(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231011BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231011BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231011BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231011BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20231011BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20231011BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20231011BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20231011BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20231011BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0568
H01G11/06
H01G11/24
H01G11/30
H01G11/62
(21)【出願番号】P 2020541296
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2019034968
(87)【国際公開番号】W WO2020050359
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018166425
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】岡島 宇史
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508943(JP,A)
【文献】特開2003-331846(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003992(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/002774(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンを含有し、少なくとも表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子を含む正極、及び
下記式(1)で表される塩を含む非水電解質
を備える非水電解質蓄電素子。
【化1】
(式(1)中、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、又は有機基である。M
m+は、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、又はオニウムカチオンである。mは、M
m+で表されるカチオンの価数と同数の整数である。mが2以上の場合、複数のR
1は、それぞれ独立して上記定義を満たす。)
【請求項2】
上記非水電解質における上記塩の含有量が、0.1質量%以上5質量%以下である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記正極活物質粒子が、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む正極活物質を含み、
上記正極活物質のニッケル、コバルト及びマンガンの合計含有量に対する上記ニッケルの含有量が、50atm%以上である請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
上記正極活物質粒子は、表面におけるアルミニウムの存在量が内部におけるアルミニウムの存在量よりも大きい、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項5】
マンガンを含有し、少なくとも表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子を含む正極を作製すること、及び
下記式(1)で表される塩を含む非水電解質を準備すること
を備える非水電解質蓄電素子の製造方法。
【化2】
(式(1)中、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、又は有機基である。M
m+は、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、又はオニウムカチオンである。mは、M
m+で表されるカチオンの価数と同数の整数である。mが2以上の場合、複数のR
1は、それぞれ独立して上記定義を満たす。))
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
特許文献1には、正極活物質の表面を酸化アルミニウム等の金属化合物で被覆したリチウムイオン二次電池が提案されている。特許文献1によれば、正極活物質の表面を金属化合物で被覆することなどにより、高温でもサイクル耐久性が良好な高容量のリチウムイオン二次電池とすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の非水電解質蓄電素子においては、サイクル性能に関して改善の余地がある。例えば、低温環境下での使用を考慮すると、充放電サイクル後における低温下での直流抵抗(出力抵抗)の増加率が低いことが好ましい。しかし、上記特許文献1においては、直流抵抗の増加率については検討されていない。また、上記特許文献1では、実施例で30サイクルの充放電サイクル試験により放電容量の変化を確認している。しかし、サイクル数が増えれば、表面を金属化合物で被覆した正極活物質を用いた場合であっても、放電容量は顕著に低下することを発明者らは確認している(比較例1参照)。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率が低く、かつ容量維持率が高い非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、マンガンを含有し、少なくとも表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子を含む正極、及び下記式(1)で表される塩を含む非水電解質を備える非水電解質蓄電素子である。
【化1】
【0008】
式(1)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、又は有機基である。Mm+は、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、又はオニウムカチオンである。mは、Mm+で表されるカチオンの価数と同数の整数である。mが2以上の場合、複数のR1は、それぞれ独立して上記定義を満たす。
【0009】
本発明の他の一態様は、マンガンを含有し、少なくとも表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子を含む正極を作製すること、及び下記式(1)で表される塩を含む非水電解質を準備することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【化2】
【0010】
式(1)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、又は有機基である。Mm+は、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、又はオニウムカチオンである。mは、Mm+で表されるカチオンの価数と同数の整数である。mが2以上の場合、複数のR1は、それぞれ独立して上記定義を満たす。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率が低く、かつ容量維持率が高い非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、マンガンを含有し、少なくとも表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子を含む正極、及び下記式(1)で表される塩を含む非水電解質を備える非水電解質蓄電素子である。
【0014】
【0015】
式(1)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、又は有機基である。Mm+は、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、又はオニウムカチオンである。mは、Mm+で表されるカチオンの価数と同数の整数である。mが2以上の場合、複数のR1は、それぞれ独立して上記定義を満たす。
【0016】
当該非水電解質蓄電素子は、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率が低く、かつ容量維持率が高い。このような効果が生じる理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。従来、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加抑制や容量保持率を改善する手段の1つとして、正極の劣化抑制が検討されてきた。正極の劣化原因としては、正極活物質からの遷移金属溶出や、活物質表面での劣化層の形成、正極での電解液の酸化分解などが挙げられる。特に、マンガンを含む正極活物質では、正極活物質からのマンガンなどの遷移金属溶出による劣化が顕著に起こりやすい。これまでに、電解液添加剤による正極への保護被膜形成によって正極の劣化を抑制することが提案されている。しかし、一般的な非水電解質が用いられた従来の非水電解質蓄電素子では、充放電の繰り返しが進むことによって、保護被膜自体が劣化するため、正極の劣化抑制効果が維持できない。これに対し、当該非水電解質蓄電素子は、マンガンを含む正極活物質粒子表面にアルミニウムが含まれており、かつ特定構造の基を有する塩が添加されており、マンガンを含む正極活物質表面に存在するアルミニウムと、特定構造の基を有する塩によって形成された保護被膜とが相互作用することで安定化され被膜の劣化が抑制される。従って、当該非水電解質蓄電素子によれば、特定構造の基を有する塩によって形成された保護被膜による正極劣化の抑制効果が長期の充放電サイクルに渡って維持されるため、低温下での直流抵抗の増加率が低く、かつ容量維持率も高くなっているものと推測される。
【0017】
上記非水電解質における上記塩の含有量が、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。上記塩の含有量を上記範囲とすることで、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率をより低くし、かつ容量維持率をより高めることができる。
【0018】
上記正極活物質粒子が、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む正極活物質を含み、上記正極活物質のニッケル、コバルト及びマンガンの合計含有量に対する上記ニッケルの含有量が、50atm%以上であることが好ましい。ニッケル含有量が多い正極活物質は、一般的にニッケル含有量が少ない場合と比較して結晶構造の安定性が低く、保護被膜の安定化による劣化抑制効果をより十分に得ることができる。
【0019】
上記正極活物質粒子が、表面におけるアルミニウムの存在量が内部におけるアルミニウムの存在量よりも大きいことが好ましい。このような正極活物質を用いることで、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率をより低くし、かつ容量維持率をより高めることができる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、少なくとも表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子を含む正極を作製すること、及び下記式(1)で表される塩を含む非水電解質を準備することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0021】
【0022】
式(1)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、又は有機基である。Mm+は、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、又はオニウムカチオンである。mは、Mm+で表されるカチオンの価数と同数の整数である。mが2以上の場合、複数のR1は、それぞれ独立して上記定義を満たす。
【0023】
当該製造方法によれば、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率が低く、かつ容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を製造することができる。
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法について詳説する。
【0025】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0026】
(正極)
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極合剤層を有する。
【0027】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0028】
上記中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極合剤層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダ(結着剤)及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が107Ω・cm超であることを意味する。
【0029】
上記正極合剤層は、正極活物質粒子を含むいわゆる正極合剤から形成される層である。正極合剤層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0030】
上記正極活物質粒子は、マンガンを含む。また、上記正極活物質粒子には、少なくとも表面にアルミニウムが存在する。正極活物質粒子は、マンガンを含む粒子状の正極活物質と、この正極活物質の表面に存在するアルミニウムとを備える。
【0031】
上記正極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池の正極活物質として用いられている各種のマンガンを含む材料を特に限定なく使用することができる。好適例として、例えばLixMeOy(Meは少なくともMnを含む、一種以上の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα―NaFeO2型結晶構造を有するLixNiaCobMncMdO2等、スピネル型結晶構造を有するLixMn2O4,LixNiαMn(2-α)O4等)、LiwMex(XOy)z(Meは少なくともMnを含む一種以上の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiMnPO4,Li2MnSiO4等)が挙げられる。これらの正極活物質中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。
【0032】
上記正極活物質としては、ニッケル、コバルト及びマンガンを含むものが好ましい。このとき、ニッケル、コバルト及びマンガンの合計含有量に対するニッケルの含有量の下限としては、例えば30atm%であってもよいが、50atm%が好ましい。一方、このニッケルの含有量の上限としては、例えば90atm%が好ましく、70atmがより好ましい。ニッケル、コバルト及びマンガンの合計含有量に対するコバルトの含有量の下限としては、5atm%が好ましく、10atmがより好ましい。一方、このコバルトの含有量の上限としては、40atm%が好ましく、30atm%がより好ましい。また、ニッケル、コバルト及びマンガンの合計含有量に対するマンガンの含有量の下限としては、5atm%が好ましく、20atmがより好ましい。一方、このマンガンの含有量の上限としては、40atm%が好ましく、30atm%がより好ましい。このような組成の正極活物質を用いることで、保護被膜の安定化による劣化抑制効果をより高めることができ、また、エネルギー密度を高めることなどもできる。
【0033】
好適な正極活物質の一例としては、層状の結晶構造を有すると共に、少なくともNi、Co、及びMnを有するリチウム遷移金属複合酸化物であって、Ni、Co、及びMnの総和に対するLiのモル比率であるLi/Meが0≦Li/Me≦1.3であり、Ni、Co、及びMnの総和に対するNiのモル比率であるNi/Meが、0.5≦Ni/Me<1であり、Ni、Co、及びMnの総和に対するCoのモル比率であるCo/Meが、0<Co/Me<0.5であり、Ni、Co、及びMnの総和に対するMnのモル比率であるMn/Meが、0<Mn/Me<0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)が挙げられる。
【0034】
上記リチウム遷移金属複合酸化物において、Li/Meは、1以上が好ましく、1であってもよい。Ni/Meは、0.9以下が好ましく、0.7がより好ましい。Co/Meは、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。また、Co/Meは、0.4以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。Mn/Meは、0.05以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。また、Mn/Meは、0.4以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
【0035】
上記リチウム遷移金属複合酸化物としては、例えばLiNi3/5Co1/5Mn1/5O2、LiNi1/2Co1/5Mn3/10O2、LiNi1/2Co3/10Mn1/5O2、LiNi8/10Co1/10Mn1/10O2等を挙げることができる。なお、上記リチウム遷移金属複合酸化物を示す化学式は、最初の充電処理(すなわち、正極、負極、電解質等の電池構成要素を組み立てた後に初めて行う充電処理)が行われる前の状態の組成を示すものとする。
【0036】
上記正極活物質は、一次粒子であってもよく、一次粒子が凝集してなる二次粒子であってもよい。正極活物質の一次粒子の平均粒径としては、例えば0.05から2μmが好ましく、二次粒子の平均粒径としては、例えば5から30μmが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極合剤層の電子伝導性が向上する。ここで、「平均粒径」とは、JIS-Z-8815(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0037】
上記正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なかでも、正極活物質は、上記リチウム遷移金属複合酸化物を、使用する全正極活物質のうち50質量%以上(典型的には70から100質量%、好ましくは80から100質量%)の割合で含有することが好ましく、実質的に上記リチウム金属複合酸化物のみからなる正極活物質を用いることがより好ましい。
【0038】
上記アルミニウムは、粒子状の正極活物質の少なくとも表面に存在している。例えば、正極活物質が二次粒子である場合、少なくともこの二次粒子の表面に、アルミニウムが存在している。但し、正極活物質の一次粒子間にアルミニウムが存在していてもよい。また、このアルミニウムは、粒子状の正極活物質の表面全面を被覆するように存在していなくてよく、正極活物質の表面の少なくとも一部に存在していればよい。例えばアルミニウムは、正極活物質の表面に点状に分散した状態で存在していてよい。また、正極活物質の表面に存在するアルミニウムとは別に、正極活物質の表面以外の部分、すなわち正極活物質の内部にアルミニウムが存在していてもよい。
【0039】
上記アルミニウムは、通常、化合物の状態で正極活物質の表面に存在している。アルミニウムの化合物としては、酸化物、硫化物、ハロゲン化物、珪酸化物、リン酸化物、硫酸化物、硝酸化物、合金等を挙げることができる。これらの中でも、アルミニウムは、酸化物(Al2O3、LiAlO2等)として存在していることが好ましい。
【0040】
上記アルミニウムを正極活物質の表面に存在させる方法としては、アルミニウム元素を含む化合物を溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加させた後に乾燥する方法、アルミニウム元素を含む化合物を溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加させた後に加熱等により反応させる方法、アルミニウム元素を含む化合物を正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法、アルミニウム元素を含む化合物と正極活物質とを混合して焼成する方法等が挙げられる。
【0041】
正極活物質粒子表面に存在しているアルミニウムは、通常、アルミニウム酸化物等の粒子として存在する。このアルミニウム酸化物等の粒子径としては、例えば0.1nmから1μmであってよく、1nmから100nmであることが好ましい。
【0042】
上記正極活物質粒子に占めるアルミニウムの含有量の下限としては、例えば0.01質量%が好ましく、0.03質量%がより好ましく、0.05質量%がさらに好ましい。アルミニウムの含有量を上記下限以上とすることで、アルミニウムによる保護被膜の劣化抑制効果をより高めることができる。一方、このアルミニウムの含有量の上限としては、0.2質量%が好ましく、0.15質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましいこともある。アルミニウムの含有量を上記上限以下とすることで、正極活物質が露出する割合が高まり、イオンの挿入脱離が阻害されないため抵抗の増加を抑制できる。また、相対的に正極活物質量が多くなるためエネルギー密度等を高めることができる。
【0043】
上記正極活物質は、表面におけるアルミニウムの存在量が内部におけるアルミニウムの存在量よりも大きいことが好ましい。例えば、表面におけるアルミニウムのモル濃度に対する、内部におけるアルミニウムのモル濃度の比率が、10mol%以下であると好ましく、5mol%以下であるとより好ましく、1mol%以下であるとさらに好ましい。表面におけるアルミニウムのモル濃度に対する、内部におけるアルミニウムのモル濃度の比率は、例えば、正極活物質の粒子の断面をSEM-EDX装置を用いて測定し、粒子の中心におけるアルミニウムのモル濃度と、粒子の表面におけるアルミニウムのモル濃度との比率を算出することにより求めることができる。このような正極活物質を用いることで、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率をより低くし、かつ容量維持率をより高めることができる。
【0044】
ここで、正極活物質粒子に占めるアルミニウムの含有量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法により測定された値とする。
【0045】
上記正極合剤層中の正極活物質粒子の含有量の下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。正極活物質粒子の含有量の上限としては、99質量%が好ましく、97質量%がより好ましい。
【0046】
上記導電剤としては、蓄電素子性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられ、アセチレンブラックが好ましい。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0047】
上記バインダとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0048】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0049】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0050】
正極合剤層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0051】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極合剤層を有する。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0052】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0053】
上記負極合剤層は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される。また、負極合剤層を形成する負極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極合剤層と同様のものを用いることができる。
【0054】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの中でも、炭素材料が好ましく、黒鉛がより好ましい。なお、「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法から測定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm未満の炭素材料をいう。なお、ここでいう「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属リチウムを対極としてそれぞれ用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上であることをいう。即ち、開回路状態での金属リチウム対極の電位は、リチウムの酸化還元電位とほぼ等しいことから、上記開回路電圧は、リチウムの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等であり、上記開回路電圧が0.7V以上であることは、上記負極の電位が0.7V(vs.Li/Li+)以上であり、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0055】
さらに、負極合剤(負極合剤層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0056】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0057】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。無機粒子としては、Al2O3、SiO2、アルミノシリケート等が好ましい。
【0058】
(非水電解質)
上記非水電解質は、下記式(1)で表される塩(以下、「塩(X)」とも称する。)を含む。
【0059】
【0060】
式(1)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、又は有機基である。Mm+は、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、又はオニウムカチオンである。mは、Mm+で表されるカチオンの価数と同数の整数である。mが2以上の場合、複数のR1は、それぞれ独立して上記定義を満たす。
【0061】
R1で表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素等を挙げることができる。
R1で表される有機基は、炭素原子を含む基である。有機基としては、炭化水素基、及びその他の有機基を挙げることができる。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、エテニル基等のアルケニル基、エチニル基等のアルキニル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等の脂肪族炭化水素基、及びフェニル基、ベンジル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基を挙げることができる。その他の有機基としては、炭化水素基が有する1又は複数の水素原子が、炭化水素基以外の基で置換された基、アルコキシ基、カルボキシ基、シアノ基等を挙げることができる。R1で表される有機基の炭素数としては、例えば1から20であり、1から6であることが好ましい。
R1としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素がより好ましい。
【0062】
Mm+で表されるアルカリ金属カチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン等を挙げることができる。アルカリ土類金属カチオンとしては、マグネシウムイオン等を挙げることができる。オニウムカチオンとしては、アンモニウムイオン等を挙げることができる。
Mm+としては、アルカリ金属カチオンが好ましく、リチウムイオンがより好ましい。
【0063】
mは、1又は2であることが好ましく、1がより好ましい。
【0064】
上記非水電解質は、通常、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とをさらに含む。塩(X)は、通常、非水溶媒に溶解した状態で存在する。なお、非水電解質において、塩(X)が電解質塩として機能し、電解質塩として塩(X)以外の塩が存在しなくてもよい。
【0065】
(塩(X))
上記塩(X)は、上記式(1)で表される塩である限り、特に限定されない。
【0066】
上記非水電解質における塩(X)の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましく、1質量%、1.5質量%又は2質量%であることがよりさらに好ましいことがある。塩(X)の含有量を上記下限以上とすることで、マンガンを含む正極活物質粒子の表面におけるアルミニウムによる保護被膜の劣化抑制効果が高まり、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率をより低くし、かつ容量維持率をより高めることができる。特に、塩(X)の含有量を大きくすることで、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率をより低くすることができる。一方、この塩(X)の含有量の上限としては、5質量%が好ましく、4質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましく、2質量%又は1.2質量%がよりさらに好ましいことがある。塩(X)の含有量を上記上限以下とすることで、塩(X)を原因とする腐食の発生が抑制されることなどにより、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率をより低くし、かつ容量維持率をより高めることができる。特に、塩(X)の含有量を比較的小さくすることで、容量維持率が高まる傾向にある。
【0067】
(非水溶媒)
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0068】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0069】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMC及びDMCが好ましい。
【0070】
(電解質塩)
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0071】
上記リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0072】
上記非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1mol/dm3が好ましく、0.3mol/dm3がより好ましく、0.5mol/dm3がさらに好ましい。一方、この上限としては、2.5mol/dm3が好ましく、2mol/dm3がより好ましく、1.5mol/dm3がさらに好ましい。なお、この電解質塩の含有量に関し、上記塩(X)は、電解質塩に含まれないものとする。
【0073】
上記非水電解質には、上記塩(X)、非水溶媒及び電解質塩以外のその他の添加剤が添加されていてもよい。但し、上記非水電解質における上記その他の添加剤の含有量の上限としては、5質量%が好ましい場合があり、1質量%がより好ましい場合があり、0.1質量%がさらに好ましい場合がある。
【0074】
上記非水電解質には、上記その他の添加剤としてフルオロリン酸塩を含むことが好ましい。上記塩(X)と、フルオロリン酸塩とを併用することで、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率をより低くすることができる。
上記非水電解質におけるフルオロリン酸塩の含有量の上限は、1.5質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましい。
フルオロリン酸塩としては、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウム等のジフルオロリン酸塩を挙げることができる。これらの中でも、ジフルオロリン酸リチウムが好ましい。
【0075】
また、上記非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0076】
当該非水電解質二次電池(蓄電素子)は、充放電サイクル性能に優れ、具体的には、充放電サイクル後の低温下での直流抵抗の増加率が低く、かつ容量維持率が高い。このため、当該非水電解質蓄電素子は、高い作動電圧で用いることができる。例えば、当該非水電解質蓄電素子の通常使用時の充電終止電圧における正極電位は、4.3V(vs.Li/Li+)以上とすることができ、4.35V(vs.Li/Li+)以上とすることもできる。一方、この通常使用時の充電終止電圧における正極電位の上限は、例えば5V(vs.Li/Li+)であり、4.6V(vs.Li/Li+)であってもよい。
【0077】
ここで、通常使用時とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合であり、当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。なお、例えば、黒鉛を負極活物質とする非水電解質蓄電素子では、設計にもよるが、充電終止電圧が4.2Vのとき、正極電位は約4.3V(vs.Li/Li+)である。
【0078】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
当該蓄電素子は、以下の方法により製造することが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、マンガンを含有し、少なくとも表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子を含む正極を作製すること(正極作製工程)、及び上記式(1)で表される塩(塩(X))を含む非水電解質を準備すること(非水電解質準備工程)を備える。
【0079】
(正極作製工程)
上記正極作製工程においては、まず、マンガンを含有し、少なくとも表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子を製造する。この方法としては、例えば、マンガンを含有する正極活物質と、アルミニウム又はアルミニウム化合物とを混合し、この混合物を焼成することなどにより行うことができる。アルミニウム化合物としては、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等を挙げることができ、酸化アルミニウム(Al2O3)が好ましい。上記のような焼成を行う方法によれば、通常、表面にアルミニウムが酸化物の状態で存在する正極活物質粒子を得ることができる。その他、上記した他の方法で、少なくとも表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子を製造することもできる。
【0080】
このようにして得られた正極活物質粒子を含む正極合剤ペーストを用いて、正極が作製される。上記正極合剤ペーストは、通常、正極活物質粒子以外に、バインダ及び分散媒を含み、必要に応じさらにその他の成分を含む。上記分散媒としては、通常有機溶媒が用いられる。この有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、エタノール等の極性溶媒や、キシレン、トルエン、シクロヘキサン等の無極性溶媒を挙げることができ、極性溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。正極合剤ペーストは、上記の各成分を混合することにより得ることができる。この正極合剤ペーストを正極基材表面に塗布し、乾燥させることにより、正極が得られる。
【0081】
上記正極合剤ペーストの塗布方法としては特に限定されず、ローラーコーティング、スクリーンコーティング、スピンコーティング等の公知の方法により行うことができる。
【0082】
(非水電解質準備工程)
上記非水電解質準備工程は、非水電解質の各成分を混合することにより行うことができる。すなわち、例えば非水溶媒に、塩(X)及び電解質塩等の成分を添加し、これらの成分を溶解させることにより、非水電解質が得られる。
【0083】
当該製造方法は、上記正極作製工程及び非水電解質準備工程の他、以下の工程等を有していてもよい。すなわち、当該製造方法は、例えば、負極を作製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を容器(ケース)に収容する工程、並びに非水電解質を容器に注入する工程等を備えることができる。通常、電極体を容器に収容した後、非水電解質を容器に注入するが、この順番は逆であってもよい。これらの工程の後、注入口を封止することにより非水電解質二次電池(非水電解質蓄電素子)を得ることができる。
【0084】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、当該非水電解質蓄電素子の正極において、正極合剤や負極合剤は明確な層を形成していなくてもよい。例えば上記正極は、メッシュ状の正極基材に正極合剤が担持された構造などであってもよい。
【0085】
また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0086】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が容器3に収納されている。電極体2は、正極合剤を備える正極と、負極合剤を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、容器3には、非水電解質が注入されている。
【0087】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
実施例及び比較例で非水電解質の添加剤として用いた化合物を以下に示す。塩aは塩(X)に相当する。
・塩a:下記式(a)で表される化合物(リチウム(フルオロスルホニル)(ジフルオロホスホニル)イミド)
・塩b:下記式(b)で表される化合物(ジフルオロリン酸リチウム)
【0090】
【0091】
[製造例1]
表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子Aの製造
正極活物質であるLiNi1/2Co1/5Mn3/10O2(一次粒子径約0.5μm、二次粒子径約10μm)の二次粒子と酸化アルミニウム(Al2O3)とを混合した後、この混合物を焼成した。これにより、表面に粒子径1から100nmのアルミニウム酸化物(Al2O3、LiAlO2)が存在する正極活物質粒子Aを得た。なお、表面にアルミニウムを存在させていない、上記LiNi1/2Co1/5Mn3/10O2の二次粒子を正極活物質粒子Bとした。また、LiNi3/4Co1/5Al1/20O2(一次粒子径約1.5μm、二次粒子径約11μm)の二次粒子を正極活物質粒子Cとした。
【0092】
上記正極活物質粒子A、Bに対して、ICP発光分光分析法により正極活物質中に含まれるアルミニウムの含有量を測定した。正極活物質粒子Aにおけるアルミニウムの含有量は、0.08質量%であった。正極活物質粒子Bにおけるアルミニウムの含有量は、0質量%であった。
【0093】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質粒子として上記正極活物質粒子A、導電剤としてアセチレンブラック、及びバインダとしてポリフッ化ビニリデンを用いた。正極活物質粒子A、導電剤、及びバインダの比率をそれぞれ93質量%、4質量%及び3質量%とした混合物に、N-メチル-ピロリドン(NMP)を適量加えて粘度を調整し、正極合剤ペーストを作製した。この正極合剤ペーストを、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に、未塗布部(正極合剤層非形成領域)を残して間欠塗布し、乾燥することにより正極合剤層を作製した。その後、ロールプレスを行い、正極を作製した。正極の厚さは135μmであった。
【0094】
(負極の作製)
負極活物質として黒鉛、バインダとしてスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、及び増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。負極活物質、バインダ及び増粘剤をそれぞれ96質量%、2質量%及び2質量%とした混合物に水を適量加えて粘度を調整し、負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを、厚さ10μmの銅箔の両面に、未塗布部(負極合剤層非形成領域)を残して間欠塗布し、乾燥することにより負極合剤層を作製した。その後、ロールプレスを行い、負極を作製した。負極の厚さは148μmであった。
【0095】
(セパレータの準備)
セパレータとして厚さが20μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。ポリエチレン製微多孔膜の透気度は、210秒/100ccであった。
【0096】
(非水電解質の準備)
エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)をそれぞれ30体積%及び70体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.0mol/dm3となるようにLiPF6を溶解させた。さらに、ビニレンカーボネートを含有量が0.5質量%となるように、及び添加剤として上記式(1)で表される塩(X)に相当する塩(a)を含有量が0.2質量%となるようにそれぞれ添加することにより非水電解質を調製した。
【0097】
(二次電池(非水電解質蓄電素子)の作製)
上記手順にて得られた正極と、負極と、セパレータとを積層して巻回した。その後、正極の正極合剤層非形成領域及び負極の負極合剤層非形成領域を正極リード及び負極リードにそれぞれ溶接して容器に封入し、容器と蓋板とを溶接後、上記にて得られた非水電解質を注入して封口した。この様にして、実施例1の二次電池を作製した。
【0098】
[実施例2から6、比較例1から7]
用いた正極活物質粒子の種類、並びに非水電解質の添加剤の種類及び含有量を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2から6及び比較例1から7の各二次電池を得た。なお、表の添加剤の欄中の「-」は相当する添加剤を用いていないことを示す。
【0099】
[評価]
得られた各二次電池について、以下の方法で評価を行った。
【0100】
(初期の放電容量及び低温直流抵抗(DCR)の測定)
各二次電池について、25℃にて、充電電流900mA、充電電圧4.25V、充電時間3時間の定電流定電圧充電をした後、放電電流900mA、終止電圧2.75Vの定電流放電をおこなうことにより初期放電容量を測定した。さらに、初期放電容量の確認試験後の各二次電池について、充電電流900mA、充電電圧3.68V、充電時間3時間の定電流低電圧充電することにより電池の充電深度(SOC)を50%に設定し、-10℃まで冷却して5時間後に、90mAで10秒間放電したときの電圧(E1)、180mAで10秒間放電したときの電圧(E2)、270mAで10秒間放電したときの電圧(E3)をそれぞれ測定した。これらの測定値(E1、E2、E3)を用いて、直流抵抗を算出した。具体的には、横軸を電流、縦軸を電圧とするグラフ上に、上記測定値E1、E2、E3をプロットし、それら3点を最小二乗法による回帰直線(近似直線)により近似し、その直線の傾きを-10℃におけるSOCが50%での直流抵抗(DCR)とした。これを初期の低温DCRとした。
【0101】
(充放電サイクル試験)
各二次電池について、45℃の恒温槽中で、充電電流900mAにて4.25Vまで充電し、さらに4.25Vの定電圧で合計3時間充電した後、900mAの放電電流にて2.75Vまで定電流放電するサイクル試験を300サイクル行った。25℃に冷却後、初期放電容量を確認した条件と同様の方法で充放電サイクル試験後の放電容量を確認し、その後、-10℃にて上記と同様にして充放電サイクル試験後の直流抵抗を測定した。これを充放電サイクル試験後の低温DCRとした。
【0102】
(低温DCR増加率の算出)
低温DCRの増加率は、初期の低温DCRと充放電サイクル試験後の低温DCRから以下の数式(1)を用いて算出した。
低温DCR増加率(%)={(充放電サイクル試験後の低温DCR[Ω]/初期の低温DCR[Ω])-1}×100 ・・・(1)
【0103】
(容量維持率の算出)
容量維持率は、初期放電容量と充放電サイクル試験後の放電容量とから以下の数式(2)を用いて算出した。
容量維持率(%)=(充放電サイクル試験後の放電容量[mAh]/初期放電容量[mAh])×100 ・・・(2)
【0104】
測定された初期の低温DCR、並びに充放電サイクル試験後の低温DCR増加率及び容量維持率を表1に示す。
【0105】
【0106】
上記表1に示されるように、塩(a)を添加しなかった比較例1、3、5、6と、マンガンを含有し、表面にアルミニウムが存在していない正極活物質粒子Bを用いた比較例2から4と、マンガンを含有せず表面にアルミニウムが存在する正極活物質粒子Cを用いた比較例6、7においては、全て容量維持率が95%未満と低く、また、比較例1から3、5から7においては、低温DCR増加率が45%超と高い結果となった。なお、比較例4においては、低温DCR増加率は低いものの、容量維持率が低くなっており、低温DCR増加率が低くなることと、容量維持率が高くなることとは、同じ傾向になるとは限らないことが示される。
【0107】
これに対し、マンガンを含有し、表面にアルミニウムが存在している正極活物質A及び塩(a)を用いた実施例1から6の各非水電解質蓄電素子は、低温DCR増加率が45%以下と低く、かつ容量維持率が95%以上と高い。低温DCR増加率の抑制と容量維持率の向上との両立は、マンガンを含有し、表面にアルミニウムが存在している正極活物質と塩(a)とを共に用いたときに初めて生じる効果であるといえる。
【0108】
さらに各実施例同士の比較から、以下のことが確認できる。実施例1から5の比較から、塩(a)の含有量を増やすことで、初期の低温DCR及び充放電サイクル後の低温DCRがより低くなることがわかる。合計量として同量の添加剤を用いた実施例5と実施例6との比較から、塩(a)と塩(b)とを併用すれば、低温DCR増加率がより低くなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、電力貯蔵用電源、又は自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0110】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置