(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ハニカム型リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20231011BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231011BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231011BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20231011BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20231011BHJP
H01M 50/463 20210101ALI20231011BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M50/403 D
H01M50/46
H01M50/463 B
(21)【出願番号】P 2021053654
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】瀬上 正晴
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-123484(JP,A)
【文献】特開2020-155334(JP,A)
【文献】特開2019-075198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極、正極、及びセパレータ層を有するハニカム型リチウムイオン電池
の製造方法であって、
前記ハニカム型リチウムイオン電池は、
前記負極は一方向に伸びる複数の貫通孔を有し、
前記セパレータ層はLiイオン透過性を有し、かつ、前記負極と前記正極とを物理的に隔離するものであり、前記貫通孔の内部を被覆する隔壁セパレータ層、並びに前記負極の一方側及び他方側の開口面部のうち少なくとも一方を被覆す
る絶縁膜セパレータ層を有し、
前記正極は、前記隔壁セパレータ層を介して前記貫通孔の内部に配置される内部領域、前記内部領域の表面から前記絶縁膜セパレータ層の表面まで配置される中間領域、並びに前記絶縁膜セパレータ層及び前記中間領域の表面を被覆する表面領域を有し、
前記正極には結着剤が含有されており、前記内部領域における前記結着剤の含有割合に比べて、前記表面領域における前記結着剤の含有割合が高
く、
前記ハニカム型リチウムイオン電池の製造方法は、
一方向に伸びる複数の前記貫通孔を有する前記負極を作製する工程と、
前記負極を作製する工程よりも後であって、前記負極の前記貫通孔の内部表面に前記隔壁セパレータ層を被覆する工程と、
前記隔壁セパレータ層を被覆する工程よりも後であって、前記負極の前記開口面部に前記絶縁膜セパレータ層を被覆する工程と、
前記絶縁膜セパレータ層を被覆する工程よりも後であって、前記隔壁セパレータ層を介して前記貫通孔の内部に前記正極の前記内部領域を配置する工程と、
前記正極の前記内部領域を配置する工程よりも後であって、前記絶縁膜セパレータ層が形成された前記負極の前記開口面部に前記正極の前記表面領域を配置する工程と、を有し、
前記正極の前記中間領域は前記正極の前記表面領域を配置する工程及び前記正極の前記表面領域を配置する工程のいずれか一方又は両方により配置され、
前記表面領域を配置する工程は湿式又は乾式で実施され、
前記内部領域における前記結着剤の含有割合は1重量%以下であり、
前記表面領域における前記結着剤の含有割合は、乾式で作製される場合は2重量%以上5重量%以下であり、湿式で作製される場合は2重量%以上2.5重量%以下である、
ハニカム型リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はハニカム型リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は炭素質ハニカム構造体の外表面を含むセルの隔壁表面に窒化チタン膜を被着したリチウムイオン二次電池の電極用ハニカム構造集電体、及びその集電体のセル内に正極用または負極用活物質を充填したリチウムイオン二次電池の電極を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、ハニカム型リチウムイオン電池について鋭意検討した結果、ハニカム構造を有する負極の貫通孔内にセパレータを配置し、次いで貫通孔内に正極ペーストを配置した後、正極ペースト内の溶剤を乾燥させる際に、正極ペースト内の結着剤の収縮応力により、セパレータが引張応力を受け、電池に亀裂が発生する虞があることを知見した。また、本発明者は当該亀裂により正極及び負極が接触し短絡が発生する虞があることを知見した。
【0005】
そこで、本開示の目的は、上記実情を鑑み、亀裂による短絡を抑制可能なハニカム型リチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、負極、正極、及びセパレータ層を有するハニカム型リチウムイオン電池であって、負極は一方向に伸びる複数の貫通孔を有し、セパレータ層はLiイオン透過性を有し、かつ、負極と正極とを物理的に隔離するものであり、貫通孔の内部を被覆する隔壁セパレータ層、並びに負極の一方側及び他方側の開口面部のうち少なくとも一方を被覆する絶縁膜セパレータ層を有し、正極は、隔壁セパレータ層を介して貫通孔の内部に配置される内部領域、内部領域の表面から絶縁膜セパレータ層の表面まで配置される中間領域、並びに絶縁膜セパレータ層及び中間領域の表面を被覆する表面領域を有し、正極には結着剤が含有されており、内部領域における結着剤の含有割合に比べて、表面領域における前記結着剤の含有割合が高い、ハニカム型リチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示のハニカム型リチウムイオン電池は、内部領域における結着剤の含有割合に比べて、表面領域における結着剤の含有割合が高い。このように、正極において、内部領域における結着剤の含有割合を低くすることにより、製造過程における乾燥工程において、正極からセパレータ層に与える収縮応力を低減することができ、亀裂の発生を抑制することができる。そして亀裂の発生を抑制することにより、当該亀裂による短絡を抑制することができる。また、正極において、表面領域における結着剤の含有割合を高くすることにより、正極の保形性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】ハニカム型リチウムイオン電池100の断面模式図である。
【
図3】亀裂が発生したハニカム型リチウムイオン電池の写真である。
【
図4】ハニカム型リチウムイオン電池の製造方法1000のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ハニカム型リチウムイオン電池]
本開示のハニカム型リチウムイオン電池について、一実施形態であるハニカム型リチウムイオン電池100(以下、「電池100」ということがある。)を参照しつつ説明する。
図1に負極10の斜視図を示した。また、
図2に負極10の貫通孔11の貫通方向に沿って切断した電池100の断面模式図を示した。
【0010】
図2の通り、電池100は負極10、正極20、及びセパレータ層30を有している。また、電池100は負極集電体40、正極集電体50を備えていてもよい。
【0011】
<負極10>
負極10は一方向(貫通方向)に伸びる複数の貫通孔11を有している。このような構造は、いわゆるハニカム構造と呼ばれる。負極10全体の形状は特に限定されず、
図1のように四角柱であってもよく、その他の角柱や円柱であってもよい。負極10全体の大きさは特に限定されず、目的に応じて適宜設定することができる。例えば、強度向上の観点から、負極10の高さ(貫通方向の長さ、h)は3mm以上100mm以下としてよい。また、負極10の径(d)は10mm以上100mm以下としてよい。さらに負極10の径(d)に対する高さ(h)のアスペクト比(h/d)は0.1以上10以下としてよい。
【0012】
負極10に設けられる貫通孔11の形状は特に限定されない。例えば、貫通方向に直交する方向の断面が、円形状であってもよく、正六角形等の多角形状であってもよい。貫通孔11の孔径は正極20、セパレータ層30を貫通孔11の内部に配置することができれば特に限定されない。例えば10μm~1000μmの範囲である。孔径とは最大径である。また、貫通孔11の断面積は特に限定されないが、900μm
2以上490000μm
2以下としてよい。隣接する貫通孔11の間隔(リブ厚)は貫通孔11を維持できる強度を有することができれば特に限定されない。例えば、20μm以上350μm以下の範囲である。貫通孔11は負極10にランダムに配置されていてもよいが、正極20の充填量を確保し、容量を向上させる観点から、
図1のように規則的に並んで形成されていることが好ましい。
【0013】
負極10は負極活物質を含むものである。負極活物質としては、例えば黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素等の炭素系負極活物質、及び、珪素(Si)、錫(Sn)等を含有する合金系負極活物質を挙げることができる。負極活物質の平均粒子径は、例えば5~50μmの範囲である。負極10における負極活物質の含有量は、例えば50重量%~99重量%の範囲である。
【0014】
ここで、本明細書において、「平均粒子径」は、レーザ回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布において、積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0015】
負極10は任意に結着剤を含むことができる。結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース;ブタジエンゴム、水素化ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム等のゴム系結着剤;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-ポリヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ化物系結着剤;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂;ポリアミド等のアミド系樹脂;ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート等のアクリル系樹脂;ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のメタクリル系樹脂等を挙げることができる。負極10における結着剤の含有量は、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0016】
負極10は任意に導電助剤を含むことができる。導電材としては、例えば、炭素材料、金属材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、VGCF等の炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。金属材料としては、Ni、Cu、Fe、SUSが挙げられる。金属材料は、粒子状または繊維状であることが好ましい。負極10における導電助剤の含有量は、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0017】
<セパレータ層30>
セパレータ層30はLiイオン透過性を有し、かつ、負極10と正極20とを物理的に隔離するものである。また、セパレータ層30はイオン透過性を確保する観点から、多孔質膜としてよい。セパレータ層30は、貫通孔11の内部を被覆する隔壁セパレータ層31、並びに負極10の一方側及び他方側の開口面部(貫通方向の表面)のうち少なくとも一方を被覆する絶縁膜セパレータ層32を有している。
図2では、負極10の両方の開口面部が絶縁膜セパレータ層32で被覆されている形態を示している。
【0018】
隔壁セパレータ層31は貫通孔11の内部表面と後述する正極20の内部領域21とを物理的に隔離するものである。隔壁セパレータ層31の厚みは特に限定されないが、例えば10μm以上100μm以下の範囲である。
【0019】
隔壁セパレータ層31は、アルミナ、ベーマイト、チタニア、マグネシア、およびジルコニ等の無機微粒子を含む。無機微粒子の平均粒子径は例えば10nm~50μmの範囲である。隔壁セパレータ層31中の無機微粒子の含有率は、例えば20重量%~99重量%の範囲である。また、隔壁セパレータ層31は結着剤を含むことができる。隔壁セパレータ層31に含むことができる結着剤の種類・含有量等は負極10に用いることができる結着材の種類・含有量から適宜選択できる。
【0020】
縁膜セパレータ層32は、負極10の開口面部と後述する正極10の表面領域23とを物理的に隔離するものである。絶縁膜セパレータ層32の厚みは特に限定されないが、例えば10μm~1000μmの範囲である。絶縁膜セパレータ層32の材料は無機微粒子を含む。また、絶縁膜セパレータ層32は結着剤を備えていてもよい。これらの材料は隔壁セパレータ層31に用いることができる材料・含有量から適宜選択できる。
【0021】
<正極20>
正極20は、隔壁セパレータ層31を介して貫通孔11の内部に配置される内部領域21、内部領域21の表面から絶縁膜セパレータ層32の表面まで配置される中間領域22、並びに絶縁膜セパレータ層32及び中間領域22の表面を被覆する表面領域23を有する。
【0022】
内部領域21は隔壁セパレータ層31が被覆された貫通孔11にのみ充填された正極20の領域である。内部領域21は正極活物質を含む。正極活物質としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、およびリン酸鉄リチウムか等を挙げることができる。正極活物質の平均粒子径は、例えば5~100μmの範囲である。正極20における正極活物質の含有量は、例えば50重量%~99重量%の範囲である。
【0023】
内部領域21は導電助剤を含んでもよい。導電助剤の材料・含有量は、負極10で用いることができる結着剤の種類・含有量を適宜選択することができる。
【0024】
内部領域21は結着剤を含んでもよい。結着剤としては、負極10で用いることができる結着剤を選択することができる。内部領域21における結着剤の含有量については後述する。
【0025】
表面領域23は絶縁膜セパレータ層32が被覆された負極10の開口面部を被覆する正極10の領域である。表面領域23は貫正極活物質を含む。また、任意に導電助剤、結着剤を含んでもよい。表面領域23の材料・含有量は内部領域21に用いることができる材料・含有量から適宜選択できる。ただし、結着剤の含有量は後述のとおりである。表面領域23の厚みは特に限定されないが、例えば10μm~1000μmの範囲である。
【0026】
中間領域22は正極10における内部領域21及び表面領域23の間の領域である。中間領域22は正極活物質を含む。また、任意に導電助剤、結着剤を含んでもよい。中間領域22の材料・含有量は内部領域21に用いることができる材料・含有量から適宜選択できる。中間領域22の厚みは絶縁膜セパレータ層32と同等の厚みとしてよい。
【0027】
なお、後述するように電池100の製造過程において、正極20は内部領域21を構成する正極合材ペーストを貫通孔11に充填し、乾燥させた後、表面領域23を構成する正極合材を貫通孔11の開口面部に配置することにより作製される。従って、中間領域22には内部領域21を構成する材料領域と表面領域を構成する材料領域との境界が存在し、その境界の位置により中間領域22の態様が変化する。具体的には、境界が表面領域23に接している場合には中間領域22は内部領域21を構成する材料から構成されており、境界が内部領域21に接している場合には中間領域22は表面領域23を構成する材料から構成されており、境界が中間領域22内にある場合には内部領域21を構成する材料から構成される領域(内部側領域)と表面領域23を構成する材料から構成される領域(開口部側領域)とが混合している。
【0028】
ここで、正極20には、上記した通り結着剤が含有されている。そして、正極20は内部領域21における結着剤の含有割合に比べて、表面領域23における結着剤の含有割合が高いことを特徴としている。
【0029】
このように、正極20において、内部領域21における結着剤の含有割合を低くすることにより、製造過程における乾燥工程において、正極10(内部領域)からセパレータ層30(隔壁セパレータ層31)に与える収縮応力を低減することができ、亀裂の発生を抑制することができる。そして亀裂の発生を抑制することにより、当該亀裂による短絡を抑制することができる。参考のため、
図3に亀裂が発生したハニカム型リチウムイオン電池の写真を示した。また、正極10において、表面領域における結着剤の含有割合を高くすることにより、正極の保形性を維持することができる。
【0030】
内部領域21における結着剤の含有割合は1重量%以下としてよく、0重量%であってもよい。また、表面領域23における結着剤の含有割合は、乾式で作製する場合は2重量%以上としてよく、湿式で作製する場合は2重量%以上3重量%未満としてよい。乾式で作製する場合、結着剤の含有割合の上限は特に限定されないが、例えば含有割合を5重量%以下としてよい。乾式で作製する場合、結着剤の含有割合が2重量%未満であると、表面領域23の保形性を維持することが難しい。また、湿式で作製する場合、好ましくは結着剤の含有割合は2重量%以上2.5重量%以下である。湿式で作製される内部領域21における結着剤の含有割合が1重量%以下としてよいとされているのに対し、湿式で表面領域23を作製する場合に結着剤の含有割合が2重量%以上3重量%未満まで許容される理由は定かではないが、表面領域23を構成するペーストが乾燥する際に、構造的に閉塞されている内部領域21に比べて表面領域23は解放面が多く、自身の変形により応力を比較的緩和させることができるからだと考えられる。
【0031】
内部領域21含有される結着剤の好ましい種類はPVDFである。表面領域に含有される結着剤の好ましい種類は、乾式で作製した場合はPTFEであり、湿式で作製した場合はPVDFである。
【0032】
<負極集電体40>
電池100は負極集電体40を備えていてもよい。負極集電体40は、例えば負極10の側面に配置される。負極集電体40の材料としてはSUS、Cu、Al、Ni、Fe、Ti、Co、Znが挙げられる。
【0033】
<正極集電体50>
電池100は正極集電体50を備えていてもよい。正極集電体50は、正極20に配置されるものである。
図2では、電池100の貫通方向の表面に配置されている表面正極に接続されている。正極集電体50の材料としてはSUS、Cu、Al、Ni、Fe、Ti、Co、Znが挙げられる。
【0034】
<電解液>
電池100は電解液を用いてもよい。電解液を用いる場合、電解液が電極体内部全体(具体的には、負極10、正極20、セパレータ層30の空孔全部)に注入される。電解液としてはリチウム塩を含有する非水電解質が主成分であることが望ましい。非水電解質としては、例えば、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。またリチウム塩としては、例えばLiPF6、LiBF4等を挙げることができる。電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.005mol/L~0.5mol/Lとしてもよい。
【0035】
以上より、本開示のハニカム型リチウムイオン電池について、一実施形態であるハニカム型リチウムイオン電池100を用いて説明した。本開示のハニカム型リチウムイオン電池によれば、亀裂による短絡を抑制することができる。
【0036】
[ハニカム型リチウムイオン電池の製造方法]
次に、本開示のハニカム型リチウムイオン電池の製造方法について、一実施形態であるハニカム型リチウムイオン電池の製造方法1000(以下において、「製造方法1000」ということがある。)を参照しつつ、説明する。
【0037】
製造方法1000は負極、正極、及びセパレータ層を有するハニカム型リチウムイオン電池の製造方法である。
図4は製造方法1000のフローチャートである。
図4の通り、製造方法1000は工程S1~工程S5を有する。以下、各工程について説明する。
【0038】
<工程S1>
工程S1は一方向に伸びる複数の貫通孔を有する負極を作製する工程である。このようなハニカム構造の負極の作製方法は特に限定されないが、例えば次の方法で作製することができる。まず、負極を構成する負極材料を溶媒(例えば、水)と混合してスラリーとする。次に、スラリーを所定の金型に通して押出成形し、所定の時間加熱して乾燥させる。これにより負極を作製することができる。ここで、乾燥温度は特に限定されないが、例えば50℃~200℃の範囲である。乾燥時間は特に限定されないが、10分~2時間の範囲である。
【0039】
<工程S2>
工程S2は工程S1の後に行われるものであり、負極の貫通孔の内部表面に隔壁セパレータ層を被覆する工程である。このように隔壁セパレータ層を被覆する方法は特に限定されないが、例えば次のような方法で行うことができる。まず、隔壁セパレータ層を構成する材料を溶媒(例えば、有機溶媒)と混錬してペーストとする。次に、負極の貫通方向の一方の面(開口面)にペーストを配置し、反対側の面から吸引して、貫通孔の内壁にペーストを付着させる。続いて、ペーストが付着した負極を所定の時間加熱して乾燥させる。これにより、貫通孔の内壁に隔壁セパレータ層を被覆することができる。ここで、乾燥温度は特に限定されないが、例えば50℃~200℃の範囲である。乾燥時間は特に限定されないが、10分~2時間の範囲である。
【0040】
<工程S3>
工程S3は工程S2の後に行われるものであり、負極の開口面部に絶縁膜セパレータ層を被覆する工程である。このように絶縁膜セパレータ層を被覆する方法は特に限定されないが、例えば次のような方法で行うことができる。まず、工程S2において、負極の開口面部に余分な隔壁セパレータ層が付着している場合、これらを紙やすり等で研磨し、負極の開口面部を露出させる。次に、結着剤を含む電着用溶液に絶縁膜セパレータ層を構成する材料を投入し、均一に拡散する。続いて、負極の側面に電着用金属タブ(例えばNi等)を配置する。そして、作製した溶液に上記の負極を投入し、所定の電圧を印加し、材料を電着する。電着後、負極を水等で洗浄し、所定の温度で熱処理する。これにより、負極の開口面部に絶縁膜セパレータ層を被覆することができる。
【0041】
<工程S4>
工程S4は工程S3の後に行われ、隔壁セパレータ層を介して貫通孔の内部に正極の内部領域を配置する工程である。このように内部領域を配置する方法は特に限定されないが、例えば次のような方法で行うことができる。まず、正極の内部領域を構成する材料を溶媒(例えば、有機溶媒)と混錬し、ペーストとする。次に、ペースト状の材料を負極の開口面部に配置する。続いて、負極をシリンジの内部に配置し、シリンジで圧力をかけて正極材料を貫通孔に押し込む。そして、所定の時間加熱して乾燥させることにより、貫通孔の内部に正極の内部領域を配置することができる。ここで、乾燥温度は特に限定されないが、例えば50℃~200℃の範囲である。乾燥時間は特に限定されないが、10分~2時間の範囲である。
【0042】
なお、上記の方法以外に、ペースト状の材料を負極の開口面部に配置し、他方の面から吸引して材料を貫通孔に流し込む方法も採用することができる。
【0043】
<工程S5>
工程S5は工程S4の後に行われ、絶縁膜セパレータ層が形成された負極の開口面部に正極の表面領域を配置する工程である。このように表面領域を配置する方法は特に限定されないが、例えば次のような方法で行うことができる。
【0044】
乾式で作製する場合、まず正極の表面領域を構成する材料を乳鉢等で混合して粘土状とし、その後ミキサーにより粉末状にする。そして、粉末状の材料を絶縁膜セパレータ層が形成された負極の開口面部に配置し、上からプレスすることにより、正極の表面領域を配置することができる。プレス圧力は特に限定されないが、例えば、0.1kN~10kNの範囲である。
【0045】
湿式で作製する場合、まず正極の表面領域を構成する材料を溶媒(例えば、有機溶媒)と混錬し、ペーストとする。そして、ペーストを絶縁膜セパレータ層が形成された負極の開口面部に配置し、所定の時間加熱して乾燥させることにより、正極の表面領域を配置することができる。乾燥温度は特に限定されないが、例えば50℃~200℃の範囲である。乾燥時間は特に限定されないが、10分~2時間の範囲である。
【0046】
表面領域の配置工程は、上記のように乾式・湿式のいずれの方法も取り得るが、表面領域は直下の絶縁膜セパレータ層と接しているため、絶縁膜セパレータ層に収縮応力を与えないようにするためには、表面領域を乾式で設けることが好ましい。
【0047】
ここで、工程S4、工程S5のいずれか一方又は両方により正極の中間領域が配置される。すなわち、中間領域を特別に配置する工程は必要ない。また、工程S5において、絶縁膜セパレータ層が形成された負極の両表面に正極の表面領域を配置してもよい。
【0048】
また、製造される電池が電解液を用いる場合、工程S5の後に、電解液を電極体内部全体(具体的には、負極10、正極20、セパレータ層30の空孔全部)に注入する工程を設けてもよい。
【0049】
以上、本開示のハニカム型リチウムイオン電池の製造方法について、製造方法1000を用いて説明した。本開示のハニカム型リチウムイオン電池の製造方法によれば、亀裂による短絡を抑制することができるハニカム型リチウムイオン電池を製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本開示について実施例を用いてさらに説明する。
【0051】
[評価用電池の作製]
以下のように、実施例1~6及び比較例1~6に係る評価用電池を作製した。
【0052】
<実施例1>
(負極の作製)
平均粒子径15μmの天然黒鉛微粒子100重量部、カルボキシメチルセルロース10重量部、イオン交換水60重量部を混合し、スラリーを作製した。次に、スラリーを所定の金型を通して押し出し成型し、120℃で3時間乾燥して、負極を得た。当該負極は断面形状がφ20mmの円形状であり、その面内に1辺の長さが350μmの正六角形状の貫通孔が複数設けられている。隣接する貫通孔は等間隔に配置されており、その間隔(リブ厚)は250μmである。負極の貫通方向の長さは1cmである。
【0053】
(隔壁セパレータ層の配置)
平均粒子径100nmのベーマイト微粒子45重量部、PVDF(クレハ社製、#8500)4重量部、NMP40重量部を混練し、ペーストを作製した。このペーストを負極の貫通方向の一方の開口面部上に3g~5g程度をのせ、真空ポンプにより反対側の開口面部から吸引を行うことにより貫通孔の内壁にペーストを付着させた。次に、この負極を120℃で15分乾燥させ、貫通孔の内壁に隔壁セパレータ層を固着させた。隔壁セパレータ層の厚みは約40μmであった。
【0054】
(絶縁膜セパレータ層の配置)
隔壁セパレータ層が配置された負極の貫通方向の開口面部の両方について、紙やすりで表面に固着している余分な隔壁セパレータ層を研磨し、負極の開口面部が露出するように加工した。
【0055】
次に、上記の負極の開口面部に絶縁膜セパレータ層を配置した。まず、ポリイミド微粒子が分散した電着用PI溶液(エレコートPI、株式会社シミズ製)25重量部に平均粒子径100nmのベーマイト微粒子を30重量部、イオン交換水90重量部を投入し、均一になるまで拡散した。この溶液に、予め側面(円周側面)にNiタブを巻き付けた負極を投入した。次に負極側を-に作用極側を+にして15Vの電圧を2分間かけて開口面にセパレータ層を電着した。電着後の負極を軽く水で洗浄して余分な電着液を取り除き、180℃で1時間熱処理を行い、絶縁膜セパレータ層を負極に貫通方向の両表面に配置した。絶縁膜セパレータ層の厚さは約36μmであった。
【0056】
(正極の内部領域の配置)
平均粒子径10μmのコバルト酸リチウム94重量部、アセチレンブラック5重量部、PVDF(クレハ社製、#1300)1重量部、NMP30重量部を混練してペーストを作製した。次に、上記負極をプラスチックシリンジ内に固定し、そのシリンジにペーストを3.5g投入し、シリンジで圧力をかけてペーストを貫通孔内に注入した。注入側とは反対の開口面部からペーストが出るのを目視で確認できた時点でシリンジの押し込みを止め、プラスチックシリンジ内から負極を取り出して120℃で30分乾燥した。なお、本工程において、負極の開口面部上に材料が余剰に残らないように、ペースト量を調整している。
【0057】
(正極の表面領域の配置)
粒子径10μmのコバルト酸リチウム微粒子92重量部、アセチレンブラック4重量部、PTFE粉末4重量部を乳鉢で30分練り込み粘土状になるまで混合させた。この粘土状の混合物をミキサーにより粉末状にばらし、負極の開口面部に0.2gのせた。次にこの粉末の上から卓上プレス機で約1kNの圧力でプレスを行い、表面領域を固着させた。この作業をもう一方の開口面部に対しても行った。これにより、実施例1に係る評価用電池を作製した。
【0058】
<実施例2>
内部領域の結着剤を0重量部とし、コバルト酸リチウムを95重量部とした以外は実施例1と同様の手法で実施例2に係る評価用電池を作製した。
【0059】
<実施例3>
表面領域の結着剤を2重量部とし、コバルト酸リチウムを94重量部とした以外は実施例1と同様の手法で実施例3に係る評価用電池を作製した。
【0060】
<実施例4>
表面領域の結着剤を5重量部とし、コバルト酸リチウムを91重量部とした以外は実施例1と同様の手法で実施例4に係る評価用電池を作製した。
【0061】
<実施例5>
正極の表面領域の配置工程を次のような湿式で行ったこと以外は、実施例1と同様の手法で実施例5に係る評価用電池を作製した。表面領域の配置工程において、まず平均粒子径10μmのコバルト酸リチウム94重量部、アセチレンブラック4重量部、PVDF(クレハ社製、#1300)2重量部、NMP30重量部を混合し、湿式ペーストを作製した。次に、ペースト約0.4gを負極の開口面部にのせてスパチュラで平面状になるように加工した。そして、負極を130℃で30分真空乾燥させた。この作業をもう一方の開口面部に対しても行った。
【0062】
<実施例6>
表面領域を2.5重量部、コバルト酸リチウムを93.5重量部とした以外は実施例5と同様の手法で実施例6に係る評価用電池を作製した。
【0063】
<比較例1>
内部領域の結着剤を3重量部、コバルト酸リチウムを92重量部とした以外は実施例1と同様の手法で比較例1に係る評価用電池を作製した。
【0064】
<比較例2>
内部領域の結着剤を1.5重量部、コバルト酸リチウムを93.5重量部とした以外は実施例1と同様の手法で比較例2に係る評価用電池を作製した。
【0065】
<比較例3>
表面領域の結着剤を1.5重量部、コバルト酸リチウムの重量を93.5重量部とした以外は実施例1と同様の手法で比較例3に係る評価用電池を作製した。
【0066】
<比較例4>
内部領域の結着剤を0重量部、コバルト酸リチウムを95重量部とし、表面領域の結着剤を0重量部、コバルト酸リチウムを95重量部とした以外は実施例1と同様の手法で比較例4に係る評価用電池を作製した。
【0067】
<比較例5>
表面領域の結着剤を3重量部、コバルト酸リチウムを92重量部とした以外は実施例5と同様の手法で比較例5に係る評価用電池を作製した。
【0068】
<比較例6>
表面領域の結着剤を4重量部、コバルト酸リチウムを91重量部とした以外は実施例5と同様の手法で比較例5に係る評価用電池を作製した。
【0069】
[評価]
作製した評価用電池の片方の正極と側面の負極との間の抵抗を測定した。1MΩ未満の抵抗を示した場合に正負極間を短絡とみなし、それ以上であった場合は絶縁と判定した。結果を表1に示した。なお、表1中の「O.L.」はテスターの測定限界(10000kΩ)を超えていることを示す。
【0070】
【0071】
[結果]
実施例1~6は正負極間が絶縁されていた。従って、実施例1~6は、電池の製造過程において亀裂の発生が抑制されたと考えられる。一方で、比較例1~2、5~6は短絡した。従って、比較例1~2、5~6は電池に亀裂が発生したと考えられる。また、比較例3、4は、正極の表面領域が剥がれやすく、安定に形状を保持することができなかった。
【0072】
結果についてさらに詳しく検討する。実施例1~4及び比較例1~2から分かるように、内部領域の結着剤の含有割合が1重量%以下であり、乾式で作製した表面領域の結着剤が2~5重量部であれば、短絡が起こらないことが分かった。また、実施例5~6及び比較例5~6から分かるように、内部領域の結着剤の含有割合が1重量%以下であり、湿式で作製した表面領域の結着剤が2~2.5重量部であれば、短絡が起こらないことが分かった。
【符号の説明】
【0073】
10 負極
20 正極
21 内部領域
22 中間領域
23 表面領域
30 セパレータ層
31 隔壁セパレータ層
32 絶縁膜セパレータ層
40 負極集電体
50 正極集電体
100 ハニカム型リチウムイオン電池