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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】動力伝達装置の異常判定装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20231011BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20231011BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20231011BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20231011BHJP
   F16H 61/14 20060101ALI20231011BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20231011BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H59/72
F16H59/42
F16H59/44
F16H61/14 601L
G01M99/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020132246
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029104
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】樗澤 英明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 恵
(72)【発明者】
【氏名】山口 賢一
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-300461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
F16H 59/00-61/24
61/36-61/70
63/40-63/50
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G01M 13/00-13/045
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦係合要素を有するとともに、車両の動力源から出力された動力を駆動輪に伝達する動力伝達装置と、前記動力伝達装置内を循環するオイルの温度である油温を検出する油温センサと、を備える車両に適用され、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置は、前記油温センサの検出値である油温検出値の時系列データに応じたデータである油温関連データが入力変数として入力されたときに、前記摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを特定する出力変数を出力する写像を規定するデータであって、機械学習によって学習されたデータを含む写像データを記憶しており、
前記実行装置は、
前記入力変数を取得する取得処理と、
前記取得処理で取得した前記入力変数を前記写像に入力することによって当該写像から出力された前記出力変数を基に、前記摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを判定する異常判定処理と、を実行し、
前記取得処理は、
所定の計測期間内で検出サイクル毎に検出された複数の前記油温検出値を含む前記油温検出値の時系列データを取得する検出値取得処理と、
前記油温検出値の時系列データに含まれる複数の前記油温検出値を正規化することによって、前記油温関連データを生成する関連データ生成処理と、を含み、
前記油温検出値を正規化した値を、正規化油温検出値とした場合、
前記実行装置は、前記関連データ生成処理において、
前記油温検出値の時系列データに含まれる複数の前記油温検出値を正規化することによって、複数の前記正規化油温検出値を含む前記正規化油温検出値の時系列データを導出し、当該正規化油温検出値の時系列データに含まれる複数の前記正規化油温検出値の数値の大きさの分布を示すデータを、前記油温関連データとして生成する
動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項2】
前記入力変数は、車速を含む
請求項1に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項3】
前記動力伝達装置は、前記摩擦係合要素としてクラッチを備えるものであり、
前記入力変数は、前記クラッチの入力側の要素の回転速度、前記クラッチの出力側の要素の回転速度、及び、前記入力側の要素と前記出力側の要素との回転速度差のうちの少なくとも1つを含む
請求項1又は請求項2に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項4】
前記摩擦係合要素にトルクを入力する入力部と、前記摩擦係合要素からトルクが出力される出力部との回転速度差を、入出力回転速度差とした場合、
前記入力変数は、前記摩擦係合要素に入力されるトルクと、前記入出力回転速度差との積を基に算出される前記摩擦係合要素の発熱量の算出値を含む
請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項5】
前記入力変数は、前記摩擦係合要素の係合力を含む
請求項1~請求項4のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項6】
前記入力変数は、前記摩擦係合要素のパッククリアランスを含む
請求項1~請求項5のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項7】
前記入力変数は、前記車両に搭載されている加速度センサの検出値を含む
請求項1~請求項6のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項8】
前記写像は、前記摩擦係合要素で焼き付きが発生しているか否かを特定する出力変数を出力するものであり、
前記実行装置は、前記異常判定処理において、前記取得処理で取得した前記入力変数を前記写像に入力することによって当該写像から出力された前記出力変数を基に、前記摩擦係合要素で焼き付きが発生しているか否かを判定する
請求項1~請求項7のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項9】
前記写像は、前記摩擦係合要素で係合不良が発生するか否かを特定する出力変数を出力するものであり、
前記実行装置は、前記異常判定処理において、前記取得処理で取得した前記入力変数を前記写像に入力することによって当該写像から出力された前記出力変数を基に、前記摩擦係合要素の係合不良が発生するか否かを判定する
請求項1~請求項8のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項10】
前記写像は、前記摩擦係合要素で固着が発生しているか否かを特定する出力変数を出力するものであり、
前記実行装置は、前記異常判定処理において、前記取得処理で取得した前記入力変数を前記写像に入力することによって当該写像から出力された前記出力変数を基に、前記摩擦係合要素で固着が発生しているか否かを判定する
請求項1~請求項9のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項11】
前記記憶装置は、複数の写像データを記憶しており、
複数の前記写像データのうち、
第1写像データは、前記入力変数が入力されたときに、前記摩擦係合要素で焼き付きが発生しているか否かを特定する出力変数を出力する写像を規定するものであり、
第2写像データは、前記入力変数が入力されたときに、前記摩擦係合要素で係合不良が発生するか否かを特定する出力変数を出力する写像を規定するものであり、
第3写像データは、前記入力変数が入力されたときに、前記摩擦係合要素で固着が発生しているか否かを特定する出力変数を出力する写像を規定するものである
請求項1~請求項7のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項12】
前記記憶装置は、前記摩擦係合要素の動作状態の各々に対して個別に対応する複数の写像データを記憶しており、
複数の前記写像データのうち、
第1写像データは、前記摩擦係合要素の動作状態が第1動作状態であるときの前記油温関連データが入力変数として入力されたときに、前記摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを特定する出力変数を出力する写像を規定するデータであり、
第2写像データは、前記摩擦係合要素の動作状態が前記第1動作状態とは異なる第2動作状態であるときの前記油温関連データが入力変数として入力されたときに、前記摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを特定する出力変数を出力する写像を規定するデータであり、
前記実行装置は、
前記記憶装置に記憶されている複数の前記写像データの中から、前記摩擦係合要素の動作状態に応じた前記写像データを選択するデータ選択処理を実行し、
前記異常判定処理において、前記取得処理で取得した前記入力変数を、前記データ選択処理で選択した前記写像データによって規定される前記写像に入力することによって当該写像から出力された前記出力変数を基に、前記摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを判定する
請求項1~請求項10のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【請求項13】
前記記憶装置は、前記動力伝達装置の特性の経年変化の度合いに応じた複数の写像データを記憶しており、
前記実行装置は、
前記記憶装置に記憶されている複数の前記写像データの中から、前記動力伝達装置の特性の経年変化の度合いに応じた前記写像データを選択するデータ選択処理を実行し、
前記異常判定処理において、前記取得処理で取得した前記入力変数を、前記データ選択処理で選択した前記写像データによって規定される前記写像に入力することによって当該写像から出力された前記出力変数を基に、前記摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを判定する
請求項1~請求項10のうち何れか一項に記載の動力伝達装置の異常判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置の摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを判定する動力伝達装置の異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クラッチやブレーキなどの摩擦係合要素を備える動力伝達装置の一例が記載されている。こうした動力伝達装置において摩擦係合要素に異常が発生して動力伝達装置内を循環するオイルの劣化が進行すると、オイルが臭くなる。摩擦係合要素に異常が発生してオイルの劣化が進行すると、オイルが発する臭い成分は、摩擦係合要素に異常が発生しておらずオイルが劣化していない場合とは異なる成分に変化する。
【0003】
そこで、上記特許文献1にあっては、当該オイルを貯留するオイルパン内にオイルが発する臭い成分を検出する臭いセンサを設け、当該センサの検出値に基づいて動力伝達装置の異常を予測するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-58510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の手法で動力伝達装置の異常を予測するためには、臭いセンサの検出値が必要である。そこで、臭いセンサの検出値を用いることなく、摩擦係合要素の異常を検知する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
擦係合要素を有するとともに、車両の動力源から出力された動力を駆動輪に伝達する動力伝達装置と、前記動力伝達装置内を循環するオイルの温度である油温を検出する油温センサと、を備える車両に適用され、実行装置と、記憶装置と、を備え、前記記憶装置は、前記油温センサの検出値である油温検出値の時系列データに応じたデータである油温関連データが入力変数として入力されたときに、前記摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを特定する出力変数を出力する写像を規定するデータであって、機械学習によって学習されたデータを含む写像データを記憶しており、前記実行装置は、前記入力変数を取得する取得処理と、前記取得処理で取得した前記入力変数を前記写像に入力することによって当該写像から出力された前記出力変数を基に、前記摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを判定する異常判定処理と、を実行する動力伝達装置の異常判定装置である。
【0007】
動力伝達装置が作動しているときに摩擦係合要素で熱が発生すると、当該熱が動力伝達装置内を循環するオイルに伝わり、オイルの温度である油温が変わることがある。
ここで、摩擦係合要素に何らかの異常が発生した場合における当該摩擦係合要素の発熱量は、異常が発生していない場合における発熱量と異なる。発熱量が変わると、油温の推移が変わる。そのため、油温検出値の時系列データに応じた油温関連データを解析することにより、摩擦係合要素に異常が発生しているか否かの予測が可能となる。
【0008】
上記構成では、油温関連データを入力変数とし、摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを特定する出力変数を出力する写像を規定する写像データが記憶装置に記憶されている。そして、動力伝達装置が作動しているときに、取得した入力変数を写像に入力させることによって当該写像から出力される出力変数を基に、摩擦係合要素に異常が発生しているか否かが判定される。したがって、上記構成によれば、臭いセンサの検出値を用いることなく、摩擦係合要素に異常が発生しているか否かを判定できるようになる。
【0009】
また、上記の動力伝達装置の異常判定装置では、前記取得処理は、所定の計測期間内で検出サイクル毎に検出された複数の前記油温検出値を含む前記油温検出値の時系列データを取得する検出値取得処理と、前記油温検出値の時系列データに含まれる複数の前記油温検出値を正規化することによって、前記油温関連データを生成する関連データ生成処理と、を含む。
【0010】
摩擦係合要素に異常が発生している場合における油温検出値の時系列データには、異常が発生していない場合における油温検出値の時系列データとは相違する点がある。しかし、油温検出値が大きい場合と油温検出値が小さい場合とで相違の度合いが異なるおそれがある。油温検出値の時系列データを写像の入力変数とした場合、相違の度合いが比較的小さいときには、相違の度合いが比較的大きいときと比較し、上記判定の精度が低くなりやすい。言い換えると、そのときの油温検出値の大きさによって、当該判定の精度がばらつくおそれがある。
【0011】
この点、上記構成によれば、油温関連データが入力変数として写像に入力される。油温関連データは、油温検出値の時系列データを正規化したデータである。そのため、摩擦係合要素に異常が発生している場合における油温関連データと、異常が発生していない場合の油温関連データとの相違の度合いは、油温検出値が大きい場合と油温検出値が小さい場合とでそれほど変わらない。そのため、油温関連データを写像の入力変数とすることにより、油温検出値の大小に起因する上記判定の精度のばらつきを抑えることができる。
【0012】
さらに、上記の動力伝達装置の異常判定装置では、前記油温検出値を正規化した値を、正規化油温検出値とした場合、前記実行装置は、前記関連データ生成処理において、前記油温検出値の時系列データに含まれる複数の前記油温検出値を正規化することによって、複数の前記正規化油温検出値を含む前記正規化油温検出値の時系列データを導出し、前記正規化油温検出値の時系列データに含まれる複数の前記正規化油温検出値の数値の大きさの分布を示すデータを、前記油温関連データとして生成する。
【0013】
上記構成によれば、油温関連データは、正規化油温検出値の時系列データに含まれる各正規化油温検出値の数値の大きさの分布を示すデータである。摩擦係合要素に異常が発生していない場合と、異常が発生している場合とでは、各正規化油温検出値の大きさのばらつき方が異なる可能性がある。そのため、当該油連関連データを写像の入力変数とすることにより、上記判定を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】第1実施形態において、制御装置と、同制御装置によって制御される車両の駆動系とを示す図。
図2】ロックアップクラッチが解放状態である場合におけるトルクコンバータの一部を模式的に示す断面図。
図3】ロックアップクラッチが係合状態である場合におけるトルクコンバータの一部を模式的に示す断面図。
図4】同制御装置が実行する一連の処理を示すフローチャートの前半部分。
図5】同制御装置が実行する一連の処理を示すフローチャートの後半部分。
図6】油温検出値の推移を示すグラフ。
図7】油温関連データをヒストグラム化したグラフ。
図8】油温関連データをヒストグラム化したグラフ。
図9】第2実施形態において、制御装置の記憶装置を示すブロック図。
図10】同制御装置が実行する一連の処理を示すフローチャートの前半部分。
図11】同制御装置が実行する一連の処理を示すフローチャート後半部分。
図12】第3実施形態において、制御装置の記憶装置を示すブロック図。
図13】同制御装置が実行する一連の処理を示すフローチャートの前半部分。
図14】同制御装置が実行する一連の処理を示すフローチャートの後半部分。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(第1の実施形態)
以下、動力伝達装置の異常判定装置の第1実施形態を図1図8に従って説明する。
まず、異常判定装置を備える車両の概略構成について説明する。
【0036】
図1に示すように、車両VCは、内燃機関10、変速装置40及び駆動輪60を備えている。内燃機関10のクランク軸11には、変速装置40のトルクコンバータ70が連結されている。トルクコンバータ70には変速機構80の入力軸81が連結されている。変速機構80の出力軸82には、図示しないディファレンシャルを介して複数の駆動輪60が連結されている。
【0037】
トルクコンバータ70は、フロントカバー71、ポンプインペラ72、タービン73及びステータ74を有している。フロントカバー71には、内燃機関10のクランク軸11が連結されている。ポンプインペラ72は、フロントカバー71と一体回転する。タービン73は、変速装置40の入力軸81と一体回転する。ステータ74は、ポンプインペラ72とタービン73との間でトルクを増幅させる機能を有している。機関運転に基づいてポンプインペラ72が回転している場合、ポンプインペラ72の回転がトルクコンバータ70内のオイルを介してタービン73に伝達されることにより、内燃機関10の出力トルクが変速機構80に入力される。
【0038】
トルクコンバータ70は、ロックアップクラッチ75を有している。ロックアップクラッチ75が係合状態である場合には、ロックアップクラッチ75を介してポンプインペラ72とタービン73とが機械的に接続される。そのため、ロックアップクラッチ75が係合状態である場合、内燃機関10の出力トルクは、フロントカバー71からロックアップクラッチ75を介してタービン73に伝わり、変速機構80に入力されるようになる。
【0039】
図2及び図3に示すように、ロックアップクラッチ75は、タービン73と一体回転する支持部76と、支持部76に対して一体回転可能な状態で支持されている複数の出力側要素77と、フロントカバー71に支持されている複数の入力側要素78とを備えている。図中左右方向である変速機構80の入力軸81の延伸方向を軸線方向ADとした場合、各入力側要素78は、フロントカバー71に対して軸線方向ADにスライド移動可能である。ただし、各入力側要素78のうち、最もタービン73の近くに位置する入力側要素78Aは、ストッパ79によって、軸線方向ADにおけるタービン73側(すなわち、図中右側)へのスライド移動が規制されている。
【0040】
各出力側要素77は、軸線方向ADへのスライド移動が可能な状態で支持部76に支持されている。また、各出力側要素77の両面には、摩擦材77aがそれぞれ貼り付けられている。そして、軸線方向ADにおいて互いに隣り合う入力側要素78同士の間に1つの出力側要素77が介在するように、各出力側要素77が配置されている。
【0041】
トルクコンバータ70内における調圧領域70aの油圧を調整することにより、ロックアップクラッチ75を係合状態にしたり、ロックアップクラッチ75を解放状態にしたりすることができる。すなわち、図2に示す状態で調圧領域70aの油圧を高くすることにより、各入力側要素78のうち、入力側要素78A以外の入力側要素78、及び、各出力側要素77が、軸線方向ADにおいてタービン73側(図中右側)にそれぞれスライド移動する。すると、図3に示すようにロックアップクラッチ75の動作状態が係合状態となり、軸線方向ADで互いに隣り合う入力側要素78と出力側要素77とが互いに押し付けられる。一方、図3に示す状態で調圧領域70aの油圧が減少されると、互いに隣り合う入力側要素78と出力側要素77とがそれぞれ離間する。これにより、図2に示すようにロックアップクラッチ75の動作状態が解放状態になる。
【0042】
なお、各入力側要素78のうち、軸線方向ADでタービン73から最も遠くに位置する入力側要素78を、「入力側要素78B」とする。ロックアップクラッチ75の動作状態を図2に示す解放状態から図3に示す係合状態に移行させる場合、入力側要素78Bのスライド移動量は、他の入力側要素78及び各出力側要素77のスライド移動量よりも多くなる。本実施形態では、ロックアップクラッチ75の動作状態を解放状態から係合状態に移行させる際における入力側要素78Bのスライド移動量を、「ロックアップクラッチ75のパッククリアランスPCtc」という。
【0043】
図1に示すように、変速機構80は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、ブレーキ機構B1及びワンウェイクラッチF1を備えている。そして、第1クラッチC1、第2クラッチC2及びブレーキ機構B1における係合状態、解放状態の組み合わせと、ワンウェイクラッチF1における規制状態、許容状態の組み合わせとにより、変速装置40の変速段が切り替えられる。
【0044】
車両VCは、変速装置40にオイルを供給するオイル供給部50を備えている。オイル供給部50は、オイルを貯留するオイルパン51と、機械駆動式のオイルポンプ52とを備えている。オイルポンプ52の従動軸52aは、内燃機関10のクランク軸11に連結されている。オイルポンプ52は、オイルパン51内のオイルを吸入し、当該オイルを変速装置40に吐出する。オイルポンプ52から吐出されたオイルの圧力は、変速装置40の油圧制御回路41によって調整される。油圧制御回路41は、複数のソレノイドバルブ41aを備えている。油圧制御回路41は、各ソレノイドバルブ41aの通電によって、オイルの流動状態及びオイルの圧力を制御する。
【0045】
制御装置90は、内燃機関10を制御対象とし、その制御量であるトルク及び排気成分比率などを制御すべく、内燃機関10の各種操作部を操作する。また、制御装置90は、変速装置40を制御対象とし、油圧制御回路41の各ソレノイドバルブ41aを操作する。
【0046】
制御装置90は、上記制御量を制御する際、クランク角センサ101の出力信号Scr、変速装置40の入力軸81の回転角を検出する入力軸回転角センサ102の出力信号Sinを参照する。また、制御装置90は、油温センサ103によって検出されるオイルの温度である油温検出値Toil、車速センサ104によって検出される車両VCの移動速度である車速SPD、及び、加速度センサ105によって検出される車両VCの加速度である車両加速度Gを参照する。
【0047】
制御装置90は、CPU91、ROM92、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置93及び周辺回路94を備えており、それらがローカルネットワーク95を介して通信可能とされている。周辺回路94は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路及びリセット回路などを含んでいる。制御装置90は、ROM92に記憶されているプログラムをCPU91が実行することにより各種の制御量を制御する。
【0048】
記憶装置93には、複数の写像データDM1,DM2,DM3が記憶されている。各写像データDM1,DM2,DM3は、後述する各種の入力変数が入力されたときに、当該入力変数に対応する出力変数を出力する写像を規定するデータであって、機械学習によって学習されたデータを含んでいる。
【0049】
ところで、変速装置40が作動しているときに変速装置40のロックアップクラッチ75で異常が発生することがある。ロックアップクラッチ75で発生しうる異常としては、以下のようなものを挙げることができる。
・ロックアップクラッチ75の焼き付き。
・ロックアップクラッチ75の係合不良。
・ロックアップクラッチ75の固着。
【0050】
ロックアップクラッチ75が係合状態である場合、ロックアップクラッチ75が正常であるときには入力側要素78に対して出力側要素77の摩擦材77aが押し付けられる。入力側要素78及び出力側要素77は、それぞれ金属で構成されているため、金属(入力側要素78)に対して摩擦材77aが押し付けられる。しかし、摩擦材77aの摩耗が進行していくと、出力側要素77の面が露出するようになる。この状態でロックアップクラッチ75が係合されると、入力側要素78に出力側要素77が直接接触することになる。すなわち、金属(入力側要素78)に摩擦材が押し付けられるのではなく、金属(入力側要素78)に金属(出力側要素77)が押し付けられるようになる。その結果、ロックアップクラッチ75で焼き付きが発生するおそれがある。金属に金属が押し付けられる際におけるロックアップクラッチ75の発熱量は、金属に摩擦材が押し付けられる際における発熱量とは異なる。
【0051】
ロックアップクラッチ75の動作状態を係合状態にしたり、解放状態にしたりする際には、トルクコンバータ70内の調圧領域70aの油圧が調整される。例えば油圧制御回路41に異常が発生すると、調圧領域70aの油圧を適切に調整できなくなり、ロックアップクラッチ75の動作状態を適切に制御できなくなるおそれがある。すなわち、ロックアップクラッチ75の動作状態を係合状態にする際に、調圧領域70aの油圧を十分に高くできないと、入力側要素78に対して出力側要素77を押し付ける力が不足する係合不良が発生するおそれがある。係合不良が発生すると、入力側要素78に対して出力側要素77が摺動してしまい、ロックアップクラッチ75を介したトルク伝達効率が低下してしまう。一方、係合力が大きいと、入力側要素78に対する出力側要素77の摺動が抑えられる。そして、入力側要素78に対して出力側要素77が摺動する場合におけるロックアップクラッチ75の発熱量は、入力側要素78に対して出力側要素77が摺動しない場合における発熱量よりも多くなる。
【0052】
ロックアップクラッチ75の動作状態を係合状態から解放状態に移行させる際に、油圧制御回路41の異常などによって調圧領域70aの油圧を低くできない場合、係合状態が継続されるおそれがある。このようにロックアップクラッチ75の動作状態を解放状態にしたいにも拘わらず係合状態が継続してしまうことを、ロックアップクラッチ75の固着という。このようにロックアップクラッチ75が固着すると、ロックアップクラッチ75の動作状態を正常に解放状態にできる場合と比較してロックアップクラッチ75の発熱量が多くなる。
【0053】
上記のような異常がロックアップクラッチ75で発生した場合、変速装置40内を循環するオイルの温度である油温の推移が、ロックアップクラッチ75で異常が発生していない場合と相違する。そこで、本実施形態では、制御装置90は、油温検出値Toilの推移を基に、ロックアップクラッチ75で異常が発生しているか否かを判定する。この際に、制御装置90は、記憶装置93に記憶されている各写像データDM1,DM2,DM3を用いる。
【0054】
本実施形態では、写像データDM1は、ロックアップクラッチ75で焼き付きが発生しているか否かを特定する出力変数Y(1)を出力する写像を規定するものである。写像データDM2は、ロックアップクラッチ75で係合不良が発生するか否かを特定する出力変数Y(2)を出力する写像を規定するものである。写像データDM3は、ロックアップクラッチ75で固着が発生しているか否かを特定する出力変数Y(3)を出力する写像を規定するものである。
【0055】
図4および図5を参照し、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定するために制御装置90が実行する一連の処理の手順について説明する。図4及び図5に示す一連の処理の流れは、ROM92に記憶されているプログラムをCPU91が実行することによって実現される。この一連の処理は、所定周期で繰り返し実行される。すなわち、CPU91は、一連の処理を一旦終了した時点からの経過時間が所定周期に応じた時間に達すると、一連の処理の実行を再び開始する。
【0056】
まずはじめに、ステップS11において、CPU91は、係数zとして「1」をセットする。次のステップS13において、CPU91は、油温検出値Toil(z)として現在の油温検出値Toilを取得する。次のステップS15において、CPU91は、係数zを「1」インクリメントする。続いて、ステップS17において、CPU91は、係数zが係数判定値zThよりも大きいか否かを判定する。本実施形態では、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定するために、油温検出値Toilの時系列データが用いられる。油温検出値Toilの時系列データとは、時系列で連続する複数の油温検出値Toilを含むデータである。係数判定値zThは、当該判定に必要な油温検出値Toilの数の取得が完了したか否かの判断基準として設定されている。係数zが係数判定値zTh以下である場合(S17:NO)、CPU91は、その処理をステップS13に移行する。すなわち、油温検出値Toilの取得が継続される。一方、係数zが係数判定値zThよりも大きい場合(S17:YES)、「z個」の油温検出値Toilからなる油温検出値Toilの時系列データの取得が完了したため、CPU91は、その処理を次のステップS19に移行する。
【0057】
ステップS19において、CPU91は、油温検出値Toilの時系列データを正規化する。例えば、CPU91は、油温検出値Toilの時系列データに含まれる複数の油温検出値Toil(1),Toil(2),…,Toil(z)のうち、最も大きい値のものを基準油温検出値ToilBとする。続いて、CPU91は、各油温検出値Toil(1),Toil(2),…,Toil(z)を基準油温検出値ToilBで割ることにより、各油温検出値Toil(1),Toil(2),…,Toil(z)を正規化する。正規化された各油温検出値Toil(1),Toil(2),…,Toil(z)のことを、正規化油温検出値ToilN(1),ToilN(2),…,ToilN(z)という。例えば油温検出値Toil(1)を基準油温検出値ToilBで割った値が、正規化油温検出値ToilN(1)となる。各正規化油温検出値ToilN(1),ToilN(2),…,ToilN(z)を含むデータを、「正規化油温検出値ToilNの時系列データ」ともいう。
【0058】
そして、次のステップS21において、CPU91は、正規化油温検出値ToilNの時系列データを基に、油温関連データRDToilを生成する。本実施形態において、各正規化油温検出値ToilN(1),ToilN(2),…,ToilN(z)は、「0」よりも大きく且つ「1」以下となる。そこで、「0」から「1」までの数値の領域が、複数に分割される。例えば、「0」から「1」までの数値の領域が、「0.2」毎に分割される。そして、CPU91は、分割領域に含まれる正規化油温検出値ToilNの数を、分割領域毎にカウントする。例えば、各正規化油温検出値ToilN(1),ToilN(2),…,ToilN(z)の中に、「0.4」よりも大きく且つ「0.6」以下となる正規化油温検出値ToilNの数が「4個」の場合、CPU91は、「0.4」から「0.6」までの分割領域に含まれる正規化油温検出値ToilNの数を「4」とする。CPU91は、このように分割領域毎にカウントした結果を、油温関連データRDToilとして算出する。つまり、正規化油温検出値ToilNの時系列データに含まれる複数の正規化油温検出値ToilN(1),ToilN(2),…,ToilN(z)の数値の大きさの分布を示すデータが、油温関連データRDToilである。
【0059】
例えば、CPU91は、「0」から「0.2」までの分割領域に含まれる正規化油温検出値ToilNの数をカウント値Cnt(1)とし、「0.2」から「0.4」までの分割領域に含まれる正規化油温検出値ToilNの数をカウント値Cnt(2)とする。また、CPU91は、「0.4」から「0.6」までの分割領域に含まれる正規化油温検出値ToilNの数をカウント値Cnt(3)とし、「0.6」から「0.8」までの分割領域に含まれる正規化油温検出値ToilNの数をカウント値Cnt(4)とする。また、CPU91は、「0.8」から「1」までの分割領域に含まれる正規化油温検出値ToilNの数をカウント値Cnt(5)とする。すなわち、油温関連データRDToilは、カウント値Cnt(1),Cnt(2),Cnt(3),Cnt(4),Cnt(5)からなるデータである。
【0060】
ここで、図6に示す実線及び破線は、油温検出値Toilの時系列データをそれぞれ示している。図7は、図6に破線で示す油温検出値Toilの時系列データに基づいて生成された油温関連データRDToilをヒストグラム化したものである。図8は、図6に実線で示す油温検出値Toilの時系列データに基づいて生成された油温関連データRDToilをヒストグラム化したものである。図6に破線で示す油温検出値Toilの時系列データは、油温検出値Toilがほぼ一定速度で緩やかに上昇していることを示している。そのため、図7に示す油温関連データRDToilにあっては、各カウント値Cnt(1)~Cnt(5)のばらつきが小さい。一方、図6に実線で示す油温検出値Toilの時系列データは、油温検出値Toilの上昇速度が途中で変わっていることを示している。そのため、図8に示す油温関連データRDToilにあっては、カウント値Cnt(1)~Cnt(5)毎のばらつきが大きい。
【0061】
図4及び5に戻り、ステップS23において、CPU91は、車速SPD、機関回転数NE、入力軸回転数Nat、回転速度差ΔNtc、ロックアップクラッチ75の発熱量算出値CVtc、ロックアップクラッチ75の係合力EFtc、ロックアップクラッチ75のパッククリアランスPCtc及び車両加速度Gを取得する。機関回転数NEは、クランク角センサ101の出力信号Scrを基に算出されるクランク軸11の回転速度であり、ロックアップクラッチ75の入力側要素78の回転速度でもある。入力軸回転数Natは、入力軸回転角センサ102の出力信号Sinを基に算出される変速機構80の入力軸81の回転速度であり、ロックアップクラッチ75の出力側要素77の回転速度でもある。回転速度差ΔNtcは、機関回転数NEと入力軸回転数Natとの差であり、ロックアップクラッチ75における入力側要素78と出力側要素77との回転速度差でもある。また、回転速度差ΔNtcは、入力側要素78にトルクを入力するフロントカバー71と、出力側要素77からトルクが出力される入力軸81との回転速度差であるともいえる。ロックアップクラッチ75の発熱量算出値CVtcは、ロックアップクラッチ75が係合状態である場合では、ロックアップクラッチ75への入力トルクと、回転速度差ΔNtcとの積を基に算出される。ロックアップクラッチ75への入力トルクは、内燃機関10からトルクコンバータ70に入力されるトルクである。一方、ロックアップクラッチ75が解放状態である場合、発熱量算出値CVtcは「0」である。ロックアップクラッチ75の係合力EFtcは、入力側要素78に出力側要素77を押し付ける力であり、調圧領域70aの油圧を基に導出できる。パッククリアランスPCtcは、変速装置40の出荷時の検査で測定された値であり、記憶装置93に予め記憶されている。
【0062】
次のステップS25において、CPU91は、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定するための写像の入力変数x(1)~x(13)に、ステップS21で生成した油温関連データRDToil、及び、ステップS23で取得した各種データを代入する。すなわち、CPU91は、油温関連データRDToilのカウント値Cnt(1)を入力変数x(1)に代入し、カウント値Cnt(2)を入力変数x(2)に代入し、カウント値Cnt(3)を入力変数x(3)に代入する。また、CPU91は、カウント値Cnt(4)を入力変数x(4)に代入し、カウント値Cnt(5)を入力変数x(5)に代入する。また、CPU91は、車速SPDを入力変数x(6)に代入し、機関回転数NEを入力変数x(7)に代入し、入力軸回転数Natを入力変数x(8)に代入する。また、CPU91は、回転速度差ΔNtcを入力変数x(9)に代入し、発熱量算出値CVtcを入力変数x(10)に代入し、係合力EFtcを入力変数x(11)に代入する。そして、CPU91は、パッククリアランスPCtcを入力変数x(12)に代入し、車両加速度Gを入力変数x(13)に代入する。
【0063】
続いて、ステップS27において、CPU91は、判定係数MPに「1」をセットする。次のステップS29において、CPU91は、記憶装置93に記憶されている各写像データDM1,DM2,DM3の中から、判定係数MPに応じた写像データを選択する。例えば、CPU91は、判定係数MPが「1」であるときには写像データDM1を選択し、判定係数MPが「2」であるときには写像データDM2を選択し、判定係数MPが「3」であるときには写像データDM3を選択する。
【0064】
そして、ステップS31において、CPU91は、選択した写像データによって規定される写像に入力変数x(1)~x(13)を入力することによって、出力変数Y(MP)を算出する。
【0065】
本実施形態において、写像は、中間層が一層の全結合順伝播型ニューラルネットワークとして構成されている。上記ニューラルネットワークは、入力側係数wFjk(j=0~n,k=0~13)と、入力側係数wFjkによって規定される線形写像である入力側線形写像の出力とのそれぞれを非線形変換する入力側非線形写像としての活性化関数h(x)を含んでいる。本実施形態では、活性化関数h(x)として、ハイパボリックタンジェント「tanh(x)」を例示する。また、上記ニューラルネットワークは、出力側係数wSj(j=0~n)と、出力側係数wSjによって規定される線形写像である出力側線形写像の出力とのそれぞれを非線形変換する出力側非線形写像としての活性化関数f(x)を含んでいる。本実施形態では、活性化関数f(x)として、ハイパボリックタンジェント「tanh(x)」を例示する。なお、値nは、中間層の次元を示すものである。本実施形態において、値nは、入力変数xの次元である「13」よりも小さい。入力側係数wFj0は、バイアスパラメータであり、入力変数x(0)の係数となっている。入力変数x(0)は「1」として定義される。また、出力側係数wS0は、バイアスパラメータである。
【0066】
写像データDM1は、車両VCに実装される以前に、車両VCと同一仕様の車両を用いて学習された学習済みモデルである。ここで、写像データDM1の学習に際しては、事前に教師データと入力データとからなる訓練データを取得しておく。すなわち、実際に車両を走行させている場合、油温検出値Toilの時系列データが取得される。そして、油温検出値Toilの時系列データに対して上記各ステップS19,S21と同様の処理を施すことにより、油温関連データRDToilが入力データとして取得される。また、このとき、車速SPD、車速SPD、機関回転数NE、入力軸回転数Nat、回転速度差ΔNtc、ロックアップクラッチ75の発熱量算出値CVtc、ロックアップクラッチ75の係合力EFtc及び車両加速度Gもまた、入力データとして取得される。さらに、ロックアップクラッチ75で焼き付きが発生したか否かの情報である焼き付き発生情報が教師データとして取得される。例えば、焼き付きが発生した場合の焼き付き発生情報を「0」とし、焼き付きが発生していない場合の焼き付き発生情報を「1」とすればよい。なお、車両を走行させる事前に、車両に設けられているロックアップクラッチ75のパッククリアランスPCtcもまた、入力データとして取得される。
【0067】
そして、様々な状況下で車両を走行させることにより、複数の訓練データが生成される。例えば、係合させた際に焼き付きが発生する可能性のあるロックアップクラッチを車両に搭載し、当該車両を走行させる。そして、車両の走行中に焼き付きが発生しなかった場合には、焼き付きが発生しなかったときの各種の入力データが取得できるとともに、焼き付きが発生しなかった旨の焼き付き発生情報を教師データとして取得できる。また、車両の走行中に焼き付きが発生した場合には、焼き付きが発生したときの各種の入力データが取得できるとともに、焼き付きが発生した旨の焼き付き発生情報を教師データとして取得できる。
【0068】
こうした複数の訓練データを用いて写像データDM1が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の焼き付き発生情報との誤差が所定値以下に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0069】
同様に、写像データDM2は、車両VCに実装される以前に、車両VCと同一仕様の車両を用いて学習された学習済みモデルである。ここで、写像データDM2の学習に際しても、事前に教師データと入力データとからなる訓練データを取得しておく。すなわち、実際に車両を走行させることにより、上記のように各種の入力データが取得される。また、この際に、ロックアップクラッチ75で係合不良が発生するか否かの情報である係合不良発生情報が教師データとして取得される。例えば、係合不良が発生している場合の係合不良発生情報を「0」とし、係合不良が発生していない場合の係合不良発生情報を「1」とすればよい。
【0070】
そして、様々な状況下で車両を走行させることにより、教師データと入力データとからなる複数の訓練データが生成される。例えば、係合不良が発生する可能性のあるロックアップクラッチを車両に搭載し、当該車両を走行させる。そして、車両の走行中においてロックアップクラッチを係合させた際に係合不良が発生しなかった場合には、係合不良が発生しなかったときの各種の入力データが取得できるとともに、係合不良が発生しなかった旨の焼き付き発生情報を教師データとして取得できる。また、車両の走行中においてロックアップクラッチを係合させた際に係合不良が発生した場合には、係合不良が発生したときの各種の入力データが取得できるとともに、係合不良が発生した旨の焼き付き発生情報を教師データとして取得できる。
【0071】
こうした複数の訓練データを用いて写像データDM2が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の係合不良発生情報との誤差が所定値以下に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0072】
同様に、写像データDM3は、車両VCに実装される以前に、車両VCと同一仕様の車両を用いて学習された学習済みモデルである。ここで、写像データDM3の学習に際しても、事前に教師データと入力データとからなる訓練データを取得しておく。すなわち、実際に車両を走行させることにより、各種の入力データが取得される。また、この際に、ロックアップクラッチ75で固着が発生しているか否かの情報である固着発生情報が教師データとして取得される。例えば、固着が発生している場合の固着発生情報を「0」とし、固着が発生していない場合の固着発生情報を「1」とすればよい。
【0073】
そして、様々な状況下で車両を走行させることにより、教師データと入力データとからなる複数の訓練データが生成される。例えば、固着が発生する可能性のあるロックアップクラッチを車両に搭載し、当該車両を走行させる。そして、車両の走行中においてロックアップクラッチが解放状態である際に固着が発生しなかった場合には、固着が発生しなかったときの各種の入力データが取得できるとともに、固着が発生しなかった旨の固着発生情報を教師データとして取得できる。また、車両の走行中においてロックアップクラッチが解放状態である際に固着が発生した場合には、固着が発生したときの各種の入力データが取得できるとともに、固着が発生した旨の固着発生情報を教師データとして取得できる。
【0074】
こうした複数の訓練データを用いて写像データDM3が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の固着発生情報との誤差が所定値以下に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0075】
ステップS31において出力変数Y(MP)を算出すると、次のステップS33において、CPU91は、ステップS31で算出した出力変数Y(MP)を評価する。すなわち、CPU91は、出力変数Y(MP)を基に、ロックアップクラッチ75で何らかの異常が発生しているか否かを判定する。例えば、判定係数MPが「1」である場合、CPU91は、出力変数Y(1)が異常判定値以下であるときにはロックアップクラッチ75で焼き付きが発生したとの判定をなす。一方、CPU91は、出力変数Y(1)が異常判定値よりも大きいときには焼き付きが発生したとの判定をなさない。また例えば、判定係数MPが「2」である場合、CPU91は、出力変数Y(2)が異常判定値以下であるときにはロックアップクラッチ75で係合不良が発生するとの判定をなす。一方、CPU91は、出力変数Y(2)が異常判定値よりも大きいときには係合不良が発生するとの判定をなさない。また例えば、判定係数MPが「3」である場合、CPU91は、出力変数Y(3)が異常判定値以下であるときには、ロックアップクラッチ75で固着が発生したとの判定をなす。一方、CPU91は、出力変数Y(3)が異常判定値よりも大きいときには、固着が発生したとの判定をなさない。すなわち、出力変数Yが異常判定値以下であるときには、ロックアップクラッチ75で異常が発生した可能性が高いと判断できるため、異常が発生したと判定できる。
【0076】
次のステップS35において、CPU91は、評価の結果、ロックアップクラッチ75で異常が発生したとの判定をなした場合(YES)、その処理を次のステップS37に移行する。ステップS37において、CPU91は、異常が発生した旨を記憶装置93に記憶する。例えば出力変数Y(1)が異常判定値以下である場合、CPU91は、焼き付きが発生した旨を記憶装置93に記憶する。また例えば出力変数Y(2)が異常判定値以下である場合、CPU91は、係合不良が発生する旨を記憶装置93に記憶する。また例えば出力変数Y(3)が異常判定値以下である場合、CPU91は、固着が発生した旨を記憶装置93に記憶する。そして、CPU91は、その処理をステップS39に移行する。
【0077】
一方、ステップS35において、CPU91は、評価の結果、ロックアップクラッチ75で異常が発生したとの判定をなしていない場合(NO)、その処理を次のステップS39に移行する。
【0078】
ステップS39において、CPU91は、判定係数MPが「3」以上であるか否かを判定する。判定係数MPが「3」以上である場合は、ロックアップクラッチ75に関する3つの異常判定が何れも完了している。一方、判定係数MPが「3」未満である場合、ロックアップクラッチ75に関する3つの異常判定のうち、完了していない異常判定がある。そのため、判定係数MPが「3」未満である場合(S39:NO)、CPU91は、その処理をステップS41に移行する。CPU91は、ステップS41において判定係数MPを「1」インクリメントし、その処理をステップS29に移行する。一方、ステップS39において、判定係数MPが「3」以上である場合(YES)、CPU91は、一連の処理を一旦終了する。
【0079】
本実施形態の作用について説明する。
図6に破線で示す油温検出値Toilの時系列データは、ロックアップクラッチ75を係合状態にしても異常が発生しない場合の油温検出値Toilの推移を示している。図6に実線で示す油温検出値Toilの時系列データは、ロックアップクラッチ75を係合状態にした際に焼き付きが発生した場合の油温検出値Toilの推移を示している。本実施形態では、油温検出値Toilの時系列データが取得されると、油温検出値Toilの時系列データを基に、図7及び図8に示すような油温関連データRDToilが生成される。すなわち、時系列データの取得中に焼き付きが発生したか否かによって、生成される油温関連データRDToilが異なる。すなわち、油温関連データRDToilの各カウント値Cnt(1)~Cnt(5)において、数値の大きさのばらつきが異なる。
【0080】
また、ロックアップクラッチ75が係合状態である際に係合不良が発生した場合に取得された油温検出値Toilの時系列データに基づいた油温関連データRDToilと、何ら異常が発生しなかった場合に取得された油温検出値Toilの時系列データに基づいた油温関連データRDToilとでも、各カウント値Cnt(1)~Cnt(5)の大きさのばらつき方に違いが生じる。
【0081】
また、固着が発生しているロックアップクラッチ75を解放状態にした場合に取得された油温検出値Toilの時系列データに基づいた油温関連データRDToilと、何ら異常が発生しなかった場合に取得された油温検出値Toilの時系列データに基づいた油温関連データRDToilとでも、各カウント値Cnt(1)~Cnt(5)の大きさのばらつき方に違いが生じる。
【0082】
油温関連データRDToilの各カウント値Cnt(1)~Cnt(5)を写像データDM1,DM2,DM3によって規定される写像に入力変数として入力させると、当該写像は、当該油温関連データRDToilに応じた出力変数Y(MP)を出力する。そして、この出力変数Y(MP)を基に、異常が発生したか否かが判定される。
【0083】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1-1)本実施形態では、油温関連データRDToilを入力変数とし、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを特定する出力変数Yを出力する写像を規定する写像データが記憶装置93に記憶されている。そして、変速装置40が作動しているときに、取得した入力変数を写像に入力させることによって当該写像から出力される出力変数Yを基に、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かが判定される。したがって、臭いセンサの検出値を用いることなく、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定できる。
【0084】
また、車両VCのように臭いセンサを搭載していない車両においても、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定できる。
臭いセンサの検出値を用いて異常判定を行う場合、オイルが劣化してオイルが発する臭い成分が変わるまでは異常の発生を検出できない。これに対し、本実施形態では、油温検出値Toilの推移が変わったタイミングで、異常の発生の検出が可能となる。そのため、異常の早期発見が可能となる。
【0085】
(1-2)本実施形態では、油温検出値Toilの時系列データを正規化することにより、複数の正規化油温検出値ToilNを含む正規化油温検出値ToilNの時系列データが取得される。そして、この正規化油温検出値ToilNの時系列データを基に、油温関連データRDToilが生成される。そのため、ロックアップクラッチ75に異常が発生している場合における油温関連データRDToilと、異常が発生していない場合の油温関連データRDToilとの相違の度合いは、油温検出値Toilが大きい場合と油温検出値Toilが小さい場合とでそれほど変わらない。したがって、油温関連データRDToilを写像の入力変数とすることにより、油温検出値Toilの大小に起因する判定の精度のばらつきを抑えることができる。
【0086】
(1-3)正規化油温検出値ToilNの時系列データにおけるデータ数が多いほど、判定の精度を高くできる。本実施形態では、写像の入力変数である油温関連データRDToilは、正規化油温検出値ToilNの時系列データをヒストグラム化したものである。そのため、時系列データのデータ数が多くなっても、油温関連データRDToilのデータ容量があまり大きくならない。したがって、少ない容量のデータを用いても、精度良く判定を行うことができる。
【0087】
(1-4)車速SPDが高い場合の変速装置40の作動量は、車速SPDが低い場合の変速装置40の作動量と相違する。そして、変速装置40の作動量が変われば、変速装置40内を循環するオイルの温度も変わる。そこで、本実施形態では、車速SPDを写像の入力変数としている。すなわち、当該写像から出力される出力変数Yは、そのときの車速SPDを考慮した変数である。そのため、このような出力変数Yを用いてロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定することにより、当該判定の精度を高くできる。
【0088】
(1-5)ロックアップクラッチ75に異常が発生していない場合、ロックアップクラッチ75が係合状態である場合における油温の推移はある程度推測できる。同様に、ロックアップクラッチ75が解放状態である場合における油温の推移、解放状態から係合状態に移行した場合における油温の推移、及び、係合状態から解放状態に移行した場合における油温の推移の各々についても、ある程度推測できる。
【0089】
ここで、ロックアップクラッチ75を解放状態から係合状態に移行させるタイミング、及び、係合状態から解放状態に移行させるタイミングは、車速SPDによって決まる。すなわち、車速SPDを基に、ロックアップクラッチ75の動作状態が制御される。よって、車速SPDから決まるロックアップクラッチ75の動作状態から推測される油温の推移と、油温検出値Toilの推移とを比較することにより、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを推測できる。
【0090】
そこで、本実施形態のように車速SPDを写像の入力変数に加えることにより、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かの判定の精度を高くできる。
(1-6)例えばロックアップクラッチ75を係合状態とする場合、入力側要素78の回転速度、出力側要素77の回転速度、及び、入力側要素78と出力側要素77との回転速度差によって、ロックアップクラッチ75の発熱量が変わりうる。そこで、本実施形態では、入力側要素78の回転速度に相当する機関回転数NE、出力側要素77の回転速度に相当する入力軸回転数Nat、及び、回転速度差ΔNtcを写像の入力変数としている。すなわち、当該写像から出力される出力変数Yは、機関回転数NE、入力軸回転数Nat及び回転速度差ΔNtcを考慮した変数である。そのため、このような出力変数Yを用いてロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定することにより、当該判定の精度を高くできる。
【0091】
(1-7)ロックアップクラッチ75の発熱量算出値CVtcは、ロックアップクラッチ75に異常が発生していないことを前提に算出される。そのため、異常が発生している場合における発熱量算出値CVtcと油温検出値Toilの推移との関係性は、異常が発生していない場合における発熱量算出値CVtcと油温検出値Toilの推移との関係性と異なる可能性がある。そこで、本実施形態では、発熱量算出値CVtcを写像の入力変数としている。すなわち、当該写像から出力される出力変数Yは、発熱量算出値CVtcを考慮した変数となる。そのため、このような出力変数Yを用いて異常が発生しているか否かを判定することにより、当該判定の精度を高くできる。
【0092】
(1-8)ロックアップクラッチ75を係合状態にした場合、係合力EFtcが大きい場合と、係合力EFtcが小さい場合とでは、ロックアップクラッチ75の発熱量が相違することがある。例えば係合力EFtcが小さくてロックアップクラッチ75が滑り係合している場合、係合力EFtcが大きくてロックアップクラッチ75が完全係合している場合と比較し、ロックアップクラッチ75の発熱量が多くなる。そこで、本実施形態では、係合力EFtcを写像の入力変数としている。すなわち、当該写像から出力される出力変数Yは、係合力EFtcを考慮した変数となる。そのため、このような出力変数Yを用いてロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定することにより、当該判定の精度を高くできる。
【0093】
(1-9)ロックアップクラッチ75のパッククリアランスPCtcが大きいほど、ロックアップクラッチ75を係合状態にする場合の係合力が大きくなりやすい。すなわち、パッククリアランスPCtcの大小によって、ロックアップクラッチ75が係合状態である場合のロックアップクラッチ75の発熱量が変わることがある。そこで、本実施形態では、パッククリアランスPCtcを写像の入力変数としている。すなわち、当該写像から出力される出力変数Yは、パッククリアランスPCtcを考慮した変数となる。そのため、このような出力変数Yを用いてロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定することにより、当該判定の精度を高くできる。
【0094】
(1-10)ロックアップクラッチ75を解放状態から係合状態にしたり、係合状態から解放状態にしたりした場合、ロックアップクラッチ75の動作状態の変化に起因した振動が変速装置40で発生する。こうした振動は、加速度センサ105によって検出できる。そして、ロックアップクラッチ75に異常が発生している場合と、異常が発生していない場合とでは、加速度センサ105の検出値である車両加速度Gに違いが生じることがある。そこで、本実施形態では、車両加速度Gを写像の入力変数としている。すなわち、当該写像から出力される出力変数Yは、車両加速度Gを考慮した変数となる。そのため、このような出力変数Yを用いて異常が発生しているか否かを判定することにより、当該判定の精度を高くできる。
【0095】
(1-11)ロックアップクラッチ75で焼き付きが発生した場合、焼き付きが発生していない場合とでは、ロックアップクラッチ75の発熱量が変わる。すなわち、油温検出値Toilの推移が変わる。そのため、写像データDM1によって規定される写像に入力変数を入力して当該写像から出力された出力変数Yを用いることにより、焼き付きが発生しているか否かを判定できる。
【0096】
(1-12)ロックアップクラッチ75を係合状態にする場合に、ロックアップクラッチ75で係合不良が発生しているときと、係合不良が発生していないときとでは、ロックアップクラッチ75の発熱量が変わる。すなわち、油温検出値Toilの推移が変わる。そのため、写像データDM2によって規定される写像に入力変数を入力して当該写像から出力された出力変数Yを用いることにより、係合不良が発生しているか否かを判定できる。
【0097】
(1-13)ロックアップクラッチ75で固着が発生している場合、ロックアップクラッチ75を解放状態にすることができない。そのため、固着が発生している場合と、固着が発生していない場合とでは、ロックアップクラッチ75の発熱量が変わる。すなわち、油温検出値Toilの推移が変わる。そのため、写像データDM3によって規定される写像に入力変数を入力して当該写像から出力された出力変数を用いることにより、固着が発生しているか否かを判定できる。
【0098】
(1-14)本実施形態では、ロックアップクラッチ75の異常の種類毎に、写像データDM1,DM2,DM3が用意されている。そして、焼き付きが発生しているか否かを判定する際には、写像データDM1が用いられる。係合不良が発生しているか否かを判定する際には、写像データDM2が用いられる。固着が発生しているか否かを判定する際には、写像データDM3が用いられる。このように判定の種類に応じて写像データDM1,DM2,DM3を使い分けることにより、各判定の精度を高くできる。
【0099】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0100】
図9に示すように、本実施形態において、記憶装置93には、ロックアップクラッチ75の動作状態の各々に対して個別に対応する複数の写像データDM11,DM12,DM13,DM14が記憶されている。写像データDM11は、ロックアップクラッチ75の動作状態が解放状態である場合に特化した機械学習によって学習された写像データである。写像データDM12は、ロックアップクラッチ75の動作状態が係合移行状態である場合に特化した機械学習によって学習された写像データである。写像データDM13は、ロックアップクラッチ75の動作状態が係合状態である場合に特化した機械学習によって学習された写像データである。写像データDM14は、ロックアップクラッチ75の動作状態が解放移行状態である場合に特化した機械学習によって学習された写像データである。係合移行状態とは、解放状態から係合状態に移行するときのロックアップクラッチ75の動作状態である。解放移行状態とは、係合状態から解放状態に移行するときのロックアップクラッチ75の動作状態である。
【0101】
図10及び図11を参照し、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定するために制御装置90が実行する一連の処理の手順について説明する。図10及び図11に示す一連の処理の流れは、ROM92に記憶されているプログラムをCPU91が実行することによって実現される。この一連の処理は、所定周期で繰り返し実行される。すなわち、CPU91は、一連の処理を一旦終了した時点からの経過時間が所定周期に応じた時間に達すると、一連の処理の実行を再び開始する。
【0102】
まずはじめに、ステップS51において、CPU91は、係数zとして「1」をセットする。次のステップS53において、CPU91は、油温検出値Toil(z)として現在の油温検出値Toilを取得する。次のステップS55において、CPU91は、係数zを「1」インクリメントする。続いて、ステップS57において、CPU91は、係数zが上記の係数判定値zThよりも大きいか否かを判定する。係数zが係数判定値zTh以下である場合(S57:NO)、CPU91は、その処理をステップS53に移行する。一方、係数zが係数判定値zThよりも大きい場合(S57:YES)、CPU91は、その処理を次のステップS59に移行する。
【0103】
ステップS59において、CPU91は、上記ステップS19と同様に、複数の正規化油温検出値ToilN(1),ToilN(2),…,ToilN(z)を含む正規化油温検出値ToilNの時系列データを取得する。次のステップS61において、CPU91は、上記ステップS21と同様に、正規化油温検出値ToilNの時系列データを基に油温関連データRDToilを生成する。続いて、ステップS63において、CPU91は、上記ステップS23と同様に、車速SPD、機関回転数NE、入力軸回転数Nat、回転速度差ΔNtc、ロックアップクラッチ75の発熱量算出値CVtc、ロックアップクラッチ75の係合力EFtc、ロックアップクラッチ75のパッククリアランスPCtc及び車両加速度Gを取得する。そして、次のステップS65において、CPU91は、上記ステップS25と同様に、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定するための写像の入力変数x(1)~x(13)に、ステップS61で算出した油温関連データRDToil、及び、ステップS63で取得した各種データを代入する。
【0104】
次のステップS67において、CPU91は、ロックアップクラッチ75の動作状態を取得する。すなわち、CPU91は、解放状態、係合移行状態、係合状態及び解放移行状態の中から、現在のロックアップクラッチ75の動作状態を選択する。ここでいう「現在のロックアップクラッチ75の動作状態」とは、制御上でCPU91が把握している動作状態である。そのため、ロックアップクラッチ75に何らかの異常が発生している場合、ここで取得される動作状態は、実際の動作状態と相違することもありうる。
【0105】
続いて、ステップS69において、CPU91は、ステップS67で取得した動作状態に応じた値を状態係数SVとしてセットする。例えば、CPU91は、動作状態が解放状態であるときには「1」を状態係数SVとしてセットし、動作状態が係合移行状態であるときには「2」を状態係数SVとしてセットする。また例えば、CPU91は、動作状態が係合状態であるときには「3」を状態係数SVとしてセットし、動作状態が解放移行状態であるときには「4」を状態係数SVとしてセットする。
【0106】
次のステップS71において、CPU91は、記憶装置93に記憶されている各写像データDM11,DM12,DM13,DM14の中から、状態係数SVに応じた写像データを選択する。例えば、CPU91は、状態係数SVが「1」であるときには写像データDM11を選択し、状態係数SVが「2」であるときには写像データDM12を選択する。CPU91は、状態係数SVが「3」であるときには写像データDM13を選択し、状態係数SVが「4」であるときには写像データDM14を選択する。
【0107】
そして、ステップS73において、CPU91は、選択した写像データによって規定される写像に入力変数x(1)~x(13)を入力することによって、出力変数Y(SV)を算出する。
【0108】
写像データDM11は、車両VCに実装される以前に、車両VCと同一仕様の車両を用いて学習された学習済みモデルである。ここで、写像データDM11の学習に際しては、事前に教師データと入力データとからなる訓練データを取得しておく。すなわち、ロックアップクラッチが解放状態であるときに車両を走行させることにより、各種の入力データが取得される。さらに、ロックアップクラッチに異常が発生したか否かの情報である異常発生情報が教師データとして取得される。本実施形態では、異常の種類、すなわち焼き付きであるのか、係合不良であるのか、固着であるのかは判別しない。例えば、ロックアップクラッチで異常が発生した場合の異常発生情報を「0」とし、異常が何ら発生していない場合の異常判定情報を「1」とすればよい。
【0109】
そして、様々な状況下で車両を走行させることにより、複数の訓練データが生成される。例えば、異常が発生する可能性のあるロックアップクラッチを車両に搭載し、当該車両を走行させる。そして、車両の走行中に異常が発生しなかった場合には、異常が発生しなかったときの各種の入力データが取得できるとともに、異常が発生しなかった旨の異常発生情報を教師データとして取得できる。また、車両の走行中に異常が発生した場合には、異常が発生したときの各種の入力データが取得できるとともに、異常が発生した旨の異常発生情報を教師データとして取得できる。
【0110】
こうした複数の訓練データを用いて写像データDM11が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の異常判定情報との誤差が所定値以下に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0111】
同様に、写像データDM12,DM13,DM14もまた、車両VCに実装される以前に、車両VCと同一仕様の車両を用いて学習された学習済みモデルである。写像データDM12を学習させる場合には、車両走行中においてロックアップクラッチが係合移行状態であるときに取得された各種のデータを基に入力データが取得され、そのときの異常発生情報が教師データとして取得される。このようにして、複数の訓練データが生成される。こうした複数の訓練データを用いて写像データDM12が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の異常判定情報との誤差が所定値以下に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0112】
写像データDM13を学習させる場合には、車両走行中においてロックアップクラッチが係合状態であるときに取得された各種のデータを基に入力データが取得され、そのときの異常発生情報が教師データとして取得される。このようにして、複数の訓練データが生成される。こうした複数の訓練データを用いて写像データDM13が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の異常判定情報との誤差が所定値に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0113】
写像データDM14を学習させる場合には、車両走行中においてロックアップクラッチが解放移行状態であるときに取得された各種のデータを基に入力データが取得され、そのときの異常発生情報が教師データとして取得される。このようにして、複数の訓練データが生成される。こうした複数の訓練データを用いて写像データDM14が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の異常判定情報との誤差が所定値以下に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0114】
続いて、ステップS75において、CPU91は、ステップS73で算出した出力変数Y(SV)を評価する。すなわち、CPU91は、出力変数Y(SV)が上記異常判定値以下であるか否かを判定する。出力変数Y(SV)が異常判定値以下である場合は、ロックアップクラッチ75で異常が発生したと見なす。一方、出力変数Y(SV)が異常判定値よりも大きい場合は、ロックアップクラッチ75で異常が発生したと見なさない。次のステップS77において、CPU91は、評価の結果、ロックアップクラッチ75で異常が発生したとの判定をなした場合(YES)、その処理を次のステップS79に移行する。ステップS79において、CPU91は、異常が発生した旨を記憶装置93に記憶する。その後、CPU91は、一連の処理を一旦終了する。
【0115】
一方、ステップS77において、CPU91は、評価の結果、ロックアップクラッチ75で異常が発生したとの判定をなしていない場合(NO)、一連の処理を一旦終了する。すなわち、例えば出力変数Y(SV)が異常判定値よりも大きい場合、CPU91は、ステップS79の処理を実行することなく、一連の処理を一旦終了する。
【0116】
本実施形態によれば、上記(1-1)~(1-10)の効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(2-1)ロックアップクラッチ75に異常が発生している場合であっても、ロックアップクラッチ75の動作状態が異なれば、油温検出値Toilの推移が異なる可能性がある。そこで、本実施形態では、ロックアップクラッチ75の動作状態に対して個別に対応する複数の写像データDM11,DM12,DM13,DM14が予め用意されている。複数の写像データDM11,DM12,DM13,DM14の中から、そのときの動作状態に応じた写像データが選択され、当該写像データによって規定される写像に対して入力変数が入力される。そして、当該写像から出力された出力変数Y(SV)を基に、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かが判定される。このように動作状態に応じて写像データを使い分けることにより、判定の精度を高くできる。
【0117】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、第1実施形態及び第2実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0118】
図12に示すように、本実施形態において、記憶装置93には、変速装置40の特性の経年変化の度合いに応じた複数の写像データDM21,DM22,DM23,…が記憶されている。写像データDM11は、特性の経年変化の度合いが最小である場合の写像データである。写像データDM12は、特性の経年変化の度合いが2番目に小さい場合の写像データである。写像データDM13は、特性の経年変化の度合いが3番目に小さい場合の写像データである。
【0119】
図13及び図14を参照し、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定するために制御装置90が実行する一連の処理の手順について説明する。図13及び図14に示す一連の処理の流れは、ROM92に記憶されているプログラムをCPU91が実行することによって実現される。この一連の処理は、所定周期で繰り返し実行される。すなわち、CPU91は、一連の処理を一旦終了した時点からの経過時間が所定周期に応じた時間に達すると、一連の処理の実行を再び開始する。
【0120】
まずはじめに、ステップS91において、CPU91は、係数zとして「1」をセットする。次のステップS93において、CPU91は、油温検出値Toil(z)として現在の油温検出値Toilを取得する。次のステップS95において、CPU91は、係数zを「1」インクリメントする。続いて、ステップS97において、CPU91は、係数zが上記の係数判定値zThよりも大きいか否かを判定する。係数zが係数判定値zTh以下である場合(S97:NO)、CPU91は、その処理をステップS93に移行する。一方、係数zが係数判定値zThよりも大きい場合(S97:YES)、CPU91は、その処理を次のステップS99に移行する。
【0121】
ステップS99において、CPU91は、上記ステップS19と同様に、複数の正規化油温検出値ToilN(1),ToilN(2),…,ToilN(z)を含む正規化油温検出値ToilNの時系列データを取得する。次のステップS101において、CPU91は、上記ステップS21と同様に、正規化油温検出値ToilNの時系列データを基に油温関連データRDToilを生成する。続いて、ステップS103において、CPU91は、上記ステップS23と同様に、車速SPD、機関回転数NE、入力軸回転数Nat、回転速度差ΔNtc、ロックアップクラッチ75の発熱量算出値CVtc、ロックアップクラッチ75の係合力EFtc、ロックアップクラッチ75のパッククリアランスPCtc及び車両加速度Gを取得する。そして、次のステップS105において、CPU91は、上記ステップS25と同様に、ロックアップクラッチ75に異常が発生しているか否かを判定するための写像の入力変数x(1)~x(13)に、ステップS101で算出した油温関連データRDToil、及び、ステップS103で取得した各種データを代入する。
【0122】
次のステップS107において、CPU91は、変速装置40の特性の経年変化に応じた係数である経年変化係数AGIを取得する。例えば、CPU91は、車両VCの走行距離を基に経年変化係数AGIを取得する。この場合、CPU91は、車両VCの走行距離が長いほど大きい値を経年変化係数AGIとすればよい。
【0123】
次のステップS109において、CPU91は、記憶装置93に記憶されている各写像データDM21,DM22,DM23,…の中から、経年変化係数AGIに応じた写像データを選択する。例えば、CPU91は、経年変化係数AGIが「1」であるときには写像データDM21を選択し、経年変化係数AGIが「2」であるときには写像データDM22を選択する。
【0124】
そして、ステップS111において、CPU91は、選択した写像データによって規定される写像に入力変数x(1)~x(13)を入力することによって、出力変数Y(AGI)を算出する。
【0125】
写像データDM21は、車両VCに実装される以前に、車両VCと同一仕様の車両を用いて学習された学習済みモデルである。ここで、写像データDM21の学習に際しては、事前に教師データと入力データとからなる訓練データを取得しておく。すなわち、経年変化係数AGIが「1」となるような走行距離の車両を実際に走行させることにより、各種の入力データが取得される。さらに、ロックアップクラッチに異常が発生しているか否かの情報である異常発生情報が教師データとして取得される。本実施形態では、異常の種類、すなわち焼き付きであるのか、係合不良であるのか、固着であるのかは判別しない。例えば、ロックアップクラッチで異常が発生した場合の異常発生情報を「0」とし、異常が何ら発生していない場合の異常判定情報を「1」とすればよい。
【0126】
そして、様々な状況下で車両を走行させることにより、複数の訓練データが生成される。例えば、異常が発生する可能性のあるロックアップクラッチを車両に搭載し、当該車両を走行させる。そして、車両の走行中に異常が発生しなかった場合には、異常が発生しなかったときの各種の入力データが取得できるとともに、異常が発生しなかった旨の異常発生情報を教師データとして取得できる。また、車両の走行中に異常が発生した場合には、異常が発生したときの各種の入力データが取得できるとともに、異常が発生した旨の異常発生情報を教師データとして取得できる。
【0127】
こうした複数の訓練データを用いて写像データDM21が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の異常判定情報との誤差が所定値以下に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0128】
同様に、写像データDM22,DM23,…もまた、車両VCに実装される以前に、車両VCと同一仕様の車両を用いて学習された学習済みモデルである。写像データDM22を学習させる場合には、経年変化係数AGIが「2」となるような走行距離の車両を実際に走行させることにより、各種の入力データが取得され、そのときの異常発生情報が教師データとして取得される。そして、入力データと教師データとからなる複数の訓練データを生成される。こうした複数の訓練データを用いて写像データDM22が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の異常判定情報との誤差が所定値以下に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0129】
写像データDM23を学習させる場合には、経年変化係数AGIが「3」となるような走行距離の車両を実際に走行させることにより、各種の入力データが取得され、そのときの異常発生情報が教師データとして取得される。そして、入力データと教師データとからなる複数の訓練データを生成される。こうした複数の訓練データを用いて写像データDM23が学習される。すなわち、入力データを入力として写像が出力する出力変数と実際の異常判定情報との誤差が所定値以下に収束するように、入力側変数及び出力側変数がそれぞれ調整される。
【0130】
ステップS113において、CPU91は、ステップS111で算出した出力変数Y(AGI)を評価する。すなわち、CPU91は、出力変数Y(AGI)が上記異常判定値以下であるか否かを判定する。出力変数Y(AGI)が異常判定値以下である場合は、ロックアップクラッチ75で異常が発生したと見なす。一方、出力変数Y(AGI)が異常判定値よりも大きい場合は、ロックアップクラッチ75で異常が発生したと見なさない。次のステップS115において、CPU91は、評価の結果、ロックアップクラッチ75で異常が発生したとの判定をなした場合(YES)、その処理を次のステップS117に移行する。ステップS117において、CPU91は、異常が発生した旨を記憶装置93に記憶する。その後、CPU91は、一連の処理を一旦終了する。
【0131】
一方、ステップS115において、CPU91は、評価の結果、ロックアップクラッチ75で異常が発生したとの判定をなしていない場合(NO)、一連の処理を一旦終了する。すなわち、例えば出力変数Y(AGI)が異常判定値よりも大きい場合、CPU91は、ステップS117の処理を実行することなく、一連の処理を一旦終了する。
【0132】
本実施形態によれば、上記(1-1)~(1-10)の効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(3-1)変速装置40に異常が発生していなくても、変速装置40の特性の経年変化の度合いによって変速装置40の発熱量が変わりうる。そこで、本実施形態では、変速装置40の特性の経年変化の度合いに応じた複数の写像データDM21,DM22,DM23,…が予め用意されている。複数の写像データDM21,DM22,DM23,…の中から、そのときの特性の経年変化の度合いに応じた写像データが選択され、当該写像データによって規定される写像に対して入力変数が入力される。そして、当該写像から出力された出力変数Y(AGI)を基に、ロックアップクラッチ75に異常が発生したか否かが判定される。このように特性の経年変化の度合いに応じて写像データを使い分けることにより、判定の精度を高くできる。
【0133】
(対応関係)
上記各実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]異常判定装置は、制御装置90に対応する。車両の動力源は、内燃機関10に対応する。駆動輪は、駆動輪60に対応する。動力伝達装置は、変速装置40に対応する。摩擦係合要素は、ロックアップクラッチ75に対応する。油温センサは、油温センサ103に対応する。車両は、車両VCに対応する。実行装置は、CPU91及びROM92に対応する。記憶装置は、記憶装置93に対応する。油温検出値は、油温検出値Toilに対応する。油温関連データは、油温関連データRDToilに対応する。写像データは、図1に示す写像データDM1,DM2,DM3、図9に示す写像データDM11,DM12,DM13,DM14、及び、図12に示す写像データDM21,DM22,DM23,…に対応する。取得処理は、図4及び図5におけるステップS13~S23の各処理、図10及び図11におけるステップS53~S63の各処理、及び、図13及び図14におけるステップS93~S103の各処理に対応する。異常判定処理は、図4及び図5におけるステップS27~S41の各処理、図10及び図11におけるステップS73~S79の各処理、及び、図13及び図14におけるステップS111~S117の各処理に対応する。[2]検出値取得処理は、図4におけるステップS13~S17の各処理、図10及び図11におけるステップS53~S57の各処理、及び、図13及び図14におけるステップS93~S97の各処理に対応する。関連データ生成処理は、図4及び図5におけるステップS19,S21の各処理、図10及び図11におけるステップS59,S61の各処理、及び、図13及び図14におけるステップS99,S101の各処理に対応する。[3]正規化油温検出値は、正規化油温検出値ToilNに対応する。[4]車速は、車速SPDに対応する。[5]クラッチは、ロックアップクラッチ75に対応する。入力側の要素は、入力側要素78に対応する。出力側の要素は、出力側要素77に対応する。入力側の要素の回転速度は、機関回転数NEに対応する。出力側の要素の回転速度は、入力軸回転数Natに対応する。入力側の要素と出力側の要素との回転速度差は、回転速度差ΔNtcに対応する。[6]入力部は、フロントカバー71に対応する。出力部は、入力軸81に対応する。入出力回転速度差は、回転速度差ΔNtcに対応する。発熱量の算出値は、発熱量算出値CVtcに対応する。[7]係合力は、係合力EFtcに対応する。[8]パッククリアランスは、パッククリアランスPCtcに対応する。[9]加速度センサは、加速度センサ105に対応する。加速度センサの検出値は、車両加速度Gに対応する。[10]異常判定処理は、図4及び図5において、判定係数MPが「1」である場合におけるステップS31~S37の各処理に対応する。[11]異常判定処理は、図4及び図5において、判定係数MPが「2」である場合におけるステップS31~S37の各処理に対応する。[12]異常判定処理は、図4及び図5において、判定係数MPが「3」である場合におけるステップS31~S37の各処理に対応する。[13]第1写像データは、写像データDM1に対応する。第2写像データは、写像データDM2に対応する。第3写像データは、写像データDM3に対応する。[14]第1写像データは、各写像データDM11,DM12,DM13,DM14のうち、1つの写像データに対応する。第2写像データは、各写像データDM11,DM12,DM13,DM14のうち、第1写像データ以外の写像データに対応する。データ選択処理は、図10及び図11におけるステップS71に対応する。異常判定処理は、図10及び図11におけるステップS73~S79の各処理に対応する。[15]写像データは、写像データDM21,DM22,DM23,…に対応する。データ選択処理は、図13及び図14におけるステップS109に対応する。異常判定処理は、図13及び図14におけるステップS111~S117の各処理に対応する。
【0134】
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0135】
「写像について」
・上記各実施形態において、写像の活性化関数は例示であり、上記各実施形態の例に限らない。例えば、写像の活性化関数として、ロジスティックジグモイド関数を採用してもよい。
【0136】
・上記各実施形態において、ニューラルネットワークとして、中間層の数が1層のニューラルネットワークを例示したが、中間層の数が2層以上であってもよい。
・上記各実施形態において、ニューラルネットワークとして、全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示したが、これに限らない。例えば、ニューラルネットワークとして、回帰結合型ニューラルネットワークを採用してもよい。後述するように、上記油温関連データRDToilでなく、正規化油温検出値ToilNの時系列データや油温検出値Toilの時系列データを写像の入力変数とする場合には、回帰結合型ニューラルネットワークを採用するとよい。
【0137】
「写像データについて」
・上記第2実施形態において、各写像データDM11,DM12,DM13,DM14によって規定される写像は、ロックアップクラッチ75の異常の種類まで判別できるような出力変数を出力するものであってもよい。この場合、出力変数の大きさは、異常の種類、すなわち焼き付きの発生、係合不良の発生、固着の発生に応じた大きさとなる。
【0138】
上記第3実施形態において、各写像データDM21,DM22,DM23,…によって規定される写像は、ロックアップクラッチ75の異常の種類まで判別できるような出力変数を出力するものであってもよい。この場合、出力変数の大きさは、異常の種類、すなわち焼き付きの発生、係合不良の発生、固着の発生に応じた大きさとなる。
【0139】
この場合、写像の出力層には、焼き付きが発生した確率に関する情報、係合不良が発生した確率に関する情報、固着が発生した確率に関する情報が入力される。そして、当該出力層は、入力された各情報に応じた出力変数Yを出力する。
【0140】
・上記第1実施形態において、ロックアップクラッチ75で焼き付きが発生しているか否かの判定、係合不良が発生するか否かの判定、及び、固着が発生しているか否かの判定の何れをも実行できるように機械学習によって学習された1つの写像データを、記憶装置93に記憶させてもよい。この場合、判定の内容によって、写像データを切り替えなくてもよくなる。
【0141】
また、このように記憶装置93に記憶させる写像データを1つのみとする場合、当該写像データは、異常の種類まで判別できるような学習がなされたものでなくてもよい。
・上記第1実施形態において、記憶装置93に写像データDM1が記憶されているのであれば、写像データDM2,DM3は記憶装置93に記憶されていなくてもよい。この場合であっても、ロックアップクラッチ75で焼き付きが発生しているか否かを判定することはできる。
【0142】
・上記第1実施形態において、記憶装置93に写像データDM2が記憶されているのであれば、写像データDM1,DM3は記憶装置93に記憶されていなくてもよい。この場合であっても、ロックアップクラッチ75で係合不良が発生するか否かを判定することはできる。
【0143】
・上記第1実施形態において、記憶装置93に写像データDM3が記憶されているのであれば、写像データDM1,DM2は記憶装置93に記憶されていなくてもよい。この場合であっても、ロックアップクラッチ75で固着が発生しているか否かを判定することはできる。
【0144】
「入力変数について」
・入力変数は、車両加速度Gを含まなくてもよい。
・入力変数は、パッククリアランスPCtcを含まなくてもよい。
【0145】
・入力変数は、係合力EFtcを含まなくてもよい。
・変速装置40が、係合力EFtc、又は係合力EFtcの相関値を検出できるセンサを備えているのであれば、当該センサの検出値を係合力EFtcとしてもよい。
【0146】
・入力変数は、発熱量算出値CVtcを含まなくてもよい。
・変速装置40が、ロックアップクラッチ75の発熱量、又は発熱量の相関値を検出できるセンサを備えているのであれば、当該センサの検出値を入力変数としてもよい。
【0147】
・入力側要素78の回転速度である機関回転数NEを入力変数とするのであれば、入力変数は、出力側要素77の回転速度である入力軸回転数Natを含まなくてもよい。また、入力変数は、回転速度差ΔNtcを含まなくてもよい。
【0148】
・出力側要素77の回転速度である入力軸回転数Natを入力変数とするのであれば、入力変数は、入力側要素78の回転速度である機関回転数NEを含まなくてもよい。また、入力変数は、回転速度差ΔNtcを含まなくてもよい。
【0149】
・回転速度差ΔNtcを入力変数とするのであれば、入力変数は、入力側要素78の回転速度である機関回転数NEを含まなくてもよい。また、入力変数は、出力側要素77の回転速度である入力軸回転数Natを含まなくてもよい。
【0150】
・機関回転数NEに対する入力軸回転数Natの比である回転速度比を、回転速度差ΔNtcの代わりに入力変数としてもよい。
・入力変数は、入力側要素78の回転速度である機関回転数NE、出力側要素77の回転速度である入力軸回転数Nat、及び、回転速度差ΔNtcの何れをも含まなくてもよい。
【0151】
・入力変数は、車速SPDを含まなくてもよい。
「異常判定処理について」
・上記第1実施形態において、焼き付きが発生したとの判定をなした場合、係合不良が発生したとの判定をなした場合、及び、固着が発生したとの判定をなした場合の何れにおいても、ロックアップクラッチ75で異常が発生した旨を記憶装置93に記憶するようにしてもよい。すなわち、異常が発生した旨を記憶装置93に記憶できるのであれば、その内容は記憶装置93に記憶しなくてもよい。
【0152】
「油温関連データについて」
・上記各実施形態では、油温関連データRDToilは、「5個」のカウント値Cnt(1)~Cnt(5)で構成されているが、カウント値の数は「5個」に限らない。例えば、「0」から「1」までの数値の領域を「0.1」毎に分割した場合、油温関連データRDToilは、「10個」のカウント値Cnt(1)~Cnt(10)からなるデータとするとよい。
【0153】
・写像に対する入力変数として採用する油温関連データは、上記油温関連データRDToilでなくてもよい。すなわち、油温関連データは、正規化油温検出値ToilNの時系列データであってもよい。
【0154】
・油温関連データは、油温検出値Toilの時系列データであってもよい。
「経年変化の度合いについて」
・上記第3実施形態では、車両VCの走行距離を基に変速装置40の特性の経年変化の度合いを推定していたが、これに限らない。例えば、ロックアップクラッチ75の動作回数やロックアップクラッチ75の動作状態が係合状態であった場合の時間の総計を基に、変速装置40の特性の経年変化の度合いを推定するようにしてもよい。
【0155】
「実行装置について」
・実行装置としては、CPU91とROM92とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。例えば、上記各実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路を備えてもよい。専用のハードウェア回路としては、例えば、ASICを挙げることができる。ASICとは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記である。すなわち、実行装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。
(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROMなどのプログラム格納装置とを備えている。
(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置及びプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備えている。ここで、処理装置及びプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置、及び、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0156】
「動力伝達装置について」
・動力伝達装置は、摩擦係合要素を備えているのであれば、有段式の変速装置に限らない。例えば、動力伝達装置は、無段式の変速装置であってもよい。
【0157】
「摩擦係合要素について」
・摩擦係合要素は、ロックアップクラッチ75に限らない。例えば、摩擦係合要素は、変速機構80の第1クラッチC1であってもよいし、第2クラッチC2であってもよいし、ブレーキ機構B1であってもよい。
【0158】
・摩擦係合要素は、油圧の調整によって動作状態を係合状態にされたり、解放状態にされたりするものに限らない。例えば、摩擦係合要素は、電動機の駆動によって係合状態にされたり、解放状態にされたりするものであってもよいし、電磁力の調整によって係合状態にされたり、解放状態にされたりするものであってもよい。
【0159】
「車両について」
・車両は、ハイブリッド車両であってもよい。また、車両は、モータジェネレータを備えるものの内燃機関を備えない車両であってもよい。この場合、モータジェネレータが、車両の動力源に対応することになる。
【符号の説明】
【0160】
10…内燃機関
40…変速装置
60…駆動輪
71…フロントカバー
75…ロックアップクラッチ
77…出力側要素
78…入力側要素
80…変速機構
81…入力軸
90…制御装置
91…CPU
92…ROM
93…記憶装置
103…油温センサ
105…加速度センサ
C1…第1クラッチ
C2…第2クラッチ
B1…ブレーキ機構
VC…車両
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