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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】コンタクトレンズ用処理溶液
(51)【国際特許分類】
   G02C 13/00 20060101AFI20231011BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20231011BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231011BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20231011BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G02C13/00
C08L33/14
C09K3/00 R
C11D3/37
C11D17/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020548385
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2019035674
(87)【国際公開番号】W WO2020059592
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018173272
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】川崎 寛子
(72)【発明者】
【氏名】笹木 友美子
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-035497(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209222(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 13/00
C08L 33/14
C09K 3/00
C11D 3/37
C11D 17/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の共重合体Aおよび共重合体Bを、A:B=40:1~5:1(重量比)で混合させコンタクトレンズ用処理溶液の製造方法
共重合体A:下記の式1で表される単量体a、及び下記の式2で表される単量体bを共重合して得られる共重合体であって、前記単量体a、単量体bの共重合割合がa:b=7:3~9:1(モル比)であり、かつ重量平均分子量が400,000~800,000である共重合体。
共重合体B:下記の式1で表される単量体a、及び下記の式2で表される単量体bを共重合して得られる共重合体であって、前記単量体a、単量体bの共重合割合がa:b=2:1~8:1(モル比)であり、重量平均分子量が1,000,000~1,500,000である共重合体。
【化1】
(式1中、Rは水素原子、またはメチル基を表す。)
【化2】
(式2中、Rは水素原子、またはメチル基を表し、Rは炭素数2~6のアルキル基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の方法でコンタクトレンズ用処理溶液を製造し、該コンタクトレンズ用処理溶液で処理するコンタクトレンズの処理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンタクトレンズ(以下CLと表記することがある)用処理溶液に関する。より詳細には、CLに付着した汚れを洗浄し、同時にCL表面の潤滑性を向上させ、しかもCL表面に持続的親水性を付与できるCL用処理溶液、及び該CL用処理溶液で処理したCLに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にコンタクトレンズは、装用の際に涙液や眼脂、皮脂、化粧品等に由来するタンパク質、脂質等の汚れが沈着することが多く、これら汚れが、装用感の悪化、矯正視力の低下、感染症等の原因となる。そのため、上記のCL汚れへの対策が様々開発されている。
従来の、CLに付着した汚れを除去するアプローチとして、界面活性剤、酸化剤、研磨剤等を含む洗浄剤を用いてCLを洗浄する方法が広く用いられている。さらに、特許文献1に代表されるように、CL洗浄液に酵素を添加することで、CLの汚れを効率よく除去する方法も広く用いられている。これらのアプローチでは、CLに付着した汚れの除去に主眼が置かれており、CLへの汚れの付着防止については十分な効果が得られていなかった。
【0003】
これに対し、CLへの汚れの付着を防止するアプローチとして、CL表面を親水化するアプローチが知られている。例えば特許文献2には、ホスホリルコリン基を含有するポリマーを含む溶液を用い、CLの表面を親水化する方法が提案されている。しかし、上記の方法では、CLへの汚れの付着を防止することに主眼がおかれ、CLに付着した汚れの除去については十分な効果が得られていなかった。
【0004】
CLに付着した汚れの除去及びCLへの汚れの付着防止を両立したアプローチとして、特許文献3には、ホスホリルコリン基を含有するポリマー、アルキルアミドポリオキシエチレンエーテル硫酸塩、及び加水分解酵素を特定の比率で含むCL用処理溶液が提案されている。この処理溶液を用いると、タンパク質、脂質汚れを除去でき、かつCL表面に親水性を付与してタンパク質、脂質汚れの吸着を防止できる。
【0005】
また近年、上記したCLへの汚れの付着防止及びCLに付着した汚れの除去に加えて、潤滑性をCL表面に付与する技術が求められている。潤滑性は、CLの装用感の改善に重要なパラメーターであることが提唱されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-180515号公報
【文献】特開平7-166154号公報
【文献】特開2000-147442号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】M.Roba et.al.,「Tribol Lett」、2011年、44巻、p387-397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した特許文献3に記載のCL用処理溶液は、CLへの汚れの付着防止及びCLに付着した汚れの除去については、一定の効果を有するものの、CL表面への潤滑性付与、及びCL表面に付与される親水性の持続性(以下持続的親水性ともいう)については改善の余地があった。
本発明の目的は、簡便な浸漬処理により、CL表面に付着した汚れを除去でき、かつCL表面の潤滑性を向上でき、しかもCL表面に持続的親水性を付与できるCL用処理溶液、及び該CL用処理溶液で処理したCLを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の問題点に鑑み鋭意検討した結果、驚くべきことに、重量平均分子量がそれぞれ特定の範囲となるように制御した2種の共重合体を特定の割合で混合させCL用処理溶液の製造方法により、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[2]を要旨とするものである。
[1]以下の共重合体A及び共重合体Bを、A:B=40:1~5:1(重量比)で混合させコンタクトレンズ用処理溶液の製造方法
共重合体A:下記の式1で表される単量体a、及び下記の式2で表される単量体bを共重合して得られる共重合体であって、前記単量体a、単量体bの共重合割合がa:b=7:3~9:1(モル比)であり、かつ重量平均分子量が400,000~800,000である共重合体。
共重合体B:下記の式1で表される単量体a、及び下記の式2で表される単量体bを共重合して得られる共重合体であって、前記単量体a、単量体bの共重合割合がa:b=2:1~8:1(モル比)であり、重量平均分子量が1,000,000~1,500,000である共重合体。
【化1】
(式1中、Rは水素原子、またはメチル基を表す。)
【化2】
(式2中、Rは水素原子、またはメチル基を表し、Rは炭素数2~6のアルキル基を表す。)
[2][1]に記載の方法でコンタクトレンズ用処理溶液を製造し、該コンタクトレンズ用処理溶液で処理するコンタクトレンズの処理方法
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な浸漬処理によって、CL表面に付着した汚れを除去でき、CL表面の潤滑性を向上させることができ、かつCL表面に持続的親水性を付与することができるCL用処理溶液、及び該CL用処理溶液で処理したCLを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸又はメタクリル酸」を意味し、他の類似用語についても同様である。
また、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量や重量平均分子量の範囲)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~100、より好ましくは20~90」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組み合わせて、「10~90」とすることができる。
【0013】
本発明のCL用処理溶液は、以下の共重合体A及び共重合体Bを、A:B=40:1~5:1(重量比)で含む。
共重合体A:下記の式1で表される単量体a、及び下記の式2で表される単量体bを共重合して得られる共重合体であって、前記単量体a、単量体bの共重合割合がa:b=7:3~9:1(モル比)であり、かつ重量平均分子量が400,000~800,000である共重合体。
共重合体B:下記の式1で表される単量体a、及び下記の式2で表される単量体bを共重合して得られる共重合体であって、前記単量体a、単量体bの共重合割合がa:b=2:1~8:1(モル比)であり、重量平均分子量が1,000,000~1,500,000である共重合体。
【化3】

(式1中、Rは水素原子、またはメチル基を表す。)
【化4】

(式2中、Rは水素原子、またはメチル基を表し、Rは炭素数2~6のアルキル基を表す。)
【0014】
[共重合体A]
本発明の共重合体Aは、式1で表される単量体aと、式2で表される単量体bとの共重合体である。
式1で表される単量体aのRは水素原子又はメチル基であり、原料入手性の観点からメチル基が好ましい。
【0015】
式2で表される単量体bのRは水素原子又はメチル基であり、共重合体の保存安定性の観点からメチル基が好ましい。
また、Rは炭素数2~6のアルキル基である。従って単量体bの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等を好ましく挙げることができる。特に、CLへ持続的親水性を付与する効果が高いため、単量体bは、式2において、Rが炭素数3~5のアルキル基である単量体であることが好ましく、中でも(メタ)アクリル酸ブチルがより好ましく、メタクリル酸ブチルが特に好ましい。
【0016】
共重合体A中の、単量体a、bの共重合割合は、a:b=7:3~9:1(モル比)である。このような範囲にすることにより、CL表面に持続的親水性を付与しやすくなる。共重合体A中の、単量体a、bの共重合割合は、好ましくは、a:b=3:1~4:1(モル比)である。
なお、本発明の共重合体A及び後述する共重合体Bにおける、単量体a、bの共重合割合とは共重合体中の、単量体a由来の構成単位(下記式3)と、単量体b由来の構成単位(下記式4)とのモル比を意味する。また、前記共重合割合は、通常、共重合体を重合する際の、単量体a及び単量体bの仕込み比に相当する。
【化5】

上記式において、Rは水素原子、またはメチル基を表す。
【化6】

上記式において、Rは水素原子、またはメチル基を表し、Rは炭素数2~6のアルキル基を表す。
【0017】
本発明の共重合体A及びBは、それぞれ、上記した単量体a由来の構成単位(上記式3)と、単量体b由来の構成単位(上記式4)を含む。また、本発明の共重合体A及びBはそれぞれ、上記した単量体a由来の構成単位と、単量体b由来の構成単位のみからなるものであってもよいし、これら以外の構成単位を含むものであってもよいが、単量体a由来の構成単位と、単量体b由来の構成単位のみからなるものであることが好ましい。
【0018】
本発明における共重合体Aの重量平均分子量は400,000~800,000であり、500,000~700,000が好ましい。共重合体Aの重量平均分子量を上記の範囲に調整することにより、CLに持続的親水性を付与する効果が良好になる。
なお、共重合体A及び後述する共重合体Bの重量平均分子量は、GPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)測定により、ポリエチレングリコール換算で求められる。
なお、重量平均分子量は、例えば、EcoSECシステム(東ソー株式会社製)を用いたGPC測定によって測定可能である。
【0019】
[共重合体B]
本発明の共重合体Bは、式1で表される単量体aと、式2で表される単量体bとの共重合体である。共重合体B中の、単量体a、bの共重合割合は、a:b=2:1~8:1(モル比)である。このような範囲にすることにより、CL表面に持続的親水性を付与しやすくなる。共重合体B中の、単量体a、bの共重合割合は、好ましくはa:b=3:1~4:1(モル比)である。
上記の単量体a、bの共重合割合は、共重合体A、共重合体Bで同一でも異なっていてもよい。
また、共重合体Bの重合に用いる単量体a及びbの構造については、上記共重合体Aにおいて説明したとおりであり、R、R及びRの好適な態様も同様である。ただし、重合に用いる単量体aの種類は、共重合体AとBとで同一であっても、異なっていてもよく、同様に、単量体bの種類は、共重合体AとBとで同一であっても、異なっていてもよい。
【0020】
本発明における共重合体Bの重量平均分子量は1,000,000~1,500,000であり、1,100,000~1,300,000が好ましい。共重合体Bの重量平均分子量を上記の範囲に調整することにより、CLに持続的親水化を付与する効果が良好になる。
【0021】
[共重合体A及び共重合体Bの含有量]
本発明のCL用処理溶液は、共重合体A及び共重合体Bを、A:B=40:1~5:1(重量比)で含む。
共重合体Aおよび共重合体Bの重量比が上記範囲外である場合、例えば、共重合体Bが少なすぎる場合は、CL表面に潤滑性を付与する効果、及び持続的親水性を付与する効果が低下し、共重合体Bが多すぎる場合は、CL表面に付着した汚れを除去する効果、CL表面に潤滑性を付与する効果、及び持続的親水性を付与する効果が低下する。
本発明のCL用処理溶液は、CL表面に持続的親水性を付与する効果を高める観点から、共重合体A及び共重合体Bを、A:B=35:1~25:1(重量比)とすることが好ましい。
また、タンパク質汚れに対する洗浄力の観点ではA:B=10:1~5:1(重量比)とすることが好ましい。
【0022】
本発明では、重量平均分子量がそれぞれ前述の領域となるように制御した2種の共重合体を、前述の割合で用いることにより、CLに持続的親水性を付与する効果が達成される。この原理の全容は未だ解明されていないものの、共重合体BがCL表面に優先的に定着してマトリックスを形成し、共重合体AをCL表面に留めるような役割をしていると考えられる。
【0023】
本発明のCL用処理溶液に用いられる共重合体Aと共重合体Bを合計した含有量は、CL用処理溶液全量中に0.01~5.0重量%であることが好ましく、0.1~1.0重量%であることがより好ましい。上記含有量が0.01~5.0重量%であれば、十分な持続的親水性付与効果が得られやすく、添加量に応じた効果が得られるため経済的である。
【0024】
[共重合体の製造方法]
本発明における共重合体A、共重合体Bを得るための重合方法としては、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の公知の方法を用いることができ、例えば単量体aおよび単量体bを溶媒中で重合開始剤の存在下で重合させる、ラジカル重合などの方法を採用することができる。
重合反応に用いる開始剤としては、通常用いられる開始剤ならばいずれを用いてもよく、例えば、ラジカル重合の場合には脂肪族アゾ化合物や、有機化酸化物を用いることができる。上記の重合開始剤の例としては例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソジメチルヴァレロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシジイソブチレートや、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が挙げられる。これらの重合開始剤は2種以上を混合して使用してもよい。また、重合開始剤の使用にはレドックス系のラジカル促進剤を使用してもよい。
重合温度としては、30~80℃が好ましく、40~70℃がより好ましい。また重合時間は2~72時間が好ましい。重合反応が良好に進行するからである。さらに、重合反応を円滑に行うために溶媒を用いてもよく、該溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、t-ブタノール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルム、またはこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0025】
[CL用処理溶液の調製]
本発明のCL用処理溶液は、上記した共重合体A、共重合体Bを溶媒に混合することによって得ることができる。本発明に用いられる溶媒としては、上記した共重合体A、共重合体Bを溶解、または安定に分散でき、CLに対して影響の少ないものから任意に選択することができる。そのような溶媒として例えば、精製水等の水を好ましく挙げることができるほか、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの、水と任意の割合で混和する性質を持った溶媒、およびこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0026】
本発明のCL用処理溶液には、上記した共重合体A、共重合体Bの他に、洗浄力の増強等を目的として、界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤は、本発明の効果を損なわないものから任意に選択することができる。
そのような界面活性剤として例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドエーテル硫酸塩、N-アシル-N-メチルタウリン酸塩、アルキルザルコシネート、アルキルアミドスルホコハク酸塩、アルキル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、N-アルキル-N,N-ジメチルオキシド等のアニオン性界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のノニオン性界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミタゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルアミノジ酢酸塩等の両性界面活性剤等が挙げられる。中でも、洗浄力の高さ、眼への影響の少なさ、溶液の安定性などから、アニオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩またはポリオキシエチレン脂肪酸アミドエーテル硫酸塩が中でも特に好ましく用いられる。具体的には、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド硫酸塩、ラウリン酸アミドエーテル-硫酸エステル塩、ミリスチン酸アミドエーテル-硫酸エステル塩、およびこれらの混合物等が挙げられる。
本発明のCL用処理溶液に用いられる界面活性剤の含有量は、CL用処理溶液全量中に0.01~5重量%とすることが好ましく、0.1~2.0重量%とすることがより好ましい。上記含有量が0.01~5.0重量%であれば、十分な洗浄能力が得られる。
【0027】
本発明のCL用処理溶液には、上記の共重合体A、共重合体Bの他に、CL上の汚れの分解を目的として、加水分解酵素を含有させることが好ましい。加水分解酵素は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、通常知られる加水分解酵素を適宜選択して使用することができる。具体的には、CLの物性に影響を与えず、界面活性剤では落としきれない強固な汚れを分解することができる加水分解酵素の中から、任意に選択することができる。
特に、涙液由来の汚れ成分として、ムチン等の糖タンパク質やリゾチームなどのタンパク質、脂質が挙げられるため、これらを分解することによりCL上の汚れを除去しやすくする効果を持つ加水分解酵素が好ましく用いられる。これらの加水分解酵素としては例えば、「ビオプラーゼ」(ナガセケムテックス株式会社製)、「プロテアーゼCL-15」(ナガセケムテックス株式会社)、「Clear Lens Pro」(novozymes社製)、「Esperase CLC」(novozymes社製)等のタンパク質分解酵素、リパーゼ、ホスホリパーゼA、ホスホリパーゼB、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼD、コレステロールエステラーゼなどの脂質分解酵素、α-アミラーゼ、エンドグリコシダーゼD、エンド-β-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、セルラーゼ、デキストラナーゼ等の糖鎖分解酵素が挙げられる。
【0028】
本発明のCL用処理溶液に用いられる加水分解酵素の含有割合は、CL用処理溶液全量中に10-10重量%~1重量%が好ましく、10-6重量%~0.1重量%がより好ましい。上記含有割合が10-10重量%~1重量%であれば、十分な洗浄力が得られやすい。
【0029】
本発明のCL用処理溶液には、上記した共重合体A、Bの他に、溶液のpHを保つ目的として、緩衝剤を含有させることが好ましい。緩衝剤は、本発明の効果を損なわないものから任意に選択でき、例えば塩酸、酢酸、クエン酸、ホウ酸、りん酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、これらの塩、およびこれらの混合物を用いて、通常の方法で調製される緩衝剤を好ましく挙げることができる。
【0030】
本発明のCL用処理溶液には、上記した共重合体A、Bの他に、溶液の安定化、CL表面の金属塩の除去を目的として、キレート剤を含有させることもできる。キレート剤は、本発明の効果を損なわないものから任意に選択することができ、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸、シクロヘキサジアミン四酢酸等の多価カルボン酸、およびそのアルカリ金属塩、またはその混合物が好ましく挙げられる。
【0031】
本発明のCL用処理溶液には、上記した共重合体A、Bの他に、眼への影響の低減、等張化を目的として、無機塩類を含有させることもできる。無機塩類は、本発明の目的を逸脱しないものから任意に選択することができ、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、又はこれらの混合物等を好ましく挙げることができる。
【0032】
本発明のCL用処理溶液には、上記した共重合体A、Bの他に、溶液の粘度の調節を目的として、水溶性高分子化合物を添加することができる。水溶性高分子化合物は、本発明の機能を損なわないものから任意に選択することができ、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロック共重合体、無水マレイン酸-メチルビニルエーテル共重合体、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0033】
また、本発明のCL用処理溶液には、雑菌の繁殖を防ぐ目的で防腐剤を含有させることができる。防腐剤としては、例えば、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム、チメロザール、グルコン酸クロルヘキシジン、パラオキシ安息香酸エステル、ポリヘキサメチレンビグアニド等が好ましく添加される。
【0034】
本発明のCL用処理溶液の使用方法としては、例えば、該CL用処理溶液にCLを浸漬ないし接触させる方法が挙げられる。その後、CLを装着する前に、水、生理食塩液、及び/または洗浄液等で濯ぐことが好ましい。このように、CL用処理溶液を使用することにより、CL表面に付着した汚れを除去し、CL表面の潤滑性を向上でき、更に、CLに持続的親水性を付与し、タンパク質、脂質等の汚れの付着を防止できる。
またこの方法により、本発明のCL用処理溶液で処理したCLを容易に得ることができる。
本発明のCL用処理溶液は、ハードコンタクトレンズ(HCL)、ソフトコンタクトレンズ(SCL)、及び通常知られるその他のCLのいずれに対しても好ましく使用でき、本発明のCL用処理溶液で処理したCLを簡便に得ることができる。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0036】
<共重合体の合成>
実施例、及び比較例に用いる共重合体の合成のため、表1に示す5種の共重合体、すなわち上記した共重合体Aである共重合体1、上記した共重合体Bである共重合体2及び3、共重合体A、B以外の共重合体である共重合体4及び5を合成した。
【0037】
<合成例1>
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下MPCと記載)19.4g、ブチルメタクリレート(以下BMAと記載)2.2g(モノマー組成モル比:MPC/BMA=8/2)を重合用ガラス製フラスコに秤量し、これに重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと記載)86mg、および重合溶媒として精製水39.2gとエタノール39.2gを加えた。反応容器内を十分に窒素置換した後、60℃で5時間加温することで重合反応を行った。得られた反応液を氷冷し、ジエチルエーテルに滴下することで重合体を沈殿させた。沈殿を濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空乾燥して白色固体の共重合体1を得た。
得られた共重合体1の重量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー(以下GPCと記載)測定により、ポリエチレングリコール換算で600,000であった。
【0038】
<合成例2>
MPC21.5g、BMA2.9g(モノマー組成モル比:MPC/BMA=7/2)を重合用ガラス製フラスコに秤量し、これに重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと記載)96mg、および重合溶媒として精製水37.8gとエタノール37.8gを加えた。反応容器内を十分に窒素置換した後、50℃で7時間加温することで重合反応を行った。得られた反応液を氷冷し、ジエチルエーテルに滴下することで重合体を沈殿させた。沈殿を濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空乾燥して白色固体の共重合体2を得た。
得られた共重合体2の重量平均分子量は、GPC測定により、ポリエチレングリコール換算で1,210,000であった。
【0039】
<合成例3>
MPC21.8g、BMA2.6g(モノマー組成モル比:MPC/BMA=8/2)を重合用ガラス製フラスコに秤量し、これに重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと記載)96mg、および重合溶媒として精製水39.3gとエタノール36.3gを加えた。反応容器内を十分に窒素置換した後、50℃で7時間加温することで重合反応を行った。得られた反応液を氷冷し、ジエチルエーテルに滴下することで重合体を沈殿させた。沈殿を濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空乾燥して白色固体の共重合体3を得た。
得られた共重合体3の重量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー(以下GPCと記載)測定により、ポリエチレングリコール換算で1,240,000であった。
【0040】
<合成例4>
MPC4.7g、BMA5.3g(モノマー組成モル比:MPC/BMA=3/7)を重合用ガラス製フラスコに秤量し、これに重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと記載)244mg、および重合溶媒としてエタノール89.8gを加えた。反応容器内を十分に窒素置換した後、60℃で7時間加温することで重合反応を行った。得られた反応液を氷冷し、ジエチルエーテルに滴下することで重合体を沈殿させた。沈殿を濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空乾燥して白色固体の共重合体4を得た。
得られた共重合体4の重量平均分子量は、GPC測定により、ポリエチレングリコール換算で93,000であった。
【0041】
<合成例5>
MPC11.7g、メタクリル酸ステアリル(以下SMAと記載)3.3g(モノマー組成モル比:MPC/SMA=8/2)を重合用ガラス製フラスコに秤量し、これに重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと記載)433mg、および重合溶媒としてエタノール84.6gを加えた。反応容器内を十分に窒素置換した後、60℃で6時間加温することで重合反応を行った。得られた反応液を氷冷し、ジエチルエーテルに滴下することで重合体を沈殿させた。沈殿を濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空乾燥して白色固体の共重合体5を得た。
得られた共重合体5の重量平均分子量は、GPC測定により、ポリエチレングリコール換算で43,000であった。
【0042】
<GPC測定>
以上合成例1~5の各共重合体のGPC測定は以下の条件で実施した。
GPCシステム:高速液体クロマトグラフィーシステムCCP&8020シリーズ(東ソー株式会社製)
カラム:Shodex OHpak SB-802.5HQ(昭和電工株式会社製)、及びSB-806HQ(昭和電工株式会社製)を直列に接続
展開溶媒:20mMりん酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)
検出器:示差屈折率検出器、UV検出器(波長210nm)
分子量標準:EasiVial PEG/PEO(Agilent Technologies社製)
流速:0.5mL/分
カラム温度:45℃
サンプル:得られた共重合体を終濃度0.1重量%となるよう展開溶媒で希釈
【0043】
【表1】
【0044】
<実施例1>
共重合体Aである共重合体1、共重合体Bである共重合体2、及びその他成分を、表3に示す割合で配合し、CL用処理溶液を調整した。このCL用処理溶液を用いて以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0045】
(I)洗浄力評価(タンパク質汚れ)
ウシ血清アルブミン0.39重量%、ヒトγ-グロブリン0.16重量%、卵白リゾチーム0.12重量%、ブタ胃ムチン0.10重量%を含む生理食塩水中で、コンタクトレンズ(シードスーパーHi-O、シード株式会社製)を60℃、2時間処理し、レンズを汚染させた。このレンズを上記のCL用処理溶液に4時間浸漬した後、水道水で濯ぎ、1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液でレンズ上のタンパク質を抽出し、タンパク質の抽出量をマイクロBCAキット(サーモサイエンティフィック社製)で定量した(Cps)。
さらに、CL用処理溶液の代わりに生理食塩水を用いる以外は上記と同様にしてタンパク質の定量を行った(Cp0)。以下の数式1に従い、タンパク質除去率を算出し、×:50%未満、△:50%以上70%未満、○:70%以上として評価した。
【数1】
【0046】
(II)洗浄力評価(脂質汚れ)
オレイン酸0.60重量%、リノール酸0.60重量%、パルミチン酸0.60重量%、トリパルミチン8.12重量%、セチルアルコール2.00重量%、ミリスチン酸セチル8.12重量%、コレステロール0.80重量%、パルミチン酸コレステロール0.80重量%、卵黄レシチン28.36重量%を乳化させた生理食塩水中でコンタクトレンズ(シードスーパーHi-O、シード株式会社製)を35℃4時間処理し、レンズを汚染させた。このレンズを上記のCL用処理溶液に4時間浸漬した後、水道水で濯ぎ、クロロホルム/メタノール=1:1(体積比)の混合溶媒でレンズ上の脂質を抽出し、溶媒を留去した。残った脂質を硫酸-バニリン法で定量した(Cls)。
さらに、CL用処理溶液の代わりに生理食塩水を用いる以外は上記と同様にして脂質の定量を行った(Cl0)。以下の数式2に従い、脂質除去率を算出し、×:0%未満、△:0%以上40%未満、○:40%以上として評価した。
【数2】
【0047】
(III)潤滑性
アクリル板を上記のCL用処理溶液に一晩浸漬して処理した。水道水で濯ぎ、水気を除いた(装用前を想定)。さらに、このアクリル板を生理食塩水に3時間浸漬し、水気を除いた後(装用後を想定)、摩擦感テスター(KES-SE、カトーテック)にシリコーンゴムプローブを取り付けて動摩擦係数を測定した(μ)。
さらに、CL用処理溶液の代わりに水道水を用いる以外は上記と同様にして動摩擦係数を測定した(μ)。以下の数式3に従い、潤滑化率(初期)を算出し、×:0%未満、△:0%以上40%未満、○:40%以上として評価した。
【数3】
【0048】
(IV)持続的親水性
[1]コンタクトレンズ(ハードEX1、シード株式会社製)を水道水で濯ぎ、上記のCL用処理溶液に一晩浸漬して処理した。生理食塩水で濯いだ後、BUTを測定した(Wis)。なお、BUTは、CLを生理食塩水から引き上げた瞬間から、CL凸面を観察して液が切れるまでの時間(秒)である。
[2]さらに、このCLを12-wellプレートに入れ、生理食塩水2mLに浸漬し、3時間振とうした(装用後を想定)。このCLについて、上記と同様にBUTを測定した(Wfs)。
[3]さらに、上記[1]において、CL処理溶液の代わりに生理食塩水を用いる以外は上記[1]と同様にして、生理食塩水への6時間の浸漬前のBUTを測定した(Wi0)。
[4]以下の数式4~5に従い、生理食塩水への6時間の浸漬前後の親水化度を算出し、浸漬前についてはC:0未満、B:0以上1未満、A:1以上、浸漬後についてはC:0未満、B:0以上0.9未満、A:0.9以上として評価した。さらに、これらの評価をもとに、表2に従って持続的親水性を判定した。
【数4】

【数5】
【0049】
【表2】
【0050】
<実施例2~4>
表3に示す組成でCL用処理溶液を調製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
<比較例1~6>
表4に示す組成でCL用処理溶液を調製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3で用いた略号は以下の通りである。
PG:プロピレングリコール
SPCS:Sodium PEG-4 Cocamide Sulfate
(ポリオキシエチレンヤシ脂肪酸モノエタノールアミド硫酸ナトリウム)
TLS:TEA-Laureth Sulfate
(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン)
CLP:Clear Lens Pro(novozymes社製)
ECLC:Esperase CLC(novozymes社製)
NaOH:水酸化ナトリウム
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
【0053】
【表4】

表4で用いた略号は以下の通りである。
PG:プロピレングリコール
SPCS:Sodium PEG-4 Cocamide Sulfate
(ポリオキシエチレンヤシ脂肪酸モノエタノールアミド硫酸ナトリウム)
TLS:TEA-Laureth Sulfate
(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン)
CLP:Clear Lens Pro(novozymes社製)
ECLC:Esperase CLC(novozymes社製)
NaOH:水酸化ナトリウム
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
【0054】
以上の実施例及び比較例の結果から以下のことが見出された。
比較例1では高分子量の共重合体である共重合体Bが含まれないため、潤滑性、持続的親水性が各実施例に比べて劣った。さらに比較例2では共重合体Bの代わりに共重合体Aを増量した処方であるが、潤滑性、持続的親水性はやはり実施例に比べて劣った。このことから、潤滑性、持続的親水性を発現させるためには、単に共重合体Aを増量するのではなく、高分子量の成分を添加する必要があると分かる。
【0055】
比較例3は共重合体Bの含有量を各実施例の半分とした処方であるが、潤滑性、持続的親水性が各実施例に劣った。また逆に、共重合体Bの含有量を過剰とした処方である比較例4でも、潤滑性、持続的親水性が各実施例に劣った。このことから、共重合体Bの添加量は本明細書に記載した濃度範囲内とする必要があることが分かる。
【0056】
比較例5では共重合体Bの代わりとして本発明の範囲外である共重合体4を用いた。共重合体4は、本発明の範囲内である共重合体2~3に対して単量体a、bの共重合比の大小関係が逆転しており、また重量平均分子量も小さく、本発明の範囲外である共重合体である。比較例5でも潤滑性、持続的親水性が各実施例に劣った。このことから、共重合体Bとして、本明細書に記載した範囲の共重合体を用いる必要があることが分かる。
さらに比較例6では、共重合体Bの代わりとして本発明の範囲外である共重合体5を用いた。共重合体は本発明の範囲内である共重合体3に対して、単量体bとしてBMAより長鎖のアルキル基を有するSMAを用いており、また重量平均分子量も小さく、本発明の範囲外である共重合体である。比較例6でも、潤滑性、持続的親水性が各実施例に劣った。このことから、本明細書に記載した範囲の共重合体を用いる必要があることが分かる。
【0057】
一方各実施例では、洗浄力(タンパク質)、洗浄力(脂質)、潤滑性、持続的親水性の全ての評価項目で、各比較例よりも優れた効果が確認できた。すなわち、本発明により、簡便な浸漬処理でCL表面に付着した汚れを除去でき、かつCL表面の潤滑性を向上でき、しかもCL表面に持続的親水性を付与できるCL用処理溶液を提供することができた。