(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】磁石の製造方法、及びロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20231011BHJP
H02K 1/278 20220101ALI20231011BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20231011BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H02K15/03 A
H02K1/278
H01F41/02 G
H01F7/02 E
H01F7/02 F
(21)【出願番号】P 2020126533
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】武島 健太
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-137965(JP,A)
【文献】特開2019-140773(JP,A)
【文献】特開2009-171785(JP,A)
【文献】特開2007-151362(JP,A)
【文献】特開平03-180588(JP,A)
【文献】特表平05-501346(JP,A)
【文献】特開平01-282376(JP,A)
【文献】特開2018-038107(JP,A)
【文献】国際公開第2014/167953(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H02K 1/27
H01F 41/02
H01F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁部材によって磁石本体の表面
のうちの第1面及び前記第1面とは反対側に位置する第2面の少なくとも一方が覆われている磁石の製造方法であって、
熱可塑性樹脂繊維及び無機繊維を含んで構成される
不織布の前記絶縁部材を、前記磁石本体の
前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方に配置する配置工程と、
前記絶縁部材を前記熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度以上に加熱しながら加圧することで、前記無機繊維が弾性圧縮された状態で前記絶縁部材を前記磁石本体に熱圧着する熱圧着工程とを有する
磁石の製造方法。
【請求項2】
前記配置工程では、
不織布の前記絶縁部材をロール状に巻いた2つのロール体の双方から前記絶縁部材を巻き出して一方の前記ロール体から巻き出した前記絶縁部材を前記磁石本体の
前記第1面に配置すると共に他方の前記ロール体から巻き出した前記絶縁部材を前記磁石本体の
前記第2面に配置する
請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項3】
スロットが空いているロータコアと、前記スロット内に配置され、絶縁部材によって磁石本体の表面
のうちの第1面及び前記第1面とは反対側に位置する第2面の少なくとも一方が覆われている磁石とを有するロータの製造方法であって、
熱可塑性樹脂繊維及び無機繊維を含んで構成される
不織布の前記絶縁部材を、前記磁石本体の
前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方に配置する配置工程と、
前記絶縁部材を前記熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度以上に加熱しながら加圧することで、前記無機繊維が弾性圧縮された状態で前記絶縁部材を前記磁石本体に熱圧着して前記磁石を形成する熱圧着工程と、
前記スロット内に前記磁石を配置した状態で前記磁石を前記ガラス転移温度以上に加熱することによって前記無機繊維を弾性復帰させて前記磁石を前記ロータコアに固定する固定工程とを有する
ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁石の製造方法、及びロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータに用いられる磁石が開示されている。この磁石においては、焼結磁石である磁石本体に、樹脂製の絶縁被膜が積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような磁石をモータのロータに利用する際、先ず、当該ロータのスロット内に磁石を挿入する。この時、磁石を速やかにスロット内に挿入できるように、磁石の寸法は、スロットの寸法よりもわずかに小さくなっている。その後、磁石をロータに固定する。ここで、磁石をロータに固定するにあたっては、例えばロータに接着剤を塗布して硬化させたり、磁石を含めたロータ全体に樹脂を塗布して硬化させたりする処理が必要である。したがって、特許文献1が開示する磁石は、ロータに適用した場合にロータに対する固定処理に手間がかかってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための磁石の製造方法は、絶縁部材によって磁石本体の表面のうちの第1面及び前記第1面とは反対側に位置する第2面の少なくとも一方が覆われている磁石の製造方法であって、熱可塑性樹脂繊維及び無機繊維を含んで構成される不織布の前記絶縁部材を、前記磁石本体の前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方に配置する配置工程と、前記絶縁部材を前記熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度以上に加熱しながら加圧することで、前記無機繊維が弾性圧縮された状態で前記絶縁部材を前記磁石本体に熱圧着する熱圧着工程とを有する。
【0006】
上記のように製造された磁石を再度加熱した場合、絶縁部材における熱可塑性樹脂繊維が再度軟化し、弾性圧縮されていた無機繊維が元に戻る作用によって絶縁部材が膨張する。この特性を利用し、ロータコアのスロット内に磁石を配置して絶縁部材を膨張させれば、磁石をロータに固定できる。この場合、接着材やモールド加工のための樹脂等を磁石やロータに塗布するといった手間は不要で、磁石が挿入されたロータコアを加熱するという単純な処理で、磁石をロータコアに固定できる。
【0007】
磁石の製造方法において、前記配置工程では、不織布の前記絶縁部材をロール状に巻いた2つのロール体の双方から前記絶縁部材を巻き出して一方の前記ロール体から巻き出した前記絶縁部材を前記磁石本体の前記第1面に配置すると共に他方の前記ロール体から巻き出した前記絶縁部材を前記磁石本体の前記第2面に配置してもよい。上記構成のようにロール体から絶縁部材を巻き出す構成とすれば、配置工程を連続して行うことができる。このことは、複数の磁石を順次製造していく上で好適である。
【0008】
上記課題を解決するためのロータの製造方法は、スロットが空いているロータコアと、前記スロット内に配置され、絶縁部材によって磁石本体の表面のうちの第1面及び前記第1面とは反対側に位置する第2面の少なくとも一方が覆われている磁石とを有するロータの製造方法であって、熱可塑性樹脂繊維及び無機繊維を含んで構成される不織布の前記絶縁部材を、前記磁石本体の前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方に配置する配置工程と、前記絶縁部材を前記熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度以上に加熱しながら加圧することで、前記無機繊維が弾性圧縮された状態で前記絶縁部材を前記磁石本体に熱圧着して前記磁石を形成する熱圧着工程と、前記スロット内に前記磁石を配置した状態で前記磁石を前記ガラス転移温度以上に加熱することによって前記無機繊維を弾性復帰させて前記磁石を前記ロータコアに固定する固定工程とを有する。
【0009】
熱圧着工程で形成した磁石を再度加熱した場合、絶縁部材における熱可塑性樹脂繊維が再度軟化し、弾性圧縮されていた無機繊維が元に戻る作用によって絶縁部材が膨張する。この特性を利用し、上記構成の固定工程では、ロータコアのスロット内に磁石を配置して絶縁部材を膨張させることによって磁石をロータに固定している。この場合、接着材やモールド加工のための樹脂等を磁石やロータに塗布するといった手間は不要で、磁石が挿入されたロータコアを加熱するという単純な処理で、磁石をロータコアに固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図6】絶縁部材がロータコアに固定される様子を表した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ロータ及び磁石の一実施形態を、図面を参照して説明する。
先ず、モータの概略構成を説明する。
図1に示すように、モータ50は、全体として円柱状のシャフト55を有する。シャフト55の中心軸線Jは、モータ50の回転中心軸線Jとなっている。なお、本明細書では、シャフト55の中心軸線Jと同軸のものについては統一の符号Jを付す。
【0016】
シャフト55の径方向外側には、全体として円筒状のロータ60が配置されている。ロータ60は、全体として円筒状のロータコア62を有する。図示は省略するが、ロータコア62は、詳細には、円環状に加工された複数の電磁鋼板がそれらの中心軸線方向に積層されることにより構成されている。ロータコア62の中心の孔には、シャフト55が挿入されている。また、ロータコア62は、シャフト55と同軸で配置されている。ロータコア62の内周面は、シャフト55の外周面に固定されている。
【0017】
ロータコア62には、複数のスロット64が空いている。スロット64は、ロータコア62をその中心軸線J方向に貫通する貫通孔である。スロット64は、ロータコア62の外周寄りに位置している。複数のスロット64は、ロータコア62の周方向に間隔をおいて設けられている。
【0018】
図2に示すように、各スロット64は、ロータコア62の中心軸線J方向からの平面視において、略長方形状になっている。スロット64は、周方向に隣り合うスロット64を一対として合計で八対設けられている。ロータコア62の中心軸線J方向からの平面視において、対をなす2つのスロット64は、V字状に配置されている。詳細には、対をなす2つのスロット64は、ロータコア62の内周側に位置するほど、互いの距離が近くなっている。
【0019】
各スロット64には、それぞれ磁石80が配置されている。磁石80の本体(以下、磁石本体と記す。)82は、永久磁石で構成されている。本実施形態において、磁石本体82は、鉄、ネオジム、ホウ素等を原料とするネオジム磁石である。
図1及び
図2に示すように、磁石本体82は、長方形の板状になっている。また、磁石本体82の表面は、湾曲しておらず、扁平になっている。
【0020】
板状の磁石本体82の両面は、シート状の絶縁部材86で覆われている。絶縁部材86は、熱可塑性樹脂繊維であるポリエーテルイミドの繊維と無機繊維であるガラス繊維とを素材とした不織布となっている。なお、
図1~
図6の各図面では、絶縁部材86の厚みを誇張して大きく表している。また、
図2では、一部の磁石80について、磁石本体82及び絶縁部材86の符号を付している。
【0021】
磁石80の外形及び寸法は、概略的には磁石本体82の外形及び寸法と同じである。すなわち、磁石80は全体として長方形の板状になっている。ここで、
図2に示すように、ロータコア62の中心軸線J方向からの平面視においてスロット64の長手方向と直交する方向をスロット64の幅方向としたとき、絶縁部材86を含めた磁石80の厚みは、スロット64の幅方向の寸法と略一致している。そして、磁石80は、その両面の絶縁部材86がスロット64における幅方向両側の内面に接触した状態でスロット64内に固定されている。また、
図1に示すように、長方形状の磁石80の長辺に沿う方向の寸法は、ロータコア62の中心軸線J方向のスロット64の寸法と略一致している。そして、ロータコア62の中心軸線J方向に関して、磁石80の長辺に沿う方向の両端は、スロット64の両端に位置している。また、
図2に示すように、長方形状の磁石80の短辺に沿う方向の寸法は、ロータコア62を中心軸線J方向から平面視したときのスロット64の長手方向の寸法よりも小さくなっている。そして、ロータコア62の中心軸線J方向からの平面視において、磁石80は、スロット64の長手方向両側の内面との間に隙間を有した状態で配置されている。
【0022】
図2に示すように、対をなす2つのスロット64に配置された一対の磁石80は、モータ50の各磁極を構成している。すなわち、対をなす2つのスロット64に配置された一対の磁石80に関して、これら一対の磁石80の径方向外側の面は、互いに同じ極性に磁着されている。そして、これら一対の磁石80によって、N極またはS極の磁極が構成されている。また、一対の磁石80と、その隣に位置する一対の磁石80とでは、径方向外側の面の極性が入れ替わっている。この結果として、ロータ60においては、N極とS極とが周方向に交互に並んでいる。
【0023】
図1に示すように、ロータ60の径方向外側には、全体として円筒状のステータ70が配置されている。ステータ70は、ステータコア72を有する。ステータコア72の本体(以下、ステータコア本体と記す。)72Aは、円筒状になっている。ステータコア本体72Aは、ロータ60と同軸で配置されている。
【0024】
ステータコア本体72Aの内周面からは、複数のティース72Bが径方向内側に突出している。
図1では、ステータコア本体72Aとティース72Bとの境界に二点鎖線を付している。複数のティース72Bは、周方向に等間隔で設けられている。ティース72Bの突出端は、ロータ60の外周面よりも僅かに径方向外側に位置している。なお、
図1では、ティース72Bとロータ60との間の隙間を省略して図示している。
【0025】
各ティース72Bには、コイル76が巻回されている。コイル76は、ステータコア本体72Aの中心軸線J方向に関して、ステータコア本体72Aの両端よりも外側にまで至っている。すなわち、コイル76は、ステータコア本体72Aの中心軸線J方向においてステータコア72から突出している。コイル76が通電されると、ステータ70の内部でロータ60とシャフト55とが一体回転する。
【0026】
次に、ロータ60の製造方法について説明する。
図7に示すように、ロータ60の製造に際しては、先ず準備工程S10が行われる。準備工程S10では、ロータコア62、磁石本体82、及び絶縁部材86が準備される。ロータコア62及び磁石本体82については、既に説明した形状のものが準備される。なお、磁石本体82は、ロータコア62におけるスロット64の数に合わせて、1つのロータコア62当たり16個準備される。また、絶縁部材86については、シート状の絶縁部材86を予め帯状に作製しておき、当該帯状の絶縁部材86をロール状に巻いたロール体90として準備される。ロール体90は2つ準備される。なお、ロール体90の幅は、長方形状の磁石本体82の長辺に沿う方向の寸法に略一致している。
【0027】
準備工程S10の後、絶縁部材86を、磁石本体82の表面上に配置する配置工程S20が行われる。
図3に示すように、配置工程S20では、配置装置100が利用される。配置装置100は、巻き出し機構を有する。巻き出し機構は、上下一対で配置された円柱状のドラム110を有する。2つのドラム110は、互いの中心軸線が平行になるように配置されている。また、各ドラム110は、中心軸線を中心として回転可能になっている。2つのドラム110には、準備工程S10で準備された2つのロール体90がセットされる。図示は省略するが、巻き出し機構においては、各絶縁部材86の端が、それぞれ移動体に固定されている。そして、移動体が同一方向に移動することで、2つのロール体90から同一の送り方向に絶縁部材86が巻き出されるようになっている。その際、2つのロール体90から巻き出される絶縁部材86は、所定のテンションが付与されつつ互いに対向した状態とされる。
【0028】
また、2つのドラム110から上記送り方向に離れた位置には、磁石本体82を把持する第1把持機構120が配置されている。第1把持機構120は、板状の磁石本体82を上記送り方向と平行な状態で把持する。また、第1把持機構120は、長方形状の磁石本体82の短辺に沿う方向が上記送り方向に沿うように、磁石本体82を把持する。第1把持機構120の近傍には、磁石本体82を絶縁部材86と共に上下から挟む第2把持機構130が配置されている。また、2つのドラム110と第1把持機構120との間には、絶縁部材86を切断する切断機構140が配置されている。
【0029】
さて、配置工程S20では、巻き出し機構によって2つのロール体90から絶縁部材86が巻き出される。そして、上側のロール体90から巻き出された絶縁部材86は、第1把持機構120で把持される磁石本体82の上側の表面に配置される。その際、磁石本体82の上側の表面全体が絶縁部材86で覆われる。同様に、下側のロール体90から巻き出された絶縁部材86は、磁石本体82の下側の表面に配置される。その際、磁石本体82の下側の表面全体が絶縁部材86で覆われる。このようにして磁石本体82の両面が絶縁部材86で覆われた状態で、第2把持機構130によって磁石本体82と共に絶縁部材86が上下から把持される。この後、切断機構140によって磁石本体82と2つのドラム110との間で上下の絶縁部材86が切断される。こうして磁石本体82の両面に絶縁部材86が配置された中間体88が作製される。なお、この段階の中間体88においては、磁石本体82に絶縁部材86は圧着されていない。
【0030】
図7に示すように、配置工程S20の後、絶縁部材86を加熱しつつ加圧して磁石本体82に当該絶縁部材86を熱圧着する熱圧着工程S30が行われる。熱圧着工程S30では、プレス金型200が利用される。
図4に示すように、プレス金型200は、相対向して配置される上型201と下型202とを有する。上型201と下型202との双方は、銅で構成されている。上型201は、サーボモータによって駆動されることで下型202に対して接近または離反する。
【0031】
上型201における下型202と対向する面においては、磁石本体82の形状に整合する加圧用凹部201Aが窪んでいる。加圧用凹部201Aの窪みの深さは、磁石本体82の厚みの半分よりも小さくなっている。下型202における上型201と対向する面のうち、上型201の加圧用凹部201Aと対向する部分においては、加圧用凹部202Aが窪んでいる。下型202の加圧用凹部202Aの形状は、上型201の加圧用凹部201Aの形状と同じである。
【0032】
上型201及び下型202の双方には、温度調整可能なヒータHが内蔵されている。上型201及び下型202の双方には、冷却用の冷却機構Cが内蔵されている。また、上型201には、当該上型201における加圧用凹部201Aの温度を計測する上型温度センサT1が取り付けられている。同様に、下型202にも、当該下型202における加圧用凹部202Aの温度を計測する下型温度センサT2が取り付けられている。上型温度センサT1及び下型温度センサT2は、例えば熱電対で構成されている。また、プレス金型200には、上型201と下型202とによって対象物に加わる力を検出する荷重センサ204が取り付けられている。荷重センサ204は、例えばロードセルで構成されている。なお、
図4では便宜上、荷重センサ204を下型202の側面に図示している。
【0033】
さて、熱圧着工程S30では、配置工程S20で作製された中間体88が下型202の加圧用凹部202Aに配置された状態でプレス金型200が駆動される。なお、中間体88は、磁石本体82における下側の表面に配置されている絶縁部材86が加圧用凹部202Aの窪みの底面と対向した状態で配置される。プレス金型200が駆動されて
図4の矢印で示すように上型201が下型202に接近すると、磁石本体82の上側の表面に配置されている絶縁部材86は、磁石本体82の上側の表面と上型201の加圧用凹部201Aにおける窪みの底面とで挟み込まれる。また、磁石本体82の下側の表面に配置されている絶縁部材86は、磁石本体82の下側の表面と下型202の加圧用凹部202Aにおける窪みの底面とで挟み込まれる。この状態で、上下の絶縁部材86が規定荷重Nで加圧されるように上型201と下型202との接近位置が調整される。上下の絶縁部材86に作用する荷重は、荷重センサ204を利用して監視される。規定荷重Nは、絶縁部材86のガラス繊維を弾性圧縮させるのに必要な最小荷重以上の大きさであり、且つ、ガラス繊維が折損する最小荷重未満の大きさとして、実験等により予め定められている。
【0034】
また、上型201と下型202とはヒータHで加熱される。上型201の加圧用凹部201Aの温度は、第1規定温度Z1に調整される。加圧用凹部201Aの温度は、上型温度センサT1を利用して監視される。また、下型202の加圧用凹部202Aの温度は、第1規定温度Z1に調整される。加圧用凹部202Aの温度は、下型温度センサT2を利用して監視される。第1規定温度Z1は、絶縁部材86を構成しているポリエーテルイミドのガラス転移温度以上であり、且つ、ポリエーテルイミドが気化する温度よりも低い温度として定められている。本実施形態では、第1規定温度Z1は、ポリエーテルイミドのガラス転移温度よりもやや高い温度として定められている。
【0035】
以上のようにして絶縁部材86を加熱しながら加圧する状態は、第1規定期間L1維持される。第1規定期間L1は、絶縁部材86が第1規定温度Z1である状態において、絶縁部材86のガラス繊維が弾性圧縮するのに十分な程度にポリエーテルイミドが軟化するのに必要な時間の長さとして、実験等により予め定められている。
【0036】
この後、絶縁部材86の加圧を維持したまま上型201及び下型202の温度が下げられる。この時、プレス金型200に内蔵された冷却機構Cによって冷却を促進してもよい。上型201の加圧用凹部201Aの温度は、第2規定温度Z2に調整される。また、下型202の加圧用凹部202Aの温度は、第2規定温度Z2に調整される。第2規定温度Z2は、ポリエーテルイミドのガラス転移温度よりも低い温度として定められている。本実施形態では、第2規定温度Z2は、ポリエーテルイミドのガラス転移温度よりもやや低い温度として定められている。
【0037】
絶縁部材86の加圧を維持したまま上型201の加圧用凹部201A及び下型202の加圧用凹部202Aを第2規定温度Z2に低下させた状態は、第2規定期間L2維持される。第2規定期間L2は、絶縁部材86が第2規定温度Z2である状態において、絶縁部材86のポリエーテルイミドが固化するのに必要な時間の長さとして、実験等により予め定められている。
【0038】
この後、上型201が下型202に対して離反動作される。下型202の加圧用凹部202Aには、磁石本体82の両面に絶縁部材86が熱圧着された磁石80が形成されている。また、この時点で、絶縁部材86の無機繊維は弾性圧縮された状態である。なお、磁石本体82の表面から絶縁部材86がはみ出している等、絶縁部材86の不要な部分がある場合には、当該不要な部分はカッター等で適宜切断される。
【0039】
図7に示すように、熱圧着工程S30の後、磁石80をロータコア62のスロット64に挿入する挿入工程S40が行われる。挿入工程S40では、挿入装置が利用される。挿入装置は、ロータコア62がセットされる保持機構を有する。また、
図5に示すように、挿入装置は、ロータコア62のスロット64に対して磁石80を位置合わせしてスロット64内に磁石80を挿入する挿入機構310を有する。なお、挿入工程S40を行う段階では、配置工程S20及び熱圧着工程S30によって、ロータコア62のスロット64毎の磁石80が製造されている。
【0040】
挿入工程S40においては、各スロット64の一方側の開口がカバー等で塞がれた状態で保持機構にロータコア62がセットされる。そして、
図5の矢印で示すように、挿入機構310によって各スロット64の他方側の開口から各スロット64内に磁石80が挿入される。磁石80は、その両面の絶縁部材86が、スロット64の幅方向両側の内面と対向した状態でスロット64内に挿入される。
【0041】
なお、後述の作用の欄で記載するとおり、熱圧着工程S30によって磁石80が製造された段階では、磁石80の絶縁部材86は、熱圧着によって磁石80の厚み方向に圧縮された状態になっている。そのため、絶縁部材86を含めた磁石80の厚みは、ロータコア62におけるスロット64の幅方向の寸法よりも小さくなっている。したがって、挿入工程S40でスロット64内に磁石80が挿入される際、磁石80は速やかにスロット64内へと移動する。
【0042】
図7に示すように、挿入工程S40の後、磁石80をロータコア62に固定する固定工程S50が行われる。固定工程S50では、温度調整が可能な炉が利用される。具体的には、固定工程S50では、各スロット64に磁石80が挿入された状態のロータコア62が炉内に配置され、ロータコア62は炉内で加熱される。炉内の温度は、第3規定温度Z3に調整される。第3規定温度Z3は、絶縁部材86を構成しているポリエーテルイミドのガラス転移温度以上であり、且つ、ポリエーテルイミドが気化する温度よりも低い温度として定められている。本実施形態において、第3規定温度Z3は第1規定温度Z1と同じ温度として定められている。
【0043】
炉内でのロータコア62の加熱は、第3規定期間L3継続される。第3規定期間L3は絶縁部材86が第3規定温度Z3である状態において、絶縁部材86のガラス繊維が弾性復帰するのに十分な程度にポリエーテルイミドが軟化するのに必要な時間の長さとして、実験等で予め定められている。ロータコア62の加熱が第3規定期間L3継続されると、ロータコア62は炉から取り出される。この後、ロータコア62は常温に戻される。そして、ロータ60が完成する。
【0044】
次に、本実施形態の作用について説明する。
熱圧着工程S30では、上型201の加圧用凹部201A及び下型202の加圧用凹部202Aがポリエーテルイミドのガラス転移温度よりも高い温度に加熱される。これに伴い、磁石本体82の両面に配置されている絶縁部材86のポリエーテルイミドが軟化する。その上で、熱圧着工程S30では、絶縁部材86が加圧される。このことにより、絶縁部材86のガラス繊維が撓んで弾性圧縮した状態になる。さらに、熱圧着工程S30では、絶縁部材86を加圧した状態を維持したまま上型201の加圧用凹部201A及び下型202の加圧用凹部202Aがポリエーテルイミドのガラス転移温度よりも低い温度に冷やされる。このことにより、絶縁部材86はガラス繊維が弾性圧縮した状態のまま磁石本体82の表面に結合する。
【0045】
また、固定工程S50では、絶縁部材86がポリエーテルイミドのガラス転移温度よりも高い温度に再加熱される。これに伴い、絶縁部材86のポリエーテルイミドが再度軟化する。すると、弾性圧縮されていたガラス繊維が弾性復帰する。これに伴い、絶縁部材86は、
図6の2点鎖線で示すガラス繊維が弾性圧縮されていた位置から、磁石80の厚み方向に膨張する(
図6の矢印参照)。絶縁部材86が膨張することにより当該絶縁部材86がスロット64の内面にまで至ると、絶縁部材86とスロット64の内面との接触による摩擦作用によって磁石80がスロット64内に固定される。
【0046】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)上記作用に記載したとおり、本実施形態では、絶縁部材86のガラス繊維を弾性圧縮した状態で絶縁部材86を磁石本体82と一体にした上で、磁石80を再加熱することでガラス繊維を弾性復帰させて磁石80をロータコア62に固定している。この場合、接着材やモールド加工のための樹脂等を磁石やロータコアに塗布するといった手間は不要であり、磁石80が挿入されたロータコア62を加熱するという単純な処理で、磁石80をロータコア62に固定できる。
【0047】
(2)本実施形態の配置装置100のように、ロール体90から絶縁部材86を巻き出す構成とすれば、配置工程S20を連続して行うことができる。このことにより、複数の中間体88を効率よく作製できる。
【0048】
(3)本実施形態のプレス金型200では、上型201と下型202との双方が銅で構成されていることから、上型201も下型202も熱伝導率が高い。したがって、絶縁部材86を磁石本体82に熱圧着させる際のエネルギーロスを低減できる。また、本実施形態のプレス金型200は、上型201と下型202との双方がヒータHを内蔵している。このことから、上型201と下型202との双方を熱圧着に好適な温度に調整できる。
【0049】
(4)磁石本体の表面を絶縁部材で覆う方法として、例えば吹き付け塗装が知られている。吹き付け塗装の場合、磁石本体に付着せずに飛散してしまう絶縁材料が存在することから、絶縁材料の歩留まりが悪い。この点、本実施形態では、配置工程S20でシート状の絶縁部材86を正確に切断できれば、無駄な絶縁部材86が生じることを抑えられる。その結果、絶縁部材86の歩留まりが高くなる。
【0050】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・配置工程S20で利用する配置装置100の構成は、上記実施形態の例に限定されない。配置装置100は、磁石本体82の表面上に絶縁部材86を配置できるように構成されていればよい。
【0051】
・配置装置100において第1把持機構120や第2把持機構130を廃止し、これら第1把持機構120や第2把持機構130が行っていた作業を人が手作業で行うようにしてもよい。
【0052】
・配置工程S20で磁石本体82の両面に絶縁部材86を配置する手法は、上記実施形態の例に限定されない。上記実施形態のように磁石本体82の両面に同時に絶縁部材86を配置するのではなく、磁石本体82の一方の表面と他方の表面とに順番に絶縁部材86を配置してもよい。
【0053】
・配置工程S20で磁石本体82の表面に絶縁部材86を配置する前に、磁石本体82の表面に接着剤や両面粘着テープ等を張り付けてもよい。このようにすることで、磁石本体82の表面に絶縁部材86を配置したときに、絶縁部材86が仮留めされる。なお、この場合の接着剤や両面粘着テープ等は、絶縁部材86を仮留めできれば足りるため、接着力はそれほど高くなくてよいし、磁石本体82の表面全体が絶縁部材86に接着されていなくてもよい。
【0054】
・配置工程S20に関して、複数の磁石80を絶縁部材86の送り方向に並べておく共に、絶縁部材86を巻き出す寸法を相応に長くし、複数の磁石80の表面上に一度に絶縁部材86を配置してもよい。そして、隣り合う磁石80の間で絶縁部材86を切断してもよい。
【0055】
・配置工程S20において、ロール体90を利用することは必須ではない。磁石本体82の1つ分の寸法の絶縁部材86を準備工程S10で準備しておき、その絶縁部材86を磁石本体82の表面に配置してもよい。
【0056】
・配置工程S20において、磁石本体82の片面にのみ絶縁部材86を配置してもよい。この場合、上型201及び下型202のいずれか一方に内蔵されているヒータHは、必ずしも要しない。冷却機構Cについても同様である。また、磁石本体82の両面又は片面に絶縁部材86を配置するにあたって、その面の一部にのみ絶縁部材86を配置してもよい。
【0057】
・熱圧着工程S30で利用するプレス金型200の構成は、上記実施形態の例に限定されない。プレス金型200は、絶縁部材86を加熱しつつ加圧できる構成であればよい。例えば、プレス金型200を駆動する機構を上記実施形態の例から変更してもよい。プレス金型200を駆動する機構を変更する場合、例えば、油圧によってプレス金型200を駆動するようにしてもよい。また、手動によって対象物を加圧する所謂ハンドプレスを採用してもよい。
【0058】
・上記変更例のように上型201及び下型202のいずれか一方に内蔵されているヒータHを要さないのであれば、要さないヒータを廃止してもよい。冷却機構Cについても同様である。また、冷却機構Cについては、上型201及び下型202の双方から廃止してもよい。この場合でも、ヒータHを停止してから時間をおくことでプレス金型200を冷却することができる。
【0059】
・上型201と下型202とを構成する材料は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、上型201と下型202とを鉄で構成してもよい。上型201と下型202の材料が互いに異なっていてもよい。
【0060】
・熱圧着工程S30の第1規定温度Z1は、熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度よりも相当に高くてもよい。
・熱圧着工程S30の第2規定温度Z2は、熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度よりも相当に低くてもよい。第2規定温度Z2は、例えば常温でもよい。
【0061】
・挿入工程S40でスロット64内に磁石80を挿入する手法は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、治具を利用して手作業でスロット64内に磁石80を挿入してもよい。
【0062】
・固定工程S50の第3規定温度Z3は、熱圧着工程S30の第1規定温度Z1とは異なっていてもよい。
・固定工程S50で絶縁部材86を加熱する手法は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、高周波誘導加熱を利用してもよい。すなわち、スロット64に磁石80が収容された状態のロータコア62を誘導加熱用のコイルの内側に配置する。そして、コイルに電流を流して磁界を発生させることで、ロータコア62とともに絶縁部材86を加熱してもよい。
【0063】
・磁石本体82を構成する永久磁石の種類は、上記実施形態の例に限定されない。磁石本体82は、永久磁石であればよい。磁石本体82に採用される永久磁石の例として、フェライト磁石、アルニコ磁石、サマリウムコバルト磁石、プラセオジム磁石、サマリウム窒素鉄磁石、白金磁石、セリウムコバルト磁石等が挙げられる。
【0064】
・磁石本体82の形状は、上記実施形態の例に限定されない。磁石本体82の形状は、スロット64内に収容できるものであればよい。例えば、磁石本体82の表面が湾曲していてもよい。
【0065】
・絶縁部材86を構成する熱可塑性樹脂繊維の種類は、上記実施形態の例に限定されない。熱可塑性樹脂繊維は、例えば、ポリエーテルサルホンやポリサルホンでもよい。ここで、モータ50の使用時にロータ60が高温になることがあり得る。また、モータ50の使用環境によっては、ロータ60に水や油が飛散したり、ロータ60に外力が作用したりすることがあり得る。こうした事情を考慮すると、熱可塑性樹脂繊維は、耐熱性、耐水性、耐油性、耐クリープ性、耐熱衝撃性、絶縁性が高いものであることが好ましい。
【0066】
・上記変更例のように、絶縁部材86を構成する熱可塑性樹脂繊維の種類を変更した場合、採用する熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度に応じて、熱圧着工程S30の第1規定温度Z1を適宜変更すればよい。第1規定温度Z1は、採用される熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度以上であり、且つ、採用される熱可塑性樹脂繊維が気化する温度よりも低い温度として定めればよい。固定工程S50の第3規定温度Z3についても同様である。
【0067】
・上記変更例と同様、第2規定温度Z2は、採用する熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度に応じて変更すればよい。第2規定温度Z2は、採用される熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度よりも低い温度として定めればよい。
【0068】
・絶縁部材86を構成する無機繊維の種類は、上記実施形態の例に限定されない。無機繊維として、例えば、ロックウール、炭素繊維、アルミナ繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維等を採用してもよい。
【0069】
・上記変更例のように、絶縁部材86を構成する無機繊維の種類を変更した場合、採用する無機繊維に応じて、熱圧着工程S30の規定荷重Nを適宜変更すればよい。規定荷重Nは、採用される無機繊維を弾性圧縮させるのに必要な最小荷重以上の大きさであり、且つ、採用される無機繊維が折損する最小荷重未満の大きさとして定めればよい。
【0070】
・絶縁部材86を構成する熱可塑性樹脂繊維の種類を変更したり、無機繊維の種類を変更したりした場合、熱可塑性樹脂繊維及び無機繊維の組み合わせに応じて、熱圧着工程S30の第1規定期間L1を適宜変更すればよい。第1規定期間L1は、絶縁部材86が第1規定温度Z1である状態において、絶縁部材86の無機繊維が弾性圧縮するのに十分な程度に無機可塑性樹繊維が軟化するのに必要な時間の長さとして定めればよい。第1規定期間L1同様、熱圧着工程S30の第2規定期間L2及び固定工程S50の第3規定期間L3についても、熱可塑性樹脂繊維及び無機繊維の組み合わせに応じて適宜変更すればよい。
【0071】
・ロータコア62におけるスロット64の配置は、上記実施形態の例に限定されない。スロット64は、上記実施形態のようなV字状の配置ではなく、例えばロータコア62の周方向に沿うようにして配置されていてもよい。ロータコア62の周方向にN極とS極が交互に並ぶように磁石80を配置できるのであれば、スロット64の配置は問わない。
【0072】
・ロータコア62におけるスロット64の数は、上記実施形態の例に限定されない。上記変更例と同様、適切に磁極を構成できるのであれば、スロット64の数は問わない。
【符号の説明】
【0073】
60…ロータ
62…ロータコア
64…スロット
80…磁石
82…磁石本体
86…絶縁部材