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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/237 20060101AFI20231011BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20231011BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B60R21/237
B60R21/207
B60N2/42
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020177580
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068738
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 和浩
(72)【発明者】
【氏名】深渡瀬 修
(72)【発明者】
【氏名】太田 悠登
(72)【発明者】
【氏名】荒井 佑太
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-502987(JP,A)
【文献】特開2019-034710(JP,A)
【文献】特開2001-171468(JP,A)
【文献】特開2010-036870(JP,A)
【文献】特開2017-052492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラップベルトで着座乗員の腰部を拘束すると共にショルダベルトで着座乗員の上体を拘束する3点式のシートベルト装置と、
折り畳まれた状態でシートバック内に収納されると共にガス供給を受けて膨張展開され、前記ショルダベルトの上部後面に当接して着座乗員の頭部に対する側方側に至るように膨張展開される上部チャンバと、着座乗員の腰部に対する側方側で膨張展開される下部チャンバと、前記上部チャンバと前記下部チャンバとを繋ぐ繋ぎ部と、を備えるサイドエアバッグと、
を有し、
前記繋ぎ部には、シート前方側からシート後方側へ抉られたえぐり部が形成され、前記えぐり部は、前記ショルダベルトの上部に対してシート幅方向外側に配置されるように設定されており、
前記下部チャンバは、前記上部チャンバよりも、膨張展開された場合の展開速度が速くなる折り畳み方で折り畳まれている、乗員保護装置。
【請求項2】
前記上部チャンバは、着座乗員側の面を内側に巻き込むように折り畳むロール折りによってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれた内ロール折り部を備え、
前記下部チャンバは、折り返す方向を交互に変えてシート前後方向に折り重ねる蛇腹折りによってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれた蛇腹折り部を備える、請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記上部チャンバ及び前記下部チャンバの少なくと一方は、カクタス折りによって折り畳まれたカクタス折り部を備え、前記カクタス折り部は、前記サイドエアバッグが膨張展開された場合にシート前後方向前側に配置される部位に設けられている、請求項2記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両用シートのシートバックの側部にエアバッグモジュールが収納されたサイドエアバッグ装置に関する技術が開示されている。簡単に説明すると、この先行技術では、サイドエアバッグは、側面衝突時にガス供給を受けて膨張展開する頭部保護膨張部及び腰部保護膨張部を含んで構成されている。頭部保護膨張部は、膨張展開状態で乗員の頭部を拘束し、腰部保護膨張部は、膨張展開状態で乗員の腰部を拘束する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-105107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、側面衝突の際に早い段階で着座乗員を車両幅方向内側に移動させる観点から頭部保護膨張部(上部チャンバ)よりも先に腰部保護膨張部(下部チャンバ)を膨張展開させるニーズがある。しかしながら、上記先行技術による場合、頭部保護膨張部及び腰部保護膨張部が一体的に折り畳まれているため、上記ニーズに容易に応えることが難しく、この点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、サイドエアバッグにおいて上部チャンバよりも先に下部チャンバを膨張展開させることを容易に実現できる乗員保護装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載する本発明の乗員保護装置は、ラップベルトで着座乗員の腰部を拘束すると共にショルダベルトで着座乗員の上体を拘束する3点式のシートベルト装置と、折り畳まれた状態でシートバック内に収納されると共にガス供給を受けて膨張展開され、前記ショルダベルトの上部後面に当接して着座乗員の頭部に対する側方側に至るように膨張展開される上部チャンバと、着座乗員の腰部に対する側方側で膨張展開される下部チャンバと、前記上部チャンバと前記下部チャンバとを繋ぐ繋ぎ部と、を備えるサイドエアバッグと、を有し、前記繋ぎ部には、シート前方側からシート後方側へ抉られたえぐり部が形成され、前記えぐり部は、前記ショルダベルトの上部に対してシート幅方向外側に配置されるように設定されており、前記下部チャンバは、前記上部チャンバよりも、膨張展開された場合の展開速度が速くなる折り畳み方で折り畳まれている。
【0007】
上記構成によれば、着座乗員の腰部はラップベルトで拘束され、着座乗員の上体はショルダベルトで拘束される。また、サイドエアバッグがガス供給を受けると、サイドエアバッグはシートバック内から膨張展開される。サイドエアバッグの一部を構成する上部チャンバは、ショルダベルトの上部後面に当接して着座乗員の頭部に対する側方側に至るように、膨張展開される。これにより、上部チャンバは、着座乗員の頭部を拘束する際にショルダベルトから反力を受けることができる。一方、サイドエアバッグの他の一部を構成する下部チャンバは、着座乗員の腰部に対する側方側で膨張展開される。
【0008】
また、上部チャンバと下部チャンバとを繋ぐ繋ぎ部には、シート前方側からシート後方側へ抉られたえぐり部が形成されている。これにより、上部チャンバ及び下部チャンバを互いに異なる折り畳み方で折り畳むことが可能になっている。そして、本発明では、下部チャンバは、上部チャンバよりも、膨張展開された場合の展開速度が速くなる折り畳み方で折り畳まれている。このため、サイドエアバッグがガス供給を受けた場合、下部チャンバは、上部チャンバよりも速い展開速度で膨張展開される。
【0009】
また、繋ぎ部に形成されたえぐり部は、ショルダベルトの上部に対してシート幅方向外側に配置されるように設定されている。一方、繋ぎ部にえぐり部が形成されると、その分だけ膨張展開状態のサイドエアバッグの剛性は低下する。しかしながら、サイドエアバッグの膨張展開時に、上部チャンバの下部をショルダベルトの上部後面に当接させるために、繋ぎ部は下部チャンバに対してシート幅方向内側に曲げられた状態とする必要があるので、前述した剛性の低下が有効に活かされる。
【0010】
請求項2に記載する本発明の乗員保護装置は、請求項1記載の構成において、前記上部チャンバは、着座乗員側の面を内側に巻き込むように折り畳むロール折りによってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれた内ロール折り部を備え、前記下部チャンバは、折り返す方向を交互に変えてシート前後方向に折り重ねる蛇腹折りによってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれた蛇腹折り部を備える。
【0011】
上記構成によれば、上部チャンバの内ロール折り部は、着座乗員側の面を内側に巻き込むように折り畳むロール折りによって折り畳まれている。このため、上部チャンバの内ロール折り部が膨張展開される際には、上部チャンバの内ロール折り部において順次巻き解かれる部分が着座乗員側に配置されるので、膨張展開途中の上部チャンバがショルダベルトに引っ掛かるのを抑制できる。また、下部チャンバの蛇腹折り部は、折り返す方向を交互に変えてシート前後方向に折り重ねる蛇腹折りによってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれている。このため、ガス供給を受けた下部チャンバを速く膨張展開させることができる。
【0012】
請求項3に記載する本発明の乗員保護装置は、請求項2記載の構成において、前記上部チャンバ及び前記下部チャンバの少なくと一方は、カクタス折りによって折り畳まれたカクタス折り部を備え、前記カクタス折り部は、前記サイドエアバッグが膨張展開された場合にシート前後方向前側に配置される部位に設けられている。
【0013】
上記構成によれば、カクタス折り部が追加されることで、サイドエアバッグにおいて設定可能な膨張展開の仕方のバリエーションを増やすことができる。このため、例えばシートバック及びシートベルト装置の構成等に応じて、サイドエアバッグの膨張展開の仕方を調整して設定することが容易になる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の乗員保護装置によれば、サイドエアバッグにおいて上部チャンバよりも先に下部チャンバを膨張展開させることを容易に実現できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る乗員保護装置による着座者の保護態様を模式的に示す側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る乗員保護装置による着座者の保護態様を模式的に示す正面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る乗員保護装置を構成するサイドエアバッグのフラットパターンを示す図である。
図4A図3に示すサイドエアバッグの上部チャンバ(図3の4A-4A線に沿った部位)の折り畳み状態を模式的に示す拡大断面図である。
図4B図3に示すサイドエアバッグの下部チャンバ(図3の4B-4B線に沿った部位)の折り畳み状態を模式的に示す拡大断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る乗員保護装置の作動前の概略全体構成を示す側面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る乗員保護装置を構成するサイドエアバッグがシートバック内に収納されている状態を示す正面図である。
図7A】サイドエアバッグの上部チャンバをカクタス折りしてからロール折りする変形例を模式的に示す断面図である。
図7B】サイドエアバッグの下部チャンバをカクタス折りしてから蛇腹折りする変形例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る乗員保護装置10について、図1図6に基づいて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両用シート12の前方向(着座乗員の向く方向)を示しており、矢印UPは車両用シート12の上方向を示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、シート前後方向の前後、シート上下方向の上下、シート前後方向の前方を向いた場合の左右を示すものとする。また、これらの図において適宜示される矢印INは、車両用シート12が搭載された車両としての自動車における車両幅方向中央側を示している。
【0017】
(実施形態の構成)
図1及び図2に示されるように、乗員保護装置10は、車両用シート12に搭載されている。車両用シート12は、図示しない自動車における車両幅方向中央部に対し左右何れか(本実施形態では左側)にオフセットして配置されている。この車両用シート12は、シート前後方向が車両の前後方向に一致され、シート幅方向が車両幅方向に一致されている。
【0018】
なお、図1及び図2では、保護すべき乗員のモデルとして衝突試験用のダミー(人形)Dが車両用シート12に着座した状態を図示している。ダミーDは、例えばWorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。このダミーDは、衝突試験法で定められた標準的な着座姿勢で着座しており、車両用シート12は、当該着座姿勢に対応した基準設定位置に位置している。以下、説明を分かり易くするために、ダミーDを「着座乗員D」と称する。
【0019】
車両用シート12は、シートクッション14と、シートクッション14の後端部に連結されたシートバック16と、シートバック16の上端部に連結されたヘッドレスト18と、を有する。シートクッション14は、着座乗員Dの臀部及び大腿部を支持する構成部とされる。シートバック16は、着座乗員Dの背部を支持する構成部とされる。ヘッドレスト18は、着座乗員Dの頭部Hを支持する構成部とされる。また、ヘッドレスト18は、ヘッドレストステー18Sによってシートバック16に取り付けられている。
【0020】
乗員保護装置10は、シートベルト装置20及びサイドエアバッグ装置30を有している。以下、シートベルト装置20及びサイドエアバッグ装置30の構成を説明する。
【0021】
シートベルト装置20は、3点式のシートベルト装置とされている。シートベルト装置20は、乗員拘束用のシートベルト22を備えている。シートベルト22の一端部22Aは、シートクッション14の車両幅方向外側の側部にアンカプレート23を介して取り付けられ、シートベルト22の他端部22Bは、図1に示されるリトラクタ(ベルト巻取装置)24のスプール24Sに係止されている。また、シートベルト22の中間部は、車両側部(図示しないセンタピラー)の上側に設けられたショルダアンカ25に挿通されて折り返されている。さらに、図2に示されるように、シートクッション14の車両幅方向内側の側部には、バックル26が立設されている。このバックル26には、シートベルト22の中間部に挿通された状態で支持されたタングプレート27が係合可能とされている。
【0022】
シートベルト装置20は、着座乗員Dがシートクッション14に着座した状態でバックル26にタングプレート27が係合されることで、シートベルト22が着座乗員Dに装着されるようになっている。タングプレート27をバックル26に係合させた状態で、シートベルト22のうちタングプレート27からアンカプレート23までの間に位置する部位はラップベルト22Lと称され、シートベルト22のうちタングプレート27からショルダアンカ25(図1参照)までの間に位置する部位はショルダベルト22Sと称される。そして、シートベルト装置20は、ラップベルト22Lで着座乗員Dの腰部Pを拘束すると共にショルダベルト22Sで着座乗員Dの上体を拘束する。
【0023】
図1に示されるリトラクタ24は、車両骨格部材を構成する図示しないセンタピラーの下端部付近に固定されている。リトラクタ24のスプール24Sは、円筒状に形成されてシートベルト22を巻き取る部材であり、その軸心方向が車両前後方向に向くように配置されている。スプール24Sの一方の側方側(車両後方側)には付勢機構24Fが配置されている。この付勢機構24Fによってスプール24Sはシートベルト22を巻き取る方向へ常時付勢されている。
【0024】
また、リトラクタ24は、プリテンショナ28を備えている。プリテンショナ28は、作動することによりシートベルト22を巻き取る方向にスプール24Sを回転させることでショルダベルト22Sに張力を付与するようになっている。このプリテンショナ28は、スプール24Sの他方の側方側(車両前方側)に配置されたモータ28Mを備えている。モータ28Mは、回転することでスプール24Sを巻取方向に駆動するようになっている。モータ28Mには、後述するECU(Electrical Control Unit)50(図5参照)が電気的に接続されている。
【0025】
一方、サイドエアバッグ装置30は、シートバック16に搭載されている。このサイドエアバッグ装置30は、インフレータ32と、サイドエアバッグ34と、を備えている。
【0026】
インフレータ32は、燃焼式又はコールドガス式のものが採用され、作動されることで発生したガスをサイドエアバッグ34内に供給するようになっている。この実施形態では、インフレータ32は、シリンダ型のインフレータとされ、シートバック16の上下方向を長手方向として配置されている。インフレータ32の噴出口は下方側に向けられている。このインフレータ32には、後述するECU50(図5参照)が電気的に接続されている。
【0027】
図3にはサイドエアバッグ34のフラットパターンが示されている。サイドエアバッグ34は、例えばナイロン系又はポリエステル系の布材を切り出して形成された2枚の基布によって構成されている。サイドエアバッグ34は、互いに重ね合わせられた2枚の基布の周縁部が縫製部(シーム)Tにおいて縫製されることで袋体に形成されている。サイドエアバッグ34の後部かつ下部側にはインフレータ32(図1参照)を挿入するためのインフレータ挿入口34Aが形成されている。
【0028】
サイドエアバッグ34は、折り畳まれた状態で図6に示されるシートバック16内において車両幅方向外側の側部16S側からそれに連続する一方の肩口部16A側にかけての部分にシート正面視で逆L字状となるように収納されている。図1に示されるように、サイドエアバッグ34は、インフレータ32からガス供給を受けてシートバック16内からシート前方側に突出されて着座乗員Dに対する車両幅方向外側で膨張展開される。サイドエアバッグ34は、ショルダベルト22Sの上部22S1後面に当接して着座乗員Dの頭部Hに対する側方側に至るように膨張展開される上部チャンバ34Hと、着座乗員Dの腰部Pに対する側方側で膨張展開される下部チャンバ34Pと、を備えている。なお、図3では、上部チャンバ34Hの範囲を二点鎖線Aで囲み、下部チャンバ34Pの範囲を二点鎖線Bで囲んでいる。上部チャンバ34Hと下部チャンバ34Pとは繋ぎ部34Dによって連通した状態で繋がれている。
【0029】
図1に示されるように、繋ぎ部34Dには、シート前方側からシート後方側へ抉られたえぐり部36が形成されている。図3に示されるように、繋ぎ部34Dは、えぐり部36が形成されることによって上部チャンバ34Hと下部チャンバ34Pとの連通部が狭められている。また、えぐり部36は、一例として、基布がV字状に切り込まれることで形成されている。
【0030】
図1に示されるサイドエアバッグ34の内部における後部には筒状のソック(ダクト、ディフューザ)38の後端側が縫い付けられている。ソック38は、シート上下方向に延在され、上部側における通路開口面積よりも下部側における通路開口面積の方が大きく設定されている。ソック38は、インフレータ32に対して前方側に配置され、ソック38の下部がインフレータ32の噴出口に通じるように構成されている。ソック38の上側噴出口38Aは、上部チャンバ34Hの内部に配置され、ソック38の下側噴出口38Bは、下部チャンバ34Pの内部に配置されている。これらにより、ソック38は、インフレータ32からのガスを上部チャンバ34H及び下部チャンバ34Pに供給する。
【0031】
ソック38の上側噴出口38Aは、ガスをシート前方側に向けて吹き出せるように構成されている。本実施形態では、ソック38の上側噴出口38Aは、シート前方斜め上方側を向くように斜めにカットされて形成されている。図2に示されるように、ソック38の上側噴出口38Aは、サイドエアバッグ34の膨張展開状態で着座乗員Dの頭部Hに対する側方側付近でショルダベルト22Sと着座乗員Dの頭部Hとの間に配置される。言い換えれば、ソック38の上側噴出口38Aは、サイドエアバッグ34の膨張展開状態でヘッドレストステー18Sの側方付近に配置される。
【0032】
ソック38の下側噴出口38Bは、ガスをシート下方側に向けて吹き出せるように構成されている。本実施形態では、ソック38の下側噴出口38Bは、シート下方側を向くように略水平にカットされて形成されている。ソック38の下側噴出口38Bは、サイドエアバッグ34の膨張展開状態でシートクッション14のサイドサポート部14S付近に配置される。
【0033】
サイドエアバッグ34は、その内部にソック38が縫い付けられた状態で折り畳まれてシートバック16内に収容されている。図6に示されるように、サイドエアバッグ34の上部チャンバ34Hは、シートバック16内の肩口部16A側の部分に折り畳み状態で収容され、サイドエアバッグ34の下部チャンバ34Pは、シートバック16内の車両幅方向外側の側部16S側の部分に折り畳み状態で収容されている。ここで、上部チャンバ34H及び下部チャンバ34Pの折り畳み形態について説明する。
【0034】
図4Aには、図3に示す平らに広げたフラットな状態のサイドエアバッグ34の上部チャンバ34H(より具体的には図3の4A-4A線に沿った部位)の折り畳み状態が模式的な拡大断面図で示されている。この図4Aでは、図3の4A-4A線に沿った断面の一部を簡略化して二点鎖線で示す。また、図4Bには、図3に示す平らに広げたフラットな状態のサイドエアバッグ34の下部チャンバ34P(より具体的には図3の4B-4B線に沿った部位)の折り畳み状態が模式的な拡大断面図で示されている。この図4Bでは、図3の4B-4B線に沿った断面の一部を簡略化して二点鎖線で示す。また、図4A及び図4Bに示される折り畳み状態の図では、図を見易くするために、重合されて縫製された一対の基布の断面をまとめて一本の太線で示している。なお、図4A及び図4Bにおける矢印FR及び矢印INは、サイドエアバッグ34の膨張展開時においてサイドエアバッグ34の折り畳みが解かれていく段階での方向を示す(後述する図7A及び図7Bにおいても同様)。図4A及び図4Bに示されるように、上部チャンバ34H及び下部チャンバ34Pは、互いに異なる折り畳み方で折り畳まれている。
【0035】
図4Aに示されるように、上部チャンバ34Hは、着座乗員D側(図4Aでは図中上側)の面を内側に巻き込むように折り畳むロール折りによってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれた内ロール折り部34Rを備える。本実施形態では、折り畳み状態の上部チャンバ34Hは、その全域が内ロール折り部34Rで構成されている。
【0036】
一方、図4Bに示されるように、下部チャンバ34Pは、折り返す方向を交互に変えてシート前後方向に折り重ねる蛇腹折り(Z折り)によってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれた蛇腹折り部34Sを備える。本実施形態では、折り畳み状態の下部チャンバ34Pは、その全域が蛇腹折り部34Sで構成されている。すなわち、下部チャンバ34Pは、上部チャンバ34H(図4A参照)よりも、膨張展開された場合の展開速度が速くなる折り畳み方で折り畳まれている。なお、図示を省略するが、図3に示されるサイドエアバッグ34の繋ぎ部34Dは、下部チャンバ34Pと同様の折り畳み方で折り畳まれる。
【0037】
図3に示されるように、上部チャンバ34Hの後縁部には、テザー40(図3以外では図示省略)の長手方向一端部が取り付けられている。テザー40の長手方向他端部は、ヘッドレストステー18S(図1参照)に取り付けられている。
【0038】
図5に示されるように、シートベルト装置20のプリテンショナ28のモータ28M及びサイドエアバッグ装置30のインフレータ32は、それぞれECU50に電気的に接続されており、ECU50によって制御される。ECU50は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び入出力I/F(Inter Face)を含んで構成されている。また、ECU50は、衝突センサ52と電気的に接続されている。
【0039】
ECU50は、衝突センサ52からの情報に基づいて、自車両である自動車に対する前面衝突及び側面衝突を検知又は予測可能とされている。ECU50は、衝突センサ52からの情報に基づいて前面衝突を検知又は予測した場合に、プリテンショナ28のモータ28Mを作動させるようになっている。また、ECU50は、衝突センサ52からの情報に基づいて側面衝突を検知又は予測した場合に、インフレータ32を作動させるようになっている。
【0040】
(実施形態の作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
ECU50は、衝突センサ52からの情報に基づいて側面衝突を検知又は予測すると、インフレータ32を作動させる。これにより、サイドエアバッグ34がガス供給を受けると、図1及び図2に示されるように、サイドエアバッグ34が着座乗員Dに対して車両幅方向外側において膨張展開される。このとき、サイドエアバッグ34の一部を構成する上部チャンバ34Hは、ショルダベルト22Sの上部22S1後面に当接して着座乗員Dの頭部Hに対する側方側に至るように、膨張展開される。これにより、上部チャンバ34Hは、着座乗員Dの頭部Hを拘束する際にショルダベルト22Sから反力を受けることができる。このため、上部チャンバ34Hは、ショルダベルト22Sから反力を受けない場合に比べ、低い圧力で着座乗員Dの頭部Hを拘束でき、拘束のために必要な容量も小さくて済む。一方、サイドエアバッグ34の他の一部を構成する下部チャンバ34Pは、着座乗員Dの腰部Pに対する側方側で膨張展開される。
【0042】
また、図1に示されるように、上部チャンバ34Hと下部チャンバ34Pとを繋ぐ繋ぎ部34Dには、シート前方側からシート後方側へ抉られたえぐり部36が形成されている。これにより、上部チャンバ34H及び下部チャンバ34Pを互いに異なる折り畳み方で折り畳むことが可能になっている。そして、本実施形態では、下部チャンバ34Pは、上部チャンバ34Hよりも、膨張展開された場合の展開速度が速くなる折り畳み方で折り畳まれている。このため、サイドエアバッグ34がガス供給を受けた場合、下部チャンバ34Pは、上部チャンバ34Hよりも速い展開速度で膨張展開される。
【0043】
より具体的に説明すると、図4Aに示されるように、上部チャンバ34Hの内ロール折り部34Rは、着座乗員D側(図4Aでは図中上側)の面を内側に巻き込むように折り畳むロール折りによって折り畳まれている。このため、上部チャンバ34Hの内ロール折り部34Rが膨張展開される際には、上部チャンバ34Hの内ロール折り部34Rにおいて順次巻き解かれる部分が着座乗員D側(図4Aの図中上側)に配置されるので、膨張展開途中の上部チャンバ34Hが図2に示されるショルダベルト22Sに引っ掛かるのを抑制できる。また、図4Bに示されるように、下部チャンバ34Pの蛇腹折り部34Sは、折り返す方向を交互に変えてシート前後方向に折り重ねる蛇腹折りによってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれている。このため、ガス供給を受けた下部チャンバ34Pを、図2に示す着座乗員Dとサイドドアトリム60との間の狭い空間に速く膨張展開させることができる。
【0044】
なお、図1等に示される繋ぎ部34Dにえぐり部36が形成されると、その分だけ膨張展開状態のサイドエアバッグ34の剛性は低下する。しかしながら、ここでは、図2に示されるように、サイドエアバッグ34の膨張展開時に、上部チャンバ34Hの下部をショルダベルト22Sの上部22S1後面に当接させるために、繋ぎ部34Dは下部チャンバ34Pに対してシート幅方向内側に曲げられた状態とする必要があるので、前述した剛性の低下が有効に活かされる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の乗員保護装置10によれば、サイドエアバッグ34において上部チャンバ34Hよりも先に下部チャンバ34Pを膨張展開させることを容易に実現できる。
【0046】
(上記実施形態の変形例)
次に、上記実施形態の変形例について図7A及び図7Bを参照しながら説明する。図7Aは、上部チャンバ34Hの折り畳み方の変形例を断面図で示し、図7Bは、下部チャンバ34Pの折り畳み方の変形例を断面図で示している。なお、図7A及び図7Bでは、基布の断面を簡略化して太線で示すと共に縫製部の図示を省略し、さらに、図を見易くするために内側の隙間を誇張して示している。また、上部チャンバ34H及び下部チャンバ34Pについては、便宜上、上記実施形態と同一符号を付す。
【0047】
上記実施形態の変形例として、上部チャンバ34Hは、図7Aに示されるカクタス折りによって折り畳まれたカクタス折り部34Xを備えると共に、前記カクタス折りがされた状態で着座乗員D側(図7Aでは図中上側)の面を内側に巻き込むように(二点鎖線で示す矢印C方向参照)折り畳むロール折りによってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれた内ロール折り部を備えるような構成でもよい。
【0048】
また、上記実施形態の他の変形例として、下部チャンバ34Pは、図7Bに示されるカクタス折りによって折り畳まれたカクタス折り部34Yを備えると共に、前記カクタス折りがされた状態で図中の二点鎖線Zで示すように折り返す方向を交互に変えてシート前後方向に折り重ねる蛇腹折りによってシート前方側からシート後方側へ向けて折り畳まれた蛇腹折り部を備えるような構成でもよい。
【0049】
図7A及び図7Bに示されるカクタス折り部34X、34Yは、サイドエアバッグ34が膨張展開された場合にシート前後方向前側に配置される部位に設けられている。そして、カクタス折り部34X、34Yは、サイドエアバッグ34の前側の一部をサイドエアバッグ34の他の部分の内側に折り曲げられた状態で入り込ませるカクタス折りによって折り畳まれている。なお、カクタス折りについては、例えば、特許第3357937号公報等で公知であるため、詳細説明を省略する。上記の二つの変形例は、サイドエアバッグ34の折り畳み方が異なる点を除いて上記実施形態と同様の構成とされる。ちなみに、図7A及び図7Bに実線で示される折り方は、内折りとして把握されることもある。
【0050】
上記変形例のように、折り部としてカクタス折り部34X、34Yが追加されることで、サイドエアバッグ34において設定可能な膨張展開の仕方のバリエーションを増やすことができる。このため、例えばシートバック16及びシートベルト装置20(いずれも図1及び図2参照)の構成等に応じて、サイドエアバッグ34の膨張展開の仕方を調整して設定することが容易になる。
【0051】
また、上記実施形態の他の変形例として、下部チャンバ(34P)は、その全部がカクタス折りによって折り畳まれてもよい。すなわち、上部チャンバ(34H)がロール折りによって折り畳まれ、下部チャンバ(34P)がカクタス折りによって折り畳まれてもよい。なお、カクタス折りされた部位はロール折りされた部位に比べて膨張展開された場合の展開速度が速い。
【0052】
また、上記実施形態の変形例として、図5に示されるECU50は、衝突センサ52からの情報に基づいて側面衝突を検知又は予測した場合に、インフレータ32及びプリテンショナ28のモータ28Mを作動させてもよい。
【0053】
また、上記実施形態の変形例として、サイドエアバッグを袋折り(OPW)によって製作し、えぐり部として繋ぎ部にレーザーカットでスリットを形成してもよい。
【0054】
なお、上記実施形態及び上述の変形例は、適宜組み合わされて実施可能である。
【0055】
以上、本発明の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
10 乗員保護装置
16 シートバック
20 シートベルト装置
22L ラップベルト
22S ショルダベルト
22S1 ショルダベルトの上部
34 サイドエアバッグ
34D 繋ぎ部
34H 上部チャンバ
34P 下部チャンバ
34R 内ロール折り部
34S 蛇腹折り部
34X カクタス折り部
34Y カクタス折り部
36 えぐり部
D 着座乗員
H 頭部
P 腰部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B