(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両用ドア制御システム
(51)【国際特許分類】
E05F 15/73 20150101AFI20231011BHJP
E05F 15/611 20150101ALI20231011BHJP
G06F 3/0346 20130101ALI20231011BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20231011BHJP
B60J 5/10 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
E05F15/73
E05F15/611
G06F3/0346 423
G06F3/01 510
B60J5/10 K
(21)【出願番号】P 2020180471
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 博隆
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-14119(JP,A)
【文献】特開2005-170235(JP,A)
【文献】特開2010-159605(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0118729(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00-15/79
G06F 3/0346
G06F 3/01
B60J 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒンジを介して車体に対して回動する回動ドアの開閉を制御する車両用ドア制御システムであって、
前記回動ドアが全閉状態の場合の撮像方向が当該回動ドアの前にいるユーザであるように、前記回動ドアに固定された開扉用撮像装置と、
前記回動ドアが全開状態の場合の撮像方向が当該回動ドアの開閉軌跡外における当該回動ドアの前にいるユーザであるように、前記ヒンジと対向する前記回動ドアの縁辺に固定された閉扉用撮像装置と、
前記回動ドアを開閉するアクチュエータと、
前記開扉用撮像装置または前記閉扉用撮像装置の撮像画像より認識した前記ユーザの合図に基づいて前記アクチュエータを制御して前記回動ドアを開閉する制御装置と、
を有する、
車両用ドア制御システム。
【請求項2】
ヒンジを介して車体に対して回動する回動ドアの開閉を制御する車両用ドア制御システムであって、
前記回動ドアが全閉状態の場合の撮像方向が当該回動ドアの前にいるユーザであるように前記車体または前記回動ドアのいずれか一方に固定された開扉用撮像装置と、
前記回動ドアが全開状態の場合の撮像方向が当該回動ドアの開閉軌跡外における当該回動ドアの前にいるユーザであるように、前記ヒンジと対向する前記回動ドアの縁辺に固定された閉扉用撮像装置と、
前記回動ドアを開閉するアクチュエータと、
前記回動ドアの全閉状態と、前記全閉状態でない非全閉状態と、を検出可能であるとともに、前記開扉用撮像装置または前記閉扉用撮像装置の撮像画像より認識した前記ユーザの合図に基づいて前記アクチュエータを制御して前記回動ドアを開閉する制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
前記非全閉状態の場合には、前記閉扉用撮像装置からの撮像画像のみを前記合図の認識に用いる画像限定部を有する、
車両用ドア制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用ドア制御システムであって、
前記制御装置は、
前記回動ドアが全閉状態の場合には前記開扉用撮像装置のみ作動させ、
前記回動ドアが前記全閉状態でない非全閉状態の場合には前記閉扉用撮像装置のみ作動させる、
車両用ドア制御システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一つに記載の車両用ドア制御システムであって、
前記回動ドアは、跳ね上げ式のバックドアである、
車両用ドア制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドア制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、両手に荷物を抱えたままでもドアを開閉できるように、ドアの自動開閉技術が考案されている。例えば、特許文献1には、車両に取り付けたカメラでドアの周辺を撮像し、撮像画像から人の視線の動きを検知したタイミングでドアの開閉制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術では、例えば、車両の跳ね上げ式バックドアに適用した場合、ユーザがカメラに視線を向けることに集中しようとするあまり、跳ね上げられたバックドアが頭上にあるにもかかわらず、バックドアの存在を忘れ、閉まるドアで頭部など体の一部をぶつけてしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、車両のドアを自動で閉じる際に当該ドアに人が衝突する可能性を低減することができる車両用ドア制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の第1の発明は、ヒンジを介して車体に対して回動する回動ドアの開閉を制御する車両用ドア制御システムである。前記車両用ドア制御システムは、前記回動ドアが全閉状態の場合の撮像方向が当該回動ドアの前にいるユーザであるように、前記回動ドアに固定された開扉用撮像装置と、前記回動ドアが全開状態の場合の撮像方向が当該回動ドアの開閉軌跡外における当該回動ドアの前にいるユーザであるように、前記ヒンジと対向する前記回動ドアの縁辺に固定された閉扉用撮像装置と、前記回動ドアを開閉するアクチュエータと、前記開扉用撮像装置または前記閉扉用撮像装置の撮像画像より認識した前記ユーザの合図に基づいて前記アクチュエータを制御して前記回動ドアを開閉する制御装置と、を有する、車両用ドア制御システムである。
【0007】
次に、本発明の第2の発明は、ヒンジを介して車体に対して回動する回動ドアの開閉を制御する車両用ドア制御システムである。前記車両用ドア制御システムは、前記回動ドアが全閉状態の場合の撮像方向が当該回動ドアの前にいるユーザであるように前記車体または前記回動ドアのいずれか一方に固定された開扉用撮像装置と、前記回動ドアが全開状態の場合の撮像方向が当該回動ドアの開閉軌跡外における当該回動ドアの前にいるユーザであるように、前記ヒンジと対向する前記回動ドアの縁辺に固定された閉扉用撮像装置と、前記回動ドアを開閉するアクチュエータと、前記回動ドアの全閉状態と、前記全閉状態でない非全閉状態と、を検出可能であるとともに、前記開扉用撮像装置または前記閉扉用撮像装置の撮像画像より認識した前記ユーザの合図に基づいて前記アクチュエータを制御して前記回動ドアを開閉する制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記非全閉状態の場合には、前記閉扉用撮像装置からの撮像画像のみを前記合図の認識に用いる画像限定部を有する、車両用ドア制御システムである。
【0008】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る車両用ドア制御システムであって、前記制御装置にて、前記回動ドアが全閉状態の場合には前記開扉用撮像装置のみ作動させ、前記回動ドアが前記全閉状態でない非全閉状態の場合には前記閉扉用撮像装置のみ作動させる、車両用ドア制御システムである。
【0009】
次に、本発明の第4の発明は、上記第1の発明~第3のいずれか1つに係る車両用ドア制御システムであって、前記回動ドアが、跳ね上げ式のバックドアである、車両用ドア制御システムである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、ユーザが全開状態の回動ドアを閉める際、当該回動ドアの所定位置に固定された開扉用撮像装置の撮像方向は車体上方となるため、閉扉に係る合図を送る対象は、閉扉用撮像装置にならざるを得ない。そのため、必然的にユーザが回動ドアの開閉軌跡から外に出ることになり、自動で閉じる回動ドアに頭部をぶつける可能性を低減することができる。
【0011】
第2の発明によれば、ユーザが全開状態の回動ドアを閉める際、画像認識する撮像画像は限定されていて、開扉用撮像装置の撮像画像に対する画像認識はなされないため、閉扉に係る合図を送る対象は、閉扉用撮像装置にならざるを得ない。そのため、必然的にユーザが回動ドアの開閉軌跡から外に出ることになり、自動で閉じる回動ドアに頭部をぶつける可能性を低減することができる。また、画像を限定する(あるいはしない)という場合分けを、回動ドアが非全閉状態かそうでないかという単純な条件で決めるので、例えば回動ドアの開閉角度を検出しつつ所定の角度範囲内かそうでないかといった条件で場合分けを決める方法と比較して、低コストで課題を解決するシステムを実現できる。
【0012】
第3の発明によれば、画像認識を行う必要のない撮像装置は電力を消費せずに済むので、節電することができる。
【0013】
第4の発明によれば、跳ね上げ式のバックドアは死角に入りやすく、ラゲッジに荷物を置き終わって気が緩んでいるユーザ、あるいは、ラゲッジから荷物を取り出し両手が塞がった状態でバックドアを閉めることしか考えていないユーザにその存在が忘れられて、衝突する可能性が高い。このような跳ね上げ式のバックドアとユーザとの衝突を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る車両用ドア制御システム全体(全閉状態)の概略構成を説明する図である。
【
図2】第1の実施形態に係る車両用ドア制御システム全体(全開状態)の概略構成を説明する図である。
【
図3】第1の実施形態に係る車両用ドア制御システムのブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係る制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】第1の実施形態に係る
図4に示すフローチャートの[アクチュエータ制御]の詳細を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態に係る車両用ドア制御システム全体(全閉状態)の概略構成を説明する図である。
【
図7】第2の実施形態に係る車両用ドア制御システム全体(全開状態)の概略構成を説明する図である。
【
図8】第2の実施形態に係る車両用ドア制御システムのブロック図である。
【
図9】第2の実施形態に係る制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〈第1の実施形態〉
まず、本発明の一実施形態に係る車両用ドア制御システム100について、
図1~
図3を用いて、当該システム概略、当該システムを構成する各装置の詳細を説明する。
図1および
図2は、当該システムの模式図であり、
図3は、当該システムのブロック図を示す。
【0016】
図1、2に示すように、本発明の車両用ドア制御システム100が適用された車両は、跳ね上げ式のバックドア40を備えている。バックドア40は、ヒンジ(図示せず)を介して車体に取り付けられており、
図1では、バックドア40が全閉状態の場合を示し、
図2では、バックドア40が全開状態の場合を示している。つまり、バックドア40は、ヒンジを介して、
図2における一点鎖線で示すような開閉軌跡Kを描いて車体に対して回動する。なお、バックドア40の全閉状態とは、バックドア40側のロック機構に、車体側のストライカ47が完全にはまり込んだ状態を言う。また、全閉状態以外の状態、例えば、ストライカ47がはまり込んではいるが、完全ではない半ドアの状態や、そもそもストライカ47がはまってすらいない状態(全開状態も含む)を非全閉状態と言う。
【0017】
次に、
図3を用いて車両用ドア制御システム100の構成について説明する。
図3に示すように、車両用ドア制御システム100は、制御装置10、上カメラ20、下カメラ25、アクチュエータ30、バックドア40、ドアロックセンサ45、電子キー50からなる。なお、各構成の車両における位置関係については、適宜、
図1、2の模式図にて確認されたい。
【0018】
ドアロックセンサ45は、バックドア40が全閉状態であることを検出するセンサである。具体的には、バックドア40のドアロックは、バックドア40側に設けたロック機構(ラッチ)に対し、車体側に取り付けたストライカ47を引っ掛けることで実現される。ドアロックセンサ45は、ロック機構に設けたスイッチの電気的な接触の有無で全閉か否かを検出する。例えば、ドアロックセンサ45は、ラッチが掛かっていないフルオープン状態、および、ラッチは掛かっているがフルラッチではない半ドア状態ではスイッチが入らずOFFを、フルラッチが掛かったロック状態でスイッチが入ってONを検知し、検知信号を後述する制御装置10に出力する。
【0019】
上カメラ20は、開扉用撮像装置に相当し、バックドア40が全閉状態の場合の撮像方向がバックドア40の前にいるユーザであるように、バックドア40に固定されている(
図1参照)。主たる被写体となるのはユーザの頭部であり、バックドア40の全閉状態においてユーザの頭部が映るように、バックドア40側に固定されるのが望ましい。ただし、バックドア40とともにヒンジを軸として回転するため、バックドア40の全開状態においては、車体上方を撮像することになる。上カメラ20は、後述する制御装置10によって電源の管理がされており、電源が入った状態においては常時、その撮像画像は制御装置10に出力される。なお、カメラの性能により決まる解像度に基づいて距離B、距離Dが決まり、カメラに用いられるレンズによりカメラ視野が決まる(
図1、2参照)。下カメラ25についても同様であり、これら距離B、距離D、カメラ視野の詳細については後述する。
【0020】
下カメラ25は、閉扉用撮像装置に相当し、バックドア40が全開状態の場合の撮像方向がバックドア40の開閉軌跡K外におけるバックドア40の前にいるユーザであるように、ヒンジと対向するバックドア40の縁辺に固定されている(
図2参照)。上カメラ20と同様、主たる被写体となるのはユーザの頭部であり、バックドア40の全開状態においてユーザの頭部が映るように、バックドア40側に固定されるのが望ましい。ただし、バックドア40とともにヒンジを軸として回転するため、バックドア40の全閉状態においては、車体下方を撮像することになる。下カメラ25の撮像画像についても、上カメラ20の撮像画像と同様に、下カメラ25の電源が入った状態においては常時、後述する制御装置10に出力される。
【0021】
電子キー50は、ユーザに携帯されるものであり、車両の所有者として認証されるための手段となる。電子キー50が、通信可能エリアに入ると、制御装置10との無線通信が開始され、認証行為が始まる。
【0022】
アクチュエータ30は、電気エネルギーを自身の機械的な運動に変えてバックドア40に伝え、車体に対するバックドア40の回動を実現する。例えば、ダンパーステーに電動モータを搭載し、電動モータを駆動することによりシリンダを伸縮させてバックドア40を動かす(
図1、2参照)。なお、バックドア40が全開状態になると電動モータの負荷が上がり電流値が上がるので、これを検知することでバックドア40の全開を検知することができる。検知信号は、後述する制御装置10に出力される。
【0023】
制御装置10は、上カメラ20または下カメラ25の撮像画像より認識したユーザの視線に基づいてアクチュエータ30を制御してバックドア40を開閉する。画像認識について具体的に説明すると、制御装置10は、入力された撮像画像に対し画像処理を行い、画像内に存在する人の顔を認識する。次に、制御装置10は、認識された顔と、記憶済みの車両の所有者の顔との照合を行い、顔認証を行う。
【0024】
さらに、制御装置10は、顔のなかの眼球部分を特定し、眼球の向きを演算することでユーザの視線がカメラの方向を向いているかを検出する。なお、制御装置10は、撮像画像における両目の距離の計算結果から、ユーザがカメラからどれだけ離れているかを推定し、ユーザが一定距離以上カメラに近付いている場合(距離A以下、距離C以下の場合(
図1、2参照))は、ユーザの合図と認識しない。これは、カメラに極端に近付いた状態で自動でバックドア40を開閉してしまうと、ユーザと衝突するおそれがあるからである。このような画像認識を終えると、制御装置10は、アクチュエータ30によりバックドア40の開閉を制御する。
【0025】
以上の構成を踏まえ、
図1および
図2にて車両用ドア制御システム100を模式的に説明する。上カメラ20は、
図1に示すように、バックドア40の縁辺のうちヒンジが取り付けられた縁辺付近に固定されている。したがって、バックドア40が全閉状態では、上カメラ20の撮像方向は、車両後方、つまり、バックドア40の前にいるユーザとなる。
【0026】
一方で上カメラ20は、
図2に示すように、バックドア40が全開状態になると、バックドア40とともにヒンジを軸として回転するため、当該上カメラ20の撮像方向は、車両上方となる。通常の使用状態において、バックドア40が全開状態ならば、上カメラ20によって車両後方に立つユーザが撮像されることはない。
【0027】
下カメラ25は、
図1に示すように、バックドア40の縁辺であってヒンジと対向する縁辺に固定されている。バックドア40が全閉状態では、車両下方を撮像することになる。ただ、車両下方といっても、光が入り込む隙間がないほど車体に近接しているため、撮像画像自体は真っ暗なものとなる。つまり、通常の使用状態において、バックドア40が全閉状態ならば、下カメラ25によって車両後方に立つユーザが撮像されることはない。
【0028】
一方で下カメラ25は、
図2に示すように、バックドア40が全開状態になると、バックドア40とともにヒンジを軸として回転するため、下カメラ25の撮像方向は、車両後方、つまり、バックドア40の開閉軌跡K外における当該バックドア40の前にいるユーザになる。
【0029】
第1の実施形態に係る車両用ドア制御システム100では、これら上カメラ20および下カメラ25の撮像画像より認識したユーザの合図に基づいてアクチュエータ30を制御してバックドア40を開閉する。具体的には、ユーザは、バックドア40を開く際には、車両後方に立って上カメラ20に視線を送るだけでよい。上カメラ20の撮像画像からユーザの視線が検知されると、それがユーザの開扉に係る合図と認識され、アクチュエータ30によってバックドア40が自動で開かれる。このようにユーザは、荷物で両手が塞がれていても、いったんその荷物を置くことなくバックドア40を開けることができる。
【0030】
一方でユーザは、バックドア40を閉じる際には、上述した両カメラの物理的な位置関係から、下カメラ25に視線を送らざるを得ない。上カメラ20は、車両上方を向いているため視線を送ることはできないからである。下カメラ25の撮像画像からユーザの視線が検知されると、それがユーザの閉扉に係る合図と認識され、同様にアクチュエータ30によってバックドア40が自動で閉じられる。
【0031】
このように、ユーザが全開状態のバックドア40を閉める際、当該バックドア40に固定された上カメラ20の撮像方向は車体上方となるため、視線を送る対象は、下カメラ25にならざるを得ない。そのため、必然的にユーザがバックドア40の開閉軌跡Kから外に出ることになるため、自動で閉じるバックドア40に頭部をぶつける可能性を低減することができる。しかも、跳ね上げ式のバックドア40は、全開状態においてはユーザの頭部より上に位置するため、比較的死角に入りやすい。つまり、ラゲッジに荷物を置き終わって気が緩んでいるユーザ、あるいは、ラゲッジから荷物を取り出し両手が塞がった状態でバックドア40を閉めることしか考えていないユーザにその存在が忘れられがちである。このような跳ね上げ式のバックドア40とユーザとの衝突を低減することができる。
【0032】
なお、本発明の車両用ドア制御システム100では、撮像画像からユーザの視線を認識するにあたって、両カメラにおいて、有効な撮像範囲が決められている。具体的には、
図1に示すように、まず、カメラのレンズ(広角、標準、望遠)で決まるカメラ視野があり、この範囲でしか撮像画像は得られない。次に、得られた撮像画像の解像度が高ければ高いほど、より正確にユーザの視線(眼球)を認識できるが、一般にカメラから離れた被写体ほど解像度は低くなるので、その限界(ユーザの視線を画像認識できない)が決まる。これを表したのが距離B、距離Dである。さらに、撮像画像で認識された両目の距離(左目と右目の間の距離)からカメラとユーザとの距離を推定することもでき、ユーザがカメラに一定距離以上近付いた場合、視線として検知できたとしてもそれを合図と認識しないこともできる。これを表したのが距離A、距離Cであり、予め適切な距離が設定されている。これらの距離A、距離B(あるいは距離C、距離D)、そして、カメラ視野で決まるのが有効な撮像範囲である。
【0033】
次に、
図4、
図5に示すフローチャートを用いて、制御装置10の処理の流れを説明する。制御装置10は、所定時間毎にて、
図4に示す制御フローを起動し、ステップS100に処理を進める。
【0034】
ステップS100にて制御装置10は、通信可能エリアに入った電子キー50に対し認証を行い、電子キー50の認証ができた場合(Yes)はステップS110へ処理を進める。なお、制御装置10は、認証ができなかった場合(No)は処理を終了し、次に通信可能となる電子キー50を待ち受ける。
【0035】
ステップS110にて制御装置10は、カメラを作動する。上カメラ20および下カメラ25の両方が作動し、上カメラ20および下カメラ25で撮像された画像それぞれが、制御装置10に出力される。ただし、上述したように、バックドア40が全閉状態においては、下カメラ25の撮像画像は真っ暗であり、全開状態においては、上カメラ20の撮像画像は例えば空になり、そこに人の顔が映り込むことはない。
【0036】
ステップS120にて制御装置10は、2つの入力画像に対し画像内で人の顔が存在するか画像処理を行い、人の顔が認識できた場合に、その認識された顔と記憶済みの車両の所有者の顔との照合を行い、顔認証を行う。顔認証に成功した場合(Yes)はステップS130へ処理を進める。なお、制御装置10は、顔認証ができなかった場合(No)はステップS170へ処理を進める。
【0037】
ステップS130にて制御装置10は、顔のなかの眼球部分を特定し、視線の検出を行う。視線を検出した場合(Yes)はステップS140へと処理が進められる。なお、制御装置10は、視線が検出されない場合(No)はステップS170へ処理を進める。
【0038】
ステップS140にて制御装置10は、ドアロックセンサ45からの検知信号に基づいて、バックドア40がロック状態であるか否かを判定する。制御装置10は、ロック状態である場合(Yes)はステップS150へ処理を進め、ロック状態でない場合(No)はステップS160へ処理を進める。
【0039】
ステップS150に進めた場合、制御装置10は、閉フラグをONに設定したうえでステップS500へ処理を進める。一方、ステップS160に進めた場合、制御装置10は、閉フラグをOFFに設定したうえでステップS500へ処理を進める。
【0040】
ステップS500にて制御装置10は、[アクチュエータ制御]処理を実行してステップS170へ処理を進める。なお、[アクチュエータ制御]処理(
図5)の詳細については後述する。
【0041】
ステップS170にて制御装置10は、カメラを停止する。上カメラ20および下カメラ25の両方の電源が切れて撮像画像の入力はなくなり、処理は終了する。
【0042】
[アクチュエータ制御の処理(
図5)]
次に
図5を用いて、
図4に示すフローチャートのステップS500の[アクチュエータ制御]処理の詳細を説明する。
図4に示すフローチャートのステップS500の処理を実行する際、制御装置10は
図5に示すステップS510へ処理を進める。
【0043】
ステップS510にて制御装置10は、閉フラグがONであるか否かを判定する。制御装置10は、閉フラグがONである場合(Yes)はステップS520へ処理を進め、ONでない場合(No)はステップS530へ処理を進める。
【0044】
なお、制御装置10にとっては、ユーザの視線を検出した時点では、それが開扉に係る合図なのか、あるいは、閉扉に係る合図なのかは区別していない。制御装置10は、ユーザの視線に加えて、閉フラグのON、OFFの情報を取得することにより、合図の種類を区別する。つまり、閉フラグがONであれば開扉に係る合図と認識し、閉フラグがOFFであれば閉扉に係る合図と認識する。
【0045】
ステップS520に進めた場合、制御装置10は、開扉に係る合図に基づいて、アクチュエータ30によりバックドア40を開ける開制御を開始し、ステップS524へ処理を進める。
【0046】
ステップS524にて制御装置10は、アクチュエータ30の電動モータの電流値に基づいて、バックドア40が全開状態になったか否かを判定する。制御装置10は、全開状態になった場合(Yes)はステップS540へ処理を進め、全開状態でない場合(No)はステップS526へ処理を進める。
【0047】
ステップS526に進めた場合、制御装置10は、バックドア40を開ける開制御を続行し、ステップS524の処理へ戻る。つまり、アクチュエータ30の制御はドアが全開状態になるまで続けられる。
【0048】
ステップS540に進めた場合、制御装置10は、バックドア40を開ける開制御を停止し、アクチュエータ30制御処理を終了する。
【0049】
ステップS530に進めた場合、制御装置10は、閉扉に係る合図に基づいて、アクチュエータ30によりバックドア40を閉める閉制御を開始し、ステップS532へ処理を進める。
【0050】
ステップS532にて制御装置10は、ドアロックセンサ45からの検出信号に基づいて、ドアロックを検知したか否かを判定する。制御装置10は、ドアロックを検知した場合(Yes)はステップS540へ処理を進め、ドアロックを検知しない場合(No)はステップS534へ処理を進める。
【0051】
ステップS534に進めた場合、制御装置10は、バックドア40を閉める閉制御を続行し、ステップS532の処理へ戻る。つまり、アクチュエータ30の制御はドアが全閉状態になるまで続けられる。
【0052】
ステップS540に進めた場合、制御装置10は、バックドア40を閉める閉制御を停止し、アクチュエータ30制御処理を終了する。
【0053】
以上、第1の実施形態に係る車両用ドア制御システム100を説明したが、例えば、以下のような各種の形態を採用することができる。
【0054】
本実施形態では、電子キー50の認証が成功した場合に、上カメラ20および下カメラ25をともに作動させたが、バックドア40が全閉状態の場合は上カメラ20のみを作動し、全開状態の場合は下カメラ25のみを作動するようにしてもよい。これにより、画像認識を行う必要のないカメラをわざわざ作動して無駄な電力を消費せずに済むので、節電することができる。また、上カメラ20および下カメラ25をともに作動させると、バックドア40の全開状態において、上カメラ20に太陽が映り込む場合があるが、太陽光によりカメラが故障してしまうおそれがある。したがって、必要のないカメラは作動しないことにより、太陽光による故障を防ぐことができる。
【0055】
〈第2の実施形態〉
以下、本発明の一実施形態に係る車両用ドア制御システム200について、システム概略、システムを構成する各装置の詳細、制御の流れの順に説明する。第2の実施形態では、制御装置70が、バックドア40の開閉状態に応じて、ユーザの合図に用いる撮像画像を取捨選択している点が第1の実施形態と異なり、これにより課題を解決している。
【0056】
上カメラ20は、
図6に示すように、第1の実施形態と異なり、車体のリアヘッダに固定されている。したがって、上カメラ20に対し何ら処置を行わなければ、全閉状態でも全開状態でも、車両後方を撮像することになり、車両後方にて、開扉しようとしているユーザはもちろん、閉扉しようとするユーザまでも撮像してしまう。しかし、上カメラ20については、
図7に示すように、バックドア40が全開状態では作動させず、そもそも撮像画像を取得しないようにすることで課題を解決している。
【0057】
下カメラ25は、
図7に示すように、第1の実施形態と同様、バックドア40の縁辺であってヒンジと対向する縁辺に固定され、バックドア40が全閉状態の撮像方向は車両下方、バックドア40が全開状態の撮像方向はバックドア40の前にいるユーザとなる。
【0058】
第2の実施形態に係る車両用ドア制御システム200も、第1の実施形態と同様、これら上カメラ20および下カメラ25の撮像画像より認識したユーザの合図に基づいてアクチュエータ30を制御してバックドア40を開閉する。具体的には、ユーザは、バックドア40を開く際には、車両後方に立って上カメラ20に視線を送る。
【0059】
一方でユーザは、バックドア40を閉じる際には、上カメラ20に視線を送ること自体はできるが、上述したように、バックドア40が全開状態では上カメラ20は作動しないように制御されるので、視線を送る対象は、下カメラ25にならざるを得ない。そのため、必然的にユーザがバックドア40の開閉軌跡Kから外に出ることになるため、自動で閉じるバックドア40に頭部をぶつける可能性を低減することができる。また、画像認識を行う必要のないカメラは電力を消費せずに済むので、節電することができる。
【0060】
次に、
図8を用いて第2の実施形態に係る車両用ドア制御システム200の構成について説明する。
図8に示すように、車両用ドア制御システム200は、制御装置70、上カメラ20、下カメラ25、アクチュエータ30、バックドア40、ドアロックセンサ45、電子キー50からなる。なお、第1の実施形態に係る車両用ドア制御システム100の各構成と共通するものについては、同じ符号を付して対応させ、その詳細な説明を省略する。
【0061】
制御装置70は、CPU71、RAM72、記憶装置73、タイマ74等を有している。制御装置70(CPU71)には、種々の装置からの検出信号が入力され制御装置70(CPU71)は、アクチュエータ30への制御信号を出力する。なお、制御装置70の入出力は、上記の装置やアクチュエータ30に限定されるものではない。制御装置70は、種々の装置からの撮像画像や検出信号に基づいてユーザの開扉または閉扉に係る合図を認識し、アクチュエータ30を制御する。記憶装置73は、例えばFlash-ROM等の記憶装置であり、カメラの制御や画像処理等を実行するためのプログラムやデータ等が記憶されている。また制御装置70(CPU71)は、画像限定部71Aを有しているが、これらの詳細については後述する。
【0062】
次に、
図9に示すフローチャートを用いて、制御装置70の処理の流れを説明する。制御装置70(CPU71)は、所定時間毎にて、
図9に示す制御フローを起動し、ステップS200に処理を進める。
【0063】
ステップS200にて制御装置70は、通信可能エリアに入った電子キー50に対し認証を行い、電子キー50の認証ができた場合(Yes)はステップS210へ処理を進める。なお、制御装置70は、認証ができなかった場合(No)は処理を終了し、次に通信可能となる電子キー50を待ち受ける。
【0064】
ステップS210にて制御装置70は、ドアロックセンサ45からの検知信号に基づいて、バックドア40がロック状態であるか否かを判定する。制御装置70は、ロック状態である場合(Yes)はステップS220へ処理を進め、ロック状態でない場合(No)はステップS230へ処理を進める。
【0065】
ステップS220に進めた場合、制御装置70は、上カメラ20を作動してステップS222へ処理を進める。
【0066】
ステップS230に進めた場合、制御装置70は、下カメラ25を作動してステップS232へ処理を進める。ステップS230の処理を実行している制御装置70(CPU71)は、全閉状態の場合には、開扉用撮像装置からの撮像画像のみを合図の認識に用いる画像限定部71A(
図8参照)に相当している。
【0067】
つまり、バックドア40の全閉状態において、制御装置70に入力されるのは、上カメラ20の撮像画像である。したがって、ユーザは、バックドア40を開く際には、車両後方に立って上カメラ20に視線を送る。一方、バックドア40が非全閉状態では、入力画像が下カメラ25の撮像画像だけに限定され、制御装置70に入力されるのは、下カメラ25の撮像画像となる。したがって、ユーザは、全開状態のバックドア40を閉じる際には、下カメラ25に視線を送らざるを得ない。上カメラ20に視線を送ることはできても、上カメラ20はそもそも作動しておらず、その撮像画像は制御装置70に入力されないため、何も起こらないからである。
【0068】
このように、バックドア40が全閉状態かという単純な条件で、上カメラ20のみを作動させるか、あるいは、下カメラ25のみを作動させるかという場合分けをしている。その結果、バックドア40が非全閉状態の場合には、下カメラ25からの撮像画像のみが閉扉に係る合図の認識に用いられる。この単純な条件によれば、例えばバックドア40の開閉角度を検出しつつ所定の角度範囲内かそうでないかといった条件で場合分けを決める方法と比較して、低コストで課題を解決するシステムを実現できる。
【0069】
ステップS222にて制御装置70は、閉フラグをONに設定したうえでステップS240へ処理を進める。
【0070】
ステップS232にて制御装置70は、閉フラグをOFFに設定したうえでステップS240へ処理を進める。
【0071】
ステップS240にて制御装置70は、上カメラ20または下カメラ25いずれか一方の入力画像に対し画像内で人の顔が存在するか画像処理を行い、人の顔が認識できた場合に、その認識された顔と記憶済みの車両の所有者の顔との照合を行い、顔認証を行う。顔認証に成功した場合(Yes)はステップS250へ処理を進める。なお、制御装置70は、顔認証ができなかった場合(No)はステップS270へ処理を進める。
【0072】
ステップS250にて制御装置70は、顔のなかの眼球部分を特定し、視線の検出を行う。視線を検出した場合(Yes)はステップS500へと処理が進められる。なお、制御装置70は、視線が検出されない場合(No)はステップS270へ処理を進める。
【0073】
ステップS500にて制御装置70は、[アクチュエータ制御]処理を実行してステップS270へ処理を進める。なお、[アクチュエータ制御]処理(
図5)の詳細については省略する。
【0074】
ステップS270にて制御装置70は、カメラを停止する。上カメラ20または下カメラ25の電源が切れて撮像画像の入力はなくなり、処理は終了する。
【0075】
以上、第2の実施形態に係る車両用ドア制御システム200を説明したが、例えば、以下のような各種の形態を採用することができる。
【0076】
本実施形態では、ドアロックの検知結果に基づいて、上カメラ20または下カメラ25のいずれか一方を作動させたが、両カメラを作動させて制御装置70に撮像画像を入力したうえで、ロック状態でない場合は、画像限定部71Aが上カメラ20の撮像画像については捨てて、下カメラ25の撮像画像のみ用いるようにしてもよい。
【0077】
以上、本発明を実施するための形態について、上述した各実施形態について説明した。しかしながら、当業者であれば、本発明の目的を逸脱することなく種々の代用、手直し、あるいは変更が可能であることは明らかである。すなわち、本発明を実施するための形態は、本明細書に添付した特許請求の範囲の精神および目的を逸脱しない全ての代用、手直し、あるいは変更を含みうるものである。例えば、本発明を実施するための形態として、以下のような各種の形態を採用することができる。
【0078】
(1)上述した各実施形態では、ヒンジを介して車体に対して回動する回動ドアとして跳ね上げ式のバックドア40を例に説明した。しかしながら、自動で閉まる際に、ユーザがその存在を忘れ、頭部など体の一部をぶつけてしまうおそれがある回動ドアなら同様に本発明の車両用ドア制御システムが適用でき、例えば横開き式のバックドアやガルウィングのドアにも適用できる。
【0079】
(2)また、ユーザの合図として、視線を送ることを例に説明した。しかしながら、既存の画像認識技術で認識できる身体表現であればよく、例えば一旦カメラの方向に凝視したうえで視線を上に(または下に)ずらしたり、舌を出したり、うなずいたり、笑顔を送ったりすることで、これらをユーザの合図としてもよい。
【0080】
(3)また、下カメラ25の固定位置として
図2や
図7に示すような、バックドア40の外面を例に説明した。しかしながら、バックドア40の全開状態の撮像方向が当該バックドア40の開閉軌跡K外における当該バックドア40の前にいるユーザであればよく、例えばカメラ本体をバックドア40の内部に収納してレンズ部分だけを露出させるような取り付けかたでもよい。
【0081】
(4)また、ユーザの合図を検出する前段階として電子キー50の認証や顔認証を行うものとして説明したが、これらを省略した制御としても良い。
【0082】
(5)また、撮像範囲を決める要素として距離A(ユーザが距離A以上カメラに近付いた場合、視線として検知できたとしてもそれを合図と認識しない)も用いた例を説明したが、必ずしも撮像範囲を決める要素として距離Aを採用しなくても良い。
【符号の説明】
【0083】
10 制御装置
20 上カメラ
25 下カメラ
30 アクチュエータ
40 バックドア
50 電子キー
100 車両用ドア制御システム
K 開閉軌跡