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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】燃料電池車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 58/40 20190101AFI20231011BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231011BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20231011BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20231011BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231011BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20231011BHJP
   B60L 50/75 20190101ALI20231011BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20231011BHJP
   B60L 53/14 20190101ALI20231011BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20231011BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231011BHJP
【FI】
B60L58/40
H02J7/00 P
H02J7/00 303E
H02J7/00 B
H01M8/00 A
H01M8/00 Z
H01M8/04537
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
B60L50/75
B60L58/12
B60L53/14
H01M8/04858
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019231244
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021100339
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 真士
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-066973(JP,A)
【文献】特開2010-028886(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151695(WO,A1)
【文献】特開2019-160402(JP,A)
【文献】特開2018-147615(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0133203(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
H01M 8/00 - 8/2495
H01M 10/42 - 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力を調整可能な燃料電池システムと、
蓄電装置と、
前記燃料電池システム及び前記蓄電装置の少なくとも一方から電力を受けて走行パワーを発生する駆動装置と、
前記燃料電池システムから前記駆動装置へ電力を供給しつつ前記蓄電装置のSOCが目標SOCに調整されるように前記燃料電池システムの出力を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、さらに、前記蓄電装置の出力が前記蓄電装置の出力上限を超えないように前記燃料電池システムの出力を制御し、
前記蓄電装置の出力上限は、前記SOCがしきい値を下回った場合に、前記SOCが低下するに従って低下するように設定され、
前記目標SOCは、前記しきい値よりも高く、
前記目標SOCは、前記SOCが前記しきい値よりも高いときの前記蓄電装置の出力上限と前記燃料電池システムの出力上限とを合わせたシステム出力上限に相当するシステム出力を所定時間確保可能な値として設定される、燃料電池車両。
【請求項2】
前記目標SOCは、前記システム出力上限に前記所定時間を乗算して得られる電力量を前記蓄電装置の容量で除算した値を、前記しきい値に加算することで算出される、請求項1に記載の燃料電池車両。
【請求項3】
前記目標SOCは、前記システム出力上限と前記目標SOCとの関係を示す予め準備されたマップ又は関係式を用いて、前記システム出力上限に基づいて算出される、請求項1に記載の燃料電池車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記燃料電池システムの出力が前記燃料電池システムの出力上限を超えないように前記燃料電池システムの出力を制御し、
前記燃料電池システムの出力上限は、前記燃料電池システムの燃料残量に拘わらず一定である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池車両。
【請求項5】
前記燃料電池システムは、
燃料を蓄えるタンクと、
前記タンクに蓄えられた燃料を用いて発電する燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの出力を調整するコンバータとを含み、
前記蓄電装置は、前記コンバータと前記駆動装置との間の電力線に電気的に接続される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池車両。
【請求項6】
車両外部の電源により前記蓄電装置を充電する充電装置をさらに備える、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2011/004493号(特許文献1)は、燃料電池を搭載した燃料電池車両(以下、燃料電池を「FC(Fuel Cell)」と称し、燃料電池車両を「FCV(Fuel Cell Vehicle)」と称する。)を開示する。このFCVは、FCスタックと、バッテリとを備える。バッテリは、余剰電力の貯蔵源、回生制動時の回生エネルギ貯蔵源、車両の加速又は減速に伴なう負荷変動時のエネルギバッファとして機能する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/004493号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなFCとバッテリ等の蓄電装置とを備えるFCVにおいては、FCの出力と蓄電装置の出力(或いはSOC(State Of Charge))とを協調して制御しないと、FCの出力と蓄電装置の出力とを合わせたシステム出力が制限されることにより、走行性能が低下する可能性がある。
【0005】
本開示は、かかる問題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、FCと蓄電装置とを備えるFCVにおいて、走行性能の低下をできるだけ抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のFCVは、出力を調整可能なFCシステムと、蓄電装置と、FCシステム及び蓄電装置の少なくとも一方から電力を受けて走行パワーを発生する駆動装置と、FCシステムから駆動装置へ電力を供給しつつ蓄電装置のSOCが目標SOCに調整されるようにFCシステムの出力を制御する制御装置とを備える。制御装置は、さらに、蓄電装置の出力が蓄電装置の出力上限を超えないようにFCシステムの出力を制御する。蓄電装置の出力上限は、SOCがしきい値を下回った場合に、SOCが低下するに従って低下するように設定される。そして、目標SOCは、上記のしきい値よりも高い。
【0007】
SOCが低下して上記のしきい値を下回ると、蓄電装置の出力上限が低下することによりシステム出力が制限されるところ、このFCVでは、目標SOCは、上記のしきい値よりも高いため、SOCが低下することによりシステム出力が制限されるのを回避することができる。したがって、このFCVによれば、走行性能の低下をできるだけ抑制することができる。
【0008】
目標SOCは、SOCが上記のしきい値よりも高いときの蓄電装置の出力上限と燃料電池システムの出力上限とを合わせたシステム出力上限に相当するシステム出力を所定時間確保可能な値であってもよい。
【0009】
これにより、システム出力上限に相当するシステム出力を所定時間連続して出力することができる。したがって、このFCVによれば、システム出力が制限されることによる走行性能の低下を抑制することができる。
【0010】
制御装置は、FCシステムの出力がFCシステムの出力上限を超えないようにFCシステムの出力を制御し、FCシステムの出力上限は、燃料残量に拘わらず一定であってもよい。
【0011】
これにより、FCシステムの燃料が枯渇するまで、システム出力が制限されるのを回避することができる。したがって、このFCVによれば、FCシステムの燃料が枯渇するまで、走行性能が低下するのを抑制することができる。
【0012】
FCシステムは、燃料(水素)を蓄えるタンクと、タンクに蓄えられた燃料を用いて発電するFCスタックと、FCスタックの出力を調整するコンバータとを含み、蓄電装置は、コンバータと駆動装置との間の電力線に電気的に接続されてもよい。
【0013】
このような構成により、コンバータを制御することによって、FCスタック及び蓄電装置の出力を調整することができる。たとえば、SOCが目標SOCよりも低ければ、FCスタックの出力を大きくすることにより、FCシステムから駆動装置へ電力を供給しつつ、FCシステムの出力によって蓄電装置を充電することができる。これにより、蓄電装置の出力が確保され、その結果、走行性能の低下を抑制することができる。
【0014】
FCVは、車両外部の電源により蓄電装置を充電する充電装置をさらに備えてもよい。
【0015】
このFCVによれば、タンクに蓄えられた燃料(水素)と、車両外部から供給されて蓄電装置に蓄えられた電力とによって、長距離走行を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示のFCVによれば、走行性能の低下をできるだけ抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の実施の形態に従うFCVの全体構成を示す図である。
図2】FCVに設けられる走行モードを示す図である。
図3】FCモードにおける電力の基本的な流れを示す図である。
図4】FCEVモードにおける電力の基本的な流れを示す図である。
図5】FCシステム及びバッテリのエネルギ残量とシステム出力上限との関係を示した図である。
図6】EVモードにおける電力の基本的な流れを示す図である。
図7】CHGモードにおける電力の基本的な流れを示す図である。
図8】FDC-ECUにより実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図9図8のステップS60において、走行モードがFCEVモードである場合に目標SOCを算出する方法の一例を示すフローチャートである。
図10】システム出力上限と目標SOCとの関係を示す図である。
図11】走行モードがFCEVモードである場合のSOC及びシステム出力上限の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
図1は、本開示の実施の形態に従うFCV1の全体構成を示す図である。図1を参照して、FCV1は、モータジェネレータ(以下「MG(Motor Generator)」と称する。)10と、インバータ12と、FCシステム20と、水素タンク28と、供給バルブ30と、エアフィルタ32と、コンプレッサ34とを備える。
【0020】
MG10は、交流回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石が埋設された三相交流同期電動機である。MG10は、インバータ12により駆動されて回転駆動力を発生する。MG10が発生した駆動力は、図示しない駆動輪に伝達される。FCV1の制動時等には、MG10は、ジェネレータとして作動し発電する。MG10が発電した電力は、インバータ12により整流されてバッテリ40に蓄えることができる。
【0021】
インバータ12は、電力線70とMG10との間に設けられ、MG-ECU66(後述)からの駆動信号に基づいてMG10を駆動する。インバータ12は、たとえば、三相分のスイッチング素子を含むブリッジ回路によって構成される。
【0022】
FCシステム20は、FCスタック22と、昇圧コンバータ24と、リレー26とを含む。FCスタック22は、たとえば固体高分子形のセルが複数(たとえば数十~数百)直列に積層された構造体である。各セルは、たとえば、電解質膜の両面に触媒電極を接合し、それを導電性のセパレータで挟み込むことによって構成され、アノードに供給される水素とカソードに供給される酸素(空気)とが電気化学反応を起こすことで発電する。
【0023】
昇圧コンバータ24は、FDC-ECU60(後述)からの制御信号に基づいて、FCスタック22が発電した電力を昇圧して(たとえば数百V)電力線70へ出力する。リレー26は、FCスタック22と昇圧コンバータ24との間の電路に設けられ、車両システムの停止時やFCシステム20の不使用時に開放される。
【0024】
水素タンク28は、FCスタック22に供給される燃料の水素を貯蔵する。水素タンク28は、たとえば炭素繊維強化プラスチック層を含む軽量かつ高強度の高圧タンクであり、たとえば数十MPaの水素を貯蔵することができる。そして、水素タンク28から供給バルブ30を通じてFCスタック22へ水素が供給される。
【0025】
コンプレッサ34は、FCスタック22へ酸素を供給するための機器である。コンプレッサ34は、エアフィルタ32を通じて酸素(空気)を吸引し圧縮してFCスタック22へ供給する。
【0026】
FCV1は、さらに、バッテリ40と、DC(Direct Current)インレット44と、AC(Alternate Current)インレット48と、充電器50と、リレー42,46,52とを備える。
【0027】
バッテリ40は、充放電可能に構成された蓄電装置である。バッテリ40は、複数の電池セル(たとえば数百セル)から構成される組電池を含む。各電池セルは、たとえば、リチウムイオン電池或いはニッケル水素電池等の二次電池である。なお、リチウムイオン二次電池は、リチウムを電荷担体とする二次電池であり、電解質が液体の一般的なリチウムイオン二次電池のほか、固体の電解質を用いた所謂全固体電池も含み得る。バッテリ40に代えて、電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を用いてもよい。
【0028】
バッテリ40は、リレー42を介して電力線72に接続されており、電力線72は、電力線70に接続されている。バッテリ40は、MG10を駆動するための電力を蓄えており、電力線72,70を通じてインバータ12へ電力を供給する。また、バッテリ40は、FCV1の制動時等にMG10により発電される電力を受けて充電される。このバッテリ40は、FCV1の加減速に伴なう負荷変動を吸収したり、FCV1の制動時等にMG10により発電される電力を蓄えたりするエネルギバッファとして機能することができる。
【0029】
また、本実施の形態では、バッテリ40は、車両外部の電源(図示せず)からDCインレット44又はACインレット48を通じて供給される電力を受けて充電することができる(以下、車両外部の電源によるバッテリ40の充電を「外部充電」とも称する。)。
【0030】
DCインレット44は、リレー46を介して電力線74に接続されており、電力線74は、電力線72に接続されている。DCインレット44は、車両外部の充電スタンド等(図示せず)から延びるDC充電ケーブルのコネクタを嵌合可能に構成されており、充電スタンド等から供給される高圧の直流電力を受電して電力線74へ出力する。
【0031】
ACインレット48は、リレー52を介して充電器50に接続されている。ACインレット48は、車両外部の充電スタンド等から延びるAC充電ケーブルのコネクタを嵌合可能に構成されており、充電スタンド等から供給される交流電力(たとえば系統電力)を受電して充電器50へ出力する。充電器50は、電力線74に接続されており、ACインレット48から入力される交流電力をバッテリ40の電圧レベルに変換して電力線74へ出力する。
【0032】
リレー42は、バッテリ40と電力線72との間に設けられ、FCV1のシステム起動中、或いは外部充電の実行中に閉成される。リレー46は、DCインレット44と電力線74との間に設けられ、DCインレット44を用いた外部充電(DC充電)の実行時に閉成される。リレー52は、ACインレット48と充電器50との間に設けられ、ACインレット48及び充電器50を用いた外部充電(AC充電)の実行時に閉成される。
【0033】
このように、FCV1は、DCインレット44又はACインレット48に接続される車両外部の電源によってバッテリ40を充電可能なプラグインFCVであり、外部充電によりバッテリ40に蓄えられた電力を用いて走行することができる。
【0034】
FCV1は、さらに、FDC-ECU(Electronic Control Unit)60と、モードスイッチ(MD-SW)62と、電池ECU64と、MG-ECU66とを備える。FDC-ECU60、電池ECU64、及びMG-ECU66の各々は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリ(ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory))と、入出力バッファとを含んで構成される(いずれも図示せず)。CPUは、ROMに格納されているプログラムをRAM等に展開して実行する。ROMに格納されているプログラムには、対応のECUにより実行される処理が記述されている。
【0035】
FDC-ECU60は、FCV1に要求される走行パワー、及びバッテリ40の充放電要求に基づいて、FCシステム20に要求される出力(FCシステム20の出力電力)を算出し、算出された電力をFCシステム20が出力するように昇圧コンバータ24を制御する。なお、FCV1に要求される走行パワーは、アクセルペダルの操作量及び車速等から算出される。本実施の形態では、走行パワーは、FDC-ECU60によって算出されるものとするが、他のECU(たとえば、車両全体を統括的に制御する車両ECU(図示せず))によって算出してもよい。
【0036】
FDC-ECU60は、FCシステム20の出力が所定の出力上限Wfcを超えることなく、かつ、バッテリ40の出力も出力上限Woutを超えないように、FCシステム20の出力を制御する。なお、本実施の形態では、FCシステム20の出力上限Wfcは、FDC-ECU60において設定され、バッテリ40の出力上限Woutについては、電池ECU64により、バッテリ40のSOC及び温度等に基づいて設定される。FCシステム20の出力上限Wfc、及びバッテリ40の出力上限Woutについては、後ほど詳しく説明する。
【0037】
また、FDC-ECU60は、モードスイッチ62による設定に従って、走行モードを切り替える。このFCV1は、電源としてFCシステム20及びバッテリ40を搭載し、また、バッテリ40には電力を蓄えることができる。そして、本実施の形態に従うFCV1では、FCシステム20及びバッテリ40の使い方に応じた4つの走行モードがあり、ユーザは、モードスイッチ62を操作することによって走行モードを選択することができる。走行モードについては、後ほど詳しく説明する。
【0038】
モードスイッチ62は、ユーザが走行モードを設定するためのスイッチである。モードスイッチ62は、専用のスイッチであってもよいし、ナビゲーション装置等のタッチパネルディスプレイ内に形成されてもよい。
【0039】
電池ECU64は、バッテリ40の電圧、電流、温度等を監視する。バッテリ40の電圧、電流、温度等は、図示しない各種センサによって検出される。そして、電池ECU64は、バッテリ40の電圧、電流、温度等の検出値に基づいてバッテリ40のSOCを算出する。算出されたSOCの値は、FDC-ECU60へ送信される。なお、SOCの算出は、バッテリ40の電圧、電流、温度等の検出値に基づいて、FDC-ECU60で行なってもよい。
【0040】
また、電池ECU64は、バッテリ40の出力上限Woutを設定する。具体的には、電池ECU64は、バッテリ40のSOCが所定のしきい値を下回った場合に、SOCが低下するに従って出力上限Woutが低下するように出力上限Woutを設定する。そして、電池ECU64は、設定された出力上限WoutをFDC-ECU60へ送信する。
【0041】
このFCV1では、バッテリ40は、コンバータを介することなく電力線70に接続されており、基本的には、インバータ12及びMG10が要求する走行パワーと、FCシステム20の出力との差によってバッテリ40の充放電量が決まる。したがって、走行パワーに基づいてFCシステム20の出力をFDC-ECU60により制御することによって、バッテリ40の充放電及びSOCを制御することができる。
【0042】
本実施の形態に従うFCV1では、SOCの目標を示す目標SOCが、走行モードに応じてFDC-ECU60により設定される。そして、バッテリ40のSOCが目標SOCに近づくように、SOCと目標SOCとの偏差に基づいてバッテリ40の充放電要求量が算出され、算出された充放電要求量と走行パワーとに基づいて、FDC-ECU60によりFCシステム20の出力が制御される。
【0043】
目標SOCについては、後ほど詳しく説明する。なお、SOCの算出方法については、OCV(Open Circuit Voltage)とSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブ(マップ等)を用いた手法や、バッテリ40に対して入出力される電流の積算値を用いた手法等、公知の各種手法を用いることができる。
【0044】
MG-ECU66は、FCV1に要求される走行パワーの算出値をFDC-ECU60から受け、その走行パワーに基づいて、インバータ12によりMG10を駆動するための信号を生成してインバータ12へ出力する。
【0045】
<走行モードの説明>
上述のように、FCV1は、FCシステム20とバッテリ40とを備えている。そして、本実施の形態に従うFCV1では、FCシステム20とバッテリ40との使い方に応じた4つの走行モードが設けられている。
【0046】
図2は、FCV1に設けられる走行モードを示す図である。図2を参照して、本実施の形態に従うFCV1には、「FCモード」、「FCEVモード」、「EVモード」、「CHGモード」の4つの走行モードが存在する。FCV1のユーザは、これらの走行モードの中から所望の走行モードをモードスイッチ62から選択することができる。
【0047】
図3は、FCモードにおける電力の基本的な流れを示す図である。図3を参照して、FCモードは、FCシステム20の燃料(水素)が枯渇するまで、基本的にFCシステム20の出力のみで走行する走行モードである。なお、燃料が枯渇した後は、バッテリ40の出力のみで走行することになる。
【0048】
FCモードでは、FCシステム20の出力のみで走行するために、インバータ12が必要とするパワーすなわち走行パワー(要求値)と同等のパワーをFCシステム20が出力するように、走行パワーに基づいてFDC-ECU60によりFCシステム20(昇圧コンバータ24)が制御される。
【0049】
なお、FCモードであっても、アクセルペダルが大きく踏み込まれる等して大きな走行パワーが要求され、FCシステム20の出力上限Wfcを走行パワーが上回る場合には、バッテリ40からパワーの不足分が持ち出される。また、FCV1の制動時等、MG10の回生発電が行なわれる場合には、インバータ12からバッテリ40へMG10による発電電力が供給される。
【0050】
このように、FCモードでは、バッテリ40は、FCV1の加速時にFCシステム20の出力だけでは不足するパワーを補ったり、FCV1の制動時等にMG10により発電される電力を蓄えたりするエネルギバッファとして機能し、SOCの制御は特に行なわれない。なお、SOCが下限に達した場合には、バッテリ40の出力は0に制御され、SOCが上限に達した場合には、MG10による回生発電は行なわれない。
【0051】
図4は、FCEVモードにおける電力の基本的な流れを示す図である。図4を参照して、FCEVモードは、本実施の形態に従うFCV1における特徴的な走行モードであり、基本的にFCシステム20の出力のみで走行しつつ、SOCの低下に従ってバッテリ40の出力上限Woutを低下させるSOCのしきい値よりも高い値にSOCを維持する走行モードである。なお、燃料が枯渇した後は、FCモード同様、バッテリ40の出力のみでの走行となり、SOCは走行に応じて成り行きで低下していく。
【0052】
FCシステム20とバッテリ40とを備えるFCV1においては、FCシステム20の出力とバッテリ40の出力(或いはSOC)とを協調して制御しないと、FCシステム20の出力とバッテリ40の出力とを合わせたシステム出力が制限されることにより、FCV1の走行性能が低下する可能性がある。以下、この点について説明する。
【0053】
図5は、FCシステム20及びバッテリ40のエネルギ残量とシステム出力上限との関係を示した図である。図5において、横軸は、FCシステム20及びバッテリ40の各々のエネルギ残量(%)を示し、縦軸は、FCシステム20の出力上限とバッテリ40の出力上限とを合わせたシステム出力上限(W)を示す。なお、横軸のエネルギ残量は、FCシステム20については水素残量(100%で満充填状態)を示し、バッテリ40についてはSOCを示す。
【0054】
図5を参照して、FCシステム20の出力上限Wfcは、水素残量に拘わらず一定値である。すなわち、FCシステム20は、燃料が枯渇するまでは、水素残量に拘わらず出力上限Wfcまで電力を出力することができる。一方、バッテリ40の出力上限Woutは、SOCがしきい値S1を下回ると、SOCの低下に従って低下し、下限値SLにおいて0となる。したがって、FCシステム20の出力上限Wfcとバッテリ40の出力上限Woutとを合わせたシステム出力上限は、バッテリ40においてSOCがしきい値S1を下回ると、SOCが低下するに従って低下する。そして、システム出力上限が低下すると、加速時の走行パワーが制限されることにより走行性能が低下する。
【0055】
そこで、本実施の形態に従うFCV1では、走行モードの1つにFCEVモードが設けられ、モードスイッチ62からユーザがFCEVモードを選択可能としている。FCEVモードでは、SOCの低下によりシステム出力上限が低下しないように、バッテリ40の目標SOCがしきい値S1よりも高い値に設定される。これにより、FCシステム20の燃料が枯渇すれば、その後SOCは低下するけれども、燃料が枯渇するまでは、SOCがしきい値S1よりも高い値に維持されるため、システム出力が制限されるのを回避することができる。したがって、走行性能の低下を抑制することができる。
【0056】
FCEVモードにおいて、要求される走行パワーに従って走行しつつ、SOCをしきい値S1よりも高い目標SOCに維持するために、このFCV1では、FCEVモードの選択中は以下のような制御が行なわれる。すなわち、SOCが目標SOCに維持されるようにFCシステム20からバッテリ40へ必要に応じて電力が供給され、かつ、インバータ12が必要とするパワーすなわち走行パワー(要求値)をFCシステム20が出力するように、走行パワー及びバッテリ40のSOCに基づいてFDC-ECU60によりFCシステム20(昇圧コンバータ24)が制御される。
【0057】
なお、FCEVモードであっても、アクセルペダルが大きく踏み込まれる等して大きな走行パワーが要求され、FCシステム20の出力上限を走行パワーが上回る場合には、パワー不足分に相当する電力がバッテリ40から持ち出される。また、FCV1の制動時等、MG10の回生発電が行なわれる場合には、インバータ12からバッテリ40へMG10による発電電力が供給される。
【0058】
図6は、EVモードにおける電力の基本的な流れを示す図である。図6を参照して、EVモードは、FCシステム20の燃料(水素)を用いずに、基本的にバッテリ40の出力のみで走行する走行モードである。
【0059】
なお、EVモードであっても、アクセルペダルが大きく踏み込まれる等して大きな走行パワーが要求され、バッテリ40の出力上限Woutを走行パワーが上回る場合には、FCシステム20からパワーの不足分を出力するようにしてもよい。また、FCV1の制動時等、MG10の回生発電が行なわれる場合には、インバータ12からバッテリ40へMG10による発電電力が供給される。
【0060】
図7は、CHGモードにおける電力の基本的な流れを示す図である。図7を参照して、CHGモードは、バッテリ40のSOCが低下している場合に、FCシステム20の出力を用いてバッテリ40を積極的に充電することによりSOCを所定レベルまで上昇させるモードである。
【0061】
なお、CHGモードであっても、アクセルペダルが踏み込まれる等して走行パワーが要求されれば、FCシステム20からインバータ12へ電力が供給される。さらに、アクセルペダルが大きく踏み込まれる等して大きな走行パワーが要求された場合には、バッテリ40からもインバータ12へ電力が供給される。また、FCV1の制動時等、MG10の回生発電が行なわれる場合には、インバータ12からバッテリ40へMG10による発電電力が供給される。
【0062】
図8は、FDC-ECU60により実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、処理の一部については、電池ECU64又はMG-ECU66に分担させてもよいし、図示しない他のECU(車両全体を統括的に制御する車両ECU等)が行なってもよい。このフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎に繰り返し実行される。
【0063】
図8を参照して、FDC-ECU60は、アクセル開度、選択中のシフトレンジ、車速等の情報を取得する(ステップS10)。アクセル開度は、アクセル開度センサによって検出され、車速は、車速センサによって検出される(いずれも図示せず)。車速に代えて、駆動軸やペラ軸の回転数を用いてもよい。
【0064】
次いで、FDC-ECU60は、シフトレンジ毎に予め準備された、要求駆動力とアクセル開度と車速との関係を示す駆動力マップを用いて、ステップS10において取得された情報から要求駆動力(トルク)を算出する(ステップS20)。そして、FDC-ECU60は、算出された要求駆動力に車速を乗算し、所定の損失パワーを上乗せして、FCV1の走行パワー(要求値)を算出する(ステップS30)。
【0065】
続いて、FDC-ECU60は、ステップS20において算出された要求駆動力からMG10のトルクを算出する(ステップS40)。なお、算出されたMG10のトルクは、MG-ECU66へ送信され、MG-ECU66により、MG10が当該トルクを出力するようにインバータ12が制御される。
【0066】
次いで、FDC-ECU60は、モードスイッチ62から走行モードの設定を取得する(ステップS50)。そして、走行モードが「FCEVモード」である場合に、FDC-ECU60は、バッテリ40の目標SOCを算出する(ステップS60)。本実施の形態に従うFCV1では、この目標SOCは、FCシステム20の出力上限Wfcとバッテリ40の出力上限Woutとを合わせたシステム出力上限Wsに相当するシステム出力を所定時間可能とする走行性能を確保できる値に算出される。このFCEVモードにおける目標SOCの算出方法については、後ほど詳しく説明する。
【0067】
なお、走行モードが「FCモード」又は「EVモード」のときは、目標SOCは基本的に算出されない。走行モードが「CHGモード」のときは、予め設定された値、或いはユーザにより設定された値が目標SOCに設定される。
【0068】
次いで、FDC-ECU60は、バッテリ40の充放電要求(パワー)を算出する(ステップS70)。この充放電要求量は、バッテリ40のSOCと目標SOCとに基づいて算出される。具体的には、目標SOCからのSOC偏差と充放電要求量との関係を示す予め準備されたマップ等を用いて、SOCが目標SOCよりも高い場合は、SOCが高いほど充放電要求量は大きな正値(放電要求)として算出され、SOCが目標SOCよりも低い場合は、SOCが低いほど充放電要求量は大きな負値(充電要求)として算出される。
【0069】
なお、充放電要求量には、上下限が設けられている。具体的には、充放電要求量の上限(正側)は、出力上限Woutに制限され、充放電要求量の下限(負側)は、入力上限Winに制限される。また、目標SOCが算出されない「FCモード」及び「EVモード」のときは、充放電要求の算出も行なわれない。
【0070】
次いで、FDC-ECU60は、FCシステム20の出力を算出する(ステップS80)。具体的には、走行モードが「FCEVモード」である場合は、ステップS30において算出された走行パワーから、ステップS70において算出された充放電要求量を減算することによって、FCシステム20の出力が算出される。
【0071】
なお、走行モードが「FCモード」のときは、ステップS30において算出された走行パワーが、FCシステム20の出力とされる。また、走行モードが「EVモード」のときは、FCシステム20の出力は0とされ、走行モードが「CHGモード」のときは、ステップS70において算出された充放電要求量(充電のため負値)の絶対値がFCシステム20の出力とされる。
【0072】
そして、FCシステム20の出力がステップS80において算出された出力となるように、FDC-ECU60によりFCシステム20の昇圧コンバータ24が制御される。
【0073】
図9は、図8のステップS60において、走行モードがFCEVモードである場合に目標SOCを算出する方法の一例を示すフローチャートである。図9を参照して、FDC-ECU60は、バッテリ40の出力上限WoutがSOCにより制限されていないときの出力上限Wout(SOCがしきい値S1(図5)よりも高いときの出力上限Wout)を取得する(ステップS110)。
【0074】
次いで、EDC-ECU60は、FCシステム20の出力上限Wfcと、ステップS110において取得されたバッテリ40の出力上限Woutとを合わせたシステム出力上限Ws(Ws=Wfc+Wout)を算出する(ステップS120)。なお、FCシステム20の出力上限Wfcは、FCシステム20の燃料残量に拘わらず一定の値である。
【0075】
そして、EDC-ECU60は、ステップS120において算出されたシステム出力上限Wsに基づいて、バッテリ40の目標SOCを算出する(ステップS130)。具体的には、EDC-ECU60は、ステップS120において算出されたシステム出力上限Wsに相当するシステム出力を所定時間(たとえば数十秒)確保できるSOCを目標SOCとして算出する。
【0076】
このような目標SOCは、たとえば、システム出力上限Wsに所定時間を乗算して得られる電力量をバッテリ40の容量で除算し、得られた値(SOC量)をしきい値S1(図5)に加算することで算出することができる。或いは、図10に示されるように、システム出力上限Wsと目標SOCとの関係を予めマップや関係式等で求めておき、このようなマップ或いは関係式を用いて、ステップS120において算出されたシステム出力上限Wsに基づいて目標SOCを算出してもよい。
【0077】
なお、目標SOCは、上記のようにして算出される値に適当なマージンを有する値とすることができるが、SOCが高い状態は、バッテリ40の劣化を促進する可能性があるため、上記のマージンは大きすぎない方がよい。
【0078】
図11は、走行モードがFCEVモードである場合のSOC及びシステム出力上限の推移を示す図である。なお、システム出力上限は、上述のようにFCシステム20の出力上限とバッテリ40の出力上限とを合わせたものであり、これによってFCV1の走行性能(出力特性)が決まる。
【0079】
図11を参照して、線L1は、バッテリ40の目標SOCの推移を示し、線L2は、バッテリ40の実SOCの推移を示す。図示のように、目標SOCは、SOCの低下に従ってバッテリ40の出力上限Woutの低下が開始するしきい値S1(図5)よりも高い値SCに設定されている。
【0080】
時刻t2においてFCシステム20の燃料である水素が枯渇するまで、SOCは目標SOCに維持される。これにより、FCシステム20の燃料が枯渇するまでは、システム出力上限が低下することはなく、FCV1は、システム出力上限Wsに相当するパワーを所定時間出力することが可能である。このように、FCV1は、FCシステム20の燃料が枯渇するまで、十分な走行性能を発揮することができる。
【0081】
なお、FCシステム20の燃料が枯渇した時刻t2以降は、SOCは、走行に応じて成り行きで低下していく。
【0082】
以上のように、この実施の形態においては、走行モードがFCEVモードである場合に、バッテリ40の目標SOCが、SOCの低下に従ってバッテリ40の出力上限Woutの低下が開始するしきい値S1(図5)よりも高い値に設定される。これにより、SOCが低下することによりシステム出力が制限されるのを回避することができる。したがって、この実施の形態によれば、走行性能の低下をできるだけ抑制することができる。
【0083】
また、この実施の形態では、目標SOCは、SOCがしきい値S1よりも高いときのバッテリ40の出力上限WoutとFCシステム20の出力上限Wfcとを合わせたシステム出力上限Wsに相当するシステム出力を所定時間確保可能な値に算出される。これにより、FCV1は、システム出力上限Wsに相当するパワーを所定時間連続して出力することができる。したがって、この実施の形態によれば、システム出力が制限されることによる走行性能の低下を抑制することができる。
【0084】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
1 FCV、10 MG、12 インバータ、20 FCシステム、22 FCスタック、24 昇圧コンバータ、26,42,46,52 リレー、28 水素タンク、30 供給バルブ、32 エアフィルタ、34 コンプレッサ、40 バッテリ、44 DCインレット、48 ACインレット、50 充電器、60 FDC-ECU、62 モードスイッチ、64 電池ECU、66 MG-ECU、70,72,74 電力線。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11