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特許7363701誘電体組成物および積層セラミック電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】誘電体組成物および積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/468 20060101AFI20231011BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20231011BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C04B35/468
H01B3/12 303
H01G4/30 515
H01G4/30 512
H01G4/30 201C
H01G4/30 201D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020126554
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023548
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-232260(JP,A)
【文献】特開2013-179160(JP,A)
【文献】特開2012-001378(JP,A)
【文献】特開2010-189273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/468
H01B 3/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体粒子を有し、
前記誘電体粒子のうち少なくとも一部の粒子が、
チタン酸バリウムを主成分とする主相と、
前記主相の内部に存在しており、前記主相よりもバリウムの含有比が高い異相と、を有する誘電体組成物であって、
前記異相の粒径が、10nm以上、100nm以下である誘電体組成物。
【請求項2】
前記異相におけるチタン元素の含有量に対するバリウム元素の含有量の比(Ba/Ti)が、1.2~2.0である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記誘電体組成物の断面において、
粒内に前記異相を含む前記誘電体粒子が占める面積割合が、30%~80%である請求項1または2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
前記誘電体粒子は、円相当径が0.5μm以上の大粒子と、円相当径が0.5μm未満の小粒子と、で構成してあり、
前記異相が、前記大粒子を構成する前記主相の内部に存在する請求項1~3のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項5】
前記誘電体組成物の断面において、
前記大粒子が占める面積に対して、粒内に前記異相を含む前記大粒子が占める面積の割合は、50%以上である請求項4に記載の誘電体組成物。
【請求項6】
前記誘電体組成物の断面において、前記大粒子が占める面積の割合が、50%~90%である請求項4または5に記載の誘電体組成物。
【請求項7】
複数の誘電体粒子を有し、
前記誘電体粒子のうち少なくとも一部の粒子が、
チタン酸バリウムを主成分とする主相と、
前記主相の内部に存在しており、前記主相よりもバリウムの含有比が高い異相と、を有する誘電体組成物であって、
前記異相におけるチタン元素の含有量に対するバリウム元素の含有量の比(Ba/Ti)が、1.2~2.0である誘電体組成物。
【請求項8】
複数の誘電体粒子を有し、
前記誘電体粒子のうち少なくとも一部の粒子が、
チタン酸バリウムを主成分とする主相と、
前記主相の内部に存在しており、前記主相よりもバリウムの含有比が高い異相と、を有する誘電体組成物であって、
前記誘電体組成物の断面において、
粒内に前記異相を含む前記誘電体粒子が占める面積割合が、30%~80%である誘電体組成物。
【請求項9】
複数の誘電体粒子を有し、
前記誘電体粒子のうち少なくとも一部の粒子が、
チタン酸バリウムを主成分とする主相と、
前記主相の内部に存在しており、前記主相よりもバリウムの含有比が高い異相と、を有する誘電体組成物であって、
前記誘電体粒子は、円相当径が0.5μm以上の大粒子と、円相当径が0.5μm未満の小粒子と、で構成してあり、
前記異相が、前記大粒子を構成する前記主相の内部に存在する誘電体組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の誘電体組成物を含む積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体粒子で構成される誘電体組成物、および、当該誘電体組成物を含む積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、複数の誘電体層と複数の内部電極層とを積層した積層セラミック電子部品が知られている。このような積層セラミック電子部品において、近年、素子の小型化や、誘電体層の薄型化が求められている。しかしながら、素子を小型化した場合や、誘電体層を薄型化した場合には、外部応力が加わった際に誘電体層にクラックなどの欠陥が生じる可能性が高くなる。
【0003】
誘電体層の機械的強度を高める方法として、たとえば、誘電体層を構成する誘電体粒子の粒径を細かくすることが考えられる。しかしながら、誘電体粒子を微細化すると、比誘電率が低下する傾向となり、高い比誘電率と機械的強度の向上とを両立して満足することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-011142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、機械的強度が高く、かつ、比誘電率が高い誘電体組成物、および、当該誘電体組成物を用いた積層セラミック電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る誘電体組成物は、
複数の誘電体粒子を有し、
前記誘電体粒子のうち少なくとも一部の粒子が、
チタン酸バリウムを主成分とする主相と、
前記主相の内部に存在しており、前記主相よりもバリウム(Ba)の含有比が高い異相と、を有する。
【0007】
本発明の誘電体組成物では、上記のとおり、少なくとも一部の誘電体粒子の粒内にBaリッチな異相が存在する。誘電体粒子の粒内に上記のような異相が存在することで、粒内でクラックが進展することを抑制できると考えられる。その結果、誘電体組成物に外部応力が加わったとしてもクラックが発生することを抑制でき、本発明の誘電体組成は、高い機械的強度を有する。また、本発明の誘電体組成物では、クラックの抑制と共に、高い比誘電率を確保することもできる。
【0008】
好ましくは、前記異相の粒径が、10nm以上、100nm以下である。異相の粒径が上記の範囲内であることで、機械的強度がより向上すると共に、比誘電率もより向上する。
【0009】
また、前記異相において、チタン元素(Ti)の含有量に対するバリウム元素(Ba)の含有量の比(Ba/Ti)は、1.2~2.0とすることができる。
【0010】
また、好ましくは、前記誘電体組成物の断面において、粒内に前記異相を含む前記誘電体粒子が占める面積割合が、30%~80%である。異相を含む粒子の含有率が上記の範囲内であることで、機械的強度がより向上すると共に、比誘電率もより向上する。
【0011】
好ましくは、前記誘電体粒子は、円相当径が0.5μm以上の大粒子と、円相当径が0.5μm未満の小粒子と、で構成してある。そして、前記異相が、前記大粒子を構成する前記主相の内部に存在していることが好ましい。上記の構成を有することで、本発明の誘電体組成物では、高温負荷寿命が向上する。
【0012】
また、好ましくは、前記誘電体組成物の断面において、前記大粒子が占める面積に対して、粒内に前記異相を含む前記大粒子が占める面積の割合は、50%以上である。このような構成を有することで、本発明の誘電体組成物では、機械的強度がより向上すると共に、比誘電率もより向上する。
【0013】
なお、前記誘電体組成物の断面において、前記大粒子が占める面積の割合は、50%~90%とすることができる。
【0014】
また、本発明に係る誘電体組成物は、積層セラミック電子部品において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミック電子部品を示す断面図である。
図2図2は、図1に示す誘電体層の要部を拡大して示す断面図である。
図3図3は、撓み強度試験用の装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
本実施形態では、本発明に係る積層セラミック電子部品の一種として、図1に示す積層セラミックコンデンサ1について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、素子本体10と、一対の外部電極4と、を有する。そして、素子本体10は、誘電体層2と内部電極層3とが、Z軸方向に沿って交互に積層してある構造を有する。なお、素子本体10の形状は任意であるが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10のも特に限定されず、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0018】
誘電体層2は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物20により構成してある。誘電体層2の1層当たりの厚みは、特に限定されず、たとえば、0.5μm~100μmとすることができ、10μm以下とすることがより好ましい。また、誘電体層2の積層数も特に限定されず、所望の特性や用途に応じて任意に設定できる。たとえば、積層数は、20層以上であることが好ましく、50層以上であることがより好ましい。
【0019】
一方、内部電極層3は、各誘電体層2の間に積層され、その積層数は、誘電体層2の積層数に応じて決定される。また、内部電極層3の厚みは特に制限されず、たとえば、0.3μm~3.0μmとすることができる。
【0020】
さらに、内部電極層3については、各端部が、素子本体10のX軸方向で対向する2つの端面に交互に露出するように積層してある。そして、一対の外部電極4が素子本体10のX軸方向における両端に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端に電気的に接続してある。このように内部電極層3および外部電極4を形成することで、外部電極4と内部電極層3とで、コンデンサ回路が構成される。
【0021】
つまり、内部電極層3は、コンデンサ回路の一部として、各セラミック層2に電圧を印加する機能を果たす。そのため、内部電極層3は、導電材を含んで構成される。導電材の種類は、任意であるが、本実施形態では、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、NiまたはNi系合金であることが好ましい。内部電極層3がNiまたはNi系合金を主成分とする場合、内部電極層3には、Mn、Cu、Crなどから選択された1種類以上の内部電極用副成分が含まれていてもよい。また、内部電極層3には、上記の導電材の他に、誘電体層2に含まれるセラミック成分が共材として含まれていてもよく、SやP等の非金属成分が微量に含まれていてもよい。
【0022】
また、外部電極4についても、導電材を含んでいればよく、その材質や厚みは特に制限されない。たとえば、外部電極4は、導電性ペーストの焼付電極、熱硬化性樹脂などを含む樹脂電極、メッキにより形成した電極、スパッタリングにより形成した電極、もしくは、複数の電極層を積層した積層電極などとすることができる。また、外部電極4に含まれる導電材としては、電気伝導性を有していればよく特に限定されない。たとえば、Ni、Cu、Sn、Ag、Pd、Pt、Au、あるいは、これらのうち少なくとも1種以上を含む合金などを用いることができる。
【0023】
次に、図2に基づいて、誘電体層2を構成する誘電体組成物20について説明する。
【0024】
図2は、誘電体層2の要部の断面図、すなわち、本実施形態に係る誘電体組成物20の断面図である。図2に示すように、本実施形態に係る誘電体組成物20は、誘電体粒子21と、当該誘電体粒子21の粒子間に存在する界面である粒界23と、を含む。また、誘電体粒子21としては、粒内に異相21Ebを含む第1粒子21Eと、粒内に異相を含まない第2粒子21Nとが存在する。誘電体組成物20の断面において、第1粒子21Eが占める面積割合は、少なくとも5%以上であり、30%~80%であることが好ましく、30%~60%であることがより好ましい。
【0025】
まず、異相21Ebを含む第1粒子21Eについて説明する。第1粒子21Eは、誘電体化合物で構成される主相21Eaと、異相21Ebとを有する。異相21Ebは、主相21Eaの内部に存在しており、異相21Ebの周囲が主相21Eaで囲まれている。図2に示す誘電体組成物20の断面において、第1粒子21Eは、1粒当たり1~10個の異相21Ebを含むことができ、1粒当たり1~5個の異相21Ebを含むことが好ましい。
【0026】
また、図2に示す断面において、異相21Ebの平均粒径は、10nm~100nmであることが好ましく、30nm~100nmであることがより好ましい。なお、異相21Ebの粒径は、図2に示すような断面において円相当径として測定し、その平均粒径は、少なくとも30個の異相21Ebの円相当径を測定することで得る。
【0027】
異相21Ebを含む第1粒子21Eの主相21Eaには、主成分として、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造の化合物が含まれる。より具体的に、主相21Eaの主成分は、組成式BaTiO2+mで表されるチタン酸バリウムであることが好ましい。当該組成式で表されるチタン酸バリウムは、室温で正方晶系または立方晶系のペロブスカイト型結晶構造を有する。また、上記組成式中のmは、Bサイト原子に対するAサイト原子のモル比(A/B比)を意味しており、本実施形態では、mが、1.01≦m≦1.15であることが好ましく、1.05≦m≦1.15であることがより好ましい。
【0028】
なお、上記組成式において、Aサイト原子は、Baのみであるが、Baの他に、ストロンチウム(Sr)または/およびカルシウム(Ca)が含まれていてもよい。ただし、主相21Eaにおいて、SrやCaは、あくまでも不可避不純物として含有され、積極的には含有されないことが好ましい。つまり、主相21Eaの主成分は、チタン酸バリウムカルシウム(BCT:(Ba,Ca)TiO)やチタン酸バリウムストロンチウム(BST:(Ba,Sr)TiO)などではなく、BaTiO2+m(BT)であることが好ましい。具体的に、Aサイト原子の原子数を100at%とすると、Aサイトに入るCa、Sr原子の割合は、0.3at%以下であることが好ましい。
【0029】
また、上記組成式において、Bサイト原子は、Tiのみであるが、Tiの他に、ジルコニウム(Zr)または/およびハフニウム(Hf)が含まれていてもよい。ただし、主相21Eaにおいて、ZrやCaは、あくまでも不可避不純物として含有され、積極的には含有されないことが好ましい。つまり、主相21Eaの主成分は、チタン酸ジルコン酸バリウム(BZT:Ba(Ti,Zr)O)やチタン酸ハフニウム酸バリウム(Ba(Ti,Hf)O)などではなく、BaTiO2+m(BT)であることが好ましい。具体的に、Bサイト原子の原子数を100at%とすると、Bサイトに入るZr、Hf原子の割合は、0.8at%以下であることが好ましい。
【0030】
なお、主相21Eaの成分や主成分の同定は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)や蛍光X線分析(XRF)などにより分析することができる。また、本実施形態において、EPMAで成分分析等を行う場合、X線分光器として、EDS(エネルギー分散型分光器)、もしくはWDS(波長分散型分光器)を使用することができる。
【0031】
異相21Ebは、主相21EaよりもBaの含有比が高いBaリッチな相であり、異相21Ebには、Ba以外に、主相21Eaの構成元素であるTiや酸素(O)、およびその他副成分元素や不純物元素が含まれ得る。ここで、本実施形態において、「Baリッチ」とは、Ba/Ti比が、主相21Eaと比較して高いことを意味する。具体的に、異相21Ebにおいて、Ti元素の含有量に対するBa元素の含有量の比(Ba/Ti比)は、原子数比換算で、1.2以上であり、1.2~2.0であることが好ましく、1.4~1.9であることがより好ましい。前述したように、主相21EaではBa/Ti比(すなわち組成式中のm)が略1.0であることに対して、異相21EbではBaが過剰に含まれている。
【0032】
上記のような特徴を有する異相21Ebとして、たとえば、単斜晶系のBaTiOが例示される。
【0033】
本実施形態において、異相21Ebは、図2に示すような誘電体組成物20の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察することで解析する。たとえば、STEMの明視野像で誘電体組成物20の断面を観察した場合、Baリッチな相である異相21Ebは、誘電体粒子21の粒内でコントラストが暗い部分として認識できる。STEMの明視野像では、原子番号が大きい元素ほど暗く見えるためである。
【0034】
異相21EbのBa/Ti比は、コントラストが暗い部分をEPMAにより点分析することで測定できる。また、異相21Ebの粒径は、画像解析によりコントラストが暗い部分の円相当径を測定することで得られる。
【0035】
さらに、異相21Ebを含む第1粒子21Eが占める面積割合は、断面写真において、異相21Ebが存在する粒子を上記の方法で特定したうえで、測定視野の面積A(断面写真の面積)に対して当該粒子(第1粒子21E)が占める面積Aの比(A/A)として算出すればよい。その際、観察時の倍率は、1万倍~100万倍とすることが好ましく、測定視野の大きさは、0.1μm四方~10μm四方に相当する大きさとすることが好ましい。そして、第1粒子21Eの面積割合は、少なくとも3視野以上で上記の画像解析を行い、平均値として算出することが好ましい。
【0036】
なお、上記の断面観察をSTEMの暗視野像(BF像)で実施した場合、コントラストの明暗が逆転し、異相21Ebは、粒内でコントラストが明るい部分として認識できる。また、上記の断面観察において、観測用試料は、図1に示す素子本体10の断面を鏡面研磨し、その後、集束イオンビーム(FIB)を用いたマイクロサンプリング法により誘電体層2から薄片試料を得ることで作製する。当該薄片試料の厚みは、100nm程度とすることが好ましい。また、断面観察時の測定倍率や加速電圧などの測定条件については、一般的な分析技術に基づいて、100nm以下の微小粒を分析可能な条件に適宜設定すればよい。
【0037】
以上のとおり、図2に示す第1粒子21Eは、チタン酸バリウムを主成分とする主相21Eaと、Baリッチな異相21Ebとで構成してある。これに対して、図2に示す第2粒子21Nには、異相が存在せず、誘電体化合物で構成される主相21Naを含む。なお、第2粒子21Nの主相21Naは、第1粒子21Eの主相21Eaとは異なる化合物を主成分とすることができ、たとえば、BCTやBZTであってもよい。ただし、第2粒子21Nの主相21Naは、第1粒子21Eと同様に、組成式BaTiO2+mで表されるチタン酸バリウムを主成分とすることが好ましい。
【0038】
なお、第1粒子21Eや第2粒子21Nの少なくとも一部は、コアシェル構造を有していてもよく、主相21Ea,21Naの外周部に、主相21Ea,21Naとは組成が異なる拡散相(シェル:図示せず)が存在していてもよい。
【0039】
また、本実施形態に係る誘電体組成物20において、誘電体粒子21のD50は、0.05μm~2μmとすることができ、0.1μm~1μmであることが好ましい。ここで、誘電体粒子21を粒径で分類すると、誘電体粒子21には、粒径が0.5μm以上の大粒子21Lと、粒径が0.5μm未満の小粒子21Sと、が含まれることが好ましい。上記において、誘電体粒子21の粒径は、図2に示すような誘電体組成物20の断面における円相当径を意味する。
【0040】
誘電体粒子21として大粒子21Lと小粒子21Sとが含まれる場合、誘電体組成物20の断面において、大粒子21Lが占める面積割合は、50%以上とすることが好ましく、50%~90%とすることがより好ましい。なお、大粒子21Lが占める面積割合は、第1粒子21Eの面積割合の測定と同様に、STEMで得られた断面写真を画像解析することで算出する。具体的に大粒子21Lが占める面積割合は、断面写真において、円相当径に基づいて誘電体粒子21を大粒子21Lと小粒子21Sとに大別したうえで、測定視野の面積Aに対して大粒子21Lが占める面積Aの比(A/A)として算出すればよい。その際、観察時の倍率は、1万倍~100万倍とすることが好ましく、測定視野の大きさは、0.1μm四方~10μm四方に相当する範囲とすることが好ましい。そして、大粒子21Lが占める面積割合は、少なくとも3視野で画像解析を行い、その平均値として算出する。なお、観測時の倍率は、観測対象物である粒子の大きさに合わせて、適宜調整すればよい。また、小粒子21Sが占める面積割合(A/A)も、上記と同様にして算出することができる。
【0041】
上記のように粒径で誘電体粒子21を分類した場合、Baリッチな異相21Ebは、小粒子21Sに存在していてもよいが、特に、小粒子21Sよりも大粒子21Lの粒内に存在していることが好ましい。
【0042】
より具体的に、図2に示すような誘電体組成物20の断面において、大粒子21Lが占める面積Aに対して、粒内に異相21Ebを含む大粒子21Lが占める面積ALEの割合(ALE/A)は、50%以上であることが好ましく、50%~90%であることがより好ましく、50%~80%であることがさらに好ましい。
【0043】
一方、誘電体組成物20の断面において、小粒子21Sが占める面積Aに対して、粒内に異相21Ebを含む小粒子21Sが占める面積ASEの割合(ASE/A)は、0%~60%とすることができ、0%~10%とすることが好ましく、0%であること(すなわち小粒子21Sの粒内に異相21Ebがほとんど観測されないこと)がさらに好ましい。
【0044】
なお、異相21Ebを含む大粒子21Lの面積割合(ALE/A)は、上記と同様の断面観察により、大粒子21Lが占める面積Aを測定したうえで、測定視野内に含まれる大粒子21Lのうち、粒内に異相21Ebを含む大粒子21Lを特定して、当該粒子の面積ALEを測定することで算出すればよい。異相21Ebを含む小粒子21Sが占める面積割合(ASE/A)も、上記と同様にして算出できる。また、上記において、「異相21Ebが存在する大粒子21L」および「異相21Ebが存在する小粒子21S」とは、当該大粒子21Lまたは小粒子21Sが、前述した第1粒子21Eであることを意味する。
【0045】
以上が、本実施形態に係る誘電体組成物20の基本構成である。なお、誘電体組成物20には、その他副成分が含まれていてもよい。副成分としては、たとえば、希土類元素を含む酸化物が挙げられる。希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuから選ばれる少なくとも1種である。このような副成分が含まれている場合、希土類元素が、誘電体粒子21の粒界近傍(すなわち主相の外周部)に一部固溶し、拡散相(シェル)が形成されることがある。また、希土類元素は、粒界23において偏析することもあり、この場合、粒界23に希土類元素を含む粒界偏析相23aが形成される。
【0046】
また、副成分として、Mg、Mn、Cr、Co、V、Ta、Nb、Mo、およびWから選ばれる少なくとも1種を含む酸化物が含有されていてもよい。上記のような金属元素は、誘電体組成物20においてドナーやアクセプタとして機能し得る。また、当該副成分は、高温負荷寿命などの特性を向上させる効果を有する。
【0047】
さらに、焼結助剤としても機能する副成分として、Si、Li、Al、Ge、およびBから選ばれる少なくとも1種を含む酸化物が含有されていてもよい。上記の元素は、誘電体粒子21に含まれる元素(たとえばTiやBa)と反応して、粒界23において粒界相(図示せず)を形成することがある。また、上記の元素は粒界23において偏析することもあり、この場合、粒界23にSiやAlなどを含む複合酸化物が、粒界偏析相23aとして形成される。
【0048】
上述のとおり、粒界23には、副成分元素を含む粒界相が存在することがあり、また、希土類元素を含む偏析や焼結助剤を含む偏析などの粒界偏析相23aが存在することがある。ただし、Baリッチな異相21Ebは、誘電体粒子21の粒内にのみ存在し、粒界23には存在しないことが好ましい。
【0049】
次に、図1に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態では、大粒子21Lを、異相21Ebを含む第1粒子21Eとして、小粒子21Sを、異相を含まない第2粒子21Nとする場合の製造方法について説明する。
【0050】
まず、誘電体原料として、第1粒子用の原料粉末と、第2粒子用の原料粉末とを準備する。
【0051】
第1粒子用の原料粉末は、固相法により製造する。固相法では、炭酸バリウム(BaCO)と酸化チタン(TiO)とを、湿式混合等の手法により均一に混合した後、仮焼成することで、チタン酸バリウム(組成式:BaTiO2+m)の原料粉末を得る。なお、湿式混合と仮焼成との間に、適宜乾燥などの工程を挟んでもよい。当該固相法での原料粉末の製造において、炭酸バリウム(BaCO)と酸化チタン(TiO)とは、混合比率(モル比:BaCO/TiO)が略1.0となるように、混ぜ合わせることが一般的である。第1粒子用の原料粉末の製造においては、BaCOとTiOとの混合比率を1.0よりも大きくし、BaCOが過剰となるように出発原料を混合する。
【0052】
また、第1粒子用の原料粉末の製造では、仮焼成時に、1250℃以上の高温で保持し、その後、100℃/時間以下の速度で1000℃まで徐冷する(以下、当該条件による仮焼成を、「高温-徐冷焼成」と称する)。このように、Baの出発原料を過剰に加えたうえで、高温で加熱すると、当該原料粉末の構成粒子は、加熱中の高温状態において、Baが化学量論比(BaTiO)よりも過剰に固溶した過飽和固溶体となる。その後、上記の条件で徐冷することで、BaTiOの粒内において、化学量論比よりもBa比率が高い異相(最終的に異相21Ebとなる相)が析出する。第1粒子用の原料粉末としては、この高温-徐冷焼成したBaTiO粉末を用いる。なお、上記の高温-徐冷焼成において、保持温度は、1250℃~1460℃とすることが好ましく、1300℃~1460℃とすることがより好ましい。また、温度保持時間は、0.5時間~4時間とすることが好ましい。さらに、冷却温度は、100℃/時間以下であることが好ましく、50℃/時間以下であることがより好ましい。
【0053】
なお、第1粒子用の原料粉末は、上記の高温-徐冷焼成後に粉砕しなくともよく、粉砕する場合であっても粗大な塊が解砕する程度の粉砕条件とすることが好ましい。具体的に、第1粒子用の原料粉末のD50は、0.3μm以上とすることが好ましく、0.3μm~1μmとすることがより好ましい。D50を上記範囲内とすることで、第1粒子用の原料粉末が、後述する本焼成後に、大粒子21Lとなる。
【0054】
一方、第2粒子用の原料粉末としては、固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造した粉末を用いることができる。第2粒子用の原料粉末を固相法で作製する場合、BaCOとTiOとの混合比率は、略1.0とすればよい。また、仮焼成の条件は、たとえば、保持温度を900℃~1250℃とし、保持時間を0.5時間~4時間とし、冷却速度を150℃/時間~500℃/時間程度とすればよい。
【0055】
さらに、第2粒子用の原料粉末は、D50が0.3μm未満となるように、ボールミルなどの各種粉砕機を用いて粉砕することが好ましい。より好ましくは、第2粒子用の原料粉末のD50が、0.03μm以上、0.3μm未満である。D50を上記範囲内とすることで、第2粒子用の原料粉末が、後述する本焼成後に、小粒子21Sとなる。なお、第2粒子用の原料粉末の一部は、製造過程で粒子同士が結合して粒成長し、大粒子21Lとなる場合もある。
【0056】
次に、上記のような手順で調製した第1粒子用の原料粉末と第2粒子用の原料粉末とを、混合し、混合粉末を得る。この際、第1粒子用の原料粉末と第2粒子用の原料粉末との配合比を調製することで、得られる誘電体組成物中の大粒子21Lの割合(すなわち断面における面積割合)を調整することができる。
【0057】
なお、誘電体組成物20に副成分を添加する場合は、当該混合工程で、副成分用の原料を添加する。副成分用の原料としては、上述した副成分元素を有する酸化物や複合酸化物を用いることができ、その他、焼成後に酸化物となる化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などを用いることもできる。また、副成分用の原料の粒径は、特に限定されないが、平均粒径が10nm~200nm程度の粉末を用いることが好ましい。なお、当該混合工程において、混合の方法は特に限定されない。たとえば、湿式法を採用する場合は、混合後に混合粉末を十分乾燥させる。
【0058】
次に、上記で得られた混合粉末に有機ビヒクルを加えて混錬し、誘電体層用ペーストを得る。ここで、有機ビヒクルとは、バインダを有機溶媒中に溶解したものである。使用するバインダは、特に限定されず、たとえば、エチルセルロース、ポリビニルブチラールなどの各種バインダから適宜選択すればよい。また、使用する有機溶媒も特に限定されず、たとえば、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエンなどの各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0059】
なお、上記の誘電体層用ペーストは、有機系の塗料であるが、誘電体用ペーストは、混合粉末と水系ビヒクルとを混錬した水系の塗料であってもよい。この場合、水系ビヒクルは、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させて作製する。使用する水溶性バインダも特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いることができる。
【0060】
また、誘電体層用ペーストの他に、本焼成後に内部電極層3を構成する内部電極用ペーストも準備する。内部電極用ペーストは、上記したNiやNi合金からなる導電材、あるいは、本焼成後に上記したNiやNi合金となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネートなどを、上述したような有機ビヒクルと共に混錬して調製すればよい。この際、内部電極用ペーストには、誘電体用ペーストに含まれるセラミック成分(好ましくは主成分と同じチタン酸バリウム)を共材として添加してもよい。
【0061】
なお、上記した各ペースト中におけるビヒクルの含有量は、特に限定されない。例えば、誘電体原料の混合粉末100重量部に対して、バインダ成分の含有量は4~10重量部程度、溶媒の含有量は60~100重量部程度とすることができる。また、各ペースト中には、必要に応じて、分散剤、可塑剤、および絶縁体などの添加物が含有してあってもよい。この場合、これら添加物の総含有量は、誘電体原料の混合粉末100重量部に対して、10重量部以下とすることが好ましい。
【0062】
次に、上記の各ペーストを用いて、本焼成後に素子本体10となるグリーンチップを製造する。グリーンチップは、各種印刷法や各種シート法により製造できる。
【0063】
たとえば、シート法でグリーンチップを製造する場合、まず、PET等のキャリアフィルム上に誘電体層用ペーストを塗布してシート化し、適宜乾燥することでグリーンシートを得る。そして、当該グリーンシートの上に、スクリーン印刷等の各種印刷法により、内部電極用ペーストを所定のパターンで塗布する。これを複数層に渡って積層した後、積層方向にプレスすることでマザー積層体を得る。なお、この際、マザー積層体の積層方向の上面および下面には、誘電体層のみが位置するように、グリーンシートを積層する。そして、上記工程により得られたマザー積層体を、ダイシングや押切りによりカッティングし、複数のグリーンチップを得る。
【0064】
次に、グリーンチップに対して、脱バインダ処理を施す。脱バインダ処理の条件としては、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間とし、保持温度を好ましくは180℃~900℃とし、温度保持時間を好ましくは0.5~48時間とする。また、脱バインダ処理の雰囲気は、大気雰囲気、もしくは、還元性雰囲気とする。
【0065】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成(本焼成)を行う。本実施形態の本焼成工程では、昇温速度を100℃/時間以上とすることが好ましい。昇温速度の上限は特に限定されないが、装置に対する負荷が過大とならないように5000℃/時間以下とすることが好ましい。また、本焼成時の保持温度は、1100℃以上、1250℃以下とすることが好ましく、1150℃~1250℃とすることがより好ましい。温度保持時間については、0.2時間~3時間とすることが好ましく、0.5時間~2時間とすることがより好ましい。さらに、温度保持後の冷却過程では、冷却速度を50℃/時間~300℃/時間とすることが好ましい。
【0066】
また、本焼成時の雰囲気は、還元雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしては、たとえば、窒素(N)と水素(H)の混合ガスを加湿して用いることができる。なお、本焼成時の酸素分圧は、内部電極用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定する。導電材としてNiやNi合金などの卑金属を用いる場合は、酸素分圧は、1.0×10-15~1.0×10-10MPaとすることが好ましい。
【0067】
上記のような条件で本焼成することで素子本体10が得られる。なお、本実施形態では、焼成後の素子本体10に対してアニール処理(誘電体層の酸化処理)を施すことが好ましい。酸化処理では、保持温度を1100℃以下とすることが好ましく900℃~1090℃とすることがより好ましい。酸化処理における温度保持時間は、0~20時間とすることができ、2~4時間とすることが好ましい。また、酸化処理時の雰囲気は、窒素雰囲気、もしくは、加湿した窒素雰囲気として、酸素分圧は、1.0×10-9~1.0×10-5MPaとすることが好ましい。
【0068】
なお、脱バインダ処理、本焼成、および酸化処理は、連続して行ってもよく、独立に行ってもよい。また、これらの熱処理工程(脱バインダ処理、本焼成、および酸化処理)は、切断前のマザー積層体に対して実施し、熱処理工程後にマザー積層体を切断して複数の素子本体10を得てもよい。また、得られた素子本体10に対しては、適宜、研磨やブラスト処理などの端面処理を施してもよい。
【0069】
ここで、異相21Ebの粒径や含有率の制御方法について補足しておく。異相21Ebの粒径や含有率は、高温-徐冷焼成におけるBaCOとTiOとの混合比率や、保持温度等の条件によって制御できる。たとえば、出発原料の混合比率(モル比:BaCO/TiO)を大きくするほど、異相21Ebの含有率が多くなる傾向となる。また、高温-徐冷焼成時の保持温度を高くするほど、加熱中の高温状態で粒内に固溶するBaの量が多くなり、徐冷過程で析出する異相21Ebの粒径が大きくなる傾向となる。もしくは、高温-徐冷焼成時の冷却速度を早くするほど、Baの過飽和状態が維持され易くなり、析出する異相21Ebの粒径が小さくなる傾向となる。
【0070】
また、混合工程において、第1粒子用の原料粉末の配合比を多くすると、異相21Ebの含有率が多くなる傾向となる。さらに、各熱処理工程(脱バインダ処理、本焼成、および酸化処理)での条件も、異相21Ebの粒径や含有率に影響を及ぼす。たとえば、本焼成時などにおける熱処理温度が高温の場合、Baが過剰に含まれた異相が成長し易くなり、粒内で析出する異相21Ebの粒径が大きくなると考えられる。
【0071】
なお、誘電体原料の製造方法として、固相法の他に、各種液相法が知られているが、液相法では、本実施形態で対象としている異相21Ebの形成は困難であると考えられる。液相法では、固相法に比べて処理温度が低く、Baが過剰な過飽和固溶体を形成できないためと考えられる。また、誘電体原料とは別に、Baを含む化合物を副成分として添加する方法も知られている。この場合であっても、粒内の異相21Ebを形成することが困難であると考えられる。つまり、誘電体原料とは別にBaを含む化合物を添加する場合、粒界23において、粒界偏析相23aとしてBaを含む偏析が形成されると考えられ、粒内では、Baリッチな異相21Ebが生成し難いと考えられる。
【0072】
最後に、上記の製法で得られた素子本体10の端部に、一対の外部電極4を形成する。外部電極4の形成方法は、特に限定されない。たとえば、導電性ペーストを焼き付けることで形成してもよい。もしくは、熱硬化性樹脂をふくむ導電性ペーストを塗布して、加熱により樹脂を効果させることで、樹脂電極として外部電極4を形成してもよい。その他、メッキやスパッタリングなどの成膜法によっても外部電極4を形成することができる。なお、外部電極4は、焼結電極もしくは樹脂電極の表面に、単数または複数のメッキ層を形成し、積層電極としてもよい。このようにして外部電極4を形成することで、図1に示す積層セラミックコンデンサ1が得られる。
【0073】
上記の方法で製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、ハンダや導電性接着剤により回路基板などの基板上に実装され、各種電子機器等に使用される。
【0074】
(実施形態のまとめ)
本実施形態に係る誘電体組成物20には、誘電体粒子21として、チタン酸バリウムを主成分とする主相21Eaと、当該主相21EaよりもBaの含有比が高い異相21Ebとを有する第1粒子21Eが含まれている。そして、当該第1粒子21Eにおいて、異相21Ebは、主相21Eaの内部、すなわち第1粒子21Eの粒内に存在している。
【0075】
上記のように、少なくとも一部の誘電体粒子21の粒内にBaリッチな異相21Ebが存在することで、粒内で進展するクラックが異相21Ebで止まり、粒内でクラックが進展することを抑制できると考えられる。その結果、本実施形態の誘電体組成物20では、外部から応力が加わったとしてもクラックが発生することを抑制でき、機械的強度が向上する。また、本実施形態の誘電体組成物20は、上記の構成を有することで、クラックの発生を抑制すると共に、高い比誘電率を有する。
【0076】
また、本実施形態において、異相21Ebの粒径は、10nm以上、100nm以下である。異相21Ebの粒径を10nm以上とすることで、クラックの抑制効果が十分に得られ、誘電体組成物20の機械的強度がより向上する。また、異相21Ebの粒径を100nm以下とすることで、より高い比誘電率が得られる。
【0077】
また、本実施形態において、異相21EbにおけるTiの含有量に対するBaの含有量の比は、1.2~2.0である。異相21Ebの組成が上記の比率を満足することで、誘電体組成物20の高温負荷寿命がより向上する。
【0078】
また、本実施形態に係る誘電体組成物20の断面において、異相21Ebを含む第1粒子21Eの面積割合(A/A)は、30%~80%である。第1粒子21Eの含有率が上記の範囲内にあることで、誘電体組成物20の機械的強度がより向上すると共に、比誘電率もより向上する。
【0079】
また、本実施形態において、誘電体粒子21は、円相当径が0.5μm以上の大粒子21Lと、円相当径が0.5μm未満の小粒子21Sとを有する。そして、異相21Ebが、特に、大粒子21Lを構成する主相の内部に存在している。上記の構成を有することで、本実施形態に係る誘電体組成物20では、高温負荷寿命がより向上する。さらに、誘電体組成物20の断面において、大粒子21Lが占める面積Aに対して、粒内に異相21Ebを含む大粒子21Lが占める面積ALEの割合(ALE/A)は、50%以上である。異相21Ebを含む大粒子21Lの割合が上記の範囲内にあることで、本実施形態の誘電体組成物20では、機械的強度がより向上すると共に、比誘電率もより向上する傾向となる。
【0080】
さらに、本実施形態に係る誘電体組成物20の断面において、大粒子21Lが占める面積割合(A/A)は、50%~90%である。大粒子21Lの含有率が上記の範囲内にあることで、誘電体組成物20の高温負荷寿命がより向上する。
【0081】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、本実施形態では、積層セラミックコンデンサについて説明したが、本発明に係る積層セラミック電子部品は、コイル領域とコンデンサ領域とを兼ね備えるLC複合部品などの複合素子であってもよい。
【実施例
【0082】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0083】
実験1
(実施例1)
実施例1では、誘電体原料として、Baが過剰な状態で高温-徐冷焼成したBaTiO粉末を準備し、当該誘電体原料を用いてコンデンサ試料を作製した。以下、実施例1に係るコンデンサ試料の製造手順について説明する。
【0084】
まず、出発原料として、BaCO粉末とTiO粉末とを準備し、BaCO粉末が、TiO粉末に対して化学量論比よりも過剰となるように秤量した。そして、秤量した出発原料を、ボールミルにより24時間湿式混合し、その後乾燥させた。乾燥後、混ぜ合わせた出発原料を、実施形態に記載した条件の範囲内で高温-徐冷焼成した(保持温度1250℃以上、1000℃までの冷却速度50℃/時間以下)。当該工程により、第1粒子用原料粉末を得た。なお、高温-徐冷焼成後の第1粒子用原料粉末は、D50が0.5μm程度となるように、解砕した。
【0085】
次に、上記で得られた第1粒子用原料粉末を用いて、誘電体層用ペーストを作製した。実施例1では、誘電体原料として、高温-徐冷焼成した上記の第1粒子用原料粉末のみを用い、当該誘電体原料に、副成分原料として、SiO粉末、Al粉末、MgO粉末、MnCO粉末、Dy粉末、V粉末を添加して湿式混合した。なお、副成分原料の添加量は、誘電体原料100モル部に対して、SiO粉末が3.0モル部、Al粉末が0.3モル部、MgO粉末が0.2モル部、MnCO粉末が0.4モル部、Dy粉末が2.5モル部、V粉末が0.05モル部とした。また、湿式混合後に十分に乾燥することで、誘電体原料と副成分原料とを含む混合粉末を得た。
【0086】
そして、得られた混合粉末100重量部に対して、ポリビニルブチラール樹脂:8重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート:5重量部と、分散剤:1重量部と、溶媒としてのMEK:80重量部とを加え、ボールミルで混練することで、誘電体層用ペーストを得た。また、上記とは別に、導電材としてNiを含む内部電極用ペーストも作製した。内部電極用ペーストは、Ni粉末:44.6重量%と、テルピネオール:52重量%と、エチルセルロース:3重量%と、腐食防止剤としてのベンゾトリアゾール:0.4重量%とを、3本ロールにより混練することで得た。
【0087】
次に、作製した誘電体層用ペーストを、PETフィルム上に塗布してシート化することで、グリーンシートを得た。次いで、このグリーンシートの上に、内部電極用ペーストを所定のパターンで印刷し、当該グリーンシートをPETフィルム上から剥離した。次いで、内部電極パターンを印刷したグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することでマザー積層体を得た。さらに、そのマザー積層体を所定のサイズに切断して、グリーンチップを得た。
【0088】
次に、得られたグリーンチップに対して、脱バインダ処理、焼成、および酸化処理を行い、焼結体としての素子本体10を得た。なお、これらの各熱処理工程での詳細な条件は、以下のとおりとした。
【0089】
脱バインダ処理の条件は、昇温速度:50℃/時間、保持温度:235℃、温度保持時間:6時間、雰囲気:大気中とした。
【0090】
焼成の条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200℃、温度保持時間:1時間、冷却速度:200℃/時間以上、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス、酸素分圧:1.0×10-12MPaとした。
【0091】
アニール処理の条件は、保持温度:1050℃、保持時間:2時間、雰囲気ガス:加湿したNガス、酸素分圧:1.0×10-7MPaとした。なお、焼成およびアニール処理において、雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0092】
次に、得られた素子本体10の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn-Ga共晶合金を塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサ1と同様の形状のコンデンサ試料を得た。なお、得られたコンデンサ試料のサイズ(素子本体10のサイズ)は、1.6mm×0.8mm×0.8mmであり、誘電体層の厚みが5.0μm、内部電極層の厚みが1.5μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数が50層であった。
【0093】
(実施例2)
実施例2では、誘電体原料を、実施例1で作製した第1粒子用原料粉末と、第2粒子用原料粉末とを混合することで作製し、当該誘電体試料を用いてコンデンサ試料を作製した。
【0094】
より、具体的に、実施例2において、第2粒子用原料粉末は、出発原料であるBaCO粉末とTiO粉末とをモル比1:1で混ぜ合わせ、1250℃未満の温度で仮焼成することで得た。なお、第2粒子用原料粉末の仮焼成において、徐冷は行わず、300℃/時間程度の速度で冷却した。また、第2粒子用原料粉末は、仮焼成後に、ボールミルを用いて粉砕し、D50を0.3μm以下とした。
【0095】
実施例2では、上記の第2粒子用原料粉末と、実施例1と同じ高温-徐冷焼成した第1粒子用原料粉末とを、重量比1:1で混ぜ合わせ、これを誘電体原料として用いた。なお、実施例2における上記以外の実験条件は、実施例1と同様として、実施例2に係るコンデンサ試料を得た。
【0096】
(実施例3)
実施例3では、第2粒子用原料粉末も、Ba過剰な状態で高温-徐冷焼成して作製した。第2粒子用原料粉末の作製では、TiO粉末に対してBaCO粉末が過剰となるように出発原料を混ぜ合わせて、当該出発原料を第1粒子用原料粉末と同じ条件で高温-徐冷焼成した。そして、実施例3では、上述した第1粒子用原料粉末(実施例1と同様)と、第2粒子用原料粉末とを、重量比1:1で混ぜ合わせ、これを誘電体原料として用いた。なお、実施例3において、第1粒子用原料粉末と、第2粒子用原料粉末とは、いずれも高温-徐冷焼成して作製したが、互いに粒径が異なる粉末である。具体的に、第1粒子用原料粉末のD50が、0.6μmであり、第2粒子用原料粉末のD50が0.1μmであった。実施例3における上記以外の実験条件は、実施例1と同様として、実施例3に係るコンデンサ試料を得た。
【0097】
(比較例1)
比較例1では、誘電体原料の製造時に高温-徐冷焼成を行わずに、通常の条件で仮焼成を行って、D50が0.6μmであるBaTiO粉末を得た。なお、通常の条件とは、実施例2における第2粒子用原料粉末の仮焼成条件と同じである。また、比較例1で使用したBaTiO粉末のBa/Ti比は、略1.0であった。比較例1では、このBaTiO粉末を用いて誘電体層用ペーストを作製し、コンデンサ試料を得た。なお、比較例1における上記以外の実験条件は、実施例1と同様とした。
【0098】
(比較例2)
比較例2では、誘電体原料の製造時に高温-徐冷焼成を行わずに、通常の条件で仮焼成を行って、D50が0.1μmであるBaTiO粉末を得た。比較例2において、BaTiO粉末のD50以外の条件は、比較例1と同様として、比較例2に係るコンデンサ試料を得た。
【0099】
(比較例3)
比較例3では、比較例1で使用したD50が0.6μmであるBaTiO粉末と、比較例2で使用したD50が0.1μmであるBaTiO粉末とを、重量比1:1で混ぜ合わせ、この混合粉を誘電体原料として使用した。つまり、比較例3においても、誘電体原料の製造時に高温-徐冷焼成を行わずに、通常の条件で仮焼成を行った。比較例3において、上記以外の実験条件は比較例1と同様として、比較例3に係るコンデンサ試料を得た。
【0100】
(比較例4)
比較例4において、誘電体原料は比較例3と同じ混合粉を用いた。ただし、比較例4では、誘電体層用ペーストの作製において、誘電体原料(BaTiO粉末)100モル部に対して、副成分としてBaCO粉末を10モル部、添加した。上記以外の実験条件は比較例3と同様として、比較例4に係るコンデンサ試料を得た。
【0101】
実験1では、上述した実施例1~3、比較例1~4のコンデンサ試料について、以下に示す評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0102】
(断面観察)
本実施例では、STEMによりコンデンサ試料に含まれる誘電体層の断面を観察し、誘電体層を構成する誘電体組成物を分析した。STEMによる断面観察に際して、観察用の試料は、コンデンサ試料の断面を鏡面研磨した後、FIBを用いたマイクロサンプリング法により、誘電体層から厚み約100nm薄片試料を切り出すことで準備した。そして当該薄片試料を、倍率:4万倍、測定視野:2.5μm×2.5μmの条件で観察し、3視野分の断面写真を得た。そして、当該断面写真中に含まれる誘電体粒子の円相当径を、画像解析により測定し、断面写真において大粒子(円相当径が0.5μm以上)が占める面積割合(A/A)と、小粒子(円相当径が0.5μm以下)が占める面積割合(A/A)とを算出した。なお、表1に示す面積割合は、3視野分の平均値である。
【0103】
また、上記のSTEMによる断面観察では、明視野像で観察を行い、異相21Ebの存在有無を確認した。具体的に、実施形態で述べた方法で異相21Ebが存在する粒子を特定し、測定視野内において特定した粒子が占める面積割合を算出した。測定結果を第1粒子の面積割合(A/A)として、表1に示す。また、誘電体粒子を大粒子と小粒子とに分類したうえで、上記と同様の方法で、大粒子21Lが占める面積Aに対する異相21Ebが存在する大粒子の面積ALEの割合(ALE/A)、および、小粒子21Sが占める面積Aに対する異相21Ebが存在する小粒子の面積ASEの割合(ASE/A)を算出した。なお、異相21Ebが存在する粒子の面積割合についても、3視野分測定を行い、その平均値を算出した。
【0104】
さらに、上記で観測された異相21Ebの円相当径を、画像解析により測定し、その平均値を算出した。異相21Ebの円相当径の測定では、異相21Ebの大きさに合わせてSTEMの倍率を適宜拡大した。
【0105】
また、誘電体粒子を構成する主相の成分を、EPMAにより分析した。その結果、各実施例および各比較例では、いずれも、主相の主成分がBaTiO(m≒1)であることが確認できた。
【0106】
(撓み強度試験)
コンデンサ試料を構成する誘電体組成物の機械的強度を評価するために、撓み強度試験を行った。撓み強度試験は、図3に示すような装置を用いて、以下の手順により実施した。
【0107】
まず、コンデンサ試料を、厚み1.6mmのガラス布エポキシ樹脂基板に、ハンダを用いて実装した。そして、当該実装後の基板を、図3に示すような装置に設置して、コンデンサ試料がハンダ付けしてある面とは反対側の面から荷重を加えた。その際、コンデンサ試料を、リード線を介して静電容量を測定するLCRメータに接続させた。なお、図3において、符号102がコンデンサ試料、符号104がガラス布エポキシ樹脂基板、符号106が加圧装置、符号P1が加圧方向である。
【0108】
そして、当該撓み強度試験では、コンデンサ試料にクラックなどの破損が発生するか否かを確認しながら、徐々に荷重を加えていき、破損が発生した際の撓み量fを測定した。破損の発生有無は、破壊音、および、静電容量の変化率により確認した。具体的に、破壊音が発生した場合、もしくは、コンデンサ試料の静電容量が試験前よりも10%以上変化した場合、コンデンサ試料に破損が生じたと判断した。なお、上記の撓み試験は、各実施例につき10個のサンプルに対して実施し、その平均値を算出した。また、撓み量fは、合否基準を5mm以上とし、7.0mm以上を特に良好と判断する。
【0109】
(比誘電率)
また、コンデンサ試料の比誘電率を測定した。比誘電率は、LCRメータ(KEYSIGT TECHNOLOGIES社製:E4981Aキャパシタンス・メータ)を用いて静電容量を測定することで算出した。具体的に、静電容量の測定では、測定温度を20℃とし、コンデンサ試料に対して、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力した。そして、比誘電率(単位なし)は、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定した静電容量とに基づき算出した。なお、上記の測定は、各実施例につき10個のサンプルに対して実施し、その平均値を算出した。本実施例において、比誘電率は、合否基準を1500以上とし、2000以上を良好と判断する。
【0110】
(高温負荷寿命試験)
また、コンデンサ試料に対して高温負荷寿命試験を行い、平均故障時間(MTTF)を測定した。高温負荷寿命試験では、200℃において、コンデンサ試料に対して直流電圧を印加しながら、絶縁抵抗の経時変化を測定した。その際、直流電圧は、誘電体層に対して20V/μmの電界強度が印加される値とした。そして、本実施例では、絶縁抵抗が1桁劣化した試料を故障と判断し、印加開始から故障するまでの時間を測定した。上記の高温負荷寿命試験を、各実施例につき10個のサンプルに対して実施し、その平均値、つまり平均故障時間(MTTF)を算出した。平均故障時間は、合否基準を10時間以上とし、50時間以上を良好、70時間以上を特に良好と判断する。
【0111】
【表1】
【0112】
(実験1の評価結果)
表1に示すように、比較例1~3では、いずれも、誘電体粒子の粒内にBaリッチな異相が形成されなかった。そして、比較例1では、撓み量fの基準値を満足できず、誘電体層の機械的強度が不十分であった。また、比較例1よりも誘電体粒子の粒径を細かくした比較例2では、撓み量fの基準値は満足できたものの、比誘電率が比較例1よりも大幅に低下し、比誘電率の基準値を満足できなかった。さらに、大粒子と小粒子とを混ぜ合わせた比較例3では、比誘電率が2000以上となったものの、撓み量fの基準値を満足できず、誘電体層の機械的強度が不十分であった。比較例1~3の結果から、誘電体粒子の粒径を調整するのみでは、誘電体層の機械的強度と、比誘電率とを両立して向上させることが困難であることがわかった。
【0113】
また、比較例4では、誘電体原料(BaTiO粉末)とは別にBaCO粉末を添加したが、誘電体粒子の粒内にBaリッチな異相は形成されなかった。比較例4では、粒界においてBaを含む粒界析出相が存在することが確認でき、当該粒界析出相は、2μm四方の測定領域内に5個確認された。この比較例4の結果から、誘電体原料(BaTiO粉末)にBaCO粉末を後添加する方法では、粒内にBaリッチな異相を形成することが困難であることがわかった。なお、比較例4についても、比較例3と同様に、撓み量fの基準値を満足できず、誘電体層の機械的強度が不十分であった。
【0114】
上記の比較例1~4の結果に対して、実施例1~3では、Baが過剰な状態で高温-徐冷焼成して誘電体原料を得たため、誘電体粒子の粒内にBaリッチな異相が形成されていることが確認できた。そして、この実施例1~3では、撓み量fが7.0mm以上であるとともに、比誘電率が各比較例よりも向上する結果となった。この結果から、Baリッチな異相が、粒界ではなく粒内に存在することで、誘電体層の機械的強度と、比誘電率とを両立して向上できることが確認できた。
【0115】
さらに、実施例1~3の結果を比較すると、誘電体粒子として大粒子と小粒子とが含まれる実施例2および3では、MTTFが飛躍的に向上する結果となった。特に、実施例2のMTTFが最も良好な結果となった。この結果から、誘電体粒子として、大粒子と小粒子とが含まれ、大粒子の粒内に異相が存在することで、高温負荷寿命がより向上することがわかった。なお、実施例3において、大粒子に含まれる異相の平均粒径は42nmであり、小粒子に含まれる異相の平均粒径は28nmであった。
【0116】
実験2
(実施例11~18)
実験2では、異相の粒径や異相を含む粒子の含有量が異なる複数種のコンデンサ試料を作製し、その性能を評価した。具体的に、実施例11および16では、高温-徐冷焼成時の冷却速度を変えて誘電体原料を作製し、異相の粒径や、異相を含む大粒子の割合が実験1とは異なるコンデンサ試料を得た。また、実施例17および18では、第1粒子用原料粉末と第2粒子用原料粉末の配合比を変えて誘電体原料を作製し、大粒子の面積割合が実験1とは異なるコンデンサ試料を得た。なお、実験2の各実施例11~18において、上記以外の実験条件は、実験1の実施例2と同様として、実験1と同じ評価を実施した。評価結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
(実験2の評価結果)
表2において、実施例11~13の結果を対比すると、面積割合ALE/Aは、50%以上であることが好ましく、50~75%であることがより好ましいことが確認できた。また、実施例13~16の結果を比較すると、異相の平均粒径が小さいと、撓み強度が低下する傾向が確認でき、異相の平均粒径が大きいと、比誘電率が低下する傾向が確認できる。そして、実施例13~16の結果から、異相の平均粒径が10~100nmである場合、撓み強度がより高くなり、かつ、比誘電率もより高くなることが確認できた。
【0119】
実施例17では、誘電体層の断面における大粒子の面積割合A/Aを、他の実施例よりも低くした。一方、実施例18では、大粒子の面積割合A/Aを他の実施例よりも高くした。実施例17の結果から、大粒子の面積割合A/Aを低くすると、比誘電率が低下する傾向が確認できた。逆に実施例18の結果から、大粒子の面積割合を増やすと、比誘電率が高くなる傾向が確認できた。表2に示す各実施例の結果から、機械的強度を確保したうえで、より高い比誘電率を得るためには、大粒子の面積割合A/Aを、50%以上とすることが好ましく、50%~90%とすることがより好ましいことが解った。また、大粒子の面積割合A/Aを増やした実施例18では、高い比誘電率が得られたものの、MTTFが他の実施例よりも低下する傾向となった。この結果から、機械的強度を確保したうえで、MTTFをより向上させるためには、大粒子の面積割合A/Aを、50%~80%とすることが好ましいことが解った。
【0120】
実験3
(実施例21~23)
実験3では、TiOに対するBaCOのモル比を変更して第1粒子用原料粉末を作製し、実施例21~23に係るコンデンサ試料を得た。なお、実験3では、異相におけるBa/Ti比をEPMAの点分析により測定した。その結果を表3に示す。また、実験3の各実施例21~23において、上記以外の実験条件は、実験1の実施例3と同様として、実験1と同じ評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
(実験3の評価結果)
表3に示す結果から、異相におけるBa/Ti比が、1.2~2.0の範囲内である場合、撓み強度や比誘電率およびMTTFの評価結果が特に良好となることが確認できた。
【符号の説明】
【0123】
1 … 積層セラミックコンデンサ
4 … 外部電極
10 … 素子本体
3 … 内部電極層
2 … 誘電体層
20 … 誘電体組成物
21 … 誘電体粒子
21E … 異相を含む誘電体粒子
21Ea … 主相
21Eb … 異相
21N … 異相を含まない誘電体粒子
21L … 大粒子
21S … 小粒子
23 … 粒界
23a … 粒界偏析相
図1
図2
図3