(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ヒータ制御装置
(51)【国際特許分類】
B60S 1/02 20060101AFI20231011BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20231011BHJP
B60S 1/58 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B60S1/02 310
H05B3/00 310D
B60S1/58 100K
(21)【出願番号】P 2020135137
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安達 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 達芳
(72)【発明者】
【氏名】宮堂 隆弘
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-116150(JP,A)
【文献】特開平05-193341(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第03836559(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/00-1/68
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のウィンドウガラスの一部の領域である撮影透過領域を通して前記車両の内部から前記車両の外部を撮影するカメラセンサと、
通電が行われることによって熱を発生し且つ前記熱によって前記撮影透過領域を加熱するカメラヒータと、
前記カメラヒータへの通電を制御する制御ユニットと、
を備え、
前記制御ユニットは、
前記車両の内部の温度である室内温度及び前記車両の内部の湿度である室内湿度に基いて、露点温度を予測し、
前記車両の外部の温度である室外温度、前記車両の速さである車速及び前記カメラヒータに通電する通電電力と、当該室外温度、当該車速及び当該通電電力に対応する前記撮影透過領域の温度と、の間の予め設定された相関関係に、現時点の前記室外温度、現時点の前記車速及び前記露点温度以上の目標温度を適用することによって、前記撮影透過領域の温度が前記露点温度を下回らないように前記撮影透過領域の温度を前記目標温度に維持するための防曇電力を決定し、
前記防曇電力を前記カメラヒータに通電する、
ように構成され、
前記相関関係は、前記撮影透過領域の温度が、前記車速に応じた第1車速係数を前記室外温度に乗じた値と前記車速に応じた第2車速係数を前記通電電力に乗じた値と前記車速に応じた第3車速係数との和に等しいとの方程式によって表され、
前記制御ユニットは、更に、
前記方程式における前記第1車速係数、前記第2車速係数及び前記第3車速係数のそれぞれを現時点の前記車速に応じた値に設定し、前記方程式における前記撮影透過領域の温度に前記目標温度を代入し、前記方程式における前記室外温度に現時点の前記室外温度を代入することにより求められる前記通電電力を前記防曇電力として決定する、
ように構成された、
ヒータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のヒータ制御装置において、
前記制御ユニットは、
所定の単位時間を前記カメラヒータに通電を行わない非通電時間と前記カメラヒータに一定の電圧を付与することにより前記カメラヒータに通電を行う通電時間とに分けて、前記単位時間が終了すると新たな前記単位時間を開始させることにより、前記カメラヒータへの通電を制御し、
前記通電電力が前記防曇電力と一致するように前記非通電時間及び前記通電時間を決定する、
ように構成された、
ヒータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のヒータ制御装置において、
前記制御ユニットは、
前記カメラヒータに付与する電圧を変更可能であって、
前記通電電力が前記防曇電力と一致するように前記電圧を決定する、
ように構成された、
ヒータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のウィンドウガラスの一部の撮影透過領域を通してウィンドウガラスの内部からウィンドウガラスの外部を撮影するカメラセンサと、通電が行われることにより撮影透過領域を加熱するカメラヒータと、を備え、カメラヒータへの通電を制御するヒータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のウィンドウガラスを加熱するヒータへの通電を制御するヒータ制御装置が知られている。このヒータは、通電が行われることにより熱を発生する。
【0003】
特許文献1に記載されたヒータ制御装置(以下、「従来装置」と称呼する。)は、ウィンドウガラス(フロントガラス)を加熱するヒータへの通電を制御する。従来装置は、ウィンドウガラスに付着した氷を解氷するためにヒータに通電する解氷制御を実行する。より詳細には、従来装置は、「ヒータスイッチが操作された時点」から「ウィンドウガラスの温度(ガラス温度)が所定値よりも大きくなる時点」までの期間、解氷制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ところで、車両の内部には車両の外部を撮影するためのカメラセンサが搭載されている。このようなカメラセンサは、ウィンドウガラスの一部の領域である撮影透過領域を通して車両の内部から車両の外部を撮影する。車両の外部の温度である室外温度が低い場合に車両の室内の空気が空調装置により暖められていると、撮影透過領域の温度が露点温度を下回り、撮影透過領域が曇ってしまう。撮影透過領域が曇っていると、カメラセンサは、その曇りが写り込んでしまうため車両の外部を正確に撮影できなくなる。よって、撮影透過領域の曇りを除去又は防止するために撮影透過領域を加熱するカメラヒータを設けることが考えられる。
【0006】
従来装置は、ウィンドウガラスを解氷するために制御を行うものでウィンドウガラスの曇りを除去又は防止するための制御(以下、「防曇制御」と称呼する。)を行うものではない。防曇制御においては、ガラス温度が露点温度を下回らないようにする必要があるが、従来装置は、このような露点温度を考慮せずにヒータへの通電を行っている。これにより、従来装置は、撮影透過領域の曇りを除去又は防止できない可能性があるとともに、ガラス温度を露点温度に対して高すぎる温度にまで加熱してしまい無駄な電力を消費する可能性もある。更に、従来装置は、ガラス温度を検出するためのセンサを備える必要があるため、製造コストが増大してしまう。
【0007】
本発明は前述した課題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、ガラス温度を検出するためのセンサを不要としつつ、撮影透過領域の曇りを除去又は防止できる可能性を高め、カメラヒータが無駄な電力を消費してしまう可能性を低減できるヒータ制御装置を提供することにある。
【0008】
本発明のヒータ制御装置(以下、「本発明装置」とも呼称する。)は、
車両VAのウィンドウガラス(101、102)の一部の領域である撮影透過領域(101a)を通して前記車両の内部から前記車両の外部を撮影するカメラセンサ(22)と、
通電が行われることによって熱を発生し且つ前記熱によって前記撮影透過領域を加熱するカメラヒータ(24)と、
前記カメラヒータへの通電を制御する制御ユニット(20)と、
を備え、
前記制御ユニットは、
前記車両の内部の温度である室内温度(Tb)及び前記車両の内部の湿度である室内湿度(H)に基いて、前記撮影透過領域の露点温度を予測し(ステップ625)、
前記車両の外部の温度である室外温度(Ta)、前記車両の速さである車速(Vs)及び前記カメラヒータに通電する通電電力(Wc)と、当該室外温度、当該車速及び当該通電電力に対応する前記撮影透過領域の温度(Tg)と、の間の予め設定された相関関係(
図4、及び式(1)を参照。)に、現時点の前記室外温度、現時点の前記車速及び前記露点温度以上の目標温度を適用することによって、前記撮影透過領域の温度が前記露点温度を下回らないように前記撮影透過領域の温度を前記目標温度に維持するための防曇電力を決定し(ステップ630乃至ステップ640、ステップ805)、
前記防曇電力を前記カメラヒータに通電する(ステップ700乃至ステップ795)、
ように構成されている。
【0009】
本発明装置によれば、室内温度及び室内湿度に基いて露点温度を予測し、撮影透過領域の温度がその露点温度を下回らないように露点温度以上の目標温度に維持させるために必要な防曇電力をカメラヒータに通電する。この防曇電力は室外温度、車速及び通電電力とこれらに対応する撮影透過領域の温度との相関関係を利用して決定されるので、撮影透過領域の温度が目標温度に維持されるために必要となる正確な値に決定できる。このように決定された防曇電力がカメラヒータに通電されていれば、撮影透過領域の温度が目標温度に維持されるため、撮影透過領域の温度が露点温度を下回らない。これにより、撮影透過領域が露点温度を下回ることを防止できるため、撮影透過領域が曇ってしまうことを防止でき、撮影透過領域が曇っていたとしてもその曇りを除去することができる。更に、撮影透過領域の温度が露点温度よりも過大な温度となることを防止できるため、カメラヒータが無駄な電力を消費してしまうことを防止できる。更に、本発明装置によれば、撮影透過領域の温度を検出する必要はないので、ガラス温度を検出するためのセンサは不要であり、製造コストの増加を防止できる。
【0010】
本発明装置の一態様によれば、
前記相関関係は、前記撮影透過領域の温度が、前記車速に応じた第1車速係数を前記室外温度に乗じた値と前記車速に応じた第2車速係数を前記カメラヒータに通電する電力である通電電力に乗じた値と前記車速に応じた第3車速係数との和に等しいとの方程式(式(1))によって表され、
前記制御ユニットは、
前記方程式における前記第1車速係数、前記第2車速係数及び前記第3車速係数のそれぞれを現時点の前記車速に応じた値に設定し(ステップ630)、前記方程式における前記撮影透過領域の温度に前記目標温度を代入し、前記方程式における前記室外温度に現時点の前記室外温度を代入することにより求められる前記通電電力を前記防曇電力として決定する(ステップ635、ステップ640、ステップ805)、
ように構成されている。
【0011】
これにより、撮影透過領域の温度、室外温度、車速及び通電電力との間の相関関係に基いた方程式を用いて防曇電力が決定されるため、より正確な防曇電力を求めることができる。
【0012】
本発明装置の一態様によれば、
前記制御ユニットは、
所定の単位時間(Tcyc)を前記カメラヒータに通電を行わない非通電時間(Toff)と前記カメラヒータに一定の電圧(Vc)を付与することにより前記カメラヒータに通電を行う通電時間(Ton)とに分けて(ステップ710、ステップ720)、前記単位時間が終了すると新たな前記単位時間を開始させることにより、前記カメラヒータへの通電を制御し、
前記通電電力が前記防曇電力と一致するように前記非通電時間と前記通電時間とを決定する(ステップ635、ステップ640)、
ように構成されている。
【0013】
これにより、カメラヒータに付与する電圧は一定であり且つ単位時間を非通電時間と通電時間とに割り当ててカメラヒータに通電を行う場合に、防曇電力と一致するように非通電時間及び通電時間を決定することができる。
【0014】
本発明装置の一態様において、
前記制御ユニットは、
前記カメラヒータに付与する電圧を変更可能であって、
前記通電電力が前記防曇電力と一致するように前記電圧を決定する(ステップ805)、
ように構成されている。
【0015】
これにより、カメラヒータに付与する電圧が変更可能である場合に、防曇電力と一致するようにその電圧を決定することができる。
【0016】
なお、上記説明においては、発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、発明の各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は本発明の実施形態に係るヒータ制御装置の概略構成図である。
【
図3】
図3は車両のフロントガラスの側面図である。
【
図4】
図4はガラス温度と室外温度と車速と通電電力との相関関係を表すグラフである。
【
図5】
図5は防曇制御のオフ時間とオン時間とを説明するためのタイミングチャートである。
【
図6】
図6はECUのCPU(以下、単に「CPU」と称呼する。)が実行するデューティ比決定ルーチンを示したフローチャートである。
【
図7】
図7はCPUが実行するカメラヒータ通電制御ルーチンを示したフローチャートである。
【
図8】
図8は本発明の実施形態の第1変形例のCPUが実行する電圧決定ルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るヒータ制御装置(以下、「本制御装置」と称呼する。)10について説明する。本制御装置10は、
図1に示した車両VAに適用される。本制御装置10はECU20を含む。
【0019】
ECUは、エレクトロニックコントロールユニットの略称であり、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含むマイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御回路である。CPUは、メモリ(ROM)に格納されたインストラクション(ルーチン)を実行することにより各種機能を実現する。上記ECU20が実現する機能の幾つかは、他のECUによって実現されてもよい。
【0020】
車両VAは、カメラセンサ22及びカメラヒータ24を備える。カメラセンサ22は、周知のCCDカメラ又はCMOSカメラである。
図2及び
図3に示したように、カメラセンサ22は、車両VAの内部、即ち、車両VAの前方のウィンドウガラスの一つであるフロントガラス101の内側に配設されている。カメラセンサ22は、ブラケット(支持部材)23によって車両VAに支持されている。ブラケット23は、樹脂材料から構成される。カメラセンサ22は、フロントガラス101の一部の領域である撮影透過領域101a(
図3を参照。)を通して車両VAの内部から車両VAの外部を撮影する。
【0021】
図1に示したように、カメラセンサ22は、ECU20に接続されている。ECU20は、ECU20に接続されている。ECU20は、カメラセンサ22が撮影した画像に関する画像データに基いて車両VAの運転者の運転を支援するための制御である運転支援制御を行う。運転支援制御の一例として衝突防止制御及びACC(Adaptive Cruise Control)がある。衝突防止制御では、ECU20は、画像データに基いて車両VAと衝突する可能性がある障害物を検出し、その障害物と衝突する前に車両VAの運転者に対して警告を行い、車両VAを減速させたりする。ACCでは、ECU20は、車両VAと「画像データに基いて先行車を検出した車両VAの前方に位置する先行車」との車間距離を一定に維持しながら、運転者のアクセルペダル(不図示)及びブレーキペダル(不図示)の操作を要することなく、先行車を追従する制御である。
【0022】
カメラヒータ24は、フロントガラス101の撮影透過領域101aに埋め込まれた電熱線である(
図3を参照。)。
図3に示したように、撮影透過領域101aは、カメラセンサ22を支持する断面L字型のブラケット23によって囲まれている。このように撮影透過領域101aはブラケット23によって囲まれているので、図示しない空調装置が吹き出す空気により撮影透過領域101aを加熱することは困難である。このため、上記したカメラヒータ24が撮影透過領域101aを加熱するようにしている。
【0023】
図1に示したように、カメラヒータ24は、ECU20に接続されており、ECU20によりその状態がオン(通電)状態及びオフ(非通電、遮断)状態の何れかに設定されるようになっている。
【0024】
カメラヒータ24が通電されると、カメラヒータ24が発生する熱によって撮影透過領域101a(
図3を参照。)が加熱される。これにより、撮影透過領域101aが水分によって曇っている場合には、その曇りが除去され、撮影透過領域101aが曇っていない場合には、その撮影透過領域101aに曇りが生じることが防止される。撮影透過領域101aの曇りを除去又は防止するためにECU20がカメラヒータ24に通電する制御を「防曇制御」と称呼する。
【0025】
なお、カメラヒータ24は、ブラケット23によって囲まれている空間23a(
図3を参照。)を加熱することにより、撮影透過領域101aを加熱可能であってもよい。この場合には、カメラヒータ24は、ブラケット23のカメラセンサ22に配設される。
【0026】
車両VAは、車輪速センサ31、室外温度センサ32、室内温度センサ33、室内湿度センサ34及びイグニッションスイッチ(レディスイッチ)(以下、「IGスイッチ」と称呼する。)35を備える。これらは、ECU20に接続されている。
【0027】
複数の車輪速センサ31は車両VAの車輪毎に設けられる。各車輪速センサ31は、対応する車輪が所定角度回転する毎に一つの車輪パルス信号を発生させる。ECU20は、各車輪速センサ31から送信されてくる車輪パルス信号の単位時間におけるパルス数をカウントし、そのパルス数に基いて各車輪の回転速度(車輪速度)を取得する。ECU20は、各車輪の車輪速度に基いて車両VAの速さを示す車速Vsを取得する。一例として、ECU20は、四つの車輪の車輪速度の平均値の絶対値を車速Vsとして取得する。
【0028】
室外温度センサ32は、車両VAの外部(室外)の温度を検出し、その温度(以下、「室外温度」と称呼する。)Taを表す信号を出力する。ECU20は、室外温度センサ32が出力する信号に基づいて室外温度Taを取得する。
【0029】
室内温度センサ33は、車両VAの内部(室内)の温度を検出し、その温度(以下、「室内温度」と称呼する。)Tbを表す信号を出力する。ECU20は、室内温度センサ33が出力する信号に基づいて室内温度Tbを取得する。
【0030】
室内湿度センサ34は、室内の湿度を検出し、その湿度(以下、「室内湿度」と称呼する。)Hを表す信号を出力する。ECU20は、室内湿度センサ34が出力する信号に基づいて室内湿度Hを取得する。
【0031】
運転者によりIGスイッチ35がオン位置に設定された場合、図示しない駆動源(例えば、内燃機関及び電動モータ等)が始動することにより駆動源の状態が作動状態へと変更する。運転者によりIGスイッチ35がオフ位置に設定された場合、駆動源の状態が作動状態から非作動状態へと変更される。作動状態にある駆動源は、図示しない加速操作子の操作量に応じて駆動力を車両VAに付与可能である。非作動状態にある駆動源は、加速操作子が操作されても駆動力を車両VAに付与不能である。IGスイッチ35がオン位置に設定された状態(即ち、駆動源が作動状態にある状態)を「イグニッションオン」と称呼し、IGスイッチ35がオフ位置に設定された状態(即ち、駆動源が非作動状態にある状態)を「イグニッションオフ」と称呼する場合がある。更に、IGスイッチ35がオン位置に設定された場合、ECU20は、後述の実行条件が成立すると、防曇制御の実行を開始する。
【0032】
<作動の概要>
本制御装置10は、室内温度Tb及び室内湿度Hに基いて決定される露点温度Td、室外温度Ta及び車速Vsに基いて、撮影透過領域101aの温度が露点温度Tdを下回らずに当該温度を露点温度Tdに維持するために必要な電力である防曇電力Wcを決定する。そして、本制御装置10は、防曇制御において、カメラヒータ24に通電する電力が防曇電力Wcと一致するようにカメラヒータ24に通電する。
【0033】
本発明者等は、室外温度Ta及び車速Vsの環境下でカメラヒータ24に所定電力Wを通電させたときのウィンドウガラスの温度(ガラス温度)Tgを計測する実験を、室外温度Ta、車速Vs及びカメラヒータ24への通電電力Wのそれぞれを変えて行った。この実験により、本発明者等は、室外温度Taと車速Vsとガラス温度Tgと通電電力Wとの間に
図4に示したような相関関係があるとの知見を得た。重回帰分析を用いて
図4に示した相関関係を定式化すると、ガラス温度Tgは方程式(式(1))により表すことができる。
【0034】
Tg=Ca×Ta+Cb×W+Cc・・・(1)
上記式(1)における「Ca」は第1車速係数であり、「Cb」は第2車速係数であり、「Cc」は第3車速係数である。第1車速係数Ca乃至第3車速係数Ccは車速Vsによって異なる値であり、車速Vsが大きいほどその値が大きくなる。
上記式(1)から以下の式(2)が得られる。
【0035】
【0036】
現時点の車速Vsに対応する上記第1車速係数Ca乃至第3車速係数Ccを設定し、ガラス温度Tgに露点温度Tdを代入し、室外温度Taに現時点の室外温度Taを代入することにより、防曇制御における目標電力である防曇電力Wcが得られる。即ち、現時点の車速Vs及び現時点の室外温度Taにおいて、ガラス温度Tgを露点温度Tdに維持するために必要な防曇電力Wcが得られる。
【0037】
以上から理解されるように、本制御装置10によれば、式(2)を用いて防曇電力Wcを決定するため、撮影透過領域の温度が露点温度Tdに維持でき露点温度Tdを下回ることを防止できる。これによって、撮影透過領域101aの曇りを確実に除去又は防止することができる。撮影透過領域101aの温度が露点温度Tdよりも過大に大きな温度になるまで加熱することもないのでカメラヒータ24が無駄な電力を消費する可能性も低減できる。更に、室内温度Tb及び室内湿度Hに基いて予測される露点温度Td、室外温度Ta及び車速Vsを防曇電力Wcの決定に用いるので、撮影透過領域101aの温度は上記防曇電力Wcの決定には用いられない。このため、撮影透過領域101aの温度を検出するためのセンサを設けなくてもよいので、製造コストの増大を防止できる。
【0038】
<作動例>
本制御装置10の作動例について
図5を用いて説明する。
上記したように、ECU20は、IGスイッチ35がオン位置となった時点tsにて
防曇制御の実行条件が成立するか否かを判定する。この実行条件は、室外温度Taが閾値温度Tath以下であるとの条件である。例えば、この閾値温度Tathは、室内温度Tbが所定温度(25℃)及び室内湿度Hが所定湿度(40%)であるときの露点温度(10℃)に予め設定されている。
【0039】
ECU20は、上記実行条件が成立すると、防曇制御を開始する。
図5に示した例では、ECU20は、時点tsにて実行条件が成立したと判定し、防曇制御を開始している。
【0040】
防曇制御においては、ECU20は、単位時間Tcycをオフ時間(非通電時間)Toffとオン時間(通電時間)Tonとに分けて、現時点がオフ時間Toffである場合にはカメラヒータ24へ通電を行わず、現時点がオン時間Tonである場合にはカメラヒータ24へ通電を行う。ECU20は、カメラヒータ24へ通電を行う場合には、カメラヒータ24に所定の一定電圧Vcを付与する。
【0041】
ECU20は、上記単位時間Tcycの開始直前に上記式(2)を用いて防曇電力Wcを決定し、カメラヒータ24に防曇電力Wcが通電するように「単位時間Tcycに対するオン時間Tonの割合を表すデューティ比D」を決定する。
【0042】
以下、デューティ比Dの決定について詳細に説明する。
カメラヒータ24の電力Wは、以下の式(3)によって表される。
【0043】
【0044】
上記式(3)における「Vc」はオン時間にカメラヒータ24に付与される一定電圧を表し、上記式(3)における「R」はカメラヒータ24の抵抗値を表す。
【0045】
式(3)を式(2)に代入してデューティ比Dについて整理すると、式(4)が得られる。ECU20は、現時点の車速Vsに応じて第1車速係数Ca乃至第3車速係数Ccを決定する。そして、ECU20は、その第1車速係数Ca乃至第3車速係数Cc、「現時点の室内温度Tb及び現時点の室内湿度Hに基いて予測した露点温度Td」及び現時点の室外温度Taを式(4)に適用することにより、デューティ比Dを決定する。
【0046】
【0047】
上記したデューティ比Dを決定するためのデューティ比決定処理は、単位時間Tcycが経過する毎に実行される。防曇制御において単位時間Tcycが終了して新たな単位時間Tcycが開始する場合、この新たな単位時間Tcycは、直前に実行されたデューティ比決定処理で決定されたデューティ比Dに基くオフ時間Toff及びオン時間Tonに割り当てられる。なお、防曇制御は、IGスイッチ35がオフ位置となる時点又は室外温度Taが閾値温度Tathよりも大きくなった時点にて終了する。
【0048】
(具体的作動)
<デューティ比決定ルーチン>
ECU20のCPU(以下、「CPU」と表記した場合、特に断りがない限り、ECU20のCPUを指す。)は、
図6にフローチャートにより示したデューティ比ルーチンを単位時間Tcycが経過する毎に実行する。
【0049】
従って、所定のタイミングになると、CPUは、
図6のステップ600から処理を開始し、ステップ605及びステップ610をこの順に実行する。
【0050】
ステップ605:CPUは、現時点の「車速Vs、室外温度Ta、室内温度Tb及び室内湿度H」を取得する。
ステップ610:CPUは、実行フラグXexeの値が「0」であるか否かを判定する。
実行フラグXexeの値は、室外温度Taが閾値温度Tath以下である場合に「1」に設定され、室外温度Taが閾値温度Tathよりも大きい場合に「0」に設定される。更に、実行フラグXexeの値は、IGスイッチ35がオフ位置からオン位置となったときにCPUにより実行されるイニシャルルーチンにて、「0」に設定される。
【0051】
実行フラグXexeの値が「0」である場合、CPUは、ステップ610にて「Yes」と判定し、ステップ615に進む。ステップ615にて、CPUは、室外温度Taが閾値温度Tath以下であるか否かを判定する。
【0052】
室外温度Taが閾値温度Tathよりも大きい場合、CPUは、ステップ615にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0053】
一方、CPUがステップ615に進んだときに室外温度Taが閾値温度Tath以下である場合、CPUは、ステップ615にて「Yes」と判定し、ステップ620乃至ステップ640をこの順に実行する。その後、CPUは、本ルーチンを一旦終了する。
【0054】
ステップ620:CPUは、実行フラグXexeの値を「0」に設定するとともに後述するタイマTの値を「0」に設定する。
ステップ625:CPUは、室内温度Tb及び室内湿度Hに基いて露点温度Tdを予測する。露点温度Tdは、室内温度Tbの飽和水蒸気量と室内湿度Hとに基いて得られる所定の単位体積当たりの水蒸気量と一致する飽和水蒸気量に対応する温度である。
【0055】
ステップ630:CPUは、車速Vsに基いて第1車速係数Ca乃至第3車速係数Ccを決定する。例えば、第1車速係数Ca乃至第3車速係数Cbのそれぞれについて、車速Vsに応じて四つの値(Ca1乃至Ca4、Cb1乃至Cb4及びCc1乃至Cc4)を予め設定しておき、CPUは、以下のように、車速Vsに応じて第1車速係数Ca乃至第3車速係数Ccを上記四つの値の何れかの値に決定する。
【0056】
車速Vsが「0km/h」以上且つ「30km/h」未満であるとき、第1車速係数Ca乃至第3車速係数CcはそれぞれCa1乃至Cc1に決定される。
車速Vsが「30km/h」以上且つ「45km/h」未満であるとき、第1車速係数Ca乃至第3車速係数CcはそれぞれCa2乃至Cc2に決定される。
車速Vsが「45km/h」以上且つ「100km/h」未満であるとき、第1車速係数Ca乃至第3車速係数CcはそれぞれCa3乃至Cc3に決定される。
車速Vsが「100km/h」よりも大きく且つ「100km/h」以下であるとき、第1車速係数Ca乃至第3車速係数CcはそれぞれCa4乃至Cc4に決定される。
なお、車速Vsが大きいほど、第1車速係数Ca乃至第3車速係数Ccの値はそれぞれ大きくなる。
【0057】
ステップ635:CPUは、第1車速係数Ca乃至第3車速係数Cc、露点温度Td及び室外温度Taを式(4)に適用することによって、デューティ比Dを決定する。
【0058】
ステップ640:CPUは、デューティ比Dを以下の式(5)及び式(6)に適用することにより、オフ時間Toff及びオン時間Tonを計算する。
Toff=(1-D)・Tcyc・・・式(5)
Ton=D・Tcyc・・・式(6)
【0059】
その後、CPUは、ステップ610に進むと、実行フラグXexeの値が「1」であるため、そのステップ610にて「No」と判定し、ステップ645に進む。ステップ645にて、CPUは、室外温度Taが閾値温度Tath以下であるか否かを判定する。
【0060】
室外温度Taが閾値温度Tath以下である場合、CPUは、ステップ645にて「Yes」と判定し、ステップ625以降の処理へ進む。これに対し、室外温度Taが閾値温度Tathよりも大きい場合、CPUは、ステップ645にて「No」と判定し、ステップ650に進む。ステップ650にて、CPUは、実行フラグXexeの値を「0」に設定するとともに、タイマTの値を「0」に設定する。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0061】
<カメラヒータ通電制御ルーチン>
CPUは、
図7にフローチャートにより示したカメラヒータ通電制御ルーチンを所定時間が経過する毎に実行する。
【0062】
従って、所定のタイミングになると、CPUは、
図7のステップ700から処理を開始してステップ703に進み、実行フラグXexeの値が「1」であるか否かを判定する。
【0063】
実行フラグXexeの値が「1」である場合、CPUは、ステップ703にて「Yes」と判定し、ステップ705及びステップ710をこの順に実行する。
【0064】
ステップ705:CPUは、タイマTの値に「1」を加算する。
タイマTは、単位時間Tcycが開始した時点から経過した時間をカウントするためのタイマである。タイマTの値は、単位時間Tcycが経過したときに「0」に設定される(後述するステップ730を参照。)。更に、タイマTの値は、上記ステップ620、上記ステップ650及び上記イニシャルルーチンにて、「0」に設定される。
【0065】
ステップ710:CPUは、タイマTが示す時間がオフ時間Toff未満であるか否かを判定する。
【0066】
タイマTが示す時間がオフ時間Toff未満である場合、CPUは、ステップ710にて「Yes」と判定してステップ715に進む。ステップ715にて、CPUは、カメラヒータ24への通電を停止し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0067】
一方、タイマTが示す時間がオフ時間Toff以上である場合、CPUは、ステップ710にて「No」と判定してステップ720に進む。ステップ720にて、CPUは、タイマTが示す時間が単位時間Tcyc未満であるか否かを判定する。
【0068】
タイマTが単位時間Tcyc未満である場合、CPUは、ステップ720にて「Yes」と判定してステップ725に進む。ステップ725にて、CPUは、所定の電圧Vcをカメラヒータ24に付与することによりカメラヒータ24に通電を行う。その後、CPUは、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0069】
一方、タイマTが単位時間Tcyc以上である場合、CPUは、ステップ720にて「No」と判定してステップ730に進み、タイマTの値を「0」に設定する。その後、CPUは、ステップ725に進んでカメラヒータ24に通電を行い、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0070】
CPUがステップ703に進んだ時点にて実行フラグXexeの値が「0」である場合、CPUは、ステップ703にて「No」と判定し、ステップ715に進んでカメラヒータ24への通電を停止する。その後、CPUは、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0071】
以上により、CPUは、撮影透過領域101aの温度が露点温度Tdを下回ることを確実に防止でき、撮影透過領域101aの温度が露点温度Tdよりも過度に高い温度まで加熱されることによりカメラヒータ24が無駄な電力を消費してしまうことも防止できる。
【0072】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。
【0073】
(第1変形例)
本変形例では、カメラヒータ24へ付与する電圧Vcが可変であり、ECU30は、カメラヒータ24に防曇電力Wcを通電するように当該電圧Vcを決定する。
【0074】
本変形例では、デューティ比決定ルーチンの代わりに電圧Vcを決定するための電圧決定ルーチンが実行される。更に、本変形例のカメラヒータ通電制御では、オフ時間Toff及びオン時間Tonに従って通電制御を行わずに電圧決定ルーチンで決定された電圧Vcをカメラヒータ24に付与する点で上記第1変形例と異なる。
【0075】
<電圧決定ルーチン>
図8を参照しながら、本変形例の電圧決定ルーチンを説明する。
図8では、
図6に示したステップと同じ処理を行うステップには、
図6にて使用した符号を同じ符号を付与し、その説明を省略する。
【0076】
所定のタイミングになると、CPUは、
図8に示したステップ800から処理を開始し、
図8に示したステップ605を実行し、
図8に示したステップ610及び615にてそれぞれ「Yes」と判定すると、
図8に示したステップ620乃至ステップ630を実行する。CPUは、
図8に示したステップ630を実行すると、ステップ805を実行してステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0077】
ステップ805:CPUは、第1車速係数Ca乃至第3車速係数Cc、露点温度Td及び室外温度Taを式(7)に適用することによって、電圧Vcを決定する。
【0078】
【0079】
本変形例では、防曇制御においては単位時間Tcycを設定せずに本ルーチンで決定された電圧Vcをカメラヒータ24に常に付与する。カメラヒータ24の電力Wは、以下の式(8)によって表される。式(8)を式(2)に代入して電圧Vcについて整理すると、上記式(7)が得られる。
【0080】
【0081】
CPUは、ステップ805にて電圧Vcを決定してから次に本ルーチンが実行されて電圧Vcを決定するまでの期間、今回本ルーチンで決定した電圧Vcをカメラヒータ24へ付与し続ける。
【0082】
(第2変形例)
上記実施形態において、CPUは、露点温度Tdの代わりに「露点温度Tdに所定温度(例えば、2℃)を加算することにより得られる目標温度Ttgt」を式(4)に適用することによりデューティ比Dを決定してもよい。目標温度Ttgtは露点温度Td以上の値であればよく、目標温度Ttgtは露点温度Tdであってもよい。このため、上記実施形態は、目標温度Ttgtとして露点温度Tdを用いているとも表現できる。なお、上記第1変形例において、CPUは、露点温度Tdの代わりに上記目標温度Ttgtを式(7)に適用することにより電圧Vcを決定してもよい。
【0083】
(第3変形例)
上記実施形態では、車両VAが室内湿度センサ34を備え、CPUは、室内湿度センサ34からの信号に基いて室内湿度Hを取得したが、室内湿度Hの取得方法はこれに限定されない。本変形例では、CPUが室内湿度センサ34を用いずに室内湿度Hを取得する方法について説明する。
【0084】
一例としては、CPUは、空調装置の風量とエバポレータ通過空気の絶対湿度と予め設定された乗員加湿量と乗員人数とに基いて室内湿度Hを演算により求めてもよい。この室内湿度Hの取得処理の詳細については、特開平7-285312号公報に記載されているため、詳細な説明を省略する。
【0085】
更に、室外と室内とでは単位面積当たりの水分量は同じであるとの仮定下において、CPUは、室外温度及び室外湿度を含む気象情報を取得し、室外温度、室外湿度及び室内温度に基いて、室内湿度Hを演算により求めてもよい。この室内湿度Hの取得処理の詳細については、特開2015-74364号公報に記載されているため、詳細な説明を省略する。
【0086】
(第4変形例)
カメラセンサ22は、リアガラス102(
図1を参照。)の一部の領域である撮影透過領域を通して車両VAの内部から車両VAの外部を撮影してもよい。
【符号の説明】
【0087】
10…ヒータ制御装置、20…ECU、22…カメラセンサ、24…カメラヒータ、31…車輪速センサ、32…室外温度センサ、33…室内温度センサ、34…室内湿度センサ。