(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】リチウム固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231011BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231011BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231011BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231011BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231011BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231011BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/38 Z
H01M4/134
(21)【出願番号】P 2020041813
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕之
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-067663(JP,A)
【文献】特開2017-112041(JP,A)
【文献】特開2015-018775(JP,A)
【文献】特開2020-166994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0562
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物系正極活物質を含有する正極層を有する正極と、負極活物質を含有する負極層を有する負極と、当該正極層及び当該負極層の間に配置され、固体電解質を含有する固体電解質層とを備え、
少なくとも前記負極層及び前記固体電解質層のいずれか一方は、硫化物系固体電解質を含有し、
前記負極層は、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、亜リン酸エステル、及び、リン酸エステルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種のリン系エステル化合物を含み、
前記負極層中の前記リン系エステル化合物の含有量は、当該負極層の総質量を100質量%としたとき、1質量%以上10質量%以下であり、
前記リン系エステル化合物が、フッ素化アルキル基を有することを特徴とするリチウム固体電池。
【請求項2】
前記リン系エステル化合物は、
リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)である、請求項1に記載のリチウム固体電池。
【請求項3】
前記負極活物質が、Si単体及びSi合金からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項
1に記載のリチウム固体電池。
【請求項4】
前記リン系エステル化合物は、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)であり、
前記負極層中の前記リン系エステル化合物の含有量は、当該負極層の総質量を100質量%としたとき、5質量%である、請求項
1又は3に記載のリチウム固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電池の分野において、従来から、固体電池の熱安定性の向上を図る試みがある。
例えば、特許文献1には、リン酸エステルを正極活物質層に含んだリチウム固体電池が開示されている。
【0003】
また、リン酸エステルを難燃剤として用いた技術として、特許文献2には、ポリマー固体電解質用難燃性組成物として、含フッ素リン酸エステルが開示されている。
さらに、特許文献3には、フッ素化アルキル基を有するリン酸エステル等を難燃剤として含むリチウムイオン二次電池用の電解液組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-112041号公報
【文献】特開2003-238821号公報
【文献】特開2019-079781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者が鋭意検討した結果、特許文献1に開示のように、リチウム固体電池の正極活物質層にリン酸エステルを含むと、当該リチウム固体電池は、熱安定性は向上するが、抵抗が高くなるという問題が生じ得ることが分かった。
【0006】
本開示は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本開示の目的は、熱安定性が高く且つ抵抗が低いリチウム固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、酸化物系正極活物質を含有する正極層を有する正極と、負極活物質を含有する負極層を有する負極と、当該正極層及び当該負極層の間に配置され、固体電解質を含有する固体電解質層とを備え、
少なくとも前記負極層及び前記固体電解質層のいずれか一方は、硫化物系固体電解質を含有し、
前記負極層は、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、亜リン酸エステル、及び、リン酸エステルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種のリン系エステル化合物を含むことを特徴とするリチウム固体電池を提供する。
【0008】
本開示のリチウム固体電池において、前記負極層中の前記リン系エステル化合物の含有量は、当該負極層の総質量を100質量%としたとき、1質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0009】
本開示のリチウム固体電池において、前記負極活物質が、Si単体及びSi合金からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0010】
本開示のリチウム固体電池において、前記リン系エステル化合物が、フッ素化アルキル基を有していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、熱安定性が高く且つ抵抗が低いリチウム固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示のリチウム固体電池の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、酸化物系正極活物質を含有する正極層を有する正極と、負極活物質を含有する負極層を有する負極と、当該正極層及び当該負極層の間に配置され、固体電解質を含有する固体電解質層とを備え、
少なくとも前記負極層及び前記固体電解質層のいずれか一方は、硫化物系固体電解質を含有し、
前記負極層は、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、亜リン酸エステル、及び、リン酸エステルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種のリン系エステル化合物を含むことを特徴とするリチウム固体電池を提供する。
【0014】
特許文献1に記載されているように、従来は、リチウム固体電池の負極層にリン酸エステル等のリン系エステル化合物を用いた場合、リン系エステル化合物が負極層に浸透すると、リン系エステル化合物の還元分解が生じる可能性があると考えられていた。
しかし、本研究者は、意外にもリン系エステル化合物が負極層内で安定に存在し、負極層にリン系エステル化合物が含まれていてもリチウム固体電池の抵抗の増加が起きないことを見出した。また、当該リン系エステル化合物を負極層に用いたリチウム固体電池は、負極活物質が分解反応を起こして発熱することを抑制することができることを見出した。そのため、当該リン系エステル化合物を負極層に用いたリチウム固体電池は、抵抗上昇を起こすことなく、所望の熱安定性を確保できる。
【0015】
本開示においては、特定のリン系エステル化合物を用いることで、リチウム固体電池の発熱ピーク温度を高温側にシフトさせることができる。そのメカニズムは、次のように推測される。
すなわち、リチウム固体電池の過充電などにより正極層の酸化物系正極活物質が分解して正極層から酸素が発生する。その後、当該酸素が負極層に移動する。そして、負極層中に含まれるリン系エステル化合物によって当該酸素に由来する活性種が捕捉(トラップ)される。以上の理由により、酸素発生に起因するリチウム固体電池の発熱反応の発生が抑制されると推測される。
また、リン系エステル化合物は、2つ以上のリン系エステル化合物が縮合して負極活物質の表面に被膜を形成する。そして、負極活物質と硫化物系固体電解質との間に当該被膜が存在することで、負極活物質と硫化物系固体電解質との反応が抑制され、リチウム固体電池の発熱反応が抑制されると推測される。
さらに、リチウム固体電池が高温に曝されると、酸化物系正極活物質から酸素ラジカル(Oラジカル)が発生するが、リン系エステル化合物がフッ素化アルキル基を有する場合は、フッ素化アルキル基に由来するラジカルも酸素ラジカルの発生と同時に発生する。このフッ素化アルキル基に由来するラジカルが、酸素ラジカルを固定化することで、酸素ラジカルの発生に起因するリチウム固体電池の発熱反応の発生が抑制されることにより、リチウム固体電池の熱安定性が向上すると推測される。
【0016】
図1は、本開示のリチウム固体電池の一例を示す断面模式図である。
固体電池100は、正極層12及び正極集電体14を含む正極16と、負極層13及び負極集電体15を含む負極17と、正極16と負極17の間に配置される固体電解質層11を備える。
【0017】
[正極]
正極は、少なくとも正極層を有し、必要に応じ、正極層の集電を行う正極集電体を備える。
正極層は少なくとも正極活物質として酸化物系正極活物質を含有し、必要に応じ、導電材、結着剤、固体電解質、及び、リン系エステル化合物等を含有する。
【0018】
酸化物系正極活物質としては、O元素を含むものであってもよい。
酸化物系正極活物質としては、例えば、Li2TiO3、Li2Ti3O7、Li4Ti5O12、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)、LiMn2O4、Li2MnO3、LiMn1.5Ni0.5O4、LiMn1.5Al0.5O4、LiMn1.5Mg0.5O4、LiMn1.5Co0.5O4、LiMn1.5Fe0.5O4、LiMn1.5Zn0.5O4、LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、LiNiPO4、Li2SiO3、Li4SiO4、V2O5、MoO3、及び、SiO2等を挙げることができる。
【0019】
正極層には正極活物質として酸化物系正極活物質が主成分として含まれていれば、正極活物質として、従来公知の非酸化物系正極活物質が含まれていてもよい。
非酸化物系正極活物質としては、例えば、Li単体、Li合金、Si単体、Si合金、LiCoN、TiS2、及び、Mg2Sn、Mg2Ge、Mg2Sb、及びCu3Sb等を挙げることができる。
Li合金としては、Li-Au、Li-Mg、Li-Sn、Li-Si、Li-Al、Li-B、Li-C、Li-Ca、Li-Ga、Li-Ge、Li-As、Li-Se、Li-Ru、Li-Rh、Li-Pd、Li-Ag、Li-Cd、Li-In、Li-Sb、Li-Ir、Li-Pt、Li-Hg、Li-Pb、Li-Bi、Li-Zn、Li-Tl、Li-Te、及びLi-At等が挙げられる。Si合金としては、Li等の金属との合金等が挙げられ、その他、Sn、Ge、及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属との合金であってもよい。
【0020】
正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていても良い。すなわち、正極活物質は、当該正極活物質の表面にコート層が形成された正極活物質複合体であってもよい。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。
Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO3、Li4Ti5O12、及び、Li3PO4等が挙げられる。コート層の厚さは、例えば、0.1nm以上であり、1nm以上であっても良い。一方、コート層の厚さは、例えば、100nm以下であり、20nm以下であっても良い。正極活物質の表面におけるコート層の被覆率は、例えば、70%以上であり、90%以上であっても良い。
正極活物質の表面をLiイオン伝導性酸化物で被覆する方法は特に限定されず、例えば、転動流動式コーティング装置(株式会社パウレック製)を用いて、大気環境において正極活物質にLiイオン伝導性酸化物をコーティングし、大気環境において焼成を行う方法等が挙げられる。また、例えば、スパッタリング法、ゾルゲル法、静電噴霧法、及び、ボールミリング法等が挙げられる。
【0021】
正極活物質の形状は特に限定されず、粒子状、及び板状等が挙げられる。
正極層における正極活物質の含有量は、特に限定されないが、正極層の総質量を100質量%としたとき、例えば、50質量%~90質量%であってもよい。
【0022】
固体電解質としては、後述する固体電解質層において例示する材料等を例示することができる。
正極層における固体電解質の含有量は、特に限定されないが、正極層の総質量を100質量%としたとき、例えば1質量%~80質量%であってもよい。
【0023】
結着剤としては、特に限定されず、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及び、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。正極層における結着剤の含有量は特に限定されるものではない。
【0024】
導電材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属材料等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック及びファーネスブラック等のカーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、並びに、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができ、中でも、電子伝導性の観点から、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。金属材料としては、Ni、Cu、Fe、及びSUS等が挙げられる。
正極層における導電材の含有量は特に限定されるものではない。
【0025】
リン系エステル化合物としては、後述する負極層において例示する材料等を例示することができる。
正極層におけるリン系エステル化合物の含有量は、特に限定されないが、正極層の総質量を100質量%としたとき、例えば0.1質量%~20質量%であってもよく、1質量%~10質量%であってもよい。
正極層におけるリン系エステル化合物の含有量が0.1質量%未満であると、熱安定性を十分に向上させることができない可能性がある。一方、正極層におけるリン系エステル化合物の含有量が20質量%を超えると、相対的に正極活物質の含有量が減少し、十分な電池の容量を得ることができない可能性がある。
【0026】
正極層の厚さは、特に限定されないが、例えば、10~250μmであってもよい。
【0027】
正極層の形成方法は、例えば、酸化物系正極活物質、及び、必要に応じ他の成分を溶媒中に投入し、撹拌することにより、正極層用スラリーを作製し、当該正極層用スラリーを正極集電体等の支持体の一面上に塗布して乾燥させることにより、正極層が得られる。
溶媒は、例えば酢酸ブチル、酪酸ブチル、ヘプタン、及びN-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
正極集電体等の支持体の一面上に正極層用スラリーを塗布する方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、メタルマスク印刷法、静電塗布法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、及びスクリーン印刷法等が挙げられる。
支持体としては、自己支持性を有するものを適宜選択して用いることができ、特に限定はされず、例えばCu及びAlなどの金属箔等を用いることができる。
【0028】
また、正極層の形成方法の別の方法として、酸化物系正極活物質及び必要に応じ他の成分を含む正極合剤の粉末を加圧成形することにより正極層を形成してもよい。正極合剤の粉末を加圧成形する場合には、通常、1MPa以上600MPa以下程度のプレス圧を負荷する。
加圧方法としては、特に制限されないが、例えば、平板プレス、及びロールプレス等を用いて圧力を付加する方法等が挙げられる。
【0029】
正極集電体は、正極層の集電を行う機能を有するものである。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、Ni、Cr、Au、Pt、Al、Fe、Ti、及びZn等の金属材料等が挙げられる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、及びメッシュ状等を挙げることができる。
正極は、さらに、正極集電体に接続された正極リードを備えていてもよい。
【0030】
[負極]
負極は、少なくとも負極層を有し、必要に応じ、負極層の集電を行う負極集電体を備える。
負極層は、少なくとも負極活物質とリン系エステル化合物を含有し、必要に応じ、導電材、結着剤、及び、固体電解質等を含有する。
また、少なくとも負極層または固体電解質層のいずれか一方は、固体電解質として硫化物系固体電解質を含有する。
【0031】
負極活物質としては、グラファイト、ハードカーボン、Li単体、Li合金、Si単体、Si合金、及びLi4Ti5O12等が挙げられる。Li合金及びSi合金としては、正極活物質において例示した材料等を例示することができる。
負極活物質の形状は特に限定されず、粒子状、及び板状等が挙げられる。
負極層における負極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、20質量%~90質量%であってもよい。
【0032】
リン系エステル化合物は、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、亜リン酸エステル、及び、リン酸エステルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種である。
リン酸エステルは、下記一般式(1)により表される。ホスホン酸エステルは下記一般式(2)により表される。ホスフィン酸エステルは下記一般式(3)により表される。亜リン酸エステルは、下記一般式(4)により表される。リン酸エステルアミドは下記一般式(5)により表される。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
上記一般式(1)~(5)中、R1~R3は、それぞれ独立に、少なくとも炭素元素を含有する基である。
R1~R3の炭素数は、例えば、1~10の範囲内である。
また、R1~R3は、炭素元素および水素元素のみから構成されていても良く、さらに他の元素を含有していても良い。また、R1~R3は、炭素元素およびフッ素元素のみから構成されていても良く、さらに他の元素を含有していても良い。また、R1~R3は、炭素元素、水素元素およびフッ素元素のみから構成されていても良く、さらに他の元素を含有していても良い。また、R1~R3は、フッ素化アルキル基であってもよい。フッ素化アルキル基は、すべての水素原子(H)がフッ素原子に置換されていてもよい。フッ素化アルキル基は、一部の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
また、R1~R3は、鎖状構造を有していても良く、環状構造(芳香族構造を含む)を有していても良く、鎖状構造および環状構造の両方を有していても良い。鎖状構造は、直鎖構造であっても良く、分岐構造であっても良い。
上記一般式(1)、(2)および(5)において、R1とR2又はR1とR3とがアルキレン基(-R10-)に置き換わった環状構造が形成されていてもよい。
R’、R’’およびR*は、リン原子(P)または窒素原子(N)に直結している。R’、R’’およびR*は、水素原子、アルキル基または芳香族基である。R’、R’’およびR*には、フッ素原子が含まれていなくてもよい。R’、R’’およびR*がアルキル基または芳香族基である場合には、R’、R’’およびR*にフッ素原子が含まれていてもよい。
【0039】
【0040】
一般式(6)は、一般式(1)で示すトリリン酸エステルの縮合体に該当する。
一般式(6)において、R4~R8は、それぞれ独立に、少なくとも炭素元素を含有する基である。
R4~R8の炭素数は、例えば、1~10の範囲内である。
また、R4~R8は、炭素元素および水素元素のみから構成されていても良く、さらに他の元素を含有していても良い。同様に、R4~R8は、炭素元素およびフッ素元素のみから構成されていても良く、さらに他の元素を含有していても良い。同様に、R4~R8は、炭素元素、水素元素およびフッ素元素のみから構成されていても良く、さらに他の元素を含有していても良い。また、R4~R8は、フッ素化アルキル基であってもよい。フッ素化アルキル基は、すべての水素原子(H)がフッ素原子に置換されていてもよい。フッ素化アルキル基は、一部の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
また、R4~R8は、鎖状構造を有していても良く、環状構造(芳香族構造を含む)を有していても良く、鎖状構造および環状構造の両方を有していても良い。鎖状構造は、直鎖構造であっても良く、分岐構造であっても良い。
【0041】
リン酸エステルとしては、例えば、
リン酸トリフェニル、
リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、
リン酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、
リン酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)、
リン酸トリス(1H,1H-ヘプタフルオロブチル)、及び、
リン酸トリス(1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル)等が挙げられる。
環状構造を有するリン酸エステルとしては、例えば、リン酸エチレントリフルオロエチル等が挙げられる。
【0042】
ホスホン酸エステルとしては、例えば、
メチルホスホン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)、
エチルホスホン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)、及び、
ホスホン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。
【0043】
ホスフィン酸エステルとしては、例えば、ジエチルホスフィン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。
【0044】
亜リン酸エステルとしては、例えば、
亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、
亜リン酸トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)、
亜リン酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)、
亜リン酸トリス(1H,1H-ヘプタフルオロブチル)、及び、
亜リン酸トリス(1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル)等が挙げられる。
【0045】
リン酸エステルアミドとしては、例えば、O,O-ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)N,N-ジメチルリン酸アミドエステル等が挙げられる。
【0046】
リン系エステル化合物は、25℃において、液体であっても良く、固体であっても良いが、液体であってもよい。液体のリン系エステル化合物は、負極層の空隙(特に、不可避的に発生する空隙)を埋めるように配置されるため、体積エネルギー密度を維持しつつ、電池の熱安定性の向上を図ることができる。なお、電池使用温度の観点に基づくと、リン系エステル化合物は、例えば、-20℃~100℃の範囲内の任意の温度において液体であってもよく、上記範囲内の全てにおいて液体であってもよい。
【0047】
負極層におけるリン系エステル化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1質量%~20質量%であってもよく、1質量%~10質量%であってもよい。
負極層におけるリン系エステル化合物の含有量が0.1質量%未満であると、熱安定性を十分に向上させることができない可能性がある。一方、負極層におけるリン系エステル化合物の含有量が20質量%を超えると、相対的に負極活物質の含有量が減少し、十分な電池の容量を得ることができない可能性がある。
【0048】
負極層に用いられる導電材、及び、結着剤は、上述した正極層において例示した材料等を例示することができる。負極層に用いられる固体電解質は、後述する固体電解質層において例示する材料等を例示することができる。
負極層の厚さは、特に限定されないが、例えば、10~100μmであってもよい。
【0049】
負極集電体の材料としては、例えば、SUS、Cu、Ni、Fe、Ti、Co、及びZn等の金属材料等が挙げられる。負極集電体の形状としては、上述した正極集電体において例示した形状等を例示することができる。
【0050】
[固体電解質層]
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有し、必要に応じて結着剤等を含有していても良い。
また、少なくとも上述した負極層または固体電解質層のいずれか一方は、硫化物系固体電解質を含有する。
固体電解質としては、硫化物系固体電解質、及び酸化物系固体電解質等が挙げられる。
硫化物系固体電解質は、Li元素と、A元素(Aは、P、Ge、Si、Sn、B及びAlの少なくとも1種である)と、S元素とを有していてもよい。硫化物系固体電解質は、ハロゲン元素をさらに有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、及びI元素等が挙げられる。また、硫化物系固体電解質は、O元素をさらに有していてもよい。
硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-GeS2、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn又はGaのいずれか。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、及びLi2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はInのいずれか。)が挙げられる。なお、上記「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる材料を意味し、他の記載についても同様である。
硫化物系固体電解質における各元素のモル比は、原料における各元素の含有量を調整することにより制御できる。また、硫化物系固体電解質における各元素のモル比や組成は、例えば、ICP発光分析法で測定することができる。
【0051】
硫化物系固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラス(ガラスセラミックス)であってもよく、原料組成物に対する固相反応処理により得られる結晶質材料であってもよい。
硫化物系固体電解質の結晶状態は、例えば、硫化物系固体電解質に対してCuKα線を使用した粉末X線回折測定を行うことにより確認することができる。
【0052】
硫化物ガラスは、原料組成物(例えばLi2S及びP2S5の混合物)を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。
【0053】
ガラスセラミックスは、例えば、硫化物ガラスを熱処理することにより得ることができる。
熱処理温度は、硫化物ガラスの熱分析測定により観測される結晶化温度(Tc)よりも高い温度であればよく、通常、195℃以上である。一方、熱処理温度の上限は特に限定されない。
硫化物ガラスの結晶化温度(Tc)は、示差熱分析(DTA)により測定することができる。
熱処理時間は、ガラスセラミックスの所望の結晶化度が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば1分間~24時間の範囲内であり、中でも、1分間~10時間の範囲内が挙げられる。
熱処理の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。
【0054】
酸化物系固体電解質としては、例えばLi元素と、La元素と、A元素(Aは、Zr、Nb、Ta、及びAlの少なくとも1種である)と、O元素とを有するガーネット型の結晶構造を有する物質、及びLi3+xPO4-xNx(1≦x≦3)等が挙げられる。
【0055】
固体電解質の形状は、特に限定されず、粒子状、及び板状等が挙げられ、取扱い性が良いという観点から粒子状であってもよい。
また、固体電解質の粒子の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、下限が0.5μm以上であってもよく、上限が2μm以下であってもよい。
【0056】
本開示において、粒子の平均粒径は、特記しない限り、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定により測定される体積基準のメディアン径(D50)の値である。また、本開示においてメディアン径(D50)とは、粒径の小さい順に粒子を並べた場合に、粒子の累積体積が全体の体積の半分(50%)となる径(体積平均径)である。
【0057】
固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。また、2種以上の固体電解質を用いる場合、2種以上の固体電解質を混合してもよく、又は2層以上の固体電解質それぞれの層を形成して多層構造としてもよい。
固体電解質層中の固体電解質の割合は、特に限定されるものではないが、例えば50質量%以上であり、60質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、70質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、100質量%であってもよい。
【0058】
固体電解質層に用いられる結着剤は、上述した正極層において例示した材料等を例示することができる。高出力化を図り易くするために、固体電解質の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された固体電解質を有する固体電解質層を形成可能にする等の観点から、固体電解質層に含有させる結着剤は5質量%以下としてもよい。
【0059】
[その他の部材]
リチウム固体電池は、必要に応じ、正極、負極、及び固体電解質層を収容する外装体を備える。
外装体の材質は、電解質に安定なものであれば特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び、アクリル樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0060】
[リチウム固体電池]
本開示のリチウム固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。リチウム固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型及び角型等を挙げることができる。
【0061】
リチウム固体電池の製造方法は、例えば、まず、固体電解質材料の粉末を加圧成形することにより固体電解質層を形成する。そして、固体電解質層の一面上で酸化物系正極活物質を含む正極合剤の粉末を加圧成形することにより正極層を得る。その後、固体電解質層の正極層を形成した面とは反対側の面上で負極活物質及びリン系エステル化合物を含む負極合剤の粉末を加圧成形することにより負極層を得る。そして、必要に応じて正極集電体及び負極集電体を取り付けてリチウム固体電池としてもよい。
この場合、固体電解質材料の粉末、正極合剤の粉末及び負極合剤の粉末を加圧成形する際のプレス圧は、通常1MPa以上600MPa以下程度である。
加圧方法としては、特に制限されないが、正極層の形成において例示した加圧方法が挙げられる。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
[正極の作製]
溶媒として酪酸ブチルと、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを準備した。そして、酪酸ブチルにポリフッ化ビニリデンを溶解させて、ポリフッ化ビニリデンを5質量%含む酪酸ブチル溶液を準備した。
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の粒子を準備した。
転動流動式コーティング装置(株式会社パウレック製)を用いて、大気環境においてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の粒子の表面にLiNbO3をコーティングし、大気環境において焼成を行い、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の粒子の表面をLiNbO3で被覆した正極活物質複合体を得た。
固体電解質としてLi2S-P2S5系ガラスセラミックを準備した。
導電助剤としてVGCF(気相法炭素繊維)を準備した。
酪酸ブチル溶液、正極活物質複合体、固体電解質、導電助剤をポリプロピレン製容器に加えて、これらの原料を超音波分散装置(エスエムテー製、製品名UH-50)で30秒間撹拌した。その後、ポリプロピレン製容器を振とう器(柴田科学株式会社製、製品名TTM-1)で3分間振とうした。さらに、これらの原料を超音波分散装置で30秒間撹拌して、正極層用ペーストを作製した。正極層用ペーストを、アプリケーターを使用して、ドクターブレード法にて正極集電体としてのアルミニウム箔に塗工し、その後、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥することにより、正極集電体上に正極層を作製し、正極集電体と正極層を有する正極を得た。
【0063】
[負極の作製]
溶媒として酪酸ブチルと、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを準備した。そして、酪酸ブチルにポリフッ化ビニリデンを溶解させて、ポリフッ化ビニリデンを5質量%含む酪酸ブチル溶液を準備した。
負極活物質としてSi単体の粉末を準備した。
固体電解質としてLi2S-P2S5系ガラスセラミックを準備した。
導電助剤としてVGCF(気相法炭素繊維)を準備した。
リン系エステル化合物として、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)を負極層の総質量を100質量%としたとき負極層中に5質量%含まれる量を準備した。
酪酸ブチル溶液、負極活物質、固体電解質、導電助剤、リン系エステル化合物をポリプロピレン製容器に加えて、これらの原料を超音波分散装置(エスエムテー製、製品名UH-50)で30秒間撹拌した。その後、ポリプロピレン製容器を振とう器(柴田科学株式会社製、製品名TTM-1)で3分間振とうして、負極層用ペーストを作製した。負極層用ペーストを、アプリケーターを使用して、ドクターブレード法にて負極集電体としての銅箔に塗工し、その後、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥することにより、負極集電体上に負極層を作製し、負極集電体と負極層を有する負極を得た。
【0064】
[固体電解質層の作製]
溶媒としてヘプタンと、バインダーとしてブタジエンゴムを準備した。そして、ヘプタンにブタジエンゴムを溶解させて、ブタジエンゴムを5質量%含むヘプタン溶液を準備した。
固体電解質としてヨウ化リチウムを含有するLi2S-P2S5系ガラスセラミックを準備した。
ヘプタン溶液、固体電解質をポリプロピレン製容器に加えて、これらの原料を超音波分散装置(エスエムテー製、製品名UH-50)で30秒間撹拌した。その後、ポリプロピレン製容器を振とう器(柴田科学株式会社製、製品名TTM-1)で30分間振とうして、固体電解質層用ペーストを作製した。固体電解質層用ペーストを、アプリケーターを使用して、ドクターブレード法にて基盤としてのアルミニウム箔に塗工し、その後、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥することにより、アルミニウム箔上に固体電解質層を作製した。
【0065】
[リチウム固体電池の製造]
固体電解質層が正極層と接するように、固体電解質層を正極の正極層上に積層して、ロールプレスして、正極集電体、正極層、固体電解質層、アルミニウム箔をこの順に有する第1の積層体を得た。
その後、固体電解質層の基盤としてのアルミニウム箔を剥がして、固体電解質層が負極層と接するように、負極を固体電解質層上に積層し、正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層、負極集電体をこの順に有する第2の積層体を作製した。作製した第2の積層体に端子をつけて、当該第2の積層体をラミネートフィルムでパックし、リチウム固体電池を製造した。
【0066】
(実施例2)
上記[負極の作製]において、リン系エステル化合物として、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)を負極層の総質量を100質量%としたとき負極層中に1質量%含まれる量を用いて負極層を作製したこと以外は、実施例1と同様にリチウム固体電池を製造した。
【0067】
(実施例3)
上記[負極の作製]において、リン系エステル化合物として、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)を負極層の総質量を100質量%としたとき負極層中に10質量%含まれる量を用いて負極層を作製したこと以外は、実施例1と同様にリチウム固体電池を製造した。
【0068】
(実施例4)
上記[負極の作製]において、リン系エステル化合物として、リン酸トリフェニルを負極層の総質量を100質量%としたとき負極層中に5質量%含まれる量を用いて負極層を作製したこと以外は、実施例1と同様にリチウム固体電池を製造した。
【0069】
(実施例5)
上記[正極の作製]において、リン系エステル化合物として、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)を正極層の総質量を100質量%としたとき正極層中に5質量%含まれる量を用いて正極層を作製し、リン系エステル化合物を正極層と負極層の両方に含有させたこと以外は、実施例1と同様にリチウム固体電池を製造した。
【0070】
(比較例1)
上記[負極の作製]において、リン系エステル化合物を用いないで負極層を作製したこと以外は、実施例1と同様にリチウム固体電池を製造した。
【0071】
(比較例2)
上記[正極の作製]において、リン系エステル化合物として、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)を正極層の総質量を100質量%としたとき正極層中に5質量%含まれる量を用いて正極層を作製し、上記[負極の作製]において、リン系エステル化合物を用いないで負極層を作製し、リン系エステル化合物を正極層にのみ含有させたこと以外は、実施例1と同様にリチウム固体電池を製造した。
【0072】
[模擬電池の示唆走査熱量測定(DSC)]
実施例1で得られたリチウム固体電池を所定の圧力で拘束し、不活性雰囲気下で0.1Cで4.55Vまで定電流で充電を行った。
その後、短絡が生じないように不活性雰囲気下でリチウム固体電池を解体し、充電状態の正極層及び負極層を取り出した。そして、正極層及び負極層をDSC用のステンレス鋼製容器に入るサイズに加工して正極層サンプル及び負極層サンプルを得た。正極層サンプルをDSC用の容器に収め、次に板状の電解質を乗せた。続いて、負極層サンプルを短絡しないようにDSC用の容器に収め、密閉し、模擬電池とした。密閉した当該容器を、DSC装置(島津製作所製)にセットし、模擬電池の発熱挙動を測定した。リファレンスには空の容器を用い、昇温速度を10℃/minとし、終了温度を500℃とした。
DSCの結果より、模擬電池の発熱ピーク温度を測定した。なお、発熱ピーク温度とは、発熱挙動において、Heat Flowの最も大きくなったピーク温度を意味する。
実施例2~5、比較例1~2で得られたリチウム固体電池についても実施例1のリチウム固体電池と同様の方法で模擬電池を作製し、当該模擬電池の発熱ピーク温度を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
[リチウム固体電池の直流抵抗の測定]
実施例1で得られたリチウム固体電池を所定の圧力で拘束し、不活性雰囲気下で0.1Cで4.55Vまで定電流で充電を行った。
その後、リチウム固体電池について、0.1Cで3Vまで放電し、そして0.1Cで3.8Vまで定電流定電圧(CCCV)充電し、リチウム固体電池の直流抵抗を測定した。
実施例2~5、比較例1~2で得られたリチウム固体電池についても実施例1のリチウム固体電池と同様の方法で直流抵抗を測定した。結果を表1に示す。なおリチウム固体電池は表1において単に電池と記載した。
【0074】
【0075】
表1に示すように、実施例1~5、比較例1~2のDSCにおいて観測される各模擬電池の発熱ピークは熱分解した正極活物質から発生する酸素が充電状態の負極層と反応することによって発生すると考えられる。
実施例1~5の各模擬電池の発熱ピーク温度と、比較例1~2の各模擬電池の発熱ピーク温度を比較すると、実施例1~5の各模擬電池の発熱ピーク温度は、比較例1~2の各模擬電池の発熱ピーク温度よりも高温側にシフトしていることが確認された。リン系エステル化合物は難燃剤としての機能があり、当該リン系エステル化合物を負極層に添加することによって、酸素による負極活物質の分解反応を抑制することができ、リチウム固体電池の熱安定性が向上すると考えられる。
また、比較例2の結果から、リン系エステル化合物を正極層にのみ添加した場合では、リン系エステル化合物を添加しない比較例1の場合と比較してリチウム固体電池の直流抵抗が上昇することが確認された。これは、リチウム固体電池の充放電時に正極層が高温にさらされることにより、正極層中のリン系エステル化合物が分解してしまうためと考えられる。
一方、実施例1~5の結果から、少なくとも負極層にリン系エステル化合物を添加すると、理由は不明であるが、リチウム固体電池の抵抗の増加が抑制できることがわかった。
以上の結果から、少なくとも負極層にリン系エステル化合物を添加するとリチウム固体電池の熱安定性が向上し、抵抗の増加を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
11 固体電解質層
12 正極層
13 負極層
14 正極集電体
15 負極集電体
16 正極
17 負極
100 リチウム固体電池