(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】気液分離器
(51)【国際特許分類】
B01D 45/08 20060101AFI20231011BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20231011BHJP
B01D 29/01 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B01D45/08 Z
H01M8/04 N
B01D29/04 510A
B01D29/04 530A
(21)【出願番号】P 2020187150
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】荒川 孝一
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-093359(JP,A)
【文献】特開2008-053158(JP,A)
【文献】特開2020-177729(JP,A)
【文献】特開2010-272337(JP,A)
【文献】特開2020-181773(JP,A)
【文献】実開平04-138198(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0242481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 45/08
H01M 8/04
F04B 39/16
B01D 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水ガスが供給されるハウジングと、
前記ハウジングの上部に備えられ含水ガスから水を分離する気液分離部と、
前記ハウジングの下部に備えられ前記気液分離部で分離された水を受け止めて貯留する平面視で環状の第1貯水部と、
前記ハウジングの底部で前記第1貯水部より下側に配置され、前記第1貯水部からの水が供給される第2貯水部と、
前記第2貯水部の底部に連通する排水流路を開閉することで前記第2貯水部に貯留された水の排出および排出の停止を可能にする弁機構と、
前記第1貯水部の内側に配置され、前記第1貯水部の水をオーバーフローするまで貯留し、オーバーフローした水を前記第2貯水部に案内する筒状壁と、
前記筒状壁の外壁面から外方に離間した状態で前記筒状壁と対向配置された筒状の縦壁部、及び、前記縦壁部の上端を塞ぐ蓋状部を一体的に形成した仕切部材とを備えている気液分離器。
【請求項2】
前記筒状壁の前記外壁面と前記縦壁部の内壁面との間に、前記第1貯水部から前記第2貯水部へと水が流れるようにする複数のリブ体を、前記外壁面と前記内壁面との少なくとも一方に有している請求項
1に記載の気液分離器。
【請求項3】
側面視において、前記縦壁部が、前記縦壁部の下端から前記筒状壁の上端より上側まで形成されたスリットを有している請求項
1又は
2に記載の気液分離器。
【請求項4】
前記筒状壁の内周に、前記筒状壁の上端をオーバーフローした水を前記第2貯水部に案内する排水誘導リブを形成している請求項1~
3のいずれか一項に記載の気液分離器。
【請求項5】
前記仕切部材は、前記気液分離部と前記第1貯水部との間に、前記気液分離部で分離された水に含まれる塵埃を除去するフィルタを備えている請求項1~
4のいずれか一項に記載の気液分離器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液分離器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスから水を分離する気液分離器として特許文献1と、特許文献2とに記載されるものが存在する。
【0003】
特許文献1に記載される気液分離器は、ハウジングの上部でアノードガスから水を分離してハウジングの下部の貯水部に回収し、貯水部に連通する排水流路を、電磁開閉弁によって開放することで、貯水部に貯留された水の排出を可能に構成している。
【0004】
また、特許文献2に記載される気液分離器は、下部に弁装置を備えており、この弁装置を開放することで気液分離器の下部の水を排出できるように構成されている。特に、この弁装置は、弁本体に流体を導入する流体導入部に加熱装置を配置しており、弁装置が凍結した場合には、加熱装置による熱で解凍を可能にするように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-155334号公報
【文献】特開2019-139935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、車両に備えた燃料電池のカソードガスから水を分離する気液分離器では、温度が氷点下まで低下する屋外に車両を駐車することもあり、このような場合に、燃料電池の発電停止後の水滴の落下等の理由により気液分離器の底部に水が残留している場合には、電磁開閉弁の部位で水が凍結するおそれがある。
【0007】
このような場合、燃料電池による発電を開始した直後に、新たに発生した水の排出が困難になり得る。
【0008】
このような不都合に対し、特許文献2のように気液分離器に加熱装置を備え、加熱装置からの熱で弁装置の凍結を解除することで水の排出を可能にすることも考えられるが、加熱装置を備えるものでは、製造コストを上昇させ、発電したエネルギーを消費するため車両の航続距離を低下させるものであった。また、弁装置の凍結解除までの時間は水を排出することはできないという不都合を生じてしまう。
【0009】
このような理由から、底部の水を確実に排出できると共に、燃料電池の発電停止後の電磁開閉弁近傍への水の貯留を防止する気液分離器が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る気液分離器の特徴構成は、含水ガスが供給されるハウジングと、前記ハウジングの上部に備えられ含水ガスから水を分離する気液分離部と、前記ハウジングの下部に備えられ前記気液分離部で分離された水を受け止めて貯留する平面視で環状の第1貯水部と、前記ハウジングの底部で前記第1貯水部より下側に配置され、前記第1貯水部からの水が供給される第2貯水部と、前記第2貯水部の底部に連通する排水流路を開閉することで前記第2貯水部に貯留された水の排出および排出の停止を可能にする弁機構と、前記第1貯水部の内周側に配置され、供給された水をオーバーフローするまで貯留し、オーバーフローした水を前記第2貯水部に案内する筒状壁と、前記筒状壁の外壁面から外方に離間した状態で側面視において前記筒状壁と対向配置された筒状の縦壁部、及び、前記縦壁部の上端を塞ぐ蓋状部を一体的に形成した仕切部材とを備えている点にある。
【0011】
この特徴構成によると、気液分離部で含水ガスから分離した水は、まず、第1貯水部に受け止められて貯留され、この第1貯水部に蓄えられた水は貯水量の増大に伴い筒状壁の上端をオーバーフローして第2貯水部に供給される。また、第2貯水部に貯留された水は、弁機構の開放により外部に排出できる。この気液分離器では、仕切部材の縦壁部が筒状壁の外部を覆い、この仕切部材の縦壁部の上端を蓋状部が塞いでいるため、第1貯水部の下部と第2貯水部の上部とを、外部のガスの出入りが規制される流路で接続した構造となる。これにより、弁機構の開放により第2貯水部の水を排出した場合には、第2貯水部が減圧することで、この第2貯水部に対する第1貯水部の圧力が上昇することになり、この圧力差により第1貯水部の水が筒状壁の上端をオーバーフローして第2貯水部に流れ、第1貯水部の水面を仕切部材の縦壁部の下端位置まで低下させることが可能となる。そして、第2貯水部に流れ込んだ水は、弁機構から外部に排出できる。
【0012】
例えば、燃料電池と気液分離器とを備えた車両を想定すると、特徴構成の気液分離器を備えることにより、寒冷地に車両を駐車する場合に、弁機構を開放して第2貯水部の水を排出するだけで、この排出に伴い第1貯水部の水面を大きく低下させることが可能となる。これにより、第2貯水部の水を排出した後に燃料電池の内部に存在する僅かな水がハウジング内に流れ込むことや、ハウジングの内面に付着した水滴が落下することがあっても、これらの水は第1貯水部に受け止められ、第2貯水部に水が流れ込むことがなく、排水流路から弁機構に亘る領域を凍結させる不都合を解消できる。
このように、第2貯水部の水を良好に排出できると共に、燃料電池の発電停止後の第2貯水部への水の貯留を防止する気液分離器が構成された。
【0013】
上記構成に加えた構成として、前記筒状壁の前記外壁面と、前記縦壁部の内壁面との間に、上方へ水が流れる隙間を形成するため縦向き姿勢の複数のリブ体を、前記外壁面と前記内壁面との少なくとも一方に有しても良い。
【0014】
これによると、複数のリブ体を形成することで、筒状壁の外壁面と、仕切部材の縦壁部の内壁面との間に形成される隙間に水を流すことが可能となり、第1貯水部の水を第2貯水部に流れやすくすることができる。
【0015】
上記構成に加えた構成として、側面視において、前記縦壁部が、前記縦壁部の下端から前記筒状壁の上端より上側まで形成されたスリットを有しても良い。
【0016】
これによると、第1貯水部に貯留される水の水面が、筒状壁の上端の近くにある状況において、この第1貯水部の水が凍結した場合でも、凍結面より上側にスリットの上端部分が位置するため、気液分離部に含水ガスの供給を開始し、含水ガスから分離した水が、第1貯水部で受け止められた状況でも、この水が凍結面の上面に流れ、スリットから流入した水を、筒状壁の上端部分をオーバーフローする状態で第2貯水部に流すことが可能となる。
【0017】
上記構成に加えた構成として、前記筒状壁の内周に、前記筒状壁の上端をオーバーフローした水を前記第2貯水部に案内する排水誘導リブを形成しても良い。
【0018】
これによると、筒状壁の上端から筒状壁の内壁面に沿って流れる水を排水誘導リブで案内して第2貯水部に円滑に流すことが可能となる。
【0019】
上記構成に加えた構成として、前記仕切部材のうち、前記蓋状部の外周から外方に水平方向に伸びる領域に対し、水に含まれる塵埃を除去するフィルタを備えても良い。
【0020】
これによると、ハウジングの内部で水に塵埃が含まれても、フィルタで塵埃を除去することが可能となり、例えば、水に含まれる塵埃によって弁機構の適正な作動が抑制される不都合に繋がることもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】一部を切り欠いた気液分離器の部分断面斜視図である。
【
図4】一部を切り欠き上方から見た気液分離器の部分断面分解斜視図である。
【
図5】一部を切り欠き下方から見た気液分離器の部分断面分解斜視図である。
【
図6】水がオーバーフローする状態の第1貯水部等を示す拡大断面図である。
【
図7】電磁開閉弁が開放した際の第1貯水部から第2貯水部への水の流れを示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1~
図5には燃料電池車(FCV)に搭載される燃料電池のアノード側から排出されるアノードオフガス(含水ガスの一例)に含まれる水を分離する気液分離器Aを示している。この気液分離器Aは、ハウジングHの上部位置に導入部1と、導出部2とを備え、底部位置に電磁開閉弁3(弁機構の一例)を備え、ハウジングHの内部空間の上部に気液分離部4を配置し、内部空間の下部に第1貯水部5と、第2貯水部6とを配置している。
【0023】
燃料電池は、アノード側に対し、アノードガス流路を介して水素ガスを含む燃料ガスを供給し、カソード側に対し、カソードガス流路を介して酸化剤ガス(酸素を含む空気)を供給することにより発電が行われる。アノード側から排出されるアノードオフガスには未反応の水素ガスと水とが含まれる。このような理由から、気液分離器Aは、アノードオフガスに含まれる水を分離して排出し、アノードガスに含まれる水素ガスを回収し、回収した水素ガスを燃料電池のアノードガス流路に戻すために用いられる。
【0024】
〔ハウジング〕
図1~
図5に示すように、ハウジングHは、上部ハウジング10と下部ハウジング20とを有すると共に、上部ハウジング10の上部フランジ10fと、下部ハウジング20の下部フランジ20fとを重ね合わせ、これらを複数の締結ボルト7で締結することで一体化されている。
【0025】
上部ハウジング10は、筒状の上側壁11に対し側方に突出する姿勢となる筒状の導入部1を形成し、この上部ハウジング10の上端の平坦な上端壁12から上方に突出する姿勢で導出部2を形成している。これら上部ハウジング10と下部ハウジング20とは樹脂によって形成されるものであるが、アルミニウム等の金属で形成されるものでも良い。
【0026】
上部ハウジング10の内部空間には、導入部1から供給されたアノードオフガスが接触することで、アノードオフガスに含まれる水を分離するための板状となる複数の衝突壁13を内部に収容した気液分離部4を構成している。
【0027】
この気液分離部4は、導入部1から導入されたアノードオフガスを複数の衝突壁13に連続的に接触させることでガスに含まれる水を分離して下方に落下させるように機能する。また、水が分離した乾燥ガスは導出部2から上方に排出される。
【0028】
図3~
図5に示すように、下部ハウジング20は、縦軸芯Yを中心に円筒形となる下側壁21と、この下側に連なり下側が緩やかに窄まる形状で水を案内する案内壁22と、この下側に連なり下側が漏斗状に窄まる形状の傾斜壁23とを形成し、更に、この下側に連なり縦軸芯Yを中心に円筒形となる筒状壁24と、この筒状壁24の下端を塞ぐ底壁25とを一体的に形成している。
【0029】
尚、傾斜壁23の上端位置で、案内壁22に連なる境界部位に縦軸芯Yを中心とする縦壁状の中間壁23aが形成されている。
【0030】
図6、
図7に示すように、筒状壁24は、傾斜壁23との境界部分から上側と下側とに亘る領域に形成されている。この筒状壁24のうち、傾斜壁23との境界部分から上側に延出する上部領域24aの外側と、傾斜壁23および中間壁23aの内側との間の円環状の空間で第1貯水部5が形成されている。また、筒状壁24と、底壁25とに囲まれる円筒状の空間で第2貯水部6が形成されている。
【0031】
下部ハウジング20には、第2貯水部6の底部空間に連通する排水流路26が形成されており、この排水流路26の外端を開閉することで水の排出を制御できるように、下部ハウジング20の下端部分の外部に電磁開閉弁3が備えられている。
【0032】
尚、電磁開閉弁3が開放されて第2貯水部6の水が排出される際、未反応の水素を含むアノードオフガスの排出を抑制すると共に、一定量の水を排出するように、排水流路26はオリフィスのように小径に形成されている。
【0033】
この気液分離器Aでは、気液分離部4でアノードオフガスから分離した水を下部ハウジング20の第1貯水部5で受け止めて貯留し、更に、
図6に示すように、第1貯水部5に貯留された水を筒状壁24の上端からオーバーフローさせることで、この水を第2貯水部6に貯留できるように、第1貯水部5と第2貯水部6との位置関係が設定されている。特に、この構成では、第1貯水部5から第2貯水部6に流れる水量を制御する仕切部材30を備えている。
【0034】
〔仕切部材〕
図2~
図7に示すように、仕切部材30は、筒状壁24の上部領域24aの外壁面から外方に離間した位置に配置され、側面視(縦軸芯Yに垂直な方向視)で上部領域24aに重複する位置に配置された筒状の縦壁部31と、この縦壁部31の上端を塞ぐ蓋状部32とが一体形成されている。このように、気液分離器Aでは、仕切部材30の縦壁部31が筒状壁24の外部を覆い、この仕切部材30の縦壁部31の上端を蓋状部32が塞ぐ構造であるため、第1貯水部5に貯留された水の水位が縦壁部31の下端より高くなった状態では、第1貯水部5の下部と第2貯水部6の上部とを、外部のガスの出入りが規制される流路で接続した構成となる。尚、後述するように縦壁部31に複数のスリット31aが形成されるため、このスリット31aによって多少のガスの流動は許容される。
【0035】
仕切部材30は、縦壁部31の上端の外面且つ蓋状部32の外縁から半径方向の外方に延出する複数のフレーム33と、複数のフレーム33の延出端に連結されたリング状部34と、リング状部34と蓋状部32との間に配置されるフィルタ35を備えている。
【0036】
リング状部34は、傾斜壁23の上端位置の中間壁23aの内周に嵌まり込むように外形が決められ、フィルタ35は、気液分離部4から供給される水に含まれる塵埃を除去するように機能する。リング状部34の外周には、Oリング36が装着され、リング状部34と、中間壁23aの内周との隙間を封止している。
【0037】
図6、
図7に示すように、この仕切部材30は、リング状部34の下端が
傾斜壁23の上端に支持され、後述する排水誘導リブ28の上端に蓋状部32の下面が当接することにより、上下方向で適正な位置に支持される。また、縦壁部31の下端は傾斜壁23の傾きと平行になるように壁面に対して傾斜している。このように仕切部材30が適正な位置に支持されることにより、縦壁部31の下端と、傾斜壁23との間に上下方向で間隙Gが形成される。また、筒状壁24の上部領域24aの外壁面と、縦壁部31の内周面との間に半径方向で隙間Tが形成される。
【0038】
筒状壁24の上部領域24aの外壁面と、縦壁部31の内周面との間の隙間Tが、平面視で全周において均等に形成されるように、
図8に示すように、上部領域24aの外周には縦向き姿勢のリブ体27が形成されている。また、筒状壁24の内周から外周に亘る領域には、筒状壁24の上端をオーバーフローした水の流れを補助するため複数の排水誘導リブ28を形成している。この排水誘導リブ28は、筒状壁24の上端(上部領域24aの上端)より上方に突出する形態で形成されている。
【0039】
これにより、仕切部材30を下部ハウジング20の内部に装着する場合に、仕切部材30の縦壁部31が、筒状壁24に近接する変位(半径方向での変位)を、複数のリブ体27が規制することになり、全周における隙間Tを均一に維持し、この隙間Tにおける水の流れの偏りをなくし、良好な流れの維持が可能となる。
【0040】
また、排水誘導リブ28が形成されることにより、筒状壁24の内面に流れる水を円滑に案内する。前述したように排水誘導リブ28は上端が仕切部材30の蓋状部32の下面に当接することで、仕切部材30の上下方向での位置を決めることになる。
【0041】
図5~
図8に示すように、縦壁部31は、側面視において下端から筒状壁24の上端(上部領域24aの上端)より上側まで形成されたスリット31aを有している。尚、上方に向かうスリット31aの切れ込み端は、フィルタ35よりも下側(第1貯水部5の側)に位置している。
【0042】
〔第1貯水部から第2貯水部への水の流れ〕
この気液分離器Aでは、気液分離部4でアノードオフガスから分離した水の一部は、仕切部材30の上面や、フィルタ35の上面に落下し、他の一部は、下部ハウジング20の案内壁22の内面と傾斜壁23とに沿って流れ、結果として、フィルタ35で濾過された後に第1貯水部5に貯留される。
【0043】
燃料電池が発電を継続する状況では、気液分離部4でアノードオフガスから連続して分離された水が第1貯水部5に供給され、この第1貯水部5の水面が筒状壁24の上端より上昇することで、
図6に示すように第1貯水部5の水が筒状壁24の上端をオーバーフローして第2貯水部6に供給される。
【0044】
気液分離部4でアノードオフガスから分離した水量は、燃料電池の発電量から推定できるため、推定された水量が、予め設定された値に達する毎に、電磁開閉弁3を開放する制御が行われる。この気液分離器AではハウジングHの内部空間の圧力が外気の圧力より高い状態にある。従って、電磁開閉弁3が開放された場合には、第2貯水部6と外気との圧力差により、第2貯水部6の水が排水流路26を介して排出される。
【0045】
更に、第2貯水部6の水の排出に伴い、第2貯水部6の圧力が、第1貯水部5の圧力より低下するため、
図7に示すように、この圧力差により、第1貯水部5に貯留された水のうち隙間Tの水が筒状壁24の上端をオーバーフローして第2貯水部6に供給され、このように第2貯水部6に供給された水も排水流路26を介して排出される。このとき、隙間Tの水位が、縦壁部31と傾斜壁23との間の水位より高くなる。このように水が流れることにより、電磁開閉弁3を開放する毎に第1貯水部5の水面が、縦壁部31の下端位置まで低下することになる。
【0046】
また、水を排出するために電磁開閉弁3が開放する時間を、比較的短い値に設定しており、この設定時間において、アノードオフガスがスリット31aの上端を介して第2貯水部6に流れるガス量を制限することで、圧力差を大きく変化させないように(圧力差を小さくしないように)、複数のスリット31aの幅(縦壁部31の周方向での幅)が設定されている。
【0047】
つまり、縦壁部31に形成されたスリット31aの上端が第1貯水部5の貯水レベル(筒状壁24の上端と一致する高さ)より高い位置まで形成されている。このため、電磁開閉弁3が開放して第2貯水部6の圧力が低下した場合に、アノードオフガスの一部がスリット31aの上端を介して第2貯水部6に向けて流れ、圧力差を小さくすることも考えられるが、電磁開閉弁3が開放する時間を短く設定し、ガスの流れを制限できるようにスリット31aの幅が設定されている。
【0048】
ここで、寒冷地において燃料電池の発電を停止した状態で駐車する状況を考えると、例えば、第2貯水部6から排水流路26に亘る領域に水が残留する場合には、水が凍結することにより、燃料電池の発電を開始した直後に、電磁開閉弁3を開放しても第2貯水部6の水を排出できない状況になり得る。このような不都合を解消するため、駐車する場合には、電磁開閉弁3を開放する制御が行われる。
【0049】
このように駐車時に電磁開閉弁3を開放する制御が行われることにより、前述したように、第2貯水部6の水が排水流路26を介して排出され、この排出に伴う圧力差により、第1貯水部5の水が筒状壁24の上端をオーバーフローして第2貯水部6に供給され、このように供給された水も排出されるため、第2貯水部6の水の全量を排出することが可能となる。
【0050】
また、電磁開閉弁3を開放する制御の後には、第1貯水部5には、縦壁部31の下端位置まで水面が低下した僅かに水が残留する。燃料電池は発電を停止した後において内部に残留した僅かな水が排出され、気液分離器Aの第1貯水部5に流れ込むこともあるものの、第1貯水部5に残留する水は僅かであるため、この水は第1貯水部5に蓄えられることになり第2貯水部6に流れ込む不都合を解消できる。
【0051】
また、第1貯水部5に僅かに残留する水が凍結した状況において、燃料電池での発電を開始し、気液分離部4からの新たな水が第1貯水部5に供給された場合には、水は間隙Gからではなく、スリット31aから隙間Tに流入する。そして、凍結状態にある水の表面に水が貯留され、水面が上昇して、この水面が筒状壁24の上端まで上昇した場合に、その水が、筒状壁24の上端をオーバーフローすることで、第2貯水部6に供給される。
【0052】
〔実施形態の作用効果〕
このように、気液分離部4からの水を直接的に受け止める第1貯水部5を備え、この第1貯水部5からの水がオーバーフローするように流す筒状壁24を備え、筒状壁24をオーバーフローして供給される水を受け止める第2貯水部6を備え、更に、第1貯水部5と第2貯水部6との圧力差によって水をオーバーフローさせる仕切部材30を備えることにより、電磁開閉弁3を開放するだけで第2貯水部6の水の全量を排出し、しかも、第1貯水部5の水の多くを排出できる気液分離器Aが構成された。
【0053】
この構成では、例えば、第2貯水部6の水の凍結を解消するためのヒータを必要としないため、構成が単純でエネルギーの消費抑制も可能となる。
【0054】
また、この構成では、第1貯水部5に残留する水が凍結した状況において、燃料電池を起動させて、気液分離部4から新たに水が供給される場合には、第1貯水部5に新たに供給された水を、スリット31aを通過させ、筒状壁24の上端をオーバーフローさせる形態で第2貯水部6に送り出すことが可能となり、例えば、第2貯水部6の水の凍結を解消するためにヒータ等を必要とすることがなく、単純でエネルギーの消費抑制も可能となる。
【0055】
更に、複数のリブ体27を筒状壁24の外面に形成しているため、筒状壁24の上部領域24aの外壁面と、縦壁部31の内周面との間の全周において水量に偏りのない状態で水をオーバーフローさせることが可能となる。また、オーバーフローした水を下方に案内するための排水誘導リブ28によって仕切部材30の上下方向での位置を決めることも可能となる。
【0056】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0057】
(a)縦壁部31に形成されるスリット31aに代えて、側面視で筒状壁24の上端より高い位置に貫通孔を形成する。このように貫通孔を形成することにより、第1貯水部5の水が凍結する状態で、気液分離部4から水が供給された場合には、第1貯水部5に供給された水を、貫通孔を介して隙間Tに流し、筒状壁24の上端をオーバーフローさせる形態で第2貯水部6に送り出すことが可能となる。
【0058】
このように貫通孔を形成する場合、電磁開閉弁3が開放し、第2貯水部6が排出されることで、第2貯水部6の圧力が低下した場合に、第1貯水部5の水が筒状壁24の上端をオーバーフローできる圧力差を得るように貫通孔の開口面積(貫通孔が複数である場合には開口面積の総和)が設定されることになる。
【0059】
(b)実施形態では、リブ体27を筒状壁24の外周に形成していたが、リブ体27を仕切部材30の縦壁部31の内周に形成する。このようにリブ体27を形成する構成であっても筒状壁24の上部領域24aの外壁面と、縦壁部31の内周面との間に半径方向で隙間Tを形成することが可能となる。
【0060】
(c)縦壁部31の下端と、傾斜壁23との間に間隙Gを形成するために、縦壁部31から下方に伸びる複数の突起を、縦壁部31に一体的に形成する。このように構成したものでも、負圧の作用により第1貯水部5の水を第2貯水部6に送る際に、間隙Gに水を流すことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、気液分離器に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
3 電磁開閉弁(弁機構)
4 気液分離部
5 第1貯水部
6 第2貯水部
24 筒状壁
26 排水流路
27 リブ体
28 排水誘導リブ
30 仕切部材
31 縦壁部
31a スリット
32 蓋状部
35 フィルタ
H ハウジング