(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置および内燃機関システム
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20231011BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F02D45/00 360A
F02D43/00 301E
F02D43/00 301H
F02D45/00 366
F02D45/00 368F
F02D45/00 372
F02D43/00 301Y
(21)【出願番号】P 2020160156
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶山 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】村澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】及川 貴大
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-142171(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0107927(US,A1)
【文献】特開2018-193881(JP,A)
【文献】特開2018-150825(JP,A)
【文献】特開2005-256712(JP,A)
【文献】特開2012-225269(JP,A)
【文献】特開2008-095615(JP,A)
【文献】特開2013-108403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒に対応して配置された燃料噴射弁が噴射する燃料の実噴射量と前記燃料噴射弁に対する指示噴射量との差分を学習する学習部と、
前記差分を、エンジン回転数および燃料噴射量により区分された領域ごとに、学習値として記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された学習値としての前記差分に基づいて前記指示噴射量を補正する補正部と、
補正された前記指示噴射量
、および、前記エンジン回転数に基づいて内燃機関のピストン温度を推定する温度推定部と、
を備え、
前記学習部は、さらに、吸気量センサにより検出された吸気の吸気量の検出値と、理論空燃比と、ラムダセンサにより検出された空燃比の実値と、前記指示噴射量とに基づいて、前記差分を学習し、
前記学習部は、さらに、前記空燃比の実値を平均化し、かつ、前記吸気量の検出値および前記指示噴射量に基づいて計算された
空燃比の計算値を平均化し、平均化した前記空燃比の実値および前記
空燃比の計算値を用いて前記差分を算出する、
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記吸気量センサが正常である場合、前記差分の学習が行われるように前記学習部を制御する制御部を備える、
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記内燃機関の排気温度、前記内燃機関のクランク角速度の変化量、および、前記内燃機関に供給される潤滑油の温度の少なくとも一つに基づいて、前記吸気量センサが正常であるかどうかを判定する、
請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関が安定条件下で運転される場合、前記差分の学習が行われるように前記学習部を制御する制御部を備える、
請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
内燃機関と、
請求項1から4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置を備える、
内燃機関システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の制御装置および内燃機関システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧、高温環境下にさらされるピストンの寿命等を把握するために、ピストン温度を推定することが有用であることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、内燃機関の状態を示す状態情報(エンジン回転数、燃料噴射弁に対する指示噴射量)に基づいて、内燃機関における発熱量を推定し、推定した発熱量に基づいて、ピストン温度を推定する内燃機関の潤滑油供給システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の技術では、例えば、燃料の実噴射量と指示噴射量との間に乖離が生じている状態で、指示噴射量に基づいてピストン温度を推定した場合、ピストン推定温度の精度が低下するという問題がある。ひいては、ピストンの寿命等を正確に把握することが困難になるという問題もある。
【0006】
本開示の目的は、ピストン推定温度の精度を上げることが可能な内燃機関の制御装置および内燃機関システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示における内燃機関の制御装置は、
内燃機関の気筒に対応して配置された燃料噴射弁が噴射する燃料の実噴射量と前記燃料噴射弁に対する指示噴射量との差分を学習する学習部と、
前記差分を、エンジン回転数および燃料噴射量により区分された領域ごとに、学習値として記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された学習値としての前記差分に基づいて前記指示噴射量を補正する補正部と、
補正された前記指示噴射量、および、前記エンジン回転数に基づいて内燃機関のピストン温度を推定する温度推定部と、
を備え、
前記学習部は、さらに、吸気量センサにより検出された吸気の吸気量の検出値と、理論空燃比と、ラムダセンサにより検出された空燃比の実値と、前記指示噴射量とに基づいて、前記差分を学習し、
前記学習部は、さらに、前記空燃比の実値を平均化し、かつ、前記吸気量の検出値および前記指示噴射量に基づいて計算された空燃比の計算値を平均化し、平均化した前記空燃比の実値および前記空燃比の計算値を用いて前記差分を算出する。
【0008】
本開示における内燃機関システムは、
上記内燃機関の制御装置を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ピストン推定温度の精度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置を備える内燃機関システムの一部を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、内燃機関の制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施の形態は、自動車に搭載されたディーゼルエンジン(内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置100を備える内燃機関システム1の一部を示す機能ブロック図である。
【0013】
本実施の形態に係る内燃機関システム1は、図示しないディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)と、エンジンの気筒に対応して配置された燃料噴射弁(インジェクタ)と、吸気量センサ2と、ラムダセンサ3と、排気温センサ4と、クランク角センサ5と、油温センサ6と、アクセル開度センサ7と、制御装置100と、を備える。
【0014】
吸気量センサ2は、エアクリーナー(不図示)から気筒内に吸入され吸気の吸気量を検出する。吸気量センサ2は、マスフローセンサ(Mass Flow Sensor : MAF)とも称される。
【0015】
ラムダセンサ3は、エンジンの排気中の酸素量に基づいて空燃比の実値(実λ)を検出する。
【0016】
排気温センサ4は、エンジンの排気の温度を検出する。
【0017】
クランク角センサ5は、エンジンのクランク角を検出する。制御部50(後述する)は、クランク角センサ5の検出値からクランク角速度の変化量を算出する。
【0018】
油温センサ6は、例えば、オイルパン(不図示)に貯留された潤滑油の温度を検出する。潤滑油は、エンジンを含む各部の潤滑に用いられる。
【0019】
アクセル開度センサ7は、アクセルペダル(不図示)の踏み込み量に応じた指示噴射量(インジェクタに対する指示値)を検出する。
【0020】
本実施の形態に係る内燃機関の制御装置100は、取得部10と、学習部20と、補正部30と、温度推定部40と、を有する制御部50とを備える。
【0021】
制御部50は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等からなるマイクロコンピュータと入出力装置とを備えるECU(Electronic control Unit)である。制御部50の入力回路には、各センサ2,3,4,5,6,7が接続されている。
【0022】
取得部10は、センサ2,3,4,5,6,7それぞれの検出結果を取得する。
【0023】
学習部20は、吸気量センサ2により検出された吸気量と、ラムダセンサ3により検出された空燃比の実値(実λ)と、理論空燃比(ここでは、14.6)と、指示噴射量とに基づいて、実噴射量と指示噴射量との差分を算出する。
差分(学習値)は、次式(1)、(2)により算出される。
学習値=(指示噴射量×(実λ-計算λ)/実λ)*係数・・・(1)
計算λ=吸気量/指示噴射量*14.6・・・(2)
なお、係数は、実験やシミュレーションにより求めることが可能である。
【0024】
学習部20は、実λおよび計算λのそれぞれを平均化する。学習部20は、平均化した実λおよび計算λを用いて差分を算出する。算出された差分は、エンジン回転数および燃料噴射量により区分された領域ごとに、学習値としてメモリ(不図示)に記憶される。
【0025】
補正部30は、メモリに記憶された差分(学習値)に基づいて、指示噴射量を補正する。
【0026】
温度推定部40は、補正された指示噴射量、および、エンジン回転数に基づいて内燃機関のピストン温度を推定する。推定されたピストンの温度を、「ピストン推定温度」という。
【0027】
ところで、学習値は、吸気量センサ2により検出された吸気量に基づいて算出されるため、吸気センサ2が正常でない場合、ピストン推定温度の精度が低下するおそれがある。
【0028】
そこで、本実施の形態では、制御部50は、エンジンの排気温度、エンジンのクランク角速度の変化量、および、エンジンに供給される潤滑油の温度(油温)の少なくとも一つに基づいて、吸気量センサ2が正常であるかどうかを判定する。なお、前述するように、エンジンの排気温度は、排気温センサ4により検出される。また、エンジンのクランク角速度の変化量は、クランク角センサ5の検出値から制御部50により算出される。また、エンジンに供給される潤滑油の温度(油温)は、油温センサ6により検出される。
【0029】
具体的には、制御部50は、エンジンの排気温度が所定値未満である場合、かつ、クランク角速度の変化量が所定値未満である場合、かつ、油温の変化量Δが閾値未満である場合、吸気量センサ2が正常であると判定する。さらに、制御部50は、吸気量センサ2が正常である場合、差分の学習が行われるように学習部20を制御する。
【0030】
以上の構成により、正常な吸気量センサ2により検出された吸気量に基づいて、学習値(差分)が算出され、学習値に基づいて指示噴射量が補正され、補正された指示噴射量に基づいてピストン温度が推定されるため、ピストン推定温度の精度の低下を抑えることが可能となる。
【0031】
ところで、例えば、暖気中のエンジンのように、エンジンが安定条件下で運転されていない場合、学習部20による学習の実効性が低下する。
【0032】
そこで、本実施の形態では、制御部50は、エンジンが安定条件下で運転される場合、制御部50は、エンジンが安定条件下で運転されているかどうかを判定する。
【0033】
具体的には、制御部50は、エンジンの暖気後であり、かつ、エンジンが定常であり、かつ、ラムダセンサ3が高い信頼性を有する場合、エンジンが安定条件下で運転されていると判定する。なお、ラムダセンサ3が高い信頼性を有するとは、ラムダセンサ3により検出された空燃比の実値(実λ)が所定の閾値(ここでは、「3」)未満である場合をいう。
【0034】
さらに、制御部50は、エンジンが安定条件下で運転される場合、差分の学習が行われるように学習部20を制御する。
【0035】
次に、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置100の動作の一例について
図2を参照して説明する。
図2は、内燃機関の制御装置100の動作の一例を示すフローチャートである。本フローはエンジンの始動に伴い開始され、所定の周期で繰り返される。なお、以下の説明では、内燃機関の制御装置100が有する各機能をCPUが実行するものとして説明する。
【0036】
先ず、ステップS100において、CPUは、吸気量センサ2が正常であるかどうかについて判定する。吸気量センサ2が正常である場合(ステップS100:YES)、処理はステップS110に遷移する。吸気量センサ2が正常でない場合(ステップS100:NO)、
図2に示すフローを終了する。
【0037】
次に、ステップS110において、CPUは、エンジンが安定条件下で運転されているかどうかを判定する。エンジンが安定条件下で運転されている場合(ステップS110:YES)、処理はステップS120に遷移する。エンジンが安定条件下で運転されていない場合(ステップS110:NO)、
図2に示すフローは終了する。
【0038】
まず、ステップS120において、CPUは、吸気量センサ2により検出された吸気量を取得する。
【0039】
次に、ステップS130において、CPUは、ラムダセンサ3により検出された空燃比の実値(実λ)を取得する。
【0040】
次に、ステップS140において、CPUは、理論空燃比を取得する。
【0041】
次に、ステップS150において、CPUは、指示噴射量を取得する。
【0042】
次に、ステップS160において、CPUは、吸気量、実λ、理論空燃比、および、指示噴射量に基づき、上記の式(1)、(2)により、実噴射量と指示噴射量との差分を学習する。
【0043】
次に、ステップS170において、CPUは、差分に基づいて、指示噴射量を補正する。
【0044】
次に、ステップS180において、CPUは、補正された指示噴射量に基づいて、ピストン温度を推定する。
【0045】
上記実施の形態に係る内燃機関の制御装置100は、エンジンの気筒に対応して配置された燃料噴射弁が噴射する燃料の実噴射量と燃料噴射弁に対する指示噴射量との差分を学習する学習部20と、学習された差分に基づいて指示噴射量を補正する補正部30と、補正された指示噴射量に基づいてエンジンのピストン温度を推定する温度推定部40と、を備える。
【0046】
上記構成により、学習された差分に基づいて指示噴射量が補正され、補正された指示噴射量に基づいてピストン温度が推定されるため、ピストン推定温度の精度を上げることができる。
【0047】
また、上記実施の形態に係る内燃機関の制御装置100では、学習部20は、吸気量センサ2により検出された吸気量と、理論空燃比と、ラムダセンサ3により検出された空燃比と、指示噴射量とに基づいて、差分を学習する。これにより、確実に差分を学習することができる。
【0048】
また、上記実施の形態に係る内燃機関の制御装置100では、制御部50は、エンジンの排気温度、エンジンのクランク角速度の変化量、および、エンジンに供給される潤滑油の温度(油温)に基づいて、吸気量センサ2が正常であるかどうかを判定し、吸気量センサ2が正常である場合、差分(学習値)の学習が行われるように学習部20を制御する。これにより、正確な検出値に基づいて差分の学習が行われるため、ピストン推定温度の精度の低下を抑えることができる。
【0049】
また、上記実施の形態に係る内燃機関の制御装置100は、制御部50は、エンジンが安定条件下で運転される場合、差分の学習が行われるように学習部20を制御する。これにより、差分の学習が効率よく行われるため、学習部20による学習の実効性を上げることが可能となる。
【0050】
なお、上記実施の形態においては、制御部50は、吸気量センサ2が正常であるかどうかの判定を、エンジンの排気温度、エンジンのクランク角速度の変化量、および、エンジンに供給される潤滑油の温度(油温)に基づいて行うが、本開示はこれに限らず、例えば、排気温度、クランク角速度の変化量、および、油温のいずれか一つに基づいて、行ってもよい。
【0051】
また、上記実施の形態では、吸気量センサ2が正常であるかどうかの判定を、エンジンに供給される冷却水の温度に基づいて行ってもよい。なお、エンジンに供給される冷却水の温度は、例えば、ウォータージャケット(不図示)の出口部近傍に設けられ、ウォータージャケットから流路に流れ込む冷却水の温度を検出する水温センサにより検出される。
【0052】
その他、上記実施の形態は、何れも本開示の実施をするにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本開示はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示は、ピストン推定温度の精度を上げることが要求される装置に好適に利用される。
【符号の説明】
【0054】
1 内燃機関システム
2 吸気量センサ
3 ラムダセンサ
4 排気温センサ
5 クランク角センサ
6 油温センサ
7 アクセル開度センサ
10 取得部
20 学習部
30 補正部
40 温度推定部
50 制御部
100 内燃機関の制御装置