(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】非晶性のフィルム用共重合ポリエステル原料、熱収縮性ポリエステル系フィルム、熱収縮性ラベル、及び包装体
(51)【国際特許分類】
C08G 63/183 20060101AFI20231011BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C08G63/183
C08J5/18 CFD
(21)【出願番号】P 2020533492
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029393
(87)【国際公開番号】W WO2020026972
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2018146980
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅文
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-053737(JP,A)
【文献】特開平04-164930(JP,A)
【文献】特開平02-289627(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110493(WO,A1)
【文献】特開平06-256711(JP,A)
【文献】特開2017-177677(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018345(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-64/42
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件(1)~(
5)を満足
する非晶性のフィルム用共重合ポリエステル原料
を含有し、要件(6)を満足する熱収縮性ポリエステルフィルム。
(1)エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全ポリエステル樹脂成分中においてグリコール成分の合計量を100mol%としたとき、ネオペンチルグリコールを15mol%以上30mol%以下含有している。
(2)全ポリエステル樹脂成分中においてグリコール成分の合計量100mol%中にジエチレングリコール由来の構成ユニットを7mol%以上15mol%以下含有している。
(3)原料の極限粘度が0.60dl/g以上0.70dl/g未満。
(4)ガラス転移温度が60℃以上70℃以下。
(5)全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中および多価カル
ボン酸成分100モル%中、テレフタル酸成分が100モル%。
(6)3価以上の多価カルボン酸及びこれらの無水物を含有しない。
【請求項2】
厚さ30μmのフィルム
における、フィルム10平方メートル当りのフィルム長手方向、またはフィルム幅方向への大きさ1mm以上の欠点数が平均1.5個以下であることを特徴とする請求項1に記載の
熱収縮性ポリエステルフィルム。
【請求項3】
原料をせん断速度6080/S、250℃で測定した時の溶融粘度が180Pa・S以下、せん断速度6080/S、230℃で測定した時の溶融粘度が350Pa・S以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の
熱収縮性ポリエステルフィルム。
【請求項4】
さらに、以下の要件(
7)~(
11)を満たす
請求項1~3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステルフィルム。
(
7)フィルムの極限粘度が0.57dl/g以上0.67dl/g以下
(
8)90℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、フィルム主収縮方向で55%以上85%以下
(
9)80℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、フィルム主収縮方向と直交する方向で-10%以上1%以下
(
10)90℃の熱風下で測定したフィルム主収縮方向の最大収縮応力が2MPa以上7MPa以下
(
11)熱収縮性ポリエステルフィルムを温度30℃、相対湿度65%の雰囲気下で672時間エージングした後の70℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときのフィルム主収縮方向の温湯熱収縮率が、エージング前と比較して収縮率の差が0%以上5%以下
【請求項5】
フィルムの長手方向及び幅方向の1m長で測定した平均厚みムラがいずれも10%以下であることを特徴とする請求項
1~4
のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
請求項
1~5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いた熱収縮性ラベル。
【請求項7】
請求項6に記載の熱収縮性ラベルで、包装対象物の少なくとも外周の一部を被覆して熱収縮させて形成されることを特徴とする包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルム、およびその製造方法、フィルム用原料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス瓶またはプラスチックボトル等の保護と商品の表示を兼ねたラベル包装、キャップシール、集積包装等の用途に、耐熱性が高く、焼却が容易であり、耐溶剤性に優れたポリエステル系の熱収縮性フィルムが、収縮ラベルとして広範に利用されるようになってきており、PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル容器等の増大に伴って、使用量が増加している傾向にある。
【0003】
これまで、熱収縮性ポリエステル系フィルムとしては、幅方向に大きく収縮させるものが広く利用されている。また、収縮仕上がり性を良好にするため、非収縮方向である長手方向の収縮率をマイナス(いわゆる、加熱により伸びる)も知られている(特許文献1)。
【0004】
様々な容器に対応できるように収縮率を高くした熱収縮フィルムの短所として、常温で保管した後(エージング後)に自然収縮率が高くなる(特許文献2、特許文献3)、70℃で測定した時の温湯収縮率が低下するという課題が有る。特許文献2では二軸延伸する生産方法を採用し、二軸配向と縦延伸後の冷却強化を行うことで自然収縮率を良化させているが、70℃で測定した時のエージング前後の温湯収縮率が記載されていない。特許文献3では自然収縮率が良化しているが、自然収縮率の良化に関する技術的な知見は不明である。また70℃収縮率のエージング前後の値に関しては不明である。70℃の収縮率の低下が大きいと、収縮させる時の初期収縮率が異なり、収縮仕上り性が悪くなる問題が有る。特に熱伝達係数が低い熱風を用いた収縮装置では、熱風による初期収縮率が異なると、仕上り時の収縮不足、ラベルの歪みが生じて好ましくない。
【0005】
特許文献4に記載されているような長手方向に熱収縮するフィルムは、一般的に加熱されたロールの速度差を用いてロール間で延伸される為、幅方向に収縮するフィルムに対して延伸時の変形速度が速い。延伸時の変形速度が速いと、延伸時に延伸と直交方向(非収縮方向)へネッキング力が生じ、非収縮方向の熱収縮率も高くなり好ましくない。その為、ネッキング力を抑制する事が重要である。ネッキンング力を抑制する方策として高温延伸が知られている。しかし高温延伸を行ってフィルム延伸応力を小さくする(ネッキング力を抑制する)と、延伸方向の分子配向も小さくなり主収縮方向の熱収縮率が小さくなると共に、厚みムラが悪化して好ましくない。
また延伸時の変形速度を遅くするよう、ロール間の間隔を広くすると、ネックインが生じて延伸後のフィルム幅方向の特性が大きく異なり好ましくない。
上記の欠点を改善可能なポリエステル原料は、これまでに見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平5-33895号公報
【文献】特許第4411556号公報
【文献】特許第5249997号公報
【文献】特開2011-79229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、主収縮方向に高い熱収縮率を有し、かつ エージングしても自然収縮率や収縮率の変化が小さく、収縮応力が低くて厚みムラが良好な熱収縮性ポリエステルフィルムを提供することを課題としている。また該熱収縮性ポリエステルフィルムを得るための原料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決してなる本発明は以下の構成よりなる。
1.以下の要件(1)~(4)を満足し、フィルム製造用に用いられることを特徴とする非晶性のフィルム用共重合ポリエステル原料。
(1)エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全ポリエステル樹脂成分中においてグリコール成分の合計量を100mol%としたとき、ネオペンチルグリコールを15mol%以上30mol%以下含有している。
(2)全ポリエステル樹脂成分中においてグリコール成分の合計量100mol%中にジエチレングリコール由来の構成ユニットを7mol%以上15mol%以下含有している。
(3)原料の極限粘度が0.60dl/g以上0.70dl/g未満。
(4)ガラス転移温度が60℃以上70℃以下。
2.厚さ30μmのフィルム状とした際に、フィルム10平方メートル当りのフィルム長手方向、またはフィルム幅方向への大きさ1mm以上の欠点数が平均1.5個以下であることを特徴とする1.に記載のフィルム用共重合ポリエステル原料。
3.原料をせん断速度6080/S、250℃で測定した時の溶融粘度が180Pa・S以下、せん断速度6080/S、230℃で測定した時の溶融粘度が350Pa・S以下であることを特徴とする1.または2.に記載のフィルム用共重合ポリエステル原料。
4.前記1~3のいずれかに記載の非晶性の共重合ポリエステル原料を含有すると共に、以下の要件(1)~(5)を満たす熱収縮性ポリエステルフィルム。
(1)フィルムの極限粘度が0.57dl/g以上0.67dl/g以下
(2)90℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、フィルム主収縮方向で55%以上85%以下
(3)80℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、フィルム主収縮方向と直交する方向で-10%以上1%以下
(4)90℃の熱風下で測定したフィルム主収縮方向の最大収縮応力が2MPa以上7MPa以下
(5)熱収縮性ポリエステルフィルムを温度30℃、相対湿度65%の雰囲気下で672時間エージングした後の70℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときのフィルム主収縮方向の温湯熱収縮率が、エージング前と比較して収縮率の差が0%以上5%以下
5.フィルムの長手方向及び幅方向の1m長で測定した平均厚みムラがいずれも10%以下であることを特徴とする4.に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
6.前記4.~5.のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いた熱収縮性ラベル。
7.前記6.に記載の熱収縮性ラベルで、包装対象物の少なくとも外周の一部を被覆して熱収縮させて形成されることを特徴とする包装体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高い収縮率を有するだけでなく、エージング後の70℃で測定した時の収縮率の低下が小さい。その為、エージング前後のフィルムを用いても同じ収縮条件で連続して工業的に安定して収縮させる事が可能である。
【0010】
本発明の原料は、樹脂温度230℃でも極限粘度が低いので溶融粘度も低くなる。その為、通常のポリエステル原料より低い温度で押出しが可能である。したがって、グリコール成分の合計量100mol%中にジエチレングリコール由来の構成ユニットを7mol%以上15mol%以下とジエチレングリコールを多く含有しているにも関わらず、厚さ30μmのフィルム状とした際に、フィルム10平方メートル当りのフィルム長手方向、またはフィルム幅方向への大きさ1mm以上の欠点数が平均1.5個以下と少なくすることが可能である。
【0011】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高い収縮率を有するだけでなく、収縮応力が低く、厚みムラが良好である。その為、薄肉化された容器にも適しており、従来よりも広い対象物を包装する事が可能な熱収縮性フィルムを提供することができた。
【0012】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、単層の熱収縮性ポリエステルフィルムだけでなく、本発明の熱収縮性ポリエステルフィルム層を有し、異なる樹脂層と積層した積層熱収縮性フィルムも本発明に包含される。
【0013】
そして、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたラベルで包装された包装体は、美麗な外観を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて詳しく説明する。尚、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法は、後に詳述するが、熱収縮性フィルムは通常、ロール等を用いて搬送し、延伸することにより得られる。このとき、フィルムの搬送方向を長手方向と称し、前記長手方向に直交する方向をフィルム幅方向と称する。従って、以下で示す熱収縮性ポリエステル系フィルムの幅方向とは、ロール巻き出し方向に対し垂直な方向であり、フィルム長手方向とは、ロールの巻き出し方向に平行な方向をいう。
【0015】
より高収縮なフィルムを得るための手法の一つに、フィルム中で非晶成分となりうるユニットを構成するモノマー成分(以下、単に非晶成分)量を増やすという手段がある。従来の横一軸延伸法で得られるフィルムでは、非晶成分量を増やすことで、それに見合った収縮率の増加が認められていた。しかし、非晶成分量を単純に増やすと高収縮が可能であるが、エージングにより、自然収縮率の増加、70℃程度の低温で測定する収縮率が低下する等の悪さが発生することが判明した。また非晶成分量を増すと厚みむらが悪くなり、フィルム製品ロールの外観を損なうことが判明した。そこで本発明者らはジエチレングリコール(以下、単に「DEG」とも表す。)に着目した。
【0016】
ジエチレングルコールが多くなると、耐熱性が悪くなり、溶融押出しで異物の吐出が増える為これまで積極的に使用されていなかった。しかし本発明者らは、ポリエステル樹脂の構成ユニットとしてジエチレングリコールを使用するとフィルム延伸時の延伸応力が低下し、更にエージング後の70℃程度の低温で測定する収縮率の低下を抑制できることが分かった。
【0017】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造用に用いられる非晶性の共重合ポリエステルは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。ここで、主たる構成成分とするとは、全構成成分中の50モル%以上となることをさす。エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。
【0018】
本発明のポリエステルを構成するテレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中および多価カルボン酸成分100モル%中(すなわち、合計200モル%中)、テレフタル酸成分は80モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、95モル%以上が特に好ましい。本発明においては、テレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分は含有しないこと(即ちテレフタル酸100モル%)が最も好ましい。
【0019】
ここで、上記の「非晶質成分となり得る」の用語の解釈について詳細に説明する。
【0020】
本発明において、「非晶性ポリマー」とは、具体的にはDSC(示差走査熱量分析装置)における測定で融解による吸熱ピークを有さない場合を指す。非晶性ポリマーは実質的に結晶化が進行しておらず、結晶状態をとりえないか、結晶化しても結晶化度が極めて低いものである。
【0021】
また、本発明において「結晶性ポリマー」とは上記の「非晶性ポリマー」ではないもの、即ち、DSC示差走査熱量分析装置における測定で融解による吸熱ピークを有する場合を指す。結晶性ポリマーは、ポリマーが昇温すると結晶化されうる、結晶化可能な性質を有する、あるいは既に結晶化しているものである。
【0022】
一般的には、モノマーユニットが多数結合した状態であるポリマーについて、ポリマーの立体規則性が低い、ポリマーの対称性が悪い、ポリマーの側鎖が大きい、ポリマーの枝分かれが多い、ポリマー同士の分子間凝集力が小さい、などの諸条件を有する場合、非晶性ポリマーとなる。しかし存在状態によっては、結晶化が十分に進行し、結晶性ポリマーとなる場合がある。例えば、側鎖が大きいポリマーであっても、ポリマーが単一のモノマーユニットから構成される場合、結晶化が十分に進行し、結晶性となり得る。そのため、同一のモノマーユニットであっても、ポリマーが結晶性になる場合もあれば、非晶性になる場合もあるため、本発明では「非晶質成分となり得るモノマー由来のユニット」という表現を用いた。
【0023】
ここで、本発明においてモノマーユニットとは、1つの多価アルコール分子および1つの多価カルボン酸分子から誘導されるポリマーを構成する繰り返し単位のことである。
【0024】
テレフタル酸とエチレングリコールからなるモノマーユニット(エチレンテレフタレートユニット)がポリマーを構成する主たるモノマーユニットである場合、イソフタル酸とエチレングリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸とネオペンチルグリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸と1.4-シクロヘキサンジメタノールからなるモノマーユニット、イソフタル酸とブタンジオールからなるモノマーユニット等が、上記の非晶質成分となり得るモノマー由来のユニットとして挙げられる。
【0025】
また、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)をポリエステルに含有させないことが好ましい。これらの多価カルボン酸を含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。
【0026】
本発明のポリエステルを構成するエチレンテレフタレートユニット以外のジオール成分としては、1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。
【0027】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造用に用いられる非晶性の共重合ポリエステルは、ジエチレングリコール由来の構成ユニットを含む必要がある。ジエチレングリコール由来の構成ユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、7モル%以上が好ましく、8モル%以上がより好ましく、9モル%以上がさらに好ましく、10モル%以上が特に好ましい。ジエチレングリコール由来の構成ユニットの上限は15モル%以下であることが好ましく、14モル%以下がより好ましく、13モル%以下であることがさらに好ましい。ジエチレングリコール由来の構成ユニットは、ポリエステルのガラス転移温度を低下させて熱収縮性ポリエステルフィルムの低温域での熱収縮率を増加させる成分であると共に、ジエチレングリコール由来の構成ユニットを7モル%以上含有する場合、エージング後の70℃で測定した収縮率の低下や収縮応力の低減のような本発明の効果が向上するため好ましい。一方、ジエチレングリコール成分が15モル%より多く含有する場合、エージング後の70℃で測定した収縮率の低下に対する改善効果は大きくなく、またフィルム中の劣化物や欠点が増えてしまうため好ましくない。
【0028】
また、ポリエステルは、全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中および多価カルボン酸成分100モル%中(すなわち、合計200モル%中)の非晶成分の合計が15モル%以上、好ましくは16モル%以上、より好ましくは17モル%以上である。また非晶成分の合計の上限は30モル%以下、好ましくは29モル%以下、より好ましくは28モル%以下である。ジエチレングリコール由来の構成ユニットや非晶成分量を上記範囲にすることにより、ガラス転移点(Tg)を60~70℃に調整したポリエステルが得られる。Tgが低いと常温でフィルムの分子が動きフィルム物性が変わるので、61℃以上が好ましく、62℃以上は更に好ましい。またTgが高いと70℃温湯収縮率は低くなってしまうので、69℃以下が好ましく、68℃以下は更に好ましい。
【0029】
なお、ポリエステルには、炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリン等)を含有させないことが好ましい。これらのジオール、または多価アルコールを含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。また、ポリエステルには、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールをできるだけ含有させないことも好ましい。またポリエステルは、全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中および多価カルボン酸成分100モル%中(すなわち、合計200モル%中)の非晶成分は、共重合する方が好ましい。共重合することにより原料偏析の懸念が無くなり、フィルム原料組成が変動によるフィルム物性の変化を防ぐことが可能である。さらに共重合することによりエステル交換が進むことで、非晶成分量が増えて主収縮方向の収縮率を高くするのに有利である。
【0030】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0031】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、フィルムの作業性(滑り性)を良好にする滑剤としての微粒子を添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができるが、例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等、有機系微粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05~3.0μmの範囲内(コールターカウンタにて測定した場合)で、必要に応じて適宜選択することができる。
含有量は例えばシリカなら、50ppm以上3000ppm以下なら微粒子の平均粒径を上記の範囲に調整することが可能である。シリカの含有量は好ましくは200ppm以上であり、更に好ましくは300ppm以上である。シリカの含有量が多すぎると透明性が損なわれるので、透明性を必要とするフィルムは 2000ppm以下が好ましく1500ppm以下が更に好ましい。
【0032】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中に上記粒子を配合する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うのも好ましい。
【0033】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムには、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等をすることも可能である。
【0034】
次に、本発明の非晶性の共重合ポリエステル原料、熱収縮性ポリエステル系フィルムの特性を説明する。
【0035】
本発明の非晶性の共重合ポリエステル原料の極限粘度は0.6dl/g以上0.7dl/g未満であることが好ましい。この範囲の極限粘度として、後述の溶融押し出し条件と組み合せることで熱収縮性ポリエステル系フィルムの極限粘度を0.57dl/g以上0.67dl/g以下に調整することが可能となる。
熱収縮性ポリエステル系フィルムの極限粘度が0.57dl/g未満だと、フィルムの生産工程において延伸し難くなり、所謂破断という現象が生じ、生産性が悪くなるので好ましくない。熱収縮性ポリエステル系フィルムの極限粘度は0.59dl/g以上が好ましく、0.61dl/g以上がより好ましい。なお、熱収縮性ポリエステル系フィルムの極限粘度が0.67dl/gより高くても問題無いが、原料の極限粘度の上限が0.7dl/gの為、フィルムの極限粘度の上限を0.67dl/gとした。非晶性の共重合ポリエステル原料の極限粘度と熱収縮性ポリエステル系フィルムの極限粘度の上限をこれらの範囲内とすることにより、前述のように、特に長手方向を主収縮方向とする熱収縮性フィルムをロール間延伸により製造する際に、長手方向の延伸応力を低減できると共に延伸方向と直交する方向のネッキング力を抑制することが可能となり、長手方向の収縮応力が低くかつ厚みムラが良好なフィルムを製造することができる。
【0036】
本発明の非晶性の共重合ポリエステル原料のせん断速度6080/S、250℃で測定した時の溶融粘度は180Pa・S以下であることが好ましい。またせん断速度6080/S、230℃で測定した時の溶融粘度は350Pa・S以下であることが好ましい。溶融粘度が高いと、樹脂温度を高くしないと押出しが困難となるが、本発明のようにジエチレングリコールが多い原料では樹脂温度が高いと、押出し後のフィルムやシートの異物が多くなり好ましくない。従って樹脂温度は240℃以下が好ましく、更に好ましくは230℃以下である。樹脂温度の下限は原料の融点温度であるが、本発明の原料では融点が明確では無く、210℃では溶融しているので、210℃を下限とする。
また250℃で測定した時の溶融粘度が180Pa・Sより高い場合、230℃で測定した時の溶融粘度が350Pa・Sより高い場合は、原料を溶融押出す機械の負荷が大きくなり、設備が大型化するので好ましくない。好ましくは230℃で測定した時に330Pa・S以下であり、更に好ましくは310Pa・S以下である。
また溶融粘度が低すぎると、溶融樹脂の吐出部でせん断応力が低くなり厚みムラの原因となり好ましくない。250℃で測定した時の溶融粘度は、好ましくは100Pa・S以上であり、更に好ましくは110Pa・S以上である。
【0037】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃の温湯中に、無荷重状態で10秒間浸漬し、フィルムを直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬させた後、収縮前後の長さから、下記式1により算出したフィルムの幅方向(主収縮方向)の熱収縮率(すなわち、90℃の温湯熱収縮率)が、55%以上85%以下である。
熱収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) (式1)
【0038】
98℃における主収縮方向の温湯熱収縮率が55%未満であると、容器全体を覆う(いわゆるフルラベル)高収縮のフィルムに対する要求に対応できない上に、収縮量が小さいため、ラベルとして用いた場合に、熱収縮後のラベルに歪み、収縮不足、シワ、弛み等が生じてしまう。90℃の温湯熱収縮率は58%以上が好ましく、61%以上がより好ましい。なお、90℃における主収縮の温湯熱収縮率が85%を超えるようなフィルムに対する要求度は低いため、温湯熱収縮率の上限を85%とした。
【0039】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記と同様にして測定されたフィルム主収縮方向と直交する方向(長手方向)の80℃の温湯熱収縮率が、-10%以上1%以下である。80℃における主収縮方向と直交する方向の温湯熱収縮率が-10%よりも小さいと、加熱によりフィルムの伸長する量が多過ぎて、容器のラベルとして使用する際に良好な収縮外観を得ることができないので好ましくなく、反対に、80℃における主収縮方向と直交する方向の温湯熱収縮率が1%を超えると、熱収縮ラベルに米粒のようなシワや歪みが入り好ましくない。80℃における主収縮方向と直交する方向の温湯熱収縮率の上限に関しては、0%以下が好ましい。
【0040】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃の熱風下で測定したフィルム主収縮方向の最大収縮応力が2MPa以上7MPa以下である。なお、収縮応力の測定は実施例に記載の方法で行うものとする。
【0041】
フィルム主収縮の90℃での最大収縮応力が7MPaを上回ると、ペットボトルの容器等では問題無いが、薄肉化した容器では収縮時に収縮応力により潰れが生じて好ましくない。90℃の最大収縮応力は、6MPa以下がより好ましく、5MPa以下がさらに好ましい。また90℃のフィルム主収縮方向の最大収縮応力は、2MPaを下回ると、容器のラベルとして使用する際に、ラベルが弛んで容器に密着しないことがあるため、好ましくない。90℃の最大収縮応力は、2.5MPa以上がより好ましく、3MPa以上がさらに好ましい。
【0042】
本発明の非晶性の共重合ポリエステル原料を用いて得られた熱収縮フィルムは、厚さ30μmのフィルム状とした際に、10平方メートル当りのフィルム長手方向または幅方向への大きさ1mm以上の欠点数が1.5個以下である。1.5個より多いと、印刷時に欠点(異物)の箇所がインキ抜けとなり、印刷後のラベルの外観を損うので好ましくない。10平方メートル当りのフィルム長手方向または幅方向への欠点の大きさは、1個以下が好ましく、0.5個以下が更に好ましい。
【0043】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、温度30℃、湿度65%で672時間エージングした後の70℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの主収縮方向の温湯熱収縮率が、エージング前と比較して収縮率の差が0%以上5%以下であることが好ましい(下式2)。エージング前後70℃の温湯収縮率の差が大きいと、エージング前後でフィルムを収縮させてラベルとする工程の温度条件が異なるので好ましくない。特に在庫によりエージング前後のフィルムが混合された場合、工業的に連続で熱収縮させると収縮仕上りの外観が異なるので好ましくない。エージングした後の70℃の温水にフィルムを10秒間浸漬したときの温湯熱収縮率が、エージング前と比較して収縮率の差4%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。また最も望ましいのはエージング前後で温湯収縮率が変化しないことなので下限は0%とした。
熱収縮率の差=(エージング前の温湯収縮率―エージング後の温湯収縮率)(%) (式2)
【0044】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルム製品の長手方向及び幅方向の1m長で測定したときの式3で示す厚みムラは10%以下が好ましい。厚みムラが10%より高いと、製品ロールを印刷や加工するさいにシワや蛇行による見当ズレが生じてしまい好ましくない。厚みムラは8%以下が好ましく、6%以下がより好ましい。
厚みムラ=(最大厚み-最小厚み)÷平均厚み×100 (%) (式3)
【0045】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、特に限定されないが、厚みが5μm以上50μm以下であることが好ましい。厚みのより好ましい下限は6μmである。
【0046】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを幅方向に延伸して得ることができる。なお、ポリエステルは、前記した好適なジカルボン酸成分とジオール成分とを公知の方法で重縮合させることで得ることができる。また、通常は、チップ状のポリエステルをフィルムの原料として使用する。
【0047】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、230~270℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0048】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0049】
得られた未延伸の樹脂シートを、任意の主収縮方向にするため、縦延伸、または、横延伸を行う。
【0050】
(縦延伸及び縦延伸後の弛緩)
縦延伸で製膜する場合は、以下の(1)及び(2)の方法を採用することにより、本願の共重合ポリエステルの性能をより好適に発現させることができるので好ましい。
(1)縦延伸条件の制御
横延伸は、ロールの速度差によって延伸される。加熱されたロール上でTg以上Tg+20℃以下の温度にフィルムを予熱して、赤外線ヒータを用いてフィルムの温度がロール上より更に+5~20℃なるようにし、速度差を用いて3.5~6倍延伸することが好ましい。ロール上でフィルム温度がTg未満だと、延伸時に延伸応力が高くなり破断が生じて好ましくない。Tg++20℃より高いとフィルムがロールに粘着し、厚みムラが悪くなるので好ましくない。
また赤外線ヒータ等を用いてフィルムの延伸温度を前記の範囲内で高くした方が好ましい。これはロール間で延伸する縦延伸は延伸間隔が短い為、延伸時の変形速度が速くなる。一方、厚みを良化するには応力―歪み曲線の応力比(最終延伸時の引張応力÷上降伏点応力)の値が高くなるのが好ましいので、延伸温度が高いと上降伏点応力が低くなり適正な範囲内に制御できるので好ましい。
【0051】
(2)縦延伸後の長手方向への弛緩
縦延伸後に熱処理し、長手方向へ弛緩(リラックス)することが望ましい(0%はリラックス無しである)。リラックスをすることで長手方向の収縮率は若干低下するが、長手方向へ分子配向が緩和され、収縮応力の低下が可能となる。また延伸温度より高い温度で熱処理することにより、分子配向が緩和され、収縮応力の低下が可能となる。熱処理方法としては、加熱した炉を用いたり、MD延伸後のロール温度を高くしてフィルムを加熱する等がある。
【0052】
(横延伸及び横延伸後の弛緩)
横延伸で製膜する場合は、以下の(3)及び(4)の方法を採用することにより、本願の共重合ポリエステルの性能をより好適に発現させることができるので好ましい。
(3)横延伸条件の制御
横延伸は、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、Tg+10℃以上Tg+25℃以下の温度にフィルムを予熱する。その後にTg以上Tg+9℃以下となるように、冷却しながら幅方向へ3.5倍から6倍延伸することが好ましい。冷却しながら幅方向へ延伸することにより応力―歪み曲線の応力比(最終延伸時の引張応力÷上降伏点応力)の値が高くなり、幅方向の厚みムラの低減が可能となる。横延伸後は 延伸温度+1℃~+10℃で熱処理することが好ましい。熱処理温度が延伸温度より低いと分子配向の緩和が十分でなく、収縮応力の低下ができなくなり好ましくない。また熱処理温度が延伸温度+10℃よりも高いと、幅方向の収縮率が低下するので好ましくない。
【0053】
(4)横延伸後の幅方向への弛緩
熱処理工程で、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、幅方向へ0%~5%弛緩(リラックス)をすることが好ましい(0%はリラックス無しである)。リラックスをすることで幅方向の収縮率は若干低下するが、幅方向へ分子配向が緩和され、収縮応力の低下が可能となる。また最終熱処理工程で、延伸温度より高い温度で熱処理することにより、分子配向が緩和され、収縮応力の低下が可能となる。
【0054】
本発明の包装体は、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたミシン目またはノッチを有するラベルが、包装対象物の少なくとも外周の一部に被覆して熱収縮させて形成されるものである。包装対象物としては、飲料用のPETボトルを始め、各種の瓶、缶、菓子や弁当等のプラスチック容器、紙製の箱等を挙げることができる。なお、通常、それらの包装対象物に、熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られるラベルを熱収縮させて被覆させる場合には、当該ラベルを約5~70%程度熱収縮させて包装体に密着させる。なお、包装対象物に被覆されるラベルには、印刷が施されていても良いし、印刷が施されていなくても良い。
【0055】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムからラベルを作製する方法としては、長方形状のフィルムの片面の端部から少し内側に有機溶剤を塗布し、直ちにフィルムを丸めて端部を重ね合わせて接着してラベル状にするか、あるいは、ロール状に巻き取ったフィルムの片面の端部から少し内側に有機溶剤を塗布し、直ちにフィルムを丸めて端部を重ね合わせて接着して、チューブ状体としたものをカットしてラベル状とする。接着用の有機溶剤としては、1,3-ジオキソランあるいはテトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。この他、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素やフェノール等のフェノール類あるいはこれらの混合物が使用できる。
【実施例】
【0056】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。なお、フィルムの評価方法を以下に示す。
【0057】
[熱収縮率(温湯熱収縮率)]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、所定の温度℃±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記式(1)にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。
熱収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式(1)
【0058】
[エージング前後の熱収縮率差]
上記式(1)と同様の方法で70℃の温湯収縮率を求めた。その後 未測定のフィルム
を温度30℃、湿度65%の環境試験室で672時間エージングした後に、同様に70℃の温水にフィルムを求めた。下記式(2)にしたがって、それぞれ熱収縮率の差を求めた。
熱収縮率の差=(エージング前の温湯収縮率―エージング後の温湯収縮率)(%) (式2)
【0059】
[収縮応力]
熱収縮性フィルムから主収縮方向(幅方向)の長さが200mm、幅20mmの短冊状フィルムサンプルを切り出し、東洋ボールドウィン社製(現社名オリエンテック)の加熱炉付き強伸度測定機テシロン万能試験機PTM-250(オリエンテック社の登録商標)を用いて収縮応力を測定した。強伸度測定機の加熱炉は予め炉内を90℃に加熱しておき、フィルムサンプルを把持するためのチャック間距離は100mmとした。サンプルを強伸度測定機のチャックに取り付ける際には、加熱炉の送風を一旦止めて加熱炉の扉を開け、長さ方向150mmのサンプルの両端25mmずつをチャック間に挟み、チャック間距離は100mmとして、チャック間とサンプルの長さ方向とが一致し且つサンプルが水平となるように緩みなく固定した。サンプルをチャックに取り付けた後、速やかに加熱炉の扉を閉めて、送風を再開した。加熱炉の扉を閉め送風を再開した時点を収縮応力の測定開始時点とし、30秒間測定した後の最大値を収縮応力(MPa)として求めた。
【0060】
[厚みムラ]
フィルムを測定したい方向に1m×幅方向に40mmの短冊状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、5(m/分)の速度でフィルム試料の長手方向に沿って連続的に厚みを測定した。下式3からフィルムの厚み斑を算出した。厚みムラ=(最大厚み-最小厚み)÷平均厚み×100 (%) (式3)
【0061】
[極限粘度]
ポリエステル0.2gをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(60/40(重量比))の混合溶媒50ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。単位はdl/g。
【0062】
[溶融粘度]
キャピログラフ1D PMD-C (株)東洋精機製作所を用いて樹脂を所定の温度(250℃、230℃)にして、せん断速度6080/Sの条件でJIS K7199に準じて測定を行った。
【0063】
[欠点の数の数え方]
フィルムを幅方向に50cm、長手方向に50cmのサイズにサンプリングを行った。カットされたフィルムを卓上型フィルム配向ビュワー(ユニチカ製)へ載せ偏光をかけた。その後、倍率10倍のルーペを用いて1mm以上の欠点の数を数えた。同じように計120枚(30平方メートル)のフィルムの欠点数を数えた。そして下式4からフィルム10平方メートル辺りの欠点数の平均を求めた。
平均の欠点数=全ての欠点数÷3 (個/10平方メートル) (式4)
【0064】
[非晶ユニット含有量]
熱収縮性フィルムをカミソリ刃で削り取りサンプリングを行った。サンプリングしたフィルム約5mgを重クロロホルムとトリフルオロ酢酸の混合溶液(体積比9/1)0.7mlに溶解し、1H-NMR(varian製、UNITY50)を使用して非晶ユニット(以下の例ではネオペンチルグリコールユニットおよびシクロヘキサンジメタノールユニット)の存在量を算出し、そのモル%(ポリオールユニットを100モル%とした時のポリオール型非晶ユニットの割合と、ポリカルボン酸ユニットを100モル%とした時のポリカルボン酸型非晶ニットの割合の合計)を求めた。フィルム中のポリマー量(質量%)と前記モル%との積を非晶ユニットの含有量(質量モル%)とした。
【0065】
[Tg(ガラス転移点)]
セイコー電子工業社製の示差走査熱量計(型式:DSC220)を用いて、未延伸フィルム5mgを、-40℃から120℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0066】
[収縮仕上り性]
熱収縮性フィルムに、予め東洋インキ製造(株)の草・金・白色のインキで3色印刷を施した。そして、印刷したフィルムの両端部をジオキソランで接着することにより、円筒状のラベル(熱収縮性フィルムの主収縮方向を周方向としたラベル)を作製し、それを裁断した。ラベルの収縮方向の直径は70mmであった。しかる後、Fuji Astec Inc 製スチームトンネル(型式;SH-1500-L)を用い、通過時間5秒、ゾーン温度90℃で、500mlのPETボトル(胴直径 62mm、ネック部の最小直径25mm)に熱収縮させることにより、ラベルを装着した。なお、装着の際には、ネック部においては、直径30mmの部分がラベルの一方の端になるように調整した。収縮後の仕上がり性の評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
【0067】
[ラベルの収縮歪み]
収縮後の仕上り性の評価として、装着されたラベル上部の360度方向の歪みをゲージを使用して測定し、歪みの最大値を求めた。以下の基準に従って評価した。
○:最大歪み 1.5mm未満
×:最大歪み 1.5mm以上
【0068】
[ラベル収縮不足]
上記したラベル収縮状態を以下の基準に従って評価した。
○:装着したラベルと容器との間に弛みが無く収縮している。
×:ラベルと容器の間に収縮不足による弛みがある。
【0069】
[ラベルのシワ]
上記したラベルの収縮歪みの条件と同一の条件で、シワの発生状態を、以下の基準に従って評価した。
○:大きさ1.5mm以上のシワの数が2個以下。
×:大きさ1.5mm以上のシワの数が3個以上。
【0070】
[エージング後の収縮仕上り性]
温度30℃湿度65%の条件化で672時間エージングした後の熱収縮性フィルムに、予め東洋インキ製造(株)の草・金・白色のインキで3色印刷を施した。そして、印刷したフィルムの両端部をジオキソランで接着することにより、円筒状のラベル(熱収縮性フィルムの主収縮方向を周方向としたラベル)を作製し、それを裁断した。ラベルの収縮方向の直径は70mmであった。しかる後、Fuji Astec Inc 製スチームトンネル(型式;SH-1500-L)を用い、通過時間5秒、ゾーン温度90℃で、500mlのPETボトル(胴直径 62mm、ネック部の最小直径25mm)に熱収縮させることにより、ラベルを装着した。なお、装着の際には、ネック部においては、直径30mmの部分がラベルの一方の端になるように調整した。収縮後の仕上がり性の評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
収縮仕上り性の評価は上記「ラベルの収縮歪み」、「ラベル収縮不足」、「ラベルのシワ」と同じである。
【0071】
<ポリエステル原料の調製>
ジメチルテレフタレート(DMT)および以下に記載の各グリコール成分を用いて、エステル交換を経て重縮合を行う公知の方法により、原料A~Hを得た。
原料A:ネオペンチルグリコール25モル%とジエチレングリコール12モル%とエチレングリコール63モル%と テレフタル酸とからなるポリエステル。 極限粘度0.69dl/g。
原料B:ネオペンチルグリコール30モル%とジエチレングリコール8モル%とエチレングリコール62モル%と テレフタル酸とからなるポリエステル。 極限粘度0.60dl/g。
原料C:ネオペンチルグリコール18モル%とジエチレングリコール15モル%とエチレングリコール67モル%と テレフタル酸とからなるポリエステル。 極限粘度0.65dl/g。
原料D:ネオペンチルグリコール25モル%とジエチレングリコール5モル%とエチレングリコール70モル%と テレフタル酸とからなるポリエステル。 極限粘度0.65dl/g。
原料E:ネオペンチルグリコール11モル%とジエチレングリコール12モル%とエチレングリコール77モル%と テレフタル酸とからなるポリエステル。 極限粘度0.65dl/g。
原料F:ネオペンチルグリコール18モル%とジエチレングリコール15モル%とエチレングリコール67モル%と テレフタル酸とからなるポリエステル。 極限粘度0.85dl/g。
なお、上記ポリエステルの製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して600ppmの割合で添加した。なお、表中のEGはエチレングリコール、DEGはジエチレングルコール、NPGはネオペンチルグリコールである。なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。
【0072】
実施例、比較例で使用したポリエステル原料の組成、実施例、比較例におけるフィルムの樹脂組成と製造条件を、それぞれ表1、表2に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
実施例1
原料Aを押出機に投入した。この樹脂を270℃で溶融させて、230℃まで冷却しながらTダイから押出し、表面温度25℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ146μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。未延伸フィルムのTgは68℃であった。得られた未延伸フィルムを縦延伸機へ導き、表面温度がTg+7℃のロールで予熱し、赤外線ヒータでフィルム温度がTg+22℃で5倍延伸を行った。縦延伸後のフィルムを表面温度Tg+12℃の延伸後の加熱ロールへ導き、ロールの速度差を利用して長手方向へ3%リラックスした。リラックス後のフィルムを表面温度Tg-40℃の冷却ロールで冷却した。その後、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの縦一軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。エージング前後の物性変化が少なく、良好な結果であった。
【0076】
実施例2
原料Aを原料Bに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ30μmのフィルムを製造した。Tgは69℃だった。評価結果を表3に示す。実施例1同様に良好な結果であった。
【0077】
実施例3
原料Aを原料Cに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ30μmのフィルムを製造した。Tgは67℃だった。評価結果を表3に示す。実施例1同様に良好な結果であった。
【0078】
実施例4
原料Aを押出機に投入した。この樹脂を270℃で溶融させて、230℃まで冷却しながらTダイから押出し、表面温度25℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ146μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。未延伸フィルムのTgは68℃であった。得られた未延伸フィルムをテンターに導き、フィルムの表面温度がTg+17℃で予熱した後に、フィルムの表面温度がTg+5℃になるよう冷却しながら幅方向に5倍で延伸した。次にフィルムの表面温度がTg+11℃になるよう加熱しながら、幅方向に3%弛緩(リラックス)した。その後、冷却し、両縁部を裁断除去して幅1000mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの一軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。エージング前後の物性変化が少なく、良好な結果であった。
【0079】
実施例5
原料Aを原料Bに変更した以外は実施例4と同様の方法で厚さ30μmのフィルムを製造した。Tgは69℃だった。評価結果を表3に示す。実施例4同様に良好な結果であった。
【0080】
実施例6
原料Aを原料Cに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ30μmのフィルムを製造した。Tgは67℃だった。評価結果を表3に示す。実施例4同様に良好な結果であった。
【0081】
比較例1
原料Aを原料Dに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ30μmのフィルムを製造した。評価結果を表3に示す。実施例1に対して、エージング前の収縮仕上り性は良好であったが、エージング後の70℃の縦方向収縮率が低く(エージングによる低下が大きい)、エージング前と同じ条件で収縮仕上げを行うと収縮仕上り性に劣る結果であった。
【0082】
比較例2
原料Aを原料Eに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ30μmのフィルムを製造した。評価結果を表3に示す。実施例1に対して、90℃における縦収縮率が低く、収縮仕上り性に劣る結果であった。
【0083】
比較例3
原料Aを原料Fに変更した。また原料の溶融温度や押出し温度を270℃で実施した。これは原料の極限粘度が高く、押出し温度が低いと押出し機械への負荷が大きくなって押出しが困難となったためである。それ以外は実施例3と同様の方法で厚さ30μmのフィルムを製造した。評価結果を表3に示す。実施例3に対して、収縮応力が高く、収縮仕上り性に劣る結果であった。また欠点数が多かった。
【0084】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高い熱収縮率を有しているにも関わらず、エージング後の熱収縮率収縮の低下が少なく、かつ欠点も少ないのでラベル用途に好適に用いることができる。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムがラベルとして用いられて得られた容器等の包装体は美麗な外観を有するものである。また、本発明の非晶性のフィルム用共重合ポリエステル原料は、該熱収縮性ポリエステル系フィルム製造用に好適に用いられるものである。