(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両の前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
B62D25/04 A
(21)【出願番号】P 2020072370
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】若松 顕都
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-147067(JP,A)
【文献】特開2013-112075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントドアを支持するピラー本体部の上部に窓用の窓枠部を有するフロントピラー
と、前記フロントピラーの前部に結合された状態で車両前後方向に延びるアッパーメンバとを備え、
前記ピラー本体部の前部上側は、アッパーメンバ側に張り出すように設けられていると共に、前記窓枠部は、前記ピラー本体部から上方へ起立する縦枠部と、前記ピラー本体部の前部と前記縦枠部との間に掛け渡された斜め枠部とを有している車両の前部構造において、
前記ピラー本体部と前記窓枠部には、各々、前記フロントドアを支持するために所定の強度を備えた高強度部位と、前記高強度部位よりも低強度とされることにより車両前方から入力された荷重による変形が可能な低強度部位とが車両前後方向から隣接するように設けられており、
前記ピラー本体部における前記高強度部位と前記低強度部位の境界部と、前記窓枠部の前記斜め枠部における前記高強度部位と前記低強度部位の境界部とが、車両前後方向において位置合わせされた状態で形成されて
おり、
前記ピラー本体部の前部上側に設けられた低強度部位と前記アッパーメンバとには、各々、車両前方から入力された荷重による変形を助長する脆弱部が上下方向に延びるように形成されていると共に、前記ピラー本体部の低強度部位の脆弱部と前記アッパーメンバの脆弱部とは、車両前後方向において位置合わせされることで上下方向に一連となるように配置されている車両の前部構造。
【請求項2】
前記脆弱部の少なくとも一つは、前記低強度部位を構成する縦板状の前記ピラー本体部を車幅方向に盛り上がらせる方向に変形させて形成されたビード部であり、
前記ビード部は、前記ピラー本体部に対して上下方向に延設されている請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記低強度部位は、前記高強度部位の車両前側に隣接して設けられている請求項1又は2に記載の車両の前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントピラーを備えた車両の前部構造に関し、より具体的には、フロントピラーが、フロントドアを開閉支持するピラー本体部と、窓用の窓枠部とを有する車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両では、車両ボディの前部左右にフロントドアが設けられ、各フロントドアは、その前側に位置する左右のフロントピラーによって開閉可能に支持されている。これら各フロントピラーは、車両前方へ張り出す縦板状のピラー本体部と、ピラー本体部の上部に設けられた窓枠部を備えている。そして左右のフロントピラーによって、車両ボディの一部であるルーフパネルの前部が支持されている。
【0003】
ここで上述の車両では、フロントドアの開閉性の確保という観点から、フロントドアを支持するフロントピラーが、車両前突時の衝撃荷重で過度に変形しないように配慮すべきである。例えば特許文献1には、フロントピラーの強度を高めて、その衝撃伝達性を確保する技術が開示されている。このフロントピラーでは、ピラーアウタとピラーインナの接合により閉断面が形成され、さらにピラーインナには、車両前後方向に延びるビードが複数形成されている。そして公知技術では、車両前突時の衝撃荷重を、ビードで補強されたフロントピラーを通じてルーフパネル等の車両ボディに伝達している。こうしてフロントピラーの強度を高めて、その衝撃伝達性を確保することにより、フロントドアの開閉性の確保に資する構成となる。
【0004】
また特許文献2には、フロントピラーを部分的に脆弱化して、車両前突時の衝撃荷重を吸収する技術が開示されている。この特許文献2のフロントピラー構造は、本発明の窓枠部(斜め枠部)に相当する部分に、サイドメンバアウターパネルとサイドメンバインナーパネルの接合により閉断面が形成されている。そして両パネルの内部には、上側のリインフォースメントと、下側のリインフォースメントとが挿通され、これら両リインフォースメントが車両前後方向から連結されている。この公知技術の窓枠部では、車両前突時の衝撃荷重を、下側のリインフォースメントが連結部分(見切り部分)で折れることで吸収する。こうしてフロントピラーの開閉性に影響しない窓枠部部分を脆弱化して、その衝撃吸収性を確保することにより、フロントドアの開閉性の確保に資する構成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017‐56787号公報
【文献】特開2014‐51131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで車両の分野では、フロントドアの開閉性をより確実に確保したいとの要請があり、その手法として、フロントピラーの衝撃伝達性と衝撃吸収性を両立させることが考えられる。しかし衝撃伝達性と衝撃吸収性が背反する関係にあることから、特許文献1と2の技術を単に組み合わせただけであると、一方の技術の作用が他方の技術に阻害されるおそれがある。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、フロントピラーの衝撃伝達性と衝撃吸収性をより適切に両立させて、フロントドアの開閉性をより確実に確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の車両の前部構造は、フロントドアを支持するピラー本体部の上部に窓用の窓枠部を有するフロントピラーと、フロントピラーの前部に結合された状態で車両前後方向に延びるアッパーメンバとを備え、ピラー本体部の前部上側は、アッパーメンバ側に張り出すように設けられていると共に、窓枠部は、ピラー本体部から上方へ起立する縦枠部と、ピラー本体部の前部と縦枠部との間に掛け渡された斜め枠部とを有している。この種の車両の前部構造では、フロントピラーの衝撃伝達性と衝撃吸収性をより適切に両立させて、フロントドアの開閉性をより確実に確保することが望まれる。そこで本発明のピラー本体部と窓枠部には、各々、フロントドアを支持するために所定の強度を備えた高強度部位と、高強度部位よりも低強度とされることにより車両前方から入力された荷重による変形が可能な低強度部位とが車両前後方向から隣接するように設けられている。そしてピラー本体部における高強度部位と低強度部位の境界部と、窓枠部の斜め枠部における高強度部位と低強度部位の境界部とが、車両前後方向において位置合わせされた状態で形成されている。
【0008】
本発明のフロントピラーでは、車両前突時において、ピラー本体部及び窓枠部の低強度部位が変形して衝撃荷重を吸収することにより、高強度部位への衝撃荷重の過度の伝達を抑制することができる。そして車両前突時の衝撃荷重が、ピラー本体部及び窓枠部の高強度部位で受けられる。この高強度部位は、フロントドアを支持可能な所定の強度を有しているため、フロントドアの開閉性を確保しつつ、衝撃荷重を車両ボディに伝達することが可能となっている。そして本発明では、ピラー本体部と窓枠部の斜め枠部とにおいて、低強度部位と高強度部位の境界部が位置合わせされている。このため低強度部位の衝撃吸収が高強度部位に極力阻害されず、また高強度部位の衝撃伝達が低強度部位に極力阻害されない構成となり、フロントドアの開閉性の確保に資する構成となる。
【0009】
そして第1発明の車両の前部構造のピラー本体部の前部上側に設けられた低強度部位とアッパーメンバとには、各々、車両前方から入力された荷重による変形を助長する脆弱部が上下方向に延びるように形成されていると共に、ピラー本体部の低強度部位の脆弱部とアッパーメンバの脆弱部とは、車両前後方向において位置合わせされることで上下方向に一連となるように配置されている。本発明では、脆弱部によって、低強度部位の変形をスムーズに促すことが可能となり、フロントピラーの優れた衝撃吸収性の確保に資する構成となる。
【0010】
第2発明の車両の前部構造は、第1発明の車両の前部構造において、脆弱部の少なくとも一つは、低強度部位を構成する縦板状のピラー本体部を車幅方向に盛り上がらせる方向に変形させて形成されたビード部であり、ビード部は、ピラー本体部に対して上下方向に延設されている。本発明では、上下に延設されたビード部によって、ピラー本体部の低強度部位の変形をより適切に促すことが可能となる。
【0011】
第3発明の車両の前部構造は、第1発明又は第2発明の車両の前部構造において、低強度部位は、高強度部位の車両前側に隣接して設けられている。本発明では、車両前側に位置する低強度部位が衝撃荷重を吸収することにより、車両後側に位置する高強度部位が、フロントドアの開閉性を更に確実に確保しつつ、衝撃荷重を車両ボディに伝達することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る第1発明によれば、フロントピラーの衝撃伝達性と衝撃吸収性をより適切に両立させて、フロントドアの開閉性をより確実に確保することができる。また第1発明によれば、フロントピラーの衝撃吸収性をより適切に確保することができる。また第2発明によれば、フロントピラーの衝撃吸収性を更に適切に確保することができる。そして第3発明によれば、フロントピラーの衝撃伝達性と衝撃吸収性を更に適切に両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】フロントピラー等の車両ボディを示す車両前部の概略透視側面図である。
【
図3】高強度部位と低強度部位を示すフロントピラーの概略側面図である。
【
図5】ピラーアウタパネルを示すフロントピラーの車両内側の概略斜視図である。
【
図8】衝撃荷重を受けたピラー本体部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1~
図8を参照して説明する。各図には、車両の前後方向と左右方向と上下方向を示す矢線を適宜図示する。また
図1は、車両を左側から見た側面図であり、右側の部分は省略されている。そして
図3では、便宜上、低強度部位に破線を付けて高強度部位と区別して図示する。
【0015】
図1に示す車両2の前部構造では、車両ボディ3の前部左右にフロントドア4が設けられ、左右のフロントドア4は、その前側に位置する左右のフロントピラー5によって開閉可能に支持されている(
図1では、便宜上、左側のフロントドアとフロントピラーのみ図示する)。左右のフロントピラー5は、
図2に示すように、ピラー本体部10と、このピラー本体部10の上部に設けられた三角形の窓枠部20を備えている。そして窓枠部20には、ウインドガラスWGが嵌め込まれて主として斜め前方の視界を確保するための三角窓とされる。また各フロントピラー5の前部にはアッパーメンバ6が結合されており、このアッパーメンバ6は、図示しないフロントホイールハウスのサスタワー等に連結されている。また左右のフロントピラー5の後部側には、車両ボディ3の一部であるルーフパネル7の前部が結合され、さらにフロントピラー5とルーフパネル7とによって囲まれた位置にフロントガラスFGが設けられている。
【0016】
そして
図1及び
図2に示す車両2では、フロントドア4の開閉性の確保という観点から、フロントピラー5が、車両前突時の衝撃荷重Fで過度に変形しないように配慮すべきである。例えばフロントドア4の開閉性を確保するために、フロントピラー5の衝撃伝達性と衝撃吸収性を両立させることが考えられるが、この場合には、これら両性能が背反する関係にあることを十分に考慮すべきである。そこで本実施例では、後述する構成(
図3に示す高強度部位50H及び低強度部位50L)にて、フロントピラー5の衝撃伝達性と衝撃吸収性をより適切に両立させて、フロントドア4の開閉性をより確実に確保することとした。以下に、主として左側のフロントピラー5を一例にその構成を詳述する。
【0017】
[ピラー本体部]
ここで
図3に示す高強度部位50Hと低強度部位50Lを説明する前に、まずフロントピラー5を構成するピラー本体部10及び窓枠部20の概要について説明する。
図2及び
図3に示すピラー本体部10は、車両前方へ張り出す縦板状の部位であり、側面視で下部側が概ね矩形に形成されているが、その上部側の前縁は前方に向けて大きく張り出している。このピラー本体部10の前側にはアッパーメンバ6が結合されており、ピラー本体部10の後部には、図示しないヒンジを介してフロントドア4が開閉支持されている。なおアッパーメンバ6は、
図4に示すように、車両内側に位置する第一メンバ6aと、車両外側に位置する第二メンバ6bとを相互に結合した閉断面構造を有している。そしてアッパーメンバ6の両メンバ6a,6bの間にピラー本体部10の前部が嵌め込まれて固定されている。
【0018】
そしてピラー本体部10は、
図4及び
図5を参照して、車両内側に配置されるピラーインナパネル11と、前後一対のピラーアウタパネル12,15とから筒状に形成されている。ここでピラーインナパネル11は、
図4に示すように、前側のピラーインナパネル11aと後側のピラーインナパネル11bとを車両前後方向から溶接固定することで形成されている。また前側のピラーアウタパネル12は、
図5に示すピラー本体部10の上部で前方に張り出す部分を構成しており、上方に向かうにつれて次第に前方に張り出す略三角形状に形成されている。この前側のピラーアウタパネル12は、
図4に示すように断面略逆L字形に形成されており、その前端の前端面部13が、前側のピラーインナパネル11aに向かって屈曲している。そして前端面部13の先端に設けた前端フランジ13aが前側のピラーインナパネル11aの前端側に重ねられて溶接固定され、前側のピラーアウタパネル12の後端14は、後述する後側のピラーアウタパネル15の左側面に溶接固定されている。
【0019】
また
図4及び
図5に示す後側のピラーアウタパネル15は、側面視において上下に長尺な矩形に形成されており、その上部に、フロントドア4のヒンジ用の締結部15aが形成されている。この後側のピラーアウタパネル15は、断面ハット形状に形成されており、その前端の前面部16と後端の後面部17とが、後側のピラーインナパネル11bに向かって屈曲している。そして後側のピラーアウタパネル15の前面部16は、上述した前側のピラーアウタパネル12との境をなすようにピラー本体部10を上下に概ね縦断し、その先端に設けた前部フランジ16aが後側のピラーインナパネル11bの前端側に重ねられて溶接固定されている。なお
図4に示す前側のピラーインナパネル11aには貫通孔11Hが形成されており、この貫通孔11Hを通じて前部フランジ16aを後側のピラーインナパネル11bに溶接することができる。また後側のピラーアウタパネル15の後面部17は、後側のピラーアウタパネル15の後縁に沿って上下方向に延び、その先端に設けた後部フランジ17aが後側のピラーインナパネル11bの後端側に重ねられて溶接固定されている。そしてピラー本体部10では、前側のピラーアウタパネル12と後側のピラーアウタパネル15とを別体として形成し、且つ前側のピラーインナパネル11aと後側のピラーインナパネル11bとを別体として形成している。このようにピラー本体部10の前部と後部とを別体で形成することにより、後述する高強度部位50Hと低強度部位50Lを適切に設けることが可能となっている。
【0020】
[窓枠部]
また
図2に示す窓枠部20は、窓用(
図2では三角窓)の枠部であり、ピラー本体部10の後部から起立する縦枠部21と、ピラー本体部10の前部と縦枠部21の間に掛け渡されて斜め上方へ延びる前後一対の斜め枠部24,25とから構成されている。ここで縦枠部21は、上方に向かうにつれて次第に後方に傾斜し、斜め枠部(24,25)に対して上方且つ後方で結合されて合流している。このように縦枠部21と斜め枠部(24,25)の合流箇所Xを、ピラー本体部10の後端よりも後方に設けることで、縦枠部21を略鉛直方向に起立させた場合よりも三角窓の視認性の確保に資する構成となっている。また車両前突の際に、縦枠部21と斜め枠部(24,25)の合流箇所X(コーナー部分)に過度の曲げモーメントが作用することを防止又は低減することができる。
【0021】
そして縦枠部21は、
図6に示すように縦インナパネル22と縦アウタパネル23とを相互に結合した筒状の閉断面構造を有している。縦インナパネル22は、右上が切欠かれた断面略台形状に形成され、縦アウタパネル23は、上部側が平坦とされているが下部側は内側に向けて段差状に屈曲している。そして縦インナパネル22の上端をなす第一フランジ部22aに、縦アウタパネル23の上端をなす第二フランジ部23aが重ねられて接合されている。また縦インナパネル22の下端をなす第三フランジ部22bに、縦アウタパネル23の下端をなす第四フランジ部23bが重ねられて接合されている。また縦アウタパネル23の外側は、車両の意匠を構成するサイメンアウタパネル28で覆われている。そして縦枠部21の縦アウタパネル23の外側にはウインドガラスWGが固定されている。
【0022】
また
図2及び
図3を参照して、ピラー本体部10の前部には前側の斜め枠部24が結合し、縦枠部21の上端には後側の斜め枠部25が結合している。そして前側の斜め枠部24と後側の斜め枠部25とは、車両前後方向から連結されているとともに、概ね同一の基本構成を有している。例えば後側の斜め枠部25は、
図7に示すように、断面略偏平Z字形の斜インナパネル26と、断面略台形状の斜アウタパネル27とを相互に結合した筒状の閉断面構造を有している。そして斜インナパネル26の上端をなす第五フランジ部26aに、斜アウタパネル27の上端をなす第六フランジ部27aが重ねられて接合されている。また斜インナパネル26の下端をなす第七フランジ部26bに、斜アウタパネル27の下端をなす第八フランジ部27bが重ねられた状態で接合されている。また斜アウタパネル27の外側は、車両の意匠を構成するサイメンアウタパネル28で覆われている。そして斜アウタパネル27の車両外側下部にはウインドガラスWGが固定され、斜アウタパネル27の車両内側上部にはフロントガラスFGが固定されている。
【0023】
[高強度部位及び低強度部位]
そして
図3~
図5に示すフロントピラー5では、後述する車両前突の際に、衝撃荷重Fによる変形が許容されない高強度部位50Hと、衝撃荷重Fによる変形が許容される低強度部位50Lとが車両前後方向から隣接するように設けられる。ここで高強度部位50Hは、フロントドア4を支持可能な所定の強度を備えており、本実施例では、フロントピラー5の少なくとも一部を強度(引張強度)に優れる素材で形成することで構成されている。また低強度部位50Lは、相対的に低強度とされることで車両前方から入力された衝撃荷重Fによる変形が可能であり、本実施例では、フロントピラー5の少なくとも一部を強度に劣る素材で形成することで構成されている。そして高強度部位50Hと低強度部位50Lの強度性の差は、強度の異なる素材を使用することで設けることができ、典型的には異種の金属を用いることができる。また各強度部位50H,50Lに同種の素材(例えば同種の金属)を用いる場合には、その素材の厚みを変更したりすることで強度に差を設けることができる。そしてフロントピラー5では、その性能を適切に確保する観点から、ピラー本体部10の後部及び窓枠部20の後部(縦枠部21,後側の斜め枠部25)が高強度部位50Hとされている。またフロントピラー5では、ピラー本体部10の前部及び窓枠部20の前部(前側の斜め枠部24)が低強度部位50Lとされている。
【0024】
[ピラー本体部の高強度部位と低強度部位]
高強度部位50Hとしてのピラー本体部10の後部では、
図4及び
図5に示す後側のピラーアウタパネル15及び後側のピラーインナパネル11bが強度に優れる素材で形成されている。また低強度部位50Lとしてのピラー本体部10の前部では、前側のピラーアウタパネル12及び前側のピラーインナパネル11aが強度に劣る素材で形成されている。そしてピラー本体部10では、後側のピラーアウタパネル15の前面部16が、低強度部位50Lをなす前側のピラーアウタパネル12等との境をなすように配置される。すなわち本実施例では、後側のピラーアウタパネル15の前面部16が、ピラー本体部10における高強度部位50Hと低強度部位50Lの境界部(下側の境界部51)に相当する。
【0025】
[リインフォースメント]
ここで
図4及び
図5を参照して、ピラー本体部10の後部には、その強度性を構造的に向上させる柱状のリインフォースメント30が配設されている(
図4では、便宜上、リインフォースメントの外形を図示する)。このリインフォースメント30は、車両外側に開口する断面ハット状に形成され、後側のピラーアウタパネル15の前面部16と後面部17の間に渡されるように配設されている。そしてリインフォースメント30を、後側のピラーアウタパネル15の締結部15aの直上に固定することで、この締結部15a(フロントドア用のヒンジ)付近の車両前後方向の強度を構造的に高めておくことができる。
【0026】
[脆弱部]
また
図3及び
図4を参照して、ピラー本体部10の前部には、その変形を助長する脆弱部(31,32)が前後に形成されている。前側の脆弱部31は、低強度部位50Lをなす前側のピラーインナパネル11aの前部に設けられた前上ビード部31aで構成されている。また後側の脆弱部32は、前側のピラーインナパネル11aの後部に設けられた後上ビード部32aで構成されている。そして各上ビード部31a,32aは、前側のピラーインナパネル11aを局部的に左側(車幅方向)へ盛り上がらせる方向に変形させて形成され、前側のピラーインナパネル11aを縦断するように上下に直線的に延設されている。さらに本実施例では、アッパーメンバ6の第一メンバ6aに、前下ビード部31bと後下ビード部32bが形成されている。そして
図3を参照して、前下ビード部31bは、第一メンバ6aを上下に縦断するように形成されて、前上ビード部31aと一連となるように配置されている。また後下ビード部32bは、第一メンバ6aを上下に縦断するように形成されて、後上ビード部32aと一連となるように配置されている。
【0027】
[窓枠部の高強度部位と低強度部位]
高強度部位50Hとしての窓枠部20の後部では、
図5~
図7を参照して、その縦枠部21の各パネル22,23と、後側の斜め枠部25の各パネル26,27とが強度に優れる素材で形成されている。これら縦枠部21の各パネル22,23と後側の斜め枠部25の各パネル26,27とは、上述した後側のピラーアウタパネル15及び後側のピラーインナパネル11bと同等の強度を有し、典型的に同種の金属で形成することができる。また低強度部位50Lとしての窓枠部20の前部では、その前側の斜め枠部24のサイメンアウタパネルを除く各パネル(図示省略)が、強度に劣る素材で形成されており、上述した前側のピラーアウタパネル12及び前側のピラーインナパネル11aと同等の強度を有している。そして窓枠部20では、前側の斜め枠部24の後端側と後側の斜め枠部25の前端側とが、車両前後方向から連結され、これらの境に見切り線29が設けられている。すなわち本実施例では、前側の斜め枠部24と後側の斜め枠部25の見切り線29が、各斜め枠部24,25における高強度部位50Hと低強度部位50Lの境界部(上側の境界部52)に相当する。なお前側の斜め枠部24と後側の斜め枠部25の断面寸法(サイメンアウタパネルを除いた断面寸法)は同等でもよいが、変形が予定されている前側の斜め枠部24の断面寸法を相対的に小さくして視界を確保しておくこともできる。
【0028】
[ピラー本体部と窓枠部の各境界部の配置関係]
図5を参照して、後側のピラーアウタパネル15の前面部16は、ピラー本体部10における各強度部位50H,50Lの下側の境界部51に相当する。また前側の斜め枠部24と後側の斜め枠部25の見切り線29は、各斜め枠部24,25における各強度部位50H,50Lの上側の境界部52に相当する。そしてフロントピラー5では、下側の境界部51である前面部16と、上側の境界部52である見切り線29とを、車両前後方向において位置合わせして形成している。こうして上下の各境界部51,52を位置合わせすることで、後述するように、フロントピラー5の衝撃伝達性と衝撃吸収性をより適切に両立させることが可能となる。
【0029】
ここで
図5に示す上下の各境界部51,52が位置合わせされているとは、車両前後方向における両境界部51,52の位置が一致する場合のほか、両境界部51,52が近傍位置にある場合を含む趣旨である。そして両境界部51,52が近傍位置にある場合として、設計誤差程度の位置ズレの場合のほか、車両前突の際において一定のウインドガラスWGを保持できる場合も含まれる。例えば車両前突の際には、後側の斜め枠部25が、ピラー本体部10の後部とともにウインドガラスWGを保持し、このときウインドガラスWGの面積の過半数(好ましくは2/3)を保持できることが望ましい。そして上側の境界部52と下側の境界部51とが位置ズレしていたとしても、ウインドガラスWGの過半数(好ましくは2/3)を保持できる場合には、両境界部51,52は近傍位置にあるとみなすことができる。
【0030】
[車両前突の際のフロントピラー]
図1及び
図2に示す車両2では、前突事故の状況を再現するために微小ラップ衝突試験が行なわれることがあり、同試験では、立木や電柱を模した障害物(図示省略)に車両2を衝突させる。そして微小ラップ衝突では、車両2の前部の左側(又は右側)に入力された衝撃荷重Fを左側(又は右側)のフロントピラー5で受け止めることとなる。この種の構成では、フロントピラー5の衝撃伝達性と衝撃吸収性をより適切に両立させて、フロントドア4の開閉性をより確実に確保することが望ましい。
【0031】
そこでピラー本体部10と窓枠部20とには、
図3~
図5に示すように、所定の強度を備えた高強度部位50Hと、高強度部位50Hよりも低強度である低強度部位50Lとが車両前後方向から隣接するように設けられている。そしてピラー本体部10の上側の境界部51と、窓枠部20の各斜め枠部24,25の下側の境界部52とが、上述したように車両前後方向において位置合わせされた状態で形成されている。こうしてフロントピラー5では、高強度部位50Hと低強度部位50Lの境界部51,52を位置合わせすることで、これら両強度部位50H,50Lの作用を適切に確保することが可能となる。そこで以下に、低強度部位50Lと高強度部位50Hの順にこれらの作用を詳細に説明する。
【0032】
[低強度部位の衝撃吸収性]
図5及び
図8を参照して、フロントピラー5では、その衝撃吸収性を確保するために、ピラー本体部10の前部及び窓枠部20の前部が低強度部位50Lとされている。そして
図5に示す窓枠部20では、車両前突の際に、低強度部位50Lとしての前側の斜め枠部24が、上側の境界部52(見切り線29)を基点に車両内側に折れ変形して衝撃荷重Fを吸収する(
図5の矢線F1を参照)。また
図8に示すピラー本体部10では、低強度部位50Lとしての前部が、下側の境界部51(後側のピラーアウタパネル15の前面部16)を基点に、車両内側に折れつつ後方に潰れ変形して衝撃荷重Fを吸収する(
図8の矢線F2を参照)。そして本実施例では、
図5に示すようにピラー本体部10と各斜め枠部24,25とにおいて、低強度部位50Lと高強度部位50Hの各境界部51,52が位置合わせされている。このため前側の斜め枠部24及びピラー本体部10の前部は、高強度部位50Hに極力邪魔されることなく、スムーズに変形していくことができる。こうしてピラー本体部10の前部及び窓枠部20の前部が変形して衝撃荷重Fを吸収することにより、後述する高強度部位50Hへの衝撃荷重Fの過度の伝達を抑制することができる。
【0033】
さらに本実施例では、
図8に示す低強度部位50Lをなす前側のピラーインナパネル11aに、脆弱部31(32)としての各上ビード部31a(32a)が形成されている。また
図3に示すアッパーメンバ6にも、各上ビード部31a(32a)と一連となるように各下ビード部31b(32b)が形成されている。このためピラー本体部10の前部とアッパーメンバ6とは、対応する各ビード部31a,32a,31b,32bを起点に、スムーズに車両内側に折れ変形することができる。
【0034】
[高強度部位の衝撃伝達性]
また
図5及び
図8を参照して、フロントピラー5では、その衝撃伝達性を確保するために、ピラー本体部10の後部及び窓枠部20の後部が高強度部位50Hとされている。このため車両前突時の衝撃荷重Fは、高強度部位50Hとしてのピラー本体部10の後部と窓枠部20の後部(縦枠部21)で受けられて、ルーフパネル7等の車両ボディに伝達されることとなる。このときピラー本体部10の後部と縦枠部21が相対的に強度性に優れて変形しにくいことから、フロントドア4の開閉性を確保しつつ、衝撃荷重Fを車両ボディ3に伝達することが可能となる。そして
図5に示すようにピラー本体部10と各斜め枠部24,25とにおいて、低強度部位50Lと高強度部位50Hの各境界部51,52が位置合わせされている。このためピラー本体部10の後部と縦枠部21とは、低強度部位50Lに極力邪魔されることなく、衝撃荷重Fを車両ボディにより確実に伝達することができる。さらに後側のピラーアウタパネル15の締結部15aの直上にはリインフォースメント30が配設されているため、この締結部15aが変形するといった事態を極力回避でき、フロントドア4の開閉性をより適切に確保することが可能となっている。そして高強度部位50Hとしての後側の斜め枠部25とピラー本体部10の後部とによって、ウインドガラスWGを適切に保持することができ、このウインドガラスWGが大幅に剥がれるといった事態を防止又は低減することができる。
【0035】
以上説明した通り本実施例のフロントピラー5では、車両前突時において、ピラー本体部10及び窓枠部20の低強度部位50Lが変形して衝撃荷重Fを吸収することにより、高強度部位50Hへの衝撃荷重Fの過度の伝達を抑制することができる。そして車両前突時の衝撃荷重Fが、ピラー本体部10及び窓枠部20の高強度部位50Hで受けられる。この高強度部位50Hは、フロントドア4を支持可能な所定の強度を有しているため、フロントドア4の開閉性を確保しつつ、衝撃荷重Fを車両ボディ3に伝達することが可能となっている。そして本実施例では、ピラー本体部10と窓枠部20の各斜め枠部24,25とにおいて、低強度部位50Lと高強度部位50Hの各境界部51,52が位置合わせされている。このため低強度部位50Lの衝撃吸収が高強度部位50Hに極力阻害されず、また高強度部位50Hの衝撃伝達が低強度部位50Lに極力阻害されない構成となり、フロントドア4の開閉性の確保に資する構成となる。このため本実施例によれば、フロントピラー5の衝撃伝達性と衝撃吸収性をより適切に両立させて、フロントドア4の開閉性をより確実に確保することができる。
【0036】
さらに本実施例では、脆弱部31,32によって、低強度部位50Lの変形をスムーズに促すことが可能となり、フロントピラー5の優れた衝撃吸収性の確保に資する構成となる。特に本実施例では、上下に延設された各上ビード部31a,32a(脆弱部)によって、ピラー本体部10の低強度部位50Lの変形をより適切に促すことが可能となる。そして本実施例では、車両前側に位置する低強度部位50Lが衝撃荷重Fを吸収することにより、車両後側に位置する高強度部位50Hが、フロントドア4の開閉性を更に確実に確保しつつ、衝撃荷重Fを車両ボディ3に伝達することが可能となる。
【0037】
本実施形態の車両の前部構造は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施形態では、高強度部位と低強度部位の構成を例示したが、各強度部位の構成を限定する趣旨ではない。例えば高強度部位は、高強度の素材のみで形成することができ、リインフォースメントのみで形成することもできる。そしてリインフォースメントとして、柱状のリインフォースメントのほか、車両前後方向に延びる板状(リブ状)や棒状のリインフォースメントを例示できる。また低強度部位も、低強度の素材のみで形成することができ、脆弱部のみで形成することもできる。そして脆弱部として、ビード部のほか、貫通孔や切欠きや薄肉部を例示できる。なお脆弱部は、ピラー本体部と窓枠部の少なくとも一方に形成することができ、例えば前側の斜め枠部に、上下に延びるビード部等の脆弱部を形成することもできる。このビード部は、ピラー本体部等を縦断するように連続して形成されていてもよく、ピラー本体部等の一部分にのみ形成されていてもよく、上下に断続的に形成されていてもよい。
【0038】
また本実施形態では、ピラー本体部及び窓枠部の構成を例示したが、これら各部の構成を限定する趣旨ではない。例えばピラー本体部は、ピラーインナパネルとピラーアウタパネルの少なくとも一方のパネルを別体として形成することができる。そして別体として形成されている一方のパネルを、高強度部位と低強度部位の形成に使用することができる。また同様に窓枠部においても、縦枠部及び斜め枠部を構成する各インナパネル及び各アウタパネルの少なくとも一方のパネルを別体として形成することができる。なお縦枠部は、上方且つ後方に傾斜していてもよく、略鉛直方向に延長していてもよい。そして窓枠部は、三角形状のほか、各種の形状を取り得る。また本実施形態では、車両前突の際に低強度部位が車両内側に折れ変形する例を説明したが、低強度部位の折れ変形の方向は特に限定されない。
【符号の説明】
【0039】
2 車両
3 車両ボディ
4 フロントドア
5 フロントピラー
6 アッパーメンバ
6a 第一メンバ
6b 第二メンバ
7 ルーフパネル
10 ピラー本体部
11 ピラーインナパネル
11a 前側のピラーインナパネル
11b 後側のピラーインナパネル
11H 貫通孔
12 前側のピラーアウタパネル
13 前端面部
13a 前端フランジ
14 (前側のピラーアウタパネルの)後端
15 後側のピラーアウタパネル
15a 締結部
16 前面部
16a 前部フランジ
17 後面部
17a 後部フランジ
20 窓枠部
21 縦枠部
22 縦インナパネル
22a 第一フランジ部
22b 第三フランジ部
23 縦アウタパネル
23a 第二フランジ部
23b 第四フランジ部
24 前側の斜め枠部
25 後側の斜め枠部
26 斜インナパネル
26a 第五フランジ部
26b 第七フランジ部
27 斜アウタパネル
27a 第六フランジ部
27b 第八フランジ部
28 サイメンアウタパネル
29 見切り線
30 リインフォースメント
31 前側の脆弱部
31a 前上ビード部
32 後側の脆弱部
32a 後上ビード部
31b 前下ビード部
32b 後下ビード部
50H 高強度部位
50L 低強度部位
51 下側の境界部(ピラー本体部における高強度部位と低強度部位の境界部)
52 上側の境界部(斜め枠部における高強度部位と低強度部位の境界部)
FG フロントガラス
WG ウインドガラス
X 合流箇所