(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20231011BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20231011BHJP
【FI】
B60L3/00 S
B60L50/61
(21)【出願番号】P 2020008427
(22)【出願日】2020-01-22
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】南部 壮佑
(72)【発明者】
【氏名】杉本 喬紀
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-233396(JP,A)
【文献】特開2013-162704(JP,A)
【文献】特開2007-236151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60W 10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータと、前記駆動モータで用いる電力を蓄積するバッテリと、前記駆動モータで用いる電力を発電するジェネレータと、を備える電動車両の制御装置であって、
前記バッテリからの出力電力を正、前記バッテリに対する入力電力を負とした場合、
前記バッテリの出力限界電力に基づいて前記バッテリからの出力限度電力を、前記バッテリの入力限界電力に基づいて前記バッテリに対する入力限度電力を、それぞれ設定する入出力限度電力設定部と、
前記出力限度電力の値を補正する補正部と、を備え、
前記補正部は、前記バッテリからの実出力電力が前記出力限界電力を正方向に超過した場合に負方向に前記出力限度電力を補正する第1の補正と、前記第1の補正後の前記出力限度電力を前記入力限度電力以上とする第2の補正とを実施する、
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記補正部は、所定の正値を加えた前記入力限度電力が0または負の値を示し、前記第1の補正後の前記出力限度電力が前記所定の正値を加えた前記入力限度電力よりも小さい値を示す際に、前記第1の補正後の前記出力限度電力を前記所定の正値を加えた前記入力限度電力と同じ値とすることで、前記第2の補正を行う、
ことを特徴とする請求項1記載の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記バッテリに対する実入力電力が前記入力限界電力を負方向に超過した場合に正方向に前記入力限度電力を補正する第3の補正を実施する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車両の駆動モータに電力を供給するバッテリを保護するため、当該バッテリに入出力する電力を制限する制御が行われている。
例えば下記特許文献1では、電動車両は、並列接続された2つの蓄電装置と、2つの蓄電装置の間で電力を入出力するように構成された車両駆動用電動機とを備える。制御装置は、2つの蓄電装置の各々の残容量に少なくとも基づいて、各蓄電装置の出力許可電力を設定する。2つの蓄電装置のうちのいずれか1つにおいて、出力許可電力の制限が強化されたときには、制御装置は、蓄電装置全体から出力される電力を、各蓄電装置の出力許可電力を合計した値から、2つの蓄電装置のそれぞれに対応して設定された複数の出力許可電力の最小値を2倍した値に切替える。
また、例えば下記特許文献2では、電子制御ユニット(ECU)は、二次電池の内部状態を動的に推定可能な電池モデルに従って、電池内の各点における内部状態予測値を逐次算出する電池モデル部を含んで構成される。ECUは、この内部状態予測値が局所的にも所定の管理範囲を外れることがないように、二次電池からの出力可能電力(放電電力上限値)および入力可能電力(充電電力上限値)を算出する。負荷の動作は、ECUにより設定された入出力可能電力の範囲内に制限される。
また、例えば下記特許文献3では、短時間に大きな電力を供給又は回収する必要がある要件のときは、バッテリのマージンを小さくし、大電力を供給又は回収するように充放電電流を大きく設定して要求を満たし、かつ、充放電継続時間は短く設定してトータルの充放電量が過大となることを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-183524号公報
【文献】特許第4874633号公報
【文献】特許第3613216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車には、駆動モータで用いる電力を発電するジェネレータを搭載しているものがある。ジェネレータの発電電力は、車両の駆動に必要な駆動電力と互いに参照し合っており、発電電力と駆動電力の一方が減れば他方も減るというループ構造となっている。
ここで、発電電力と駆動電力は、ドライバからの要求駆動力(アクセル操作量等)に加え、バッテリからの出力限度電力およびバッテリに対する入力限度電力に基づいて決定される。本発明者らは、バッテリの制御状態(出力限度電力および入力限度電力の設定状態)によっては、例えばドライバが要求駆動力を大きくするよう指示しているにも関わらず発電電力と駆動電力が大きくならず、ドライバの要求に沿った走行ができなくなる場合があることを見出した。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、バッテリの状態に関わらずドライバの要求に沿った走行を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、請求項1の発明にかかる電動車両の制御装置は、駆動モータと、前記駆動モータで用いる電力を蓄積するバッテリと、前記駆動モータで用いる電力を発電するジェネレータと、を備える電動車両の制御装置であって、前記バッテリからの出力電力を正、前記バッテリに対する入力電力を負とした場合、前記バッテリの出力限界電力に基づいて前記バッテリからの出力限度電力を、前記バッテリの入力限界電力に基づいて前記バッテリに対する入力限度電力を、それぞれ設定する入出力限度電力設定部と、前記出力限度電力の値を補正する補正部と、を備え、前記補正部は、前記バッテリからの実出力電力が前記出力限界電力を正方向に超過した場合に負方向に前記出力限度電力を補正する第1の補正と、前記第1の補正後の前記出力限度電力を前記入力限度電力以上とする第2の補正とを実施する、ことを特徴とする。
請求項2の発明にかかる電動車両の制御装置は、前記補正部は、所定の正値を加えた前記入力限度電力が0または負の値を示し、前記第1の補正後の前記出力限度電力が前記所定の正値を加えた前記入力限度電力よりも小さい値を示す際に、前記第1の補正後の前記出力限度電力を前記所定の正値を加えた前記入力限度電力と同じ値とすることで、前記第2の補正を行う、ことを特徴とする。
請求項3の発明にかかる電動車両の制御装置は、前記補正部は、前記バッテリに対する実入力電力が前記入力限界電力を負方向に超過した場合に正方向に前記入力限度電力を補正する第3の補正を実施する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、バッテリからの実出力電力が出力限界電力を正方向に超過した場合に出力限度電力を負方向に補正する(第1の補正)ので、バッテリの過放電を回避し、バッテリ性能を良好に保つ上で有利となる。また、第1の補正後の出力限度電力が入力限度電力以上になるように補正する(第2の補正)ので、例えばバッテリが低温で入出力性能が低下している場合などに、出力限度電力が入力限度電力よりも小さくなるのを回避し、ジェネレータの発電電力やモータの駆動電力を増加できなくなるのを防止する上で有利となる。
請求項2の発明によれば、入力限度電力に所定の正値を加えた値を出力限度電力とするので、出力限度電力と入力限度電力との差分を確実に確保することができ、出力限度電力が入力限度電力よりも小さくなるのをより確実に回避する上で有利となる。
請求項3の発明によれば、バッテリへの実入力電力が入力限界電力を超過した場合に正方向に入力限度電力を補正するので、バッテリの過充電を回避し、バッテリ性能を良好に保つ上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態にかかる電動車両10の構成を示すブロック図である。
【
図2】駆動電力および発電電力の算出方法を模式的に示す説明図である。
【
図3】補正部206による補正制御を模式的に示す説明図である。
【
図4】補正部206による補正制御を模式的に示す説明図である。
【
図5】入出力限度電力の設定および補正処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる電動車両の制御装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態にかかる電動車両10の構成を示すブロック図である。
電動車両10は、駆動モータ12と、バッテリ14、ジェネレータ16、エンジン18、車両ECU(Electronic Control Unit)20、MCU(Moter Control Unit)22、BMU(Battery Control Unit)24、GCU(Generator Control Unit)26、エンジン(ENG)ECU28を備える。
なお、
図1において、実線は電力線、点線は通信線を示している。
【0009】
駆動モータ12は、電力を用いて稼働し、電動車両10の駆動輪を回転させる。また、駆動モータ12は、電動車両10の減速時には回生発電を行い、回生制動力を発生させる。
バッテリ14は、駆動モータ12を稼働させる電力を蓄積する。バッテリ14で蓄積する電力は、例えば後述するジェネレータ16で発電した電力、駆動モータ12の回生発電により発生した電力、図示しない充電機構により外部電源が接続されて供給される電力などが挙げられる。本実施の形態では、バッテリ14からの出力(放電)電力を正、バッテリ14に対する入力(充電)電力を負として説明する。
ジェネレータ16は、エンジン18により駆動され、駆動モータ12や電動車両10の補機類で用いる電力を発電する。なお、ジェネレータ16で発電した電力のうち、駆動モータ12で使用しない余剰分はバッテリ14に蓄積される。また、ジェネレータ16は、バッテリ14の充電率が小さくなった場合などには、バッテリ14で蓄積するための電力を発電する。
エンジン18は、燃料を燃焼させることによって稼働し、ジェネレータ16の駆動軸を回転させる。また、車両の走行状態に基づきエンジン18によって駆動輪を回転させる、すなわちパラレル走行を可能としてもよい。
【0010】
MCU22は駆動モータ12を、BMU24はバッテリ14を、GCU26はジェネレータ16を、エンジンECU28はエンジン18を、それぞれ制御する。
また、車両ECU20は、MCU22、BMU24、GCU26およびエンジンECU28とそれぞれ接続され、電動車両10全体の制御を司る。すなわち、車両ECU20が電動車両10の制御装置に対応する。なお、
図1では図示を省略しているが、車両ECU20には、アクセルペダルの操作量を検知するアクセルペダルセンサやブレーキペダルの操作量を検知するブレーキペダルセンサ、電動車両10の走行速度を検知する車速センサなどの各種センサ類が接続されている。
また、車両ECU20、MCU22、BMU24、GCU26およびエンジンECU28は、それぞれCPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成されるマイクロコンピュータである。
【0011】
つぎに、車両ECU20の機能的構成について説明する。
車両ECU20は、上記CPUが上記制御プログラムを実行することにより、電力算出部200(駆動電力算出部200A、発電電力算出部200B)、トルク算出部202(駆動トルク算出部202A、発電トルク算出部202B)、入出力限度電力設定部204および補正部206として機能する。
【0012】
電力算出部200は、駆動電力算出部200Aおよび発電電力算出部200Bを備える。
駆動電力算出部200Aは、電動車両10の走行に用いる電力、すなわち駆動モータ12の駆動に要する電力(以下、「駆動電力」という)を算出する。駆動電力は、後述する駆動トルク算出部202AがMCU22に出力する駆動トルクを基に算出される。後述するように、駆動トルクは、アクセルペダルセンサ等から演算したドライバ要求トルクと、出力限度電力および発電電力から算出される。
発電電力算出部200Bは、ジェネレータ16で発電する電力(以下、「発電電力」という)を算出する。より詳細には、発電電力算出部202Bは、出力限度電力と入力限度電力とドライバからの要求出力とに基づいて、ジェネレータ16の発電電力を算出する。
駆動電力算出部200Aと発電電力算出部200Bは、それぞれで算出した駆動電力および発電電力を互いに参照して演算を行っている。
【0013】
図2は、駆動電力および発電電力の算出方法を模式的に示す説明図である。
前提として、駆動電力算出部200Aと発電電力算出部200Bは、それぞれ所定間隔ごとに同期して駆動電力および発電電力を算出しているものとする。
まず、駆動電力の算出方法(
図2上段参照)について説明する。
今回の駆動電力算出タイミングをnとすると、駆動電力算出部200Aは、前回(n-1)の発電電力を発電電力算出部200Bから取得する。また、駆動電力算出部200Aは、現時点におけるバッテリ14の出力限度電力を入出力限度電力設定部204から取得する。なお、出力限度電力とは、バッテリ14から出力(放電)を許容する電力の最大値であり、入出力限度電力設定部204により算出する。また、駆動電力算出部200Aは、電動車両10の補機類での消費電力を取得する。
駆動モータ12で消費可能な電力の上限値(以下、「駆動上限電力」という)は、ジェネレータ16の発電電力+バッテリ14からの出力電力-補機での消費電力となる。
一方で、駆動電力算出部200Aは、ドライバによるアクセル操作状態や電動車両10の走行速度等を参照して、ドライバが要求する駆動トルクを出力するために必要な電力(以下、「ドライバ要求電力」という)を算出する。
駆動トルク算出部206Aは、駆動上限電力のトルク換算値とドライバ要求トルクとのうち、小さい方の値(両者が同一の場合はその同一値)を駆動トルクとし、MCU22に出力する。すなわち、駆動電力算出部200Aは、駆動上限電力を超過しないよう駆動電力を設定することができる。
駆動電力算出部200Aは、駆動上限電力のトルク換算値とドライバ要求トルクとのうち、小さい方の値(両者が同一の場合はその同一値)を駆動トルクとする。すなわち、駆動上限電力を超過しないよう駆動電力を設定することができる。
【0014】
つぎに、発電電力の算出方法(
図2下段参照)について説明する。
発電電力算出部200Bは、今回(n)の駆動電力を駆動電力算出部200Aから取得する。また、発電電力算出部200Bは、現時点におけるバッテリ14の入力限度電力を入出力限度電力設定部204から取得する。なお、入力限度電力とは、バッテリ14に対して入力(充電)を許容する電力の最大値であり、入出力限度電力設定部204により算出する。入力限度電力は負値であるが、便宜上
図2では正値で記載している。また、発電電力算出部200Bは、電動車両10の補機類での消費電力を取得する。
ジェネレータ16で発電が許容される電力の上限値(以下、「発電上限電力」という)は、駆動電力+バッテリ14への入力限度電力+補機での消費電力となる。
一方で、発電電力算出部200Bは、ドライバによるアクセル操作状態や電動車両10の走行速度等を参照して、ドライバが要求する駆動力を出力するために必要な電力(以下、「目標発電電力」という)を算出する。
発電電力算出部200Bは、発電上限電力と目標発電電力とのうち、小さい方の値(両者が同一の場合はその同一値)を発電電力とする。すなわち、発電上限電を超えないよう発電電力を設定することができる。
【0015】
このように、駆動電力と発電電力はお互いを参照して演算されており、発電が減れば駆動が減り、駆動が減れば発電が減るループ構造になっている。
ここで、駆動電力をDRV、発電電力をGEN、補機での消費電力(補機電力)をAUX、出力限度電力をP
out、入力限度電力をP
inとすると、
図2上段の駆動電力DRVは下記式(1)で、
図2下段の発電電力GENは下記式(2)で示される。
DRV=P
out+GEN(n-1)-AUX ・・・(1)
GEN(n)=DRV+P
in×(-1)+AUX ・・・(2)
【0016】
上記式(1)を上記式(2)に代入すると、下記式(3)となる。
GEN(n)=Pout+GEN(n-1)-AUX+Pin×(-1)+AUX ・・・(3)
上記式(3)を整理すると、下記式(4)となる。
GEN(n)-GEN(n-1)=Pout+Pin×(-1) ・・・(4)
【0017】
ここで、ジェネレータ16の発電電力が増加するということは、GEN(n)-GEN(n-1)>0であり、これはPout+Pin×(-1)>0と同意である。
よって、ジェネレータ16の発電電力を増加させるには、Pout>Pinとなっていなければならず、Pout<Pinでは発電電力が減ることがわかる。
【0018】
図1の説明に戻り、トルク算出部202は、駆動トルク算出部202Aおよび発電トルク算出部202Bを備える。駆動トルク算出部202Aは、駆動上限電力のトルク換算値とドライバ要求トルクとのうち、小さい方の値(両者が同一の場合はその同一値)を駆動トルクとし、MCU22に出力する。また、発電トルク算出部202Bは、発電電力算出部202Bで算出された発電電力に基づいてジェネレータ16の駆動トルク(ジェネレータトルク)およびエンジン18の駆動トルク(エンジントルク)を算出し、それぞれGCU26およびENG ECU28に出力する。
【0019】
入出力限度電力設定部204は、バッテリ14からの出力限度電力およびバッテリ14に対する入力限度電力を設定する。上述のように、出力限度電力とは、バッテリ14から出力(放電)を許容する電力の最大値であり、入力限度電力とは、バッテリ14に対して入力(充電)を許容する電力の最大値である。
本実施の形態では、入出力限度電力設定部204は、BMU24から送信されるバッテリ14のSOP(Status Of Power:入出力限界電力)に基づいて出力限度電力および入力限度電力を設定する。SOPは、その時点におけるバッテリ14の出力(放電)限界電力であるSOPoutと、入力(充電)限界電力であるSOPinとがあり、その時々のバッテリ14の電圧、温度、SOC等に基づいてBMU24により算出される。
入出力限度電力設定部204は、BMU24から送信されるSOPoutに対して所定のマージン値を設定した値(例えばSOPoutから正値を引いた値)を出力限度電力、SOPinに対して所定のマージン値を設定した値(例えばSOPinに正値を足した値)を入力限度電力とする。なお、マージン値を0として、入力限界電力=入力限度電力、出力限界電力=出力限度電力としてもよい。
すなわち、出力限度電力≦SOPout、|入力限度電力|≦|SOPin|とする。このように、SOPoutやSOPinを超えない範囲でバッテリ14に対する電力の入出力を行うよう制御することによって、バッテリ14の過放電や過充電を防止することができる。
なお、上記マージン値は固定値であってもよいし、その時々によって変動する値(例えばSOPout、SOPinの絶対値の所定パーセントなど)であってもよい。
【0020】
補正部206は、出力限度電力の値を補正する。より詳細には、補正部206は、バッテリ14からの実出力電力が出力限界電力(SOPout)を正方向に超過した場合に負方向に出力限度電力を補正する第1の補正と、第1の補正後の出力限度電力を入力限度電力以上とする第2の補正とを実施する。
また、補正部206は、バッテリ14に対する実入力電力が入力限界電力(SOPin)を負方向に超過した場合に正方向に入力限度電力を補正する第3の補正を実施する。
【0021】
上述のようにSOPoutやSOPinを超えない範囲で出力限度電力や入力限度電力を設定しても、様々な要因で実際の入出力電力がSOPoutやSOPinを超えてしまう場合がある。上記要因には、例えばモータジェネレータの電力損失や補機等のセンサ誤差等が含まれる。そのような場合に、電動車両10では、補正部206により出力限度電力や入力限度電力を補正して、実際の入出力電力を抑えるようにしている。これが第1の補正(出力限度電力に対する補正)および第3の補正(入力限度電力に対する補正)である。
なお、第1の補正および第3の補正は、例えば一般的なPID制御によって行う。具体的には、例えば実出力電力がSOPoutを超えた場合には、実出力電力とSOPoutとの差分(SOPoutからの超過分)、差分の微分、差分の積分に対して所定の係数をそれぞれ掛けた値を足し合わせ、現在の出力限度電力から差し引くことにより、出力限度電力を補正する。
また、補正部206は、実入出力電力がSOPoutやSOPinを超えなくなると補正を解除し、通常通り入出力限度電力設定部204で設定された入力限度電力に基づく制御へと復帰させる。
【0022】
ここで、例えばバッテリ14の温度が低い時など、バッテリ14の性能が低下している場合には、SOPoutやSOPinの絶対値が小さくなり、出力限度電力と入力限度電力との差も小さくなる。このような状態で第1の補正が行われると、出力限度電力が入力限度電力を下回る可能性がある。
上述のように、ジェネレータ16の発電電力を増加させるには、出力限度電力Pout>入力限度電力Pinとなっていなければならず、補正部206による補正により出力限度電力Pout<入力限度電力Pinとなった状態では、発電電力および駆動電力が増加せず、ドライバの意図通りの出力が行えない可能性がある。
【0023】
そこで、補正部206は、第1の補正後の出力限度電力が入力限度電力以上になるように出力限度電力を補正する。これが上記第2の補正である。具体的には、補正部206は、所定の正値(以下、「最低電力差」という)を加えた入力限度電力が0または負の値を示し、第1の補正後の出力限度電力が最低電力差を加えた入力限度電力よりも小さい値を示す際に、第1の補正後の出力限度電力を最低電力差を加えた入力限度電力と同じ値とする。
【0024】
図3は、第1の補正および第2の補正を模式的に示す説明図である。
図3は、バッテリ14からの実出力電力(実電力)がSOP
outを超えた場合の補正を示すグラフであり、縦軸が電力、横軸が時間を示している。
初期段階T0では、出力限度電力はSOP
outに対して所定のマージン値を設定した値に設定されている(出力限度電力<SOP
out)。また、入力限度電力もSOP
inに対して所定のマージン値を設定した値に設定されている(|入力限度電力|<|SOP
in|)。また、バッテリ14に入出力される実電力は、出力限度電力と一致している(バッテリ14が放電状態にある)。
【0025】
ここで、時刻T1に実電力が急増しSOPoutを超えると、補正部206は出力限度電力を負方向に補正する。すなわち、第1の補正を行う。
第1の補正の結果、出力限度電力が入力限度電力よりも小さくなると(図中の二点破線(補正後:本制御なし)参照)、補正部206は、図中の一点破線(補正後:本制御あり)で示すように、入力限度電力に対して所定の正値(最低電力差)を加えた値を出力限度電力とする第2の補正を行う。すなわち、第2の補正では、第1の補正後の出力限度電力が最低電力差を加えた入力限度電力よりも小さい値を示す際に、第1の補正後の出力限度電力を最低電力差を加えた入力限度電力と同じ値とする。なお、最低電力差を0として、出力限度電力と入力限度電力とを一致させるようにしてもよい。
このように、補正後の出力限度電力の下限値を入力限度電力に基づいて設定することによって、出力限度電力が入力限度電力を下回るのを回避して、補正によりドライバの意図通りの走行ができなくなるのを防止することができる。
なお、第1の補正の結果、出力限度電力が入力限度電力よりも大きい場合には、第2の補正は行わず、そのまま第1の補正のみを行えばよい。
【0026】
図4は、第3の補正を模式的に示す説明図である。
図4は、バッテリ14への実入力電力(実電力)の絶対値がSOP
inを超えた場合の補正を示すグラフであり、縦軸が電力、横軸が時間を示している。
初期段階T0では、入力限度電力はSOP
inに対して所定のマージン値を設定した値に設定されている(|入力限度電力|<|SOP
in|)。また、出力限度電力もSOP
outに対して所定のマージン値を設定した値に設定されている(出力限度電力<SOP
out)。また、バッテリ14は充電状態にあり、バッテリ14に入力される実電力の絶対値は、入力限度電力の絶対値よりも小さくなっている。
【0027】
ここで、時刻T1にバッテリ14に入力される実電力が急増し、その絶対値がSOP
inの絶対値を超えると、補正部206は入力限度電力を正方向に補正する。すなわち、第3の補正を行う。
図3を用いて説明したように、出力限度電力の補正時には、補正後の出力限度電力が入力限度電力以上となるようにした。一方、
図4に示すように、入力限度電力の補正時には、出力限度電力との大小関係に関わらず補正後の入力限度電力が設定される。
図4の例では、補正開始直後の入力限度電力は出力限度電力およびSOP
outを正方向に超えた値となっており、補正後の入力限度電力が出力限度電力よりも正に大きい値となるのを許容する。
これは、入力限度電力の補正が必要となる時、すなわちバッテリ14に対する実入力電力がSOP
inを負方向に超過する時は、バッテリ14に対する充電が行われている状態であり、例えば車両の減速時など大きな駆動力を必要としない状態と考えられる。このような状態では、ジェネレータ16の発電電力を大きくする必要性は低く、入力限度電力が出力限度電力を上回る程度に補正を行ってでもバッテリ14の過充電を確実に防止する方が有益と考えられる。
【0028】
図5は、入出力限度電力の設定および補正処理の手順を示すフローチャートである。
入出力限度電力設定部204は、BMU24からバッテリ14のSOP(SOP
outおよびSOP
in)を取得し(ステップS400)、SOPに基づいて出力限度電力および入力限度電力(入出力限度電力と表記)を設定する(ステップS402)。
バッテリ14からの実出力電力(実電力)がSOP
outを上回る場合(実出力電力>SOP
out、ステップS404:YES)、補正部206は、出力限度電力を負方向に補正する第1の補正を行う(ステップS406)。
第1の補正後の出力限度電力が入力限度電力に所定の正値(α:最低電力差)を加えた値以上である場合(第1の補正後の出力限度電力≧入力限度電力+α、ステップS408:YES)、補正部206は、そのまま第1の補正のみをおこなう。
第1の補正後の出力限度電力が入力限度電力に所定の正値(α)を加えた値より小さい場合(補正値適用後の出力限度電力<入力限度電力+α、ステップS408:No)、補正部206は、第2の補正を行う(ステップS410)。すなわち、出力限度電力を入力限度電力+αとする。
【0029】
また、バッテリ14からの実入力電力(実電力)の絶対値がSOPinの絶対値を超える場合(|実出力電力|>|SOPin|、ステップS412:YES)、補正部206は、入力限度電力を正方向に補正する第3の補正を行う(ステップS414)。
なお、実電力がSOPoutもSOPinも超えない場合は(ステップS412:NO)、補正の必要はないため、ステップS400に戻り、以降の処理をくり返す。
【0030】
以上説明したように、実施の形態にかかる電動車両10の制御装置(車両ECU20)によれば、バッテリ14からの実出力電力が出力限界電力(SOPout)を正方向に超過した場合に出力限度電力を負方向に補正する(第1の補正)ので、バッテリ14の過放電を回避し、バッテリ性能を良好に保つ上で有利となる。また、第1の補正後の出力限度電力が入力限度電力以上になるように補正する(第2の補正)ので、例えばバッテリ14が低温で入出力性能が低下している場合などに、出力限度電力が入力限度電力よりも小さくなるのを回避し、ジェネレータ16の発電電力や駆動モータ12の駆動電力を増加できなくなるのを防止する上で有利となる。
また、実施の形態にかかる電動車両10の制御装置によれば、入力限度電力に所定の正値(最低電力差)を加えた値を出力限度電力とするので、出力限度電力と入力限度電力との差分を確実に確保することができ、出力限度電力が入力限度電力よりも小さくなるのをより確実に回避する上で有利となる。
また、実施の形態にかかる電動車両10の制御装置によれば、バッテリへの実入力電力が入力限界電力を超過した場合に正方向に入力限度電力を補正するので、バッテリの過充電を回避し、バッテリ性能を良好に保つ上で有利となる。特に、補正後の入力限度電力が出力限度電力よりも正に大きい値となるのを許容するので、入力限度電力の補正量を大きくすることができ、より確実に過充電を防止する上で有利となる。
【符号の説明】
【0031】
10 電動車両
12 駆動モータ
14 バッテリ
16 ジェネレータ
18 エンジン
20 車両ECU
200 電力算出部
200A 駆動電力算出部
200B 発電電力算出部
202 トルク算出部
202A 駆動トルク算出部
202B 発電トルク算出部
204 入出力限度電力設定部
206 補正部