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特許7363692劣化推定装置、劣化推定方法、及び劣化推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】劣化推定装置、劣化推定方法、及び劣化推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/30 20060101AFI20231011BHJP
   F16H 61/12 20100101ALI20231011BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20231011BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G01N33/30
F16H61/12
F16H59/72
F16H61/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020122584
(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2022019043
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】今村 健
(72)【発明者】
【氏名】藤井 広太
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-214932(JP,A)
【文献】特開2015-203642(JP,A)
【文献】特開2009-276148(JP,A)
【文献】特開2013-117427(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02278319(EP,A1)
【文献】米国特許第05083481(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00 -33/46
F16H 59/00 -63/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを供給する油圧装置が搭載された車両に適用され、前記オイルの劣化度を推定する劣化推定装置であって、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置には、入力変数が入力されることにより前記オイルの劣化度を示す出力変数を出力する写像を規定する写像データが記憶されており、
前記写像は、前記入力変数として、前記オイルの色を示す変数である色変数と、前記オイルの水素イオン濃度を示す変数である水素イオン変数と、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、粒子径が予め定められた第1範囲内である異物の量を示す第1異物量変数と、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、粒子径が前記第1範囲とは異なる範囲として予め定められた第2範囲内である異物の量を示す第2異物量変数と、を含み、
前記実行装置は、前記入力変数を取得する処理である取得処理と、前記取得処理により取得した前記入力変数を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を出力する算出処理と、を実行する
劣化推定装置。
【請求項2】
前記車両は、前記油圧装置からオイルが供給される変速機を備え、
前記写像は、前記入力変数として、前記車両に前記オイルが供給されてからの前記変速機の変速回数を示す変速回数変数を含む
請求項1に記載の劣化推定装置。
【請求項3】
前記写像は、前記入力変数として、前記車両に前記オイルが供給されてからの前記車両の走行距離を示す走行距離変数を含む
請求項1又は請求項2に記載の劣化推定装置。
【請求項4】
前記写像は、前記入力変数として、前記車両に前記オイルが供給されてから前記車両の車速がゼロよりも大きい時間である走行時間を示す走行時間変数を含む
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の劣化推定装置。
【請求項5】
前記出力変数は、前記オイルの交換が必要となる交換時期を示す変数である
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の劣化推定装置。
【請求項6】
前記出力変数は、前記オイルに劣化が生じていない状態を第1値、前記オイルの交換が必要な状態を前記第1値とは異なる第2値として、前記第1値と前記第2値との間で変化する変数である
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の劣化推定装置。
【請求項7】
オイルを供給する油圧装置が搭載された車両に適用され、劣化推定装置を用いて前記オイルの劣化度を推定する劣化推定方法であって、
前記劣化推定装置には、入力変数が入力されることにより前記オイルの劣化度を示す出力変数を出力する写像を規定する写像データが記憶されており、
前記劣化推定装置に、前記入力変数として、前記オイルの色を示す変数である色変数と、前記オイルの水素イオン濃度を示す変数である水素イオン変数と、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、粒子径が予め定められた第1範囲内である異物の量を示す第1異物量変数と、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、粒子径が前記第1範囲とは異なる範囲として予め定められた第2範囲内である異物の量を示す第2異物量変数と、を入力することにより、前記出力変数の値を算出させる
劣化推定方法。
【請求項8】
オイルを供給する油圧装置が搭載された車両に適用され、前記オイルの劣化度を推定する劣化推定装置として、コンピュータを機能させるプログラムであって、
入力変数が入力されることにより前記オイルの劣化度を示す出力変数を出力する写像を規定する写像データを有し、
前記写像は、前記入力変数として、前記オイルの色を示す変数である色変数と、前記オイルの水素イオン濃度を示す変数である水素イオン変数と、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、粒子径が予め定められた第1範囲内である異物の量を示す第1異物量変数と、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、粒子径が前記第1範囲とは異なる範囲として予め定められた第2範囲内である異物の量を示す第2異物量変数と、を含み、
前記コンピュータに、前記入力変数を取得する機能と、取得した前記入力変数を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する機能と、を実行させる
劣化推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化推定装置、劣化推定方法、及び劣化推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動変速機におけるオイルの劣化の有無を推定する劣化推定装置が記載されている。この劣化推定装置は、オイルの温度が所定温度以上、且つ、自動変速機における特定の回転軸の回転速度が所定回転速度以上、という条件が所定期間以上継続している場合に、オイルの劣化を推定する。劣化推定装置は、オイルの劣化を推定するにあたって、一定期間前から現時点までのオイルの温度の上昇率を算出する。そして、劣化推定装置は、オイルの温度の上昇率が閾値以上である場合には、オイルが劣化していると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-114471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の劣化推定装置では、オイルの劣化推定を行うための前提条件として、オイルの温度等に関する条件が満たされる必要がある。そのため、特許文献1の劣化推定装置では、オイルの劣化推定を常に実行できるわけではなく、オイルの劣化推定を実行できる状況が限られてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための劣化推定装置は、オイルを供給する油圧装置が搭載された車両に適用され、前記オイルの劣化度を推定する劣化推定装置であって、実行装置と、記憶装置と、を備え、前記記憶装置には、入力変数が入力されることにより前記オイルの劣化度を示す出力変数を出力する写像を規定する写像データが記憶されており、前記写像は、前記入力変数として、前記オイルの色を示す変数である色変数と、前記オイルの水素イオン濃度を示す変数である水素イオン変数と、を含み、前記実行装置は、前記入力変数を取得する処理である取得処理と、前記取得処理により取得した前記入力変数を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を出力する算出処理と、を実行する。
【0006】
上記構成によれば、オイルの劣化を反映しやすい一方でオイルの温度やオイルの使用状況の影響を受けにくいオイルの色や水素イオン濃度を基に、オイルの劣化度を推定する。そのため、オイルの劣化推定を実行できる状況が限られてしまうことを抑制できる。
【0007】
上記構成において、前記写像は、前記入力変数として、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物の量を示す異物量変数を含んでいてもよい。上記構成によれば、異物の量という、オイルの劣化度と高い相関のある値が、入力変数として写像に入力される。したがって、出力変数として、オイルの劣化を正確に反映した値を得ることができる。
【0008】
上記構成において、前記異物量変数は、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物の粒子数であってもよい。上記構成によれば、オイルに含まれる粒子数という比較的に検出しやすいパラメータを異物量変数として採用している。したがって、オイルの劣化度を推定するにあたって、特殊な計測装置を使用したり特殊な作業工程を経たりする必要がない。
【0009】
上記構成において、前記写像は、前記入力変数として、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、粒子径が予め定められた第1範囲内である異物の量を示す第1異物量変数と、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、粒子径が前記第1範囲とは異なる範囲として予め定められた第2範囲内である異物の量を示す第2異物量変数とを含んでいてもよい。
【0010】
上記構成によれば、異物全体の量だけでなく、異物の粒子径の分布に応じて劣化度を推定できる。そのため、オイルの劣化の進行に従って、発生する異物の粒子径が変化していく場合であっても、正確なオイルの劣化度の推定が可能となる。
【0011】
上記構成において、前記写像は、前記入力変数として、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、特定の材質の異物の量を示す第1異物量変数と、前記オイルの単位体積当たりに含まれる異物のうち、前記特定の材質とは異なる材質の異物の量を示す第2異物量変数とを含んでいてもよい。
【0012】
上記構成によれば、異物全体の量だけでなく、異物の材質の種類の分布に応じて劣化度を推定できる。そのため、オイルの劣化の進行に従って、発生する異物の材質の種類の分布が変化していく場合であっても、正確なオイルの劣化度の推定が可能となる。
【0013】
上記構成において、前記車両は、前記油圧装置からオイルが供給される変速機を備え、前記写像は、前記入力変数として、前記車両に前記オイルが供給されてからの前記変速機の変速回数を示す変速回数変数を含んでいてもよい。上記構成によれば、オイルの劣化度の推定にあたって、変速機の変速回数が考慮される。したがって、変速機の構成要素が摩耗することに伴って生じる摩耗粉の影響などをオイルの劣化度の推定に反映でき得る。
【0014】
上記構成において、前記写像は、前記入力変数として、前記車両に前記オイルが供給されてからの前記車両の走行距離を示す走行距離変数を含んでいてもよい。上記構成によれば、走行距離という、オイルの劣化度と相関のある値を加味してオイルの劣化度を推定できる。
【0015】
上記構成において、前記写像は、前記入力変数として、前記車両に前記オイルが供給されてから前記車両の車速がゼロよりも大きい時間である走行時間を示す走行時間変数を含んでいてもよい。上記構成によれば、走行時間という、オイルの劣化度と相関のある値を加味してオイルの劣化度を推定できる。
【0016】
上記構成において、前記出力変数は、前記オイルの交換が必要となる交換時期を示す変数であってもよい。上記構成によれば、車両の運転者等は、オイルの交換時期を明確に把握できる。
【0017】
上記構成において、前記出力変数は、前記オイルに劣化が生じていない状態を第1値、前記オイルの交換が必要な状態を前記第1値とは異なる第2値として、前記第1値と前記第2値との間で変化する変数であってもよい。上記構成によれば、オイルの劣化度を数値として客観的に把握しやすい。
【0018】
上記課題を解決するための劣化推定方法は、オイルを供給する油圧装置が搭載された車両に適用され、劣化推定装置を用いて前記オイルの劣化度を推定する劣化推定方法であって、前記劣化推定装置には、入力変数が入力されることにより前記オイルの劣化度を示す出力変数を出力する写像を規定する写像データが記憶されており、前記劣化推定装置に、前記入力変数として、前記オイルの色を示す変数である色変数と、前記オイルの水素イオン濃度を示す変数である水素イオン変数と、を入力することにより、前記出力変数の値を算出させる。
【0019】
上記構成によれば、オイルの劣化を反映しやすい一方でオイルの温度やオイルの使用状況の影響を受けにくいオイルの色や水素イオン濃度を基に、オイルの劣化度を推定する。そのため、オイルの劣化推定を実行できる状況が限られてしまうことを抑制できる。
【0020】
上記課題を解決するための劣化推定プログラムは、オイルを供給する油圧装置が搭載された車両に適用され、前記オイルの劣化度を推定する劣化推定装置として、コンピュータを機能させるプログラムであって、入力変数が入力されることにより前記オイルの劣化度を示す出力変数を出力する写像を規定する写像データを有し、前記写像は、前記入力変数として、前記オイルの色を示す変数である色変数と、前記オイルの水素イオン濃度を示す変数である水素イオン変数と、を含み、前記コンピュータに、前記入力変数を取得する機能と、取得した前記入力変数を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する機能と、を実行させる。
【0021】
上記構成によれば、オイルの劣化を反映しやすい一方でオイルの温度やオイルの使用状況の影響を受けにくいオイルの色や水素イオン濃度を基に、オイルの劣化度を推定する。そのため、オイルの劣化推定を実行できる状況が限られてしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態にかかる車両の概略構成図。
図2】同実施形態にかかる自動変速機における変速段及び係合要素の関係を示す説明図。
図3】同実施形態にかかる推定制御を示すフローチャート。
図4】第2実施形態にかかる車両の概略構成図。
図5】同実施形態にかかる推定制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
以下、本発明の実施形態を図1図3にしたがって説明する。先ず、車両100の概略構成について説明する。
【0024】
図1に示すように、車両100は、内燃機関10、動力分割機構20、自動変速機30、駆動輪69、油圧装置65、第1モータジェネレータ61、及び第2モータジェネレータ62を備えている。
【0025】
内燃機関10の出力軸であるクランクシャフト11には、動力分割機構20が連結されている。動力分割機構20は、サンギアS、リングギアR、及びキャリアCを有する遊星歯車機構である。動力分割機構20のキャリアCには、クランクシャフト11が連結されている。サンギアSには、第1モータジェネレータ61の回転軸61Aが連結されている。リングギアRの出力軸であるリングギア軸RAには、第2モータジェネレータ62の回転軸62Aが連結されている。また、リングギア軸RAには、自動変速機30の入力軸41が連結されている。自動変速機30の出力軸42には、図示しないディファレンシャルギアを介して左右の駆動輪69が連結されている。
【0026】
内燃機関10が駆動して、動力分割機構20のキャリアCにクランクシャフト11からトルクが入力されると、そのトルクがサンギアS側とリングギアR側とに分割される。第1モータジェネレータ61がモータとして動作して、動力分割機構20のサンギアSにトルクが入力されると、そのトルクがキャリアC側とリングギアR側とに分割される。
【0027】
第2モータジェネレータ62がモータとして動作して、リングギア軸RAにトルクが入力されると、そのトルクは自動変速機30へと伝達される。また、駆動輪69側からのトルクがリングギア軸RAを介して第2モータジェネレータ62に入力されると、第2モータジェネレータ62が発電機として機能し、車両100に回生制動力を発生させることが可能になっている。
【0028】
自動変速機30は、第1遊星ギア機構30A、第2遊星ギア機構30B、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及びワンウェイクラッチF1を備えている。
【0029】
さらに、第1遊星ギア機構30Aは、サンギア31、リングギア32、ピニオンギア33、及びキャリア34を備えている。サンギア31には、ピニオンギア33を介してリングギア32が連結されている。ピニオンギア33は、キャリア34に支持されている。
【0030】
サンギア31は、第1ブレーキB1に連結されている。第1ブレーキB1は、当該第1ブレーキB1に供給されるオイルの圧力によって係合状態及び解放状態が切り替え可能である。具体的には、第1ブレーキB1に供給されるオイルの圧力が高くなることで、第1ブレーキB1が解放状態から係合状態へと切り替えられる。そして、第1ブレーキB1が係合状態であるときには、サンギア31の回転が制動される。
【0031】
キャリア34には、ワンウェイクラッチF1が連結されている。ワンウェイクラッチF1は、キャリア34の一方側への回転を規制しつつ他方側への回転を許容する。すなわち、ワンウェイクラッチF1は、キャリア34の回転を規制する規制状態、又はキャリア34の回転を許容する許容状態に切り替わる。また、キャリア34は、第2ブレーキB2に連結されている。第2ブレーキB2は、第1ブレーキB1と同様に、当該第2ブレーキB2に供給されるオイルの圧力によって係合状態及び解放状態が切り替え可能である。そして、第2ブレーキB2が係合状態であるときには、キャリア34の回転が制動される。
【0032】
第2遊星ギア機構30Bは、サンギア36、リングギア37、ピニオンギア38、及びキャリア39を備えている。サンギア36には、ピニオンギア38を介してリングギア37が連結されている。ピニオンギア38は、キャリア39に支持されている。そして、キャリア39には、出力軸42が連結されている。
【0033】
上記のように構成された各遊星ギア機構において、第1遊星ギア機構30Aのキャリア34は、第2遊星ギア機構30Bのリングギア37に連結されている。また、第1遊星ギア機構30Aのリングギア32は、第2遊星ギア機構30Bのキャリア39に連結されている。
【0034】
第2遊星ギア機構30Bのサンギア36は、第1クラッチC1を介して入力軸41に連結されている。第1クラッチC1は、当該第1クラッチC1に供給されるオイルの圧力によって係合状態及び解放状態が切り替え可能である。具体的には、第1クラッチC1に供給されるオイルの圧力が高くなることで、第1クラッチC1が解放状態から係合状態へと切り替えられる。そして、第1クラッチC1が係合状態となることで、第2遊星ギア機構30Bのサンギア36が入力軸41と共に回転する。
【0035】
また、第1遊星ギア機構30Aのキャリア34は、第2クラッチC2を介して入力軸41に連結されている。第2クラッチC2は、第1クラッチC1と同様に、当該第2クラッチC2に供給されるオイルの圧力によって係合状態及び解放状態が切り替え可能である。そして、第2クラッチC2が係合状態となることで、第1遊星ギア機構30Aのキャリア34が入力軸41と共に回転する。なお、本実施形態において、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2のそれぞれが、係合要素である。
【0036】
図2に示すように、自動変速機30では、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2における係合状態、解放状態の組み合わせと、ワンウェイクラッチF1における規制状態、許容状態の組み合わせとにより、変速段が切り替えられる。この自動変速機30では、前進走行するための「1速」~「4速」の4個の変速段と、後進走行するための「R」の1個の変速段との合計5個の変速段を形成可能である。
【0037】
なお、図2において、「〇」は、第1クラッチC1等の係合要素が係合状態であることや、ワンウェイクラッチF1が規制状態であることを示す。また、「(〇)」は、第2ブレーキB2が係合状態又は解放状態であることを示す。さらに、空欄は、第1クラッチC1等の係合要素が解放状態であることや、ワンウェイクラッチF1が許容状態であることを示す。例えば、自動変速機30の変速段が2速である場合、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1が係合状態になっている一方、第2クラッチC2、及び第2ブレーキB2が解放状態になり、ワンウェイクラッチF1が許容状態になっている。
【0038】
図1に示すように、車両100には、油圧装置65が搭載されている。油圧装置65は、オイルポンプ66、油圧回路67、及びオイルパン68を備えている。オイルパン68には、自動変速機30に供給するためのオイルが貯留されている。オイルポンプ66は、クランクシャフト11のトルクを受けて動作するいわゆる機械式のオイルポンプである。オイルポンプ66は、オイルパン68に貯留されたオイルを油圧回路67に供給する。油圧回路67は、図示しないソレノイドバルブを複数備えている。油圧回路67は、ソレノイドバルブを制御することにより、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2に供給するオイルの圧力を調整する。すなわち、本実施形態では、油圧回路67のソレノイドバルブを制御することにより、オイルの圧力を通じて第1クラッチC1等の係合要素の係合状態及び開放状態を制御する。
【0039】
図1に示すように、車両100には、クランク角センサ71、アクセルポジションセンサ72、車速センサ73、表示器76、及びアクセルペダル77が搭載されている。クランク角センサ71は、クランクシャフト11の回転角であるクランク角SCを検出する。アクセルポジションセンサ72は、運転者が操作するアクセルペダル77の操作量であるアクセル操作量ACCを検出する。車速センサ73は、車両100の速度である車速SPを検出する。表示器76は、車両100の運転者等に視覚情報を表示する。表示器76の一例は、運転席に取り付けられている液晶ディスプレイである。
【0040】
車両100は、制御装置90を備えている。制御装置90には、クランク角SCを示す信号がクランク角センサ71から入力される。制御装置90には、アクセル操作量ACCを示す信号がアクセルポジションセンサ72から入力される。制御装置90には、車速SPを示す信号が車速センサ73から入力される。制御装置90は、クランク角SCに基づいて、クランクシャフト11の単位時間当たりの回転速度である機関回転速度NEを算出する。
【0041】
制御装置90は、CPU91、周辺回路92、ROM93、及び記憶装置94を備えている。CPU91、周辺回路92、ROM93、及び記憶装置94は、バス95によって通信可能に接続されている。ROM93には、CPU91が各種の制御を実行するために各種のプログラムが予め記憶されている。記憶装置94は、制御装置90に入力されたアクセル操作量ACC、及び車速SPを含むデータを一定期間に亘って記憶する。周辺回路92は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、リセット回路等を含む。
【0042】
また、制御装置90には、コネクタ80が設けられている。コネクタ80は、双方向の通信が可能な汎用の端子群を有しており、他の装置との通信が可能になっている。この実施形態では、制御装置90は、コネクタ80を介して後述する劣化推定ユニット200と通信可能になっている。
【0043】
CPU91は、ROM93に記憶された各種のプログラムを実行することにより、内燃機関10、第1モータジェネレータ61、第2モータジェネレータ62、自動変速機30等を制御する。具体的には、CPU91は、アクセル操作量ACC及び車速SPに基づいて、車両100が走行するために必要な出力の要求値である車両要求出力を算出する。CPU91は、車両要求出力に基づいて、内燃機関10、第1モータジェネレータ61、及び第2モータジェネレータ62のトルク配分を決定する。CPU91は、内燃機関10、第1モータジェネレータ61、及び第2モータジェネレータ62のトルク配分に基づいて、内燃機関10の出力と、第1モータジェネレータ61及び第2モータジェネレータ62の力行及び回生とを制御する。
【0044】
また、CPU91は、車速SP及び車両要求出力に基づいて、自動変速機30において目標とする変速段である目標変速段を算出する。CPU91は、目標変速段に基づいて、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2に供給するオイルの圧力の目標値である目標圧力を算出する。そして、CPU91は、目標圧力に基づいて、油圧装置65に制御信号S1を出力する。油圧装置65は、制御信号S1に基づいて、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2に供給するオイルの圧力を変更する。例えば、図2に示すように、自動変速機30の変更前の変速段が2速である場合、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1が係合状態になっている一方、第2クラッチC2、及び第2ブレーキB2が解放状態になり、ワンウェイクラッチF1が許容状態になっている。ここで、自動変速機30の目標変速段が3速に設定されると、第2クラッチC2の目標圧力に基づいた制御信号S1に応じて、油圧装置65から第2クラッチC2に供給されるオイルの圧力が徐々に高くなることで、第2クラッチC2が解放状態から係合状態になる。一方、第1ブレーキB1の目標圧力に基づいた制御信号S1に応じて、油圧装置65から第1ブレーキB1に供給されるオイルの圧力が徐々に低くなることで、第1ブレーキB1が係合状態から解放状態になる。その結果、自動変速機30の変速段が2速から3速に変更される。
【0045】
CPU91は、目標変速段に基づいて、車両100におけるオイルパン68にオイルが供給されてからの自動変速機30の変速回数SNを算出する。ここで、車両100の製造時にオイルパン68にオイルが供給されてから、そのオイルが新しいオイルに交換されていない場合には、車両100の製造時点が、車両100におけるオイルパン68にオイルが供給されたときである。また、オイルパン68のオイルが新しいオイルに交換されている場合には、新しいオイルに交換された時点が、車両100におけるオイルパン68にオイルが供給されたときである。なお、オイルパン68のオイルが新しいオイルに交換された場合には、変速回数SNがリセットされる。また、変速回数SNは、特定の変速種別の回数ではなく、ダウンシフト及びアップシフトを含めた自動変速機30におけるすべての変速種における総変速回数である。したがって、例えば、自動変速機30の変速段が1速から2速に変速された後、2速から3速に変更された場合には、変速回数SNは2回である。
【0046】
CPU91は、車速SPに基づいて、車両100におけるオイルパン68にオイルが供給されてから車両100が走行した走行距離MIを算出する。具体的には、CPU91は、車速SPを時間積分することにより、走行距離MIを算出する。また、CPU91は、車速SPに基づいて、車両100におけるオイルパン68にオイルが供給されてから車速SPがゼロよりも大きい時間を積算して、走行時間RTを算出する。なお、記憶装置94は、変速回数SN、走行距離MI、及び走行時間RTを含むデータを記憶する。
【0047】
次に、劣化推定ユニット200について説明する。なお、劣化推定ユニット200は、車両100のメンテナンス等を行う場所、例えば、自動車整備工場等に設置される。劣化推定ユニット200は、オイル色検出器210、水素イオン濃度検出器220、異物量検出器230、入力デバイス250、表示器260、及び制御装置290を備えている。
【0048】
オイル色検出器210は、オイルパン68に貯留されたオイルの色であるオイル色CLを検出する。オイル色検出器210の一例は、測定対象であるオイルに光を照射して、透過した光に基づいて色の三刺激値を測定する測定器、いわゆる分光測色計である。なお、本実施形態において、オイル色CLは、オイルの色相、明度、及び彩度を総合的に表すものである。
【0049】
水素イオン濃度検出器220は、オイルパン68に貯留されたオイルの水素イオン濃度pHを検出する。水素イオン濃度検出器220の一例は、プローブを測定対象のオイル内に没して測定するセンサである。
【0050】
異物量検出器230は、オイルパン68に貯留されたオイルに含まれる異物における材質毎に、粒子径、粒子数を検出する。ここで、オイルに含まれる異物の材質としては、主成分が鉄である鉄系の異物、主成分がアルミニウムであるアルミニウム系の異物、無機質結晶質の物質である鉱物系の異物、繊維状の物質である繊維系の異物である。異物量検出器230の一例は、異物が含まれる測定対象であるオイルに光を照射して、その散乱光に基づいて異物の粒子径や粒子数を測定する測定器、いわゆるパーティクルカウンタである。なお、パーティクルカウンタは、当該パーティクルカウンタの内部にオイルを吸引し、そのオイルが検出部を通過する際にオイルに含まれる異物の粒子径や粒子数を検出する。
【0051】
異物量検出器230は、散乱光が検出されることに基づき異物が存在すること、すなわち異物の数を検出する。また、異物量検出器230は、散乱光の波長に基づき、検出された異物が、鉄系の異物であるか、アルミニウム系の異物であるか、鉱物系の異物であるか、繊維系の異物であるかを判定する。さらに、異物量検出器230は、散乱光の強度に基づき検出された異物の粒子径を判定する。
【0052】
異物量検出器230は、検出された異物のうちの鉄系の異物について、粒子径に応じて分類する。この実施形態では、異物量検出器230は、粒子径が第1規定値未満、粒子径が第1規定値以上であって第2規定値未満、粒子径が第2規定値以上、の3つに分類する。なお、第1規定値及び第2規定値は予め定められたものであり、第2規定値は第1規定値よりも大きい。
【0053】
異物量検出器230は、粒子径が第1規定値未満と分類された鉄系の異物の数に所定の係数を乗算することにより、単位体積当たりのオイルに含まれる鉄系の異物のうち、粒子径が第1規定値未満の粒子の数である第1粒子数Dfe1を算出する。同様に、異物量検出器230は、粒子径が第1規定値以上であって第2規定値未満と分類された鉄系の異物の数に所定の係数を乗算することにより、単位体積当たりのオイルに含まれる鉄系の異物のうち、粒子径が第1規定値以上であって第2規定値未満の粒子の数である第2粒子数Dfe2を算出する。また、異物量検出器230は、粒子径が第2規定値以上と分類された鉄系の異物の数に所定の係数を乗算することにより、単位体積当たりのオイルに含まれる鉄系の異物のうち、粒子径が第2規定値以上の粒子の数である第3粒子数Dfe3を算出する。
【0054】
異物量検出器230は、アルミニウム系の異物、鉱物系の異物、繊維系の異物についても、鉄系の異物と同様に粒子径に応じて分類する。すなわち、異物量検出器230は、単位体積当たりのオイルに含まれるアルミニウム系の異物のうち、粒子径が第1規定値未満の粒子の数を第1粒子数Da1、粒子径が第1規定値以上であって第2規定値未満の粒子の数を第2粒子数Da2、粒子径が第2規定値以上の粒子の数を第3粒子数Da3として検出する。また、異物量検出器230は、単位体積当たりのオイルに含まれる鉱物系の異物のうち、粒子径が第1規定値未満の粒子の数を第1粒子数Dm1、粒子径が第1規定値以上であって第2規定値未満の粒子の数を第2粒子数Dm2、粒子径が第2規定値以上の粒子の数を第3粒子数Dm3として検出する。さらに、異物量検出器230は、単位体積当たりのオイルに含まれる繊維系の異物のうち、粒子径が第1規定値未満の粒子の数を第1粒子数Dfi1、粒子径が第1規定値以上であって第2規定値未満の粒子の数を第2粒子数Dfi2、粒子径が第2規定値以上の粒子の数を第3粒子数Dfi3として検出する。
【0055】
なお、本実施形態において、異物量検出器230は、各粒子の最大幅を粒子径として扱っている。例えば、楕円形状の粒子である場合には、その粒子の長径が粒子径であり、細長い形状の粒子である場合には、その粒子の長手方向の長さが粒子径である。
【0056】
入力デバイス250は、劣化推定ユニット200を使用する作業者等の指令を制御装置290に入力するためのデバイスである。入力デバイス250は、例えばキーボード、マウスなどである。表示器260は、制御装置290からの情報を作業者等に伝達するためのデバイスである。表示器260は、例えば、液晶ディスプレイである。
【0057】
制御装置290には、上述したオイル色検出器210、水素イオン濃度検出器220、異物量検出器230、入力デバイス250、及び表示器260が、ケーブル等を介して接続されている。
【0058】
制御装置290には、オイル色CLを示す信号がオイル色検出器210から入力される。制御装置290には、水素イオン濃度pHを示す信号が水素イオン濃度検出器220から入力される。制御装置290には、鉄系の異物についての第1粒子数Dfe1~第3粒子数Dfe3、アルミニウム系の異物についての第1粒子数Da1~第3粒子数Da3、鉱物系の異物についての第1粒子数Dm1~第3粒子数Dm3、及び繊維系の異物についての第1粒子数Dfi1~第3粒子数Dfi3を示す信号が異物量検出器230から入力される。
【0059】
制御装置290は、オイル色CLに基づいて、オイル色CLを示す数値であるオイル色値CLAに変換する。具体的には、制御装置290には、オイルの色毎に数値が予め定められた対応表が記憶されている。制御装置290は、上記の対応表にオイル色CLを対応付けることにより、オイル色値CLAを算出する。なお、上記の対応表の設定にあたっては、実験等でオイルを劣化させていき、オイルが劣化する際に取り得る複数の色を把握する。そして、オイルが劣化する際に取り得る複数の色と数値とをそれぞれ対応付けることにより、上記の対応表が設定されている。
【0060】
制御装置290は、CPU291、周辺回路292、ROM293、及び記憶装置294を備えている。CPU291、周辺回路292、ROM293、及び記憶装置294は、バス295によって通信可能に接続されている。ROM293には、CPU291が各種の制御を実行するために各種のプログラムが予め記憶されている。記憶装置294には、写像データ294Aが予め記憶されている。写像データ294Aによって規定される写像M1は、入力変数が入力されることによりオイルの劣化度を示す出力変数を出力する。なお、写像M1の具体的な説明は後述する。記憶装置294は、オイル色値CLA、水素イオン濃度pH、及び各種の粒子数を含む各種のデータを一定時間に亘って記憶する。周辺回路292は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、リセット回路等を含む。本実施形態において、CPU291及びROM293が実行装置である。また、記憶装置294が記憶装置である。制御装置290が劣化推定装置として機能する。なお、制御装置290の一例は、パーソナルコンピュータである。
【0061】
制御装置290には、コネクタ240が設けられている。コネクタ240は、双方向の通信が可能な汎用の端子群を有しており、他の装置との通信が可能になっている。この実施形態では、例えば、車両100のメンテナンス等の際に、作業者によって劣化推定ユニット200のコネクタ240が車両100のコネクタ80に接続されると、劣化推定ユニット200の制御装置290は、車両100の制御装置90と通信可能になる。そして、入力デバイス250を介して、データの受信が指示されると、制御装置290のCPU291は、制御装置90の記憶装置94にアクセスすることにより、変速回数SN、走行距離MI、及び走行時間RTを取得する。そして、制御装置290の記憶装置294は、変速回数SN、走行距離MI、及び走行時間RTを記憶する。
【0062】
次に、CPU291がオイルパン68に貯留されたオイルの劣化度を推定する推定制御について説明する。
なお、CPU291は、入力デバイス250を介して車両100のメンテナンス等を行う作業者等からオイルの劣化度の推定が指示されると、一連の推定制御を実行する。ROM293には、推定制御を実行するためのプログラムである推定用プログラムが予め記憶されている。CPU291は、ROM293に記憶された推定用プログラムを実行することにより、推定制御を実行する。なお、推定制御を実行する前において、記憶装置294には、変速回数SN、走行距離MI、及び走行時間RTが記憶されているものとする。また、推定制御を実行する前において、記憶装置294には、オイル色値CLA、水素イオン濃度pH、及び各種の粒子数が記憶されているものとする。
【0063】
なお、推定制御を実行する前において、例えば、車両100のメンテナンス等を行う作業者は、オイル色検出器210、水素イオン濃度検出器220、及び異物量検出器230を用いて各種の値を検出する。具体的には、作業者は、車両100のメンテナンス等の際に、当該車両100のオイルパン68に貯留されたオイルの一部を採取する。そして、作業者は、オイル色検出器210を用いて採取したオイルのオイル色CLを検出する。また、作業者は、水素イオン濃度検出器220を用いて採取したオイルの水素イオン濃度pHを検出する。さらに、作業者は、異物量検出器230を用いて、採取したオイルにおける各種の粒子数を検出する。そして、作業者は、入力デバイス250を介して各種の値の取得を制御装置290に指示することにより、検出されたオイル色CL、水素イオン濃度pH、及び各種の粒子数が制御装置290に入力される。その結果、推定制御を実行する前において、記憶装置294には、オイル色CLに基づいたオイル色値CLA、水素イオン濃度pH、及び各種の粒子数が記憶される。
【0064】
図3に示すように、推定制御が開始されると、ステップS11において、CPU291は、記憶装置294にアクセスすることにより、各種の値を取得する。具体的には、CPU291は、オイル色値CLA、及び水素イオン濃度pHを取得する。また、CPU291は、鉄系の異物についての第1粒子数Dfe1~第3粒子数Dfe3、アルミニウム系の異物についての第1粒子数Da1~第3粒子数Da3、鉱物系の異物についての第1粒子数Dm1~第3粒子数Dm3、及び繊維系の異物についての第1粒子数Dfi1~第3粒子数Dfi3を取得する。さらに、CPU291は、変速回数SN、走行距離MI、及び走行時間RTを取得する。なお、本実施形態において、ステップS11の処理が取得処理である。その後、CPU291は、処理をステップS12に進める。
【0065】
ステップS12において、CPU291は、ステップS11の処理で取得した各種の値を、オイルパン68に貯留されたオイルの劣化度を推定する写像M1への入力変数x(1)~入力変数x(17)として生成する。
【0066】
CPU291は、入力変数x(1)に、オイル色値CLAを代入する。CPU291は、入力変数x(2)に、水素イオン濃度pHを代入する。CPU291は、入力変数x(3)~入力変数x(5)に、鉄系の異物についての第1粒子数Dfe1~第3粒子数Dfe3を代入する。CPU291は、入力変数x(6)~入力変数x(8)に、アルミニウム系の異物についての第1粒子数Da1~第3粒子数Da3を代入する。CPU291は、入力変数x(9)~入力変数x(11)に、鉱物系の異物についての第1粒子数Dm1~第3粒子数Dm3を代入する。CPU291は、入力変数x(12)~入力変数x(14)に、繊維系の異物についての第1粒子数Dfi1~第3粒子数Dfi3を代入する。CPU291は、入力変数x(15)に、変速回数SNを代入する。CPU291は、入力変数x(16)に、走行距離MIを代入する。CPU291は、入力変数x(17)に、走行時間RTを代入する。その後、CPU291は、処理をステップS13に進める。
【0067】
本実施形態において、入力変数x(1)は、オイルの色を示す変数である色変数である。入力変数x(2)は、オイルの水素イオン濃度を示す変数である水素イオン変数である。入力変数x(3)~入力変数x(14)は、単位体積当たりのオイルに含まれる異物の量を示す変数である異物量変数である。また、鉄系の異物に着目したとき、入力変数x(3)は、粒子径が予め定められた第1範囲内である異物の量を示す第1異物量変数であり、入力変数x(4)は、粒子径が第1範囲とは異なる範囲として予め定められた第2範囲内である異物の量を示す第2異物量変数である。さらに、鉄系の異物及びアルミニウム系の異物に着目したとき、入力変数x(3)~入力変数x(5)は、特定の材質の異物の量を示す第1異物量変数であり、入力変数x(6)~入力変数x(8)は、特定の材質とは異なる材質の異物の量を示す第2異物量変数である。入力変数x(15)は、自動変速機の変速回数を示す変数である変速回数変数である。入力変数x(16)は、車両にオイルが供給されてからの車両の走行距離を示す変数である走行距離変数である。入力変数x(17)は、車両にオイルが供給されてから車両の車速がゼロよりも大きい時間である走行時間を示す走行時間変数である。
【0068】
ステップS13において、CPU291は、写像データ294Aによって規定される写像M1に、ステップS12の処理において生成された入力変数x(1)~入力変数x(17)及びバイアスパラメータとしての入力変数x(0)を入力することによって、出力変数y(i)の値を算出する。その後、CPU291は、処理をステップS21に進める。
【0069】
写像データ294Aによって規定される写像M1の一例は、関数近似器であり、中間層が1層の全結合順伝搬型のニューラルネットワークである。具体的には、写像データ294Aによって規定される写像M1では、入力変数x(1)~x(17)及びバイアスパラメータとしての入力変数x(0)が、係数wFjk(j=1~m、k=0~17)によって規定される線形写像にて変換された「m」個の値のそれぞれが活性化関数fに代入されることによって、中間層のノードの値が定まる。また、係数wSij(i=1)によって規定される線形写像によって中間層のノードの値が変換された値のそれぞれが活性化関数gに代入されることによって、出力変数y(1)が定まる。出力変数y(1)は、オイルパン68に貯留されたオイルを新しいオイルに交換するまでに車両100が走行可能な距離を示す変数である。ここで、車両100が走行可能な距離は、オイルが劣化していくほど短い。したがって、出力変数y(1)は、オイルの劣化度を示す値といえる。また、出力変数y(1)は、オイルの交換が必要となる交換時期を示す変数の一例である。なお、出力変数y(1)が大きいほど、車両100が走行可能な距離が長い。本実施形態において、ステップS12及びステップS13の処理が算出処理である。本実施形態では、活性化関数fの一例は、ReLU関数である。また、活性化関数gの一例は、シグモイド関数である。
【0070】
なお、写像データ294Aによって規定される写像M1は、例えば次のように生成されたものである。先ず、車両100の製品出荷前において、試作品の車両を様々な状態で走行させるなどして、オイルパン68に新しいオイルが供給されてから、そのオイルの交換が必要になるまでオイルを劣化させる。このとき、交換が必要になる前のオイルに関する各種の値、及び交換が必要になったオイルに関する各種の値を取得する。そして、交換が必要になる前のオイルに関する各種の値、及び交換が必要になったオイルに関する各種の値を教師データとして学習させることにより、学習済みの写像M1を生成する。
【0071】
ステップS21において、CPU291は、出力変数y(1)に基づいて、車両100がオイルの交換を要さずに走行可能な距離である余走行距離Zを算出する。この実施形態では、CPU291は、出力変数y(1)が大きいほど余走行距離Zを長い距離で算出する。その後、CPU291は、処理をステップS22に進める。
【0072】
ステップS22において、CPU291は、余走行距離Zが予め定められた閾値A以下であるか否かを判定する。ここで、余走行距離Zは、オイルが劣化していくほど短くなっていく。そこで、閾値Aは、余走行距離Zが短くなってオイルの交換を早期に行う必要があるか否かを判定するための値、例えば数十キロメートルから数百キロメートルとして定められている。ステップS22において、CPU291は、余走行距離Zが閾値A以下であると判定した場合(S22:YES)、処理をステップS31に進める。
【0073】
ステップS31において、CPU291は、オイルパン68に貯留されたオイルを新しいオイルに交換する必要があると判定する。その後、CPU291は、処理をステップS32に進める。ステップS32において、CPU291は、新しいオイルに交換する必要があることを表示器260に表示させるための信号を当該表示器260に出力する。また、CPU291は、余走行距離Zを表示器260に表示させるための信号を当該表示器260に出力する。その後、CPU291は、今回の推定制御を終了する。
【0074】
一方、ステップS22において、CPU291は、余走行距離Zが閾値Aよりも大きいと判定した場合(S22:NO)、処理をステップS41に進める。ステップS41において、CPU291は、オイルパン68に貯留されたオイルを新しいオイルに交換する必要がないと判定する。その後、CPU291は、処理をステップS42に進める。ステップS42において、CPU291は、新しいオイルに交換する必要がないことを表示器260に表示させるための信号を当該表示器260に出力する。また、CPU291は、余走行距離Zを表示器260に表示させるための信号を当該表示器260に出力する。その後、CPU291は、今回の推定制御を終了する。
【0075】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)上記実施形態の車両100において、オイルが劣化していくと、オイルの劣化に応じてそのオイルの色であるオイル色CLが変化する。例えば、オイルの劣化に伴って、オイルの色が薄い茶色から濃い茶色に変化していく。また、オイルが劣化していくと、オイルの劣化に応じてそのオイルの水素イオン濃度pHが変化する。そして、このオイル色CL及び水素イオン濃度pHは、車両100の運転状態や自動変速機30の動作状況等のオイルの使用状況に左右されにくい。そこで、本実施形態では、オイルの劣化を推定するにあたって、オイル色CL及び水素イオン濃度pHを取得し、そのオイル色CLに基づいたオイル色値CLA及び水素イオン濃度pHからオイルの劣化を推定する。これにより、車両100がどのような運転状態であっても、車両100の自動変速機30等が動作していなくても、オイルの劣化度を推定できる。なお、オイル色CLや水素イオン濃度pHとオイルの劣化との間には、例えば線形の関係のような単純な関係性が得られないおそれもある。このような場合であっても、学習済みの写像M1を用いてオイルの劣化度を推定することで、正確な劣化度の推定が可能となる。
【0076】
(2)自動変速機30における第1クラッチC1等が解放状態から係合状態になる際には、第1クラッチC1等の摩擦材の摩耗により摩耗粉が発生し、その摩耗粉がオイルに異物として混入することがある。そして、オイルに含まれる異物全体の量は、オイルの劣化が進むほど多くなる傾向がある。
【0077】
写像データ294Aによって規定される写像M1には、異物量変数として、鉄系の異物についての第1粒子数Dfe1等を示す値が入力される。すなわち、写像M1には、異物の量という、オイルの劣化度と高い相関のある値が入力変数として入力される。したがって、出力変数として、オイルの劣化を正確に反映した値を得ることができる。
【0078】
(3)オイルに含まれる異物は、様々な形状が存在する粒子状の固体であるため、例えば単位体積当たりのオイルに含まれる異物の体積を正確に検出することは難しい。一方、単位体積当たりのオイルに含まれる異物の粒子数は、単位体積当たりのオイルに含まれる異物の体積に比べて検出しやすい。そこで、写像M1に入力する異物量変数としては、単位体積当たりのオイルに含まれる異物の粒子数を採用している。したがって、オイルの劣化度を推定するにあたって、異物の粒子数を検出するために、例えば特殊な計測装置を使用したり、特殊な作業工程を経たりする必要がない。
【0079】
(4)オイルに含まれる異物の粒子径は、オイルの劣化度に応じて変化することがある。例えば、自動変速機30の製造直後は、当該自動変速機30の製造過程で生じる粒子が異物としてオイル中に出現するため、比較的に異物の粒子径が大きい。その一方で、自動変速機30が使用されていくと、係合要素の係合に伴う摩耗粉がオイル中に出現するため、比較的に異物の粒子径が小さい。したがって、自動変速機30が使用されていくにしたがって、換言するとオイルが劣化していくにしたがって、異物の粒子系の分布が変化していく。そこで、写像データ294Aによって規定される写像M1には、粒子径ごとに大別した異物量を入力する。これにより、異物の粒子径の分布を加味してオイルの劣化度を推定できる。その結果、オイルの劣化の進行にしたがって、異物の粒子径が変化していく場合であっても、正確なオイルの劣化度の推定が可能となる。
【0080】
(5)オイルに含まれる異物としては、鉄系の異物だけでなく、アルミニウム系などの材質が異なる異物が含まれることがある。この場合、オイルの劣化が進むほど、鉄系の異物の量やアルミニウム系の異物の量の分布、例えば、鉄系の異物の量とアルミニウム系の異物の量との割合が変化することがある。
【0081】
そこで、写像M1には、鉄系の異物についての第1粒子数Dfe1~第3粒子数Dfe3だけでなく、アルミニウム系の異物についての第1粒子数Da1~第3粒子数Da3、鉱物系の異物についての第1粒子数Dm1~第3粒子数Dm3、繊維系の異物についての第1粒子数Dfi1~第3粒子数Dfi3を入力する。これにより、異物の材質の種類の分布に応じてオイルの劣化度を推定できる。その結果、オイルの劣化の進行にしたがって、発生する異物の材質の種類の分布が変化していく場合であっても、正確なオイルの劣化度の推定が可能となる。
【0082】
(6)自動変速機30の変速回数SNが多くなるほど、係合要素が解放状態から係合状態になる回数が多くなっていく。そして、係合要素が係合状態になる係合回数が多くなるほど、係合要素で摩擦熱が発生する回数が多くなるため、オイルの劣化が進行しやすい。また、係合回数が多くなるほど、係合要素の摩擦材から摩耗粉が発生する機会が多くなるため、その摩擦粉に起因してオイルの劣化が進行しやすくなる。
【0083】
そこで、写像データ294Aによって規定される写像M1には、入力変数として、変速回数SNを示す変数を入力する。これにより、オイルの劣化度の推定にあたって、自動変速機30の変速回数SNが考慮される。その結果、係合要素での摩擦熱や摩耗粉の発生の影響を反映してオイルの劣化度を推定でき得る。
【0084】
(7)車両100が走行している場合におけるオイルパン68に貯留されたオイルの温度は、車両100が走行していない場合に比べて高くなる傾向がある。そして、車両100の走行距離MIが長くなるほど、オイルパン68に貯留されたオイルの温度が高くなる機会が多くなる。その結果、オイルの劣化が進行しやすい。
【0085】
そこで、写像データ294Aによって規定される写像M1には、入力変数として、走行距離MIを示す変数を入力する。これにより、走行距離MIという、オイルの劣化度と相関のある値を加味してオイルの劣化度を推定できる。
【0086】
(8)車両100の走行時間RTが長くなるほど、オイルパン68に貯留されたオイルの温度が高くなっている期間が長くなる。その結果、オイルの劣化が進行しやすい。そこで、写像データ294Aによって規定される写像M1には、入力変数として、走行時間RTを示す変数を入力する。これにより、走行時間RTという、オイルの劣化度と相関のある値を加味してオイルの劣化度を推定できる。
【0087】
(9)写像データ294Aによって規定される写像M1の出力変数y(1)としては、オイルパン68に貯留されたオイルを新しいオイルに交換するまでに車両100が走行可能な距離を示す変数が出力される。そして、表示器260には、オイルの交換の必要があることだけでなく、出力変数y(1)に基づいた余走行距離Zが表示される。これにより、車両100のメンテナンスを行う作業者等は、表示された余走行距離Zによってオイルの交換時期を明確に把握できる。
【0088】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態を図4及び図5にしたがって説明する。本実施形態では、劣化推定ユニット200における制御装置290に代えて、制御装置90が劣化推定装置として機能する点が異なる。なお、第2実施形態の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して、説明を省略又は簡略化する。
【0089】
図4に示すように、車両100は、オイル色検出器74、及び水素イオン濃度検出器75を備えている。オイル色検出器74は、オイルパン68に貯留されたオイルの色であるオイル色CLを検出する。オイル色検出器74は、オイルパン68の近傍に取り付けられている。オイル色検出器74の一例は、測定対象であるオイルに光を照射して、反射した光に基づいて色の三刺激値を検出するセンサ、いわゆるカラーセンサである。水素イオン濃度検出器75は、オイルパン68に貯留されたオイルの水素イオン濃度pHを検出する。水素イオン濃度検出器75は、オイルパン68の近傍に取り付けられている。水素イオン濃度検出器75の一例は、プローブを測定対象のオイル内に没して測定するセンサであり、当該プローブの先端がオイルパン68内に配置されているものである。
【0090】
制御装置90には、オイル色CLを示す信号がオイル色検出器74から入力される。制御装置90には、水素イオン濃度pHを示す信号が水素イオン濃度検出器75から入力される。
【0091】
制御装置90は、オイル色CLに基づいて、オイル色CLを示す数値であるオイル色値CLAに変換する。具体的には、制御装置90には、オイルの色毎に数値が予め定められた対応表が記憶されている。制御装置90は、上記の対応表にオイル色CLを対応付けることにより、オイル色値CLAを算出する。
【0092】
記憶装置94には、写像データ94Aが予め記憶されている。写像データ94Aによって規定される写像M2は、入力変数が入力されることによりオイルの劣化度を示す出力変数を出力する。なお、写像M2の具体的な説明は後述する。記憶装置94は、オイル色値CLA、及び水素イオン濃度pHを含む各種のデータを一定時間に亘って記憶する。本実施形態において、CPU91及びROM93が実行装置である。また、記憶装置94が記憶装置である。
【0093】
次に、CPU91がオイルパン68に貯留されたオイルの劣化度を推定する推定制御について説明する。
なお、CPU91は、当該CPU91が動作を開始したときから動作を終了するときまで、予め定められた所定周期毎に推定制御を実行する。ROM93には、推定制御を実行するためのプログラムである推定用プログラムが予め記憶されている。CPU91は、ROM93に記憶された推定用プログラムを実行することにより、推定制御を実行する。
【0094】
図5に示すように、推定制御が開始されると、ステップS61において、CPU91は、記憶装置94にアクセスすることにより、各種の値を取得する。具体的には、CPU91は、オイル色値CLA、水素イオン濃度pH、変速回数SN、走行距離MI、及び走行時間RTを取得する。なお、本実施形態において、ステップS61の処理が取得処理である。その後、CPU91は、処理をステップS62に進める。
【0095】
ステップS62において、CPU91は、ステップS61の処理で取得した各種の値を、オイルパン68に貯留されたオイルの劣化度を推定する写像M2への入力変数x(1)~入力変数x(5)として生成する。
【0096】
CPU91は、入力変数x(1)に、オイル色値CLAを代入する。CPU91は、入力変数x(2)に、水素イオン濃度pHを代入する。CPU91は、入力変数x(3)に、変速回数SNを代入する。CPU91は、入力変数x(4)に、走行距離MIを代入する。CPU91は、入力変数x(5)に、走行時間RTを代入する。その後、CPU91は、処理をステップS63に進める。
【0097】
本実施形態において、入力変数x(1)は、オイルの色を示す変数である色変数である。入力変数x(2)は、オイルの水素イオン濃度を示す変数である水素イオン変数である。入力変数x(3)は、自動変速機の変速回数を示す変数である変速回数変数である。入力変数x(4)は、車両にオイルが供給されてからの車両の走行距離を示す変数である走行距離変数である。入力変数x(5)は、車両にオイルが供給されてから車両の車速がゼロよりも大きい時間である走行時間を示す走行時間変数である。
【0098】
ステップS63において、CPU91は、写像データ94Aによって規定される写像M2に、ステップS62の処理において生成された入力変数x(1)~入力変数x(5)及びバイアスパラメータとしての入力変数x(0)を入力することによって、出力変数y(i)の値を算出する。その後、CPU91は、処理をステップS71に進める。
【0099】
写像データ94Aによって規定される写像M2の一例は、関数近似器であり、中間層が1層の全結合順伝搬型のニューラルネットワークである。写像M2は、入力変数の数や種類が異なることを除けば、第1実施形態における写像M1と同様であるので、詳しい説明は省略する。
【0100】
ステップS71において、CPU91は、出力変数y(1)に基づいて、車両100がオイルの交換を要さずに走行可能な距離である余走行距離Zを算出する。CPU91、出力変数y(1)が大きいほど余走行距離Zを長い距離で算出する。その後、CPU91は、処理をステップS72に進める。
【0101】
ステップS72において、CPU91は、余走行距離Zが予め定められた閾値A以下であるか否かを判定する。第2実施形態における閾値Aは、第1実施形態における閾値Aと同様である。ステップS72において、CPU91は、余走行距離Zが閾値A以下であると判定した場合(S72:YES)、処理をステップS81に進める。
【0102】
ステップS81において、CPU91は、オイルパン68に貯留されたオイルを新しいオイルに交換する必要があると判定する。その後、CPU91は、処理をステップS82に進める。ステップS82において、CPU91は、新しいオイルに交換する必要があることを表示器76に表示させるための信号を当該表示器76に出力する。また、CPU91は、余走行距離Zを表示器76に表示させるための信号を当該表示器76に出力する。その後、CPU91は、今回の推定制御を終了する。
【0103】
一方、ステップS72において、CPU91は、余走行距離Zが閾値Aよりも大きいと判定した場合(S72:NO)、処理をステップS91に進める。ステップS91において、CPU91は、オイルパン68に貯留されたオイルを新しいオイルに交換する必要がないと判定する。その後、CPU91は、今回の推定制御を終了する。
【0104】
本実施形態の作用及び効果について説明する。本実施形態では、上記の(1)、(6)~(8)の効果に加えて、次の(10)及び(11)の効果がある。
(10)写像データ94Aによって規定される写像M2の出力変数y(1)としては、オイルパン68に貯留されたオイルを新しいオイルに交換するまでに車両100が走行可能な距離を示す変数が出力される。そして、表示器76には、オイルの交換の必要があることだけでなく、出力変数y(1)に基づいた余走行距離Zが表示される。これにより、車両100の運転者等は、表示された余走行距離Zによってオイルの交換時期を明確に把握できる。
【0105】
(11)上記実施形態では、車両100の制御装置90が劣化推定装置として機能する。したがって、自動車整備工場等のような特定の箇所に行かなくても、オイルを交換するべきかどうかの情報を得られる。
【0106】
<その他の実施形態>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0107】
「色変数について」
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、色変数は、上記実施形態の例に限らない。例えば、色変数は、オイルの色相、明度、及び彩度を総合的に表す変数である必要はなく、オイルの色相、明度、及び彩度のうちのいずれか1つを表す変数であってもよい。
【0108】
・例えば、オイルパン68に供給される新しいオイルの色が透明な薄い茶色である場合、そのオイルが劣化するほど、オイルの透明度が低くなることがある。この場合、色変数としては、オイルの透明度を示す変数であってもよい。
【0109】
「水素イオン変数について」
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、水素イオン変数は、上記実施形態の例に限らない。例えば、水素イオン変数として、水素イオン濃度pHに応じて段階的に変化する変数を採用してもよい。具体例としては、水素イオン濃度pHが予め定められた一定値未満である場合に「0」、水素イオン濃度pHが予め定められた一定値以上である場合に「1」となる変数を、水素イオン変数として写像に入力してもよい。
【0110】
「その他の入力変数について」
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、入力変数は、上記実施形態の例に限らない。例えば、自動変速機30における係合要素の摩擦材の材質によってその摩擦材から発生する摩耗粉の材質が変わるため、オイルに含まれる異物の材質が変化する。したがって、鉄系の異物、アルミニウム系の異物、鉱物系の異物、及び繊維系の異物に代えて、又は加えて、他の材質の異物の量を異物量変数として入力してもよい。
【0111】
・上記実施形態では、異物の粒子径を3つの範囲に分類したが、2つの範囲に分類してもよいし、4つ以上の範囲に分類してもよい。さらに、異物の量を粒子径に応じて分類しなくてもよい。
【0112】
・単位体積当たりのオイルに含まれる異物の粒子数を異物量変数として取り扱うのではなく、単位体積当たりのオイルに含まれる異物の総体積や総重量を異物量変数として採用してもよい。
【0113】
・例えば、変速回数変数としては、自動変速機30の変速回数SN以外の値を採用してもよい。具体例としては、自動変速機30を構成する係合要素のうち、特定の係合要素、例えば第1クラッチC1の係合回数を変速回数変数として採用してもよい。
【0114】
・例えば、車両100における走行距離MI及び走行時間RTは、互いにある程度の相関がある。そのため、入力変数として、走行距離MI及び走行時間RTの一方のみを採用してもよい。
【0115】
・例えば、入力変数としては、オイルに含まれる異物の量、変速回数SN、走行距離MI、及び走行時間RTを必ずしも要しなくてもよく、適宜省略してもよい。すなわち、入力変数としては、少なくとも色変数及び水素イオン変数を含んでいれば、相応の精度でもってオイルの劣化度を推定できる。
【0116】
「出力変数について」
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、出力変数は、上記実施形態の例に限らない。例えば、オイルパン68に貯留されたオイルの劣化が進行するほど、オイルパン68に貯留されたオイルを新しいオイルに交換するまでに車両100が走行可能な時間である余走行時間が短くなる傾向がある。そこで、出力変数としては、上記の余走行時間を示す変数を採用してもよい。なお、この場合、出力変数は、オイルの交換が必要となる交換時期を示す変数である。
【0117】
・例えば、出力変数として、オイルの劣化度を示す変数を採用してもよい。具体例としては、劣化が生じていないオイルの状態を「0」、劣化が進行して交換が必要になるオイルの状態を「1」としたとき、「0」~「1」の間で変化する変数を、オイルの劣化度を示す出力変数として採用してもよい。この構成によれば、オイルの劣化度を数値として客観的に把握しやすい。なお、「0」は、オイルに劣化が生じていない状態を示す第1値であり、「1」は、オイルの交換が必要な状態を示す第2値である。
【0118】
「写像について」
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、写像の活性化関数は例示であり、写像の活性化関数は変更してもよい。
【0119】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、ニューラルネットワークとして、中間層の数が1層のニューラルネットワークを例示したが、中間層の数が2層以上であってもよい。
【0120】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、ニューラルネットワークとして、全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示したが、これに限らない。例えば、ニューラルネットワークとしては、回帰結合型ニューラルネットワークを採用してもよい。
【0121】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、写像としての関数近似器は、ニューラルネットワークに限らない。例えば、中間層を備えない回帰式であってもよい。
「実行装置について」
・上記第1実施形態において、実行装置としては、CPU291及びROM293を備えてソフトウェア処理を実行するものに限らない。具体例としては、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部をハードウェア処理する、例えばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、実行装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。なお、上記第2実施形態においても同様である。
【0122】
「オイルについて」
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、劣化度を推定するオイルとして、自動変速機30に供給されるオイルを例示したが、これに限らない。例えば、車両100は、自動変速機30に代えて、運転者の操作によって変速段を変更する手動変速機を備えており、その手動変速機には、油圧装置からのオイルが供給されるものとする。この構成においては、油圧装置から手動変速機に供給されるオイルの劣化度を推定してもよい。この場合、手動変速機が変速機である。
【0123】
・また、例えば、車両100は、自動変速機30に代えて、油圧装置から供給されるオイルの圧力に応じて変速比を無段階で変更する無段変速機を備えているものとする。この構成においては、油圧装置から無段変速機に供給されるオイルの劣化度を推定してもよい。この場合、無段変速機が変速機である。
【0124】
・さらに、例えば、変速機に供給されるオイルに限らず、油圧装置から内燃機関に供給されて当該内燃機関の各部を循環するオイルの劣化度を推定してもよい。すなわち、車両に用いられるオイルであれば、本件技術を適用でき得る。
【0125】
「車両について」
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、車両としては、いわゆるシリーズ・パラレルハイブリッド車を例示したが、これに限らない。例えば、車両としては、シリーズハイブリッド車や、パラレルハイブリッド車であってもよい。
【0126】
・上記第1実施形態及び第2実施形態において、車両としては、内燃機関とモータジェネレータとを備えるものにも限らない。例えば、車両としては、内燃機関を備えるもののモータジェネレータを備えない車両であってもよい。さらに、例えば、車両としては、モータジェネレータを備えるものの内燃機関を備えない車両であってもよい。
【符号の説明】
【0127】
CL…オイル色
CLA…オイル色値
M1…写像
pH…水素イオン濃度
Z…余走行距離
10…内燃機関
30…自動変速機
61…第1モータジェネレータ
62…第2モータジェネレータ
65…油圧装置
68…オイルパン
69…駆動輪
74…オイル色検出器
75…水素イオン濃度検出器
90…制御装置
100…車両
200…劣化推定ユニット
210…オイル色検出器
220…水素イオン濃度検出器
230…異物量検出器
240…コネクタ
250…入力デバイス
260…表示器
290…制御装置
291…CPU
292…周辺回路
293…ROM
294…記憶装置
294A…写像データ
図1
図2
図3
図4
図5