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特許7363766ポリアミドマルチフィラメントおよびカバリング弾性糸
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ポリアミドマルチフィラメントおよびカバリング弾性糸
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20231011BHJP
   D02G 3/32 20060101ALI20231011BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
D01F6/60 321A
D02G3/32
D02G3/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020506824
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2019045282
(87)【国際公開番号】W WO2020105637
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2018218431
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松見 大介
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-157902(JP,A)
【文献】特開2002-146626(JP,A)
【文献】特開2009-275294(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021011(WO,A1)
【文献】特開2019-135337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00- 6/96、9/00-9/04
D02G 1/00- 3/48
D02J 1/00-13/00
A41B 11/00-11/14
D04B 1/00- 1/28、21/00-21/20
D01D 1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
総繊度が6~20dtex、引掛強度が12cN/dtex以上、単繊維横断面の長径bと短径aとの比(b/a)で示される扁平度が1.5~5.0であるポリアミドマルチフィラメント。
【請求項2】
15%伸長時の引張強度が5.0cN/dtex以上である、請求項1に記載のポリアミドマルチフィラメント。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリアミドマルチフィラメントを被覆糸として配したカバリング弾性糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストッキング用に好適なポリアミドマルチフィラメントおよびカバリング弾性糸に関するものである。さらに詳しくは、ストッキングに用いたとき、耐久性に優れ、透明性が高く、風合いが良好なストッキングを提供することができるポリアミドマルチフィラメントおよびカバリング弾性糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維であるポリアミド繊維やポリエステル繊維は、機械的・化学的性質において優れた特性を有することから、衣料用途や産業用途で広く利用されている。特に、ポリアミド繊維はその独特の柔らかさ、高強度、染色時の発色性、耐熱性、吸湿性等において優れた特性を有する。そのため、ポリアミド繊維はストッキング、インナーウエア、スポーツウエアなど一般衣料用途で広く使用されている。
【0003】
ストッキングの消費者ニーズとして、透明性が高く、かつ柔らかな風合いのストッキングが望まれており、その改善のための技術も多数提案されている。例えば特許文献1においては、扁平度が1.5~5.0であり、繊維断面形状が長軸に対して線対称である小判や凸レンズ形状のポリアミドマルチフィラメントおよびそれを用いたストッキングが提案されている。
【0004】
また、特許文献2においては、総繊度が4.0~6.0dtex、強伸度積が9.1cN/dtex以上の高強力ポリアミドマルチフィラメントおよびそれを用いたストッキングが提案されている。さらに、ポリアミドマルチフィラメントの強伸度積を向上させるための製造方法として、口金下の雰囲気温度を高温に保つなど、ポリマー配向緩和を促進して固化点を下げる冷却条件を適用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2009-203563号公報
【文献】国際公開第2016/076184号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、細繊度化に伴いストッキングの耐久性が低下する。さらに、扁平断面化により扁平短軸が丸断面直径より細くなる為に、丸断面と比較して糸強力が低下し、ストッキングの耐久性が低下するという問題を常に抱えていた。
【0007】
また、特許文献2に記載された、強伸度積を高めるため口金下の雰囲気温度を高温に保つなどの、ポリマー配向緩和を促進して固化点を下げる条件を特許文献1に適用しても、固化点が下がることにより扁平断面形成の際に扁平度が低下してしまう。このような場合、得られるストッキングの風合い、審美性は満足できるものではなかった。
加えて、扁平断面化は風合い、審美性を奏するものの、丸断面と比較して扁平短軸が丸断面直径より細い為に、ストッキングの耐久性が低下することは否めず、さらなる耐久性向上が望まれている。
【0008】
本発明は上記問題を解決するものであり、ストッキングに用いた際に耐久性に優れ、透明性、ソフトな風合いおよび審美性に優れる扁平ポリアミドマルチフィラメントおよびカバリング弾性糸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)総繊度が6~20dtex、引掛強度が12cN/dtex以上、単繊維横断面の長径bと短径aとの比(b/a)で示される扁平度が1.5~5.0であるポリアミドマルチフィラメント。
(2)15%伸長時の引張強度が5.0cN/dtex以上である、上記(1)に記載のポリアミドマルチフィラメント。
(3)上記(1)または(2)に記載のポリアミドマルチフィラメントを被覆糸として配したカバリング弾性糸。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、高い扁平度、および高い引掛強度を有するポリアミドマルチフィラメントである。さらには、本発明のポリアミドマルチフィラメントおよびカバリング弾性糸は、ストッキングに用いた場合、耐久性に優れ、透明性、ソフトな風合いおよび審美性に優れるストッキングを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造方法に好ましく用いることのできる製造装置の一実施態様を示す模式図である。
図2図2は、本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造方法の比較として例示した製造方法に用いる製造装置の一実施態様を示す模式図である。
図3図3は、本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造方法に好ましく用いることのできる紡糸口金および加熱筒を示す概略断面モデル図である。
図4図4(a)および図4(b)は、本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造方法に好ましく用いることのできる旋回ノズルの一実施態様を示すものであり、図4(a)は旋回ノズルの全体概略図であり、図4(b)は、図4(a)のA-A’断面図である。
図5図5は、本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造方法に好ましく用いることのできる紡糸口金の吐出孔形状の一実施態様を示す図である。
図6図6は、本発明のポリアミドマルチフィラメントの一実施態様を示す繊維断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0013】
[ポリアミドマルチフィラメント]
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントを構成するポリアミドは、主鎖においていわゆる炭化水素基がアミド結合を介して連結された高分子量体からなる樹脂である。ポリアミドは、製糸性、機械特性に優れている。ポリアミドとしては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)等が挙げられ、ゲル化し難しく、製糸性が良いことからポリカプロアミド(ナイロン6)が好ましい。
ここで、上記ポリアミドは、主として当該ポリアミドを構成する、単位となる成分を80モル%以上含んでいればよい。好ましくは、上記ポリアミドは単位となる成分を90モル%以上含む。ポリカプロアミドにおいては、主としてポリカプロアミドを構成するε-カプロラクタムが単位となる成分である。また、ポリヘキサメチレンアジパミドにおいては、主としてポリヘキサメチレンアジパミドを構成するヘキサメチレンジアンモニウムアジペートが単位となる成分である。
【0014】
上記ポリアミドが含むその他の成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミン等が挙げられる。
【0015】
また、本発明の効果を有効に発現するためには、ポリアミドには酸化チタンに代表される艶消し剤など各種添加剤を含有しないことが好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲で耐熱剤などの添加剤を必要に応じて含有していてもよい。また、その含有量はポリマー(ポリアミド)に対して0.001~0.1重量%の間であることが好ましい。
【0016】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントは、総繊度が6~20dtex、引掛強度が12cN/dtex以上、単繊維横断面の長径bと短径aとの比(b/a、以下「扁平度」と称す)が1.5~5.0である。ポリアミドマルチフィラメントの総繊度を低くし、扁平度を高くすることで、透明性が高く、ソフトな風合いのストッキングが得られる。一方で、総繊度を低くし、扁平度を高くしたポリアミドマルチフィラメントは、扁平短軸が丸断面直径より細い為に、丸断面と比較して糸強力が低下し、ストッキングに用いた場合の耐久性は低下する。ここで、ストッキングは、その組織構造から、ニードルループとシンカーループの引掛け点交錯部にかかる応力が大きくなるため、ストッキングの耐久性は引掛強度で評価できる。そこで鋭意検討し、透明性、風合いに優れ、同時に耐久性に優れたストッキングを提供するためには、総繊度、引掛強度、および扁平度をかかる範囲とすることを見出したのである。
【0017】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントは、総繊度が6~20dtexである。総繊度をかかる範囲とすることにより、透明度が高く、柔らかな風合いのストッキングとなる。総繊度が20dtex以下の場合、ストッキングの透明性、風合いが向上する。総繊度が6dtex以上の場合、ストッキングの耐久性が向上する。総繊度は、さらに好ましくは、6~11dtexである。
【0018】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントは、引掛強度が12cN/dtex以上である。引掛強度をかかる範囲とすることにより、ストッキングの耐久性が向上し、透明性、風合いの向上のための扁平化を可能とすることができる。引掛強度が12cN/dtex以上であることで、ストッキングの耐久性、透明性、審美性が向上する。また、引掛強度は大きいほど好ましいが、本発明におけるその上限値は17cN/dtex程度である。引掛強度は、好ましくは、13cN/dtex以上である。なお、引掛強度は、JIS L1013(2010)の「8.7 引掛強さ」に準じて測定される。
【0019】
ストッキングの破れは、つま先から大腿部に向けて強く引っ張って着用する際に発生することが多い。この時、ストッキング編地においては、ポリアミドマルチフィラメントの細繊度化の度合いと扁平度が高くなる程、ニードルループとシンカーループの引掛け点にかかる応力にフィラメントが耐えきれなくなり、フィラメントは破断し易くなる。そのため、繊維軸方向の強度(引張強度)だけではなく、引掛強度を高くすることがストッキングの耐久性向上に重要であることを見いだしたのである。すなわち、これまでのポリアミドフィラメントの繊維軸方向の強度(引張強度)に加えて、ニードルループとシンカーループの引掛け点の応力集中部分の強さ(引掛強度)を向上させることが、ストッキングの耐久性を向上させるのである。
【0020】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントは、長径bと短径aとの比(b/a)で示される扁平度が1.5~5.0の扁平な繊維横断面を有する。扁平度をかかる範囲とすることにより、繊維の曲げ柔らかさが向上し、風合いの優れたストッキングを得ることができる。また、高い曲げ柔らかさからカバリング糸の被覆性が均一化され、透明性、審美性に優れたストッキングを得ることができる。扁平度が1.5以上の場合、ストッキングの風合い、透明性、審美性が向上する。扁平度が5.0以下の場合、風合い、透明性、審美性にも優れながら、ポリマー(ポリアミド)の配向結晶化が低くなり過ぎず、ストッキングの耐久性を十分なものにできる。好ましくは扁平度が2.5~4.0である。図6に、本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの繊維横断面の一実施態様を示す。
なお、本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの断面形状は、扁平型を有していれば特に限定されず、表面形態も特に限定される物ではない。例えば、本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントは、レンズ型断面、ビーンズ型断面、3~8個の凸部と同数の凹部を有する異形断面を有していてもよい。
【0021】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントは、原糸物性の1つの指標である15%伸長時の引張強度(以下、「15%強度」と称す)が5.0cN/dtex以上であることが好ましい。15%強度は、JIS L1013(2010)の「8.5 引張強さ及び伸び率」に準じて測定される。引張強さ-伸び曲線を描き、15%伸長時の引張強さ(cN)を繊度で除した値を15%強度とする。15%強度は、繊維モジュラスを簡易的に表す値であり、15%強度が高いと引張強さ-伸び曲線の勾配が高く繊維モジュラスが高いことを示し、一方15%強度が低いと引張強さ-伸び曲線の勾配が低く繊維モジュラスが低いことを示す。
【0022】
後述するが、本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントは、多段階、高倍率延伸を施すことにより、毛羽無く高繊維モジュラスを実現し得る。15%強度をかかる範囲とすることで、カバリング工程でのバルーニングを弛みなく安定化させ、被覆性を均一にすることができる。すなわち、均一な被覆性に優れたカバリング糸を得ることで、透明性に優れ、編地の綺麗な審美性に優れたストッキングを得ることができる。さらに好ましくは、15%強度が5.5~6.5cN/dtexである。
【0023】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントは、引張強度が6.5cN/dtex以上であることが好ましい。引張強度が6.5cN/dtex以上であると、ポリマー(ポリアミド)の配向結晶化が良好であり、引掛強度の向上に繋がる。さらに好ましくは、引張強度が6.8~7.3cN/dtexである。
【0024】
[ポリアミドマルチフィラメントの製造方法]
次に、本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造方法の一例を具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造方法に好ましく用いられる製造装置の一実施形態を示す模式図である。
【0025】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造においては、まず、ポリアミドポリマーが溶融され、ギヤポンプにて計量・輸送され、紡糸口金1に設けられた吐出孔から最終的に押し出されることで、各フィラメントが形成される。このようにして紡糸口金1から吐出された各フィラメントは、図1に示されるように、紡糸口金の経時汚れを抑制するために蒸気を吹き出す気体供給装置2、徐冷するために全周を囲繞するように設けられた加熱筒3を通過し、さらに冷却装置4を通過することにより室温まで冷却固化される。その後、給油装置5で各フィラメントは油剤付与されるとともに、各フィラメントが集束されてマルチフィラメントが形成され、流体旋回ノズル装置6で収束性が付与される。その後、マルチフィラメントは引き取りローラ7、第1延伸ローラ8、および第2延伸ローラ9において、2段延伸され、リラックスローラ10において弛緩される。弛緩されたマルチフィラメントは交絡付与装置11により交絡を付与され、巻取装置12で巻き取られる。
【0026】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造において、ポリアミドの硫酸相対粘度は2.5~4.0が好ましい。ポリアミドの硫酸相対粘度をかかる範囲とすることにより、引掛強度、15%強度、および引張強度の高いポリアミドマルチフィラメントが得られる。
【0027】
またポリアミドを溶融する際の溶融温度は、ポリアミドの融点(Tm)に対して20℃高い温度(Tm+20℃)より高く、かつ(Tm+95℃)より低くすることが好ましい。
【0028】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造において、所望する扁平度と高強度化を実現させるためには、紡糸口金1の吐出孔を適正化し吐出線速度を適正値に設定する必要がある。図5に吐出孔の孔形状の一実施態様を示した。紡糸口金1の単孔吐出面積を小さく設計することで、ポリマーの吐出線速度を早くすることができる。このため、口金面-引取ローラとの間で応力を低減することができ、ポリマー配向が抑制され、機械延伸倍率を高くすることができ、高強度化を実現しやすくなる。吐出線速度は、吐出量を吐出孔面積で除する値であり、25~50m/分とすることが好ましく、さらに好ましくは30~40m/分である。
【0029】
従来、紡糸口金においては、所望する扁平度を実現するためには、吐出孔の長径方向の吐出孔長さNの長尺化が必要である(従来技術)。この場合、紡糸口金1の単孔吐出面積が大きくなる結果、ポリマーの吐出線速度が低下し、所望する強度を得ることができない。これに対し、長径方向の吐出孔長さNの長尺化を行わずに、短径方向の吐出孔幅Hを極小化することで、飛躍的に扁平度を向上させることが可能となる。この方法によれば、扁平度を向上させながら、紡糸口金1の単孔吐出面積を小さくすることが可能となり、所望とする吐出線速度の範囲を採用することが可能となる。その結果、糸の高強力化が実現可能となる。好ましい吐出孔幅Hとしては0.060~0.080mmであり、さらに好ましくは0.065~0.075mmである。
【0030】
各フィラメントの冷却条件について、高扁平度を達成するためには固化点を上げる条件(急冷条件)とすることが一般的である。また、高強度化を達成するためには、特許文献2に記載のとおり、口金下の雰囲気温度を高温に保つなどポリマー配向緩和を促進し、固化点を下げる条件(徐冷条件)とすることが一般的である。すなわち、従来は、本発明のポリアミドマルチフィラメントのように高扁平度と高強度化を同時に達成するためには、手法に矛盾が生じていた。そのため、本発明では、緻密な温度プロフィールを分析し、所望扁平度と高強度化を実現させるために、口金下に雰囲気温度を高温に保つ徐冷域を設置し、ポリマーの配向緩和を充分に促進させた後で、冷却域で急激に固化させるという好ましい製造条件を見いだした。
【0031】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造において、図3に示されるように、冷却装置4の上部には、各フィラメントの全周を囲繞するように加熱筒3が設けられている。加熱筒3を冷却装置4の上部に設置し、加熱筒3内の雰囲気温度を好ましくは280~310℃の範囲内とすることにより、紡糸口金1から吐出されたポリアミドの配向緩和を向上させることができる。口金面から加熱筒下面までの徐冷域で配向緩和を促進させることで、所望する引掛強度など高強度化を実現することができる。加熱筒3を設置しない場合、上記徐冷域がなくなり、口金面から冷却までの配向緩和が足りないため、所望する引掛強度など高強度化を実現することが難しくなる。
【0032】
加熱筒長さLは、マルチフィラメントの繊度にもよるが、30~90mmであることが好ましい。加熱筒長さLを30mm以上とすることで、ポリマー配向緩和を促進するのに充分な距離となり、高強度化を達成しやすくなる。また、加熱筒長さLを90mm以下とすることで、所望する扁平度を実現しやすくなる。加熱筒長さLは、さらに好ましくは、40~70mmである。
【0033】
また、加熱筒3は多層であることが好ましい。本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントのような細繊度領域においては、加熱筒3内での温度分布が一定であると、熱対流が乱れた状態になり易く、各フィラメントの固化状態に影響し、糸斑(U%)を悪化させる要因となる。その為、加熱筒3を多層にして上層から下層にかけて段階的に温度設定を下げることで、上層から下層への熱対流を意図的に作り出す。そして、糸の随伴流と同方向の下降気流とすることにより、加熱筒3内での熱対流の乱れを抑制し、糸揺れも小さく、糸斑(U%)の小さいマルチフィラメントが得られる。多層加熱筒は2層以上から構成されることがさらに好ましく、多層加熱筒の単層長さは、10~25mmの範囲が好ましい。
【0034】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造において、冷却装置4は、一定方向から冷却整流風を吹き出す冷却装置、あるいは外周側から中心側に向けて冷却整流風を吹き出す環状冷却装置、あるいは中心側から外周に向けて冷却整流風を吹き出す環状冷却装置など、いずれの装置を用いてもよい。
【0035】
所望する扁平度を実現するためには、ポリマー(ポリアミド)の固化点を高くする必要がある。これは、ポリマー(ポリアミド)に働く弾性力が表面積を最小とする方向に働くため外側を向いているので、その仕事時間を短くするためである。すなわち、加熱筒3の下面を出て、冷却域に入ってきたポリマー(ポリアミド)は可能な限り、固化点を冷却域上端に近づける必要がある。図1に示される、紡糸口金1の下面から冷却装置4の冷却風吹出し部の上端部までの鉛直方向距離LS(以下、冷却開始距離LSと称す)は、130mm以下の範囲にあることが、所望する扁平度が得られる点で好ましい。また、ヌッセルト熱交換式の観点から、固化点を上端に近づける有効な方法として、冷却風速を速くすることが好ましく、その範囲は単糸繊度の範囲にもよるが、冷却域上端面から下端面までの区間の平均で30.0~40.0m/分の範囲にあることが好ましい。冷却風速を30.0m/分以上とすることで、ポリマー(ポリアミド)の熱交換速度が速くなり、固化点が冷却域上端面に近づくため、所望する扁平度を実現しやすくなる。一方で、操業性の観点から、冷却風速は40m/分以下が好ましい。
冷却風速と同様に冷却域における冷却風温も熱交換における重要な因子である。冷却風温は20℃以下であることが好ましい。冷却風温を20℃以下とすることで、ポリマー(ポリアミド)の熱交換速度が速くなり、固化点が冷却域上端面に近づくため、所望する扁平度を実現しやすくなる。
【0036】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造において、給油装置5の位置、すなわち図1における紡糸口金1の下面から給油装置5の給油ノズル位置までの鉛直方向距離Lg(以下、給油位置Lgと称す)は、単糸繊度および冷却装置4からのフィラメントの冷却効率にもよるが、800~1500mmが好ましい。給油位置Lgは、より好ましくは1000~1300mmである。給油位置Lgが800mm以上である場合にはフィラメント温度が油剤付与時に適切な程度に下がり、1500mm以下である場合には下降気流による糸揺れも小さく、糸斑(U%)の低いマルチフィラメントが得られる。また、給油位置Lgが1500mm以下である場合には、固化点から給油位置までの距離が短くなることで随伴流が低減し、紡糸張力が低下する。これにより紡糸配向が抑制され、延伸性が向上するため、引掛強度の向上など高強度化の点から好ましい。給油位置Lgが800mm以上である場合には、口金から給油ガイドまでの糸屈曲が適正となり、ガイドでの擦過による影響を受けにくく、引掛強度の向上など高強度化の低減が少なくなる。
【0037】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造において、引き取りローラ7の前に、流体旋回ノズル装置6を設置することが好ましい。流体旋回型のノズル(旋回ノズル)は、図4(a)および図4(b)に符号6aで示すような形状であり、筒内で一方向からの旋回流Wにより、糸に収束性が付与される。旋回ノズルの長さLAは、マルチフィラメントの繊度にもよるが、5~50mmであることが、収束性付与の観点から好ましい。
【0038】
また、旋回流Wの噴出圧力は0.05~0.20MPaとすることが好ましい。かかる範囲の噴出圧力とすることで、フィラメントに適度な収束性を付与することができ、高張力下での延伸時の延伸性の低下が少なく、また延伸の際の単糸ばらけが発生しにくい。このため、細繊度化としても、毛羽の少ないポリアミドマルチフィラメントが得られる。
【0039】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造において、延伸は2段以上の多段延伸とすることが好ましい。1段延伸の場合、高倍率の延伸を施し、高繊維モジュラスかつ、高強度の原糸を得ようとした際には、延伸張力が高くなることや、ドローポイントが引き取りローラ上に位置することで、延伸性が悪化し、強度低下すると共に、毛羽が発生しやすくなる。2段以上の多段延伸とすることにより、延伸時にかかる糸への負荷が分散されると共に、ドローポイントがローラ間で安定する。このため、延伸性が安定し、引掛強度、15%強度、および引張強度において高強度であり、高繊維モジュラスな繊維が得易くなるだけでなく、毛羽のないポリアミドマルチフィラメントが得やすくなる。
【0040】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造において、総合延伸倍率は3.5~5.0倍の範囲であることが、引掛強度12cN/dtex以上を達成する点で好ましい。総合延伸倍率は、3.8~4.7倍であることが更に好ましい。1段目の延伸倍率は2.5~3.5倍であることが好ましく、2.7~3.3倍であることが更に好ましい。また、延伸時には引き取りローラ7を40~60℃、第1延伸ローラ8を130~170℃、第2延伸ローラ9を150~200℃に加熱することが好ましい。引き取りローラ7の速度は、500~1300m/分であることが好ましく、700~1100m/分であることが更に好ましい。
【0041】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントの製造において、第2延伸ローラ9とリラックスローラ10のリラックス率[(第2延伸ローラ速度-リラックスローラ速度)/(リラックスローラ速度)×100]を0~1.5%とすることが好ましい。リラックス率をかかる範囲とすることで、一般的なポリアミドマルチフィラメントを製造した際よりもリラックス率が低く、弛緩が少ない状態での熱セットとなる。このため、分子鎖の直線性が向上し、繊維内部の非晶部分が均一かつ適度に突っ張った構造となり、引掛強度など高強度化を実現しやすくなる。リラックス率を1.5%より大きくすると、弛緩が大きい状態での熱セットとなるため、分子鎖の直線性が低下し、引掛強度向上などの高強度化が達成しにくくなる。
【0042】
例えば、前述した図1のような直接紡糸延伸法での条件を採用することにより、6~20dtexの総繊度、12cN/dtex以上の高引掛強度、1.5~5.0の高扁平度のポリアミドマルチフィラメントが得られる。
【0043】
[カバリング弾性糸]
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントは、カバリング糸の被覆糸として用いることができる。
本発明の実施形態に係るカバリング弾性糸(以下、単に「カバリング糸」とも称する)は、上記のポリアミドマルチフィラメントを被覆糸として配したカバリング弾性糸である。カバリング糸としては、弾性糸を芯糸とし、被覆糸を一重に巻き付けるシングルカバリング糸、被覆糸を二重に巻き付けるダブルカバリング糸が挙げられる。
【0044】
弾性糸としては、ポリウレタン系弾性繊維、ポリアミド系エラストマ弾性繊維、ポリエステル系エラストマ弾性繊維、天然ゴム系繊維、合成ゴム系繊維、ブタジエン系繊維等が用いられ、弾性特性や熱セット性、耐久性等により適宜選択すればよい。中でも上記特性から好ましいのは、ポリウレタン系弾性繊維およびポリアミド系エラストマ弾性繊維である。
【0045】
弾性糸の太さは、ストッキングの種類、締め付け圧の設定により異なるが、耐久性と透明感、ソフト性を両立させるためには、一般に8~40dtex程度であればよい。なかでも、好ましい弾性糸の太さは14~25dtexである。弾性糸の太さをかかる範囲とすることで、ストッキングとしての伸縮性、耐久性、ソフト性、透明性を実現しやすくなる。
【0046】
カバリング撚数としては被覆糸の繊度、収縮率や製品風合い、透明感、耐久性を考慮して設計すればよい。カバリング撚数を高くすると見かけ太さが細くなるため、透明感が向上する方向にあるが、高すぎると弾性糸を締め付けすぎて耐久性が落ち、あるいはカバリング工程の生産性が低下しやすくなる。また、カバリング撚数が低すぎると被覆性が低下して耐久性と透明感、ソフト性が低下しやすくなる。したがって、例えば、6dtexの被覆糸をシングルカバリング糸として用いる場合にはカバリング撚数は2000~2600T/mを目安に設計することが好ましい。さらにダブルカバリング糸とする際には、上撚数は下撚数の0.7~0.95倍を目安に設定すればよい。撚方向としても下撚と上撚を同方向、逆方向のどちらでも設定可能であるが、トルクを抑制するために逆方向にカバリングすることが好ましい。また、ドラフト倍率も狙いとする着圧に合わせて設計すればよく、例えば、ドラフト倍率は2.5~3.5倍に設定することが好ましい。
【0047】
なお、本発明の実施形態に係るカバリング弾性糸を製造する場合は、常法のカバリング加工を実施すればよい。例えば、繊維の百科事典(日本、丸善株式会社、平成14年3月25日発行、p439)に記載の加工を実施すればよい。すなわち一例を挙げると弾性糸を定速で引きだし、2つのローラ間で一定のドラフトをかけた状態で、予めHボビンに巻き付けた被覆糸を弾性糸に一定のカバリング撚数にて巻き付け、得られたカバリング弾性糸をチーズ巻きするものである。
【0048】
本発明の実施形態に係るポリアミドマルチフィラメントおよび本発明の実施形態に係るカバリング弾性糸は、これらを一部に使用したストッキングに用いることができる。なかでもストッキングとしては透明感、素足感とシャドウ効果に優れた光沢感を生かしてレッグ部に好ましく用いられる。ここで、ストッキングとは、パンティストッキング、ロングストッキング、ショートストッキングで代表されるストッキング製品が挙げられ、レッグ部とは、例えばパンティストッキングの場合、ガーター部からつま先までの範囲を指す。
【0049】
また、ストッキングの編機としては、通常の靴下編み機を用いることができ、特に制限はされない。例えば、2口あるいは4口給糸の編機を用い、カバリング糸を供給して編成するという通常の方法で編成すればよい。シングルカバリング糸の場合は、S方向カバリングのシングルカバリング糸とZ方向カバリングのシングルカバリング糸とを交互に編む方法が好適である。その他の方法としては、シングルカバリング糸と生糸の交編、ダブルカバリング糸と生糸の交編、ダブルカバリング糸とダブルカバリング糸のゾッキなどが挙げられる。さらに編機の針本数としてはおおむね360~474本が用いられ、針本数が少ないほど、透明感は高くなるが、耐久性は劣る傾向にある。針本数が多くなるほど耐久性は向上するが、透明感は低下する傾向にある。したがって、針本数は、使用する被覆糸、弾性糸の繊度と狙いとする耐久性、透明感、ソフト性に合わせて選択することができる。一例として被覆糸6~20dtexにて針本数400~440本とすることが好ましい。
【0050】
さらに編成後の染色やそれに続く後加工、ファイナルセット条件についても公知の方法にしたがい行えばよい。染料として酸性染料、反応染料を用いることも可能である。また、もちろん色なども限定されるものではない。
【実施例
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0052】
以下に、各評価項目について評価方法を記載する。
A.引張強度、強伸度積、15%強度
JIS L1013(2010)の「8.5 引張強さ及び伸び率」に準じて繊維試料を測定し、引張強さ-伸び曲線を描いた。試験条件としては、試験機の種類は定速伸長形、つかみ間隔50cm、引張速度50cm/分にて行った。なお、切断時の引張強さが最高強さより小さい場合は、最高引張強さおよびそのときの伸びを測定した。
伸度、引張強度、強伸度積、15%強度は、下記式にて求めた。
伸度=切断時の伸長(%)
引張強度=切断時の引張強さ(cN)/総繊度(dtex)
強伸度積={引張強度(cN/dtex)}×{伸度(%)+100}/100
15%強度=15%伸長時の引張強さ(cN)/総繊度(dtex)
【0053】
B.引掛強度
JIS L1013(2010)の「8.7 引掛強さ」に準じて、試料のつかみ間中央に引掛部を作り、上記強度・伸度測定と同様の条件で測定した。引掛強度は、下記式にて求めた。
引掛強度=切断時の引張強さ(cN)/総繊度(dtex)
【0054】
C.総繊度、単糸繊度
1.125m/周の検尺器に繊維試料(マルチフィラメント)をセットし、500回転させて、ループ状かせを作製し、熱風乾燥機にて乾燥後(105±2℃×60分)、天秤にてかせの質量を量り、公定水分率を乗じた値から総繊度を算出した。なお、公定水分率は4.5%とした。算出した総繊度をフィラメント数で割り返した値を単糸繊度とした。
【0055】
D.硫酸相対粘度(ηr)
ポリアミドチップ試料0.25gを、濃度98質量%の硫酸100mlに対して1gになるように溶解し、オストワルド型粘度計を用いて25℃での流下時間(T1)を測定した。引き続き、濃度98質量%の硫酸のみの流下時間(T2)を測定した。T2に対するT1の比、すなわちT1/T2を硫酸相対粘度とした。
【0056】
E.糸斑(U%)
Uster Technologies社製のUSTER(登録商標) TESTER IVを用いて試料長:500m、測定糸速度V:100m/分、Twister(回転数):S撚、30000/分、1/2Inertで繊維試料を測定した。
【0057】
F.扁平度、断面形状
被覆糸に用いる繊維の任意の位置にて横断面方向に薄切片を切り出し、透過顕微鏡で繊維横断面の全フィラメントを撮影し、倍率1000倍でプリンター(三菱電機株式会社製、SCT-P66)からプリントアウトした後、スキャナ(セイコーエプソン株式会社製GT-5500WINS)を用いて取り込み(白黒写真、400dpi)、ディスプレー上で1500倍に拡大した状態で、画像処理ソフト(三谷商事株式会社製、WinROOF)を用いて外接円OLの直径Lと内接円ICの直径Sの比L/Sを算出し、全フィラメントから得られた値の数平均値から扁平度=b/aを求めた。さらに、撮影した写真から、繊維が扁平な繊維横断面(小判型断面形状)を有しているかどうかを目視で確認した。
【0058】
G.ストッキング評価
(a)耐久性
JIS L1096(2010)に記載のミューレン形法(A法)による破裂強さ試験方法に準じて、任意の3ヶ所の破裂強度を測定し、その平均値より、次の基準で4段階評価した。A、Bを耐久性合格とした。
A:1.6kg/cm以上
B:1.4kg/cm以上1.6kg/cm未満
C:1.2kg/cm以上1.4kg/cm未満
D:1.2kg/cm未満
【0059】
(b)ソフト性
ストッキング製品について、風合い評価経験豊富な検査者(5人)により、ソフト性を、評価した。11dtex、8フィラメント、丸断面のナイロン6マルチフィラメントを使用して実施例1と同様の方法で製造したレース編物を基準として相対評価した。その結果は、各検査者の評価点をとり、検査者5人の平均値(小数点以下は四捨五入)が、5をA、4をB、3をC、1~2をDとした。A、Bをソフト性合格とした。
5点:非常に優れる
4点:やや優れる
3点:普通
2点:やや劣る
1点:劣る
【0060】
(c)透明性
評価サンプルとして精錬を行い、染色せずにその後の仕上げ工程を行ったものを用い、白色生地で評価した。A、Bを透明性合格とした。
A:非常に優れる
B:やや優れる
C:普通
D:やや劣る
【0061】
(d)編目審美性
評価サンプルとして精錬を行い、染色せずにその後の仕上げ工程を行ったものを用い、白色生地で評価した。A、Bを編目審美性合格とした。
A:非常に優れる
B:やや優れる
C:普通
D:やや劣る
【0062】
〔実施例1〕
(ポリアミドマルチフィラメントの製造)
ポリアミドとして、硫酸相対粘度(ηr)が3.3、融点225℃のナイロン6チップを水分率0.03質量%以下となるよう常法にて乾燥した。得られたナイロン6チップを紡糸温度(溶融温度)298℃にて溶融し、紡糸口金1より吐出させた(吐出量18.9g/分)。紡糸口金1は、ホール数が36、6糸条/口金であり、図5に示すとおり、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(吐出孔幅をH、吐出孔長さをN、丸孔の直径をDとしたとき、N/H=4.9、D/H=1.4、吐出孔幅Hは0.07mm)を有するものを使用した。紡糸機は、図1に示す態様の紡糸機を用いて紡糸した。なお、加熱筒3は、加熱筒長さLが50mmのものを用い、加熱筒3内の雰囲気温度は290℃となるように温度設定した。紡糸口金1から吐出された各フィラメントを、冷却開始距離LSが102mm、冷却風温18℃、冷却風速38m/分の冷却装置4を通過させて糸条(各フィラメント)を室温まで冷却固化した。その後、口金面からの給油位置Lgを1300mmとして給油装置5によって油剤付与するとともに、各フィラメントを集束しマルチフィラメントを形成し、旋回ノズルの長さLAが25mmの流体旋回ノズル装置6で収束性を付与した。収束性付与は、流体旋回ノズル装置6内で、図4に示すように、走行糸条(マルチフィラメント20)に矢印方向から高圧空気(旋回流W)を噴射することにより行った。噴射する空気(旋回流W)の圧力は0.1MPa(流量15L/分)とした。その後、引き取りローラ7と第1延伸ローラ8の間の延伸倍率が2.9倍となるように1段目の延伸を行い、続いて第1延伸ローラ8と第2延伸ローラ9の間の延伸倍率が1.5倍となるように2段目の延伸を行った。引き続き、第2延伸ローラ9とリラックスローラ10との間で2.0%のリラックス熱処理を施し、交絡付与装置11にて糸条(マルチフィラメント)を交絡処理した後、巻取装置12にて3000m/分で巻き取った。この際、引取速度(引き取りローラ7の速度)と延伸速度(第2延伸ローラ9の速度)比で表される総合延伸倍率は4.3倍となるように調節した。各ローラの表面温度は、引き取りローラが40℃、第1延伸ローラは155℃、第2延伸ローラは185℃となるように設定し、弛緩ローラは室温とした。交絡処理は、交絡付与装置11内で走行糸条(マルチフィラメント)に直角方向から高圧空気を噴射することにより行った。噴射する空気の圧力は0.2MPaとした。こうして、総繊度9dtex、6フィラメントの、小判型断面形状を有するナイロン6マルチフィラメントを得た。得られたナイロン6マルチフィラメントについて評価した結果を表1に示す。
【0063】
(ストッキングの製造)
得られたマルチフィラメントをカバリング弾性糸の被覆糸に用い、18デニールのポリウレタン弾性糸(日清紡テキスタイル株式会社製、モビロン(登録商標)K-L22T)を芯糸とし、ドラフト3.5倍に設定し、カバリング撚数2400t/mにてカバリングを行った。
上記カバリング弾性糸を用いて、永田精機株式会社製のスーパー4編機(針数400本)で、S方向シングルカバリング糸とZ方向シングルカバリング糸とを交互に編機の給糸口に供給し、レッグ部編地をカバリング糸のみで編成した。続いて、ソーピング剤(ニューサンレックス(登録商標)E;2g/L(日華化学株式会社製))を用いて60℃×30分精錬、酸性ハーフミーリング染料(Telon Red A2R;0.14%owf、Telon Yellow A2R;0.16%owf、Telon Blue A2R;0.12%owf(DyStar社製、Telonは登録商標))、均染剤(SeraGalN-FS;0.5%owf(DyStar社製))、pHスライド剤(硫酸アンモニウム;4.0%owf)を用い、浴比1:50、100℃×60分でパンティストッキングの一般色であるベージュに染色し、フィックス剤(ハイフィックス(登録商標)SW-A;5%owf(オー・ジー長瀬カラーケミカル株式会社製))、スカム防止剤(NWH201;1%owf(センカ株式会社製))、炭酸ナトリウムを用いて90℃×45分フィックス処理を行い、120℃で30秒ファイナルセットを行い、パンティストッキング製品とした。得られたパンティストッキング製品のレッグ部について評価した結果を表1に示す。
得られたパンティストッキングは、耐久性、ソフト性、透明性、編目審美性全てに極めて優れていた。
【0064】
〔実施例2〕
紡糸口金のホール数、吐出量を変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度6dtex、4フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0065】
〔実施例3〕
紡糸口金のホール数、吐出量を変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度20dtex、14フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0066】
〔実施例4〕
引き取りローラ7と第1延伸ローラ8の間の延伸倍率が2.9倍となるように1段目の延伸をし、続いて第1延伸ローラ8と第2延伸ローラ9の間の延伸倍率が1.2倍となるように2段目の延伸を行った。また、引取速度(引き取りローラ7の速度)と延伸速度(第2延伸ローラ9の速度)比で表される総合延伸倍率は3.5倍となるように調節した。上記以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0067】
〔実施例5〕
引き取りローラ7と第1延伸ローラ8の間の延伸倍率が3.4倍となるように1段目の延伸をし、続いて第1延伸ローラ8と第2延伸ローラ9の間の延伸倍率が1.4倍となるように2段目の延伸を行った。また、引取速度(引き取りローラ7の速度)と延伸速度(第2延伸ローラ9の速度)比で表される総合延伸倍率は5.0倍となるように調節した。上記以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0068】
〔実施例6〕
紡糸口金の吐出孔を、吐出孔幅をH、吐出孔長さをNとしたとき、N/H=3.9と変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0069】
〔実施例7〕
紡糸口金の吐出孔を、吐出孔幅をH、吐出孔長さをNとしたとき、N/H=8.8と変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0070】
〔実施例8〕
紡糸口金の吐出孔幅Hを0.08mmと変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0071】
〔実施例9〕
紡糸口金の吐出孔幅Hを0.06mmと変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0072】
〔実施例10〕
冷却風速を30m/分と変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例11〕
加熱筒長さLを75mmと変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
〔比較例1〕
図2に示すように、第2延伸ローラ9と、リラックスローラ10を設置せず、引き取りローラ7と第1延伸ローラ8において、引き取りローラ7と第1延伸ローラ8の間の延伸倍率を2.7倍とした。紡糸口金1は吐出孔幅Hが0.10mmのものを使用し、紡糸口金1から吐出された各フィラメントを、風速25m/分の冷却装置4を通過させた。上記以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
特許文献2にあるような、強伸度積を高めるための条件を特許文献1に適用しただけの条件で製造された、比較例1のマルチフィラメントでは、扁平度が低下した。また、引掛強度は低い結果であった。そのため、ストッキングのソフト性、透明性、編目審美性、耐久性に劣っていた。
【0076】
〔比較例2〕
紡糸口金のホール数、吐出量を変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度5dtex、3フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
比較例2で得たマルチフィラメントは、繊度が細いため、糸強力が低くなるだけでなく、引掛強度が低くなった。そのため、得られたストッキングは耐久性に劣っていた。
【0077】
〔比較例3〕
紡糸口金のホール数、吐出量を変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度22dtex、17フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
比較例3で得たマルチフィラメントは、繊度が太いため、得られたストッキングはソフト性、透明性に劣っていた。
【0078】
〔比較例4〕
引き取りローラ7と第1延伸ローラ8の間の延伸倍率が2.7倍となるように1段目の延伸をし、続いて第1延伸ローラ8と第2延伸ローラ9の間の延伸倍率が1.2倍となるように2段目の延伸を行った。引取速度(引き取りローラ7の速度)と延伸速度(第2延伸ローラ9の速度)比で表される総合延伸倍率は3.2倍となるように調節した。上記以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
比較例4で得たマルチフィラメントは、総合延伸倍率が低いため、引掛強度が低く、得られたストッキングは耐久性に劣っていた。
【0079】
〔比較例5〕
紡糸口金の吐出孔を、吐出孔幅をH、吐出孔長さをNとしたとき、N/H=3.5と変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
比較例5で得たマルチフィラメントは、扁平度が低いため、得られたストッキングはソフト性、透明性、編目審美性に劣っていた。
【0080】
〔比較例6〕
紡糸口金の吐出孔を、吐出孔幅をH、吐出孔長さをNとしたとき、N/H=10.7と変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
比較例6で得たマルチフィラメントは、扁平度が高いため、引掛強度が低く、得られたストッキングは耐久性に劣っていた。
【0081】
〔比較例7〕
紡糸口金の吐出孔幅Hを0.09mmと変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
比較例7で得たマルチフィラメントは、吐出孔幅Hが大きいため、吐出線速度が低下し、引掛強度が低下した。そのため、得られたストッキングは耐久性に劣っていた。
【0082】
〔比較例8〕
加熱筒長さLを25mmと変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
比較例8で得たマルチフィラメントは、加熱筒長さLが短いため、雰囲気温度が250℃となり、口金面から加熱筒下面までの徐冷域内でのポリアミドポリマーの配向緩和が不十分となったため、扁平度も高くなり、引掛強度が低下した。そのため、得られたストッキングは耐久性に劣っていた。
【0083】
〔比較例9〕
加熱筒長さLを100mmと変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
比較例9で得たマルチフィラメントは、加熱筒長さLが長いため、冷却開始距離LSが長くなり、扁平度が低くなった。そのため、得られたストッキングはソフト性、透明性、編目審美性に劣っていた。
【0084】
〔比較例10〕
冷却風速を25m/分と変更した以外は実施例1と同様の方法で、総繊度9dtex、6フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキングを得た。評価結果を表2に示す。
比較例10で得たマルチフィラメントは、冷却風速が遅いため、固化点が冷却域上端面にならず、扁平度が低くなった。そのため、得られたストッキングはソフト性、透明性、編目審美性に劣っていた。
【0085】
【表2】
【0086】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2018年11月21日出願の日本特許出願(特願2018-218431)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0087】
1 紡糸口金
2 気体供給装置
3 加熱筒
4 冷却装置
5 給油装置
6 流体旋回ノズル装置
6a 旋回ノズル
7 引き取りローラ
8 第1延伸ローラ
9 第2延伸ローラ
10 リラックスローラ
11 交絡付与装置
12 巻取装置
20 マルチフィラメント
a 短径
b 長径
D 丸孔の直径
H 吐出孔幅
L 加熱筒長さ
LS 冷却開始距離
Lg 給油位置
LA 旋回ノズルの長さ
N 吐出孔長さ
W 旋回流
図1
図2
図3
図4
図5
図6