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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ヒートシンク一体型絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20231011BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20231011BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H05K1/02 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020044215
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021145094
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】大橋 東洋
(72)【発明者】
【氏名】坂庭 慶昭
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-167984(JP,A)
【文献】特開2019-121794(JP,A)
【文献】特開2018-148064(JP,A)
【文献】特開2003-168770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/12
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部と放熱フィンとを備えたヒートシンクと、前記ヒートシンクの前記天板部に形成された絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の前記ヒートシンクとは逆側の面に回路パターン状に配設された金属片からなる回路層と、を備え、
前記ヒートシンクの前記天板部の最大長さをLとし、前記ヒートシンクの前記天板部の反り量をZとし、前記ヒートシンクの前記天板部の前記絶縁樹脂層との接合面側に凸状の変形を正の反り量とし、前記ヒートシンクの曲率をC=|(8×Z)/L|と定義した場合に、
25℃から300℃まで加熱した際の前記ヒートシンクの最大曲率Cmax(1/m)と、前記絶縁樹脂層のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが、P/Cmax>60であることを特徴とするヒートシンク一体型絶縁回路基板。
【請求項2】
前記回路層の厚さtと前記ヒートシンクの前記天板部の厚さtとの比t/tが、
0.5≦t/t≦1.5
を満足することを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク一体型絶縁回路基板。
【請求項3】
25℃から300℃まで加熱した際の前記ヒートシンクの最大曲率Cmax(1/m)と、前記絶縁樹脂層のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが、P/Cmax>90であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒートシンク一体型絶縁回路基板。
【請求項4】
前記絶縁樹脂層は、無機材料のフィラーを含有していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のヒートシンク一体型絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放熱フィンを備えたヒートシンクと、このヒートシンクの天板部に形成された絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の一方の面に形成された回路層と、を備えたヒートシンク一体型絶縁回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュールおよび熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子および熱電素子が接合された構造とされている。なお、絶縁層としては、セラミックスを用いたものや絶縁樹脂を用いたものが提案されている。
絶縁樹脂層を備えた絶縁回路基板として、例えば特許文献1には、放熱フィンを備えたヒートシンクと回路層とを絶縁樹脂シートによって絶縁した放熱フィン一体型絶縁回路基板が提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、熱発生部材の少なくとも一つの面に熱伝導性絶縁接着膜を介して放熱ベース基板が接着された複合部材が開示されている。この特許文献2においては、温度変化に伴う放熱部材および熱発生部材の膨張または伸縮から生じる応力によって熱伝導性絶縁接着膜にクラックが生じることを抑制するために、せん断接着力と熱応力の関係、および、破断伸度と熱歪との関係を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-204700号公報
【文献】特開2019-041111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、放熱フィンを備えたヒートシンクの天板部に絶縁樹脂層を形成し、この絶縁樹脂層の上に回路層を形成したヒートシンク一体型絶縁回路基板においては、温度変化によって反りが生じることがある。特に、放熱フィンを備えたヒートシンクにおいては、放熱フィンが形成された箇所と放熱フィンが形成されていない箇所とで厚さが異なるため、反りが生じやすい傾向がある。
ヒートシンク一体型絶縁回路基板において反りが生じた場合には、回路層の端部が絶縁樹脂層から剥離したり、この剥離が絶縁樹脂層の内部に進展したりしてしまうおそれがあった。
ここで、特許文献2においては、面内の応力やひずみについては評価しているが、面に直交する方向についての応力については考慮されていない。このため、回路層の剥離や絶縁樹脂層の内部剥離については対応していない。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、温度変化によって反りが生じた場合であっても、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制でき、信頼性に優れたヒートシンク一体型絶縁回路基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、本発明のヒートシンク一体型絶縁回路基板は、天板部と放熱フィンとを備えたヒートシンクと、前記ヒートシンクの前記天板部に形成された絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の前記ヒートシンクとは逆側の面に回路パターン状に配設された金属片からなる回路層と、を備え、前記ヒートシンクの前記天板部の最大長さをLとし、前記ヒートシンクの前記天板部の反り量をZとし、前記ヒートシンクの前記天板部の前記絶縁樹脂層との接合面側に凸状の変形を正の反り量とし、前記ヒートシンクの曲率をC=|(8×Z)/L|と定義した場合に、25℃から300℃まで加熱した際の前記ヒートシンクの最大曲率Cmax(1/m)と、前記絶縁樹脂層のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが、P/Cmax>60であることを特徴としている。
【0008】
この構成のヒートシンク一体型絶縁回路基板によれば、25℃から300℃まで加熱した際における前記ヒートシンクの最大曲率Cmax(1/m)と、前記絶縁樹脂層のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが、P/Cmax>60であることから、反りによる応力に対して十分なピール強度が確保されており、温度変化によってヒートシンクに反りが生じた場合であっても、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0009】
ここで、本発明のヒートシンク一体型絶縁回路基板においては、前記回路層の厚さtと前記ヒートシンクの前記天板部の厚さtとの比t/tが、0.5≦t/t≦1.5を満足することが好ましい。
この場合、絶縁樹脂層を介して配置される前記回路層の厚さtと前記ヒートシンクの前記天板部の厚さtとの比t/tが大きく異なっておらず、反り量を比較的低く抑えることが可能となる。
【0010】
また、本発明のヒートシンク一体型絶縁回路基板においては、25℃から300℃まで加熱した際の前記ヒートシンクの最大曲率Cmax(1/m)と、前記絶縁樹脂層のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが、P/Cmax>90であることが好ましい。
この場合、反りによる応力に対してさらに十分なピール強度が確保されており、温度変化によってヒートシンクに反りが生じた場合であっても、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0011】
さらに、本発明のヒートシンク一体型絶縁回路基板においては、前記絶縁樹脂層は、無機材料のフィラーを含有していることが好ましい。
この場合、絶縁樹脂層の熱伝導性が確保されることから、放熱特性に優れており、回路層の上に搭載された熱源からの熱をヒートシンク側で効率良く放熱することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温度変化によって反りが生じた場合であっても、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制でき、信頼性に優れたヒートシンク一体型絶縁回路基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板を備えたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板における反り量と曲率の関係を示す説明図である。
図3】本発明の実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板における絶縁樹脂層のピール強度の測定方法の説明図である。
図4】本発明の実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板の製造方法の一例を説明するフロー図である。
図5図4に示すヒートシンク一体型絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態であるヒートシンク一体型絶縁回路基板10およびこのヒートシンク一体型絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0015】
図1に示すパワーモジュール1は、ヒートシンク一体型絶縁回路基板10と、このヒートシンク一体型絶縁回路基板10の一方の面(図1において上面)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。
【0016】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。ヒートシンク一体型絶縁回路基板10と半導体素子3とを接合するはんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
【0017】
ヒートシンク一体型絶縁回路基板10は、ヒートシンク20と、このヒートシンク20の天板部21の一方の面(図1において上面)に形成された絶縁樹脂層12と、絶縁樹脂層12の一方の面(図1において上面)に形成された回路層13と、を備えている。なお、上述の半導体素子3は、回路層13の一方の面(図1において上面)に接合される。
【0018】
ヒートシンク20は、天板部21と、この天板部21の他方の面(図1において下面)から突出した放熱フィン22と、を備えている。
このヒートシンク20においては、天板部21で熱を面方向に拡げるとともに、放熱フィン22を介して外部に放熱する構成とされている。このため、ヒートシンク20は、熱伝導性に優れた金属、例えば銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されている。本実施形態では、アルミニウム合金(A6063)で構成されている。
ここで、ヒートシンク20の天板部21の厚さは0.5mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されていることが好ましい。
なお、ヒートシンク20は、放熱フィン22がピンフィンとされた構造であってもよいし、放熱フィン22が櫛形に形成された構造であってもよい。また、放熱フィン22が形成された箇所における放熱フィン22が占める体積割合を10%以上40%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0019】
絶縁樹脂層12は、回路層13とヒートシンク20との間の電気的接続を防止するものであり、絶縁性を有する樹脂で構成されている。
本実施形態では、絶縁樹脂層12の強度を確保するとともに、熱伝導性を確保するために、無機材料のフィラーを含有する樹脂を用いることが好ましい。ここで、フィラーとしては、例えばアルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を用いることができる。絶縁樹脂層12における熱伝導性を確保する観点から、フィラーの含有量は50mass%以上であることが好ましく、70mass%以上であることがより好ましい。
また、熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂,シリコン樹脂等を用いることができる。ここで、シリコン樹脂であればフィラーを70mass%以上含有することができ、エポキシ樹脂であればフィラーを80mass%以上含有することができる。
【0020】
なお、絶縁樹脂層12における絶縁性を十分に確保するためには、絶縁樹脂層12の厚さの下限を25μm以上とすることが好ましく、50μm以上とすることがより好ましい。一方、ヒートシンク一体型絶縁回路基板10における放熱性をさらに確保するためには、絶縁樹脂層12の厚さの上限を300μm以下とすることが好ましく、200μm以下とすることがより好ましい。
【0021】
回路層13は、図5に示すように、絶縁樹脂層12の一方の面(図5において上面)に、導電性に優れた金属からなる金属片33が接合されることにより形成されている。金属片33としては、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等を用いることができる。本実施形態においては、回路層13を構成する金属片33として、無酸素銅の圧延板を打ち抜いたものが用いられている。
この回路層13においては、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。
【0022】
ここで、本実施形態であるヒートシンク一体型絶縁回路基板10においては、回路層13(金属片33)の厚さtとヒートシンク20の天板部21の厚さtとの比t/tが、0.5≦t/t≦1.5を満足することが好ましい。
具体的には、回路層13(金属片33)の厚さtは0.3mm以上3.0mm以下の範囲内に設定され、ヒートシンク20の天板部21の厚さtは0.5mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されており、さらに、上述の比t/tを満足することが好ましい。
【0023】
そして、本実施形態であるヒートシンク一体型絶縁回路基板10においては、ヒートシンク20の天板部21の最大長さをLとし、ヒートシンク20の天板部21の反り量をZとし、ヒートシンク20の天板部21の接合面側に凸状の変形を正の反り量とし、ヒートシンク20の曲率をC=|(8×Z)/L|と定義した場合に、25℃から300℃まで加熱した際のヒートシンク20の最大曲率Cmax(1/m)と、絶縁樹脂層12のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが、P/Cmax>60とされている。
【0024】
ここで、図2に示すように、ヒートシンク20の天板部21の最大長さLと、ヒートシンク20の天板部21の反り量Zから、ヒートシンク20の曲率C=|(8×Z)/L|が算出されることになる。
なお、本実施形態では、ヒートシンク20の天板部21は矩形平板状とされており、対角線の長さが最大長さLとなる。そして、反り量Zは、対角線(最大長さ)に沿った断面における高さ方向の最大値と最小値の差となる。
【0025】
また、絶縁樹脂層12のピール強度は、図3に示すように、JIS K6854-1:1999に規定された90°ピール試験に準じて、回路層13(金属片33)の端部を上方に引っ張ることによって測定した。
なお、このピール試験において、破断箇所が、ヒートシンク20の天板部21と絶縁樹脂層12との接合界面、絶縁樹脂層12と回路層13都の接合界面、絶縁樹脂層12の内部、のいずれであってもよい。
【0026】
300℃まで加熱した際におけるヒートシンク20の最大曲率Cmax(1/m)と、絶縁樹脂層12のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが、P/Cmax>60である場合には、反りによる高さ方向の応力よりもピール強度が高くなり、反りによる絶縁樹脂層12の剥離等が抑制されることになる。
よって、反り量に応じて絶縁樹脂層12を構成する樹脂の材質を適切化したり、絶縁樹脂層12を構成する樹脂の材質に応じて回路層13およびヒートシンク20の材質や厚さを設計したりして、P/Cmax>60とすることで、反りによる絶縁樹脂層12の剥離等を抑制することが可能となるのである。
なお、さらに確実に反りによる絶縁樹脂層12の剥離等を抑制するためには、上述の比P/Cmaxを90より大きくすることが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態であるヒートシンク一体型絶縁回路基板10の製造方法について、図4および図5を参照して説明する。
【0028】
(樹脂組成物配設工程S01)
図5に示すように、ヒートシンク20の天板部21の一方の面(図5において上面)に、無機材料のフィラーと樹脂と硬化剤とを含有する樹脂組成物32を配設する。本実施形態では、樹脂組成物32はシート状のものを用いている。
【0029】
(金属片配置工程S02)
次に、樹脂組成物32の一方の面(図5において上面)に、回路層13となる複数の金属片33を回路パターン状に配置する。
【0030】
(加圧および加熱工程S03)
次に、加圧装置によってし、ヒートシンク20と樹脂組成物32と金属片33とを積層方向に加圧するとともに加熱することにより、樹脂組成物32を硬化させて絶縁樹脂層12を形成するとともに、ヒートシンク20の天板部21と絶縁樹脂層12、絶縁樹脂層12と金属片33とを接合する。
【0031】
この加圧および加熱工程S03においては、加熱温度が120℃以上350℃以下の範囲内とされ、加熱温度での保持時間が10分以上180分以下の範囲内とされていることが好ましい。また、積層方向の加圧荷重が1MPa以上30MPa以下の範囲内とされていることが好ましい。
ここで、加熱温度の下限は150℃以上とすることがさらに好ましく、170℃以上とすることがより好ましい。一方、加熱温度の上限は320℃以下とすることがさらに好ましく、300℃以下とすることがより好ましい。
加熱温度での保持時間の下限は30分以上とすることがさらに好ましく、60分以上とすることがより好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は120分以下とすることがさらに好ましく、90分以下とすることがより好ましい。
積層方向の加圧荷重の下限は3MPa以上とすることがさらに好ましく、5MPa以上とすることがより好ましい。一方、積層方向の加圧荷重の上限は15MPa以下とすることがさらに好ましく、10MPa以下とすることがより好ましい。
【0032】
上述した各工程によって、本実施形態であるヒートシンク一体型絶縁回路基板10が製造される。
【0033】
以上のような構成とされた本実施形態に係るヒートシンク一体型絶縁回路基板10によれば、25℃から300℃まで加熱した際のヒートシンク20の最大曲率Cmax(1/m)と、絶縁樹脂層12のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが、P/Cmax>60であることから、反りによる応力に対して十分なピール強度が確保されており、温度変化によってヒートシンク20に反りが生じた場合であっても、回路層13と絶縁樹脂層12との剥離、あるいは、絶縁樹脂層12の内部剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0034】
また、本実施形態において、回路層13の厚さtとヒートシンク20の天板部21の厚さtとの比t/tが、0.5≦t/t≦1.5を満足する場合には、絶縁樹脂層12を介して配置される回路層13の厚さtとヒートシンク20の天板部21の厚さtとの比t/tが大きく異なっておらず、反り量を比較的低く抑えることが可能となる。
【0035】
さらに、本実施形態において、絶縁樹脂層12は、無機材料のフィラーを含有している場合には、絶縁樹脂層12の熱伝導性が確保され、放熱特性に優れており、回路層13の上に搭載された半導体素子3からの熱をヒートシンク20側で効率良く放熱することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態においては、図4および図5に示すヒートシンク一体型絶縁回路基板の製造方法によってヒートシンク一体型絶縁回路基板を製造するものとして説明したが、これに限定されることはない。
【0037】
また、本実施形態においては、ヒートシンクを無酸素銅(OFC)で構成し、回路層をアルミニウム合金(A6053)で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等の他の金属で構成されたものであってもよい。さらに、複数の金属が積層された構造のものであってもよい。
【0038】
さらに、本実施形態では、ヒートシンク一体型絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、ヒートシンク一体型絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、ヒートシンク一体型絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【実施例
【0039】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0040】
表1に示す構造のヒートシンクの天板部(100mm×80mm、厚さは表1に記載)に、表1に示す樹脂組成物のシート材を配置し、この樹脂組成物のシート材上に、表1に示す回路層を形成する金属片を配置し、積層したヒートシンクと樹脂組成物のシート材と金属片とを、積層方向に加圧しながら加熱し、樹脂組成物を硬化させて絶縁樹脂層を形成するとともに、ヒートシンクの天板部と絶縁樹脂層、および、絶縁樹脂層と金属片を接合し、ヒートシンク一体型絶縁回路基板を得た。なお、シート材がポリイミドの場合、積層方向の加圧圧力は5MPa、加熱温度は300℃、加熱温度での保持時間は60分とした。シート材がエポキシあるいはシリコンの場合は積層方向の加圧圧力は10MPa、加熱温度は200℃、加熱温度での保持時間は60分とした。
以上のようにして、得られたヒートシンク一体型絶縁回路基板について、以下の項目についてそれぞれ評価した。
【0041】
(最大曲率Cmax
300℃に加熱した際の反り量Zを、モアレ式三次元形状測定器を使用して測定した。そして、発明を実施するための形態の欄に記載したように、ヒートシンクの天板部21の最大長さLと、反り量Zと、から、25℃から300℃まで加熱した際のヒートシンクの最大曲率Cmax(1/m)を算出した。
【0042】
(ピール強度P)
発明を実施するための形態の欄に記載したように、JIS K6854-1:1999に規定された90°ピール試験に準じて、回路層(金属片)の端部を上方に引っ張ることによって測定した。
【0043】
(加熱処理後の破断)
得られたヒートシンク一体型絶縁回路基板に対して、300℃×5分の加熱処理を実施し、絶縁樹脂層の破断の有無を確認した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
25℃から300℃まで加熱した際のヒートシンクの最大曲率Cmax(1/m)と、絶縁樹脂層のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが60以下である比較例1-5においては、加熱試験後に破断が認められた。
これに対して、25℃から300℃まで加熱した際のヒートシンクの最大曲率Cmax(1/m)と、絶縁樹脂層のピール強度P(N/cm)との比P/Cmaxが60を超える本発明例1-18においては、加熱試験後に破断が認められなかった。また、樹脂の材質を変更した場合であっても、最大曲率(反り量)を適切化してP/Cmaxを60超えとすることで、加熱試験後の破断の発生を抑制することができた。
【0047】
以上のことから、本発明例によれば、温度変化によって反りが生じた場合であっても、回路層と絶縁樹脂層との剥離、あるいは、絶縁樹脂層の内部剥離の発生を抑制でき、信頼性に優れたヒートシンク一体型絶縁回路基板を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0048】
10 ヒートシンク一体型絶縁回路基板
12 絶縁樹脂層
13 回路層
20 ヒートシンク
21 天板部
22 放熱フィン
図1
図2
図3
図4
図5