(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両用ドア制御装置
(51)【国際特許分類】
E05F 15/655 20150101AFI20231011BHJP
B60J 5/06 20060101ALI20231011BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
E05F15/655
B60J5/06 A
B60J5/04 C
(21)【出願番号】P 2020044015
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】甲斐野 嵩志
(72)【発明者】
【氏名】小林 康平
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-260653(JP,A)
【文献】特開平11-301270(JP,A)
【文献】特開2007-120239(JP,A)
【文献】特開2005-318791(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0153744(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00 -15/79
B60J 5/06
B60J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアと、前記ドアを全閉位置に拘束するフルラッチ位置及び前記ドアを前記全閉位置から移動可能とするアンラッチ位置の間で変位する全閉ラッチを有する全閉ラッチ機構と、前記全閉ラッチを前記フルラッチ位置から前記アンラッチ位置に向けてアンラッチ作動させるリリースアクチュエータと、前記ドアを開閉作動させるドアアクチュエータと、を備える車両に適用され、
開作動指令信号が入力されたときに、前記リリースアクチュエータによって前記全閉ラッチをアンラッチ作動させ、前記ドアアクチュエータによって前記ドアを開作動させる制御部と、
前記制御部に前記開作動指令信号が入力されたときに、第1作動開始条件及び第2作動開始条件の成立及び不成立に基づいて、前記全閉ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの開作動を許可又は制限する判定部と、を備え、
前記第1作動開始条件は、成立しない状態で前記ドアの開閉作動が開始されたときに、前記車両及びユーザの少なくとも一方の安全性に影響を与えやすい条件であり、前記第2作動開始条件は、成立しない状態で前記ドアの開閉作動が開始されたとしても、前記安全性に影響を与えにくい条件であり、
前記判定部は、
前記第1作動開始条件及び前記第2作動開始条件の双方が成立する場合に、前記全閉ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの開作動の双方を許可し、
前記第1作動開始条件が成立しない場合に、前記全閉ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの開作動の双方を制限し、
前記第1作動開始条件が成立する一方で前記第2作動開始条件が成立しない場合、前記全閉ラッチのアンラッチ作動を許可する一方で前記ドアの開作動を制限する
車両用ドア制御装置。
【請求項2】
前記第1作動開始条件は、車体速度が速度判定値未満の場合に成立し、前記車体速度が前記速度判定値以上の場合に成立しない条件を含む
請求項1に記載の車両用ドア制御装置。
【請求項3】
前記第1作動開始条件は、前記ドアが施錠されていない場合に成立し、前記ドアが施錠されている場合に成立しない条件を含む
請求項1又は請求項2に記載の車両用ドア制御装置。
【請求項4】
前記第2作動開始条件は、バッテリ電圧値が電圧判定値以上の場合に成立し、前記バッテリ電圧値が前記電圧判定値未満の場合に成立しない条件を含む
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の車両用ドア制御装置。
【請求項5】
前記第2作動開始条件は、前記ドアアクチュエータの機能が有効化されている場合に成立し、前記ドアアクチュエータの機能が無効化されている場合に成立しない条件を含む
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の車両用ドア制御装置。
【請求項6】
前記ドアアクチュエータの故障を検知する故障検知部を備え、
前記第2作動開始条件は、前記ドアアクチュエータの故障が検知されていない場合に成立し、前記ドアアクチュエータの故障が検知されている場合に成立しない条件を含む
請求項1~請求項5の何れか一項に記載の車両用ドア制御装置。
【請求項7】
前記車両は、前記ドアを全開位置に拘束するフルラッチ位置及び前記ドアを前記全開位置から移動可能とするアンラッチ位置の間で変位する全開ラッチを有する全開ラッチ機構を備え、
前記リリースアクチュエータは、前記全閉ラッチ及び前記全開ラッチの双方をアンラッチ作動可能に構成され、
前記制御部は、閉作動指令信号が入力されたときに、前記リリースアクチュエータによって前記全開ラッチをアンラッチ作動させ、前記ドアアクチュエータによって前記ドアを閉作動させるものであり、
前記判定部は、
前記制御部に前記閉作動指令信号が入力されたときに、前記第1作動開始条件及び前記第2作動開始条件の成立及び不成立に基づいて、前記全開ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの閉作動を許可又は制限し、
前記第1作動開始条件及び前記第2作動開始条件の双方が成立する場合に、前記全開ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの閉作動の双方を許可し、
前記第1作動開始条件が成立しない場合に、前記全開ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの閉作動の双方を制限し、
前記第1作動開始条件が成立する一方で前記第2作動開始条件が成立しない場合、前記全開ラッチのアンラッチ作動を許可する一方で前記ドアの閉作動を制限する
請求項1~請求項6の何れか一項に記載の車両用ドア制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドア制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、側面にドア開口部が設けられる車体と、ドア開口部を開閉するスライドドアと、スライドドアを駆動する駆動装置と、駆動装置を制御する制御装置と、を備える車両が記載されている。制御装置は、操作入力部が操作されたときに出力される信号に基づいて、ユーザからのスライドドアの開閉動作要求を検知する。そして、制御装置は、開閉作動要求に基づいて駆動装置を制御することにより、スライドドアを開閉作動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような車両用ドア制御装置では、スライドドアの開作動にあたり安全性を確保しつつ利便性を向上させることが望まれている。本発明の課題は、ドアの開作動にあたり安全性を確保しつつ利便性を向上できる車両用ドア制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両用ドア制御装置は、ドアと、前記ドアを全閉位置に拘束するフルラッチ位置及び前記ドアを前記全閉位置から移動可能とするアンラッチ位置の間で変位する全閉ラッチを有する全閉ラッチ機構と、前記全閉ラッチを前記フルラッチ位置から前記アンラッチ位置に向けてアンラッチ作動させるリリースアクチュエータと、前記ドアを開閉作動させるドアアクチュエータと、を備える車両に適用され、開作動指令信号が入力されたときに、前記リリースアクチュエータによって前記全閉ラッチをアンラッチ作動させ、前記ドアアクチュエータによって前記ドアを開作動させる制御部と、前記制御部に前記開作動指令信号が入力されたときに、第1作動開始条件及び第2作動開始条件の成立及び不成立に基づいて、前記全閉ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの開作動を許可又は制限する判定部と、を備え、前記第1作動開始条件は、成立しない状態で前記ドアの開閉作動が開始されたときに、前記車両及びユーザの少なくとも一方の安全性に影響を与えやすい条件であり、前記第2作動開始条件は、成立しない状態で前記ドアの開閉作動が開始されたとしても、前記安全性に影響を与えにくい条件であり、前記判定部は、前記第1作動開始条件及び前記第2作動開始条件の双方が成立する場合に、前記全閉ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの開作動の双方を許可し、前記第1作動開始条件が成立しない場合に、前記全閉ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの開作動の双方を制限し、前記第1作動開始条件が成立する一方で前記第2作動開始条件が成立しない場合、前記全閉ラッチのアンラッチ作動を許可する一方で前記ドアの開作動を制限する。
【0006】
例えば、開作動指令信号が入力されたとしても、第1作動開始条件が成立する一方で第2作動開始条件が成立しない場合には、全閉ラッチのアンラッチ作動及びドアの開作動をともに制限する比較例を想定する。この比較例が、ドアハンドルの代わりとしての開閉スイッチであって且つユーザが操作したときに開作動指令信号を出力する開閉スイッチを備える車両に適用された場合には、第2作動開始条件が成立していないと、ユーザは、ドアを開くことが一切できなくなる。つまり、比較例は、ドアの開作動に関して、ユーザの利便性が良いとはいえない。
【0007】
この点、上記構成の車両用ドア制御装置は、開作動指令信号が入力される状況下において、第1作動開始条件が成立する一方で第2作動開始条件が成立しない場合、ドアの開作動を制限するが、全閉ラッチのアンラッチ作動を許可する。つまり、車両用ドア制御装置は、上記の場合において、ドアを開作動させないことで、不用意にドアが開作動されることを抑制できる。また、車両用ドア制御装置は、上記の場合において、全閉ラッチをアンラッチ作動させることで、ユーザがドアを開操作可能な状態にできる。こうして、車両用ドア制御装置は、ドアの開作動にあたり、安全性を確保しつつ利便性を向上できる。
【0008】
上記車両用ドア制御装置において、前記第1作動開始条件は、車体速度が速度判定値未満の場合に成立し、前記車体速度が前記速度判定値以上の場合に成立しない条件を含むことが好ましい。
【0009】
上記構成の車両用ドア制御装置は、開作動指令信号が入力される状況下において、車両が速度判定値以上の車体速度で走行中の場合、全閉ラッチのアンラッチ作動を制限する。つまり、車両が速度判定値以上の車体速度で走行中の場合、開作動指令信号が車両用ドア制御装置に入力されても、ドアを開操作可能な状態にならない。よって、車両用ドア制御装置は、ユーザの安全性を確保できる。
【0010】
上記車両用ドア制御装置において、前記第1作動開始条件は、前記ドアが施錠されていない場合に成立し、前記ドアが施錠されている場合に成立しない条件を含むことが好ましい。
【0011】
上記構成の車両用ドア制御装置は、開作動指令信号が入力される状況下において、ドアが施錠されている場合、全閉ラッチのアンラッチ作動を制限する。つまり、ドアが施錠されている場合、開作動指令信号が車両用ドア制御装置に入力されても、ドアを開操作可能な状態にならない。よって、車両用ドア制御装置は、車両の安全性、詳しくは、車両の防犯性を確保できる。
【0012】
上記車両用ドア制御装置において、前記第2作動開始条件は、バッテリ電圧値が電圧判定値以上の場合に成立し、前記バッテリ電圧値が前記電圧判定値未満の場合に成立しない条件を含むことが好ましい。
【0013】
バッテリ電圧値が電圧判定値未満の場合、車両用ドア制御装置は、電力消費量の少ないアンラッチ作動を正常に完了できても、電力消費量の多いドアの開作動を正常に完了できないおそれがある。この点、上記構成の車両用ドア制御装置は、開作動指令信号が入力される状況下において、バッテリ電圧値が電圧判定値未満の場合、ドアを開作動させないものの、全閉ラッチをアンラッチ作動させる。つまり、ユーザがドアを開操作可能な状態となるため、車両用ドア制御装置は、ユーザの利便性を向上できる。
【0014】
上記車両用ドア制御装置において、前記第2作動開始条件は、前記ドアアクチュエータの機能が有効化されている場合に成立し、前記ドアアクチュエータの機能が無効化されている場合に成立しない条件を含むことが好ましい。
【0015】
上記構成の車両用ドア制御装置は、開作動指令信号が入力される状況下において、ドアアクチュエータの機能が無効化されている場合、ドアを開作動させないものの、全閉ラッチをアンラッチ作動させる。つまり、ユーザがドアを開操作可能な状態となるため、車両用ドア制御装置は、ユーザの利便性を向上できる。
【0016】
上記車両用ドア制御装置において、前記ドアアクチュエータの故障を検知する故障検知部を備え、前記第2作動開始条件は、前記ドアアクチュエータの故障が検知されていない場合に成立し、前記ドアアクチュエータの故障が検知されている場合に成立しない条件を含むことが好ましい。
【0017】
上記構成の車両用ドア制御装置は、開作動指令信号が入力される状況下において、ドアアクチュエータの故障が検知されている場合、ドアを開作動させないものの、全閉ラッチをアンラッチ作動させる。つまり、ユーザがドアを開操作可能な状態となるため、車両用ドア制御装置は、ユーザの利便性を向上できる。
【0018】
上記車両用ドア制御装置において、前記車両は、前記ドアを全開位置に拘束するフルラッチ位置及び前記ドアを前記全開位置から移動可能とするアンラッチ位置の間で変位する全開ラッチを有する全開ラッチ機構を備え、前記リリースアクチュエータは、前記全閉ラッチ及び前記全開ラッチの双方をアンラッチ作動可能に構成され、前記制御部は、閉作動指令信号が入力されたときに、前記リリースアクチュエータによって前記全開ラッチをアンラッチ作動させ、前記ドアアクチュエータによって前記ドアを閉作動させるものであり、前記判定部は、前記制御部に前記閉作動指令信号が入力されたときに、前記第1作動開始条件及び前記第2作動開始条件の成立及び不成立に基づいて、前記全開ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの閉作動を許可又は制限し、前記第1作動開始条件及び前記第2作動開始条件の双方が成立する場合に、前記全開ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの閉作動の双方を許可し、前記第1作動開始条件が成立しない場合に、前記全開ラッチのアンラッチ作動及び前記ドアの閉作動の双方を制限し、前記第1作動開始条件が成立する一方で前記第2作動開始条件が成立しない場合、前記全開ラッチのアンラッチ作動を許可する一方で前記ドアの閉作動を制限することが好ましい。
【0019】
車両用ドア制御装置は、ドアの開作動時と同様に、ドアの閉作動時においても、ユーザの利便性を向上できる。
【発明の効果】
【0020】
車両用ドア制御装置は、ドアの開作動にあたり、安全性を確保しつつ利便性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る車両用ドア制御装置を備える車両の模式図。
【
図2】上記車両のスライドドアに関する構成を示す模式図。
【
図3】上記スライドドアのラッチ機構のラッチの動作を示す正面図。
【
図4】上記スライドドアのラッチ機構のラッチの動作を示す正面図。
【
図5】上記スライドドアのラッチ機構のラッチの動作を示す正面図。
【
図6】上記スライドドアの開閉作動を開始するか否かを判定するために、ドア制御装置が実施する処理の流れを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、一実施形態に係る車両用ドア制御装置(以下、「ドア制御装置」ともいう。)を備える車両について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、車両10は、車室21を有する車体20と、車室21に設置される座席30と、車体20の側部に配置されるスライドドア40と、車体20の側部に配置されるフューエルリッド50と、を備える。また、
図2に示すように、車両10は、車両10の周辺を監視する周辺監視装置61と、周辺監視装置61を制御する監視制御装置62と、携帯機71と無線通信を行う無線通信装置72と、スライドドア40を制御するドア制御装置80と、を備える。
【0023】
図1に示すように、車体20は、幅方向における両側部にドア開口部22を有し、幅方向における一方の側部に給油開口部23を有する。ドア開口部22は、車室21の内外を接続する開口部であり、スライドドア40により開閉される。給油開口部23は、給油口を車外に露出させる開口部であり、フューエルリッド50により開閉される。本実施形態では、スライドドア40の開閉時の移動範囲とフューエルリッド50の開閉時の移動範囲とが一部重複している。
【0024】
座席30は、運転席31、助手席32及び複数の後席33を有する。複数の後席33のうちの1つの後席は、車室21内の位置及び車室21外の位置の間で作動するリフトアップシート34である。リフトアップシート34は、リフトアップシート34と隣り合うスライドドア40が全開位置に配置される場合に、車室21外に向かって展開作動されたり、車室21内に向かって格納作動されたりする。
【0025】
図2に示すように、スライドドア40は、ユーザが操作する開閉スイッチ41及びドアロックスイッチ42と、スライドドア40を車体20に拘束するラッチ機構100と、ラッチ機構100によるスライドドア40の拘束を解除するリリースアクチュエータ43と、スライドドア40を駆動するドアアクチュエータ44と、を備える。また、スライドドア40は、リリースアクチュエータ43の動力をラッチ機構100に中継するリモコン装置45と、ラッチ機構100とリリースアクチュエータ43とリモコン装置45とを機械的に接続する複数のケーブル461,462,463,464と、を備える。
【0026】
開閉スイッチ41は、スライドドア40の外面に設置される外側開閉スイッチ411と、スライドドア40の内面に設置される内側開閉スイッチ412と、を有する。外側開閉スイッチ411は、車両10の側方に立つユーザにとって操作しやすい位置に設置されることが好ましく、内側開閉スイッチ412は、スライドドア40の側方の座席30に着座するユーザにとって操作しやすい位置に設置されることが好ましい。なお、開閉スイッチ41は、スライドドア40ではなく、車体20のBピラーの外面及び内面に設置することもできる。
【0027】
外側開閉スイッチ411及び内側開閉スイッチ412は、スライドドア40を開作動させるためのスイッチ、スライドドア40を閉作動させるためのスイッチ及び開閉作動中のスライドドア40を任意の位置で停止させるためのスイッチを含むことが好ましい。そして、外側開閉スイッチ411及び内側開閉スイッチ412は、スライドドア40を開作動させるためのスイッチが操作される場合、開作動指令信号をドア制御装置80に出力し、スライドドア40を閉作動させるためのスイッチが操作される場合、閉作動指令信号をドア制御装置80に出力する。また、外側開閉スイッチ411及び内側開閉スイッチ412は、スライドドア40を停止させるためのスイッチが操作される場合、停止指令信号をドア制御装置80に出力する。
【0028】
ドアロックスイッチ42は、対応するドアの施錠状態及び解錠状態を切り替える。このため、ドアロックスイッチ42は、対応するドアの内面に配置される。ドアロックスイッチ42は、状態に応じた信号をドア制御装置80に出力する。なお、車両10は、運転席31の周囲に全てのドアロックスイッチ42の状態を切り替える集中ドアロックスイッチを備えてもよい。
【0029】
リリースアクチュエータ43は、例えば、モータと、モータの動力を第1ケーブル461と後述する全閉ラッチ機構110とに伝達する伝達機構と、を含んで構成される。リリースアクチュエータ43は、第1ケーブル461を牽引することにより、ラッチ機構100がスライドドア40を車体20に拘束する状態を解除する。
【0030】
本実施形態において、リリースアクチュエータ43は、クローズアクチュエータとしても機能する。つまり、リリースアクチュエータ43は、後述する全閉リアラッチ機構111を駆動し、全閉位置の近傍に位置するスライドドア40を全閉位置に引き込む。このとき、全閉リアラッチ機構111は、スライドドア40を車体20に拘束する状態に移行する。
【0031】
ドアアクチュエータ44は、例えば、モータと、モータの動力をスライドドア40に伝達する伝達機構と、を含んで構成される。ドアアクチュエータ44は、モータの出力軸を正転させたり逆転させたりすることで、ドア開口部22を全閉する全閉位置及びドア開口部22を全開する全開位置の間でスライドドア40を開作動させたり閉作動させたりする。
【0032】
ドアアクチュエータ44は、PSDメインスイッチ47により、開閉作動の有効又は無効が選択される。PSDメインスイッチ47は、例えば、運転席31の付近に設置される。PSDメインスイッチ47がオフの場合、言い換えれば、ドアアクチュエータ44によるスライドドア40の開閉作動が無効化されている場合、ユーザは、スライドドア40を手動で開閉操作する必要がある。PSDメインスイッチ47は、オンオフの状態に応じた信号をドア制御装置80に出力する。
【0033】
次に、ラッチ機構100について説明する。
図2に示すように、ラッチ機構100は、全閉位置に位置するスライドドア40を車体20に拘束する全閉ラッチ機構110(111,112)と、全開位置に位置するスライドドア40を車体20に拘束する全開ラッチ機構120と、を有する。全閉リアラッチ機構111はスライドドア40の後端部に配置され、全閉フロントラッチ機構112は、スライドドア40の前端部に配置される。全開ラッチ機構120は、スライドドア40の前端部であって全閉フロントラッチ機構112よりも下方に配置される。
【0034】
図3に示すように、ラッチ機構100(110,120)は、間隔をあけて配置されるラッチ支持軸130及びポール支持軸140と、ラッチ支持軸130に回動可能に支持されるラッチ150と、ポール支持軸140に回動可能に支持されるポール160と、を備える。また、ラッチ機構100は、ラッチ150を第1回動方向R1に付勢するラッチスプリング170と、ポール160を第2回動方向P2に付勢するポールスプリング180と、を有する。
【0035】
なお、
図3に示すラッチ機構100の具体的な構成は、実際には、全閉リアラッチ機構111,全閉フロントラッチ機構112及び全開ラッチ機構120で異なる構成となることが一般的である。本実施形態では、説明の簡略化のために、全閉リアラッチ機構111,全閉フロントラッチ機構112及び全開ラッチ機構120の構成が等しいものとして説明する。
【0036】
ラッチ支持軸130の軸線及びポール支持軸140の軸線は、間隔をあけた状態で同方向に延びる。ラッチ150は、ラッチ150の回動方向において間隔をあけて設けられる爪状の第1係合部151及び第2係合部152を有する。また、ラッチ150は、車体20のストライカ24に係合するストライカ係合溝153を有する。
図3に示すように、ラッチ150は、ストライカ24に係合しない状態において、不図示のラッチストッパに接触することで、ストライカ係合溝153をストライカ24に向ける。
【0037】
なお、全閉リアラッチ機構111と対応するストライカ24、全閉フロントラッチ機構112と対応するストライカ24及び全開ラッチ機構120と対応するストライカ24は、車体20において、異なる場所に設置される。
【0038】
ポール160は、ラッチ150の第1係合部151及び第2係合部152に係合する爪状の第3係合部161を有する。ポール160は、ラッチ150の外周面に接触することで位置決めされる。また、ポール160は、リリースアクチュエータ43とリモコン装置45を介して接続される。ポール160は、リリースアクチュエータ43が駆動される場合に、第1回動方向P1に回動する。
【0039】
以降の説明では、
図3に示すように、全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120において、ラッチ150がストライカ係合溝153をストライカ24に向けたときのラッチ150の位置を「アンラッチ位置」ともいう。なお、ラッチ150がアンラッチ位置に位置するとき、ラッチ150及びストライカ24の係合が解除されている点で、スライドドア40は開方向及び閉方向に移動することが可能となる。
【0040】
続いて、ラッチ機構100の動作について説明する。
図4に示すように、スライドドア40が全閉位置に向かって閉作動する場合、全閉ラッチ機構110のラッチ150のストライカ係合溝153に全閉ラッチ機構110に対応するストライカ24が進入し始める。また、スライドドア40が全開位置に向かって開作動する場合、全開ラッチ機構120のラッチ150のストライカ係合溝153に全開ラッチ機構120に対応するストライカ24が進入し始める。
【0041】
どちらの場合も、ストライカ24は、ラッチ150を押しつつ、ストライカ係合溝153の内部を奥側に向かって進入する。すると、ラッチ150は、ラッチスプリング170の付勢力に抗して、アンラッチ位置から第2回動方向R2に回動する。このとき、ポール160の第3係合部161は、ラッチ150の外周面上を摺動し、ラッチ150の第1係合部151に係合する。
【0042】
その結果、ラッチ150の第1回動方向R1への回動が制限され、スライドドア40がストライカ24から離れる方向に移動できなくなる。以降の説明では、
図4に示すように、全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120において、ラッチ150の第1係合部151及びポール160の第3係合部161が係合するときのラッチ150の位置を「ハーフラッチ位置」ともいう。
【0043】
図5に示すように、全閉リアラッチ機構111のラッチ150がハーフラッチ位置に配置された後に、リリースアクチュエータ43がクローズアクチュエータとして作動されると、全閉リアラッチ機構111のラッチ150は、ラッチスプリング170の付勢力に抗して、ハーフラッチ位置から第2回動方向R2にさらに回動する。このとき、ポール160の第3係合部161は、ラッチ150の外周面上を摺動し、ラッチ150の第2係合部152に係合する。このとき、スライドドア40は、全閉位置に引き込まれる。このため、全閉フロントラッチ機構112のラッチ150は、全閉リアラッチ機構111のラッチ150と同様にポール160と係合する。
【0044】
一方、
図5に示すように、全開ラッチ機構120のラッチ150がハーフラッチ位置に配置された後もスライドドア40の移動が継続されると、ストライカ24がストライカ係合溝153の内部を奥側に向かってさらに進入する。そして、ラッチ150は、ラッチスプリング170の付勢力に抗して、ハーフラッチ位置から第2回動方向R2にさらに回動する。このとき、ポール160の第3係合部161は、ラッチ150の外周面上を摺動し、ラッチ150の第2係合部152に係合する。
【0045】
その結果、ハーフラッチ位置と同様に、全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120のラッチ150がストライカ24から離れる方向に移動しようとしても、ラッチ150の第1回動方向R1への回動が制限され、スライドドア40がストライカ24から離れる方向に移動できなくなる。以降の説明では、
図5に示すように、ラッチ機構100において、ラッチ150の第2係合部152及びポール160の第3係合部161が係合するときのラッチ150の位置を「フルラッチ位置」ともいい、ラッチ150がハーフラッチ位置からフルラッチ位置に変位することを「フルラッチ作動」ともいう。
【0046】
上述したように、本実施形態では、全閉ラッチ機構110のラッチ150がフルラッチ作動するときの動力源は、クローズアクチュエータとして機能するリリースアクチュエータ43であり、全開ラッチ機構120のラッチ150がフルラッチ作動するときの動力源は、ドアアクチュエータ44である。この点に関して、全閉リアラッチ機構111のラッチ150、全閉フロントラッチ機構112のラッチ150及び全開ラッチ機構120のラッチ150は同一形状でなくてもよい。具体的には、全開ラッチ機構120のラッチ150は、全閉ラッチ機構110のラッチ150と異なり、ハーフラッチ位置に変位可能な形状である必要はない。
【0047】
全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120において、リリースアクチュエータ43が駆動されると、ポール160がポールスプリング180の付勢力に抗して第1回動方向P1に回動する。つまり、ラッチ150がフルラッチ位置又はハーフラッチ位置に位置するときに、リリースアクチュエータ43が駆動されると、ポール160の第3係合部161及びラッチ150の第1係合部151又は第2係合部152の係合が解除される。その結果、ラッチ150がラッチスプリング170の付勢力に従って第1回動方向R1に回動する。つまり、ラッチ150がフルラッチ位置又はハーフラッチ位置からアンラッチ位置に変位する。以降の説明では、ラッチ150がフルラッチ位置又はハーフラッチ位置からアンラッチ位置に変位することを「アンラッチ作動」ともいう。
【0048】
図2に示すように、リモコン装置45は、第1ケーブル461、第2ケーブル462、第3ケーブル463及び第4ケーブル464を介して、リリースアクチュエータ43、全閉リアラッチ機構111,全閉フロントラッチ機構112及び全開ラッチ機構120にそれぞれ接続されている。
【0049】
リモコン装置45は、リリースアクチュエータ43が第1ケーブル461を牽引するとき、第2ケーブル462を牽引し、全閉リアラッチ機構111のラッチ150をアンラッチ作動させる。また、リモコン装置45は、リリースアクチュエータ43が第1ケーブル461を牽引するとき、第3ケーブル463を牽引し、全閉フロントラッチ機構112のラッチ150をアンラッチ作動させる。同様に、リモコン装置45は、リリースアクチュエータ43が第1ケーブル461を牽引するとき、第4ケーブル464を牽引し、全開ラッチ機構120のラッチ150をアンラッチ作動させる。
【0050】
図1に示すように、周辺監視装置61は、例えば、車体20のルーフに設置される。周辺監視装置61は、例えば、音波、電波及び光を用いた測距センサとしてもよいし、TOFカメラ及び通常のデジタルカメラとしてもよい。周辺監視装置61の検出結果は、監視制御装置62に出力される。監視制御装置62は、例えば、自車両の周辺に接近する車両の有無を判定したり、自車両と自車両に接近する車両との距離を算出したりする。監視制御装置62は、ドア制御装置80に、自車両に接近する車両の有無を出力する。
【0051】
携帯機71は、車両10の全てのドアを施錠及び解錠するためのスイッチと、スライドドア40を開閉作動及び停止させるためのスイッチと、を有する。無線通信装置72は、車両10の周辺に位置する携帯機71との無線通信を行うことにより、当該携帯機71が車両10と対応付いた正規の携帯機71であるか否かを判定する。
【0052】
携帯機71は、スライドドア40を開閉作動させるためのスイッチを操作された場合、開作動指令信号、閉作動指令信号及び停止指令信号を無線通信装置72に出力する。そして、無線通信装置72は、開作動指令信号、閉作動指令信号及び停止指令信号をドア制御装置80に出力する。
【0053】
図2に示すように、ドア制御装置80は、リリースアクチュエータ43及びドアアクチュエータ44を制御する制御部81と、リリースアクチュエータ43及びドアアクチュエータ44の故障の検知を行う故障検知部82と、制御部81の実施する制御内容を許可するか制限するかを判定する判定部83と、を備える。
【0054】
制御部81には、開閉スイッチ41及び携帯機71から開作動指令信号、閉作動指令信号及び停止指令信号が入力される。制御部81は、開作動指令信号又は閉作動指令信号が入力されたとき、リリースアクチュエータ43を制御することで、ラッチ機構100のラッチ150をアンラッチ作動させる。アンラッチ作動の完了後、制御部81は、ドアアクチュエータ44を制御することで、スライドドア40を開閉作動させる。
【0055】
例えば、制御部81は、開作動指令信号が入力された場合、全閉ラッチ機構110のラッチ150をアンラッチ作動させた後、スライドドア40を開作動させる。また、制御部81は、閉作動指令信号が入力された場合、全開ラッチ機構120のラッチ150をアンラッチ作動させた後、スライドドア40を閉作動させる。続いて、制御部81は、スライドドア40が全開位置の近傍まで到達したとき、全閉ラッチ機構110のラッチ150をフルラッチ作動させる。また、制御部81は、停止指令信号が入力された場合、スライドドア40を停止させる。
【0056】
故障検知部82は、例えば、リリースアクチュエータ43のモータを駆動しても、モータの出力軸の回転角に応じたパルスが出力されない場合に、リリースアクチュエータ43に故障が発生したと判定する。ドアアクチュエータ44についても同様である。一例として、故障検知部82は、リリースアクチュエータ43の故障状況を示すフラグと、ドアアクチュエータ44の故障状況を示すフラグと、を管理すればよい。
【0057】
判定部83には、ドアロックスイッチ42からスライドドア40が施錠状態にあるか否かを示す信号、PSDメインスイッチ47からスライドドア40の開閉作動が有効か否かを示す信号及び監視制御装置62から自車両に接近する車両の有無に関する信号が入力される。また、判定部83には、リフトアップシート34の位置に関する信号、フューエルリッド50の位置に関する信号、車体速度VBに関する信号、バッテリ電圧値Ebに関する信号及び車両10がセキュリティモード中か否かを判別する信号などの信号Sigが入力される。
【0058】
判定部83は、入力される各種の信号に基づいて、2つの作動開始条件の成立及び不成立を判定する。そして、判定部83は、2つの作動開始条件の判定結果によって、制御部81に開作動指令信号及び閉作動指令信号が入力されたときに、制御部81によるラッチ150のアンラッチ作動を許可又は制限したり、制御部81によるスライドドア40の開閉作動を許可又は制限したりする。
【0059】
2つの作動開始条件は、第1作動開始条件及び第2作動開始条件を含む。第1作動開始条件は、成立しない状態でスライドドア40の開閉作動が開始された場合に、車両10及びユーザの少なくとも一方の安全性に影響を与えやすい条件であり、第2作動開始条件は、成立しない状態でスライドドア40の開閉作動が開始されたときに、上記安全性に影響を与えにくい条件である。言い換えれば、第1作動開始条件は、成立しない状態でスライドドア40の開閉作動が開始されたときに、上記安全性が低下するおそれが大きい条件であり、第2作動開始条件は、成立しない状態でスライドドア40の開閉作動が開始されたときに、上記安全性が低下するおそれが小さい条件である。
【0060】
ここで、車両10の安全性とは、車両10の構成部品が損傷等することなく正確に作動すること、車両10の走行及び停止に関する構成部品の作動が車両10の他の構成部品の作動よりも優先されること及び車両10の防犯性が高いことなどが含まれる。また、ユーザの安全性とは、ユーザに危険が及ばないことが含まれる。
【0061】
判定部83は、第1作動開始条件及び第2作動開始条件の双方が成立する場合に、制御部81によるラッチ150のアンラッチ作動及びスライドドア40の開閉作動の双方を許可する。この場合、制御部81に入力される信号が開作動指令信号であれば、スライドドア40が全開位置に向けて開作動され、制御部81に入力される信号が閉作動指令信号であれば、スライドドア40が全閉位置に向けて閉作動される。つまり、スライドドア40を開閉作動させることについて、何の問題も生じない場合、スライドドア40の開閉作動が許可される。
【0062】
判定部83は、第1作動開始条件が成立しない場合に、制御部81によるラッチ150のアンラッチ作動及びスライドドア40の開閉作動の双方を制限する。この場合において、スライドドア40が全閉位置及び全開位置の間の中途位置に位置するときには、スライドドア40が開方向及び閉方向に移動しないようにドアアクチュエータ44のモータに停止トルクを出力させてもよい。こうして、スライドドア40が開閉される点において、車両10及びユーザの安全性を確保できないのであれば、スライドドア40の開閉作動が制限される。この場合、ラッチ150がアンラッチ作動されない点で、ユーザは、手動でスライドドア40を開閉操作することもできない。
【0063】
判定部83は、第1作動開始条件が成立し、第2作動開始条件が成立しない場合に、制御部81によるラッチ150のアンラッチ作動を許可し、スライドドア40の開閉作動を制限する。この場合、スライドドア40の開閉作動が制限されるが、ラッチ150がアンラッチ作動される点で、ユーザは、手動でスライドドア40を開閉操作できる。例えば、スライドドア40が全閉位置に位置していれば、ユーザが手動でスライドドア40を開操作することが可能となり、スライドドア40が全開位置に位置していれば、ユーザが手動でスライドドア40を閉操作することが可能となる。つまり、ユーザがユーザの意思に基づき、スライドドア40を開閉操作できる点で、ユーザの利便性が向上される。
【0064】
次に、第1作動開始条件について説明する。
判定部83は、第1作動開始条件のうち、1つでも不成立となる場合には、ラッチ150のアンラッチ作動及びスライドドア40の開閉作動の双方を制限する。
【0065】
スライドドア40が施錠されている状況下において、開作動指令信号に基づき制御部81がスライドドア40を開作動させると、セキュリティの観点から問題が生じるおそれがある。このため、第1作動開始条件は、スライドドア40が解錠されている場合に成立し、スライドドア40が施錠されている場合に成立しない条件を含む。この条件は、制御部81に開作動指令信号が入力される場合に考慮される条件であり、制御部81に閉作動指令信号が入力される場合に考慮されない条件である。
【0066】
同様に、車両10の全てのドアが携帯機71によって施錠され且つイグニッション電源がオフされている状況下、言い換えれば、車両10がセキュリティモードにある状況下において、開作動指令信号に基づき制御部81がスライドドア40を開作動させると、セキュリティの観点から問題が生じるおそれがある。このため、第1作動開始条件は、車両10がセキュリティモードでない場合に成立し、車両10がセキュリティモードである場合に成立しない条件を含む。この条件は、制御部81に開作動指令信号が入力される場合に考慮される条件であり、制御部81に閉作動指令信号が入力される場合に考慮されない条件である。
【0067】
車両10が走行中である場合に、開作動指令信号に基づき制御部81がスライドドア40を開作動させると、スライドドア40の側方の座席30に着座するユーザに危険が及ぶおそれがある。このため、第1作動開始条件は、車体速度VBが速度判定値Vth未満の場合に成立し、車体速度VBが速度判定値Vth以上の場合に成立しない条件を含む。例えば、この条件は、速度判定値Vthを「0」とする場合、車両10が停止中である場合に成立し、車両10が走行中である場合に成立しない条件となる。なお、車体速度VBは、車両10が前進する場合も後退する場合も正の値となるものとする。この条件は、制御部81に開作動指令信号が入力される場合に考慮される条件であり、制御部81に閉作動指令信号が入力される場合に考慮されない条件である。
【0068】
セルモータによる内燃機関の始動時に、制御部81がスライドドア40を開作動させると、セルモータの駆動に必要な電圧が確保できなくなり、内燃機関の始動が正常に完了しないおそれがある。このため、第1作動条件は、内燃機関の停止中及び内燃機関の始動後に成立し、内燃機関の始動中に成立しない条件を含む。言い換えれば、この条件は、セルモータが駆動していない場合に成立し、セルモータの駆動中に成立しない条件である。この条件は、制御部81に開作動指令信号及び閉作動指令信号の双方が入力される場合に考慮される条件である。
【0069】
リリースアクチュエータ43が故障している場合に、開作動指令信号及び閉作動指令信号に基づき制御部81がラッチ150をアンラッチ作動させると、ラッチ作動が正常に完了しないおそれがある。このため、第1作動開始条件は、リリースアクチュエータ43が故障していない場合に成立し、リリースアクチュエータ43が故障している場合に成立しない条件を含む。この条件は、制御部81に開作動指令信号及び閉作動指令信号の双方が入力される場合に考慮される条件である。
【0070】
次に、第2作動開始条件について説明する。
判定部83は、第2作動開始条件の何れかの条件が不成立となる場合でも、第1作動開始条件が成立する場合には、ラッチ150のアンラッチ作動までは許可する。
【0071】
バッテリ電圧値Ebが電圧判定値Eth未満に低下している場合に、開作動指令信号及び閉作動指令信号に基づき制御部81がスライドドア40を開作動させると、ドアアクチュエータ44を駆動させるために必要な電圧が確保できなくなるおそれがある。つまり、バッテリ電圧値Ebが電圧判定値Eth未満に低下している場合には、スライドドア40の開閉作動が正常に完了しないおそれがある。このため、第2作動開始条件は、バッテリ電圧値Ebが電圧判定値Eth以上である場合に成立し、バッテリ電圧値Ebが電圧判定値Eth未満である場合に成立しない条件を含む。なお、ここでいう電圧判定値Ethは、リリースアクチュエータ43によるラッチ150のアンラッチ作動に必要なバッテリ電圧値Ebよりも大きく、ドアアクチュエータ44によるスライドドア40の開閉作動に必要なバッテリ電圧値Ebよりも小さい。この条件は、制御部81に開作動指令信号及び閉作動指令信号の双方が入力される場合に考慮される条件である。
【0072】
PSDメインスイッチ47がオフの場合には、開作動指令信号及び閉作動指令信号に基づき制御部81がラッチ150をアンラッチ作動させても、車両10及びユーザの安全性が低下しない。このため、第2作動条件は、PSDメインスイッチ47が有効であることを示すオンの場合に成立し、PSDメインスイッチ47が無効であることを示すオフの場合に成立しない条件を含む。この条件は、制御部81に開作動指令信号及び閉作動指令信号の双方が入力される場合に考慮される条件である。
【0073】
ドアアクチュエータ44が故障している場合に、開作動指令信号及び閉作動指令信号に基づき制御部81がスライドドア40を開閉作動させると、スライドドア40の開閉作動が正常に完了しないおそれがある。このため、第2作動開始条件は、ドアアクチュエータ44が故障していない場合に成立し、ドアアクチュエータ44が故障している場合に成立しない条件を含む。この条件は、制御部81に開作動指令信号及び閉作動指令信号の双方が入力される場合に考慮される条件である。
【0074】
フューエルリッド50が開いている場合に、開作動指令信号に基づき制御部81がスライドドア40を開作動させると、スライドドア40がフューエルリッド50に接触するおそれがある。つまり、フューエルリッド50が開いている場合には、スライドドア40の開作動が禁止されることが好ましい。このため、第2作動開始条件は、フューエルリッド50が閉じている場合に成立し、フューエルリッド50が開いている場合に成立しない条件を含む。この条件は、制御部81に開作動指令信号が入力される場合に考慮される条件であり、制御部81に閉作動指令信号が入力される場合に考慮されない条件である。
【0075】
リフトアップシート34が展開している場合に、閉作動指令信号に基づき制御部81がスライドドア40を閉作動させると、スライドドア40がリフトアップシート34に接触するおそれがある。つまり、リフトアップシート34が展開している場合には、スライドドア40の閉作動を禁止することが好ましい。このため、第2作動開始条件は、リフトアップシート34が車室21内に格納されている場合に成立し、リフトアップシート34が車室21外に展開されている場合に成立しない条件を含む。この条件は、制御部81に閉作動指令信号が入力される場合に考慮される条件であり、制御部81に開作動指令信号が入力される場合に考慮されない条件である。
【0076】
自車両に接近中の車両が存在する場合に、開作動指令信号に基づき制御部81がスライドドア40を開作動させると、車両10を降車しようとするユーザと自車両に接近する車両とに危険が及ぶ可能性がある。つまり、自車両に接近中の車両が存在する場合には、スライドドア40の開作動が禁止されることが好ましい。このため、第2作動開始条件は、自車両に接近中の車両が存在しない場合に成立し、自車両に接近中の車両が存在する場合に成立しない条件を含む。この条件は、制御部81に開作動指令信号が入力される場合に考慮される条件であり、制御部81に閉作動指令信号が入力される場合に考慮されない条件である。
【0077】
次に、
図6に示すフローチャートを参照して、スライドドア40の開閉作動を開始するか否かを判定するために、ドア制御装置80が実行する処理の流れについて説明する。
図6に示すように、ドア制御装置80は、開作動指令信号又は閉作動指令信号が入力されたか否かを判定する(S11)。開作動指令信号及び閉作動指令信号の何れの信号も入力されない場合(S11:NO)、ドア制御装置80は、本処理を終了する。
【0078】
開作動指令信号又は閉作動指令信号が入力された場合(S11:YES)、ドア制御装置80は、第1作動開始条件が成立しているか否かを判定する(S12)。第1作動開始条件が成立していない場合(S12:NO)、言い換えれば、スライドドア40の開閉作動が適さない状況である場合、ドア制御装置80は、本処理を終了する。つまり、この場合には、スライドドア40が開閉作動されないだけでなく、ラッチ150がアンラッチ作動されない。
【0079】
第1作動開始条件が成立している場合(S12:YES)、ドア制御装置80は、第2作動開始条件が成立しているか否かを判定する(S13)。第2作動開始条件が成立している場合(S13:YES)、言い換えれば、スライドドア40の開閉作動が適する状況である場合、ドア制御装置80は、ラッチ150をアンラッチ作動させるとともに(S14)、スライドドア40を開閉作動させる(S15)。その後、ドア制御装置80は、本処理を終了する。
【0080】
第2作動開始条件が成立していない場合(S13:NO)、言い換えれば、スライドドア40の開閉作動が適さない状況であるものの、ユーザによるスライドドア40の開閉操作を許容できる状況である場合、ドア制御装置80は、ラッチ150をアンラッチ作動させる(S16)。その後、ドア制御装置80は、スライドドア40を開閉作動させることなく、本処理を終了する。
【0081】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)開作動指令信号が入力される場合であっても、第1作動開始条件が成立する一方で第2作動開始条件が成立しない場合に、ラッチ150のアンラッチ作動及びスライドドア40の開閉作動をともに制限する比較例を想定する。この比較例では、第1作動開始条件に加え、第2作動開始条件が成立していないと、ユーザは、スライドドア40を開閉することが一切できなくなる。つまり、ユーザの利便性が良いとはいえない。
【0082】
この点、ドア制御装置80は、開作動指令信号が入力される状況下において、第1作動開始条件が成立する一方で第2作動開始条件が成立しない場合、スライドドア40の開閉作動を制限するが、ラッチ150のアンラッチ作動を許可する。つまり、ドア制御装置80は、上記の場合において、スライドドア40を開閉作動させないことで、不用意にスライドドア40が開作動されることを抑制できる。また、ドア制御装置80は、上記の場合において、ラッチ150をアンラッチ作動させることでユーザがスライドドア40を開閉操作可能な状態にできる。こうして、ドア制御装置80は、スライドドア40の開閉作動に際し、安全性を確保しつつ利便性を向上できる。
【0083】
(2)ドア制御装置80は、開作動指令信号が入力される状況下において、車両10が速度判定値Vthに応じた速度で走行中の場合、例えば、車両10が走行中の場合、全閉ラッチ機構110のラッチ150のアンラッチ作動を制限する。つまり、車両10が走行中の場合、開作動指令信号がドア制御装置80に入力されても、スライドドア40が開作動されないだけでなく、ユーザがスライドドア40を開操作可能な状態にもならない。よって、ドア制御装置80は、ユーザの安全性を確保できる。
【0084】
(3)ドア制御装置80は、開作動指令信号が入力される状況下において、スライドドア40が施錠されている場合及び車両10がセキュリティモード中の場合、全閉ラッチ機構110のラッチ150のアンラッチ作動を制限する。つまり、スライドドア40が施錠されている場合及び車両10がセキュリティモード中の場合、開作動指令信号がドア制御装置80に入力されても、スライドドア40が開作動されないだけでなく、ユーザがスライドドア40を開操作可能な状態にもならない。よって、ドア制御装置80は、車両10の安全性、詳しくは、車両10の防犯性を確保できる。
【0085】
(4)ドア制御装置80は、開作動指令信号又は閉作動指令信号が入力される状況下において、内燃機関が始動中である場合、全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120のラッチ150のアンラッチ作動を制限する。つまり、内燃機関が始動中である場合、開作動指令信号又は閉作動指令信号がドア制御装置80に入力されても、リリースアクチュエータ43及びドアアクチュエータ44が駆動されない。よって、ドア制御装置80は、内燃機関を始動するセルモータの駆動に必要な電圧が低下することを抑制できる。
【0086】
(5)ドア制御装置80は、開作動指令信号又は閉作動指令信号が入力される状況下において、リリースアクチュエータ43が故障中の場合、全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120のラッチ150のアンラッチ作動を制限する。つまり、リリースアクチュエータ43が故障中の場合、開作動指令信号又は閉作動指令信号がドア制御装置80に入力されても、リリースアクチュエータ43が駆動されない。よって、ドア制御装置80は、全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120のラッチ150が正常でない位置で停止されることを抑制できる。つまり、ドア制御装置80は、車両10の安全性を確保できる。
【0087】
(6)ドア制御装置80は、開作動指令信号又は閉作動指令信号が入力される状況下において、バッテリ電圧値Ebが電圧判定値Eth未満の場合、スライドドア40を開閉作動させないものの、全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120のラッチ150をアンラッチ作動させる。つまり、ユーザがスライドドア40を手動で開閉操作可能な状態となるため、ドア制御装置80は、ユーザの利便性を向上できる。
【0088】
(7)ドア制御装置80は、開作動指令信号又は閉作動指令信号が入力される状況下において、PSDメインスイッチ47がオフの場合、スライドドア40を開閉作動させないものの、全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120のラッチ150をアンラッチ作動させる。つまり、ユーザがスライドドア40を手動で開閉操作可能な状態となるため、ドア制御装置80は、ユーザの利便性を向上できる。
【0089】
(8)ドア制御装置80は、開作動指令信号又は閉作動指令信号が入力される状況下において、ドアアクチュエータ44が故障中の場合、スライドドア40を開閉作動させないものの、全閉ラッチ機構110及び全開ラッチ機構120のラッチ150をアンラッチ作動させる。つまり、ユーザがスライドドア40を手動で開閉操作可能な状態となるため、ドア制御装置80は、ユーザの利便性を向上できる。
【0090】
(9)ドア制御装置80は、開作動指令信号が入力される状況下において、フューエルリッド50が開いている場合、スライドドア40を開作動させないものの、全閉ラッチ機構110のラッチ150をアンラッチ作動させる。つまり、ユーザがスライドドア40を手動で開操作可能な状態となるため、ドア制御装置80は、ユーザの利便性を向上できる。
【0091】
(10)ドア制御装置80は、閉作動指令信号が入力される状況下において、リフトアップシート34が展開中の場合、スライドドア40を閉作動させないものの、全開ラッチ機構120のラッチ150をアンラッチ作動させる。つまり、ユーザがスライドドア40を手動で閉操作可能な状態となるため、ドア制御装置80は、ユーザの利便性を向上できる。
【0092】
(11)ドア制御装置80は、開作動指令信号が入力される状況下において、自車両に接近中の車両が存在する場合、スライドドア40を開作動させないものの、全閉ラッチ機構110のラッチ150をアンラッチ作動させる。つまり、ユーザがスライドドア40を手動で開閉操作可能な状態となるため、ドア制御装置80は、ユーザの利便性を向上できる。
【0093】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・判定部83は、上記実施形態における第1作動開始条件及び第2作動開始条件のうち、一部の条件を考慮しなくてもよい。また、第1作動開始条件及び第2作動開始条件は、他の条件を含んでもよい。
【0094】
・判定部83に対し、車両10の外気温を示す信号を入力してもよい。この場合、第2作動開始条件は、車両10の周辺の温度がドアアクチュエータ44の作動可能温度の範囲外である場合に不成立となる条件を含んでもよい。この条件は、制御部81に開作動指令信号及び閉作動指令信号が入力される場合に考慮される条件とすればよい。
【0095】
・判定部83に対し、エアバッグが展開していることを示す信号、言い換えれば、車両が衝突していることを示す信号を入力してもよい。この場合、第2作動開始条件は、エアバッグが展開している場合に不成立となる条件を含んでもよい。この条件は、制御部81に開作動指令信号及び閉作動指令信号の双方が入力される場合に考慮される条件とすればよい。
【0096】
・スライドドア40は、車体20とスライドドア40との間における挟み込みを検出するタッチセンサを備えてもよい。さらに、判定部83に対し、タッチセンサの検出結果を入力してもよい。この場合、第2作動開始条件は、挟み込みが検出されている場合に不成立となる条件を含んでもよい。この条件は、制御部81に閉作動指令信号が入力される場合に考慮される条件とすればよい。
【0097】
・車両10は、リリースアクチュエータ43の故障検知のためのセンサを備えてもよい。この場合、故障検知部82は、故障検知のためのセンサの検出結果に基づいてリリースアクチュエータ43の故障を検知してもよい。ドアアクチュエータ44の故障検知についても同様である。
【0098】
・スライドドア40は、アウトサイドドアハンドル及びインサイドドアハンドルを備えてもよい。また、スライドドア40は、車室21からユーザが操作可能なレバーであって、ラッチ機構100のラッチ150をアンラッチ作動させるレバーを備えてもよい。
【0099】
・ドアは、スイング式のドアでもよいし、跳ね上げ式のドアでもよい。また、ドアは、フロントドアでもよいし、バックドアでもよい。
・車両10は、内燃機関を備えない電気自動車であってもよい。この場合、フューエルリッド50に覆われる燃料口は、給電口となる。
【0100】
・ドア制御装置80は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア(特定用途向け集積回路:ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【符号の説明】
【0101】
10…車両
20…車体
24…ストライカ
34…リフトアップシート
40…スライドドア
41…開閉スイッチ
42…ドアロックスイッチ
43…リリースアクチュエータ
44…ドアアクチュエータ
47…PSDメインスイッチ
50…フューエルリッド
80…ドア制御装置(車両用ドア制御装置)
81…制御部
82…故障検知部
83…判定部
100…ラッチ機構
110(111,112)…全閉ラッチ機構
120…全開ラッチ機構
150…ラッチ