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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20231011BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231011BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D137:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020048105
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021146858
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】多田 健太
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-175413(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235609(WO,A1)
【文献】特開2017-65587(JP,A)
【文献】特開2014-101086(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017212780(DE,A1)
【文献】特開2017-144779(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0025911(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドライバが操作するステアリングホイールを含む操舵装置にアシストトルクを付与するためのモータを備えるパワーステアリング装置であって、
前記モータの作動を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、所定条件が成立したときには、前記ステアリングホイールを振動させるための振動トルクを設定して、前記アシストトルクと前記振動トルクとの合算値を目標トルクとして、該目標トルクが生成されるように前記モータを制御し、
さらに前記制御部は、前記所定条件を満たさずかつ前記目標トルクが所定の第1制限トルク以上であるときには、前記目標トルクの最大値を前記第1制限トルクに制限する一方、前記所定条件を満たすときには、前記目標トルクの最大値に対する制限を変更することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーステアリング装置であって、
前記制御部は、前記所定条件を満たすときには、前記目標トルクの制限値を、前記第1制限トルクと、前記第1制限トルクとは異なる第2制限トルクとに周期的に変更することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記第2制限トルクは、前記第1制限トルクよりも低いことを特徴とするパワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、パワーステアリング装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のドライバによるステアリングの操作をアシストするモータを有するパワーステアリング装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両の規定方向に対する逸脱量が、予め定められた基準逸脱量よりも大きい場合には、逸脱方向とは反対方向にステアリングホイールが振動するようにモータの駆動を制御するパワーステアリング装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、ステアリングホイールの操舵トルクに基づいてモータに供給する仮の目標電流を設定するとともに、ステアリングホイールを振動させるためにモータに供給する付加電流を設定して、仮の目標電流と付加電流とを加算した電流値を最終的な目標電流にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-101086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献1に記載のパワーステアリング装置では、車両が走行車線を逸脱しそうなときに、ステアリングホイールが振動するため、ドライバに走行車線を維持するように喚起しやすくなる。
【0007】
ところで、パワーステアリング装置では、モータが生成するトルクが過剰に大きい場合、モータの故障の原因となることがある。これを抑制するために、モータが生成するトルクに制限値を設けて、該制限値よりも大きいトルクが生成されないように、モータを制御することが行われている。
【0008】
特許文献1に記載のパワーステアリング装置のように、ドライバの操舵をアシストするアシストトルクに単純に振動トルクを上乗せすると、アシストトルクが制限値を超えるようなときには、振動トルクが生成されなくなって、ステアリングホイールの振動が生じなくなってしまう。特に、緊急時の操舵では、車両が走行車線を逸脱する可能性が高いため、ステアリングホイールを振動させる必要性が高いにもかかわらず、モータが生成するトルクが大きくなって制限値に到達しやすいため、ステアリングホイールの振動が発生しないという事象が生じてしまう。
【0009】
ここに開示された技術は、モータが生成するトルクに制限が設けられたパワーステアリング装置において、ステアリングホイールに適切に振動を発生させる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、ドライバが操作するステアリングホイールを含む操舵装置にアシストトルクを付与するためのモータを備えるパワーステアリング装置を対象として、前記モータの作動を制御する制御部を更に備え、前記制御部は、所定条件が成立したときには、前記ステアリングホイールを振動させるための振動トルクを設定して、前記アシストトルクと前記振動トルクとの合算値を目標トルクとして、該目標トルクが生成されるように前記モータを制御し、さらに前記制御部は、前記所定条件を満たさずかつ前記目標トルクが所定の第1制限トルク以上であるときには、前記目標トルクの最大値を前記第1制限トルクに制限する一方、前記所定条件を満たすときには、前記目標トルクの最大値に対する制限を変更する、という構成とした。
【0011】
この構成によると、第1制限トルクが設けられているが、ステアリングホイールを振動させる必要があるときには、目標トルクに対する制限が変更される。これにより、例えば、振動トルクを発生させるときには、目標トルクの制限値(つまり、目標トルクが取り得る最大値)を一時的に第1制限トルクよりも大きい値にして、目標トルクが第1制限トルクに制限されないようにすることで、ステアリングホイールの振動を発生させることができる。したがって、ステアリングホイールに適切に振動を発生させることができる。
【0012】
前記パワーステアリング装置の一実施形態では、前記制御部は、前記所定条件を満たすときには、前記目標トルクの制限値を、前記第1制限トルクと、前記第1制限トルクとは異なる第2制限トルクとに周期的に変更する。
【0013】
すなわち、目標トルクの最大値が、第1制限トルクと第2制限トルクとに周期的に(一定の周波数で)変更されれば、モータが発生させるトルクが増減されるため、擬似的にステアリングホイールを振動させることができる。よって、ステアリングホイールの振動をより適切に発生させることができる。
【0014】
前記一実施形態において、前記第2制限トルクは、前記第1制限トルクよりも低い、という構成でもよい。
【0015】
この構成によると、目標トルクが、第1制限トルクと第2制限トルクと一定の周期で交互に変更される。これにより、モータが発生させるトルクが増減されるため、擬似的にステアリングホイールを振動させることができる。よって、ステアリングホイールの振動をより適切に発生させることができる。
【0016】
また、結果的に、目標トルクが第1制限トルクを超えないため、モータの故障を効果的に抑制することもできる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、モータが生成するトルクに制限が設けられたパワーステアリング装置において、ステアリングホイールに適切に振動を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】例示的な実施形態1に係るパワーステアリング装置を示す概略図である。
図2】ステアリングECUの構成を示すブロック図である。
図3】強制振動を発生させるシーンの一例を示す概略図である。
図4】強制振動の発生方法を示す模式図である。
図5】目標トルクを示すグラフであって、従来のパワーステアリング装置の場合を示す。
図6】目標トルクを示すグラフであって、実施形態1に係るパワーステアリング装置の場合を示す。
図7】ステアリングECUの処理動作を示すフローチャートである。
図8】目標トルクを示すグラフであって、実施形態2に係るパワーステアリング装置の場合を示す。
図9】実施形態2に係るパワーステアリング装置において、強制振動を発生させる際のステアリングECUの処理動作を示すフローチャートである。
図10】強制振動を発生させるシーンの別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
(実施形態1)
図1に示すように、実施形態1に係るパワーステアリング装置100は、四輪自動車などの車両C(図3参照)に搭載されるステアリング装置である。パワーステアリング装置100は、操舵装置101を備える。操舵装置101は、ステアリングホイール1と、ステアリングシャフト2と、ユニバーサルジョイント4a,4bを有する中間シャフト4と、ピニオンラック機構5と、前輪7と連結されるタイロッド6とを有する。パワーステアリング装置100は、操舵装置101にアシストトルクを付与するためのアシストモータ20(以下、単にモータ20という)を備える。モータ20は、減速ギヤ3を介してステアリングシャフト2と結合されている。ステアリングシャフト2には操舵トルクセンサ10が設けられている。操舵トルクセンサ10は、パワーステアリング装置100を操作するユーザ(主に車両Cのドライバ)が操舵したときのトルクを検出する。
【0021】
モータ20は、ステアリングECU30(Electrical Control Unit、以下、単にECU30という)により制御される。ECU30は、プロセッサと、複数のモジュールを有するメモリ等から構成されるコンピュータハードウェアである。ECU30は、制御部に相当する。
【0022】
図2に示すように、ECU30は、複数のセンサからの入力された情報に基づいて、モータ20への制御信号を生成する。複数のセンサは、ドライバの操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ10と、車両Cの車速を検出する車速センサ11と、前記車両のボディ等に設けられかつ車外環境を撮影する複数のカメラ12と、車両Cのボディ等に設けられかつ車外の物標等を検知する複数のレーダ13とを含む。
【0023】
各カメラ12は、車両Cの周囲を水平方向に360°撮影できるようにそれぞれ配置されている。ECU30は、各カメラ12で撮影された画像から、車両Cが走行している道路の白線や車両Cの周囲に存在する障害物を認定する。
【0024】
各レーダ13は、カメラ12と同様に、検出範囲が車両Cの周囲を水平方向に360°広がるようにそれぞれ配置されている。ECU30は、レーダ13の検出結果から白線や障害物との相対位置や相対速度を認定する。レーダ13の種類は特に限定されず、例えば、ミリ波レーダや赤外線レーダを採用することができる。
【0025】
尚、レーダ13は必ずしも備えられている必要はなく、ECU30が、カメラ12の撮影画像から白線や障害物との相対位置等を算出してもよい。
【0026】
ECU30は、モータ20が出力すべきアシストトルクを設定するアシストトルク設定部31を有する。アシストトルク設定部31は、操舵トルクセンサ10により検出された操舵トルクと、車速センサ11により検出された車速とに基づいて、アシストトルクを設定する。図示は省略するが、アシストトルク設定部31は、アシストトルクを設定するためのマップを有しており、検出された操舵トルク及び検出された車速を該マップに当てはめて、設定すべきアシストトルクを求める。前記マップは、操舵トルクが大きいほど、また車速が低いほど、大きなアシストトルクが設定されるようなマップである。アシストトルク設定部31は、メモリに搭載されるモジュールの一部である。
【0027】
本実施形態1では、ECU30は、所定条件が成立したときに、ステアリングホイール1を強制的に振動させる。具体的には、ECU30は、車両Cが走行車線を逸脱するおそれがあるときに、ステアリングホイール1を強制的に振動させる。ECU30は、ステアリングホイール1を強制的に振動させる必要があるか否か、すなわち、車両Cが走行車線を逸脱するおそれがあるか否かを判定する強制振動判定部32を有する。強制振動判定部32は、メモリに搭載されるモジュールの一部である。
【0028】
強制振動判定部32は、カメラ12及びレーダ13の検出結果から車両Cが走行車線を逸脱するおそれがあるか否かを判定する。図3は、強制振動を発生させるシーンの一例を示す。図3に示す道路50は、片側1車線道路であって、車道に中央に実線のセンターライン51が引かれている。車道の幅方向の両側には、車道と路側帯とを分ける車道外側線52が引かれている。これらの道路状況は、カメラ12及びレーダ13により取得される。図3に示すように、車両Cがセンターライン51に接近したとする。このとき、強制振動判定部32は、カメラ12及びレーダ13の検出結果から、車両Cとセンターライン51との間の距離を算出する。そして、強制振動判定部32は、この距離が所定距離未満であるときに、車両Cが走行車線を逸脱するおそれがあるとして、ステアリングホイール1の強制振動を実行すべきと判定する。所定距離は、例えば50cmである。尚、図3では、車両Cがセンターライン51に接近する場合を示すが、強制振動判定部32は、車両Cが車道外側線52に接近する場合でも車両Cが走行車線を逸脱するおそれがあると判定する。尚、強制振動判定部32は、ウィンカースイッチ(図示省略)がオン状態であり、車両Cが車線変更を行うために白線を逸脱するときには、所定条件を満たさないと判定する。
【0029】
ECU30は、強制振動判定部32によりステアリングホイール1の強制振動を実行すべきと判定されたときに、該強制振動を発生させるための振動トルクを設定する振動トルク設定部33を有する。本実施形態1では、モータ20を用いてステアリングホイール1に強制振動を発生させる。すなわち、図4に示すように、振動トルク設定部33は、一定の周期のパルス波状のトルク(以下、振動トルクという)を設定して、該振動トルクをモータ20に生成させる。この振動トルクは、減速ギヤ3及びステアリングシャフト2を介してステアリングホイール1に伝達される。これにより、ステアリングホイール1が周方向に小刻みに動いて、ドライバに振動として伝達される。走行車線の逸脱に対する注意喚起としての強制振動のときには、振動トルクは操舵トルク(すなわち、アシストトルク)とは反対向きのトルクに設定される。また、振動トルクの振幅は、車両Cが曲がらない程度、すなわち、操舵輪(ここでは前輪7)が回転しない程度の振幅に設定される。これにより、振動トルクによるアシストトルクの増加が抑制されて、車両Cが走行車線を逸脱する可能性を低くすることができる。振動トルク設定部33は、メモリに搭載されるモジュールの一部である。
【0030】
ECU30は、アシストトルク設定部31で設定されたアシストトルクと、振動トルク設定部33で設定された振動トルクとの合算値を算出して、最終的な目標トルクを算出する目標トルク設定部34を有する。目標トルク設定部34は、目標トルクを算出して、該目標トルクを達成するためにモータ20に供給すべき目標電流を設定する。そして、該目標電流でもってモータ20が作動させるように、該モータ20に対して制御信号を出力する。目標トルク設定部34は、メモリに搭載されるモジュールの一部である。
【0031】
ここで、モータ20が生成するトルクが過剰に大きい場合、モータ20に過大な負荷がかかるため、モータ20の故障するおそれがある。このため、例えば、モータ20が故障するおそれの低い所定の第1制限トルクTr1を設定して、目標トルクが該第1制限トルクTr1以上であるときには、該目標トルクを第1制限トルクTr1に制限することが考えられる。これにより、モータ20が生成するトルクが過剰に大きくなることが抑制される。
【0032】
しかしながら、目標トルクの制限値(つまり、目標トルクが取り得る最大値)を第1制限トルクTr1に固定してしまうと、ステアリングホイール1の強制振動が必要なときに、該強制振動を発生させることができなくなるおそれがある。このことについて、図5を参照しながら説明する。
【0033】
図5は目標トルクの変化を示す。図5は、左側に曲がるときに、所定条件が満たされた場合の目標トルクの変化である。図5に示すように、所定条件が満たされると、アシストトルクに振動トルクが上乗せされる。そして、時間t11において、目標トルクが第1制限トルクTr1に到達したとする。仮に、目標トルクの制限値が第1制限トルクTr1に固定されている場合、図5に示すように、目標トルクが第1制限トルクTr1以上になる範囲(時間t11から時間t12の範囲)では、振動トルクが反映されなくなる。このため、目標トルクが第1制限トルクTr1以上になる範囲では、ステアリングホイール1が振動せず、ドライバに走行車線の逸脱を報知できなくなる。
【0034】
そこで、本実施形態1では、目標トルク設定部34は、所定条件を満たさずかつ目標トルクが所定の第1制限トルクTr1以上であるときには、該目標トルクの最大値を第1制限トルクTr1に制限する一方で、所定条件が満たされたときには、目標トルクに対する制限を変更することにした。具体的には、目標トルク設定部34は、目標トルクが取り得る最大値を第1制限トルクTr1から、該第1制限トルクTr1よりも低い第2制限トルクTr2に周期的に変更することにした。すなわち、図6に示すように、時間t21において目標トルクが第1制限トルクTr1以上になったときには、目標トルクの制限値を一定の周期で第2制限トルクTr2に変更する。詳しくは、目標トルクの制限値を、第1制限トルクTr1と第2制限トルクTr2とに一定の周期の周期で交互に変更する。これにより、目標トルクが第1制限トルクTr1以上になる範囲(図6では時間t21から時間t22の間)でも、目標トルクに増減が生じるため、ステアリングホイール1を擬似的に振動させることができる。時間t22において、目標トルクが第1制限トルクTr1未満になったときには、アシストトルクと振動トルクとを合算した値が目標トルクとされる。この目標トルクの制限値を第2制限トルクTr2にする周期は、該制限値を第2制限トルクTr2にすることで生じる振動の周波数が、振動トルクの周波数になるように設定することが好ましい。また、第2制限トルクTr2の値は、第1制限トルクTr1から振動トルクの振幅に相当する値を引いた値程度にすることが好ましい。
【0035】
次に、図7を参照しながら、本実施形態1に係るECU30の処理動作について説明する。
【0036】
ステップS101において、ECU30は各センサ10~13から各種データを取得する。
【0037】
次にECU30は、ステップS102とステップS103及びS104とを並列して処理する。
【0038】
前記ステップS102では、ECU30はアシストトルクを設定する。ECU30は、操舵トルクセンサ10により検出される操舵トルクと、車速センサ11により検出される車速と基づいてアシストトルクを設定する。
【0039】
一方、前記ステップS103では、ECU30は車線逸脱の可能性があるか否かを判定する。ECU30は、カメラ12及びレーダ13の検出値に基づいて判定する。ECU30は、車線逸脱の可能性があるYESのときにはステップS104に進む一方で、車線逸脱の可能性がないNOのときにはステップS106に進む。
【0040】
前記ステップS104では、ECU30は振動トルクを設定する。ECU30は、操舵トルクと反対向きのトルクが発生するように振動トルクを設定する。
【0041】
前記ステップS105では、ECU30は、第2制限トルクTr2の値及び目標トルクの制限値を第2制限トルクTr2にする周期を設定する。
【0042】
次のステップS106では、ECU30は、アシストトルクと振動トルクを合算するとともに、当該合算値を第1制限トルクと比較して、最終的な目標トルクを算出する。
【0043】
そしてステップS107では、ECU30は、前記ステップS106で算出した目標トルクが生成されるようにモータ20に制御信号を出力する。
【0044】
尚、図7のフローチャートでは、前記所定条件が成立していれば、目標トルクが第1制限トルク以上にならないときであっても、目標トルクに対する制限を実行している。しかし、目標トルクに対する制限は、前記所定条件が成立しかつ目標トルクが第1制限トルク以上になるときのみ実行するようにしてもよい。
【0045】
したがって、本実施形態1では、モータ20の作動を制御するECU30を備え、ECU30は、所定条件が成立したときには、ステアリングホイール1を振動させるための振動トルクを設定して、アシストトルクと振動トルクとの合算値を目標トルクとして、該目標トルクが生成されるようにモータ20を制御し、さらにECU30は、前記所定条件を満たさずかつ目標トルクが所定の第1制限トルクTr1以上であるときには、目標トルクの最大値を第1制限トルクTr1に制限する一方、前記所定条件を満たすときには、目標トルクに対する制限を変更する。このように、第1制限トルクTr1が設けられているが、ステアリングホイール1を振動させる必要があるときには、目標トルクに対する制限が変更される。これにより、目標トルクが第1制限トルクTr1に制限されないようにすることで、ステアリングホイール1の振動を発生させることができる。
【0046】
特に、本実施形態1では、ECU30は、前記所定条件を満たすときには、目標トルクの制限値を、第1制限トルクTr1と、該第1制限トルクTr1よりも低い第2制限トルクTr2とに周期的に変更する。これにより、目標トルクの制限値が、第1制限トルクTr1と第2制限トルクTr2とに一定の周期で交互に変更される。目標トルクが第1制限トルクTr1以上になる範囲でも、目標トルクに増減が生じるため、ステアリングホイール1を擬似的に振動させることができる。また、目標トルクが第1制限トルクTr1を超えることがないため、モータ20の故障を効果的に抑制することもできる。
【0047】
(実施形態2)
以下、実施形態2について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0048】
本実施形態2は、パワーステアリング装置100の操舵装置101の構成は、前記実施形態1と同じである。本実施形態2は、前記所定条件が満たされたときのECU30の制御が前記実施形態1とは異なる。具体的には、本実施形態2において、ECU30の目標トルク設定部34は、前記所定条件、すなわち、車両Cが走行車線を逸脱するおそれがあるという条件が満たされたときには、目標トルクの制限値を第1制限トルクTr1よりも大きな第3制限トルクTr3に変更する。
【0049】
図8は、所定条件が満たされて、目標トルクの制限値を第3制限トルクTr3に変更した場合の目標トルクの変化を示す。図8に示すように、時間t31において、目標トルクが第1制限トルクTr1に到達したとする。目標トルクの制限値は第3制限トルクTr3に変更されているため、目標トルクは第1制限トルクTr1に制限されることなく、アシストトルクと振動トルクとを合算したトルクがそのまま目標トルクとされる。これにより、目標トルクが第1制限トルクTr1を超える範囲(図8では時間t31から時間t32の範囲)であっても、振動トルクが反映されて、ステアリングホイール1を振動させることができる。
【0050】
第3制限トルクTr3の値は、アシストトルクと振動トルクとの合算値に基づいて設定される。具体的には、目標トルク設定部234は、第3制限トルクTr3を、アシストトルクと振動トルクとの合算値よりも僅かに大きい値に設定する。これにより、目標トルクが第3制限トルクTr3に到達しなくなるため、振動トルク設定部33により設定される振動トルクでもってステアリングホイール1を振動させることができる。
【0051】
図9は、本実施形態2に係るECU30の処理動作を示す。
【0052】
ステップS201において、ECU30は各センサ10~13から各種データを取得する。
【0053】
次にECU30は、ステップS202とステップS203及びS204とを並列して処理する。
【0054】
前記ステップS202では、ECU30はアシストトルクを設定する。
【0055】
一方、前記ステップS203では、ECU30は車線逸脱の可能性があるか否かを判定する。ECU230は、車線逸脱の可能性があるYESのときにはステップS204に進む一方で、車線逸脱の可能性がないNOのときにはステップS207に進む。
【0056】
前記ステップS204では、ECU30は振動トルクを設定する。ECU230は、操舵トルクと反対向きのトルクが発生するように振動トルクを設定する。
【0057】
前記ステップS205では、ECU30は、第3制限トルクTr3の値を設定する。ECU30は、アシストトルクと振動トルクとの合算値よりも僅かに大きい値を第3制限トルクTr3に設定する。
【0058】
次のステップS206では、ECU30は、目標トルクの制限値を第3制限トルクTr3に設定する。
【0059】
続くステップS207では、ECU30は、アシストトルクと振動トルクを合算して、最終的な目標トルクを設定する。
【0060】
そしてステップS208では、ECU30は、前記ステップS207で算出した目標トルクが生成されるようにモータ20に制御信号を出力する。
【0061】
この実施形態2でも、目標トルクが第1制限トルクTr1に制限されないようになるため、ステアリングホイール1の強制振動が必要なときに、適切にステアリングホイール1を強制振動させることができる。
【0062】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0063】
例えば、前記実施形態1及び2において、所定条件は、車両Cが走行車線を逸脱するおそれがあるという条件であった。これに代えて又はこれに加えて、車両Cが障害物に衝突するおそれがあるという条件を所定条件に設定してもよい。例えば、図10に示すように、他車両OCが路肩に停車していて、自車両Cが黒矢印で示すように他車両OCを避けたとする。このとき、カメラ12及びレーダ13の検出結果から自車両Cと他車両OCとの間の距離が、予め設定された設定距離(例えば1m)未満のときには、ステアリングホイール1に強制振動を発生させるようにしてもよい。尚、障害物への接近に対する注意喚起としての強制振動のときには、振動トルクは、障害物がある方向とは反対向きにステアリングホイール1が回転するようなトルクに設定される。つまり、障害物が左側にあり、渉外物を避けるために車両Cが右に旋回しているときには、アシストトルクと同じ向きの振動トルクが生成されるようになる。
【0064】
また、前記実施形態1及び2において、ECU30は、所定条件が成立したときには、目標トルクの制限値を変更するようにしていた。これに限らず、ECU30は、所定条件が成立したときには、目標トルクの制限値をなくすように構成されていてもよい。また、例えば、実施形態2のように第3制限トルクTr3を設定する場合に、第3制限トルクTr3を無限大に設定するようにして、目標トルクの制限値を実質的になくすようにしてもよい。
【0065】
また、前記実施形態1において、第2制限トルクTr2は、第1制限トルクTr1よりも小さい値に設定されていた。これに限らず、第2制限トルクTr2は、第1制限トルクTr1よりも大きい値であってもよい。
【0066】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
ここに開示された技術は、ドライバが操作するステアリングホイールを含む操舵装置にアシストトルクを付与するためのモータを備えるパワーステアリング装置において、モータが生成するトルクに制限が設けられている場合に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 ステアリングホイール
20 アシストモータ
30 ステアリングECU(制御部)
100 パワーステアリング装置
101 操舵装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10