(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】塗装品質予測装置および学習済みモデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20231011BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20231011BHJP
B05B 12/08 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G06N20/00 130
B05D3/00 D
B05B12/08
(21)【出願番号】P 2020037001
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】光崎 守
(72)【発明者】
【氏名】森田 英明
(72)【発明者】
【氏名】西村 彰
(72)【発明者】
【氏名】八尋 新
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 和征
(72)【発明者】
【氏名】村井 智洋
(72)【発明者】
【氏名】西脇 大智
【審査官】多賀 実
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-509486(JP,A)
【文献】特開2004-118580(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0123815(US,A1)
【文献】特開2006-122830(JP,A)
【文献】特開2018-130673(JP,A)
【文献】特開2018-171593(JP,A)
【文献】特開平8-117656(JP,A)
【文献】特開2006-99796(JP,A)
【文献】特開2009-204622(JP,A)
【文献】特表平10-513290(JP,A)
【文献】特開2016-155342(JP,A)
【文献】特開2004-329986(JP,A)
【文献】特開平06-142565(JP,A)
【文献】特開平06-148090(JP,A)
【文献】特開2002-180295(JP,A)
【文献】児島 修二 ほか,「塗装便覧」,産業図書株式会社,1957年11月15日,pp.705-720
【文献】森 淳哉 ほか,「高仕上がりベース塗料の開発」,マツダ技報 [online],マツダ株式会社,2007年04月,第25号,pp.185-189,[検索日 2023.08.31], インターネット:<URL: https://www.mazda.com/contentassets/39b4573dc43f4e3e886bb0c272770854/files/giho_all2007.pdf>
【文献】中道 敏彦 ほか,「トコトンやさしい塗料の本」,初版,日刊工業新聞社,2011年09月16日,pp.70-71
【文献】杉浦 一俊,「塗膜表面の平滑性評価技術に関する研究」,塗料の研究 [online],2007年10月,第148号,pp.2-9,[検索日 2023.04.21], インターネット:<URL: https://www.kansai.co.jp/rd/token/pdf/148/02.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
B05B 12/00-12/14
B05B 13/00-13/06
B05D 1/00- 7/26
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
C09D 1/00-10/00
G01N 21/00-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備え
、
塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含むことを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項2】
塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備え
、
前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、
前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むことを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の塗装品質予測装置において、
前記ベース塗料の特性は、そのベース塗料の材料に基づいて算出されることを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか1つに記載の塗装品質予測装置において、
前記学習済みモデルは、塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の測定結果を複数の波長領域に分解して得られる各波長領域の値との関係が学習されていることを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項5】
塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する算出部とを備えることを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の塗装品質予測装置において、
塗色のばらつきは、CIE1976L
*a
*b
*表色系における各値のばらつきを含むことを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項7】
請求項
5または
6に記載の塗装品質予測装置において、
塗料に関する情報は、塗料の見本色を含むことを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項8】
塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備え
、
塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含むことを特徴とする学習済みモデルの生成方法。
【請求項9】
塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備え
、
前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、
前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むことを特徴とする学習済みモデルの生成方法。
【請求項10】
塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件が入力された場合に塗色のばらつきを出力する学習済みモデルを生成するステップとを備えることを特徴とする学習済みモデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装品質予測装置および学習済みモデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一定水準の仕上がり肌が得られる塗装方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の塗装方法は、塗装環境の変動が検出された場合に、その塗装環境の変動に応じた塗装条件の変更が行われるように構成されている。これにより、一定水準の仕上がり肌が得られるので、塗装品質の安定性を向上させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記した塗装方法では、被塗装物に対する塗装時にフィードバック制御して塗装品質を安定させることが可能であるが、被塗装物に対して塗装が行われる前に塗装品質を予測するものではない。
【0006】
本発明の一の目的は、被塗装物に対して塗装が行われる前に塗装品質を予測することが可能な塗装品質予測装置を提供することである。本発明の他の目的は、塗装品質を予測する塗装品質予測装置に用いられる学習済みモデルを生成することが可能な学習済みモデルの生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による塗装品質予測装置は、塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備える。塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含む。
本発明による塗装品質予測装置は、塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備える。塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含む。塗膜は、中塗り塗膜と、中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む。
【0008】
このように構成することによって、塗膜の表面の平滑性を予測することができるので、被塗装物に対して塗装が行われる前に予め平滑性を把握することができる。
【0009】
上記塗料がベース塗料を含む場合において、ベース塗料の特性は、そのベース塗料の材料に基づいて算出されていてもよい。
【0010】
上記塗装品質予測装置において、学習済みモデルは、塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の測定結果を複数の波長領域に分解して得られる各波長領域の値との関係が学習されていてもよい。
【0013】
本発明による塗装品質予測装置は、塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデルと、学習済みモデルを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する算出部とを備える。
【0014】
このように構成することによって、塗色のばらつきを予測することができるので、被塗装物に対して塗装が行われる前に予め塗色のばらつきを把握することができる。
【0015】
上記塗装品質予測装置において、塗色のばらつきは、CIE1976L*a*b*表色系における各値のばらつきを含んでいてもよい。
【0016】
上記塗装品質予測装置において、塗料に関する情報は、塗料の見本色を含んでいてもよい。
【0017】
本発明による学習済みモデルの生成方法は、塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備える。塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含む。
本発明による学習済みモデルの生成方法は、塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備える。塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含む。塗膜は、中塗り塗膜と、中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む。
【0018】
本発明による学習済みモデルの生成方法は、塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとを含む教師データを取得するステップと、教師データを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件が入力された場合に塗色のばらつきを出力する学習済みモデルを生成するステップとを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明の塗装品質予測装置によれば、被塗装物に対して塗装が行われる前に塗装品質を予測することができる。本発明の学習済みモデルの生成方法によれば、塗装品質を予測する塗装品質予測装置に用いられる学習済みモデルを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態による塗装品質予測装置を示したブロック図である。
【
図2】第1実施形態による学習装置を示したブロック図である。
【
図3】塗装品質が予測される塗膜の一例を示した模式図である。
【
図4】第1実施形態の学習装置による学習動作を説明するためのフローチャートである。
【
図5】第1実施形態の塗装品質予測装置による予測動作を説明するためのフローチャートである。
【
図6】第2実施形態による塗装品質予測装置を示したブロック図である。
【
図7】第2実施形態による学習装置を示したブロック図である。
【
図8】第2実施形態の学習装置による学習動作を説明するためのフローチャートである。
【
図9】第2実施形態の塗装品質予測装置による予測動作を説明するためのフローチャートである。
【
図10】第2実施形態の塗装品質予測装置による予測結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
(第1実施形態)
まず、
図1~
図3を参照して、本発明の第1実施形態による塗装品質予測装置1および学習装置2の構成について説明する。
【0023】
塗装品質予測装置1(
図1参照)は、学習済みモデル12aを用いて塗膜100(
図3参照)の表面の平滑性を推定するように構成されている。学習装置2(
図2参照)は、塗膜100の表面の平滑性を推定するための学習済みモデル20bを生成するように構成されている。なお、塗装品質予測装置1に格納されている学習済みモデル12aは、学習装置2によって生成された学習済みモデル20bと同じである。
【0024】
ここで、
図3に示すように、塗膜100は、たとえば、中塗り塗膜101とベース塗膜102とクリア塗膜103とを含み、たとえば車体の鋼板150上に形成されている。鋼板150上には、電着塗膜151が形成されている。電着塗膜151上には、中塗り塗膜101が形成されている。中塗り塗膜101上には、ベース塗膜102が形成されている。ベース塗膜102上には、クリア塗膜103が形成されている。そして、塗装品質予測装置1は、電着塗膜151上の塗膜100の平滑性を予測するように構成されている。
【0025】
この塗膜100の平滑性は、平滑性測定装置(図示省略)を用いて行うことが可能である。平滑性測定装置では、光源から塗膜100の表面にレーザ光が照射され、その反射光が検出器で検出されるとともに、光源が表面に沿って移動されることで表面がスキャンされることにより、反射光の明暗が決められた間隔で一点ずつ測定され、表面の光学的プロファイルが検出される。そして、光学的プロファイルがフィルタ処理されることにより、複数の波長領域に分解されて波長領域毎に数値化される。このような平滑性測定装置としては、たとえば、BYK-Gardner社製の「Wave-Scan Dual」を挙げることができる。
【0026】
本実施形態では、光学的プロファイルが第1波長領域~第4波長領域に分解される。第1波長領域は、相対的に長波長側の領域であり、第4波長領域は、相対的に短波長側の領域である。第2波長領域および第3波長領域は、第1波長領域および第4波長領域の間の領域であり、第2波長領域が長波長側であり、第3波長領域が短波長側である。第1波長領域の値は、塗膜100の表面の肌のうねり(波打ち)を評価する指標である。第4波長領域の値は、塗膜100の表面の艶感を評価する指標である。第2波長領域の値および第3波長領域の値は、肌のうねりおよび艶感に関与する指標である。第1波長領域~第4波長領域では、値が小さくなるほど平滑性が良好である。なお、光学的プロファイルは、本発明の「塗膜の表面の測定結果」の一例である。
【0027】
このため、塗装品質予測装置1は、学習済みモデル12aを用いて各波長領域の値を推定するように構成されている。学習装置2は、各波長領域の値を推定するための学習済みモデル20bを生成するように構成されている。
【0028】
学習装置2は、
図2に示すように、生データ20aを前処理して教師データを生成し、その教師データを用いて学習済みモデル20bを生成するように構成されている。この学習装置2は、演算部21と、記憶部22と、入力部23と、出力部24とを備えている。
【0029】
演算部21は、記憶部22に記憶されたプログラムなどに基づいて演算処理を実行することにより、学習装置2を制御するように構成されている。記憶部22には、プログラムやそのプログラムの実行の際に参照されるデータベースなどが記憶されている。たとえば、記憶部22には、学習用プログラム22a、ベース特性判断プログラム22b、顔料DB22cおよび光輝材DB22dが格納されている。入力部23は、生データ20aが入力可能に構成され、出力部24は、学習済みモデル20bを出力可能に構成されている。
【0030】
生データ20aは、過去に実際に行った塗装に関する各種情報や塗装後の平滑性の評価結果などを含み、それらが関連付けられている。生データ20aには、たとえば、「塗料の材料」、その塗料を製造した「塗料メーカ名」、その塗料を用いた塗装に関する「塗装時データ」、その塗料を用いた塗装が行われたときの「塗装時条件」、および、そのような設定で形成された塗膜100の平滑性測定装置による測定結果が含まれている。
【0031】
具体例として、生データ20aの1つのレコードには以下の項目が含まれ、生データ20aは多数のレコードによって構成されている。
【0032】
(a1)中塗り塗料の種別
(a2)中塗り塗料の色
(a3)ベース塗料の材料
(a4)クリア塗料の種別
(b)塗料メーカ名
(c1)ベース塗料の不揮発性成分の分量
(c2)クリア塗料の不揮発性成分の分量
(c3)中塗り塗膜の厚み
(c4)ベース塗膜の厚み
(c5)クリア塗膜の厚み
(d1)塗装方向(被塗装物の面の向き)
(d2)積層方式
(d3)塗装環境
(e1)第1波長領域の値
(e2)第2波長領域の値
(e3)第3波長領域の値
(e4)第4波長領域の値
上記項目において、「中塗り塗料の種別」は、水性か溶剤かを示すものである。「中塗り塗料の色」は、色味を示すものである。「ベース塗料の材料」は、塗料配合を示すものであり、配合された顔料名称および光輝材名称とそれらの配合量を示す情報である。この塗料配合を用いて後述する前処理(ベース塗料の特性判断)が行われる。「クリア塗料の種別」は、1液型か2液型かを示すものである。「塗装方向」は、被塗装物の面が鉛直方向と直交するように配置された被塗装物に対する塗装であるか、被塗装物の面が水平方向と直交するように配置された被塗装物に対する塗装であるかを示すものである。「積層方式」は、3WETか3C2Bかを示すものである。3WETは、中塗り・ベース・クリアを塗装した後に焼き付けを行う方式であり、3C2Bは、中塗りを塗装した後に焼き付けを行い、ベース・クリアを塗装した後に焼き付けを行う方式である。「塗装環境」は、塗装ブース内が高温高湿か低温低湿か標準かを示すものである。「第1波長領域の値~第4波長領域の値」は、平滑性測定装置による測定結果である。なお、項目(a1)~(a4)は、「塗料の材料」に含まれる項目であり、項目(c1)~(c5)は、「塗装時データ」に含まれる項目であり、項目(d1)~(d3)は、「塗装時条件」に含まれる項目である。
【0033】
また、学習装置2は、生データ20aの「ベース塗料の材料」および「塗料メーカ名」を用いて、「ベース塗料の特性」を判断するように構成されている。具体的には、演算部21によってベース特性判断プログラム22bが実行されることにより、「ベース塗料の材料」および「塗料メーカ名」から、顔料DB22cおよび光輝材DB22dが参照され、「ベース塗料の特性」が判断される。「ベース塗料の特性」は、下記の「ベース塗料の顔料に関する特性」および「ベース塗料の光輝材に関する特性」によって構成されている。
【0034】
顔料DB22cには顔料に関する情報が蓄積されており、顔料DB22cは、「ベース塗料の材料(顔料名称およびその配合量)」および「塗料メーカ名」から、「ベース塗料の顔料に関する特性」を導出するために設けられている。「ベース塗料の顔料に関する特性」には、たとえば以下の項目が含まれている。
【0035】
(a31)各種顔料の配合量
(a32)各種顔料のトータルの配合量
(a33)ベース塗料の粘度係数
また、「各種顔料の配合量」には、たとえば以下の項目が含まれている。
【0036】
(a311)有機赤色顔料配合量
(a312)無機赤色顔料配合量
(a313)有機黄色顔料配合量
(a314)無機黄色顔料配合量
(a315)白色顔料配合量
(a316)紫色顔料配合量
(a317)青色顔料配合量
(a318)黒色顔料配合量
(a319)マルーン色顔料配合量
(a320)緑色顔料配合量
光輝材DB22dには光輝材に関する情報が蓄積されており、光輝材DB22dは、「ベース塗料の材料(光輝材名称およびその配合量)」および「塗料メーカ名」から、「ベース塗料の光輝材に関する特性」を導出するために設けられている。「ベース塗料の光輝材に関する特性」には、たとえば以下の項目が含まれている。
【0037】
(a34)粒径毎の光輝材の配合量
(a35)光輝材のトータルの配合量
(a36)塗膜内の光輝材の占有量
(a37)光輝材の厚みによる影響
(a38)光輝材の粒径のばらつき
(a39)光輝材の重量
また、「粒径毎の光輝材の配合量」には、たとえば以下の項目が含まれている。
【0038】
(a341)粒径が0~8μmの光輝材の配合量
(a342)粒径が8~12μmの光輝材の配合量
(a343)粒径が12~16μmの光輝材の配合量
(a344)粒径が16~20μmの光輝材の配合量
(a345)粒径が20~24μmの光輝材の配合量
すなわち、学習装置2は、「ベース塗料の材料」から「ベース塗料の特性」を算出し、生データ20aの「ベース塗料の材料」を「ベース塗料の特性」に置き換えて教師データとするようになっている。そして、学習装置2では、演算部21によって学習用プログラム22aが実行されることにより、学習済みモデル20bが生成される。この学習済みモデル20bは、「塗料の特性」、「塗料メーカ名」、「塗装時データ」および「塗装時条件」が入力された場合に、「第1波長領域の値~第4波長領域の値」を出力するように構成されている。なお、「塗料の特性」は、「中塗り塗料の種別」、「中塗り塗料の色」、「ベース塗料の特性」および「クリア塗料の種別」によって構成されている。
【0039】
ここで、学習済みモデル20bでは、「第1波長領域の値」の出力に大きく寄与する要因として「塗装方向」が設定され、「第4波長領域の値」の出力に大きく寄与する要因として「クリア塗膜の厚み」が設定されており、これらは過去の経験と合致するものである。
【0040】
塗装品質予測装置1は、
図1に示すように、演算部11と、記憶部12と、入力部13と、出力部14とを備えている。なお、演算部11は、本発明の「算出部」の一例である。
【0041】
演算部11は、記憶部12に記憶されたプログラムなどに基づいて演算処理を実行することにより、塗装品質予測装置1を制御するように構成されている。記憶部12には、プログラムやそのプログラムの実行の際に参照されるデータベースなどが記憶されている。たとえば、記憶部12には、学習済みモデル12a、ベース特性判断プログラム12b、顔料DB12cおよび光輝材DB12dが格納されている。入力部13は、入力データ10aが入力可能に構成され、出力部14は、予測結果10bを出力可能に構成されている。
【0042】
塗装品質予測装置1のベース特性判断プログラム12b、顔料DB12cおよび光輝材DB12dは、学習装置2のベース特性判断プログラム22b、顔料DB22cおよび光輝材DB22dと同様に構成されている。入力データ10aには、平滑性を予測したい塗装に関する各種情報が含まれている。すなわち、入力データ10aには、たとえば、「塗料の材料」、「塗料メーカ名」、「塗装時データ」および「塗装時条件」が含まれている。
【0043】
このため、塗装品質予測装置1では、入力データ10aが入力された場合に、演算部11によってベース特性判断プログラム12bが実行されることにより、「ベース塗料の材料」および「塗料メーカ名」から、顔料DB12cおよび光輝材DB12dが参照され、「ベース塗料の特性」が判断される。この塗装品質予測装置1によるベース塗料の特性判断は、学習装置2によるベース塗料の特性判断と同様にして行われる。
【0044】
そして、塗装品質予測装置1は、学習済みモデル12aを用いて、「塗料の特性」、「塗料メーカ名」、「塗装時データ」および「塗装時条件」から、「第1波長領域の値~第4波長領域の値」を算出するように構成されている。塗装品質予測装置1は、「第1波長領域の値~第4波長領域の値」を予測結果10bとして出力する。「第1波長領域の値~第4波長領域の値」が小さいほど、塗膜100の表面が平滑であると予測される。
【0045】
-学習動作-
次に、
図4を参照して、第1実施形態の学習装置2による学習動作(学習済みモデルの生成方法)について説明する。なお、以下の各ステップは演算部21によって実行される。
【0046】
まず、
図4のステップS1において、生データ20aが取得される。生データ20aには、「塗料の材料」、「塗料メーカ名」、「塗装時データ」、「塗装時条件」および「第1波長領域の値~第4波長領域の値」が含まれている。
【0047】
次に、ステップS2において、ベース特性判断プログラム22bが実行されることにより、「ベース塗料の材料」および「塗料メーカ名」から「ベース塗料の特性」が算出される。これにより、教師データが生成される。この教師データには、「塗料の特性」、「塗料メーカ名」、「塗装時データ」、「塗装時条件」および「第1波長領域の値~第4波長領域の値」が含まれ、それらが関連付けられている。
【0048】
次に、ステップS3において、学習用プログラム22aが実行されることにより、教師データを用いて学習済みモデル20bが生成される。この学習済みモデル20bでは、「塗料の特性」、「塗料メーカ名」、「塗装時データ」および「塗装時条件」が入力された場合に、「第1波長領域の値~第4波長領域の値」が出力される。
【0049】
-予測動作-
次に、
図5を参照して、第1実施形態の塗装品質予測装置1による塗装品質の予測動作について説明する。なお、塗装品質予測装置1の記憶部12には学習済みモデル12aが格納され、その学習済みモデル12aは学習装置2によって生成された学習済みモデル20bである。また、以下の各ステップは演算部11によって実行される。
【0050】
まず、
図5のステップS11において、入力データ10aが取得される。入力データ10aには、「塗料の材料」、「塗料メーカ名」、「塗装時データ」および「塗装時条件」が含まれている。
【0051】
次に、ステップS12において、ベース特性判断プログラム12bが実行されることにより、「ベース塗料の材料」および「塗料メーカ名」から「ベース塗料の特性」が算出される。これにより、入力データ10aの「塗料の材料」が「塗料の特性」に置き換えられる。
【0052】
次に、ステップS13において、学習済みモデル12aを用いて、「塗料の特性」、「塗料メーカ名」、「塗装時データ」および「塗装時条件」から、「第1波長領域の値~第4波長領域の値」が算出される。
【0053】
-効果-
第1実施形態では、上記のように、「塗料の特性」および「塗装時条件」などと塗膜100の表面の平滑性(第1波長領域の値~第4波長領域の値)との関係が学習された学習済みモデル12aが設けられ、その学習済みモデル12aを用いて「塗料の特性」および「塗装時条件」などから塗膜100の表面の平滑性が算出されることによって、被塗装物に対して塗装が行われる前に予め平滑性を把握することができる。このため、予め塗料の材料などを調整して所望の平滑性が得られるようにすることができるので、生産性の向上を図ることができる。
【0054】
また、第1実施形態では、「第1波長領域の値」および「第4波長領域の値」が予測されることによって、「第1波長領域の値」により塗膜100の表面の肌のうねりを評価するとともに、「第4波長領域の値」により塗膜100の表面の艶感を評価することができる。
【0055】
また、第1実施形態では、「ベース塗料の材料」から「ベース塗料の特性」が算出されることによって、学習済みモデル12aを用いた予測精度の向上を図ることができる。たとえば、「ベース塗料の特性」のうち「ベース塗料の粘度係数」は、「第1波長領域の値」および「第2波長領域の値」の出力に比較的大きく寄与する要因であり、その要因を考慮した上で予測することができる。
【0056】
また、第1実施形態では、学習装置2によって、平滑性を予測する塗装品質予測装置1に用いられる学習済みモデル12aを生成することができる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、
図6、
図7および
図10を参照して、本発明の第2実施形態による塗装品質予測装置3および学習装置4の構成について説明する。
【0058】
塗装品質予測装置3(
図6参照)は、学習済みモデル32aを用いて塗膜100(
図3参照)の塗色のばらつきを推定するように構成されている。学習装置4(
図7参照)は、塗膜100の塗色のばらつきを推定するための学習済みモデル40bを生成するように構成されている。なお、塗装品質予測装置3に格納されている学習済みモデル32aは、学習装置4によって生成された学習済みモデル40bと同じである。
【0059】
ここで、塗色のばらつきとは、複数の被塗装物における塗色のばらつきである。これは、車体の生産現場などにおいて被塗装物(たとえばボディやバンパ)に対する塗装が長期間にわたって多数行われる場合には、同一の塗料を用いて同一の条件で塗装を行っても、塗色にばらつきが生じてしまうためである。すなわち、完全に一致する塗装を繰り返し行うことは困難である。このため、塗装品質予測装置3は、同一の塗料および同一の条件で繰り返し行われる塗装についての、複数の被塗装物における塗色のばらつきを予測するように構成されている。
【0060】
また、塗膜100の塗色は、たとえば多角度分光測色計(図示省略)を用いて測定することが可能である。多角度分光測色計では、CIE1976L*a*b*表色系における測色値を複数の角度で測定可能である。なお、L*は明度を表し、a*およびb*は色度を表す。本実施形態では、ハイライト方向(L*a*b*25°)とシェード方向(L*a*b*75°)との2方向の測色値を用いた。このような多角度分光測色計としては、たとえば、コニカミノルタ社製の「CM-512m3A」を挙げることができる。
【0061】
このため、塗装品質予測装置3は、学習済みモデル32aを用いて、L*a*b*25°の各値およびL*a*b*75°の各値のばらつきを推定するように構成されている。学習装置4は、L*a*b*25°の各値およびL*a*b*75°の各値のばらつきを推定するための学習済みモデル40bを生成するように構成されている。
【0062】
学習装置4は、
図7に示すように、生データ40aを前処理して教師データを生成し、その教師データを用いて学習済みモデル40bを生成するように構成されている。この学習装置4は、演算部41と、記憶部42と、入力部43と、出力部44とを備えている。
【0063】
演算部41は、記憶部42に記憶されたプログラムなどに基づいて演算処理を実行することにより、学習装置4を制御するように構成されている。記憶部42には、プログラムやそのプログラムの実行の際に参照されるデータベースなどが記憶されている。たとえば、記憶部42には、学習用プログラム42a、ベース特性判断プログラム42b、材料DB42c、L*a*b*値加工プログラム42d、および、ばらつき算出プログラム42eが格納されている。入力部43は、生データ40aが入力可能に構成され、出力部44は、学習済みモデル40bを出力可能に構成されている。
【0064】
生データ40aは、過去に実際に行った塗装に関する各種情報や塗装後の測色結果などを含み、それらが関連付けられている。生データ40aには、たとえば、塗料に関する情報である「塗料情報」、その塗料を用いた塗装が行われたときの「塗装時条件」、および、その塗料を用いてその条件で塗装された塗膜100の多角度分光測色計による測色結果が含まれている。
【0065】
具体例として、生データ40aの1つのレコードには以下の項目が含まれ、生データ40aは多数のレコードによって構成されている。
【0066】
(f1)塗料メーカ名
(f2)塗膜の層構造
(f3)中塗り塗料の種別
(f4)ベース塗料の材料
(f5)マスターのL*a*b*値
(g1)塗装が行われた生産ライン
(g2)塗装された車種
(g3)塗装された部位(ボディまたはバンパ)
(h1)塗装された塗膜のL*a*b*値
(i1)塗装が行われた日付
上記項目において、「塗料メーカ名」、「中塗り塗料の種別」および「ベース塗料の材料」は、第1実施形態と同様である。「マスターのL*a*b*値」は、塗料の見本色であり、見本となる「L*25°値」、「a*25°値」、「b*25°値」、「L*75°値」、「a*75°値」および「b*75°値」が含まれている。「塗装された塗膜のL*a*b*値」は、過去の測色結果であり、実測された「L*25°値」、「a*25°値」、「b*25°値」、「L*75°値」、「a*75°値」および「b*75°値」が含まれている。なお、項目(f1)~(f5)は、「塗料情報」に含まれる項目であり、項目(g1)~(g3)は、「塗装時条件」に含まれる項目である。
【0067】
そして、学習装置4は、演算部41によってばらつき算出プログラム42eが実行されることにより、生データ40aからL*a*b*25°の各値およびL*a*b*75°の各値のばらつきが算出されるように構成されている。具体的には、生データ40aの多数のレコードが「塗料情報」および「塗装時条件」が共通するものでグループ化される。すなわち、項目(f1)~(f5)および(g1)~(g3)がすべて一致するレコードがグループ化される。そして、各グループのレコードが「塗装が行われた日付」を用いて所定期間(たとえば1か月)毎に分けられ、所定期間毎の「塗装された塗膜のL*a*b*値」の標準偏差および共分散が算出される。次に、各グループにおいて全期間で中央値となる所定期間の標準偏差および共分散が代表値として採用される。その後、各グループで共通する「塗料情報」および「塗装時条件」に、各グループで代表値として採用された標準偏差および共分散が関連付けられる。すなわち、「塗料情報」および「塗装時条件」に「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」が関連付けられる。「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」は、以下の項目によって構成されている。なお、標準偏差および共分散は、後述する相関関係の算出の際に利用される。
【0068】
(j1)L*25°の標準偏差
(j2)L*75°の標準偏差
(j3)a*25°の標準偏差
(j4)a*75°の標準偏差
(j5)b*25°の標準偏差
(j6)b*75°の標準偏差
(k1)L*×a*25°の共分散
(k2)L*×a*75°の共分散
(k3)a*×b*25°の共分散
(k4)a*×b*75°の共分散
(k5)L*×b*25°の共分散
(k6)L*×b*75°の共分散
また、学習装置4は、演算部41によってL*a*b*値加工プログラム42dが実行されることにより、「マスターのL*a*b*値」から「L*a*b*加工値」が算出されるように構成されている。「L*a*b*加工値」には、たとえば以下の項目が含まれている。
【0069】
(l1)a*25°の絶対値
(l2)a*75°の絶対値
(l3)b*25°の絶対値
(l4)b*75°の絶対値
(m1)25°の彩度
(m2)75°の彩度
(n1)L*のフリップフロップ値
(n2)a*のフリップフロップ値
(n3)b*のフリップフロップ値
項目(l1)~(l4)は、色味の強さを表す。項目(n1)~(n3)は、角度による変化を表す。なお、「25°の彩度」および「75°の彩度」は、それぞれ、以下の式(1)および(2)によって算出される。
【0070】
【0071】
また、「L*のフリップフロップ値」、「a*のフリップフロップ値」および「b*のフリップフロップ値」は、それぞれ、以下の式(3)~(5)によって算出される。
【0072】
L*のフリップフロップ値=L*25°-L*75° ・・・(3)
a*のフリップフロップ値=a*25°-a*75° ・・・(4)
b*のフリップフロップ値=b*25°-b*75° ・・・(5)
また、学習装置4は、「ベース塗料の材料」および「塗料メーカ名」を用いて、「ベース塗料の特性」を判断するように構成されている。具体的には、演算部41によってベース特性判断プログラム42bが実行されることにより、「ベース塗料の材料」および「塗料メーカ名」から材料DB42cが参照されて「ベース塗料の特性」が判断される。材料DB42cには顔料および光輝材に関する情報が蓄積されており、材料DB42cは、「ベース塗料の材料(顔料名称およびその配合量と光輝材名称およびその配合量)」および「塗料メーカ名」から、「ベース塗料の特性」を導出するために設けられている。「ベース塗料の特性」には、たとえば以下の項目が含まれている。
【0073】
(o1)赤色顔料配合量指数
(o2)黄色顔料配合量指数
(o3)青色顔料配合量指数
(o4)白色顔料配合量指数
(o5)黒色顔料配合量指数
(o6)メタリック系顔料配合量指数
(o7)マイカ系顔料配合量指数
(p1)光輝材の粒径の二乗和
このように、学習装置4は、ばらつきの算出とマスターのL*a*b*値の加工とベース塗料の特性判断とが前処理として行われるように構成されている。そして、前処理で得られた「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」と「L*a*b*加工値」とが「塗料情報」および「塗装時条件」に関連付けられるとともに、「ベース塗料の材料」が「ベース塗料の特性」に置き換えられることにより、教師データが生成される。次に、学習装置4では、演算部41によって学習用プログラム42aが実行されることにより、学習済みモデル40bが生成される。この学習済みモデル40bは、「ベース塗料の材料」が「ベース塗料の特性」に置き換えられた「塗料情報」、「塗装時条件」および「L*a*b*加工値」が入力された場合に、「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」を出力するように構成されている。
【0074】
塗装品質予測装置3は、
図6に示すように、演算部31と、記憶部32と、入力部33と、出力部34とを備えている。なお、演算部31は、本発明の「算出部」の一例である。
【0075】
演算部31は、記憶部32に記憶されたプログラムなどに基づいて演算処理を実行することにより、塗装品質予測装置3を制御するように構成されている。記憶部32には、プログラムやそのプログラムの実行の際に参照されるデータベースなどが記憶されている。たとえば、記憶部32には、学習済みモデル32a、ベース特性判断プログラム32b、材料DB32cおよびL*a*b*値加工プログラム32dが格納されている。入力部33は、入力データ30aが入力可能に構成され、出力部34は、予測結果30bを出力可能に構成されている。
【0076】
塗装品質予測装置3のベース特性判断プログラム32b、材料DB32cおよびL*a*b*値加工プログラム32dは、学習装置4のベース特性判断プログラム42b、材料DB42cおよびL*a*b*値加工プログラム42dと同様に構成されている。入力データ30aには、塗色のばらつきを予測したい塗装に関する各種情報が含まれている。すなわち、入力データ30aには、たとえば、「塗料情報」および「塗装時条件」が含まれている。
【0077】
このため、塗装品質予測装置3では、入力データ30aが入力された場合に、演算部31によってベース特性判断プログラム32bが実行されることにより、「ベース塗料の材料」および「塗料メーカ名」から材料DB32cが参照されて「ベース塗料の特性」が判断される。また、塗装品質予測装置3では、入力データ30aが入力された場合に、演算部31によってL*a*b*値加工プログラム32dが実行されることにより、「L*a*b*加工値」が算出される。この塗装品質予測装置3によるベース塗料の特性判断およびL*a*b*値の加工は、学習装置4によるベース塗料の特性判断およびL*a*b*値の加工と同様にして行われる。
【0078】
そして、塗装品質予測装置3は、学習済みモデル32aを用いて、「ベース塗料の材料」が「ベース塗料の特性」に置き換えられた「塗料情報」、「塗装時条件」および「L*a*b*加工値」から、「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」を算出するように構成されている。
【0079】
次に、塗装品質予測装置3は、「L
*a
*b
*25°および75°の標準偏差および共分散」を用いて相関関係を算出するように構成されている。具体的には、「L
*×a
*75°の共分散」、「L
*75°の標準偏差」および「a
*75°の標準偏差」から、
図10の(a)に示すようなL
*a
*75°の相関関係が算出される。「a
*×b
*75°の共分散」、「a
*75°の標準偏差」および「b
*75°の標準偏差」から、
図10の(b)に示すようなa
*b
*75°の相関関係が算出される。「L
*×b
*75°の共分散」、「L
*75°の標準偏差」および「b
*75°の標準偏差」から、
図10の(c)に示すようなL
*b
*75°の相関関係が算出される。同様に、「L
*×a
*25°の共分散」、「L
*25°の標準偏差」および「a
*25°の標準偏差」から、L
*a
*25°の相関関係が算出される。「a
*×b
*25°の共分散」、「a
*25°の標準偏差」および「b
*25°の標準偏差」から、a
*b
*25°の相関関係が算出される。「L
*×b
*25°の共分散」、「L
*25°の標準偏差」および「b
*25°の標準偏差」から、L
*b
*25°の相関関係が算出される。これらの相関関係がたとえば予測結果30bであり、その予測結果30bがディスプレイ(図示省略)などに出力される。
【0080】
図10の例の各グラフでは、一点鎖線で囲まれた楕円領域が、約68.3%の確率で収まる領域であり、二点鎖線で囲まれた楕円領域が、約95.5%の確率で収まる領域であり、実線で囲まれた楕円領域が、約99.7%の確率で収まる領域である。このため、各楕円領域が小さいほど、塗色のばらつきが小さいと予測される。
【0081】
-学習動作-
次に、
図8を参照して、第2実施形態の学習装置4による学習動作(学習済みモデルの生成方法)について説明する。なお、以下の各ステップは演算部41によって実行される。
【0082】
まず、
図8のステップS21において、生データ40aが取得される。生データ40aには、「塗料情報」、「塗装時条件」および「塗装された塗膜のL
*a
*b
*値」などが含まれている。
【0083】
次に、ステップS22において、生データ40aを加工して教師データが生成される。具体的には、ばらつき算出プログラム42eが実行されることにより、「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」が算出される。また、L*a*b*値加工プログラム42dが実行されることにより、「L*a*b*加工値」が算出される。また、ベース特性判断プログラム42bが実行されることにより、「ベース塗料の特性」が算出される。これらを用いて教師データが生成される。この教師データには、「ベース塗料の材料」が「ベース塗料の特性」に置き換えられた「塗料情報」、「塗装時条件」、「L*a*b*加工値」および「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」が含まれ、それらが関連付けられている。
【0084】
次に、ステップS23において、学習用プログラム42aが実行されることにより、教師データを用いて学習済みモデル40bが生成される。この学習済みモデル40bでは、「ベース塗料の材料」が「ベース塗料の特性」に置き換えられた「塗料情報」、「塗装時条件」および「L*a*b*加工値」が入力された場合に、「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」が出力される。
【0085】
-予測動作-
次に、
図9を参照して、第2実施形態の塗装品質予測装置3による塗装品質の予測動作について説明する。なお、塗装品質予測装置3の記憶部32には学習済みモデル32aが格納され、その学習済みモデル32aは学習装置4によって生成された学習済みモデル40bである。また、以下の各ステップは演算部31によって実行される。
【0086】
まず、
図9のステップS31において、入力データ30aが取得される。入力データ30aには、「塗料情報」および「塗装時条件」が含まれている。
【0087】
次に、ステップS32において、入力データ30aが加工される。具体的には、L*a*b*値加工プログラム32dが実行されることにより、「L*a*b*加工値」が算出される。また、ベース特性判断プログラム32bが実行されることにより、「ベース塗料の特性」が算出される。
【0088】
次に、ステップS33において、学習済みモデル32aを用いて、「ベース塗料の材料」が「ベース塗料の特性」に置き換えられた「塗料情報」、「塗装時条件」および「L*a*b*加工値」から、「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」が算出される。そして、「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」を用いて相関関係が算出される。
【0089】
-効果-
第2実施形態では、上記のように、「塗料情報」および「塗装時条件」などと塗膜100の塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル32aが設けられ、その学習済みモデル32aを用いて「塗料情報」および「塗装時条件」などから塗膜100の塗色のばらつきが算出されることによって、被塗装物に対して塗装が行われる前に予め塗色のばらつきを把握することができる。このため、予め塗料の材料などを調整して所望のばらつきとなるようにすることができるので、生産性の向上を図ることができる。
【0090】
また、第2実施形態では、「L*a*b*25°および75°の標準偏差および共分散」から相関関係が算出されることによって、各パラメータの相関を把握することができる。すなわち、ばらつきの度合いに加えて、ばらつきの傾向を把握することができる。
【0091】
また、第2実施形態では、塗装される部位毎に塗色のばらつきを予測することによって、たとえば、ボディでの塗色のばらつきと、バンパでの塗色のばらつきとを把握することができるので、全体の仕上がりを考慮しながら、予め塗料の材料などを調整することができる。
【0092】
また、第2実施形態では、学習装置4によって、塗色のばらつきを予測する塗装品質予測装置3に用いられる学習済みモデル32aを生成することができる。
【0093】
(他の実施形態)
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0094】
たとえば、第1実施形態では、塗膜100が3層構造である例を示したが、これに限らず、塗膜が何層であってもよい。たとえば、クリア塗膜が2層で構成されていてもよい。なお、第2実施形態についても同様である。
【0095】
また、第1実施形態では、塗膜100が車体の鋼板150に形成される例を示したが、これに限らず、塗膜が車体以外に形成されていてもよいし、塗膜が鋼板以外に形成されていてもよい。なお、第2実施形態についても同様である。
【0096】
また、第1実施形態では、「第1波長領域の値~第4波長領域の値」が推定される例を示したが、これに限らず、「第1波長領域の値~第4波長領域の値」のうちの少なくともいずれか一つが推定されるようにしてもよい。たとえば、肌のうねりを評価する指標である「第1波長領域の値」のみが推定されるようにしてもよいし、艶感を評価する指標である「第4波長領域の値」のみが推定されるようにしてもよい。また、「第1波長領域の値」および「第4波長領域の値」の2つが推定されるようにしてもよい。
【0097】
また、第1実施形態では、生データ20aの前処理が学習装置2で行われる例を示したが、これに限らず、学習装置とは別の装置で前処理が行われ、前処理後の教師データが学習装置に入力されるようにしてもよい。なお、第2実施形態についても同様である。
【0098】
また、第2実施形態では、CIE1976L*a*b*表色系における各値のばらつきが学習されて予測される例を示したが、これに限らず、その他の表色系でのばらつきが学習されて予測されるようにしてもよい。
【0099】
また、第2実施形態では、L*a*b*25°および75°の各値を用いてばらつきが学習されて予測される例を示したが、これに限らず、その他の値を用いてばらつきが学習されて予測されるようにしてもよい。
【0100】
また、第2実施形態では、標準偏差および共分散が推定され、標準偏差および共分散から相関関係が算出され、その相関関係が予測結果30bとして出力される例を示したが、これに限らず、標準偏差のみが推定され、その標準偏差が予測結果として出力されるようにしてもよい。
【0101】
また、第2実施形態では、全期間で中央値となる所定期間の標準偏差および共分散が採用される例を示したが、標準偏差および共分散の決定方法はこれに限定されない。たとえば、全期間の標準偏差および共分散が算出されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、塗装品質予測装置および学習済みモデルの生成方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 塗装品質予測装置
11 演算部(算出部)
12a 学習済みモデル
20b 学習済みモデル
3 塗装品質予測装置
31 演算部(算出部)
32a 学習済みモデル
40b 学習済みモデル
100 塗膜
101 中塗り塗膜
102 ベース塗膜
103 クリア塗膜