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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/183 20060101AFI20231011BHJP
   B62D 1/19 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B62D1/183
B62D1/19
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020066929
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2020179841
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019084476
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】野沢 康行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
(72)【発明者】
【氏名】越智 教博
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良一
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016202465(DE,A1)
【文献】特開2013-82347(JP,A)
【文献】特開2002-193111(JP,A)
【文献】特開2016-168972(JP,A)
【文献】特開2004-345561(JP,A)
【文献】特開2018-165108(JP,A)
【文献】特開2017-226257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵を行うためのステアリング装置であって、
後端部に操作部材が接続された軸部材とともに前記軸部材の軸方向に移動し、かつ、前記軸部材を回転可能に支持する可動部材と、
前記可動部材を前記軸方向に移動可能に保持する保持部材と、
前記可動部材に接続された衝撃吸収部材であって、前記軸部材および前記可動部材の少なくとも一方の前端部が、移動用空間を前記軸方向かつ前方に移動することで衝撃を吸収する衝撃吸収部材と、
前記車両の車体における前記可動部材の前記軸方向の位置を変更するように前記可動部材を前記軸方向に沿って移動させる移動駆動部と、
前記移動駆動部を制御することで、前記前端部が、前記移動用空間よりも後方に位置する範囲で、前記可動部材を前記軸方向に沿って移動させる第一制御と、前記前端部が前記移動用空間内に位置する範囲で前記可動部材を前記軸方向に沿って移動させる第二制御と、を行う制御部と、
を備えるステアリング装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記衝撃吸収部材による衝撃吸収が不要であると判断される場合、前記第二制御の開始を許可する、
請求項1記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記操作部材の位置が所定の位置を越えた場合、前記衝撃吸収部材による衝撃吸収が不要であると判断する、
請求項2記載のステアリング装置。
【請求項4】
さらに、前記軸部材とともに前記軸方向に移動する、エアバッグを展開可能に収容するエアバッグ収容部を備え、
前記所定の位置は、前記エアバッグが所期の機能を発揮できない状態となる位置である、
請求項3記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記車両の走行状態が所定の条件を満たしている場合、前記衝撃吸収部材による衝撃吸収が不要であると判断する、
請求項2記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記車両の走行状態に応じて、所定の記憶領域に記憶されている前記移動用空間の前記軸方向の長さを変更し、変更後の前記軸方向の長さを用いて前記第一制御及び前記第二制御を行う、
請求項1~5のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記車両の走行状態に応じて、前記移動駆動部を制御することで、前記移動用空間の前記軸方向の長さを変更する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記保持部材は、前記車体に固定されたベース部材と、前記ベース部材に前記軸方向に移動可能に保持され、かつ、前記可動部材を前記軸方向に移動可能に保持する中間部材とを有し、
前記移動駆動部は、前記中間部材を前記ベース部材に対して移動させる第一駆動部と、前記可動部材を前記中間部材に対して移動させる第二駆動部とを有し、
前記制御部は、
前記第一制御において、前記第一駆動部を制御することで、前記前端部が前記移動用空間よりも後方に位置する状態で前記軸部材を保持する前記中間部材を、前記ベース部材に対して移動させ、
前記第二制御において、前記第二駆動部を制御することで、前記前端部が前記移動用空間内に位置する範囲で前記可動部材を前方に移動させる、
請求項1~7のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記衝撃吸収部材が前記衝撃の吸収を開始した後において、前記軸部材及び前記可動部材の少なくとも一方に当接することで、前記可動部材の前記保持部材からの脱落を抑制するストッパを備える、
請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項10】
前記ストッパは、前記軸部材及び前記可動部材の前方への移動を規制する前ストッパ、及び、前記軸部材及び前記可動部材の後方への移動を規制する後ストッパの少なくとも一方を有する、
請求項9記載のステアリング装置。
【請求項11】
前記前ストッパ及び前記後ろストッパの前記少なくとも一方は、前記軸部材及び前記可動部材の少なくとも一方に当接する位置に配置された緩衝部材を有する、
請求項10記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイール等の操作部材を移動させることで運転者の前方空間を広げることのできるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステアリング操作部が移動可能に配置された車両用ステアリング装置が開示されている。この車両用ステアリング装置では、車両前後方向で円弧状に湾曲したスライドレールに沿ってステアリング操作部を移動させる。これにより、ステアリング操作部が前方へ移動して、運転席との間隔が広がるだけでなく、ステアリング操作部の位置が下がるようになる。特許文献1では、上記構成により、ステアリング操作部が乗り降りする乗員に対して圧迫感を与えることはないし、ステアリング操作部により計器パネルが隠されることもない旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-118591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の自動運転においてシステムが全責任をもつ自動運転レベル3以上の状態では、運転者は、車両の操作に責任を持つ必要がないため、ステアリングホイール等の操作部材を持つ必要がなくなる。従って、特許文献1におけるステアリング装置のように、自動運転時に操作部材が移動し運転者の前方の空間が広く確保されれば運転者の快適性を高めることが出来る。
【0005】
一方で、ステアリング装置には、車両と他の物体との衝突によって生じる運転者の操作部材への衝突(二次衝突)の衝撃を吸収するための衝撃吸収機能が求められる。従って、操作部材が運転席の前方の所定の領域に格納されるステアリング装置では、操作部材が格納されている動作中においても、できるだけ衝撃吸収機能を失わないことが望ましい。しかし、操作部材の前方への移動は、操作部材の、衝撃吸収のための移動代の減少を招くことになるため、衝撃吸収機能と、操作部材の格納機能との両立は容易ではない。
【0006】
本発明は、本願発明者らが上記課題に新たに着目することによってなされたものであり、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、衝突安全性を向上させることができるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るステアリング装置は、車両の操舵を行うためのステアリング装置であって、後端部に操作部材が接続された軸部材とともに前記軸部材の軸方向に移動し、かつ、前記軸部材を回転可能に支持する可動部材と、前記可動部材を前記軸方向に移動可能に保持する保持部材と、前記可動部材に接続された衝撃吸収部材であって、前記軸部材および前記可動部材の少なくとも一方の前端部が、移動用空間を前記軸方向かつ前方に移動することで衝撃を吸収する衝撃吸収部材と、前記車両の車体における前記可動部材の前記軸方向の位置を変更するように前記可動部材を前記軸方向に沿って移動させる移動駆動部と、前記移動駆動部を制御することで、前記前端部が、前記移動用空間よりも後方に位置する範囲で、前記可動部材を前記軸方向に沿って移動させる第一制御と、前記前端部が前記移動用空間内に位置する範囲で前記可動部材を前記軸方向に沿って移動させる第二制御と、を行う制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、衝突安全性を向上させることができるステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係るステアリング装置の外観を示す斜視図である。
図2】実施の形態に係るステアリング装置の構造を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係るステアリング装置の機能構成を示すブロック図である。
図4】実施の形態に係るステアリング装置における操作部材の格納動作を表す第1の図である。
図5】実施の形態に係るステアリング装置における操作部材の格納動作を表す第2の図である。
図6A】実施の形態に係るステアリング装置の操作部材の格納時における基本的な動作の流れを示すフロー図である。
図6B】実施の形態に係るステアリング装置の操作部材の格納動作の流れの具体例を示すフロー図である。
図7】実施の形態に係る制御部が行うEA機能の要否判断の第1の例を示すフロー図である。
図8A図7に対応する操作部材の格納動作を説明するための第1の図である。
図8B図7に対応する操作部材の格納動作を説明するための第2の図である。
図9】実施の形態に係る制御部が行うEA吸収機能の要否判断の第2の例を示すフロー図である。
図10A】実施の形態に係る制御部が行うEA用空間の変更制御を説明するための第1の図である。
図10B】実施の形態に係る制御部が行うEA用空間の変更制御を説明するための第2の図である。
図11】実施の形態の変形例1に係るステアリング装置の構造を模式的に示す図である。
図12】実施の形態の変形例2に係るステアリング装置の構造を模式的に示す図である。
図13】実施の形態の変形例3に係るステアリング装置の構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るステアリング装置の実施の形態及びその変形例について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態及び変形例は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態及び変形例で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ及びステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態及び変形例における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、及び比率とは異なる場合がある。さらに、以下の実施の形態において、平行及び直交などの、相対的な方向または姿勢を示す表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密には、その方向または姿勢ではない場合も含む。例えば、2つの方向が平行である、とは、当該2つの方向が完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行であること、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。
【0012】
(実施の形態)
まず、図1図3を用いて、実施の形態に係るステアリング装置100の構成及び動作の概要について説明する。
【0013】
図1は、実施の形態に係るステアリング装置100の外観を示す斜視図である。図2は、実施の形態に係るステアリング装置100の構造を模式的に示す図である。図3は、実施の形態に係るステアリング装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0014】
本実施の形態に係るステアリング装置100は、例えば手動運転と自動運転とを切り替えることができる自動車、バス、トラック、建機、または農機などの車両に搭載される装置である。
【0015】
ステアリング装置100は、図1及び図2に示すように、後端部に操作部材110が接続された軸部材118と、軸部材118とともに軸方向に移動し、かつ、軸部材118を回転可能に支持する可動部材140と、可動部材140を軸方向に移動可能に保持する保持部材160とを備える。なお、図1において、軸部材118の軸方向(ステアリング軸Aaに平行な方向)はX軸方向と一致し、ステアリング装置100における前方は、ステアリング装置100が搭載された車両における前方でありX軸マイナス方向である。ステアリング装置100における後方は前方とは反対側の方向でありX軸プラス方向である。また、図1において、軸部材118の回転軸であるステアリング軸Aaは一点鎖線で表されている。また、以下で、単に「軸方向」という場合、軸部材118の軸方向(つまり、ステアリング軸Aaに平行な方向)を意味する。さらに、本実施の形態では、軸方向と前後方向とは一致する。
【0016】
操作部材110は、例えばステアリングホイールと呼ばれる環状の部材であり、本実施の形態では、支持部材115を介して操作支持部130に接続されている。操作支持部130は、運転者の操作による操作部材110の回転に伴って回転する部材であり、操作部材110と軸部材118との間に介在する部材である。つまり、軸部材118は、操作支持部130を介して操作部材110と接続されており、操作部材110のステアリング軸Aa周りの回転は、操作支持部130を介して軸部材118に伝達される。なお、操作部材110は、直接的に軸部材118に固定されていてもよい。
【0017】
操作部材110は、運転者の操作によりステアリング軸Aaを中心に回転し、その回転量等に基づいて、車両の1以上のタイヤが転舵される。具体的には、ステアリング装置100は、いわゆるステアバイワイヤと言われるシステムに組み込まれる装置であり、操作部材110とタイヤとは機械的には接続されていない。ステアリング装置100から出力される、操作部材110の操舵角等を示す情報に基づいて、転舵用モータが1以上のタイヤを駆動する。なお、ステアリング装置100は、運転者の力に反するトルクを操作部材110に付与する反力装置も備えているが、その図示及び説明は省略する。
【0018】
また、本実施の形態では、操作支持部130の運転者側(X軸プラス側)にエアバッグ収容部120が固定されており、操作部材110を運転者側から見た場合、操作部材110の中央部分にエアバッグ収容部120が位置する。エアバッグ収容部120にはエアバッグ200が展開可能に収容されており、エアバッグ200は、例えば車両の衝突時にエアバッグ収容部120を押し破って展開する。
【0019】
本実施の形態において、可動部材140は、軸部材118を回転可能に支持する箱体に、保持部材160に対してスライドするスライド部材が取り付けられた部材である。箱体には例えば、ウインカーを差動させるスイッチ等が収容されている。可動部材140が保持部材160に対してスライドすることで、軸部材118は保持部材160に対して軸方向に移動する。なお、可動部材140は、軸部材118とともに軸方向に移動し、かつ軸部材118を回転可能に支持する機能を有すればよく、スイッチ等の機器を内蔵することは必須ではない。
【0020】
本実施の形態において、保持部材160は、車体450(図2参照)に固定されるベース部材169と、ベース部材169に軸方向に移動可能に保持され、かつ、可動部材140を軸方向に移動可能に保持する中間部材165とを有する。具体的には、中間部材165は、ベース部材169に対してスライドし、可動部材140は中間部材165に対してスライドする。この3部材(ベース部材169、中間部材165、及び可動部材140)のスライド構造により、可動部材140に接続されたステアリング機構部101の、車体450における前後方向の位置を変更することができる。なお、ステアリング機構部101は、操作部材110、支持部材115、エアバッグ収容部120、及び操作支持部130を含む構造体であって、可動部材140が軸方向の移動に伴って一体として移動する構造体である。
【0021】
具体的には、本実施の形態では、中間部材165及び可動部材140のスライド、つまり、軸方向の移動は、移動駆動部170によって駆動される。本実施の形態では、移動駆動部170は、中間部材165をベース部材169に対して移動させる第一駆動部171と、可動部材140を中間部材165に対して移動させる第二駆動部172とを有している。移動駆動部170(第一駆動部171及び第二駆動部172のそれぞれ)は、スライド用モータ178の駆動力により、中間部材165及び可動部材140を移動させる。
【0022】
具体的には、ベース部材169は、ネジ軸である第一駆動軸173を支持する軸支持部169aを有する。第一駆動軸173は、移動駆動部170の一部である第一駆動部171が有するナットを貫通して配置されており、移動駆動部170は、接続部165aを介して中間部材165に固定されている。第一駆動部171は、スライド用モータ178の駆動力によりナットを回転させることで第一駆動軸173に軸方向の力を付与する。これにより、移動駆動部170がベース部材169に固定された第一駆動軸173に沿って移動する。その結果、移動駆動部170に接続された中間部材165が、ベース部材169に対して軸方向に移動(スライド)する。
【0023】
また、第二駆動部172は、移動駆動部170から後方に向けて立設された、ネジ軸である第二駆動軸174を有し、第二駆動部172はスライド用モータ178の駆動力によって第二駆動軸174を回転させる。第二駆動軸174には、ブロックナットである被駆動部材181が螺合されている。本実施の形態では、被駆動部材181は、衝撃吸収部材180及び接続部141を介して可動部材140と連結されている。この構成において、第二駆動部172は、スライド用モータ178の駆動力により第二駆動軸174を回転させ、これにより、被駆動部材181は第二駆動軸174に沿って軸方向に移動する。その結果、被駆動部材181に接続された可動部材140は、移動駆動部170に対して移動する。また、移動駆動部170は、中間部材165に固定されているため、可動部材140は、中間部材165に対して軸方向に移動(スライド)する。
【0024】
このように、本実施の形態に係るステアリング装置100では、可動部材140は、中間部材165に対して軸方向に移動することができ、かつ、中間部材165とともに、ベース部材169に対して移動することができる。この構成によれば、運転者は、自身の意図により、操作部材110の前後方向の位置を変更することができる。これにより、運転者は、操作部材110の位置を、自身の体形または好み等に応じた位置に調整することができる。また、ステアリング装置100は、運転者の意図、または、制御部190の判断結果等に応じて、操作部材110を、運転者の前方に位置する格納領域に格納することができる。これにより、運転者の前方の空間が広げられ、例えば運転者の快適性が向上する。操作部材110の格納動作については後述する。
【0025】
なお、ステアリング装置100はさらに、ステアリング機構部101の上下方向の傾きを変化させるチルト機構部を備えてもよい。チルト機構部は、例えば、可動部材140を左右方向(図1におけるY軸方向)に平行な軸周りに回動させることで、ステアリング機構部101の上下方向の傾きを変化させる。これにより、例えば、操作部材110の上下方向の位置を、運転者の意図に応じて調整することができる。チルト機構部は、中間部材165を左右方向(図1におけるY軸方向)に平行な軸周りに回動させることで、ステアリング機構部101の上下方向の傾きを変化させる構成であってもよい。
【0026】
以上説明した、移動駆動部170の動作は、ステアリング装置100が備える制御部190(図3参照)によって制御される。
【0027】
制御部190は、各種の情報を取得し、取得した情報に基づいて移動駆動部170等を制御する。例えば、制御部190は、運転者の所定の操作による所定の指示、または、各種センサによる検出結果を取得する。制御部190は、取得した所定の指示または検出結果に基づき、移動駆動部170を制御することで、操作部材110を軸方向に移動させる。このとき、制御部190は、移動駆動部170から中間部材165及び可動部材140の位置を示す情報を随時取得する。これにより、制御部190は、可動部材140に間接的に支持された操作部材110の、所定の基準に対する相対的な位置を随時認識することができる。
【0028】
なお、上記の制御を行う制御部190は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等の記憶装置、および情報の入出力のためのインタフェース等を備えたコンピュータによって実現される。制御部190は、例えば、記憶装置に格納された所定のプログラムをCPUが実行することで、上位制御部300等から送信される制御信号、及び、センサの検出結果等に応じたステアリング装置100の動作制御を行うことができる。
【0029】
ステアリング装置100が備えるエアバッグ収容部120に収容されたエアバッグ200は、車両に搭載されたエアバッグ制御部210(図3参照)の指示に応じて動作する。エアバッグ制御部210は、例えば、加速度センサ250から受け取った加速度情報に基づき、エアバッグ200を展開させるか否かを判断する。例えば、車両が何等かの物体に衝突した場合など、加速度に閾値以上の急速な変化があった場合、エアバッグ制御部210は、エアバッグ200に展開の指示を行い、エアバッグ200は、インフレータを作動させることで展開する。つまり、エアバッグ200は瞬時に膨らむ。
【0030】
上記のように、車両と他の物体との衝突が生じた場合、原則、エアバッグ200は膨らむ。しかし、操作部材110とともにエアバッグ収容部120が運転者から遠い位置まで退避した場合、エアバッグ200と運転者との距離が長いこと、または、エアバッグ200の近傍にダッシュボードが位置することなどに起因して、エアバッグ200による十分な衝撃吸収機能が期待できない状態となる。簡単にいうと、エアバッグ200が所期の機能を発揮しない状態となる。そのため、上位制御部300は、ステアリング装置100から取得する操作部材110またはエアバッグ収容部120等の位置に応じて、例えば、エアバッグ制御部210にエアバッグ200の展開を禁止する制御を行う。この場合、例えば、運転席の前方以外の位置(例えば天井)に配置された他のエアバッグ等(図示せず)により、運転者の安全確保が図られる。
【0031】
上記のように構成されたステアリング装置100は、エアバッグ200とは別の、衝突安全性の向上のための部材として衝撃吸収部材180を備えている。衝撃吸収部材180は、上述のように、中間部材165と可動部材140との間に介在し配置されており、これにより、車両と他の物体との衝突によって生じる運転者の操作部材110への衝突(二次衝突)の衝撃を吸収することができる。
【0032】
具体的には、中間部材165は、カバー部165bを有し、カバー部165bの内方に、軸部材118の前方への移動を許容する、移動用空間の一例であるEA(Energy
Absorption)用空間166が形成されている。二次衝突時には、金属製の衝撃吸収部材180が、可動部材140からの押圧力を受けて変形または破損等しながら、軸部材118が、EA用空間166内を前方に移動する。これにより、二次衝突時の衝撃エネルギーが吸収され、運転者の安全確保が図られる。なお、本実施の形態では、カバー部165bの内部空間の、軸方向における途中から前壁165c(図2参照)までの空間が、EA用空間166として規定されている。前壁165cは、二次衝突時において軸部材118の前端部118aと接触することは必須ではないが、二次衝突時における軸部材118の前方への移動を規制する規制部材として機能することもできる。また、EA用空間166の軸方向の長さは、例えば、ステアリング装置100に要求される衝撃吸収能力、及び、衝撃吸収部材180の特性等によって決定される長さである。
【0033】
また、可動部材140は、軸部材118とともに軸方向に移動する部材であるため、可動部材140の位置を基準として移動用空間が規定されてもよい。つまり、可動部材140の軸方向に移動可能な範囲であって衝撃を吸収するための移動範囲がEA用空間として規定されてもよい。すなわちこの場合、衝撃吸収部材180は、可動部材140の前端部が当該EA用空間を軸方向かつ前方に移動することで、衝撃を吸収することができる。この場合、ステアリング装置100は、軸部材118に対する前壁165cのような、可動部材140の前方への移動を規制する規制部材を備えてもよい。
【0034】
また、衝撃吸収部材180による衝撃吸収の手法に特に限定はない。衝撃吸収部材180は、単一の部材の変形もしくは破損または破壊ではなく、互いに当接する2つの部材のずれ(摩擦力)を利用して衝撃を吸収してもよい。また、例えば、被駆動部材181と、可動部材140の接続部141とを樹脂部材で接続し、二次衝突時に樹脂部材の破断を生じさせることで、二次衝突で生じる衝撃エネルギーの一部を吸収させてもよい。この場合、樹脂部材が衝撃吸収部材として機能する。また、樹脂部材と衝撃吸収部材180と併用することで、樹脂部材の破断と、金属製の衝撃吸収部材180の変形等とにより、衝撃エネルギーの吸収が2段階で行われてもよい。例えば、U字状の衝撃吸収部材180(図1参照)に、上下方向で貫通する樹脂ピンを配置した場合を想定する。この場合、二次衝突時において衝撃吸収部材180の変形が開始した後に、まず樹脂ピンが破断することで衝撃エネルギーの一部が吸収され、引き続き衝撃吸収部材180が変形することで衝撃エネルギーが更に吸収される。
【0035】
このように、ステアリング装置100において、可動部材140を介して軸部材118を保持する保持部材160は、衝突安全性の向上のためのEA用空間166を有している。本実施の形態では、このEA用空間166は、上記のように二次衝突時における軸部材118の移動用の空間として使用されるだけではなく、操作部材110を格納する場合における、軸部材118の移動用の空間としても使用される。この構造上の特徴についての基本的な事項を、図4図6Aを用いて説明する。
【0036】
図4は、実施の形態に係るステアリング装置100における操作部材110の格納動作を表す第1の図である。図5は、実施の形態に係るステアリング装置100における操作部材110の格納動作を表す第2の図である。図6Aは、実施の形態に係るステアリング装置100の操作部材110の格納時における基本的な動作の流れを示すフロー図である。
【0037】
ステアリング装置100は、操作部材110を、通常の運転のための位置よりも前方の格納領域480(図5参照)に格納する場合、まず、図4に示すように、保持部材160に設けられたEA用空間166を使用せずに、操作部材110を前方に移動させる。なお、格納領域480は、例えば、運転席前方のダッシュボード内に設けられる。
【0038】
つまり、制御部190は、軸部材118の前端部118aが、EA用空間166よりも後方に位置する状態で可動部材140を軸方向に沿って移動させる第一制御を行う(図6AのS20)。具体的には、制御部190は、第一駆動部171を制御することで、中間部材165を、ベース部材169に対して軸方向かつ前方に移動させる。これにより、操作部材110を含むステアリング機構部101は、可動部材140及び中間部材165とともに、前方へ移動する。この時、軸部材118の前方のEA用空間166は初期の範囲のまま維持されているため、仮に、操作部材110が移動している間に二次衝突が起きた場合であっても、衝撃吸収部材180による衝撃吸収機能は発揮される。
【0039】
なお、第一制御は、例えば運転者の所定の操作に基づいて操作部材110の前後方向の位置を調整する場合にも実行される。つまり、運転者が、操作部材110の前後方向の位置を調整する場合、ステアリング装置100では、EA用空間166が使用されずに、操作部材110の前後方向の位置が変更される。これにより、操作部材110の前後方向の位置の調整途中及び調整後においても、EA用空間166は消費されていないため、二次衝突時において、軸部材118の前方には、衝撃吸収に必要な移動代が存在する。これにより、可動部材140を介して軸部材118に接続された衝撃吸収部材180は、所期の衝撃吸収機能を発揮することができる。
【0040】
制御部190は、操作部材110を格納領域480に格納する場合、第一制御による可動部材140の前方への移動の開始後に、図5に示すように、EA用空間166を使用しながら可動部材140を前方に移動させる第二制御を開始する(図6AのS30)。具体的には、制御部190は、中間部材165のベース部材169に対する移動とともに、または、中間部材165のベース部材169に対する移動の完了後に、第二駆動部172を制御することで、可動部材140を中間部材165に対して軸方向かつ前方に移動させる。これにより、操作部材110が格納領域480に格納される。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態に係るステアリング装置100は、可動部材140と、可動部材140を軸方向に移動可能に保持する保持部材160と、可動部材140に接続された衝撃吸収部材180と、移動駆動部170と、制御部190とを備える。可動部材140は、後端部に操作部材110が接続された軸部材118とともに軸方向に移動し、かつ、軸部材118を回転可能に支持する。衝撃吸収部材180は、軸部材118の前端部118a及び可動部材140の前端部の少なくとも一方が、EA用空間166を軸方向かつ前方に移動することで衝撃を吸収する。移動駆動部170は、ステアリング装置100が搭載された車両の車体450における、可動部材140の軸方向の位置を変更するように可動部材140を軸方向に沿って移動させる。制御部190は、移動駆動部170を制御することで第一制御と第二制御とを行う。第一制御では、軸部材118の前端部118aが、EA用空間166よりも後方に位置する範囲で、可動部材140を軸方向に沿って移動させる。第二制御では、軸部材118の前端部118aがEA用空間166内に位置する範囲で可動部材140を軸方向に沿って移動させる。例えば、制御部190は、移動駆動部170を制御することで、軸部材118の前端部118aが、EA用空間166よりも後方に位置する状態で、可動部材140を軸方向に沿って移動させる第一制御を行う。制御部190は、操作部材110を、通常の運転のための位置よりも前方の格納領域480に格納する場合、第一制御による可動部材140の前方への移動の開始後に、軸部材118の前端部118aがEA用空間166内に位置する範囲で可動部材140を前方に移動させる第二制御を開始する。なお、可動部材140の位置を基準としてEA用空間が規定されている場合、第一制御では、可動部材140の前端部が当該EA用空間よりも後方に位置する範囲で、可動部材140が軸方向に沿って移動される。第二制御では、可動部材140の前端部が当該EA用空間内に位置する範囲で可動部材140が軸方向に沿って移動される。
【0042】
この構成によれば、制御部190は、EA用空間166を初期の範囲のままに維持した状態で操作部材110の前後方向の位置を変更する第一制御を実行することができる。そのため、例えば、運転者による指示、または、所定の記憶媒体(図示せず)に記憶された運転者ごとの設定値等に応じて、操作部材110の前後方向の位置調整を行うことができる。また、ステアリング装置100は、位置調整の途中及び位置調整の後においても、二次衝突時における衝撃吸収部材180による衝撃吸収機能を十分に発揮することができる。
【0043】
また、操作部材110を、格納領域480に格納される位置まで前方に移動させることができるため、運転者による操作部材110の操作が不要な期間において、運転者の前方の空間を広く確保することができる。また、操作部材110の格納領域480への格納の際には、EA用空間166を使用することができる。つまり、軸部材118を、EA用空間166内に進入させることができるため、操作部材110をより前方まで移動させることができる。従って、ステアリング装置100は、操作部材110を格納領域480に格納可能な構造を有し、かつ、小型化が可能である。
【0044】
さらに、本実施の形態に係る制御部190は、操作部材110を格納領域480に格納する場合、EA用空間166を使用せずに操作部材110を前方に移動させる第一制御を開始し、その開始後に、EA用空間166を使用して操作部材110を前方に移動させる第二制御を開始する。そのため、例えば、操作部材110の格納動作が実行される場合に、EA用空間166及び衝撃吸収部材180を利用した衝撃吸収が実行される期間を可能な限り長くするように格納動作を制御することができる。そのため、ステアリング装置100によれば、通常の運転時のみならず、操作部材110の格納のための動作中においても、運転者の安全性を確保することができる。
【0045】
このように、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、衝突安全性を向上させることができる。
【0046】
より具体的には、本実施の形態において、保持部材160は、車体450に固定されたベース部材169と、ベース部材169に軸方向に移動可能に保持され、かつ、可動部材140を軸方向に移動可能に保持する中間部材165とを有する。移動駆動部170は、中間部材165をベース部材169に対して移動させる第一駆動部171と、可動部材140を中間部材165に対して移動させる第二駆動部172とを有する。制御部190は、第一制御において、第一駆動部171を制御することで、前端部118aがEA用空間166よりも後方に位置する状態で軸部材118を保持する中間部材165を、ベース部材169に対して移動させる。制御部190は、第二制御において、第二駆動部172を制御することで、軸部材118の前端部118aがEA用空間166内に位置する範囲で可動部材140を前方に移動させる。
【0047】
この構成によれば、ベース部材169、中間部材165、及び可動部材140という3部材がテレスコピック式に伸縮することで、操作部材110の前後方向の位置が変更される。そのため、例えば、操作部材110の前後方向の位置の調整範囲が比較的に広くなる。また、操作部材110を格納領域480に格納可能な構造を有するステアリング装置100の、更なる小型化を図ることができる。また、例えば、第一駆動部171のみを作動させるたけで操作部材110の前後方向の位置調整が可能であり、第二駆動部172を作動させないことで、EA用空間166を初期の範囲のままに維持することができる。つまり、EA用空間166及び衝撃吸収部材180を利用した衝撃吸収機能を有するステアリング装置100における、操作部材110の前後方向の移動制御の複雑化が抑制される。
【0048】
なお、本実施の形態では、第二駆動部172は、例えば図1及び図2に示すように、被駆動部材181を介して衝撃吸収部材180と接続されており、被駆動部材181及び衝撃吸収部材180を介して、可動部材140の軸方向の移動を駆動する。つまり、衝撃吸収部材180は、通常時においては、可動部材140に、第二駆動部172による軸方向の駆動力を伝達する部材として機能する。従って、例えば、可動部材140に接続された衝撃吸収部材180を、可動部材140の移動に追随して支持する他の部材は不要である。また、本実施の形態では、第二駆動部172は、ネジ軸である第二駆動軸174を回転させることで、第二駆動軸174が貫通するブロックナットである被駆動部材181を、軸方向に移動させている。つまり、第二駆動部172は、ボールネジ機構によって、被駆動部材181の移動を駆動しているため、被駆動部材181は、衝撃吸収部材180を介して衝撃を受ける基礎として十分な固定力を発揮できる。これにより、例えば、衝撃吸収部材180は、二次衝突時において、設計通りの衝撃吸収機能を発揮することができる。
【0049】
また、制御部190は、操作部材110を格納領域480に格納する場合、第一制御によって、中間部材165を、ベース部材169に対する移動可能範囲における前方の終端(可動範囲前端)まで移動させた後に、第二制御を開始する必要はない。つまり、制御部190は、第一駆動部171を制御することで、中間部材165をベース部材169に対して移動させている期間に、第二駆動部172を駆動することで、可動部材140を中間部材165に対して移動させてもよい。つまり、操作部材110を格納領域480に格納する場合、第一駆動部171の駆動力を用いて操作部材110を前方に移動させる期間と、第二駆動部172の駆動力を用いて操作部材110を前方に移動させる期間とを重複させることで、操作部材110の格納動作を効率よく行うことができる。そこで、制御部190が、第一制御の開始後に第二制御を開始する場合の、第二制御の開始のタイミングの具体例について、図6B図9を用いて以下に説明する。
【0050】
図6Bは、実施の形態に係るステアリング装置100が行う操作部材110の格納動作の流れの具体例を示すフロー図である。図7は、実施の形態に係る制御部190が行う衝撃吸収機能の要否判断の第1の例を示すフロー図である。図8Aは、図7に対応する操作部材110の格納動作を説明するための第1の図であり、図8Bは、図7に対応する操作部材110の格納動作を説明するための第2の図である。なお、図8A及び図8Bでは、運転者の存在領域における操作部材110側の一部が、斜線を付された運転者領域500として表されている。また、図8A及び図8Bでは、ステアリング装置100の動作が明確になるように、移動駆動部170及び衝撃吸収部材180等の一部の構成要素の図示が省略されている。これら図8A及び図8Bについての補足事項は、後述する図10A及び図10Bについても適用される。
【0051】
図6Bに示すように、制御部190は、衝撃吸収機能(以下、「EA機能」とも表記する。)が必要か否かを判断する(S10)。制御部190は、EA機能が必要と判断した場合(S10でYes)、第一制御によって可動部材140を移動させる(S20)。つまり、軸部材118の前端部118aが、EA用空間166よりも後方に位置する状態で可動部材140を軸方向に沿って移動させる。具体的には、制御部190は、第一駆動部171を作動させ、中間部材165をベース部材169に対して移動させる。この移動の際に、第二駆動部172は作動しないため、EA用空間166は使用されず、これにより、EA用空間166及び衝撃吸収部材180による十分な衝撃吸収機能が発揮される。その後、制御部190は、EA機能が必要ではないと判断した場合(S10でNO)、第二制御の開始を許可する。その結果、可動部材140の移動を開始する(S30)。つまり、EA用空間166を使用しながら可動部材140は前方に移動され、その後、可動部材140の移動可能範囲における前方の端点に到達する(S40でYes)。これにより、操作部材110が格納領域480に格納される。具体的には、制御部190は、第二駆動部172により可動部材140を中間部材165に対して移動させる。このとき、中間部材165が可動範囲前端に至っていない場合は、第一駆動部171による中間部材165の移動も並行して行われる。
【0052】
ここで、EA機能が必要か否かは、EA機能が実効性を有するか否かに基づいて判断することもできる。つまり、操作部材110が運転者から遠い位置にある時点では、二次衝突時における衝撃吸収部材180による十分なEA機能は期待できず、また、エアバッグ200も運転者から遠ざかるため、エアバッグ200が有する本来的な安全確保機能が発揮されない可能性が高くなる。そのため、運転席の前方以外の位置に設けられた他のエアバッグ等の、他の安全機構に運転者の安全確保を任せた方がよいと考えられる。つまり、この場合、衝撃吸収部材180によるEA機能が不要である、と判断される。そのため、ステアリング装置100は、EA用空間166を使用しながら操作部材110を前方に移動させる第二制御を開始する。
【0053】
すなわち、ステアリング装置100の制御部190は、操作部材110の位置を随時認識しており、例えば図7に示すように、第一制御の開始後に、操作部材110が所定の位置を越えない場合(S11でNo)、EA機能を必要と判断する(S18)。制御部190は、操作部材110が所定の位置を越えた場合(S11でYes)、EA機能を不要と判断する(S19)。
【0054】
例えば図8Aに示すように、運転者領域500の前方に、所定の位置490が規定されている場合を想定する。この場合において、ステアリング装置100が操作部材110を格納領域480に格納する場合、制御部190は、第一制御により、EA用空間166を使用せずに可動部材140を前方に移動させる。これにより、操作部材110は前方への移動を開始する。その後、操作部材110の例えば少なくとも一部が、所定の位置490を超えた場合、図8Bに示すように、制御部190は、第二制御による可動部材140の前方への移動を開始する。つまり、可動部材140は、中間部材165に対して前方に移動し、軸部材118の前端部118aは、EA用空間166内を前方に移動する。また、第二制御の開始時点では、中間部材165は、可動範囲前端に至っていないため、制御部190は、中間部材165の、ベース部材169に対する前方への移動も継続させる。その後、制御部190は、中間部材165が可動範囲前端に到達した場合、第一駆動部171の作動を停止する。制御部190は、可動部材140が可動範囲前端に到達した場合、第二駆動部172の作動を停止させる。なお、中間部材165及び可動部材140それぞれの可動範囲は、例えば、それぞれが物理的に移動できる範囲内において、操作部材110を通常の運転位置から格納位置まで移動させるために必要な範囲として規定される。つまり、中間部材165及び可動部材140それぞれの可動範囲は、それぞれの物理的な移動可能範囲とは必ずしも一致しない。
【0055】
このように、制御部190は、操作部材110を格納領域480に格納する場合、操作部材110の前方への移動の開始後の所定のタイミングで、EA用空間166を使用しない状態から、EA用空間166を移動する状態に移行する。この移行のタイミングは、衝撃吸収部材180によるEA機能が不要(EA機能が有効ではない)となるタイミングである。つまり、操作部材110を格納領域480に格納する際に、できるだけ長く、衝撃吸収部材180のEA機能が使用できるように、操作部材110の移動が制御される。これにより、運転者の安全確保がより確実化される。また、上記移行のタイミング(第二制御を開始するタイミング)は、操作部材110の位置に基づくため、制御部190は、例えば、移動駆動部170から得られる情報によって容易にまたは精度よく当該タイミングを認識することができる。なお、操作部材110が所定の位置を越えるか否かの判断は、直接的に操作部材110の位置を用いる必要はない。例えば、可動部材140と操作部材110とは同期して移動するため、可動部材140が、可動部材140についての所定の位置を越えるか否かを検出することで、操作部材110が、操作部材110についての所定の位置を越えるか否かの判断が行われてもよい。
【0056】
また、例えば操作部材110についての所定の位置は、エアバッグ200の実効性の有無に基づいて決定されてもよい。つまり、本実施の形態に係るステアリング装置100は、軸部材118とともに軸方向に移動する、エアバッグ200を展開可能に収容するエアバッグ収容部120を備える。操作部材110についての所定の位置は、エアバッグ200が所期の機能を発揮できない状態となる位置である、としてもよい。
【0057】
すなわち、エアバッグ収容部120は、操作部材110とともに移動するため、エアバッグ200が運転者から遠ざかった場合、上述のように、エアバッグ200が所期の機能を発揮できない状態となる。従って、操作部材110の位置が、エアバッグ200の実効性を失うほど前方に移動した場合、衝撃吸収部材180によるEA機能も実質的には有効に機能しない。従って、制御部190は、EA機能を不要と判断し(図7のS19)、第二制御による可動部材140の移動、すなわち、EA用空間166を使用する移動を開始してもよい。
【0058】
また、制御部190によるEA機能の要否判断は、他の基準に基づいて行うこともできる。図9は、実施の形態に係る制御部190が行うEA機能の要否判断の第2の例を示すフロー図である。
【0059】
図9に示すように、制御部190は、ステアリング装置100を搭載した車両の走行状態を取得し、取得した走行状態が所定の条件を満たす場合(S13でYes)、EA機能が不要と判断する(S19)。制御部190は、取得した走行状態が所定の条件を満たさない場合(S13でNo)、EA機能が必要と判断する(S18)。
【0060】
車両の走行状態とは、例えば、走行速度、加速度、走行方向(転舵輪の向き)、及び、前方の他の車両の有無のそれぞれ、並びにこれらの組み合わせ等である。
【0061】
例えば、制御部190は、上位制御部300から車両の走行速度を取得し、取得した走行速度が、速度についての閾値以下であれば(S13でYes)、EA機能が不要と判断する(S19)。例えば、制御部190は、操作部材110を格納するための第一制御の開始後において取得した走行速度が、一般的に徐行と呼ばれる程度の速度より小さい場合(速度がゼロ(停止)の場合も含む)であれば(S13でYes)、二次衝突による危険性は低いため、制御部190は、EA機能が不要(S19)と判断する。つまり、制御部190は、第二制御による可動部材140の前方への移動を開始する(図6BのS30)。
【0062】
また、例えば、制御部190は、取得した走行速度が速度についての閾値以下であり、かつ、加速度が負の場合にEA機能が不要と判断し、取得した走行速度が速度についての閾値以下であり、かつ、加速度が正の場合は、EA機能が必要と判断してもよい。
【0063】
つまり、操作部材110の格納動作を開始する時点で、車両がゆっくりと走っていても、加速度が正であれば、二次衝突による危険性が高まると考えられるため、制御部190は、EA機能が必要(S18)と判断する。つまり、制御部190は、第一制御による可動部材140の前方への移動を継続する(図6BのS20)。
【0064】
また、例えば、制御部190は、ステアリング装置100を搭載した車両の前方の所定距離内に他の車両が存在する場合、走行速度等の他の条件によらず、EA機能が必要(S18)と判断してもよい。例えば、車両が、カメラ等の検出結果に基づいて自動ブレーキを作動させる被害軽減ブレーキシステムを備える場合、当該車両の前方の所定の距離内に他の車両が存在するか否かの判断は可能である。従って、制御部190は、例えば、当該判断の結果、または、カメラ等の検出結果を上位制御部300から取得することで、前方の所定距離内に他の車両が存在するか否かを判断することができる。
【0065】
なお、前方の他の車両の有無、または、他の車両までの距離に応じて、所定の条件としての走行速度についての閾値が変更されてもよい。例えば、操作部材110の格納動作を開始する時点で、前方の所定距離内に他の車両が存在する場合の閾値を、前方の所定距離内に他の車両が存在しない場合の閾値よりも小さくしてもよい。これにより、前方の比較的に近い位置に他の車両が存在する場合は、かなりの低速で走行している場合または停止している場合を除き、制御部190は、EA機能が必要(S18)と判断する。
【0066】
このように、EA機能の要否判断に、車両の走行状態を考慮することで、衝突安全性を向上させるための操作部材110の格納動作が、より的確に実行される。
【0067】
また、保持部材160に設けられたEA用空間166の大きさは、固定されている必要はなく、例えば、車両の走行状態に応じて変更されてもよい。
【0068】
図10Aは、実施の形態に係る制御部190が行うEA用空間166の変更制御を説明するための第1の図であり、図10Bは、実施の形態に係る制御部190が行うEA用空間166の変更制御を説明するための第2の図である。
【0069】
図10A及び図10Bに示すように、制御部190は、車両の走行状態に応じて、移動駆動部170を制御することで、EA用空間166の軸方向の長さを変更することができる。
【0070】
具体的には、走行状態とは、上述のように走行速度等であり、制御部190は、例えば、上位制御部300から取得した走行速度が所定値以上である場合、EA用空間166の軸方向の長さを、図10Aに示す長さL1から、図10Bに示す長さL2(L2>L1)に変更する。簡単に言うと、走行速度が大きいほど、EA用空間166の軸方向の長さを大きくする。これにより、走行速度が大きいほど、衝撃吸収部材180の変形または破損等を伴いながら前方へ移動する軸部材118の移動距離が長くなる。つまり、衝撃吸収部材180により吸収可能な衝撃エネルギーの量が増加する。これにより、衝突安全性がさらに向上する。
【0071】
また、EA用空間166の軸方向の長さをL1からL2に伸ばす場合、中間部材165を、ベース部材169に対して前方に移動させ、かつ、可動部材140を中間部材165に対して後方に移動させる。これにより、図10A及び図10Bに示すように、操作部材110の位置(通常運転位置491)を、EA用空間166の軸方向の長さの変更の前後において一致させることも可能である。従って、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、安全性向上のためにEA用空間166の軸方向の長さを変更した場合であっても、運転者に対する操作部材110の位置を一定に維持することができる。
【0072】
以上、実施の形態に係るステアリング装置100について説明したが、ステアリング装置100は、図1図10Bに示す構成とは異なる構成を有してもよい。そこで、以下に、ステアリング装置100についての変形例を、上記実施の形態との差分を中心に説明する。
【0073】
(変形例1)
図11は、実施の形態の変形例1に係るステアリング装置100aの構造を模式的に示す図である。図11に示すように、本変形例に係るステアリング装置100aは、可動部材140と、可動部材140を軸方向に移動可能に保持する保持部材161と、可動部材140に接続された衝撃吸収部材180と、移動駆動部170とを備える。なお、移動駆動部170は、図11に図示しない制御部190(図3参照)によって制御される。可動部材140は、後端部に操作部材110が接続された軸部材118とともに軸方向に移動し、かつ、軸部材118を回転可能に支持する。衝撃吸収部材180は、軸部材118の前端部118aが、保持部材161に設けられたEA用空間166を軸方向かつ前方に移動することで衝撃を吸収する。移動駆動部170は、ステアリング装置100が搭載された車両の車体450における、可動部材140の軸方向の位置を移動させる。制御部190は、移動駆動部170を制御することで、軸部材118の前端部118aが、EA用空間166よりも後方に位置する状態で、可動部材140を軸方向に沿って移動させる第一制御を行う。制御部190は、操作部材110を、通常の運転のための位置よりも前方の格納領域480に格納する場合、第一制御による可動部材140の前方への移動の開始後に、軸部材118の前端部118aがEA用空間166内に位置する範囲で可動部材140を前方に移動させる第二制御を開始する。なお、本変形例においても、上記実施の形態と同じく、可動部材140の位置を基準としてEA用空間が規定されてもよい。
【0074】
このように、本変形例に係るステアリング装置100aは、実施の形態に係るステアリング装置100と共通する構成を有する。そのため、本変形例に係るステアリング装置100aによれば、実施の形態で説明したように、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、衝突安全性を向上させることができる、という効果が奏される。
【0075】
本変形例では、保持部材161がベース部材と中間部材とに分かれていない点で、実施の形態に係る保持部材160とは異なる。この場合であっても、図11に示すように、保持部材161が有するカバー部165bの内方に、軸部材118の前方への移動を許容するEA用空間166が規定され、かつ、EA用空間166と軸部材118の前端部118aとの間には、軸方向の幅Dの調整用空間166aが設けられている。
【0076】
つまり、制御部190は、例えば運転者の所定の操作に基づいて操作部材110の前後方向の位置を調整する場合、軸部材118の前端部118aが調整用空間166aに位置する範囲で、可動部材140を保持部材161に対して軸方向に移動させる(第一制御)。また、操作部材110を格納領域480に格納する場合、制御部190は、第一制御により可動部材140を前方に移動させ、さらに、第二制御により可動部材140を前方に移動させる。これにより、軸部材118はEA用空間166内を前方に移動し、その結果、操作部材110は、格納領域480に格納される。
【0077】
なお、本変形例では、例えば可動部材140が、図11に示す位置にある状態において二次衝突が生じた場合、軸部材118の前端部118aは、調整用空間166aを通過してEA用空間166内に進入する。そのため、調整用空間166aも、衝撃吸収部材180による衝撃吸収に使用される空間である。従って、図11における、カバー部165b内の、軸方向の長さがL+Dの空間の全体が、衝撃吸収用の空間(移動用空間)として解釈することも可能である。この場合、操作部材110の位置調整の場合は、衝撃吸収用の空間の一部を使用し、二次衝突時には、衝撃吸収用の空間の全部を使用して軸部材118を移動させる、と説明することができる。
【0078】
この点に関し、本変形例では、調整用空間166aは、通常の操作部材110の位置調整の場合に使用される空間であり、EA用空間166は、通常の操作部材110の位置調整の場合に使用されない空間である、として互いに区別される。つまり、本変形例では、EA用空間166と調整用空間166aとは連続する空間であるが、制御部190による制御において、EA用空間166は、衝撃吸収及び操作部材110の格納の際に使用される空間として確保されている空間である。
【0079】
(変形例2)
図12は、実施の形態の変形例2に係るステアリング装置100bの構造を模式的に示す図である。図12に示すように、本変形例に係るステアリング装置100bは、可動部材140、保持部材160、及び衝撃吸収部材180を備える。二次衝突が生じた場合、ステアリング装置100bでは、軸部材118の前端部118aがEA用空間166を前方に移動することで、衝撃吸収部材180が衝撃を吸収する。つまり、本変形例に係るステアリング装置100bは、これらの構成及び動作について、本変形例に係るステアリング装置100bと実施の形態に係るステアリング装置100とは共通する。
【0080】
本変形例に係るステアリング装置100bは、図12に示すように、可動部材140の、保持部材160からの脱落を防止するストッパ280を備える点に特徴を有している。具体的には、本変形例では、ストッパ280は、前ストッパ281と後ストッパ282とを有する。前ストッパ281は、軸部材118の前端部118aが当接し得る位置に配置されている。後ストッパ282は、可動部材140が有する接続部141が当接し得る位置に配置されており、例えば保持部材160または車体450に直接的または間接的に固定されている。
【0081】
例えば、二次衝突が生じることで、衝撃吸収部材180が衝撃吸収を開始した場合、つまり、衝撃吸収部材180が変形しながら軸部材118の前端部118aが、EA用空間166を軸方向かつ前方に移動した場合を想定する。この場合、可動部材140は、通常の操作部材110の前後方向の位置調整時における可動範囲を越えて、かつ、通常の移動速度よりも速く保持部材160に対して移動する。そのため、可動部材140が、保持部材160から脱落する可能性がある。
【0082】
そこで、本変形例に係るステアリング装置100bは、衝撃吸収部材180が衝撃の吸収を開始した後において、軸部材118及び可動部材140の少なくとも一方に当接することで、可動部材140の保持部材160からの脱落を抑制するストッパ280を備えている。
【0083】
すなわち、衝撃吸収部材180が衝撃の吸収を開始することで、通常ではない態様で移動する可動部材140を、ある程度の距離の移動後に機械的に停止させる。これにより、二次衝突が発生した場合において、衝撃吸収性能を低下させることなく、可動部材140の保持部材160からの脱落の可能性を低減させることができる。その結果、例えば、可動部材140が保持部材160から脱落した場合に生じる二次被害(ステアリング機構部101の運転者の脚の上への落下など)の発生を抑制することができる。つまり、ストッパ280により、衝突安全性をさらに向上させることができる。また、例えば、二次衝突の後に、ステアリング機構部101が備える操舵機能(転舵機構への情報伝達機能など)が失われていない場合を想定する。この場合、可動部材140が保持部材160から脱落していないことで、運転者が操作部材110を操作することによる操舵(転舵輪の転舵角の変更)が可能な場合がある。この場合、運転者が操作部材110を操作することで、車両を安全な位置まで移動させることも可能である。
【0084】
また、本変形例では、より具体的には、ストッパ280は、軸部材118及び可動部材140の前方への移動を規制する前ストッパ281、及び、軸部材118及び可動部材140の後方への移動を規制する後ストッパ282を有する。
【0085】
これにより、二次衝突によって軸部材118及び可動部材140が前方へ移動する場合、及び、前方へ移動した軸部材118及び可動部材140を例えば運転者が後方に引き戻した場合の両方について、可動部材140の保持部材160からの脱落が抑制される。
【0086】
つまり、二次衝突による可動部材140の前方への移動に起因する可動部材140の保持部材160からの脱落が、前ストッパ281により抑制される。さらに、二次衝突の後に、例えば運転者によって操作部材110が後方に引っ張られた場合、後ストッパ282により、後方に移動した可動部材140の保持部材160からの脱落がされる。このように、本変形例に係るステアリング装置100bによれば、二次衝突により、通常とは異なる態様で移動する可動部材140の保持部材160からの脱落を、可動部材140の前後のストッパ(前ストッパ281、後ストッパ282)によって抑制することができる。従って、衝突安全性がより向上される。
【0087】
また、本変形例では、前ストッパ281及び後ストッパ282のそれぞれは、軸部材118及び可動部材140の少なくとも一方に当接する位置に配置された緩衝部材を有している。具体的には、前ストッパ281は、軸部材118に当接する位置に配置された緩衝部材281aを有し、後ストッパ282が、可動部材140の接続部141に当接する位置に配置された緩衝部材282aを有している。
【0088】
緩衝部材281a及び282aのそれぞれは、ゴムまたはウレタン等の弾性または柔軟性を有する材料で形成された部材であり、物体が衝突した場合の衝撃の少なくとも一部を吸収する機能を有している。これにより、二次衝突が発生した場合において、前ストッパ281及び後ストッパ282に、軸部材118または可動部材140が当接した場合に、当接する2つの部材それぞれの変形、損傷、または破壊の可能性が低減される。従って、前ストッパ281及び後ストッパ282それぞれは、所期の機能(可動部材140の保持部材160からの脱落の抑制)を発揮する可能性が向上される。
【0089】
なお、緩衝部材281a及び282aのそれぞれは、二次衝突時における衝撃を吸収する部材である、ともいえる。つまり、衝撃吸収部材180を第1の衝撃吸収部材とした場合、緩衝部材281a及び282aのそれぞれは、第1の衝撃吸収部材の衝撃吸収の開始後に衝撃吸収を開始する第2の衝撃吸収部材ということもできる。すなわち、緩衝部材281aまたは282aとして、例えば、変形することまたは破壊されることにより衝撃を吸収する部材、つるまきばねなどの弾性体、または、これらの組み合わせ等を採用してもよい。また、緩衝部材281a及び282aのそれぞれが、第2の衝撃吸収部材であるとした場合、第2の衝撃吸収部材が、可動部材140の保持部材160からの脱落を抑制するストッパとして機能することができる、ということもできる。
【0090】
また、保持部材160が有する中間部材165における前壁165c(図2参照)は、上述のように、二次衝突時における軸部材118の前方への移動を規制する規制部材として機能する。つまり、前壁165cは、前ストッパ281と同様の機能を発揮できるため、前壁165cが、ストッパ280が有する前ストッパである、ということもできる。また、前壁165cにおける、軸部材118の前端部118aが当接する位置に、緩衝部材を配置してもよい。これにより、前端部118aが前壁165cに当接した場合における、軸部材118及び前壁165cの変形または損傷等が抑制される。その結果、前壁165cが、前ストッパとして所期の機能を発揮する可能性が向上する。
【0091】
なお、ストッパ280は、前ストッパ281及び後ストッパ282の両方を有することは必須ではなく、前ストッパ281及び後ストッパ282少なくとも一方を有すればよい。これにより、二次衝突が発生した場合における、可動部材140の保持部材160からの脱落の可能性は低減される。
【0092】
なお、後ストッパ282の当接相手は、接続部141には限定されず、例えば、可動部材140に設けられた、接続部141との当接(係合)のみに使用される部分または部材であってもよい。
【0093】
また、ストッパ280は、可動部材140ではなく、軸部材118に当接することで、可動部材140及び軸部材118の後方への移動を規制する後ストッパを有してもよい。例えば、軸部材118が径方向に突出する凸部を有する場合、後ストッパは、軸方向において、凸部の後方から凸部に当接することで、可動部材140及び軸部材118の後方への移動を規制することができる。
【0094】
(変形例3)
図13は、実施の形態の変形例3に係るステアリング装置100cの構造を模式的に示す図である。図13に示すステアリング装置100cは、変形例2に係るステアリング装置100bと同様に、二次衝突時における、可動部材140の保持部材160からの脱落を抑制するストッパ280aを有している。
【0095】
具体的には、本変形例に係るストッパ280aは、軸部材118及び可動部材140の前方への移動を規制する前ストッパ283、及び、軸部材118及び可動部材140の後方への移動を規制する後ストッパ282を有する。この構成については、変形例2係るストッパ280と共通する。しかし、本変形例に係るストッパ280aでは、前ストッパ283は、可動部材140に当接することで、可動部材140の保持部材160からの脱落を抑制するように配置されている。
【0096】
より詳細には、前ストッパ283は、可動部材140が有する接続部141に当接し得る位置に配置されている。つまり、本変形例に係る前ストッパ283は、二次衝突により軸部材118及び可動部材140が前方へ移動した場合、可動部材140の一部に当接することで、可動部材140の更なる前方への移動を規制する。これにより、可動部材140の保持部材160からの脱落を抑制される。
【0097】
なお、本変形例において、前ストッパ283及び後ストッパ282のそれぞれは、図13に示すように、緩衝部材283aまたは282aを有している。これにより、変形例2で説明したように、前ストッパ283及び後ストッパ282それぞれが、所期の機能(可動部材140の保持部材160からの脱落の抑制)を発揮する可能性が向上される。
【0098】
また、緩衝部材283a及び282aのそれぞれが、第2の衝撃吸収部材ということもできる点、及び、緩衝部材281a及び282aのそれぞれが、第2の衝撃吸収部材であるとした場合、第2の衝撃吸収部材がストッパとして機能する、ということもできる点も、変形例2と同じである。
【0099】
(他の実施の形態)
以上、本発明に係るステアリング装置について、実施の形態及びその変形例に基づいて説明した。しかしながら、本発明は、上記実施の形態及び変形例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を上記実施の形態または変形例に施したものも、あるいは、上記説明された複数の構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0100】
例えば、図1に示すステアリング装置100の外観及び構成は一例であり、保持部材160、可動部材140、操作部材110、及び移動駆動部170等の構成要素のそれぞれの形状、サイズ及び位置は、図1に示される形状、サイズ及び位置には限定されない。また、各構成要素それぞれの構成も、図1等に示される構成である必要はない。
【0101】
例えば、可動部材140は、軸部材118の外周を囲む丸筒状に形成されていてもよい。また、例えば、軸部材118の前端部118aは、軸部材118と一体に前後方向に移動する部材であれば、軸部材118とは別部材によって形成されていてもよい。また、EA用空間166は、カバー部165b(図2参照)の内部空間の一部として規定される必要はない。つまり、ステアリング装置100において、軸部材118が衝撃吸収のために移動する空間であって、操作部材110の格納領域480への格納の際にも軸部材118が移動可能な空間が存在すれば、カバー部165bの有無によらず、その空間が、EA用空間166として規定される。なお、保持部材160がカバー部165bを有しない場合、二次衝突時における軸部材118の前方への移動を規制する規制部材が、保持部材160に配置されること、または、車体450に固定された別部材として配置されることが好ましい。
【0102】
また、実施の形態に係るステアリング装置100において、軸部材118とEA用空間166との間に、調整用空間166a(図11参照)が設けられてもよい。この場合、第一制御において、軸部材118の前端部118aが調整用空間166aに含まれる範囲で、可動部材140が中間部材165に対して前方に移動されてもよい。つまり、第二駆動部172が可動部材140を中間部材165に対して移動させることで、操作部材110の前後方向の位置調整が行われてもよい。また、操作部材110を格納領域480に格納する場合に、第一駆動部171による中間部材165の移動の開始が、第二駆動部172による可動部材140の移動の開始以降であってもよい。この場合であっても、制御部190が、EA機能は不要と判断(図6BのS10でNo)するまでは、軸部材118の前端部118aを調整用空間166a内にとどめておくことで、EA機能が必要な期間は、EA用空間166は初期の範囲のままに維持される。また、制御部190は、EA機能が不要と判断するまでに、可動部材140を、EA用空間166の手前まで移動させておくことで、衝突安全性を確保しながら、操作部材110の格納動作を効率よく実行することができる。
【0103】
ここで、図2に示すように、実施の形態に係るステアリング装置100において、軸部材118の前端部118aと前壁165cとの間の距離Lの範囲(図2参照)に、調整用空間166aを設ける場合、EA用空間166の軸方向の長さ(EA空間長さ)は変更される。
【0104】
具体的には、制御部190は、半導体メモリなどの所定の記憶媒体にEA空間長さを記憶させており、例えば、車両の走行状態に応じて所定の記憶媒体に記憶されているEA空間長さを変更する。具体的には、例えば車速が大きい場合は、車速が小さい場合よりもEA機能の必要性が高い。従って、制御部190は、例えば車速に比例するようにEA空間長さを調節する。つまり、制御部190は、車速が小さいためにEA機能の必要性が低い場合、所定の記憶媒体に記憶されているEA空間長さを短くする(より小さい値に書き換える)。これにより、調整用空間166aの長さが長くなる。つまり、操作部材110の位置調整のための軸部材118(可動部材140)の移動可能範囲が大きくなり、その結果、操作部材110の位置調整の自由度が向上する。このように、制御部190は、車速が小さい等の事情によってEA機能の必要性が低い場合は、EA空間長さを小さくする。これにより、ユーザの好み等に応じた操作部材110の位置調整の可能範囲を広げることができ、ステアリング装置100のユーザビリティを向上させることができる。
【0105】
また、制御部190は、車速が大きいためにEA機能の必要性が高く、かつ、所定の記憶媒体に記憶されているEA空間長がL(図2参照)よりも短い場合、EA空間長さを長くする(より大きい値に書き換える)。これにより、衝撃吸収のために用いられる軸部材118または可動部材140の移動距離が長くなり、衝撃吸収部材180により吸収可能な衝撃エネルギーの量が増加する。その結果、衝突安全性が向上する。このように、制御部190は、車速が大きい等の事情によってEA機能の必要性が高い場合は、安全性をより優先して、その時点のEA空間長さをより長く(調整用空間166aの長さをより短く)することができる。なお、所定の記憶媒体に記憶されているEA空間長さは、EA空間長さそのものの値である必要はなく、例えば、軸方向における一次元の座標値であってもよい、また、軸方向におけるEA用空間166の両端の位置を示す値であってもよい。また、EA空間長さの最大値Lと調整用空間166aの長さとの差分によって、EA空間長さが表されてもよい。さらに、EA空間長さを表す情報は数値である必要はなく、例えば、それぞれが互いに異なる長さに対応する複数の記号の各々が、EA空間長さを表してもよい。
【0106】
このように、制御部190は、車両の走行状態に応じて、所定の記憶領域に記憶されているEA空間長さを変更してもよい。この場合、制御部190は、変更後のEA空間長さを用いて、第一制御及び第二制御を行うことができる。つまり、制御部190は、第一制御において、移動駆動部170を制御することで、軸部材118の前端部118aが、変更後のEA空間長さに示されるEA用空間166よりも後方に位置する状態で、可動部材140を軸方向に沿って移動させる。これにより、例えば、操作部材110の前後方向の位置調整に、可動部材140の中間部材165に対する移動を用いることができ、その結果、位置調整の可能範囲が拡大する。また、制御部190は、第二制御において操作部材110を格納領域480に格納する場合、軸部材118の前端部118aが、変更後のEA空間長さに示されるEA用空間166内に位置する範囲で可動部材140を前方に移動させる。つまり、操作部材110の格納時には、軸方向の長さが変更されたEA用空間166を使用して操作部材110が格納される。そのため、上記実施の形態と同じく、EA用空間166を使用しない場合と比較すると、操作部材110をより前方まで移動させることができる。これにより、例えばステアリング装置100の小型化が可能となる。
【0107】
また、移動駆動部170は、第一駆動部171及び第二駆動部172を一体に備える必要はない。つまり、第一駆動部171及び第二駆動部172は、互いに別体であって、かつ、独立した駆動源を有する機構部として、ステアリング装置100に備えられてもよい。
【0108】
また、移動駆動部170による駆動のための構造に特に限定はない。移動駆動部170は、ボールネジ機構ではなく、例えば、ラックアンドピニオン機構によって、可動部材140等の移動を駆動してもよい。また、移動駆動部170が有する駆動源は電動モータ以外であってもよく、例えば油圧を利用して可動部材140等の移動を駆動してもよい。
【0109】
また、ステアリング装置100はエアバッグ200を備えていなくてもよい。つまり、ステアリング装置100は、エアバッグ200を備えない場合であっても、衝撃吸収部材180によるEA機能が実効性を有するか否かに基づいて、EA機能が必要か否かを判断することができる。
【0110】
また、以上のように説明される、実施の形態に係るステアリング装置100に関する各種の補足事項のそれぞれは、変形例1及び2に係るステアリング装置100a及び100bのそれぞれに適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、衝突安全性を向上させることができるステアリング装置として有用である。従って、手動運転が可能であり、かつ自動運転が可能な自動車、バス、トラック、農機、建機など、車輪または無限軌道などを備えた車両に利用可能である。
【符号の説明】
【0112】
100,100a,100b,100c:ステアリング装置、101:ステアリング機構部、110:操作部材、115:支持部材、118:軸部材、118a:前端部、120:エアバッグ収容部、130:操作支持部、140:可動部材、141,165a:接続部、160,161:保持部材、165:中間部材、165b:カバー部、165c:前壁、166:EA用空間、166a:調整用空間、169:ベース部材、169a:軸支持部、170:移動駆動部、171:第一駆動部、172:第二駆動部、173:第一駆動軸、174:第二駆動軸、178:スライド用モータ、180:衝撃吸収部材、181:被駆動部材、190:制御部、200:エアバッグ、210:エアバッグ制御部、280,280a:ストッパ、281,283:前ストッパ、281a,282a,283a:緩衝部材、282:後ストッパ、250:加速度センサ、300:上位制御部、450:車体、480:格納領域、490:所定の位置、491:通常運転位置、500:運転者領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13