(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】蛍光発光素子、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20231011BHJP
C09K 11/79 20060101ALI20231011BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G02B5/20
C09K11/79
C09K11/02
(21)【出願番号】P 2021558463
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043306
(87)【国際公開番号】W WO2021100839
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019211513
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 正樹
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117623(WO,A1)
【文献】特開2019-099780(JP,A)
【文献】特開2016-084269(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154807(WO,A1)
【文献】特開2018-035055(JP,A)
【文献】特開2018-021193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
C09K 11/79
C09K 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径がサブミクロンオーダーの酸化物粒子を含むバインダと、
前記バインダ内に分散され、Ce賦活の窒化物蛍光体と、を有
し、
前記酸化物粒子がアルミナで構成され、
前記窒化物蛍光体が、La及びSiを含む窒化物材料で構成され、
X線回折法によって得られるXRDスペクトルにおいて、偏光角2θ=30.9°における回折強度I
30.9
に対する、偏光角2θ=29.4°における回折強度I
29.4
の比率であるI
29.4
/I
30.9
が7%以下であり、
相対密度が80.4%以上、99.5%以下であり、
前記蛍光体と前記バインダの合計質量に対する前記バインダの質量割合が、50質量%以上、70質量%以下であることを特徴とする、蛍光発光素子。
【請求項2】
前記バインダは、サブミクロンオーダーの凹凸部を含むことを特徴とする、請求項
1に記載の蛍光発光素子。
【請求項3】
前記バインダと前記窒化物蛍光体とを含む焼結体からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の蛍光発光素子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の蛍光発光素子の製造方法であって、
粒径がサブミクロンオーダーの酸化物粒子と、Ce賦活の窒化物蛍光体の粒子とを混合する工程(a)と、
前記工程(a)で得られた混合物を成形する工程(b)と、
前記工程(b)で得られた成形物に対して、1050℃以上、1200℃以下の温度で焼結させる工程(c)とを有することを特徴とする、蛍光発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)は、α-アルミナで構成される前記酸化物粒子と、化学式La
3Si
6N
11又は(La, Y)
3Si
6N
11で規定される前記窒化物蛍光体の粒子とを混合する工程であることを特徴とする、請求項
4に記載の蛍光発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体を含む蛍光発光素子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザ素子からなる励起光源と、蛍光体を含有する蛍光発光素子とを備え、励起光源から出射される光(レーザ光)を蛍光体に照射して蛍光を発生させる蛍光光源装置が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。このような蛍光光源装置で生成された蛍光は、例えばプロジェクタ用の光源として利用される。特許文献1には、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体とアルミナ(Al2O3)からなるバインダとで構成された蛍光発光素子が開示されている。
【0003】
また、下記特許文献2には、LSN蛍光体と呼ばれるLa3Si6N11の組成式で表される蛍光体と、CaF2などのフッ化物無機材料からなるバインダとを含む蛍光発光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5900563号公報
【文献】特開2018-21193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光発光素子は、蛍光体とバインダとの混合物が板状に成形された後、焼結されることで得られた蛍光板として利用されるのが一般的である。特許文献1に記載されたような、YAG蛍光体とアルミナからなるバインダーとを含む蛍光発光素子の場合、蛍光体の屈折率とバインダーとの屈折率差が小さい(約0.08)。このため、蛍光体で生成された光(蛍光)のうち、蛍光板の主面に実質的に平行な方向に進行した光は、そのまま同方向に進行する成分が多くなる。この結果、蛍光板の主面から取り出されるまでに、面方向に拡がりを有してしまい、蛍光のスポット径が大きくなる。
【0006】
近年、より小型で高輝度のプロジェクタに対する市場からの要求が高まっている。蛍光光源装置から放射される蛍光をプロジェクタ用の光源として利用する場合、蛍光光源装置において発生される蛍光の輝度を高める必要がある。蛍光の輝度を高めるためには、蛍光のスポット径をなるべく小さくするのが好ましい。かかる観点から、YAGからなる蛍光体とアルミナからなるバインダの組み合わせよりも、屈折率差の大きい材料で、蛍光体とバインダを形成したいという事情が存在する。
【0007】
これに対し、例えば特許文献2のように、LSNからなる蛍光体とCaF2からなるバインダとの組み合わせであれば、両者の屈折率差は約0.61であるため、YAGからなる蛍光体とアルミナからなるバインダの組み合わせよりも屈折率差の値が大きくなる。両者の屈折率差が大きくなることで、蛍光体で生成された蛍光が、蛍光板の主面に対して実質的に平行な方向に進行しても、バインダの構成材料との界面で大きく屈折し、光取り出し面に導きやすくなる。これにより、LSNからなる蛍光体とCaF2からなるバインダとを含む蛍光発光素子によれば、YAGからなる蛍光体とアルミナからなるバインダとを含む蛍光発光素子に比べて、取り出し面側における蛍光のスポット径を小さくすることができ、高輝度の蛍光光源が実現できる。
【0008】
ところで、蛍光体及びバインダを含む蛍光発光素子は、半導体レーザ素子などからなる励起光源から、例えば青色レーザ光などの励起光が入射され、この励起光によって蛍光体が励起されることで励起光とは異なる波長の蛍光が取り出される。蛍光の強度を高めるためには、入射される励起光の強度を高める必要があるが、強度の高い励起光が蛍光発光素子に対して入射され続けると、蛍光発光素子(蛍光板)の温度が上昇してしまう。蛍光体は、例えば150℃といった高温になると、温度消光と呼ばれる現象が生じ、発光効率が低下することが知られている。このため、蛍光板の温度が上昇しないように、排熱性を高める必要がある。
【0009】
ところが、特許文献2に記載されている、CaF2などのフッ化物無機材料は、アルミナよりも熱伝導率が低い。例えば、CaF2の熱伝導率は9.7[W/m・K]であり、BaF2の熱伝導率は11.7[W/m・K]であるのに対し、アルミナの熱伝導率は40.0[W/m・K]である。このため、CaF2をバインダとする蛍光板を利用する際には、例えば蛍光板自体を回転させたり、ファンからの風を吹き付けるなど、温度の上昇を抑制するための処置を行う必要がある。
【0010】
また、LSN蛍光体と比べて、フッ化物無機材料は熱膨張係数がかなり大きい。より詳細には、LSN蛍光体の熱膨張係数が5ppmであるのに対し、CaF2の熱膨張係数は18.9ppmであり、BaF2の熱膨張係数は18.1ppmである。つまり、LSN蛍光体とフッ化物無機材料との間には、熱膨張係数に13ppmもの差が存在する。このため、焼結処理の完了後、室温まで冷却されると、両者の熱膨張係数差に起因して蛍光板に割れが生じるおそれがある。このような事情から、LSN蛍光体とフッ化物無機材料とを含む蛍光発光素子においては、アルミナをバインダとする蛍光発光素子に比べて、割れを防止する観点から、導入する蛍光体の割合を低くせざるを得ず、このことは、蛍光強度を低下する要因となり得る。
【0011】
本発明者は、上記の見地に基づき、熱伝導率が高く、焼結しやすいという理由により、CaF2などのフッ化物無機材料ではなく、アルミナ等の酸化物からなるバインダを有する蛍光発光素子について鋭意研究を行った。その結果、発光効率(内部量子効率)を更に高めることのできる蛍光発光素子の実現に至った。
【0012】
本発明は、酸化物からなるバインダを用いつつも、従来よりも内部量子効率の高い蛍光発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る蛍光発光素子は、
粒径がサブミクロンオーダーの酸化物粒子を含むバインダと、
前記バインダ内に分散され、Ce賦活の窒化物蛍光体と、を有することを特徴とする。
【0014】
蛍光発光素子の排熱性を高める観点からは、熱伝導率の高い材料からなるバインダを用いると共に、製造時に行われる焼結処理において、焼結を進展させて相対密度を高めることが有用である。ここで、相対密度とは、理論密度に対する焼結体の見かけ密度の比率を指す。相対密度が低いということは、内部に気孔が多く含まれることを意味するところ、かかる状態では蛍光発光素子全体の排熱性が低下してしまうためである。
【0015】
ここで、相対密度を高めるためには、バインダ及び蛍光体の混合物を、バインダの融点及び蛍光体の融点よりも低い温度範囲内のなるべく高い温度環境下で、加圧・加熱する方法が考えられる。しかし、本発明者の鋭意研究によれば、化学式La3Si6N11で規定される蛍光体(以下、適宜「LSN蛍光体」と略記する。)の粒子とアルミナの粒子とを混合して、高温で焼結処理を行うと、内部量子効率が低下することを見出した。この理由として、本発明者は、LSN蛍光体が高温環境下に置かれることで、LSN蛍光体に含まれる一部の窒素原子が脱離すると共に、アルミナに含まれる酸素原子が取り込まれる結果、La3Si6N11とは異なる組成式で表されるLa酸化物が生成され、これにより蛍光発光素子に含まれるLSN蛍光体の含有率が低下したことによるものと推察している。なお、この現象は、原理的に、蛍光体に窒素原子を含み、バインダに酸化物を含む場合、言い換えれば、LSN蛍光体以外の窒化物蛍光体と、アルミナ以外の酸化物からなるバインダとを含む蛍光発光素子の製造時にも起こり得ると考えられる。バインダとしては、アルミナの他、MgOや、Al2O3とMgOとを含む材料(混合物、スピネル構造物)であっても構わない。
【0016】
これに対し、粒径がサブミクロンオーダーの酸化物粒子によれば、粒径が数ミクロン程度の酸化物粒子に比べて、焼結開始温度を低下させることができる。この結果、LSN蛍光体を初めとする窒化物蛍光体から窒素原子が脱離しにくい温度下で蛍光体とバインダとを焼結させることができ、窒化物蛍光体が蛍光体の構成原子を含む酸化物(例えばLa酸化物)に変化する割合が低下できる。これにより、酸化物と窒化物蛍光体を含みつつ、内部量子効率の低下を抑制した蛍光発光素子が実現できる。
【0017】
特に、バインダとしてアルミナを用いた場合には、高い排熱性が確保できると共に、蛍光発光素子内の窒化物蛍光体の含有率を高めることができるため、より好適である。
【0018】
なお、バインダを構成する酸化物粒子の粒径の測定方法としては、例えば、SEM画像上に映る円形に近い形状の酸化物粒子の最短と最長の平均を求めることにより測定することができる。
【0019】
酸化物粒子の粒径は、100nm以上、900nm以下であるのが好ましく、400nm以上、800nm以下であるのがより好ましい。特に、バインダがアルミナからなる酸化物粒子を含む場合、粒径が小さくなるほど、α-アルミナよりもγ-アルミナが安定的になるため、従来、粒径が100nm未満のα-アルミナを製造するのは技術的に困難であった。一方、γ-アルミナは、1000℃近くの温度下でα-アルミナに転移することが知られている。このため、バインダを構成するアルミナの粒子としてγ-アルミナを用い、LSN蛍光体の粒子と混合して焼結処理を行うと、焼結過程においてγ-アルミナはα-アルミナに転移する。
【0020】
ここで、α-アルミナは、γ-アルミナよりも密度が高いため、蛍光体の粒子とγ-アルミナの粒子との混合物が高温下に置かれると、γ-アルミナがα-アルミナに転移すると共に、内部に40%を超える程度の多くの気孔が生じる。この結果、熱伝導率が高い材料であるアルミナをバインダに利用したにもかかわらず、製造された蛍光発光素子が充分に高い排熱性を確保できないおそれがある。かかる観点から、バインダの材料としては、α-アルミナを用いるのが好ましい。この場合に、製造技術上の理由によりアルミナ粒子の粒径の下限値は100nm以上とするのが好ましく、400nm以上とするのがより好ましい。
【0021】
一方、アルミナの粒子の粒径を1μm以上とすると、焼結開始温度が高くなり、焼結処理時においてLSN蛍光体に含まれる窒素原子が脱離しやすい温度環境下になる可能性がある。かかる観点から、アルミナ粒子の粒径の上限値は、900nm以下であるのが好ましく、800nm以下であるのがより好ましい。
【0022】
酸化物粒子と窒化物蛍光体の粒子との混合物に対して焼結処理を行っても、全ての酸化物粒子が、隣接する酸化物粒子又は窒化物蛍光体の粒子と完全に一体化するわけではなく、一部の酸化物粒子は残存する。かかる粒子は、焼結処理を経て、サブミクロンオーダーの粒径を有した状態で凹凸形状を呈する。
【0023】
このように、蛍光発光素子が、サブミクロンオーダーの粒径を有した凹凸形状を呈したバインダを有することで、入射された励起光を散乱させる効果が得られる。このため、励起光を青色光とし、蛍光を黄色光とした場合において、励起光と蛍光との合成光として得られる白色光の強度を高められる。
【0024】
前記蛍光発光素子は、X線回折法によって得られるXRDスペクトルにおいて、偏光角2θ=30.9°における回折強度I30.9に対する、偏光角2θ=29.4°における回折強度I29.4の比率であるI29.4/I30.9が7%以下であるものとしても構わない。
【0025】
本発明者の鋭意研究によれば、化学式La3Si6N11や(La, Y)3Si6N11で規定されるLSN蛍光体とアルミナとの焼結温度が1250℃を超えると、化学式La2Si6N8O3で規定されるLa酸化物の含有率が急激に高まることが確認された。より詳細には、XRDスペクトルにおいてLa3Si6N11由来の信号である回折強度I30.9の強度に対する、XRDスペクトルにおいてLa2Si6N8O3由来の信号である回折強度I29.4の強度の比率I29.4/I30.9について、焼結温度が1050℃以上1200℃以下の範囲では5%以上、6%以下の範囲を示していたのに対し、焼結温度が1250℃になると、I29.4/I30.9が11%を超える値(約12%)と急激に増加していることが確認された。また、焼結温度が1300℃になると、I29.4/I30.9は12%を超える値(約13%)となり、更に増加していることが確認された。
【0026】
すなわち、上記構成によれば、La2Si6N8O3で規定されるLa酸化物の含有率を低く抑制できており、La3Si6N11で規定されるLSN蛍光体の含有率が高いため、内部量子効率の高い蛍光発光素子が実現できる。
【0027】
前記蛍光発光素子は、
相対密度が80.4%以上、99.5%以下であり、
前記蛍光体と前記バインダの合計質量に対する前記バインダの質量割合が、50質量%以上、70質量%以下であるものとしても構わない。
【0028】
焼結の過程で生じる気孔の多寡により、相対密度が左右される。相対密度が80.4%以上、99.5%以下となるように、蛍光板に気孔を一定量含有させることで、蛍光体と気孔、及びバインダと気孔との間で大きな屈折率差が生じるため、蛍光板の面に実質的に平行な方向に進行した蛍光を、効率的に蛍光板の面(光取り出し面)に向かわせることができる。これにより、輝度の高い蛍光発光素子が実現できる。
【0029】
また、バインダの体積比率、すなわち酸化物粒子の含有率を50質量%以上、70質量%以下とすることで、内部量子効率をより高めることが可能となる。
【0030】
本発明に係る蛍光発光素子の製造方法は、
粒径がサブミクロンオーダーの酸化物粒子と、Ce賦活の窒化物蛍光体の粒子とを混合する工程(a)と、
前記工程(a)で得られた混合物を成形する工程(b)と、
前記工程(b)で得られた成形物に対して、1050℃以上、1200℃以下の温度で焼結させる工程(c)とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、排熱性及び内部量子効率の高い蛍光発光素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の蛍光発光素子を含む、一実施形態の蛍光光源装置の構成を模式的に示す図面である。
【
図2】蛍光発光素子の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】焼結温度と相対密度の関係を示すグラフである。
【
図6】焼結温度と内部量子効率の関係を示すグラフである。
【
図7】実施例1~3と比較例1の蛍光板について、X線回折法によって得られるXRDスペクトルを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の蛍光発光素子の構成につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図において、図面上の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致しない。
【0034】
図1は、蛍光発光素子を含む、一実施形態の蛍光光源装置の構成を模式的に示す図面である。
図1に示す蛍光光源装置1は、励起光源2と、ダイクロイックミラー3と、蛍光発光素子10とを備える。
【0035】
励起光源2は、例えば波長が445nm以上465nm以下の青色領域の光を出射する半導体レーザ素子を含んで構成される。励起光源2は、必要に応じてコリメートレンズなどの光学系を備えることができる。
【0036】
蛍光発光素子10は、後述する蛍光体16及びバインダ17を含んでなる(
図3参照)。励起光源2から出射された励起光21が蛍光発光素子10に照射されると、蛍光発光素子10に含まれる蛍光体16が励起され、蛍光発光素子10から蛍光22が放射される。蛍光22は、励起光21よりも長波長の光であり、例えば、470nm以上700nm以下の波長を有する。
【0037】
図1に示される蛍光光源装置1において、ダイクロイックミラー3は、励起光源2から出射される励起光21を透過し、蛍光発光素子10から出射される蛍光22を反射するように構成されている。ダイクロイックミラー3は、ミラー面が例えば励起光21の入射角度に対して45°の角度で傾斜するように配置されている。かかる構成とすることで、蛍光22が蛍光光源装置1の外部に取り出され、例えば、図示しない後段の光学系に入射される。
【0038】
後述されるように、蛍光発光素子10は、熱伝導率の高いバインダを含むため、高い排熱性を有している。このため、蛍光発光素子10は、冷却のために別途の回転ホイールなどに設置する必要がなく、装置の所定の箇所に固定的に設置することができる。
【0039】
図2は、蛍光発光素子10の構成の一例を模式的に示す断面図である。蛍光発光素子10は、基板11と、接合層12と、反射層13と、蛍光板14とを有する。
【0040】
(基板11)
基板11は、蛍光板14で発せられた熱を排熱するために設けられている。基板11は、例えば熱伝導率が90[W/m・K]以上、具体的には例えば230~400[W/m・K]である材料で構成される。このような材料の例としては、Cu、銅化合物(MoCu、CuWなど)、Al、AlNなどが挙げられる。
【0041】
基板11の厚みは、例えば0.5mm~5mmである。また、排熱性などの観点から、基板11の表面における面積は、蛍光板14の面積よりも大きいことが好ましい。
【0042】
(接合層12)
接合層12は、基板11と蛍光板14とを接合する層であり、例えばハンダ材料からなる。排熱性などの観点から、接合層12を構成する材料としては、例えば熱伝導率が40[W/m・K]以上であるものが用いられることが好ましい。より詳細には、例えば、Sn、Pbなどの材料にフラックスやその他の不純物を混ぜてクリーム状(ペースト状)の形態としたクリームハンダ、Sn-Ag-Cu系ハンダ、Au-Sn系ハンダなどを用いることができる。接合層12の厚みは、例えば20μm~200μmである。
【0043】
なお、図示していないが、基板11と接合層12との接合性を更に高める観点から、基板11と接合層12との間に、例えばメッキ法によって形成された、Ni/Au膜よりなる金属膜が形成されているものとしても構わない。この金属膜の厚みは、例えばNi/Au=1000nm~5000nm/30nm~1000nmとすることができる。
【0044】
(反射層13)
反射層13は、蛍光板14の面のうちの、基板11側の面に形成されている。この反射層13は、蛍光板14で生成された蛍光22のうち、光取り出し面14aとは反対側(基板11側)に進行した蛍光22を反射させて、光取り出し面14aに導くために設けられている。反射層13は、例えば、Al、Ag等の金属膜や、前記金属膜上に誘電体多層膜を形成した増反射膜などで構成されることができる。
【0045】
なお、図示していないが、蛍光板14と接合層12との接合性を更に高める観点から、蛍光板14の面のうちの、基板11側の面、より具体的には、反射層13と蛍光板14との間に、例えば蒸着によって形成されたNi/Pt/Au膜、Ni/Au膜よりなる金属膜が形成されているものとしても構わない。この金属膜の厚みは、例えばNi/Pt/Au=30nm/500nm/500nmとすることができる。
【0046】
(蛍光板14)
蛍光板14は、反射層13の上層に形成されている。蛍光板14は、励起光源2から出射される励起光21が入射されると、蛍光22を放射する。蛍光板14は、一例として基板11の面に直交する方向から見たときに矩形平板状の構造を示す。蛍光板14の厚みは、例えば0.05mm~1mmである。
【0047】
図3は、蛍光板14の構成を模式的に示す断面図である。
図3に示す蛍光板14は、蛍光体16、バインダ17、及び気孔18を含む。また、
図2に示すように、蛍光板14は、基板11とは反対側に位置する面、すなわち光取り出し面14a側において、微細な凹凸加工が施されたモスアイ構造15を有している。ただし、本発明の蛍光発光素子10において、光取り出し面14a側にモスアイ構造15を有するか否かは任意である。
【0048】
蛍光体16は、Ce賦活の窒化物蛍光体からなる。一例として、蛍光体16は、Ceが賦活され、組成式La
3Si
6N
11や(La, Y)
3Si
6N
11で表されるLSN蛍光体からなる。蛍光体16は、
図3に図示されるように、粒子状を呈してバインダ17内に分散して存在する。蛍光体16は、粒径が30μm以下であり、好ましくは25μm以下であり、更に好ましくは20μm以下であり、特に好ましくは10μm以下である。蛍光体16の粒径の下限値は特に規定はないが、一般的には、1μm以上である。
【0049】
本実施形態において、バインダ17は、アルミナ(Al2O3)からなり、より詳細には、α-アルミナからなる。蛍光板14は、後述するように、バインダ17の構成材料である、粒径がサブミクロンオーダーのアルミナ粒子と、蛍光体16の構成材料である、LSN蛍光体の粒子との焼結体である。蛍光板14に含まれる気孔18は、焼結の過程で生成されたものである。ただし、バインダ17は、Al2O3以外にの酸化物材料(例えば、MgO等)で構成されていても構わないし、Al2O3とMgOとを含む構成であっても構わない。
【0050】
図4は、蛍光板14の断面のSEM写真であり、右写真は左写真の(a)領域の拡大写真である。
図4に示すように、バインダ17を構成するアルミナの粒子が確認できる程度に残存している。このアルミナの粒子は、粒径がサブミクロンオーダーであり、好ましくは100nm以上、900nm以下であり、より好ましくは400nm以上、800nm以下である。
図4に示すように、焼結後に残存するアルミナの粒子は、蛍光板14内においてサブミクロンオーダーの凹凸形状を呈する。
【0051】
蛍光板14に含まれるバインダ17の質量割合は、好ましくは30質量%以上、70質量%以下であり、より好ましくは、50質量%以上、90質量%以下である。なお、蛍光板14に含まれるバインダ17の質量割合とは、蛍光体16とバインダ17の合計質量に対する、バインダ17の質量の比率を指す。後述するように、蛍光板14の製造時には、蛍光体16を構成するLSN蛍光体の粒子と、バインダ17を構成するアルミナの粒子とが混合された状態で、加熱により焼結処理が行われる。前記のバインダ17の質量割合とは、製造時における、LSN蛍光体の粒子とアルミナの粒子との混合物に対する、アルミナの粒子の質量割合にほぼ等しい。
【0052】
また、蛍光板14の相対密度は、好ましくは80.4%以上、99.5%以下である。上述したように、相対密度とは、焼結体、すなわち蛍光板14の理論密度に対する見かけ密度の比率であり、例えばJIS R 1634(ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法)に準拠した方法によって測定することができる。言い換えれば、蛍光板14は、含有率が0.5%以上、19.6%以下の気孔18を含む。蛍光板14に気孔18が全く含まれていない場合、すなわち、相対密度が100%である場合と比較して、上記範囲内の気孔18を含むことで、蛍光体16又はバインダ17と、気孔18との界面で屈折率差が生じるため、蛍光板14内で生成された蛍光を光取り出し面14a側に屈折させやすくなる。
【0053】
好ましくは、本実施形態の蛍光板14は、X線回折法によって得られるXRDスペクトルにおいて、偏光角2θ=30.9°における回折強度I30.9に対する、偏光角2θ=29.4°における回折強度I29.4の比率であるI29.4/I30.9が7%以下である。同様に、好ましくは、本実施形態の蛍光板14は、X線回折法によって得られるXRDスペクトルにおいて、偏光角2θ=30.9°における回折強度I30.9に対する、偏光角2θ=30.4°における回折強度I30.4の比率であるI30.4/I30.9が7.5%以下である。この点については、蛍光板14の製造方法を説明した後、実施例を参照して後述される。
【0054】
以下、蛍光板14の製造方法について説明する。
【0055】
(ステップS1)
粒径がサブミクロンオーダーの酸化物粒子(ここではアルミナの粒子)と、Ce賦活の窒化物蛍光体の粒子(ここではLSN蛍光体の粒子)を準備し、これらを混合することで混合粉を得る。なお、バインダとしてアルミナを用いる場合、アルミナの粒子としては、α-アルミナとするのが好ましい。また、上述したように、混合粉に対するバインダの構成材料の粒子(酸化物粒子)の質量割合は、30質量%以上、70質量%以下であり、より好ましくは、50質量%以上、90質量%以下である。
【0056】
混合粉を得る方法としては、ボールミル、Vブレンダーなどの乾式混合法を用いる方法や、アルミナ粒子と蛍光体の粒子に所定の溶媒を加えてスラリー状態にした後、ボールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、二軸混練機などを用いた湿式混合法を用いて混合させた後、得られたスラリーを所定の温度で溶媒を揮発させる方法を採用することができる。
【0057】
ステップS1が工程(a)に対応する。
【0058】
(ステップS2)
ステップS1を経て得られた混合粉を加圧下で板形状に成形する。成形方法としては、一軸金型成形や、冷間静水圧成形などの手法を用いることができる。このステップS2が工程(b)に対応する。
【0059】
(ステップS3)
ステップS2を経て得られた成形体を焼結する。具体的には、所定の炉や加熱装置内に成形体を設置して、焼結に必要な温度まで加熱する。なお、本ステップS3では、1050℃以上、1200℃以下の温度で焼結が行われる。ステップS1において混合粉に含まれる酸化物粒子が、サブミクロンオーダーの粒径を有する粒子であるため、1200℃以下の温度でも充分に焼結を行うことができる。
【0060】
なお、焼結時の雰囲気は、大気雰囲気、N2雰囲気、又はAr雰囲気とすることができる。
【0061】
本ステップS3は、工程(c)に対応する。
【0062】
(ステップS4)
必要に応じて、得られた焼結体に対して熱間等方圧加圧加工(HIP:Hot Isostatic Pressing)を施す。加圧加工の条件によって、蛍光板14に含有される気孔18の含有率を一定の幅で制御することができる。その後、一方の面に対してエッチング処理を施すことで、微細な凹凸形状を有するモスアイ構造15を含む蛍光板14が生成される。
【0063】
なお、得られた蛍光板14は、光取り出し面14aとは反対側の面に反射層13が形成され、接合層12を介して基板11に固定される。
【実施例】
【0064】
ステップS1において準備される酸化物粒子の質量割合、及びステップS3において実行される焼結処理の温度(以下、「焼結温度」という。)を異ならせ、他は共通の条件でステップS1~S4を実行することで蛍光板14を得た。なお、この実施例では、酸化物粒子としてアルミナの粒子が採用され、窒化物蛍光体の粒子としてはLa
3Si
6N
11の粒子が採用された。各蛍光板14の相対密度及び内部量子効率を測定した結果を表1、及び
図5~
図6に示す。なお、いずれの蛍光板14も、寸法は、縦×横×厚みが3mm×3mm×0.13mmで共通とした。
【0065】
図5は、焼結温度と相対密度の関係をグラフ化したものであり、
図6は、焼結温度と内部量子効率の関係をグラフ化したものである。なお、
図5及び
図6では、比較のために、アルミナの粒子を含まず、LSN蛍光体の粒子のみを成形・焼結して得られた蛍光板の結果を併せて図示している。
【0066】
なお、各蛍光体16の相対密度は、上記のJIS R 1634(ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法)に準拠した方法によって測定した値が用いられた。また、各蛍光体16の内部量子効率は、JIS R 1697(白色発光ダイオード用蛍光体の積分球を用いた内部量子効率絶対測定方法)に準拠した方法で測定された。
【0067】
なお、蛍光体をYAGとし、バインダをアルミナとした従来の蛍光板においては、最大の内部量子効率が52%であり、そのときの相対密度が80%であった。表1では、内部量子効率の値が、この従来の蛍光板よりも低いものを「評価C」とし、内部量子効率が52%より高く55%未満であるものを「評価B」とし、55%以上であるものを「評価A」とした。
【0068】
【0069】
図5によれば、焼結温度が高くなるほど蛍光板14の相対密度が上昇していることがわかる。これは、焼結温度が高くなるに連れて焼結体内部に孤立した気孔(閉気孔)が小さくなり、その一部が消失したことによるものである。
【0070】
図6によれば、焼結温度がある程度の温度から高くなると、内部量子効率が低下傾向を示すことが分かる。より詳細には、アルミナの含有率が30質量%の場合には、焼結温度が1150℃のときに内部量子効率が最も高く、焼結温度を1200℃、1250℃、1300℃と上昇させると、内部量子効率が徐々に低下していることが分かる。この傾向は、アルミナの含有割合が50質量%、70質量%、90質量%の場合においても、同様に確認される。特に、焼結温度が1250℃、1300℃の場合には、アルミナの含有割合にかかわらず、YAG蛍光体及びアルミナのバインダからなる従来の蛍光板よりも内部量子効率が低くなることが確認された。
【0071】
なお、実際に蛍光発光素子10を実装する場合を鑑みると、焼結体を切削研磨する工程が必要になるところ、80%以上の相対密度を示さない場合には、前記工程の実行時に破損するおそれがある。そのため、蛍光発光素子10をLSN蛍光体の単体で実現するのは困難である。
【0072】
図7は、実施例1の蛍光板(焼結温度1050℃)、実施例2の蛍光板(焼結温度1150℃)、実施例3の蛍光板(焼結温度1200℃)、及び比較例1の蛍光板(焼結温度1250℃)について、X線回折法によって得られるXRDスペクトルを示す図面である。なお、各実施例及び比較例のとも、蛍光板に含まれるアルミナの含有率は70質量%とされた。
【0073】
また、
図7には、参考のために、蛍光体16の構成材料であるLa
3Si
6N
11、及びLa
3Si
6N
11が酸化されたことで得られると考えられるLa
2Si
6N
8O
3のXRDスペクトルが併せて図示されている。
【0074】
図7によれば、実施例1~3のXRDスペクトルと、比較例1のXRDスペクトルを比較すると、La
3Si
6N
11に由来する信号である、偏光角2θ=34.0°における回折強度I
34.0については、実施例1~3よりも比較例1の方が少し低下している。また、La
2Si
6N
8O
3由来の信号である偏光角2θ=29.4°における回折強度I
29.4、及び偏光角2θ=30.4°における回折強度I
30.4については、実施例1~3よりも比較例1の方が上昇していることが分かる。
【0075】
下記表2は、焼結温度を異ならせて得られた各蛍光板について、回折強度I29.4と回折強度I30.4の双方の値を測定し、La3Si6N11及びLa2Si6N8O3の双方に由来する信号である、偏光角2θ=30.9°における回折強度I30.9に対する相対値を記載したものである。表2には、焼結温度を、1050℃、1150℃、1200℃、1250℃、1300℃の5種類とし、それぞれの焼結温度の下で得られた各蛍光板についての測定結果が示されている。
【0076】
【0077】
表2の結果によれば、焼結温度が1050℃、1150℃、又は1200℃の場合、回折強度I29.4の相対値、及び回折強度I30.4の相対値は、それぞれほぼ等しい値を示している。これに対し、焼結温度が1250℃の場合、回折強度I29.4の相対値、及び回折強度I30.4の相対値は、焼結温度が1050℃、1150℃、又は1200℃の場合と比べて大幅に上昇していることが分かる。また、焼結温度が1300℃の場合は、回折強度I29.4の相対値、及び回折強度I30.4の相対値が更に上昇していることが分かる。
【0078】
このことは、焼結温度が1250℃以上の場合には、焼結温度が1050℃以上、1200℃以下の場合と比べて、LSN蛍光体の構成材料であるLa
3Si
6N
11の一部が、La酸化物であるLa
2Si
6N
8O
3に変化していることを示唆するものである。かかる現象が生じると、LSN蛍光体の量が減少するため、内部量子効率が低下すると考えられる。このことは、
図6において、焼結温度が1250℃以上になると、内部量子効率が低下傾向を示していることにも現れている。
【0079】
このような現象が生じた理由として、LSN蛍光体が高温下に置かれたことでLSN蛍光体に含まれる一部の窒素原子が脱離すると共に、アルミナに含まれる酸素原子が取り込まれる結果、La3Si6N11の一部が、La酸化物であるLa2Si6N8O3に変化したものと推察される。なお、このような現象は、蛍光体としてLa3Si6N11以外の窒化物蛍光体を用い、バインダとしてアルミナ以外の酸化物を用いた場合であっても、同様に生じ得る。すなわち、窒化物蛍光体由来の窒素原子が脱離して、バインダ由来の酸素と反応することで、蛍光体の構成材料とは異なる材料の酸化物が生成されることで、窒化物蛍光体の量が減少して内部量子効率が低下すると考えられる。
【0080】
本実施形態のように、バインダとして、サブミクロンオーダーの粒径のアルミナを初めとする酸化物粒子を用いることで、ステップS3における焼結工程において、焼結温度を従来よりも低い温度に設定することが可能となる。この結果、窒化物蛍光体の材料が酸化される量、すなわち、この実施例ではLa3Si6N11がLa2Si6N8O3に変化する量が抑制され、高い内部量子効率が実現される。
【0081】
なお、窒化物蛍光体に含まれる窒素原子をより脱離させにくくする観点からは、ステップS3における焼結工程を、窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気で行うのが好ましく、アルミナ等の酸化物粒子の窒化を防止する観点からは、加圧環境下のアルゴン雰囲気で行うのがより好ましい。
【0082】
また、焼結の過程で、アルミナが転移することで蛍光板14内に気孔が多く形成されるのを防止する観点から、上述したように、ステップS1において用いられるアルミナの粒子は、α-アルミナであるのが好ましい。
【符号の説明】
【0083】
1 : 蛍光光源装置
2 : 励起光源
3 : ダイクロイックミラー
10 : 蛍光発光素子
11 : 基板
12 : 接合層
13 : 反射層
14 : 蛍光板
14a : 光取り出し面
15 : モスアイ構造
16 : 蛍光体
17 : バインダ
18 : 気孔
21 : 励起光
22 : 蛍光