(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】固体電解質、全固体電池および固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20231011BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231011BHJP
H01M 6/18 20060101ALI20231011BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231011BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20231011BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
H01M6/18 Z
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2021152939
(22)【出願日】2021-09-21
(62)【分割の表示】P 2018092957の分割
【原出願日】2018-05-14
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 正博
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-201110(JP,A)
【文献】特開2014-038755(JP,A)
【文献】特開2016-216349(JP,A)
【文献】特開2011-054327(JP,A)
【文献】国際公開第2011/007412(WO,A1)
【文献】特開2015-011898(JP,A)
【文献】特開2015-050042(JP,A)
【文献】特開2017-14037(JP,A)
【文献】特開2015-11898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01B 13/00
H01B 1/06
H01M 6/18
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質固体電解質および分散媒を含有するスラリーを塗工し、固体電解質膜を形成する塗工工程と、
前記固体電解質膜に対して、昇温速度が46.1℃/秒以上である熱処理を行うことで、前記非晶質固体電解質を結晶化させる熱処理工程と、
を有する、固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理における前記昇温速度が150℃/秒以下である、請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記非晶質固体電解質が、Li元素、P元素、S元素、Br元素およびI元素を含有し、
前記固体電解質が、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Aを備える、請求項1
または請求項2に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記結晶相Aの結晶子径が、16.0nm以上である、
請求項3に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記結晶相Aの結晶子径が、22.4nm以下である、
請求項3または
請求項4に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程において、温度が220℃以上である熱媒体を用いて前記熱処理を行う、請求項1から
請求項5までのいずれかの請求項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記固体電解質膜の厚さが、600μm以下である、請求項1から
請求項6までのいずれかの請求項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理工程後に、前記固体電解質膜を、冷媒体を用いて冷却する冷却工程を有する、請求項1から
請求項7までのいずれかの請求項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程後に、前記固体電解質膜を粉砕する粉砕工程を有する、請求項1から
請求項8までのいずれかの請求項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記固体電解質が、Li元素、P元素、S元素、Br元素およびI元素を含有し、
CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Aを備え、
波長0.4955Åのシンクロトロン放射光を用いたX線回折において、前記結晶相Aのピークに該当する2θ=6.42°±0.30°のピークの強度をI
6.42とし、内部標準試料であるZnOのピークに該当する2θ=11.48°±0.30°のピークの強度をI
11.48とした場合に、前記I
11.48に対する前記I
6.42の割合(I
6.42/I
11.48)が、0.1009以上である、請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項11】
前記I
6.42/I
11.48が、0.1762以下である、
請求項10に記載の固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン伝導性が良好な固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。固体電解質層に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質等の無機固体電解質が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°、23.6°にピークを有する硫化物固体電解質材料の製造方法であって、Li2S、P2S5、LiI、およびLiBrを少なくとも含有する原料組成物を用いた硫化物固体電解質材料の製造方法が開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、Li元素、P元素およびS元素を含有する原料組成物を非晶質化し、その後、所定の条件で熱処理する硫化物固体電解質材料の製造方法が開示されている。特許文献3には、酸素含有有機化合物の雰囲気濃度が100ppm以下である環境において、硫化物固体電解質を熱処理する結晶化工程を有する硫化物固体電解質の製造方法が開示されている。特許文献4には、ハロゲンを含む硫化物固体電解質の粗粒原料を合成し、微粒化し、結晶化する硫化物固体電解質の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、電極活物質と、その表面に融着し、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質材料と、を含有する電極活物質層の製造方法が開示されている。特許文献6には、負極電極体作製工程、正極電極体作製工程、積層工程および接合工程を有する全固体電池の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-011898号公報
【文献】特開2014-127389号公報
【文献】特開2015-050042号公報
【文献】特開2014-102987号公報
【文献】特開2011-060649号公報
【文献】特開2015-008073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
全固体電池の電池性能は、固体電解質のイオン伝導度に大きく影響される。そのため、イオン伝導性が良好な固体電解質が望まれている。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性が良好な固体電解質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示においては、Li元素、P元素、S元素、Br元素およびI元素を含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Aを備え、上記結晶相Aの結晶子径が、16.0nm以上である、固体電解質を提供する。
【0009】
本開示によれば、高イオン伝導相である結晶相Aの結晶子径が大きいため、イオン伝導性が良好な固体電解質とすることができる。
【0010】
上記開示においては、上記結晶子径が、22.4nm以下であってもよい。
【0011】
また、本開示においては、Li元素、P元素、S元素、Br元素およびI元素を含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Aを備え、波長0.4955Åのシンクロトロン放射光を用いたX線回折において、上記結晶相Aのピークに該当する2θ=6.42°±0.30°のピークの強度をI6.42とし、内部標準試料であるZnOのピークに該当する2θ=11.48°±0.30°のピークの強度をI11.48とした場合に、上記I11.48に対する上記I6.42の割合(I6.42/I11.48)が、0.1009以上である、固体電解質を提供する。
【0012】
本開示によれば、高イオン伝導相である結晶相Aの割合が多いため、イオン伝導性が良好な固体電解質とすることができる。
【0013】
上記開示においては、上記I6.42/I11.48が、0.1762以下であってもよい。
【0014】
また、本開示においては、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを含有する全固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した固体電解質を含有する、全固体電池を提供する。
【0015】
本開示によれば、上述した固体電解質を用いることにより、出力特性が良好な全固体電池とすることができる。
【0016】
また、本開示においては、非晶質固体電解質および分散媒を含有するスラリーを塗工し、固体電解質膜を形成する塗工工程と、上記固体電解質膜に対して、昇温速度が46.1℃/秒以上である熱処理を行うことで、上記非晶質固体電解質を結晶化させる熱処理工程と、を有する、固体電解質の製造方法を提供する。
【0017】
本開示によれば、高い昇温速度で非晶質固体電解質を結晶化することで、イオン伝導性が良好な固体電解質を得ることができる。
【0018】
上記開示においては、上記非晶質固体電解質が、Li元素、P元素、S元素、Br元素およびI元素を含有し、上記固体電解質が、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Aを備えていてもよい。
【0019】
上記開示では、上記熱処理工程において、温度が220℃以上である熱媒体を用いて上記熱処理を行ってもよい。
【0020】
上記開示では、上記固体電解質膜の厚さが、600μm以下であってもよい。
【0021】
上記開示においては、上記熱処理工程後に、上記固体電解質膜を、冷媒体を用いて冷却する冷却工程を有していてもよい。
【0022】
上記開示においては、上記熱処理工程後に、上記固体電解質膜を粉砕する粉砕工程を有していてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本開示における固体電解質は、イオン伝導性が良好であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本開示における固体電解質の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本開示における熱処理工程を説明する概略断面図である。
【
図4】実施例7および比較例4で得られた固体電解質に対する、シンクロトロン放射光を用いたX線回折測定の結果である。
【
図5】実施例1、3、6、9、12で得られた固体電解質に対するLiイオン伝導度測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示における固体電解質、全固体電池および固体電解質の製造方法について、詳細に説明する。
【0026】
A.固体電解質
本開示における固体電解質は、Li元素、P元素、S元素、Br元素およびI元素を含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Aを備えることが好ましい。
【0027】
さらに、本開示における固体電解質は、結晶相Aの結晶子径が、所定の値以上であることが好ましい。この場合、高イオン伝導相である結晶相Aの結晶子径が大きいため、イオン伝導性が良好な固体電解質とすることができる。
【0028】
また、本開示における固体電解質は、波長0.4955Åのシンクロトロン放射光を用いたX線回折において、結晶相Aのピークに該当する2θ=6.42°±0.30°のピークの強度をI6.42とし、内部標準試料であるZnOのピークに該当する2θ=11.48°±0.30°のピークの強度をI11.48とした場合に、I11.48に対するI6.42の割合(I6.42/I11.48)が、所定の値以上であることが好ましい。この場合、高イオン伝導相である結晶相Aの割合が多いため、イオン伝導性が良好な固体電解質とすることができる。
【0029】
ここで、特許文献1では、Li2S-P2S5-LiI-LiBr系の硫化物ガラスに対して、195℃以上、205℃以下の温度で3時間熱処理することが開示されている。
このような熱処理条件を採用することにより、結晶相Aを析出することはできるが、熱処理時間が長い傾向にある。一方、熱処理時間を短縮するために、熱処理温度を高くすると、結晶相Aではなく、後述する結晶相Bが析出されやすくなり、イオン伝導性が高い固体電解質を得ることが難しい。なお、熱処理温度を低く(例えば180℃以下に)すると、結晶相Aの結晶相成長が十分に進行しない。
【0030】
これに対して、本開示においては、後述するように、膜状の固体電解質に対して、従来よりも高い昇温速度で熱処理を行うことで、固体電解質に均一に熱を加えることができる。そのため、結晶相Bの析出を抑制しつつ、結晶相Aの結晶相成長を進行させることができる。その結果、結晶相Aの結晶子径を大きくすることができる。同様に、結晶相Aの割合を多くすることができる(結晶化度を向上させることができる)。そのため、本開示における固体電解質は、イオン伝導性が良好であるという利点を有する。
【0031】
本開示における固体電解質は、Li元素、P元素、S元素、Br元素およびI元素を含有することが好ましい。固体電解質に含まれる全元素における、Li元素、P元素、S元素、Br元素およびI元素の合計の割合は、例えば70mol%以上であり、80mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。
【0032】
本開示における固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°、23.6°の位置にピークを有する結晶相Aを備える。結晶相Aは、高イオン伝導相に該当する。結晶相Aは、上記ピークの他に、通常、2θ=29.4°、37.8°、41.1°、47.0°の位置にピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.5°で前後していてもよく、±0.3°で前後していてもよく、±0.1°で前後していてもよい。また、固体電解質は、結晶相Aのピークのみを有すること、すなわち、結晶相Aを単相として有することが好ましい。イオン伝導性が高い固体電解質とすることができるからである。
【0033】
また、本開示における固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=21.0°、28.0°の位置にピークを有する結晶相Bを備えないことが好ましい。
結晶相Bは、結晶相Aよりもイオン伝導性が低い低イオン伝導相に該当する。結晶相Bは、上記ピークの他に、通常、2θ=32.0°、33.4°、38.7°、42.8°、44.2°の位置にピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.5°で前後していてもよく、±0.3°で前後していてもよく、±0.1°で前後していてもよい。
【0034】
ここで、2θ=20.2°±0.5°のピーク(結晶相Aのピーク)の強度をI20.2とし、2θ=21.0°±0.5°のピーク(結晶相Bのピーク)の強度をI21.0とした場合、I20.2に対するI21.0の割合(I21.0/I20.2)は、例えば、0.4以下であり、0.2以下であってもよく、0.1以下であってもよい。
【0035】
また、結晶相Aの結晶子径は大きいことが好ましい。結晶相Aの結晶子径は、例えば、16.0nm以上であり、16.3nm以上であってもよく、17.0nm以上であってもよい。一方、結晶相Aの結晶子径は、例えば、30.0nm以下であり、22.4nm以下であってもよい。結晶相Aの結晶子径は、後述する実施例に記載するように、Scherrerの式から算出することができる。
【0036】
また、結晶相Aは、波長0.4955Åのシンクロトロン放射光を用いたX線回折において、通常、2θ=6.42°、7.54°、9.14°、9.35°の位置にピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°で前後していてもよく、±0.30°で前後していてもよく、±0.10°で前後していてもよい。一方、結晶相Bは、波長0.4955Åのシンクロトロン放射光を用いたX線回折において、通常、2θ=5.50°、8.61°、10.35°、14.09°の位置にピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°で前後していてもよく、±0.30°で前後していてもよく、±0.10°で前後していてもよい。
【0037】
ここで、2θ=6.42°±0.50°のピーク(結晶相Aのピーク)の強度をI6.42とし、2θ=5.50°±0.50°のピーク(結晶相Bのピーク)の強度をI5.50とした場合、I6.42に対するI5.50の割合(I5.50/I6.42)は、例えば、0.1以下であり、0.05以下であってもよく、0.01以下であってもよい。
【0038】
また、内部標準試料としてZnOを用いた場合、ZnOのピークとして、2θ=11.48°±0.30°のピークが得られる。このピークの強度をI11.48とする。I11.48に対するI6.42の割合(I6.42/I11.48)は、例えば、0.1009以上であり、0.1100以上であることが好ましい。一方、I6.42/I11.48は、例えば、0.2000以下であり、0.1762以下であってもよい。
【0039】
本開示における固体電解質は、Li元素、P元素およびS元素を有するイオン伝導体と、LiIと、LiBrと、を有することが好ましい。LiIおよびLiBrの少なくとも一部は、それぞれ、LiI成分およびLiBr成分としてイオン伝導体の構造中に取り込まれた状態で存在することが好ましい。上記イオン伝導体は、アニオン構造としてPS4
3-構造を有することが好ましい。また、イオン伝導体に含まれる全アニオン構造に対するPS4
3-構造の割合は、例えば、50重量%以上であり、70重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。PS4
3-構造の割合は、ラマン分光法、NMR、XPS等により決定することができる。
【0040】
本開示における固体電解質は、例えば、aLiI-bLiBr-cLi3PS4(a+b+c=100)で表される組成を有することが好ましい。aは、例えば1以上であり、5以上であってもよく、10以上であってもよい。一方、aは、例えば30以下であり、20以下であってもよい。また、bは、例えば1以上であり、5以上であってもよく、10以上であってもよい。一方、bは、例えば30以下であり、20以下であってもよい。
また、cは、例えば40以上であり、50以上であってもよい。一方、cは、例えば90以下であり、70以下であってもよい。
【0041】
本開示における固体電解質は、硫化物固体電解質であることが好ましい。また、本開示における固体電解質は、ガラスセラミックスであることが好ましい。ガラスセラミックスとは、ガラスを結晶化した材料をいう。ガラスセラミックスであるか否かは、例えばX線回折法により確認することができる。また、ガラスとは、原料組成物を非晶質化して合成した材料をいい、X線回折測定等において結晶としての周期性が観測されない厳密な「ガラス」のみならず、後述するメカニカルミリング等により非晶質化して合成した材料全般を意味する。そのため、X線回折測定等において、例えば原料(LiI、LiBr等)に由来するピークが観察される場合であっても、非晶質化して合成した材料であれば、ガラスに該当する。
【0042】
本開示における固体電解質の形状としては、例えば、膜状、粒子状が挙げられる。粒子状の固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上、50μm以下である。また、固体電解質は、イオン伝導性が高いことが好ましい。25℃におけるLiイオン伝導度は、例えば1.0×10-3S/cm以上であり、3.0×10-3S/cm以上であってもよく、3.3×10-3S/cm以上であってもよい。
【0043】
B.全固体電池
図1は、本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。
図1に示される全固体電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された固体電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。本開示においては、正極活物質層1、負極活物質層2および固体電解質層3の少なくとも一つが、上述した固体電解質を含有することを一つの特徴とする。
【0044】
本開示によれば、上述した固体電解質を用いることにより、出力特性が良好な全固体電池とすることができる。
【0045】
1.正極活物質層
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質、導電化材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。特に、本開示においては、正極活物質層が、上述した固体電解質を含有することが好ましい。正極活物質層に含まれる固体電解質の割合は、例えば0.1体積%以上であり、1体積%以上であってもよく、10体積%以上であってもよい。一方、正極活物質層に含まれる固体電解質の割合は、例えば80体積%以下であり、60体積%以下であってもよく、50体積%以下であってもよい。
【0046】
正極活物質としては、例えばLiCoO2、LiMnO2、Li2NiMn3O8、LiVO2、LiCrO2、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等の酸化物活物質が挙げられる。また、正極活物質として、硫黄(S)を用いてもよい。また、正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていてもよい。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO3、Li4Ti5O12、Li3PO4が挙げられる。
【0047】
正極活物質層は、導電化材を含有していてもよい。導電化材の添加により、正極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質層は、バインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系バインダーが挙げられる。また、正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0048】
2.負極活物質層
負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質、導電化材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。特に、本開示においては、負極活物質層が、上述した固体電解質を含有することが好ましい。負極活物質層に含まれる固体電解質の割合は、例えば0.1体積%以上であり、1体積%以上であってもよく、10体積%以上であってもよい。一方、負極活物質層に含まれる固体電解質の割合は、例えば80体積%以下であり、60体積%以下であってもよく、50体積%以下であってもよい。
【0049】
負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えばLi、In、Al、SiおよびSnが挙げられる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。なお、負極活物質層に用いられる導電化材およびバインダーについては、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0050】
3.固体電解質層
固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。また、固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有する層であり、必要に応じて、バインダーを含有していてもよい。特に、本開示においては、固体電解質層が、上述した固体電解質を含有することが好ましい。固体電解質層に含まれる固体電解質の割合は、例えば50体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよい。なお、固体電解質層に用いられるバインダーについては、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0051】
4.その他の構成
本開示における全固体電池は、上述した正極活物質層、固体電解質層および負極活物質層を少なくとも有する。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。
【0052】
5.全固体電池
本開示における全固体電池は、全固体リチウムイオン電池であることが好ましい。また、全固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、後者が好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。
【0053】
C.固体電解質の製造方法
図2は、本開示における固体電解質の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図2においては、基板21上に、非晶質固体電解質および分散媒を含有するスラリーを塗工し、固体電解質膜22を形成する(
図2(a)、塗工工程)。次に、固体電解質膜22に対して、昇温速度が所定の値以上である熱処理を行うことで、非晶質固体電解質(図示せず)を結晶化させる(
図2(b)、熱処理工程)。これにより、固体電解質30が得られる(
図2(c))。固体電解質30は、
図2(c)に示すように、膜状(層状)であってもよい。この場合、膜状(層状)の固体電解質を、例えば全固体電池の固体電解質層として用いることができる。一方、固体電解質30は、粉末状であってもよい。粉末状の固体電解質は、例えば、固体電解質膜22を粉砕することで得られる。
【0054】
本開示によれば、高い昇温速度で非晶質固体電解質を結晶化することで、イオン伝導性が良好な固体電解質を得ることができる。
【0055】
1.塗工工程
本開示における塗工工程は、非晶質固体電解質および分散媒を含有するスラリーを塗工し、固体電解質膜を形成する工程である。スラリーの塗工後に、固体電解質膜を乾燥することが好ましい。一方、スラリーの塗工後に、乾燥せずに、後述する熱処理工程を行ってもよい。
【0056】
スラリーは、非晶質固体電解質および分散媒を含有する。「非晶質固体電解質」とは、加熱により、結晶性が多少でも向上する固体電解質をいう。すなわち、非晶質固体電解質は、非晶質相を少なくとも有する材料であればよい。言い換えると、非晶質固体電解質は、非晶質相のみを有する材料であってもよく、非晶質相に加えて、結晶相をさらに有する材料であってもよい。また、非晶質固体電解質は、XRD測定においてハローパターンが観察されてもよく、観察されてなくてもよい。前者は、後者に比べて、非晶質性が高いといえる。また、非晶質固体電解質は、原料(例えばGeS2)に由来する結晶相を有していてもよい。
【0057】
非晶質固体電解質としては、例えば、非晶質硫化物固体電解質、非晶質酸化物固体電解質、非晶質窒化物固体電解質、非晶質ハロゲン化物固体電解質が挙げられる。非晶質硫化物固体電解質は、Li元素と、M元素(Mは、P、Ge、Si、Sn、BおよびAlの少なくとも一種であることが好ましい)と、S元素とを含有することが好ましい。非晶質硫化物固体電解質は、ハロゲン元素をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。また、非晶質硫化物固体電解質は、O元素をさらに含有していてもよい。
【0058】
非晶質硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-GeS2、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)が挙げられる。
【0059】
非晶質硫化物固体電解質は、例えば、非晶質硫化物固体電解質の構成元素を含有する原料組成物を非晶質化することにより得られる。原料組成物は、例えば、Li2S、P2S5、LiIおよびLiBrを含有することが好ましい。原料組成物を非晶質化する方法としては、例えば、メカニカルミリングおよび溶融急冷法が挙げられる。メカニカルミリングとしては、例えばボールミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミルが挙げられる。
【0060】
一方、非晶質酸化物固体電解質は、Li元素と、M元素(Mは、P、Ge、Si、Sn、BおよびAlの少なくとも一種であることが好ましい)と、O元素とを含有することが好ましい。非晶質硫化物固体電解質は、ハロゲン元素をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。非晶質酸化物固体電解質は、窒素元素をさらに含有していてもよい。
【0061】
非晶質酸化物固体電解質としては、例えば、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3、Li2O-B2O3-ZnOが挙げられる。また、非晶質酸化物固体電解質として、例えば、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO4)3、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li4SiO4、Li3PO4、Li3PO4-3/2xNx(x≦1)を用いることができる。非晶質窒化物固体電解質としては、例えば、Li3N、Li3N-LiI-LiOHが挙げられる。ハロゲン化物固体電解質としては、例えば、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiI-Al2O3が挙げられる。
【0062】
スラリーに用いられる分散媒は、特に限定されず、非晶質固体電解質の種類に応じて、適宜選択される。スラリーの調製方法としては、例えば、非晶質固体電解質および分散媒を混練する方法が挙げられる。混練方法としては、例えば、超音波ホモジナイザー、振盪器、薄膜旋廻型ミキサー、ディゾルバー、ホモミキサー、ニーダー、ロールミル、サンドミル、アトライター、ボールミル、バイブレーターミル、高速インペラーミルが挙げられる。スラリーの塗工方法としては、例えば、ドクターブレード法、ダイコート法、グラビアコート法、スプレー塗工法、静電塗工法、バー塗工法が挙げられる。
【0063】
固体電解質膜の厚さは、特に限定されないが、例えば600μm以下であり、300μm以下であってもよく、100μm以下であってもよく、30μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。一方、固体電解質膜の厚さは、例えば0.5μm以上である。固体電解質膜は、固体電解質のみを含有していてもよく、さらに他の固形成分を含有していてもよい。
【0064】
2.熱処理工程
本開示における熱処理は、上記固体電解質膜に対して、昇温速度が所定の値以上である熱処理を行うことで、上記非晶質固体電解質を結晶化させる工程である。
【0065】
本開示における昇温速度は、固体電解質の結晶化開始温度近傍における昇温速度を意味する。具体的に、昇温速度は、以下のように定義される。まず、固体電解質の結晶化開始温度を、熱分析(DTAまたはDSC)により測定する。結晶化開始温度は、結晶化に伴うピークの低温側において、Heat Flow曲線の傾きが正になる温度T1(℃)をいう。次に、加熱プロファイルにおいて、T1(℃)から(T1+50)(℃)までの温度増加分を、T1(℃)から(T1+50)(℃)までの時間で除することにより、昇温速度を求めることができる。なお、加熱プロファイルは、例えば、固体電解質膜の表面温度を熱電対で測定することにより、求めることができる。
【0066】
上記昇温速度は、例えば46.1℃/秒以上であり、67.0℃/秒以上であってもよい。一方、上記昇温速度は、例えば150℃/秒以下であり、124.6℃/秒以下であってもよい。
【0067】
本開示においては、上記固体電解質膜に対して、220℃以上の温度を加えることが好ましい。上記温度は、240℃以上であってもよく、260℃以上であってもよく、280℃以上であってもよい。一方、上記温度は、例えば400℃以下である。また、熱処理時間は、特に限定されないが、例えば2.5秒間以上であり、5秒間以上であってもよく、7.5秒間以上であってもよい。一方、熱処理時間は、例えば、60秒間以下であり、45秒間以下であってもよく、30秒間以下であってもよく、20秒間以下であってもよい。
【0068】
本開示においては、加熱された熱媒体を用いて熱処理を行うことが好ましい。熱媒体としては、例えば、SUSブロック等の金属ブロックが挙げられる。例えば
図3に示すように、固体電解質膜22に、加熱された熱媒体30を接触させることにより、固体電解質膜22に熱処理を行うことができる。
図3では、固体電解質膜22の両面から熱処理を行っているが、固体電解質膜22の一方の面からのみ熱処理を行ってもよい。また、
図3では、固体電解質膜22に熱媒体30を直接接触させているが、間接的に接触させてもよい。
また、固体電解質膜22の近傍に熱媒体30に配置することでも、固体電解質膜22に熱処理を行うことができる。
【0069】
また、例えば、ホットロールプレス、ホット平板プレス等のホットプレスによって、固体電解質膜に熱処理を行ってもよい。この場合、ホットロールプレスにおけるロール、ホット平板プレスにおける平板が、熱媒体に該当する。また、熱処理の雰囲気は、特に限定されないが、減圧雰囲気またはガスフロー雰囲気が好ましい。固体電解質から生じるガスを除去しやすいからである。
【0070】
3.冷却工程
本開示においては、上記熱処理工程後に、上記固体電解質膜を、冷媒体を用いて冷却する冷却工程を行ってもよい。冷却工程を行うことで、例えば、上述した結晶相Bの析出を抑制できる。冷媒体の温度は、固体電解質膜の温度よりも低ければ特に限定されず、室温であってもよく、0℃以下であってもよい。
【0071】
冷媒体としては、例えば、SUSブロック等の金属ブロックが挙げられる。また、例えば、ロールプレス、平板プレス等のプレスによって、固体電解質膜を冷却してもよい。この場合、ロールプレスにおけるロール、平板プレスにおける平板が、冷媒体に該当する。
【0072】
4.粉砕工程
本開示においては、上記熱処理工程後に、上記固体電解質膜を粉砕する粉砕工程を行ってもよい。なお、上述した冷却工程を行う場合には、冷却工程後に粉砕工程を行うことが好ましい。粉砕工程により、粉末状の固体電解質が得られる。固体電解質膜を粉砕する方法は、特に限定されず、一般的な粉砕方法を採用することができる。
【0073】
5.固体電解質
上述した各工程により得られる固体電解質は、硫化物固体電解質であることが好ましい。また、本開示における固体電解質は、ガラスセラミックスであることが好ましい。本開示における固体電解質の形状としては、例えば、膜状、粒子状が挙げられる。粒子状の固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上、50μm以下である。また、固体電解質は、イオン伝導性が高いことが好ましく、25℃におけるLiイオン伝導度は、例えば1.0×10-4S/cm以上であり、1.0×10-3S/cm以上であってもよい。また、本開示における固体電解質の製造方法においては、上記「A.固体電解質」に記載した固体固体電解質を得ることが好ましい。
【0074】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0075】
[実施例1]
(微粒化工程)
硫化物ガラス(10LiI-15LiBr-37.5Li3PS4)75gと、脱水ヘプタン(キシダ化学株式会社製)120gと、脱水n-ブチルエーテル(キシダ化学株式会社製)80gと、破砕メディア(粒径φ0.3mm)400gとを、遊星型ボールミル機の容器(500ml、ZrO2)に投入し、容器を完全に密閉した。密閉した容器を遊星型ボールミル機(フリッチュ製P5)に取り付け、台盤回転数150rpmで22時間のメカニカルミリング処理を行った。その後、破砕メディアを分離して得たスラリーを、120℃に設定したホットプレートで3時間乾燥し、微粒化した硫化物ガラスを得た。
【0076】
(熱処理工程)
得られた硫化物ガラス0.5gと、ヘプタンとを含有するスラリーを、Al箔上に塗工乾燥し、固体電解質膜(厚さ6μm)を形成した。次に、大気圧、Ar雰囲気、露点-76℃の条件で、固体電解質膜に220℃に加熱したSUSブロックを5秒間接触させ、固体電解質膜に含まれる固体電解質を結晶化させた。その後、固体電解質膜に室温のSUSブロックを接触させ、固体電解質膜を冷却した。得られた固体電解質膜を、Al箔から掻きとり、固体電解質粉末を得た。
【0077】
[実施例2~14]
SUSブロックの加熱温度、および、熱処理時間を、表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1と同様にして固体電解質粉末を得た。
【0078】
[比較例1]
実施例1と同様にして、微粒化した硫化物ガラスを得た。得られた硫化物ガラス0.5gを、大気圧、Ar雰囲気、露点-76℃の条件で、180℃のホットプレート上に配置し、1分間加熱し、固体電解質膜に含まれる固体電解質を結晶化させた。次に、得られた固体電解質膜を掻きとり、固体電解質粉末を得た。
【0079】
[比較例2~8]
ホットプレートの加熱温度、および、熱処理時間を、表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1と同様にして固体電解質粉末を得た。
【0080】
[評価]
(昇温速度測定)
実施例1~14および比較例1~8における加熱プロファイルを、熱電対を用いて測定した。また、実施例1~14および比較例1~8で用いた硫化物ガラスに対して、DTA分析を行ったところ、硫化物ガラスの結晶化開始温度は、約150℃であった。そこで、加熱プロファイルにおける150℃~200℃の範囲における温度増加分および時間から、昇温速度を求めた。その結果を表1および表2に示す。
【0081】
(Liイオン伝導度測定)
実施例1~14および比較例1~8で得られた固体電解質を用いて、Liイオン伝導度を測定した。まず、露点-80℃のグローブボックス内で、硫化物固体電解質を200mg秤量し、マコール製のシリンダに入れ、4ton/cm2の圧力でプレスした。得られたペレットの両端をSUS製ピンで挟み、ボルト締めによりペレットに拘束圧を印加し、評価用セルを得た。得られた評価用セルに対して、交流インピーダンス法により、25℃におけるLiイオン伝導度を算出した。測定には、ソーラトロン1260を用い、印加電圧5mV、測定周波数域0.01MHz~1MHzとした。その結果を表1および表2に示す。
【0082】
(XRD測定)
実施例1~14および比較例1~8で得られた固体電解質に対して、CuKα線を用いたX線回折測定を行った。その結果、実施例1~14で得られた固体電解質は、いずれも、高イオン伝導相である結晶相Aを単相または主相で有することが確認された。一方、比較例1~8では、200℃~220℃で熱処理を行った場合には、結晶相Aを単相または主相で有する固体電解質が得られたが、200℃未満で熱処理を行った場合には、結晶相Aの成長が不十分であり、220℃以上で熱処理を行った場合には、低イオン伝導相である結晶相Bが生成した。
【0083】
また、実施例2、3、7~9、12および比較例4で得られた固体電解質に対して、シンクロトロン放射光を用いたX線回折測定を行った。測定サンプルとして、固体電解質と内部標準粉末(ZnO)とを、70:30の重量比で含有する混合物を準備した。また、測定条件は、以下の通りである。
エネルギー:25keV
波長:0.4955Å(標準試料による校正後)
検出器:イメージングプレート
露光時間:5分間
温度条件:室温
散乱角:2°~77°
【0084】
代表的な結果を
図4に示す。
図4に示すように、実施例7および比較例4に、2θ=6.42°、7.54°、9.14°、9.35°の位置にピークを有することが確認された。これらのピークは、高イオン伝導相である結晶相Aのピークに該当する。また、2θ=6.42°のピークの強度をI
6.42とし、図示しないが、2θ=11.48°のピーク(ZnOのピーク)の強度をI
11.48とし、I
6.42/I
11.48の値を求めた。さらに、2θ=6.42°の半値全幅(FWHM)から、Scherrerの式を用いて、結晶子径を算出した。その結果を表1および表2に示す。
D=Kλ/(βcosθ)
K:Scherrer定数、λ:波長、β:結晶子の大きさによる回折線の拡がり、θ:回折角2θ/θ
【0085】
【0086】
【0087】
表1および表2に示すように、実施例1~14では、イオン伝導性が良好な固体電解質が得られた。その理由は、実施例1~14で得られた固体電解質は、結晶相Aの結晶子径、および、I
6.42/I
11.48の値が大きいためであると推測される。また、
図5は、実施例1、3、6、9、12(いずれも熱処理時間5秒)の結果であるが、
図5に示すように、加熱温度の増加とともに、Liイオン伝導度の向上が確認された。さらに、実施例1~14では、熱処理時間が非常に短く、生産性が非常に優れていた。一方、比較例1~8は、実施例1~14に比べて、全体的に、Liイオン伝導度が低かった。なお、比較例4は、Liイオン伝導度が比較的高いが、結晶子径が小さかった。また、比較例4では、熱処理時間が3時間であり、生産性が低かった。
【符号の説明】
【0088】
1 … 正極活物質層
2 … 負極活物質層
3 … 固体電解質層
4 … 正極集電体
5 … 負極集電体
6 … 電池ケース
10 … 全固体電池
21 … 基板
22 … 固体電解質膜
30 … 固体電解質