(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】光送信装置、その制御方法および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G02F 1/015 20060101AFI20231011BHJP
H04B 10/516 20130101ALN20231011BHJP
【FI】
G02F1/015 502
H04B10/516
(21)【出願番号】P 2020088192
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】石川 務
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-066737(JP,A)
【文献】特開2014-240889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0110436(US,A1)
【文献】特開2012-217127(JP,A)
【文献】特開2002-026816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
H04B 10/00-10/90
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーム導波路を有するマッハツェンダ変調器と、
前記マッハツェンダ変調器に電圧を印加することで、前記アーム導波路を伝搬する光の位相を制御する位相制御部と、
前記マッハツェンダ変調器から出射される光を遮蔽することが可能なシャッタと、
前記シャッタの開閉を制御するシャッタ制御部と、
前記マッハツェンダ変調器の前記アーム導波路を伝搬する光を変調する変調制御部と、を具備し、
前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相制御部は、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ、前記所定の範囲を超える側とは反対側に前記電圧をシフト
させ、
前記マッハツェンダ変調器および前記シャッタは1つのユニットを形成し、
前記変調制御部が複数の前記ユニットのうち第1ユニットのマッハツェンダ変調器において前記光の変調を行い、かつ前記位相制御部が前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器に印加する前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記変調制御部は前記複数のユニットのうち第2ユニットのマッハツェンダ変調器において前記光の変調を行い、前記位相制御部は、前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器と同じ電圧を前記第2ユニットのマッハツェンダ変調器に印加し、
前記第2ユニットのマッハツェンダ変調器への前記電圧の印加の後、前記シャッタ制御部は前記第1ユニットのシャッタを閉じ、かつ前記第2ユニットのシャッタを開き、
前記第1ユニットのシャッタを閉じた後、前記位相制御部は、前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器を伝搬する前記光の位相が2π変化するのに対応する量だけ前記電圧をシフトさせる光送信装置。
【請求項2】
前記マッハツェンダ変調器は2つの前記アーム導波路を有し、
前記2つのアーム導波路それぞれに第1電極が設けられ、
前記位相制御部は、2つの前記第1電極のうち一方に第1電圧と第2電圧との和である第3電圧を印加し、前記2つの第1電極のうち他方に前記第1電圧と前記第2電圧との差である第4電圧を印加することで、前記光の位相を制御し、
前記
第2電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相制御部は、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ前記第2電圧をシフトさせる請求項1に記載の光送信装置。
【請求項3】
前記位相制御部は、2つの前記アーム導波路間の光の位相差をπまたはπと等価な値、あるいは0.5πまたは0.5πと等価な値に調整する請求項1または請求項2に記載の光送信装置。
【請求項4】
前記電圧の所定の範囲の広さは、-π以上π以下の前記位相の範囲に対応する範囲以上であり、-3π以上3π以下の前記位相の範囲に対応する範囲以下である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光送信装置。
【請求項5】
アーム導波路を有するマッハツェンダ変調器に電圧を入力することで、前記アーム導波路を伝搬する光の位相を制御する工程と、
前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ、前記所定の範囲を超える側とは反対側に前記電圧をシフトさせる工程と、
前記マッハツェンダ変調器から出射される光を遮蔽することが可能なシャッタを開閉する工程と、
前記マッハツェンダ変調器の前記アーム導波路を伝搬する光を変調する工程と、を有し、
前記マッハツェンダ変調器および前記シャッタは1つのユニットを形成し、
前記変調する工程において、複数の前記ユニットのうち第1ユニットのマッハツェンダ変調器において前記光の変調を行い、かつ前記位相を制御する工程において、前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器に印加する前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記複数のユニットのうち第2ユニットのマッハツェンダ変調器において前記光の変調を行い、かつ前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器と同じ電圧を前記第2ユニットのマッハツェンダ変調器に印加し、
前記第2ユニットのマッハツェンダ変調器への前記電圧の印加の後、前記シャッタを開閉する工程を行い、前記第1ユニットのシャッタを閉じ、かつ前記第2ユニットのシャッタを開き、
前記第1ユニットのシャッタを閉じた後、前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器を伝搬する前記光の位相が2π変化するのに対応する量だけ前記電圧をシフトさせる光送信装置の制御方法。
【請求項6】
コンピュータに、
アーム導波路を有するマッハツェンダ変調器に電圧を入力することで、前記アーム導波路を伝搬する光の位相を制御する処理と、
前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ、前記所定の範囲を超える側とは反対側に前記電圧をシフトさせる処理と、
前記マッハツェンダ変調器から出射される光を遮蔽することが可能なシャッタを開閉する処理と、
前記マッハツェンダ変調器の前記アーム導波路を伝搬する光を変調する処理と、を実行させ、
前記マッハツェンダ変調器および前記シャッタは1つのユニットを形成し、
前記変調する処理において、複数の前記ユニットのうち第1ユニットのマッハツェンダ変調器において前記光の変調を行い、かつ前記位相を制御する処理において、前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器に印加する前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記複数のユニットのうち第2ユニットのマッハツェンダ変調器において前記光の変調を行い、かつ前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器と同じ電圧を前記第2ユニットのマッハツェンダ変調器に印加し、
前記第2ユニットのマッハツェンダ変調器への前記電圧の印加の後、前記シャッタを開閉する処理を行い、前記第1ユニットのシャッタを閉じ、かつ前記第2ユニットのシャッタを開き、
前記第1ユニットのシャッタを閉じた後、前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器を伝搬する前記光の位相が2π変化するのに対応する量だけ前記電圧をシフトさせる光送信装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は光送信装置、その制御方法および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体層で形成され、光を変調するマッハツェンダ変調器が開発されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-164243号公報
【文献】特開2016-111398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光はマッハツェンダ変調器のアーム導波路を伝搬する。マッハツェンダ変調器に電圧を印加することで、光の位相を制御することができる。マッハツェンダ変調器における光の位相は、マッハツェンダ変調器に加わる応力、温度などによって変化することがある。自動バイアス制御(ABC:Auto Bias Control)によって電圧を制御することで、光の位相を最適な位相とする。自動バイアス制御による位相の調整範囲を広げるためには、マッハツェンダ変調器に印加する電圧を大きくすればよい。しかし電圧を大きくすることで、消費電力の増大、光損失の増大、光変調器の大型化などの問題が生じる恐れがある。そこで、光の位相を制御するための電圧の増大を抑制することが可能な光送信装置、その制御方法および制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る光送信装置は、アーム導波路を有するマッハツェンダ変調器と、前記マッハツェンダ変調器に電圧を印加することで、前記アーム導波路を伝搬する光の位相を制御する位相制御部と、を具備し、前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相制御部は、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ、前記所定の範囲を超える側とは反対側に前記電圧をシフトさせる。
【0006】
本開示に係る光送信装置の制御方法は、アーム導波路を有するマッハツェンダ変調器に電圧を入力することで、前記アーム導波路を伝搬する光の位相を制御する工程と、前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ、前記所定の範囲を超える側とは反対側に前記電圧をシフトさせる工程と、を有する。
【0007】
本開示に係る光送信装置の制御プログラムは、コンピュータに、アーム導波路を有するマッハツェンダ変調器に電圧を入力することで、前記アーム導波路を伝搬する光の位相を制御する処理と、前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ、前記所定の範囲を超える側とは反対側に前記電圧をシフトさせる処理と、を実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば光の位相を制御するための電圧の増大を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは第1実施形態に係る光変調器を例示するブロック図である。
【
図1B】
図1Bは制御部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は電圧と位相の変化量(位相調整量)との関係を例示する図である。
【
図4】
図4は親MZ変調器の動作点を示す図である。
【
図5】
図5は子MZ変調器の動作点を示す図である。
【
図6】
図6は制御部が実行する処理を例示するフローチャートである。
【
図7】
図7は第2実施形態に係る光送信装置を例示するブロック図である。
【
図8】
図8は制御部が実行する処理を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0011】
本開示の一形態は、(1)アーム導波路を有するマッハツェンダ変調器と、前記マッハツェンダ変調器に電圧を印加することで、前記アーム導波路を伝搬する光の位相を制御する位相制御部と、を具備し、前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相制御部は、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ、前記所定の範囲を超える側とは反対側に前記電圧をシフトさせる光送信装置である。電圧のシフトにより電圧が所定の範囲内に収まる。この結果、光の位相を制御するための電圧の増大を抑制することができる。
(2)前記マッハツェンダ変調器は2つの前記アーム導波路を有し、前記2つのアーム導波路それぞれに第1電極が設けられ、前記位相制御部は、2つの前記第1電極のうち一方に第1電圧と第2電圧との和である第3電圧を印加し、前記2つの第1電極のうち他方に前記第1電圧と前記第2電圧との差である第4電圧を印加することで、前記光の位相を制御し、前記2電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相制御部は、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ前記第2電圧をシフトさせてもよい。第2電圧を変化させればよいため、制御が簡単である。
(3) 前記位相制御部は、2つの前記アーム導波路間の光の位相差をπまたはπと等価な値、あるいは0.5πまたは0.5πと等価な値に調整してもよい。光の位相差をπと等価な値とすることで、マッハツェンダ変調器を消光点に調整することができる。光の位相差を0.5πと等価な値とすることで、変調光の位相を直交させることができる。
(4)前記電圧の所定の範囲の広さは、-π以上π以下の前記位相の範囲に対応する範囲以上であり、-3π以上3π以下の前記位相の範囲に対応する範囲以下でもよい。シフト後の電圧は、所定の範囲の中央の値に近づき、当該範囲内に収まる。このため電圧の増大を抑制することができる。
(5)前記マッハツェンダ変調器から出射される光を遮蔽することが可能なシャッタと、前記シャッタの開閉を制御するシャッタ制御部と、前記マッハツェンダ変調器の前記アーム導波路を伝搬する光を変調する変調制御部と、を具備し、前記マッハツェンダ変調器および前記シャッタは1つのユニットを形成し、前記変調制御部が複数の前記ユニットのうち第1ユニットの前記マッハツェンダ変調器において前記光の変調を行い、かつ前記位相制御部が前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器に印加する前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記変調制御部は前記複数のユニットのうち第2ユニットのマッハツェンダ変調器において前記光の変調を行い、前記位相制御部は、前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器と同じ電圧を前記第2ユニットのマッハツェンダ変調器に印加し、前記第2ユニットのマッハツェンダ変調器への電圧の印加の後、前記シャッタ制御部は前記第1ユニットのシャッタを閉じ、かつ前記第2ユニットのシャッタを開き、前記第1ユニットのシャッタを閉じた後、前記位相制御部は、前記第1ユニットのマッハツェンダ変調器を伝搬する光の位相が2π変化するのに対応する量だけ前記電圧をシフトさせてもよい。シャッタの開閉により、変調光を出射するユニットを切り替える。変調光の乱れが抑制されるため、光信号の伝送エラーが起こりにくい。
(6)アーム導波路を有するマッハツェンダ変調器に電圧を入力することで、前記アーム導波路を伝搬する光の位相を制御する工程と、前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ、前記所定の範囲を超える側とは反対側に前記電圧をシフトさせる工程と、を有する光送信装置の制御方法である。電圧のシフトにより電圧が所定の範囲内に収まる。この結果、電圧の増大を抑制することができる。
(7)コンピュータに、アーム導波路を有するマッハツェンダ変調器に電圧を入力することで、前記アーム導波路を伝搬する光の位相を制御する処理と、前記電圧が所定の範囲を超えた場合、前記位相が2π変化するのに対応する量だけ、前記所定の範囲を超える側とは反対側に前記電圧をシフトさせる処理と、を実行させる光送信装置の制御プログラムである。電圧のシフトにより電圧が所定の範囲内に収まる。この結果、電圧の増大を抑制することができる。
【0012】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る光送信装置、その制御方法および制御プログラムの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
<第1実施形態>
(光送信装置)
図1Aは第1実施形態に係る光送信装置100を例示するブロック図である。
図1Aに示すように、光送信装置100は、制御部10、2つのユニット20ch1および20ch2、および合波器21を備える。
【0014】
ユニット20ch1および20ch2のそれぞれは、波長可変レーザ素子22、自動バイアス制御(ABC)回路24、ドライバIC(Integrated Circuit)26、シャッタ28および変調器40を有する。
【0015】
波長可変レーザ素子22は、例えば半導体レーザ素子などを含む発光素子である。ABC回路24は変調器40に位相調整のための電圧を印加し、自動バイアス制御を行う。ドライバIC26は変調器40に変調信号を入力する。変調器40は、波長可変レーザ素子22から入射される光を変調し、変調光を出射する。シャッタ28は例えば開閉可能であり、閉じることで光を遮蔽し、開くことで光を出射させる。シャッタ28は例えば半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)などでもよい。SOAを光吸収状態とすることで光を吸収し、SOAを光透過状態とすることで光を出射させる。
【0016】
合波器21はユニット20ch1の出射光および20ch2の出射光のうち一方を外部に出射してもよいし、2つのユニットの出射光を合波して波長多重変調光として光送信装置100の外部に出射することもできる。合波器21から出射される光は例えば不図示の光ファイバなどに入射する。
【0017】
ユニット20ch1とユニット20ch2とは互いに独立に動作する。例えばユニット20ch1および20ch2のうち一方が光の変調を行い、他方は行わなくてもよい。ユニット20ch1および20ch2の両方が光の変調を行ってもよい。ユニット20ch1および20ch2において、光の波長、変調信号、光の位相などを同じにすることが可能であり、異ならせることも可能である。以下の例では、ユニット20ch1および20ch2のうち、ユニット20ch1は通常時に動作するユニットであり、ユニット20ch2はバックアップ用である。
【0018】
制御部10は例えばパーソナルコンピュータ(PC:Personnel Computer)などのコンピュータを含み、ユニット20ch1および20ch2を制御する。
【0019】
図1Bは制御部10のハードウェア構成を示すブロック図である。
図1Bに示すように、制御部10は、CPU(Central Processing Unit、中央演算処理装置)30、RAM(Random Access Memory)32、記憶装置34、インターフェース36を備える。CPU30、RAM32、記憶装置34およびインターフェース36は互いにバスなどで接続されている。RAM32はプログラムおよびデータなどを一時的に記憶する揮発性メモリである。記憶装置34は例えばROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどのソリッド・ステート・ドライブ(SSD:Solid State Drive)、ハードディスクドライブ(HHD:Hard Disc Drive)などである。記憶装置34は、後述の処理を実行するためのプログラムなどを記憶する。
【0020】
CPU30がRAM32に記憶されるプログラムを実行することにより、制御部10に、
図1Aに示す位相制御部12、レーザ制御部14、変調制御部16およびシャッタ制御部18が実現される。位相制御部12はABC回路24を制御し、かつABC回路24が変調器40に印加する電圧を取得する。レーザ制御部14は波長可変レーザ素子22を制御する。変調制御部16はドライバIC26を制御する。シャッタ制御部18はシャッタ28を制御する。制御部10の各部は、回路などのハードウェアでもよい。
【0021】
(変調器)
図1Aのユニット20ch1および20ch2の変調器40として、
図2Aに示す変調器40aおよび
図2Bに示す変調器40bを用いることができる。
【0022】
図2Aは変調器40aを例示する平面図である。変調器40aは、IQ(In-phase Quadrature modulator)変調器であり、2つの子マッハツェンダ変調器42aおよび42bを有する親マッハツェンダ変調器である。子マッハツェンダ変調器42aはIチャネルおよびQチャネルの一方(例えばIチャネル)の変調光を生成する。子マッハツェンダ変調器42bはIチャネルおよびQチャネルの他方(例えばQチャネル)の変調光を生成する。子マッハツェンダ変調器42aの変調光の位相が子マッハツェンダ変調器42bの変調光の位相と直交するように、光の位相が調整される。
【0023】
変調器40aは、基板43、入力導波路50、アーム導波路52aおよび52b、60a~60d、62aおよび62b、ならびに出力導波路64、カプラ52、54aおよび54b、56aおよび56b、ならびに58、電極66a~66d、68a~68d、70aおよび70bを有する。
【0024】
アーム導波路52a、60a、60bおよび62a、カプラ54aおよび56a、電極66a、66b、68aおよび68bは子マッハツェンダ変調器42aを構成する。アーム導波路52b、60c、60dおよび62b、カプラ54bおよび56b、電極66c、66d、68cおよび68dは子マッハツェンダ変調器42bを構成する。子マッハツェンダ変調器42aおよび42bは、カプラ52とカプラ58との間に並列に配置される。アーム導波路60aおよび60cはp側の導波路である。アーム導波路60bおよび60dはn側の導波路である。
【0025】
基板43は例えばインジウムリン(InP)などの半導体で形成された半導体基板である。基板43に入力導波路50、出力導波路64、アーム導波路およびカプラが形成されている。カプラ52、54aおよび54b、56aおよび56b、ならびに58は1×2カプラである。電極は金属で形成されている。電極66a~66cは光の変調に用いられる変調用電極である。電極68a~68d、電極70aおよび70bは光の位相の調整に用いられる位相調整用電極である。
【0026】
入力導波路50の一端は基板43の1つの端面に位置し、他端はカプラ52の入力端に接続されている。カプラ52の2つの出力端の一方にアーム導波路52aが接続され、他方にアーム導波路52bの一端が接続されている。
【0027】
アーム導波路52aの他端はカプラ54aの入力端に接続されている。アーム導波路60aおよび60bの一端はカプラ54aの2つの出力端に接続されている。アーム導波路60aおよび60bの他端はカプラ56aの2つの入力端に接続されている。アーム導波路60aおよび60bはカプラ54aとカプラ56aとの間において並列に延伸する。電極66aおよび68aは、アーム導波路60aの上に設けられ、カプラ54a側からカプラ56a側に向けて順に並ぶ。電極66bおよび68bは、アーム導波路60bの上に設けられ、カプラ54a側からカプラ56a側に向けて順に並ぶ。
【0028】
アーム導波路52bの他端はカプラ54bの入力端に接続されている。アーム導波路60cおよび60dの一端はカプラ54bの2つの出力端に接続されている。アーム導波路60cおよび60dの他端はカプラ56bの2つの入力端に接続されている。アーム導波路60cおよび60dはカプラ54bとカプラ56bとの間において並列に延伸する。電極66cおよび68cは、アーム導波路60cの上に設けられ、カプラ54b側からカプラ56b側に向けて順に並ぶ。電極66dおよび68dは、アーム導波路60dの上に設けられ、カプラ54b側からカプラ56b側に向けて順に並ぶ。
【0029】
アーム導波路62aの一端はカプラ56aの出力端に接続されている。アーム導波路62bの一端はカプラ56bの出力端に接続されている。アーム導波路62aおよび62bの他端はカプラ58の2つの入力端に接続されている。アーム導波路62aおよび62bは、カプラ56aおよび56bとカプラ58との間で並列に延伸する。電極70aはアーム導波路62aの上に設けられている。電極70bはアーム導波路62bの上に設けられている。出力導波路64の一端はカプラ58の出力端に接続され、他端は基板43の端面のうち入力導波路50の一端が位置する面とは反対側の面に位置する。
【0030】
図1Aに示した波長可変レーザ素子22は、
図2Aの変調器40aの入力端(入力導波路50の端部)に結合する。
図1Aに示したシャッタ28は、
図2Aの変調器40aの出力端(出力導波路64の端部)側に位置する。
【0031】
図1Aに示す制御部10のレーザ制御部14は、波長可変レーザ素子22に光を出射させる。
図2Aに示す変調器40aの入力導波路50に入射した光は、カプラ52においてアーム導波路52aおよび52bに分岐する。アーム導波路52aを伝搬する光は、カプラ54aにおいてアーム導波路60aおよび60bに分岐する。アーム導波路52bを伝搬する光は、カプラ54bにおいてアーム導波路60cおよび60dに分岐する。
【0032】
図1Aの制御部10に送信データが入力されると、制御部10の変調制御部16は送信データに基づいて変調信号を生成し、ドライバIC26に入力する。ドライバIC26から電極66a~66dに変調信号が入力されることで、アーム導波路60a~60dの屈折率が変化し、光の変調が行われる。
【0033】
アーム導波路60aを伝搬する変調光とアーム導波路60bを伝搬する変調光とは、カプラ56aで合流し、アーム導波路62aを伝搬する。アーム導波路60cを伝搬する変調光とアーム導波路60dを伝搬する変調光とは、カプラ56bで合流し、アーム導波路62bを伝搬する。アーム導波路62aを伝搬する変調光とアーム導波路62bを伝搬する変調光とは、カプラ58で合流し、出力導波路64を伝搬する。変調光は出力導波路64の端部から出射される。
図1Aに示したシャッタ28が開いている場合、変調光は合波器21を介して光送信装置100から出射される。シャッタ28が閉じている場合、変調光はシャッタ28により遮蔽され、光送信装置100の外に出射されない。
【0034】
図2Bは変調器40bを例示する平面図である。変調器40bは、2つの変調器40a1および40a2を有するDP(Dual Polarization)-IQ変調器である。変調器40a1および40a2は、
図2Aの変調器40aと同様のIQ変調器である。変調器40a1は子マッハツェンダ変調器42aおよび42bを有する。変調器40a2は子マッハツェンダ変調器42cおよび42dを有する。子マッハツェンダ変調器42cおよび42dの構成は、子マッハツェンダ変調器42aおよび42bと同じである。
【0035】
入力導波路71の一端は基板43の端面に位置し、他端はカプラ72の入力端に接続されている。カプラ72の2つの出力端の一方に変調器40a1の入力導波路50aが接続され、他方に変調器40a2の入力導波路50bが接続されている。変調器40a1の出力導波路64aおよび変調器40a2の出力導波路64bは基板43の入力導波路71とは反対側の端面に位置する。
【0036】
変調器40a1はXチャネル(X偏波)の変調光を生成する。変調器40a2はYチャネル(Y偏波)の変調光を生成する。X偏波の偏波面はY偏波の偏波面と直交する。
図1Aに示す合波器21は、Xチャネルの変調光とYチャネルの変調光とを合波して出射する。以下では、
図1Aの変調器40として
図2Aの変調器40aを用いるものとする。
【0037】
制御部10の位相制御部12は、ABC回路24を用いて自動バイアス制御を行う。具体的に位相制御部12は、ABC回路24に、変調器40aの電極68a~68d、電極70aおよび70bに電圧を印加させる。電圧の印加によってアーム導波路の屈折率が変化し、光の位相が変化する。位相制御部12は、親マッハツェンダ変調器(変調器40a)における位相差と、子マッハツェンダ変調器42aおよび42bにおける位相差とを独立に制御することができる。
【0038】
位相制御部12は、アーム導波路62aを伝搬する光の位相とアーム導波路62bを伝搬する光の位相との位相差を例えば0.5π(rad)または0.5πと等価な値に調整する。すなわち、親マッハツェンダ変調器では光の位相を直交させる。0.5πに等価な位相差は、光の位相が直交する値であり、0.5π±2π×n、1.5π±2π×nである(nは負または正の整数)。光の位相が直交するように調整された状態が親マッハツェンダ変調器の動作点である。
【0039】
位相制御部12は、アーム導波路60aを伝搬する光の位相とアーム導波路60bを伝搬する光の位相との位相差を例えばπ(rad)またはπに等価な値に調整する。すなわち、変調信号を印加しない状態で、子マッハツェンダ変調器42aおよび42bはそれぞれ消光点に調整される。πに等価な位相差は、消光点となる値であり、π±2π×nである(nは負または正の整数)。消光点に調整された状態が子マッハツェンダ変調器の動作点である。
【0040】
ABC回路24から変調器40aに印加される電圧について説明する。アーム導波路62a上の電極70aに印加する電圧VI(第3電圧)、およびアーム導波路62b上の電極70bに印加する電圧VQ(第4電圧)は、中心電圧Vcp(第1電圧)および差動電圧Vdp(第2電圧)を用いて、次のように表される。
VI=Vcp+Vdp (1)
VQ=Vcp-Vdp (2)
電圧VIと電圧VQとの差は2Vdpである。位相制御部12は、中心電圧Vcpを一定値に固定し、差動電圧Vdpを変化させることで、電圧VIおよびVQを変化させ、変調器40aの動作点を調整する。
【0041】
ABC回路24から子マッハツェンダ変調器42aに印加される電圧について説明する。アーム導波路60a上の電極68aに印加する電圧Vp(第3電圧)、およびアーム導波路60b上の電極68bに印加する電圧Vn(第4電圧)は、中心電圧Vcc(第1電圧)および差動電圧Vdc(第2電圧)を用いて、次のように表される。
Vp=Vcc+Vdc (3)
Vn=Vcc-Vdc (4)
電圧Vpと電圧Vnとの差は2Vdcである。位相制御部12は、中心電圧Vccを一定値に固定し、差動電圧Vdcを変化させることで、電圧VpおよびVnを変化させ、子マッハツェンダ変調器42aの動作点を調整する。子マッハツェンダ変調器42bにも電圧VpおよびVnが印加される。
【0042】
図3は電圧と位相の変化量(位相調整量)との関係を例示する図である。横軸は差動電圧VdpまたはVdcを表し、縦軸は位相調整量Δφを表す。
図3に示すように、差動電圧と位相調整量Δφとの関係は非線形であり、かつ原点に対して点対称である。差動電圧が0ならば位相調整量Δφも0である。差動電圧が正の側に大きくなると、位相調整量Δφも正の側に大きくなる。差動電圧が負の側に大きくなると、位相調整量Δφも負の側に大きくなる。差動電圧がV1、V2およびV3それぞれの場合、位相調整量Δφはπ、2πおよび3πになる。差動電圧が-V1、-V2および-V3それぞれの場合、位相調整量Δφは-π、-2πおよび-3πになる。
【0043】
2つのアーム導波路間の位相差φは、次式のように初期位相差φ0と位相調整量Δφとの和として表される。
φ=φ0+Δφ (5)
初期位相差φ0は変調器40aのアーム導波路間の光路長の差などによって決まる。位相調整量は、電圧の印加による位相の変化量である。
【0044】
波長可変レーザ素子22から出射される光のアーム導波路内での波長λは例えば484nm(真空中では1550nm)である。一方、子マッハツェンダ変調器42aのアーム導波路60aおよび60b、子マッハツェンダ変調器42bのアーム導波路60cおよび60dの長さは例えば6mmであり、波長λの1万倍以上である。製造誤差などでアーム導波路の光路長にばらつきが生じる。2つのアーム導波路間の光路長の差ΔLと、2つのアーム導波路間の光の初期位相差φ0との関係は、整数mを用いて次の式で表される。
φ0+2mπ=2πΔL/λ (6)
【0045】
例えばアーム導波路60aとアーム導波路60bとのように、対になる2つのアーム導波路間の光路長の差ΔLが、設計された寸法の1万分の1以上になることがある。この場合、光路長の差ΔLが光の波長λ以上になるため、初期位相差φ0は0(rad)以上、2π(rad)以下の範囲に分布する。
【0046】
光送信装置100の動作中にも、変調器40に加わる応力および温度変化などにより、アーム導波路の光路長が変化することがある。光路長の変化により、初期位相差φ0が変動し、位相差φも変わる。位相制御部12は、自動バイアス制御を行い、位相差φの変動に応じて、電極68a~68d、70aおよび70bに印加する電圧を変化させ、動作点を調整する。
【0047】
図4は親MZ変調器の動作点を示す図である。横軸は差動電圧Vdpを表し、縦軸は位相差φを表す。複数の実線は上から順に初期位相差φ0が2π、1.25π、π、0.75π、および0の例を示す。V1pは例えば0.8Vであり、V2pは例えば1.5Vである。
【0048】
初期位相差φ0=0の場合、位相差φ=0.5πであるためには、位相調整量Δφが0.5πであればよい。位相制御部12は差動電圧VdpをV2pに設定し、位相調整量Δφを0.5πとし、位相差φを0.5πに調整する。初期位相差φ0=0.75πの場合、位相差φ=0.5πであるためには位相調整量Δφが-0.25πであればよい。位相制御部12は差動電圧Vdpを‐V1pに設定する。初期位相差φ0=πの場合、位相差φ=1.5πであるためには位相調整量Δφが0.5πであればよい。位相制御部12は差動電圧VdpをV2pに設定する。初期位相差φ0=1.25πの場合、位相差φ=1.5πであるためには位相調整量Δφが0.25πであればよい。位相制御部12は差動電圧VdpをV1pに設定する。初期位相差φ0=2πの場合、位相差φ=1.5πであるためには位相調整量Δφが-0.5πであればよい。位相制御部12は差動電圧Vdpを-V2pに設定する。
【0049】
図5は子MZ変調器の動作点を示す図である。横軸は差動電圧Vdcを表し、縦軸は位相差φを表す。複数の実線は上から順に初期位相差φ0が2π、0.75π、0、-0.5π、-2π、-2.5πの例を示す。
図5中の電圧の例は以下のとおりである。V1cは0.8V、V2cは2.9V、V3cは4.3V、V4cは7.4V、-V5cは-1.5Vである。
【0050】
図5に示すように、初期位相差φ0=0の場合、位相差φ=πであるためには位相調整量Δφがπであればよい。位相制御部12は差動電圧VdcをV2cに設定することで、位相調整量Δφをπとし、位相差φをπに調整する。初期位相差φ0=0.75πの場合、位相差φ=πであるためには位相調整量Δφが0.25πであればよい。位相制御部12は差動電圧VdcをV1cに設定する。初期位相差φ0=2πの場合、位相差φ=πであるためには位相調整量Δφが-πであればよい。位相制御部12は差動電圧Vdcを-V2cに設定する。
【0051】
前述のように光送信装置100の動作中にも、初期位相差φ0は変化することがある。位相制御部12は、初期位相差φ0の変化に追従して差動電圧Vdcを変化させ、動作点を調整する。
【0052】
子マッハツェンダ変調器の2つのアーム導波路(例えば子マッハツェンダ変調器42aのアーム導波路60aおよび60b)の間の初期位相差φ0が0.75πとする。この場合、
図5のφ0=0.75πの実線で示すように、位相制御部12は差動電圧VdcをV1cに設定する。動作中に初期位相差φ0が0.75πから0に変化した場合、位相制御部12は差動電圧VdcをV2cに設定することで、位相調整量Δφをπとし、位相差φをπに調整する。初期位相差φ0が-0.5πに変化した場合、位相制御部12は差動電圧VdcをV3cに設定する。
【0053】
初期位相差φ0が-0.5πから例えば-2πに変化した場合、
図5に矢印A1で示すように、差動電圧VdcをV3cよりも大きなV4cとすることで、φ=πの点を動作点とすることができる。しかし、差動電圧Vdcが正の方向に大きくなることで、電圧Vpが大きくなる。また、差動電圧Vdcが負の方向に大きくなることで、電圧Vnが大きくなる。つまり、差動電圧Vdcの絶対値の増大により、位相調整のための電圧VpおよびVnが大きくなってしまう。
【0054】
電圧VpおよびVnが大きくなることで、消費電力の増大、アーム導波路における光損失の増大などが発生する。VpとVnとの差2Vdcが大きくなることで、アーム導波路間における光損失の差が大きくなり、消光比が低下する。変調器40をセラミック製などの強固なパッケージに固定することで、応力を抑制することができる。ペルチェ素子などを用いることで、温度変化を抑制することができる。しかし部品点数が増加し、光送信装置100のサイズおよびコストが増大する。
【0055】
そこで第1実施形態においては、差動電圧Vdcを例えば-V3c以上、V3c以下の範囲内(-V3c≦Vdc≦V3c)とし、当該範囲を超える場合には差動電圧Vdcを2πの位相変化に相当する量(2π相当量)シフトさせる。差動電圧のシフトによって、電圧VpおよびVnの増大を抑制する。
【0056】
図5において、初期位相差φ0が-0.5πから負の方向へと変化する場合、位相制御部12は差動電圧VdcをV3cより高い電圧には変化させず、位相2πの変化に対応する量だけ高電圧側とは反対側に差動電圧Vdcをシフトさせる。
図5の初期位相差φ0=-0.5πの線上において、位相差φをπから-πに2π変化させることに対応して、差動電圧VdcをV3cから-V5cに変化させる。すなわち、
図5の矢印A2で示すように、動作点がπから-πに移動する。位相差φが-πになることで、変調信号を印加しない状態において、子マッハツェンダ変調器は消光点に調整される。電圧-V5cは-V3cより大きくかつ0より小さく、-V3c~V3cの範囲内である。言い換えれば、シフト後の差動電圧Vdcの絶対値は、シフト前の絶対値に比べて小さくなる。このため電圧VpおよびVnの増大が抑制される。
【0057】
初期位相差φ0が例えば-0.5πから-2πに変化した場合、位相制御部12は差動電圧Vdcを-V5cからV2cに変化させ、動作点を-πに保つ。初期位相差φ0が例えば-2.5πに変化すると、差動電圧VdcはV3cまで増加する。このとき位相制御部12は、位相2πの変化に対応する量だけ高電圧側とは反対側に差動電圧Vdcをシフトさせる。
図5に矢印A3で示すように、差動電圧VdcはV3cから-V5cになり、-V3c以上、V3c以下の範囲内である。位相差φは-3πになる。矢印A2およびA3で示した例では、差動電圧VdcがV3cより高くなる場合、位相制御部12が、低電圧側に、2π相当量だけ差動電圧Vdcをシフトさせる。差動電圧Vdcが‐V3cより低くなる場合には、位相制御部12は、高電圧側に、2π相当量だけ差動電圧Vdcをシフトさせる。変調信号を印加しない状態において、子マッハツェンダ変調器は消光点に調整される。
【0058】
図6は制御部10が実行する処理を例示するフローチャートであり、子マッハツェンダ変調器の電圧の再設定を示す。処理の開始時点において、
図1Aの光送信装置100のユニット20ch1は動作中である。ユニット20ch1の波長可変レーザ素子22は光を出射する。ユニット20ch1のABC回路24は、電極68a~68d、電極70aおよび70bに電圧を印加し、自動バイアス制御を行う。変調制御部16の制御に応じて、ユニット20ch1のドライバIC26は電極66a~66dに電圧を印加する。ユニット20ch1の変調器40aは変調光を生成する。ユニット20ch2は動作していない。ユニット20ch1のシャッタ28は開いており、ユニット20ch2のシャッタ28は閉じている。ユニット20ch1の変調光は合波器21を通じて出射されている。
【0059】
図6に示すように、制御部10の位相制御部12は、子マッハツェンダ変調器に印加する差動電圧Vdcをモニタ信号として取得し、差動電圧VdcがV3c以上であるか否かを判定する(ステップS10)。Noの場合、ステップS10が繰り返される。Yesの場合、制御部10はユニット20ch2を起動させ、ユニット20ch1と同じ条件で動作させる(ステップS12)。ユニット20ch2における、波長可変レーザ素子22の出射光の波長および強度、ABC回路24が印加する電圧VpおよびVn、VIおよびVQ、ドライバIC26が印加する電圧のそれぞれが、ユニット20ch1の対応するものに等しい。ユニット20ch2の変調器40はユニット20ch1の変調器40と同等の変調光を生成する。ユニット20ch2のシャッタ28は閉じているため、ユニット20ch2の変調光は光送信装置100の外に出射されない。
【0060】
制御部10のシャッタ制御部18は、ユニット20ch1のシャッタ28を閉じ、ユニット20ch2のシャッタ28を開く(ステップS14)。ユニット20ch1の変調光は光送信装置100の外に出射されない。一方、ユニット20ch2からは、ユニット20ch1と同じ変調光が出射される。光送信装置100から変調光が途切れずに出射されるため、変調光の乱れが起きにくく、伝送エラーが抑制される。
【0061】
位相制御部12は、ユニット20ch1の差動電圧Vdcを、位相を2π変化させる量(2π相当量)シフトさせる(ステップS16)。例えば
図5において説明したように、ユニット20ch1の子マッハツェンダ変調器42aの初期位相差φ0が-0.5πから-2πに変動する場合、位相制御部12は電圧をV3cから-V5cにシフトさせる。シャッタ制御部18は、ユニット20ch2のシャッタ28を閉じ、ユニット20ch1のシャッタ28を開く(ステップS18)。ユニット20ch2の変調光は光送信装置100の外に出射されず、ユニット20ch1の変調光が出射される。制御部10はユニット20ch2を停止する(ステップS20)。以上で処理は終了する。
【0062】
第1実施形態によれば、位相制御部12は、差動電圧Vdcが-V3c以上、V3c以下の範囲を超えた場合、当該範囲を超える側とは反対側に、位相が2π変化するのに対応する量だけ差動電圧Vdcをシフトさせる。シフトにより差動電圧Vdcを-V3c~V3cの範囲内に収めることができる。差動電圧Vdcの絶対値は小さくなり、電圧VpおよびVnの増大が抑制される。消費電力の抑制、アーム導波路における光損失の抑制が可能である。アーム導波路間の電圧の差2Vdcの増大が抑制されるため、消光比の低下が抑制される。変調器40を固定する強固なパッケージ、および温度調整素子などを増設しなくてよい。部品点数を抑制し、光送信装置100のサイズおよびコストの増大を抑制することができる。
【0063】
差動電圧Vdcのシフト量は2π相当量である。したがって電圧シフト後も光の位相差は動作点に調整される。
図5に示すように、位相制御部12は、子マッハツェンダ変調器の2つのアーム導波路間における光の位相差をπに制御する。自動バイアス制御により子マッハツェンダ変調器が消光点に調整される。
【0064】
子マッハツェンダ変調器の位相調整用の電極68aおよび68cに印加される電圧は、中心電圧Vccと差動電圧Vdcとの和Vpcである。子マッハツェンダ変調器の位相調整用の電極68bおよび68dに印加される電圧は、中心電圧Vccと差動電圧Vdcとの差Vpnである。位相制御部12は、差動電圧Vdcを変化させることで、電圧VpcおよびVpnを変化させ、位相を調整することができる。位相制御部12は、2πの位相変化に対応する量だけ差動電圧Vdcを変化させる。差動電圧Vdcを調整すればよいため、制御が簡単である。
【0065】
第1実施形態を親マッハツェンダ変調器に適用してもよい。位相制御部12は、
図2Aに示したアーム導波路62aおよび62b間における光の位相差を0.5πに制御する。位相制御部12は、位相が2π変化するのに対応する量だけ差動電圧Vdpをシフトさせることで、Vdpの増大を抑制することができる。自動バイアス制御により、位相差は0.5πに維持され、親マッハツェンダ変調器の2つの変調光の位相が直交する。位相制御部12による光の位相の調整は、子マッハツェンダ変調器を消光点に調整すること、親マッハツェンダ変調器において位相を直交させることに限定されない。
【0066】
2π相当量シフト後の差動電圧は、シフト前に比べ、差動電圧の範囲の中心値である0Vに近いことが好ましい。例えば、
図5のφ0=0の曲線における-3π以上3π以下の位相調整量に対応する範囲(
図5では-V4c~V4c)よりも、電圧の範囲が広いと仮定する。2π相当量だけ差動電圧Vdcをシフトさせても、位相0±πに対応する範囲内にVdcが収まらない。また、電圧の範囲が-π以上π以下の位相調整量に対応する範囲(
図5では-V2c~V2c)よりも狭い場合、2π相当量だけ差動電圧Vdcをシフトさせると、電圧が中央の値(0)から遠くなり、シフト前よりも絶対値が増大してしまう。
【0067】
差動電圧の範囲の広さは、中央の値(0V)から位相調整量-π以上π以下に対応する範囲以上であり、-3π以上3π以下に対応する範囲以下であることが好ましい。2π相当量シフト後の電圧を中央の値から例えば±πに対応する範囲に収めることができる。シフト後の差動電圧の絶対値がシフト前より小さくなることで、電圧VpおよびVnの増大を抑制することができる。
【0068】
第1実施形態では、親マッハツェンダ変調器の位相調整のための電圧VIおよびVQは、中心電圧Vcpと差動電圧Vdpとの和および差で表される。子マッハツェンダ変調器の位相調整のための電圧VpおよびVnは、中心電圧Vccと差動電圧Vdcとの和および差で表される。位相調整のための電圧は中心電圧および差動電圧を含まなくてもよい。位相制御部12は、位相調整のための電圧VIおよびV1Q、VpおよびVnを2π相当量シフトさせればよい。
【0069】
ユニット20ch1および20ch2はそれぞれシャッタ28を有する。例えばユニット20ch1を通常時の動作用とし、ユニット20ch2をバックアップ用とする。位相制御部12がユニット20ch1の電圧を再設定する前に、ユニット20ch2にユニット20ch1と同じ電圧を印加する(
図6のステップS12)。変調制御部16はユニット20ch2においても、ユニット20ch1と同様に光の変調を行う。シャッタ制御部18は、ユニット20ch1のシャッタ28を閉じることに同期して、ユニット20ch2のシャッタ28を開く(ステップS14)。ユニット20ch2から変調光が出射され、かつ再設定中のユニット20ch1から変調光は出射されない。変調光の乱れが抑制され、光信号の伝送エラーが起こりにくい。
【0070】
例えば伝送速度を11Gb/sとし、10Mビットのデータ送信ごとに1Mビットのバッファ期間を設定する。1msごとに100μs程度のバッファ期間が得られる。当該バッファ期間にユニットの切り替えを行うことで、伝送エラーのないデータ送信が可能である。
【0071】
ユニット20ch1における電圧の再設定後、ユニット20ch1のシャッタ28は閉じたままとし、ユニット20ch2を動作させ続け、ユニット20ch2から光を出射させてもよい。ユニット20ch1をバックアップ用とし、ユニット20ch2を通常動作用としてもよい。
【0072】
<第2実施形態>
図7は第2実施形態に係る光送信装置200を例示するブロック図である。第1実施形態と同じ構成については説明を省略する。光送信装置200はユニット20ch1~20ch101の101個のユニットを有する。各ユニットは同じ構成を有する。100個のユニット(例えばユニット20ch1~20ch100)は通常動作用であり、1つのユニット(例えばユニット20ch101)はバックアップ用である。
【0073】
図8は制御部10が実行する処理を例示するフローチャートであり、子マッハツェンダ変調器の電圧の再設定を示す。ユニット20ch1~20ch100のいずれか1つ(例えばユニット20ch1)において差動電圧VdcがV3c以上になった場合(ステップS10)、制御部10はユニット20ch101を起動する(ステップS22)。シャッタ制御部18は、ユニット20ch1のシャッタ28を閉じ、ユニット20ch101のシャッタ28を開く(ステップS24)。位相制御部12がユニット20ch1の差動電圧Vdcを、2π相当量シフトさせた後(ステップS16)、シャッタ制御部18は、ユニット20ch101のシャッタ28を閉じ、ユニット20ch1のシャッタ28を開く(ステップS28)。制御部10はユニット20ch101を停止させる(ステップS30)。
【0074】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、差動電圧Vdcを-V3c~V3cの範囲内とすることで、電圧VpおよびVnの増大が抑制される。100個のユニット20ch1~20ch100が通常動作用であり、1つのユニット20ch101がバックアップ用である。100チャネルの伝送容量に対してバックアップ用ユニットは1つでよいため、光送信装置200のコストが低減される。通常動作用のユニットの数は100以下でもよいし、100以上でもよい。バックアップ用のユニットの数は1つ以上でもよい。バックアップ用のユニットの数に対する通常動作用のユニットの数の比率を高めるほど、低コスト化が可能である。
【0075】
以上、本開示の実施形態について詳述したが、本開示は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 制御部
12 位相制御部
14 レーザ制御部
16 変調制御部
18 シャッタ制御部
20ch1~20ch101 ユニット
22 波長可変レーザ素子
24 ABC回路
26 ドライバIC
28 シャッタ
40、40a、40a1、40a2、40b 変調器
42a~42d 子マッハツェンダ変調器
43 基板
52a、52b、60a~60d、62a、62b アーム導波路
50、50a、50b、71 入力導波路
64、64a、64b 出力導波路
52、54a、54b、56a、56b、58、72 カプラ
66a~66d、68a~68d、70a,70b 電極
100、200 光送信装置