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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】体液検体の品質評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20231011BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20231011BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20231011BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231011BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231011BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231011BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20231011BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6837 Z ZNA
C12N15/09 200
G01N33/50 P
C12M1/34 Z
C12M1/00 A
C12N15/113 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019541480
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029761
(87)【国際公開番号】W WO2020027098
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018143668
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 笑美
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 崇
(72)【発明者】
【氏名】名取 一恵
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/056432(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/146033(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/171048(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/194627(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/194615(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/071729(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
C12M 1/00- 3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液検体の品質を評価する方法であって、
配列番号40、1~16、37~39、41~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数種の基準miRNAの、体液検体中の存在量を測定すると同時に、当該体液検体中の標的miRNAの存在量を測定する(ただし、標的miRNAが配列番号1~16、37~61に示すmiRNAのいずれかに該当する場合は、当該標的miRNAを除くmiRNAから基準miRNAを選択する)、測定工程;及び
前記測定工程で得られた前記1又は複数種の基準miRNAの存在量、又は複数種の基準miRNAの存在量から算出される指標値を、あらかじめ任意に定めた閾値と比較することにより、体液検体の品質の良否を判定する、判定工程;
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記指標値は、任意に選択した二つの基準miRNAの存在量の差又は比である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
配列番号1、5、7で示される塩基配列からなるmiRNAは、体液検体中の存在量が第1の閾値を超える場合又は第2の閾値を下回る場合に体液検体の品質が不良であることを示すmiRNAであり、配列番号2、3、4、6、11、37~43、45、46、49、51、52、54、58で示される塩基配列からなるmiRNAは、体液検体中の存在量が閾値を超える場合に体液検体の品質が不良であることを示すmiRNAであり、配列番号8、9、10、12~16、44、47、48、50、53、55~57、59~61で示される塩基配列からなるmiRNAは、体液検体中の存在量が閾値を下回る場合に体液検体の品質が不良であることを示すmiRNAである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定工程が、支持体上に固定化された標的miRNAを捕捉するためのプローブ及び配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数の基準miRNAを捕捉するためのプローブと、標識物質で標識された体液検体由来核酸試料とを接触させてハイブリダイゼーションを行ない、体液検体中の標的miRNA及び当該1又は複数の基準miRNAの存在量をそれぞれ測定する工程である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
測定工程で得られた、体液検体中の標的miRNAの存在量の測定値、及び前記1又は複数種の基準miRNAの存在量の測定値を補正する補正工程をさらに含み、補正済みの基準miRNA存在量の値を用いて前記判定工程が実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記体液検体が、全血、血清又は血漿である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
体液検体の品質を評価するために、1又は複数のコンピュータに、
体液検体より調製されたRNAサンプルを用いて測定された、標的miRNA及び配列番号40、1~16、37~39、41~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数種の基準miRNA(ただし、標的miRNAが配列番号1~16、37~61に示すmiRNAのいずれかに該当する場合は、当該標的miRNAを除くmiRNAから基準miRNAを選択する)の体液検体中の存在量測定値を取得する、測定値取得工程;及び
1又は複数種の基準miRNAの存在量、又は複数種の基準miRNAの存在量から算出される指標値を、あらかじめ任意に定めた閾値と比較することにより、体液検体の品質の良否を判定する、判定工程
を実行させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項記載のプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液検体の品質を、その体液検体中に含まれる特定のmiRNAの存在量によって評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
miRNA(マイクロRNA)は、ゲノムDNAからヘアピン様構造のRNA(前駆体)として転写されてくる。この前駆体は、特定の酵素RNase III切断活性を有するdsRNA切断酵素(Drosha、Dicer)により切断された後、二本鎖の形態へと変化し、その後一本鎖となる。そして、片方のアンチセンス鎖がRISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳抑制に関与すると考えられている。このように、miRNAは、転写後、各段階においてその態様は異なるため、通常、miRNAを検出対象とする場合は、ヘアピン構造体、二本鎖構造体、一本鎖構造体等の各種形態を考慮する必要がある。miRNAは15~25塩基のRNAからなり、様々な生物でその存在が確認されている。
【0003】
近年、miRNAは、細胞内のみならず、細胞を含まない検体である血清、血漿、尿、脊髄液等の体液にも多く存在し、その存在量が、がんをはじめとした様々な疾患のバイオマーカーとなる可能性が示唆されている。miRNAは、2018年6月現在、ヒトで2600種以上が存在し、高感度なDNAマイクロアレイ等の測定系を利用した場合、そのうちの1000種を超えるmiRNAの発現を血清・血漿中で同時に検出することが可能である。そこで、DNAマイクロアレイ法を用いて血清・血漿、尿、脊髄液等の体液を対象としたバイオマーカー探索研究が実施されており、疾患を早期に発見できるバイオマーカー検査への展開が期待されている。
【0004】
一方、RNAは熱や分解酵素、凍結融解などの物理的及び化学的な様々な要素によって分解しやすい物質であり、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現解析を行う場合は、RNAの分解が存在量の測定に影響を及ぼすことが知られている。疾患のバイオマーカーとして、体液に含まれるmiRNAの存在量を測定する検査においては、不確実性を有する存在量の測定値をもとに検査・診断してしまうと、適切な治療の機会を逃したり、間違った医療を適用することで患者に不要な経済的、体力的負担を強いたりすることになる。したがって、存在量を正確に測定するために、検査標的とするmiRNAが分解していない検体を検査に使用することがきわめて重要である。
【0005】
従来、RNAの分解度を測定する手法としては、一般的に電気泳動が用いられており、例えば、28SリボソームRNA由来のバンドと18SリボソームRNA由来のバンドの濃度比(28S/18S)から測定できる。また、別の手法としては、特許文献1ではRNAセグメントの長さの違いから、RNAの分解度を定量評価する方法が提案されており、ここでは、ヌクレオチドが分解するとセグメント長が短くなるという、長鎖RNAの特徴を利用している。
【0006】
しかしながら、miRNAの存在量を測定するときには、短鎖分画のRNAを利用することが多く、この場合は長鎖RNAが含まれないため、上記のような従来方法は、RNAの分解度を測定するための有効な手法にはなりえない。遺伝子発現解析結果の全遺伝子の相関係数から、使用したRNAの分解度を測定することもできるが、全遺伝子のデータが必要であり、時間と手間がかかる。そこで、長鎖RNA由来の分解断片に着目し、短鎖分画に混入する分解断片を指標として、短鎖分画中のmiRNAの分解度を評価する手法が開発されている(特許文献2)。また、特許文献3では、体液検体中に含まれるmiRNAの分解度を測定して品質を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2015-519045号公報
【文献】特開2008-35779号公報
【文献】国際公開第2017/146033号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、標的とするRNAの存在量を正確に測定するためには、検体中のRNAの分解度を測定して検体品質を評価することが重要である。しかし、前述した特許文献1や特許文献2の方法は、リボソームRNAや長鎖RNAを利用する方法である。リボソームRNAや長鎖RNAは、核内や細胞質内に存在するRNAであり、例えば血清、血漿、尿、脊髄液等の体液検体にはほとんど存在しない。そのため、これらの方法によっては、体液検体に含まれるmiRNAの分解度を正確に測定して品質を評価することはできなかった。
【0009】
一方、特許文献3には、体液中に含まれるmiRNAの分解と共にその存在量が変化する複数種のmiRNAが開示されている。詳細には、血清状態において、4℃で0時間から2週間静置した場合に分解が生じるmiRNAを選択しているが、0時間の条件と比較して、6時間静置しただけではその存在量にほぼ変化がなく、24時間静置してもその存在量の変動は1割程度である。もし、4℃で24時間静置したことにより検体の品質劣化が起きたかどうかを判定したい場合、存在量1割のわずかな変動は測定系のばらつきにより検知できない可能性があるため、特許文献3記載の方法では判定が困難である。また、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現解析を行う場合で、検体を採取してから数時間から1日程度という短時間の中での検体の品質劣化が、測定および診断結果に影響を及ぼすことが確認されているような場合には、その短時間における検体の品質劣化を検知し、測定可否を判定するための鋭敏な指標や手法が必要となる。
【0010】
本発明の課題は、体液検体に含まれるmiRNAの分解度を測定して品質を評価する手法を見出すこと、特に、体液検体採取後の数時間~1日程度の短い時間に生じる体液検体の品質劣化を鋭敏に検知する手法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者らは、体液検体採取後、数時間~1日程度の体液検体の劣化に依存して存在量が変動するmiRNA(以下、「基準miRNA」という。)を基準としてその存在量を測定することで、体液検体の品質を評価することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、配列番号1~16、37~61に示すmiRNAのうち1つまたは複数のmiRNAを基準miRNAとし、体液検体に含まれる当該基準miRNAの存在量と、予め任意に定める閾値を比較することにより、体液検体の品質を評価する方法であり、以下の態様を包含する。
【0012】
(1) 体液検体の品質を評価する方法であって、
配列番号40、1~16、37~39、41~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数種の基準miRNAの、体液検体中の存在量を測定すると同時に、当該体液検体中の標的miRNAの存在量を測定する(ただし、標的miRNAが配列番号1~16、37~61に示すmiRNAのいずれかに該当する場合は、当該標的miRNAを除くmiRNAから基準miRNAを選択する)、測定工程;及び
前記測定工程で得られた前記1又は複数種の基準miRNAの存在量、又は複数種の基準miRNAの存在量から算出される指標値を、あらかじめ任意に定めた閾値と比較することにより、体液検体の品質の良否を判定する、判定工程;
を含む、前記方法。
(2) 前記指標値は、任意に選択した二つの基準miRNAの存在量の差又は比である、(1)に記載の方法。
(3) 配列番号1、5、7で示される塩基配列からなるmiRNAは、体液検体中の存在量が第1の閾値を超える場合又は第2の閾値を下回る場合に体液検体の品質が不良であることを示すmiRNAであり、配列番号2、3、4、6、11、37~43、45、46、49、51、52、54、58で示される塩基配列からなるmiRNAは、体液検体中の存在量が閾値を超える場合に体液検体の品質が不良であることを示すmiRNAであり、配列番号8、9、10、12~16、44、47、48、50、53、55~57、59~61で示される塩基配列からなるmiRNAは、体液検体中の存在量が閾値を下回る場合に体液検体の品質が不良であることを示すmiRNAである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記測定工程が、支持体上に固定化された標的miRNAを捕捉するためのプローブ及び配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数の基準miRNAを捕捉するためのプローブと、標識物質で標識された体液検体由来核酸試料とを接触させてハイブリダイゼーションを行ない、体液検体中の標的miRNA及び当該1又は複数の基準miRNAの存在量をそれぞれ測定する工程である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 測定工程で得られた、体液検体中の標的miRNAの存在量の測定値、及び前記1又は複数種の基準miRNAの存在量の測定値を補正する補正工程をさらに含み、補正済みの基準miRNA存在量の値を用いて前記判定工程が実施される(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 前記体液検体が、全血、血清又は血漿である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) 体液検体の品質を評価するために、1又は複数のコンピュータに、
体液検体より調製されたRNAサンプルを用いて測定された、標的miRNA及び配列番号40、1~16、37~39、41~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数種の基準miRNA(ただし、標的miRNAが配列番号1~16、37~61に示すmiRNAのいずれかに該当する場合は、当該標的miRNAを除くmiRNAから基準miRNAを選択する)の体液検体中の存在量測定値を取得する、測定値取得工程;
1又は複数種の基準miRNAの存在量、又は複数種の基準miRNAの存在量から算出される指標値を、あらかじめ任意に定めた閾値と比較することにより、体液検体の品質の良否を判定する、判定工程
を実行させるためのプログラム。
(8) (7)記載のプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【発明の効果】
【0013】
本発明により、体液検体の品質劣化の程度を高精度かつ簡便に評価することが可能となり、特に、従来の方法では困難であった、体液検体採取後、数時間~1日程度の短い期間において検体品質の劣化(主に、miRNAの分解)が生じたかどうかを評価することが可能となる。また、本発明によれば、体液検体が、例えばmiRNAを用いた遺伝子発現解析に適する品質を有するかどうかを高精度でかつ簡便に評価することができるので、体液検体中のバイオマーカーの存在量を指標とした疾患の検査において、より正確な検査結果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】閾値の設定に関する概念図である。
図2】測定のばらつきや検体間のばらつき等を考慮して閾値を設定する場合の概念図である。
図3】実施例1においてDNAマイクロアレイにより検出した、全血状態での凝固温度を変化させた場合(計7条件)のhsa-miR-204-3pの存在量の変化を示す。
図4】実施例1においてDNAマイクロアレイにより検出した、全血状態での室温における凝固時間を変化させた場合(計4条件)のhsa-miR-4730の存在量の変化を示す。
図5】実施例2においてDNAマイクロアレイにより検出した、全血状態での凝固温度を変化させた場合(計2条件)のhsa-miR-204-3pとhsa-miR-4730の存在量の変化を示す。
図6】実施例2においてDNAマイクロアレイにより検出した、全血状態での凝固温度を変化させた場合(計2条件)のhsa-miR-204-3pとhsa-miR-4730の存在量の差の変化を示す。
図7】実施例3においてDNAマイクロアレイにより検出した、血清状態での静置時間や静置温度を変化させた場合(計8条件)のhsa-miR-4800-3pの存在量の変化を示す。
図8】実施例3においてDNAマイクロアレイにより検出した、血清状態での室温における静置時間を変化させた場合(計6条件)のhsa-miR-135a-3pの存在量の変化を示す。
図9】実施例4においてDNAマイクロアレイにより検出した、血清状態での静置時間を変化させた場合(計2条件)のhsa-miR-204-3pとhsa-miR-4800-3pの存在量の変化を示す。
図10】実施例4においてDNAマイクロアレイにより検出した、血清状態での静置時間を変化させた場合(計2条件)のhsa-miR-204-3pとhsa-miR-4800-3pの存在量の差の変化を示す。
図11】実施例5においてDNAマイクロアレイにより検出した、全血状態での凝固温度や凝固時間を変化させた場合(計7条件)のhsa-miR-3648の存在量の変化を示す。
図12】実施例5においてDNAマイクロアレイにより検出した、全血状態での凝固温度や凝固時間を変化させた場合(計7条件)のhsa-miR-4632-5pの存在量の変化を示す。
図13】実施例6においてDNAマイクロアレイにより検出した、全血状態での凝固時間を変化させた場合(計2条件)のhsa-miR-3648とhsa-miR-6780b-5pの存在量の変化を示す。
図14】実施例6においてDNAマイクロアレイにより検出した、全血状態での凝固時間を変化させた場合(計2条件)のhsa-miR-3648とhsa-miR-6780b-5pの存在量の差の変化を示す。
図15】実施例7においてDNAマイクロアレイにより検出した、血清状態での静置時間や静置温度を変化させた場合(計8条件)のhsa-miR-4497の存在量の変化を示す。
図16】実施例7においてDNAマイクロアレイにより検出した、血清状態での静置時間や静置温度を変化させた場合(計8条件)のhsa-miR-744-5pの存在量の変化を示す。
図17】実施例8においてDNAマイクロアレイにより検出した、血清状態での静置時間を変化させた場合(計2条件)のhsa-miR-4497とhsa-miR-744-5pの存在量の変化を示す。
図18】実施例8においてDNAマイクロアレイにより検出した、血清状態での静置時間を変化させた場合(計2条件)のhsa-miR-4497とhsa-miR-744-5pの存在量の差の変化を示す。
図19】実施例9において定量RT-PCRにより検出した、血清状態での静置時間を変化させた場合(計2条件)のhsa-miR-204-3pの存在量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、体液検体の品質を評価する方法であって、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数のmiRNAを基準miRNAとし、当該体液検体に含まれる基準miRNAを測定する測定工程、及び測定工程で得られた前記1又は複数種の基準miRNAの存在量、又は複数種の基準miRNAの存在量から算出される指標値を、あらかじめ任意に定めた閾値と比較することにより、体液検体の品質の良否を判定する判定工程、を含む方法である。
【0016】
本発明の方法は、遺伝子発現解析、例えばマイクロアレイ等のアレイチップを用いた解析や、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、シークエンス法による解析において、体液検体に含まれるmiRNAの品質を予め評価することにより、これらの解析を行うことの適否を判断することに用いることができる。遺伝子発現解析には、例えば、体液中のmiRNAを標識し、1又は複数の標的miRNAを捕捉するためのプローブと、基準miRNAを捕捉するためのプローブとが固定された支持体を用いて各miRNAの存在量を測定すること、1又は複数の標的miRNAを増幅するためのプライマーと、基準miRNAを増幅するためのプライマーとを使用して増幅反応を行い、標的miRNAの存在量を測定することなどが含まれ、さらにこれらの結果を利用して遺伝子発現の解析や検査、例えば、病態を把握するために臨床検体中の遺伝子発現を測定する検査を行うことが含まれる。
【0017】
「miRNA」は、生体内で作られる鎖長15~25塩基程度の短鎖RNAを意味するノンコーディングRNA(ncRNA)の一種であり、mRNAの発現を調節する機能を有すると考えられている。miRNAは、ゲノムDNAからからヘアピン様構造のRNA(前駆体)として転写されてくる。この前駆体は、特定の酵素RNase III切断活性を有するdsRNA切断酵素(Drosha、Dicer)により切断された後、二本鎖の形態へと変化し、その後一本鎖となる。そして、片方のアンチセンス鎖がRISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳抑制に関与すると考えられている。このように、miRNAは、転写後、各段階においてその態様は異なるので、通常、miRNAを標的(検出対象)とする場合は、ヘアピン構造体、二本鎖構造体、一本鎖構造体等の各種形態を考慮する必要がある。miRNAは様々な生物でその存在が確認されている。
【0018】
本発明を適用できる体液検体は、生体から分離された体液検体であり、例えば、血液(全血、血清、血漿)、尿、髄液、唾液、ぬぐい液、各種組織液等の体液を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。体液検体が由来する生体の種類は特に限定されず、各種の生物種が包含されるが、典型的には哺乳動物、特にヒトである。
【0019】
体液検体中には、様々な生体分子が含まれている。例えば、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA等の核酸、代謝産物等が挙げられる。これらの生体分子は種々の疾患のバイオマーカーとして適している。
【0020】
体液検体の品質が低下するとは、上記生体分子の存在量が検体採取時点から変化することであり、主として、miRNAを包含するRNAの分解が進むことをいう。原因としては、温度や熱などの他、体液に対する振動や超音波などの外部力、電場や磁場などを含めた各種の直接、間接的の物理的な力などが考えられるが、品質低下の原因はこれらに限定されるものではない。
【0021】
本発明においては、これらの検体からRNAを抽出し、このRNAを用いてmiRNAの存在量を測定することができる。RNAの抽出には、公知の方法(例えば、Favaloroらの方法(Favaloro et.al., Methods Enzymol.65: 718 (1980))等)や、RNA抽出のための各種の市販のキット(例えば、キアゲン社のmiRNeasy、東レ(株)製の“3D-Gene” RNA extraction reagent from liquid sample等)を適用することができる。
【0022】
<測定工程>
本発明では、体液検体に含まれる配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数の基準miRNAの存在量の測定を行う。また、体液検体に含まれる基準miRNAの存在量の測定と同時に、標的miRNAの存在量の測定を行ってもよい。標的miRNAとは、体液検体中に含まれるmiRNAのうち、それぞれの目的によって測定対象とするmiRNAと定義される。
【0023】
本発明において基準miRNAとして用いることができる、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAは、体液検体の品質の変化に依存して存在量が変化するmiRNAとして本願発明者らにより見いだされたmiRNAである。体液検体の品質が変化(劣化)すると、検体中に含まれる個々の遺伝子RNAの存在量は変化する。この場合、遺伝子発現解析で検出された全遺伝子において、加温等によって意図的に劣化させた体液検体(劣化体液検体)中のRNAと、劣化していない最も新鮮な体液検体(標準体液検体)中のRNAとの相関は低下する。劣化体液検体の品質がどの程度劣化しているかは、例えば、以下の式1、2で算出できる個々のmiRNAの存在量比(FCi)の標準偏差の2倍(2SD)の値を用いて評価できる。本発明において、この2SDの値を全体変動指標値と呼ぶ。全体変動指標値が1.5以上となる場合、その劣化体液検体で測定した各miRNAの存在量の変動の程度が大きいこと、従って当該劣化体液検体の品質劣化の程度が大きいことを意味する。本発明で用いる基準miRNAは、このような全体的なRNAの変動と相関して存在量が変動するmiRNAである。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
ここで、式1、式2中、
miRNAi_controlは、i番目のmiRNAの、標準体液検体中の存在量を底が2の対数で表したもの、
miRNAi_sampleは、i番目のmiRNAの、劣化体液検体中の存在量を底が2の対数で表したもの、
FC平均値は、n個のmiRNAの存在量比(miRNAi_control- miRNAi_sample)の平均値、
である。
【0027】
体液検体として血清(血液)を用いる場合、本発明で用いる基準miRNAとしては、採血後全血状態、あるいは血清状態での保存時間や保存温度に依存して存在量が変化するmiRNAを選択することができる。全血状態での保存時間に依存して存在量が変化するmiRNAは、例えば、採血直後の全血状態で、ある温度条件の下(例えば、室温(22℃~24℃))で保存し、保存開始0時間後、3時間後、6時間後、9時間後に血清を分離し、血清中のmiRNAの存在量を測定し、その変化の程度を比較することで、選択することができる。実際の臨床検体等の検査において、血液検体を全血のまま保存する期間がより長期に及ぶ場合には、その期間にあわせて、例えば12時間後や24時間後まで保存時間を延長して、miRNAの存在量を測定して比較すればよい。こうして、全血状態での保存時間が異なる血清から得られたmiRNAの存在量を異なる保存条件間で比較し、差のあるmiRNAを選抜することができる。一般的にDNAマイクロアレイの測定において、存在量2倍の変動は十分な差として考えられるため、異なる保存条件間で2倍以上差のあるmiRNAを選抜することが好ましい。また、血清の保存時間に依存して存在量が変化するmiRNAは、例えば、採血後に調製した血清検体を冷蔵庫(例えば、4℃)で保存し、保存開始0時間後、6時間後、12時間後、24時間後の血清中のmiRNAの存在量を測定し、その変化の程度を比較することで、選択することができる。全血状態、あるいは血清状態での保存温度に依存して存在量が変化するmiRNAも同様に、それぞれ採血直後の全血状態、又は血清状態で、必要に応じた温度条件下に一定時間保存したあとで、各サンプル中のmiRNAの存在量を測定し、その変化の程度を比較することで、選択することができる。
【0028】
本発明の測定工程では、体液検体に含まれる配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数の基準miRNAの存在量を測定する。
【0029】
以下、基準miRNAや、標的miRNAを捕捉するためのプローブを、総じて「捕捉プローブ」又は単に「プローブ」ともいう。
【0030】
miRNAの存在量の測定は、例えば、対象のmiRNAに特異的に結合するプローブを支持体上に固定化したマイクロアレイ等のアレイチップを用いたハイブリダイゼーションアッセイにより行なうことができる。本発明においては、1又は複数の基準miRNAを捕捉するための「基準miRNA捕捉プローブ」が固定化された支持体を含むアレイチップを用いることができる。また、標的miRNAを捕捉するための「標的miRNA捕捉プローブ」がさらに固定化された支持体を含むアレイチップを用いてもよい。
【0031】
「捕捉プローブ」又は「捕捉するためのプローブ」とは、捕捉対象のmiRNAと直接的又は間接的に、好ましくは直接的に、かつ選択的に結合し得る物質を意味し、代表的な例として、核酸、タンパク質、糖類及び他の抗原性化合物を挙げることができる。本発明においては、核酸プローブを好ましく用いることができる。核酸は、DNAやRNAのほか、PNA(ペプチド核酸)やLNA(Locked Nucleic Acid)などの核酸誘導体を用いることができる。ここで誘導体とは、核酸の場合、蛍光団などによるラベル化誘導体、修飾ヌクレオチド(例えば、ハロゲン、メチルなどのアルキル、メトキシなどのアルコキシ、チオ、カルボキシメチルなどの基を含むヌクレオチド、及び塩基の再構成、二重結合の飽和、脱アミノ化、酸素分子の硫黄分子への置換などを受けたヌクレオチドなど)を含む誘導体などの化学修飾誘導体を意味する。
【0032】
核酸プローブの鎖長は、ハイブリダイゼーションの安定性と特異性を確保する観点から、検出対象とするmiRNAの長さ以上とすることが好ましい。通常、17~25塩基程度の鎖長とすれば、プローブが対象とするmiRNAへの選択的結合性を十分に発揮することができる。そのような鎖長の短いオリゴ核酸プローブは、周知の化学合成法等により容易に調製することができる。
【0033】
ハイブリダイゼーション時のストリンジェンシーは、温度、塩濃度、プローブの鎖長、プローブのヌクレオチド配列のGC含量及びハイブリダイゼーション緩衝液中のカオトロピック剤の濃度の関数であることが知られている。ストリンジェントな条件としては、例えば、Sambrook, J. et al. (1998) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載された条件などを用いることができる。ストリンジェントな温度条件は、約30℃以上である。その他の条件としては、ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤(例えば、SDS)の濃度、及びキャリアDNAの存否等であり、これらの条件を組み合わせることによって、様々なストリンジェンシーを設定することができる。当業者は、所望する検体RNAの検出のために用意した捕捉プローブとしての機能を得るための条件を適宜決定することができる。
【0034】
核酸プローブは捕捉対象のmiRNAの相補鎖であるが、クロスハイブリによって結合する捕捉対象以外の配列があることは同業者には明らかである。すなわち、本発明において、配列番号1~16、37~61に示す基準miRNAの相補鎖をプローブとしてmiRNAの存在量を測定するが、劣化によるmiRNAの存在量の変化は、基準miRNA以外のクロスハイブリするRNAの存在量の変化も含みうる。
【0035】
検体の劣化が進み、検体中のRNAの分解が進行した場合には、miRNAの分解も進行するが、分解の進行によって基準miRNA捕捉プローブにクロスハイブリする分子が検体中に増加することも起こり得る。また、血液検体の場合、全血状態で静置しておくことで、時間と共に血球からmiRNAが分泌し、基準miRNA自体や基準miRNA捕捉プローブにクロスハイブリするmiRNAが検体中に増加することも起こり得る(Koberle V. et al., (2016) Translational Res.169:40-46 )。そのため、捕捉プローブによって検出される「劣化によるmiRNAの存在量の変化」には、miRNAの存在量の低下のみならず増加も包含される。
【0036】
miRNAの配列情報は、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)等のデータベースやmiRBaseのウェブサイト(http://www.mirbase.org/)から入手することができる。基準miRNA捕捉プローブ、標的miRNA捕捉プローブは、これらのサイトから入手できる配列情報に基づいて設計することができる。
【0037】
支持体上に固定化されるmiRNA捕捉プローブの数は特に限定されない。例えば、配列が同定されている公知のmiRNAの全てを網羅する数のmiRNA捕捉プローブを支持体上に固定化したものを用いて、miRNAの存在量を測定してもよいし、検査目的等に応じて所望の数のmiRNA捕捉プローブを支持体上に固定化したものを用いてもよい。
【0038】
捕捉プローブが整列固定化される支持体としては、公知のマイクロアレイやマクロアレイ等で使用されている支持体と同様のものを用いることができ、例えば、スライドガラスや膜、ビーズなどを用いることができる。特許第4244788号等に記載されている、表面に複数の凸部を有する形状の支持体を用いることもできる。支持体の材質は、特に限定されないが、ガラス、セラミック、シリコンなどの無機材料;ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリコーンゴム等のポリマーなどを挙げることができる。
【0039】
支持体に捕捉プローブを固定化する方法としては、支持体表面上でオリゴDNAを合成する方法と、あらかじめ合成しておいたオリゴDNAを支持体表面へ滴下し固定する方法が知られている。
【0040】
前者の方法としては、Ronaldらの方法(米国特許第5705610号明細書)、Michelらの方法(米国特許第6142266号明細書)、Francescoらの方法(米国特許第7037659号明細書)が挙げられる。これらの方法ではDNA合成反応時に有機溶媒を用いるため、支持体は有機溶媒に耐性のある材質であることが望ましい。また、Francescoらの方法では、支持体の裏面から光を照射してDNA合成を制御するため、支持体は透光性を有する材質であることが好ましい。
【0041】
後者の方法としては、廣田らの方法(特許第3922454号)やスポッターを用いる方法を挙げることができる。スポットの方式としては、固相へのピン先端の機械的な接触によるピン方式、インクジェットプリンターの原理を利用したインクジェット方式、毛細管によるキャピラリー方式等が挙げられる。スポット処理した後は、必要に応じてUV照射によるクロスリンキング、表面のブロッキング等の後処理が行なわれる。表面処理した支持体表面に共有結合でオリゴDNAを固定化させるため、オリゴDNAの末端にはアミノ基やSH基等の官能基が導入される。支持体の表面修飾は、通常、アミノ基等を有するシランカップリング剤処理によって行なわれる。
【0042】
支持体上に固定化された各miRNA捕捉プローブとのハイブリダイゼーションは、検体から抽出したRNAから、標識物質で標識された核酸試料(検体由来の核酸試料)を調製し、この標識核酸試料をプローブと接触させることにより実施する。「検体由来の核酸試料」には、検体から抽出したRNAのほか、該RNAから逆転写反応により調製されたcDNA及びcRNAが包含される。標識された検体由来の核酸試料は、検体RNAを直接的又は間接的に標識物質で標識したものでもよいし、また、検体RNAから調製されたcDNAやcRNAを直接的又は間接的に標識物質で標識したものでもよい。
【0043】
検体由来の核酸試料に標識物質を結合させる方法としては、核酸試料の3'末端に標識物質を結合させる方法、5'末端に標識物質を結合させる方法、標識物質が結合したヌクレオチドを核酸に取り込ませる方法を挙げることができる。3'末端に標識物質を結合させる方法、及び5'末端に標識物質を結合させる方法では、酵素反応を用いることができる。酵素反応には、T4 RNA LigaseやTerminal Deoxytidyl Transferase、Poly A polymeraseなどを用いることができる。いずれの標識方法も「Shao-Yao Ying編、miRNA実験プロトコール、羊土社、2008年」に記載されている方法を参考にすることができる。また、RNAの末端に直接又は間接的に標識物質を結合させるためのキットが各種市販されている。例えば、3'末端に直接又は間接的に標識物質を結合させるキットとしては、“3D-Gene” miRNA labeling kit(東レ(株)製)、miRCURY miRNA HyPower labeling kit(エキシコン社)、NCode miRNA Labeling system(ライフテクノロジーズ社)、FlashTag Biotin RNA Labeling Kit(ジェニスフィア社)等を例示することができる。
【0044】
このほか、従来法と同様に、標識したデオキシリボヌクレオチド又は標識したリボヌクレオチドの存在下で検体RNAからcDNA又はcRNAを合成することにより、標識物質が取り込まれたcDNA又はcRNAを調製し、これをアレイ上のプローブとハイブリダイズさせる、という方法も可能である。
【0045】
本発明において、使用できる標識物質としては、公知のマイクロアレイ解析においても使用されている各種の標識物質を挙げることができる。具体的には、蛍光色素、りん光色素、酵素、放射線同位体などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいのは、測定が簡便で、検出しやすい蛍光色素である。具体的には、シアニン(シアニン2)、アミノメチルクマリン、フルオロセイン、インドカルボシアニン(シアニン3)、シアニン3.5、テトラメチルローダミン、ローダミンレッド、テキサスレッド、インドカルボシアニン(シアニン5)、シアニン5.5、シアニン7、オイスターなどの公知の蛍光色素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
また、標識物質としては、発光性を有する半導体微粒子を用いてもよい。このような半導体微粒子としては、例えばカドミウムセレン(CdSe)、カドミウムテルル(CdTe)、インジウムガリウムリン(InGaP)、シルバーインジウム硫化亜鉛(AgInZnS)などが挙げられる。
【0047】
上記のようにして標識された検体由来の核酸試料を支持体上のmiRNA捕捉プローブと接触させ、核酸試料とプローブをハイブリダイズさせる。このハイブリダイゼーション工程は、従来と全く同様に行うことができる。反応温度及び時間は、ハイブリダイズさせる核酸の鎖長に応じて適宜選択されるが、核酸のハイブリダイゼーションの場合、通常、30℃~70℃程度で1分間~十数時間である。ハイブリダイゼーションを行ない、洗浄後、支持体上の個々のプローブ固定化領域における標識物質からのシグナル強度を検出する。シグナル強度の検出は、標識物質の種類に応じて適当なシグナル読取装置を用いて行なう。蛍光色素を標識物質として用いた場合には、蛍光顕微鏡や蛍光スキャナー等を用いればよい。
【0048】
検出された蛍光強度の測定値は、周辺ノイズと比較される。具体的には、プローブ固定化領域から得られた測定値と、それ以外の位置から得られた測定値を比較し、前者の数値が上回っている場合を検出された(有効判定陽性)とする。
【0049】
検出された測定値に、バックグラウンドノイズが含まれている場合には、バックグラウンドノイズを減算してもよい。周辺ノイズをバックグラウンドノイズとして、検出した測定値から減算することもできる。その他、「藤淵航、堀本勝久編、マイクロアレイデータ統計解析プロトコール、羊土社、2008年」に記載されている方法を用いてもよい。
【0050】
<補正工程>
本発明において、測定工程で得られた基準miRNAの存在量の測定値をそのまま後述する判定工程で用いてもよいが、例えば、体液検体に含まれる標的miRNAの遺伝子発現解析を行う場合には、下記に例示する各種方法で測定値を補正して補正済みの存在量の値を得て、これを判定工程で用いてもよい。
【0051】
補正方法としては、従来法を用いることができ、例えば、検出された全miRNAの測定値を用いて補正を行うグローバルノーマリゼーション法、クォンタイルノーマリゼーション法などが挙げられる。また、U1 snoRNA、U2 snoRNA、U3 snoRNA、U4 snoRNA、U5 snoRNA、U6 snoRNA、5S rRNA、5.8S rRNAといったハウスキーピングRNAや、特定の補正用内因性miRNAを用いて補正してもよいし、RNAの抽出時や標識時に添加した外部標準核酸を用いて補正してもよい。「内因性」とは、人工的に検体に添加されたものではなく、検体に自然に存在することを意味する。例えば「内因性miRNA」と言った場合、検体中に自然に存在している、その検体を提供した生物に由来するmiRNAを示す。本発明の方法を適用して、体液検体に含まれる標的miRNAの遺伝子発現解析を行う場合は、検体に依存されないスパイクコントロールなどの外部標準核酸を利用した補正方法を用いることが好ましい。
【0052】
<判定工程>
本発明の判定工程は、測定工程で得られた体液検体中の1又は複数種の基準miRNAの存在量、又は複数種の基準miRNAの補正済みの存在量から算出される指標値を、あらかじめ任意に定めた閾値と比較し、両者の大小関係によって、体液検体の品質の良否を判定する工程である。配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなる基準miRNAは、体液検体の品質が不良である場合に、高値に推移するもの(例えば、配列番号2に示す塩基配列からなるhsa-miR-4730)と、低値に推移するもの(例えば、配列番号8に示す塩基配列からなるhsa-miR-4800-3p)の両方が存在する。すなわち、基準miRNAの存在量が、予め任意に設定した閾値を超えた場合に不良と判定できる場合と、閾値を下回った場合に不良と判定できる場合の両方が存在するので、判定に用いる基準miRNAによって判定基準を変える必要がある。後掲の表3、表5、表7、表9には、体液検体が血液検体である場合に、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなる41種の基準miRNAがそれぞれどちらの類型に属するかを示した。配列番号2、3、4、6、11、37~43、45、46、49、51、52、54、58で示される塩基配列からなるmiRNAは、劣化体液検体中で高値に推移するmiRNAであり、配列番号8、9、10、12~16、44、47、48、50、53、55~57、59~61で示される塩基配列からなるmiRNAは、劣化体液検体中で低値に推移するmiRNAである。配列番号1、5、7で示される塩基配列からなるmiRNAは、劣化が検体処理のいずれのステップで生じたかに応じて、低値に推移するか高値に推移するかが異なるmiRNAである。
【0053】
判定工程においては、測定工程で得られた1又は複数種の基準miRNAの存在量を対数に変換し、その対数値を用いて判定を行なってもよい。対数変換を行なう場合、底が2の対数に変換することが一般的である。
【0054】
判定の基準とする閾値は、標準体液検体と劣化体液検体を用意して、それら体液検体中に含まれる基準miRNAの存在量を測定し、その結果より、評価の目的や求める精度などに応じて任意に設定することができる。
【0055】
閾値の設定に関して、図1図2に示す概念図に基づいて説明する。図1図2は、標準体液検体と劣化体液検体2条件(劣化検体1、2)に含まれる基準miRNAを測定した場合の存在量を模式的に示したものであり、検体の品質劣化により基準miRNAの存在量が高値に推移する例での概念図である。劣化検体2は、劣化検体1よりも劣化の程度が大きい検体である。
【0056】
図1において、境界値1~3は各検体の基準miRNAの存在量とする。標準体液検体と劣化検体1の間で検体品質の良・不良を判定したい場合は、境界値1と2の間に閾値を設定することができる。品質劣化を厳しく判定したい場合は境界値1に、緩く判定したい場合は境界値2に、閾値を設定することができる。劣化検体1と劣化検体2の間で検体品質の良・不良を判定したい場合は、境界値2と3の間に閾値を設定することができる。品質劣化を厳しく判定したい場合は境界値2に、緩く判定したい場合は境界値3に、閾値を設定することができる。
【0057】
繰り返し測定のばらつきや、検体間のばらつき等何らかのばらつきがある場合には、それを考慮して閾値の設定をすることができる。図2には、棒グラフで各検体中の基準miRNAの存在量平均値を示し、エラーバーで標準偏差(SD)を模式的に示しており、境界値4~9は各条件のエラーバーの上下の値とする。標準体液検体と劣化検体1の間で検体品質の良・不良を判定したい場合は、境界値5と6の間に閾値を設定することができる。品質劣化を厳しく判定したい場合は境界値5を、緩く判定したい場合は境界値6を、閾値として設定することができる。劣化検体1と劣化検体2の間で検体品質の良・不良を判定したい場合は、境界値7と8の間に閾値を設定することができる。品質劣化を厳しく判定したい場合は境界値7を、緩く判定したい場合は境界値8を、閾値として設定することができる。また、最も厳しく品質の良・不良を判定する場合には境界値4を、最も緩く判定する場合には境界値9を、閾値として設定することができる。閾値の設定には、1SDや2SD、あるいはそれ以上を用いてもよく、目的に応じて選択できる。さらに、図1、2では標準偏差を用いて閾値を設定する方法を例示したが、標準誤差、信頼区間、予測区間等の一般的に統計学でばらつきを評価する際に用いられる方法を使用して、閾値を設定してもよい。
【0058】
後掲の表3、表5、表7、表9に示すように、配列番号2、3、4、6、11、37~43、45、46、49、51、52、54、58で示される塩基配列からなるmiRNAは、劣化が検体処理のいずれのステップで生じたかに関わらず、劣化体液検体中で高値に推移するmiRNAであり、体液検体中の存在量が閾値を超える場合に当該体液検体の品質が不良であると判定できる。これらのmiRNAを基準miRNAとして用いる場合には、各miRNAに対して閾値を1つ設定すれば、品質の良・不良の判定が可能である。
【0059】
配列番号8、9、10、12~16、44、47、48、50、53、55~57、59~61で示される塩基配列からなるmiRNAは、劣化が検体処理のいずれのステップで生じたかに関わらず、劣化体液検体中で低値に推移するmiRNAであり、体液検体中の存在量が閾値を下回る場合に当該体液検体の品質が不良であると判定できる。これらのmiRNAを基準miRNAとして用いる場合には、各miRNAに対して閾値を1つ設定すれば、品質の良・不良の判定が可能である。
【0060】
配列番号1、5、7で示される塩基配列からなるmiRNAは、劣化が検体処理のいずれのステップで生じたかに応じて、低値に推移するか高値に推移するかが異なるmiRNAである。具体的には、これらのmiRNAは、血清検体が血清分離前の全血状態で温度が室温よりも高い条件下(例えば28℃以上)で、数時間(例えば6時間以上)静置されたことによる劣化を受けていた場合には低値に推移し、血清分離後の血清状態で劣化を受けていた場合には高値に推移する。従って、これらのmiRNAを基準miRNAとして用いて任意の臨床体液検体の品質を評価する場合には、各基準miRNAに対して2つの閾値、すなわち、この値を超えたら品質不良と判定される「第1の閾値」と、この値を下回ったら品質不良と判定される「第2の閾値」を設定することが好ましい。血清検体中のこれら基準miRNAの存在量が、第1の閾値を超えるか、又は第2の閾値を下回った場合に、当該検体の品質が不良と判定できる。血清検体中の基準miRNAの存在量が、第1の閾値を超えた場合には、血清状態で劣化が生じていたことが推定され、第2の閾値を下回った場合には、全血状態で劣化が生じていたことが推定される。血清検体中の基準miRNAの存在量が、第1の閾値と第2の閾値の間であった場合には、当該検体の品質を良と判定することができる。
【0061】
基準miRNAとして、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAのうち複数の基準miRNAを用いる場合には、個々の基準miRNAごとに体液検体中の存在量と当該miRNAごとに予め定める閾値との大小関係を比較し、基準miRNAごとに判定基準に従って判定を行い、その結果を総合して体液検体の品質の良否を判定することができる。この場合には、複数の基準miRNAによる個々の判定に優先順位付けや重み付けをすること等により、さらなる判断基準を設けることが好ましい。
【0062】
具体的には、例えば、基準miRNAごとの判定において、良と判定された基準miRNAの数が、不良と判定された基準miRNAの数又は任意の所定数を上回る場合に、体液検体に含まれるmiRNAの品質を良と判定することができる。逆に、不良と判定された基準miRNAの数が、良と判定された基準miRNAの数又は所定数を上回る場合に、検体に含まれるmiRNAの品質を不良と判定することができる。また、より厳密な又は高精度の評価を行う場合には、特定の1種の基準miRNAの判定結果が不良の場合に、体液検体に含まれるmiRNAの品質を不良と判定してもよい。
【0063】
あるいはまた、基準miRNAとして、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAのうち複数の基準miRNAを用いる場合には、体液検体中の当該複数の基準miRNAの存在量から指標値を算出し、この指標値と予め定めた閾値との大小関係によって体液検体の品質の良否を判定することも可能である。指標値としては、2つの基準miRNA間の差又は比を用いることができる。
【0064】
劣化によって存在量が互いに近づく組み合わせの場合(例えば、図5に示す、hsa-miR-204-3pとhsa-miR-4730の組み合わせ)、体液検体の劣化が進むほど指標値(差)が小さくなる。そのため、このような組み合わせの場合には、指標値(差)が予め定めた閾値を下回る場合に品質不良と判定できる。また、このような組み合わせで指標値として比を用いる場合には、次の通りに判定を行えばよい。劣化していない標準体液検体中の存在量が多い方の基準miRNA(図5の例ではhsa-miR-204-3p)の体液検体中存在量をAとし、少ない方の基準miRNA(図5の例ではhsa-miR-4730)の体液検体中存在量をBとすると、A/Bを指標値とするときには、劣化が進むことでA/Bの値が低下するので、予め定めた閾値を下回った場合に当該体液検体を品質不良と判定できる。B/Aを指標値とするときには、劣化が進むことでB/Aの値が上昇するので、予め定めた閾値を超えた場合に当該体液検体を品質不良と判定できる。
【0065】
劣化によって存在量が互いに離れる組み合わせの場合(例えば、図9に示す、hsa-miR-204-3pとhsa-miR-4800-3pの組み合わせ)、体液検体の劣化が進むほど指標値(差)が大きくなる。そのため、このような組み合わせの場合には、指標値(差)が予め定めた閾値を超える場合に品質不良と判定できる。また、このような組み合わせで指標値として比を用いる場合には、次の通りに判定を行えばよい。劣化していない標準体液検体中の存在量が多い方の基準miRNA(図9の例ではhsa-miR-204-3p)の体液検体中存在量をAとし、少ない方の基準miRNA(図9の例ではhsa-miR-4800-3p)の体液検体中存在量をBとすると、A/Bを指標値とするときには、劣化が進むことでA/Bの値が上昇するので、予め定めた閾値を超えた場合に当該体液検体を品質不良と判定できる。B/Aを指標値とするときには、劣化が進むことでB/Aの値が低下するので、予め定めた閾値を下回った場合に当該体液検体を品質不良と判定できる。
【0066】
3種類以上の基準miRNAを使用し、指標値による判定を行なう場合には、劣化によって存在量が互いに近づく好ましい組み合わせ、あるいは互いに離れる好ましい組み合わせとなるように、2種類の基準miRNAを選択して組み合わせを作ればよい。使用する3種類以上の基準miRNAの全てを利用して指標値を算出してもよいし、3種以上の基準miRNAのうちの一部のみで指標値を算出してもよい。例えば、A、B、C、Dの4種類の基準miRNAを用いる場合には、AとBの差又は比を指標値1、AとCの差又は比を指標値2として算出して、それぞれの閾値との大小関係を比較し、DはDのための閾値との大小関係を比較して(さらに、A、B、Cもそれぞれ単独でA、B、Cのための各閾値との大小関係を比較してもよい)、結果を総合的に判定する、という方法や、AとBの差又は比を指標値1、CとDの差又は比を指標値2として算出して、それぞれの閾値との大小関係を比較し、結果を総合的に判定する、という方法も可能である。
【0067】
1つの基準miRNAを用いる場合には、配列番号1~16、37~61に示すmiRNAから1つのmiRNAを任意に選択すればよいが、保存時間に依存して存在量が顕著に変化するものを選択することが好ましい。後掲の表2、表4、表6、表8に示すmiRNAの中で、基準条件と比較して存在量が3倍以上、すなわちlog2の値で1.6以上変化するmiRNAは、hsa-miR-204-3p(配列番号1)、hsa-miR-4730(配列番号2)、hsa-miR-4800-3p(配列番号8)、hsa-miR-744-5p(配列番号9)、hsa-miR-6511a-5p(配列番号10)、hsa-miR-135a-3p(配列番号11)、hsa-miR-940(配列番号12)、hsa-miR-3648(配列番号38)、hsa-miR-4497(配列番号40)、hsa-miR-4745-5p(配列番号41)、hsa-miR-92a-2-5p(配列番号43)、hsa-miR-6132(配列番号57)の12種類を挙げることができ、これらのいずれかを好ましく選択することができる。さらにこの中でも、保存時間に依存して存在量が大きく変化するmiRNAを、基準条件と比較して3.6倍以上、すなわちlog2の値で1.85以上変化するmiRNAと定義すると、hsa-miR-204-3p、hsa-miR-4730、hsa-miR-4800-3p、hsa-miR-744-5p、hsa-miR-135a-3p、hsa-miR-940、hsa-miR-4497の7種類を挙げることができ、これらのいずれかを特に好ましく選択することができる。
【0068】
複数の基準miRNAを用いる場合にも、上記した12種類のmiRNAの中から選択することが好ましい。複数の基準miRNAを用いることで、より厳密な又は高精度の評価を行なうことができる。2個の基準miRNAの差又は比を用いて判定を行なうことも好ましく、その場合には、劣化に伴い存在量が高値に推移する、hsa-miR-204-3p、hsa-miR-4730、hsa-miR-135a-3p、hsa-miR-3648、hsa-miR-4497、hsa-miR-4745-5p、hsa-miR-92a-2-5pから成るmiRNA群から1種類と、低値に推移するhsa-miR-204-3p、hsa-miR-4800-3p、hsa-miR-744-5p、hsa-miR-6511a-5p、hsa-miR-940、hsa-miR-6132から成るmiRNA群から1種類を選択して組み合わせることが好ましい。
【0069】
さらには、上記した劣化に伴う存在量の変化が特段大きい7種類の基準miRNAの中から複数のmiRNAを選択することがより好ましい。2個の基準miRNAの差又は比を用いて判定を行う場合には、上記した通り、劣化に伴い存在量が高値に推移する、hsa-miR-204-3p、hsa-miR-4730、hsa-miR-135a-3p、hsa-miR-4497から成るmiRNA群から1種類と、低値に推移するhsa-miR-204-3p、hsa-miR-4800-3p、hsa-miR-744-5p、hsa-miR-940から成るmiRNA群から1種類を選択して組み合わせることが好ましい。例えば、hsa-miR-204-3p及びhsa-miR-4730の組み合わせ、hsa-miR-204-3p及びhsa-miR-4800-3pの組み合わせ、hsa-miR-744-5p及びhsa-miR-4497の組合せ等を好ましく用いることができる。なお、hsa-miR-204-3pについては、前記した通り、劣化が検体処理のいずれのステップで生じたかに応じて、存在量が低値に推移するか高値に推移するかが異なるmiRNAである。当該miRNAを用いて、血清検体が全血状態において温度が室温よりも高い条件下(例えば28℃以上)で、数時間(例えば6時間以上)静置されたことによる劣化を評価したい場合には、劣化に伴い存在量が低値に推移するmiRNAとして、血清分離後の血清状態で受けた劣化を評価したい場合には高値に推移するmiRNAとして選択する必要がある。
【0070】
基準miRNAの中には、体液検体の軽度の劣化でも存在量が変動するもの、あるいは、劣化の程度が大きくなってから存在量が変動するものがあるため、目的に応じて基準miRNAを選択することが好ましい。
【0071】
検体調製時の静置時間が数時間(例えば6時間)までの短い間における劣化を評価したい場合には、hsa-miR-204-3p、hsa-miR-4730、hsa-miR-4800-3p、hsa-miR-744-5p、hsa-miR-940、hsa-miR-4497の中から2種の組合せを選択することが好ましい。
【0072】
検体調製時の静置時間が数時間(例えば6時間)から1日の間における劣化を評価したい場合には、hsa-miR-204-3p、hsa-miR-4730、hsa-miR-4800-3p、hsa-miR-744-5p、hsa-miR-135a-3p、hsa-miR-940の中から2種の組合せを選択することが好ましい。
【0073】
また、例えば遺伝子発現解析を目的とする場合であって、その解析における標的miRNAが配列番号1~16、37~61に示すmiRNAのいずれかに該当する場合は、当該標的miRNAを除くmiRNAから基準miRNAを選択すればよい。
【0074】
本発明はまた、上記本発明の体液検体の品質評価方法に従い、体液検体の品質を評価するために、1又は複数のコンピュータに、
体液検体より調製されたRNAサンプルを用いて測定された、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数種の基準miRNAの体液検体中の存在量測定値を取得する、測定値取得工程;
1又は複数種の基準miRNAの存在量、又は複数種の基準miRNAの存在量から算出される指標値を、あらかじめ任意に定めた閾値と比較することにより、体液検体の品質の良否を判定する、判定工程
を実行させるための(すなわち、1又は複数のコンピュータに上記各工程を実行させる命令を含む)プログラム、及び該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
【0075】
例えば、miRNAの発現量を解析する装置に該プログラムが組み込まれ、測定値取得工程において、該装置に含まれる発現測定部又は該装置とは別個の発現測定装置が測定した、体液検体中の基準miRNAの存在量の測定値を取得し、該測定値を用いて各工程が実施されてよい。取得する測定値は、補正済みの測定値であってもよい。また、該プログラムが、取得した測定値を補正する処理をコンピュータに実行させる命令を含んでいてもよい。各工程の詳細は、本発明の体液検体の品質評価方法に関して上記に説明した通りである。
【0076】
「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0077】
「記録媒体」は、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD-ROM、MO、DVD等の任意の「可搬用の物理媒体」(非一過性の記録媒体)であり得る。あるいは、LAN、WAN、インターネットに代表される、ネットワークを介してプログラムを送信する場合の通信回線や搬送波のように、短期にプログラムを保持する「通信媒体」であり得る。
【0078】
本発明はまた、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数の基準miRNAを捕捉するためのプローブが固定化された支持体を含む、miRNA品質評価用チップを提供する。また、本発明は、標的miRNAを捕捉するためのプローブと、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数の基準miRNAを捕捉するためのプローブが固定化された支持体を含む、miRNA発現解析用チップを提供する。ここで、標的miRNA、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAから選択される1又は複数の基準miRNA、これらを捕捉するためのプローブ、また、これらの捕捉プローブが固定化される支持体は、前記のとおりである。
【0079】
本発明のmiRNA発現解析用チップは、前記の補正工程で用いるハウスキーピングRNA、特定の補正用内因性miRNA、添加する外部標準核酸等の補正用核酸、特に補正用内因性miRNAを捕捉するためのプローブが、さらに支持体に固定化されていてもよい。
【0080】
以下、本発明において基準miRNAとして使用し得る、配列番号1~16、37~61で示される塩基配列からなるmiRNAについて、公知の情報等を説明する。
【0081】
本明細書で使用される「miR-204-3p遺伝子」又は「miR-204-3p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号1に記載のhsa-miR-204-3p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0022693)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-204-3p遺伝子は、Lim LPら、2003年、Science、299巻、p1540に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-204-3p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-204」(miRBase Accession No. MI0000284、配列番号17)が知られている。
【0082】
本明細書で使用される「miR-4730遺伝子」又は「miR-4730」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号2に記載のhsa-miR-4730遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019852)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-4730遺伝子は、Persson Hら、2011年、Cancer Res、71巻、p78-86に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4730」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4730」(miRBase Accession No. MI0017367、配列番号18)が知られている。
【0083】
本明細書で使用される「miR-128-2-5p遺伝子」又は「miR-128-2-5p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号3に記載のhsa-miR-128-2-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0031095)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-128-2-5p遺伝子は、Lagos-Quintana Mら、2002年、Curr Biol、12巻、p735-739に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-128-2-5p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-128-2」(miRBase Accession No. MI0000727、配列番号19)が知られている。
【0084】
本明細書で使用される「miR-4649-5p遺伝子」又は「miR-4649-5p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号4に記載のhsa-miR-4649-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019711)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-4649-5p遺伝子は、Persson Hら、2011年、Cancer Res、71巻、p78-86に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4649-5p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4649」(miRBase Accession No. MI0017276、配列番号20)が知られている。
【0085】
本明細書で使用される「miR-6893-5p遺伝子」又は「miR-6893-5p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号5に記載のhsa-miR-6893-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0027686)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-6893-5p遺伝子は、Ladewig Eら、2012年、Genome Res、22巻、p1634-1645に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6893-5p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6893」(miRBase Accession No. MI0022740、配列番号21)が知られている。
【0086】
本明細書で使用される「miR-187-5p遺伝子」又は「miR-187-5p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号6に記載のhsa-miR-187-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0004561)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-187-5p遺伝子は、Lim LPら、2003年、Science、299巻、p1540に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-187-5p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-187」(miRBase Accession No. MI0000274、配列番号22)が知られている。
【0087】
本明細書で使用される「miR-6076遺伝子」又は「miR-6076」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号7に記載のhsa-miR-6076遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0023701)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-6076遺伝子は、Voellenkle Cら、2012年、RNA、18巻、p472-484に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6076」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6076」(miRBase Accession No. MI0020353、配列番号23)が知られている。
【0088】
本明細書で使用される「miR-4800-3p遺伝子」又は「miR-4800-3p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号8に記載のhsa-miR-4800-3p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019979)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-4800-3p遺伝子は、Persson Hら、2011年、Cancer Res、71巻、p78-86に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4800-3p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4800」(miRBase Accession No. MI0017448、配列番号24)が知られている。
【0089】
本明細書で使用される「miR-744-5p遺伝子」又は「miR-744-5p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号9に記載のhsa-miR-744-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0004945)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-744-5p遺伝子は、Berezikov Eら、2006年、Genome Res、16巻、p1289-1298に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-744-5p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-744」(miRBase Accession No. MI0005559、配列番号25)が知られている。
【0090】
本明細書で使用される「miR-6511a-5p遺伝子」又は「miR-6511a-5p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号10に記載のhsa-miR-6511a-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0025478)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-6511a-5p遺伝子は、Joyce CEら、2011年、Hum Mol Genet、20巻、p4025-4040に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6511a-5p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6511a-1、hsa-mir-6511a-2、hsa-mir-6511a-3、hsa-mir-6511a-4」(miRBase Accession No. MI0022223、MI0023564、MI0023565、MI0023566、配列番号26~29)が知られている。
【0091】
本明細書で使用される「miR-135a-3p遺伝子」又は「miR-135a-3p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号11に記載のhsa-miR-135a-3p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0004595)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-135a-3p遺伝子は、Lagos-Quintana Mら、2002年、Curr Biol、12巻、p735-739に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-135a-3p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-135a」(miRBase Accession No. MI0000452、配列番号30)が知られている。
【0092】
本明細書で使用される「miR-940遺伝子」又は「miR-940」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号12に記載のhsa-miR-940遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0004983)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-940遺伝子は、Lui WOら、2007年、A Cancer Res. 、67巻、p6031-6043に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-940」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-940」(miRBase Accession No. MI0005762、配列番号31)が知られている。
【0093】
本明細書で使用される「miR-4429遺伝子」又は「miR-4429」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号13に記載のhsa-miR-4429遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0018944)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-4429遺伝子は、Jima DDら、2010年、Blood、116巻、e118-e127に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4429」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4429」(miRBase Accession No. MI0016768、配列番号32)が知られている。
【0094】
本明細書で使用される「miR-6068遺伝子」又は「miR-6068」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号14に記載のhsa-miR-6068遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0023693)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-6068遺伝子は、Voellenkle Cら、2012年、RNA、18巻、p472-484に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6068」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6068」(miRBase Accession No. MI0020345、配列番号33)が知られている。
【0095】
本明細書で使用される「miR-6511b-5p遺伝子」又は「miR-6511b-5p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号15に記載のhsa-miR-6511b-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0025847)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-6511b-5p遺伝子は、Li Yら、2012年、Gene、497巻、p330-335に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6511b-5p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6511b-1、hsa-mir-6511b-2」(miRBase Accession No. MI0022552、MI0023431、配列番号34、35)が知られている。
【0096】
本明細書で使用される「miR-885-3p遺伝子」又は「miR-885-3p」という用語には、ヒト遺伝子である配列番号16に記載のhsa-miR-885-3p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0004948)や、その他生物種のホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-885-3p遺伝子は、Berezikov Eら、2006年、Genome Res、16巻、p1289-1298に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-885-3p」の前駆体として、ヘアピン様構造をとる「hsa-mir-885」(miRBase Accession No. MI0005560、配列番号36)が知られている。
【0097】
本明細書で使用される「miR-3619-3p遺伝子」又は「miR-3619-3p」という用語は、配列番号37に記載のhsa-miR-3619-3p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019219)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-3619-3p遺伝子は、Witten Dら、2010年、BMC Biol、8巻、p58に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-3619-3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-3619」(miRBase Accession No. MI0016009、配列番号62)が知られている。
【0098】
本明細書で使用される「miR-3648遺伝子」又は「miR-3648」という用語は、配列番号38に記載のhsa-miR-3648遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0018068)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa-miR-3648遺伝子は、Meiri Eら、2010年、Nucleic Acids Res、38巻、p6234-6246に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-3648」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-3648-1」(miRBase Accession No. MI0016048、配列番号63)が知られている。
【0099】
本明細書で使用される「miR-4485-5p遺伝子」又は「miR-4485-5p」という用語は、配列番号39に記載のhsa-miR-4485-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0032116)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-5p遺伝子は、Jima DDら、2010年、Blood、116巻、e118-e127に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4485-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4485」(miRBaseAccession No. MI0016846、配列番号64)が知られている。
【0100】
本明細書で使用される「miR-4497遺伝子」又は「miR-4497」という用語は、配列番号40に記載のhsa-miR-4497遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019032)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4497遺伝子は、Jima DDら、2010年、Blood、116巻、e118-e127に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4497」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4497」(miRBaseAccession No. MI0016859、配列番号65)が知られている。
【0101】
本明細書で使用される「miR-4745-5p遺伝子」又は「miR-4745-5p」という用語は、配列番号41に記載のhsa-miR-4745-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019878)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4745-5p遺伝子は、Persson Hら、2011年、Cancer Res、71巻、p78-86に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4745-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4745」(miRBase Accession No. MI0017384、配列番号66)が知られている。
【0102】
本明細書で使用される「miR-663b遺伝子」又は「miR-663b」という用語は、配列番号42に記載のhsa-miR-663b遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0005867)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-663b遺伝子は、Takada Sら、2008年、Leukemia、22巻、p1274-1278に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-663b」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-663b」(miRBase Accession No. MI0006336、配列番号67)が知られている。
【0103】
本明細書で使用される「miR-92a-2-5p遺伝子」又は「miR-92a-2-5p」という用語は、配列番号43に記載のhsa-miR-92a-2-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0004508)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-92a-2-5p遺伝子は、Mourelatos Zら、2002年、Genes Dev、16巻、p720-728に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-92a-2-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-miR-92a-2」(miRBaseAccession No. MI0000094、配列番号68)が知られている。
【0104】
本明細書で使用される「miR-1260b遺伝子」又は「miR-1260b」という用語は、配列番号44に記載のhsamiR-1260b遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0015041)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-1260b遺伝子は、Stark MSら、2010年、PLoS One、5巻、e9685に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-1260b」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-1260b」(miRBase Accession No. MI0014197、配列番号69)が知られている。
【0105】
本明細書で使用される「miR-3197遺伝子」又は「miR-3197」という用語は、配列番号45に記載のhsa-miR-3197遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0015082)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-3197遺伝子は、Stark MSら、2010年、PLoS One、5巻、e9685に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-3197」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-3197」(miRBase Accession No. MI0014245、配列番号70)が知られている。
【0106】
本明細書で使用される「miR-3663-3p遺伝子」又は「miR-3663-3p」という用語は、配列番号46に記載のhsa-miR-3663-3p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0018085)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-3663-3p遺伝子は、Liao JYら、2010年、PLoS One、5巻、e10563に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-3663-3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-3663」(miRBase Accession No. MI0016064、配列番号71)が知られている。
【0107】
本明細書で使用される「miR-4257遺伝子」又は「miR-4257」という用語は、配列番号47に記載のhsa-miR-4257遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0016878)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4257遺伝子は、Goff LAら、2009年、PLoS One、4巻、e7192に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4257」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4257」(miRBase Accession No. MI0015856、配列番号72)が知られている。
【0108】
本明細書で使用される「miR-4327遺伝子」又は「miR-4327」という用語は、配列番号48に記載のhsa-miR-4327遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0016889)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4327遺伝子は、Goff LAら、2009年、Plos One、4巻、e7192に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4327」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4327」(miRBaseAccession No. MI0015867、配列番号73)が知られている。
【0109】
本明細書で使用される「miR-4476遺伝子」又は「miR-4476」という用語は、配列番号49に記載のhsa-miR-4476遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019003)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4476遺伝子は、Jima DDら、2010年、Blood、116巻、e118-e127に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4476」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4476」(miRBaseAccession No. MI0016828、配列番号74)が知られている。
【0110】
本明細書で使用される「miR-4505遺伝子」又は「miR-4505」という用語は、配列番号50に記載のhsa-miR-4505遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019041)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4505遺伝子は、Jima DDら、2010年、Blood、116巻、e118-e127に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4505」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4505」(miRBaseAccession No. MI0016868、配列番号75)が知られている。
【0111】
本明細書で使用される「miR-4532遺伝子」又は「miR-4532」という用語は、配列番号51に記載のhsa-miR-4532遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019071)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4532遺伝子は、Jima DDら、2010年、Blood、116巻、e118-e127に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4532」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4532」(miRBase Accession No. MI0016899、配列番号76)が知られている。
【0112】
本明細書で使用される「miR-4674遺伝子」又は「miR-4674」という用語は、配列番号52に記載のhsa-miR-4674遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019756)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4674遺伝子は、Persson Hら、2011年、Cancer Res、71巻、p78-86に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4674」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4674」(miRBase Accession No. MI0017305、配列番号77)が知られている。
【0113】
本明細書で使用される「miR-4690-5p遺伝子」又は「miR-4690-5p」という用語は、配列番号53に記載のhsa-miR-4690-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019779)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4690-5p遺伝子は、Persson Hら、2011年、Cancer Res、71巻、p78-86に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4690-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4690」(miRBase Accession No. MI0017323、配列番号78)が知られている。
【0114】
本明細書で使用される「miR-4792遺伝子」又は「miR-4792」という用語は、配列番号54に記載のhsa-miR-4792遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019964)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4792遺伝子は、Persson Hら、2011年、Cancer Res、71巻、p78-86に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4792」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4792」(miRBase Accession No. MI0017439、配列番号79)が知られている。
【0115】
本明細書で使用される「miR-5001-5p遺伝子」又は「miR-5001-5p」という用語は、配列番号55に記載のhsa-miR-5001-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0021021)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-5001-5p遺伝子は、Hansen TBら、2011年、RNA Biol、8巻、p378-383に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-5001-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-5001」(miRBase Accession No. MI0017867、配列番号80)が知られている。
【0116】
本明細書で使用される「miR-6075遺伝子」又は「miR-6075」という用語は、配列番号56に記載のhsa-miR-6075遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0023700)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-6075遺伝子は、Voellenkle Cら、2012年、RNA、18巻、p472-484に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6075」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6075」(miRBase Accession No. MI0020352、配列番号81)が知られている。
【0117】
本明細書で使用される「miR-6132遺伝子」又は「miR-6132」という用語は、配列番号57に記載のhsa-miR-6132遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0024616)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-6132遺伝子は、Dannemann Mら、2012年、Genome Biol Evol、4巻、p552-564に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6132」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6132」(miRBase Accession No. MI0021277、配列番号82)が知られている。
【0118】
本明細書で使用される「miR-6885-5p遺伝子」又は「miR-6885-5p」という用語は、配列番号58に記載のhsa-miR-6885-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0027670)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-6885-5p遺伝子は、Ladewig Eら、2012年、Genome Res、22巻、p1634-1645に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6885-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6885」(miRBase Accession No. MI0022732、配列番号83)が知られている。
【0119】
本明細書で使用される「miR-6780b-5p遺伝子」又は「miR-6780b-5p」という用語は、配列番号59に記載のhsa-miR-6780b-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0027572)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-6780b-5p遺伝子は、Ladewig Eら、2012年、Genome Res、22巻、p1634-1645に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-6780b-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-6780b」(miRBase Accession No. MI0022681、配列番号84)が知られている。
【0120】
本明細書で使用される「miR-4723-5p遺伝子」又は「miR-4723-5p」という用語は、配列番号60に記載のhsa-miR-4723-5p遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0019838)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-4723-5p遺伝子は、Persson Hら、2011年、Cancer Res、71巻、p78-86に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-4723-5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-4723」(miRBase Accession No. MI0017359、配列番号85)が知られている。
【0121】
本明細書で使用される「miR-5100遺伝子」又は「miR-5100」という用語は、配列番号61に記載のhsa-miR-5100遺伝子(miRBase Accession No. MIMAT0022259)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどを包含する。hsa-miR-5100遺伝子は、Tandon Mら、2012年、Oral Dis、18巻、p127-131に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa-miR-5100」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa-mir-5100」(miRBase Accession No. MI0019116、配列番号86)が知られている。
【実施例
【0122】
以下、本発明のRNAの品質に依存して変動する基準miRNAを選択した過程を、より具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0123】
(血清検体の採取)
実施例の中では、体液検体の一例として血清を選択し、体液検体の品質評価に関する内容を記載した。血清を得るまでの流れは、(1)被験者より採血を実施、(2)全血状態で凝固させ、(3)遠心し、血清に分離する、という3つの工程から成る。これらのうち、(2)凝固時の静置、及び(3)血清に分離してから凍結保存されるまでの静置について、静置時間、あるいは、温度条件を複数設定し、それを基に調製した血清検体を使用して、以下の実験を行った。
【0124】
実施例1~8のうち、上記の(2)凝固時の静置に関する実施例が実施例1、2、5、6、(3)血清分離から凍結保存までの静置に関する実施例が実施例3、4、7、8である。また、実施例5~8は、実施例1~4よりも検体調製時の静置時間が短い条件を設定し実験したもので、実施例5、6は実施例1、2に、実施例7、8は実施例3、4に対応している。表1に実施例1~8の検体作製条件を示す。
【0125】
【表1】
【0126】
(DNAマイクロアレイ)
東レ株式会社製の“3D-Gene” human miRNA oligo chip(miRBase release 21対応)を用いて以下の実施例1~8の実験を行なった。
【0127】
<実施例1>全血凝固での劣化を検知できる基準miRNAの選択
(温度影響による劣化検知のための検体調製)
健常人3名よりそれぞれ採血管7本ずつ採血し、全血状態で、7本のうち1本は室温(23℃)条件下で0.5時間静置し(これを基準条件とする)、残り6本は4℃、18℃、20℃、室温(23℃)、28℃、30℃の各温度で6時間それぞれ静置した。時間到達後、その都度遠心分離をし、得られた血清を遠心後10分以内に300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0128】
(室温における長時間静置による劣化検知のための検体調製)
健常人3名よりそれぞれ採血管4本ずつ採血し、全血状態で、4本のうち1本は室温(23℃)条件下で0.5時間静置し(これを基準条件とする)、残り3本は同じく室温(23℃)で3時間、6時間、9時間それぞれ静置した。時間到達後、その都度遠心分離をし、得られた血清を遠心後10分以内に300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0129】
(検体RNAの調製とmiRNA存在量の測定)
上記のように調製され、冷凍庫に保存された血清を同時に融解し、血清検体に含まれるRNA(以下、検体RNAという。)を抽出した。抽出には、“3D-Gene” RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ(株)製)を用いた。精製には、RNeasy 96 QIAcube HT kit(QIAGEN社)を用いた。
【0130】
得られた検体RNAを、“3D-Gene” miRNA labeling kit(東レ(株)製)を用いて標識した。標識時には、miRNAの測定値を補正するために、外部標準核酸を添加した。標識した検体RNAについて、“3D-Gene” miRNA chip(東レ(株)製)を用い、その標準プロトコールに従い、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後のDNAマイクロアレイをマイクロアレイスキャナー(東レ(株)製)に供して蛍光強度を測定した。スキャナーの設定は、レーザー出力100%、フォトマルチプライヤーの電圧設定をAUTO設定にした。
【0131】
DNAマイクロアレイで各条件の検体RNAに含まれる各miRNAを測定した。検出された各miRNAの測定値を底が2の対数に変換し、検体間データ標準化のため適切な補正を行い、各血清検体のmiRNA存在量とした。
【0132】
(基準miRNAの選択)
上記のようにして得られた各血清検体のmiRNA存在量を比較し、静置時間や静置温度に依存して存在量が変動する程度の大きいmiRNAを抽出することで、基準miRNAの選択を行った。
【0133】
表2には、8種類(配列番号1~8)の基準miRNAおよび各条件の基準条件からの存在量の個人間の平均変動値、ならびに、上記した式1、式2により求めた各検体中のmiRNAの全体変動指標値を示した。当該miRNAは、室温での静置時間が長い条件、あるいは28℃以上の温度で静置される条件、すなわち、血清中のmiRNAが比較的不安定な状態で保存される条件において、存在量が2倍以上(底2の対数値の差で1以上)変動した。一般的に、DNAマイクロアレイにおける測定において、存在量2倍の変動は十分な差として考えられる。また、全体変動指標値は、全血の静置温度(凝固温度)が高い条件ほど、あるいは、室温での静置時間が長い条件ほど、1.5以上の高い値を示し、検体品質劣化の程度が高いことが確認された。このことから、当該miRNAは、体液検体の品質に依存して、その存在量が変動するmiRNA指標として利用できることが確認された。すなわち、表2に示す基準miRNAは、その存在量を測定することによって、体液検体の品質を知ることが可能であることが分かった。
【0134】
【表2】
【0135】
図3に、基準条件と全血状態での凝固温度を変化させた条件(計7条件)のhsa-miR-204-3p(配列番号1)の存在量を示した。hsa-miR-204-3pは凝固28℃条件を境にその存在量が鋭敏に低値になる結果となった。例えば、全血状態で28℃以上に静置されることによる体液検体品質の劣化を判定する場合には、hsa-miR-204-3pの存在量12を閾値として設定し、ある体液検体中のhsa-miR-204-3p存在量がその値を下回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0136】
また、図4に、基準条件と全血での室温静置時間を変化させた条件(計4条件)のhsa-miR-4730(配列番号2)の存在量を示した。hsa-miR-4730は、全血での室温静置時間が長くなるにつれて存在量が高く推移した。例えば、全血状態で6時間以上静置されたことによる体液検体品質の劣化を判定する場合には、hsa-miR-4730の存在量11を閾値として設定し、ある体液検体中のhsa-miR-4730存在量がその値を上回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0137】
本実施例1の結果から設定可能な、表2に示す8種類の基準miRNAの閾値の具体例を、基準条件における存在量の平均値と共に下記表3に示した。これらの閾値は、全血保存時などの全血状態で生じた劣化を検知する際の閾値として使用可能な閾値であり、例えば、臨床血液検体から血清を分離するまでの間に時間を要した場合にこれらの閾値を好ましく用いることができる。品質評価をしたい体液検体中の基準miRNAを測定し、測定値を底が2の対数に変換し、検体間データ標準化のため適切な補正を行なった後の数値を、これらの閾値と比較すればよい。判定をどの程度厳しくするかに応じて、表3に示した閾値±α(αは任意の数値であり、例えば0.5~3程度であってよい)を閾値として設定してもよい。
【0138】
【表3】
【0139】
<実施例2>複数のmiRNAで全血凝固時における劣化を検知
単一のmiRNAではなく、任意の2種類の基準miRNAを組み合わせて体液検体品質の劣化を判定することも可能である。
【0140】
実施例1の基準条件及び、全血で30℃、6時間静置した条件におけるhsa-miR-204-3p(配列番号1)およびhsa-miR-4730(配列番号2)の存在量を使用した。各条件下でのこれらmiRNAの個別の存在量は図5に示す通りであり、各条件下におけるこれら2種類のmiRNAの存在量差を算出すると図6のようになった。表3及び図5に示すように、hsa-miR-204-3pは全血状態で生じた検体の劣化により低値に推移するmiRNA、hsa-miR-4730は全血状態で生じた検体の劣化により高値に推移するmiRNAであり、劣化していない検体中の存在量はhsa-miR-204-3pの方がhsa-miR-4730よりも多い。品質が良好な状態(基準条件下)の体液検体では、hsa-miR-204-3pの存在量とhsa-miR-4730の存在量の差は大きいが、30℃静置により品質が劣化した状態の体液検体では、両者の存在量の差は小さくなる。全血状態で30℃に静置されたことによる体液検体品質の劣化を判定する場合には、例えば、これら2種類のmiRNAの存在量の差の閾値を1に設定し、ある体液検体においてこれらのmiRNAの存在量差がその値を下回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0141】
hsa-miR-204-3p(配列番号1)およびhsa-miR-4730(配列番号2)の組み合わせ以外の組み合わせで同様の判定を行なう場合には、2種類の基準miRNAは、表3に示した基準miRNAのうち、低値に推移する基準miRNAから1種類、高値に推移する基準miRNAから1種類を選択すればよい。低値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量が、高値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量よりも高く、劣化により両者の存在量が近付く組み合わせの場合には、図6の例のように、存在量の差が任意に定めた閾値を下回った場合に品質不良と判定することができる。これとは逆に、低値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量が、高値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量よりも低く、劣化により両者の存在量が遠ざかる組み合わせの場合には、存在量の差が任意に定めた閾値を上回った場合に品質不良と判定することができる。
【0142】
低値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量が、高値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量よりも高い組み合わせの場合、劣化の程度が非常に大きいと前者の基準miRNAの存在量が後者の基準miRNAの存在量を下回ってしまい、存在量差が再び開き始めるおそれがある。従って、一般には、低値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量が、高値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量よりも低く、劣化により両者の存在量が遠ざかる組み合わせで2種類の基準miRNAを選択することがより好ましい。もっとも、本実施例で述べた基準miRNAの組み合わせに限定されるものではなく、低値に推移する基準miRNAのみを複数、あるいは高値に推移する基準miRNAのみを複数、表3より選択して組み合わせ、個々の基準miRNAによる判定結果を総合して体液検体の品質の良否を判定する、ということも可能である。
【0143】
<実施例3>血清状態での劣化を検知できる基準miRNAの選択
(血清状態での4℃における長時間静置による劣化検知のための検体調製(調製1))
健常人3名よりそれぞれ採血管4本ずつ採血し、全て室温(23℃)で0.5時間静置させた後、遠心分離して血清を得た。1本は、得られた血清を遠心後10分以内に300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した(これを基準条件とする)。残り3本は、得られた血清を4℃で12時間、21時間、24時間静置させ、時間到達後、血清を300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0144】
(血清状態での静置による劣化検知のための検体調製(調製2))
健常人3名よりそれぞれ採血管7本ずつ採血し、全て室温(23℃)で0.5時間静置させた後、遠心分離して血清を得た。1本は、得られた血清を遠心後10分以内に300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した(これを基準条件とする)。残り6本は、得られた血清を室温(23℃)で0.5時間、1時間、2時間、3時間、6時間、及び4℃で6時間、それぞれ静置し、時間到達後、血清を300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0145】
(血清状態での温度影響による劣化を検知するための検体調製(調製3))
健常人3名よりそれぞれ採血管4本ずつ採血し、全て室温(23℃)で0.5時間静置させた後、遠心分離して血清を得た。1本は、得られた血清を遠心後10分以内に300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した(これを基準条件とする)。残り3本は、得られた血清を4℃、10℃、14℃の各温度で21時間静置した後、それぞれ300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0146】
(検体RNAの調製とmiRNA存在量の測定)
上記のように調製され、冷凍庫に静置された血清を同時に融解し、血清検体に含まれるRNA(以下、検体RNAという。)を抽出した。抽出には、“3D-Gene” RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ(株)製)を用いた。精製には、RNeasy 96 QIAcube HT kit(QIAGEN社)を用いた。
【0147】
得られた検体RNAを、“3D-Gene” miRNA labeling kit(東レ(株)製)を用いて標識した。標識時には、miRNAの測定値を補正するために、外部標準核酸を添加した。標識した検体RNAについて、“3D-Gene” miRNA chip(東レ(株)製)を用い、その標準プロトコールに従い、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後のDNAマイクロアレイをマイクロアレイスキャナー(東レ(株)製)に供して蛍光強度を測定した。スキャナーの設定は、レーザー出力100%、フォトマルチプライヤーの電圧設定をAUTO設定にした。
【0148】
DNAマイクロアレイで各条件の検体RNAに含まれる各miRNAを測定した。検出された各miRNAの測定値を底が2の対数に変換し、検体間データ標準化のため適切な補正を行い、各血清検体のmiRNA存在量とした。
【0149】
(基準miRNAの選択)
上記のようにして得られた各血清検体のmiRNA存在量を比較し、静置時間や温度に依存して存在量が変動する程度の大きいmiRNAを抽出することで、基準miRNAの選択を行った。
【0150】
表4には、血清静置での劣化を検知可能な15種類のmiRNAおよび各条件の基準条件からの存在量の個人間の平均変動値、ならびに、上記した式1、式2により求めた各検体中のmiRNAの全体変動指標値を示した。当該15種類のmiRNA(配列番号1~5、7~16)は、血清分離後、室温での静置時間が長い条件、あるいは10℃以上の温度で長時間静置される条件、すなわち、血清中のmiRNAが比較的不安定な状態で保存される条件において、存在量が2倍以上(底2の対数値の差で1以上)変動した。一般的にDNAマイクロアレイにおける測定において、存在量2倍の変動は十分な差として考えられる。また、全体変動指標値は、血清の静置温度が高い条件ほど、あるいは、冷蔵温度(4℃)下又は室温下で静置時間が長い条件ほど、1.5以上の高い値を示し、体液検体の品質劣化の程度が高いことが確認された。このことから、当該miRNAは、体液検体の品質に依存して、その存在量が変動するmiRNA指標として利用できることが確認された。すなわち、表4に示す15種類のmiRNAは、その存在量を測定することによって、体液検体の品質を知ることが可能であることが分かった。
【0151】
【表4】
【0152】
図7に、基準条件と血清状態での静置時間や温度を変化させた条件(計8条件)のhsa-miR-4800-3p(配列番号8)の存在量を示した。hsa-miR-4800-3p(配列番号8)は、劣化の程度が大きくなるにつれて、存在量が低値に推移した。例えば、4℃で6時間以上静置された場合、あるいは10℃以上で21時間静置された場合の検体品質の劣化を判定する場合には、hsa-miR-4800-3pの存在量6.2を閾値として設定し、ある体液検体中のhsa-miR-4800-3p存在量がその値を下回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0153】
また、図8に、基準条件と血清状態での室温静置時間を変化させた条件(計6条件)のhsa-miR-135a-3p(配列番号11)の存在量を示した。hsa-miR-135a-3p(配列番号11)は、血清での室温静置時間が長くなるにつれて存在量が高く推移した。例えば、血清で室温において3時間以上静置されたことによる体液検体の品質の劣化を判定する場合には、hsa-miR-135a-3pの存在量7.7を閾値として設定し、ある体液検体中のhsa-miR-135a-3p存在量がその値を上回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0154】
本実施例3の結果から設定可能な、表4に示す15種類の基準miRNAの閾値の具体例を、基準条件における存在量の平均値と共に下記表5に示した。これらの閾値は、血清保存時などの血清状態で生じた劣化を検知する際の閾値として使用可能な閾値であり、例えば、臨床血液検体から血清を分離した後、凍結保存するまでの間、ないしは凍結させずに保管して発現解析を行なうまでの間に時間を要した場合に、これらの閾値を好ましく用いることができる。品質評価をしたい体液検体中の基準miRNAを測定し、測定値を底が2の対数に変換し、検体間データ標準化のため適切な補正を行なった後の数値を、これらの閾値と比較すればよい。判定をどの程度厳しくするかに応じて、表5に示した閾値±α(αは任意の数値であり、例えば0.5~3程度であってよい)を閾値として設定してもよい。
【0155】
【表5】
【0156】
<実施例4>複数のmiRNAで血清の劣化を検知
単一のmiRNAではなく、より好ましくは、任意の2種類のmiRNAを組み合わせて体液検体の品質劣化を判定することも可能である。
【0157】
実施例3の基準条件及び、血清で4℃24時間静置させた条件におけるhsa-miR-204-3p(配列番号1)およびhsa-miR-4800-3p(配列番号8)の存在量を使用した。各条件下でのこれらmiRNAの個別の存在量は図9に示す通りであり、各条件下におけるこれら2種類のmiRNAの存在量差を算出すると図10のようになった。表5及び図9に示すように、hsa-miR-204-3pは血清状態で生じた検体の劣化により高値に推移するmiRNA、hsa-miR-4800-3pは血清状態で生じた検体の劣化により低値に推移するmiRNAであり、劣化していない検体中の存在量はhsa-miR-204-3pの方がhsa-miR-4800-3pよりも多い。品質が良好な状態(基準条件下)の体液検体では、hsa-miR-204-3pの存在量とhsa-miR-4800-3pの存在量の差は小さいが、4℃24時間静置により劣化した状態の体液検体では、両者の存在量の差は大きくなる。4℃で24時間静置したことによる体液検体品質の劣化を判定する場合には、例えば、これら2種類のmiRNAの存在量の差の閾値を8に設定し、ある体液検体においてこれらのmiRNAの存在量差がその値を上回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0158】
hsa-miR-204-3p(配列番号1)およびhsa-miR-4800-3p(配列番号8)の組み合わせ以外の組み合わせで同様の判定を行なう場合には、2種類の基準miRNAは、表5に示した基準miRNAのうち、低値に推移する基準miRNAから1種類、高値に推移する基準miRNAから1種類を選択すればよい。低値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量が、高値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量よりも低く、劣化により両者の存在量が遠ざかる組み合わせの場合には、図10の例のように、存在量の差が任意に定めた閾値を上回った場合に品質不良と判定することができる。これとは逆に、低値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量が、高値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量よりも高く、劣化により両者の存在量が近付く組み合わせの場合には、存在量の差が任意に定めた閾値を下回った場合に品質不良と判定することができる。
【0159】
実施例2において説明した通り、一般には、低値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量が、高値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量よりも低く、劣化により両者の存在量が遠ざかる組み合わせで2種類の基準miRNAを選択することがより好ましい。もっとも、本実施例で述べた基準miRNAの組み合わせに限定されるものではなく、低値に推移する基準miRNAのみを複数、あるいは高値に推移する基準miRNAのみを複数、表5より選択して組み合わせ、個々の基準miRNAによる判定結果を総合して体液検体の品質の良否(血清状態で劣化が生じたか否か)を判定する、ということも可能である。
【0160】
<実施例5>全血凝固での劣化を検知できる基準miRNAの選択
(検体調製)
健常人3名よりそれぞれ採血管7本ずつ採血し、全血状態で、7本のうち1本は室温(24℃)条件下で0.5時間静置し(これを基準条件とする)、残り6本は20℃、22℃、室温(24℃)、26℃、28℃の各温度で1時間、室温(24℃)で3時間それぞれ静置した。時間到達後、その都度遠心分離をし、得られた血清を遠心後10分以内に300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0161】
(検体RNAの調製とmiRNA存在量の測定、及び基準miRNAの選択)
実施例1と同様の手順で実施した。但し、精製にはUNIFILTER 96Well(GE ヘルスケア社)を用いた。
【0162】
表6には、12種類(配列番号1~4、37~43、59)の基準miRNAおよび各条件の基準条件からの存在量の個人間の平均変動値、ならびに、前記した式1、式2により求めた各検体中のmiRNAの全体変動指標値を示した。また、基準miRNAとの比較のために、検体の劣化により存在量が変動しない3種類のmiRNAを同表に示した。当該基準miRNAは、室温での静置時間が最も長い3時間の条件、すなわち、血清中のmiRNAが比較的不安定な状態で保存される条件において、存在量が高値に推移するものは2倍以上(底2の対数値の差で1以上)、低値に推移するものは1.5倍(底2の対数値の差で0.6以上)変動した。一般的に、DNAマイクロアレイにおける測定において、存在量2倍の変動は十分な差として考えられる。また、全体変動指標値は、全血の静置温度(凝固温度)が高い条件ほど、あるいは、室温での静置時間が長い条件ほど高い値を示し、検体品質劣化の程度が高いことが確認された。このことから、当該miRNAは、体液検体の品質に依存して、その存在量が変動するmiRNA指標として利用できることが確認された。すなわち、表6に示す基準miRNAは、その存在量を測定することによって、体液検体の品質を知ることが可能であることが分かった。
【0163】
【表6】
【0164】
図11に、基準条件と全血状態での凝固温度や時間を変化させた条件(計7条件)のhsa-miR-3648(配列番号38)の存在量を示した。hsa-miR-3648は凝固温度が高くなるにつれて、また凝固時間が長くなるにつれて存在量が高値になる結果となった。例えば、全血状態で3時間以上静置されることによる体液検体品質の劣化を判定する場合には、hsa-miR-3648の存在量11.6を閾値として設定し、ある体液検体中のhsa-miR-3648の存在量がその値を上回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0165】
図12に、基準条件と全血状態での凝固温度や時間を変化させた条件(計7条件)のhsa-miR-4632-5p(比較3)の存在量を示した。検体の劣化に伴う存在量の変動が非常に小さいため、閾値の設定が困難である。そのため、このようなmiRNAは検体劣化の検知には不適切である。
【0166】
本実施例5の結果から設定可能な、表6に示す12種類の基準miRNAの閾値の具体例を、基準条件における存在量の平均値と共に下記表7に示した。これらの閾値は、全血保存時などの全血状態で生じた劣化を検知する際の閾値として使用可能な閾値であり、例えば、臨床血液検体から血清を分離するまでの間に時間を要した場合にこれらの閾値を好ましく用いることができる。品質評価をしたい体液検体中の基準miRNAを測定し、測定値を底が2の対数に変換し、検体間データ標準化のため適切な補正を行なった後の数値を、これらの閾値と比較すればよい。判定をどの程度厳しくするかに応じて、表7に示した閾値±α(αは任意の数値であり、例えば0.5~3程度であってよい)を閾値として設定してもよい。
【0167】
【表7】
【0168】
<実施例6>複数のmiRNAで全血凝固時における劣化を検知
単一のmiRNAではなく、任意の2種類の基準miRNAを組み合わせて体液検体品質の劣化を判定することも可能である。
【0169】
実施例5の基準条件及び、全血で室温(24℃)、3時間静置した条件におけるhsa-miR-3648(配列番号38)およびhsa-miR-6780b-5p(配列番号59)の存在量を使用した。各条件下でのこれらmiRNAの個別の存在量は図13に示す通りであり、各条件下におけるこれら2種類のmiRNAの存在量差を算出すると図14のようになった。表7及び図13に示すように、hsa-miR-3648は全血状態で生じた検体の劣化により高値に推移するmiRNA、hsa-miR-6780b-5pは全血状態で生じた検体の劣化により低値に推移するmiRNAである。劣化していない検体中の存在量はhsa-miR-6780b-5pの方がhsa-miR-3648よりも多いが、劣化するにつれて存在量が逆転し、hsa-miR-3648の方が多くなる。品質が良好な状態(基準条件下)の体液検体では、hsa-miR-3648の存在量からhsa-miR-6780b-5pの存在量を減算すると負の値をとるが、室温で静置することにより品質が劣化した状態の体液検体では、両者の存在量の差は正の値に増大する。全血状態で室温に3時間以上静置されたことによる体液検体品質の劣化を判定する場合には、例えば、これら2種類のmiRNAの存在量の差の閾値を1に設定し、ある体液検体においてこれらのmiRNAの存在量差がその値を上回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0170】
hsa-miR-3648(配列番号38)およびhsa-miR-6780b-5p(配列番号59)の組み合わせ以外の組み合わせで同様の判定を行なう場合には、2種類の基準miRNAは、表7に示した基準miRNAのうち、低値に推移する基準miRNAから1種類、高値に推移する基準miRNAから1種類を選択すればよい。もっとも、本実施例で述べた基準miRNAの組み合わせに限定されるものではなく、高値に推移する基準miRNAのみを複数、表7より選択して組み合わせ、個々の基準miRNAによる判定結果を総合して体液検体の品質の良否(全血状態で短時間のうちに劣化が生じたか否か)を判定する、ということも可能である。
【0171】
<実施例7>血清状態での劣化を検知できる基準miRNAの選択
(検体調製)
健常人3名よりそれぞれ採血管8本ずつ採血し、全て室温(23℃)で0.5時間静置させた後、遠心分離して血清を得た。1本は、得られた血清を遠心後10分以内に300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した(これを基準条件とする)。残り7本は、得られた血清を室温(24℃)で0.5時間、20℃、22℃、室温(24℃)、26℃、28℃で1時間、及び室温(24℃)で2時間それぞれ静置し、時間到達後、血清を300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0172】
(検体RNAの調製とmiRNA存在量の測定、及び基準miRNAの選択)
実施例3と同様の手順で実施した。但し、精製にはUNIFILTER 96Well(GE ヘルスケア社)を用いた。
【0173】
表8には、34種類(配列番号1~5、8~10、12、13、16、37、38、40~58、60、61)の基準miRNAおよび各条件の基準条件からの存在量の個人間の平均変動値、ならびに、前記した式1、式2により求めた各検体中のmiRNAの全体変動指標値を示した。当該miRNAは、室温での静置時間が長い条件、あるいは28℃以上の温度で静置される条件、すなわち、血清中のmiRNAが比較的不安定な状態で保存される条件において、存在量が2倍以上(底2の対数値の差で1以上)変動した。一般的に、DNAマイクロアレイにおける測定において、存在量2倍の変動は十分な差として考えられる。また、全体変動指標値は、血清の静置温度が高い条件ほど、あるいは、室温での静置時間が長い条件ほど高い値を示し、検体品質劣化の程度が高いことが確認された。このことから、当該miRNAは、体液検体の品質に依存して、その存在量が変動するmiRNA指標として利用できることが確認された。すなわち、表8に示す基準miRNAは、その存在量を測定することによって、体液検体の品質を知ることが可能であることが分かった。
【0174】
【表8】
【0175】
図15に、基準条件と血清状態での静置時間や温度を変化させた条件(計8条件)のhsa-miR-4497(配列番号40)の存在量を示した。hsa-miR-4497(配列番号40)は、劣化の程度が大きくなるにつれて、存在量が高値に推移した。例えば、28℃で1時間以上静置された場合、あるいは24℃で2時間静置された場合の検体品質の劣化を判定する場合には、hsa-miR-4497の存在量13.6を閾値として設定し、ある体液検体中のhsa-miR-4497存在量がその値を上回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0176】
また、図16に、基準条件と血清状態での静置時間や温度を変化させた条件(計8条件)のhsa-miR-744-5p(配列番号9)の存在量を示した。hsa-miR-744-5p(配列番号9)は、劣化の程度が大きくなるにつれて、存在量が低く推移した。例えば、血清で室温において2時間以上静置されたことによる体液検体の品質の劣化を判定する場合には、hsa-miR-744-5pの存在量8.1を閾値として設定し、ある体液検体中のhsa-miR-744-5p存在量がその値を下回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0177】
本実施例7の結果から設定可能な、表8に示す34種類の基準miRNAの閾値の具体例を、基準条件における存在量の平均値と共に下記表9に示した。これらの閾値は、血清保存時などの血清状態で生じた劣化を検知する際の閾値として使用可能な閾値であり、例えば、臨床血液検体から血清を分離した後、凍結保存するまでの間、ないしは凍結させずに保管して発現解析を行なうまでの間に時間を要した場合に、これらの閾値を好ましく用いることができる。品質評価をしたい体液検体中の基準miRNAを測定し、測定値を底が2の対数に変換し、検体間データ標準化のため適切な補正を行なった後の数値を、これらの閾値と比較すればよい。判定をどの程度厳しくするかに応じて、表9に示した閾値±α(αは任意の数値であり、例えば0.5~3程度であってよい)を閾値として設定してもよい。
【0178】
【表9】
【0179】
<実施例8>複数のmiRNAで血清の短時間での劣化を検知
単一のmiRNAではなく、任意の2種類の基準miRNAを組み合わせて体液検体品質の劣化を判定することも可能である。
【0180】
実施例7の基準条件及び、血清で室温(24℃)、2時間静置した条件におけるhsa-miR-4497(配列番号40)およびhsa-miR-744-5p(配列番号9)の存在量を使用した。各条件下でのこれらmiRNAの個別の存在量は図17に示す通りであり、各条件下におけるこれら2種類のmiRNAの存在量差を算出すると図18のようになった。表9及び図17に示すように、hsa-miR-4497は血清状態で生じた検体の劣化により高値に推移するmiRNA、hsa-miR-744-5pは血清状態で生じた検体の劣化により低値に推移するmiRNAであり、劣化していない検体中の存在量はhsa-miR-4497の方がhsa-miR-744-5pよりも多い。品質が良好な状態(基準条件下)の体液検体では、hsa-miR-4497の存在量とhsa-miR-744-5pの存在量の差は小さいが、24℃で2時間静置したことにより品質が劣化した状態の体液検体では、両者の存在量の差は大きくなる。血清状態で24℃に静置されたことによる体液検体品質の劣化を判定する場合には、例えば、これら2種類のmiRNAの存在量の差の閾値を4に設定し、ある体液検体においてこれらのmiRNAの存在量差がその値を上回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
【0181】
hsa-miR-4497(配列番号40)およびhsa-miR-744-5p(配列番号9)の組み合わせ以外の組み合わせで同様の判定を行なう場合には、2種類の基準miRNAは、表9に示した基準miRNAのうち、低値に推移する基準miRNAから1種類、高値に推移する基準miRNAから1種類を選択すればよい。低値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量が、高値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量よりも高く、劣化により両者の存在量が近付く組み合わせの場合には、図6の例のように、存在量の差が任意に定めた閾値を下回った場合に品質不良と判定することができる。これとは逆に、低値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量が、高値に推移する基準miRNAの基準条件下の存在量よりも低く、劣化により両者の存在量が遠ざかる組み合わせの場合には、存在量の差が任意に定めた閾値を上回った場合に品質不良と判定することができる。もっとも、本実施例で述べた基準miRNAの組み合わせに限定されるものではなく、低値に推移する基準miRNAのみを複数、あるいは高値に推移する基準miRNAのみを複数、表9より選択して組み合わせ、個々の基準miRNAによる判定結果を総合して体液検体の品質の良否(血清状態で短時間のうちに劣化が生じたか否か)を判定する、ということも可能である。
【0182】
<実施例9>血清検体の劣化を定量RT-PCRで検出
(血清状態での4℃における長時間静置による劣化検知のための検体調製)
健常人2名よりそれぞれ採血管2本ずつ採血し、全て室温(24℃)で0.5時間静置させた後、遠心分離して血清を得た。1本は、得られた血清を遠心後10分以内に300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した(これを基準条件とする)。残り1本は、得られた血清を4℃で24時間静置させ、時間到達後、血清を300μLずつ分注し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0183】
(検体RNAの調製とmiRNA存在量の測定)
上記のように調製され、冷凍庫に保存された血清を同時に融解し、血清検体に含まれるRNA(以下、検体RNAという。)を抽出した。抽出には、“3D-Gene” RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ(株)製)を用いた。精製には、UNIFILTER 96Well(GE ヘルスケア社)を用いた。
【0184】
2名各2条件のRNAについて、TaqMan(登録商標) Small RNA Assays(Life Technologies社)を用い、同社のプロトコールに従ってhsa-miR-204-3p(配列番号1)の存在量の測定を行った。また、hsa-miR-204-3pの標準物質で希釈系列をつくり、検量線を作成した。得られたCt値とその検量線より各条件でのhsa-miR-204-3pの濃度を算出した。
【0185】
図19に、基準条件と血清状態にて4℃で24時間静置させた条件のhsa-miR-204-3p(配列番号1)の存在量を示した。hsa-miR-204-3pは、劣化の程度が大きくなるにつれて、存在量が高値に推移した。例えば、4℃で24時間以上静置された場合の検体品質の劣化を判定する場合には、hsa-miR-204-3pの存在量0.002atto mole/μLを閾値として設定し、ある体液検体中のhsa-miR-204-3p存在量がその値を上回る場合には劣化、つまりその検体は品質不良であると判定することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
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