(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】金属製の容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20231011BHJP
B65D 1/14 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B65D1/02 210
B65D1/14
(21)【出願番号】P 2021146097
(22)【出願日】2021-09-08
(62)【分割の表示】P 2016089352の分割
【原出願日】2016-04-27
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】田村 政臣
(72)【発明者】
【氏名】中村 友彦
(72)【発明者】
【氏名】藍原 武志
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚也
【審査官】永田 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-188279(JP,A)
【文献】特開2001-213417(JP,A)
【文献】特開2013-227083(JP,A)
【文献】特開2004-154862(JP,A)
【文献】国際公開第2007/122971(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0253862(US,A1)
【文献】特開2003-252321(JP,A)
【文献】特開2017-197222(JP,A)
【文献】国際公開第98/34743(WO,A1)
【文献】米国特許第05669259(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
B65D 1/14
B21D 51/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と胴部と口部を有する
金属製の容器の、前記口部の開口端にカール部を形成する容器の製造方法であって、
前記カール部の最大外径部より下方の部位を潰し加工によって湾曲成形するステップを含み、
前記潰し加工は、スピニングダイで支持しながらリフォームツールを側方から押し当てることで口部をカール部形成した
金属製の容器の製造方法。
【請求項2】
前記潰し加工によって湾曲成形された成形面が容器軸に対して下方が内側に傾斜して成形されることを特徴とする請求項1に記載された
金属製の容器の製造方法。
【請求項3】
第1段階の加工として前記口部の開口端にスピニングダイによる湾曲フランジ成形を行い、その後の第2段階として前記潰し加工を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載された
金属製の容器の製造方法。
【請求項4】
前記リフォームツールは、容器軸に対し下方が内側に傾斜した湾曲成形面を有している請求項1~3のいずれか1項に記載された
金属製の容器の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4に記載のいずれか1項に記載の前記
金属製の容器は、缶体である、缶体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の容器の製造方法に関するものである。
なお、実施例では缶体及び缶体口部のカール部形成方法も開示する。
【背景技術】
【0002】
口部を有する缶体は、飲料水などの液体収容物の容器として一般に用いられており、キャップで密封される口部には、開口端をカール状に巻き加工したカール部が形成されている。特に、ボトル缶は、アルミニウム製やその合金製の金属板を絞り加工及びしごき加工によって有底筒状体に形成した後、この有底筒状体の開口部に、ネックイン加工を施すことで縮径した口部を形成し、その口部にねじ成形加工とカール成形加工を施している。
【0003】
このような缶体の口部に形成されるカール部は、口部に被着されるキャップのシール材との密封性などを考慮して、各種の加工形状が提案されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載された従来技術は、開口部の周縁を径方向外側に折り返して形成されるカール部が、ボトル缶の缶軸方向と略平行な方向に延在した外面側壁部と、外面側壁部の上端から径方向内方に向かう外面側凸曲部と、外面側凸曲部からさらに径方向内方に向かう内面側凸曲部を備え、外面側壁部を所定長さ以上にすると共に、潰し加工によって直線状に成形される外面側壁部と外面側凸曲部との接続部を、ボトル缶の上端(口部の上端)から離間させた形状にしたものが示されている。
【0005】
また、下記特許文献2に記載された従来技術は、外巻きのカール部を、カール潰し加工を施すことなく、その外側面が外方に突出する曲面となるようにし、カール部の縦断面形状が縦長の長円形となるように形成したものが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-217305号公報
【文献】特開2006-188279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献1に記載の従来技術は、湾曲状のフランジ加工(スピニング成形)と直線的な潰し加工の組み合わせによってカール部を形成している。この際、直線的な潰し加工によって形成される外面側壁部の下端は自由端になっており、ボトル缶の口部(口金部)の外周面との間に比較的大きな間隙が形成されている。このような従来技術によると、缶体に収容物を充填した後キャップによって口部を密封した状態で、落下衝撃が加わった場合に、外面側壁部の下端と口部外周面との間隙に応じてカール部が変形することになり、この変形でシールポイントにおいて所望の密封性が得られなくなる問題が生じることがある。
【0008】
これに対して、前述した特許文献2に記載の従来技術は、潰し加工を行うこと無く全体的に湾曲したカール部を形成しており、カール部の下端を口部の外周面に近接させている。しかしながら、横断面形状が縦長の長円形であるカール部は、その形状が落下衝撃に対して耐性のある形状になっていないので、缶体に収容物を充填した後キャップによって口部を密封した状態で、落下衝撃が加わった場合には、カール部の断面形状が潰れるように変形して、この変形により所望の密封性能が得られなく問題が生じることがある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消することを課題とするものであり、キャップ被着に対して所望の密封性能を得ることができるカール部の形状であって、しかも、落下衝撃に対するカール部の変形を抑止すること、が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明による容器の製造方法は、以下の構成を具備するものである。
底部と胴部と口部を有する金属製の容器の、前記口部の開口端にカール部を形成する容器の製造方法であって、前記カール部の最大外径部より下方の部位を潰し加工によって湾曲成形するステップを含み、前記潰し加工は、スピニングダイで支持しながらリフォームツールを側方から押し当てることで口部をカール部形成した金属製の容器の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
このような特徴を有する本発明の缶体は、カール部の断面形状が落下衝撃に対する耐性を有する形状になっている。これによって、口部に被着するキャップに対して所望の密封性能を得ることができるカール部の形状であって、しかも落下衝撃に対するカール部の変形を抑止することができる。
また、本発明のカール部形成方法により、缶体カール部の最大外径部より下方の部位を、落下衝撃に対する耐性を有する形状、あるいは、口部に被着するキャップに対して所望の密封性能を得ることができる形状に成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】缶体の構成例を示した説明図である(全体構成図)。
【
図2】本発明の実施形態に係る缶体のカール部を示した縦断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る缶体のカール部とキャップの密封性を示した縦断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る缶体の口部におけるカール部形成方法を示した説明図である((a)が加工前の状態、(b)スピニング成形の成形途中、(c)がスピニング成形の成形後、(d)が潰し加工の成形工程をそれぞれ示している。)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0014】
図1は、缶体
1の構成例を示している。缶体1は、例えば、底部1A、胴部1B、肩部1C、口部1Dを有する金属製の容器である。缶体1の一例はボトル缶である。
ボトル缶の形成方法は以下の通りである。例えば、アルミ合金などからなる金属板を円形状に打ち抜き、それを絞り加工して有底円筒状のカップ部材を得て、それを再絞り・しごき加工して、所定肉厚の円筒状の缶を一旦得る。その後、ネックイン加工によって、円筒状の缶の開口端から所定長さを縮径して肩部1Cおよび口部を形成する。そして口部に、ビード部及びネジ部をスピニング加工によって形成し、次いで、ネジ部の上方に、上向き内側に傾斜した側壁(後述の側壁2)をネックイン加工によって形成し、そして、前記側壁の上方の開口端には以下に説明するカール部10をスピニング加工により形成することで口部1Dを有するボトル形状の缶体1を得る。
【0015】
カール部10は、口部1Dの開口端を外側に湾曲させてカール状に加工した部位である。カール部10は、口部1Dの周囲に略同一断面で環状に形成されている。
【0016】
本発明の実施形態に係る缶体1の口部1Dに設けたカール部10は、
図2に示すような断面形状を有している(図において、P1は缶軸に平行な仮想線である)。すなわち、カール部10は、口部1Dの上端を含む上端湾曲部11と、下端12Aが口部1Dの側壁2に近接又は当接して上方が缶軸(仮想線P1)に対して外側に傾斜した外壁湾曲部12とを有しており、その断面形状が、口部1Dの側壁2と上端湾曲部11と外壁湾曲部12を三辺とする略逆三角形状になっている。
【0017】
このようなカール部10の断面形状は、構造的に落下衝撃に対する耐性を有する形状になっている。具体的な構造を示すと、上端湾曲部11の内側には内側連結湾曲部13が設けられ、上端湾曲部11に外側には外側連結湾曲部14が設けられており、内側連結湾曲部13の曲率半径R2と外側連結湾曲部14の曲率半径R3は、いずれも上端湾曲部11の曲率半径R1より小さく形成されて、略逆三角形状の角部を形成している。
【0018】
また、更に具体的には、カール部10は、外壁湾曲部12の下端12Aより上側の口部1Dの側壁2が、缶軸(仮想線P1)に対して上方が内側に傾斜している。このように口部1Dの側壁2を傾斜させることで、この傾斜で図示F方向の偏荷重を受けることができるので、このような断面形状のカール部10は、偏荷重に対しても高い耐性を有している。
【0019】
また、更に具体的には、カール部10は、上端湾曲部11と外壁湾曲部12の曲率半径が略同等に形成されることが好ましい。これによると、カール部10の断面形状による略逆三角形状が略正三角形になり、各種方向から受ける衝撃荷重に対して等しい耐性を有することになる。この際には、外側連結湾曲部14がカール部10における最大外径部14Aになる。
【0020】
図3は、缶体1の口部1Dにキャップ3を被着した場合におけるカール部10の密封構造の一例を示している。前述した断面形状を有するカール部10は、キャップ3を口部1Dに被着した場合に、外側連結湾曲部14がキャップ3のシール材(ライナー材)3Aに食い込むことでシールポイントを形成することができ、良好な密封性を得ることができる。この際、外側連結湾曲部14の曲率半径R3を上端湾曲部11の曲率半径R1より小さくして、適正な範囲で設定することにより、シール材3Aの破損を防ぎながら所望の食い込みが得られるカール部10の形状にすることができる。
【0021】
また、缶体1が陽圧状態の場合には、キャップ3に口部1Dの上端から離れようとする力が常に作用することになるが、カール部10の断面形状によると、シールポイントとなる外側連結湾曲部14から下方に延びる外壁湾曲部12が、内側に向けて傾斜しているので、シール材3Aに食い込んだ外側連結湾曲部14から下側の部分が陽圧によるキャップ3の浮き上がりを止める係止作用を有することになり、缶体が陽圧状態の場合にも効果的な密封効果を得ることができる。
【0022】
図4は、カール部10の形成方法の一例を示している。(a)は、加工前の開口端1D1を示している。この開口端1D1に対して、第1段階の加工として、(b),(c)に示すようなスピニング成形を行う。具体的には、(b)に示すように、上方から第1のスピニングダイ20を押圧させることで、開口端1D1に湾曲状のフランジ成形(スピニング成形)を行う。この際、第1のスピニングダイ20の湾曲型20Aによって、カール部10における上端湾曲部11の湾曲形状(曲率半径R1)が成形される。次に、(c)に示すように、第2のスピニングダイ21を押圧させることで、上端湾曲部11の内側に形成される内側連結湾曲部13を成形する。この際、第2のスピニングダイ21の湾曲型21Aによって、内側連結湾曲部13の湾曲形状(曲率半径R2)が成形される。
【0023】
その後、第2段階の加工として、(d)に示すように、リフォームツール22を側方から押し当てて、潰し加工する。この潰し加工で、カール部10の最大外径部より下方の部位である外壁湾曲部12を湾曲成形する。この際、リフォームツール22は、回転中心軸に対して上方が外側に傾斜して湾曲した型面22Aを有しているので、これによって成形される外壁湾曲部12は、その一部が潰し加工により、リフォームツール22の回転中心軸、および、缶軸(仮想線P1)に対し下方が内側に傾斜した湾曲成形面を有している。
【0024】
このように、スピニング成形と潰し加工の組み合わせでカール部10を成形すること自体は、従来技術で示すように既に知られているが、本発明の形成方法では、潰し加工にて用いられるリフォームツール22の型面22Aが回転中心軸に対して上方が外側に傾斜した湾曲面であることが1つの特徴になっている。このようなリフォームツール22を用いることで、カール部10の断面形状を、落下衝撃に対して耐性を有する効果的な略逆三角形状にすることができる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1:缶体,1A:底部,1B:胴部,1C:肩部,1D:口部,
2:側壁,3:キャップ,3A:シール材,
10:カール部,11:上端湾曲部,12:外壁湾曲部,12A:下端,
13:内側連結湾曲部,14:外側連結湾曲部