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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】エンジン装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/18 20060101AFI20231011BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20231011BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20231011BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20231011BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20231011BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F01N3/18 D
F02D41/06
F02D41/34
F02D43/00 301B
F02D43/00 301J
F02P5/15 E
F01N3/24 R
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020084298
(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公開番号】P2021179189
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 晃次
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏和
(72)【発明者】
【氏名】井戸側 正直
(72)【発明者】
【氏名】内田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】今井 創一
(72)【発明者】
【氏名】溝口 紘晶
(72)【発明者】
【氏名】大久保 拓哉
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-105200(JP,A)
【文献】特開2018-184869(JP,A)
【文献】特開2018-9562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/18
F02D 41/06
F02D 41/34
F02D 43/00
F02P 5/15
F01N 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に燃料を噴霧する筒内噴射弁と前記筒内噴射弁から噴霧される燃料に点火可能な点火プラグとを有するエンジンと、
前記エンジンの排気を浄化する浄化触媒を有する浄化装置と、
前記筒内噴射弁による燃料噴射と前記点火プラグによる点火とを制御する制御装置と、
を備えるエンジン装置であって、
前記制御装置は、前記浄化装置の暖機として、前記筒内燃料噴射弁からの最後の燃料噴射を膨張行程で行なう膨張行程噴射と膨張行程の燃料噴射に同期して前記点火プラグにより点火する膨張行程点火とを用いて暖機する膨張行程噴射暖機を実行する際、所定のタイミングで燃料噴射モードが前記膨張行程噴射であることを確定し、その後のタイミングで点火時期を確定するものであり、
前記制御装置は、前記膨張行程噴射暖機を終了したときに、点火時期を確定するタイミングにおいて既に燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定しているときには、点火時期として前回の点火時期を保持する、
ことを特徴とするエンジン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエンジン装置としては、燃焼室の内部に燃料を噴射する筒内噴射弁と燃焼室の頂部付近に設置された点火プラグとを有するエンジンを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このエンジン装置では、圧縮行程において筒内噴射弁から燃料噴射を行ない、点火プラグ近傍に成層混合気を形成して成層燃焼を行う燃焼モード運転中にノッキング発生が検出されると、点火時期を遅角する。また、点火時期に応じた燃料噴射時期の遅角量が、基準量より小さい場合には、遅角量に応じて遅角した噴射時期において圧縮行程における燃料噴射を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-131948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のエンジン装置では、一般的に、排気を浄化する触媒を有する浄化装置を暖機するときには点火時期を遅角し、より多くの熱を浄化装置側に供給することが行なわれ、点火時期として膨張行程が選択される場合もある。この場合、点火をより確実にするために点火に同期して燃料噴射を行なう膨張行程噴射も考えられている。こうした膨張行程噴射では、エンジンの負荷率などから定まる目標燃料噴射量の過半を吸気行程で1回または複数回に分けて燃料噴射し、膨張行程では最後の燃料噴射として行なわれる。このため、燃料噴射モードとして膨張行程噴射を確定するタイミングは、1回目の燃料噴射より前、例えば圧縮上死点(TDC:Top Dead Center)より180度以上前(例えばBTDC270(Before TDC 270度)のタイミングとなる。一方、点火時期の確定のタイミングは、膨張行程での点火の場合、圧縮上死点より前(例えばBTDC90)でよい。このような場合に、燃料噴射モードを確定するタイミングと点火時期を確定するタイミングとの間で膨張行程噴射の終了が指令されると、燃料噴射は膨張行程噴射で行なわれ、点火は膨張行程で行なわれない場合が生じる。この場合、エンジンの燃焼の安定性を欠いてしまう。
【0005】
本発明のエンジン装置は、膨張行程噴射を終了するときにエンジンの燃焼の安定性が欠けるのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジン装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のエンジン装置は、
燃焼室に燃料を噴霧する筒内噴射弁と前記筒内噴射弁から噴霧される燃料に点火可能な点火プラグとを有するエンジンと、
前記エンジンの排気を浄化する浄化触媒を有する浄化装置と、
前記筒内噴射弁による燃料噴射と前記点火プラグによる点火とを制御する制御装置と、
を備えるエンジン装置であって、
前記制御装置は、前記浄化装置の暖機として、前記筒内燃料噴射弁からの最後の燃料噴射を膨張行程で行なう膨張行程噴射と膨張行程の燃料噴射に同期して前記点火プラグにより点火する膨張行程点火とを用いて暖機する膨張行程噴射暖機を実行する際、所定のタイミングで燃料噴射モードが前記膨張行程噴射であることを確定し、その後のタイミングで点火時期を確定するものであり、
前記制御装置は、前記膨張行程噴射暖機を終了したときに、点火時期を確定するタイミングにおいて既に燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定しているときには、点火時期として前回の点火時期を保持する、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明のエンジン装置では、浄化装置の暖機として、筒内燃料噴射弁からの最後の燃料噴射を膨張行程で行なう膨張行程噴射と膨張行程の燃料噴射に同期して点火プラグにより点火する膨張行程点火とを用いて暖機する膨張行程噴射暖機を実行する際には、所定のタイミングで燃料噴射モードが膨張行程噴射であることを確定し、その後のタイミングで点火時期を確定する。膨張行程噴射暖機を終了したときに、点火時期を確定するタイミングにおいて既に燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定しているときには、点火時期として前回の点火時期を保持する。これにより、燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定されたタイミングから点火時期を確定するタイミングまでの間に膨張行程噴射暖機が終了されても、燃料噴射モードが膨張行程噴射のときの点火時期が保持されるから、膨張行程噴射と点火のタイミングがズレることを抑制することができる。この結果、膨張行程噴射を終了するときにエンジンの燃焼の安定性が欠けるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例としてのエンジン装置10の構成の概略を示す構成図である。
図2】ECU70により実行される急速暖機点火時期制御の一例を示すフローチャートである。
図3】対象の気筒とその一つ前の気筒におけるクランク角に対する燃料噴射と点火の様子の一例を示す。
図4】急速暖機時のエンジン12の回転数Neと点火時期Tfの時間変化の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのエンジン装置10の構成の概略を示す構成図である。実施例のエンジン装置10は、図示するように、エンジン12と、エンジン12を制御する電子制御ユニット(以下、「ECU」という)70とを備える。なお、このエンジン装置10は、エンジン12からの動力だけを用いて走行する自動車や、エンジン12に加えてモータを備えるハイブリッド自動車、エンジン12からの動力を用いて作動する建設設備などに搭載される。実施例では、エンジン装置10が自動車に搭載されている場合を想定して説明する。
【0012】
エンジン12は、ガソリンや軽油などの燃料を用いて吸気・圧縮・膨張・排気の4行程によって動力を出力する内燃機関として構成されている。このエンジン12は、筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁26と、点火プラグ30とを有する。筒内噴射弁26は燃焼室29の頂部の略中央に配置されており、燃料をスプレー状に噴射する。点火プラグ30は、筒内噴射弁26からスプレー状に噴霧される燃料に点火できるように筒内噴射弁26の近傍に配置されている。エンジン12は、エアクリーナ22によって清浄された空気を吸気管25を介して燃焼室29に吸入し、吸気行程や圧縮行程において筒内噴射弁26から1回又は複数回に亘って燃料を噴射し、点火プラグ30による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギによって押し下げられるピストン32の往復運動をクランクシャフト16の回転運動に変換する。
【0013】
エンジン12の燃焼室29から排気管33に排出される排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化触媒(三元触媒)34aを有する浄化装置34を介して外気に排出される。
【0014】
ECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートを備える。ECU70には、エンジン12を制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。ECU70に入力される信号としては、例えば、クランクシャフト16の回転位置を検出するクランクポジションセンサ40からのクランク角θcrや、エンジン12の冷却水の温度を検出する水温センサ42からの冷却水温Tw、吸気バルブ28を開閉するインテークカムシャフトの回転位置および排気バルブ31を開閉するエキゾーストカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ44からのカム角θci,θcoを挙げることができる。また、吸気管25に設けられたスロットルバルブ24のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ46からのスロットル開度THや、吸気管25に取り付けられたエアフローメータ48からの吸入空気量Qa、吸気管25に取り付けられた温度センサ49からの吸気温Ta、吸気管25内の圧力を検出する吸気圧センサ58からの吸気圧Pinも挙げることができる。更に、浄化装置34の浄化触媒34aの温度を検出する温度センサ34bからの触媒温度Tcや、排気管33に取り付けられた空燃比センサ35aからの空燃比AF、排気管33に取り付けられた酸素センサ35bからの酸素信号O2、シリンダブロックに取り付けられてノッキングの発生に伴って生じる振動を検出するノックセンサ59からのノック信号Ksも挙げることができる。
【0015】
ECU70からは、エンジン12を制御するための各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。ECU70から出力される信号としては、例えば、スロットルバルブ24のポジションを調節するスロットルモータ36への駆動制御信号や、筒内噴射弁26への駆動制御信号、点火プラグ30への駆動制御信号を挙げることもできる。
【0016】
ECU70は、クランクポジションセンサ40からのクランク角θcrに基づいて、クランクシャフト16の回転数、即ち、エンジン12の回転数Neを演算している。また、ECU70は、エアフローメータ48からの吸入空気量Qaとエンジン12の回転数Neとに基づいて、エンジン12の負荷としての体積効率(エンジン12の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の比)KLも演算している。
【0017】
こうして構成されるエンジン装置10では、ECU70は、エンジン12が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とに基づいて運転されるようにエンジン12の吸入空気量制御や、燃料噴射制御、点火制御を行なう。吸入空気量制御では、ECU70は、エンジン12の目標トルクTe*に基づいて目標空気量Qa*を設定し、吸入空気量Qaが目標空気量Qa*となるように目標スロットル開度TH*を設定し、スロットルバルブ24のスロットル開度THが目標スロットル開度TH*となるようにスロットルモータ36を制御する。燃料噴射制御では、ECU70は、エンジン12の回転数Neと体積効率KLとに基づいて空燃比AFが目標空燃比AF*(例えば理論空燃比)となるように筒内噴射弁26の目標燃料噴射量Qfd*を設定し、筒内噴射弁26から目標燃料噴射量Qfd*の燃料が1回又は複数回に亘って噴射されるように筒内噴射弁26を制御する。点火制御では、ECU70は、エンジン12の回転数Neと負荷率KLとに基づいて目標点火時期Tf*を設定し、目標点火時期Tf*で点火が行なわれるようにイグニッションコイル38を制御する。
【0018】
次に、こうして構成された実施例のエンジン装置10の動作、特に、浄化装置34の浄化触媒(三元触媒)34aを急速暖機する際の動作について説明する。浄化装置34の急速暖機は、触媒温度Tcが活性化する温度未満の所定温度以下の条件やアクセルオフの条件が成立しているときに行なわれる。急速暖機は、エンジン12の始動時の水温Twが第1所定温度(例えば35度や45度など)未満のときには、吸気行程で1回~3回の燃料噴射を行ない、より迅速に触媒暖機を行なってエミッションをよくするために最終の燃料噴射を膨張行程で行なうと共に膨張行程における燃料噴射と同期して点火する膨張行程噴射暖機により行なわれる。一方、エンジン12の始動時の水温が第1所定温度以上のときには、エミッションを良好に保つために最終の燃料噴射を圧縮行程で行なうと共に膨張行程で点火する圧縮行程噴射暖機により行なわれる。膨張行程噴射暖機では、できる限り点火時期Tfを遅角するように制御される。点火時期Tfを遅角すると、燃焼効率が低下するため、吸入空気量を増やすことによりエンジン12の回転数Neを維持する。この結果として、燃焼ガス量が増えるため、エミッション成分の絶対量も増えるが、触媒暖機は促進される。圧縮行程噴射暖機では、エミッションを良好に保持しながら触媒暖機を行なうため、点火時期Tfの遅角量は膨張行程噴射暖機のときに比して小さくなる。実施例では、膨張行程噴射暖機が選択されるか圧縮行程噴射暖機が選択されるかにより、点火時期Tfのベース値としてのベース点火時期Tfbaseと、エンジン12の回転数Neを暖機用回転数Neset(例えば1300rpmや1500rpmなど)に保つために点火時期Tfの遅角量を補正するフィードバックの補正値Tkの遅角側ガード値Tfgrdとを変更する。このため、膨張行程噴射暖機のときのベース点火時期Tfb1および遅角側ガード値Tfg1と圧縮行程噴射暖機のときのベース点火時期Tfb2および遅角側ガード値Tfg2とを予め定めてマップとして記憶し、膨張行程噴射暖機が選択されたときにはマップからベース点火時期Tfb1および遅角側ガード値Tfg1をベース点火時期Tfbaseおよび遅角側ガード値Tfgrdに設定して用い、圧縮行程噴射暖機が選択されたときにはマップからベース点火時期Tfb2および遅角側ガード値Tfg2をベース点火時期Tfbaseおよび遅角側ガード値Tfgrdに設定して用いる。なお、膨張行程噴射暖機のときのベース点火時期Tfb1としてはATDC20(After TDC(Top Dead Center:上死点)20度)やATDC18などを用いることができ、遅角側ガード値Tfg1としては3度や5度などを用いることができる。また、圧縮行程噴射暖機のときのベース点火時期Tfb2としては膨張行程噴射暖機のときのベース点火時期Tfb1より進角側だあり、例えばATDC10やATDC15などを用いることができ、遅角側ガード値Tfg2としては3度や5度などを用いることができる。
【0019】
また、急速暖機は、シフトポジションがニュートラルポジション(Nポジション)のときとドライブポジション(Dポジション)ときに実行される。実施例では、シフトポジションにより上述の第1所定温度を切り替える。即ち、シフトポジションにより膨張行程噴射暖機を選択するか圧縮行程噴射暖機を選択するかを判定するエンジン12の始動時の水温Twが第1所定温度を切り替えるのである。例えば、Nポジションのときには第1所定温度として45度を用い、Dポジションのときには第1所定温度として35度を用いるものとし、Nポジションのときの方がDポジションのときに比して膨張行程噴射暖機が選択しやすいようにしてもよい。
【0020】
急速暖機が標高の高い高地で行なわれるときには、空気密度が小さくなることからエンジン12の出力トルクが低下するため、膨張行程噴射暖機と圧縮行程噴射暖機のいずれの場合にもベース点火時期Tfbaseを進角側に補正する。
【0021】
次に、急速暖機の際の点火時期について説明する。図2は、浄化装置34の急速暖機の際にECU70により実行される急速暖機点火時期制御の一例を示すフローチャートである。以下では、膨張行程噴射暖機が選択されているときを想定して説明する。
【0022】
急速暖機点火時期制御が実行されると、ECU70は、先ず、エンジン12の回転数Neを入力する処理(ステップS100)と、点火時期Tfから第1レート値Trt1を加えた値を新たな点火時期Tfとして計算(確定)する処理(ステップS110)とを、エンジン12の回転数Neが所定回転数Neref以上に至るまで(ステップS120)、繰り返す。急速暖機では、先ず、吸入空気量を増加してエンジン12の回転数Neを暖機用回転数Neset(例えば1300rpmや1500rpmなど)に上昇させると同時に点火時期をゆっくりと遅角するのである。したがって、第1レート値Trt1は、エンジン12の回転数Neの上昇を阻害しない程度の値を用いるのが好ましい。また、所定回転数Nerefは、暖機用回転数Nesetより若干小さい値を用いることができる。また、繰り返し頻度は、点火時期Tfの計算(確定)を繰り返し頻度であり、例えば、4気筒エンジンの場合にはクランク角180度毎の頻度となり、6気筒エンジンの場合にはクランク角120度毎の頻度となる。以下の繰り返し処理でも同様である。
【0023】
エンジン12の回転数Neが所定回転数Neref以上に至って暖機用回転数Neset(例えば1300rpmや1500rpmなど)程度になると、点火時期Tfから第2レート値Trt2を加えた値を新たな点火時期Tfとして計算(確定)する処理(ステップS130)を、点火時期Tfとベース点火時期Tfbaseとの差分が閾値Tfref1以下になるまで繰り返す。この処理はエンジン12の回転数Neを暖機用回転数Nesetを保持しながら点火時期Tfをベース点火時期Tfbaseにする処理となる。第2レート値Trt2は、エンジン12の回転数Neを暖機用回転数Nesetを保持することができる程度の値であり、第1レート値Trt1より大きな値を用いることができる。閾値Tfref1は、第2レート値Trt2やこれより若干小さい値を用いることができる。ベース点火時期Tbaseは、上述したように、膨張行程噴射暖機が選択されているときにはベース点火時期Tfb1が用いられ、圧縮行程噴射暖機が選択されているときにはベース点火時期Tfb2が用いられる。
【0024】
ステップS140で肯定的判定がなされると、膨張行程噴射暖機(あるいは圧縮行程噴射暖機)が開始される。膨張行程噴射暖機では、対象の気筒のクランク角が点火時期Tfに至る直前に筒内噴射弁26からスプレー状に燃料噴射が行なわれ、点火時期Tfに至ったときに点火プラグ30から点火される。なお、点火時期Tfの計算は、BTDC90(Before TDC 90度)などに開始される。
【0025】
こうして膨張行程噴射暖機(あるいは圧縮行程噴射暖機)が開始されると、暖機終了移行条件が成立するまでエンジン12の回転数Neに基づく点火時期Tfのフィードバック制御を繰り返す(ステップS150~S190)。暖機終了移行条件としては、触媒温度Tcが活性化する温度以上である条件やエンジン12の冷却水温Twが第2所定温度(例えば70度など)以上である条件、積算吸入空気量が所定量以上である条件、アクセルオンとされた条件などのうちのいずれか一つあるいは複数が成立したときとすることができる。フィードバック制御の繰り返し頻度は、上述したように点火時期Tfの計算(確定)を繰り返し頻度である。フィードバック制御では、先ず、エンジン12の回転数Neを入力し(ステップS150)、エンジン12の回転数Neと暖機用回転数Nesetとの差分(Ne-Neset)に対して比例項と積分項とによるフィードバックの補正値Tkを計算し(ステップS160)、補正値Tkを遅角側ガード値Tfgrdによりガードする(ステップS170)。目標回転数Ne*は、暖機用回転数Neset(例えば1300rpmや1500rpmなど)である。遅角側ガード値Tfgrdは、膨張行程噴射暖機が選択されているときには遅角側ガード値Tfg1が用いられ、圧縮行程噴射暖機が選択されているときに遅角側ガード値Tfg2が用いられる。そして、ベース点火時期Tfbaseに補正値Tkを加えて点火時期Tfを計算(確定)する(ステップS180)。例えば、ベース点火時期TfbaseをATDC20とし遅角側ガード値Tfgrdを5度とすれば、点火時期TfはATDC25までの範囲内で計算(確定)される。
【0026】
ステップS190で暖機終了移行条件が成立していると判定したときには、点火時期Tfから第3レート値Trt3を減じた値を新たな点火時期Tfとして計算(確定)する処理(ステップS200)を点火時期Tfが終了判定点火時期Tfendに至るまで(ステップS210)、繰り返す。即ち、エンジン12の回転数Neを暖機用回転数Nesetで保持した状態で点火時期Tfが終了判定点火時期Tfref2に至るように比較的迅速に進角するのである。第3レート値Trt3は、比較的迅速に進角させる必要から、第2レート値Trt2より大きな値を用いるのが好ましい。終了判定点火時期Tfendは、例えばTDCやTDC近傍の値を用いることができる。なお、フィードバックの補正値Tkについては値0にクリアされる。
【0027】
点火時期Tfが終了判定点火時期Tfendに至ると、膨張行程噴射(あるいは圧縮行程噴射)を終了する。続いて、燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定しているか否かを判定し(ステップS220)、燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定していると判定したときには点火時期Tfとして前回の点火時期Tfを保持する(ステップS230)。燃料噴射モードは吸気行程における1回目の燃料噴射より前のタイミング(例えばBDTC270など)で確定され、点火時期Tfは圧縮上死点(TDC)より若干前のタイミング(例えばBTDC90など)により計算(確定)される。このため、点火時期Tfが終了判定点火時期Tfref2に至ることにより、燃料噴射モードが確定するタイミングと点火時期Tfの計算(確定)のタイミングとの間に膨張行程噴射が終了した場合には、膨張行程噴射に同期して点火が行なわれない場合が生じる。この場合、実施例では、前回の点火時期Tfを保持するから、膨張行程噴射に同期した点火を行なうことができる。図3に、対象の気筒とその一つ前の気筒におけるクランク角に対する燃料噴射と点火の様子の一例を示す。なお、図3では、BTDC90などをB90などと略し、ATDC90などをA90などと略している。また、図3中、ハッチングされた四角は燃料噴射を意味しており、ハッチングされた四角の上の下向きの太矢印は点火を意味している。この例では、エンジン12としては4気筒を想定しており、燃料噴射モードの確定タイミングとして吸気行程を開始するBDTC270を用い、点火時期Tfの計算(確定)のタイミングとしてBTDC90を用い、膨張行程噴射の開始時期の計算のタイミングとしてTDCを用いた。また、この例では、1回目の燃料噴射を吸気行程で行ない、2回目の燃料噴射を圧縮行程で行ない、3回目の燃料噴射(最終の燃料噴射)を膨張行程で行なうものとした。図示するように、膨張行程噴射の終了が対象の気筒の燃料噴射確定タイミングであるBTDC270の後であって点火時期の計算(確定)のタイミングであるBTDC90の前(BTDC270からBTDC90の間)に行なわれた場合を考えると、点火時期Tfを一つ前の気筒の点火時期Tf(前回値)とすることにより膨張行程噴射に同期して点火することができるのが解る。
【0028】
次に、点火時期Tfから第4レート値Trt4を減じた値を新たな点火時期Tfとして計算(確定)する処理(ステップS240)を、点火時期Tfと急速暖機の終了後に設定される目標点火時期Tf*との差分が閾値Tfref2未満に至るまで(ステップS250)、繰り返す。即ち、エンジン12の回転数Neを暖機用回転数Nesetで保持した状態で点火時期Tfが除変により目標点火時期Tf*に至るように進角するのである。第4レート値Trt4は、除変により進角させる必要から、第3レート値Trt3より小さい値が用いられる。
【0029】
ステップS220で燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定していない、即ち、通常噴射などで確定していると判定したときには、前回の点火時期Tfを保持することなく、点火時期Tfから第4レート値Trt4を減じた値を新たな点火時期Tfとして計算(確定)する処理(ステップS240)を、点火時期Tfと急速暖機の終了後に設定される目標点火時期Tf*との差分が閾値Tfref2未満に至るまで(ステップS250)、繰り返す。
【0030】
図4は、急速暖機時のエンジン12の回転数Neと点火時期Tfの時間変化の一例を示す説明図である。図4の点火時期Tfでは下方側を遅角側として上方側を進角側として示した。急速暖機の実行条件が成立した時間T1では、エンジン12の回転数Neを暖機用回転数Nesetに上昇させると同時に点火時期Tfを第1レート値Trt1を用いたレート処理で遅角する処理を開始する。エンジン12の回転数Neが暖機用回転数Nesetに至った時間T2では、エンジン12の回転数Neを暖機用回転数Nesetで保持しながら点火時期Tfを第2レート値Trt2を用いたレート処理で比較的迅速に遅角する処理を開始する。点火時期Tfがベース点火時期Tfbaseまで遅角した時間T3から暖機終了移行条件が成立する時間T4までは、エンジン12の回転数Neに基づく点火時期Tfのフィードバック制御が行なわれる。暖機終了移行条件が成立する時間T4では、エンジン12の回転数Neを暖機用回転数Nesetで保持しながら点火時期Tfを第3レート値Trt3を用いたレート処理で比較的迅速に進角する処理を開始する。そして、点火時期Tfが終了判定点火時期Tfref2に至った時間T5では、膨張行程噴射(あるいは圧縮行程噴射)を終了し、点火時期Tfを第4レート値Trt4を用いたレート処理で除変させて急速暖機の終了後に設定される目標点火時期Tf*とする処理を開始する。このとき、エンジン12の回転数Neは急速暖機の終了後に設定される目標回転数Ne*となるように調整される。図3では、浄化装置34の暖機が完了したことにより終了する場合を想定し、エンジン12の回転数Neをアイドル回転数となるようにした。点火時期Tfが目標点火時期Tf*に至った時間T6で急速暖機が完全に終了し、エンジン12からアクセル開度に応じたトルクを出力する通常の点火時期Tfとなる。
【0031】
以上説明した実施例のエンジン装置10では、膨張行程噴射を終了したときに、燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定していると判定したときには点火時期Tfとして前回の点火時期Tfを保持する。これにより、最後の膨張行程噴射に同期して点火することができる。この結果、膨張行程噴射を終了するときに、膨張行程噴射に同期して点火されないことにより生じ得るエンジンの燃焼の安定性が欠ける事象が生じるのを抑制することができる。
【0032】
もとより、エンジン12の回転数Neが暖機用回転数Nesetに至った以降はエンジン12の回転数Neと暖機用回転数Nesetとの差分を用いて得られるフィードバックの補正値Tkをベース点火時期Tfbaseに加えて点火時期Tfを計算するから、膨張行程噴射暖機を行なうときでもエンジン12の回転数Neを安定させながら点火時期Tfの遅角した状態を保持することができる。また、点火時期Tfをベース点火時期Tfbaseより遅角させることができるから、より迅速に浄化装置34を暖機することができる。しかも、遅角側ガード値Tfgrdでガードするから、必要以上に点火時期Tfを遅角させることを抑止することができる。
【0033】
さらに、実施例のエンジン装置10では、膨張行程噴射暖機を終了するときには、点火時期Tfを比較的迅速に終了判定点火時期Tfendに至るように除変し、その後、点火時期Tfを比較的ゆっくりと急速暖機の終了後に設定される目標点火時期Tf*になるように除変する。これにより、膨張行程噴射暖機をスムースに終了させることができると共に点火時期Tfを急速暖機の終了後の目標点火時期Tf*とする際の点火時期Tfの急変を抑制することができる。
【0034】
実施例のエンジン装置10では、急速暖機の完了による終了の際に燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定していると判定したときには点火時期Tfとして前回の点火時期Tfを保持するものとした。しかし、膨張行程噴射暖機から圧縮行程噴射暖機に切り替えるために膨張行程噴射暖機を終了する際に燃料噴射モードが膨張行程噴射で確定していると判定したときには点火時期Tfとして前回の点火時期Tfを保持するものとしてもよい。
【0035】
実施例のエンジン装置10は、例えば後段に自動変速機を備える自動車に搭載されるものとしたり、走行用の動力を出力するモータと共にハイブリッド自動車に搭載されるものとしてもよい。
【0036】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン12が「エンジン」に相当し、浄化装置34が「浄化装置」に相当し、ECU70が「制御装置」に相当する。
【0037】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0038】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、エンジン装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 エンジン装置、12 エンジン、16 クランクシャフト、22 エアクリーナ、24 スロットルバルブ、25 吸気管、26 筒内噴射弁、34b 温度センサ、28 吸気バルブ、29 燃焼室、30 点火プラグ、31 排気バルブ、32 ピストン、33 排気管、34 浄化装置、34a 浄化触媒、35a 空燃比センサ、35b 酸素センサ、36 スロットルモータ、38 イグニッションコイル、40 クランクポジションセンサ、42 水温センサ、44 カムポジションセンサ、46 スロットルバルブポジションセンサ、48 エアフローメータ、49 温度センサ、58 吸気圧センサ、59 ノックセンサ、70 電子制御ユニット。
図1
図2
図3
図4