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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/42 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
H01R13/42 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020038710
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021140977
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西谷 章弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 竣哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 豊
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-66239(JP,A)
【文献】特開2008-112682(JP,A)
【文献】特開2019-46760(JP,A)
【文献】特開2014-241219(JP,A)
【文献】特開2014-49376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体が挿入可能なハウジングと、
前記ハウジング内に収容され、前記導体に対して電気的に接触可能な導通部材と、
弾性を有する絶縁性材料からなり、前記ハウジング内に収容された押圧部材とを備え、
前記押圧部材は、前記導通部材と前記ハウジングに挿入された前記導体とに対して接触方向の押圧力を付与し、
前記ハウジングには、前記導体の軸線方向と前記押圧部材の押圧方向の両方向に対して直交する幅方向において、前記導体を位置決めする位置決め部が形成され
前記導体は、単芯線、撚り線およびバスバーのうちのいずれか1つで構成されるコネクタ。
【請求項2】
前記押圧部材の外面のうち前記導体及び前記導通部材に押圧力を付与する方向とは反対側の領域は、前記幅方向に関して対称的に傾斜した傾斜面となっており、
前記ハウジングには、前記傾斜面を面接触させる受け面が形成されている請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記ハウジングには、前記押圧部材が弾性的に嵌合することが可能なアンカー部が形成されている請求項1又は請求項2に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記アンカー部は、前記ハウジングにおける前記押圧部材との対向面を凹ませた形態であり、
前記導体が前記ハウジングに未挿入の状態では、前記押圧部材の外面と前記アンカー部の内面との間にクリアランスが確保されている請求項3に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記アンカー部が、前記押圧部材を挟んで前記導体とは反対側の位置に配置されている請求項3又は請求項4に記載のコネクタ。
【請求項6】
前記導通部材における前記導体との接触領域は、弧状面で構成されている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、導電性金属板を曲げ加工などして形成された雌端子を開示する。雌端子は、前部に雄端子が挿入される箱形状の電気接触部を有し、後部にオープンバレル状の一対の導体圧着片を有している。導体圧着片は、被覆電線の被覆が剥がされて露出した導体に圧着されて固定される。
【0003】
特許文献2は、雌端子金具と、第1および第2の斜め巻きコイルスプリングと、両斜め巻きコイルスプリングを保持する雌ハウジングとを備えた雌コネクタを開示する。両斜め巻きコイルスプリングは、導電金属製の線材を複数回巻回させたコイル状をなしている。雌端子金具は、平板状をなし、一端部に芯線が接続されている。
【0004】
雌端子金具は、2つの斜め巻きコイルスプリングに挟まれた状態で雌ハウジング内に収容される。雌コネクタが相手側の雄コネクタに嵌合されると、第1の斜め巻きコイルスプリングが雌ハウジング内の壁面(当接壁)と雌端子金具とに挟まれ、第2の斜め巻きコイルスプリングが雄コネクタに設けられた雄端子金具と雌端子金具とに挟まれる。このとき、両斜め巻きコイルスプリングの弾性復元力によって、第2の斜め巻きコイルスプリングが雌端子金具と端子接続部とに接触し、雌端子金具と雄端子金具とが電気的に接続される。また、第1の斜め巻きコイルスプリングは、雌端子金具を芯線側に押さえつけるように配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-241219号公報
【文献】特開2019-46760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の場合、導体圧着片を導体に圧着するための工程が必要とされる。特許文献2の場合、第2の斜め巻きコイルスプリングが雄コネクタに設けられた雄端子金具と雌端子金具とに介在しているので、コネクタが大型化し易いという事情がある。
【0007】
本開示のコネクタは、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、大型化することなく圧着工程を省略できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のコネクタは、
導体が挿入可能なハウジングと、
前記ハウジング内に収容され、前記導体に対して電気的に接触可能な導通部材と、
弾性を有する絶縁性材料からなり、前記ハウジング内に収容された押圧部材とを備え、
前記押圧部材は、前記導通部材と前記ハウジングに挿入された前記導体とに対して接触方向の押圧力を付与し、
前記ハウジングには、前記導体の軸線方向と前記押圧部材の押圧方向の両方向に対して直交する幅方向において、前記導体を位置決めする位置決め部が形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、大型化することなく圧着工程を省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1のコネクタを構成する雌側コネクタの分解斜視図である。
図2図2は、コネクタを構成する雄側コネクタの分解斜視図である。
図3図3は、第1導体を可動側導通部材と固定側導通部材に接続した状態をあらわす側断面図である。
図4図4は、図3のX-X線断面図である。
図5図5は、ハウジング本体からフロント部材を外した状態をあらわす正面図である。
図6図6は、図5の部分拡大正面図である。
図7図7は、第1導体と第2導体を接続した状態をあらわす側断面図である。
図8図8は、実施例2においてハウジング本体からフロント部材を外した状態をあらわす正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示のコネクタは、
(1)導体が挿入可能なハウジングと、前記ハウジング内に収容され、前記導体に対して電気的に接触可能な導通部材と、弾性を有する絶縁性材料からなり、前記ハウジング内に収容された押圧部材とを備え、前記押圧部材は、前記導通部材と前記ハウジングに挿入された前記導体とに対して接触方向の押圧力を付与し、前記ハウジングには、前記導体の軸線方向と前記押圧部材の押圧方向の両方向に対して直交する幅方向において、前記導体を位置決めする位置決め部が形成されている。
【0012】
この構成によれば、導通部材と導体は、押圧部材から付与される接触方向の弾性的な押圧力によって接触するので、導体と導通部材を圧着するための工程が不要である。押圧部材は絶縁性材料からなり、押圧部材とは別に絶縁のための構造を設ける必要がないので、コネクタの大型化を回避することができる。したがって、本開示のコネクタは、大型化することなく圧着工程を省略できる。導体は、位置決め部によって位置決めされるので、導体が導通部材から外れるおそれがなく、接触信頼性に優れている。
【0013】
(2)前記押圧部材の外面のうち前記導体及び前記導通部材に押圧力を付与する方向とは反対側の領域は、前記幅方向に関して対称的に傾斜した傾斜面となっており、前記ハウジングには、前記傾斜面を面接触させる受け面が形成されていることが好ましい。この構成によれば、押圧部材が導体と導通部材に押圧力を付与したときに導体側から押圧部材に作用する反力が、傾斜面から受け面に作用する。傾斜面は、幅方向に関して対称的に傾斜しているので、押圧部材が幅方向へ位置ずれすることと、押圧部材が幅方向へ傾くことを防止できる。
【0014】
(3)前記ハウジングには、前記押圧部材が弾性的に嵌合することが可能なアンカー部が形成されていることが好ましい。この構成によれば、押圧部材は、導体と導通部材に押圧力を付与したときに、弾性変形してアンカー部に嵌合する。この嵌合によって、押圧部材の位置ずれが防止される。
【0015】
(4)(3)において、前記アンカー部は、前記ハウジングにおける前記押圧部材との対向面を凹ませた形態であり、前記導体が前記ハウジングに未挿入の状態では、前記押圧部材の外面と前記アンカー部の内面との間にクリアランスが確保されていることが好ましい。アンカー部が突起状をなす場合、導体が未挿入のときに押圧部材が突起状のアンカー部に乗り上がり、押圧部材とハウジングとの接触面積が比較的狭くなるので、押圧部材の位置や姿勢が不安定になる。これに対し、アンカー部が凹んだ形態であれば、導体がハウジングに未挿入で押圧部材が弾性変形していないときに、押圧部材とハウジングが比較的広い面積にわたって接触するので、押圧部材の位置や姿勢が不安定になるおそれがない。
【0016】
(5)(3)又は(4)において、前記アンカー部が、前記押圧部材を挟んで前記導体とは反対側の位置に配置されていることが好ましい。この構成によれば、導体側から押圧部材への反力の作用線上にアンカー部が位置しているので、アンカー部に対する押圧部材の嵌合力が大きく、押圧部材の位置ずれを確実に防止することができる。
【0017】
(6)前記導通部材における前記導体との接触領域は、弧状面で構成されていることが好ましい。この構成によれば、導体の断面形状が電線などのように円形をなす場合に、導通部材と導体との接触面積が広くなるので、導通部材と導体との接触状態が安定する。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
[実施例1]
本開示のコネクタを具体化した実施例1を、図1図7を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。本実施例1において、前後の方向については、図3,4,7における左方を前方と定義する。上下の方向については、図1~3,5~7にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。左右の方向については、図5,6にあらわれる向きを、そのまま左方、右方と定義する。左右方向と幅方向を同義で用いる。
【0019】
本実施例1のコネクタは、互いに嵌合される雌側コネクタFと雄側コネクタMとを有する。雌側コネクタFは、1つの雌側ハウジング10と、複数の押圧部材30と、複数の可動側導通部材34と、複数の固定側導通部材40と、1つの第1電線モジュール45とを有する。雄側コネクタMは、1つの雄側ハウジング60と、1つの第2電線モジュール65とを有する。
【0020】
雌側ハウジング10は、合成樹脂材料からなり、図3,4,7に示すように、ハウジング本体11と、ハウジング本体11に前方から取り付けたフロント部材12とを有している。ハウジング本体11は、左右方向に並列する複数のキャビティ13と、ハウジング本体11の後端面に開口する1つの保持空間14とを有する。
【0021】
キャビティ13は、全体として前後方向に細長い空間を構成する。キャビティ13の前端部は、ハウジング本体11の前端面に開口する接続部15として機能する。接続部15の内部は、第1導体47と第2導体67の接続を行うための接続空間として機能する。
【0022】
図6に示すように、接続部15を前方から見た正面視において、接続部15は左右対称な形状である。接続部15には、左右対称な一対の位置決め部16が形成されている。一対の位置決め部16は、接続部15の左右両内壁面から幅方向内側へ突出した形態である。上下方向において、位置決め部16は、接続部15の中央よりも上方の位置に配置されている。
【0023】
接続部15の内側面の上端部、即ち位置決め部16よりも上方の領域には、前後方向に延びる左右対称な一対の溝部17が形成されている。溝部17は、ハウジング本体11の前端面に開口している。左右両位置決め部16の突出端同士の間隔は、後述する第1導体47及び第2導体67の外径寸法と同じか、第1導体47及び第2導体67の外径寸法よりも僅かに大きい寸法に設定されている。
【0024】
接続部15の底面には、左右対称な一対の受け面18が形成されている。正面視において、受け面18は、底面の幅方向中央に向かって次第に低くなるように傾斜している。受け面18は、弧状に湾曲した形状であるが、平面であってもよい。底面の幅方向中央部には、アンカー部19が形成されている。アンカー部19は、左右両受け面18を幅方向中央側へ延長した仮想延長面(図示省略)よりも、更に下方へ弧状に凹んだ形態である。
【0025】
図3,4に示すように、キャビティ13のうち接続部15の後端に連なる領域は、接続部15よりも小径のガイド孔を有するガイド部20として機能する。キャビティ13のうちガイド部20の後端からキャビティ13の後端に至る領域は、ガイド部20よりも大径の挿通部21として機能する。保持空間14は、ハウジング本体11の後端面において左右方向に長いスリット状に開口している。保持空間14は、複数の全てのキャビティ13(挿通部21)の後端と連通している。保持空間14の左右両端部には、左右一対の抜止め突起22が形成されている。
【0026】
フロント部材12は、キャップ状をなし、図3,4に示すように、ハウジング本体11の前面を覆う前壁部24と、ハウジング本体11の前端側領域を包囲する周壁部25と、前壁部24から後方へ延出して周壁部25の一部を構成するロックアーム26とを有している。複数の接続部15の前端の開口は、前壁部24によって覆われている。前壁部24の各キャビティ13(接続部15)と対応する複数位置には、前壁部24を前後方向に貫通する複数の挿入孔27が形成されている。各挿入孔27は、接続部15よりも小径の断面円形をなしている。
【0027】
複数の押圧部材30は、電気的に絶縁性のゴム材料からなり、弾性変形することが可能である。複数の押圧部材30は、複数の接続部15内に個別に収容されている。押圧部材30は、接続部15の底面に載置された状態で配置されている。押圧部材30は、全体として前後方向に長い直方体形状をなす単一部品である。押圧部材30の最大幅寸法は、一対の位置決め部16の突出端同士の間隔よりも大きい寸法に設定されている。
【0028】
図1に示すように、押圧部材30の上面には、後述する可動側導通部材34を収容するための収容凹部31が形成されている。図6に示すように、押圧部材30の下面は、接続部15の受け面18と同様、正面視において、幅方向中央に向かって次第に低くなるように傾斜した左右対称な一対の傾斜面32を有している。押圧部材30の下面は、受け面18と同じ曲率で弧状に湾曲している。
【0029】
可動側導通部材34は、例えば銅またはアルミなどの金属製の板材からなり、全体として前後方向に長い形状をなす。可動側導通部材34は、第1導通部35Rと、第1導通部35Rよりも前方に配置された第2導通部35Fとを有する単一部品である。可動側導通部材34は、押圧部材30に対し、押圧部材30の上面に被せるようにして固着されている。
【0030】
可動側導通部材34を押圧部材30に取り付けた状態では、可動側導通部材34の上面と押圧部材30の上面が同じ高さで面一状に連なる。第1導通部35Rと第2導通部35Fの幅寸法は、押圧部材30の幅寸法と同じ寸法である。押圧部材30と第1導通部35Rと第2導通部35Fの幅寸法は、一対の位置決め部16の突出端同士の間隔よりも大きい寸法に設定されている。
【0031】
図6に示すように、可動側導通部材34と押圧部材30は、接続部15のうち位置決め部16よりも下方の領域内に収容されている。押圧部材30を接続部15に収容した状態では、押圧部材30の傾斜面32が接続部15の受け面18に対して面接触状態で密着する。また、接続部15の底面のうちアンカー部19においては、押圧部材30の傾斜面32とアンカー部19の内面との間にクリアランス36が確保されている。
【0032】
固定側導通部材40は、可動側導通部材34と同様、例えば銅またはアルミなどの金属製の板材からなる。図1,7に示すように、固定側導通部材40は、前後に間隔を空けて配置された3つの取付部41と、第1接点部42Rと、第1接点部42Rよりも前方に位置する第2接点部42Fとを有する単一部品である。第1接点部42Rの前端と後端は、中央に位置する取付部41の後端と、後側に位置する取付部41の前端とに連なっている。第2接点部42Fの前端と後端は、前側に位置する取付部41の後端と、中央に位置する取付部41の前端とに連なっている。固定側導通部材40を側方から見た側面視において、第1接点部42Rと第2接点部42Fは、下方へ膨らむように湾曲した形状をなし、取付部41よりも下方へ突出した形状である。
【0033】
固定側導通部材40は、3つの取付部41の左右両端部を接続部15の溝部17に嵌合することによって、接続部15内の上端部に固定して取り付けられている。固定側導通部材40は、押圧部材30及び可動側導通部材34よりも上方に位置し、可動側導通部材34との間に所定の間隔を空けて上下方向に対向している。第1接点部42R及び第2接点部42Fの下端と、押圧部材30が弾性変形してない状態における可動側導通部材34の上面との間の上下方向の間隔は、後述する第1導体47及び第2導体67の外径寸法よりも小さい寸法に設定されている。第1接点部42R及び第2接点部42Fの幅寸法は、一対の位置決め部16の突出端同士の間隔よりも小さい寸法に設定されている。雌側コネクタFを前方から見た正面視において、第1接点部42Rと第2接点部42Fは、一対の位置決め部16の間に配置されている。
【0034】
第1電線モジュール45は、複数本の第1被覆電線46と、1つの第1保持部材50とを一体化させたものである。第1被覆電線46は第1導体47を第1絶縁被覆48で包囲したものである。第1導体47は、銅またはアルミなどの金属材料からなる単芯線からなり、断面円形の形状を維持する剛性を有している。第1導体47の外径寸法は、第1導通部35R及び第2導通部35Fの幅寸法よりも小さく、一対の位置決め部16の突出端同士の間隔よりも小さい寸法に設定されている。第1被覆電線46の端部においては、第1絶縁被覆48が除去され、第1導体47が露出している。第1導体47の露出部分を第1接続端部49と定義する。
【0035】
第1保持部材50は、図1に示すように、幅方向に扁平な形状であって、横並びに配置された複数本の第1被覆電線46の中間皮剥ぎ部を一括して保持する。第1保持部材50は、複数の第1被覆電線46の周囲を樹脂で覆ったモールド成形品である。複数本の第1被覆電線46は、第1保持部材50を前後方向に貫通し、左右方向において一定の間隔に位置決めされた状態に保持される。第1保持部材50の左右両側面には、左右一対の係止突起51が形成されている。
【0036】
第1電線モジュール45は、雌側ハウジング10の後方からハウジング本体11内に組み付けられている。第1電線モジュール45を雌側ハウジング10に組み付けた状態では、第1保持部材50の係止突起51が雌側ハウジング10の抜止め突起22に係止することにより、第1電線モジュール45が雌側ハウジング10に対して抜止めされた状態に保持される。
【0037】
組付けの過程では、複数本の第1導体47の第1接続端部49が、挿通部21とガイド部20を順に貫通し、接続部15内に進入して第1導通部35Rと第1接点部42Rとの間に割り込んで挟まれる。押圧部材30が弾性変形していない状態では、第1導通部35Rと第1接点部42Rとの間隔が、第1接続端部49の外径寸法よりも小さいので、第1導通部35Rが、押圧部材30を潰すように弾性変形させながら、下方へ変位する。押圧部材30の弾性復元力により、第1導体47と第1導通部35Rとが所定の接圧で導通可能に接続されるとともに、第1導体47と第1接点部42Rとが所定の接圧で導通可能に接続される。
【0038】
第1導体47は、一対の位置決め部16の間に収容されるので、第1導体47が可動側導通部材34及び固定側導通部材40に対して幅方向に相対変位することが防止されている。これにより、第1導体47と可動側導通部材34との接続が安定して行われるとともに、第1導体47と固定側導通部材40との接続も安定して行われる。
【0039】
また、第1導体47と可動側導通部材34と固定側導通部材40とが接続した状態では、押圧部材30側から第1導体47に付与された押圧力が、第1導体47から反力として押圧部材30に作用する。第1導体47は、位置決め部16により接続部15の幅方向中央部に位置決めされているので、第1導体47からの反力の作用線Aは、接続部15の底面の幅方向中央部、即ちアンカー部19を通る。したがって、第1導体47から押圧部材30の作用した反力によって、押圧部材30の下端部の一部が、弾性変形しながらアンカー部19内に食い込む。この食い込みにより、押圧部材30が幅方向に位置ずれすることが防止される。
【0040】
さらに、第1導体47から押圧部材30に作用する反力により、押圧部材30の傾斜面32が接続部15の受け面18に押し付けられる。ここで、傾斜面32と受け面18は、幅方向中央に向かって低くなるように、かつ左右対称に傾斜している。したがって、反力を受けた押圧部材30が左右方向へ傾くおそれはない。
【0041】
雄側コネクタMの雄側ハウジング60は、合成樹脂製であって、図2に示すように、ハウジング部61と、ハウジング部61から突出する筒状のフード部62とを有する単一部品である。フード部62の上壁部の内面には、雌側コネクタFのロックアーム26に係止させるロック部63が形成されている。ハウジング部61は、図示は省略するが、雌側コネクタFの複数のガイド部20、複数の挿通部21及び保持空間14と同様の複数のガイド部20、複数の挿通部21及び保持空間14を有している。ハウジング部61は、雌側コネクタFの接続部15に相当する部位は有していない。
【0042】
第2電線モジュール65は、第1電線モジュール45と同様、複数本の第2被覆電線66と、1つの第2保持部材70とを一体化させたものである。第2被覆電線66の構成は、第1被覆電線46と同様、第2導体67を第2絶縁被覆68で包囲したものである。第2導体67は、銅またはアルミなどの金属材料からなる単芯線からなり、断面円形の形状を維持する剛性を有している。第2導体67の外径寸法は、第1導体47の外径寸法と同じ寸法である。第2被覆電線66の端部においては、第2絶縁被覆68が除去され、第2導体67が露出している。第2導体67の露出部分を第2接続端部69と定義する。
【0043】
第2電線モジュール65も、第1電線モジュール45と同様の構成により、ハウジング部61に組み付けられている。第2電線モジュール65を雄側ハウジング60に組み付けた状態では、第2導体67の第2接続端部69が、ハウジング部61の前面からフード部62内へ突出する。
【0044】
雄側コネクタMと雌側コネクタFを接続する際には、雌側コネクタFをフード部62内に嵌合する。嵌合の過程では、第2導体67の第2接続端部69が、挿入孔27を貫通して接続部15内に進入し、図7に示すように、第2導通部35Fと第2接点部42Fとの間に入り込む。このとき、第2導体67は、一対の位置決め部16によって幅方向位置決めされる。これにより、第2導体67と第2導通部35Fが、押圧部材30の弾性復元力によって所定の接圧で接続されるとともに、第2導体67と第2接点部42Fが、押圧部材30の弾性復元力によって所定の接圧で接続される。また、押圧部材30には第2導体67からの反力が作用するが、第1導体47の場合と同様、押圧部材30は、左右方向へ傾いたり、左右方向へ位置ずれしたりする虞はない。
【0045】
本実施例1のコネクタを構成する雄側コネクタMは、第1導体47と第2導体67が挿入可能な雌側ハウジング10と、可動側導通部材34と、固定側導通部材40と、押圧部材30とを有する。可動側導通部材34は、雌側ハウジング10内に収容され、第1導体47及び第2導体67に対して電気的に接触可能である。固定側導通部材40も、雌側ハウジング10内に収容され、第1導体47及び第2導体67に対して電気的に接触可能である。押圧部材30は、弾性を有する絶縁性材料からなり、雌側ハウジング10内に収容されている。押圧部材30は、可動側導通部材34と雌側ハウジング10に挿入された第1導体47及び第2導体67に対して接触方向の押圧力を付与する。押圧部材30は、固定側導通部材40と雌側ハウジング10に挿入された第1導体47及び第2導体67に対して接触方向の押圧力を付与する。
【0046】
可動側導通部材34と第1導体47は、押圧部材30から付与される接触方向の弾性的な押圧力によって接触するので、第1導体47と可動側導通部材34を圧着するための工程が不要である。固定側導通部材40と第1導体47も、押圧部材30から付与される接触方向の弾性的な押圧力によって接触するので、第1導体47と固定側導通部材40を圧着するための工程が不要である。
【0047】
押圧部材30は絶縁性材料からなり、押圧部材30とは別に絶縁のための構造を設ける必要がないので、雌側コネクタFの大型化を回避することが実現されている。したがって、本実施例1のコネクタは、大型化することなく圧着工程を省略できる。
【0048】
雌側ハウジング10には、第1導体47及び第2導体67の軸線方向(前後方向)と押圧部材30の押圧方向(上下方向)の両方向に対して直交する幅方向において、第1導体47と第2導体67を位置決めする位置決め部16が形成されている。第1導体47と第2導体67は、位置決め部16によって幅方向に位置決めされるので、第1導体47と第2導体67は、可動側導通部材34及び固定側導通部材40に対して幅方向に外れるおそれがない。したがって、第1導体47に対する可動側導通部材34と固定側導通部材40の接触信頼性に優れているととも、第2導体67に対する可動側導通部材34と固定側導通部材40の接触信頼性に優れている。
【0049】
押圧部材30の外面のうち第1導体47と第2導体67と可動側導通部材34と固定側導通部材40に押圧力を付与する上方向とは反対側の下面領域は、幅方向に関して対称的に傾斜した傾斜面32となっている。雌側ハウジング10には、左右一対の傾斜面32を面接触させる左右一対の受け面18が形成されている。押圧部材30が第1導体47と第2導体67と可動側導通部材34と固定側導通部材40に押圧力を付与したときに、第1導体47側及び第2導体67側から押圧部材30に反力が作用し、この反力は、傾斜面32から受け面18に作用する。一対の傾斜面32は、幅方向に関して対称的に傾斜しているので、反力を受けることによって、押圧部材30が幅方向へ位置ずれすることと、押圧部材30が幅方向へ傾くことを防止できる。
【0050】
雌側ハウジング10には、押圧部材30が弾性的に嵌合することが可能なアンカー部19が形成されている。押圧部材30は、第1導体47と第2導体67と可動側導通部材34と固定側導通部材40に押圧力を付与したときに、第1導体47側及び第2導体67側からの反力によって弾性変形してアンカー部19に嵌合する。この嵌合によって、押圧部材30の位置ずれが防止される。
【0051】
アンカー部19は、雌側ハウジング10における押圧部材30の下面との対向面(底面)を凹ませた形態である。第1導体47と第2導体67が雌側ハウジング10に未挿入の状態では、押圧部材30の下面(外面)とアンカー部19の内面との間にクリアランス36が確保されている。アンカー部が突起状をなす場合は、第1導体47と第2導体67が雌側ハウジング10に未挿入のときに押圧部材30が突起状のアンカー部に乗り上がる。そのため、押圧部材30と雌側ハウジング10との接触面積が比較的狭くなり、押圧部材30の位置や姿勢が不安定になることが懸念される。これに対し、本実施形態では、アンカー部19が凹んだ形態なので、第1導体47と第2導体67が雌側ハウジング10に未挿入で押圧部材30が弾性変形していないときに、押圧部材30の傾斜面32と雌側ハウジング10の受け面18が比較的広い面積にわたって接触するので、押圧部材30の位置や姿勢が不安定になるおそれがない。
【0052】
アンカー部19は、押圧部材30を挟んで第1導体47及び第2導体67とは反対側の位置に配置されている。この構成によれば、第1導体47側及び第2導体67側から押圧部材30への反力の作用線A上にアンカー部19が位置するので、アンカー部19に対する押圧部材30の嵌合力が大きい。これにより、押圧部材30の幅方向への位置ずれを確実に防止することができる。
【0053】
[実施例2]
本開示を具体化した実施例2を、図8を参照して説明する。本実施例2のコネクタは、固定側導通部材75に設けた前後2つの接点部76を上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0054】
第1導体47と第2導体67の断面形状は、円形なので、固定側導通部材75の接点部76における第1導体47及び第2導体67との接触領域を、第1導体47及び第2導体67の外周面に対して面接触する弧状面77で構成した。この構成によれば、固定側導通部材75と第1導体47との接触面積が広くなるとともに、固定側導通部材75と第2導体67との接触面積が広くなる。これにより、固定側導通部材75と第1導体47との接触状態が安定するとともに、固定側導通部材75と第2導体67との接触状態が安定する。また、幅方向において、第1導体47と第2導体67の位置が安定する。
【0055】
[他の実施例]
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される。本発明には、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内でのすべての変更が含まれ、下記のような実施形態も含まれることが意図される。
上記実施例では、アンカー部が凹んだ形態であるが、アンカー部は突起状をなしていてもよい。
上記実施例1,2では、傾斜面が、幅方向中央部を突き出すように対称的に傾斜しているが、傾斜面は、幅方向中央部を凹ませるように対称的に傾斜していてもよい。
上記実施例1,2では、押圧部材の外面のうち導体及び導通部材への押圧力の付与方向とは反対側の領域が、傾斜面となっているが、この領域は、導体及び導通部材への押圧力の付与方向に対して直角な平坦面であってもよい。
上記実施例1,2では、ハウジングにアンカー部を形成したが、ハウジングはアンカー部を有しないものであってもよい。
上記実施例1,2では、アンカー部が、押圧部材を挟んで導体とは反対側の位置に配置され、導体側から押圧部材への反力の作用線上に位置しているが、アンカー部は、導体側から押圧部材への反力の作用線から外れた位置に配置されていてもよい。
上記実施例1,2では、可動側導通部材と固定側導通部材を導体に接触させるが、固定側導通部材を設けず、可動側導通部材のみを導体に接触させてもよく、可動側導通部材を設けず、固定側導通部材のみを導体に接触させてもよい。 上記実施例1,2において、固定側導通部材に替えて、押圧部材と可動側導通部材を設け、一対の押圧部材の弾力によって、一対の可動側導通部材を2本の導体に弾性的に接触させてもよい。
上記実施例2では、固定側導通部材のみに弧状面を形成したが、弧状面は、固定側導通部材と可動側導電路の両方に形成してもよく、可動側導通部材のみに形成してもよい。
上記実施例1,2では、可動側導通部材が、銅、アルミなどの金属製の板状部材であるが、可動側導通部材は、金属製の線状部材または棒状部材でもよく、銅、アルミなどの金属箔、カーボン粉末、カーボンナノチューブなどからなり、押圧部材に塗布される導電材であってもよい。
上記実施例1,2では、押圧部材はゴム製であったが、押圧部材はゴム製に限らず、合成樹脂製であっても良い。
上記実施例1,2では、導体は電線の単芯線であったが、導体は、単芯線に限らず、撚り線を超音波溶着やレーザ溶着などで固めて構成されるものであってもよく、金属板材からなるバスバーであってもよい。
上記実施例1,2において、接続装置は可動側導通部材と固定側導通部材と押圧部材に加え、例えば、熱収縮チューブなどの止水部材を備えていてもよい。止水部材は、押圧部材と絶縁被覆との間に露出する導体を覆うように装着されるとよい。
上記実施例1,2では、複数の固定側導通部材が互いに絶縁状態で配置されているが、複数の固定側導通部材を連結部を介して一体的に連結してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…雌側ハウジング(ハウジング)
11…ハウジング本体
12…フロント部材
13…キャビティ
14…保持空間
15…接続部
16…位置決め部
17…溝部
18…受け面
19…アンカー部
20…ガイド部
21…挿通部
22…抜止め突起
24…前壁部
25…周壁部
26…ロックアーム
27…挿入孔
30…押圧部材
31…収容凹部
32…傾斜面
34…可動側導通部材(導通部材)
35F…第2導通部
35R…第1導通部
36…クリアランス
40…固定側導通部材(導通部材)
41…取付部
42F…第2接点部
42R…第1接点部
45…第1電線モジュール
46…第1被覆電線
47…第1導体(導体)
48…第1絶縁被覆
49…第1接続端部
50…第1保持部材
51…係止突起
60…雄側ハウジング
61…ハウジング部
62…フード部
63…ロック部
65…第2電線モジュール
66…第2被覆電線
67…第2導体(導体)
68…第2絶縁被覆
69…第2接続端部
70…第2保持部材
75…固定側導通部材
76…接点部
77…弧状面
A…作用線
F…雌側コネクタ
M…雄側コネクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8