって水素の燃焼のおそれがない第2水素側気液分離器30であっても、酸素側気液分離器50から酸素が流入することを防止することができる。したがって、第2水素側気液分離器30での酸素との混合による水素の燃焼を確実に抑制することができる。
【0064】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態における水電解システム2の概略構成を示した説明図である。第2実施形態の水電解システム2は、第1実施形態の水電解システム1(
図1)と比較すると、濃度センサが第2水素側気液分離器に設けられている点が異なる。
【0065】
水電解システム2は、電解セル10と、第1水素側気液分離器20と、第2水素側気液分離器30と、濃度計32と、気体供給部40と、酸素側気液分離器50と、制御部60とを備える。
【0066】
濃度計32は、第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aに接続している。濃度計32は、第2気相空間30aの水素濃度を検出する。濃度計32は、制御部60と電気的に接続しており、検出した第2気相空間30aの水素濃度を制御部60に出力する。濃度計32は、特許請求の範囲の「濃度検出部」に相当する。
【0067】
制御部60は、濃度計32が出力する第2気相空間30aの水素濃度を用いて、水電解処理における電解セル10での水の電気分解を制御する。具体的には、水電解システム2における水電解処理において、電解セル10において水の電気分解を行っているとき、濃度計32によって第2気相空間30aの水素濃度を検出する。制御部60は、濃度計32が検出する水素濃度が、所定値、例えば、2000ppmより大きい場合、電解セル10での水の電気分解を停止する。電解セル10での水の電気分解が停止すると、水素が生成されなくなるため、第2水素側気液分離器30での水素濃度の上昇を抑制することができる。制御部60は、特許請求の範囲の「セル制御部」に相当する。
【0068】
以上説明した、本実施形態の水電解システム2によれば、第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aの水素濃度が2000ppmより大きい場合、制御部60は、電解セル10での水の電気分解を停止させる。これにより、水素濃度が2000ppmより大きいと電解セル10での水素の生成が停止するため、水素濃度が、酸素との混合によって燃焼する濃度以上となることがなくなる。したがって、酸素との混合による水素の燃焼を未然に防止することができる。
【0069】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0070】
[変形例1]
第1実施形態では、制御部60は、流量調整バルブ94aの制御によって、第1水素側気液分離器20の液体の水位を調整するとした。しかしながら、制御部60が水位を調整するのは、第1水素側気液分離器20に限定されない。第2水素側気液分離器30の液体の水位を調整してもよいし、第1水素側気液分離器20と第2水素側気液分離器30との両方の水位を調整してもよい。このとき、第1水素側気液分離器20および第2水素側気液分離器30の少なくとも一方に水位計が配置されていてもよい。また、流路95に流量調整バルブを配置し、第2水素側気液分離器30の水位を調整してもよい。第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aの体積が、第1水素側気液分離器20の第1気相空間20aの体積より大きくなるように水位が調整されればよい。また、流量調整バルブ94aによる水位の調整は、制御部によらなくてもよく、例えば、第1液相空間20bや第2気相空間30bの水面に浮かべているフロートの位置に応じて給排水を行う方法や、手動で水位を調整してもよい。
【0071】
[変形例2]
第1実施形態の水電解システム1が備える気体供給部40を、第2実施形態の水電解システム2に適用してもよい。また、第1実施形態の水電解システム1が備える気体供給部40はなくてもよい。
【0072】
[変形例3]
第1実施形態の水電解システム1では、「水位調整部」は、第2気相空間30aの体積が第1気相空間20aの体積の25倍以上となるように、第2水素側気液分離器30の水位を調整するとした。しかしながら、第2気相空間30aの体積と第1気相空間20aの体積との関係はこれに限定されない。第2気相空間30aの体積が第1気相空間20aの体積より大きければよい。第2気相空間30aの体積が第1気相空間20aの体積の25倍以上となるように水位を調整することで、万が一高濃度の水素が第2気相空間30aに流入しても、第2気相空間30aでの水素濃度は、水素と酸素との可燃限界より確実に低くなるため、酸素との混合によっても水素は燃焼しない。
【0073】
[変形例4]
第1実施形態では、気体供給部40は、制御部60からの指令に応じて、第2水素側気液分離器30の第2気相空間30aに窒素を供給するとした。しかしながら、気体供給部40が第2気相空間30aに供給する気体はこれに限定されない。水素の燃焼を抑制する気体であればよく、例えば、燃焼排ガスなどの酸素濃度が比較的低い空気であってもよい。
【0074】
[変形例5]
上述の実施形態では、第1水素側気液分離器20と第2水素側気液分離器30との間の流路94に、逆流防止バルブ94bが配置されるとした。また、第2水素側気液分離器30と酸素側気液分離器50との間の流路95に、逆流防止バルブ95aが配置されるとした。しかしながら、これらの逆流防止バルブはなくてもよい。
【0075】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0076】
1,2…水電解システム
10…電解セル
11…MEA
11a…電解質膜
11b…酸素極
11c…水素極
12…酸素極側流路
12a…(酸素極側流路の)出口
12b…(酸素極側流路の)入口
13…水素極側流路
13a…(水素極側流路の)出口
13b…(水素極側流路の)入口
20…第1水素側気液分離器
20a…第1気相空間
20b…第1液相空間
21…水位計
22,31,51…排出ポート
22a,51a…圧力センサ
22b,51b…流量濃度センサ
30…第2水素側気液分離器
30a…第2気相空間
30b…第2液相空間
31a…スタティックミキサ
31b,93a,94a…流量調整バルブ
32…濃度計
40…気体供給部
40a…ガス配管
40b…ガスタンク
40c,94b,95a…逆流防止バルブ
50…酸素側気液分離器
50a…気相空間
50b…液相空間
52…純水タンク
60…制御部
91,92,93,94,95,96,97,98…流路
91a,98b…ポンプ
98a…バッファタンク