(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】医療デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 15/24 20060101AFI20231011BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20231011BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20231011BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20231011BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20231011BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20231011BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20231011BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20231011BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20231011BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20231011BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
A61L15/24 100
G02C7/04
A61L29/04 100
A61L29/12
A61L31/04 110
A61L31/12
A61L31/10
A61L29/08 100
A61L27/34
A61L27/16
A61L27/40
(21)【出願番号】P 2019551481
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2019036066
(87)【国際公開番号】W WO2020095539
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2018211150
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】飯森 弘和
(72)【発明者】
【氏名】北川 瑠美子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智博
(72)【発明者】
【氏名】中村 正孝
【審査官】辰己 雅夫
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材およびポリマー層を有する医療デバイスであって、前記ポリマー層は前記基材表面上の少なくとも一部に設けられており、
前記基材が、次の一般式(1)に由来する単位を含み、
【化1】
一般式(1)中、R
3は水素原子またはメチル基を表す;R
4は炭素数1~20の範囲内の2価の有機基を表す;R
5~R
8はそれぞれ独立に炭素数1~20の範囲内のアルキル基、または炭素数6~20の範囲内のアリール基を表す;R
9は置換されていてもよい炭素数1~20の範囲内のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数6~20の範囲内のアリール基を表す;kは1~200の範囲内の整数を表す;
かつ、次の要件を満たす、医療デバイス:
(a)含水時における医療デバイスの含水率が28質量%以上50質量%以下の範囲内である;
(b)前記基材が2-アルコキシエチル基を有する;
(c)前記ポリマー層が、カルボン酸基含有ポリマー1種類と、アミド構造を有する共重合体の1種類とを含
み、
前記カルボン酸基含有ポリマーが、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリビニル安息香酸、ポリ(チオフェン-3-酢酸)、ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリロイロキシエチル-コハク酸、ポリ(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ポリ(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、ポリ(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、ポリノルボルネンカルボン酸、ポリ(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネートおよびこれらの塩からなる群から選択される1種類以上であり、
前記アミド構造を有する共重合体が、(メタ)アクリル酸/N-ビニルピロリドン共重合体、(メタ)アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N-ビニルピロリドン共重合体、および2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体からなる群から選択される1種類以上である。
【請求項2】
前記2-アルコキシエチル基が、2-メトキシエチル基である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記2-アルコキシエチル基が、2-エトキシエチル基である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記カルボン酸基含有ポリマーの重量平均分子量が10,000以上500,000以下の範囲内である、請求項1~3のいずれかに記載の医療デバイス。
【請求項5】
次の式(I)および式(II)から導出される湿潤値半減期が、160秒以上5000秒以下の範囲内である、請求項1~
4のいずれかに記載の医療デバイス:
Ln(F)=-At+B (I)
湿潤値半減期=Ln(2/A) (II)
ここで、Fは前記MS-DWS法により得られる湿潤値(Fluidity factor)、tは時間(秒)を表す;式(I)は、湿潤値Fの対数と時間tの関係を直線近似したものである;Aは式(I)の近似直線の傾き、Bは切片を表す。
【請求項6】
次の式(III)で表される乾燥弾性率比が0.1以上10以下の範囲内である、請求項1~
5のいずれかに記載の医療デバイス。
乾燥弾性率比=乾燥時における引張弾性率/含水時における引張弾性率 (III)
【請求項7】
前記乾燥時における引張弾性率が0.1MPa以上3.5MPa以下の範囲内である、請求項
6に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記基材が基材形成用組成物の硬化物であって、
前記基材形成用組成物が、2-アルコキシエチル基を有する重合性化合物、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤および分子内水素引き抜き型重合開始剤を含み、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を0.05質量%~0.4質量%の範囲内、かつ分子内水素引き抜き型重合開始剤を、0.2質量%~20質量%の範囲内で含む、
請求項1~
7のいずれかに記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記分子内水素引き抜き型重合開始剤が、メチルベンゾイルフォルメートである、請求項
8に記載の医療デバイス。
【請求項10】
眼用レンズ、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、チューブコネクター、アクセスポートまたは内視鏡用被覆材である、請求項1~
9のいずれかに記載の医療デバイス。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれかに記載の医療デバイスを製造する方法であって、
前記基材を、前記カルボン酸基含有ポリマー1種類を含む溶液中に配置して50℃以上で加熱する工程と、
前記50℃以上で加熱する工程を経た基材を、初期pHを2~6の範囲内に調整したアミド構造を有する共重合体を含む溶液中に配置して60℃以上で加熱する工程とを含む、医療デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスに用いられる材料は、生体と接触することが考えられるため、軟質であることが求められる局面がある。このような軟質材料は、生体内に導入したり、生体表面を被覆したりする用途に用いられる。軟質材料を用いた医療デバイスとしては、コンタクトレンズ、細胞培養シート、組織再生用足場材料および皮膚用の医療用電極などが挙げられる。また、軟質材料は顔用パック等の美容デバイスにも用いられる。
【0003】
医療デバイスを、生体内の粘膜と接触させる場合や、眼に装用させる場合には、生体適合性を向上させるため、表面湿潤性や易滑性といった材料表面の性質を向上させること、すなわち表面改質を行うことが重要である。
【0004】
医療デバイスの表面改質としては特許文献1に記載のような、基材表面上のポリマー層に少なくとも2種類の酸性ポリマーを存在させたものがある。
【0005】
また表面を改質する方法としては、特許文献2に記載のような、反対の荷電を有する2つのポリマー材料を1層ずつ交互に表面層を形成するLbL法(Layer by Layer法)と呼ばれるものがある。そのほか、異なる材料を非共有結合的に結合させてポリマー層を形成する方法(特許文献1)や、熱処理により医療デバイスの表面に2種類の親水性ポリマーを架橋させる方法(特許文献3)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-23374号公報
【文献】特表2005-538767号公報
【文献】特表2014-533381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の方法によって得られた改質された表面は、その水濡れの初期段階においては良好な表面湿潤性や易滑性を得られるものの、実際の使用環境で長時間使用された場合の上記表面特性の維持においては依然課題があった。例えば、上記改質された表面を有する医療デバイスが眼用レンズである場合、想定される使用環境として、冬の乾燥下や夏のエアコン下で長時間使用されることが考えられる。この場合、目の渇きを防止または低減するため、眼用レンズには、その表面湿潤性を長時間維持することが必要であると考えられる。しかしながら現在用いられている眼用レンズにおいて、表面湿潤性を長時間維持することには、依然課題があった。眼用レンズの改質された表面の層は、基材に対して非常に薄い層であることが必要であるため、表面層を厚くし、該表面層に水を保持させることが物理的に可能な他の医療デバイスに較べて、表面湿潤性を長時間維持することが困難であるためである。
【0008】
また皮膚用の医療用電極においても、皮膚との接触抵抗を保つために電極の表面湿潤性を長時間維持できることは重要である。
【0009】
本発明は上記の従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、表面湿潤性を長時間維持できる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は下記の構成を有する。すなわち、
基材およびポリマー層を有する医療デバイスであって、前記ポリマー層は前記基材表面上の少なくとも一部に設けられており、かつ、次の要件を満たす、医療デバイス:
(a)含水時における医療デバイスの含水率が28質量%以上50質量%以下の範囲内である;
(b)前記基材が2-アルコキシエチル基を有する;
(c)前記ポリマー層が、カルボン酸基含有ポリマー1種類と、アミド構造を有する共重合体の1種類とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば表面湿潤性を長時間維持できる医療デバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】レンズ形状の医療デバイスを設置したアルミ台座の上面図である。
【
図2】レンズ形状の医療デバイスを設置したアルミ台座の側面図である。
【
図3】マルチスペックル拡散波分光法(以下、MS-DWS法)による湿潤値(Fluidity factor)測定結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は下記の構成を有する。すなわち、
基材およびポリマー層を有する医療デバイスであって、前記ポリマー層は前記基材表面上の少なくとも一部に設けられており、かつ、次の要件を満たす、医療デバイスである。
(a)含水時における医療デバイスの含水率が28質量%以上50質量%以下の
範囲内である;
(b)前記基材が2-アルコキシエチル基を有する;
(c)前記ポリマー層が、カルボン酸基含有ポリマー1種類と、アミド構造を有する共重合体の1種類とを含む。
【0014】
以後、基材表面上に設けられたポリマー層について、単に、表面ポリマー層と記載することがある。
【0015】
<医療デバイスの含水率>
本発明の医療デバイスは、含水時における含水率が、28質量%以上50質量%以下の範囲内である。
【0016】
医療デバイス全体の含水時における含水率が28質量%以上であることにより、基材の内部から表面ポリマー層への水の通り道が形成され、乾燥状態に置かれても基材内部に存在した水が表面ポリマー層に供給されやすくなる。このため表面湿潤性の保持時間が長い医療デバイスを形成しやすくなるため好ましい。
【0017】
医療デバイス全体の含水時における含水率が50質量%以下であることにより、乾燥に伴い、含水性を担う親水性基が水素結合等に伴う形状変化を引き起こして収縮することを低減することが可能となる。医療デバイス全体の含水時における含水率を50質量%より大きくするためには、医療デバイス内に多くの親水性基を導入する必要がある。親水性基は乾燥にともない材料内で水素結合を発生させる。水素結合の増加によって、医療デバイスが収縮し、さらには材料が硬化するような、形状変化が引き起こされる。
【0018】
ここで、本明細書で用いる「含水時」とは次の状態を意味する。まず、25℃のリン酸緩衝生理食塩水に医療デバイスを1日以上浸漬する。医療デバイスを前記25℃のリン酸緩衝生理食塩水から取り出した後、速やかに2枚の吸水性ガーゼ(例えば“ハイゼ(登録商標)”ガーゼVP-150:小津産業株式会社製)で上下から挟み、軽く押さえ付けて表面の水を取り除く。もう一度同様に2枚の吸水性ガーゼで上下から挟み、軽く押さえ付けて表面の水を取り除く。これらの操作直後の医療デバイスの状態を「含水時」とする。一方、「乾燥時」とは、医療デバイスを真空乾燥機で40℃、16時間以上乾燥させ、当該真空乾燥機から取り出した直後の状態を意味する。また、後述する「含水時」および「乾燥時」それぞれの各種測定データは、上記したそれぞれの操作を終えたあと、速やかに測定に供することにより得られたデータを意味する。
【0019】
<基材>
本発明に用いられる基材は、含水性の基材および非含水性の基材のいずれも使用することができる。なお本発明では含水性とは含水時に含水率が10%以上であること、非含水性とは含水時に含水率が10%未満であることと定義する。
【0020】
なお含水率は含水時の質量(W1)、および乾燥時の質量(W2)を測定し、各測定結果に基づき、次式により含水率を算出できる。
【0021】
含水率(%)=100×(W1-W2)/W1。
【0022】
しかしながら、本発明の医療デバイスは、含水時における含水率が、28質量%以上50質量%以下の範囲内であり、本範囲内の含水率を実現するためには、含水性の基材を用いることが好ましい。
【0023】
含水性の基材としては、ヒドロゲルおよびシリコーンヒドロゲル等を挙げることができる。このうち、シリコーンヒドロゲルは、優れた柔軟性と高い酸素透過性を有するため好ましい。例えば、シリコーンヒドロゲルを眼用レンズの基材として用いた場合には、その柔軟性が優れた装用感を与え、高い酸素透過性がより長時間の装用を可能ならしめるため好ましい。
【0024】
<2-アルコキシエチル基を有する基材>
本発明に用いられる基材は、2-アルコキシエチル基を有する。2-アルコキシエチル基としては、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基、2-イソプロプロポキシエチル基などが挙げられる。中でも、アルコキシ部位における炭素酸素結合濃度がより高く多くの中間水としての水を含有できると考えられ、得られる医療デバイスの表面湿潤性を長時間維持できるという点および弾性率が低く皮膚、眼球に密着して使用する医療機器の場合に追従性に優れる点から、2-メトキシエチル基または2-エトキシエチル基が好ましく、特に2-メトキシエチル基が好ましい。
【0025】
本発明に用いられる基材は、2-アルコキシエチル基を5質量%以上40質量%以下の範囲内で有することがさらに好ましい。基材における2-アルコキシエチル基の含有量は、表面湿潤性の保持時間を長くできるため、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。一方、40質量%以下であれば基材が脆くなりやすくなることがないため好ましく、35質量%以下であればより好ましく、30質量%以下であればより好ましく、25質量%以下であればさらに好ましい。上記した範囲の上限値と下限値に関し、いずれの下限値と、いずれの上限値の組み合わせであってもよい。
【0026】
2-アルコキシエチル基は、中間水を保持することができる。中間水とは、表面に付着しているだけの水と、蒸発しない結晶水との中間の性質を有する水のことである。このため、乾燥した基材の内部の水(特に中間水として保持していた水)を、改質された表面ポリマー層へ供給しやすくなると考えられる。
【0027】
2-アルコキシエチル基を有する基材は、後述の基材形成用組成物を、例えば次に示すような熱や光により硬化する方法により、得ることができる。
【0028】
まず、光や熱により硬化する基材形成用組成物を、形成型に注入する。形成型は樹脂、ガラス、セラミックス、金属等で製作されているが、光重合を用いる場合は重合に用いる波長の光を通す素材、通常は樹脂またはガラスが使用される。続いて、基材形成用組成物を充填した形成型に、紫外線、可視光線またはそれらの組合せ等の活性光線を照射するか、オーブンや液槽に入れて加熱することにより、基材形成用組成物を硬化する。光硬化の後に加熱硬化したり、逆に加熱硬化後に光硬化するなど、両者を併用する方法もあり得る。光硬化の場合は、例えば水銀ランプや蛍光灯、ブラックライト、LED、X線、電子線照射器等の光源から光を短時間(通常は1時間以下)照射するのが一般的である。熱硬化を行う場合には、室温付近から徐々に昇温し、数時間ないし数十時間かけて60℃~200℃の高温まで高めていく条件が、得られる硬化物の均一性および品位を保持し、かつ再現性を高めるために好まれる。
【0029】
また、本発明に用いられる基材形成用組成物は、2-アルコキシエチル基を有する重合性化合物を少なくとも含む。基材形成用組成物は、さらに、その他の重合性原料、非重合性溶媒、重合開始剤、および重合触媒などを含有してもよい。
【0030】
<2-アルコキシエチル基を有する重合性化合物>
2-アルコキシエチル基を有する重合性化合物としては、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル(メタ)アクリレート、2-イソプロポキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、メチル[2-(ビニルオキシ)エチル]エーテルなどを用いることができる。
【0031】
ここで、本明細書で用いる(メタ)という用語は、任意であるメチル置換を示す。したがって、例えば「(メタ)アクリレート」という用語はメタクリレートとアクリレートの両方を表す。「(メタ)アクリルアミド」、「(メタ)アクリロイル」等の用語も同様である。
【0032】
基材を形成する過程で、硬化速度が速く、基材形成を短時間で完了できるという点で、重合性化合物の中でも、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレートおよび2-メトキシエチル(メタ)アクリルアミドが好ましく、特に2-メトキシエチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0033】
基材形成用組成物に含んでもよい、その他の重合性原料としては、次のものが挙げられる。
【0034】
<その他の重合性原料:親水性の重合性化合物>
その他の重合性原料として、親水性の重合性化合物を用いれば、得られる医療デバイスの含水時における含水率を28質量%以上50質量%以下とすることがより容易となるため好ましい。親水性の重合性化合物は5質量%以上50質量%以下の範囲内で基材形成用組成物に含まれることが好ましい。親水性の重合性化合物が5質量%以上であれば、得られる医療デバイスは十分な含水率が得られ、水濡れ性が高くなる。親水性の重合性化合物が50質量%以下であれば、得られる医療デバイスにおいて酸素透過性が低下したり、他の重合性原料との相溶性を欠いて白濁を生じたり、過度の膨潤によってゲルの強度が劣ったりといったことを低減できる。親水性の重合性化合物の含有量の下限値は5質量%が好ましく、8質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましく、12質量%がさらに好ましい。含有量の上限値は50質量%が好ましく、45質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましく、35質量%がさらに好ましい。上限値と下限値はどれとどれを組み合わせてもよい。
【0035】
このような親水性の重合性化合物としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、グリセロールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、およびN-ビニル-N-メチルアセトアミド等の親水性のラジカル重合性基を有する低分子化合物が挙げられる。
【0036】
<その他の重合性原料:直鎖状の重合性シリコーン化合物>
本発明の医療デバイスに用いられる基材は、次の理由により、一般式(1)で表される直鎖状の重合性シリコーン化合物に由来する単位を含むことが好ましい。
【0037】
重合性シリコーン化合物を含む基材形成用組成物を用いることにより、酸素透過性が高く、伸びに優れる医療デバイスを得ることができる。一方、シリコーンが有する疎水性のため、その他の重合性原料等として、親水性の重合性化合物を基材形成用組成物に含む場合には、それらと混和されにくく、その結果、一部の重合性シリコーン化合物が、未反応物として基材に残ることがある。こうした未反応残渣は、生物学的な安全性を考慮したときに、使用環境下において溶出の虞がある点で好ましくない。
【0038】
そこで、末端に重合性基を有する、直鎖状の重合性シリコーン化合物を用いることが好ましい。重合性シリコーン化合物が直鎖状のものであることにより、直鎖状でないバルクの形態をとるような重合性シリコーン化合物に較べて重合反応が進みやすくなり、未反応物が基材に残ることを抑制することが可能となる。また上述の親水性の重合性化合物を基材形成用組成物に含む場合には、直鎖状のシリコーン部分の分子量を、所望の特性を得られる範囲内において、小さくなるよう調整することで、上述の親水性の重合性化合物との混和を容易ならしめることが可能となる。
【0039】
【0040】
一般式(1)中、R3は水素原子またはメチル基を表す。R4は炭素数1~20の範囲内の2価の有機基を表す。R5~R8はそれぞれ独立に炭素数1~20の範囲内のアルキル基、または炭素数6~20の範囲内のアリール基を表す。R9は置換されていてもよい炭素数1~20の範囲内のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数6~20の範囲内のアリール基を表す。kは1~200の範囲内の整数を表す。
【0041】
一般式(1)中、R3は水素原子またはメチル基を表す。これらのうち、入手が容易であるという観点から、メチル基がより好ましい。
【0042】
一般式(1)中、R4は炭素数1~20の2価の有機基を表す。その例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、オクチレン基、デシレン基、ドデシレン基、オクタデシレン基などのアルキレン基、およびフェニレン基、ナフチレン基などのアリーレン基が挙げられる。これらのアルキレン基およびアリーレン基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。R4の炭素数は、20以下であれば親水性モノマーとの相溶性が得られにくくなることを抑制でき、1以上であれば得られる医療デバイスの伸度が低下して破れやすくなるおそれが少なくなる。R4の炭素数は、1~12がより好ましく、2~8が特に好ましい。R4はアルキレン単位が酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよく、炭素に隣接した水素原子が水酸基やアミノ基やハロゲン原子に置換されていてもよい。R4が置換されている場合の好適な置換基の例として、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、エステル、エーテル、アミドおよびこれらの組合せ等の置換基が挙げられる。これらのうち、シリコーン部位の分解が起こりにくい点で好ましいのは水酸基、エステル、エーテルおよびアミドから選ばれた置換基であり、得られる医療デバイスの透明性を高める点でさらに好ましいのは水酸基またはエーテルである。
【0043】
R4のより好適な例として、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基および下記式(a1)~(a4)で表される2価の有機基が挙げられる。
-CH2CH(OH)CH2- (a1)
-CH2CH(OH)CH2OCH2CH2CH2- (a2)
-CH2CH2OCH2CH2CH2- (a3)
-CH2CH2OCH2CH2OCH2CH2CH2- (a4)
中でもプロピレン基および式(a1)~(a4)で表される2価の有機基が好ましく、プロピレン基または式(a2)で表される2価の有機基が特に好ましい。
【0044】
一般式(1)中、R5~R8は、それぞれ独立に、置換されていてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数6以上20以下のアリール基を表す。その例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、エイコシル基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらのアルキル基およびアリール基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。置換されていてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数6以上20以下のアリール基であれば、相対的にシリコーン含有量が減少し、得られる医療デバイスの酸素透過性が低下することを抑制できる。アルキル基またはアリール基の炭素数は、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~4がさらに好ましい。なお、アルキル基またはアリール基が置換されている場合の置換基の例としては、アルデヒド基、カルボキシル基、アルコール基、アルコキシ基、エーテル基、ハロゲン基、アルキレングリコール基、アルキルチオエーテル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、硫酸基、リン酸基を挙げることができる。
【0045】
一般式(1)中、R9は置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、または置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。R9の炭素数は1以上であればポリシロキサン鎖が加水分解しやすくなることを抑制でき、20以下であれば医療デバイスの酸素透過性が低下することを防ぐことができる。炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましい。炭素数1~20のアルキル基および炭素数6~20のアリール基の好適な例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、エイコシル基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらのアルキル基およびアリール基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。なお、アルキル基またはアリール基が置換されている場合の置換基の例としては、アルデヒド基、カルボキシル基、アルコール基、アルコキシ基、エーテル基、ハロゲン基、アルキレングリコール基、アルキルチオエーテル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、硫酸基、リン酸基を挙げることができる。
【0046】
一般式(1)中、kは分布を有していてもよい1以上200以下の整数を表す。kが200以下であれば疎水性であるシリコーン部位が多すぎて親水性モノマーとの相溶性が低下することを抑制しやすい。kが1以上であれば酸素透過性や形状回復性が得られる。kは1以上100以下がより好ましく、2以上50以下がさらに好ましく、3以上20以下が特に好ましい。kの下限値は1が好ましく、2がより好ましく、3がさらに好ましい。また、kの上限値は200が好ましく、100がより好ましく、50がさらに好ましく、20がさらに好ましい。前記下限値と上限値とはどれとどれを組み合わせてもよい。ただし、kが分布を有する場合は、単官能直鎖シリコーンモノマーの数平均分子量に基づいてkを計算し、少数点以下を切り捨てることにより整数とする。基材形成用組成物に用いられる単官能直鎖シリコーンモノマーは1種類でもkの異なる複数種類を組み合わせて用いてもよい。基材形成用組成物に用いられる単官能直鎖シリコーンモノマーは、k以外の化学構造が互いに異なる複数種類の単官能直鎖シリコーンモノマーを組み合わせて用いてもよい。
【0047】
<重合開始剤>
重合開始剤としては、光(紫外線および電子線を含む)または熱により、分解または反応し、ラジカルを発生させる化合物を用いることができる。重合触媒としては、リビングラジカル重合触媒であるルテニウム、銅、鉄、ニッケルを中心金属とした触媒を用いることができる。とくに親水性原料中でも重合が進行するという点でルテニウムのペンタメチルシクロペンタジエニル錯体とアミノアルコールを重合触媒として用いることが好ましい。
【0048】
重合開始剤の具体例としては、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2,4,4-トリメチルペンチル)-フォスフィンオキサイド、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、1-フェニル-1,2-ブタジオン-2-(o-メトキシカルボニル)オキシム、1,3-ジフェニルプロパントリオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)、4,4-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、2-エチルヘキシル-p-ジメチルアミノベンゾエート、p-ジエチルアミノ安息香酸エチル、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4,4-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アルキル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(4-ベンゾイルフェノキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロペンアミニウムクロリド一水塩、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イロキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパナミニウムクロリド、2,2’-ビス(o-クロロフェニル)-4,5,4’,5’-テトラフェニル-1,2-ビイミダゾール、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン、ジフェニルスルフィド誘導体、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、4-ベンゾイル-4-メチルフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,3-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニル-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、p-t-ブチルジクロロアセトフェノン、ベンジルメトキシエチルアセタール、アントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、β-クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4-アジドベンザルアセトフェノン、2,6-ビス(p-アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6-ビス(p-アジドベンジリデン)-4-メチルシクロヘキサノン、ナフタレンスルフォニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、N-フェニルチオアクリドン、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、四臭素化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイルおよびエオシン;メチレンブルーなどの光還元性の色素とアスコルビン酸、トリエタノールアミンなどの還元剤の組み合わせなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0049】
光重合開始剤としては、300nm付近に最大波長を有する安価なLEDランプやブラックライトなどにより重合を開始できるという点で、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤が好ましい。アシルフォスフィンオキサイド化合物の具体例としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2,4,4-トリメチルペンチル)-フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。一方でこれらのアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤は300nm付近の光を吸収することから、基材に多く残存すると黄色化の原因となり、またベンゾイル基を複数有しているため疎水性が高い。このため基材形成用組成物中におけるアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量が高いと、親水性原料とともに光重合する際に析出しやすく、異物となりやすい。2-アルコキシエチル基は非水素結合性の親水性基であることから、得られる基材は水素結合による2次架橋のない含水性の基材となる。そのため、基材が異物を含むと異物を起点に裂けやすい。
【0050】
剥離工程や、レンズ形成後に裂けにくい基材とするために、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の基材形成用組成物における含有量は0.4質量%以下であることが好ましく、さらに0.3質量%以下であることが好ましい。親水性と疎水性の原料を相分離させることなく速やかに重合反応をできるという点で、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は0.05質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。
【0051】
分子内水素引き抜き型重合開始剤は、液体であり、親水性原料とも混合しやすく、裂けにくい基材を形成できるという点で好ましい。水素引き抜き型重合開始剤としては、メチルベンゾイルフォルメート、“Omnirad”(登録商標)754(IGMGroupB.V社製)などがあげられる。一方で水素引き抜き型重合開始剤は、単独では300nm付近に最大波長を有する安価なLEDランプやブラックライトを用いた場合、反応開始効率に劣る。そこで、重合反応における優れた開始効率と、裂けにくく、黄色化しない基材を形成できるという特性を両立できる点で、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と分子内水素引き抜き型重合開始剤を共に基材形成用組成物に含むことが好ましい。
【0052】
アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と分子内水素引き抜き型重合開始剤を併用する場合、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を0.05質量%~0.4質量%の範囲内、かつ分子内水素引き抜き型重合開始剤を、0.2質量%~20質量%の範囲内で含むことが好ましい。基材形成用組成物中の分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は、目的の形状、性質の基材を得ることができるという点で0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が特に好ましい。基材に残存せず、黄色度の低い基材を得ることができるという点で、分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は、20質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
【0053】
<非重合性溶媒>
基材形成用組成物には非重合性溶媒を含有してもよい。非重合性溶媒としては有機系、無機系の各種溶媒が適用可能である。親水性重合性化合物およびその他の重合性原料を溶解しやすく、均質な基材が得られるという点で、非重合性溶媒の含有量は、全ての重合性化合物の総量100質量部に対して、15質量部以上が好ましく、さらには20質量部以上が好ましく、30部以上が特に好ましい。硬化直後に基材内に非重合性溶媒が多く存在すると、その後の工程で取り除かれることにより空隙を生じやすいため、得られる基材の強度を高くしやすいという点で、非重合性溶媒の含有量は、全ての重合性化合物の総量100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0054】
非重合性溶媒の例としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、t-アミルアルコール、テトラヒドロリナロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールおよびポリエチレングリコール等のアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルおよびポリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、乳酸エチルおよび安息香酸メチル等のエステル系溶媒;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタンおよびノルマルオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロへキサンおよびエチルシクロへキサン等の脂環族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;並びに石油系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
<ポリマー層>
本発明の医療デバイスは、基材表面上の少なくとも一部にポリマー層が設けられている。前記ポリマー層は、カルボン酸基含有ポリマー1種類と、アミド構造を有する共重合体の1種類とを含む。
【0056】
本発明の医療デバイスにおいて、「基材表面上の少なくとも一部にポリマー層が設けられている」とは、基材表面の一部にのみポリマー層が設けられていても良いし、基材表面の全体に渡ってポリマー層が設けられていても良いという意味である。例えば、基材表面の皮膚粘着性や表面易滑性が必要とされる部分にポリマー層が設けられていることが好ましい。また、例えば、人体の体表面にある粘膜の一部と接触させて用いられる医療デバイスの場合には、「粘膜と接する側と、粘膜と接しない側(空気と接触する側)の両方の表面にポリマー層を有する場合」や、「粘膜と接しない側(空気と接触する側)の表面の必要な部分にのみにポリマー層が設けられる場合」が想定される。
【0057】
基材表面上の少なくとも一部にポリマー層を形成させる方法としては、基材にポリマー溶液をスプレーコートする方法またはスピンコートする方法が挙げられる。さらに基材の空気と接触する側の表面の必要な部分のみにポリマー層を形成する方法としては、必要な部分以外を、コート時にマスキングする方法が挙げられる。また、基材表面の全体に渡ってポリマー層を形成する方法としては、スプレーコートやスピンコートする方法のほか、ポリマー層を形成するためのポリマー溶液に基材を投入し、加熱することにより基材表面にポリマー層を形成させる方法が挙げられる。
【0058】
本発明において、ポリマー層とは、基材表面上の少なくとも一部に層として形成されるものであり、カルボン酸基含有ポリマー1種類と、アミド構造を有する共重合体の1種類とを含む。ポリマー層は、2種類以上のカルボン酸基含有ポリマーを含んでいてもよいが、1種類のみのカルボン酸基含有ポリマーを含んでいることが特に好ましい。ポリマー層は、2種類以上のアミド構造を有する共重合体を含んでいてもよいが、1種類のみのアミド構造を有する共重合体を含んでいることが特に好ましい。
【0059】
ポリマー層は、基材との間に共有結合により結合されていてもよいが、必ずしも共有結合を有する必要はない。
【0060】
本発明において、「ポリマー1種類」とは、同じモノマー種から合成されるポリマーについては1種類としてカウントすることを意味する。構成するモノマー種が同一であれば、分子量が異なっても、同一種類のポリマーとしてカウントする。異なるモノマー種から合成されるポリマーについては異なる種類のポリマーとしてカウントする。
【0061】
<カルボン酸基含有ポリマー>
カルボン酸基含有ポリマーを構成するモノマーとしては、重合性の高さという点でアリル基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが特に好ましい。
【0062】
カルボン酸基含有ポリマーは、ホモポリマー(単独重合体)であっても共重合体であってもよい。カルボン酸基含有ポリマーが共重合体である場合、カルボン酸基を含まないモノマーを共重合成分として含んでも良い。ただし、アミド構造を有するモノマー単位は含まない。カルボン酸基を高密度で含有できる点で、カルボン酸基含有ポリマーとしては、カルボン酸基を含むモノマー成分のみからなるものが好ましく、ホモポリマーがより好ましい。
【0063】
カルボン酸基含有ポリマーの好適な例としては、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリビニル安息香酸、ポリ(チオフェン-3-酢酸)、ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリロイロキシエチル-コハク酸、ポリ(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ポリ(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、ポリ(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、ポリノルボルネンカルボン酸、ポリ(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネートおよびこれらの塩などがあげられる。
【0064】
また、前記カルボン酸基含有ポリマーの重量平均分子量が10,000以上500,000以下の範囲内であることが好ましい。カルボン酸基含有ポリマーの重量平均分子量は、擦り洗いに対する易滑性の耐久力が高い表面ポリマー層の形成を可能とする点で、10,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがより好ましく、200,000以上であることがさらに好ましい。また、異物とならず均一な表面ポリマー層が形成可能できるという点で、カルボン酸基含有ポリマーの重量平均分子量は、500,000以下であることが好ましく、400,000以下であることがより好ましく、300,000以下であることがさらに好ましい。前記下限値と上限値とは、どれとどれを組み合わせてもよい。
【0065】
上記分子量としては、ゲル浸透クロマトグラフィー法(水系溶媒)で測定されるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量を用いる。
【0066】
<アミド構造を有する共重合体>
アミド構造を有する共重合体としては、アミド構造を有するモノマーをモノマー成分として含む共重合体があげられる。
【0067】
アミド構造を有するモノマーとしては、重合の容易さの点で(メタ)アクリルアミド構造を有するモノマーおよびN-ビニルカルボン酸アミド(環状のものを含む)から選ばれたモノマーが好ましい。かかるモノマーの好適な例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、およびアクリルアミドを挙げることができる。これら中でも易滑性の点で好ましいのは、N-ビニルピロリドンおよびN,N-ジメチルアクリルアミドであり、N,N-ジメチルアクリルアミドが最も好ましい。
【0068】
アミド構造を有する共重合体は、カルボン酸基含有ポリマーとの相溶性が悪いと不均一な析出や白濁の原因となってしまう。このためアミド構造を有する共重合体に含まれる、アミド構造を有するモノマー以外の共重合性モノマーとしては、カルボン酸基、アルコール基、エチレングリコール基などの基を有するモノマーが好ましい。
【0069】
カルボン酸基含有モノマーとしては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、などがあげられる。アルコール基含有モノマーとしてはとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどがあげられる。エチレングリコール基含有共重合モノマーとしては、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0070】
この中でも親水性が高く、少量で親水性を調整できる、カルボン酸基含有モノマーが特に好ましい。
【0071】
アミド構造を有する共重合体としては、(メタ)アクリル酸/N-ビニルピロリドン共重合体、(メタ)アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N-ビニルピロリドン共重合体、および2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体などが挙げられる。最も好ましくは(メタ)アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体である。これらの共重合体にさらに共重合成分を加えた三元共重合体あるいは多元共重合体も好適である。その場合、追加される共重合成分としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-イソプロポキシエチル(メタ)アクリレート等の親水性(メタ)アクリレート類、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、およびアクリルアミド等のアミド構造を有するモノマーが好ましい例として挙げられる。
【0072】
高い表面易滑性と、長時間に渡り表面湿潤性を維持する特性を両立できるという点では、本発明の医療デバイスのポリマー層におけるカルボン酸基含有ポリマーとアミド構造を有する共重合体の含有比率、すなわち下記式(b1)におけるCAは、0.8以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。
CA=アミド構造を有するポリマーの重量/ポリマー層の重量 (b1)。
【0073】
<ポリマー層の形成方法>
基材表面にカルボン酸基含有ポリマー1種類と、アミド構造を有する共重合体の1種類とを含む層を形成する方法としては、ポリマーを含有した溶液中に基材を浸漬加熱する方法、基材にポリマーを含有した溶液をコーティングした後で加熱する方法、などが挙げられる。ポリマーを含有した溶液のコーティング法としては、ディップ法、スプレー法、パッドプリント法、ダイコート法等の種々のコーティング法を適用できるが、水濡れ性、易滑性、および製造工程短縮の観点から、ディップ法、およびスプレー法が好ましい。水濡れ性、易滑性、および製造工程短縮の観点から、ポリマーを含有した溶液中に基材を浸漬加熱する方法が特に好ましい。加熱の方法としては、特に制限されないがオートクレーブ法、熱風法、乾熱法、火炎法等が挙げられ、100℃を超える温度で加熱を行う場合はオートクレーブ法が好ましい。
【0074】
加熱温度は、低過ぎると良好な水濡れ性および易滑性を示す医療デバイス表面が得られず、高過ぎると医療デバイス自体の強度に影響を及ぼすことから、50℃~180℃が好ましく、60℃~140℃がより好ましく、80℃~130℃が最も好ましい。加熱時間は、短すぎると良好な水濡れ性および易滑性を示す医療デバイス表面が得られず、長過ぎると医療デバイス自体の強度に影響を及ぼすことから5分~300分が好ましく、10分~200分がより好ましく、15分~100分がより好ましい。なお上記加熱温度および時間における上限および下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。
【0075】
浸漬加熱する方法を用いる場合、溶液の初期pHの範囲としては、溶液に濁りが生じず、得られる医療デバイス表面の透明性が良好であることから、2.0~6.8が好ましく、2.0~4.0がより好ましく、2.5~3.5が最も好ましい。上記上限および下限はいずれを組み合わせた範囲であってもよい。
【0076】
カルボン酸基含有ポリマー1種類と、アミド構造を有する共重合体の1種類は、一つの工程にて基材表面に層を形成しても良いが、別々の工程で基材表面に層を形成すると、より耐久性の高い表面湿潤性を付与できるという点で好ましい。
【0077】
本発明の医療デバイスを製造する方法としては、次の工程を含むことが好ましい。すなわち、
前記基材を、前記カルボン酸基含有ポリマー1種類を含む溶液中に配置して50℃以上で加熱する工程と、
前記50℃以上で加熱する工程を経た基材を、初期pHを2~6の範囲内に調整したアミド構造を有する共重合体を含む溶液中に配置して60℃以上で加熱する工程と、を含むことが好ましい。
【0078】
第2の工程においては、カルボン酸基含有ポリマー層上にアミド構造を有する共重合体のコンプレックスを形成することができ、長期で耐久性のある層を形成できるという点で初期pHを2~4の範囲内に調整したアミド構造を有する共重合体を含む溶液中80℃以上で加熱することがさらに好ましい。
【0079】
ポリマーを含有する溶液のpHは、pHメーター(例えばpHメーター:KR5E(アズワン株式会社))を用いて測定することができる。ポリマーを含有する溶液の初期pHは、溶液にポリマーおよびその他の添加物を全て添加した後、室温(23~25℃)にて2時間、回転子を用いて撹拌し、溶液を均一とした後に測定したpHの値を指す。pHの値の小数点以下第2位は四捨五入する。
【0080】
加熱処理後、表面にポリマー層が形成された基材を、ポリマーを含まない溶液に浸漬して、さらに上記と同様の加熱処理、また放射線照射などを実施してもよい。この場合の放射線としては、各種のイオン線、電子線、陽電子線、エックス線、γ線、中性子線が好ましく、より好ましくは電子線およびγ線であり、最も好ましくはγ線を用いると良い。
【0081】
<湿潤値半減期>
本発明の医療デバイスは、次の式(I)および式(II)から導出される湿潤値半減期が、160秒以上であることが実際の使用環境で長時間使用された場合でも表面湿潤性を長時間維持できるという点で好ましく、さらに180秒以上であると好ましく、特に200秒以上であるとより好ましい。また表面湿潤性の維持時間について、特に上限範囲は限定されないものの、医療デバイスとしての現実的な表面湿潤性の維持時間として、5000秒以下であることが好ましい。
Ln(F)=-At+B (I)
湿潤値半減期=Ln(2/A) (II)
ここで、Fは前記MS-DWS法により得られる湿潤値(Fluidity factor)、tは時間(秒)を表す。式(I)は、湿潤値Fの対数と時間tの関係を直線近似したものである。Aは式(I)の近似直線の傾き、Bは切片を表す。
【0082】
表面湿潤性の保持時間に関する、マルチスペックル拡散波分光法(以下、MS-DWS法)による湿潤値半減期の求め方について記載する。
【0083】
<マルチスペックル拡散波分光法による測定法>
乾燥工程評価装置(Rheolaser Coating:三洋貿易株式会社販売)のレーザーが発信される場所の真下に15mmの円形状にくり抜いた含水時の医療デバイスを配置し、表面の水滴状の水を取り除いてから10秒後に測定を開始した。MS-DWS法によるFluidity factor(湿潤値)を10分間測定した。含水時の医療デバイスが直径12mm-15mmのレンズ形状の場合、
図1、
図2のように、アルミ台座の上に設置し、同様に10分間Fluidity factor(湿潤値)を測定した。測定条件を以下に示す。レーザーヘッドの最下部から測定サンプルまでの距離を13cmとなるように設置し、レーザーヘッドと測定サンプル(アルミ台座含む)を幅25cm×高さ27cm×奥行き35cmのダンボール箱にてレーザーヘッド面、下面以外の4方向を囲うことにより、光と風を遮り、25℃65%湿度下にて測定を実施した。
【0084】
<湿潤値半減期の求め方>
MS-DWS法により測定された、時間に対する、湿潤値(Fluidity factor)の変化を
図3に示す。Fは湿潤値(Fluidity factor)、tは時間(秒)を表す。この曲線から、エクセル(マイクロソフト製ソフト)を用いて下記の直線近似式(I)を求める。
Ln(F)=-At+B (I)
湿潤値半減期=Ln(2/A) (II)
ここで、Fは前記MS-DWS法により得られる湿潤値(Fluidity factor)、tは時間(秒)を表す。式(I)は、湿潤値Fの対数と時間tの関係を直線近似したものである。Aは式(I)の近似直線の傾き、Bは切片を表す。3回測定し、傾きAの平均値を求める。傾きAの平均値と上記式(II)から湿潤値半減期(秒)を求める。
【0085】
本発明の医療デバイスが、眼用レンズであり、さらに特にソフトコンタクトレンズである場合、コンタクトレンズを長時間装用することにより乾燥感を感じたことがある人が多く、コンタクトレンズの表面湿潤性を長い時間保持することは特に有効である。また皮膚用の医療用電極においても長時間の測定を必要とする場合に、皮膚との接触抵抗を保つために表面湿潤性を長時間保持することは特に有効である。
【0086】
<乾燥弾性率比>
本発明の医療デバイスは、次の式(III)で表される乾燥弾性率比が0.1以上10以下の範囲内であることが好ましい。なお、「含水時」および「乾燥時」の定義は、前記の通りである。
乾燥弾性率比=乾燥時における引張弾性率/含水時における引張弾性率 (III)。
【0087】
本発明の医療デバイスは、乾燥に伴う引張弾性率の変化が少ないことが好ましい。含水時の引張弾性率が前記の好ましい範囲内であり、かつ、乾燥の前後における引張弾性率の変化が小さいことが好ましい。医療デバイスが完全に乾燥した状態においても人体を損傷しにくい程度の柔軟性を有する観点から、式(III)で表される乾燥弾性率比が10以下であることが好ましい。乾燥することにより大幅に弾性率が低下せずに、含水時の取り扱い性を保つことが可能という観点から、乾燥弾性率比が0.1以上であることが好ましい。
【0088】
乾燥弾性率比の下限値は0.1が好ましく、0.5がより好ましく、1がさらに好ましく、1.2がさらに好ましく、1.5が特に好ましい。上限値は10が好ましく、7がより好ましく、5がさらに好ましく、3がさらに好ましく、2.5が特に好ましい。上限値と下限値はどれとどれを組み合わせてもよい。
【0089】
上記の乾燥弾性率比を求めるための、含水時における引張弾性率と、乾燥時における引張弾性率に関し、次に説明する。
【0090】
<含水時における引張弾性率>
本発明の医療デバイスは、含水時における引張弾性率が0.1MPa以上1.5MPa以下の範囲内であることが好ましい。含水時における引張弾性率は0.1MPa以上であれば、医療デバイスの形状を維持することが可能であり、1.5MPa以下であれば、装着時に眼球を刺激して装用感の悪化を招くおそれが低い。下限値は0.1MPa以上であることが好ましく、0.25MPaがより好ましく、0.35MPaがさらに好ましく、0.4MPaがさらに好ましく、0.48MPaが特に好ましい。上限値は1.5MPaが好ましく、1.4MPaがより好ましく、1.2MPaがさらに好ましく、1MPaがさらに好ましい。上限値と下限値はどれとどれを組み合わせてもよい。含水時における引張弾性率は、試験片をリン酸緩衝生理食塩水から取り出した後10秒以内に、室温20℃湿度50%の条件下で表面のリン酸緩衝生理食塩水をきれいな布で軽く拭き取り、その後1分以内に、室温20℃湿度50%の条件下で引張試験機を用いて測定する。
【0091】
<乾燥時における引張弾性率>
本発明の医療デバイスは、乾燥時における引張弾性率が0.1MPa以上3.5MPa以下の範囲内であることが好ましい。「乾燥時」とは真空乾燥機で40℃、16時間以上乾燥させた状態を意味する。乾燥時における引張弾性率は0.1MPa以上であれば十分な追従性が得られやすく、3.5MPa以下であれば乾燥に伴い眼球等の人体の一部を刺激して装用感の悪化や損傷を招くおそれが少ない。下限値は0.35MPaが好ましく、0.4MPaがより好ましく、0.55MPaがさらに好ましく、0.7MPaがさらに好ましく、0.8MPaがさらに好ましい。上限値は3.5MPaが好ましく、2.8MPaがより好ましく、2.4MPaがさらに好ましく、2MPaがさらに好ましく、1.7MPaがさらに好ましく、1.5MPaがさらに好ましい。上限値と下限値は、どれとどれを組み合わせてもよい。乾燥時における引張弾性率は、乾燥機から取り出してから5分以内に、室温20℃湿度50%の条件下で引張試験機を用いて測定することができる。
【0092】
<医療デバイスの態様>
本発明の医療デバイスは、眼用レンズ、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、チューブコネクター、アクセスポートまたは内視鏡用被覆材として好適に用いられる。
【0093】
本発明の好ましい態様において、本発明の医療デバイスは、チューブ状をなしても良い。チューブ状デバイスの例として、医療デバイスは、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、チューブコネクターまたはアクセスポートとして好ましく用いられ得る。
【0094】
また、本発明の別の好ましい態様において、上記医療デバイスは、シート状またはフィルム状をなしても良い。具体的には、上記医療デバイスは、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体または内視鏡用被覆材としても好ましく用いられ得る。
【0095】
本発明のさらに別の好ましい態様において、上記医療デバイスは、収納容器形状を有しても良い。具体的には、上記医療デバイスは、薬剤担体、カフ、または、排液バッグとしても好ましく用いられ得る。
【0096】
本発明のさらに別の好ましい態様において、上記医療デバイスは、レンズ形状を有しても良い。具体的には、眼内レンズ、人工角膜、角膜インレイ、角膜オンレイ、メガネレンズなどの眼用レンズとしても好ましく用いられ得る。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0097】
次に、本発明の好ましい形態について実施例を用いて説明する。
【0098】
実施例で用いたモノマー等の略称を下記する。
MEA:東京化成工業株式会社製、2-メトキシエチルアクリレート
EEMA:東京化成工業株式会社製、2-エトキシエチルメタアクリレート
DMAA:東京化成工業株式会社製、N,N-ジメチルアクリルアミド
164B:2官能性シリコーンモノマー、信越化学工業株式会社製、X-22-164B(α,ω-ジ-(3-メタクリルオキシ-プロピル)-ポリジメチルシロキサン)、官能基当量1600
FM0711:直鎖状の重合性シリコーン化合物、JNC株式会社製“サイラプレーン”(登録商標)(ポリジメチルシロキサンモノメタクリレート)、平均分子量1000。なおFM0711は一般式(1)に該当する化合物であり、R3、R5、R6、R7およびR8はメチル基、R4はn-プロピレン基、R9はn-ブチル基であり、kは10である。
NB:東京化成工業株式会社製 紫外線吸収剤2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール
RB:Arran Chemical Co.LTD製 着色剤Reactive Blue246(1,4-ビス[4-(2-メタクリルオキシエチル)フェニルアミノ]アントラキノン)
IC-819:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製 光開始剤 “イルガキュア”(登録商標)819(フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド)(アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤である。)
MBF:東京化成工業株式会社製 メチルベンゾイルフォルメート(分子内水素引き抜き型重合開始剤である。)
TAA:非重合性溶媒、東京化成工業株式会社製、tert-アミルアルコール。
【0099】
<基材Aの作製>
MEA 2.2g、FM0711 4.3g、DMAA 2.5g、164B 1.0g、NB 0.05g、RB 0.002g、IC-819 0.02g(アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の基材形成用組成物における含有量は0.14質量%)、TAA 4.0gをよく混合した。この混合物をメンブレンフィルター(0.45μm)でろ過して不溶分を除いてモノマー組成物を得た。このモノマー組成物を透明樹脂(ベースカーブ側ポリプロピレン、フロントカーブ側環状ポリオレフィン)製の直径14mm:ベースカーブ8.6mm:厚さ100nmのコンタクトレンズ用モールドに注入し、窒素雰囲気下で蛍光ランプ(東芝、FL-6D、昼光色、6W、4本)を用いて光照射(1.01mW/cm2、20分間)して重合した。重合後に、モールドごとイソプロピルアルコール:水=55:45(混合前の体積比)の混合液中に浸漬して、60℃で1時間加温してモールドからコンタクトレンズ形状の成型体を剥離した。その後、得られた成型体を新しいイソプロピルアルコール:水=55:45(混合前の容積比)に浸漬し、60℃3時間加熱し、抽出を実施した。
【0100】
抽出後の得られた成型体を、イソプロピルアルコール:水=3:7(混合前の容量比)の混合液に室温、30分間浸漬した後、清浄なRO水中に浸漬して一晩静置、保管し基材Aを得た。基材中の2-メトキシエチル基の含有量は10質量%である。
【0101】
<基材Bの作製>
MEAを0.8g、FM0711を5.7gに変更した以外は基材Aの作製と同様にして基材Bを得た。基材中の2-メトキシエチル基の含有量は4質量%である。
【0102】
<基材Cの作製>
MEAを2.8g、FM0711を3.7gに変更した以外は基材Aの作製と同様にして基材Cを得た。基材中の2-メトキシエチル基の含有量は13質量%である。
【0103】
<基材Dの作製>
MEAを6.5gに変更し、FM0711を用いない以外は基材Aの作製と同様にして基材Dを得た。基材中の2-メトキシエチル基の含有量は30質量%である。
【0104】
<基材Eの作製>
MEAを用いずにFM0711を6.5gに変更した以外は基材Aの作製と同様にして基材Eを得た。基材中の2-メトキシエチル基の含有量は0質量%である。
【0105】
<基材Fの作製>
DMAAを1.5g、FM0711を5.3gに変更した以外は基材Aと同様に作製し、基材Fを得た。基材中の2-メトキシエチル基の含有量は10質量%である。
【0106】
<基材Gの作製>
DMAAを5.0g、FM0711を1.8g%に変更した以外は基材Aと同様に作製し、基材Gを得た。基材中の2-メトキシエチル基の含有量は10質量%である。
【0107】
<基材Hの作製>
MEAを3.0g、DMAAを2.5g、164Bを1.0gに変更し、2-ヒドロキシメチルメタアクリレート 3.5gを用いた以外は基材Aと同様に作製し基材Hを得た。基材中の2-メトキシエチル基の含有量は10質量%である。
【0108】
<基材Iの作成>
MEAを用いずに、EEMAを2.2g用いた以外は基材Aと同様に作成し、基材Hを得た。基材中の2-エトキシエチル基の含有量は12質量%である。
【0109】
<基材Jの作成>
TAAを2gに変更した以外は基材Aと同様に作成し基材Jを作成した。基材形成用組成物におけるアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤であるIC-819の含有量は0.17質量%である。基材形成用組成物における分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は0質量%である。
【0110】
<基材Kの作成>
TAAを2gに変更し、IC-819 0.02g(アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤)に加えて、MBF 0.05g(分子内水素引き型重合開始剤)を用いた以外は基材Aと同様に作成し基材Kを得た。基材形成用組成物におけるアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は0.16質量%である。基材形成用組成物における分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は0.41質量%である。
【0111】
<基材Lの作成>
TAAを2gに変更し、IC-819 0.02g(アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤)に加えて、MBF 0.4g(分子内水素引き型重合開始剤)を用いた以外は基材Aと同様に作成し基材Lを得た。基材形成用組成物におけるアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は0.16質量%である。基材形成用組成物における分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は3.21質量%である。
【0112】
<基材Mの作成>
TAA量2gに変更し、IC-819 0.02g(アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤)に加えて、MBF 2.5g(分子内水素引き型重合開始剤)を用い、TAAを2g用いた以外は基材Aと同様に作成し基材Mを得た。基材形成用組成物におけるアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は0.14質量%である。基材形成用組成物における分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は17.2質量%である。
【0113】
<基材Nの作成>
TAAを2g、IC-819を0.05g(アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤)に変更し、さらにMBF 0.05g(分子内水素引き型重合開始剤)を用いた以外は基材Aと同様に作成し基材Nを得た。基材形成用組成物におけるアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は0.41質量%である。基材形成用組成物における分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は0.41質量%である。
【0114】
<基材Oの作成>
TAAを2g、IC-819を0.08g(アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤)に変更し、さらにMBF 0.05g(分子内水素引き型重合開始剤)を用いた以外は基材Aと同様に作成し基材Oを得た。基材形成用組成物におけるアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は0.66質量%である。基材形成用組成物における分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は0.41質量%である。
【0115】
<基材Pの作成>
TAAを2gに変更し、IC-819 0.02g(アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤)に加えて、MBF 0.02g(分子内水素引き型重合開始剤)を用いた以外は基材Aと同様に作成し基材Pを得た。基材形成用組成物におけるアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は0.17質量%である。基材形成用組成物における分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は0.17質量%である。
【0116】
<基材Qの作成>
TAAを2g、IC-819を0.1g(アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤)に変更し、さらにMBF 4g(分子内水素引き型重合開始剤)を用いた以外は基材Aと同様に作成し基材Qを得た。基材形成用組成物におけるアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は0.62質量%である。基材形成用組成物における分子内水素引き抜き型重合開始剤の含有量は24.8質量%である。
【0117】
[実施例1]
1回目の処理として0.5質量%ポリアクリル酸(“Sokalan”(登録商標)PA110S、重量平均分子量250000、BASF社製)水溶液中に前記基材Aを入れ、60℃の熱風オーブン中で30分間加熱を実施した。その後、基材を水溶液中から取り出し、100mLの純水中に浸漬し、揺動させて洗浄した。2回目の処理として1.2質量%のアクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比1/9〔モル比〕、重量平均分子量1040000)リン酸緩衝生理食塩水に硫酸を少しずつ添加してpHを3.0に調整し、このポリマー溶液中に前記基材を入れた後、121℃30分間オートクレーブ中で加熱した。その後、基材をポリマー溶液中から取り出し、100mLの純水中に浸漬し、揺動させて洗浄し、ポリマー層を有するコンタクトレンズを得た。なおポリマー水溶液のpHはpHメーター:KR5E(アズワン株式会社製)により測定を実施しながら調整した。
【0118】
得られたコンタクトレンズについて、以下の(1)~(8)の評価を実施し、表1に結果をまとめた。
【0119】
<分子量測定>
使用したポリマーの分子量は以下に示す条件で測定した。なお、本明細書においては、重量平均分子量をMwと表記する場合がある。また分子量1000を1kDのように表記する場合がある。
【0120】
(GPC測定条件)
装置:島津製作所製 Prominence GPCシステム
ポンプ:LC-20AD、オートサンプラ:SIL-20AHT
カラムオーブン:CTO-20A、検出器:RID-10A
カラム:東ソー社製GMPXW(内径7.8mm×30cm、粒子径13mm)
溶媒:水/メタノール=1/1(0.1N:硝酸リチウム添加)
流速:0.5mL/分
測定時間:30分、サンプル濃度:0.1質量%、注入量:20μL、
標準サンプル:Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD~1258kD)。
【0121】
<リン酸緩衝生理食塩水の作製方法>
2L三角フラスコに塩化ナトリウム16g、塩化カリウム0.4g、リン酸水素二ナトリウム2.88g、リン酸二水素カリウム0.48g、およびRO水2Lを計り取った。ここに撹拌子を入れて良く撹拌し、試薬が溶解したことを確認した後に、ポリエーテルスルフォンフィルター(Merck KGaA社製、250ML EXPRESS PLUS PES 22UM 45MM)と真空ポンプを用いて濾過を行い、リン酸緩衝生理食塩水を得た。
【0122】
(1)含水率測定
コンタクトレンズの含水時の質量(W1)、および乾燥時の質量(W2)を測定した。各測定結果に基づき、次式により含水率を算出した。
含水率(%)=(W1-W2)×100/W1
なお、本発明におけるコンタクトレンズの含水時とは、以下の操作により得られる状態を言う。コンタクトレンズを25℃のリン酸緩衝生理食塩水に1日以上浸漬する。コンタクトレンズを、リン酸緩衝生理食塩水から取り出した後、速やかに2枚の“ハイゼ”ガーゼVP-150(小津産業株式会社製)で上下から挟み、軽く押さえ付けて表面の水を取り除いた。さらにもう一度同様に2枚の“ハイゼ”ガーゼVP-150(小津産業株式会社製)でコンタクトレンズを上下から挟み、軽く押さえ付けて表面の水を取り除いた。これらの操作直後のコンタクトレンズの状態を含水時の状態とした。また、コンタクトレンズの「乾燥時」とは、コンタクトレンズを真空乾燥機で40℃、16時間以上乾燥させ、当該真空乾燥機から取り出した直後の状態を乾燥時の状態とした。
【0123】
(2)水濡れ性評価(初期の水濡れ性)
コンタクトレンズを室温(25℃)でビーカー中のリン酸緩衝生理食塩水に24時間以上浸漬した。その後、コンタクトレンズをリン酸緩衝生理食塩水から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持した際のコンタクトレンズ表面の様子を目視観察し、表面の液膜の保持時間を測定した。ここで、液膜の保持時間とは、コンタクトレンズを垂直になるように保持し始めた時点から、レンズ凸表面を覆っているリン酸緩衝生理食塩水膜の一部が切れ、レンズ表面が完全に液膜に覆われている状態ではなくなるまでの時間である。
【0124】
(3)表面湿潤性の耐久試験
コンタクトレンズを、室温(25℃)でビーカー中のリン酸緩衝生理食塩水に24時間以上浸漬した。その後、コンタクトレンズをリン酸緩衝生理食塩水から引き上げ、親指と人差し指で往復30回表面を擦り洗いした後に、再びリン酸緩衝生理食塩水に浸漬して保管した。翌日以降に、同様の擦り洗いを実施して、合計7日間(往復30回擦り洗い/各日)の擦り洗い実施した後に、コンタクトレンズをリン酸緩衝生理食塩水から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持した際の表面の様子を目視観察し、表面の液膜の保持時間を測定した。
【0125】
(4)易滑性の耐久試験
(3)の試験をした後のコンタクトレンズを、室温でビーカー中のリン酸緩衝生理食塩水に1分以上浸漬した。コンタクトレンズをリン酸緩衝生理食塩水から引き上げ、人指で5回擦った時の感応評価を行った。
A:非常に優れた易滑性がある。
B:AとCの中間程度の易滑性がある。
C:中程度の易滑性がある。
D:易滑性がほとんど無い(CとEの中間程度)。
E:易滑性が無い。
【0126】
(5)湿潤値半減期(表面湿潤性の保持時間に関する、湿潤値測定と湿潤値半減期の求め方)
含水時のコンタクトレンズを13mmの円形状にくり抜き、乾燥工程評価装置(Rheolaser Coating:三洋貿易株式会社販売)のレーザーが発信される場所の真下に配置し、“ハイゼ”ガーゼVP-150(小津産業株式会社製)で表面の水滴状の水を取り除いてから10秒後に測定を開始した。MS-DWS法によるFluidity factor(湿潤値)を10分間測定した。コンタクトレンズが直径12mm-15mmのレンズ形状の場合、
図1、
図2のように、アルミ台座の上に設置し、同様にFluidity factor(湿潤値)を10分間測定した。測定条件を以下に示す。レーザーヘッドの最下部から測定サンプルまでの距離が13cmになるようにサンプルを設置し、レーザーヘッドと測定サンプル(アルミ台座含む)を幅25cm×高さ27cm×奥行き35cmのダンボール箱を用いて、レーザーヘッド面および下面以外の4方向を囲うことにより、光と風を遮り、25℃65%湿度下にて測定を実施した。
【0127】
次に湿潤値半減期の求め方を示す。MS-DWS法により測定された、時間に対する、湿潤値(Fluidity factor)の変化を
図3に示す。Fは湿潤値(Fluidity factor)、tは時間(秒)を表す。この曲線から、エクセル(マイクロソフト製ソフト)を用いて、下記の直線近似式(I)を求めた。
Ln(F)=-At+B (I)
湿潤値半減期=Ln(2/A) (II)
ここで、Fは前記MS-DWS法により得られる湿潤値(Fluidity factor)、tは時間(秒)を表す。式(I)は、湿潤値Fの対数と時間tの関係を直線近似したものである。Aは式(I)の近似直線の傾き、Bは切片を表す。3回測定し、傾きAの平均値を求めた。傾きAの平均値と上記式(II)から湿潤値半減期(秒)を求めた。
【0128】
(6)含水時における引張弾性率
含水時の状態のコンタクトレンズから、最も狭い部分の幅が5mmのアレイ型サンプルを切り出し、ABCデジマチックインジケータ(ID-C112、株式会社ミツトヨ製)を用いて厚みを測定した。次にテンシロン(東洋ボールドウィン社製RTM-100、クロスヘッド速度100mm/分)により、25℃50%湿度下にて、該アレイ型サンプルの最も幅の狭い部分を中心に試験長5mmとして、引っ張ることにより、引張弾性率を測定した。
【0129】
(7)乾燥時における引張弾性率
含水時の状態のコンタクトレンズを用いる代わりに乾燥時の状態のコンタクトレンズを用いて、上記「(6)含水時における引張弾性率」と同様に乾燥時における引張弾性率を測定した。
【0130】
(8)乾燥弾性率比
上記(6)で測定した含水時における引張弾性率と(7)で測定した乾燥時における引張弾性率から下記式(III)を用いて乾燥弾性率比を求めた。
乾燥弾性率比=前記乾燥時における引張弾性率/含水時における引張弾性率・・式(III)。
【0131】
[実施例2~7、比較例1~10]
用いた基材、表面ポリマー層形成に用いるポリマー溶液を表1および表2に示したもの使用した以外は実施例1と同様に実施し、結果を表1および表2に記載した。
【0132】
【0133】
【0134】
溶液A1:0.5質量%ポリアクリル酸水溶液(Mw=250,000)
溶液A2:0.5質量%ポリアクリル酸水溶液(Mw=25,000)
溶液A3:0.5質量%ポリアクリル酸水溶液(Mw=8,000)
溶液A4:1.0質量%ポリピニルアルコール(Mw=30,000)
溶液A5:1.2質量%のアクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合比2/1、Mw=1,040,000)
溶液A6:1.0質量%タマリンドガム水溶液(Mw=470,000)
溶液A7:1.0質量%塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]グァーガム(=ラボーガムCG-M8M)
溶液B1:1.2質量%のアクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合モル比1/9、Mw=1040000)
溶液B2:1.2質量%N,N-ジメチルアクリルアミド重合体Mw=53,000)。
【0135】
[実施例8~15]
用いた基材は表3に示したものを使用し、表面ポリマー層の形成は実施例1と同様にしてコンタクトレンズ形状の医療デバイスを作成し、下記の(9)~(11)の試験を実施し表3に記載した。
【0136】
(9)黄色度測定
コンタクトレンズの黄色度(YI)をカラーコンピューター(スガ試験機株式会社/SM-7-CH)を用いて測定した。測定穴にコンタクトレンズを下に凸となるように、傾きが無いように置き、45/0方式により透過光の黄色値(YI)を測定した。YIの値が小さいほど黄色度が低く良好な結果であり、-であると青みがかった色であるためより好ましい。
【0137】
(10)剥離~抽出でレンズが破損変形した数
基材J~Qの作製工程において、それぞれ16枚作製した際、16枚中、剥離から抽出までの工程においてレンズが破損もしくは変形した数を表3に記載した。数が少ないほど変形や破損が少なく良好な結果である。
【0138】
(11)強度試験
コンタクトレンズ10枚を、手のひら上で指を用いて、それぞれ50回こすり洗いを実施した後、半分に折って親指と薬指で30回もみ洗いを実施し、その後レンズを広げて軽い力で引っ張った。10枚中、裂けたレンズの数を表3に示した。数が少ないほど裂けにくいレンズであり良好な結果を示している。
【0139】
【符号の説明】
【0140】
1:アルミ台座
2:レンズ状の医療デバイス