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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両用電源システム
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/01 20060101AFI20231011BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20231011BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20231011BHJP
【FI】
H03H7/01 Z
H01F37/00 N
B60L50/60
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020040095
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021141545
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100113011
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】見上 晃
(72)【発明者】
【氏名】渕上 翔太
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-130713(JP,A)
【文献】特開2019-047541(JP,A)
【文献】特開平05-006824(JP,A)
【文献】特開2006-332475(JP,A)
【文献】特開平02-065516(JP,A)
【文献】特開2000-244271(JP,A)
【文献】特開2018-098891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
B60L1/00-B60L58/40
H03H1/00-H03H3/00
H03H5/00-H03H7/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置と、複数のノイズ発生機器を含む複数の機器と、前記蓄電装置と前記複数の機器とを接続する配電回路とを含む車両用電源システムにおいて、
前記複数のノイズ発生機器のそれぞれは、フェライトコアと、前記フェライトコアに対して前記ノイズ発生機器の側に設けられたYコンデンサとを介して前記配電回路に接続され、
前記蓄電装置はフェライトコアを介して前記配電回路に接続され、
前記複数のノイズ発生機器のそれぞれに対して設けられた前記フェライトコア及び前記蓄電装置に対して設けられた前記フェライトコアは、前記複数の機器及び前記蓄電装置のそれぞれにおいて、前記配電回路との接続部よりも前記配電回路の側のインピーダンスであるシステムインピーダンスを計測した場合に、前記システムインピーダンスのAM帯でのインピーダンス値がLISNのAM帯でのインピーダンス値よりも高くなり、且つ、前記複数の機器及び前記蓄電装置の間での前記システムインピーダンスのばらつきが20Ωの範囲に収まる形状及び材質を有する
ことを特徴とする車両用電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コモンモードのノイズに対する対策として、Yコンデンサとインピーダンス素子とを組み合わせたノイズフィルタをノイズ発生機器に対して設けることが知られている。インピーダンス素子には、フェライトコアやコモンモードチョークコイルが含まれる。特許文献1に開示された例では、電源に対して並列に接続された複数の電力変換装置のそれぞれにノイズフィルタが設けられている。それぞれのノイズフィルタにおいて、Yコンデンサの静電容量及びコモンモードチョークコイルのインダクタンス値は、ノイズフィルタのインピーダンスが予め定められたノイズフィルタの電源側のインピーダンスよりも高くなるように設定されている。
【0003】
ところで、車両用電源システムにおける課題の一つは、AM帯(0.1~2MHz)のノイズ、いわゆるラジオノイズを低減することである。車両用電源システムは、ノイズ発生源となる機器を含めて複数の機器から構成されている。特許文献1に記載の従来技術では、これら複数の機器からなるシステム全体としてAM帯のノイズを低減することについては特に考慮されていない。なお、本出願の出願当時の技術水準を表す文献としては、特許文献1の他に、特許文献2及び特許文献3を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-047541号公報
【文献】特開2006-332475号公報
【文献】国際公開第2015/104936号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、AM帯のノイズを低減することができる車両用電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用電源システムは、蓄電装置と、複数のノイズ発生機器を含む複数の機器と、蓄電装置と複数の機器とを接続する配電回路とを含む車両用電源システムである。複数のノイズ発生機器のそれぞれは、ノイズフィルタを介して配電回路に接続されている。ノイズフィルタは、ノイズ発生機器の側に設けられたYコンデンサと、配電回路の側に設けられたインピーダンス素子とを含む。複数のノイズ発生機器のそれぞれに対して設けられたインピーダンス素子は、複数の機器のそれぞれにおいて、配電回路との接続部よりも配電回路の側のインピーダンスであるシステムインピーダンスを、少なくともAM帯において所定の下限インピーダンスよりも高くする形状及び材質を有するインピーダンス素子である。
【0007】
上記の構成によれば、少なくともAM帯では、複数の機器のそれぞれにおいてシステムインピーダンスが下限インピーダンスよりも高くなるように、各インピーダンス素子の形状及び材質が調整されているので、車両用電源システムのシステム全体としてAM帯のノイズを低減することができる。インピーダンス素子は、複数の機器の間でのシステムインピーダンスのばらつきを所定の許容範囲に収める形状及び材質を有していてもよい。これによれば、システムインピーダンスが他よりも低い機器へのノイズの流入を抑えることができる。
【0008】
蓄電装置がインピーダンス素子を介して配電回路に接続されている場合、複数のノイズ発生機器のそれぞれに対して設けられたインピーダンス素子、及び蓄電装置に対して設けられたインピーダンス素子は、複数の機器及び蓄電装置のそれぞれにおいて、システムインピーダンスを少なくともAM帯において下限インピーダンスよりも高くする形状及び材質を有していてもよい。これによれば、蓄電装置がノイズ発生源の一つである場合にも、車両用電源システムのシステム全体としてAM帯のノイズを低減することができる。インピーダンス素子は、複数の機器及び蓄電装置の間でのシステムインピーダンスのばらつきを所定の許容範囲に収める形状及び材質を有していてもよい。これによれば、システムインピーダンスが他よりも低い機器又は蓄電装置へのノイズの流入を抑えることができる。
【0009】
一つの実施形態として、下限インピーダンスは、LISNのインピーダンス-周波数特性から定まるインピーダンスである。一つの実施形態として、インピーダンス素子は、フェライトコアである。一つの実施形態として、複数のノイズ発生機器の少なくとも1つは、スイッチング素子を有するインバータである。一つの実施形態として、複数の機器の少なくとも1つは、DC-DCコンバータである。
【発明の効果】
【0010】
以上のとおり、本発明に係る車両用電源システムによれば、車両用電源システムのシステム全体としてAM帯のノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る車両用電源システムの構成を示す図である。
図2】PCUの等価回路を示す回路図である。
図3】フェライトコアの形状及び材質の調整手順を示す図である。
図4】フェライトコアが無い場合のシステムインピーダンスの周波数特性を示す図である。
図5】フェライトコアをPCUと水加熱器とに設けた場合のシステムインピーダンスの周波数特性を示す図である。
図6】フェライトコアをPCUと水加熱器とバッテリとに設けた場合のシステムインピーダンスの周波数特性を示す図である。
図7】フェライトコアの形状及び材質を調整する前のノイズレベル-周波数特性を示す図である。
図8】フェライトコアの形状及び材質を調整した後のノイズレベル-周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に示す各実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に本発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本発明に必ずしも必須のものではない。
【0013】
1.車両用電源システムの構成
図1は、本実施形態に係る車両用電源システムの構成を示している。本実施形態に係る車両用電源システム2は、電気自動車用の電源システムである。ただし、車両用電源システム2は、エンジンを搭載しない純粋な電気自動車だけでなく、エンジンを搭載するハイブリッド自動車にも適用することができる。
【0014】
車両用電源システム2が適用される電気自動車は、後輪を駆動するリアモータジェネレータ10と前輪を駆動するフロントモータジェネレータ14とを備える。以下、モータジェネレータはMGと表記される。MG10,14は、たとえば、三相交流同期電動機である。MG10,14は、電力を供給されて駆動力を発生させる。車両の制動時には、MG10,14は、ジェネレータとして作動して発電する。ただし、モータとジェネレータとは別々に設けられてもよい。つまり、MG10は、後輪を駆動するモータと後輪を回生制動するジェネレータとの集合であってもよい。同様に、MG14は、前輪を駆動するモータと前輪を回生制動するジェネレータとの集合であってもよい。
【0015】
車両用電源システム2は、充放電可能に構成された高電圧バッテリ4を備える。MG10,14を駆動する電力は高電圧バッテリ4から供給される。また、MG10,14で発電された電力は高電圧バッテリ4に充電される。高電圧バッテリ4は、たとえば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池を含む蓄電装置である。リチウムイオン二次電池は、電解質が液体の一般的なリチウムイオン二次電池のほか、固体の電解質を用いた全固体電池であってもよい。高電圧バッテリ4は、キャパシタ等の蓄電素子を含む蓄電装置と置き換えることもできる。
【0016】
車両用電源システム2は、高電圧バッテリ4に蓄えられた電力を複数の機器に供給する配電ユニット6を備える。配電ユニット6は、高電圧バッテリ4に複数の機器を接続する分岐ボックス40を備える。
【0017】
分岐ボックス40は、図示しないシステムメインリレーを介して高電圧バッテリ4に接続されている。分岐ボックス40には、第1パワーコントロールユニット8、第2パワーコントロールユニット12、水加熱器16、エアコン18、第1DC-DCコンバータ42、第2DC-DCコンバータ20、及びDC電源用インレット24が、それぞれ一対の電力線によって並列に接続されている。分岐ボックス40と、分岐ボックス40及び各機器とを接続する電力線とによって、複数の機器と高電圧バッテリ4とを接続する配電回路が構成される。なお、以下、パワーコントロールユニットはPCUと表記される。
【0018】
PCU8,12は、冷却器を間に挟んで複数枚積層されたパワーカードを備える。パワーカードは、インバータを構成するIGBT及びダイオードが1つのパッケージにされて構成されている。リアPCU8は、高電圧バッテリ4とリアMG10との間に設けられている。フロントPCU12は、高電圧バッテリ4とフロントMG14との間に設けられている。PCU8,12は、高電圧バッテリ4から供給される電力を制御することによって、MG10,14が発生させる駆動力を制御する。MG10,14が発電した電力は、PCU8,12を通じて高電圧バッテリ4に供給される。
【0019】
水加熱器16は、ヒューズ30を介して分岐ボックス40に接続されている。水加熱器16は、高電圧バッテリ4から供給される電力によって作動し、水を加熱して温水を生成する。水加熱器16で生成された温水は、例えば冬季において、車両の室内の暖房に用いられる。水加熱器16は、例えばPTCヒータであって、図示しないECUからの制御信号によってPWM方式で通電を制御される。
【0020】
エアコン18は、ヒューズ32を介して分岐ボックス40に接続されている。エアコン18は図示しない電動コンプレッサを有する。このコンプレッサは、高電圧バッテリ4から供給される電力によって作動する。エアコン18は、図示しないECUからの制御信号に基づいて、車両の室内の温度調節を行なう。
【0021】
第1DC-DCコンバータ42は、配電ユニット6に内蔵されている。第1DC-DCコンバータ42は、定格出力電流が例えば150Aである大電流出力コンバータである。第1DC-DCコンバータ42は、図示しない低電圧バッテリに接続され、高電圧バッテリ4から受ける電力を低電圧バッテリの電圧レベルへ降圧するように構成される。
【0022】
第2DC-DCコンバータ20は、ヒューズ34を介して分岐ボックス40に接続されている。第2DC-DCコンバータ20の定格出力電流は、例えば50Aである。第2DC-DCコンバータ20は、AC100Vインバータ22に接続され、高電圧バッテリ4から受ける電力をAC100Vインバータ22の入力電圧レベルへ降圧するように構成される。
【0023】
DC電源用インレット24は、図示しないDC充電ケーブルのコネクタが接続される受電部である。DC充電ケーブルは、図示しないDC電源に接続される。DC電源用インレット24は、配電ユニット6に内蔵されたDCリレー44,46を介して分岐ボックス40へ接続されている。DCリレー44,46は、DC電源による外部充電の実行時に図示しないECUによってオンされる。
【0024】
配電ユニット6には、AC充電器48が内蔵されている。AC充電器48には、配電ユニット6の外に設置されたAC電源用インレット26が接続されている。AC電源用インレット26は、図示しないAC充電ケーブルのコネクタが接続される受電部である。AC充電ケーブルは、図示しないAC電源に接続される。
【0025】
AC充電器48は、AC電源から受ける交流電力を直流に変換するAC-DCコンバータと、AC-DCコンバータの出力を高電圧バッテリ4の電圧レベルに変換するDC-DCコンバータとを含んで構成される。AC充電器48は、分岐ボックス40には接続されず、図示しない充電リレーを介して高電圧バッテリ4に直接接続されている。充電リレーは、AC電源による外部充電の実行時に図示しないECUによってオンされる。
【0026】
以上の構成に加えて、車両用電源システム2は、要所にインピーダンス素子を備える。本実施形態では、インピーダンス素子としてフェライトコア50,52,54,56が用いられる。ただし、フェライトコアに代えてコモンモードチョークコイルが用いられてもよい。フェライトコア50は、リアPCU8と分岐ボックス40とを接続する電力線に設けられている。フェライトコア52は、フロントPCU12と分岐ボックス40とを接続する電力線に設けられている。フェライトコア54は、水加熱器16と分岐ボックス40とを接続する電力線に設けられている。フェライトコア56は、高電圧バッテリ4と分岐ボックス40とを接続する電力線に設けられている。
【0027】
フェライトコア50,52,54が設けられるリアPCU8、フロントPCU12、及び水加熱器16は、内部にノイズ発生源を有するノイズ発生機器である。また、フェライトコア56が設けられる高電圧バッテリ4もノイズ発生源を内部に有している。フェライトコア50,52,54,56は、後述するシステムインピーダンスを高めることによって、車両用電源システム2から外部に発せられるノイズ、特にコモンモードのノイズを低減する目的で設けられている。なお、図に示すフェライトコア50,52,54,56の配置位置は一例である。機器の内部にフェライトコア50,52,54,56を配置してもよいし、配電ユニット6の中にフェライトコア50,52,54,56を配置してもよい。
【0028】
2.ノイズ低減対策の詳細
次に、車両用電源システム2で採用されているノイズ低減対策の詳細について図2を用いて説明する。図2は、PCUの等価回路を示す回路図である。ここでは、フロントPCU12の等価回路を例にとるが、リアPCU8の等価回路もこれと同じ回路図で表すことができる。また、他のノイズ発生機器の等価回路もこれと同様の回路図で表すことができる。
【0029】
フロントPCU12は、図示しない昇圧回路とインバータ80,82とを備える。各インバータ80,82は、三相分のスイッチング素子を含むブリッジ回路によって構成される。一方のインバータ80は図1に示すMG14をモータとして作動させ、もう一方のインバータ82はMG14をジェネレータとして作動させる。インバータ80,82からは、スイッチング素子の動作に伴ってノイズが発生する。つまり、インバータ80,82はノイズ発生源である。
【0030】
車両用電源システム2の各ノイズ発生機器から電力線を伝って放出されるノイズには、コモンモードのノイズが含まれる。車両用電源システム2では、各ノイズ発生機器に、コモンモードのノイズを低減するためのノイズフィルタが設けられている。ノイズフィルタは、配電回路の側に設けられるYコンデンサと、配電回路の側に設けられる前述のフェライトコアとを含む。フロントPCU12にもノイズフィルタ60が設けられている。
【0031】
フロントPCU12のノイズフィルタ60は、Yコンデンサ62とフェライトコア52とを含んで構成される。Yコンデンサ62は、フェライトコア52に対してインバータ80,82の側に設けられている。Yコンデンサ62は、一対の電力線に対応する2つのコンデンサ63a,63bを備えている。コンデンサ63a,63bは、フロントPCU12の筐体に接地されている。
【0032】
等価回路で表されるように、図示しない昇圧回路の電力線とパワーカードを冷却する冷却器とは、寄生容量70を介して接続されている。また、昇圧回路とインバータ80,82との間の部位である安定部位と冷却器とは、寄生容量72,74を介して接続されている。インバータ80,82とMG14との間の部位である変動部位と冷却器とは、寄生容量76,78を介して接続されている。冷却器はフロントPCU12の筐体に接地されている。
【0033】
Yコンデンサ62が設けられることで、インバータ80,82から流れ出たコモンモード電流は、Yコンデンサ62を経てフロントPCU12の筐体に流れ、寄生容量70,72,74,76,78を介してインバータ80,82に戻る。つまり、Yコンデンサ62が設置されることにより、ノイズ発生源であるインバータ80,82に対して、コモンモードのノイズの帰還路が形成される。ただし、Yコンデンサ62は、特定の周波数域のインピーダンスを低下させる作用を有している。
【0034】
インピーダンス素子であるフェライトコア52は、Yコンデンサ62の設置により低下したインピーダンスを増大させる役割を有している。ここで重要なことは、フロントPCU12に対して設置されたフェライトコア52は、分岐ボックス40を介して接続されている他の機器や高電圧バッテリ4に対しても、インピーダンスを増大させる効果を有していることである。同様に、リアPCU8等の他の機器や高電圧バッテリ4に対して設置されたフェライトコア50,54,56も、フロントPCU12のインピーダンスを増大させる効果を有している。
【0035】
配電回路に接続された機器或いは高電圧バッテリ4の配電回路との接続部よりも配電回路の側のインピーダンスは、システムインピーダンスと定義される。システムインピーダンスの対象となる機器には、リアPCU8、フロントPCU12、水加熱器16、エアコン18、第1DC-DCコンバータ42、及び第2DC-DCコンバータ20が含まれる。システムインピーダンスの値は機器ごとに異なる。例えば、フロントPCU12から見たシステムインピーダンスの値は、第1DC-DCコンバータ42から見たシステムインピーダンスの値とは異なり、高電圧バッテリ4から見たシステムインピーダンスの値とも異なる。配電回路に接続された複数の機器及び高電圧バッテリ4のそれぞれにおいて、システムインピーダンスを高くすることができれば、車両用電源システム2のシステム全体としてノイズを低減することができる。
【0036】
ただし、全ての周波数域でノイズを低減することは困難であり現実的でもない。また、特定の周波数域に絞ってノイズを低減する場合であっても、ノイズをゼロに近づけることは容易ではない。車両において優先的に低減されるノイズは、AM帯のノイズ、すなわちラジオノイズである。ゆえに、本実施形態では、少なくともラジオノイズが低減されるように、フェライトコア50,52,54,56が設計される。
【0037】
より詳しくは、配電回路に接続された複数の機器及び高電圧バッテリ4のそれぞれにおいて、システムインピーダンスが、少なくともAM帯において所定の下限インピーダンスよりも高くなるように、フェライトコア50,52,54,56の設計が行われる。システムインピーダンスに対して設定される下限インピーダンスとしては、例えば、LISN(Line impedance stabilization network)のインピーダンス-周波数特性から定まるAM帯でのインピーダンスを用いることができる。
【0038】
さらに、本実施形態では、少なくともAM帯において、配電回路に接続された複数の機器及び高電圧バッテリ4の間でのシステムインピーダンスのばらつきが所定の許容範囲に収まるように、フェライトコア50,52,54,56の設計が行われる。ばらつきが許容されるシステムインピーダンスの範囲は、例えば、20Ωである。複数の機器及び高電圧バッテリ4の間でシステムインピーダンスのばらつきを低減することにより、システムインピーダンスが低い特定の機器にノイズが侵入することを抑えることができる。
【0039】
フェライトコア50,52,54,56の設計とは、形状及び材質を決めることである。例えば、フェライトコア50,52,54,56の形状がリング状の場合、リングの外径、内径、及び幅がインピーダンスを決定するパラメータとなる。また、フェライトコア50,52,54,56に用いられる材質ごとに透磁率-周波数特性が決まっている。よって、形状及び材質を調整することによって、フェライトコア50,52,54,56毎にそのインピーダンスを調整することができる。
【0040】
3.フェライトコアの形状及び材質の調整手順
次に、フェライトコア50,52,54,56の形状及び材質の調整手順について図3を用いて説明する。まず、ステップS1では、対象機器(高圧バッテリ4を含む)の中から、システムインピーダンスを計算する機器が選択される。ステップS2では、各フェライトコア50,52,54,56の形状及び材質の調整が行われる。ステップS3では、調整後のフェライトコア50,52,54,56の各特性値に基づいてシステムインピーダンスが計算される。ステップS4では、計算されたシステムインピーダンスがLISNから決まる下限値より大きいかどうか判定される。ステムインピーダンスが下限値以下であれば、再びステップS2に戻って形状及び材質の再調整が行われる。
【0041】
ステップS2乃至S4の処理をより具体的に説明すると次のようになる。まず、1つのフェライトコアについて、フェライト材質が決定される。選択可能なフェライト材質としては、例えばHF40、HF57、HF70を挙げることができる。フェライト材質を決定したことにより、フェライト材質に固有の透磁率-周波数特性から透磁率が決まる。次に、そのフェライトコアについてコア形状が仮決定される。コア形状と透磁率が決まれば、そのフェライトコアの特性値であるインピーダンス、インダクタンス、及びリアクタンスが定量化される。同様の処理は他のフェライトコアについても行われる。そして、各フェライトコアのインピーダンス、インダクタンス、及びリアクタンスに基づいて、システムインピーダンスが計算される。システムインピーダンスの計算値が下限値以下である場合には、フェライト材質はそのままでコア形状が再仮決定される。このようにコア形状の微調整による最適化を行った結果、システムインピーダンスの計算値が下限値よりも大きくなれば、その時点で仮決定されていたコア形状は正式なコア形状として決定される。一方、システムインピーダンスの計算値が下限値を上回らない場合、フェライト材質が変更されて上記の処理が繰り返される。
【0042】
ステムインピーダンスが下限値よりも大きくなった場合、処理はステップS5に進む。ステップS5では、全ての対象機器(高圧バッテリ4を含む)でシステムインピーダンスの調整が完了したかどうか判定される。全ての対象機器での調整が完了していない場合、処理はステップS1に戻り、システムインピーダンスを計算する機器が変更される。全ての対象機器でシステムインピーダンスの調整が完了するまで、以上の処理が繰り返し行われる。
【0043】
上述の手順では、フェライトコア50,52,54,56の形状及び材質の調整はシミュレーションで行われる。しかし、ステップS2では、フェライトコア50,52,54,56の形状及び材質の調整が実際に行われてもよい。そして、ステップS3では、形状及び材質を実際に調整されたフェライトコア50,52,54,56が車両用電源システム2に実装され、インピーダンスアナライザを用いてシステムインピーダンスが計測されてもよい。
【0044】
4.フェライトコアの形状及び材質の調整結果
最後に、上記の手順でフェライトコア50,52,54,56の形状及び材質を調整した結果を図4乃至図8を用いて説明する。図4乃至図6の各図には、それぞれ4つのグラフが含まれている。最上段のグラフは、各対象機器(高圧バッテリ4を含む)から見たシステムインピーダンスの周波数特性をLISNの周波特性と合わせて示している。二段目のグラフは、リアPCU8及びフロントPCU12のそれぞれから見たシステムインピーダンスの周波数特性をLISNの周波特性と合わせて示している。三段目のグラフは、水加熱器16から見たシステムインピーダンスの周波数特性をLISNの周波特性と合わせて示している。そして、最下段のグラフは、高電圧バッテリ4から見たシステムインピーダンスの周波数特性をLISNの周波特性と合わせて示している。
【0045】
図4は、車両用電源システム2にフェライトコアが設けられていない場合のシステムインピーダンスの周波数特性を示している。AM帯の中心である1MHz付近に着目すると、リアPCU8、フロントPCU12、水加熱器16、及び高電圧バッテリ4のそれぞれにおいて、システムインピーダンスはLISNのインピーダンスよりも低くなっている。また、第1DC-DCコンバータ42(グラフではDCDCと表記される)から見たシステムインピーダンスもLISNのインピーダンスよりも低くなっている。
【0046】
図5は、リアPCU8、フロントPCU12、及び水加熱器16にフェライトコア50,52,54を設けた場合のシステムインピーダンスの周波数特性を示している。リアPCU8、フロントPCU12、及び水加熱器16のそれぞれにおいて、AM帯でのシステムインピーダンスはLISNのインピーダンスよりも高くなっている。しかし、高電圧バッテリ4から見たシステムインピーダンスはLISNのインピーダンスよりも僅かに低く、第1DC-DCコンバータ42から見たシステムインピーダンスもLISNのインピーダンスよりも低いままである。
【0047】
図6は、さらに高電圧バッテリ4にもフェライトコア56を設けた場合のシステムインピーダンスの周波数特性を示している。高電圧バッテリ4においても、1AM帯でのシステムインピーダンスはLISNのインピーダンスよりも高くなっている。さらに、第1DC-DCコンバータ42を含めて他の機器についても、AM帯でのシステムインピーダンスはLISNのインピーダンスの近くまで上昇している。また、対象機器(高圧バッテリ4を含む)間でのAM帯でのシステムインピーダンスのばらつきは、ほぼ20Ωの範囲に収まっている。
【0048】
図6に示すグラフでは、第1DC-DCコンバータ42を含む一部の機器については、AM帯でのシステムインピーダンスはLISNのインピーダンスよりも高くなっていない。しかし、各フェライトコア50,52,54,56の形状及び材質を調整していくことで、対象機器間でのシステムインピーダンスのばらつきを許容範囲に収めつつ、全対象機器についてAM帯でのシステムインピーダンスをLISNのインピーダンスよりも高くすることができる。
【0049】
図7は、フェライトコア50,52,54,56の形状及び材質を調整する前のノイズレベル-周波数特性を示している。図8は、フェライトコア50,52,54,56の形状及び材質を調整した後のノイズレベル-周波数特性を示している。2つのノイズレベル-周波数特性の比較から、フェライトコア50,52,54,56の形状及び材質を調整したことによって、AM帯でのノイズレベルは全体として低減されていることが確認できる。
【0050】
なお、本実施形態では、リアPCU8、フロントPCU12、及び水加熱器16がノイズ発生機器として扱われているが、スイッチング素子を有する機器であればノイズ発生機器となりうる。よって、第1DC-DCコンバータ42と第2DC-DCコンバータ20もノイズ発生機器となりうる。ただし、重要なことは、車両用電源システム2のシステム全体としてAM帯のノイズを低減することであって、必ずしも全てのノイズ発生機器にフェライトコアが設けられている必要はない。図4乃至図8に示す例では、第1DC-DCコンバータ42と第2DC-DCコンバータ20にはフェライトコアを設けずとも、システム全体としてAM帯のノイズは低減されている。
【符号の説明】
【0051】
2 車両用電源システム
4 高電圧バッテリ
6 配電ユニット
8 リアPCU
10 リアMG
12 フロントPCU
14 フロントMG
16 水加熱器
18 エアコン
20 第2DC-DCコンバータ
22 AC100Vインバータ
40 分岐ボックス
42 第1DC-DCコンバータ
50,52,54,56 フェライトコア
60 ノイズフィルタ
62 Yコンデンサ
80,82 インバータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8