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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】セパレータ
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/65 20210101AFI20231011BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231011BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20231011BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20231011BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20231011BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20231011BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20231011BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20231011BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231011BHJP
【FI】
C25B9/65
C25B1/04
C25B9/23
C25B13/04 302
H01M8/0206
H01M8/0228
H01M8/0215
H01M8/0221
H01M8/10 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019209753
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021080528
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業/普及拡大化基盤技術開発/先進低白金化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 正哲
(72)【発明者】
【氏名】上高 雄二
(72)【発明者】
【氏名】森本 友
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-241197(JP,A)
【文献】特表2019-505605(JP,A)
【文献】特開2012-069252(JP,A)
【文献】特開2019-160705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/65
H01M 8/0206
H01M 8/0228
H01M 8/0215
H01M 8/0221
C25B 1/04
C25B 9/23
C25B 13/04
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えたセパレータ。
(1)前記セパレータは、
金属からなる基材と、
前記基材の表面に形成された被覆層と
を備えている。
(2)前記被覆層は、
白金複合酸化物の微粒子と、
前記微粒子の隙間を埋める疎水性ポリマと
を備えている。
【請求項2】
前記白金複合酸化物は、300Kにおけるバルクの抵抗率が1×104Ωm以下であるものからなる請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記白金複合酸化物は、白金ブロンズ、層状岩塩型白金複合酸化物、又は、正方晶型白金複合酸化物からなる請求項1又は2に記載のセパレータ。
【請求項4】
前記白金複合酸化物は、金属元素Mとして、Co、Mn、Cu、Ag、Bi、及びLiからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素を含む白金ブロンズからなる請求項1から3までのいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項5】
前記微粒子の平均粒径は、1μm以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項6】
前記疎水性ポリマは、アモルファスフッ素樹脂からなる請求項1から5までのいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項7】
前記被覆層に含まれる前記疎水性ポリマーの含有率は、1mass%以上20mass%以下である請求項1から6までのいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項8】
前記被覆層の厚さは、1μm以上20μm以下である請求項1から7までのいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項9】
水電解セル又は燃料電池に用いられる請求項1から8までのいずれか1項に記載のセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータに関し、さらに詳しくは、金属からなる基材の表面に、白金複合酸化物の微粒子を含む被覆層が形成されたセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素排出量の低減のために、再生可能エネルギーの導入が進んでいる。しかし、風力や太陽光等の再生可能エネルギーは、天候や気候による変動が著しいため、電力供給が不安定になるという問題がある。このため、水電解セルを用いて、変動する再生可能エネルギー由来の電力を水素の形で貯蔵し、必要に応じて燃料電池で水素を電力に再変換するという考え方が注目されている。
【0003】
水電解は、電力を水素に変換するキー技術である。その中で、固体高分子膜(PEM)水電解は、優れた応答性、高純度水素製造能力、高い起動停止耐久性などの利点がある。水電解設備への設備投資を最小化するためには、水電解セルを過負荷状態で短期間稼働させる必要がある。そのためには、より高い電圧で稼働させること、すなわち、腐食性の高い環境で作動させることが必要となる。
【0004】
PEM水電解セルは、使用方法が異なるだけで、固体高分子形燃料電池と同様の構造を備えている。すなわち、PEM水電解セルは、電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体と、膜電極接合体の両面に配置されたセパレータ(集電体、バイポーラプレートなどとも呼ばれている)とを備えている。
【0005】
固体高分子形燃料電池は、PEM水電解セルに比べて作動電圧が低い(すなわち、腐食性が弱い)ので、セパレータの材料として安価なステンレス鋼が用いられる場合が多い。しかし、PEM水電解セルは、作動中に腐食性の強い環境に曝されるため、セパレータの材料として耐食性の高いチタンが主に用いられている。
また、耐食性を向上させるために、基材の表面を金又は白金でメッキすることも行われている。しかしながら、セパレータとしてメッキ被膜が形成された材料を用いた場合であっても、作動条件が過酷になると、セパレータが腐食するという問題があった。
【0006】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、PEM水電解セル用のセパレータではないが、
(a)ステンレス鋼からなる基材の表面にAuからなるメッキ被膜を形成し、
(b)メッキ被膜が形成された基材を5%以上の圧下率で圧延することによりクラッド材を作製し、
(c)メッキ被膜が消失しない条件下でクラッド材を熱処理することにより、クラッド材の加工硬化を除去し、
(d)熱処理されたクラッド材をプレス加工し、ガス流路(凹凸状の溝)を形成する
固体高分子型燃料電池用金属セパレータの製造方法が開示されている。
【0007】
同文献には、
(A)プレス加工により基材に溝を形成した後でメッキを行うと、基材とメッキ被膜との間に隙間が生じやすく、かつ、溝のエッジ部にメッキ被膜が付きにくい点、
(B)これに加えて、メッキ被膜は、基材との密着力が弱く、かつ、ピンホールが存在するため、特にメッキ被膜の厚さが薄い時には耐食性が低下する点、及び、
(C)メッキ、クラッド圧延、及びプレス加工により金属セパレータを作製すると、メッキ被膜の密着力が向上し、ピンホールも閉孔するので、耐食性が向上する点
が記載されている。
【0008】
特許文献2には、PEM水電解セル用のセパレータではないが、
(a)ステンレス鋼からなる基材をプレス加工し、基材表面に凹凸を形成し、
(b)基材の表面全面に、Auからなる下地メッキ層を形成し、
(c)基材の凸部にのみ、Auからなる部分メッキ層をさらに形成する
燃料電池用セパレータの製造方法が開示されている。
【0009】
同文献には、
(A)セパレータが電極と接触する部分(凸部)は、動作時に酸性雰囲気となるため、高耐久性が要求されるが、セパレータの電極との接触面に単にメッキを施しただけでは、メッキ層にピンホールがあり、基材とメッキ層との密着性が低いために、耐久性が不十分となる点、及び、
(B)セパレータと電極との接触部分に形成されるメッキ層の厚さを厚くすると、耐久性が向上する点
が記載されている。
【0010】
特許文献1、2に記載されているように、基材表面に単にメッキしただけでは、ピンホールの部分から腐食が進行するため、耐久性が低いという問題がある。また、ピンホールを減らすためにメッキ厚を厚くする場合、材料コストが増大するという問題がある。さらに、金や白金などの貴金属は、そもそも材料として高価であるため、より安価な材料を用いて耐食性を担保することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2002-260681号公報
【文献】特開2001-345109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、導電性を有し、PEM水電解セルの作動電位でも安定であり、かつ、耐久性に優れたセパレータを提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、PEM水電解セルに使用することができ、かつ、低コストなセパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係るセパレータは、以下の構成を備えている。
(1)前記セパレータは、
金属からなる基材と、
前記基材の表面に形成された被覆層と
を備えている。
(2)前記被覆層は、
白金複合酸化物の微粒子と、
前記微粒子の隙間を埋める疎水性ポリマと
を備えている。
【発明の効果】
【0014】
ある種の白金複合酸化物は、導電性を有し、PEM水電解セルの作動電位でも安定に存在できる程度の高い耐食性を有している。また、白金複合酸化物は、純白金に比べて低コストである。さらに、疎水性ポリマは、腐食成分を含む水が被覆層に浸入し、腐食成分を含む水が基材と接触するのを妨げる作用がある。そのため、基材の表面に、白金複合酸化物及び疎水性ポリマを含む被覆層を形成すると、低コストであり、かつ、耐食性に優れたセパレータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るセパレータの断面模式図である。
図2】Co-Ptブロンズを含む被覆層で表面被覆したTi基板(実施例1)の表面SEM像(二次電子像)である。
図3】Co-Ptブロンズを含む被覆層で表面被覆したTi基板(実施例1)の断面SEM像(二次電子像)である。
図4】被覆層中のポリマ含有率と接触抵抗との関係を示す図である。
図5】実施例1(ポリマ含有率:5mass%)及び比較例1で得られたセパレータの耐久試験前後の接触抵抗の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. セパレータ]
図1に、本発明に係るセパレータの断面模式図を示す。
図1において、セパレータ10は、
金属からなる基材20と、
基材20の表面に形成された被覆層30と
を備えている。
【0017】
[1.1. 基材]
基材20は、金属からなる。基材20の材料は、セパレータ10の使用環境に耐え得る特性(例えば、強度、電気伝導度、耐食性など)を持つ金属である限りにおいて、特に限定されない。基材20の材料としては、例えば、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金などがある。
基材20の表面には、通常、電解用の原料、電解により生成したガスなどを流通させるための凹凸(流路)が形成される。本発明において基材20の形状や大きさは特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0018】
[1.2. 被覆層]
基材20の表面には、被覆層30が形成される。本発明において、被覆層30は、
白金複合酸化物の微粒子32と、
微粒子32の隙間を埋める疎水性ポリマ34と
を備えている。
【0019】
[1.2.1. 微粒子]
[A. 組成及び結晶構造]
微粒子32は、白金複合酸化物からなる。「白金複合酸化物」とは、白金と、白金以外の金属元素とを含む複合酸化物をいう。
セパレータ10は、単セル間で電子の授受を行うためのものであるため、被覆層30に含まれる微粒子32は、電子伝導体である必要がある。高い効率を得るためには、微粒子32を構成する白金複合酸化物は、300Kにおけるバルクの抵抗率が1×104Ωm以下であるものが好ましい。白金複合酸化物の抵抗率は、低いほど良い。
【0020】
白金複合酸化物の組成及び結晶構造は、このような条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。このような条件を満たす白金複合酸化物としては、例えば、白金ブロンズ、層状岩塩型白金複合酸化物、正方晶型白金複合酸化物などがある。
微粒子32は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上の混合物からなるものでも良い。
【0021】
[A.1. 白金ブロンズ]
「白金ブロンズ」とは、白金、酸素、及び、第三成分として金属元素Mのイオンを含む複合金属酸化物をいう。白金ブロンズの組成式は、一般にMxPt3-y4-zで表される。白金ブロンズの空間群はPm3nであり、白金原子が6cサイト、酸素原子が8eサイト、金属元素Mが2aサイトに位置する。
【0022】
金属元素Mの量xは、合成条件(金属仕込み量、合成温度など)により異なる。xは、通常、0<x≦1である。y、zは、基本組成ではゼロであるが、結晶構造を維持することができ、かつ、組成として電気的中性を保つことができる限りにおいて、仕込み量の調整や処理条件などにより変えることができる。yは、通常、0≦y≦1である。また、zは、通常、0≦z≦1である。
【0023】
金属元素Mとしては、例えば、Ca、Mn、Co、Cu、Ag、In、Bi、Ce、Li、Ni、Na、Mg、K、Ba、Y、Feなどがある。白金ブロンズには、これらのいずれか1種の金属元素Mが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
これらの中でも、白金ブロンズは、金属元素MがCo、Mn、Cu、Ag、Bi、及び/又は、Liからなるものが好ましい。これは、バルクの導電性が高く、カーボンブラックと同程度の導電性を示すためである。
【0024】
[A.2. 層状岩塩型白金複合酸化物]
「層状岩塩型白金複合酸化物」とは、白金、酸素、及び、第三成分として金属元素Mのイオンを含む複合金属酸化物をいう。層状岩塩型白金複合酸化物の組成式は、一般にMPtO2で表される。層状岩塩型白金複合酸化物の空間群はR3mであり、白金原子が3aサイト、酸素原子が8eサイト、金属元素Mが3bサイトに位置する。
【0025】
金属元素Mとしては、例えば、Co、Mn、Niなどがある。層状岩塩型白金複合酸化物には、これらのいずれか1種の金属元素Mが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0026】
[A.3. 正方晶型白金複合酸化物]
「正方晶型白金複合酸化物」とは、白金、酸素、及び、第三成分として金属元素Mのイオンを含む複合金属酸化物をいう。正方晶型白金複合酸化物の組成式は、一般にM1-xPtxOで表される。正方晶型白金複合酸化物の空間群はP42/mmcであり、白金原子が2cサイト、酸素原子が2eサイト、金属元素Mが2cサイトに位置する。xは、通常、0<x<1である。
【0027】
金属元素Mとしては、例えば、Cu、Pdなどがある。正方晶型白金複合酸化物には、これらのいずれか1種の金属元素Mが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0028】
[B. 平均粒径]
「平均粒径」とは、レーザー回折散乱法により測定される粒径のメディアン値(d50)をいう。
微粒子32の粒径は、セパレータ10の性能に影響を与える。微粒子32の平均粒径が大きくなりすぎると、溶媒中に均一に分散させることが難しくなる。従って、微粒子32の平均粒径は、1μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、500nm以下、さらに好ましくは、300nm以下である。
【0029】
一方、微粒子32の粒径が小さくなりすぎると、微粒子32が疎水性ポリマ34中に埋没し、被覆層30の接触抵抗が増大する。従って、微粒子32の平均粒径は、50nm以上が好ましい。平均粒径は、好ましくは、100nm以上、さらに好ましくは、200nm以上である。
【0030】
[1.2.2. 疎水性ポリマ]
[A. 組成]
「疎水性ポリマ」とは、水の接触角が90°超であり、かつ、微粒子32間、及び、微粒子32-基材20間を接着させるバインダーとしての機能を有するポリマをいう。
被覆層30が微粒子32のみからなる場合、腐食成分を含む水が被覆層30内に侵入し、基材20と直接、接触する。このような状態でセパレータ10に電圧が印加されると、基材20の腐食が進行しやすい。これに対し、微粒子32の隙間を疎水性ポリマ34で埋めると、腐食成分を含む水から基材20を隔離することができる。
【0031】
疎水性ポリマ34の組成及び分子構造は、このような条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。疎水性ポリマ34としては、例えば、アモルファスフッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などがある。疎水性ポリマ34は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上の混合物であっても良い。
【0032】
これらの中でも、疎水性ポリマ34は、アモルファスフッ素樹脂(特に、サイトップ(登録商標)、テフロン(登録商標)AFなど)が好ましい。これは、常温でフッ素系溶媒に溶解し、加工が容易であるためである。
【0033】
[B. 疎水性ポリマの含有率]
「疎水性ポリマの含有率」とは、被覆層30に含まれる微粒子32及び疎水性ポリマ34の総質量に対する、疎水性ポリマ34の質量の割合をいう。
疎水性ポリマ34の含有率は、セパレータ10の性能に影響を与える。疎水性ポリマ34の含有率が小さくなりすぎると、被覆層30の疎水性が低下し、腐食成分を含む水と基材20とが接触しやすくなる。従って、疎水性ポリマ34の含有率は、1mass%以上が好ましい。含有率は、好ましくは、2.5mass%以上、さらに好ましくは、5mass%以上である。
【0034】
一方、疎水性ポリマ34の含有率が過剰になると、被覆層30の電子伝導性が低下し、電解効率や発電効率が低下する。従って、疎水性ポリマ34の含有率は、20mass%以下が好ましい。含有率は、好ましくは、15mass%以下、さらに好ましくは、10mass%以下である。
【0035】
[1.2.3. 厚さ]
被覆層30の厚さは、セパレータ10性能に影響を与える。被覆層30の厚さが薄くなりすぎると、腐食成分を含む水と基材20とが接触しやすくなり、基材20の耐久性が低下する。従って、被覆層30の厚さは、1μm以上が好ましい。厚さは、好ましくは、5μm以上である。
一方、被覆層30の厚さが厚くなりすぎると、接触抵抗が増大する。従って、被覆層30の厚さは、20μm以下が好ましい。厚さは、好ましくは、10μm以下である。
【0036】
[1.3. 用途]
本発明に係るセパレータ10は、耐食性が高いので、水電解セル用のセパレータとして特に好適であるが、燃料電池用のセパレータとしても使用することができる。
【0037】
[2. セパレータの製造方法]
本発明に係るセパレータ10は、
(a)微粒子32を含む分散液を調製し、
(b)分散液を基材20の表面に塗布し、塗膜を乾燥させ、
(c)乾燥させた塗膜に疎水性ポリマ34を含む分散液を含浸させ、
(d)塗膜を乾燥及び熱処理する
ことにより製造することができる。
【0038】
[2.1. 分散液の調製(第1工程)]
まず、微粒子32を含む分散液を調製する。分散媒は、微粒子32を分散させることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。分散媒としては、例えば、アセトン、水、アルコール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどがある。
分散液中の固形分濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。
【0039】
[2.2. 分散液の塗布(第2工程)]
次に、分散液を基材20の表面に塗布し、塗膜を乾燥させる。分散液の塗布方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法などがある。
乾燥条件は、分散媒の種類に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。
【0040】
[2.3. 疎水性ポリマの添加(第3工程)]
次に、乾燥させた塗膜に疎水性ポリマ34を含む分散液を含浸させる。分散媒は、疎水性ポリマ34を溶解又は分散させることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。分散媒としては、例えば、
(a)パーフルオロカーボン、
(b)ハイドロクロロフルオロカーボン、
(c)ハイドロフルオロカーボン
などがある。
分散媒中の固形分濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。
【0041】
[2.3. 乾燥及び熱処理(第4工程)]
次に、塗膜の乾燥及び熱処理を行う。これにより、本発明に係るセパレータ10が得られる。乾燥は、塗膜に含まれる分散媒を揮発させるために行われる。また、熱処理は、微粒子32間、及び、微粒子32-基材20間を強固に接着するために行われる。乾燥条件及び熱処理条件は、疎水性ポリマ34の種類に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。例えば、疎水性ポリマ34がアモルファスフッ素樹脂である場合、乾燥は、50℃~80℃で、0.5時間~2時間行うのが好ましい。また、熱処理は、130℃~200℃で、0.5時間~2時間行うのが好ましい。
【0042】
[3. 作用]
ある種の白金複合酸化物は、導電性を有し、PEM水電解セルの作動電位でも安定に存在できる程度の高い耐食性を有している。また、白金複合酸化物は、純白金に比べて低コストである。さらに、疎水性ポリマは、腐食成分を含む水が被覆層に浸入し、腐食成分を含む水が基材と接触するのを妨げる作用がある。そのため、基材の表面に、白金複合酸化物及び疎水性ポリマを含む被覆層を形成すると、低コストであり、かつ、耐食性に優れたセパレータが得られる。
【実施例
【0043】
(実施例1、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. Co-Ptブロンズ微粒子の合成]
Co-Ptブロンズ微粒子を以下のように合成した。すなわち、酸化白金(PtO2、Sigma-Aldrich社製)と、硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)2・6H2O、キシダ化学(株)製)をモル比で3:1となるように混合した。混合物を、空気通気下(1L/min)、650℃で5時間熱処理した。
【0044】
得られた粉末を王水に浸漬し、80℃で30分加熱した後、吸引ろ過にて溶け残った粉末を回収した。この王水への浸漬、加熱、及び吸引ろ過の操作をさらに2回繰り返すことにより、Co-Ptブロンズ微粒子を得た。得られたCo-Ptブロンズ粒子の組成はCo0.5Pt34であった。
【0045】
[1.2. セパレータの作製]
[1.2.1. 比較例1]
Ti基板(5cm×5cm)をエッチング材(WLC-T、三菱ガス化学(株)製)に10分間浸漬し、表面の汚れと酸化物層とを除去した。これをそのまま、試験に供した。
【0046】
[1.2.2. 比較例2]
比較例1と同様にして、Ti基板の前処理を行った。次に、合成されたCo-Ptブロンズ微粒子:200mgをアセトン:5mLに分散させた。この分散液:1mLをTi基板に塗布し、室温で乾燥させた。
【0047】
[1.2.3. 実施例1]
比較例2と同様にして、Ti基板の前処理及びTi基板表面へのCo-Ptブロンズ微粒子の担持を行った。次に、Co-Ptブロンズ微粒子が担持されたTi基板表面に、0.1~3%に希釈したサイトップ(登録商標)(AGC(株)製)溶液:0.4mLを滴下した。塗膜を50℃で30分乾燥させ、80℃で1時間乾燥させ、さらに、180℃で1時間熱処理した。被覆層中のポリマー含有率は、ポリマー溶液の希釈率及び滴下量を変えることにより、1~24mass%の範囲で調節した。
【0048】
[2. 試験方法]
[2.1. SEM観察]
被覆層の表面及び断面のSEM観察を行った。
【0049】
[2.2. 接触抵抗]
得られたセパレータを1cm×2cmの大きさに切断した。これにロードセルで1MPaの圧力をかけ、試料面に対し垂直方向に0.1Aの電流を流した。この時の電圧値を測定することで、接触抵抗を算出した。
【0050】
[2.3. 耐久試験]
80℃の0.01M H2SO4中にセパレータを浸漬し、これを2.0V vs RHEの電位に6時間保持した。セパレータには、Co-Ptブロンズで表面を被覆したTi基板(ポリマ含有率:5mass%、実施例1)、及び、未処理のTi基板(比較例1)を用いた。耐久試験前後において、セパレータの接触抵抗を測定した。接触抵抗の測定条件は、[2.2.]と同一とした。
【0051】
[3. 結果]
[3.1. SEM観察]
図2に、Co-Ptブロンズを含む被覆層で表面被覆したTi基板(実施例1)の表面SEM像(二次電子像)を示す。図3に、Co-Ptブロンズを含む被覆層で表面被覆したTi基板(実施例1)の断面SEM像(二次電子像)を示す。
Co-Ptブロンズ微粒子の平均粒径は、100nm程度であった。また、被覆層の厚さは、約10μmであった。
【0052】
[3.2. 接触抵抗]
図4に、被覆層中のポリマ含有率と接触抵抗との関係を示す。ポリマー含有率が10mass%以下である場合、接触抵抗は30mΩcm2以下であった。一方、ポリマー含有率が10mass%を超えると、接触抵抗が著しく増大した。これは、ポリマー含有率が高くなると、被覆層の表面がポリマで完全に被覆され、Co-Ptブロンズ微粒子が表面に露出しないためと考えられる。
【0053】
ポリマ含有率が2.5mass%以上である場合、被覆層の撥水性が高くなり、被覆層内への水の浸み込みが見られなかった。一方、ポリマ含有率が2.5mass%未満である場合、被覆層の撥水性が相対的に低く、被覆層内への水の浸み込みが認められた。
以上の結果から、ポリマ含有率は、好ましくは、1~10mass%、さらに好ましくは、5~10mass%であることが分かった。
【0054】
[3.3. 耐久試験]
図5に、実施例1(ポリマ含有率:5mass%)及び比較例1で得られたセパレータの耐久試験前後の接触抵抗の比較を示す。未処理のTi基板(比較例1)の場合、耐久試験後の接触抵抗が耐久試験前のおよそ3倍に増大した。これは、Ti基板の表面が酸化され、導電性を持たない酸化物層が形成されたためと考えられる。
【0055】
一方、Co-Ptブロンズ及び疎水性ポリマで表面を被覆したTi基板(実施例1)については、耐久試験後の接触抵抗の増大は8%に留まった。これは、Co-Ptブロンズ自身の耐久性が高いことに加え、撥水的な被覆層に水が浸透しないため、下地のTi基板が酸化されないことによるものと考えられる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るセパレータは、固体高分子膜(PEM)水電解セル、固体高分子形燃料電池などのセパレータとして用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
10 セパレータ
20 基材
30 被覆層
32 微粒子
34 疎水性ポリマ
図1
図2
図3
図4
図5