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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/40 20160101AFI20231011BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231011BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20231011BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231011BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20231011BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20231011BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231011BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231011BHJP
【FI】
B60W20/40
B60K6/48 ZHV
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60K6/52
F16D28/00 A
F16D48/06 102
B60L15/20 K
B60L15/20 S
B60L50/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021057257
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154300
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】草部 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】中矢 文平
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103690(JP,A)
【文献】特開2016-145021(JP,A)
【文献】特表2020-525358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
F16D 48/06
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
第1車輪に駆動連結される第1出力部材と、
ロータを備えた第1回転電機と、
第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記ロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、
少なくとも前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達を行う伝達機構と、
前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置と、
前記内燃機関、前記第1回転電機、前記第1係合装置、及び前記第2係合装置を制御する制御装置と、を備え、
前記伝達機構は、前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達を断接する第3係合装置を備えた、車両用駆動装置であって、
動作モードとして、第1モードと、第2モードと、を備え、
前記第1モードでは、前記第1係合装置が解放状態、前記第2係合装置が係合状態、前記第3係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関が駆動力を出力しない停止状態とされ、前記第1回転電機の駆動力が前記第1出力部材に伝達され、
前記第2モードでは、前記第1係合装置が係合状態、前記第2係合装置が解放状態、前記第3係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関及び前記第1回転電機の駆動力が前記第1出力部材に伝達され、
前記制御装置は、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、第1移行制御を実行可能であり、
前記第1移行制御は、
前記第3係合装置を係合状態に維持しつつ、前記第2係合装置を係合状態から解放状態に変化させる第1制御と、
前記第1制御の後に、前記第1回転要素の回転速度が目標回転速度に近付くように前記ロータの回転速度を制御する第2制御と、
前記第2制御の後に、前記第1係合装置を解放状態から係合状態に変化させ、前記第1係合装置を介して前記第1回転電機から前記内燃機関に伝達される駆動力により前記内燃機関を始動させる第3制御と、を含む、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記第1係合装置は、係合状態として直結係合状態とスリップ係合状態とを含む摩擦係合装置であり、
前記目標回転速度は、前記第2モードに移行後に前記内燃機関が必要な駆動力を出力するための当該内燃機関の回転速度に基づいて定まる前記第1回転要素の回転速度であり、
前記制御装置は、前記第3制御において、前記第1係合装置を解放状態からスリップ係合状態を経て直結係合状態へ変化させる係合動作中に、スリップ係合状態の前記第1係合装置を介して前記第1回転電機から前記内燃機関に伝達される駆動力により、前記内燃機関の回転速度を上昇させて、前記内燃機関を始動させる、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記目標回転速度は、ゼロであり、
前記第2モードに移行後に前記内燃機関が必要な駆動力を出力するための当該内燃機関の回転速度に基づいて定まる前記第1回転要素の回転速度を移行後目標回転速度として、
前記制御装置は、前記第3制御において、前記第1係合装置を解放状態から直結係合状態に変化させた後、前記第1回転要素の回転速度が前記移行後目標回転速度に近付くように前記ロータの回転速度を制御し、直結係合状態の前記第1係合装置を介して前記第1回転電機から前記内燃機関に伝達される駆動力により、前記内燃機関の回転速度を上昇させて、前記内燃機関を始動させる、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第1車輪とは異なる第2車輪に駆動連結される第2出力部材に、前記第1出力部材を介することなく駆動連結され、又は、前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達経路における前記第3係合装置よりも前記第1出力部材の側で、前記第1出力部材に駆動連結された第2回転電機を更に備え、
前記制御装置は、前記第1移行制御の実行中、前記伝達機構を介して前記第1出力部材に伝達される前記第1回転電機及び前記内燃機関からの駆動力の変動を補うように、前記第2回転電機に駆動力を出力させる駆動力補助制御を実行する、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、前記第1移行制御と第2移行制御とを選択的に実行可能であり、
前記第2移行制御は、
前記第2係合装置を係合状態に維持しつつ、前記第3係合装置を係合状態から解放状態に変化させる第4制御と、
前記第4制御の後に、前記第1回転要素の回転速度が前記目標回転速度に近付くように前記ロータの回転速度を制御する第5制御と、
前記第5制御の後に、前記第1係合装置を解放状態から係合状態に変化させ、前記第1係合装置を介して前記第1回転電機から前記内燃機関に伝達される駆動力により前記内燃機関を始動させる第6制御と、
前記第6制御の後に、前記第3係合装置を解放状態から係合状態に変化させると共に、前記第2係合装置を係合状態から解放状態に変化させる第7制御と、を含み、
前記制御装置は、前記第2回転電機が出力中の駆動力と前記第2回転電機が出力可能な上限駆動力との差である余剰駆動力が、前記駆動力補助制御を実行するために必要な駆動力である必要駆動力以上である場合に、前記第1移行制御を実行し、前記余剰駆動力が前記必要駆動力未満である場合に、前記第2移行制御を実行する、請求項4に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、回転電機と、分配用差動歯車機構と、を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用駆動装置の一例が、下記の特許文献1に開示されている。以下、「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1の車両用駆動装置は、内燃機関(3)に駆動連結される入力部材(8)と、車輪に駆動連結される出力部材(7)と、回転電機(4)と、入力部材(8)に駆動連結された第1回転要素(13)、出力部材(7)と駆動連結された第2回転要素(12)、及び回転電機(4)に駆動連結された第3回転要素(11)を備えた分配用差動歯車機構(10)と、第2回転要素(12)と出力部材(7)との間の動力伝達を行う伝達機構(19)と、内燃機関(3)と第1回転要素(13)との間の動力伝達を断接する第1係合装置(17)と、第1回転要素(13)と第3回転要素(11)との間の動力伝達を断接する第2係合装置(16)と、を備えている。そして、伝達機構(19)は、第2回転要素(12)と出力部材(7)との間の動力伝達を断接する第3係合装置(23,24)を備えている。
【0004】
また、特許文献1の車両用駆動装置は、動作モードとして、第1モード(EM)及び第2モード(CVTM)を備えている。第1モード(EM)では、第1係合装置(17)が解放状態、第2係合装置(16)が係合状態、第3係合装置(23,24)が係合状態とされ、内燃機関(3)が駆動力を出力しない停止状態とされ、回転電機(4)の駆動力が出力部材(7)に伝達される。第2モード(CVTM)では、第1係合装置(17)が係合状態、第2係合装置(16)が解放状態、第3係合装置(23,24)が係合状態とされ、内燃機関(3)及び回転電機(4)の駆動力が出力部材(7)に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2020-525358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、第1モード(EM)では内燃機関(3)が停止状態とされ、第2モード(CVTM)では内燃機関(3)が駆動状態とされる。そのため、第1モード(EM)から第2モード(CVTM)に移行する場合には、内燃機関(3)を始動する必要がある。特許文献1の車両用駆動装置では、内燃機関(3)を始動する場合に、第1始動制御及び第2始動制御のいずれか一方が実行される。第1始動制御は、第1係合装置(17)と第2係合装置(16)とのそれぞれが係合状態、第3係合装置(23,24)が解放状態で内燃機関(3)を始動する制御であり、第2始動制御は、第1係合装置(17)と第2係合装置(16)と第3係合装置(23,24)とのそれぞれが係合状態で内燃機関(3)を始動する制御である。
【0007】
しかし、特許文献1には、第1モード(EM)から第2モード(CVTM)に移行する場合に、どのように内燃機関(3)を始動するかについての記載はない。仮に、第1モード(EM)から第2モード(CVTM)に移行する場合において、上記の第1始動制御によって内燃機関(3)を始動させる場合は、内燃機関(3)の始動のために一旦、第3係合装置(23,24)を係合状態から解放状態に変化させてから内燃機関(3)を始動させた後に、第3係合装置(23,24)を係合状態に戻す必要がある。その結果、係合装置の状態を変化させる回数が多くなり、動作モードの移行に要する時間が長くなり易い。また、第1モード(EM)から第2モード(CVTM)に移行する場合において、上記の第2始動制御によって内燃機関(3)を始動させる場合は、第1回転要素(13)の回転速度を、内燃機関(3)の始動に必要な回転速度とする必要がある。そのため、第1回転要素(13)の回転速度が内燃機関(3)の始動に必要な回転速度となるまで動作モードの移行を待つ必要があり、動作モードの移行に要する時間が長くなり易い。
【0008】
そこで、内燃機関の始動を伴う動作モードの移行に要する時間を短く抑えることができる車両用駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記に鑑みた、車両用駆動装置の特徴構成は、
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
第1車輪に駆動連結される第1出力部材と、
ロータを備えた第1回転電機と、
第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記ロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、
少なくとも前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達を行う伝達機構と、
前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置と、
前記内燃機関、前記第1回転電機、前記第1係合装置、及び前記第2係合装置を制御する制御装置と、を備え、
前記伝達機構は、前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達を断接する第3係合装置を備えた、車両用駆動装置であって、
動作モードとして、第1モードと、第2モードと、を備え、
前記第1モードでは、前記第1係合装置が解放状態、前記第2係合装置が係合状態、前記第3係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関が駆動力を出力しない停止状態とされ、前記第1回転電機の駆動力が前記第1出力部材に伝達され、
前記第2モードでは、前記第1係合装置が係合状態、前記第2係合装置が解放状態、前記第3係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関及び前記第1回転電機の駆動力が前記第1出力部材に伝達され、
前記制御装置は、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、第1移行制御を実行可能であり、
前記第1移行制御は、
前記第3係合装置を係合状態に維持しつつ、前記第2係合装置を係合状態から解放状態に変化させる第1制御と、
前記第1制御の後に、前記第1回転要素の回転速度が目標回転速度に近付くように前記ロータの回転速度を制御する第2制御と、
前記第2制御の後に、前記第1係合装置を解放状態から係合状態に変化させ、前記第1係合装置を介して前記第1回転電機から前記内燃機関に伝達される駆動力により前記内燃機関を始動させる第3制御と、を含む点にある。
【0010】
この特徴構成によれば、第2係合装置を解放状態とすることで分配用差動歯車機構の3つの回転要素の回転速度の関係を任意に変更できることを利用して、第3係合装置を解放状態にすることなく、第1回転電機の回転速度制御により分配用差動歯車機構の第1回転要素の回転速度を目標回転速度に容易に近付けることができる。これにより、第1回転要素の回転速度を、容易に内燃機関の始動に必要な回転速度とすることができる。そして、第1回転要素の回転速度を目標回転速度に近付けた後、第1係合装置を係合状態とすることで第1回転電機の駆動力を内燃機関に伝達可能な状態とし、当該第1回転電機の駆動力により内燃機関を始動させることができる。内燃機関の始動後は、第1係合装置が係合状態、第2係合装置が解放状態、第3係合装置が係合状態となっているため、それらの係合装置の状態を変化させることなく、第2モードを開始することができる。このように、本特徴構成によれば、第1モードから第2モードへの移行、つまり、内燃機関の始動を伴う動作モードの移行に要する時間を短く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の第1駆動ユニットのスケルトン図
図2】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の第2駆動ユニットのスケルトン図
図3】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の制御ブロック図
図4】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の各動作モードにおける係合装置の状態を示す図
図5】第1の実施形態に係る第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
図6】第1の実施形態に係る第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
図7】第1の実施形態に係る第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
図8】第1の実施形態に係る第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
図9】第1の実施形態に係る第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
図10】第1の実施形態に係る第1移行制御の一例を示すタイムチャート
図11】第1モードから第2モードに移行する場合における制御装置の制御処理の一例を示すフローチャート
図12】第1の実施形態に係る第1移行制御の一例を示すフローチャート
図13】第1の実施形態に係る第2移行制御の一例を示すフローチャート
図14】第1の実施形態に係る第2移行制御の一例を示すタイムチャート
図15】第2の実施形態に係る第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
図16】第2の実施形態に係る第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
図17】第2の実施形態に係る第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
図18】第2の実施形態に係る第1移行制御の一例を示すフローチャート
図19】第2の実施形態に係る第1移行制御の一例を示すタイムチャート
図20】その他の実施形態に係る車両用駆動装置の第1駆動ユニットのスケルトン図
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.第1の実施形態
以下では、第1の実施形態に係る車両用駆動装置100について、図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置100は、一対の第1車輪W1を駆動する第1駆動ユニットDU1と、一対の第2車輪W2を駆動する第2駆動ユニットDU2と、を備えている。本実施形態では、第1車輪W1は車両の前輪であり、第2車輪W2は車両の後輪である。
【0013】
第1駆動ユニットDU1は、内燃機関EGに駆動連結される入力部材Iと、第1車輪W1に駆動連結される第1出力部材O1と、第1ステータST1及び第1ロータRT1を備えた第1回転電機MG1と、分配用差動歯車機構SPと、第1係合装置CL1と、第2係合装置CL2と、第3係合装置CL3を備えた伝達機構Tと、を備えている。本実施形態では、第1駆動ユニットDU1は、第1出力用差動歯車機構DF1と、を更に備えている。
【0014】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、遊星歯車機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、遊星歯車機構における複数の回転要素が、互いに他の回転要素を介することなく連結されている状態を指すものとする。
【0015】
本実施形態では、入力部材I、分配用差動歯車機構SP、第1係合装置CL1、及び第2係合装置CL2は、それらの回転軸心としての第1軸X1上に配置されている。そして、第1回転電機MG1は、その回転軸心としての第2軸X2上に配置されている。更に、伝達機構Tの第3係合装置CL3は、その回転軸心としての第3軸X3上に配置されている。また、第1出力部材O1及び第1出力用差動歯車機構DF1は、それらの回転軸心としての第4軸X4上に配置されている。
【0016】
本実施形態では、第2駆動ユニットDU2は、第2ステータST2及び第2ロータRT2を備えた第2回転電機MG2と、第2車輪W2に駆動連結される第2出力部材O2と、カウンタギヤ機構CGと、第2出力用差動歯車機構DF2と、を備えている。
【0017】
本実施形態では、第2回転電機MG2は、その回転軸心としての第5軸X5上に配置されている。そして、カウンタギヤ機構CGは、その回転軸心としての第6軸X6上に配置されている。また、第2出力部材O2及び第2出力用差動歯車機構DF2は、それらの回転軸心としての第7軸X7上に配置されている。
【0018】
本例では、上記の軸X1~X7は、互いに平行に配置されている。以下の説明では、上記の軸X1~X7に平行な方向を、車両用駆動装置100の「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側を「軸方向第2側L2」とする。本実施形態では、軸方向Lにおいて、内燃機関EGに対して入力部材Iが配置される側を軸方向第1側L1とし、その反対側を軸方向第2側L2としている。また、上記の軸X1~X7のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向R」とする。なお、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合や、どの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。
【0019】
本実施形態では、入力部材Iは、軸方向Lに沿って延在する入力軸1である。入力軸1は、伝達されるトルクの変動を減衰するダンパ装置DPを介して、内燃機関EGの出力軸ESに駆動連結されている。内燃機関EGは、燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。本実施形態では、内燃機関EGは、第1車輪W1の駆動力源として機能する。
【0020】
第1回転電機MG1は、第1車輪W1の駆動力源として機能する。第1回転電機MG1は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、第1回転電機MG1は、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置BT(図3参照)との間で電力の授受を行うように、当該蓄電装置BTと電気的に接続されている。そして、第1回転電機MG1は、蓄電装置BTに蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、第1回転電機MG1は、内燃機関EGの駆動力、又は第1出力部材O1の側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置BTを充電する。
【0021】
第1回転電機MG1の第1ステータST1は、非回転部材(例えば、第1回転電機MG1等を収容するケース)に固定されている。第1回転電機MG1の第1ロータRT1は、第1ステータST1に対して回転自在に支持されている。本実施形態では、第1ロータRT1は、第1ステータST1に対して径方向Rの内側に配置されている。
【0022】
本実施形態では、第1ロータRT1には、軸方向Lに沿って延在するように形成された第1ロータ軸RS1を介して、第1ロータギヤRG1が一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1ロータギヤRG1は、第2軸X2上に配置されている。図1に示す例では、第1ロータギヤRG1は、第1ロータRT1よりも軸方向第2側L2に配置されている。
【0023】
分配用差動歯車機構SPは、第1回転要素E1と、第2回転要素E2と、第3回転要素E3と、を備えている。第1回転要素E1は、入力部材Iに駆動連結されている。第3回転要素E3は、第1ロータRT1に駆動連結されている。本実施形態では、第2回転要素E2及び第3回転要素E3のそれぞれは、第1出力部材O1に駆動連結されている。
【0024】
本実施形態では、分配用差動歯車機構SPは、サンギヤS1とキャリヤC1とリングギヤR1とを備えた遊星歯車機構である。本例では、分配用差動歯車機構SPは、ピニオンギヤP1を支持するキャリヤC1と、ピニオンギヤP1に噛み合うサンギヤS1と、当該サンギヤS1に対して径方向Rの外側に配置されてピニオンギヤP1に噛み合うリングギヤR1と、を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0025】
本実施形態では、分配用差動歯車機構SPの回転要素の回転速度の順は、第1回転要素E1、第2回転要素E2、第3回転要素E3の順となっている。したがって、本実施形態では、第1回転要素E1は、サンギヤS1である。そして、第2回転要素E2は、キャリヤC1である。また、第3回転要素E3は、リングギヤR1である。
【0026】
ここで、「回転速度の順」とは、各回転要素の回転状態における回転速度の順番のことである。各回転要素の回転速度は、遊星歯車機構の回転状態によって変化するが、各回転要素の回転速度の高低の並び順は、遊星歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。なお、各回転要素の回転速度の順は、各回転要素の速度線図(図5等参照)における配置順に等しい。ここで、「各回転要素の速度線図における配置順」とは、速度線図における各回転要素に対応する軸が、当該軸に直交する方向に沿って配置される順番のことである。速度線図における各回転要素に対応する軸の配置方向は、速度線図の描き方によって異なるが、その配置順は遊星歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。
【0027】
伝達機構Tは、少なくとも分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達を行うように構成されている。本実施形態では、伝達機構Tは、第3係合装置CL3の状態に応じて、第2回転要素E2としてのキャリヤC1と第1出力部材O1との間の動力伝達と、第3回転要素E3としてのリングギヤR1と第1出力部材O1との間の動力伝達と、を選択的に行う。
【0028】
本実施形態では、伝達機構Tは、第1ギヤG1と、第2ギヤG2と、第3ギヤG3と、第4ギヤG4と、伝達出力ギヤ3と、を備えている。本実施形態では、第1ギヤG1及び第2ギヤG2は、第1軸X1上に配置されている。そして、第3ギヤG3、第4ギヤG4、及び伝達出力ギヤ3は、第3軸X3上に配置されている。
【0029】
第1ギヤG1は、分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2(ここでは、キャリヤC1)と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1ギヤG1は、分配用差動歯車機構SPに対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0030】
第2ギヤG2は、分配用差動歯車機構SPの第3回転要素E3(ここでは、リングギヤR1)と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1軸X1を軸心とする筒状のギヤ形成部材2が設けられている。そして、ギヤ形成部材2の外周面に第2ギヤG2が形成され、ギヤ形成部材2の内周面にリングギヤR1が形成されている。また、本実施形態では、第2ギヤG2は、リングギヤR1に対して、径方向Rの外側であって、径方向Rに沿う径方向視で分配用差動歯車機構SPと重複する位置に配置されている。ここで、2つの要素の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線と直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの要素の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを指す。
【0031】
また、本実施形態では、第2ギヤG2は、第1軸X1~第4軸X4とは別軸上に配置されたアイドラギヤIGを介して、第1ロータギヤRG1に駆動連結されている。つまり、本実施形態では、第2ギヤG2と第1ロータギヤRG1とが、アイドラギヤIGの周方向の互いに異なる位置において、アイドラギヤIGに噛み合っている。これにより、第2ギヤG2と第1ロータギヤRG1とは、アイドラギヤIGを介して互いに連動して回転するように連結されている。
【0032】
第3ギヤG3と第4ギヤG4とは、互いに相対的に回転可能に支持されている。第3ギヤG3は、第1ギヤG1に噛み合っている。第4ギヤG4は、第2ギヤG2に噛み合っている。本実施形態では、第4ギヤG4は、第2ギヤG2の周方向におけるアイドラギヤIGとは異なる位置で、第2ギヤG2に噛み合っている。伝達出力ギヤ3は、第3ギヤG3及び第4ギヤG4に対して相対的に回転可能に支持されている。
【0033】
第1ギヤG1の歯数と第2ギヤG2の歯数とは、互いに異なっている。つまり、第1ギヤG1の外径と第2ギヤG2の外径とが異なっている。そして、上述したように、第1ギヤG1と第2ギヤG2とが同軸上に配置されていると共に、第1ギヤG1に噛み合う第3ギヤG3と第2ギヤG2に噛み合う第4ギヤG4とが同軸上に配置されている。そのため、第1ギヤG1の外径が第2ギヤG2の外径よりも小さい場合には、第3ギヤG3の外径が第4ギヤG4の外径よりも大きい。一方、第1ギヤG1の外径が第2ギヤG2の外径よりも大きい場合には、第3ギヤG3の外径が第4ギヤG4の外径よりも小さい。したがって、第1ギヤG1に対する第3ギヤG3の歯数比と、第2ギヤG2に対する第4ギヤG4の歯数比とが異なっている。本実施形態では、第1ギヤG1の外径が第2ギヤG2の外径よりも小さく、第1ギヤG1の歯数は第2ギヤG2の歯数よりも少ない。そのため、本実施形態では、第3ギヤG3の外径が第4ギヤG4の外径よりも大きく、第3ギヤG3の歯数は第4ギヤG4の歯数よりも多い。したがって、本実施形態では、第1ギヤG1に対する第3ギヤG3の歯数比は、第2ギヤG2に対する第4ギヤG4の歯数比よりも大きい。
【0034】
伝達機構Tの第3係合装置CL3は、分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達を断接する係合装置である。本実施形態では、第3係合装置CL3は、第3ギヤG3及び第4ギヤG4のいずれかを、伝達出力ギヤ3に選択的に連結するように構成されている。
【0035】
上述したように、本実施形態では、第1ギヤG1に対する第3ギヤG3の歯数比は、第2ギヤG2に対する第4ギヤG4の歯数比よりも大きい。そのため、第3係合装置CL3が第3ギヤG3を伝達出力ギヤ3に連結させた場合には、比較的変速比が大きい第1変速段(低速段)が形成される。一方、第3係合装置CL3が第4ギヤG4を伝達出力ギヤ3に連結させた場合には、比較的変速比が小さい第2変速段(高速段)が形成される。
【0036】
また、本実施形態では、第3係合装置CL3は、いずれの変速段も形成しないニュートラル状態に切り替え可能に構成されている。第3係合装置CL3がニュートラル状態の場合、伝達機構Tが分配用差動歯車機構SPから伝達された回転を第1出力部材O1に伝達しない状態、つまり、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のいずれの駆動力も第1車輪W1に伝達されない状態となる。
【0037】
なお、第3係合装置CL3がいずれかの変速段を形成した状態が、第3係合装置CL3の係合状態に相当する。一方、第3係合装置CL3のニュートラル状態が、第3係合装置CL3の解放状態に相当する。本例では、第3係合装置CL3は、ソレノイド、電動機、油圧シリンダ等のアクチュエータによって係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成された噛み合い式係合装置(ドグクラッチ)である。
【0038】
このように、本実施形態では、伝達機構Tは、互いに同軸上に配置された第1ギヤG1及び第2ギヤG2と、当該第1ギヤG1及び第2ギヤG2にそれぞれ噛み合い、互いに同軸上に配置された第3ギヤG3及び第4ギヤG4と、を備えた平行軸歯車式の変速機として構成されている。
【0039】
第1出力用差動歯車機構DF1は、第1出力部材O1の回転を一対の第1車輪W1に分配するように構成されている。本実施形態では、第1出力部材O1は、伝達出力ギヤ3に噛み合う第1差動入力ギヤ4である。
【0040】
本実施形態では、第1出力用差動歯車機構DF1は、傘歯車型の差動歯車機構である。具体的には、第1出力用差動歯車機構DF1は、中空の第1差動ケースと、当該第1差動ケースと一体的に回転するように支持された第1ピニオンシャフトと、当該第1ピニオンシャフトに対して回転可能に支持された一対の第1ピニオンギヤと、当該一対の第1ピニオンギヤに噛み合って分配出力要素として機能する一対の第1サイドギヤと、を備えている。第1差動ケースには、第1ピニオンシャフト、一対の第1ピニオンギヤ、及び一対の第1サイドギヤが収容されている。
【0041】
本実施形態では、第1差動ケースには、第1出力部材O1としての第1差動入力ギヤ4が、当該第1差動ケースから径方向Rの外側に突出するように連結されている。そして、一対の第1サイドギヤのそれぞれには、第1車輪W1に駆動連結された第1ドライブシャフトDS1が一体的に回転可能に連結されている。こうして、本実施形態では、第1出力用差動歯車機構DF1は、一対の第1ドライブシャフトDS1を介して、第1出力部材O1(ここでは、第1差動入力ギヤ4)の回転を一対の第1車輪W1に分配する。
【0042】
第1係合装置CL1は、入力部材Iと分配用差動歯車機構SPの第1回転要素E1との間の動力伝達を断接する係合装置である。本実施形態では、第1係合装置CL1は、入力部材IとサンギヤS1との間の動力伝達を断接するように構成されている。図1に示す例では、第1係合装置CL1は、分配用差動歯車機構SPに対して軸方向第2側L2に配置されている。
【0043】
本実施形態では、第1係合装置CL1は、入力部材Iの側の回転要素である入力要素と、分配用差動歯車機構SPの側の回転要素である出力要素とを備え、これらの係合圧に応じて、係合の状態(係合状態/解放状態)が制御される摩擦係合装置である。つまり、本実施形態では、第1係合装置CL1は、係合状態として直結係合状態とスリップ係合状態とを含む摩擦係合装置である。なお、「直結係合状態」とは、摩擦係合装置の入力要素と出力要素との間に回転速度差がない係合状態である。また、「スリップ係合状態」とは、摩擦係合装置の入力要素と出力要素との間に回転速度差がある係合状態である。
【0044】
第2係合装置CL2は、分配用差動歯車機構SPにおける第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する係合装置である。本実施形態では、第2係合装置CL2は、第2回転要素E2としてのキャリヤC1と、第3回転要素E3としてのリングギヤR1との間の動力伝達を断接するように構成されている。図1に示す例では、第2係合装置CL2は、軸方向Lにおける第1係合装置CL1と分配用差動歯車機構SPとの間に配置されている。本例では、第2係合装置CL2は、ソレノイド、電動機、油圧シリンダ等のアクチュエータによって係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成された噛み合い式係合装置(ドグクラッチ)である。
【0045】
図2に示すように、第2回転電機MG2は、第2車輪W2の駆動力源として機能する。第2回転電機MG2は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、第2回転電機MG2は、上記の蓄電装置BT(図3参照)との間で電力の授受を行うように、当該蓄電装置BTと電気的に接続されている。そして、第2回転電機MG2は、蓄電装置BTに蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、第2回転電機MG2は、回生中には、第2出力部材O2の側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置BTを充電する。
【0046】
第2回転電機MG2の第2ステータST2は、非回転部材(例えば、第2回転電機MG2等を収容するケース)に固定されている。第2回転電機MG2の第2ロータRT2は、第2ステータST2に対して回転自在に支持されている。本実施形態では、第2ロータRT2は、第2ステータST2に対して径方向Rの内側に配置されている。
【0047】
本実施形態では、第2ロータRT2には、軸方向Lに沿って延在するように形成された第2ロータ軸RS2を介して、第2ロータギヤRG2が一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2ロータギヤRG2は、第5軸X5上に配置されている。図2に示す例では、第2ロータギヤRG2は、第2ロータRT2よりも軸方向第1側L1に配置されている。
【0048】
カウンタギヤ機構CGは、カウンタ入力ギヤ61と、カウンタ出力ギヤ62と、これらのギヤ61,62が一体的に回転するように連結するカウンタ軸63と、を備えている。
【0049】
カウンタ入力ギヤ61は、カウンタギヤ機構CGの入力要素である。本実施形態では、カウンタ入力ギヤ61は、第2ロータギヤRG2に噛み合っている。カウンタ出力ギヤ62は、カウンタギヤ機構CGの出力要素である。図2に示す例では、カウンタ出力ギヤ62は、カウンタ入力ギヤ61よりも軸方向第2側L2に配置されている。また、カウンタ出力ギヤ62は、カウンタ入力ギヤ61よりも小径に形成されている。
【0050】
第2出力用差動歯車機構DF2は、第2出力部材O2の回転を一対の第2車輪W2に分配するように構成されている。本実施形態では、第2出力部材O2は、カウンタギヤ機構CGのカウンタ出力ギヤ62に噛み合う第2差動入力ギヤ7である。
【0051】
本実施形態では、第2出力用差動歯車機構DF2は、傘歯車型の差動歯車機構である。具体的には、第2出力用差動歯車機構DF2は、中空の第2差動ケースと、当該第2差動ケースと一体的に回転するように支持された第2ピニオンシャフトと、当該第2ピニオンシャフトに対して回転可能に支持された一対の第2ピニオンギヤと、当該一対の第2ピニオンギヤに噛み合って分配出力要素として機能する一対の第2サイドギヤと、を備えている。第2差動ケースには、第2ピニオンシャフト、一対の第2ピニオンギヤ、及び一対の第2サイドギヤが収容されている。
【0052】
本実施形態では、第2差動ケースには、第2出力部材O2としての第2差動入力ギヤ7が、当該第2差動ケースから径方向Rの外側に突出するように連結されている。そして、一対の第2サイドギヤのそれぞれには、第2車輪W2に駆動連結された第2ドライブシャフトDS2が一体的に回転可能に連結されている。こうして、本実施形態では、第2出力用差動歯車機構DF2は、一対の第2ドライブシャフトDS2を介して、第2出力部材O2(ここでは、第2差動入力ギヤ7)の回転を一対の第2車輪W2に分配する。
【0053】
図3に示すように、車両用駆動装置100は、内燃機関EG、第1回転電機MG1、第1係合装置CL1、及び第2係合装置CL2を制御する制御装置10を備えている。本実施形態では、制御装置10は、主制御部11と、内燃機関EGを制御する内燃機関制御部12と、第1回転電機MG1を制御する第1回転電機制御部13と、第2回転電機MG2を制御する第2回転電機制御部14と、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3の係合の状態を制御する係合制御部15と、を備えている。
【0054】
主制御部11は、内燃機関制御部12、第1回転電機制御部13、第2回転電機制御部14、及び係合制御部15のそれぞれに対して、各制御部が担当する装置を制御する指令を出力する。内燃機関制御部12は、内燃機関EGが、主制御部11から指令された指令トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された指令回転速度となるように内燃機関EGを制御する。第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1が、主制御部11から指令された指令トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された指令回転速度となるように第1回転電機MG1を制御する。第2回転電機制御部14は、第2回転電機MG2が、主制御部11から指令された指令トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された指令回転速度となるように第2回転電機MG2を制御する。係合制御部15は、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3のそれぞれが、主制御部11から指令された係合の状態となるように、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3を動作させるためのアクチュエータ(図示を省略)を制御する。
【0055】
また、主制御部11は、車両用駆動装置100が搭載される車両の各部の情報を取得するために、当該車両の各部に設けられたセンサからの情報を取得可能に構成されている。本実施形態では、主制御部11は、SOCセンサSe1、車速センサSe2、アクセル操作量センサSe3、ブレーキ操作量センサSe4、及びシフト位置センサSe5からの情報を取得可能に構成されている。
【0056】
SOCセンサSe1は、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2と電気的に接続された蓄電装置BTの状態を検出するためのセンサである。SOCセンサSe1は、例えば、電圧センサや電流センサ等により構成されている。主制御部11は、SOCセンサSe1から出力される電圧値や電流値等の情報に基づいて、蓄電装置BTの充電量(SOC:State of Charge)を算出する。
【0057】
車速センサSe2は、車両用駆動装置100が搭載される車両の走行速度(車速)を検出するためのセンサである。本実施形態では、車速センサSe2は、第1出力部材O1の回転速度を検出するためのセンサである。主制御部11は、車速センサSe2の検出信号に基づいて、第1出力部材O1の回転速度(角速度)を算出する。第1出力部材O1の回転速度は車速に比例するため、主制御部11は、車速センサSe2の検出信号に基づいて車速を算出することができる。
【0058】
アクセル操作量センサSe3は、車両用駆動装置100が搭載される車両に設けられたアクセルペダルの運転者による操作量(アクセル開度)を検出するためのセンサである。主制御部11は、アクセル操作量センサSe3の検出信号に基づいて、アクセル開度を算出する。
【0059】
ブレーキ操作量センサSe4は、車両用駆動装置100が搭載される車両に設けられたブレーキペダルの運転者による操作量を検出するためのセンサである。主制御部11は、ブレーキ操作量センサSe4の検出信号に基づいて、運転者によるブレーキペダルの操作量を算出する。
【0060】
シフト位置センサSe5は、車両用駆動装置100が搭載される車両の運転者により操作されるシフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。主制御部11は、シフト位置センサSe5の検出信号に基づいてシフト位置を算出する。シフトレバーは、パーキングレンジ(Pレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、前進走行レンジ(Dレンジ)等を選択可能に構成されている。
【0061】
主制御部11は、上記のセンサSe1~Se5からの情報に基づいて、後述する第1駆動ユニットDU1における複数の動作モードの選択を行う。主制御部11は、係合制御部15を介して、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3のそれぞれを、選択した動作モードに応じた係合の状態に制御することにより、当該選択した動作モードへ移行する。更に、主制御部11は、内燃機関制御部12、第1回転電機制御部13、及び第2回転電機制御部14を介して、内燃機関EG、第1回転電機MG1、及び第2回転電機MG2の動作状態を協調制御することにより、選択した動作モードに応じた適切な車両の走行を可能とする。
【0062】
図4に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置100は、動作モードとして、電気式トルクコンバータモード(以下、「eTCモード」と記す)と、第1EVモードと、第2EVモードと、第1HVモードと、第2HVモードと、充電モードと、を備えている。
【0063】
図4に、本実施形態の各動作モードにおける、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3の状態を示す。なお、図4の第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の欄において、「〇」は対象の係合装置が係合状態であることを示し、「×」は対象の係合装置が解放状態であることを示している。また、図4の第3係合装置CL3の欄において、「Lo」は第3係合装置CL3が第1変速段(低速段)を形成している状態であることを示し、「Hi」は第3係合装置CL3が第2変速段(高速段)を形成している状態であることを示し、「N」は第3係合装置CL3がニュートラル状態であることを示している。
【0064】
eTCモードは、分配用差動歯車機構SPにより、第1回転電機MG1のトルクを反力として内燃機関EGのトルクを増幅して第1出力部材O1に伝達することで車両を走行させるモードである。eTCモードは、内燃機関EGのトルクを増幅して第1出力部材O1に伝達することができるため、所謂、電気式トルクコンバータモードと称される。
【0065】
図4に示すように、eTCモードでは、第1係合装置CL1が係合状態、第2係合装置CL2が解放状態、第3係合装置CL3が係合状態とされる。そして、内燃機関EG及び第1回転電機MG1の駆動力が第1出力部材O1に伝達される。本実施形態のeTCモードでは、第1係合装置CL1が係合状態となり、第2係合装置CL2が解放状態となり、第3係合装置CL3が第1変速段(低速段)を形成した状態となるように制御される。eTCモードは、「第2モード」に相当する。
【0066】
本実施形態のeTCモードでは、第1回転電機MG1は、負回転しつつ正トルクを出力して発電し、分配用差動歯車機構SPは、第1回転電機MG1の駆動力と内燃機関EGの駆動力とを合わせて、内燃機関EGの駆動力よりも大きい駆動力を第2回転要素E2(ここでは、キャリヤC1)から出力する。そして、第2回転要素E2の回転は、伝達機構Tにおいて第1変速段(低速段)に応じた変速比で変速されて第1出力部材O1に伝達される。そのため、蓄電装置BTの充電量が比較的低い場合であってもeTCモードを選択可能である。
【0067】
第1EVモードは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、第1回転電機MG1のみの駆動力により、比較的低速で車両を走行させるモードである。第2EVモードは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、第1回転電機MG1のみの駆動力により、比較的高速で車両を走行させるモードである。
【0068】
図4に示すように、第1EVモード及び第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態、第2係合装置CL2が係合状態、第3係合装置CL3が係合状態とされる。そして、内燃機関EGが駆動力を出力しない停止状態とされ、第1回転電機MG1の駆動力が第1出力部材O1に伝達される。本実施形態の第1EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態となり、第2係合装置CL2が係合状態となり、第3係合装置CL3が第1変速段(低速段)を形成した状態となるように制御される。一方、本実施形態の第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態となり、第2係合装置CL2が係合状態となり、第3係合装置CL3が第2変速段(高速段)を形成した状態となるように制御される。第1EVモードは、「第1モード」に相当する。
【0069】
本実施形態の第1EVモード及び第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態とされることにより、内燃機関EGが分配用差動歯車機構SPから分離されて、内燃機関EGと第1出力部材O1との間での動力伝達が遮断された状態となる。そして、第2係合装置CL2が係合状態とされることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となる。その結果、第1回転電機MG1の側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、そのまま伝達機構Tの第1ギヤG1及び第2ギヤG2に伝達される。そして、伝達機構Tに伝達された回転は、第3係合装置CL3の状態に応じて、第1EVモードでは第1変速段(低速段)の変速比、第2EVモードでは第2変速段(高速段)の変速比で変速されて、第1出力部材O1に伝達される。
【0070】
第1HVモードは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、少なくとも内燃機関EGの駆動力により、比較的低速で車両を走行させるモードである。第2HVモードは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、少なくとも内燃機関EGの駆動力により、比較的高速で車両を走行させるモードである。
【0071】
図4に示すように、本実施形態の第1HVモードでは、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の双方が係合状態となり、第3係合装置CL3が第1変速段(低速段)を形成した状態となるように制御される。一方、本実施形態の第2HVモードでは、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の双方が係合状態となり、第3係合装置CL3が第2変速段(高速段)を形成した状態となるように制御される。
【0072】
本実施形態の第1HVモード及び第2HVモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされることにより、内燃機関EGが分配用差動歯車機構SPに連結された状態となる。そして、第2係合装置CL2が係合状態とされることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となる。その結果、内燃機関EGの側及び第1回転電機MG1の側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、そのまま伝達機構Tの第1ギヤG1及び第2ギヤG2に伝達される。そして、伝達機構Tに伝達された回転は、第3係合装置CL3の状態に応じて、第1HVモードでは第1変速段(低速段)の変速比、第2HVモードでは第2変速段(高速段)の変速比で変速されて第1出力部材O1に伝達される。
【0073】
充電モードは、内燃機関EGの駆動力により第1回転電機MG1に発電を行わせて、蓄電装置BTを充電するモードである。図4に示すように、本実施形態の充電モードでは、第1係合装置CL1が係合状態となり、第2係合装置CL2が係合状態となり、第3係合装置CL3がニュートラル状態となるように制御される。そして、内燃機関EGが駆動力を出力し、第1回転電機MG1が内燃機関EGの駆動力によって回転する第1ロータRT1の回転方向とは反対方向の駆動力を出力することにより発電するように制御される。なお、充電モードでは、車両を停車させていても良いし、第1回転電機MG1が発電した電力により第2回転電機MG2を力行させ、当該第2回転電機MG2の駆動力を第2車輪W2に伝達することで車両を走行させても良い。このように充電モードとしつつ第2回転電機MG2の駆動力によって車両を走行させるモードは、所謂、シリーズハイブリッドモードと称される。
【0074】
制御装置10は、第1モード(ここでは、第1EVモード)から第2モード(ここでは、eTCモード)に移行する場合に、第1移行制御を実行可能である。
【0075】
図5から図9に、本実施形態の第1移行制御における分配用差動歯車機構SPの速度線図を示す。図5から図9の速度線図において、縦軸は、分配用差動歯車機構SPの各回転要素の回転速度に対応している。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれは、分配用差動歯車機構SPの各回転要素に対応している。また、図5から図9の速度線図において、複数本の縦線の上方に示された符号は、対応する回転要素の符号である。そして、複数本の縦線の下方に示された符号は、上方に示された符号に対応する回転要素に駆動連結された要素の符号である。また、図5から図9の速度線図において、第1回転要素E1に対応する縦線(左側の縦線)上に示された記号は、第1係合装置CL1の状態を表している。そして、第2回転要素E2に対応する縦線(中央の縦線)上に示された記号は、第3係合装置CL3の状態を表している。また、第3回転要素E3に対応する縦線(右側の縦線)上に示された記号は、第2係合装置CL2の状態を表している。なお、それらの記号として、黒丸は対応する係合装置が直結係合状態であることを表し、白丸は対応する係合装置が解放状態であることを表し、三角は対応する係合装置がスリップ係合状態であることを表している。このような速度線図の記載方法は、図15等においても同様である。
【0076】
第1移行制御は、車両用駆動装置100の動作モードが第1モード(ここでは、第1EVモード)の状態で実行される。図5は、第1EVモードにおける分配用差動歯車機構SPの速度線図である。図5に示すように、第1EVモードでは、第2係合装置CL2が係合状態であるため、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となる。このとき、図示の例では、それらの回転要素E1~E3の回転速度は、内燃機関EGのアイドル回転速度Nid未満となっている。
【0077】
図6に示すように、第1移行制御では、まず、制御装置10は、第3係合装置CL3を係合状態に維持しつつ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる第1制御を実行する。なお、図6は、第1制御後における分配用差動歯車機構SPの速度線図である。
【0078】
図7に示すように、制御装置10は、上記の第1制御の後に、分配用差動歯車機構SPの第1回転要素E1(ここでは、サンギヤS1)の回転速度が目標回転速度Ntに近付くように第1ロータRT1の回転速度を制御する第2制御を実行する。本実施形態では、目標回転速度Ntは、第2モード(ここでは、eTCモード)に移行後に内燃機関EGが必要な駆動力を出力するための当該内燃機関EGの回転速度に基づいて定まる第1回転要素E1(ここでは、サンギヤS1)の回転速度である。本例では、制御装置10は、サンギヤS1の回転速度が目標回転速度Ntとなるように、第1ロータRT1の回転速度を制御する。
【0079】
図8及び図9に示すように、制御装置10は、上記の第2制御の後に、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる第3制御を実行する。上記の第1制御、第2制御、及び第3制御を実行することにより、車両用駆動装置100の動作モードが第1モード(ここでは、第1EVモード)から第2モード(ここでは、eTCモード)に移行する。本実施形態では、制御装置10は、第3制御において、第1係合装置CL1を解放状態からスリップ係合状態を経て直結係合状態へ変化させる係合動作中に、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関EGの回転速度を上昇させて、内燃機関EGを始動させる。なお、図8は、第3制御中における分配用差動歯車機構SPの速度線図である。また、図9は、第3制御後、つまり、第2モード(ここでは、eTCモード)における分配用差動歯車機構SPの速度線図である。
【0080】
以上のように、車両用駆動装置100は、
内燃機関EGに駆動連結される入力部材Iと、
第1車輪W1に駆動連結される第1出力部材O1と、
第1ロータRT1を備えた第1回転電機MG1と、
第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3を備え、第1回転要素E1が入力部材Iに駆動連結され、第3回転要素E3が第1ロータRT1に駆動連結された分配用差動歯車機構SPと、
少なくとも第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達を行う伝達機構Tと、
入力部材Iと第1回転要素E1との間の動力伝達を断接する第1係合装置CL1と、
第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置CL2と、
内燃機関EG、第1回転電機MG1、第1係合装置CL1、及び第2係合装置CL2を制御する制御装置10と、を備え、
伝達機構Tは、第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達を断接する第3係合装置CL3を備えた、車両用駆動装置100であって、
動作モードとして、第1モードと、第2モードと、を備え、
第1モードでは、第1係合装置CL1が解放状態、第2係合装置CL2が係合状態、第3係合装置CL3が係合状態とされ、内燃機関EGが駆動力を出力しない停止状態とされ、第1回転電機MG1の駆動力が第1出力部材O1に伝達され、
第2モードでは、第1係合装置CL1が係合状態、第2係合装置CL2が解放状態、第3係合装置CL3が係合状態とされ、内燃機関EG及び第1回転電機MG1の駆動力が第1出力部材O1に伝達され、
制御装置10は、第1モードから第2モードに移行する場合に、第1移行制御を実行可能であり、
第1移行制御は、
第3係合装置CL3を係合状態に維持しつつ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる第1制御と、
第1制御の後に、第1回転要素E1の回転速度が目標回転速度Ntに近付くように第1ロータRT1の回転速度を制御する第2制御と、
第2制御の後に、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる第3制御と、を含む。
【0081】
この構成によれば、第2係合装置CL2を解放状態とすることで分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3の回転速度の関係を任意に変更できることを利用して、第3係合装置CL3を解放状態にすることなく、第1回転電機MG1の回転速度制御により分配用差動歯車機構SPの第1回転要素E1の回転速度を目標回転速度Ntに容易に近付けることができる。これにより、第1回転要素の回転速度を、容易に内燃機関の始動に必要な回転速度とすることができる。そして、第1回転要素E1の回転速度を目標回転速度Ntに近付けた後、第1係合装置CL1を係合状態とすることで第1回転電機MG1の駆動力を内燃機関EGに伝達可能な状態とし、当該第1回転電機MG1の駆動力により内燃機関EGを始動させることができる。内燃機関EGの始動後は、第1係合装置CL1が係合状態、第2係合装置CL2が解放状態、第3係合装置CL3が係合状態となっているため、それらの係合装置CL1~CL3の状態を変化させることなく、第2モードを開始することができる。このように、本構成によれば、第1モードから第2モードへの移行、つまり、内燃機関EGの始動を伴う動作モードの移行に要する時間を短く抑えることができる。
【0082】
また、本実施形態では、第1係合装置CL1は、係合状態として直結係合状態とスリップ係合状態とを含む摩擦係合装置であり、
目標回転速度Ntは、第2モードに移行後に内燃機関EGが必要な駆動力を出力するための当該内燃機関EGの回転速度に基づいて定まる第1回転要素E1の回転速度であり、
制御装置10は、第3制御において、第1係合装置CL1を解放状態からスリップ係合状態を経て直結係合状態へ変化させる係合動作中に、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関EGの回転速度を上昇させて、内燃機関EGを始動させる。
【0083】
この構成によれば、第1係合装置CL1が解放状態で、第1回転要素E1の回転速度が、第2モードに移行後に内燃機関EGが必要な駆動力を出力するための当該内燃機関EGの回転速度に基づく目標回転速度Ntに近付くように、第1回転電機MG1の回転速度を制御する。そして、第1係合装置CL1の係合動作中に、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して内燃機関EGに伝達される第1回転電機MG1の駆動力により内燃機関EGを始動させる。これにより、第1モードから第2モードへの移行中における第1回転電機MG1の回転速度の制御を行う回数を少なく抑えることができる。また、内燃機関EGと第1回転電機MG1との間の動力伝達を遮断したイナーシャが小さい状態で、第1回転電機MG1の回転速度の制御を行うことができるため、第1回転要素E1の回転速度を迅速に目標回転速度Ntに近付けることができる。したがって、本構成によれば、第1モードから第2モードへの移行に要する時間を更に短く抑えることができる。
【0084】
図10は、第1移行制御の一例を示すタイムチャートである。図10に示すように、まず、第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1のトルクを時間t1から次第に減少させ、時間t2にゼロとする。
【0085】
次に、係合制御部15は、時間t2から時間t3にかけて、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態とする。時間t3に第2係合装置CL2が解放状態となることに伴い、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が相対回転可能な状態となる。
【0086】
そして、第1回転電機制御部13は、入力部材Iを介して内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が、時間t3から上昇して時間t4に目標回転速度Ntとなるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。なお、図10の「回転速度」のタイムチャートにおいて、「N1」は第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度を表し、「N2」は第2回転要素E2としてのキャリヤC1の回転速度である第2回転速度を表し、「N3」は第3回転要素E3としてのリングギヤR1の回転速度である第3回転速度を表し、「Ne」は内燃機関EGの回転速度である内燃機関回転速度を表している。
【0087】
続いて、主制御部11は、時間t4において、係合制御部15に第1係合装置CL1を係合状態とする指令を行う。その結果、第1係合装置CL1の係合圧が上昇し始め、第1係合装置CL1がスリップ係合状態となる。そして、第1回転電機制御部13は、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neが時間t5から上昇して時間t6に第1回転速度N1(目標回転速度Nt)となるように、第1回転電機MG1を制御する。内燃機関制御部12は、時間t5から時間t6の間で内燃機関EGを始動させる。
【0088】
上記のように、第1移行制御では、時間t5から時間t6にかけて、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neを上昇させる。このとき、第1移行制御では、第3係合装置CL3が係合状態となっているため、第1回転電機MG1及び内燃機関EG等の駆動力の変動が第1出力部材O1に伝達されることに起因して、第1駆動ユニットDU1に駆動力の変動が生じる。本実施形態では、制御装置10は、第1移行制御の実行中、伝達機構Tを介して第1出力部材O1に伝達される第1回転電機MG1及び内燃機関EGからの駆動力の変動を補うように、第2回転電機MG2に駆動力を出力させる駆動力補助制御を実行する。本例では、制御装置10は、駆動力補助制御にて、内燃機関EGの始動のための駆動力の反力として伝達機構Tを介して第1出力部材O1に伝達される負の駆動力を補うように、第2回転電機MG2に正の駆動力を出力させる。図10に示す例では、第1駆動ユニットDU1における負の駆動力と、第2駆動ユニットDU2における正の駆動力との和がゼロとなるように、第2回転電機MG2が制御されている(図10の「DU1トルク」のタイムチャートにおける点線部分参照)。
【0089】
なお、上述したように、本実施形態では、第2回転電機MG2は、第1車輪W1とは異なる第2車輪W2に駆動連結される第2出力部材O2に、第1出力部材O1を介することなく駆動連結されている。しかし、詳細な構成については後述するが、第2回転電機MG2が、分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達経路における第3係合装置CL3よりも第1出力部材O1の側で、第1出力部材O1に駆動連結された構成(図20参照)としても良い。
【0090】
このように、本実施形態では、車両用駆動装置100は、第1車輪W1とは異なる第2車輪W2に駆動連結される第2出力部材O2に、第1出力部材O1を介することなく駆動連結され、又は、第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達経路における第3係合装置CL3よりも第1出力部材O1の側で、第1出力部材O1に駆動連結された第2回転電機MG2を更に備え、
制御装置10は、第1移行制御の実行中、伝達機構Tを介して第1出力部材O1に伝達される第1回転電機MG1及び内燃機関EGからの駆動力の変動を補うように、第2回転電機MG2に駆動力を出力させる駆動力補助制御を実行する。
【0091】
この構成によれば、第1モードから第2モードへの移行中に、車両全体における駆動力の変動を少なく抑えることができる。
【0092】
以下では、車両用駆動装置100の動作モードを第1モードから第2モードに移行する場合における制御装置10の制御処理について、図11から図13を参照して説明する。
【0093】
図11は、車両用駆動装置100の動作モードを第1モード(ここでは、第1EVモード)から第2モード(ここでは、eTCモード)に移行する場合における制御装置10の制御処理の一例を示すフローチャートである。図11に示すように、まず、制御装置10は、車両用駆動装置100の現在の動作モードが第1EVモードであるか否かを判断する(ステップ#1)。本実施形態では、主制御部11が、内燃機関制御部12を介して内燃機関EGが停止状態であるか否か、第1回転電機制御部13を介して第1回転電機MG1が力行状態であるか否か、係合制御部15を介して第1係合装置CL1が解放状態、第2係合装置CL2及び第3係合装置CL3が係合状態であるかを判断することにより、上記の判断を行う。
【0094】
制御装置10は、車両用駆動装置100の現在の動作モードが第1EVモードではないと判断した場合(ステップ#1:No)、制御を終了する。一方、制御装置10は、車両用駆動装置100の現在の動作モードが第1EVモードであると判断した場合(ステップ#1:Yes)、eTCモードへの移行要求があるか否かを判断する(ステップ#2)。本実施形態では、主制御部11が、SOCセンサSe1の検出信号に基づいて算出した蓄電装置BTの充電量、車速センサSe2の検出信号に基づいて算出した車速、アクセル操作量センサSe3の検出信号に基づいて算出したアクセル開度、ブレーキ操作量センサSe4の検出信号に基づいて算出したブレーキペダルの操作量、及びシフト位置センサSe5の検出信号に基づいて算出したシフト位置等に基づき、上記の判断を行う。
【0095】
制御装置10は、eTCモードへの移行要求があった場合(ステップ#2:Yes)、第2回転電機MG2が出力中の駆動力と第2回転電機MG2が出力可能な上限駆動力との差である余剰駆動力Tsが、上記の駆動力補助制御を実行するために必要な駆動力である必要駆動力Tn以上であるか否かを判断する(ステップ#3)。本実施形態では、主制御部11が、第2回転電機制御部14を介して第2回転電機MG2の現在の状態を把握することにより、上記の判断を行う。ここで、第2回転電機MG2が出力可能な上限駆動力とは、第2回転電機MG2の性能及び蓄電装置BTの状態(具体的には出力可能な電流)等に応じて、その時点において第2回転電機MG2が出力することができる最大の駆動力(トルク)のことである。なお、この上限駆動力を、蓄電装置BTの状態等によらず第2回転電機MG2の性能に応じて定まる一定値としても良い。
【0096】
制御装置10は、余剰駆動力Tsが必要駆動力Tn以上であると判断した場合(ステップ#3:Yes)、上記の第1移行制御を実行する(ステップ#10)。一方、制御装置10は、余剰駆動力Tsが必要駆動力Tn未満であると判断した場合(ステップ#3:No)、第1移行制御とは異なる第2移行制御を実行する(ステップ#20)。
【0097】
図12は、第1移行制御の一例を示すフローチャートである。図12に示すように、第1移行制御では、まず、制御装置10は、第3係合装置CL3を係合状態に維持しつつ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる第1制御を実行する(ステップ#11)。なお、このとき、第1係合装置CL1は、解放状態が維持されている。本実施形態では、係合制御部15が、第1係合装置CL1及び第3係合装置CL3の係合の状態を維持しつつ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる。
【0098】
次に、制御装置10は、第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が目標回転速度Ntに近付くように、第1ロータRT1の回転速度を制御する第2制御を実行する(ステップ#12)。本実施形態では、第1回転電機制御部13が、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行して、第1回転速度N1を目標回転速度Ntまで上昇させる。
【0099】
続いて、制御装置10は、第1係合装置CL1を解放状態からスリップ係合状態を経て直結係合状態へ変化させる係合動作を開始させ(ステップ#13)、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neを上昇させる。そして、制御装置10は、内燃機関回転速度Neが第1回転速度N1(目標回転速度Nt)に到達したか否かを判断する(ステップ#14)。
【0100】
制御装置10は、内燃機関回転速度Neが第1回転速度N1(目標回転速度Nt)に到達した場合(ステップ#14:No)、内燃機関EGを始動させることで(ステップ#15)、動作モードをeTCモードとして、第1移行制御を終了する。なお、内燃機関回転速度Neが第1回転速度N1(目標回転速度Nt)に到達する前であっても、内燃機関回転速度Neがアイドル回転速度Nid以上となった以後であれば内燃機関EGを始動させても良い。ここでは、上記のステップ#13~#15が、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる「第3制御」に相当する。
【0101】
図13は、第2移行制御の一例を示すフローチャートである。図13に示すように、第2移行制御では、まず、制御装置10は、第2係合装置CL2を係合状態に維持しつつ、第3係合装置CL3を係合状態から解放状態に変化させる第4制御を実行する(ステップ#21)。なお、このとき、第1係合装置CL1は、解放状態が維持されている。本実施形態では、係合制御部15が、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の係合の状態を維持しつつ、第3係合装置CL3を係合状態から解放状態に変化させる。
【0102】
次に、制御装置10は、第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が目標回転速度Ntに近付くように、第1ロータRT1の回転速度を制御する第5制御を実行する(ステップ#22)。本実施形態では、第1回転電機制御部13が、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行して、第1回転速度N1を目標回転速度Ntまで上昇させる。
【0103】
続いて、制御装置10は、第1係合装置CL1を解放状態からスリップ係合状態を経て直結係合状態へ変化させる係合動作を開始させ(ステップ#23)、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neを上昇させる。そして、制御装置10は、内燃機関回転速度Neが第1回転速度N1(目標回転速度Nt)に到達したか否かを判断する(ステップ#24)。
【0104】
制御装置10は、内燃機関回転速度Neが第1回転速度N1(目標回転速度Nt)に到達した場合(ステップ#24:No)、内燃機関EGを始動させる(ステップ#25)。なお、内燃機関回転速度Neが第1回転速度N1(目標回転速度Nt)に到達する前であっても、内燃機関回転速度Neがアイドル回転速度Nid以上となった以後であれば内燃機関EGを始動させても良い。ここでは、上記のステップ#23~#25が、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる「第6制御」に相当する。
【0105】
その後、制御装置10は、第3係合装置CL3を解放状態から係合状態に変化させると共に、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる第7制御を実行することで(ステップ#26)、動作モードをeTCモードとして、第2移行制御を終了する。本実施形態では、内燃機関EGの始動後、係合制御部15が、第1係合装置CL1を係合状態から解放状態に変化させる。その後、第1回転電機制御部13は、第1出力部材O1に駆動連結された第2回転要素E2としてのキャリヤC1の回転速度である第2回転速度N2が、その時点で第3係合装置CL3を係合状態とした場合に第1出力部材O1の回転速度に応じて定まるキャリヤC1の回転速度となるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。続いて、係合制御部15が、第3係合装置CL3を解放状態から係合状態に変化させ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる。その後、第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行して、入力部材Iを介して内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1を、目標回転速度Ntまで上昇させる。本例では、内燃機関回転速度Neは目標回転速度Ntに維持されているため、これによって第1回転速度N1と内燃機関回転速度Neとが近付く。そして、係合制御部15は、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させることで、動作モードをeTCモードとする。
【0106】
図14は、第2移行制御の一例を示すタイムチャートである。図14に示すように、まず、第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1のトルクを時間t11から次第に減少させ、時間t12にゼロとする。
【0107】
次に、係合制御部15は、時間t12から時間t13にかけて、第3係合装置CL3を係合状態(ここでは、低速段を形成している状態)から解放状態(ここでは、ニュートラル状態)に変化させる。
【0108】
そして、第1回転電機制御部13は、入力部材Iを介して内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が、時間t13から上昇して時間t14に目標回転速度Ntとなるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。このとき、第2係合装置CL2が係合状態であるため、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となっている。その結果、第1回転速度N1と第2回転速度N2と第3回転速度N3とが、一体的に上昇し、時間t14に目標回転速度Ntとなる。
【0109】
続いて、主制御部11は、時間t14において、係合制御部15に第1係合装置CL1を係合状態とする指令を行う。その結果、第1係合装置CL1の係合圧が上昇し始め、第1係合装置CL1がスリップ係合状態となる。そして、第1回転電機制御部13は、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neが時間t15から上昇して時間t16に第1回転速度N1(目標回転速度Nt)となるように、第1回転電機MG1を制御する。内燃機関制御部12は、時間t15から時間t16の間で内燃機関EGを始動させる。このとき、第2移行制御では、第3係合装置CL3が解放状態となっているため、第1回転電機MG1及び内燃機関EG等の駆動力の変動が第1出力部材O1に伝達されることはなく、第1駆動ユニットDU1に駆動力の変動が生じることはない。したがって、本実施形態の第2移行制御では、駆動力補助制御を実行しない。
【0110】
内燃機関EGの始動後、係合制御部15は、時間t16から時間t17にかけて、第1係合装置CL1を係合状態から解放状態に変化させる。そして、第1回転電機制御部13は、第1出力部材O1に駆動連結された第2回転要素E2としてのキャリヤC1の回転速度である第2回転速度N2が、時間t17から下降して時間t18に、その時点で第3係合装置CL3を係合状態とした場合に第1出力部材O1の回転速度に応じて定まるキャリヤC1の回転速度(図14の「回転速度」のタイムチャートにおける同期線S参照)となるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。このとき、第2係合装置CL2が係合状態であるため、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となっている。その結果、第1回転速度N1と第2回転速度N2と第3回転速度N3とが、一体的に下降する。
【0111】
続いて、係合制御部15は、時間t18から時間t19にかけて、第3係合装置CL3を解放状態(ここでは、ニュートラル状態)から係合状態(ここでは、低速段を形成している状態)に変化させる。そして、係合制御部15は、時間t19から時間t20にかけて、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態とする。時間t20に第2係合装置CL2が解放状態となることに伴い、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が相対回転可能な状態となる。
【0112】
その後、第1回転電機制御部13は、入力部材Iを介して内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が、時間t20から上昇して時間t21に目標回転速度Ntとなるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。本例では、時間t17に第1係合装置CL1が解放状態とされた後、時間t21まで、内燃機関回転速度Neは目標回転速度Ntに維持されている。そのため、これによって第1回転速度N1と内燃機関回転速度Neとが同等の回転速度まで近付く。
【0113】
そして、主制御部11は、時間t21以降に第1係合装置CL1が直結係合状態となるように、係合制御部15に第1係合装置CL1を係合状態とする指令を行う。図14の例では、主制御部11は、時間t21の前から目標係合圧(係合圧指令)をストロークエンド圧付近まで増加させている。そして、主制御部11は、時間t21から目標係合圧(係合圧指令)をストロークエンド圧から次第に上昇させている。
【0114】
このように、本実施形態では、制御装置10は、第1モードから第2モードに移行する場合に、第1移行制御と第2移行制御とを選択的に実行可能であり、
第2移行制御は、
第2係合装置CL2を係合状態に維持しつつ、第3係合装置CL3を係合状態から解放状態に変化させる第4制御と、
第4制御の後に、第1回転要素E1の回転速度が目標回転速度Ntに近付くように第1ロータRT1の回転速度を制御する第5制御と、
第5制御の後に、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる第6制御と、
第6制御の後に、第3係合装置CL3を解放状態から係合状態に変化させると共に、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる第7制御と、を含み、
制御装置10は、第2回転電機MG2が出力中の駆動力と第2回転電機MG2が出力可能な上限駆動力との差である余剰駆動力Tsが、駆動力補助制御を実行するために必要な駆動力である必要駆動力Tn以上である場合に、第1移行制御を実行し、余剰駆動力Tsが必要駆動力Tn未満である場合に、第2移行制御を実行する。
【0115】
この構成によれば、第2移行制御では、分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達を断接する第3係合装置CL3が解放状態で、第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる。これにより、第2移行制御の実行中における第1回転電機MG1及び内燃機関EG等の駆動力の変動を第1出力部材O1に伝達しないようにすることができる。したがって、第2移行制御の実行中、駆動力補助制御を実行しなくても、車両全体における駆動力の変動を少なく抑えることができる。
また、本構成によれば、余剰駆動力Tsが必要駆動力Tn以上である場合には、駆動力補助制御を含む第1移行制御を実行する。一方、余剰駆動力Tsが必要駆動力Tn未満である場合には、駆動力補助制御を含まない第2移行制御を実行する。これにより、第2回転電機MG2に駆動力補助制御を実行するために必要な駆動力が残っていない場合であっても、駆動力補助制御が不要な第2移行制御を実行することができる。したがって、第2回転電機MG2の状態によらず、車両全体における駆動力の変動を少なく抑えることができる。
【0116】
2.第2の実施形態
以下では、第2の実施形態に係る車両用駆動装置100について、図面を参照して説明する。本実施形態では、第1移行制御の内容が、上記第1の実施形態のものとは異なっている。以下では、上記第1の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第1の実施形態と同様とする。
【0117】
本実施形態の第1移行制御では、上記第1の実施形態と同様の第1制御を実行する。そのため、本実施形態の第1制御前(第1EVモード)における分配用差動歯車機構SPの各回転要素の状態(図5参照)と、第1制御後における分配用差動歯車機構SPの各回転要素の状態(図6参照)とは、上記第1の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0118】
図15に示すように、本実施形態の第2制御では、制御装置10は、分配用差動歯車機構SPの第1回転要素E1(ここでは、サンギヤS1)の回転速度がゼロに近付くように第1ロータRT1の回転速度を制御する。つまり、本実施形態では、目標回転速度Ntはゼロである。本例では、制御装置10は、サンギヤS1の回転速度がゼロとなるように、第1ロータRT1の回転速度を制御する。
【0119】
図16に示すように、本実施形態の第3制御では、制御装置10は、第1係合装置を解放状態から直結係合状態に変化させる。その後、図17に示すように、制御装置10は、第1回転要素E1(ここでは、サンギヤS1)の回転速度が移行後目標回転速度Ntaに近付くように第1ロータRT1の回転速度を制御する。これにより、直結係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに駆動力が伝達され、内燃機関回転速度Neが上昇する。制御装置10は、このように第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力による内燃機関回転速度Neの上昇を利用して、内燃機関EGを始動させる。ここで、移行後目標回転速度Ntaは、第2モード(ここでは、eTCモード)に移行後に内燃機関EGが必要な駆動力を出力するための内燃機関EGの回転速度に基づいて定まる第1回転要素E1(ここでは、サンギヤS1)の回転速度である。本実施形態の移行後目標回転速度Ntaは、上記第1の実施形態の目標回転速度Ntと同値である。
【0120】
図18は、本実施形態の第1移行制御の一例を示すフローチャートである。図18に示すように、まず、制御装置10は、第3係合装置CL3を係合状態に維持しつつ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる第1制御を実行する(ステップ#31)。なお、このとき、第1係合装置CL1は、解放状態が維持されている。本実施形態では、係合制御部15が、第1係合装置CL1及び第3係合装置CL3の係合の状態を維持しつつ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる。
【0121】
次に、制御装置10は、第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が目標回転速度Ntとしてのゼロに近付くように、第1ロータRT1の回転速度を制御する第2制御を実行する(ステップ#32)。本実施形態では、第1回転電機制御部13が、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行して、第1回転速度N1をゼロまで下降させる。
【0122】
続いて、制御装置10は、第1係合装置CL1を直結係合状態へ変化させる(ステップ#33)。その後、制御装置10は、第1回転速度N1が移行後目標回転速度Ntaに近付くように、第1ロータRT1の回転速度を制御する(ステップ#34)。本実施形態では、第1回転電機制御部13が、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行して、第1回転速度N1を移行後目標回転速度Ntaまで上昇させる。こうして、制御装置10は、直結係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neを上昇させる。そして、制御装置10は、内燃機関回転速度Neが移行後目標回転速度Ntaに到達したか否かを判断する(ステップ#35)。
【0123】
制御装置10は、内燃機関回転速度Neが移行後目標回転速度Ntaに到達した場合(ステップ#35:No)、内燃機関EGを始動させることで(ステップ#36)、動作モードをeTCモードとして、第1移行制御を終了する。なお、内燃機関回転速度Neが移行後目標回転速度Ntaに到達する前であっても、内燃機関回転速度Neがアイドル回転速度Nid以上となった以後であれば内燃機関EGを始動させても良い。ここでは、上記のステップ#33~#36が、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる「第3制御」に相当する。
【0124】
図19は、本実施形態の第1移行制御の一例を示すタイムチャートである。図19に示すように、まず、第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1のトルクを時間t31から次第に減少させ、時間t32にゼロとする。
【0125】
次に、係合制御部15は、時間t32から時間t33にかけて、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態とする。時間t33に第2係合装置CL2が解放状態となることに伴い、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が相対回転可能な状態となる。
【0126】
そして、第1回転電機制御部13は、入力部材Iを介して内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が、時間t33から上昇して時間t34にゼロとなるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。
【0127】
続いて、主制御部11は、時間t34において、係合制御部15に第1係合装置CL1を係合状態とする指令を行う。その結果、第1係合装置CL1が直結係合状態となる。そして、第1回転電機制御部13は、直結係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neが時間t35から上昇して時間t36に移行後目標回転速度Ntaとなるように、第1回転電機MG1を制御する。内燃機関制御部12は、時間t35から時間t36の間で内燃機関EGを始動させる。
【0128】
なお、本実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、内燃機関回転速度Neを上昇させる際、第3係合装置CL3が係合状態となっているため、第1回転電機MG1及び内燃機関EG等の駆動力の変動が第1出力部材O1に伝達されることに起因して、第1駆動ユニットDU1に駆動力の変動が生じる。そのため、本実施形態においても、制御装置10は、第1移行制御の実行中、伝達機構Tを介して第1出力部材O1に伝達される第1回転電機MG1及び内燃機関EGからの駆動力の変動を補うように、第2回転電機MG2に駆動力を出力させる駆動力補助制御を実行する。
【0129】
このように、本実施形態では、目標回転速度Ntは、ゼロであり、
第2モードに移行後に内燃機関EGが必要な駆動力を出力するための当該内燃機関EGの回転速度に基づいて定まる第1回転要素E1の回転速度を移行後目標回転速度Ntaとして、
制御装置10は、第3制御において、第1係合装置CL1を解放状態から直結係合状態に変化させた後、第1回転要素E1の回転速度が移行後目標回転速度Ntaに近付くように第1ロータRT1の回転速度を制御し、直結係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関EGの回転速度を上昇させて、内燃機関EGを始動させる。
【0130】
この構成によれば、内燃機関EGを始動させる際に、第1回転要素E1の回転速度が内燃機関EGの回転速度と同じゼロに近付くように制御した後に、第1係合装置CL1を直結係合状態とし、第1回転要素E1の回転速度を移行後目標回転速度Ntaに応じて上昇させることで、第1回転電機MG1の駆動力により内燃機関EGを始動させる。つまり、内燃機関EGを始動させる際に、第1係合装置CL1をスリップ係合状態とする必要がない。これにより、第1係合装置CL1の構造の簡素化及び低コスト化を図り易い。また、第1係合装置CL1において熱に変換されて消費されるエネルギの損失を少なく抑えることができるため、車両用駆動装置100のエネルギ効率を高めることができる。
【0131】
3.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、車両用駆動装置100が第1駆動ユニットDU1と第2駆動ユニットDU2とを備えた構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、車両用駆動装置100が第1駆動ユニットDU1を備え、第2駆動ユニットDU2を備えていない構成としても良い。この場合、図20に示すように、第1駆動ユニットDU1が第2回転電機MG2を備えていても良い。図20に示す例では、第2回転電機MG2の第2ロータRT2と一体的に回転する第2ロータギヤRG2が、第1出力部材O1としての第1差動入力ギヤ4の周方向における伝達出力ギヤ3とは異なる位置で、第1差動入力ギヤ4に噛み合っている。また、図示は省略するが、第2ロータギヤRG2が伝達出力ギヤ3に噛み合う構成であっても良い。これらの構成では、第2回転電機MG2が、分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達経路における第3係合装置CL3よりも第1出力部材O1の側で、第1出力部材O1に駆動連結されている。なお、車両用駆動装置100が第2回転電機MG2を備えていない構成としても良い。
【0132】
(2)上記の実施形態では、第1係合装置CL1が係合状態であって第2係合装置CL2が解放状態で実現される車両用駆動装置100の動作モード(第2モード)が、上述した電気式トルクコンバータモード(eTCモード)である構成を例として説明したが、そのような構成に限定されない。例えば、分配用差動歯車機構SPが、第1係合装置CL1が係合状態であって第2係合装置CL2が解放状態で、いわゆるスプリットハイブリッドモードを実現するように構成されていても良い。ここで、スプリットハイブリッドモードとは、内燃機関EGのトルクを第1回転電機MG1の側と第1出力部材O1の側(伝達機構Tの側)とに分配し、第1回転電機MG1のトルクを反力として、内燃機関EGのトルクに対して減衰したトルクを第1出力部材O1の側に伝達するモードである。この場合、分配用差動歯車機構SPの各回転要素の回転速度の順は、第2回転要素E2、第1回転要素E1、第3回転要素E3の順とすると良い。例えば、分配用差動歯車機構SPをシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成する場合、サンギヤを第3回転要素E3として第1ロータRT1に駆動連結し、キャリヤを第1回転要素E1として入力部材Iに駆動連結し、リングギヤを第2回転要素E2として分配用差動歯車機構SPの出力要素とすることができる。このモードでは、第1回転電機MG1は正回転しつつ負トルクを出力して発電し、分配用差動歯車機構SPは、当該第1回転電機MG1のトルクを反力として、内燃機関EGのトルクを第2回転要素E2から出力する。そして、当該第2回転要素E2の回転は、伝達機構Tを介して第1出力部材O1に伝達される。
【0133】
(3)上記の実施形態では、伝達機構Tが第1変速段(低速段)及び第2変速段(高速段)の2つの変速段のいずれかを形成可能な変速機である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、伝達機構Tが3つ以上の変速段のいずれかを形成可能な変速機であっても良い。或いは、伝達機構Tが分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2から伝達される回転を、一定の変速比で変速する固定変速比の変速機(減速機又は増速機)であっても良い。
【0134】
(4)上記の実施形態では、伝達機構Tが平行軸歯車式の変速機である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、伝達機構Tが遊星歯車式の変速機として構成されていても良い。
【0135】
(5)上記の実施形態では、第1移行制御の実行中、伝達機構Tを介して第1出力部材O1に伝達される第1回転電機MG1及び内燃機関EGからの駆動力の変動を補うように、第2回転電機MG2に駆動力を出力させる駆動力補助制御を実行する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、駆動力補助制御を実行しない構成としても良い。この場合、第2回転電機MG2の状態に応じて、第1移行制御と第2移行制御とを選択的に実行することなく、第1モードから第2モードに移行する場合には、常に第1移行制御を実行しても良い。
【0136】
(6)上記の実施形態では、第1係合装置CL1が摩擦係合装置であり、第2係合装置CL2が噛み合い式係合装置である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第2係合装置CL2が摩擦係合装置であっても良い。また、上記第2の実施形態では、第1移行制御にて第1係合装置CL1をスリップ係合状態にする必要がないため、第1係合装置CL1が噛み合い式係合装置であっても良い。
【0137】
(7)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本開示に係る技術は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、回転電機と、分配用差動歯車機構と、を備えた車両用駆動装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0139】
100:車両用駆動装置、10:制御装置、I:入力部材、O1:第1出力部材、MG1:第1回転電機、RT1:第1ロータ(ロータ)、SP:分配用差動歯車機構、E1:第1回転要素、E2:第2回転要素、E3:第3回転要素、T:伝達機構、CL1:第1係合装置、CL2:第2係合装置、CL3:第3係合装置、EG:内燃機関、W1:第1車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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