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特許7363516モータ制御装置、電動アクチュエータ製品及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】モータ制御装置、電動アクチュエータ製品及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20231011BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20231011BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231011BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20231011BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231011BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
H02P27/06
B62D6/00
B62D5/04
H02P21/22
B62D101:00
B62D119:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020009302
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021118584
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【弁理士】
【氏名又は名称】尾林 章
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 博明
(72)【発明者】
【氏名】皆木 亮
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-078711(JP,A)
【文献】特開2018-057166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
B62D 6/00
B62D 5/04
H02P 21/22
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを制御するモータ制御装置であって、
電源と前記電動モータとの間に直列に接続されて、前記電源から出力される電源電流を前記電動モータに流す駆動電流に変換する駆動素子と、
前記電動モータのモータ回転速度を検出する回転速度検出部と、
前記駆動素子に印加される電圧をインバータ印加電圧として検出するインバータ印加電圧検出部と、
前記電源から前記駆動素子までの電源ライン又はその近傍に配置された部品の部品温度を検出する温度検出部と、
前記部品温度に応じて前記電源が出力する電源電流の上限値を設定する電源電流上限値設定部と、
少なくとも前記モータ回転速度、前記インバータ印加電圧および前記上限値に応じて、前記電動モータに流す駆動電流を制限する駆動電流制限部と、
を備え
前記駆動電流制限部は、前記駆動電流の向きと前記電動モータの回転方向に応じて、前記駆動電流の制限を解除することを特徴とすることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記駆動電流を制御するためのq軸電流指令値及びd軸電流指令値を演算する電流指令値演算部を更に備え、
前記駆動電流制限部は、少なくとも前記モータ回転速度、前記インバータ印加電圧、前記上限値および前記d軸電流指令値に応じて前記q軸電流指令値を制限する、
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記駆動電流制限部は、
前記インバータ印加電圧と前記電源電流に基づく入力電力と、前記電動モータの回転角速度、前記d軸電流指令値および前記q軸電流指令値に基づく出力電力と、損失電力との間に成立する関係に従って、前記q軸電流指令値を制限して前記電源電流を前記上限値以下に制限するためのq軸電流制限値を演算する制限値演算部と、
前記q軸電流指令値を前記q軸電流制限値以下に制限するq軸電流制限部と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記駆動電流制限部は、さらに少なくとも前記電動モータの温度情報及び前記駆動素子の温度情報に応じて前記駆動電流を制限することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1~の何れか一項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御される電動モータと、
を備えることを特徴とする電動アクチュエータ製品。
【請求項6】
請求項1~の何れか一項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置によって制御される電動モータと、
を備え、前記電動モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを制御するモータ制御装置、並びにこのモータ制御装置により制御されるモータを備える電動アクチュエータ製品及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータに大きな電流が流れ続けると、電源から電力を供給する電源ライン又はその近傍に配置された部品及び配線の温度が上昇してそれらが焼損するおそれがある。また、部品の取り付けに用いられている半田が溶融して部品が落下するおそれがある。
下記特許文献1には、相電流の関数の時間平均の最大値に応じて制限値を漸減又は漸増させ、電流指令値を制限値で制限する技術が記載されている。
下記特許文献2には、モータ電流供給のための部品毎に、電流値と過熱保護係数との対応関係を特定する過熱保護特性を記憶しておき、部品を流れる電流に応じた過熱保護係数で電流上限値を漸減又は漸増させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-238293号公報
【文献】特開2014-093832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電源ライン又はその近傍に配置された部品及び配線の温度は、電源ラインを流れる電源電流の大きさに影響され、電源電流の大きさは、電源から駆動素子に印加される印加電圧や電動モータのモータ回転速度に応じて変動する。このため、上記特許文献1のように相電流に応じて設定した制限値で電流指令値を制限すると、不要に電動モータの出力が制限されることがある。
また上記特許文献2の技術は、実際の部品の温度に関わらず、部品を流れる電流に応じて電流上限値を漸減又は漸増させることにより部品の発熱量を抑制する。部品温度が周囲温度に依存することを考慮すると、部品温度を許容温度以下に抑えるには電流上限値にマージンを持たせる必要があり、不要に電動モータの出力が制限されることがある。
【0005】
このため、例えば、車両の電動パワーステアリング装置の電動モータの制御に用いると不要にアシストトルクが制限される。この結果、操向ハンドルをラックエンドまで操舵できなくなり、交差点を曲がりにくくなったり正確に駐車できなくなる等の操舵性能に問題をもたらすおそれがあった。
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、精度の高い電流上限値により過剰な電流制限を回避しながら電源ライン又はその近傍に配置された部品及び配線の温度の上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、電動モータを制御するモータ制御装置が与えられる。モータ制御装置は、電源と電動モータとの間に直列に接続されて、電源から出力される電源電流を電動モータに流す駆動電流に変換する駆動素子と、電動モータのモータ回転速度を検出する回転速度検出部と、駆動素子に印加される電圧をインバータ印加電圧として検出するインバータ印加電圧検出部と、電源から駆動素子までの電源ライン又はその近傍に配置された部品の部品温度を検出する温度検出部と、部品温度に応じて電源が出力する電源電流の上限値を設定する電源電流上限値設定部と、少なくともモータ回転速度、インバータ印加電圧および上限値に応じて、電動モータに流す駆動電流を制限する駆動電流制限部と、を備える。
【0007】
本発明の他の一形態によれば、上記のモータ制御装置と、モータ制御装置によって制御される電動モータと、を備える電動アクチュエータ製品が与えられる。
本発明の更なる他の一形態によれば、上記のモータ制御装置と、モータ制御装置によって制御される電動モータと、を備え、電動モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置が与えられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、精度の高い電流上限値により過剰な電流制限を回避しながら電源ライン又はその近傍に配置された部品及び配線の温度の上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
図2図1のコントローラの機能構成の一例を示すブロック図である。
図3】電源ライン又はその近傍に配置された部品の説明図である。
図4】電源電流の上限値設定テーブルの一例を示す図である。
図5】モータ回転速度に対するq軸電流制限値の特性の説明図である。
図6】駆動電流制限部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図7】回転数入力処理部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図8】q軸電流制限部の一例を示すブロック図である。
図9】実施形態のモータ制御方法の一例のフローチャートである。
図10】シミュレーションに使用した上限値設定テーブルを示す図である。
図11】(a)~(d)は部品温度が60[℃]である場合のシミュレーション結果を示す図である。
図12】(a)~(d)は部品温度が90[℃]である場合のシミュレーション結果を示す図である。
図13】(a)~(d)は部品温度が120[℃]である場合のシミュレーション結果を示す図である。
図14】(a)~(d)は部品温度を変化させた場合のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(構成)
以下の説明では、本発明の実施形態のモータ制御装置が、電動パワーステアリング装置において操舵補助力を発生する多相モータを駆動する場合を説明する。しかし、本発明の実施形態のモータ制御装置はこれに限定されるものではなく、多相モータを駆動する様々なモータ制御装置に適用することができる。
【0012】
実施形態の電動パワーステアリング装置の構成例を図1に示す。操向ハンドル1のコラム軸2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4A及び4B、ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に連結されている。コラム軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ(電動モータ)20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。
【0013】
パワーステアリング装置を制御するコントローラ(ECU:Electronic Control Unit)30には、直流電源であるバッテリ14から電力が供給されると共に、イグニションキー11からイグニションキー信号が入力され、コントローラ30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vhとに基づいて、アシストマップ等を用いてアシスト指令の操舵補助指令値の演算を行い、演算された操舵補助指令値に基づいてモータ20に供給する電流Iを制御する。
【0014】
このような構成の電動パワーステアリング装置において、操向ハンドル1から伝達された運転手のハンドル操作による操舵トルクThをトルクセンサ10で検出し、検出された操舵トルクThや車速Vhに基づいて算出される操舵補助指令値によってモータ20は駆動制御され、この駆動が運転手のハンドル操作の補助力(操舵補助力)として操舵系に付与され、運転手は軽い力でハンドル操作を行うことができる。つまり、ハンドル操作によって出力された操舵トルクThと車速Vhから操舵補助指令値を算出し、この操舵補助指令値に基づきモータ20をどのように制御するかによって、ハンドル操作におけるフィーリングの善し悪しが決まり、電動パワーステアリング装置の性能が大きく左右される。
【0015】
コントローラ30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明するコントローラ30の機能は、例えばプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0016】
なお、コントローラ30を、以下に説明する機能を実現するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラ30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントローラ30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0017】
図2を参照して、実施形態のコントローラ30の機能構成の一例を説明する。コントローラ30は、操舵補助指令値演算部40と、電流指令値演算部41と、電源電流上限値設定部42と、駆動電流制限部43と、減算器44及び45と、比例積分(PI:Proportional-Integral)制御部46と、デューティ(Duty)演算部47と、空間ベクトル変調部48と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部49と、インバータ(INV)50と、3相/2相変換部51と、回転数演算部52を備え、モータ20をベクトル制御で駆動する。
【0018】
操舵補助指令値演算部40は、操舵トルクThや車速Vhに基づいてモータ20に供給する電流の制御目標値(アシスト指令)である操舵補助指令値Irefを決定する。
電流指令値演算部41は、操舵補助指令値Irefとモータ20のモータ回転速度Nrに基づいて、モータ20に供給する電流の目標値である電流指令値をロータ回転座標系のq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0として算出する。電流指令値演算部41は、q軸電流指令値Iq0を駆動電流制限部43へ出力し、d軸電流指令値Id0を駆動電流制限部43と減算器45へ出力する。
【0019】
電源電流上限値設定部42は、バッテリ14からインバータ50までの電源ライン又はその近傍に配置された部品の部品温度Tpに応じて、バッテリ14が出力する電源電流の上限値Ib_limを設定する。
図3を参照して、電源ライン又はその近傍に配置された部品の一例を説明する。インバータ50は、バッテリ14に接続されて直流電力が供給される正極側の電源ラインLppと接地線である負極側の電源ラインLpnとの間に接続されるブリッジを備える。
【0020】
ブリッジは、上アームの駆動素子(スイッチング素子)Q1、Q3及びQ5と、下アームの駆動素子(スイッチング素子)Q2、Q4及びQ6を備える。
バッテリ14から駆動素子Q1~Q6までの電源ラインLpp及びLpn又はその近傍には様々な部品が配置されている。例えば、電源ラインLppには電源電流を遮断するためのリレーRとチョークコイルLが接続されている。電源ラインの近傍とは、電源電流が流れることによる発熱及び熱伝導により、温度上昇が見込まれる範囲である。インバータ50の入力端子に接続されている電解コンデンサC及びその配線は、電源ライン近傍の部品の一例である。以下、電源ライン又はその近傍に配置された部品を「ECU部品」と表記する。
【0021】
温度検出部53は、ECU部品のいずれかの部品温度Tpを検出し、検出信号をコントローラ30へ出力する。ECU部品のうち温度上昇又は度上昇速度が著しい部品温度を検出するように温度検出部53を配置して良い。
また、インバータ印加電圧検出部54は、インバータ50に印加される電圧(インバータ印加電圧)Vrを検出し、検出信号をコントローラ30へ出力する。
【0022】
図2を参照する。駆動電流制限部43は、モータ20のモータ回転速度Nrと、インバータ印加電圧Vrと、d軸電流指令値Id0と、操舵補助指令値Irefに基づいて、バッテリ14が出力する電源電流が上限値Ib_lim以下になるように、q軸電流指令値Iq0を制限する。
駆動電流制限部43はq軸電流指令値Iq0を制限して得られた制限後q軸電流指令値Iq1を、減算器44へ出力する。
電源電流上限値設定部42及び駆動電流制限部43の詳細は後述する。
【0023】
減算器44及び45は、モータ20からフィードバックされたモータ電流iq、idを制限後q軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id0からそれぞれ減じることにより、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを算出する。q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdは、PI制御部46に入力される。
【0024】
PI制御部46は、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを各々0とするような電圧指令値vq、vdを算出する。
デューティ演算部47は、電圧指令値vq、vdに基づいて、インバータ50のPWM制御におけるq軸デューティ指令値及びd軸デューティ指令値を演算する。空間ベクトル変調部48は、dq軸空間のq軸デューティ指令値及びd軸デューティ指令値を、三相デューティ指令値に変換してPWM制御部49に出力する。
【0025】
PWM制御部49は、三相デューティ指令値に応じたデューティ比のPWM信号を、インバータ50の駆動素子Q1~Q6をそれぞれ駆動するゲート信号として生成する。
インバータ50は、PWM制御部49で生成されたゲート信号によって駆動され、モータ20にはq軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdが0になるような電流が供給される。
回転角度検出回路61は、モータ20のモータ角度(回転角)θを検出し、回転数演算部52は、モータ角度θの変化に基づいてモータ20の回転角速度ω及び回転速度Nrを算出する。
【0026】
続いて、電源電流上限値設定部42の詳細を説明する。電源電流上限値設定部42は、温度検出部53が検出したECU部品の部品温度Tpに応じて、許容可能な電源電流の上限値Ib_limを設定する。
例えば、電源電流上限値設定部42は、部品温度Tpと、部品温度Tpにおいて許容可能な上限値Ib_limとを対応付ける上限値設定テーブルを備えてよい。
【0027】
図4に上限値設定テーブルの一例を示す。この例では、部品温度TpがTp1以下の範囲では上限値Ib_limは最大値Ib1を維持し、部品温度TpがTp1よりも高いTp2以上の範囲では、上限値Ib_limは最小値Ib2を維持する。
Tp1以上Tp2以下の範囲では、部品温度Tpが上昇するのに伴い上限値Ib_limが減少する。図4の例では、上限値Ib_limは部品温度Tpの変化に対して非線形に変化するが、線形に変化してもよい。また、上限値Ib_limはステップ上に変化してもよい。
【0028】
例えば上限値設定テーブルは、実験によりECU部品に流れる電源電流とそのときのECU部品の部品温度Tpの温度上昇データを採取し、採取した温度上昇データに基づいて各部品温度Tpにおいて許容可能な電源電流を適宜決定することにより作成してよい。
電源電流上限値設定部42は、温度検出部53が検出した部品温度Tpに対応付けられた上限値を上限値設定テーブルから読み出して、電源電流の上限値Ib_limに設定する。
【0029】
また例えば、電源電流上限値設定部42は、ECU部品の既知の熱容量と部品温度Tpとに基づいてECU部品に発生している熱量を概算し、熱量変化からECU部品の消費電力を推定して、ECU部品の消費電力が許容範囲に収まるように電源電流の上限値Ib_limを算出してもよい。
また例えば、電源電流上限値設定部42は、複数のECU部品の部品温度と各部品温度に対応付けられた上限値設定テーブルから複数の上限値を読み出し、複数の上限値の最小値を電源電流の上限値Ib_limに設定してもよい。
【0030】
続いて、駆動電流制限部43の詳細を説明する。上述の通り駆動電流制限部43は、バッテリ14が出力する電源電流が上限値Ib_lim以下になるように、q軸電流指令値Iq0を制限する。
具体的には、駆動電流制限部43は、モータ回転速度Nrと、インバータ印加電圧Vrと、d軸電流指令値Id0と、上限値Ib_limに基づいてq軸電流制限値Iq_limを演算し、q軸電流指令値Iq0をq軸電流制限値Iq_lim以下に制限する。
【0031】
以下、q軸電流指令値Iq0を制限するq軸電流制限値Iq_limの演算方法の一例を説明する。
モータ20および駆動回路の入力エネルギー、出力エネルギー、損失エネルギーの関係は次式(1)により与えられる。
【数1】
【0032】
上式(1)において、Ibはバッテリ14が出力する電源電流を表し、Rrは電圧が印加される部分の抵抗値(例えばモータ抵抗やインバータ内部抵抗など)を表し、Id及びIqはd軸電流及びq軸電流を表し、Ktはモータ20のトルク定数を表し、Plossは鉄損や摩擦などに起因する損失電力を表す。
上式(1)の電源電流Ibに上限値Ib_limを代入してq軸電流について上式(1)を解くことにより、次式(2)に示すq軸電流制限値Iq_limの演算式を得る。
【0033】
【数2】
【0034】
いま、モータ20の回転角速度ωを回転速度Nを用いて表すと、演算式(2)の演算式は次式(3)の演算式に変形できる。
【0035】
【数3】
【0036】
一方で、q軸電流は操舵補助指令値Irefの最大値Iref_maxを超えることができないため、q軸電流制限値Iq_limは次式(4)の制限も受ける。
【0037】
【数4】
【0038】
駆動電流制限部43は、演算式(2)又は(3)により算出されるq軸電流制限値Iq_limが上式(4)を満たす場合には、演算式(2)又は(3)によりq軸電流制限値Iq_limを算出する。
演算式(2)又は(3)により算出されるq軸電流制限値Iq_limが上式(4)を満たさない場合には、次式(5)によりq軸電流制限値Iq_limを算出する。
【0039】
【数5】
【0040】
図5を参照して、モータ回転速度に対するq軸電流制限値Iq_limの特性の概要を説明する。
モータ回転速度Nが比較的低い範囲(0≦N<N1)では、q軸電流制限値Iq_limは操舵補助指令値Irefの最大値Iref_maxと等しい。この範囲では、q軸電流制限値Iq_limはq軸電流の制限に寄与しない。
モータ回転速度Nが比較的高い範囲(N1≦N)では、モータ回転速度Nが高くなるのに従いq軸電流制限値Iq_limは漸減する。q軸電流制限値Iq_limがq軸電流指令値Iq0よりも小さくなると、q軸電流指令値Iq0はq軸電流制限値Iq_limへ制限される。
【0041】
図6を参照する。駆動電流制限部43は、回転数入力処理部70と、制限値演算部71と、レートリミッタ72と、平滑化部73と、q軸電流制限部74を備える。
回転数入力処理部70は、回転数演算部52から入力されるモータ20の回転速度Nrを処理することにより、q軸電流制限値Iq_limの演算に使用する回転速度信号Nを生成する。
具体的には回転数入力処理部70は、操舵補助指令値Irefの符号とモータ回転速度の符号とを比較し、モータ電流の向きとモータの回転方向の向きとが等しいか否かを判定する。
【0042】
モータ電流の向きとモータの回転方向の向きとが異なる場合には、操向ハンドル1が切り戻し操舵状態である。この場合にはモータ電流の向きと逆起電力の向きによりモータ20は回生状態となる。このためバッテリ14から流れる電流が小さくなるかモータ20が発電状態となるため、電源電流を制限する必要は無い。
【0043】
したがって回転数入力処理部70は、操舵補助指令値Irefの符号とモータ回転速度の符号とが異なる場合には、回転速度信号Nとして回転速度0を出力する。上記のとおりモータ回転速度が0の場合には、q軸電流制限値Iq_limがq軸電流の制限に寄与しない。回転数入力処理部70は、モータ電流の向きとモータの回転方向の向きが異なる場合、回転速度信号Nを0に設定してq軸電流の制限を解除する。
【0044】
図7を参照する。回転数入力処理部70は、符号判定部(sgn)90及び91と、操舵状態判定部92と、絶対値算出部(abs)93と、選択器94を備える。
符号判定部90及び91は、回転数演算部52が算出したモータ20の回転速度Nrと、操舵補助指令値Irefの符号を判定する。符号判定部90及び91は、回転速度Nr及び操舵補助指令値Irefの符号を操舵状態判定部92へ出力する。
【0045】
操舵状態判定部92は、回転速度Nr及び操舵補助指令値Irefの符号が等しいか否かに応じて、操向ハンドル1が切り増し操舵状態であるか切り戻し操舵状態であるかを判定する。具体的には、回転速度Nr及び操舵補助指令値Irefの符号が等しい場合に、操舵状態判定部92は、操向ハンドル1が切り増し操舵状態であると判定する。回転速度Nr及び操舵補助指令値Irefの符号が異なる場合に、操舵状態判定部92は、操向ハンドル1が切り戻し操舵状態であると判定する。
【0046】
操向ハンドル1が切り増し操舵状態である場合に、操舵状態判定部92は選択信号「1」を選択器94に出力する。操向ハンドル1が切り戻し操舵状態である場合に、操舵状態判定部92は選択信号「0」を選択器94に出力する。
絶対値算出部93は、回転速度Nrの絶対値|Nr|を算出する。操舵状態判定部92は選択信号「1」を出力する場合、選択器94は絶対値|Nr|を選択して回転速度信号Nとして出力する。操舵状態判定部92は選択信号「0」を出力する場合、選択器94は回転速度0を選択して回転速度信号Nとして出力する。
【0047】
図6を参照する。制限値演算部71は、演算式(2)及び(5)によりq軸電流制限値Iq_limを算出する。
制限値演算部71は、係数乗算器75、76及び77と、項演算部78及び79と、加算器80及び81と、平方根演算部82及び83と、リミッタ84と、乗算器85と、減算器86と、制限値選択部87を備える。
【0048】
係数乗算器75は、回転数入力処理部70が出力した回転速度信号Nに係数(2π/60)を乗算して回転角速度ωを算出して、係数乗算器76及び項演算部78に出力する。
係数乗算器76は、回転角速度ωと係数「-Kt」の積(-Kt・ω)を算出して加算器81へ出力する。
項演算部78は、演算式(2)に含まれる項(Kt・ω)を算出して加算器80へ出力する。
【0049】
項演算部79は、演算式(2)に含まれる項(-4・Rr・(Rr・Id0-Vr・Ib_lim+Ploss))を算出して加算器80へ出力する。ここで、Idにはd軸電流指令値Id0が代入されている。
加算器80は、項演算部78及び79の演算結果を加算する。平方根演算部82は加算器80の加算結果の平方根
【0050】
【数6】
【0051】
を算出して、加算器81に出力する。
加算器81は、係数乗算器76の乗算結果と平方根演算部82の演算結果を加算する。係数乗算器77は、加算器81の加算結果に係数(1/(2・Rr))を乗算して、演算式(2)の右辺の項
【0052】
【数7】
【0053】
を得る。リミッタ84は、係数乗算器77の乗算結果の上限値を制限してq軸電流制限値候補Iq_lim1を算出し、制限値選択部87へ出力する。
一方で、乗算器85はd軸電流指令値Id0の二乗値Id0を算出し、減算器86は、二乗値Id0を操舵補助指令値Irefの最大値Iref_maxの二乗値Iref_maxから減算する。平方根演算部83は、減算器86の減算結果の平方根を演算して、演算式(5)の右辺の項
【0054】
【数8】
【0055】
を算出し、q軸電流制限値候補Iq_lim2として制限値選択部87へ出力する。
制限値選択部87は、q軸電流制限値候補Iq_lim1及びIq_lim2のうちいずれか小さい値を選択して、q軸電流制限値Iq_lim3としてレートリミッタ72に出力する。
【0056】
レートリミッタ72は、q軸電流制限値Iq_lim3の過渡的な変動を緩和する。
操向ハンドル1の操舵状態が切り増し操舵状態と切り戻し操舵状態との間で切り替わると、回転数入力処理部70が回転速度信号Nを切り替えるために、q軸電流制限値Iq_lim3の値が急激に変化する。この結果、q軸電流制限値の出力値の急激な変化が発生したりチャタリングが発生するおそれがある。
レートリミッタ72は、q軸電流制限値Iq_lim3の過渡的な変動を緩和して得られるq軸電流制限値Iq_lim4を生成して、平滑化部73へ出力する。
【0057】
例えばレートリミッタ72は、今回の制御周期で入力したq軸電流制限値Iq_lim3から前回の制御周期で出力したq軸電流制限値Iq_lim4を減算して得られる差分が、正値の立ち上がり閾値RISE_RATEよりも大きい場合には、前回の制御周期で出力したq軸電流制限値Iq_lim4と立ち上がり閾値RISE_RATEとの和を、q軸電流制限値Iq_lim4として出力する。
【0058】
またレートリミッタ72は、今回の制御周期で入力したq軸電流制限値Iq_lim3から前回の制御周期で出力したq軸電流制限値Iq_lim4を減算して得られる差分が、負値の立ち下がり閾値FALL_RATEよりも小さい場合には、前回の制御周期で出力したq軸電流制限値Iq_lim4と立ち下がり閾値FALL_RATEとの和を、q軸電流制限値Iq_lim4として出力する。
今回の制御周期で入力したq軸電流制限値Iq_lim3から前回の制御周期で出力したq軸電流制限値Iq_lim4を減算して得られる差分が、立ち下がり閾値FALL_RATE以上立ち上がり閾値RISE_RATE以下の場合には、入力したq軸電流制限値Iq_lim3をそのままq軸電流制限値Iq_lim4として出力する。
【0059】
平滑化部73は、q軸電流制限値Iq_lim4を平滑化することにより、回転速度信号Nの切り替え時のq軸電流制限値の出力値の急激な変化を緩和し、チャタリングを除去する。
例えば、平滑化部73は、q軸電流制限値Iq_lim4の時間加重平均値を算出するフィルタであってよい。平滑化部73は、q軸電流制限値Iq_lim4を平滑化して得られた最終的なq軸電流制限値Iq_limを、q軸電流制限部74へ出力する。
【0060】
q軸電流制限部74は、電流指令値演算部41から出力されるq軸電流指令値Iq0を、q軸電流制限値Iq_lim以下の値に制限する。q軸電流制限部74は、q軸電流指令値Iq0を制限して得られる制限後q軸電流指令値Iq1を出力する。
図8を参照する。q軸電流制限部74は、符号反転器100と、比較器101及び102と、選択器103及び104を備える。
比較器101は、q軸電流指令値Iq0と正値のq軸電流制限値Iq_limとを比較する。q軸電流指令値Iq0が正値のq軸電流制限値Iq_lim以上の場合、比較器101は、選択信号「1」を選択器103に出力する。q軸電流指令値Iq0が正値のq軸電流制限値Iq_lim未満の場合、比較器101は、選択信号「0」を選択器103に出力する。
【0061】
符号反転器100は、q軸電流制限値Iq_limの符号を反転して負値のq軸電流制限値(-Iq_lim)を出力する。比較器102は、q軸電流指令値Iq0と負値のq軸電流制限値(-Iq_lim)とを比較する。q軸電流指令値Iq0が負値のq軸電流制限値(-Iq_lim)以下の場合、比較器102は、選択信号「1」を選択器104に出力する。q軸電流指令値Iq0が負値のq軸電流制限値(-Iq_lim)より大きいの場合、比較器102は、選択信号「0」を選択器104に出力する。
【0062】
比較器101が選択信号「1」を出力する場合(すなわちq軸電流指令値Iq0が正値のq軸電流制限値Iq_lim以上の場合)、選択器103はq軸電流制限値Iq_limを選択して選択器104に出力する。
比較器101が選択信号「0」を出力する場合(すなわちq軸電流指令値Iq0が正値のq軸電流制限値Iq_lim未満の場合)、選択器103はq軸電流指令値Iq0を選択して選択器104に出力する。
【0063】
比較器102が選択信号「1」を出力する場合(すなわちq軸電流指令値Iq0が負値のq軸電流制限値(-Iq_lim)以下の場合)、選択器104は負値のq軸電流制限値(-Iq_lim)を選択して制限後q軸電流指令値Iq1として出力する。
比較器102が選択信号「0」を出力する場合(すなわちq軸電流指令値Iq0が負値のq軸電流制限値(-Iq_lim)より大きいの場合)、選択器104は選択器103の出力を選択して制限後q軸電流指令値Iq1として出力する。以上により、制限後q軸電流指令値Iq1は、正値のq軸電流制限値(Iq_lim)以下及び負値のq軸電流制限値(-Iq_lim)以上の値に制限される。
【0064】
なお、バッテリ14は特許請求の範囲に記載される電源の一例である。コントローラ30、温度検出部53、インバータ印加電圧検出部54、及び回転角度検出回路61は、特許請求の範囲に記載されるモータ制御装置の一例である。回転角度検出回路61及び回転数演算部52は、特許請求の範囲に記載される回転速度検出部の一例である。
【0065】
(変形例)
上記の実施形態では、演算式(2)又は(3)の抵抗Rr及びトルク定数Ktを固定の定数としてq軸電流制限値Iq_limを演算したが、本発明はこれに限定されるものではない。
制限値演算部71は、モータ20の温度情報を取得し、モータ20の温度情報に応じて抵抗Rr及びトルク定数Ktを変化させてもよい。すなわち制限値演算部71は、モータ20の温度情報に応じてq軸電流制限値Iq_limを演算してもよい。
また、インバータ50の温度情報を取得し、インバータ50の温度情報に応じて抵抗Rrを変化させてもよい。すなわち制限値演算部71は、インバータ50の温度情報に応じてq軸電流制限値Iq_limを演算してもよい。
【0066】
(動作)
図9を参照して、実施形態のモータ制御方法の一例を説明する。
ステップS1において回転角度検出回路61と回転数演算部52は、モータ20の回転速度Nrを検出する。
ステップS2においてインバータ印加電圧検出部54は、インバータ50への印加電圧であるインバータ印加電圧Vrを検出する。
【0067】
ステップS3において温度検出部53は、ECU部品のいずれかの部品温度Tpを検出する。
ステップS4において電源電流上限値設定部42は、ECU部品の部品温度Tpに応じて、バッテリ14が出力する電源電流の上限値Ib_limを設定する。
ステップS5において電流指令値演算部41は、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を算出する。
【0068】
ステップS6において制限値演算部71、レートリミッタ72及び平滑化部73は、モータ20のモータ回転速度Nrと、インバータ印加電圧Vrと、d軸電流指令値Id0と、操舵補助指令値Irefに基づいて、バッテリ14が出力する電源電流が上限値Ib_lim以下になるようにq軸電流指令値Iq0を制限するためのq軸電流制限値Iq_limを演算する。
【0069】
ステップS7においてq軸電流制限部74は、q軸電流指令値Iq0をq軸電流制限値Iq_limで制限することにより、制限後q軸電流指令値Iq1を演算する。
ステップS8においてコントローラ30は、d軸電流指令値Id0と制限後q軸電流指令値Iq1に基づいてモータ20を駆動する。
【0070】
(シミュレーション結果)
以下、本実施形態のモータ制御装置の動作のシミュレーション結果を記載する。図10に、シミュレーションに使用した電源電流の上限値設定テーブルの一例を示す。この上限値設定テーブルでは、部品温度Tpが60[℃]以下の範囲では上限値Ib_limは最大値Ib1[A]を維持する、部品温度Tpが120[℃]以上の範囲では、上限値Ib_limは最小値Ib1*5/7[A]を維持する。60[℃]以上120[℃]以下の範囲では、部品温度Tpが上昇するのに伴い上限値Ib_limが線形的に減少して、部品温度Tpが90[℃]のときの上限値Ib_limはIb1*3/7[A]である。
【0071】
図11の(a)~(d)、図12の(a)~(d)及び図13の(a)~(d)は、異なる部品温度Tpにおいてモータ回転速度を変化させた場合の制限後q軸電流指令値Iq1と電源電流のシミュレーション結果を示す。
図11の(a)、図12の(a)及び図13の(a)は、制限後q軸電流指令値Iq1の変化を示し、図11の(b)、図12の(b)及び図13の(b)は、電源電流の変化を示す。
【0072】
図11の(c)、図12の(c)及び図13の(c)は、シミュレーション条件として設定したモータ回転速度の変化を示し、図11の(d)、図12の(d)及び図13の(d)は、シミュレーション条件として設定した部品温度Tpを示す。
その他のシミュレーション条件として、インバータ印加電圧Vrを12[V]に設定し、操舵補助指令値Irefを操舵補助指令値Irefの最大値Iref_max[A]に設定した。
【0073】
図11の(a)~(d)は、部品温度Tpが60[℃]である場合のシミュレーション結果を示す。図10に示すように部品温度Tpが60[℃]である場合に電源電流の上限値Ib_limはIb1[A]に設定される。モータ回転速度を0[rpm]から5000[rpm]まで増加させた条件下で、上限値Ib_lim=Ib1[A]に基づいて制限後q軸電流指令値Iq1が適切に制限され、電源電流がIb1[A]以下に抑えられていることが確認できる。
【0074】
図12の(a)~(d)は、部品温度Tpが90[℃]である場合のシミュレーション結果を示す。図10に示すように部品温度Tpが90[℃]である場合に電源電流の上限値Ib_limはIb1*5/7[A]に設定される。モータ回転速度を0[rpm]から5000[rpm]まで増加させた条件下で、上限値Ib_lim=Ib1*5/7[A]に基づいて制限後q軸電流指令値Iq1が適切に制限され、電源電流がIb1*5/7[A]以下に抑えられていることが確認できる。
【0075】
図13の(a)~(d)は、部品温度Tpが120[℃]である場合のシミュレーション結果を示す。図10に示すように部品温度Tpが120[℃]である場合に電源電流の上限値Ib_limはIb1*3/7[A]に設定される。モータ回転速度を0[rpm]から5000[rpm]まで増加させた条件下で、上限値Ib_lim=Ib1*3/7[A]に基づいて制限後q軸電流指令値Iq1が適切に制限され、電源電流がIb1*3/7[A]以下に抑えられていることが確認できる。
【0076】
図14の(a)~(d)は、インバータ印加電圧Vrが12[V]で操舵補助指令値Irefが操舵補助指令値Irefの最大値Iref_max[A]であるシミュレーション条件下において、60[℃]~120[℃]の範囲において部品温度Tpを台形波状に繰り返し変化させた場合のシミュレーション結果を示す。図14の(a)~(d)は、それぞれ制限後q軸電流指令値Iq1のシミュレーション結果、電源電流のシミュレーション結果、モータ回転速度のシミュレーション条件、部品温度のシミュレーション条件を示す。
モータ回転速度を0[rpm]から5000[rpm]まで増加させた条件下で、部品温度Tpに応じた上限値Ib_limに基づいて制限後q軸電流指令値Iq1が適切に制限され、電源電流がIb1[A]~Ib1*3/7[A]の範囲に動的に抑えられていることが確認できる。
【0077】
(実施形態の効果)
(1)モータ20を制御するモータ制御装置は、電源であるバッテリ14とモータ20との間に直列に接続されて、バッテリ14から出力される電源電流をモータ20に流す駆動電流に変換する駆動素子Q1~Q6と、モータ20のモータ回転速度を検出する回転角度検出回路61及び回転数演算部52と、インバータ50への印加電圧であるインバータ印加電圧Vrを検出するインバータ印加電圧検出部54と、バッテリ14から駆動素子Q1~Q6までの電源ライン又はその近傍に配置された部品の部品温度Tpを検出する温度検出部53と、部品温度Tpに応じてバッテリ14が出力する電源電流の上限値Ib_limを設定する電源電流上限値設定部42と、少なくともモータ回転速度、インバータ印加電圧Vrおよび上限値Ib_limに応じて、モータ20に流す駆動電流を制限する駆動電流制限部43と、を備える。
【0078】
このように、電源ライン又はその近傍に配置された部品の部品温度Tpに応じて許容できる電源電流の上限値Ib_limを設定し、電源電流が上限値Ib_lim以下に制限されるようにモータ20の駆動電流を制御することにより、精度の高い上限値により過剰な電流制限を回避しながら電源ライン又はその近傍に配置された部品の部品温度Tpの上昇を抑制できる。
また例えば、電源電流上限値設定部42は、複数のECU部品の部品温度と各部品温度に対応付けられた上限値設定テーブルから複数の上限値を読み出し、複数の上限値の最小値を電源電流の上限値Ib_limに設定してもよい。このようにすることで、各部品の温度特性に応じて効果的に温度上昇を抑制できる。
例えば電動モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置の場合、操向ハンドル1をラックエンドまで操舵できるように制御しつつ、部品温度Tpの上昇を抑制できる。
【0079】
(2)モータ制御装置は、駆動電流を制御するためのq軸電流指令値及びd軸電流指令値を演算する電流指令値演算部41を更に備えてもよい。駆動電流制限部43は、少なくともモータ回転速度、インバータ印加電圧、上限値およびd軸電流指令値に応じてq軸電流指令値を制限してよい。
このように、電源電流が上限値Ib_lim以下に制限されるようにq軸電流指令値を制御することにより、過剰な電流制限を回避しながら電源ライン又はその近傍に配置された部品の部品温度Tpの上昇を抑制できる。
【0080】
(3)駆動電流制限部43は、インバータ印加電圧と電源電流に基づく入力電力と、モータの回転角速度、d軸電流指令値およびq軸電流指令値に基づく出力電力と、損失電力との間に成立する関係に従って、q軸電流指令値を制限して電源電流を上限値以下に制限するためのq軸電流制限値を演算する制限値演算部71と、q軸電流指令値をq軸電流制限値以下に制限するq軸電流制限部74と、を備えてもよい。
このように演算されたq軸電流制限値でq軸電流指令値を制限することにより、電源電流を正確に上限値Ib_lim以下に制限できる。
【0081】
(4)駆動電流制限部43は、さらにモータ20の温度情報に応じて駆動電流を制限してもよい。これにより、モータ20の温度によるトルク定数や抵抗値の変化を考慮することができ、より正確に電源電流を制限できる。
駆動電流制限部43は、さらにインバータ50の温度情報を取得し、インバータ50の温度情報に応じて抵抗Rrを変化させてもよい。
【0082】
(5)駆動電流制限部43は、駆動電流の向きとモータの回転方向に応じて、駆動電流の制限を解除する。これにより、モータ20が回生状態となる場合(例えば操向ハンドル1が切り戻し操舵状態である場合等)に不要な電流制限を解除することができる。
【符号の説明】
【0083】
1…操向ハンドル、2…コラム軸、3…減速ギア、4A、4B…ユニバーサルジョイント、5…ピニオンラック機構、6…タイロッド、10…トルクセンサ、11…イグニションキー、12…車速センサ、14…バッテリ、20…モータ、30…コントローラ、40…操舵補助指令値演算部、41…電流指令値演算部、42…電源電流上限値設定部、43…駆動電流制限部、44、45、86…減算器、46…比例積分制御部、47…デューティ演算部、48…空間ベクトル変調部、49…PWM制御部、50…インバータ、52…回転数演算部、53…温度検出部、54…インバータ印加電圧検出部、61…回転角度検出回路、70…回転数入力処理部、71…制限値演算部、72…レートリミッタ、73…平滑化部、74…q軸電流制限部、75、76、77…係数乗算器、78、79…項演算部、80、81…加算器、82、83…平方根演算部、84…リミッタ、85…乗算器、87…制限値選択部、90、91…符号判定部、92…操舵状態判定部、93…絶対値算出部、94、103、104…選択器、100…符号反転器、101、102…比較器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14