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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】電気自動車
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020135075
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030814
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100113011
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】勇 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良雄
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】今村 達也
(72)【発明者】
【氏名】西峯 明子
(72)【発明者】
【氏名】江渕 弘章
(72)【発明者】
【氏名】小寺 広明
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-114173(JP,A)
【文献】特開2009-261180(JP,A)
【文献】特開2018-166386(JP,A)
【文献】特開2011-215436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータを走行用の動力装置として用いる電気自動車であって、
加速用ペダルと、
疑似クラッチペダルと、
疑似シフト装置と、
前記電気モータが出力するモータトルクを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
メモリと、
プロセッサと、を備え、
前記メモリは、ガスペダルの操作によってトルクを制御される内燃機関とクラッチペダルの操作とシフト装置の操作とによってギア段が切り替えられるマニュアルトランスミッションとを有するMT車両における駆動輪トルクのトルク特性を模擬したMT車両モデルを記憶し、
前記プロセッサは、
前記加速用ペダルの操作量を、前記MT車両モデルに対する前記ガスペダルの操作量の入力として受け付ける処理と、
前記疑似クラッチペダルの操作量を、前記MT車両モデルに対する前記クラッチペダルの操作量の入力として受け付ける処理と、
前記疑似シフト装置のシフト位置を、前記MT車両モデルに対する前記シフト装置のシフト位置の入力として受け付ける処理と、
前記加速用ペダルの操作量と、前記疑似クラッチペダルの操作量と、前記疑似シフト装置のシフト位置とで定まる前記駆動輪トルクを、前記MT車両モデルを用いて計算する処理と、
前記駆動輪トルクを前記電気自動車の駆動輪に与えるための前記モータトルクを演算する処理と、を実行し、
反力アクチュエータの作動によって、前記疑似クラッチペダルの操作に対してペダル反力を発生させるペダル反力付加装置を備え、
前記制御装置は、前記疑似クラッチペダルの操作に応じて、前記ペダル反力付加装置が出力する前記ペダル反力を制御する
ように構成されることを特徴とする電気自動車。
【請求項2】
前記メモリは、前記MT車両の前記クラッチペダルのペダル反力の特性を模擬したペダル反力特性を前記疑似クラッチペダルの操作量に対応付けて記憶し、
前記プロセッサは、前記ペダル反力特性に従い前記ペダル反力付加装置が出力する前記ペダル反力を制御する処理を実行する
ように構成されることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車。
【請求項3】
前記メモリは、異なる特性の複数の前記ペダル反力特性を記憶し、
前記電気自動車は、前記複数のペダル反力特性の中から1つのペダル反力特性を選択するパターン選択スイッチを備え、
前記プロセッサは、前記パターン選択スイッチで選択された前記ペダル反力特性に従い前記ペダル反力付加装置が出力する前記ペダル反力を制御する処理を実行する
ように構成されることを特徴とする請求項2に記載の電気自動車。
【請求項4】
前記ペダル反力特性は、前記クラッチペダルの踏み操作時のペダル反力特性を模擬した第一ペダル反力特性と、前記クラッチペダルの戻し操作時のペダル反力特性を模擬した、前記第一ペダル反力特性とは異なる第二ペダル反力特性と、を含み、
前記プロセッサは、
前記疑似クラッチペダルの操作量の変化に基づいて、前記疑似クラッチペダルの操作が踏み操作であるか戻し操作であるかを判定する処理と、
前記疑似クラッチペダルの操作が前記踏み操作である場合、前記第一ペダル反力特性に従い前記疑似クラッチペダルの操作量に応じた前記ペダル反力を演算し、前記疑似クラッチペダルの操作が前記戻し操作である場合、前記第二ペダル反力特性に従い前記疑似クラッチペダルの操作量に応じた前記ペダル反力を演算する処理と、
を実行するように構成されることを特徴とする請求項2に記載の電気自動車。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記疑似クラッチペダルの操作が前記戻し操作である場合、前記疑似クラッチペダルの操作量が、前記MT車両モデルにより仮想的に実現される仮想クラッチの半係合状態に対応する所定の半係合領域に属する期間に、前記ペダル反力を振動させる処理を実行する
ように構成されることを特徴とする請求項4に記載の電気自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気モータを走行用の動力装置として用いる電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV:Electric Vehicle)において走行用の動力装置として用いられる電気モータは、従来車両において走行用の動力装置として用いられてきた内燃機関に対して、トルク特性が大きく異なっている。動力装置のトルク特性の違いにより、従来の内燃機関の車両は変速機が必須であるのに対し、一般にEVは変速機を備えていない。もちろん、EVは、運転者の手動操作により変速比を切り替えるマニュアルトランスミッション(MT:Manual Transmission)は備えていない。このため、MT付きの従来車両(以下、MT車両という)の運転とEVの運転とでは、運転感覚に大きな違いがある。
【0003】
一方で電気モータは、印加する電圧や界磁を制御することで比較的容易にトルクを制御することができる。従って電気モータでは、適当な制御を実施することにより、電気モータの動作範囲内で所望のトルク特性を得ることが可能である。この特徴を活かして、EVのトルクを制御してMT車両特有のトルク特性を模擬する技術がこれまで提案されている。
【0004】
特許文献1には、駆動モータにより車輪にトルクを伝達する車両において、疑似的なシフトチェンジを演出する技術が開示されている。この車両では、車速、アクセル開度、アクセル開速度、又はブレーキ踏み込み量により規定される所定の契機で、駆動モータのトルクを設定変動量だけ減少させた後、所定時間でトルクを再度増加させるトルク変動制御が行われる。これにより、有段変速機を備える車両に慣れた運転者に対して与える違和感が抑制されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-166386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の技術では、変速動作を模擬したトルク変動制御のタイミングを運転者自身の操作によって主体的に決めることはできない。特に、MT車両の運転に慣れた運転者にとっては、運転者自身による手動変速動作を介在しない疑似的な変速動作は、MTを操る楽しさを求める運転者の運転感覚に違和感を与えるおそれがある。
【0007】
このような事情を考慮し、本出願に係る発明者らは、EVでMT車両の運転感覚を得ることができるように、EVに疑似シフト装置と疑似クラッチペダルを設けることを検討している。もちろん、単にこれらの疑似装置をEVに取り付けるのではない。本出願に係る発明者らは、疑似シフト装置と疑似クラッチペダルの操作によって、MT車両のトルク特性と同様のトルク特性が得られるように電気モータを制御できるようにすることを検討している。
【0008】
ただし、EVでMT車両の運転感覚を得るための要素は、車両のトルク特性だけではない。すなわち、MT車両のクラッチペダルは、動力の連結及び遮断を行うクラッチ装置を機械的に動作させるため、独特の操作感が必然的に発生する。疑似クラッチペダルによってこのような独特の操作感が得られない場合、MT車両の運転感覚を求める運転者は違和感を覚えるおそれがある。
【0009】
本開示は、上述の課題を鑑みてなされたもので、運転者がMT車両のクラッチペダルを操作しているかのような運転感覚を得ることができる電気自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の開示は、上記の課題を解決するため、電気モータを走行用の動力装置として用いる電気自動車に適用される。電気自動車は、加速用ペダルと、疑似クラッチペダルと、疑似シフト装置と、電気モータが出力するモータトルクを制御する制御装置と、を備える。制御装置は、メモリと、プロセッサと、を備える。メモリは、ガスペダルの操作によってトルクを制御される内燃機関とクラッチペダルの操作とシフト装置の操作とによってギア段が切り替えられるマニュアルトランスミッションとを有するMT車両における駆動輪トルクのトルク特性を模擬したMT車両モデルを記憶している。プロセッサは、加速用ペダルの操作量を、MT車両モデルに対するガスペダルの操作量の入力として受け付ける処理と、疑似クラッチペダルの操作量を、MT車両モデルに対するクラッチペダルの操作量の入力として受け付ける処理と、疑似シフト装置のシフト位置を、MT車両モデルに対するシフト装置のシフト位置の入力として受け付ける処理と、加速用ペダルの操作量と、疑似クラッチペダルの操作量と、疑似シフト装置のシフト位置とで定まる駆動輪トルクを、MT車両モデルを用いて計算する処理と、駆動輪トルクを電気自動車の駆動輪に与えるためのモータトルクを演算する処理と、を実行するように構成される。また、本開示の電気自動車は、反力アクチュエータの作動によって、疑似クラッチペダルの操作に対してペダル反力を発生させるペダル反力付加装置を備える。そして、制御装置は、疑似クラッチペダルの操作に応じて、ペダル反力付加装置が出力するペダル反力を制御するように構成される。
【0011】
第2の開示は、第1の開示において、更に以下の特徴を有している。
メモリは、MT車両のクラッチペダルのペダル反力の特性を疑似クラッチペダルの操作量に対応付けて模擬したペダル反力特性を記憶している。そして、プロセッサは、ペダル反力特性に従いペダル反力付加装置が出力するペダル反力を制御する処理を実行するように構成される。
【0012】
第3の開示は、第2の開示において、更に以下の特徴を有している。
メモリは、異なる特性の複数のペダル反力特性を記憶している。電気自動車は、複数のペダル反力特性の中から1つのペダル反力特性を選択するパターン選択スイッチを備えている。そして、プロセッサは、パターン選択スイッチで選択されたペダル反力特性に従いペダル反力付加装置が出力するペダル反力を制御する処理を実行するように構成される。
【0013】
第4の開示は、第2の開示において、更に以下の特徴を有している。
ペダル反力特性は、クラッチペダルの踏み操作時のペダル反力特性を模擬した第一ペダル反力特性と、クラッチペダルの戻し操作時のペダル反力特性を模擬した、第一ペダル反力特性とは異なる第二ペダル反力特性と、を含む。そして、プロセッサは、疑似クラッチペダルの操作量の変化に基づいて、疑似クラッチペダルの操作が踏み操作であるか戻し操作であるかを判定する処理と、疑似クラッチペダルの操作が踏み操作である場合、第一ペダル反力特性に従い疑似クラッチペダルの操作量に応じたペダル反力を演算し、疑似クラッチペダルの操作が戻し操作である場合、第二ペダル反力特性に従い疑似クラッチペダルの操作量に応じたペダル反力を演算する処理と、を実行するように構成される。
【0014】
第5の開示は、第4の開示において、更に以下の特徴を有している。
プロセッサは、疑似クラッチペダルの操作が戻し操作である場合、疑似クラッチペダルの操作量が、MT車両モデルにより仮想的に実現される仮想クラッチの半係合状態に対応する所定の半係合領域に属する期間に、ペダル反力を振動させる処理を実行するように構成される。
【発明の効果】
【0015】
以上の構成によれば、運転者は、内燃機関とマニュアルトランスミッションとを有するMT車両のように電気自動車を運転することができる。また、電気自動車は、反力アクチュエータの作動によって、疑似クラッチペダルの操作に対してペダル反力を発生させるペダル反力付加装置を備えている。ペダル反力付加装置が出力するペダル反力は、運転者の疑似クラッチペダルの操作に応じて制御される。これにより、運転者は、MT車両のクラッチペダルを操作しているかのような運転感覚を得ることが可能となる。
【0016】
また、第2の開示によれば、メモリは、クラッチペダルの操作に応じたペダル反力の特性を模擬したペダル反力特性を記憶している。このため、このペダル反力特性に従いペダル反力付加装置が出力するペダル反力を制御することにより、疑似クラッチペダルのペダル反力特性を、MT車両のクラッチペダルのペダル反力特性に近づけることができる。
【0017】
第3の開示によれば、運転者は、複数のペダル反力特性の中から好みのペダル反力特性を選択することが可能となる。これにより、疑似クラッチペダルの操作感に運転者の好みを反映することが可能となる。
【0018】
第4の開示によれば、クラッチペダルの踏み操作時のペダル反力特性を模擬した第一ペダル反力特性と、クラッチペダルの戻し操作時のペダル反力特性を模擬した第二ペダル反力特性とを、疑似クラッチペダルの操作に応じて使い分けることができる。これにより、疑似クラッチペダルの踏み操作及び戻し操作の操作感覚を、MT車両のクラッチペダルの操作感覚に近付けることができる。
【0019】
第5の開示によれば、クラッチペダルの戻し操作時に、半係合状態における振動が模擬される。これにより、運転者は、MT車両のクラッチペダルを操作しているかのような運転感覚を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施の形態に係る電気自動車の動力系の構成を模式的に示す図である。
図2図1に示す電気自動車の制御システムの構成を示すブロック図である。
図3図1に示す電気自動車の制御装置の機能を示すブロック図である。
図4図3に示す制御装置が備えるモータトルク指令マップの一例を示す図である。
図5図3に示す制御装置が備えるMT車両モデルの一例を示すブロック図である。
図6図5に示すMT車両モデルを構成するエンジンモデルの一例を示す図である。
図7図5に示すMT車両モデルを構成するクラッチモデルの一例を示す図である。
図8図5に示すMT車両モデルを構成するMTモデルの一例を示す図である。
図9】MTモードで実現される電気モータのトルク特性を、EVモードで実現される電気モータのトルク特性と比較して示す図である。
図10】疑似クラッチペダルの反力特性の一例を示す図である。
図11】ヒステリシスを有するペダル反力特性の一例を示す図である。
図12】実施の形態2のペダル反力付加制御の手順を示すフローチャートである。
図13】実施の形態3の振動付加制御を説明するための図である。
図14】実施の形態3の振動付加制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この開示が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この開示に必ずしも必須のものではない。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0022】
実施の形態1.
1-1.電気自動車の構成
図1は、本実施の形態に係る電気自動車10の動力系の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、電気自動車10は、動力源として電気モータ2を備えている。電気モータ2は、例えばブラシレスDCモータや三相交流同期モータである。電気モータ2には、その回転速度を検出するための回転速度センサ40が設けられている。電気モータ2の出力軸3は、ギア機構4を介してプロペラシャフト5の一端に接続されている。プロペラシャフト5の他端は、デファレンシャルギア6を介して、車両前方のドライブシャフト7に接続されている。
【0023】
電気自動車10は、前車輪である駆動輪8と、後車輪である従動輪12とを備えている。駆動輪8は、ドライブシャフト7の両端にそれぞれ設けられている。各車輪8,12には、車輪速センサ30が設けられている。図1では、代表して右後輪の車輪速センサ30のみが描かれている。車輪速センサ30は、電気自動車10の車速を検出するための車速センサとしても用いられる。車輪速センサ30は、CAN(Controller Area Network)などの車載ネットワークによって後述する制御装置50に接続されている。
【0024】
電気自動車10は、バッテリ14と、インバータ16とを備えている。バッテリ14は、電気モータ2を駆動する電気エネルギを蓄える。インバータ16は、バッテリ14から入力される直流電力を電気モータ2の駆動電力に変換する。インバータ16による電力変換は、制御装置50によるPWM(Pulse Wave Modulation)制御によって行われる。インバータ16は、車載ネットワークによって制御装置50に接続されている。
【0025】
電気自動車10は、運転者が電気自動車10に対する動作要求を入力するための動作要求入力装置として、加速要求を入力するためのアクセルペダル(加速用ペダル)22と、制動要求を入力するためのブレーキペダル24とを備えている。アクセルペダル22には、アクセルペダル22の操作量であるアクセル開度Pap[%]を検出するためのアクセルポジションセンサ32が設けられている。またブレーキペダル24には、ブレーキペダル24の操作量であるブレーキ踏み込み量を検出するためのブレーキポジションセンサ34が設けられている。アクセルポジションセンサ32及びブレーキポジションセンサ34、車載ネットワークによって制御装置50に接続されている。
【0026】
電気自動車10は、動作入力装置として、さらに疑似シフトレバー(疑似シフト装置)26と、疑似クラッチペダル28とを備えている。シフトレバー(シフト装置)とクラッチペダルはマニュアルトランスミッション(MT)を操作する装置であるが、当然ながら電気自動車10はMTを備えていない。疑似シフトレバー26と疑似クラッチペダル28は、あくまでも、本来のシフトレバーやクラッチペダルとは異なるダミーである。
【0027】
疑似シフトレバー26は、MT車両が備えるシフトレバーを模擬した構造を有している。疑似シフトレバー26の配置及び操作感は、実際のMT車両と同等である。疑似シフトレバー26には、例えば1速、2速、3速、4速、5速、6速、及びニュートラルの各ギア段に対応するポジションが設けられている。疑似シフトレバー26には、疑似シフトレバー26がどのポジションにあるかを判別することでギア段を検出するシフトポジションセンサ36が設けられている。シフトポジションセンサ36は、車載ネットワークによって制御装置50に接続されている。
【0028】
疑似クラッチペダル28は、MT車両が備えるクラッチペダルを模擬した構造を有している。疑似クラッチペダル28の配置は、実際のMT車両と同等である。運転者は、疑似シフトレバー26によりギア段の設定変更をしたい場合に疑似クラッチペダル28を踏み込み、ギア段の設定変更が終わると踏み込みをやめて疑似クラッチペダル28を元に戻す。疑似クラッチペダル28には、疑似クラッチペダル28の踏み込み量Pc[%]を検出するためのクラッチポジションセンサ38が設けられている。クラッチポジションセンサ38は、車載ネットワークによって制御装置50に接続されている。
【0029】
電気自動車10は、疑似クラッチペダル28の操作感をMT車両のクラッチペダルの操作感に近づけるためのペダル反力付加装置44を備えている。ペダル反力付加装置44は、疑似クラッチペダル28の操作に応じて、疑似クラッチペダル28を戻す方向のペダル反力を発生させる装置である。疑似クラッチペダル28は、ペダル反力を発生させるための図示しない反力アクチュエータを備えている。反力アクチュエータは、例えば電気モータである。なお、ペダル反力付加装置44の構造に限定はない。疑似クラッチペダル28は、車載ネットワークによって制御装置50に接続されている。
【0030】
電気自動車10は、パターン選択スイッチ46を備えている。パターン選択スイッチ46は、電気自動車10の疑似クラッチペダル28のペダル反力特性を選択するスイッチである。詳細は後述するが、電気自動車10には、複数の異なるペダル反力特性が記憶されている。パターン選択スイッチ46は、複数のペダル反力特性の中から任意のペダル反力特性を選択可能に構成されている。パターン選択スイッチ46は、例えば、インストルメントパネル付近に設置されたHMI(Human Machine Interface)ユニットに表示されたスイッチである。パターン選択スイッチ46は、車載ネットワークによって制御装置50に接続されている。
【0031】
電気自動車10は、モード選択スイッチ42を備えている。モード選択スイッチ42は、電気自動車10の走行モードを選択するスイッチである。電気自動車10の走行モードには、MTモードとEVモードとがある。モード選択スイッチ42は、MTモードとEVモードのいずれか一方を任意に選択可能に構成されている。詳細は後述するが、MTモードでは、電気自動車10をMT車両のように運転するための制御モード(第1モード)で電気モータ2の制御が行われる。EVモードでは、一般的な電気自動車のための通常の制御モード(第2モード)で電気モータ2の制御が行われる。モード選択スイッチ42は、車載ネットワークによって制御装置50に接続されている。
【0032】
制御装置50は、典型的には、電気自動車10に搭載されるECU(Electronic Control Unit)である。制御装置50は、複数のECUの組み合わせであってもよい。制御装置50は、インターフェース52と、メモリ54と、プロセッサ56とを備えている。インターフェース52には車載ネットワークが接続されている。メモリ54は、データを一時的に記録するRAM(Random Access Memory)と、プロセッサ56で実行可能な制御プログラムや制御プログラムに関連する種々のデータを保存するROM(Read Only Memory)とを含んでいる。プロセッサ56は、制御プログラムやデータをメモリ54から読み出して実行し、各センサから取得した信号に基づいて制御信号を生成する。
【0033】
図2は、本実施の形態に係る電気自動車10の制御システムの構成を示すブロック図である。制御装置50には、少なくとも車輪速センサ30、アクセルポジションセンサ32、ブレーキポジションセンサ34、シフトポジションセンサ36、クラッチポジションセンサ38、回転速度センサ40、モード選択スイッチ42及びパターン選択スイッチ46から信号が入力される。これらのセンサと制御装置50との間の通信には車載ネットワークが用いられている。図示は省略するが、これらの他にも様々なセンサが電気自動車10に搭載され、車載ネットワークによって制御装置50に接続されている。
【0034】
また、制御装置50からは、少なくともインバータ16とペダル反力付加装置44へ信号が出力されている。これらの機器と制御装置50との間の通信には車載ネットワークが用いられている。図示は省略するが、これらの他にも様々なアクチュエータや表示器が電気自動車10に搭載され、車載ネットワークによって制御装置50に接続されている。
【0035】
制御装置50は、ペダル反力計算部500としての機能と、制御信号算出部520としての機能を備える。詳しくは、メモリ54(図1に参照)に記憶されたプログラムがプロセッサ56(図1に参照)により実行されることで、プロセッサ56は、少なくともペダル反力計算部500と、制御信号算出部520として機能する。制御信号算出とは、アクチュエータや機器に対する制御信号を算出する機能である。制御信号には、少なくとも、インバータ16をPWM制御するための信号が含まれる。以下、制御装置50が有するこれらの機能について説明する。
【0036】
1-2.制御装置の機能
1-2-1.モータトルク算出機能
図3は、本実施の形態に係る制御装置50の機能、特に、電気モータ2に対するモータトルク指令値の算出に係る機能を示すブロック図である。制御装置50は、このブロック図に示された機能によりモータトルク指令値を計算し、モータトルク指令値に基づいてインバータ16をPWM制御するための制御信号を生成する。
【0037】
図3に示すように、制御信号算出部520は、MT車両モデル530、要求モータトルク計算部540、モータトルク指令マップ550、及び切替スイッチ560を備える。制御信号算出部520には、車輪速センサ30、アクセルポジションセンサ32、シフトポジションセンサ36、クラッチポジションセンサ38、回転速度センサ40、及びモード選択スイッチ42からの信号が入力される。制御信号算出部520は、これらのセンサからの信号を処理し、電気モータ2に出力させるモータトルクを算出する。
【0038】
制御信号算出部520によるモータトルクの計算は、MT車両モデル530と要求モータトルク計算部540とを用いた計算と、モータトルク指令マップ550を用いた計算の2通りがある。前者は、電気自動車10をMTモードで走行させる場合のモータトルクの計算に用いられる。後者は、電気自動車10をEVモードで走行させる場合のモータトルクの計算に用いられる。どちらのモータトルクを用いるかは、切替スイッチ560によって決まる。切替スイッチ560は、モード選択スイッチ42から入力される信号によって動作する。
【0039】
1-2-2.MTモードでのモータトルクの計算
MT車両における駆動輪トルクは、エンジンに対する燃料供給を制御するガスペダルの操作と、MTのギア段を切り替えるシフトレバー(シフト装置)の操作と、エンジンとMTとの間のクラッチを動作させるクラッチペダルの操作とによって決定付けられる。MT車両モデル530は、電気自動車10がエンジン、クラッチ、及びMTを備えているのであれば、アクセルペダル22、疑似クラッチペダル28、及び疑似シフトレバー26の操作によって得られる駆動輪トルクを計算するモデルである。以下、MTモードにおいて、MT車両モデル530により仮想的に実現されるエンジン、クラッチ、及びMTを仮想エンジン、仮想クラッチ、仮想MTと称する。
【0040】
MT車両モデル530には、仮想エンジンのガスペダルの操作量として、アクセルポジションセンサ32の信号が入力される。仮想MTのシフト装置のシフト位置として、シフトポジションセンサ36の信号が入力される。さらに、仮想クラッチのクラッチペダルの操作量として、クラッチポジションセンサ38の信号が入力される。また、MT車両モデル530には、車両の負荷状態を示す信号として車輪速センサ30の信号も入力される。MT車両モデル530は、MT車両における駆動輪トルクのトルク特性を模擬したモデルである。MT車両モデル530は、運転者によるアクセルペダル22、疑似シフトレバー26、及び疑似クラッチペダル28の操作駆動輪トルクの値に反映されるように作成されている。MT車両モデル530の詳細については後述する。
【0041】
要求モータトルク計算部540は、MT車両モデル530で算出された駆動トルクを要求モータトルクに変換する。要求モータトルクは、MT車両モデル530で算出された駆動トルクの実現必要なモータトルクである。駆動トルクの要求モータトルクへの変換には、電気モータ2の出力軸3から駆動輪8までの減速比が用いられる。
【0042】
1-2-3.EVモードでのモータトルクの計算
図4は、EVモードでのモータトルクの計算に用いられモータトルク指令マップ550の一例を示す図である。モータトルク指令マップ550は、アクセル開度Papと電気モータ2の回転速度とをパラメータとしてモータトルクを決定するマップである。モータトルク指令マップ550の各パラメータには、アクセルポジションセンサ32の信号と、回転速度センサ40の信号とが入力される。モータトルク指令マップ550からは、これらの信号に対応するモータトルクが出力される。
【0043】
1-2-4.モータトルクの切り替え
モータトルク指令マップ550を用いて計算されたモータトルクをTevと表記し、MT車両モデル530及び要求モータトルク計算部540を用いて計算されたモータトルクをTmtと表記する。2つのモータトルクTev,Tmtのうち切替スイッチ560によって選択されたモータトルクが、電気モータ2に対してモータトルク指令値として与えられる。
【0044】
EVモードでは、運転者が疑似シフトレバー26や疑似クラッチペダル28を操作しても、その操作は電気自動車10の運転には反映されない。つまり、EVモードでは、疑似シフトレバー26の操作と疑似クラッチペダル28の操作は無効化される。ただし、モータトルクTevがモータトルク指令値として出力されている間も、MT車両モデル530を用いたモータトルクTmtの計算は継続されている。逆に、モータトルクTmtがモータトルク指令値として出力されている間も、モータトルクTevの計算は継続されている。つまり、切替スイッチ560には、モータトルクTevとモータトルクTmtの両方が継続的に入力されている。
【0045】
切替スイッチ560による入力の切り替えによって、モータトルク指令値は、モータトルクTevからモータトルクTmtへ、或いは、モータトルクTmtからモータトルクTevへ切り替えられる。このとき、2つのモータトルクの間にずれがある場合、切り替えに伴ってトルク段差が発生してしまう。このため、切り替え後暫くの間は、トルクの急激な変化が生じないように、モータトルク指令値に対して徐変処理が実施される。例えば、EVモードからMTモードへの切り替えでは、モータトルク指令値を直ぐにモータトルクTevからモータトルクTmtに切り替えるのではなく、所定の変化率でモータトルクTmtへ向けて変化させる。MTモードからEVモードへの切り替えでも同様の処理が行われる。
【0046】
切替スイッチ560は、モード選択スイッチ42で選択された走行モードに応じて動作する。モード選択スイッチ42でEVモードが選択されている場合、切替スイッチ560は、モータトルク指令マップ550に接続し、モータトルク指令マップ550から入力されるモータトルクTevをモータトルク指令値として出力する。モード選択スイッチ42でMTモードが選択された場合、切替スイッチ560は、接続先を要求モータトルク計算部540に切り替える。そして、切替スイッチ560は、要求モータトルク計算部540から入力されるモータトルクTmtをモータトルク指令値として出力する。このような入力の切り替えが、モード選択スイッチ42による行モードの選択に連動して行われる。
【0047】
1-2-5.MT車両モデル
1-2-5-1.概要
次に、MT車両モデル530について説明する。図5は、MT車両モデル530の一例を示すブロック図である。MT車両モデル530は、エンジンモデル531と、クラッチモデル532と、MTモデル533と、車軸・駆動輪モデル534とから構成されている。エンジンモデル531では、仮想エンジンがモデル化されている。クラッチモデル532では、仮想クラッチがモデル化されている。MTモデル533は、仮想MTがモデル化されている。車軸・駆動輪モデル534では、車軸から駆動輪までの仮想のトルク伝達系がモデル化されている。各モデルは計算式で表されてもよいしマップで表されてもよい。
【0048】
各モデル間では計算結果の入出力が行われる。また、エンジンモデル531には、アクセルポジションセンサ32で検出されたアクセル開度Papが入力される。クラッチモデル532には、クラッチポジションセンサ38で検出されたクラッチペダル踏み込み量Pcが入力される。MTモデル533には、シフトポジションセンサ36で検出されたシフトポジションSpが入力される。さらに、MT車両モデル530では、車輪速センサ30で検出された車速Vw(或いは車輪速)が複数のモデルにおいて使用される。MT車両モデル530では、これらの入力信号に基づき、駆動輪トルクTwと仮想エンジン回転速度Neとが算出される。
【0049】
1-2-5-2.エンジンモデル
エンジンモデル531は、仮想エンジン回転速度Neと仮想エンジン出力トルクTeoutを算出する。エンジンモデル531は、仮想エンジン回転速度Neを計算するモデルと仮想エンジン出力トルクTeoutを計算するモデルから構成される。仮想エンジン回転速度Neの計算には、例えば、次式(1)で表されるモデルが用いられる。次式(1)では、車輪8の回転速度Nw、総合減速比R、及び仮想クラッチのスリップ率slipから仮想エンジン回転速度Neが算出される。
【数1】
【0050】
式(1)において、車輪8の回転速度Nwは車輪速センサ30によって検出される。総合減速比Rは、後述するMTモデル533で計算されるギア比(変速比)rと、車軸・駆動輪モデル534で規定されている減速比とから算出される。スリップ率slipは、後述するクラッチモデル532で算出される。
【0051】
ただし、式(1)は、仮想クラッチによって仮想エンジンと仮想MTとが接続されている状態での仮想エンジン回転速度Neの計算式である。仮想クラッチが切られている場合には、仮想エンジンで発生する仮想エンジントルクTeは、仮想エンジン回転速度Neの上昇に使用されるとみなすことができる。仮想エンジントルクTeは、仮想エンジン出力トルクTeoutに慣性モーメントによるトルクを加えたトルクである。仮想クラッチが切られている場合、仮想エンジン出力トルクTeoutはゼロである。ゆえに、エンジンモデル531は、仮想クラッチが切られている場合、仮想エンジントルクTeと仮想エンジンの慣性モーメントJとを用いて次式(2)により仮想エンジン回転速度Neを算出する。仮想エンジントルクTeの計算には、アクセル開度Papをパラメータとするマップが用いられる。
【数2】
【0052】
なお、MT車両のアイドリング中は、エンジン回転速度を一定回転速度に維持するアイドルスピードコントロール制御(ISC制御)が行われる。そこで、エンジンモデル531は、仮想クラッチが切られ、車速が0であり、かつアクセル開度Papが0%である場合、仮想エンジン回転速度Neを所定のアイドリング回転速度(例えば1000rpm)として算出する。運転者が、停車中にアクセルペダル22を踏み込んで空吹かしを行う場合、式(2)で計算される仮想エンジン回転速度Neの初期値としてアイドリング回転速度が用いられる。
【0053】
エンジンモデル531は、仮想エンジン回転速度Ne及びアクセル開度Papから仮想エンジン出力トルクTeoutを算出する。仮想エンジン出力トルクTeoutの計算には、例えば、図6に示すような2次元マップが用いられる。この2次元マップは、定常状態でのアクセル開度Papと、仮想エンジン回転速度Neと、仮想エンジン出力トルクTeoutとの関係を規定したマップである。このマップでは、アクセル開度Pap毎に仮想エンジン回転速度Neに対する仮想エンジン出力トルクTeoutが与えられる。図6に示すトルク特性は、ガソリンエンジンを想定した特性に設定することもできるし、ディーゼルエンジンを想定した特性に設定することもできる。また、自然吸気エンジンを想定した特性に設定することもできるし、過給エンジンを想定した特性に設定することもできる。例えば、インストルメントパネル付近にHMIユニットを設置し、HMIユニットの操作によってMTモードでの仮想エンジンを運転者が好みの設定に切り替えられるようにしてもよい。エンジンモデル531で算出された仮想エンジン出力トルクTeoutは、クラッチモデル532に出力される。
【0054】
1-2-5-3.クラッチモデル
クラッチモデル532は、トルク伝達ゲインkを算出する。トルク伝達ゲインkは、疑似クラッチペダル28の踏み込み量に応じた仮想クラッチのトルク伝達度合いを算出するためのゲインである。クラッチモデル532は、例えば、図7に示すようなマップを有する。このマップでは、クラッチペダル踏み込み量Pcに対してトルク伝達ゲインkが与えられる。図7でトルク伝達ゲインkは、クラッチペダル踏み込み量PcがPc0からPc1の範囲で1となり、クラッチペダル踏み込み量PcがPc1からPc2の範囲で0まで一定の傾きで単調減少し、クラッチペダル踏み込み量PcがPc2からPc3の範囲で0となるように与えられる。ここで、Pc0はクラッチペダル踏み込み量Pcが0%に対応し、Pc1はクラッチペダル踏み込み時の遊び限界に対応し、Pc3はクラッチペダル踏み込み量Pcが100%対応し、Pc2はPc3から戻す際の遊び限界に対応している。
【0055】
図7に示すマップは一例であり、クラッチペダル踏み込み量Pcの増加に対するトルク伝達ゲインkの変化は、0に向かう広義単調減少であればその変化曲線に限定はない。例えば、Pc1からPc2におけるトルク伝達ゲインkの変化は、上に凸となる単調減少曲線でも良いし、下に凸となる単調減少曲線でも良い。
【0056】
クラッチモデル532は、トルク伝達ゲインkを用いてクラッチ出力トルクTcoutを算出する。クラッチ出力トルクTcoutは、仮想クラッチから出力されるトルクである。クラッチモデル532は、例えば、次式(3)により、仮想エンジン出力トルクTeout、及びトルク伝達ゲインkからクラッチ出力トルクTcoutを算出する。クラッチモデル532で算出されたクラッチ出力トルクTcoutは、MTモデル533に出力される。
【数3】
【0057】
1-2-5-4.MTモデル
MTモデル533は、ギア比(変速比)rを算出する。ギア比rは、仮想MTにおいて疑似シフトレバー26のシフトポジションSpにより決まるギア比である。疑似シフトレバー26のシフトポジションSpと仮想MTのギア段とは一対一の関係にある。MTモデル533は、例えば、図8に示すようなマップを有する。このマップでは、ギア段に対してギア比rが与えられる。図8に示すように、ギア段が大きいほどギア比rは小さくなる。
【0058】
MTモデル533は、ギア比rを用いて変速機出力トルクTgoutを算出する。変速機出力トルクTgoutは、仮想変速機から出力されるトルクである。MTモデル533は、例えば、次式(4)により、クラッチ出力トルクTcout、及びギア比rから変速機出力トルクTgoutを算出する。MTモデル533で算出された変速機出力トルクTgoutは、車軸・駆動輪モデル534に出力される。
【数4】
【0059】
1-2-5-5.車軸・駆動輪モデル
車軸・駆動輪モデル534は、所定の減速比rrを用いて駆動輪トルクTwを算出する。減速比rrは、仮想MTから駆動輪8までの機械的な構造により決まる固定値である。車軸・駆動輪モデル534は、例えば、次式(5)により、変速機出力トルクTgout、及び減速比rrから駆動輪トルクTwを算出する。車軸・駆動輪モデル534算出された駆動輪トルクTwは、要求モータトルク計算部540に出力される。
【0060】
1-2-6.MTモードで実現される電気モータのトルク特性
要求モータトルク計算部540は、MT車両モデル530で算出された駆動輪トルクTwをモータトルクに変換する。図9は、MTモードで実現される電気モータ2のトルク特性を、EVモードで実現される電気モータ2のトルク特性と比較して示す図である。MTモードの場合、図9に示されるように、疑似シフトレバー26により設定されるギア段に応じてMT車両のトルク特性を模擬するようなトルク特性(図中実線)を実現することができる。
【0061】
1-2-7.ペダル反力付加制御
次に、ペダル反力計算部500によるペダル反力付加制御について説明する。実際のMT車両のクラッチペダルのペダル反力には、クラッチ装置の機械的動作の影響が重畳する。このため、実際のMT車両のペダル反力は、ペダル踏込量に応じた独特の変化特性を有している。本実施の形態のペダル反力付加装置44は、このような実際のMT車両の独特のペダル反力を演出するための装置である。
【0062】
本実施の形態の制御装置50のメモリ54には、実際のMT車両のクラッチペダルのペダル反力の特性を模擬したペダル反力特性が、疑似クラッチペダル28のペダル踏込量に対応付けられて記憶されている。制御装置50は、記憶されているペダル反力特性を用いて、運転者による疑似クラッチペダル28のペダル踏込量に応じたペダル反力Wptを計算する処理を実行する。
【0063】
ただし、運転者が求めるクラッチペダルの操作感覚は、必ずしも同じではない。運転者の中には、スポーツ系車両等の運転感覚を模擬した重いクラッチ操作を求める者もいれば、身体的負担の少ない軽いクラッチ操作を求める者もいる。そこで、実施の形態1の制御装置50は、クラッチペダルの操作感覚に運転者の好みを反映させるための以下の機能を更に備えている。
【0064】
本実施の形態の制御装置50のメモリ54には、疑似クラッチペダル28のペダル踏込量に応じたペダル反力特性が、複数パターン記憶されている。図10は、疑似クラッチペダルの反力特性の一例を示す図である。この図では、ペダル反力特性の異なる三種類のパターン(重、中、軽)が例示されている。運転者は、パターン選択スイッチ46から好みのペダル反力特性のパターンを選択する。
【0065】
図3に示すように、ペダル反力計算部500には、クラッチポジションセンサ38、及びパターン選択スイッチ46からの信号が入力される。ペダル反力計算部500は、これらのセンサからの信号を処理し、ペダル操作量に対応するペダル反力Wptを、選択されたペダル反力特性を用いて算出する。
【0066】
制御装置50は、算出されたペダル反力Wptを実現するための制御信号をペダル反力付加装置44に出力する。ペダル反力付加装置44は、入力された制御信号に従い反力アクチュエータを動作させる。このようなペダル反力付加制御によれば、運転者の好みに合わせた疑似クラッチペダル28のペダル反力が演出される。これにより、運転者は、MT車両のようなクラッチペダルの操作感覚を容易に楽しむことができるようになる。
【0067】
1-3.その他
上記実施形態に係る電気自動車10は、1つの電気モータ2で前輪を駆動するFF車である。しかし、電気モータを前と後ろに2基配置し、前輪と後輪のそれぞれを駆動する電気自動車にも本開示は適用可能である。また、本開示は、各輪にインホイールモータを備える電気自動車にも適用可能である。これらの場合のMT車両モデルには、MT付き全輪駆動車をモデル化したものを用いることができる。この変形例は、後述する他の実施の形態の電気自動車にも適用することができる。
【0068】
上記実施形態に係る電気自動車10は、変速機を備えていない。しかし、有段或いは無段の自動変速機を備えた電気自動車にも本開示は適用可能である。この場合、MT車両モデルで計算されたモータトルクを出力させるように、電気モータ及び自動変速機からなるパワートレインを制御すればよい。この変形例は、後述する他の実施の形態の電気自動車にも適用することができる。
【0069】
上記実施形態に係る電気自動車10は、パターン選択スイッチ46を備えている。しかし、パターン選択スイッチ46を備えていない電気自動車にも本開示は適用可能である。この場合、メモリ54に記憶された単一のペダル反力特性を常時使用すればよい。この変形例は、後述する他の実施の形態の電気自動車にも適用することができる。
【0070】
上記実施形態に係る電気自動車10は、複数種類のペダル反力特性が予めメモリ54に記憶されている。しかし、ペダル反力特性は、運転者が任意に設定可能に構成されていてもよい。この場合、例えば、HMIユニットの操作によってペダル反力特性を好みの特性に設定できるように構成すればよい。この変形例は、後述する他の実施の形態の電気自動車にも適用することができる。
【0071】
実施の形態2.
2-1.実施の形態2の電気自動車の構成
実施の形態2の電気自動車の構成は、図1に示す実施の形態1の電気自動車10と同一である。従って、実施の形態2の電気自動車10の詳細な説明については省略する。
【0072】
2-2.実施の形態2の電気自動車の特徴
実際のMT車両におけるクラッチペダルのペダル反力特性は、クラッチの作動に伴う機械的摩擦や油圧機構の構造上の特性から、踏み操作時と戻し操作時におけるヒステリシスを有していることが一般的である。実施の形態2の電気自動車10は、ヒステリシスを有するペダル反力特性を演出する制御に特徴を有している。
【0073】
図11は、ヒステリシスを有するペダル反力特性の一例を示す図である。この図に示すように、クラッチペダルの踏み操作時の特性である第一ペダル反力特性は、戻し操作時の特性である第二ペダル反力特性よりもペダル反力が大きな値となっている。メモリ54は、図11に示すようなペダル反力特性を記憶している。ペダル反力計算部500は、クラッチポジションセンサ38から得られる疑似クラッチペダル28のペダル操作量が踏み込み方向に変化している場合、第一ペダル反力特性を用いてペダル反力Wptを計算する。一方、疑似クラッチペダル28のペダル操作量が戻し方向に変化している場合、第二ペダル反力特性を用いてペダル反力Wptを計算する。これにより、ヒステリシスを有するペダル反力が演出されるので、運転者は、MT車両のようなクラッチペダルの操作感覚を容易に楽しむことができるようになる。
【0074】
2-3.実施の形態2のペダル反力計算の手順
図12は、実施の形態2のペダル反力付加制御の手順を示すフローチャートである。図12に示すルーチンは、制御装置50のペダル反力計算部500において、所定の制御周期で繰り返し実行される。ステップS100では、現在の走行モードがMTモードかどうかが判定される。現在の走行モードがEVモードの場合、以降の処理はスキップされる。
【0075】
現在の走行モードがMTモードの場合、ステップS102において、疑似クラッチペダル28の踏み操作が行われているかどうかが判定される。クラッチポジションセンサ38で検出されるクラッチポジションの前回位置からの変化量が踏み込み方向に変化している場合、疑似クラッチペダル28は運転者によって踏み操作が行われていると判定される。
【0076】
疑似クラッチペダル28が踏み操作されている場合、ステップS104において、第一ペダル反力特性を用いて、現在の疑似クラッチペダル28の踏込量に応じたペダル反力Wptが計算される。
【0077】
一方、ステップS102において疑似クラッチペダル28が踏み操作されていないと判定された場合、処理はステップS106に進む。ステップS106では、疑似クラッチペダル28の戻し操作が行われているかどうかが判定される。クラッチポジションセンサ38で検出されるクラッチポジションの前回位置からの変化量が戻し方向に変化している場合、疑似クラッチペダル28は運転者によって戻し操作が行われていると判定される。一方、疑似クラッチペダル28が戻し操作されていないと判定された場合、以降の処理はスキップされる。
【0078】
疑似クラッチペダル28が戻し操作されている場合、ステップS108において、第二ペダル反力特性を用いて、現在の疑似クラッチペダル28の踏込量に応じたペダル反力Wptが計算される。
【0079】
2-4.その他
上記実施形態に係る電気自動車10は、ヒステリシスを有するペダル反力特性を複数種類備えていてもよい。この場合、運転者は、パターン選択スイッチ46を操作して好みのペダル反力特性のパターンを選択すればよい。
【0080】
実施の形態3.
3-1.実施の形態3の電気自動車の構成
実施の形態3の電気自動車の構成は、図1に示す実施の形態1の電気自動車10と同一である。従って、実施の形態3の電気自動車10の詳細な説明については省略する。
【0081】
3-2.実施の形態3の電気自動車の特徴
実際のMT車両では、クラッチペダルの戻し操作時には、クラッチが半係合状態となる半係合領域において独特の振動が発生することがある。そこで、実施の形態3の電気自動車10は、仮想クラッチの戻し操作における半係合領域において、ペダル反力付加装置44を用いて疑似クラッチペダル28に振動を付加する振動付加制御を実行する。
【0082】
図13は、実施の形態3の振動付加制御を説明するための図である。この図に示すように、実施の形態3の電気自動車10は、仮想クラッチの半係合状態に対応する所定の戻し操作範囲が予め定められている。振動付加制御では、疑似クラッチペダル28の操作量が仮想クラッチの半係合状態(半クラッチ)となる所定の戻し操作範囲に属する場合に、ペダル反力付加装置44を用いて疑似クラッチペダル28に振動が付加される。これにより、運転者は、MT車両のようなクラッチペダルの操作感覚を容易に楽しむことができるようになる。
【0083】
3-3.実施の形態の振動付加制御の手順
図14は、実施の形態3の振動付加制御の手順を示すフローチャートである。図14に示すルーチンは、制御装置50のペダル反力計算部500において、所定の制御周期で繰り返し実行される。ステップS120では、現在の走行モードがMTモードかどうかが判定される。現在の走行モードがEVモードの場合、以降の処理はスキップされる。
【0084】
現在の走行モードがMTモードの場合、ステップS122において、疑似クラッチペダル28の戻し操作が行われているかどうかが判定される。クラッチポジションセンサ38で検出されるクラッチポジションの前回位置からの変化量が戻し方向に変化している場合、疑似クラッチペダル28は運転者によって戻し操作が行われていると判定される。戻し操作が行われていない場合、以降の処理はスキップされる。
【0085】
疑似クラッチペダル28が戻し操作されている場合、ステップS124において、疑似クラッチペダル28のペダル踏込量が仮想クラッチの半係合領域に属しているかどうかが判定される。その結果、ペダル踏込量が半係合領域に属している場合、処理は次のステップS126に進む。一方、ペダル踏込量が半係合領域に属していない場合、以降の処理はスキップされる。ステップS126では、ペダル反力に振動が付加される。以上のような振動付加制御によれば、運転者が疑似クラッチペダル28の戻し操作を行っている場合において、ペダル操作量が半係合領域に属している期間に、振動が疑似クラッチペダル28に付加される。これにより、運転者は、MT車両のようなクラッチペダルの振動の感覚を容易に楽しむことができるようになる。
【符号の説明】
【0086】
2 電気モータ
8 駆動輪
10 電気自動車
16 インバータ
26 疑似シフトレバー(疑似シフト装置)
28 疑似クラッチペダル
30 車輪速センサ
40 回転速度センサ
42 モード選択スイッチ
44 ペダル反力付加装置
46 パターン選択スイッチ
50 制御装置
500 ペダル反力計算部
520 制御信号算出部
530 MT車両モデル
540 要求モータトルク計算部
550 モータトルク指令マップ
560 切替スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14